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特開2023-136710放射線治療計画装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136710
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】放射線治療計画装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042549
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 和里
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AE01
4C082AG21
4C082AJ08
4C082AN02
4C082AP02
4C082AP03
4C082AR02
(57)【要約】
【課題】放射線治療において患者に挿入される挿入物を簡易に製作すること。
【解決手段】 実施形態に係る放射線治療計画装置は、取得部と決定部とを有する。取得部は、放射線治療対象の患者の病変部位及び前記病変部位の周辺部位を含む医用画像を取得する。決定部は、前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより、前記患者に挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量とを評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療対象の患者の病変部位及び前記病変部位の周辺部位を含む医用画像を取得する取得部と、
前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより、前記患者に挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量とを評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定する決定部と、
を具備する放射線治療計画装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記患者に前記挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさを前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより計算し、前記病変部位に対する線量と前記病変部位のうちのリスク臓器に対する線量と前記挿入物に起因する前記患者の負担とを総合評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定する、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記医用画像における前記挿入物の挿入箇所に前記挿入物を模擬したテンプレートを配置し、前記テンプレートの形状及び/又は大きさの変化に伴う前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさの変化を前記非剛体画像レジストレーションにより計算する、請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記挿入物の形状及び/又は大きさの設定と、照射条件の設定と、前記病変部位に対する線量とリスク臓器に対する線量と前記挿入物に起因する前記患者の負担との総合評価とを反復して、前記総合評価が基準を満たしたときの前記挿入物の形状及び/又は大きさと前記照射条件とを出力する、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項5】
前記挿入物の形状及び/又は大きさのデータを3Dプリンタに転送する通信部を更に備える、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項6】
前記挿入物は、前記病変部位及び/又は前記周辺部位を固定するための固定具である、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項7】
前記固定具は、前記患者の口内に挿入されるマウスピースである、請求項6記載の放射線治療計画装置。
【請求項8】
前記挿入物は、前記病変部位と前記周辺部位のうちのリスク臓器との間の距離を確保するためのスペーサである、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項9】
前記医用画像は、前記挿入物が挿入されていない前記患者を医用撮像することにより得られた画像である、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項10】
前記医用画像は、X線コンピュータ断層撮影装置により得られる3次元のCT画像である、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項11】
前記患者に前記挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量との評価を表示する表示部を更に備える、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項12】
放射線治療対象の患者の病変部位及び前記病変部位の周辺部位を含む医用画像を取得し、
前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより、前記患者に挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量とを評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定する、
ことを具備する放射線治療計画方法。
【請求項13】
コンピュータに、
放射線治療対象の患者の病変部位及び前記病変部位の周辺部位を含む医用画像を取得させる機能と、
前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより、前記患者に挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量とを評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定させる機能と、
を実現させる放射線治療計画プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、放射線治療計画装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)に代表される高精度放射線治療が広く行われるようになり、患者の位置の精度がより重要になってきている。患者をしっかり固定するための工夫は様々である。頭頚部がんや舌がん等に対する放射線治療においては、患者の位置を固定するためにマウスピースが用いられている。マウスピースは、歯科部門の医療従事者(例えば、歯科医師、歯科技工士)が連携し、患者個々人の口内の形状等に合わせて製作される。製作に係る人の数、口内の型を取るための患者の負担、製作に要する時間等、様々な課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-526362号公報
【特許文献2】特表2020-503919号公報
【特許文献3】特表2015-535182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、放射線治療において患者に挿入される挿入物を簡易に製作することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る放射線治療計画装置は、取得部と決定部とを有する。取得部は、放射線治療対象の患者の病変部位及び前記病変部位の周辺部位を含む医用画像を取得する。決定部は、前記医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより、前記患者に挿入物を挿入したときの前記病変部位及び前記周辺部位の形状及び/又は大きさと前記病変部位及び/又は前記周辺部位に対する線量とを評価して、前記挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、放射線治療システムの構成例を示す図である。
図2図2は、放射線治療計画装置の構成例を示す図である。
図3図3は、放射線治療計画装置による治療計画処理の処理手順の一例を示す図である。
図4図4は、図3のステップS4~S6に係る画像処理を例示する図である。
図5図5は、病変部位、リスク臓器及び患者負担の3要素を例示する図である。
図6図6は、インタフェース画面の一例を示す図である。
図7図7は、マウスピースの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、放射線治療計画装置、方法及びプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0008】
図1は、本実施形態に係る放射線治療システム1の構成例を示す図である。図1に示すように、放射線治療システム1は、医用画像撮像装置2、放射線治療計画装置3、3Dプリンタ4及び放射線治療装置5を有する。医用画像撮像装置2、放射線治療計画装置3、3Dプリンタ4及び放射線治療装置5は、ネットワークを介して互いに通信可能に接続される。放射線治療システム1は、患者の放射線治療に関する治療計画を立案し当該治療計画に従い放射線治療を実行するコンピュータネットワークシステムである。
【0009】
医用画像撮像装置2は、治療対象の患者に医用撮像を施して、治療計画に使用する医用画像を生成する。医用画像は、2次元状に配列されたピクセルにより構成される2次元画像データでもよいし、3次元状に配列されたボクセルにより構成される3次元画像データでもよい。医用画像撮像装置2は、医用画像を生成可能な如何なるモダリティ装置であってもよい。本実施形態に適用可能なモダリティ装置としては、例えば、X線コンピュータ断層撮影装置、磁気共鳴イメージング装置、コーンビームCT装置、核医学診断装置等が挙げられる。医用画像は、放射線治療計画装置3に送信される。
【0010】
放射線治療計画装置3は、医用画像撮像装置2から受信した医用画像を利用して患者の治療計画を作成するコンピュータである。本実施形態に係る放射線治療計画装置3は、治療計画に並行して、放射線治療において患者に挿入される挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。挿入物の形状及び/又は大きさのデータは、3Dプリンタ4に送信される。
【0011】
3Dプリンタ4は、放射線治療計画装置3から受信した挿入物の形状及び/又は大きさのデータに基づいて挿入物を製作する。3Dプリンタ4の造形方式としては、粉末焼結積層造形方式や熱溶解積層方式、光造形方式、インクジェット方式などが知られているが、如何なる方式でもよい。
【0012】
放射線治療装置5は、放射線治療計画装置3から受信した治療計画に従い患者に放射線を照射して患者を治療する。放射線治療装置5は、治療室に設けられた治療架台と治療寝台とを有する。治療寝台は、患者の治療部位がアイソセンタに略一致するように天板を移動する。治療架台は、回転軸回りに回転可能に照射ヘッドを支持する。照射ヘッドは、治療計画に従い放射線を照射する。具体的には、照射ヘッドは、多分割絞り(マルチリーフコリメータ)により照射野を形成し、当該照射野により正常組織への照射を抑える。治療部位に放射線が照射されることにより当該治療部位が消滅又は縮小する。
【0013】
図2は、放射線治療計画装置3の構成例を示す図である。図2に示すように、放射線治療計画装置3は、処理回路31、記憶装置32、表示機器33、入力機器34及び通信機器35を有する。処理回路31、記憶装置32、表示機器33、入力機器34及び通信機器35間の信号の送受信は、バスを介して行われる。
【0014】
処理回路31は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサを有する。当該プロセッサが記憶装置32等にインストールされた放射線治療計画プログラムを起動することにより、当該プロセッサは、取得機能311、決定機能312、出力制御機能313を実現する。なお、各機能311~313は単一の処理回路で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能311~313を実現するものとしても構わない。
【0015】
取得機能311の実現により、処理回路31は、種々の情報を取得する。例えば、処理回路31は、医用画像撮像装置2から受信した医用画像を取得する。医用画像は、当該患者の病変部位及び当該病変部位の周辺部位を含む。医用画像は、挿入物が挿入されていない患者を医用画像撮像装置2により医用撮像することにより得られる。すなわち、医用画像には挿入物が描画されていない。
【0016】
決定機能312の実現により、処理回路31は、照射条件と挿入物の形状及び/又は大きさとを決定する。処理回路31は、医用画像に基づいて、照射条件を決定する。照射条件として、例えば、照射方向や照射野形状、照射線量等が決定される。処理回路31は、医用画像に対する非剛体画像レジストレーション(DIR:Deformable Image Registration)により、患者に挿入物を挿入したときの病変部位及び周辺部位の形状及び/又は大きさと病変部位及び/又は周辺部位に対する線量とを評価して、挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。より詳細には、処理回路31は、患者に挿入物を挿入したときの病変部位及び周辺部位の形状及び/又は大きさを医用画像に対する非剛体画像レジストレーションにより計算し、病変部位に対する線量とリスク臓器に対する線量と挿入物に起因する患者の負担とを総合評価して、挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。具体的には、処理回路31は、医用画像における挿入物の挿入箇所に当該挿入物を模擬したテンプレートを配置し、テンプレートの配置に伴う病変部位及び周辺部位の形状及び/又は大きさの変化を非剛体画像レジストレーションにより計算する。
【0017】
出力制御機能313の実現により、処理回路31は、種々の情報を出力する。一例として、処理回路31は、決定機能312による患者に挿入物を挿入したときの病変部位及び周辺部位の形状及び/又は大きさと病変部位及び/又は周辺部位に対する線量などの評価結果を、表示機器33に表示する。他の例として、処理回路31は、挿入物の形状及び/又は大きさのデータを、通信機器35を介して、3Dプリンタ4に送信する。他の例として、処理回路31は、照射条件のデータを、通信機器35を介して、放射線治療装置5に送信する。
【0018】
記憶装置32は、種々の情報を記憶するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、半導体記憶装置等の記憶装置である。記憶装置32は、上記記憶装置以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬型記憶媒体や、半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。また、記憶装置32は、放射線治療計画装置3にネットワークを介して接続された他のコンピュータ内にあってもよい。例えば、記憶装置32は、放射線治療計画プログラム等を記憶する。
【0019】
表示機器33は、処理回路31の出力制御機能313に従い種々の情報を表示する。表示機器33としては、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は他の任意のディスプレイが適宜使用可能である。また、表示機器33は、プロジェクタでもよい。
【0020】
入力機器34は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路31に出力する。具体的には、入力機器34は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等が適宜利用可能である。当該入力機器への入力操作に応じた電気信号を処理回路31へ出力する。入力機器34は、マイクロフォンにより収集された音声信号を指示信号に変換する音声認識装置でもよい。入力機器34は、ネットワーク等を介して接続された他のコンピュータに設けられた入力機器でもよい。
【0021】
通信機器35は、放射線治療システム1に含まれる他の装置との間でデータ通信するためのインタフェースである。一例として、通信機器35は、医用画像撮像装置2からネットワークを介して医用画像のデータを受信する。他の例として、通信機器35は、3Dプリンタ4にネットワークを介して挿入物の形状及び/又は大きさのデータを送信する。他の例として、通信機器35は、放射線治療装置5にネットワークを介して照射条件のデータを送信する。
【0022】
以下、放射線治療計画装置3による治療計画処理について詳細に説明する。本実施形態に係る放射線治療計画装置3は、照射条件と共に挿入物の形状及び/又は大きさを決定する。本実施形態に係る挿入物は、放射線治療において病変部位及び/又は当該病変部位の周辺部位を固定するための固定具でもよいし、病変部位と当該病変部位の周辺部位のうちの正常組織又はリスク臓器との間の距離を確保するためのスペーサでもよい。以下の実施例において挿入物は、患者の口内に挿入される固定具であるマウスピースであるとする。また、本実施形態に係る病変部位は、副鼻腔がんであるとする。マウスピースを噛むことにより口内の動きが抑制されるので副鼻腔がんの位置が固定される。本実施形態に係る医用画像は、骨を良好なコントラストで描画可能な、X線コンピュータ断層撮影装置により収集された3次元のCT画像であるとする。
【0023】
図3は、放射線治療計画装置3による治療計画処理の処理手順の一例を示す図である。図3に示すように、処理回路31は、取得機能311の実現により、患者のCT画像を取得する(ステップS1)。X線コンピュータ断層撮影装置は、マウスピースが挿入されていない患者をCT撮像することによりCT画像を収集する。従ってCT画像にはマウスピースが描画されていない。CT画像には、患者の病変部位である副鼻腔がんと、その周辺部位である頭部及び頭頸部の各組織や器官とが描画されているものとする。CT画像はX線コンピュータ断層撮影装置から放射線治療計画装置3に転送される。CT画像は治療計画用のCT画像として使用される。
【0024】
ステップS1が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、初期的な照射条件を設定する(ステップS2)。照射条件を設定する前提として、病変部位である副鼻腔がんが描画されている画像領域(以下、がん領域と呼ぶ)や、副鼻腔がんの周辺部位である舌や歯、顎、眼球、気道、リンパ管等の各種組織又は器官が画像認識されているものとする。周辺部位のうちの舌や眼球、リンパ管等は、リスク臓器に設定される。リスク臓器は、正常組織のうちの放射線感受性の高い生体組織を意味する。画像認識は、操作者による入力機器34を介した手動指示に基づくものでもよいし、閾値処理や機械学習処理等の任意の画像処理に基づくものでもよい。
【0025】
ステップS2において処理回路31は、決定機能312の実現により、ステップS1において取得されたCT画像に対して、初期的な照射条件として、照射方向、照射野形状及び照射線量を設定する。照射方向は、放射線を照射する方向、換言すれば、治療架台の回転軸回りに関する照射ヘッドが位置する角度を意味する。照射方向は、初期的には手動的又は自動的に任意値に設定されればよい。照射野形状は、病変部位の形に合わせ、多分割絞り(マルチリーフコリメータ)により成形される、放射線を照射する範囲の形を意味する。照射線量は、放射線治療により病変部位に照射される線量の総量を意味する。照射線量は、初期的には手動的又は自動的に設定されればよい。処理回路31は、CT画像に基づき、照射方向や照射野形状及び照射線量等の照射条件を加味して、等価TAR(Tissue-Air Ratio)法や微分散乱空中線量比法、微小体積法、モンテカルロ法、コンボリューション法等の任意の線量計算アルゴリズム従い線量分布を計算する。なお、線量分布は、放射線治療において照射される放射線線量の予測値(以下、予測線量値)の空間分布である。
【0026】
ステップS2が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、挿入物(マウスピース)のテンプレートを選択する(ステップS3)。マウスピースのテンプレートは、マウスピースの形状及び大きさを模擬したデータである。マウスピースのテンプレートは、患者の体格や目的等に応じて形状及び/又は大きさに応じて複数個用意されている。マウスピースの複数のテンプレートは、記憶装置32に記憶されているものとする。マウスピースのテンプレートの選択としては、複数のテンプレートの一覧が表示機器33に表示され、操作者が、複数のテンプレートの中から任意の1個のテンプレートを、入力機器34を介して手動的に選択してもよいし、患者の体格や目的等に応じて、機械学習処理等により任意の1個のテンプレートを選択してもよい。
【0027】
ステップS3が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、挿入物(マウスピース)のテンプレートをCT画像に配置する(ステップS4)。ステップS4が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、挿入物(マウスピース)のテンプレートの形状及び/又は大きさを初期的に設定する(ステップS5)。ステップS5が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、非剛体画像レジストレーションを実施する(ステップS6)。
【0028】
図4は、ステップS4~S6に係る画像処理を例示する図である。図4の上段に示すように、CT画像I1は、副鼻腔がんのがん領域R1を含む患者頭部のサジタル断面を表している。患者はマウスピースを挿入しないでCT撮像されているので、CT画像I1にはマウスピースが描画されていない。CT画像I1にはがん領域R1の他、リスク臓器である舌の画像領域(以下、舌領域)R2等が含まれている。
【0029】
次に図4の中段に示す通り、処理回路31は、マウスピースのテンプレートR3をCT画像I1に配置する(ステップS4)。テンプレートR3は、マウスピースが装着される口内に対応する画像領域に配置される。より詳細には、歯に当接される部分が、上顎の歯に対応する画像領域(以下、上顎歯領域)と下顎の歯に対応する画像領域(以下、下顎歯領域)との間に配置され、且つ舌に当接される部分が、舌領域R2に接するように、テンプレートR3が配置される。テンプレートR3を舌領域R2に接して配置することができない場合、テンプレートR3が舌領域R2に重複しても構わない。CT画像I1においてテンプレートR3を配置する空間を確保するため、CT撮像の際、患者が上顎の歯と下顎の歯とを咬み合わせない状態でCT撮像を実施するとよい。テンプレートR3の配置は、操作者が入力機器34を介して手動で配置してもよいし、画像処理により自動的に行われてもよい。
【0030】
次に図4の中段に示す通り、処理回路31は、配置したテンプレートR3の形状及び/又は大きさを設定する(ステップS5)。テンプレートR3の形状及び/又は大きさの設定は、操作者が入力機器34を介して手動で配置してもよいし、画像処理により自動的に行われてもよい。歯に当接される部分が、上顎歯領域と下顎歯領域との間に配置され、且つ舌に当接される部分が、舌領域R2に接するように、テンプレートR3が配置される。
【0031】
次に図4の下段に示す通り、処理回路31は、CT画像I1に非剛体画像レジストレーションを施す(ステップS6)。処理回路31は、非剛体画像レジストレーションにより、マウスピースのテンプレートの配置に伴う病変部位及び周辺部位の形状及び/又は大きさの変化を計算する。以下、詳細に非剛体画像レジストレーションについて説明する。非剛体画像レジストレーションにあたり処理回路31は、画像処理条件として、CT画像I1に含まれる腫瘍領域R1や舌領域R2、上顎歯領域、下顎歯領域、テンプレートR3等の各画像領域に堅さや弾力等の物性パラメータと予測線量値(線量分布)とを割り当てる。処理回路31は、物性パラメータと物体とを関連付けたテーブルを参照して、CT画像I1に含まれる各画像領域に物性パラメータを割り当てる。物性パラメータを割り当てた後、処理回路31は、各画像領域の物性パラメータを考慮してCT画像I1に含まれる各画像領域を変形させる。例えば、患者の歯形(より詳細には、上顎歯領域及び下顎歯領域の外形)に嵌まり合うようテンプレートR3の形状が変形される。この際、テンプレートR3の位置は動かないように他の画像領域が変形される。例えば、図4の中段に示すように、テンプレートR3が舌領域R2に重なるように配置された場合、テンプレートR3の位置を動かさないように舌領域R2が変形される。画像領域の変形後、処理回路31は、画像領域の変形後のCT画像I1に対して線量分布を再度計算する。非剛体画像レジストレーションにより、テンプレートR3に対応するマウスピースが配置された口内の解剖学的内部構造を予測することが可能になる。
【0032】
ステップS6が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、病変部位、リスク臓器及び患者負担の3要素を総合評価する(ステップS7)。総合評価においては、病変部位に関する基準(以下、病変部位基準)と、リスク臓器に関する基準(以下、リスク臓器基準)と、マウスピースの挿入に起因する患者の負担に関する基準(以下、患者負担基準)との充足性が判断される。
【0033】
図5は、病変部位、リスク臓器及び患者負担の3要素を例示する図である。病変部位基準は、病変部位である副鼻腔がんに対して照射すべき照射線量を意味する。処理回路31は、非剛体画像レジストレーション後のCT画像に含まれるがん領域R1に割り当てられた予測線量値を取得し、予測線量値が病変部位基準を充足するか否かを判断する。リスク臓器基準は、周辺部位であるリスク臓器に対して照射可能な照射線量を意味する。上記の通り、リスク臓器は舌やリンパ管、眼球等である。リスク臓器基準はリスク臓器の種類毎に設定される。処理回路31は、非剛体画像レジストレーション後のCT画像に含まれるリスク臓器の画像領域に割り当てられた予測線量値を取得し、予測線量値がリスク臓器基準を充足するか否かを判断する。
【0034】
患者負担基準は、病変部位の周辺部位の形状及び/又は大きさに関する基準である。例えば、マウスピースを嵌める場合、マウスピース自身又はマウスピースにより下方に押し込められた舌により、患者の気道が狭まる可能性がある。放射線治療を行う場合、患者の気道が確保されていなければならない。この場合、患者負担基準は、副鼻腔がんの周囲部位である気道の形状及び/又は大きさに関する基準、より詳細には、患者が楽に呼吸や嚥下をできる形状及び/又は大きさを意味する。処理回路31は、非剛体画像レジストレーション後のCT画像に含まれる気道の画像領域(以下、気道領域)の形状及び/又は大きさを評価する指標値を計算し、指標値が患者負担基準を充足するか否かを判断する。指標値として、気道領域の体積、断面の面積、断面の短軸長さ、断面の長軸長さ等が計算されるとよい。
【0035】
他の患者負担基準としては、マウスピースの大きさが挙げられる。非剛体画像レジストレーション後のCT画像に含まれるマウスピースのテンプレートの大きさを評価する指標値を計算し、指標値が患者負担基準を充足するか否かが判断される。当該指標値として、テンプレートの体積、短軸長さ、長軸長さ等が計算されるとよい。
【0036】
ステップS7が行われると処理回路31は、決定機能312の実現により、上記総合評価が合格基準に到達したか否かを判定する(ステップS8)。具体的には、ステップS8において処理回路31は、上記病変部位基準、リスク臓器基準及び患者負担基準の全てを充足した場合、総合評価が合格基準に到達したと判定する。病変部位基準、リスク臓器基準及び患者負担基準の何れかが充足しない場合、総合評価が合格基準に到達しないと判定する。なお、リスク臓器基準はリスク臓器の個数だけ存在し得るが、この場合、全てのリスク臓器基準を充足することが要請される。なお、設定により、当該基準の充足の条件を弱めることは可能である。
【0037】
上記総合評価が合格基準に到達していないと判定した場合(ステップS8:NO)、処理回路31は、決定機能312の実現により、照射条件と挿入物の形状及び/又は大きさとの少なくとも一方を変更する(ステップS9)。挿入物の形状及び/又は大きさとしては、マウスピースのテンプレートの形状及び/又は大きさが変更される。照射条件としては、照射方向、照射野形状及び照射線量の何れを変更してもよい。変更は、操作者が入力機器34を介して手動で行ってもよいし、画像処理により自動的に行われてもよい。照射条件と挿入物の形状及び/又は大きさとの少なくとも一方の変更後、再度ステップS6~S8が実行される。そしてステップS8において総合評価が合格基準に到達したと判定されるまで、ステップS6~S9が反復される。
【0038】
上記3要素が基準を充足していると判定した場合(ステップS8:YES)、処理回路31は、決定機能312の実現により、照射条件と挿入物の形状及び/又は大きさとを確定する(ステップS10)。確定版の照射条件と挿入物であるマウスピースの形状及び/又は大きさのデータとは、記憶装置32に保存される。マウスピースの形状及び/又は大きさのデータは、患者の氏名や患者ID等の患者識別子に関連付けて記憶されるとよい。マウスピースの形状及び/又は大きさのデータは、マウスピースのテンプレートを構成する各画素又はサンプル点の位置座標の系列データを意味する。
【0039】
上記の通り、処理回路31は、マウスピースのテンプレートの形状及び/又は大きさの設定(ステップS5,S9)と、照射条件の設定(ステップS2,9)と、病変部位に対する線量とリスク臓器に対する線量とマウスピースに起因する患者の負担との総合評価(ステップS7)とを反復して、総合評価が合格基準に到達したときのマウスピースのテンプレートの形状及び/又は大きさと照射条件とを出力する。反復処理により、上記3基準を満たす放射線治療に最も有効で理想的なマウスピースのテンプレートの形状及び/又は大きさが求まる。
【0040】
なお、ステップS8における判定処理とステップS9における変更処理とは、表示機器33により表示されるインタフェース画面を介して操作者の指示のもとに実行することも可能である。
【0041】
図6は、インタフェース画面I2の一例を示す図である。図6に示すように、インタフェース画面I2には、非剛体画像レジストレーション後のCT画像I21が表示される。CT画像I21には病変部位に相当するがん領域、マウスピースに相当するテンプレート、リスク臓器に相当する舌領域等が表示される。
【0042】
インタフェース画面I2には、患者にマウスピースを挿入したときの副鼻腔がん及びその周辺部位の形状及び/又は大きさと、副鼻腔がん及び/又はその周辺部位に対する線量との評価を表示する。具体的には、インタフェース画面I2には、ステップS7における病変部位基準の充足の判断結果の表示欄I221及び当該判断結果に関するコメント欄I222、リスク臓器基準の充足の判断結果の表示欄I231及び当該判断結果に関するコメント欄I232、患者負担件基準の充足の判断結果の表示欄I241及び当該判断結果に関するコメント欄I242が表示される。
【0043】
例えば、各表示欄I221,I231,I241には充足すると判断された事を示す「OK」や充足しないと判断された事を示す「NG」等が表示される。図6に示すように、病変部位基準とリスク臓器基準とが充足すると判断された場合、表示欄I221,I231には「OK」が表示され、患者負担基準が充足しないと判断された場合、表示欄I241には「NG」が表示される。充足すると判断された基準については、コメント欄I222,I232,I242には特に何も表示しなくてもよい。充足しないと判断された基準については、コメント欄I222,I232,I242には、充足しないと判断した根拠を表示するとよい。例えば、図6の例では、コメント欄I222,I232には何も表示されず、コメント欄I242には「気道の確保が不十分」「1cm<3cm」のように、基準を充足しないと判定された患者負担基準の名称、患者負担値、患者負担基準値、患者負担値と患者負担基準値との大小関係等が表示されるとよい。なお、充足する判断された基準についてのコメント欄I222,I232にも、基準を充足すると判定された基準の名称、予測値(予測線量値や指標値)、基準値、予測値と基準値との大小関係等が表示されるとよい。
【0044】
CT画像I21と表示欄I221,I231,I241及びコメント欄I222,I232,I242とを並列して表示することにより、操作者は、ステップS6における基準充足性の判断根拠を確認することができ、基準充足性に対する判断の信頼性が向上する。
【0045】
図6に示すように、インタフェース画面I2には確定ボタンI25と再計算ボタンI26とが表示される。確定ボタンI25が入力機器34を介して押下された場合、ステップS8からステップS10に移行し、ステップS10において現在の照射条件とマウスピースのテンプレートの形状及び/又は大きさとが確定版として出力される。再計算ボタンI26が入力機器34を介して押下された場合、ステップS8からステップS9に移行する。
【0046】
ステップS10が行われると処理回路31は、出力制御機能313の実現により、挿入物の形状及び/又は大きさのデータを3Dプリンタ4に転送する(ステップS11)。本実施形態においては、挿入物の形状及び/又は大きさのデータとして、ステップS10において確定されたマウスピースの形状及び/又は大きさのデータが通信機器35により3Dプリンタ4に転送される。
【0047】
図7は、マウスピース40の斜視図である。3Dプリンタ4は、放射線治療計画装置3から受信したマウスピース40の形状及び/又は大きさのデータに基づいて、実物のマウスピース40の実物を製作する。
【0048】
ステップS11が行われると放射線治療計画装置3による治療計画処理が終了する。
【0049】
本実施形態により製作されたマウスピース40は、その形状及び/又は大きさが非剛体画像レジストレーションを利用した画像処理により決定されている。よって本実施例によれば、患者の歯型の型取り作業を行う事がなくなるため、患者の負担や歯科技工士等の負担が軽減される。特に、型取りを嫌がる子供や、噛み合わせ時に力の入らないお年寄りの負担が軽減され、ひいては、これらの者に対しても精度の良いマウスピース40を提供することが可能である。また、本実施形態に係るマウスピース40は、3Dプリンタ4により製作されるので、手作業で作成する場合に比して、短納期で安価な製作が可能であり、作り直しも簡単である。また、マウスピース40の形状及び/又は大きさのデータの決定と共に、それに最適な照射条件を決定することができるので、治療計画用のCT画像を撮像する際、患者がマウスピースを嵌める必要がない。換言すれば、マウスピースの形状及び/又は大きさを決定する前に治療計画用のCT画像を撮像することが可能になる。マウスピースを口に嵌めての放射線治療のシミュレーションや検証も不要になり、患者負担の更なる軽減や治療計画検証時の被曝の削減が期待できる。これによりマウスピースの製作後に治療計画を行う従来に比して、ワークフローが改善される。
【0050】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、放射線治療において患者に挿入される挿入物を簡易に製作することができる。
【0051】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1 放射線治療システム
2 医用画像撮像装置
3 放射線治療計画装置
4 3Dプリンタ
5 放射線治療装置
31 処理回路
32 記憶装置
33 表示機器
34 入力機器
35 通信機器
311 取得機能
312 決定機能
313 出力制御機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7