(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136622
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】EGR装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/50 20160101AFI20230922BHJP
F02M 26/05 20160101ALI20230922BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20230922BHJP
F02M 26/53 20160101ALI20230922BHJP
F02M 26/74 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
F02M26/50 301
F02M26/05
F02D23/00 J
F02M26/53
F02M26/74 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042399
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑騎
(72)【発明者】
【氏名】新屋 凌
(72)【発明者】
【氏名】皆本 洋
(72)【発明者】
【氏名】長江 信
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山根 純
(72)【発明者】
【氏名】佐原 寛哉
【テーマコード(参考)】
3G062
3G092
【Fターム(参考)】
3G062AA05
3G092AA17
3G092AA18
3G092DG08
3G092FB03
3G092HD07Z
(57)【要約】
【課題】EGRバルブ周辺のデポジットを除去しつつEGRガスを適切に吸気通路に還流できるEGR装置を提供する。
【解決手段】、所定の軸回りに回動してEGR通路を開閉するバタフライ式のEGRバルブと、EGRバルブを回動駆動するEGRバルブ駆動装置と、エンジンの運転状態に基づいてEGRバルブの開度の目標値である目標EGR開度を設定するとともに、所定のEGR実行条件の成立時にEGRバルブを開弁し且つ前記EGRバルブの開度が目標EGR開度となるようにEGRバルブ駆動装置を制御する制御装置とを設け、EGR実行条件の成立に伴いEGRバルブを開弁させる際に、EGRバルブ駆動装置によって、EGRバルブを全閉位置から閉方向に駆動した後、EGRバルブの開度が前記目標EGR開度となるまでEGRバルブを開方向に駆動するオーバーターン制御を実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒が形成されたエンジン本体と、前記気筒に導入される吸気が流通する吸気通路と、前記気筒から導出された排気が流通する排気通路とを備えるエンジンに設けられるEGR装置において、
前記排気通路と前記吸気通路とを連通して内側をEGRガスが流通するEGR通路と、
所定の軸回りに回動して前記EGR通路を開閉するバタフライ式のEGRバルブと、
前記EGRバルブを回動駆動するEGRバルブ駆動装置と、
エンジンの運転状態に基づいて前記EGRバルブの開度の目標値である目標EGR開度を設定するとともに、所定のEGR実行条件の成立時に前記EGRバルブが開弁し且つ前記EGRバルブの開度が前記目標EGR開度となるように前記EGRバルブ駆動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記EGRバルブが全閉位置から全開位置に向けて回転する方向を開方向、その反対を閉方向としたとき、前記制御装置は、前記EGR実行条件の成立に伴い前記EGRバルブを開弁させる際に、前記EGRバルブ駆動装置によって、前記EGRバルブを全閉位置から前記閉方向に駆動した後、前記EGRバルブの開度が前記目標EGR開度となるまで前記EGRバルブを前記開方向に駆動するオーバーターン制御を実行する、ことを特徴とするEGR装置。
【請求項2】
請求項1に記載のEGR装置において、
前記吸気通路に設けられて吸気を過給するコンプレッサと、前記排気通路に設けられて前記排気のエネルギーを受けて前記コンプレッサを駆動するタービンとを含むターボ過給機をさらに備え、
前記EGR通路は、前記タービンよりも上流側の前記排気通路と前記コンプレッサよりも下流側の前記吸気通路とを連通している、ことを特徴とするEGR装置。
【請求項3】
請求項1に記載のEGR装置において、
前記制御装置は、エンジンの運転状態に基づいて排気のエネルギーが高くなる所定の高排気エネルギー条件が成立するか否かを判定し、当該高排気エネルギー条件が成立する場合に前記オーバーターン制御の実行を禁止する、ことを特徴とするEGR装置。
【請求項4】
請求項3に記載のEGR装置において、
前記制御装置は、エンジン回転数が所定の判定回転数よりも高いという条件、エンジン負荷が所定の判定負荷よりも高いという条件、排気の圧力である排圧が所定の判定圧力よりも高いという条件、排気の温度である排気温度が所定の判定温度よりも高いという条件、のいずれか1つが成立する場合に、前記高排気エネルギー条件が成立すると判定する、ことを特徴とするEGR装置。
【請求項5】
請求項1に記載のEGR装置において、
前記制御装置は、前記排気通路内の酸素濃度である排気O2濃度が所定の判定濃度よりも低い場合に、前記オーバーターン制御の実行を禁止する、ことを特徴とするEGR装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のEGR装置において、
前記制御装置は、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低い場合に、前記オーバーターン制御の実行を禁止する、ことを特徴とするEGR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のエンジン等では、排気性能の向上等を目的としてm排気通路を流通する排気の一部をEGRガスとして吸気通路に還流するべく、エンジンに、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路と、EGR通路を開閉するEGRバルブとを設ける場合がある。ここで、EGRガスは煤等を含んでおり、EGRバルブとEGR通路の内周面との間には当該煤等が付着、固着してEGRバルブの適正な開閉が阻害されるおそれがある。
【0003】
上記問題に対して、例えば特許文献1には、バタフライ式のEGRバルブを備えたエンジンにおいて、エンジンの運転モードとして、EGRバルブの開度をエンジンの運転状態に応じた開度にする通常モードと、EGRバルブを全閉位置を挟んで開弁方向と閉弁方向とに繰り返し回動させる清掃モードとを設定する構成が開示されている。このように、EGRバルブを全閉位置を挟んで開弁方向と閉弁方向とに回動させれば、EGRバルブとEGR通路の内周面との間に固着したデポジットを掻き落として除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、清掃モードの実施時に、EGRバルブが全閉位置を複数回にわたって通過することになる。そのため、EGR通路においてEGRガスが脈動するおそれがある。EGRガスが脈動すると、適切な量のEGRガスが吸気通路に還流されないおそれがある。また、特許文献1の構成では、EGRバルブの開度をエンジンの運転状態に応じた開度にする通常モードとは別に清掃モードが設定されており、清掃モードの実施時にはEGRバルブの開度がエンジンの運転状態に応じた開度にされないため、エンジン本体内のEGRガス量が適切な量からずれるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、EGRバルブ周辺のデポジットを除去しつつEGRガスを適切に吸気通路に還流できるEGR装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒が形成されたエンジン本体と、前記気筒に導入される吸気が流通する吸気通路と、前記気筒から導出された排気が流通する排気通路とを備えるエンジンに設けられるEGR装置において、前記排気通路と前記吸気通路とを連通して内側をEGRガスが流通するEGR通路と、所定の軸回りに回動して前記EGR通路を開閉するバタフライ式のEGRバルブと、前記EGRバルブを回動駆動するEGRバルブ駆動装置と、エンジンの運転状態に基づいて前記EGRバルブの開度の目標値である目標EGR開度を設定するとともに、所定のEGR実行条件の成立時に前記EGRバルブが開弁し且つ前記EGRバルブの開度が前記目標EGR開度となるように前記EGRバルブ駆動装置を制御する制御装置と、を備え、前記EGRバルブが全閉位置から全開位置に向けて回転する方向を開方向、その反対を閉方向としたとき、前記制御装置は、前記EGR実行条件の成立に伴い前記EGRバルブを開弁させる際に、前記EGRバルブ駆動装置によって、前記EGRバルブを全閉位置から前記閉方向に駆動した後、前記EGRバルブの開度が前記目標EGR開度となるまで前記EGRバルブを前記開方向に駆動するオーバーターン制御を実行する、ことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、オーバーターン制御の実行によってEGRバルブが全閉位置を挟んで閉方向と開方向に回動させられるので、EGRバルブとEGR通路との間に付着したデポジットを掻き落として除去することができる。しかも、この構成では、EGR実行条件が成立した際つまり吸気通路へのEGRガスの還流が求められるときに上記のオーバーターン制御が行われるので、EGR実行条件の非成立時にオーバーターン制御を実行する場合と異なり、不要なEGRガスが吸気通路に導入されるのを防止できる。また、この構成では、EGRバルブが全閉位置を通過する回数が1回に抑えられるとともに、EGR通路内でのEGRガス流れがほぼない状態で上記のオーバーターン制御が行われる。そのため、EGR通路内のEGRガスの脈動をより確実に抑制できる。従って、この構成によれば、EGRバルブ周辺のデポジットを除去しつつEGRガスを適切に吸気通路に還流できる。
【0009】
前記構成において、好ましくは、前記吸気通路に設けられて吸気を過給するコンプレッサと、前記排気通路に設けられて前記排気のエネルギーを受けて前記コンプレッサを駆動するタービンとを含むターボ過給機をさらに備え、前記EGR通路は、前記タービンよりも上流側の前記排気通路と前記コンプレッサよりも下流側の前記吸気通路とを連通している、のが好ましい(請求項2)。
【0010】
タービンよりも上流側の排気通路の圧力は比較的高い。そのため、EGR通路がタービンよりも上流側の排気通路に接続された構成では、EGRバルブの開閉によってEGRガスの脈動が生じやすい。これに対して、上記のように本発明ではオーバーターン制御実行時にEGRガスの脈動が抑えられるので、オーバーターン制御を実行してデポジットを除去しつつより適切なタイミングでEGRガスをより適切に吸気通路に還流できる。
【0011】
前記構成において、好ましくは、前記制御装置は、エンジンの運転状態に基づいて排気のエネルギーが高くなる所定の高排気エネルギー条件が成立するか否かを判定し、当該高排気エネルギー条件が成立する場合に前記オーバーターン制御の実行を禁止する(請求項3)。
【0012】
排気のエネルギーが高いときは、EGRバルブの開閉に伴って排気およびEGRガスの脈動が生じやすい。これに対して、この構成では、高排気エネルギー条件が成立する場合にオーバーターン制御の実行が禁止されるので、吸気通路への適切な量のEGRガスの還流を確保できる。
【0013】
前記構成において、高排気エネルギー条件としては、エンジン回転数が所定の判定回転数よりも高いという条件、エンジン負荷が所定の判定負荷よりも高いという条件、排気の圧力である排圧が所定の判定圧力よりも高いという条件、排気の温度である排気温度が所定の判定温度よりも高いという条件が挙げられ、これら各条件のいずれか1つが成立する場合に、高排気エネルギー条件が成立すると判定することが挙げられる(請求項4)。
【0014】
前記構成において、好ましくは、前記制御装置は、前記排気通路内の酸素濃度である排気O2濃度が所定の判定濃度よりも低い場合に、前記オーバーターン制御の実行を禁止する(請求項5)。
【0015】
排気O2濃度が過度に低いときは吸気通路およびエンジン本体に還流するEGRガス量の増大に伴って煤の発生量が過大になりやすい。また、EGRガスが脈動すると吸気通路に還流するEGRガス量が増大するおそれがある。これに対して、この構成では、排気O2濃度が所定の濃度よりも低い場合に、EGRガスが脈動するおそれがあるオーバーターン制御の実行が禁止されるので、EGRガスの還流量が増大して煤の発生量が過大になるのを確実に防止できる。
【0016】
前記構成において、好ましくは、前記制御装置は、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低い場合に、前記オーバーターン制御の実行を禁止する(請求項6)。
【0017】
この構成によれば、エンジン回転数が低いことで吸気通路およびエンジン本体に還流するEGRガス量の増減に伴って排気性能や燃焼騒音等が変動しやすい場合は、EGRガスが脈動してEGRガスの還流量が増減する可能性のあるオーバーターン制御の実行が禁止される。そのため、エンジン回転数が低いときの排気性能や燃焼騒音等を確実に良好にできる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のEGR装置によれば、EGRバルブ周辺のデポジットを除去しつつEGRガスを適切に吸気通路に還流できる排気構造。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの概略構成を示したシステム図である。
【
図2】HP-EGRバルブ周辺を示した概略断面図である。
【
図3】エンジンの制御系統を示したブロック図である。
【
図4】HP-EGRバルブの制御手順を示したフローチャートである。
【
図5】オーバーターン制御実行時のEGRバルブの様子を示した断面図であり、(a)~(b)は各時間の当該様子を示した図である。
【
図6】通常開弁制御時の目標EGR率とEGR開度とを示したタイムチャートである。
【
図7】オーバーターン制御実行時の目標EGR率とEGR開度とを示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(エンジンの全体構成)
以下、図面に基づいて、本発明に係るEGR装置の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、EGR装置をディーゼルエンジンに適用する例を示す。まず、当該エンジンEの全体構成を、
図1に基づいて説明する。
図1に示すエンジンEは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。エンジンEは、複数の気筒2を有し軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動されるエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部であるEGRガスをそれぞれ吸気通路30に還流させるHP-EGR装置44およびLP-EGR装置50とを備える。また、エンジンシステムは、吸気通路30側に配置されたコンプレッサ47と排気通路40に配置されたタービン48とを含み、排気通路40を通過する排気によって吸気を過給するターボ過給機46を備える。
【0021】
エンジン本体1は、
図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数の気筒2(
図1ではそのうちの一つのみを示す)を有する。エンジン本体1は、気筒2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に取り付けられるシリンダヘッド4とを有する。気筒2には、ピストン5が往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。
【0022】
シリンダヘッド4には、各燃焼室6とそれぞれ連通する吸気ポート9および排気ポート10が形成されているとともに、各吸気ポート9をそれぞれ開閉する吸気弁11および各排気ポート10をそれぞれ開閉する排気弁12が組み付けられている。吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に設けられた動弁機構13、14によって開閉駆動される。シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内に燃料を噴射するインジェクタ15が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ15は、図略の燃料供給管を通して供給された燃料を燃焼室6に噴射する。インジェクタ15から噴射された燃料は燃焼室6で空気と混合する。燃料と空気の混合気は燃焼室6で燃焼し、ピストン5は混合気の燃焼による膨張力で押し下げられて上下方向に往復運動する。
【0023】
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転速度つまりエンジン回転数を検出するクランク角センサSN1が取り付けられている。シリンダヘッド4には、エンジン本体1の内部を流通する冷却水の温度である冷却水温を検出する水温センサSN2が取り付けられている。つまり、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4には冷却水が流通するウォータジャケットWが形成されており、水温センサSN2はウォータジャケットWを流通する冷却水の温度を検出する。
【0024】
吸気通路30は、各吸気ポート9と連通するようにエンジン本体1の一側面に接続されている。吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31、ターボ過給機46のコンプレッサ47、スロットルバルブ32、インタークーラ33およびサージタンク34が配置されている。
【0025】
エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去して吸気を清浄化する。スロットルバルブ32は、吸気通路30を開閉して吸気通路30における吸気の流量を調整する。コンプレッサ47は、吸気を圧縮しつつ吸気通路30の下流側へ当該吸気を送り出す。インタークーラ33は、コンプレッサ47により圧縮された吸気を冷却する。サージタンク34は、吸気ポート9に連なるインテークマニホールドの直上流に配置され、複数の気筒2に吸気を均等に配分するための空間を提供するタンクである。
【0026】
吸気通路30には、吸気通路30を流通してエンジン本体1に導入される吸気の流量である吸気量を検出するエアフローセンサSN3が取り付けられている。エアフローセンサSN3は、エアクリーナ31とコンプレッサ47の間に配置されており、当該部分を通過する吸気の流量を検出する。
【0027】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。排気通路40には、上流側から順に、ターボ過給機46のタービン48、酸化触媒41およびDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)42が配置されている。
【0028】
タービン48は、コンプレッサ47と一体回転可能に連結されている。タービン48は、排気通路40を流れる排気ガスのエネルギーを受けて回転し、コンプレッサ47を回転駆動する。酸化触媒41は、排気ガス中に含まれる有害成分(COおよびHC)を酸化して無害化する触媒装置である。DPF42は、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタである。
【0029】
排気通路40には、排気通路40を流通する排気の圧力である排圧を検出する排圧センサSN4、排気の温度である排気温を検出する排気温センサSN5、排気の空燃比を検出する空燃比センサSN6が取り付けられている。排圧センサSN4は、タービン48よりも上流側の排気通路40と後述するHP-EGR通路44Aとの接続部分付近に配置されており、当該部分を通過する排気の圧力を検出する。排気温センサSN5は、タービン48と酸化触媒41との間に配置されており、当該部分を通過する排気の温度を検出する。空燃比センサSN6は、後述するLP-EGR通路51と排気通路40との接続部分とDPF42との間に配置されており、当該部分を通過する排気の空燃比を検出する。
【0030】
HP-EGR装置44は、排気通路40と吸気通路30とを接続するHP-EGR通路44Aと、HP-EGR通路44Aに設けられたHP-EGRバルブ45とを備える。HP-EGR通路44Aは、排気通路40におけるタービン48よりも上流側の部分と、吸気通路30におけるインタークーラ33とサージタンク34との間の部分であってコンプレッサ47よりも下流側の部分とを接続している。HP-EGRバルブ45は、HP-EGRモータ45Mによって駆動されてHP-EGR通路44Aを開閉する。HP-EGR通路44Aを介して吸気通路30に還流するEGRガスの量は、HP-EGRバルブ45の開度に応じて変更される。HP-EGRバルブ45の詳細構造については後述する。
【0031】
LP-EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するLP-EGR通路51と、LP-EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびLP-EGRバルブ53とを備える。LP-EGR通路51は、排気通路40におけるDPF43よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるエアクリーナ31とコンプレッサ47との間の部分とを接続している。LP-EGRバルブ53は、LP-EGRモータ53Mによって駆動されてLP-EGR通路51を開閉する。LP-EGR通路51を介して吸気通路30に還流するEGRガスの量は、LP-EGRバルブ53の開度に応じて変更される。EGRクーラ52は、熱交換器であり熱交換によりLP-EGR通路51を流通するEGRガスを冷却する。
【0032】
上記のように、LP-EGR通路51の上流端は排気通路40におけるDPF43よりも下流側の部分に接続されている。HP-EGR通路44Aの上流端は排気通路40におけるタービン48よりも上流側の部分に接続されている。つまり、HP-EGR通路44Aの方がLP-EGR通路51よりも上流側の部分に接続されている。これより、吸気通路30には、HP-EGR通路44Aを通じて高温高圧、かつ、DPF52により微粒子が捕集される前の排気(EGRガス)が還流され、LP-EGR通路51を通じて低温低圧、かつ、DPF52により微粒子が捕集された後のガス(EGRガス)が還流される。
【0033】
以下では、適宜、HP-EGR通路44Aを通じて吸気通路30に還流する排気(EGRガス)を高圧EGRガスという。本実施形態では、HP-EGRバルブ45とLP-EGRバルブ53のうち、HP-EGRバルブ45が請求項の「EGRバルブ」に相当する。また、HP-EGR通路44AとLP-EGR通路51のうちHP-EGR通路44Aが請求項の「EGR通路」に相当する。また、HP-EGRモータ45MとLP-EGRモータ53MのうちHP-EGRモータ45Mが請求項の「EGRバルブ駆動装置」に相当する。
【0034】
(HP-EGRバルブの構成)
図2は、HP-EGRバルブ45周辺を示した概略断面図である。HP-EGRバルブ45は、所定の軸回りに回動してHP-EGR通路44Aを開閉するバタフライ式のバルブである。HP-EGRバルブ45は、HP-EGR通路44Aを開閉する略円盤状のバルブ本体150と、バルブ本体150の周面に取り付けられたシール部材160と、バルブ本体150にこれと一体に回動可能に連結された弁棒155とを有する。
【0035】
弁棒155は、棒状を呈して、HP-EGR通路44Aにおける高圧EGRガスの流れ方向とほぼ直交して延びる姿勢でHP-EGR通路44Aに取り付けられている。HP-EGRモータ45Mは弁棒155をその中心軸X回りに回動させ、これによりバルブ本体150を弁棒155の中心軸X回りに回動させる。以下では、この弁棒155の中心軸Xであってバルブ本体150の回動中心軸を回動軸Xという。
【0036】
図2の矢印Y10は、HP-EGRバルブ45が開弁しているときの高圧EGRガスの流れ方向を示したものであり、
図2の上側が高圧EGRガスの流れ方向における上流側となっている。
図2に示すように、本実施形態では、バルブ本体150は、その中央が上流側に凸となる略ハット状の断面を有する。
【0037】
HP-EGRバルブ45は、
図2に示す全閉位置、つまり、高圧EGRガスの流れ方向と直交して延びる全閉位置から、
図2の矢印Y1に示す時計回りと矢印Y2に示す反時計回りとの両方に回転できるようにHP-EGR通路44Aに支持されている。ただし、HP-EGRバルブ45が全閉位置から全開位置に向けて回転する方向は、時計回りと反時計回りのうちの一の方向に限定されており、後述するオーバーターン制御の実行時を除き、HP-EGRバルブ45は、全閉位置に対して上記の一の方向に回動することで開弁し、開弁位置から反対方向に回動することで全閉位置に戻るように駆動される。以下では、HP-EGRバルブ45が全閉位置から全開位置に向けて回転する方向であってオーバーターン制御の実行時を除くHP-EGRバルブ45の開弁方向を単に開方向といい、これと反対の方向を単に閉方向という。なお、HP-EGRバルブ45の全閉位置とは、高圧EGRガスの流量(HP-EGR通路44Aを流れる量)が最も少なくなる最小位置であり、上記のように高圧EGRガスの流れ方向に対して直交して延びる位置には限られない。また、HP-EGRバルブ45の全開位置とは、高圧EGRガスの流量が最も多くなる最大位置である。本実施形態では
図5(d)に示すようにHP-EGRバルブ45が高圧EGRガスの流れ方向に沿うように延びる位置が全開位置となっている。
【0038】
(制御系統)
エンジンシステムの制御構成を、
図3のブロック図に基づいて説明する。エンジンシステムは、ECU(Engine Control Unit)100によって統括的に制御される。ECU100は、CPU、ROM、RAM等から構成される。ECU100は、請求項の「制御装置」に相当する。
【0039】
ECU100には、上記で説明したセンサSN1~SN6によって検出された情報、すなわち、エンジン回転数、冷却水温、吸気量、排圧、排気温、排気の空燃比等の各種情報が逐次入力される。ECU100は、上記各情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンシステムの各部を制御する。すなわち、ECU100は、インジェクタ15、スロットルバルブ32(スロットルバルブ32を駆動する駆動装置)、HP-EGRモータ45M(HP-EGRバルブ45)およびLP-EGRモータ53M(LP-EGRバルブ53)等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0040】
(HP-EGRバルブの制御)
次に、本願発明の特徴的な構成であるHP-EGRバルブ45の制御について説明する。
図4は、ECU100により実行されるHP-EGRバルブ45の制御手順を示したフローチャートである。
【0041】
まず、ECU100は、各種情報を読み込む(ステップS1)。具体的に、ECU100は、上記のセンサSN1~SN6によって検出された、エンジン回転数、冷却水温、吸気量、排圧、排気温、排気の空燃比等の情報を読み込む。また、ECU100は、別途演算している排気中の酸素濃度である排気O2濃度を読み込む。具体的に、ECU100は、HP-EGRバルブ45やLP-EGRバルブ53の開度等に基づいて燃焼室6に流入する吸気の酸素濃度である吸気O2濃度を推定し、当該吸気O2濃度、吸気量およびインジェクタ15から噴射された燃料の量に基づいて排気O2濃度を推定するとともに、これを空燃比センサSN6により検出された排気の空燃比に基づいて補正する。
【0042】
次に、ECU100は、HP-EGRを実行する条件、つまり、高圧EGRガスを吸気通路30に還流させる条件であるEGR実行条件が成立するか否かを判定する(ステップS2)。HP-EGRを実行する条件は予め設定されてECU100に記憶されている。本実施形態では、エンジン負荷つまりエンジンに要求されているトルクである要求エンジントルクとエンジン回転数とにより規定されるエンジンの運転領域のうちの予め設定されたHP-EGR実行領域でエンジンが運転されているという条件がEGR実行条件に設定されている。ECU100は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数と、算出した要求エンジントルクとに基づいて、エンジンの現在の運転ポイントがHP-EGR実行領域内のポイントであるか否かを判定する。そして、ECU100は、エンジンの現在の運転ポイントがHP-EGR実行領域内のポイントである場合に、EGR実行条件が成立すると判定し、エンジンの現在の運転ポイントがHP-EGR実行領域外のポイントである場合にEGR実行条件が非成立であると判定する。なお、ECU100は、車両に設けられたアクセルペダルの開度とエンジン回転数とに基づいて要求エンジントルクを算出している。例えば、HP-EGR実行領域は、エンジン回転数が所定の値以下で且つ要求エンジントルク(エンジン負荷)が所定の値以下の低速低負荷領域に設定される。
【0043】
ステップS2の判定がNOであってEGR実行条件が非成立の場合、ECU100は、HP-EGRバルブ45を全閉にして処理を終了する(ステップS30)。
【0044】
一方、ステップS2の判定がYESであってEGR実行条件が成立する場合、ECU100は、EGR率の目標値である目標EGR率を設定する。EGR率は、燃焼室6内のガスの総重量に対する燃焼室6内の高圧EGRガスの重量の割合である。目標EGR率はエンジンの運転ポイント毎に予め設定されてECU100に記憶されている。ECU100は、この記憶情報から現在のエンジンの運転ポイントに対応する値を抽出して目標EGR率に設定する。例えば、目標EGR率は、エンジン回転数と要求エンジントルクのマップで記憶されており、ECU100はこのマップから現在のエンジン回転数と要求エンジントルクに対応する値を抽出して目標EGR率に設定する。なお、ステップS3はEGR実行条件成立時に実行されるステップであり、目標EGR率は0よりも大きい値に設定される。
【0045】
次に、ECU100は、オーバーターン制御回数が所定の判定回数以下であるか否かを判定する(ステップS4)。オーバーターン制御回数は、後述するオーバーターン制御の実行回数である。オーバーターン制御回数は、エンジンEの停止中は0とされ、エンジンEの始動後において、後述するようにオーバーターン制御が実行される毎にカウントアップされる。上記の判定回数は1よりも大きい値に予め設定されてECU100に記憶されている。例えば、判定回数は4に設定される。
【0046】
ステップS4の判定がNOであってオーバーターン制御回数が判定回数よりも大きい場合、つまり、エンジンEの始動後にオーバーターン制御が判定回数実行された後は、ECU100は、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御を実行する(ステップS20)。具体的に、ECU100は、ステップS3で設定した目標EGR率が実現されるHP-EGRバルブ45の開度である目標EGR開度を設定し、HP-EGRバルブ45の開度(全閉位置に対する開方向の回動角度)がこの目標EGR開度になるようにHP-EGRモータ45Mを駆動する。なお、目標EGR開度は0°よりも大きい開度とされる。ステップS4の後は、ECU100は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0047】
ステップS4に戻り、オーバーターン制御回数が判定回数以下の場合、次に、ECU100は、HP-EGRバルブ45が全閉状態(全閉位置にある状態)でEGR条件が成立したか否かを判定する。つまり、EGR実行条件が非成立から成立に切り替わった直後であってEGR実行条件の成立に伴ってHP-EGRバルブ45の開弁を開始するタイミングであるか否かを判定する(ステップS5)。具体的に、ECU100は、1演算サイクル前のEGR実行条件が非成立であったか否かを判定する。
【0048】
ステップS5の判定がNOであってHP-EGRバルブ45が全閉位置ではない状態でEGR条件が成立した場合(EGR実行条件が非成立から成立に切り替わった直後ではない場合)、ECU100は、ステップS20に進み、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御を実行する。
【0049】
一方、ステップS5の判定がYESであってHP-EGRバルブ45が全閉位置にある状態でEGR条件が成立した場合(EGR実行条件が非成立から成立に切り替わった直後である場合)、ECU100は、高排ガスエネルギー条件が非成立であるか否かを判定する。高排ガスエネルギー条件は、排気のエネルギーが高い場合に成立し、排気のエネルギーが低い場合に非成立となる条件である。具体的に、以下の条件1~4のいずれかが成立するときに、高排ガスエネルギー条件が成立すると判定される。
条件1:エンジン負荷が所定の判定負荷以上である。
条件2:排圧が所定の判定圧力以上である。
条件3:排気温が所定の判定温度以上である。
条件4:エンジン回転数が所定の判定回転数以上である。
【0050】
ECU100は、別途算出した要求エンジントルクが所定の判定トルク以上の場合に条件1が成立したと判定する。ECU100は、排圧センサSN4により検出された排圧に基づいて上記条件2の成否を判定する。ECU100は、排気温センサSN5により検出された排気温に基づいて上記条件3の成否を判定する。ECU100は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数に基づいて上記条件4の成否を判定する。上記の判定トルク(判定負荷)、判定圧力、判定温度および第1判定回転数は予め設定されてECU100に記憶されている。
【0051】
ステップS5の判定がNOであって、上記の条件1~4のいずれかが成立することに伴って高排ガスエネルギー条件が成立する場合、ECU100は、ステップS20に進み、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御を実行する。
【0052】
一方、ステップS5の判定がYESであって、上記の条件1~4のいずれもが非成立であることに伴って高排ガスエネルギー条件が非成立である場合、ECU100は、ステップS7に進む。ステップS7にて、ECU100は、エンジン回転数が所定の下限回転数以上であるか否かを判定する。下限回転数は、上記の判定回転数よりも低い値に予め設定されてECU100に記憶されている。
【0053】
ステップS7の判定がNOであって、エンジン回転数が下限回転数よりも低い場合、ECU100は、ステップS20に進み、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御を実行する。
【0054】
一方、ステップS7の判定がYESであって、エンジン回転数が下限回転数以上の場合、ECU100は、排気の酸素濃度である排気O2濃度のスモークガードに対する余分濃度が所定の判定量以上であるか否かを判定する(ステップS8)。つまり、ECU100は、排気O2濃度が、スモークガードに上記の判定量を加えた値以上であるか否かを判定する。スモークガードは、エンジン本体1から排出されるスモーク(煤)を所定値以下にするための排気O2濃度の下限値であり、予め設定されてECU100に記憶されている。ECU100は、ステップS1で読み込んだ排気O2濃度からスモークガードを引いた値をスモークガードに対する余分濃度として算出し、これが判定量以上であるか否かを判定する。判定濃度は0よりも大きい値に予め設定されてECU100に記憶されている。ここで、上記のスモークガードに上記の判定量を加えた値が、請求項の「判定濃度」に相当する。
【0055】
ステップS8の判定がNOであって、スモークガードに対する余分濃度が判定濃度よりも低い場合、ECU100は、ステップS20に進み、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御を実行する。
【0056】
一方、ステップS8の判定がYESであって、スモークガードに対する余分濃度が判定量以上の場合、ECU100は、オーバーターン制御を実行する(ステップS9)。
【0057】
オーバーターン制御は、HP-EGRバルブ45の周縁Z(
図2)のデポジットを除去してHP-EGRバルブ45の適正な開閉動作を確保するための制御である。HP-EGRバルブ45の周縁Zには、HP-EGRバルブ45の全閉時に高圧EGRガスに含まれる煤等が付着する。この煤等が固着するとHP-EGRバルブ45の適正な開弁が困難になる。そこで、本エンジンでは、HP-EGRバルブ45の周縁Z(
図2)の煤等のデポジットを除去するためのオーバーターン制御を実行する。
【0058】
図5は、オーバーターン制御実行時のHP-EGRバルブ45の様子を示した図である。
図5では、矢印Y2が閉方向であり、矢印Y1が開方向である。ステップS9に進みオーバーターン制御が実行されるのは、ステップS5の判定がYESであってHP-EGRバルブ45が全閉位置にある状態でEGR実行条件が成立したときである。これより、オーバーターン制御の実行直前、
図5(a)に示すように、HP-EGRバルブ45は全閉位置にある。オーバーターン制御の実行時、ECU100は、HP-EGRバルブ45を、
図5(a)に示す全閉位置から
図5(b)に示すように閉方向Y2に回動させて(閉方向Y2に回動するようにHP-EGRモータ44Mを駆動して)開弁させる。その後、ECU100は、
図5(c)に示すように、HP-EGRバルブ45を、開方向Y1に回動させて(開方向Y1に回動するようにHP-EGRモータ44Mを駆動して)全閉位置に戻した後、
図5(d)に示すように、さらに開方向Y1に回動させて、HP-EGRバルブ45の開度をステップS3で設定した目標EGR率が実現される開度にする。
【0059】
このように、オーバーターン制御では、ECU100は、HP-EGRバルブ45を全閉位置からまず閉方向に回動させて開弁させ、その後、ステップS3で設定した目標EGR率が実現される開度まで開方向に回動させる。詳細には、ECU100は、HP-EGRバルブ45の閉方向の開度が予め設定されて記憶している閉側開度になるようにHP-EGRモータ45Mを駆動する。また、ステップS20と同様に、ECU100は、ステップS3で設定した目標EGR率が実現されるHP-EGRバルブ45の開度である目標EGR開度を設定し、閉方向に回動させた後は、HP-EGRバルブ45の開度がこの目標EGR開度になるようにHP-EGRモータ45Mを駆動する。
【0060】
オーバーターン制御の実行後は、ECU100は、オーバーターン制御回数をカウントアップし(オーバーターン制御回数に1を足し)、制御を終了する(ステップS1)に戻る。
【0061】
(EGR開度の時間変化)
図6は、通常開弁制御実行時の目標EGR率とEGR開度との時間変化を示した模式図である。
図7は、オーバーターン制御実行時の目標EGR率とEGR開度との時間変化を示した模式図である。
図6および
図7のEGR開度のグラフにおいて、実線は実際のEGR開度である実EGR開度を示し、破線は目標EGR開度を示している。
図6には、時刻t1前後でEGR実行条件が成立しており時刻t1で目標EGR率が上昇した場合の例を示している。図には、時刻t10でEGR実行条件が非成立から成立に切り替わり、時刻t10で目標EGR率が0から上昇した場合の例を示している。
【0062】
図6に示すように、通常開弁制御の実行時は、目標EGR率が時刻t1にて上昇すると、HP-EGRバルブ45は閉方向に回動されることなく、目標EGR開度に向けて開方向に回動される。これに対して、
図7に示すように、オーバーターン制御の実行時は、時刻t10にて、まずHP-EGRバルブ45は閉方向に回動される。そして、時刻t11にてHP-EGRバルブ45の開度(閉方向の開度)が閉側開度に到達すると、その後、HP-EGRバルブ45は開方向に回動される。具体的に、時刻t12にてHP-EGRバルブ45の開度が0となりHP-EGRバルブ45が全閉位置まで戻った後も、目標EGR開度に向けてHP-EGRバルブ45は開方向に回動される。
【0063】
(作用等)
以上のように、上記実施形態では、HP-EGRバルブ45が全閉位置にある状態でEGR実行条件が成立したときであって、EGR実行条件が非成立から成立に切り替わることに伴って全閉位置にあるHP-EGRバルブ45を開弁する際に、HP-EGRバルブ45を全閉位置から閉方向に回動させて開弁させた後、HP-EGRバルブ45をその開度が目標EGR開度となるまで開方向に回動させるオーバーターン制御を実行する。つまり、HP-EGRバルブ45を全閉位置から一旦閉方向に回動させた後、全閉位置に戻し、さらに、目標EGR開度に向けて開方向に回動させる。これより、HP-EGRバルブ45の周辺のデポジットをHP-EGRバルブ45の周縁部あるいはHP-EGR通路44Aの内周面によって掻き落として除去できる。従って、HP-EGRバルブ45の適切な開閉を確保できる。
【0064】
しかも、上記のオーバーターン制御では、HP-EGRバルブ45が全閉位置を通過する回数が1回に抑えられている。そのため、オーバーターン制御の実行によってHP-EGR通路44A内の高圧EGRガスが脈動するのを抑制でき、高圧EGRガスを適切に吸気通路30および燃焼室6に導入できる。
【0065】
また、EGR実行条件が成立している状態でオーバーターン制御が行われるので、不要な高圧EGRガスが吸気通路に導入されるのを防止できる。具体的に、仮にEGR実行条件の非成立時にオーバーターン制御を実行してHP-EGRバルブ45を開弁させると、高圧EGRガスが吸気通路30および燃焼室6に導入されてしまい、燃焼室6のガスの組成が適切な組成からずれてしまう。これに対して、EGR実行条件の成立時であって高圧EGRガスの吸気通路および燃焼室6への導入が求められているときにオーバーターン制御を実行すれば、燃焼室6のガスの組成が適切な組成からずれるのを抑制できる。
【0066】
また、HP-EGRバルブ45が全閉位置にある状態でEGR実行条件が成立したときにオーバーターン制御が行われるので、HP-EGR通路44A内の高圧EGRガスの脈動をより確実に抑制できる。具体的に、EGR実行条件成立に伴ってHP-EGRバルブ45が開弁しており高圧EGRガスがHP-EGR通路44Aを流れている状態で、HP-EGRバルブ45を全閉位置を通過するように回動させると、高圧EGRガスの流れが一旦停止されることになることで高圧EGRガスの脈動が大きくなる。これに対して、HP-EGRバルブ45が全閉位置にあるときはHP-EGR通路44A内を高圧EGRガスが流れていないので、上記のタイミングでオーバーターン制御を実行すれば、高圧EGRガスの脈動を小さく抑えることができる。
【0067】
ここで、排気のエネルギーが高いときはHP-EGRバルブ45の開閉に伴って排気および高圧EGRガスの脈動が生じやすい。これに対して、上記実施形態では、HP-EGRバルブ45が全閉位置にある状態でEGR実行条件が成立したときであっても、高排ガスエネルギー条件が成立する排気のエネルギーが高い場合には、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御が実行される。つまり、高排ガスエネルギー条件が成立する場合は、オーバーターン制御が禁止される。そのため、高圧EGRガスが脈動するのをより確実に防止できる。
【0068】
また、排気O2濃度が低いときは、燃焼室6に導入される高圧EGRガス量の増大に伴って煤の発生量が過大になりやすい。これに対して、上記実施形態では、スモークガードに対する排気O2濃度の余分濃度が判定量よりも低い場合であって、スモークガードに上記の判定量を加えた値よりも排気O2濃度が低い場合には、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御が実行される。つまり、スモークガードに対する排気O2濃度の余分濃度が判定量よりも低い場合は、オーバーターン制御が禁止される。そのため、上記場合において、高圧EGRガスが脈動して燃焼室6に導入される高圧EGRガスが増大するのを確実に回避でき、ガス煤の発生量が過大になるのを確実に防止できる。
【0069】
また、エンジン回転数が低いときは、燃焼室6に導入される高圧EGRガス量の増減に伴って排気性能や燃焼騒音等が変動しやすい。これに対して、上記実施形態では、エンジン回転数が下限回転数よりも低い場合には、HP-EGRバルブ45に対して通常開弁制御が実行される、つまり、オーバーターン制御が禁止されて高圧EGRガスが脈動して燃焼室6に導入される高圧EGRガスが増減するという事態が回避される。そのため、エンジン回転数が低いときに、オーバーターン制御の影響で排気性能や燃焼騒音等が悪化するのを確実に防止できる。
【0070】
また、HP-EGR装置44は、LP-EGR装置50に比べて排気通路40から吸気通路30までのEGRガスの移動距離が短く抑えられる。そのため、HP-EGR装置44を有することで、上記実施形態によれば、より適切なタイミングで適切な量のEGRガスを吸気通路に還流できる。ただし、HP-EGR通路44Aはタービン48よりも上流側の排気通路40に接続されており、タービン48よりも上流側の排気通路40の圧力は比較的高い。そのため、HP-EGR装置44では、HP-EGRバルブ45の開閉に伴ってEGRガス(高圧EGRガス)の脈動が生じやすい。これに対して、上記実施形態では、上記のようにオーバーターン制御実行時の高圧EGRガスの脈動が抑えられる。従って、上記実施形態によれば、オーバーターン制御を実行してHP-EGRバルブ45のデポジットを除去しつつより適切なタイミングで高圧EGRガスをより適切に吸気通路に還流できる。
【0071】
(変形例)
上記実施形態では、オーバーターン制御の対象がHP-EGRバルブ45の場合を説明したが、HP-EGR装置44を有しないエンジンに上記制御を適用して、オーバーターン制御の対象をLP-EGRバルブ53としてもよい。
【0072】
上記実施形態では、高排ガスエネルギー条件に含まれる条件1として、エンジン負荷(要求エンジントルク)が判定負荷(判定トルク)以上であるという条件を挙げたが、これに代えて、インジェクタ15による燃料の噴射量が所定の値以上であるという条件を用いてもよい。
【0073】
また、高排ガスエネルギー条件は上記の条件1~4に限られず、その他の条件が適用されてもよい。
【0074】
また、エンジンの具体的な構成は上記に限られない。例えば、エンジンの気筒数は上記に限られない。また、エンジンはディーゼルエンジンに限られない。
【符号の説明】
【0075】
10 エンジン本体
30 吸気通路
44 HP-EGR装置
44A HP-EGR通路
45 HP-EGRバルブ(EGRバルブ)
45M HP-EGRモータ(EGRバルブ駆動装置)
100 ECU(制御装置)
E エンジン