(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136670
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】雰囲気炉及び雰囲気炉の使用方法
(51)【国際特許分類】
F27D 7/06 20060101AFI20230922BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20230922BHJP
F27B 9/40 20060101ALI20230922BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20230922BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20230922BHJP
B23K 1/008 20060101ALI20230922BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F27D7/06 C
C21D1/76 R
C21D1/76 L
C21D1/76 F
F27B9/40
F27D21/00 A
F27D19/00 D
B23K1/008 C
B23K31/02 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042469
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川手 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智也
【テーマコード(参考)】
4K050
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K050AA02
4K050BA01
4K050CA13
4K050CC07
4K050CD05
4K050CF06
4K050CF16
4K050CG04
4K050CG09
4K050EA08
4K056AA09
4K056BA02
4K056BB05
4K056FA01
4K056FA15
4K063AA05
4K063AA12
4K063BA02
4K063BA03
4K063CA03
4K063DA05
4K063DA07
4K063DA17
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】雰囲気ガスに窒素ガス及び水素ガスを用い、露点に関する雰囲気の制御が可能な雰囲気炉及び雰囲気炉の使用方法を提供する。
【解決手段】雰囲気炉10は、雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理するものであり、被処理物を収容する炉体11と、炉体11に接続された水素ガス供給系12と、炉体11に接続された窒素ガス供給系13と、窒素ガス供給系13に接続され、空気中から酸素を除去して窒素ガスを製造するPSA式窒素ガス製造装置16と、炉体11に取り付けられて炉内の露点温度を計測する露点計17と、露点計17から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器18と、を備え、制御器18は、PSA式窒素ガス製造装置16で製造される窒素ガスの純度を調節し、窒素ガスに混じって炉体11の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させて、その酸素と水素ガスとの反応によって炉内の雰囲気中に生じる水分の量を増減させることにより、露点温度を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
前記被処理物を収容する炉体と、
前記炉体に接続された水素ガス供給系と、
前記炉体に接続された窒素ガス供給系と、
前記窒素ガス供給系に接続され、空気中から酸素を除去して窒素ガスを製造するPSA式窒素ガス製造装置と、
前記炉体に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計と、
前記露点計から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記PSA式窒素ガス製造装置で製造される窒素ガスの純度を調節し、窒素ガスに混じって前記炉体の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させて、その酸素と前記水素ガスとの反応によって炉内の雰囲気中に生じる水分の量を増減させることにより、露点温度を制御することを特徴とする雰囲気炉。
【請求項2】
雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
前記被処理物を収容する炉体と、
前記炉体に接続された水素ガス供給系と、
前記炉体に接続された窒素ガス供給系と、
前記炉体に接続されて炉内に水分を供給する水分供給系、及び前記水分供給系に接続された制御弁と、
前記炉体に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計と、
前記露点計から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記露点計から取得した露点温度に応じて、前記制御弁を操作し、前記水分供給系からの水分供給量を調節することにより、露点温度を制御することを特徴とする雰囲気炉。
【請求項3】
前記炉体は炉内に、前記被処理物を加熱する加熱室と、前記被処理物を冷却する冷却室と、を備え、
前記水素ガス供給系及び前記窒素ガス供給系は、前記加熱室に接続され、
前記冷却室は、前記加熱室と互いの内部が連通されて、前記加熱室から雰囲気ガスを分流される、請求項1又は2に記載の雰囲気炉。
【請求項4】
前記炉体において、前記被処理物を炉内に挿入する側の端部を入口側端部とし、前記被処理物を炉内から取り出す側の端部を出口側端部として、
前記炉体の入口側端部に接続されて炉内のガスを排気する第1ガス排気系、及び、前記第1ガス排気系に接続されて排気量を調節する第1排気弁と、
前記炉体の出口側端部に接続されて炉内のガスを排気する第2ガス排気系、及び、前記第2ガス排気系に接続されて排気量を調節する第2排気弁と、をさらに備え、
前記制御器は、前記第1ガス排気系及び前記第2ガス排気系のうち少なくともいずれか一方について、それぞれの排気弁を操作して排気量を調節し、前記加熱室から前記炉体の入口側端部又は出口側端部への雰囲気ガスの分流量を制御する、請求項3に記載の雰囲気炉。
【請求項5】
請求項1に記載の雰囲気炉を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上30vol%以下とし、
制御器により、PSA式窒素ガス製造装置で製造される窒素ガスの純度を97%以上99.5%以下に調節することにより、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを特徴とする雰囲気炉の使用方法。
【請求項6】
請求項2に記載の雰囲気炉を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上30vol%以下とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.8vol%以上6.5vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを特徴とする雰囲気炉の使用方法。
【請求項7】
請求項2に記載の雰囲気炉を使用し、ステンレス鋼による被処理物を、熱処理として光輝焼鈍処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を50vol%以上とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.008vol%以上0.02vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を-50℃以上-45℃以下に制御することを特徴とする雰囲気炉の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いており、炉内の露点温度を調整可能な雰囲気炉及び雰囲気炉の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を材料に用いた被処理物は、内部応力の除去、硬さの調整、加工性の向上などといった種々の目的に応じて熱処理を施される。熱処理は、その目的に応じて炉内の雰囲気、温度、露点温度(以下、単に「露点」とも記載する)などの環境を調節した雰囲気炉を使用して行われる。雰囲気炉は、被処理物の酸化や脱炭等を防止できるような雰囲気を作るために雰囲気ガスを用いており、通常、雰囲気ガスにはプロパンガス等を変成して得られるDXガス、RXガスなどの石油系ガスが使用される。
熱処理のうちロウ付け処理、光輝焼鈍処理等では、被処理物の酸化防止と露点を高めた環境とが必要とされ、雰囲気炉には、雰囲気ガスに還元性ガス等を用い、露点調節を可能としたものが採用される。
特許文献1に記載の竪型連続焼鈍炉は、雰囲気ガスとして水蒸気を含む高露点ガスを炉内に吹き込む構成とし、高露点ガスの吹込量を制御することにより、露点を調節する。
特許文献2に記載の還元性雰囲気炉は、雰囲気ガスとして窒素ガスと水素ガスによる還元性ガスを用い、その還元性ガスに酸素を含有する気体を混合させて、還元性ガス中の酸素濃度を制御することにより、露点を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-173144号公報
【特許文献2】特開2020-190017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時の雰囲気炉は、カーボンニュートラル等といった環境配慮への意識の高まりから、脱炭素を要求されており、石油系ガスの使用を避けて、雰囲気ガスに不活性ガスである窒素ガスと、水素ガスとを使用することが検討されている。こうした検討について、特許文献1は配慮等されていない。特許文献2は、雰囲気ガスとして窒素ガスと水素ガスを使用する一方で、酸素を含有する気体として空気が挙げられており、空気には二酸化炭素等の脱炭素を阻害する物質が含まれているため、配慮が不十分である。
また、雰囲気ガスに水素ガスを用いた雰囲気炉は、露点に関する雰囲気の制御が難しく、被処理物同士のくっつき(拡散接合、固着)や、ロウ付け処理における接合不良や、光輝焼鈍処理における光輝性の低減や喪失が発生しやすい等、被処理物の品質に影響が及びやすい。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、雰囲気ガスに窒素ガス及び水素ガスを用い、露点に関する雰囲気の制御が可能な雰囲気炉及び雰囲気炉の使用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
前記被処理物を収容する炉体と、
前記炉体に接続された水素ガス供給系と、
前記炉体に接続された窒素ガス供給系と、
前記窒素ガス供給系に接続され、空気中から酸素を除去して窒素ガスを製造するPSA式窒素ガス製造装置と、
前記炉体に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計と、
前記露点計から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記PSA式窒素ガス製造装置で製造される窒素ガスの純度を調節し、窒素ガスに混じって前記炉体の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させて、その酸素と前記水素ガスとの反応によって炉内の雰囲気中に生じる水分の量を増減させることにより、露点温度を制御することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
前記被処理物を収容する炉体と、
前記炉体に接続された水素ガス供給系と、
前記炉体に接続された窒素ガス供給系と、
前記炉体に接続されて炉内に水分を供給する水分供給系、及び前記水分供給系に接続された制御弁と、
前記炉体に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計と、
前記露点計から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記露点計から取得した露点温度に応じて、前記制御弁を操作し、前記水分供給系からの水分供給量を調節することにより、露点温度を制御することを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記炉体は炉内に、前記被処理物を加熱する加熱室と、前記被処理物を冷却する冷却室と、を備え、
前記水素ガス供給系及び前記窒素ガス供給系は、前記加熱室に接続され、
前記冷却室は、前記加熱室と互いの内部が連通されて、前記加熱室から雰囲気ガスを分流される、ことを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記炉体において、前記被処理物を炉内に挿入する側の端部を入口側端部とし、前記被処理物を炉内から取り出す側の端部を出口側端部として、
前記炉体の入口側端部に接続されて炉内のガスを排気する第1ガス排気系、及び、前記第1ガス排気系に接続されて排気量を調節する第1排気弁と、
前記炉体の出口側端部に接続されて炉内のガスを排気する第2ガス排気系、及び、前記第2ガス排気系に接続されて排気量を調節する第2排気弁と、をさらに備え、
前記制御器は、前記第1ガス排気系及び前記第2ガス排気系のうち少なくともいずれか一方について、それぞれの排気弁を操作して排気量を調節し、前記加熱室から前記炉体の入口側端部又は出口側端部への雰囲気ガスの分流量を制御する、ことを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の雰囲気炉を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上30vol%以下とし、
制御器により、PSA式窒素ガス製造装置で製造される窒素ガスの純度を97%以上99.5%以下に調節することにより、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の雰囲気炉を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上30vol%以下とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.8vol%以上6.5vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の雰囲気炉を使用し、ステンレス鋼による被処理物を、熱処理として光輝焼鈍処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を50vol%以上とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.008vol%以上0.02vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を-50℃以上-45℃以下に制御することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、雰囲気ガスに窒素ガス及び水素ガスを用い、露点に関する雰囲気の制御が可能な雰囲気炉及び雰囲気炉の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】第1の形態の雰囲気炉の露点制御の具体例を示すフローチャート。
【
図4】第2の形態の雰囲気炉の露点制御の具体例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]雰囲気炉(第1の形態)
本発明の雰囲気炉は、雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉10であって、
前記被処理物を収容する炉体11と、
前記炉体11に接続された水素ガス供給系12と、
前記炉体11に接続された窒素ガス供給系13と、
前記窒素ガス供給系13に接続され、空気中から酸素を除去して窒素ガスを製造するPSA式窒素ガス製造装置16と、
前記炉体11に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計17と、
前記露点計17から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器18と、を備え、
前記制御器18は、前記PSA式窒素ガス製造装置16で製造される窒素ガスの純度を調節し、窒素ガスに混じって前記炉体11の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させて、その酸素と前記水素ガスとの反応によって炉内の雰囲気中に生じる水分の量を増減させることにより、露点温度を制御することを特徴とする(
図1参照)。
以下、第1の形態の雰囲気炉10が備える炉体11、水素ガス供給系12、窒素ガス供給系13、PSA式窒素ガス製造装置16、露点計17、制御器18の構成等について説明する。
【0011】
(1)炉体
炉体11は、被処理物を収容して熱処理するためのものである(
図1、2参照)。
炉体11の使用に適した熱処理は、露点温度(以下、略して「露点」とも記載する)の制御を必要とする処理であれば、特に限定されないが、例えば、ろう付け処理、光輝焼鈍処理等を挙げることができる。
炉体11は、熱処理に適用可能であれば、被処理物の処理・搬送方式、構成、使用材料、形状、大きさ、炉内の容積、加熱・冷却方式等は、特に問わない。
炉体11の処理・搬送方式は、熱処理に係る被処理物の加熱処理と冷却処理とを連続的に行う連続式のものとすることができ、あるいは、被処理物の加熱処理と冷却を断続的に行うバッチ式のものとすることができる。
【0012】
炉体11は、炉内における被処理物の搬送や、炉内への被処理物の出し入れを行うための搬送装置111を備えることができる(
図1、2参照)。搬送装置111は、被処理物を搬送することが可能であれば、その構成等について、特に限定されない。具体的に、搬送装置111には、ベルトコンベア、ローラコンベア等を用いることができる。
炉体11は、被処理物を炉内に挿入する入口112と、被処理物を炉内から取り出す出口113とを備えている(
図1、2参照)。炉体11の炉内において、被処理物は、入口112側を上流側とし、出口113側を下流側として、上流側から下流側へ向かう方向を搬送方向として、搬送装置111によって搬送される。
【0013】
炉体11の炉内は、1室のみとすることができ、あるいは複数室に区画することができる。
炉体11の炉内を複数室に区画する場合には、被処理物を加熱する加熱室115と、被処理物を冷却する冷却室116とを設けることができる。加熱室115及び冷却室116は、炉内における被処理物の搬送方向で、加熱室115が上流側に、冷却室116が下流側に配されている(
図1、2参照)。
加熱室115及び冷却室116は、内部の構成、構造等について、特に限定されず、それぞれ目的に応じたものとすることができる。
【0014】
例えば、加熱室115には、被処理物の加熱を目的として、加熱室115内部を昇温する昇温装置119を設けることができる。昇温装置119には、熱交換によって加熱室115内部を昇温するヒータや、燃焼ガスの噴射によって加熱室115内部を昇温するバーナ等を用いることができるが、脱炭素の観点においてヒータが有用である。
冷却室116には、被処理物の冷却を目的として、冷却室の内部を降温する降温装置や、被処理物を冷却する冷却装置を設けることができる。降温装置や冷却装置は、熱交換等によって被処理物を間接的に冷却するものや、冷風を当てる等して被処理物を直接的に冷却するものの何れも用いることができ、具体例として、送風ファン、撹拌扇、クーラ等を挙げることができる。また、冷却室116は、例えば、被処理物を段階的に冷却する等の目的に応じて、さらに内部を2室以上に区画することができる。
【0015】
炉体11の炉内に加熱室115と冷却室116を設けた場合には、炉体11の炉内における被処理物の搬送方向で、加熱室115よりも上流側に前室117を設け、冷却室116よりも下流側に後室118を、さらに設けることができる(
図1、2参照)。
前室117は、炉内に被処理物を挿入するための室であり、その挿入時に加熱室115が炉外と直接的に連繋することを防止して、加熱室115へ外気が流れ込むことを抑制している。前室117は、炉体11の炉内に設けられた複数室のうち、被処理物の搬送方向で最も上流側に配される。このため、上述の入口112は、この前室117において、炉外へ向けて開口するように設けることができる。
後室118は、被処理物を炉内から取り出すための室であり、被処理物の取出時に炉内の冷却室116へ外気が流れ込むことを抑制している。後室118は、炉体11の炉内に設けられた複数室のうち、被処理物の搬送方向で最も下流側に配される。このため、上述の出口113は、この後室118において、炉外へ向けて開口するように設けることができる。
【0016】
炉体11は、炉内に加熱室115や冷却室116を備える場合、加熱室115と冷却室116の間に、被処理物の搬送のための開口部114を備えることができる(
図1、2参照)。
さらに、炉体11は、前室117や後室118を備える場合、前室117と加熱室115との間、冷却室116と後室118との間に、それぞれ開口部114を備えることができる。
炉内の加熱室115や冷却室116、さらに前室117や後室118は、隣接する室同士の間に設けられた開口部114を介することで、互いの内部が連通されたものとすることができる。
また、炉体11は、入口112、出口113及び/又は開口部114を開閉する扉(図示略)を備える構成とすることができる。
【0017】
(2)ガス供給系
(2-1)水素ガス供給系
水素ガス供給系12は、炉体11の炉内へ、雰囲気ガスとして水素(H
2)ガスを供給するためのものである(
図1、2参照)。
この水素ガス供給系12は、水素(H
2)ガスを貯留する水素タンク121から伸びて、炉体11に接続されている。
【0018】
水素ガス供給系12には、第1調整バルブ122を接続することができる。この第1調整バルブ122は、炉体11の炉内に対する水素ガス供給系12による水素(H2)ガスの供給量の調整を可能とするものであり、必要に応じて供給量を0(m3/h)とすることにより水素(H2)ガスの供給を停止することもできる。
第1調整バルブ122に使用される弁体の種類は、特に限定されないが、電動弁、電磁弁等を採用することができる。
水素(H2)ガスの供給量は、被処理物に施す熱処理に応じて適宜調節することができ、特に限定されない。
【0019】
水素ガス供給系12は、炉体11の何れの箇所にも接続することができるが、炉体11が炉内に加熱室115と冷却室116を備える場合、加熱室115に接続することができる(
図1、2参照)。水素ガス供給系12を加熱室115に接続する場合、水素(H
2)ガスは、加熱室115に供給することができる。
上述のように、加熱室115は、開口部114を介して冷却室116と、互いの内部が連通されている。このため、冷却室116は、開口部114を介することにより、加熱室115から雰囲気ガスである水素(H
2)ガスを分流される構成とすることができる。
【0020】
炉体11の炉内が前室117を備える場合、前室117は、開口部114を介して加熱室115と、互いの内部が連通されている。このため、前室117は、開口部114を介することにより、加熱室115から雰囲気ガスである水素(H2)ガスを分流される構成とすることができる。
炉体11の炉内が後室118を備える場合、後室118は、開口部114を介して冷却室116と、互いの内部が連通されている。このため、後室118は、開口部114を介することにより、冷却室116から雰囲気ガスである水素(H2)ガスを分流される構成とすることができる。冷却室116から後室118へ分流される水素(H2)ガスは、元は加熱室115から冷却室116へ分流されたものである。
【0021】
即ち、水素ガス供給系12を加熱室115に接続する場合、水素(H2)ガスは、まず加熱室115に供給されて、加熱室115から冷却室116、前室117、後室118へ分流させることができる。
このように、水素(H2)ガスを加熱室115に供給し、加熱室115から各室へ分流させる構成とする場合、各室へ水素(H2)ガスを供給する構成と比べて、水素(H2)ガスの使用量を抑えることができる。
【0022】
(2-2)窒素ガス供給系
窒素ガス供給系13は、炉体11の炉内へ、雰囲気ガスとして窒素(N2)ガスを供給するためのものである。
この窒素ガス供給系13は、窒素(N2)ガスを貯留する窒素タンク131から伸びて、炉体11に接続されている。
窒素タンク131には、PSA式窒素ガス製造装置16(以下、略して「PSA装置16」とも記載する)を接続することができる。つまり、PSA装置16は、窒素タンク131を介することにより、窒素ガス供給系13に接続されている。
【0023】
PSA装置16は、窒素(N2)ガスを製造する装置であり、製造された窒素(N2)ガスは、窒素タンク131へと送られ、窒素タンク131に貯留することができる。窒素タンク131とPSA装置16との間には、流量調整弁132を接続することができる。これらPSA装置16、流量調整弁132については、改めて後述する。
窒素ガス供給系13にPSA装置16を接続する場合、窒素ガス供給系13には、減圧弁133を接続することができる。具体的に、減圧弁133は、窒素タンク131と炉体11との間で窒素ガス供給系13に接続されている。この減圧弁133は、PSA装置16で製造された窒素(N2)ガスが高圧な状態であるため、炉体11の炉内への供給時に窒素(N2)ガスを減圧するべく設けられる。
【0024】
窒素ガス供給系13は、炉体11の炉内が加熱室115と冷却室116を備える場合、上述の水素ガス供給系12と同様に、加熱室115に接続することができる(
図1、2参照)。
窒素ガス供給系13を加熱室115に接続する場合、窒素(N
2)ガスは、加熱室115に供給することができる。
即ち、加熱室115は冷却室116と互いの内部が連通されており、窒素ガス供給系13を加熱室115に接続する構成とした場合、上述の水素ガス供給系12と同様に、冷却室116は、加熱室115から雰囲気ガスである窒素(N
2)ガスを分流される構成とすることができる。
そして、炉体11の炉内が前室117、後室118を備える場合、上述の水素ガス供給系12と同様に、窒素(N
2)ガスは、加熱室115から前室117、冷却室116から後室118へ分流させることができる。
【0025】
(2-3)PSA式窒素ガス製造装置
PSA式窒素ガス製造装置16は、空気中から酸素(O
2)を除去して窒素(N
2)ガスを製造するものである(
図1参照)。
具体的に、PSA装置16は、空気供給器161と、空気供給器161に接続された吸着槽162とを備えている。
空気供給器161は、例えば、コンプレッサ、エアタンク等を採用することができ、吸着槽162へ空気を高圧状態で供給することができる。
吸着槽162には、空気中から窒素(N
2)以外のガス(具体的には、主に酸素(O
2)であり、他に水分(H
2O)、二酸化炭素(CO
2)、一酸化炭素(CO)等を含む)を吸着して除去する吸着材が充填されて収容されている。
PSA装置16は、装置内部の吸着槽162に高圧状態で供給された空気を通過させ、その空気から窒素(N
2)以外のガス、特に酸素(O
2)を吸着して除去することにより、窒素(N
2)ガスを製造することができる。
【0026】
PSA装置16は、吸着槽162を複数備えることができる。
PSA装置16は、吸着槽162を複数備える場合、吸着槽162同士を、複数の切換バルブ163を介して互いに接続することにより、酸素(O2)等の吸着除去を実行するものと、吸着除去を休止するものと、に適宜切り替えることができる。
つまり、PSA装置16は、吸着槽162を複数備える場合、一方の吸着槽162で吸着量が満杯になる前に、他方の吸着槽162に切り替えることで、酸素(O2)等の吸着除去を継続して連続的に実行することができる。
また、吸着槽162は、吸着除去を休止するものについて、吸着材の再生処理を実行することもできる。
【0027】
吸着槽162に充填される吸着材は、酸素(O2)を吸着できるものであれば、特に問わない。吸着材には、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナを採用することができる。これら活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナは、何れも多数の細孔を備える粒状の多孔質体であり、組成比率、細孔径(平均細孔直径)、全細孔容積、比表面積、細孔分布などに応じて吸着性能を変えることができる。
つまり、吸着材には、吸着対象である酸素(O2)に応じて、組成比率、細孔径(平均細孔直径)、全細孔容積、比表面積、細孔分布などを調整又は調節したものを使用することができる。
【0028】
上述の活性炭には、分子篩炭を含むことができる。分子篩炭は、多数の細孔を備える木炭、石炭、コークス、ヤシガラ、合成樹脂、ピッチなどの炭化物を賦活処理して得られたものである。この賦活処理では、処理温度、賦活ガスの量、処理時間に応じ、細孔径のサイズを調整することができる。
即ち、分子篩炭は、酸素(O2)の分子の大きさに応じるように、細孔径のサイズが調整されて、酸素(O2)を吸着可能なものとされる。なお、酸素(O2)を吸着可能な分子篩炭は、細孔径が約3~5オングストロームに調整される。
また、分子篩炭は、吸着槽162を減圧状態にすることで、吸着した酸素(O2)を好適に脱着させることができ、再生させることができる。
【0029】
PSA装置16において、窒素(N2)ガスの出力部、具体的に、窒素タンク131との間には、流量調整弁132を接続することができる。
流量調整弁132は、電磁弁等を用いることができ、開度操作により、PSA装置16から窒素ガス供給系13への窒素(N2)ガスの流量を任意に変えることができる。
【0030】
PSA装置16は、流量調整弁132によって窒素(N2)ガスの流量を変えることで、製造する窒素(N2)ガスの純度を変えることができる。
即ち、流量調整弁132により、窒素(N2)ガスの流量を減らした場合、PSA装置16において、吸着槽162で空気が吸着処理される時間(あるいは、空気が吸着槽162内で滞留する時間)が長くなり、吸着処理の時間が長くなる分、空気中からの酸素(O2)の吸着除去量が増す。
一方、流量調整弁132により、窒素(N2)ガスの流量を増やした場合、PSA装置16において、吸着槽162で空気が吸着処理される時間(あるいは、空気が吸着槽162内で滞留する時間)が短くなり、吸着処理の時間が短くなる分、空気中からの酸素(O2)の吸着除去量が減る。
【0031】
窒素(N2)ガスの純度について、通常、空気中には約78%の窒素(N2)と約21%の酸素(O2)とが含まれ、空気中の約99%は、窒素(N2)と酸素(O2)である。このため、空気中からの酸素(O2)の吸着除去量が増す場合には、窒素(N2)ガスの純度が高くなり、空気中からの酸素(O2)の吸着除去量が減る場合には、窒素(N2)ガスの純度が低くなる。
PSA装置16で製造される窒素(N2)ガスについて、その窒素(N2)ガスに不純物として混じっているガスは、主に酸素(O2)である。よって、PSA装置16及び流量調整弁132を用い、窒素(N2)ガスの純度を調節する場合、その純度に応じて、炉体11の炉内への酸素(O2)の供給量を増減させることができ、酸素(O2)の供給量の調節が可能となる。
【0032】
参考例として、実際にPSA装置(クラレ社製、商標名「クラセップ」)を使用し、製造される窒素(N2)ガスの流量(m3/h)を適宜変えた場合の窒素(N2)ガスの純度(%)の変化を、以下の表1に示す。
なお、表1中の「No.1」~「No.4」では、PSA装置として同一社製で同一名であるが、それぞれ型式が異なるもの(No.1:型式「MR-22」、No.2:型式「MR-30」、No.3:型式「MR-37」、No.4:型式「MR-55」)を使用している。
そして、表1に示された結果から、PSA装置は、窒素(N2)ガスの流量(m3/h)に応じて、窒素(N2)ガスの純度(%)を変えられることが分かる。
【0033】
【0034】
(3)露点計
炉体11の加熱室111には、炉内の露点温度(℃)を計測する露点計17が取り付けられている。
露点計17は、制御器18と電気的に接続されている。
制御器18は、露点計17によって計測された炉内の露点温度を取得し、露点の制御に使用することができる。
なお、炉体11には、露点計の他に、炉内の水素濃度や、酸素濃度、炉内温度などを計測する計測器を取り付けることができる。
【0035】
(4)制御器
制御器18は、制御対象である露点温度を制御するものである。
制御器18は、流量調整弁132と電気的に接続されており、流量調整弁132を操作することにより、PSA装置16から窒素ガス供給系13への窒素(N2)ガスの流量を調整することができる。制御器18は、窒素(N2)ガスの流量を調整することにより、製造される窒素(N2)ガスの純度を調節することができ、その窒素(N2)ガスに混じって炉体11の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させることができる。
雰囲気炉10は、炉内の酸素(O2)と、雰囲気ガスとして供給された水素(H2)ガスとの反応により、雰囲気中に水分(H2O)が生じることを利用し、酸素の量を増減させて水分(H2O)の発生量をコントロールすることにより、露点を制御することができる。
さらに、雰囲気炉10は、制御器18によって調節される炉内へ送り込まれる酸素の量について、炉内の雰囲気を、被処理物の酸化が防止された雰囲気(以下、「無酸化雰囲気」又は略して「無酸化」と記載する)に制御することができる。
【0036】
(4-1)制御対象
本発明の雰囲気炉(第1の形態)において、制御器18の制御対象は、露点温度である。制御器18は、露点温度の制御のために、PSA式窒素ガス製造装置16で製造される窒素ガスの純度を調節し、窒素ガスに混じって炉体10の炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させて、その酸素と水素ガスとの反応により炉内の雰囲気中に生じる水分の量を増減させる。
具体的に、制御器18は、PSA装置16と接続された流量調整弁132を操作し、窒素(N2)ガスの流量の調整による窒素(N2)ガスの純度の調節により、炉内の雰囲気中における水分(H2O)の量をコントロールして、露点の制御を行う。
また、制御器18は、水素ガス供給系12において、例えば、第1調整バルブ122や第1調整バルブ122以外のバルブ等のような、水素(H2)ガスの供給量の調整が可能な弁体(バルブ)と電気的に接続することができる。この場合、炉内の雰囲気中における水分(H2O)の量をコントロールするために、炉内の雰囲気中の水素(H2)ガスの濃度(vol%)を調節することができる。
【0037】
本発明の雰囲気炉(第1の形態)が露点温度を制御対象とする理由について、通常の雰囲気炉が雰囲気ガスにDXガス、RXガス等と称される石油系ガスを使用するのに対し、脱炭素(カーボンニュートラル)の達成のため、雰囲気ガスに窒素ガスと水素ガスを採用したことによる。
即ち、熱処理について、例えば、ろう付け処理は、炉内の露点が5℃~40℃程度の雰囲気を必要とする。これは、溶融したろう材を、母材の表面ではじかれないようにして、母材の表面に流し広げる(拡散)、毛細管現象で母材間の隙間に浸入させる(浸透)には、溶融したろう材と母材との間の親和力が重要となるためである。
より詳しくは、溶融したろう材と母材との間には、母材の表面張力、溶融したろう材と母材との間の界面張力、溶融したろう材の表面張力の3つの張力が作用する。これら3つの張力の釣り合いによって、母材に対する溶融したろう材の親和力(あるいは「ぬれ(濡れ)性」が定まり、この親和力(あるいは「ぬれ(濡れ)性」を付与するために、ろう付け処理では、炉内を適度な露点の雰囲気にする必要がある。
【0038】
通常の雰囲気炉の場合、石油系ガスを用いた雰囲気ガスは、石油系ガスが水分を含んでいることもあり、露点が5℃~30℃程度(但し、変成に係る反応後の冷却状態の温度における露点)と、ろう付け処理で必要とされる適度な露点の条件を実質的に有している。
本発明の雰囲気炉の場合、窒素ガスと水素ガスを用いた雰囲気ガスは、露点が-60℃~-10℃程度であり、ろう付け処理で必要とされる適度な露点の条件を満たしていない。
このため、窒素ガスと水素ガスを雰囲気ガスに用いた雰囲気炉10をろう付け処理に用いる場合、炉内を適度な露点の雰囲気にするように、露点の制御が必要になる。
【0039】
ろう付け処理では、被処理物の酸化を防止する観点から、炉内へ供給される酸素の量の調節が重要である。特に、被処理物は、母材の材質(材料に使用される金属の種類)に応じて酸化のされやすさの度合いが異なるため、その酸化のされやすさを考慮した酸素の量の調節を行う必要がある。
例えば、母材の材質が鉄系である場合、その酸化は、以下の反応式(1)、(2)に従って進行する。
Fe+1/2O2 → FeO ・・・(1)
3FeO+1/2O2 → Fe3O4 ・・・(2)
母材の材質が銅系である場合、その酸化は、以下の反応式(3)に従って進行する。
Cu+1/2O2 → CuO ・・・(3)
母材の材質が鉄系の場合、その酸化は、上記の反応式(1)、(2)の2つの反応系で進行する。これに対し、母材の材質が銅系の場合、その酸化は、上記の反応式(3)の1つの反応系で進行する。このため、材質が鉄系のものは、銅系に比べて、酸化されやすく、これを考慮した酸素の量の調節を行うことが望ましい。
【0040】
炉内の雰囲気中の酸素(O2)について、この酸素(O2)は、雰囲気ガスとして供給された水素(H2)ガスと反応し、以下の反応式(4)に従って水分(H2O)を発生させる。
H2+1/2O2 → H2O ・・・(4)
ろう付け処理時において、雰囲気ガスに用いられた水素(H2)ガスは、上記の反応式(4)を進行させて、雰囲気中の酸素(O2)を奪うことができる。雰囲気中の酸素(O2)が奪われた結果、反応式(1)、(2)又は(3)に示されるような酸化反応は、その進行を妨げられるので、炉内における酸化を防止することができる。
なお、上述した水素ガス供給系12が加熱室115に接続される構成の場合、加熱室115内で被処理物を熱処理のために加熱する高温度環境を利用することにより、上記の反応式(4)を好適に進行させることができる。つまり、本発明の雰囲気炉(第1の形態)のように、水素(H2)ガスと酸素(O2)との反応により水分(H2O)を生成し、その水分(H2O)によって露点の制御を行う場合、反応式(4)を好適に進行させるため、水素ガス供給系12は、加熱室115に接続することが好ましい。
【0041】
本発明の雰囲気炉(第1の形態)は、上記の反応式(4)の進行により、水分(H2O)を生成し、炉内の水分(H2O)の濃度(vol%)を高めることにより、炉内の露点を上昇させる。
反応式(4)は、平衡反応であり、雰囲気中における水素(H2)ガス、酸素(O2)、水分(H2O)の濃度(vol%)次第で逆反応を起こす場合がある。
但し、反応式(4)は、約3727℃(4000K)で平衡定数が1程度の値となるが、通常、ろう付け処理は、炉内温度を、600℃~1120℃程度として実行される。
つまり、1120℃以下程度の被処理物の熱処理の温度において、反応式(4)は、炉内の水分(H2O)の濃度(vol%)が上昇しても、逆反応を起こし難く、正反応で進行する。
【0042】
上述したように、PSA装置16は、製造する窒素(N2)ガスについて、流量(m3/h)に応じた純度(%)の調節が可能であり、その純度(%)の調節により、窒素(N2)ガスとともに炉内へ供給される酸素(O2)の量を調節することができる。
本発明の雰囲気炉(第1の形態)は、ろう付け処理に用いる場合、PSA装置16で製造される窒素(N2)ガスの純度(%)の調節により、炉内へ供給される酸素(O2)の量を調節できることを利用し、水素(H2)ガスの供給量の調整による反応式(4)の進行のコントロールによって、炉内の雰囲気中における水分量(vol%)の調節を可能としており、制御対象を露点とした制御が可能となる。
【0043】
例えば、母材の材質が鉄系の場合、銅系に比べると酸化されやすいため、その酸化を防止するには、炉内を、上記の反応式(4)が進行する雰囲気にする必要がある。
反応式(4)について、気相での化学平衡における平衡式は、平衡定数をKとし、水分分圧をPH2O、水素分圧をPH2、酸素分圧をPO2として、以下の式(4-1)で示すことができる。
K = (PH2O)2/〔(PH2)2×PO2〕 ・・・(4-1)
上記の式(4-1)を変換すると、以下の式(4-2)が得られる。
(K×PO2)(1/2) = PH2O/PH2 ・・・(4-2)
式(4-2)において、Kは定数であるから、酸素分圧(PO2)は、水素分圧(PH2)に対する水分分圧(PH2O)の比(PH2O/PH2)に応じて定まる。この比(PH2O/PH2)について、水素分圧(PH2)は、炉内への水素(H2)ガスの供給量の調整により、容易に調節が可能である。
よって、反応式(4)は、雰囲気中における水素分圧(PH2)を高める、具体的には、炉内への水素(H2)ガスの供給量の調整により雰囲気中における水素ガスの濃度(vol%)を高めて、雰囲気中の酸素分圧(PO2)を下げる(雰囲気中の還元性を高める)ことにより、進行する。
水素ガスの濃度(vol%)について、例えば、母材が鉄系であれば、反応式(1)、(2)の平衡定数等から、酸化反応の進行に関する雰囲気中における酸素分圧(atm)の範囲等を算出することができる。こうした算出値等に基づき、反応式(1)、(2)を進行させないような、水素ガスの濃度(vol%)、あるいは雰囲気中における水素分圧(atm)の範囲等を算出し、予め設定することができる。
【0044】
上記の反応式(1)~(4)の進行のコントロールについては、熱処理に係る処理温度もまた、重要である。これは、反応式(1)~(3)の酸化反応や、反応式(4)の水分生成反応は、処理温度次第で平衡定数等が異なるためである。
処理温度は、例えば、銅ろう付けであれば1050℃~1120℃、りん青銅ろう付けであれば720℃~920℃、ニッケルろう付けであれば870℃~1120℃、銀ろう付けであれば620℃~840℃、黄銅ろう付けであれば1000℃~1120℃である。
また、ろう付け以外の熱処理について、例えばステンレス鋼の光輝焼鈍であれば1000℃~1120℃、鉄系の無酸化焼鈍であれば650℃~920℃である。
本発明の雰囲気炉(第1の形態)は、上述のろう付け、光輝焼鈍、無酸化焼鈍等の熱処理に使用することができる。
【0045】
(4-2)露点制御
制御器18は、露点温度の設定値が予め記憶されているとともに、露点制御に係るプログラムが格納されており、露点計17から取得した露点の計測値に基づき、計測値が設定値の範囲内となるように、露点制御を実行することができる。
図3は、露点制御の具体例を示すフローチャートである。
露点制御では、まず、雰囲気炉の炉内において、露点温度を計測し、計測値を取得する(ステップS11)。
次いで、計測値である露点温度が、設定範囲内であるか否かについて判断する(ステップS12)。
露点温度が設定範囲内である場合(ステップS12;Yes)、PSA装置16からの流量が現状のまま維持され、N
2ガスの純度が維持されて、作業を終了する。
【0046】
露点温度が設定範囲から外れている場合(ステップS12;No)、露点温度が設定範囲に満たないか否か(露点温度が設定値の下限値に満たないか否か)について判断する(ステップS13)。
露点温度が、設定値の下限値未満で、設定範囲に満たない場合(ステップS13;Yes)、流量調整弁132が開くように操作され、窒素ガス供給系13へのPSA装置16からの流量を増加させる(ステップS14)。これにより、N2ガスの純度が下がり(ステップS15A)、炉内へ供給されるO2が増量し、露点温度が上がる(ステップS15B)。
【0047】
一方、露点温度が設定範囲内でなく(ステップS12;No)、露点温度が設定範囲に満たないについて否である場合(ステップS13;No)、露点温度が設定範囲を超える(露点温度が設定値の上限値を超える)、と判断する(ステップS16)。
露点温度が、設定値の上限値超で、設定範囲を超える場合(ステップS16)、流量調整弁132が閉じるように操作され、窒素ガス供給系13へのPSA装置16からの流量を低減させる(ステップS17)。これにより、N2ガスの純度が上がり(ステップS18A)、炉内へ供給されるO2が減量し、露点温度が下がる(ステップS18B)。
【0048】
露点温度を上下させた(S15B、S18B)後は、再度、露点温度を計測し(ステップS11)、露点温度が設定範囲内であるか否かについて判断する(ステップS12)。
再度取得した露点温度が設定範囲内である場合(ステップS12;Yes)、作業を終了する。再度取得した露点温度が設定範囲内でない場合(ステップS12;No)、露点温度が設定範囲内となるまで、PSA装置16からの流量の調整(S14,S17)による、N2ガスの純度の調節(S15A,S18A)を繰り返し行う。
【0049】
(5)ガス排気系
雰囲気炉10は、炉体11の入口112側端部に接続されて炉内のガスを排気する第1ガス排気系21、及び、第1ガス排気系21に接続されて排気量を調節する第1排気弁22と、出口113側端部に接続されて炉内のガスを排気する第2ガス排気系23、及び、第2ガス排気系23に接続されて排気量を調節する第2排気弁24と、をさらに備えるものとすることができる(
図1、2参照)。
第1排気弁22及び第2排気弁24は、電動弁、電磁弁等を採用することができ、制御器18と電気的に接続することができる。制御器18は、第1ガス排気系21及び第2ガス排気系23のうち少なくともいずれか一方について、第1排気弁22、第2排気弁24を操作して排気量を調節し、加熱室115から炉体11の入口112側端部又は出口113側端部への雰囲気ガスの分流量を制御することができる。
【0050】
具体的に、第1ガス排気系21は、炉体11の入口112側端部に配置された前室117において、入口112近傍に接続することができる。
制御器18により第1排気弁22を操作し、第1ガス排気系21から炉外へ排気を行う場合、その排気に伴い、炉体11の炉内で、加熱室115から前室117(入口112側端部)へと向かう雰囲気ガスの流れを形成することができる(
図1、2の炉内に記載した矢印参照)。
【0051】
また、第2ガス排気系23は、炉体11の出口113側端部に配置された後室118において、出口113近傍に接続することができる。
制御器18により第2排気弁24を操作し、第2ガス排気系23から炉外へ排気を行う場合、その排気に伴い、炉体11の炉内で、加熱室115から冷却室116を介して後室118(出口113側端部)へと向かう雰囲気ガスの流れを形成することができる(
図1、2の炉内に記載した矢印参照)。
【0052】
水素ガス供給系12及び窒素ガス供給系13を加熱室115に接続する場合、雰囲気ガスである水素ガス及び窒素ガスは、加熱室115に供給されて、加熱室115から、前室117、冷却室116及び後室118の各室へ分流される。
第1ガス排気系21及び第2ガス排気系23は、炉外への排気により、炉内において、加熱室115から入口112側端部へ向かう雰囲気ガスの流れと、加熱室115から出口113側端部へ向かう雰囲気ガスの流れとを形成することができる。
【0053】
つまり、第1ガス排気系21及び第2ガス排気系23は、炉内で雰囲気ガスの流れを形成することにより、加熱室115から各室へ雰囲気ガスを好適に分流させることができる。
また、雰囲気ガスである水素ガス及び窒素ガスと、水素ガスと炉内の酸素との反応により生成された水分(水蒸気)は、第1ガス排気系21及び第2ガス排気系23によって形成された流れに従い、加熱室115から各室へ分流される際、略均一に拡散される。この拡散により、炉内において雰囲気ガス等の濃度が不均衡となることを防止することができる。
【0054】
炉体11の炉内において、加熱室115から入口112側端部へ向かうガスの分流量と、加熱室115から出口113側端部へ向かうガスの分流量とは、第1排気弁22と第2排気弁24の操作による第1ガス排気系21と第2ガス排気系23の排気量の調節により、制御することができる。
即ち、第1排気弁22を、第2排気弁24よりも大きく開き、第1ガス排気系21の排気量を、第2ガス排気系23の排気量よりも大きくした場合、加熱室115からのガスの分流量は、入口112側端部へ向かう量が、出口113側端部へ向かう量に比べて、多くなる。
炉体11の前室117に被処理物を挿入する際、加熱室115から入口112側端部へ向かうガスの分流量が多くなるように制御することにより、入口112から炉内への外気(空気)の流入を抑制、あるいは入口112から炉内に流入した外気(空気)を第1ガス排気系21から迅速に排気することができる。
【0055】
また、第2排気弁24を、第1排気弁22よりも大きく開き、第2ガス排気系23の排気量を、第1ガス排気系21の排気量よりも大きくした場合、加熱室115からのガスの分流量は、出口113側端部へ向かう量が、入口112側端部へ向かう量に比べて、多くなる。
炉体11の後室118から被処理物を取り出す際、加熱室115から出口113側端部へ向かうガスの分流量が多くなるように制御することにより、出口113から炉内への外気(空気)の流入を抑制、あるいは出口113から炉内に流入した外気(空気)を第2ガス排気系23から迅速に排気することができる。
【0056】
[2]雰囲気炉(第2の形態)
本発明の雰囲気炉は、雰囲気ガスとして水素ガス及び窒素ガスが充填された炉内の雰囲気中で被処理物を熱処理する雰囲気炉10であって、
前記被処理物を収容する炉体11と、
前記炉体11に接続された水素ガス供給系12と、
前記炉体11に接続された窒素ガス供給系13と、
前記炉体11に接続されて炉内に水分を供給する水分供給系14、及び前記水分供給系14に接続された制御弁15と、
前記炉体11に取り付けられて前記炉内の露点温度を計測する露点計17と、
前記露点計17から取得した露点温度に応じて、露点温度を制御する制御器18と、を備え、
前記制御器18は、前記露点計17から取得した露点温度に応じて、前記制御弁15を操作し、前記水分供給系14からの水分供給量を調節することにより、露点温度を制御することを特徴とする(
図2参照)。
以下、第2の形態の雰囲気炉10が備える炉体11、水素ガス供給系12、窒素ガス供給系13、PSA式窒素ガス製造装置16、露点計17、制御器18の構成等について説明するが、第1の形態の雰囲気炉10と異なる点を中心に説明するものとし、同様の点については説明を省略する。
【0057】
(1)炉体
上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(1)炉体と同様であり、説明を省略する。
【0058】
(2)ガス供給系
(2-1)水素ガス供給系
上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(2)ガス供給系、(2-1)水素ガス供給系と同様であり、説明を省略する。
【0059】
(2-2)窒素ガス供給系
窒素ガス供給系13は、炉体11の炉内へ、雰囲気ガスとして窒素(N
2)ガスを供給するためのものである。
この窒素ガス供給系13は、窒素(N
2)ガスを貯留する窒素タンク131から伸びて、炉体11に接続されている。
窒素タンク131には、PSA装置16を接続することができる(
図2参照)。窒素タンク131にPSA装置16を接続した場合、PSA装置16で製造された窒素(N
2)ガスを、窒素タンク131に貯留することができる。
また、窒素タンク131とPSA装置16との間には、PSA装置16から窒素タンク131への窒素(N
2)ガスの供給を許容又は規制する供給バルブ132Aを接続することができる。この供給バルブ132Aには、電磁弁、電動弁等を採用することができる。
なお、供給バルブ132A及びPSA装置16は、省略することも可能であり、この場合、窒素タンク131には、予め他所で製造された窒素(N
2)ガスを貯留することができる。
【0060】
窒素ガス供給系13には、第2調整バルブ133Aを接続することができる。この第2調整バルブ133Aは、炉体11の炉内に対する窒素ガス供給系13による窒素(N
2)ガスの供給量の調整を可能とするものである。
第2調整バルブ133Aに使用される弁体の種類は、特に限定されないが、電磁弁、電動弁等を採用することができ、PSA装置16を使用する場合、減圧弁を採用することもできる。
窒素(N
2)ガスの供給量は、炉内の雰囲気に応じて、雰囲気が維持されるように、適宜調節することができ、特に限定されない。
窒素ガス供給系13は、炉体11の炉内が加熱室115と冷却室116を備える場合、加熱室115に接続することができる(
図2参照)。この場合、窒素(N
2)ガスは、加熱室115に供給され、加熱室115から前室117、冷却室116及び後室118へ分流させることができる。
【0061】
(2-3)PSA式窒素ガス製造装置
上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(2)ガス供給系、(2-3)PSA式窒素ガス製造装置と同様の構成であり、構成についての説明を省略する。
第2の形態の雰囲気炉10は、PSA装置16を使用する場合、流量調整による窒素(N2)ガスの純度の調節を実行せず、流量を一定値として純度を99.999%等の高純度に保って使用することができる。
【0062】
(2-4)水分供給系
水分供給系14は、炉体11の炉内へ、水分(H
2O)を供給するためのものである(
図2参照)。
この水分供給系14は、水分(水蒸気)を発生させる加湿器141から伸びて、炉体11に接続されている。
【0063】
水分供給系14には、制御弁15が接続されている。この制御弁15は、炉体11の炉内に対する水分供給系14による水分(H2O)の供給量の調整を可能とするものであり、必要に応じて供給量を0(m3/h)とすることにより水分(H2O)の供給を停止することもできる。
制御弁15に使用される弁体の種類は、特に限定されないが、電動弁、電磁弁等を採用することができる。
制御弁15は、制御器18と電気的に接続されており、制御器18による操作により、炉内の露点温度に応じて、水分(H2O)の供給量を適宜調節することができる。
【0064】
水分供給系14は、炉体11の何れの箇所にも接続することができるが、炉体11が炉内に加熱室115と冷却室116を備える場合、加熱室115に接続することができる(
図2参照)。水分供給系14を加熱室115に接続する場合、水分(H
2O)は、加熱室115に供給することができる。
加熱室115は、開口部114を介して冷却室116と、互いの内部が連通されている。このため、冷却室116は、開口部114を介することにより、加熱室115から水分(H
2O)を分流される構成とすることができる。
【0065】
炉体11の炉内が前室117を備える場合、前室117は、開口部114を介して加熱室115と、互いの内部が連通されている。このため、前室117は、開口部114を介することにより、加熱室115から水分(H2O)を分流される構成とすることができる。
炉体11の炉内が後室118を備える場合、後室118は、開口部114を介して冷却室116と、互いの内部が連通されている。このため、後室118は、開口部114を介することにより、冷却室116から水分(H2O)を分流される構成とすることができる。冷却室116から後室118へ分流される水分(H2O)は、元は加熱室115から冷却室116へ分流されたものである。
即ち、水分供給系14を加熱室115に接続する場合、水分(H2O)は、まず加熱室115に供給されて、加熱室115から冷却室116、前室117、後室118へ分流させることができる。
このように、水分(H2O)を加熱室115に供給し、加熱室115から各室へ分流させる構成とする場合、各室へ水分(H2O)を供給する構成と比べて、炉内の水分濃度が不均衡となること、加熱室115の露点温度が過剰に上がることを抑えることができる。
【0066】
(3)露点計
上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(3)露点計と同様であり、説明を省略する。
【0067】
(4)制御器
制御器18は、制御対象である露点温度を制御するものである。
制御器18は、水分供給系14に接続された制御弁15と電気的に接続されており、制御弁15を操作し、炉体11の炉内への水分供給量を調節することにより、露点温度を制御することができる。
雰囲気炉10は、雰囲気ガスに水素(H2)ガスを用いており、水素(H2)との反応により炉内に残る酸素(O2)を奪うことで、炉内の雰囲気を無酸化とすることができる。この水素(H2)ガスと酸素(O2)の反応によって生じた水分(H2O)は、炉内の露点温度を上げるのに利用することができる。
【0068】
(4-1)制御対象
本発明の雰囲気炉(第2の形態)において、制御器18の制御対象は、上述した雰囲気炉(第1の形態)と同様に、露点温度である。
この雰囲気炉(第2の形態)において、制御器18は、露点温度の制御のために、露点計17から取得した露点温度に応じて、制御弁15を操作し、水分供給系14からの水分供給量を調節する。
以下、本発明の雰囲気炉(第2の形態)の制御対象について、上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(4-1)制御対象と異なる点を中心に説明する。
【0069】
本発明の雰囲気炉(第2の形態)において、水素(H2)ガスは、炉内を還元性の雰囲気とし、雰囲気中の酸素(O2)を奪うことを主な目的として用いられる。言い換えると、本発明の雰囲気炉(第2の形態)において、水素(H2)ガスは、炉内の雰囲気中における水分量(vol%)の調節を主たる目的として使用されるものではない。
即ち、雰囲気ガスとして供給された水素(H2)ガスは、以下の反応式(4)に従って雰囲気中の酸素(O2)と反応することにより、雰囲気中の酸素(O2)を奪うことができる。
H2+1/2O2 → H2O ・・・(4)
上記の反応式(4)の進行により、雰囲気中の酸素(O2)が奪われた結果、例えば、上記の酸化に係る反応式(1)~(3)のような酸化反応は、その進行を妨げられるため、炉内における酸化を防止することができる。
また、反応式(4)の進行によって発生した水分(H2O)は、炉内に拡散されて、炉内の雰囲気の露点の制御に、副次的に利用することができる。
【0070】
反応式(4)は、平衡反応であり、雰囲気中に含まれる水素(H2)ガス、酸素(O2)、水分(H2O)の濃度(vol%)次第で逆反応を起こす可能性がある。
上述のように、反応式(4)は、約3727℃(4000K)で平衡定数が1程度の値となる反応であるから、通常、1120℃以下程度の被処理物の熱処理の温度において、炉内の水分(H2O)の濃度(vol%)が上昇しても、逆反応を起こし難く、正反応で進行する。
また、上述したように、反応式(4)は、水素(H2)ガスの供給量を増大させ、雰囲気中における水素分圧(PH2)を高める、つまり、雰囲気中の還元性を高める(酸素分圧(PO2)を下げる)ことによっても、正反応で進行するため、逆反応を抑制することができる。
【0071】
従って、本発明の雰囲気炉(第2の形態)は、露点の制御に関し、水分供給系14から炉内へ水分を供給し、炉内の雰囲気中における水分(H2O)の量をコントロールする構成であるが、この構成においても、上記の反応式(4)の逆反応を抑制することができる。
このため、本発明の雰囲気炉(第2の形態)は、水素(H2)ガスの供給により、雰囲気中の酸素(O2)を奪い、酸化反応を防止したうえで、水分供給系14による水分供給量の調節により、制御対象を露点とした制御が可能となる。
なお、本発明の雰囲気炉(第2の形態)において、水分供給系14は、上述したように、炉体11の何れの箇所にも接続することができる。これは、水素ガスと酸素のように、高温度環境を利用して水分を生成する必要がないためである。
【0072】
(4-2)露点制御
制御器18は、露点温度の設定値が予め記憶されているとともに、露点制御に係るプログラムが格納されており、露点計17から取得した露点の計測値に基づき、計測値が設定値の範囲内となるように、露点制御を実行することができる。
図4は、露点制御の具体例を示すフローチャートである。
露点制御では、まず、雰囲気炉の炉内において、露点温度を計測し、計測値を取得する(ステップS21)。
次いで、計測値である露点温度が、設定範囲内であるか否かについて判断する(ステップS22)。
露点温度が設定範囲内である場合(ステップS22;Yes)、水分供給量が現状のまま維持され、作業を終了する。
【0073】
露点温度が設定範囲から外れている場合(ステップS22;No)、露点温度が設定範囲に満たないか否か(露点温度が設定値の下限値に満たないか否か)について判断する(ステップS23)。
露点温度が、設定値の下限値未満で、設定範囲に満たない場合(ステップS23;Yes)、制御弁15が開くように操作され、水分供給系14からの水分供給量が増加されて(ステップS24)、露点温度が上がる(ステップS25)。
【0074】
一方、露点温度が設定範囲内でなく(ステップS22;No)、露点温度が設定範囲に満たないについて否である場合(ステップS23;No)、露点温度が設定範囲を超える(露点温度が設定値の上限値を超える)、と判断する(ステップS26)。
露点温度が、設定値の上限値超で、設定範囲を超える場合(ステップS26)、流量調整弁132が閉じるように操作され、水分供給系14からの水分供給量が低減されて(ステップS27)、露点温度が下がる(ステップS28)。
【0075】
露点温度を上下させた(S25、S28)後は、再度、露点温度を計測し(ステップS21)、露点温度が設定範囲内であるか否かについて判断する(ステップS22)。
再度取得した露点温度が設定範囲内である場合(ステップS22;Yes)、作業を終了する。再度取得した露点温度が設定範囲内でない場合(ステップS22;No)、露点温度が設定範囲内となるまで、水分供給系14からの水分供給量の調節(S24,S27)による、露点温度の上げ下げ(S25,S28)を繰り返し行う。
【0076】
(5)ガス排気系
雰囲気炉10は、ガス排気系をさらに備えることができる。
このガス排気系については、上述した[1]雰囲気炉(第1の形態)の(5)ガス排気系と同様であり、説明を省略する。
【0077】
[3]雰囲気炉の使用方法(1)
本発明は、第1の形態の雰囲気炉10を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上20vol%以下とし、
制御器により、PSA式窒素ガス製造装置で製造される窒素ガスの純度を97%以上99.5%以下に調節することにより、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを特徴とする。
【0078】
即ち、雰囲気炉の使用方法(1)は、雰囲気炉10(
図1参照)を使用したろう付け処理である。
このろう付け処理では、ろう材を母材と接着させるため、母材の表面のぬれ性が必要とされ、母材の表面にぬれ性を付与するべく、炉内の露点温度が制御される。
被処理物について、ろう材と母材は、通常のろう付け処理に用いられるものであれば何れも使用することができ、特に限定されない。
ろう材としては、例えば、銅・黄銅ろう、リン銅ろう、銀ろう、アルミニウムろう、ニッケルろう、金ろう、パラジウムろう等を挙げることができる。
母材としては、ろう材よりも融点が高いもの、具体例として、鉄、銅、アルミニウム、チタン、銀、タングステン等の金属や、それらの合金、あるいはセラミックス等を挙げることができる。
【0079】
ろう付け処理において、炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度は、3vol%以上30vol%以下とする。水素ガスの濃度は、好ましくは5vol%以上25vol%以下、より好ましくは7vol%以上20vol%以下とすることができる。
水素ガスの濃度の調整は、水素ガス供給系12の第1調整バルブ122を操作することにより、行うことができる。この第1調整バルブ122の操作は、制御器18によって実行することもできる。
【0080】
ろう付け処理において、炉内の露点温度の制御は、PSA装置16で製造される窒素ガスの純度を適宜調節し、その窒素ガスに混じって炉内へ送り込まれる酸素の量を増減させ、酸素と水素ガスとの反応によって生じる水分の量をコントロールすることにより、行われる。
PSA装置16で製造される窒素ガスの純度は、97%以上99.5%以下に調節する。これにより、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することができる。
PSA装置16で製造される窒素ガスの純度は、流量調整弁132を操作し、PSA装置16から窒素ガス供給系13へ供給される窒素ガスの流量を調節することにより、行うことができる。
窒素ガスの純度は、好ましくは98%以上99%以下、より好ましくは98.5%以上99%以下とすることができる。
【0081】
[4]雰囲気炉の使用方法(2)
本発明は、第2の形態の雰囲気炉10を使用し、被処理物であるろう材と母材を、熱処理としてろう付け処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を3vol%以上30vol%以下とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.8vol%以上6.5vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することを特徴とする。
【0082】
即ち、雰囲気炉の使用方法(2)は、雰囲気炉10(
図2参照)を使用したろう付け処理である。
ろう付け処理、ろう材、母材については、上述のとおりである。
【0083】
ろう付け処理において、炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度は、3vol%以上30vol%以下とする。水素ガスの濃度は、好ましくは5vol%以上25vol%以下、より好ましくは7vol%以上20vol%以下とすることができる。
なお、このろう付け処理において、水素ガスは、主に、炉内の雰囲気中に残留等している酸素を除去するために使用される。また、水素ガスと酸素との反応によって発生した水分は、ろう付け処理時における露点の調整に使用することができ、水分供給系14による水分供給量を抑えることができる。
【0084】
ろう付け処理において、制御器18により、水分供給系14からの水分供給量は、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.8vol%以上6.5vol%以下になるように調節される。これにより、炉内の露点温度を5℃以上40℃以下に制御することができる。
水分供給量の調節は、制御弁15を操作することにより、行うことができる。
水分供給量の調節による炉内の雰囲気中における水分の濃度は、好ましくは1.0vol%以上6.3vol%以下、より好ましくは1.2vol%以上6.1vol%以下とすることができる。
【0085】
[5]雰囲気炉の使用方法(3)
本発明は、第2の形態の雰囲気炉10を使用し、ステンレス鋼による被処理物を、熱処理として光輝焼鈍処理する雰囲気炉の使用方法であって、
炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度を75vol%以上とし、
制御器により、水分供給系からの水分供給量を、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.013vol%以上0.08vol%以下になるように調節して、炉内の露点温度を-50℃以上-45℃以下に制御することを特徴とする。
【0086】
即ち、雰囲気炉の使用方法(3)は、雰囲気炉10(
図2参照)を使用した光輝焼鈍処理である。
この光輝焼鈍処理では、被処理物としてステンレス鋼を材料に用いたものが使用される。また、光輝焼鈍は、被処理物の表面が焼鈍前と同等の光沢を保つことを要求され、その表面における酸化スケールの生成を防止するため、無酸化雰囲気による焼鈍処理(無酸化焼鈍)が必要となる。
【0087】
光輝焼鈍処理は、処理中における窒素ガスの純度の変更を特に必要としない。このため、光輝焼鈍処理に使用する雰囲気炉10(
図2参照)は、窒素ガス供給系13とPSA装置16との接続の有無について、特に限定されない。
つまり、光輝焼鈍処理用の雰囲気炉10において、窒素ガス供給系13は、PSA装置16が接続されない構成とすることができる。PSA装置16が接続されない構成の場合、窒素ガス供給系13の窒素タンク131には、予め他所で製造された窒素(N
2)ガスを貯留することができる。
あるいは、窒素ガス供給系13は、PSA装置16が接続された構成とすることもできる。PSA装置16が接続された構成の場合、PSA装置16は、流量の変更を行うことなく、例えば、製造される窒素(N
2)ガスを高純度に維持することができる。
【0088】
光輝焼鈍処理において、炉内の雰囲気中における水素ガスの濃度は、下限を50vol%以上とする。水素ガスの濃度は、下限を、好ましくは75vol%以上とすることができる。水素ガスの濃度は、上限について、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼の窒化を抑制する場合等には、100vol%以下、つまり炉内を水素ガスのみの雰囲気とする、こともできる。
この光輝焼鈍処理において、水素ガスは、炉内の雰囲気中の酸素を奪い、無酸化雰囲気にするために使用される。また、水素ガスと酸素との反応によって発生した水分は、露点の調整に使用することができ、水分供給系14による水分供給量を低減することができる。
【0089】
光輝焼鈍処理において、制御器18により、水分供給系14からの水分供給量は、炉内の雰囲気中における水分の濃度が0.008vol%以上0.02vol%以下になるように調節される。このとき、炉内の露点温度は-50℃以上-45℃以下に制御することができる。
水分供給量の調節は、制御弁15を操作することにより、行うことができる。
水分供給量の調節による炉内の雰囲気中における水分の濃度は、好ましくは0.009vol%以上0.015vol%以下とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、広範な製品で利用することができ、特にカーボンニュートラルの観点で有用である。
【符号の説明】
【0091】
10;雰囲気炉、
11;炉体、111;搬送装置、112;入口、113;出口、114;開口部、115;加熱室、116;冷却室、117;前室、118;後室、119;昇温装置、
12;水素ガス供給系、121;水素タンク、122;第1調整バルブ、
13;窒素ガス供給系、131;窒素タンク、132;流量調整弁、133;減圧弁、132A;供給バルブ、133A;第2調整バルブ、
14;水分供給系、141;加湿器、15;制御弁、
16;PSA式窒素ガス製造装置、161;空気供給器、162;吸着槽、163;切換バルブ、
17;露点計、
18;制御器、
21;第1ガス排気系、22;第1排気弁、23;第2ガス排気系、24;第2排気弁。