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特開2023-136642果皮障害抑制方法及びその方法に使用する資材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136642
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】果皮障害抑制方法及びその方法に使用する資材
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/02 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A01G13/02 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042427
(22)【出願日】2022-03-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1)刊行物(予稿集)への発表により公開 [発行日]令和3年3月17日 [刊行物]園芸学研究第20巻別冊1-2021-園芸学会令和3年度春季大会研究発表 [公開者]金好順子、柳本裕子、松岡真希、竹岡賢二、森田剛成 [公開された内容]カンキツ新品種「瑞季」の果皮障害である黄斑の軽減対策について果実袋を種々試した結果と考察を発表した。 2)集会(学会)での発表により公開 [開催日(発明を発表した日)]令和3年3月27日 [集会名、開催場所]一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会、オンライン [公開者]金好順子、柳本裕子、松岡真希、竹岡賢二、森田剛成 [公開された発明の内容]カンキツ新品種「瑞季」の果皮障害である黄斑の軽減対策について果実袋を種々試した結果と考察を発表した。 3)刊行物(雑誌)への発表により公開 [発行日]令和3年5月1日 [刊行物]フルーツひろしま 2021 5月号 Vol.41 [公開者]松岡真希 [公開された内容]カンキツ新品種「瑞季」の果皮障害である黄斑の軽減対策について果実袋を種々試した結果と考察を発表した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度~令和3年度、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】100146020
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 善光
(74)【代理人】
【識別番号】100062328
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 剛啓
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 賢二
(72)【発明者】
【氏名】金好 純子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 真希
(72)【発明者】
【氏名】柳本 裕子
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024FB01
2B024FB03
2B024FC01
2B024FC02
(57)【要約】
【課題】新品種である瑞季と同じ分類のブンタン類さらにカンキツ類を含む果実の果皮に発生する果皮障害の発生を抑制する果皮障害抑制方法及びその方法に使用する資材を提供することを課題とする。
【解決手段】カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の表面を、光の透過率が、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる資材で被覆する果皮障害抑制方法及びこれに使用する資材より課題解決できた。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、
前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、
前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる資材で被覆することを特徴とする果皮障害抑制方法。
【請求項2】
カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、
前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、
前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満となる資材で被覆することを特徴とする果皮障害抑制方法。
【請求項3】
カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、
前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、
前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆することを特徴とする果皮障害抑制方法。
【請求項4】
前記カンキツ類がブンタン類であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の果皮障害抑制方法。
【請求項5】
前記カンキツ類が瑞季(農林水産省品種登録第27604号)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の果皮障害抑制方法。
【請求項6】
前記果皮障害が黄斑であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の果皮障害抑制方法。
【請求項7】
生育中の瑞季(農林水産省品種登録第27604号)の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記瑞季の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記瑞季の表面を光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆することを特徴とする果皮障害抑制方法。
【請求項8】
請求項1の果皮障害抑制方法において、カンキツ類を被覆する前記資材が赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有すると共に、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで果実を被覆可能な大きさを有する開口部のある袋状体であり、前記資材の前記開口部、又は前記開口部の周辺を果実被覆維持手段で塞ぐことを特徴とする果皮障害抑制方法。
【請求項9】
赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、
可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有する袋状体の形態であることを特徴とする請求項1に記載の資材。
【請求項10】
前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から前記カンキツ類の果実の収穫期まで前記果実を被覆可能な大きさを有することを特徴とする請求項9に記載の資材。
【請求項11】
前記資材は開口部を有し、前記開口部は、開放又は閉塞可能であり、開放時の大きさは収穫時の果実の大きさ以上となり、閉塞時の大きさは枝の太さ以上被覆時の果実の大きさ以下となる果実被覆維持手段を備えたことを特徴とする請求項9又は10に記載の資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツ類の果皮に発生する果皮障害の抑制方法及びその方法に使用する資材に関する。
【背景技術】
【0002】
令和元年に品種登録された品種名である瑞季(農林水産省品種登録第27604号)は、カンキツ類であるブンタン類の新品種であり、まだ市場には出回っていない品種である。前記瑞季は、種子親の水晶文旦と花粉親のサザンイエローとの交雑品種で、果皮は鮮やかな黄色で、果実サイズは横径約11cmと大きく、糖度が高く食味がよく、種子が極めて少なく、果汁が多くカットフルーツに好適であり、4月中旬以降のカンキツ端境期に出荷可能で、貯蔵性が良く贈答用として期待でき、高価格帯での販売が見込まれる品種である。
【0003】
ところが、前記瑞季には、図1に示すように、夏季の8月から晩秋季の11月中旬までの間に、緑色の果皮に1か所当たりの斑点の大きさが5mm程度の黄色の斑点である黄斑が発生する。前記黄斑は、樹の外周部にある果実の陽光面に数多く発生する。発生部位を多い順に樹の着果部位と果実の部位で分けると、表1に示すように、樹の外周部の上部の陽光面、外周部の下部の陽光面、内部の陽光面、外周部及び内部の日陰面の順である。特に、外周部の上部・下部の発生は際立って多い。
【0004】
前記黄斑は、その一部は収穫期にかけて褐色に変色して跡が残ってしまい、鮮やかな黄色の果皮に褐色の斑点が点在し、出荷選別時に等級が下がることから高価格帯での販売に支障がでるという問題があった。
【0005】
前記黄斑は、これまでのカンキツ類には類似の障害が発生する事例はないが、今後の品種改良が進むと新たなカンキツ類の品種で発生する可能性がある障害である。また、前記黄斑は果肉には障害をもたらしていないので、たとえ前記黄斑が生じても果肉は、糖度が高く食味がよく、種子が極めて少なく、果汁が多いという特長は損なわれていない。
【0006】
カンキツ類の緑色の果皮が黄色に変色する障害としては日焼けという障害がある。しかし、前記日焼けは、発生する大きさ、色及び症状は前記黄斑とは異なる障害である。前記日焼けは、夏季高温時に、特に雨天が続いた後の強い日射が当たる果実の陽光面に数時間当たり、果皮表面温度が40℃以上になると、緑色の果実の前記陽光面のほぼ全域に、面的に黄色から茶褐色の変色と果皮の陥没を伴う障害である。前記黄斑は1つ当たりの面積が小さく数多く発生する障害であるのに対して、前記日焼けは1つ当たりの面積が大きく、黄色から茶褐色の陥没域が発生する障害であるという点が異なる。なお、前記日焼け対策としては、例えば果実を、伸縮性を有する化繊布で7月下旬から8月頃にかけて被覆することが行われている。
【0007】
特許文献1には、可視光線を透過する機能及び紫外線を遮蔽する機能を有するフィルムで形成され、果実装入用の開口部を備えた果実育成袋が開示されている。
【0008】
特許文献2には、可視光線透過性を有する樹脂フィルムで構成された果実袋であって、 当該樹脂フィルムの、波長540nmの光の透過率をT540とし、当該樹脂フィルムの、波長850nmの光の透過率をT850 としたとき、T850/T540の値が0.85以下であり、当該樹脂フィルムの、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が100~2000g /(m・day)である果実袋が開示されている。また、段落[128]には、「赤外線の過剰な透過による袋内温度の上昇、紫外線透過による日焼け等が原因と考えられる。」との記載があり、日焼けの原因は赤外線の過剰な透過及び紫外線の透過によるものであることが示されている。
【0009】
特許文献3には、近赤外線を反射する酸化チタンを含み、分光光度計による光の透過率が、300~780nmにおいて12%以下、300~2500nmにおいて33%以下である、果実袋が開示されている。また、特許文献3の実施例1~3について、300~780nmにおける透過率は図1には12%以下の波長域と12%超の波長域とがあることが示されている。
【0010】
特許文献4には、果実に被せて保護するための袋であって、透明または半透明の熱可塑性樹脂製フィルムにて形成され、開口部を除く少なくとも両側縁部が熱溶着され、全面に多数の通気性微細孔が設けてなる袋本体と、該袋本体の表裏何れか片面側又は両面側に重ね合わせ、開口部側寄りの両側縁部に剥離可能に熱溶着された熱可塑性樹脂製の光散乱部材とを備える果実保護用袋が開示されている。前記果実保護用袋は、例えばブドウの場合、6月から9月初旬の収穫期まで装着している。
【0011】
特許文献5には、遠赤外線放射材、エチレンガス吸着材、紫外線吸収材、湿度調整材、および断熱材からなる群より選ばれる少なくとも一種の資材を含む果実袋が開示されている。 また、前記果実袋の材質は、再生紙などの紙類、ポリエチレンフィルム等の合成樹脂、不織布、金属箔などの適度な強度及び柔軟性を備えた材質であり、果実袋を果実に袋掛けする時期や期間は、果実の種類に適宜調整すればよいと記載されている。
【0012】
非特許文献1には、カンキツ類の日焼け防止、着色促進、樹上越冬用として使用される、テトロン糸を使用した伸縮性のある果実袋の東洋殖産株式会社製化繊布、商品名サンテが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2021-58150号公報
【特許文献2】特開2020-5563号公報
【特許文献3】特許第5877441号公報
【特許文献4】特開2009-268404号公報
【特許文献5】特開2000-37142号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】東洋殖産株式会社ホームページ(http://www.toyoshokusan.co.jp/business/bus001.html)カンキツ用果実袋サンテ(商品名)のカタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の発明は、ブドウ、ナシ、カキ又はカンキツ類などの果実の糖度及び美味しさを向上させ果実の外観性を高める等の目的で、可視光線を透過し紫外線を遮蔽する果実育成袋を使用するので、可視光線がカンキツ類の果実の陽光面に十分に照射されるため、緑色の果皮に発生する前記黄斑の発生を抑制することは期待できないという問題があった。
【0016】
特許文献2の発明は、果実袋が、可視光線を透過させ赤外線を透過しにくく、光の透過率が25%~95%の透明な袋であるので、可視光線がカンキツ類の果実の陽光面に十分に照射されるため、緑色の果皮に発生する前記黄斑の発生を抑制することは期待できないという問題があった。
【0017】
特許文献3の発明は、果実の収穫時期の遅延を防止し、かつ、果肉障害を抑制することが可能な果実袋の提供を目指していることから、収穫前の期間において果実温度の上昇を抑制させることを目的に、光の透過率に加えて、太陽光中の熱に変換されやすい近赤外線を反射する酸化チタンを含む顔料を果実袋に配合することを必須要件にし、その果実袋の使用事例については、例えばナシの場合には夏季を過ぎて9月上旬から10月上旬の収穫前40日以降に果実温度の上昇を抑制させるために果実袋をかけるとの記載がある。よって、果実が収穫前の限られた期間でなく幼果期から成熟期にかけて発生し、また果実温度の上昇が原因とはいえない前記黄斑の発生を抑制することは期待できないという問題があった。
【0018】
特許文献4の発明は、果実保護用袋に透明又は半透明の熱可塑性樹脂製フィルムを使用しているため、例えば熱可塑性樹脂の場合は光透過率が75%~93%であるので、可視光線がカンキツ類の果実の陽光面に十分に照射されるため、緑色の果皮に発生する前記黄斑の発生を抑制することは期待できないという問題があった。
【0019】
特許文献5の発明は、果実の糖度向上や日焼け防止が目的であるが、袋体はポリエチレンフィルム等の透明性の優れた合成樹脂フィルムも含めて限定するものではないと記載されており、可視光線がカンキツ類の果実の陽光面に十分に照射される果実袋も含まれることから、緑色の果皮に発生する前記黄斑の発生を抑制することは期待できないという問題があった。
【0020】
非特許文献1の果実袋(商品名:サンテ)は、カンキツ類の日焼け防止・着色促進用として7月下旬から8月の約2~3週間使用されたり、樹上越冬時の防寒資材用として使用されたりする。そして、着色促進で長期間果実に被覆したままにすると色がさめる場合、つまりまれにオレンジ色や黄色にならず果実全体が白色を帯びた色になる場合があると注意点が記載されており、少なくとも夏季の8月から晩秋季の11月中旬までの長期間の対策が必要な前記黄斑の防止には期待できないという問題があった。
【0021】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、新品種である瑞季と同じ分類のブンタン類さらにカンキツ類を含む果実の果皮に発生する前記黄斑の発生を抑制する果皮障害抑制方法及びその方法に使用する資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明において可視光線の波長は下界を360nm~400nm、上界を760nm~830nmとし、赤外線の波長は可視光線の波長より長いものであって前記赤外線には近赤外線を含むとし、紫外線の波長は可視光線の波長より短いものとする。
【0023】
本発明において、積算全天日射量とは、地表面の単位面積当たりに照射されるすべての太陽光のエネルギーの累積を意味する。
【0024】
本発明において、満開日とは、花蕾の80%程度が開いた日を意味する。
【0025】
請求項1に記載の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる資材で被覆することを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満となる資材で被覆することを特徴とする。
【0027】
請求項3に記載の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆することを特徴とする。
【0028】
請求項4に記載の果皮障害抑制方法は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記カンキツ類がブンタン類であることを特徴とする。
【0029】
請求項5に記載の果皮障害抑制方法は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記カンキツ類が瑞季(農林水産省品種登録第27604号)であることを特徴とする。
【0030】
請求項6に記載の果皮障害抑制方法は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記果皮障害が黄斑であることを特徴とする。
【0031】
請求項7に記載の果皮障害抑制方法は、生育中の瑞季(農林水産省品種登録第27604号)の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記瑞季の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記瑞季の表面を光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆することを特徴とする。
【0032】
請求項8に記載の果皮障害抑制方法は、請求項1の果皮障害抑制方法において、カンキツ類を被覆する前記資材が赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有すると共に、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで果実を被覆可能な大きさを有する開口部のある袋状体であり、前記資材の前記開口部、又は前記開口部の周辺を果実被覆維持手段で塞ぐことを特徴とする。
【0033】
請求項9に記載の資材は、請求項1に記載の前記資材が、赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有する袋状体の形態であることを特徴とする。
【0034】
請求項10に記載の資材は、請求項9において、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から前記カンキツ類の果実の収穫期まで前記果実を被覆可能な大きさを有することを特徴とする。
【0035】
請求項11に記載の資材は、請求項9又は10において、前記資材は開口部を有し、前記開口部は、開放又は閉塞可能であり、開放時の大きさは収穫時の果実の大きさ以上となり、閉塞時の大きさは枝の太さ以上被覆時の果実の大きさ以下となる果実被覆維持手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
請求項1乃至8のいずれかに記載の果皮障害抑制方法は、新品種である瑞季と同じ分類のブンタン類さらにカンキツ類を含む果実の果皮に発生する黄斑を抑制させるという効果を奏する。
【0037】
請求項9又は10に記載の資材は、光の透過率を黄斑の発生を抑制可能なレベルとすることができ、前記カンキツ類の満開日から積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期の大きくなったときまで果実を被覆することができる。
【0038】
請求項11に記載の資材は、風雨があっても確実に果実を収穫時まで覆い続けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】瑞季の果皮に前回調査時から新たに黄斑が発生した時期別の果実の割合を示す説明図である。
図2】果面温度と黄斑発生との関係性の調査結果を示す説明図であり、(a)は一日の早朝から真夜中までの被覆した資材内の果面温度及び外気温の変化を示した説明図で、(b)は資材別の黄斑発生度を示す説明図である。
図3】紫外線域の波長の透過率が異なる資材での黄斑への影響の調査結果を示す説明図であり、(a)は各資材の波長の透過率を示す説明図で、(b)は資材別に黄斑発生度を比較した結果を示す説明図である。
図4】赤外線域の波長の透過率が同じ資材での黄斑への影響の調査結果を示す図であり、各資材の波長の透過率を示す説明図である。なお、資材別に黄斑発生度を比較した結果を示す説明図は図2(b)に示している。
図5】化繊布の種類と黄斑発生度の関係の説明図で、(a)は2018年度の調査結果の説明図で、(b)は2019年度の調査結果の説明図である。なお、各化繊布の棒グラフに記載されている数値(かっこ無)は黄斑発生度を示し、かっこ内の数値は無処理の黄斑発生度を100%とした場合の黄斑発生度の割合を示している。
図6】各化繊布の波長の透過率を示す説明図で、可視光線の波長域で透過率43.9%以下を求めたことを示す説明図である。
図7】各化繊布の波長の透過率を示す説明図で、423nm以上720nm以下で透過率31.7%未満を求めたことを示す説明図である。
図8】各化繊布の波長の透過率を示す説明図で、423nm以上660nm以下で透過率11.0%未満を求めたことを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の果実障害抑制方法は、ブンタン類を含むカンキツ類の果実の果皮に発生する黄斑の発生を抑制する方法である。前記黄斑は、緑色の果皮に1か所当たりの斑点の大きさが5mm程度の黄色の斑点をいい、その一部が収穫期にかけて褐色に変色して跡が残ってしまい、鮮やかな黄色の果皮に褐色の斑点が残る障害をいう。前記黄斑はブンタン類の新品種である瑞季に現れた果皮障害であるが、今後の品種改良によって種々の果実に発生する可能性のある果皮障害である。
【0041】
本発明において、黄斑発生度とは、果実1個における黄斑発生程度を無、少(1~5個程度)、中(6~20個程度)、甚(21個以上)で評価し、((1×少の果実数+3×中の果実数+5×甚の果実数)/(5×調査果実数)×100)で算出した。また、黄斑発生率とは、全果実の中から前記黄斑が発生した果実の割合をいう。よって、前記黄斑発生率は調査果実の中で前記黄斑が1個以上発生している果実の割合を比較するのに対して、前記黄斑発生度は調査した果実の黄斑発生程度別の果実数を基に算出した度数を比較するものであり、黄斑発生程度まで加味した比較ができる。
【0042】
本発明の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる資材で被覆する方法である。なお、可視光線の波長は、下界が360nm~400nm、上界が760nm~830nmの範囲である。
【0043】
また、本発明の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満となる資材で被覆する方法である。
【0044】
また、本発明の果皮障害抑制方法は、カンキツ類の生育中の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆する方法である。
【0045】
前記カンキツ類にはブンタン類が含まれ、前記ブンタン類には瑞季(農林水産省品種登録第27604号)が含まれるので、前記ブンタン類は前記カンキツ類のうちの1種類であり、前記瑞季(農林水産省品種登録第27604号)は前記カンキツ類のうちの1種類であり、前記ブンタン類の1種類でもある。
【0046】
前記果皮障害としては、黄斑、果梗部クラッキング、果梗部黒変、及び、黒点病などが含まれ、前記黄斑は前記果皮障害のうちの1種類に該当する。
【0047】
したがって、本発明の果皮障害抑制方法は、生育中の瑞季(農林水産省品種登録第27604号)の果実に発生する果皮障害を抑制する果皮障害抑制方法であって、前記瑞季の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記瑞季の表面を光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆する方法であるといえる。
【0048】
まず、前記黄斑は太陽光に当たることにより発生することについて説明する。カンキツ類の果実である瑞季の果皮に前記黄斑が発生する部位を表1に示す。表1は、果実の着果位置を樹の外周部上部、樹の外周部下部及び樹の内部に区分し、かつ果実を直射日光が当たる陽光面と当たりにくい日陰面で区分し、黄斑発生率と黄斑発生度を調査したものである。調査日は2016年11月24日である。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から、前記黄斑の発生度は、樹の内部に比較し樹の外周部が2倍以上高いことが示唆されている。よって、太陽光が当たる部分に前記黄斑が発生しやすいことが示唆されている。このことから、前記黄斑の発生を抑制するには果実に太陽光を当たりにくくする対策が必要になる。
【0051】
次に、資材を果実に被覆する期間を、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間とすることについて説明する。
【0052】
カンキツ類の瑞季の果皮に新たに前記黄斑が発生する時期を調査すると、図1に示すように、前記黄斑は、2020年8月18日から8月27日の9日間で樹の調査した果実のうち40.4%の果実に前記黄斑が新たに発生したり、例えば2020年9月18日から9月29日の12日間で調査した果実のうち92.6%の果実に前記黄斑が新たに発生したりするなど8月~11月中旬の期間内の黄斑発生率が高かった。また、11月下旬や12月上旬でも、黄斑発生率は約10%以下に減少するが新たな発生がみられている。よって、11月中旬まではいずれかの黄斑抑制対策が必要であることが示唆され、収穫時まで黄斑抑制対策が必要であることが示唆されている。
【0053】
次に、黄斑抑制に効果的な資材の被覆時期を調査した。カンキツ類の瑞季への被覆を開始した月日と収穫後の黄斑発生率及び黄斑発生度との関係を調査した結果を表2に示す。また、満開日は2019年5月19日であった。前記資材は素材を限定されるものではなく、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維で作られた布、レーヨンなどの再生繊維、及び、アセテートなどの半合成繊維が含まれたもののうちいずれでもよい。また、黄斑抑制効果の評価については、無処理の黄斑発生度の50%以下の黄斑発生度であった場合を◎とし、50%超~70%以下の黄斑発生度であった場合を〇とし、70%超~85%以下の黄斑発生度であった場合を△とし、85%超の黄斑発生度であった場合を×と評価した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2から、6月19日から収穫時まで資材を被覆した果実の黄斑発生度は5.8、黄斑発生率は12.5%、7月25日から収穫時まで資材を被覆した果実の黄斑発生度は6.7、黄斑発生率は18.3%、8月23日から収穫時まで資材を被覆した果実の黄斑発生度は22.0、黄斑発生率は50.0%、9月24日から収穫時まで資材を被覆した果実の黄斑発生度は31.4、黄斑発生率は57.8%、収穫時まで無処理の果実の黄斑発生度は23.8、黄斑発生率は70.0%であった。
【0056】
黄斑発生率については、被覆開始日が遅れるほど、すなわち満開日から被覆開始日までの積算全天日射量が増加するほど、前記黄斑が発生した果実の数が増加していることが示され、黄斑発生度についても早い時期から、すなわち前記積算全天日射量が少ない時期から被覆すると無処理より黄斑抑制の効果があるが、被覆する時期が遅れると、すなわち前記積算全天日射量が増加した時期になると、無処理より黄斑発生が同等又はそれ以上にひどくなり得ることを示している。
【0057】
表2から、無処理よりも黄斑発生を抑制させるには、満開日からの前記積算全天日射量が1246MJ/m以下までに被覆することが必要であることが示された。
【0058】
よって、黄斑抑制対策として資材を被覆する期間は、満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までであることが示された。
【0059】
次に、太陽光による果皮障害である日焼けの抑制対策が、同じく太陽光による果皮障害である黄斑発生の抑制にも効果があるかを検証した。
【0060】
カンキツ類を含む果実には日焼け抑制用の果実袋が流通している。そして、日焼けは果面温度の上昇が原因の一つであり、果面温度が40℃3時間以上になると発生し、45℃以上になると発生は顕著になることが知られており、特許文献2の段落[0128]に、赤外線の過剰な透過による袋内温度の上昇、紫外線透過による日焼け等が原因と考えられるとの記載がある。そこで、黄斑抑制は日焼けと同じ果実袋でできるかを検証した。
【0061】
果面温度と黄斑発生との関係性を調査した結果を図2(a)及び(b)に示す。図2(a)に示すように、2021年9月5日において午前7時までと午後7時以降は気温と温度差がほとんどないが、午前7時から午後9時の間では、気温の最高値が37.2℃、平均値が28.2℃で最も低く、化繊布Dの果面温度の最高値が47.1℃、平均値が31.9℃で最も高く、無処理と化繊布Eは外気温より高いが化繊布Dの果面温度より低い果面温度で最高値が42.7℃、平均値が30.4℃となった。なお、化繊布Eと無処理の場合の果実の果面温度は、図2(a)に示すように線がほぼ重なっておりほぼ同じであった。
【0062】
また、図2(b)に示すように、黄斑発生度は、果面の最高温度が化繊布Eより高い47.1℃の化繊布Dの方が、果面の最高温度が化繊布Dより低い42.7℃の化繊布Eより93.0%も低い。なお、前記化繊布D又は化繊布Eは、いずれも満開日からの積算全天日射量が917MJ/mになった2021年7月13日に被覆した。前記化繊布は布地を限定されるものではなく、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維で作られた布、レーヨンなどの再生繊維、及び、アセテートなどの半合成繊維が含まれたもののうちいずれでもよい。
【0063】
このことは、日焼けに影響を与える果面温度と黄斑発生との関係が低いことを示しており、前記黄斑は日焼け対策と同じ機能の資材では発生の抑制が困難になることが示された。
【0064】
発明者らは、前記黄斑も日焼けと同じように太陽光線が当たる部位に発生する果皮障害であるが、太陽光線には波長の違いにより紫外線、可視光線及び赤外線があることから、前記波長の範囲及び透過率と前記黄斑の発生との関連に着目して本発明を想到した。前記透過率は、例えば照射してきた太陽光が資材を通過する割合を示す。
【0065】
まず、図3に示すように、紫外線と可視光線との境界付近の波長の透過率と黄斑発生との関連を調査した。可視光線の波長は下界が360nm~400nmであるので、紫外線の波長は360nm~400nm未満である。資材イをUVカットポリオレフィン製の資材、資材ロをポリオレフィン製の資材、資材ハをUV透過ポリオレフィン製の資材を使用し、満開日からの積算全天日射量が917MJ/mになった2021年7月13日に被覆した。
【0066】
図3(a)に示すように、資材イ、資材ロ及び資材ハの透過率は、紫外線域を含む波長423nm未満ではそれぞれ大きく異なるが、可視光線域の波長423nm以上ではほぼ同じ透過率を有する資材である。そして、図3(b)に示すように、黄斑発生度はほとんど差がないという結果が得られた。このことから、紫外線域を含む波長423nm未満の透過率の違いは前記黄斑発生度と関係が低いことが示唆され、黄斑発生度に影響を与える波長は423nm以上であることが示唆された。よって、紫外線を反射したり又は紫外線を透過しにくくする機能を有する添加物を配合したり資材を付加する必要がない。なお、透過率は、分光光度計(株式会社日本分光製、V-670)を用いて、各資材の透過波長を1nm間隔で測定した。
【0067】
次に、図4に示すように、赤外線と可視光線との境界付近の波長と透過率と黄斑発生との関連を調査した。可視光線の波長は上界が760nm~830nmであるので、赤外線の波長は760nm~830nm超である。使用した資材である化繊布D又は化繊布Eはいずれも満開日からの積算全天日射量が917MJ/mになった2021年7月13日に被覆した。なお、透過率は、分光光度計(株式会社日本分光製、V-670)を用いて、各資材の透過波長を1nm間隔で測定した。
【0068】
図4に示すように、可視光線域の波長733nm以下では化繊布Dと化繊布Eとは透過率が大きく異なるが、赤外線域の波長733nm超では化繊布Dと化繊布Eの透過率がほぼ同じである。そして、図2(b)に示すように、黄斑発生度は、化繊布Dの方が化繊布Eより93%低いという結果が得られた。このことから、前記黄斑発生に波長733nm以下の透過率の違いの影響があるが、赤外線域である波長733nm超の透過率は前記黄斑発生度と関係が低いことが示唆された。よって、赤外線を反射したり又は赤外線を透過しにくくする機能を有する添加物を配合したり資材を付加する必要がない。
【0069】
したがって、黄斑発生度は、太陽光の波長423nm以上733nm以下の波長に大きく影響を受けることが明らかになった。可視光線の波長は下界が360nm~400nmで上界が760nm~830nmであるので、波長423nm以上733nm以下は可視光線である。
【0070】
次に、図5に示すように、各化繊布と黄斑発生度との関係を調査した。図5(a)は2018年度の調査であり、満開日からの積算全天日射量が885MJ/mとなる2018年7月12日に被覆し2019年3月7日に収穫し調査した。また、図5(b)は満開日からの積算全天日射量が1247MJ/mとなる2019年7月25日に被覆し2020年3月4日に収穫し調査した。
【0071】
化繊布A及び無処理の2018年度と2019年度の黄斑発生度を比較すると、同じ種類の化繊布又は無処理でありながら年度によって黄斑発生のレベルが異なっている。このため、黄斑発生の抑制の目標を、黄斑発生度という絶対的な数値目標ではなく、無処理の黄斑発生度の50%と設定した。
【0072】
例えば、2018年度は無処理の黄斑発生度12.6に対して50%に相当する6.3以下になるのは化繊布Aの2.0のみであり、2019年度は無処理の黄斑発生度14.7に対して50%に相当する7.35以下になるのは化繊布Aの6.7と化繊布A+Cの4.0である。果実1個当たりの黄斑発生状態を、無、少、中、甚の4段階で評価すると、例えば、黄斑発生度7.35の黄斑発生レベルは、20個の果実の内、無の果実数が12~13個、少の果実数が7~8個というレベルであるので、果実の商品価値はほとんど低下しないレベルである。
【0073】
図5(a)及び(b)から、化繊布Aの黄斑抑制効果は、2018年度の黄斑発生度が2.0であるので無処理の黄斑発生度12.6の15.9%となり、2019年度の黄斑発生度が6.7であるので無処理の黄斑発生度14.7の45.6%となり、化繊布A+Cの黄斑抑制効果は、2019年度の黄斑発生度が4.0であるので無処理の黄斑発生度14.7の27.2%となることから、化繊布A及び化繊布A+Cの黄斑抑制効果は無処理の黄斑発生度の50%以下となる◎であった。また、化繊布Bの黄斑抑制効果は、2018年度の黄斑発生度7.9は無処理の黄斑発生度12.6の62.7%となるので、無処理の黄斑発生度の50%超~70%以下の○であり、化繊布Cの黄斑抑制効果は、2019年度の黄斑発生度12.0は無処理の黄斑発生度14.7の81.8%となるので、無処理の黄斑発生度の70%超~85%以下の△である。各化繊布の前記黄斑抑制効果の評価結果を表3にまとめた。本発明の果皮障害抑制方法では黄斑抑制効果の評価が◎、〇及び△で黄斑抑制効果を有すると判断し、黄斑抑制効果の評価が×は黄斑抑制効果を有さないと判断した。
【0074】
【表3】
【0075】
したがって、黄斑抑制効果の評価が◎、〇又は△となった化繊布A、A+C、B及びCの透過率を求めた。その際に、図3に示したように紫外線域、又は、図4に示したように赤外線域の透過率は黄斑発生との因果関係が極めて薄いとの実験結果から、下界を360nm~400nm、上界を760nm~830nmの可視光線の最大範囲に相当する、360nm~830nmの可視光線域の波長における前記化繊布A、A+C、B及びCの透過率を求めた。
【0076】
図6に示すように、360nm~830nmの可視光線域の波長における前記化繊布A、A+C、B及びCの透過率の最大値は43.9%である。なお、透過率は、分光光度計(株式会社日本分光製、V-560)を用いて、各資材の透過波長を1nm間隔で測定した。
【0077】
したがって、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる資材で被覆する方法を導いた。
【0078】
次に、黄斑抑制効果が△である化繊布Cを除外したときの透過率と波長を求めた。図3及び図4から、黄斑発生に影響を及ぼす波長域は423nm以上733nm以下であること、黄斑抑制効果が◎である化繊布は化繊布Aと化繊布A+Cであることから、波長域が423nm以上733nm以下の範囲における化繊布Aと化繊布A+Cとの透過率の上限を調査し、その結果を図7及び図8に示す。なお、透過率は、分光光度計(株式会社日本分光製、V-560)を用いて、各資材の透過波長を1nm間隔で測定した。
【0079】
図7から、波長域が423nm以上733nm以下の範囲において、化繊布A+Cと化繊布Aとの透過率の最大値は化繊布Aの37.1%となるが、化繊布Cの最小値が透過率31.7%で含まれることになるため、化繊布Aの透過率が31.7%未満となる波長720nmを波長域の上限とした。また、黄斑抑制効果が○である化繊布Bは波長域が423nm以上720nm以下の範囲において、透過率が31.7%未満ではない波長域がある。このことから、化繊布Aと化繊布A+Cとの透過率を、波長域が423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満とすることにした。
【0080】
よって、図7から、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満となる資材で被覆する方法で黄斑発生を抑制できることを得た。
【0081】
さらに、黄斑抑制効果が○である化繊布B及び△である化繊布Cを除外したときの透過率と波長を求めた。図8に示すように、黄斑抑制効果が○である化繊布B、及び△である化繊布Cの透過率を全く含まず、◎である化繊布A及び化繊布A+Cのみの透過率が含まれる波長の範囲及び透過率の範囲を調査した。図8から、波長423nm以上733nm以下の範囲において、化繊布B及び化繊布Cの透過率を全く含まず、化繊布A及び化繊布A+Cのみの透過率が含まれる波長の範囲及び透過率の範囲は、化繊布Bの波長423nm以上733nm以下の範囲における透過率が11.0%以上であることから、前記波長423nm以上660nm以下の全範囲において透過率11.0%未満であることを得た。
【0082】
したがって、図8から、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期までの期間を、前記カンキツ類の果実の表面を、光の透過率が波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる資材で被覆する方法で黄斑発生を抑制できることを得た。
【0083】
本発明の果皮障害抑制方法は、カンキツ類のブンタン類に属する瑞季(農林水産省品種登録第27604号)を対象に発明したが、前記果皮障害抑制方法は今後の果実の品種改良によっては、他のカンキツ類を含む果樹類にも発生し得る障害である。
【0084】
次に、前記カンキツ類の果実に被覆する資材について説明する。資材には、袋状体又は風呂敷状体などの形態があるが、前記カンキツ類の果実を被覆可能な形態であればいずれの形態でもよい。
【0085】
資材は、赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有する袋状体である。また、資材は、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで被覆可能な大きさを有する。
【0086】
あるいは、資材は、赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、波長423nm以上720nm以下の全範囲において31.7%未満となる光の透過率、又は、波長423nm以上660nm以下の全範囲において11.0%未満となる光の透過率を有する袋状体である。また、資材は、前記カンキツ類の満開日から積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで被覆可能な大きさを有する。
【0087】
カンキツ類の果実として、ウンシュウミカン、不知火、瑞季に資材を被覆する時期、資材の大きさを比較し、その比較を表4に示す。前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで被覆可能な大きさとしては、瑞季の場合は表4に示すように横径が被覆時約5cmだったものが収穫時には約11cmになり約2.2倍に増大する。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示すように、カンキツ類は一般的に寒害対策で寒冷期間に資材を被覆される場合が多く、一部に日焼け防止のために数週間ほど資材を被覆する果実がある。そのため、表4に示すように、資材の被覆期間内で果実が大きく成長する割合は、日焼け防止のために被覆したウンシュウミカン、又は、寒害対策で被覆した不知火はあまり大きくならないのに対して、瑞季は約2.2倍増大で最も成長率が高い。このため、瑞季の黄斑抑制対策のために被覆する資材は、果実横径が収穫時の50%以下の時から被覆しなければならず、被覆時の果実の大きさの2倍~2.5倍の大きさの果実にも適する大きさの資材を被覆しなければならないという、他のカンキツ類に使用する果実袋には見られない要件がある。
【0090】
そのため、被覆時からしばらくの期間は資材を、資材の大きさの50%以下の大きさの果実に被覆するので、資材と果実とは隙間が広すぎ引っ掛かることがないので、資材が風などで容易に落下する。その落下を防止するために資材の開口部に果実被覆維持手段を設けている。
【0091】
前記開口部について説明する。資材は開口部を有し、前記開口部は、開放又は閉塞可能であり、開放時の大きさは収穫時の果実の大きさ以上となり、閉塞時の大きさは枝の太さ以上被覆時の果実の大きさ以下となる果実被覆維持手段を備えている。前記開口部は資材に少なくとも1つ有し、資材の形態は、4辺を有する袋体、又は、筒状の袋体などがあるが、前記開口部を有する形態であればいずれの形態でもよい。
【0092】
前記果実被覆維持手段としては、第一に、ケーブルタイ、針金又はビニタイなどの形状可変器具の利用、第二に、開口部にゴムや紐を入れ引いて開口部を縛る形態、又は、面ファスナーやスナップボタンにより開口部を閉じる形態を含む開口部開閉構造、第三に、ホッチキス、クリップ又はピンチ等の挟む機能を有する部材の利用などの手段があり、これらに限定されずいずれの果実被覆維持手段でよい。
【0093】
また、本発明の資材は、カンキツ類等の常緑果樹に限らず、落葉果樹にも適用できる。
【0094】
したがって、果皮障害抑制方法は、カンキツ類を被覆する資材が赤外線を反射する機能を有する添加物を配合せず、可視光線の波長に相当する全波長の範囲において43.9%以下となる光の透過率を有すると共に、前記カンキツ類の満開日からの積算全天日射量が1246MJ/m以下となる時期までの期間内のいずれかの時期から収穫期まで果実を被覆可能な大きさを有する開口部のある袋状体であり、資材の前記開口部、又は前記開口部の周辺を果実被覆維持手段で塞ぐ果皮障害抑制方法であるといえる。
【0095】
次に、本発明の資材を使用した果皮障害抑制方法を実施したときに、果皮障害発生に及ぼす影響を調査し、その結果を表5に示す。表5において散布資材は炭酸カルシウム水和剤の散布であり、無処理は資材を被覆せず、いずれの対策もしないことをいう。黄斑の欄は黄斑発生率を表す。それぞれ満開日からの積算全天日射量が1246MJ/mとなる2019年7月25日に被覆し、2020年3月4日に収穫し調査した。
【0096】
【表5】
【0097】
表5から、化繊布Aは、前記黄斑以外の果皮障害にも効果があることが示された。よって、本発明の果皮障害抑制方法及びその方法に使用する資材は、黄斑抑制のみならず、前記黄斑以外の果皮障害の抑制にも効果があることが明らかになった。したがって、本発明の果皮障害抑制方法は前記黄斑のみならず複数の果皮障害の抑制にも効果を有することがわかる。
【0098】
次に、本発明の資材を使用した場合において、資材の被覆日を果実品質との関係を調査し、その結果を表6に示す。表6において、資材は化繊布Aを使用し、満開日からの積算全天日射量が1246MJ/mである2019年7月25日に被覆し、2020年3月4日に収穫して4月14日に果実分析を実施した。
【0099】
【表6】
【0100】
表6から、無処理に比較して資材を被覆した方が被覆時期にかかわらず果皮色a*値が向上し、具体的には果皮色が鮮やかな黄色になったことがわかる。果肉や糖度などの内部品質には差がほとんどなく良好な食味を維持できることが示唆されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8