(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136632
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】機械要素の製造方法及び機械要素
(51)【国際特許分類】
F16C 33/24 20060101AFI20230922BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20230922BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20230922BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230922BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230922BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16C33/24 A
F16C33/58
F16C33/66 Z
B24B37/00 Z
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042413
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】399006087
【氏名又は名称】株式会社河端製作所
(71)【出願人】
【識別番号】522333420
【氏名又は名称】武本 達也
(71)【出願人】
【識別番号】503265522
【氏名又は名称】羽根産業技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河端 宏道
(72)【発明者】
【氏名】武本 達也
(72)【発明者】
【氏名】羽根 邦夫
【テーマコード(参考)】
3C158
3J011
3J701
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158ED00
3C158ED05
3J011AA20
3J011BA08
3J011DA01
3J011DA02
3J011MA02
3J011QA02
3J011SA04
3J011SD10
3J701AA01
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701DA05
3J701DA11
3J701EA02
3J701EA41
3J701EA78
3J701FA31
3J701XB31
3J701XB33
(57)【要約】
【課題】目的は、機械装置を構成する摺動面を有する機械要素の平滑性を向上すると共に、表面硬度を高めることのできる機械要素の製造方法及び研磨剤組成物を提供することにある。
【解決手段】機械要素の製造方法は、機械装置を構成する摺動面を有する機械要素を精密機械加工により形成する第1工程と、形成された機械要素の摺動面を表面加工する第2工程と、表面加工された機械要素の摺動面の凸部を、機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、機械要素の摺動面の凹部にセラミック粒子を埋め込む第3工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置を構成する摺動面を有する機械要素を精密機械加工により形成する第1工程と、
前記形成された機械要素の摺動面を表面加工する第2工程と、
前記表面加工された機械要素の摺動面の凸部を、前記機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、前記機械要素の摺動面の凹部に前記セラミック粒子を埋め込む第3工程とを有する、機械要素の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック粒子は、粒子化した酸化ジルコニウムである請求項1記載の機械要素の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程における目標算術表面粗さRaは1.6μm以下である請求項1記載の機械要素の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程における目標算術平均粗さRaは0.4μm以下である請求項1記載の機械要素の製造方法。
【請求項5】
前記研磨剤組成物は、前記セラミック粒子としてビッカース硬度が1,200HV以上、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下の酸化ジルコニウム製の粒子をオイルに混入し、分散してなる請求項1記載の機械要素の製造方法。
【請求項6】
前記研磨剤組成物は、前記セラミック粒子を重量比0.01%以上で前記オイルに分散させてなる請求項1記載の機械要素の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程において、前記オイルを用いて、前記機械装置として電気着火あるいは圧縮着火方式のエンジンを、試運転段階で前記エンジンを構成する前記機械要素の摺動面を研磨し、且つ前記摺動面の凹部に前記セラミック粒子を埋め込む、請求項6記載の機械要素の製造方法。
【請求項8】
機械装置を構成する機械要素の摺動面の凸部を、前記機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、前記機械要素の摺動面の凹部に前記セラミック粒子を埋め込む、機械要素の製造方法。
【請求項9】
ベアリング、ギアボックス、チェーン、内燃機関その他の機械装置を構成する摺動面を有する機械要素において、
前記摺動面の凹部に前記機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子が埋め込まれる、機械要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ベアリング、ギアボックス、チェーンその他の機械装置を構成する摺動面を有する機械要素を製造する方法及び機械要素に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば軸受けは、ころがり軸受け、すべり軸受けに分類される。ころがり軸受けは、転動体と軌道輪との接触面積を減らすことで金属同士の摺動抵抗を減らし、すべり軸受けは、面接触するメタル(平軸受)と回転シャフトの間の潤滑油が、2種の金属の直接接触を妨げて、それぞれ摺動抵抗を減らす。
【0003】
しかし、現在の金属表面処理技術では、転動体、軌道輪、平軸受の摺動には、切削痕の凹凸が残っている。稼働時に、摺動面の面圧が潤滑油の耐圧を超えると、油膜が切れて金属面の凹凸が接触する。この結果、金属同士の摩擦を生じ、焼き付き現象を起こす。この現象は、回転部分だけでなく、ギアやピストンリングとシリンダーなどの平面の摺動では強く表れ、油膜が切れて金属表面が直接接触すると摺動抵抗が増え、最終的にピストンリングは焼き付き、またギアは傷付き破損する。
【0004】
これらの破損や焼き付きを避けるために、転がり軸受けでは転動体の径を増やして面圧を下げて、金属の直接接触による破壊を避けるようにしている。すべり軸受けも同様に回転軸の径を太くして面圧を下げ、平面接触も面圧を下げて対処する。この結果、これらの措置は、重量を増やし、接触面積の増加により摺動抵抗が増えて、装置の効率を低下させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目的は、機械装置を構成する摺動面を有する機械要素の平滑性を向上すると共に、表面硬度を高めることのできる機械要素の製造方法及び研磨剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る機械要素の製造方法は、機械装置を構成する摺動面を有する機械要素を精密機械加工により形成する第1工程と、前記形成された機械要素の摺動面をバフ、砥石、前記機械要素を他の機械要素どうしで表面加工する第2工程と、前記表面加工された機械要素の摺動面の凸部を、前記機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、前記機械要素の摺動面の凹部に前記セラミック粒子を埋め込む第3工程とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は本実施形態に係る機械要素の製造方法の各工程における機械要素の摺動面の部分拡大図である。
【
図2】
図2は本実施形態において、2種の試料の表面粗度“平均粗さRa”が研摩時間に対して変動する様子を表すグラフである。
【
図3】
図3は本実施形態において、2種の試料の残留ジルコニウム原子のモル濃度が研摩時間に対して変動する様子を表し、研摩処理によって硬い酸化ジルコニウムが鉄表面に残留していることを示しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る、ベアリング、ギアボックス、チェーン、内燃機関その他の機械装置を構成する摺動面を有する転動体、軌道輪、ギア、ローラ、ブッシュ、ピストンリング、シリンダー等の機械要素を製造する方法、及びその方法により製造された機械要素について説明する。
【0009】
本実施形態による機械要素を製造する方法は、機械装置を構成する摺動面を有する機械要素を精密機械加工により形成する第1工程、形成された機械要素の摺動面の凸部を研磨等の表面加工により滑らかに加工する第2工程、表面加工された機械要素の摺動面の凸部を、機械要素の硬度よりも高い硬度を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、機械要素の摺動面の凹部にセラミック粒子を埋め込む第3工程により、摺動面の平滑度を高めるとともに、表面の硬度を高めて傷を付き難くするものである。
【0010】
なお、従来の技術では、金属材料を切削し、さらに表面研摩により得られる最も平滑な超精密仕上げ面の粗さとして、表面の凹凸の平均値からの差の平均値を示す算術平均粗さRa値は最低で0.025μmであり、最も高い凸と最も低い凹と間の差、すなわちキズを示すRz値は0.1μmである。
【0011】
図1に示すように、算術表面粗さRa=1.6μm以下を目標値とした精密機械加工処理により機械要素を形成する。次に、算術平均粗さRaが0.4μm以下を目標値として、バフ、砥石、前記機械要素を他の機械要素どうし摺動による表面研磨処理(表面加工処理という)により機械要素の摺動面を平滑化する。表面加工処理された機械要素の摺動面には凸部と凹部が残存する。そして最終段階として、機械要素の摺動面の凸部を、セラミック粒子がオイルに分散された研磨剤組成物を用いて研磨するとともに、機械要素の硬度よりも高い硬度、典型的にはビッカース硬度が1,200HV以上を有し、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子を、機械要素の摺動面の凹部に埋め込む。
【0012】
セラミック粒子としては、粒子化した酸化ジルコニウムが好適である。研磨剤組成物としては、セラミック粒子を重量比0.01%以上、機械要素の対象によっては重量比25%でオイルに分散させ、混入させてなる。使用に際しては当該研磨剤組成物を原液として適宜希釈される。機械要素の表面凸部を削り、凹部にセラミック粒子を埋め込むことにより、摺動面の平滑性が向上し且つ表面硬度も向上した構造が実現される。
【0013】
研磨処理における機械要素表面の凹部へのセラミック粒子の埋め込みは、セラミック粒子に対して機械的な力をかけ、セラミック粒子の表面と機械要素の金属表面との間の酸化物や油脂等を押し出し、硬度の高いセラミック粒子で下地金属を高い圧力で変形させる。埋め込まれたセラミック粒子は、下地金属の内側表面と直接接触して距離が狭まり、セラミック粒子が絶縁物で粒径が小さければ、セラミック粒子は下地金属に対して電気二重層を形成して下地金属と距離の6乗に反比例するファンデルワールス力で引きつけ合うことになる。この結果、セラミック粒子は外部からの機械的な力で金属表面から引き剥がすことができなくなる。
【0014】
当該表面処理によってセラミック粒子で覆われた金属表面は、平滑で且つ硬度が高くなり、摩擦が減って摩耗が大幅に減る。加えて、耐熱性の高い粒子を使えば、金属表面の耐熱性も向上する。
【0015】
この高い硬度のセラミック粒子により平滑化された面の耐久性は、テフロン(登録商標)類や、2硫化モリブデン等の表面処理剤に比べてはるかに大きい。分子の表面自由エネルギーが小さいことで摩擦抵抗が低いテフロン系の減摩剤は、有機化合物であるため硬度が低く、高熱の使用条件下や高い圧力条件下では、テフロン粒子は壊れる。このため、下地金属はむき出しとなり、摩擦が増えて摩耗する。2硫化モリブデンは積層結晶構造であり、金属材料の表面に付着したときに、積層構造が小さな力で剥がれる現象を利用した減摩効果である。無機材料であるためテフロン系よりも高い温度に耐えるが、使用に伴って積層構造が剥がれ去って下地金属が剥き出しとなり、長期間の使用で摩擦が増えて摩耗する。
【0016】
本実施形態は、硬度が高く電気絶縁性のセラミック粒子により、精密機械加工及び表面処理により形成された機械要素の金属表面に残る凸部を該セラミック粒子で削って平坦化するとともに、機械要素の金属表面に残された凹部に該セラミック粒子を埋め込む。埋め込まれたセラミック粒子は、機械要素の金属表面との間でファンデルワールス力で引き付け合うので、剥がれ難い。金属表面に露出するセラミック粒子は見かけ上の表面硬度を高める。金属とセラミック粒子間のファンデルワールス力を働かせるには、凹部とセラミック粒子の双方が小さいことが必要であり、そのために精密機械加工工程後であって、研磨・埋め込み処理工程前に、表面処理工程を実行する。
【0017】
具体的な実施形態として、機械装置が内燃機関であり、機械要素がシリンダーである場合、セラミック粒子の粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下であり、電気絶縁性粒子としてのセラミック粒子をエンジンオイルに混入して、シリンダーの表面の平坦化とセラミック粒子を埋め込む処理を施し、長期間の実用テストを行ったところ、摩擦抵抗の低減と摩耗を減らす効果が十分にあった。これにより、セラミック粒子が部品表面に埋め込まれ、平滑化されたことを確認した。
【0018】
転動体、軌道輪、平軸受け、ギア等の機械要素において、下地金属の表面の凹部がセラミック粒子の粒径と同じか少し浅ければ、最もセラミック粒子の剥がれにくい構造を作り、硬く平滑な表面構造を形成することができる。セラミック粒子の粒径と表面の粗度がミスマッチの場合、例えば下地の処理が不十分なために、粒径よりも下地の凹部が大き過ぎると、下地金属と結合したセラミック粒子の構造が表面に表れず、高い硬度の表面が得られない。この様な表面構造では、たとえ表面に下地金属の一部分にセラミック粒子の表面が現れていても、表面における面密度が低く下地金属の凸部の影響力が大きいため、摩擦と摩耗が生じる。しかし、セラミック粒子が存在する条件下で摩耗が進んで凸部が減れば、見かけ上は凹部が浅くなり、ファンデルワールス力でセラミック粒子が固定する条件が満たされるようになり、表面が平坦化してセラミック粒子の面密度が増えることになる。
【0019】
すなわち、研磨・埋め込み処理工程の前に凹部が小さい表面構造を準備するために、算術表面粗さRa1.6μm以下を目標値として設定して精密機械加工処理工程を実行し、さらに算術平均粗さRa0.4μm以下を目標値として設定して表面処理工程を実行した上で、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子を用いて研磨・埋め込み処理工程を実行する。
【0020】
このようにセラミック粒子の粒径がファンデルワールス力を発揮できるように、0.5μm以下で小さいことと、該セラミック粒子が下地金属よりも高い硬度であることと、このセラミック粒子を金属表面にとどめるために、下地金属の表面粗度をセラミック粒子に合わせることが重要である。これらの条件が、本実施形態の効果を発現させるために必須である。
【0021】
またセラミック粒子の粒径が0.01μm未満である場合、稼働時にセラミック粒子が相対的に過大な摺動面の凹部に残留することができない可能性があり、凹部から流出したセラミック粒子が摩擦熱等により焼結し、結合し、セラミックス化して、摺動面を切削し摺動面が摩耗する。それにより減摩効果が低下する。
【0022】
本実施形態は、
図1に示すよう、機械要素の平滑度を向上し、表面硬度を高めるために、機械要素の素材金属よりも硬く、直径0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子を使い、該セラミック粒子が機械要素の表面凹部に埋め込まれ、ファンデルワールス力により定着する表面処理により、平坦で硬い表面を形成し、摩擦が少なく摩耗し難い表面を作ることができる。
【0023】
この硬く平滑な表面構造の形成は、対象となる下地金属に対する機械的な切削による精密機械加工処理、さらに算術平均粗さRaが0.4μm以下の平坦な表面加工処理を受けた後の機械要素の表面に対して行う。表面構造の形成には、該粒子を混合したオイル等の液体中で同等の仕上げ加工を行った金属を摩擦させて、平坦化と粒子埋め込みを同時に行う処理をほどこす。
【0024】
機械加工及び表面加工後の下地金属表面には顕微鏡的な凸凹が残るが、最終段階における研磨処理によって、下地表面の凸部は高い硬度のセラミック粒子によって削られて平坦となり、凹部は深さと大きさに合わせて、セラミック粒子が埋め込まれて平坦となる。下地金属と粒子の間にはファンデルワールス力が働き、粒子は固定される。
【0025】
機械要素の表面に対する最終段階としての研磨処理は、例えば転動体と軌道輪のように、実際に使用する部品あるいは装置として組立てて試運転の段階で完了する。直径0.01μm以上且つ0.5μm以下のセラミック粒子はオイル中に分散して金属表面に塗布、あるいはセラミック粒子を低密度で分散したオイル中に該部品を入れ、実際の使用と同じに回転、接触あるいは滑りなどの動作を行う。これにより、接触する2つの金属の双方の表面に平坦化の処理を行える。
【0026】
機械要素の機械切削と表面の前処理が不十分な場合でも、同様な粒子を分散したオイルを用い、部品を組み込んだ機械装置を動作させることで、下地金属表面の凸部が粒子で研磨され、粒子が金属表面の凹部に埋め込まれる。この様な方法で、粒子を用いた研摩処理で削られる凸部の高さは、部品の加工公差以内であるため、寸法の減少による問題は起きない。
【0027】
セラミック粒子を用いた研磨処理は、下地金属表面の0.5μm以下の薄い層に、粒子が表面の一部あるいは大部分で硬い平滑な構造を作り、硬い表面で応力を受けることになる。
点あるいは線接触をするボールベアリングやローラーベアリングは、主として硬い表面形成による効果であり、滑り接触部分をするピストンリングやギアは接触する平滑面の面圧低減と硬化の効果で、それぞれ摩擦を減らして摩耗を減らすことで耐久性を増し、さらに滑り接触部分は摩擦加熱が減って潤滑油の劣化が減る。
【0028】
該表面構造は、耐熱性の点で有機材料のテフロン、無機化合物の2硫化モリブデンに勝り、金属に勝るセラミックの耐熱性を金属表面に与えることで新素材としての用途を見出せる。本実施形態の具体的な効果である、ベアリング部や滑り接触部分での摩擦低減と耐久性向上の結果、自動車エンジン等の小型機器だけでなく、大型のエンジンや発電機、ガスタービンエンジン等の軸受けとして、これらの回転機器の機械的なロスを減らし、金属に勝る耐熱性も与えて長寿命化する。ギアやチェーン等の動力伝達系では滑り接触の低減で伝達ロスを減らし、長寿命化および騒音を減らす効果も有る。
【実施例0029】
(フライス盤のギアの研磨処理)
ギアの動力伝達は滑り接触によるもので、歯先が歯の側面を滑るだけの場合と、側面が滑りながら動力を伝達する場合がある。従って、ギアは歯先だけでなく、歯の側面にも減摩処理の効果が有る。実施例1は、フライス盤のギアに、機械加工及び表面処置に続いて最終工程として上述の研磨処理及び埋め込み処理を行う。
【0030】
使用したセラミック粒子は、ビッカース硬度が1,200HV以上で、粒径が0.01μm以上且つ0.5μm以下の酸化ジルコニウム製(ジルコニア;ZrO2)であり、該粒子200gを、600gの添加物無しのベースオイルに混入して十分に分散させ、重量比で25%の粒子を含む研磨剤組成物とした。
【0031】
この研磨剤組成物0.6Lを、フライス盤を運転しながらギアオイル60Lに体積比で1%を混合し、2時間の無負荷運転(試運転)を行って、ギアの動力伝達を行う歯と接触面全体に粒子を埋め込む表面処理をした。ここで、フライス盤ギアオイルへの粒子の投入を2段階としたのは、オイル中での粒子の分散を確実にするためである。また、処理有りと無しの比較運転を行うにあたって、潤滑油の温度変化を測定し、粘度に変化が無いことを確認した。
【0032】
該セラミック粒子による研磨処理の効果は、混入前の無負荷運転時のフライス盤全体の消費電流が14アンペアで、1.4kWだったのに対して、処理後の同一運転条件下の消費電流は12アンペア、1.2kWとなり、21%の電力低減を達成した。
旋盤を95rpmで運転させながら、この研磨剤組成物60ccをギアオイル3.76Lに加えて、原液の体積比が0.16%のオイルのギアオイルとした。このオイルを使用して、950rpmで90分間の無負荷運転(試運転)を行った後に、該セラミック粒子による摩擦の低減効果の測定を行った。実施例1と同様に、この間の温度変化が無いことを確認した。