(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136704
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】癌の予防及び/又は治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4188 20060101AFI20230922BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230922BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K31/4188
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042531
(22)【出願日】2022-03-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591060289
【氏名又は名称】岐阜市
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100201710
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】五十里 彰
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊之
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】新しい作用機序に基づく癌の予防及び/又は治療薬などを提供すること。
【解決手段】本発明では、ベルパタスビルを含有する、癌の予防及び/又は治療薬を提供する。また、本発明では、ベルパタスビルを含有する、癌細胞増殖能の低下剤、癌細胞遊走能の低下剤、癌細胞低酸素状態の改善剤、細胞間バリア機能の低下剤、及び抗癌剤感受性の亢進剤からなる群のいずれか1種以上の薬剤も提供する。前記癌の予防及び/又は治療薬、又は前記薬剤は、クローディン-14の発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルパタスビルを含有する、癌の予防及び/又は治療薬。
【請求項2】
ベルパタスビルを含有する、癌細胞増殖能の低下剤、癌細胞遊走能の低下剤、癌細胞低酸素状態の改善剤、細胞間バリア機能の低下剤、及び抗癌剤感受性の亢進剤からなる群のいずれか1種以上の薬剤。
【請求項3】
請求項1に記載の癌の予防及び/又は治療薬、又は請求項2に記載の薬剤と、抗癌剤と、を含有する、癌補助療法薬。
【請求項4】
クローディン14の発現を認める癌の予防又は治療に用いられる、請求項1に記載の癌の予防及び/又は治療薬、又は請求項2に記載の薬剤。
【請求項5】
大腸癌、胃癌、又は肝癌の、予防及び/又は治療に用いられる、請求項1に記載の癌の予防及び/又は治療薬、又は請求項2に記載の薬剤。
【請求項6】
ベルパタスビルを含有する、クローディン14の発現がその原因となる又はその病態を形成する疾患に対する予防及び/又は治療薬。
【請求項7】
ベルパタスビルを含有する、クローディン14結合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の予防及び/又は治療薬に関する。より詳しくは、癌の予防及び/又は治療薬、薬剤、予防及び/又は治療薬、並びにクローディン-14結合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の進歩により癌の奏功率は向上しているが、良好な癌治療法は未開発である。その理由の一つとして、生体内の癌細胞は凝集塊を形成しており、その深部への抗癌剤の透過性が低いことが知られている。更に、凝集塊深部は常に低酸素・低栄養のストレス状態であり、これらが治療抵抗性の獲得、悪性化、再発の一因になっている。そのため、癌原遺伝子に作用する抗癌剤の開発だけでなく、凝集塊の抗癌剤透過性やストレス状態を改善する新しいタイプの薬剤の開発が期待されている。
【0003】
ここで、多くの固形癌組織において、クローディン(CLDN)サブタイプの異常発現が報告されている。CLDNは、上皮細胞や内皮細胞の密着結合部位に存在する膜タンパク質である。CLDNには、27種類のサブタイプが存在することが知られており、固形癌におけるCLDNサブタイプの異常発現は組織によって異なる。
【0004】
これまでに、本願発明者らの研究グループは、非特許文献1等に示すように、肺腺癌組織に細胞間接着分子のクローディン-2(CLDN2)が高発現し、CLDN2が細胞増殖の亢進や抗癌剤抵抗性の獲得に寄与することを発見した。更に、同研究グループは、特許文献1に示すように、CLDN2の発現低下作用を有する低分子化合物を同定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ikari, A., Sato, T., Watanabe, R., Yamazaki, Y. and Sugatani, J., Increase in claudin-2 expression by an EGFR/MEK/ERK/c-Fos pathway in lung adenocarcinoma A549 cells, Biochim. Biophys, Acta., 1823, 1110-1118 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CLDNサブタイプに関する研究開発は未だ十分でない。また、前述の通り、凝集塊の抗癌剤透過性やストレス状態を改善する、新しいタイプの薬剤の開発が期待されているという実情がある。
【0008】
このような実情のもと、本発明では、新しい作用機序に基づく癌の予防及び/又は治療薬などを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明では、まず、ベルパタスビルを含有する、癌の予防及び/又は治療薬を提供する。
また、本発明では、ベルパタスビルを含有する、癌細胞増殖能の低下剤、癌細胞遊走能の低下剤、癌細胞低酸素状態の改善剤、細胞間バリア機能の低下剤、及び抗癌剤感受性の亢進剤からなる群のいずれか1種以上の薬剤も提供する。
更に、本発明では、前記癌の予防及び/又は治療薬、又は前記薬剤を含有し、抗癌剤と併用される、癌補助療法薬も提供する。
また、前記癌の予防及び/又は治療薬、又は前記薬剤は、クローディン-14(CLDN14)の発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられてもよい。
更に、前記癌の予防及び/又は治療薬、又は前記薬剤は、大腸癌、胃癌、又は肝癌の、予防及び/又は治療に用いられてもよい。
また、本発明では、ベルパタスビルを含有する、クローディン-14の発現がその原因となる又はその病態を形成する疾患に対する予防及び/又は治療薬も提供する。
更に、本発明では、ベルパタスビルを含有する、クローディン-14結合剤も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新しい作用機序に基づく癌の予防及び/又は治療薬などを提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】CLDN14タンパク質の発現に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図2】CLDN14 mRNAの発現に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図3】CLDN14タンパク質の細胞局在に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図4】CLDN14タンパク質の発現に対するベルパタスビルと阻害剤の効果を示す図である。
【
図5】CLDN14リコンビナントタンパク質とベルパタスビルの結合を示す図である。
【
図6】細胞増殖に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図7】細胞間透過性に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図8】DLD-1スフェロイド細胞の抗癌剤感受性に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【
図9】Lovoスフェロイド細胞の抗癌剤感受性に対するベルパタスビルの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
1.癌の予防及び/又は治療薬
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、ベルパタスビルを少なくとも有効成分として含有する。
ベルパタスビルは、下記化学式(1)に示す化合物である。従来、C型肝炎ウイルス感染症の治療に用いられている。
【0014】
【0015】
ここで、CLDN14は、細胞間のタイトジャンクション(細胞間密着結合)の形成に関わるクローディンファミリータンパク質の一つである。従来、CLDNにはいくつかのサブタイプ(例えば、CLDN1、CLDN2、CLDN3、CLDN4等)が存在することが知られているが、本願発明者らの研究グループは、特に大腸癌組織において、CLDN14の発現量が増加していることを見出し、細胞増殖、移動能の亢進や抗癌剤耐性化に寄与することを見出した。したがって、CLD14が大腸癌の新たな治療標的になると考えられたため、CLDN14の発現低下作用を有する化合物を探索したところ、ベルパタスビルがCLDN14に対して高い選択性乃至特異性を示すことを見出した。したがって、ベルパタスビルは、他のファミリーメンバーよりもCLDN14に対して特異的乃至優先的に結合し、CLDN14選択的な作用を奏する。
【0016】
CLDN14には、4つの膜貫通ドメインが存在し、カルボキシ末端とアミノ末端が、細胞質側に存在する。2つの細胞外ループのうち、カルボキシ側の第2細胞外ループ(145~159番目のアミノ酸)がCLDN同士の結合に重要であると考えられている。ここで、本願発明者らの研究グループは、ベルパタスビルがCLDN14の第2細胞外ループに直接結合することを見出した。したがって、この結合特性によって、細胞間のタイトジャンクションに分布するCLDN14の発現(存在量)を低下させ、これにより、癌細胞増殖能の低下、癌細胞遊走能の低下、癌細胞低酸素状態の改善、細胞間バリア機能の低下などの作用効果が生じ、ひいては、癌細胞(典型的には、細胞凝集塊を構成している癌細胞)の悪性化を抑制するという特有の作用効果を発揮する。
【0017】
ベルパタスビルは、従来公知の合成法により調製することができる。また、市販のものを用いてもよい。ベルパタスビル自体は、上記化学式(1)に示す通り、低分子化合物であり、且つ、既承認薬であることからも、比較的安価に製造できるという利点を有する。そのため、医療費の削減にも貢献できる。
【0018】
なお、本発明において、「癌」とは、広義に解釈され、「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち、腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。一般的に、癌はその発生の母体となった臓器の名、或いは発生母組織の名で呼ばれ、例えば、舌癌、歯肉癌、咽頭癌、上顎癌、喉頭癌、唾液腺癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、甲状腺癌、副腎癌、脳下垂体腫瘍、松果体腫瘍、子宮癌、卵巣癌、膣癌、膀胱癌、腎臓癌、前立腺癌、尿路上皮癌、網膜芽細胞腫、結膜癌、神経芽腫、神経膠腫(グリオーマ)、神経膠芽腫(グリオブラストーマ)、皮膚癌、髄芽種、白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫等が挙げられる。そして、発生臓器の部位の特徴によって、上・中・下咽頭癌、上部・中部・下部食道癌、胃噴門癌、胃幽門癌、子宮頚癌、子宮体癌等に細分類されているが、これらは限定的ではなく、本発明の「癌」としての記載に含まれ得る。
【0019】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、これらの中でも特に、CLDN14の発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられる。なお、本発明において、「予防」とは、対象における症状又は疾患の発症(再発も含む。)の防止若しくは遅延、又は対象における症状又は疾患の発症の危険性の低下等の意味も含む。また、「治療」とは、対象における症状又は随伴症状の緩和(軽症化)、症状悪化の防止若しくは遅延等の意味を含む。
【0020】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、好ましくは、CLDN14の高発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられる。なお、本発明において、「高発現」とは、CLDN14の発現量が対照群と比較して多いことを意味する。CLDN14の高発現を認める癌としては、これまでに、大腸癌、胃癌、又は肝癌が確認されている。したがって、本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、これらの癌の予防及び/又は治療に用いられることが好ましい。
【0021】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、有効成分であるベルパタスビルのみからなるものであってもよく、該有効成分とそれ以外の任意の成分とを配合した組成物であってもよい。
【0022】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬の製剤化は、従来公知の方法により行うことができる。製剤化する場合には、例えば、製剤上許容され得る他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水など)等を含有させることができる。
【0023】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬を製剤化する場合の剤形も、特に限定されない。剤形としては、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤、座剤等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬には、本発明の効果が奏されるために必要な量(すなわち、治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬中の有効量は、一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるような有効量(例えば0.01重量%~約100重量%の範囲内など)を適宜設定する。また、対象は、通常ヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ等の家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル等の実験動物も含む。
【0025】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬は、その剤形に応じて、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。なお、これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。また、全身投与によらず、局所投与することにしてもよく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などを利用してもよい。
【0026】
2.薬剤
本発明に係る薬剤は、ベルパタスビルを少なくとも有効成分として含有し、癌細胞増殖能の低下剤、癌細胞遊走能の低下剤、癌細胞低酸素状態の改善剤、細胞間バリア機能の低下剤、及び抗癌剤感受性の亢進剤からなる群のいずれか1種以上からなる。
【0027】
前述の通り、ベルパタスビルは、CLDN14に直接結合してその発現(存在量)を低下させる。したがって、癌細胞(典型的には、細胞凝集塊を構成している癌細胞)に対してベルパタスビルを作用させると、細胞間タイトジャンクションでのCLDN14の発現が低下し、癌細胞増殖能の低下、癌細胞遊走能の低下、癌細胞低酸素状態の改善、細胞間バリア機能の低下などの作用効果が生じ、癌細胞の悪性化が抑制されるとともに、癌細胞の抗癌剤感受性が亢進する。
【0028】
従来、癌薬物療法において、治療抵抗性の獲得が大きな問題の一つになっていた。その原因としては、未だ不明な点が多いが、近年、細胞凝集塊が治療抵抗性に関与することが明らかになってきた。しかしながら、多くの抗癌剤は、凝集塊の深部に作用することが困難であり、深部に残存する癌細胞が再発にも関係すると考えられる。そのため、凝集塊深部への抗癌剤透過性を亢進させる補助療法剤の開発により、既存の抗癌剤を含め、今後開発される抗癌剤の治療効果の向上が期待できる。
【0029】
このような実情のもと、本発明では、前述したベルパタスビルに特有の作用効果を利用した用途として、癌細胞増殖能の低下剤、癌細胞遊走能の低下剤、癌細胞低酸素状態の改善剤、細胞間バリア機能の低下剤、及び抗癌剤感受性の亢進剤からなる群のいずれか1種以上である薬剤も提供する。
【0030】
本発明に係る薬剤は、抗癌剤(本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬を除く。)と併用すれば、抗癌剤の薬効が高められ、予防及び/又は治療効果、乃至治療成績の向上が期待できる。すなわち、本発明に係る薬剤は、癌補助療法薬の有効成分として有用であり、抗癌剤とともに、癌の予防及び/又は治療に適用される。なお、本発明において、「抗癌剤」とは、標的の疾病乃至病態である、癌に対する予防及び/又は治療効果を示す薬剤のことを意味する。
【0031】
本発明では、癌治療において、抗癌剤と併用される(すなわち、抗癌剤の投与に際し、補助的に用いられる。)という典型的な使用態様を表すために、「癌補助療法薬」と呼称しているが、本発明に係る薬剤の有効成分であるベルパタスビルは、前述の通り、それ自体で癌細胞の悪性化を抑制するという作用効果をも発揮する。
【0032】
本発明に係る薬剤は、既存の抗癌剤や今後開発される抗癌剤といった様々な抗癌剤の薬効を高めることに利用できる点でその有用性は高い。一方で、本発明に係る薬剤によれば、抗癌剤が効きにくい又は効かない、所謂、治療抵抗性の癌に対する有望な治療戦略が提供されることは、臨床上極めて重要且つ有意義である。また、本発明に係る薬剤と抗癌剤との併用は、癌の根絶をも可能にし得るものであり、その価値及び意義は大きい。
【0033】
本発明に係る薬剤は、前述した癌の中でも特に、CLDN14の発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられる。好ましくは、CLDN14の高発現を認める癌の予防及び/又は治療に用いられる。CLDN14の高発現を認める癌としては、前述の通り、大腸癌、胃癌、又は肝癌が確認されている。本発明に係る薬剤は、これらの癌の予防及び/又は治療に用いられることが好ましい。
【0034】
本発明に係る薬剤は、有効成分であるベルパタスビルのみからなるものであってもよく、該有効成分とそれ以外の任意の成分(抗癌剤と併用する場合は、抗癌剤を含む。)とを配合した組成物であってもよい。
【0035】
本発明に係る薬剤の製剤化は、従来公知の方法により行うことができる。製剤化する場合には、例えば、前述した製剤上許容される他の成分などを含有させることができる。本発明に係る薬剤を製剤化する場合の剤形も、本発明に係る癌の予防及び/又は治療薬と同様、特に限定されない。また、抗癌剤と併用する場合は、抗癌剤との合剤としてもよい。
【0036】
本発明に係る薬剤は、抗癌剤と併用すると、前述の通り、治療成績の向上などが期待できる。なお、本発明において、「治療成績の向上」には、治療効果の増大、奏功率乃至有効率の向上、副作用の低減乃至回避等の概念を含む。
【0037】
併用される抗癌剤は、特に限定されない。抗癌剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤;シクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、チオテパ、プロカルバジン、ラニムスチン等のアルキル化剤;エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メルカプトプリン等の代謝拮抗剤;マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマー等の抗腫瘍性抗生物質;ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン等の微小管重合阻害剤;パクリタキセル、ドセタキセル等の微小管脱重合阻害剤;イリノテカン、ノギテカン、エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼ阻害剤;リツキシマブ(Rituxan(登録商標))、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、アレムツズマブ(Campath(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、パニツムマブ(Vectibix(登録商標))、オファツムマブ(Arzerra(登録商標))、デノスマブ(Ranmark(登録商標))、イピリムマブ(Yervoy(登録商標))、モガムリズマブ(Poteligeo(登録商標))、ペルツズマブ(Perjeta(登録商標))、オビヌツズマブ(Gazyva(登録商標))、ラムシルマブ(Cyramza(登録商標))、ニボルマブ(Opdivo(登録商標))、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標))、ブリナツモマブ(Blincyto(登録商標))、ジヌツキシマブ(Unituxin(登録商標))、ダラツムマブ(Darzalex(登録商標))、ネシツムマブ(Portrazza(登録商標))、エロツズマブ(Empliciti(登録商標))等の抗体医薬;ゲムツズマブ オゾガマイシン(Mylotarg(登録商標))、ブレンツキシマブ ベドチン(Adcetris(登録商標))、トラスツズマブ エムタンシン(Kadcyla(登録商標))、イノツズマブ オゾガマイシン(BESPONSA(登録商標))等の抗体薬物複合体(ADC);等が挙げられる。また、抗癌剤を、2種以上併用することも可能である。抗癌剤の投与量は、それを単独で使用する場合の使用量(すなわち、通常の使用量)に準ずるが、本発明に係る薬剤との併用により抗癌剤の薬効の増大が期待できることから、通常の投与量よりも低い投与量に適宜設定してもよい。なお、当業者であれば、対象の病状、年齢、性別、体重等を考慮し、「通常の使用量」を適宜設定することができる。
【0038】
本発明に係る薬剤の有効成分であるベルパタスビルは、CLDN14の発現低下を介して、タイトジャンクションのバリア機能を低下させる。したがって、本発明に係る薬剤は、抗癌剤の細胞間透過性を亢進することが期待できる。すなわち、汎用性乃至一般性の高いものであり、様々な抗癌剤と併用され得る。したがって、前述した既存の抗癌剤はもとより、開発中の抗癌剤や、今後開発される抗癌剤との併用も当然に想定される。
【0039】
本発明に係る薬剤は、抗癌剤と同時又は時間間隔をおいて対象に投与され得る。なお、ここでいう「同時」とは、厳密な同時性を要求するものではない。したがって、本発明に係る薬剤と抗癌剤とを混合した後に対象へ投与する等、両者の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両者の投与が実質的に時間差のない条件下で実施される場合も、ここでいう「同時」の概念に含まれ得る。
【0040】
本発明に係る薬剤は、その剤形に応じて、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。なお、これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。また、全身投与によらず、局所投与することにしてもよく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などを利用してもよい。
【0041】
3.予防及び/又は治療薬
本発明に係る予防及び/又は治療薬は、ベルパタスビルを少なくとも有効成分として含有し、CLDN14の発現がその原因となる又はその病態を形成する疾患に対する予防及び/又は治療を目的として用いられる。
【0042】
前述の通り、ベルパタスビルは、CLDN14に直接結合し、細胞間のタイトジャンクションに分布するCLDN14の発現(存在量)を低下させるという作用効果を示す。したがって、CLDN14の発現がその原因となる又はその病態を形成する疾患に対しても、その特有の作用効果を発揮し得る。本発明に係る予防及び/又は治療薬は、好ましくは、CLDN14の高発現がその原因となる又はその病態を形成する疾患に対して用いられる。
【0043】
4.クローディン-14結合剤
本発明に係る結合剤は、ベルパタスビルを少なくとも有効成分として含有する。
【0044】
CLDN14は、各種癌はもとより、その他の疾患の発症や進展等にも関与する可能性があり、基礎研究や、予防及び/又は治療薬、乃至治療法の開発の対象となり得る。したがって、本発明に係る結合剤は、例えば、このような研究・開発における各種ツール(例えば、研究用試薬、診断用試薬など)として有用である。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0046】
<実験例1>
本実験例1では、ウエスタンブロット法を用いて、CLDN14タンパク質の発現低下作用を検討した。
【0047】
具体的には、6ウェルプレートに1×105個ずつ細胞を播種後、96時間培養した。FCS不含培地に溶媒、1、5、10 μM ベルパタスビルを添加し、24時間インキュベートした。ウエスタンブロット後、化学発光法でCLDN14、CLDN1、β-アクチンのバンドを検出した。ImageJを用いてバンド強度を算出し、溶媒に対する相対値で示した。
【0048】
実験例1の結果を
図1に示す。ベルパタスビルは、濃度依存的にCLDN14タンパク質の発現量を低下させた一方で、CLDN1タンパク質の発現量はベルパタスビルの処理によって有意に変化しなかったため、CLDN14に選択的に作用することが示唆された。
【0049】
<実験例2>
本実験例2では、CLDN14のmRNA発現量について検討した。
【0050】
具体的には、6ウェルプレートに1×105個ずつ細胞を播種後、96時間培養した。FCS不含培地に溶媒又は10 μMベルパタスビルを添加し、6時間インキュベートした。TRI Reagentを用いてトータルRNAを抽出後、ReverTraAce(東洋紡社)を用いて逆転写反応を行った。逆転写の条件は、37℃ 15分間、50℃ 5分間、98℃ 5分間とした。THUNDERBIRD SYBR qPCR Mixを用いて、CLDN14、CLDN1、β-アクチンのリアルタイムPCRを行った。Ct値を算出後、溶媒処理細胞に対する相対値で、CLDN mRNA量を示した。
【0051】
実験例2の結果を
図2に示す。
図2では、溶媒に対するP>0.05の有意差なしをNSで示している。ベルパタスビルによりCLDN14のmRNA量は変化しなかったため、ベルパタスビルはCLDN14タンパク質に作用し、その発現を低下させることが示唆された。
【0052】
<実験例3>
本実験例3では、蛍光免疫染色法でCLDN14、CLDN1、ZO-1(タイトジャンクションの裏打ちタンパク質)の細胞局在を解析した。
【0053】
具体的には、具体的には、カバーガラスを載せた6ウェルプレートに1×105個ずつ細胞を播種後、96時間培養した。FCS不含培地に溶媒又は10 μM ベルパタスビルを添加し、24時間インキュベートした。メタノール固定後、0.2 Triton X-100による浸透化、ブロッキング(室温で30分間)、一次抗体(冷蔵庫で一晩)、二次抗体(室温で1時間)の処理を行った。なお、一次抗体反応時にはanti-CLDN1 rabbit antibody、anti-CLDN14 rabbit antibody、anti-ZO-1 mouse antibodyを添加し、二次抗体反応時にはAlexa Fluor 488-conjugated mouse antibody、Alexa Fluor 555-conjugated rabbit antibody、DAPI(核染色用)を添加した。LSM700共焦点レーザー顕微鏡(ツァイス社)を用いて蛍光画像を撮影した。
【0054】
実験例3の結果を
図3に示す。溶媒のみを処理した細胞では、CLDN14、CLDN1、ZO-1が細胞の隣接部位に分布した。ベルパタスビルの処理により、CLDN14は細胞隣接部位から消失したが、CLDN1とZO-1の分布は変化しなかった。そのため、ベルパタスビルはCLDN14に選択的に作用することが示唆された。
【0055】
<実験例4>
本実験例4では、CLDN14のエンドサイトーシス機構と分解機構の関与を解明するため、リソソーム阻害剤のクロロキン(CHL)とクラスリン依存性エンドサイトーシス阻害剤のモノダンシルカダベリン(MDC)の効果を検討した。
【0056】
具体的には、6ウェルプレートに1×105個ずつ細胞を播種後、96時間培養した。FCS不含培地に溶媒、10 μM ベルパタスビル、10 μMベルパタスビルと10 μM クロロキン(CHL)、10 μM ベルパタスビルと10 μM モノダンシルカダベリン(MDC)を添加し、24時間インキュベートした。ウエスタンブロット後、化学発光法でCLDN14とβ-アクチンのバンドを検出した。ImageJを用いてバンド強度を算出し、溶媒に対する相対値で示した。
【0057】
実験例4の結果を
図4に示す。
図4では、溶媒に対するP<0.01の有意差を**、ベルパタスビルの処理に対するP<0.01の有意差を##で示している。ベルパタスビルの処理によるCLDN14タンパク質の発現低下は、CHL又はMDCの共処理によって有意に抑制された。そのため、CLDN14はクラスリン依存性エンドサイトーシス機構を介して細胞内に取り込まれ、リソソームで分解されることが示唆された。
【0058】
<実験例5>
本実験例5では、CLDN14とベルパタスビルの直接的な結合を証明するため、水晶振動子マイクロバランス解析を行った。
【0059】
具体的には、センサーチップに5 μg/mLのヒトCLDN14リコンビナントタンパク質を固定した。PBSで洗浄後、水晶振動子マイクロバランス(QCM)解析装置にセットした。撹拌しながら、水晶振動子の周波数を経時的に測定した。指定時間に10 μg/mL ベルパタスビルを添加した。ベルパタスビルの濃度と周波数の変化量の関係をグラフに示した。
【0060】
実験例5の結果を
図5に示す。ベルパタスビルの添加により、周波数の変化が濃度依存的に増大した。以上の結果から、ベルパタスビルはCLDN14タンパク質に直接結合することが明らかになった。
【0061】
<実験例6>
これまでに、本願発明者らの研究グループは、siRNAを用いたCLDN14ノックダウン実験において、細胞増殖能が低下することを見出した。そこで、本実験例6では、DLD-1細胞にベルパタスビルを処理した。
【0062】
具体的には、
図6のAに示す実験では、6ウェルプレートに5×10
3個ずつ細胞を播種後、溶媒又は10 μMベルパタスビルを添加した。BZ-X810(キーエンス社)を用いて、24時間毎に明視野像を撮影した。細胞密度計測ソフトウェアを用いて細胞数を計測した。
【0063】
また、
図6のBに示す実験では、
図6のAで示した方法で細胞を調製後、72時間後にトリプシンで細胞を剥離した。Muse Cell Cycle Kitで細胞を処理後、Guava Muse セルアナライザー(ルミネックス社)を用いて細胞周期を解析した。
【0064】
実験例6の結果を
図6に示す。
図6のA及びBでは、溶媒に対するP<0.01の有意差を**、P>0.05の有意差なしをNSで示している。細胞増殖が有意に阻害されたことが確認できた。また、細胞周期の解析において、G0/G1期の細胞数の割合が増加し、S期の細胞数の割合が低下した。したがって、ベルパタスビルはG1期からS期への移行を抑制し、大腸癌細胞の増殖を阻害することが示唆された。
【0065】
<実験例7>
CLDN14は細胞間を介した電解質イオンと低分子化合物の輸送に対するバリアを形成すると推察される。そこで、本実験例7では、イオン透過性の指標となる上皮膜間電気抵抗値を測定した。
【0066】
具体的には、
図7のAに示す実験では、トランスウェルに5×10
3個ずつ細胞を播種後、96時間培養した。溶媒又は10 μMベルパタスビルを添加し、24時間インキュベートした。Millicell ERS-2 Volt-Ohm Meter(ミリポア社)を用いて上皮膜間電気抵抗値を測定した。面積とバックグランドを補正後、抵抗値を算出した。
【0067】
また、
図7のB及びCに示す実験では、トランスウェルの上層チャンバーに50 μg/mL ルシファーイエロー(水溶性蛍光マーカー)又は10 μM ドキソルビシンを添加し、1時間インキュベートした。下層チャンバーの溶液を回収後、Infinite F200を用いてルシファーイエローとドキソルビシンの蛍光強度を測定した。キャリブレーションカーブを作成し、透過量を算出した。
【0068】
実験例7の結果を
図7に示す。
図7のA~Cでは、0 μMに対するP<0.01の有意差を**で示している。ベルパタスビルの処理によって、イオン透過性の指標となる上皮膜間電気抵抗値が低下した。また、トランスウェルの上層から下層へのルシファーイエロー(水溶性蛍光マーカー)とドキソルビシン(DNAポリメラーゼ阻害剤)の透過量が、ベルパタスビルの処理によって増加した。以上の結果から、ベルパタスビルはCLDN14発現の低下を介して、細胞間バリア機能を低下せることが示唆された。
【0069】
<実験例8>
本実験例8では、CLDN14発現のノックダウンによってスフェロイドの抗癌剤感受性が亢進したため、ベルパタスビルの効果を検討した。
【0070】
具体的には、
図8のAに示す実験では、96ウェル丸底プレートに1×10
4個ずつDLD-1細胞を播種後、96時間培養した。溶媒、10 μMベルパタスビル、5、10、20 μM ドキソルビシンを添加し、1時間インキュベートした。BZ-X810を用いて、ドキソルビシンの蛍光画像を撮影した。ImageJを用いてスフェロイド内の蛍光強度を算出し、0 μMに対する相対値で示した。
【0071】
また、
図8のBに示す実験では、溶媒、10 μMベルパタスビル、5、10、20 μMの各濃度のドキソルビシンを24時間処理後、スフェロイドを回収した。CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay Kit(プロメガ社)を処理後、Infinite F200マイクロプレートリーダー(テカン社)を用いて、生存細胞の化学発光を検出した。細胞生存率を0 μMに対する相対値で示した。
【0072】
図8のCに示す実験では、96ウェル丸底プレートに1×10
4個ずつDLD-1細胞を播種後、96時間培養した。溶媒、10 μMベルパタスビル、50、100、200 μMオキサリプラチン、0.1、1、5 μM SN-38を各濃度で添加し、24時間処理後、スフェロイドを回収した。CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay Kit(プロメガ社)を処理後、Infinite F200マイクロプレートリーダー(テカン社)を用いて、生存細胞の化学発光を検出した。細胞生存率を0 μMに対する相対値で示した。
【0073】
実験例8の結果を
図8に示す。
図8のA~Dでは、0 μMに対するP<0.01の有意差を**、溶媒に対するP<0.01の有意差を##、P>0.05の有意差なしをNSで示している。ベルパタスビルの処理により、ドキソルビシンの蓄積率が増大し、細胞生存率が低下した。また、作用機序の異なる抗癌剤として、オキサリプラチン(DNA複製阻害剤)やSN-38(トポイソメラーゼ阻害剤であるイリノテカンの活性代謝物)による細胞生存率の低下も、ベルパタスビルによって増強した。
【0074】
<実験例9>
本実験例9では、ヒト大腸癌由来Lovo細胞を用いて検討した。
【0075】
具体的には、細胞種をヒト大腸癌由来Lovo細胞とした以外は、
図8のB~Cに示した実験と同様の方法で試験を行った。
【0076】
実験例9の結果を
図9に示す。
図9のA~Cでは、0 μMに対するP<0.01の有意差を**、溶媒に対するP<0.01の有意差を##、P>0.05の有意差なしをNSで示している。上述した実験例8と同様の結果が、ヒト大腸癌由来Lovo細胞でも観察された。以上の結果から、ベルパタスビルは、既存抗癌剤の細胞死誘導効果を増強することが示唆された。
本発明の有効成分であるベルパタスビルは、癌細胞のCLDN14発現の低下を介して癌細胞の悪性化を抑制するとともに、癌細胞の抗癌剤感受性を亢進する。したがって、ベルパタスビルは、新しい作用機序に基づく癌の予防及び/又は治療薬としての有用性が期待でき、且つ、既存の抗癌剤等とも併用され得る。更に、既承認薬且つ低分子化合物であることから安価に製造でき、抗癌剤の使用量を低下させることも可能となるため、患者の治療機会の向上や、医療費の削減にも繋がる。