(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136681
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042490
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】湯口 昭代
(72)【発明者】
【氏名】小野 彩
(72)【発明者】
【氏名】北爪 誠
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063CA07
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC03
2F063EC05
2F063EC27
(57)【要約】
【課題】ひずみゲージのクリープ特性を改善する。
【解決手段】本ひずみゲージは、樹脂製の基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、前記基材上に形成され、前記抵抗体の両端に電気的に接続された配線と、を有し、前記抵抗体は、並置された複数の細長状部と、複数の前記細長状部の中で隣接する前記細長状部の端部を互い違いに連結して各々の前記細長状部を直列に接続する折り返し部と、を含み、複数の前記細長状部は、互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基材と、
前記基材上に形成された抵抗体と、
前記基材上に形成され、前記抵抗体の両端に電気的に接続された配線と、を有し、
前記抵抗体は、並置された複数の細長状部と、複数の前記細長状部の中で隣接する前記細長状部の端部を互い違いに連結して各々の前記細長状部を直列に接続する折り返し部と、を含み、
複数の前記細長状部は、互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含む、ひずみゲージ。
【請求項2】
複数の前記細長状部は、幅が200μm以上の細長状部を含む、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
複数の前記細長状部は、幅が350μm以上の細長状部を含む、請求項1又は2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
幅が200μm以上の前記細長状部の本数は、全ての前記細長状部の本数の半分以上を占める、請求項2又は3に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
全ての前記折り返し部の幅は、最も幅が広い前記細長状部の幅以上である、請求項1乃至4の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記抵抗体は、前記抵抗体が形成された領域の中心を通り前記細長状部の長手方向に平行な直線に関して線対称である、請求項1乃至5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記抵抗体は、Cr、CrN、及びCr2Nを含む膜から形成されている請求項1乃至6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
ゲージ率が10以上である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物に貼り付けて使用するひずみゲージが知られている。例えば、ひずみゲージは、材料のひずみを検出するセンサ、または、周囲温度を検出するセンサとして使用される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなひずみゲージには、金属製の基材や樹脂製の基材が用いられるが、樹脂製の基材を用いたひずみゲージでは、クリープが生じる場合がある。ひずみゲージにおける「クリープ」とは、一定の温度条件下で一定の荷重がひずみゲージに作用するとき、時間とともにひずみが変化する現象である。ひずみゲージにおいて、クリープは測定誤差の要因となる。したがって、クリープ特性を改善することが求められている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、ひずみゲージのクリープ特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るひずみゲージは、樹脂製の基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、前記基材上に形成され、前記抵抗体の両端に電気的に接続された配線と、を有し、前記抵抗体は、並置された複数の細長状部と、複数の前記細長状部の中で隣接する前記細長状部の端部を互い違いに連結して各々の前記細長状部を直列に接続する折り返し部と、を含み、複数の前記細長状部は、互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含む。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、ひずみゲージのクリープ特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図3】クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。
【
図4】クリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部には同一の符号を付す場合がある。また、各図面において、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向を規定する場合がある。この場合、X方向において、矢印の始点(根元)側をX-側、矢印の終点(矢尻)側をX+側と称する場合がある。Y方向及びZ方向についても同様である。また、各図面の説明において、既に説明した構成部と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
【0011】
図1及び
図2を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とを有している。カバー層60は、必要に応じて設けることができる。なお、
図1及び
図2では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。まずは、ひずみゲージ1を構成する各部について詳細に説明する。
【0012】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を「上側」と称し、抵抗体30が設けられていない側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることもできる。又、ひずみゲージ1は任意の角度で配置することもできる。又、平面視とは、基材10の上面10aに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0013】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材である。基材10は可撓性を有する。基材10の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ1の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、基材10の厚さは5μm~500μm程度であってよい。ひずみゲージ1の下面側には、接着層等を介して起歪体が接合されていてもよい。なお、起歪体の表面から受感部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材10の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材10の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0014】
基材10は、樹脂製である。基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0015】
基材10が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材10は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0016】
抵抗体30は、基材10の上側に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ1において、抵抗体30は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を密度の高い梨地模様で示している。
【0017】
抵抗体30は、複数の細長状部と、複数の折り返し部とを含む。抵抗体30において、複数の細長状部は、長手方向を第1方向(
図1の例ではX軸方向)に向けて並置されている。そして、複数の折り返し部は、複数の細長状部の中で隣接する細長状部の端部を互い違いに連結して各々の細長状部を直列に接続する。これにより、抵抗体30は、全体としてジグザグに折り返す構造となっている。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図1の例ではY軸方向)となる。
【0018】
抵抗体30において、最もY+側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y+方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の一方の終端30e1に達する。また、最もY-側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y-方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド方向の他方の終端30e2に達する。各々の終端30e1及び30e2は、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2と各々の電極50とを電気的に接続している。
【0019】
抵抗体30は、幅が広いほど剛性が高まり伸縮が抑制されるため、クリープ特性を改善することができる。なお、本明細書における「クリープ」とは、一定の温度条件下で一定の荷重がひずみゲージに作用するとき、基材10の抵抗体30が設けられた面のひずみ量が時間経過とともに変化する(多くの場合、ひずみ量が増大する)現象のことを意味する。また、「クリープ特性」とは、例えば、クリープ量およびリカバリー量を意味する。また、「クリープ特性を改善する」とは、クリープ量の絶対値およびリカバリー量の絶対値を小さくすることを意味する。クリープ特性を十分に改善するためには、抵抗体30の複数の細長状部は、幅(すなわち、長手方向に対して垂直な方向における長さ)が200μm以上の細長状部を1本以上含むことが好ましく、幅が350μm以上の細長状部を1本以上含むことがより好ましい。なお、クリープ特性の改善については、別途詳述する。
【0020】
抵抗体30において、すべての細長状部の幅が必ずしも200μm以上である必要はない。例えば、
図1に示すように、複数の細長状部が互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含んでいてもよい。これにより、幅の広い細長状部により剛性を高め、幅の狭い細長状部の幅を調整することにより、抵抗体30の抵抗値を所望の値に調整することができる。
図1において、例えば、最も幅が広い細長状部の幅を200μm以上にすることができる。クリープ特性を改善するために、幅が200μm以上の細長状部の本数は、全ての細長状部の本数の半分以上を占めることが好ましい。
【0021】
なお、断線対策を考慮すると、幅の狭い細長状部の幅は10μm以上であることが好ましい。また、全ての折り返し部の幅は、最も幅が広い細長状部の幅以上とすることが好ましい。折り返し部の幅をできるだけ広くして折り返し部の抵抗値を下げることにより、横感度(すなわち、グリッド幅方向の感度)を下げることができる。
【0022】
また、抵抗体30は、抵抗体30が形成された領域の中心を通る直線であって、細長状部の長手方向に平行である直線に関して、線対称であることが好ましい。これにより、抵抗体30におけるひずみの検出感度のばらつきを低減することができる。
【0023】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0024】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0025】
抵抗体30の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ1の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、抵抗体30の厚さは0.05μm~2μm程度であってよい。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上である場合、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗体30の厚さが1μm以下である場合、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラック及び(ii)膜の基材10からの反りが、低減される。
【0026】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体30はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0027】
又、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ひずみゲージ1のゲージ率の低下を抑制することができる。
【0028】
又、Cr混相膜におけるCrNとCr2Nとの比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。Cr2Nは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体30のセラミックス化を低減し、抵抗体30の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0029】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のN2もしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0030】
ひずみゲージ1において、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0031】
配線40は、基材10上に設けられている。配線40は、一端側が抵抗体30の両端に電気的に接続されており、他端側が電極50と電気的に接続されている。配線40は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、
図1では、便宜上、配線40を抵抗体30よりも密度の低い梨地模様で示している。
【0032】
電極50は、基材10上に設けられている。電極50は、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されている。電極50は、平面視において、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極50には、例えば外部接続用のリード線等が接合される。電極50の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、または、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。なお、
図1では、便宜上、電極50を配線40と同じ密度の梨地模様で示している。
【0033】
カバー層60(絶縁樹脂層)は、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように設けられる。カバー層60の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層60の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。
【0034】
[クリープ特性の改善]
ひずみゲージ1は、クリープ特性に優れていることが好ましい。すなわち、ひずみゲージ1は、クリープ量及びクリープリカバリー量が小さい方が好ましい。例えば、クリープ量及びクリープリカバリー量を所定値以下に低減できれば、ひずみゲージ1をセンサ用途に加え、はかり用途にも使用可能となる。
【0035】
ひずみゲージのクリープ量及びクリープリカバリー量は、構成材料の粘弾性に影響される。一般に、弾性材料である金属材料ではクリープが殆ど発生しないが、粘性材料である樹脂ではクリープが発生する。ひずみゲージ1には、樹脂製の基材10が用いられているため、基材10の粘性は無視できない。
【0036】
クリープ量及びクリープリカバリー量は、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられた面の弾性変形の量(ひずみ量)が時間経過と共に変化することにより規定される量である。そのため、クリープ量及びクリープリカバリー量は、ひずみゲージ1の一対の電極50間の出力に基づいて算出したひずみ電圧をモニタすることで測定できる。
図3を参照して、詳しく説明する。
【0037】
図3は、クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。
図3において、横軸は時間、縦軸はひずみ電圧[mV]である。
【0038】
まず、測定装置に電源を投入して10秒後に、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に150%荷重を10秒間かけ、その後、除荷する。除荷後、20分が経過したら、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に100%荷重を20分間かけ、その後、除荷する。そして、除荷後20分経過するのを待つ。
【0039】
ひずみ電圧は、例えば、
図3に示すように変化する。
図3において、150%荷重を除荷後20分経過した時点と、100%荷重をかけた直後の時点のひずみ電圧の差の絶対値Bを測定する。また、100%荷重をかけた直後の時点と、100%荷重をかけ始めてから20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔAを測定する。このとき、ΔA/Bがクリープ量となる。次に、100%荷重を除荷した直後の時点と、100%荷重を除荷後20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔCを測定する。このとき、ΔC/Bがクリープリカバリー量となる。
【0040】
なお、100%荷重とは3kgであり、150%荷重とは100%荷重の1.5倍の荷重である。
【0041】
図4は、クリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図であり、下記のように測定した結果をまとめたものである。
【0042】
まず、
図1及び
図2に示すひずみゲージ1と同じ構造の測定サンプルとして、測定サンプルA~Dの4種類を用意した。測定サンプルAでは、基材として、膜厚25μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。また、抵抗体として、Cr混相膜を用い、各々の細長状部の幅は50μmで一定とした。また、カバー層として、膜厚15μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。
【0043】
測定サンプルBは、抵抗体の各々の細長状部の幅を100μmとした以外は、測定サンプルAと同様とした。測定サンプルCは、抵抗体の各々の細長状部の幅を200μmとした以外は、測定サンプルAと同様とした。測定サンプルDは、抵抗体の各々の細長状部の幅を500μmとした以外は、測定サンプルAと同様とした。
【0044】
次に、測定サンプルA~Dを別々のSUS304製の起歪体上に貼り付け、クリープ量及びクリープリカバリー量を
図3の測定方法で測定した。そして、
図4に示す結果を得た。
図4において、横軸は細長状部の幅であり、縦軸はクリープ量及びクリープリカバリー量である。
【0045】
図4に示ように、抵抗体の細長状部の幅が広くなるにしたがって、クリープ量及びクリープリカバリー量が低減する。特に、細長状部の幅が200μm以上になると、クリープ量及びクリープリカバリー量は±0.25%以下に収まる。ひずみゲージをセンサ用途に用いる場合、要求されるクリープ量及びクリープリカバリー量は±0.5%程度である。細長状部の幅が200μm以上であれば、十分な余裕を持って、この要求を満たすことができる。さらに、細長状部の幅が350μm付近になるとクリープ量がゼロ%となり、細長状部の幅が350μm以上になってもクリープ量及びクリープリカバリー量は0~0.25%の範囲内に収まっている。このように、ひずみゲージにおいて、抵抗体の細長状部の幅を広くすることにより、クリープ特性が改善される。これは、抵抗体の細長状部の幅を広くすることによって抵抗体の剛性が高まるので、抵抗体の伸縮を抑制できるからである。
【0046】
ところで、ひずみゲージ1において、抵抗体30は所望の抵抗値にする必要がある。そこで、ひずみゲージ1では、抵抗体30の複数の細長状部が互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含む構造としている。これにより、一部の細長状部の幅を広くして剛性を高めてクリープ特性を改善しつつ、他の細長状部の幅を狭くして抵抗体30の抵抗値を所望の値に設計することができる。特に、複数の細長状部が、幅が200μm以上の細長状部を含むことにより、クリープ特性をより改善することができる。また、複数の細長状部が、幅が350μm以上の細長状部を含むことにより、クリープ特性をさらに改善することができる。
【0047】
なお、ゲージ率が10以上である高感度のひずみゲージ(例えば、抵抗体30にCr混相膜を用いた場合など)の場合、高感度であるために材料物性からの影響に敏感であり、クリープ特性も著しく低下する場合がある。したがって、ゲージ率が10以上である高感度のひずみゲージにおいて、抵抗体の細長状部の幅を調整してクリープ特性を改善することは極めて重要である。
【0048】
[ひずみゲージの製造方法]
本実施形態に係るひずみゲージ1では、基材10上に、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とが形成される。なお、基材10とこれらの部材の層の間に別の層(後述する機能層等)が形成されてもよい。
【0049】
以下、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30と、配線40と、電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30等の材料や厚さと同様である。
【0050】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法、蒸着法、アークイオンプレーティング法、またはパルスレーザー堆積法等を用いて成膜されてもよい。
【0051】
基材10の上面10aに金属層Aを成膜後、周知のフォトリソグラフィ法により、金属層Aを
図1の抵抗体30、配線40、及び電極50と同様の平面形状にパターニングする。抵抗体30は、並置された複数の細長状部と、複数の細長状部の中で隣接する細長状部の端部を互い違いに連結して各々の細長状部を直列に接続する折り返し部とを含み、複数の細長状部が互いに幅の異なる2種類以上の細長状部を含む構成となる。
【0052】
なお、基材10の上面10aに下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、基材10の上面10aに、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ1のゲージ特性を安定化させることができる。
【0053】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素または水分による金属層Aの酸化を防止する機能、および/または、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0054】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0055】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性が向上する。
【0056】
機能層の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0057】
図5は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図5は、抵抗体30、配線40、及び電極50の下地層として機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の断面形状を示している。
【0058】
機能層20の平面形状は、例えば抵抗体30、配線40、及び電極50の平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層20と抵抗体30、配線40、及び電極50との平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層20が絶縁材料から形成される場合には、機能層20を抵抗体30、配線40、及び電極50の平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層20は例えば抵抗体30、配線40、及び電極50が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層20は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0059】
抵抗体30、配線40、及び電極50を形成した後、必要に応じ、基材10の上面10aにカバー層60を形成する。カバー層60は抵抗体30及び配線40を被覆するが、電極50はカバー層60から露出していてよい。例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように、半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートして、その後に当該絶縁樹脂フィルムを加熱して硬化させることにより、カバー層60を形成することができる。以上の工程により、ひずみゲージ1が完成する。
【0060】
以上、好ましい実施形態等について詳説した。しかしながら、本開示に係るひずみゲージは、上述した実施形態及び変形例等に限定されない。例えば、上述した実施形態等に係るひずみゲージについて、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、40 配線、50 電極、60 カバー層