(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136725
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】バイオセンサを用いた酸化還元酵素の電気化学的測定方法及びそれに用いるバイオセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230922BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N27/416 336N
G01N27/327 353R
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042572
(22)【出願日】2022-03-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】篠嵜 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】大賀 美咲
(72)【発明者】
【氏名】三上 寿幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法を提供する。
【解決手段】2以上の電極を含む導電部と、導電部に接して配置され、酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを含む試薬層とを有する。メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータを含む。第1のメディエータは基質と酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータである。第2のメディエータは、第1のメディエータから伝達された電子を電極に伝達するためのメディエータである。酸化還元酵素を含む試料を試薬層15に接触させること、接触後、所定の時間のインキュベートを行うことにより、第2のメディエータに電子を蓄積させること、インキュベート後、電極の間に電圧を印加すること、電圧の印加により発生した電気的信号を測定すること、電気的信号に基づき、酸化還元酵素の量を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部に接して配置され、前記酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを含む試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
該方法は、
酸化還元酵素を含む試料を前記試薬層に接触させること、
接触後、所定の時間のインキュベートを行うことにより、前記第2のメディエータに前記電子を蓄積させること、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること、
前記電圧の印加により発生した電気的信号を測定すること、及び
前記電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、方法。
【請求項2】
前記インキュベートの時間を、前記試薬層に含まれる基質が前記酸化還元酵素との反応によって枯渇しない範囲の時間に設定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試薬層における前記基質の配合量(試薬層の1cm3あたり)は、4.4nmol以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記インキュベートの時間は、1分以上である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酸化還元酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼであり、前記基質は、グルコースである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1のメディエータと前記第2のメディエータとの組み合わせは、1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート(1-mPES)とルテニウム化合物との組み合わせ、又は1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-mPMS)とルテニウム化合物との組み合わせである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
酸化還元酵素を電気化学的に測定するためのバイオセンサであって、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
請求項1から6のいずれかに記載の測定方法に用いるための、バイオセンサ。
【請求項8】
バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
該方法は、
前記酸化還元酵素を含む試料を前記バイオセンサの前記試薬層に接触させること、
接触後、前記電極の間に電圧を印加すること(第1の印加)、
前記第1の印加により発生した電気的信号を測定すること(第1の測定)、
前記第1の測定により得られた電気的信号に基づき、インキュベート時間を算出すること、
算出して得られた時間のインキュベートを行うこと、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること(第2の印加)、
前記第2の印加により発生した電気的信号を測定すること(第2の測定)、及び
第2の測定により得られた電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法、及び該方法に用いるバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、酵素等の生体物質が配置された検出部と、電極といったトランスデューサ(信号変換デバイス)とを用いた分子計測装置であって、グルコースをはじめとする様々な生体内の分析対象物の測定に用いられる。
【0003】
バイオセンサを用いてグルコース濃度を計測する方法として、酵素を利用した電気化学計測が一般的に行われている。グルコース濃度を精度よく計測できる方法の一つとして、コットレル式を応用した種々の方法が報告されている(特許文献1~6)。コットレル式は、電極の大きさ及び形状に応じた拡散方程式のひとつである。グルコースセンサ等のバイオセンサの電極の厚みは、電子移動と共に生じる拡散が生じる範囲(~数百μm)に比べて小さいことから、電極に電位を印加した時の電流応答は一定ではなく、コットレル式に従って時間の平方根に反比例して減衰(t-1/2で減衰)していくことが知られている。
特許文献4は、使用者によって測定値に差が生じることを防止しつつ測定するために、電極を有する測定用セル内で分析対象物と試薬(酸化剤及び酵素等)とを混合しこれらを反応させ、その酵素反応が終了するまでインキュベートした後、電極に電圧を印加してコットレル電流を測定する方法を開示する。
【0004】
一方、コットレル電流(コットレル式に従った減衰)が成立するには、電圧の印加後に物質の濃度変化が実質的にない状態、つまり、酵素反応が実質的に終了している必要がある。このため、特許文献4の方法では一定の反応時間を確保する必要があり、測定までに時間を要するという問題がある。
この問題を解決するために、特許文献6では、コットレル減衰を伴わない電気化学プロセスを用いたグルコースの測定を提案する。コットレル減衰の減衰定数は-0.5(一定)である。特許文献6は、酵素反応が終了しない短い反応(インキュベーション)時間における減衰定数を予め決定し、その減衰定数と過渡減衰を有する出力シグナルとに基づいて、サンプル中の分析対象物の濃度を決定することを開示する。
【0005】
近年、グルコース以外の生体物質の濃度を電気化学的に計測する方法が報告されている(非特許文献1~7)。非特許文献1~4は、スクロースを酸化還元酵素によりグルコースに変換し、グルコースメータ(BGM)等により計測することを開示する。
一方、サンプル中の分析対象物の濃度がグルコースと比べて低濃度又は極低濃度である場合、グルコースを測定する場合と比較して十分な感度が得られないという問題がある。このため、非特許文献5では、感度を向上させるために、電極を修飾する方法や、多数の電子伝達酵素を局在させる方法等が報告されている。非特許文献6及び7では、血中の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の濃度を測定するために、検出酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用し、GDHの応答電流を計測して、分析対象物の濃度をGDHに変換する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-293556号公報
【特許文献2】特許第2651278号公報
【特許文献3】特許第2702286号公報
【特許文献4】特許第2901678号公報
【特許文献5】特許第4018748号公報
【特許文献6】特許第5244116号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yu Xiang et al., Nature Chemistry, 2012, 3(9): 697-703
【非特許文献2】Tian Lan et al., Methods Mol Biol. 2015, 1256, 99-109
【非特許文献3】Naveen K. Singh et al., Biosensors and Bioelectronics, 2021, 180, 113111
【非特許文献4】Tian Lan et al., Biotechnology Advances, 2016, 34(3) 331-341
【非特許文献5】Jinhee Lee et al., Electrochemistry, 2015, 83(12) 1085-1090
【非特許文献6】Yoshihiko Nonaka et al., Electrochemistry, 2012, 80(5) 363-366
【非特許文献7】Koichi Abe et al., Electrochemistry, 2012, 80(5) 348-352
【非特許文献8】Nasa Savory et al., Urakami Foundation memoirs, 2014, Vol. 21 136-142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、バイオセンサを用いて生体物質の濃度を電気化学的に測定可能な方法を提供すべく研究を重ねた過程で、非特許文献6~8のように、濃度が低濃度又は極低濃度の分析対象物を、アプタマー等を利用して酸化還元酵素に変換し、酸化還元酵素の量を電気化学的に計測する場合、生じる応答電流が微小であるため十分な感度が得られないという問題を新たに見出した。さらに、本発明者らは、特に、非特許文献6~8で使用されているメディエータは1種類(シングルメディエータ)であり、バイオセンサを用いた測定では十分な感度が得られないという問題があることを見出している。
【0009】
本開示は、一態様において、酸化還元酵素の量の電気化学的な測定において高い感度で測定可能な方法、及びそれに用いるバイオセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一態様として、バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部に接して配置され、前記酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを含む試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
該方法は、
酸化還元酵素を含む試料を前記試薬層に接触させること、
接触後、所定の時間のインキュベートを行うことにより、前記第2のメディエータに前記電子を蓄積させること、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること、
前記電圧の印加により発生した電気的信号を測定すること、及び
前記電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、方法に関する。
【0011】
本開示は、その他の態様として、バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを含み、
該方法は、
前記酸化還元酵素を含む試料を前記バイオセンサの前記試薬層に接触させること、
接触後、前記電極の間に電圧を印加すること(第1の印加)、
前記第1の印加により発生した電気的信号を測定すること(第1の測定)、
前記第1の測定により得られた電気的信号に基づき、インキュベート時間を算出すること、
算出により得られた時間のインキュベートを行うこと、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること(第2の印加)、
前記第2の印加により発生した電気的信号を測定すること(第2の測定)、及び
第2の測定により得られた電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、測定方法に関する。
【0012】
本開示は、その他の態様として、酸化還元酵素を電気化学的に測定するためのバイオセンサであって、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを含み、
本開示の測定方法に用いるためのバイオセンサに関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、一態様において、酸化還元酵素の量の電気化学的な測定において高い感度で測定可能な方法、及びそれに用いるバイオセンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1A~Eは、本開示の一実施形態におけるバイオセンサの製造方法の一例を示す工程図であって、各工程でのバイオセンサの模式図を示す。
【
図3】
図3A~Eは、本開示の一実施形態におけるバイオセンサの製造方法の一例を示す工程図であって、各工程でのバイオセンサの模式図を示す。
【
図5】
図5は、実験例1の結果の一例を示すグラフである。基質(グルコース)と、メディエータ(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート(1-mPES)及びルテニウム化合物)とを含み、グルコース酸化還元酵素(GDH)の終濃度が0~12.5nMとなるように調製した反応液を用いて、5分間のインキュベートを行うことにより測定可能なGDHの濃度域を評価した結果を示す。
【
図6】
図6は、実験例2の結果の一例を示すグラフである。基質(グルコース)と、メディエータ(1-mPES及びルテニウム化合物)と、GDH(終濃度:0.56、5.56又は55.56nM)とを含む反応液を用いて、5、10又は15分間のインキュベートを行うことにより、インキュベート(蓄電)時間と応答電流値との関係を評価した結果を示す。
【
図7】7は、実験例3の結果の一例を示すグラフである。基質(グルコース、終濃度:2~200mM)と、メディエータ(1-mPES及びルテニウム化合物)と、GDHとを含む反応液を用いて、5分間のインキュベートを行うことにより、反応液中の基質の濃度と応答電流値との関係を評価した結果を示す。
【
図8】
図8は、実験例4の結果の一例を示すグラフである。基質(グルコース)と、メディエータ(1-mPES及び/又はルテニウム化合物)と、GDH(終濃度:0~10nM)とを含む反応液を用いて、5分間のインキュベートを行うことにより、反応液中に存在するメディエータの種類と応答電流値との関係を評価した結果を示す。
【
図9】
図9は、実験例5の結果の一例を示すグラフである。基質(グルコース)と、メディエータ(1-mPES及びルテニウム化合物)と、GDHとを含む反応液を用いて、5分間のインキュベートを行うことにより、反応液中の1-mPESの濃度と応答電流値との関係を評価した結果を示す。
【
図10】
図10は、実験例6の結果の一例を示すグラフである。アデノシンDNAアプタマーを使用して、アプタマーと検体中の分析対象物(アデノシン)との反応により遊離したGDH標識アプタマー中におけるGDHの酸化還元酵素反応により生じた応答電流値を計測することによって、分析対象物(アデノシン)を検出できることを確認した結果を示す。
【
図11】
図11は、実験例7の結果の一例を示すグラフである。第1の印加(プレ印加)を行うことにより、測定検体毎にインキュベート(蓄電)時間を決定(算出)し、算出した時間のインキュベートを行い、得られた応答電流値の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、バイオセンサを用いて、反応液中の酸化還元酵素の量を高い感度で電気化学的に測定可能な方法を提供すべく研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、酸化還元酵素と基質との反応により生じた電子を効率的に受け取り、かつ、受け取った電子を蓄え続けることの両方を1つのメディエータで満足することは困難であり、シングルメディエータでは感度が十分得られないことを確認した。そこで、バイオセンサに配置するメディエータとして、電子の蓄電能力の高いメディエータ(第2のメディエータ)と、酸化還元酵素と基質との反応により生じた電子を速やかに受取りかつ第2のメディエータに伝達可能なメディエータ(第1のメディエータ)とを組み合わせて使用して基質と酸化還元酵素との酸化還元酵素反応を進め、反応により生じた電子を第2のメディエータに蓄電させることで、酸化還元酵素の量を高い感度で電気化学的に測定できるという知見を見出し、その知見に基づき本開示の方法に想到した。
【0016】
本開示の測定方法と、特許文献1~6に開示されたグルコース測定装置といった一般的なバイオセンサとの違いは以下の通りである。
一般的なバイオセンサでは、測定対象である分析対象物(グルコース)と酸化還元酵素との反応及びそれに伴う電子伝達が円滑に行われるように、試料中の分析対象物(グルコース)の濃度範囲に対して「酸化還元酵素」と「メディエータ」とが充分量備えられている。一般的なグルコースセンサでは、充分量の「酸化還元酵素」と「メディエータ」が配置された電極を備えるセンサにおいて、分析対象物と酸化還元酵素とを反応させ、この反応によりグルコースから遊離した電子がメディエータを介して電極に伝達されることにより生じる応答電流値を測定することで、グルコースの定量が行われる。すなわち、電圧印加時には、分析対象物と酸化還元酵素との酵素反応が実質的に終了している、又は分析対象物の濃度を決定できる程度に酵素反応が進行しており、分析対象物(グルコース)からメディエータへの電子伝達が実質的に終了又は十分に進行している状態にある。
これに対し、本開示の測定方法では、酸化還元酵素が測定対象であり、酸化還元酵素の「基質」と該反応により発生した電子を蓄電するための「メディエータ(第2のメディエータ)」とがバイオセンサに備えられている。そして、本開示の測定方法では、測定対象である酸化還元酵素と基質とを所定の時間反応させ、その反応により生じた電子を第1のメディエータを介して第2のメディエータに蓄電させ、蓄電後に生じる電気的信号(応答電流値)を測定する。すなわち、測定対象である酸化還元酵素と基質との反応は、基質が枯渇しない時間範囲内で、所定の時間だけインキュベートされる。言い換えると、基質のうち一部のみが酸化還元酵素と反応している状態の時間範囲内における、ある所定の時間でインキュベートを終了する。そして、所定の時間における電圧を印加した結果得られた電気的信号に基づき、酸化還元酵素の量を算出する点に、本発明の測定方法は、従来の一般的なバイオセンサを用いた方法との違いを有する。つまり、本開示の測定方法によれば、酸化還元酵素と基質との連続的な反応と、その反応により生じた電子の第1のメディエータによる速やかな受け取りと第2のメディエータへの伝達及び第2のメディエータでの蓄電とを行うことにより、反応液中の酸化還元酵素の量が、例えば、pMオーダー(例えば、1~10pg/L等)といった極低濃度の場合であっても、高い検出感度で測定することができうる。加えて、酸化還元酵素と基質との反応は、時間に依存して進んでいくため、反応量、すなわち電子伝達の量は、酸化還元酵素の量に依存することになるので、インキュベートの時間を所定の時間とすることによって、酸化還元酵素の量を算出することができうる。
【0017】
[測定方法]
本開示は、一態様において、バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法に関する。本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、後述する第1のメディエータ及び第2のメディエータを含む少なくとも2種類以上のメディエータを備えるバイオセンサを使用し、基質と酸化還元酵素との連続的な反応により生じた電子を第1のメディエータを介して第2のメディエータに蓄電するために所定の時間のインキュベートを行った後、電圧を印加してそれにより生じる電気的信号を測定することを含む。
本開示における「電子を第2のメディエータに蓄電する」ことは、一又は複数の実施形態において、還元型の第2のメディエータが蓄積することともいうことができる。
【0018】
本開示における「電気化学的測定方法」とは、電気化学的手法を用いた測定方法であって、一又は複数の実施形態において、反応液中の測定対象物(酸化還元酵素)について、その濃度に対応する変化を電極上で電気的信号として変換し、出力する測定が挙げられる。電気化学的手法としては、一又は複数の実施形態において、クロノアンペロメトリー、クロノクーロメトリー及びサイクリックボルタンメトリー等が挙げられる。本開示における電気的信号としては、一又は複数の実施形態において、印加電圧に対する応答電流値、及び印加電圧に対する応答電圧値等が挙げられる。
【0019】
[バイオセンサ]
本開示の方法で使用されるバイオセンサは、2以上の電極を含む導電部と、導電部に接して配置された試薬層とを有する。試薬層は、酸化還元酵素の基質と2種類以上のメディエータとを含み、該メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを少なくとも含む。
【0020】
[酸化還元酵素]
酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースオキシダーゼ(GOD)、コレステロールオキシダーゼ、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ、D-グルコシド-3-デヒドロゲナーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ(LOD)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)及び尿酸デヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
酸化還元酵素は、一又は複数の実施形態において、補酵素(触媒サブユニット又は触媒ドメインともいう)として、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ピロロキノリンキノ(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドレイン(NADP)を有していてもよい。補酵素を有する酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、FAD-GDH、PQQ-GDH、NAD-GDH及びNADP-GDH等が挙げられる。
酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)型FAD-GDH(フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ又はフラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコースデヒドロゲナーゼ)等が挙げられる。アスペルギルス・オリゼ型FAD-GDHとしては、一又は複数の実施形態において、特開2013-083634号公報に開示のものが使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
【0021】
[基質]
基質は、測定対象である酸化還元酵素の種類に応じて適宜決定できる。基質としては、一又は複数の実施形態において、グルコース、コレステロール、ソルビトール、D-フルクトース、セロビオース、乳酸及び尿酸等が挙げられる。一又は複数の実施形態において、バイオセンサの試薬層には十分量の基質が配置されている。
【0022】
試薬層における基質の配合量(試薬層の1cm3あたり)は、基質と酸化還元酵素との反応が律速となることを抑制しつつ反応を進めて測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、4.4nmol以上であり、好ましくは8.8nmol以上、13.2nmol以上、17.6nmol以上又は22.0nmol以上であり、より好ましくは26.4nmol以上である。試薬層における基質の配合量(試薬層の1cm3あたり)の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、220nmol以下、176nmol以下、132nmol以下、88nmol以下又は44nmol以下である。
【0023】
試薬層における基質の配合量(インキュベート時の基質の濃度)は、基質と酸化還元酵素との反応が律速となることを抑制しつつ反応を進めて測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、試薬層に接触させた試料の量に対する含有量として、10mM以上であり、好ましくは20mM以上、30mM以上、40mM以上又は50mM以上であり、より好ましくは60mM以上である。試薬層における基質の配合量の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、500mM以下、400mM以下、300mM以下、200mM以下又は100mM以下である。
インキュベート時の基質の濃度は、一又は複数の実施形態において、測定対象である酸化還元酵素の量に応じて決定することもできる。特に限定されない一又は複数の実施形態において、測定対象である酸化還元酵素の量(試料に含有されると予測される量)が0.01nM~60nMである場合、インキュベート時の基質の濃度は、10mM以上であり、好ましくは20mM以上、30mM以上、40mM以上又は50mM以上であり、より好ましくは60mM以上である。
【0024】
試薬層に接触させる試料の量としては、適宜決定することができ、一又は複数の実施形態において、1μL~20μL程度である。
【0025】
[メディエータ]
メディエータは、一又は複数の実施形態において、ルテニウム化合物、1-Methoxy-PES(1-Methoxy-5-ethylphenazinium ethylsulfate、1-mPES)、1-Methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate、1-mPMS)、フェニレンジアミン化合物、キノン化合物、フェリシアン化合物、Coenzyme Q0(2,3-Dimethoxy-5-methyl-p-benzoquinone)、AZURE A Chloride(3-amino-7-(dimethylamino)phenothiazin-5-ium chloride)、Phenosafranin(3,7-Diamino-5-phenylphenanzinium chloride)、6-Aminoquinoxaline、及びTetrathiafulvalene等が挙げられる。
ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、酸化型のルテニウム錯体として反応系に存在し、メディエータ(電子伝達体)として機能するルテニウム化合物が使用できる。ルテニウム錯体の配位子の種類はとくに限定されない。ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において下記化学式で示される酸化型ルテニウム錯体が挙げられる。
[Ru(NH3)5X]n+
Xとしては、NH3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、またはH2Oが挙げられ、中でもNH3又はハロゲンイオンが好ましい。ハロゲンイオンとしては、一又は複数の実施形態において、Cl-、F-、Br-、及びI-が挙げられる。式におけるn+は、Xの種類により決定される酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表す。ルテニウム錯体としては、一又は複数の実施形態において、特開2018-013400号公報に開示のものが使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
フェニレンジアミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、N,N-Dimethyl-1,4-phenylenediamine、及びN,N,N',N'-tetramethyl-1,4-phenylenediaminedihydrochloride等が挙げられる。
キノン化合物としては、一又は複数の実施形態において、1,4-Naphthoquinone、2-Methyl-1,4-Naphthoquinone(VK3)、9,10-Phenanthrenequinone、1,2-Naphthoquinone、p-Xyloquinone、Methylbenzoquinone、2,6-Dimethylbenzoquinone、Sodium1,2-Naphthoquinone-4-sulfonate、1,4-Anthraquinone、Tetramethylbenzoquinone、及びThymoquinone等が挙げられる。
フェリシアン化合物としては、一又は複数の実施形態において、フェリシアン化カルシウム等が挙げられる。
【0026】
本開示の測定方法において使用されるメディエータの組み合わせは、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素、及び導電部の電極の材質等に応じて適宜決定することができる。
特に限定されない一又は複数の実施形態における第1のメディエータと第2のメディエータとの組み合わせとしては、1-mPESとルテニウム化合物との組み合わせ、及び1-mPMSとルテニウム化合物との組み合わせ等が挙げられる。メディエータの組み合わせにおける特に限定されない一又は複数の実施形態において、第1のメディエータが1-mPESであり、第2のメディエータがルテニウム化合物である組み合わせが挙げられる。
【0027】
試薬層における第1のメディエータ及び第2のメディエータの配合量は、一又は複数の実施形態において、測定対象である酸化還元酵素の種類、第1のメディエータ及び第2のメディエータの種類及び組み合わせ、並びに導電部の電極の材質等に応じて適宜決定することができる。
【0028】
試薬層における第1のメディエータの配合量(試薬層の1cm3あたり)は、酸化還元酵素との反応により生じた電子の伝達が律速となることを抑制して測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、0.22nmol以上又は0.3nmol以上であり、好ましくは0.35nmol以上、0.44nmol以上又は2.2nmol以上である。試薬層における第1のメディエータの配合量(試薬層の1cm3あたり)は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、44nmol以上であってもよい。試薬層における第1のメディエータの配合量(試薬層の1cm3あたり)の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、220nmol以下又は110nmol以下である。
第1のメディエータは第2のメディエータと比べて試薬層における配合量が少量であっても十分な測定感度が得られうるため製造コストを抑制する点からは、試薬層における第1のメディエータの配合量は、44nmol以下、22nmol以下、17.6nmol以下、13.2nmol以下、8.8nmol以下又は4.4nmol以下である。
【0029】
試薬層における第1のメディエータの配合量(インキュベート時の第1のメディエータの濃度)は、基質と酸化還元酵素との反応が律速となることを抑制しつつ反応を進めて測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、試薬層に接触させた試料の量に対する含有量として、0.5mM以上又は0.7mM以上であり、好ましくは0.8mM以上、1mM以上又は5mM以上である。試薬層における第1のメディエータの配合量(インキュベート時の第1のメディエータの濃度)は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、100mM以上であってもよい。試薬層における第1のメディエータの配合量の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、500mM以下又は250mM以下である。
第1のメディエータは第2のメディエータと比べて試薬層における配合量が少量であっても十分な測定感度が得られうるため製造コストを抑制する点からは、試薬層における第1のメディエータの配合量は、100mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下又は10mM以下である。
【0030】
試薬層における第2のメディエータの配合量(試薬層の1cm3あたり)は、第1のメディエータとの電子伝達が律速となることを抑制しつつ電子を蓄電可能にして測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、0.44nmol以上であり、好ましくは4.4nmol以上、22nmol以上、30.8nmol以上又は35.2nmol以上であり、より好ましくは39.6nmol以上又は44nmol以上である。試薬層における第2のメディエータの配合量(試薬層の1cm3あたり)の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、220nmol以下又は110nmol以下である。
【0031】
試薬層における第2のメディエータの配合量(インキュベート時の第2のメディエータの濃度)は、第1のメディエータとの電子伝達が律速となることを抑制しつつ電子を蓄電可能にして測定感度を高める点から、一又は複数の実施形態において、試薬層に接触させた試料の量に対する含有量として、1mM以上であり、好ましくは10mM以上、50mM以上、70mM以上又は80mmM以上であり、より好ましくは90mM以上又は100mM以上である。試薬層における第2のメディエータの配合量の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、500mM以下又は250mM以下である。
【0032】
試薬層は、酸化還元酵素の基質及びメディエータ以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、緩衝剤、界面活性剤、バインダー等が挙げられる。
【0033】
緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、リン酸緩衝剤、アミン系緩衝剤及びカルボキシル基を有する緩衝剤等が挙げられる。アミン系緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、Tris、ACES、CHES、CAPSO、TAPS、CAPS、Bis-Tris、TAPSO、TES、Tricine、及びADA等が挙げられる。カルボキシル基を有する緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、酢酸-酢酸Na緩衝剤、リンゴ酸-酢酸Na緩衝剤、マロン酸-酢酸Na緩衝剤、及びコハク酸-酢酸Na緩衝剤等が挙げられる。緩衝剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。緩衝剤のpHは、一又は複数の実施形態において、6.0~8.0であり、好ましくは7.3~7.4である。
【0034】
界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、TritonX-100((p-tert-Octylphenoxy)polyethoxyethanol)、Tween20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)、ドデシル硫酸ナトリウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸、ステアリン酸ナトリウム、アルキルアミノカルボン酸(またはその塩)、カルボキシベタイン、スルホベタイン及びホスホベタイン等が挙げられる。界面活性剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0035】
バインダーとしては、一又は複数の実施形態において、樹脂バインダー及び層状無機化合物等が挙げられる。樹脂バインダーとしては、一又は複数の実施形態において、ブチラール樹脂バインダー、及びポリエステル樹脂バインダー等が挙げられる。層状無機化合物としては、WO2005/043146に記載の層状無機化合物を使用できる。層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、イオン交換能を有する膨潤性粘土鉱物等が挙げられる。層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト及び合成フッ素雲母等が挙げられる。バインダーは、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0036】
試薬層は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素を実質的に含有しない。試薬層は、一又は複数の実施形態において、試薬層に含まれる基質と反応する酸化還元酵素を実質的に含有しない。本開示において「実質的に含有しない」とは、試薬層における酸化還元酵素の配合量(試薬層の1cm3あたり)が、一又は複数の実施形態において、0.1U未満、0.05U未満又は0.01U未満である。本開示において、「U」は、酵素活性の単位であって、至適条件で1分間に1μmolの基質に作用する酵素量をいう。
【0037】
[導電部]
導電部は、2以上の電極を含む。電極は、一又は複数の実施形態において、作用極と対極とを含む電極対であってもよいし、作用極と対極と参照極とを含む3電極系の電極対であってもよい。導電部は、一又は複数の実施形態において、さらに検知極を有していてもよい。
電極の材質としては、一又は複数の実施形態において、導電性のある材質が使用できる。導電性のある材質としては、一又は複数の実施形態において、金属材料及び炭素材料等が挙げられる。金属材料としては、一又は複数の実施形態において、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、及びニッケル(Ni)合金等が挙げられる。ニッケル合金としては、一又は複数の実施形態において、ニッケル-バナジム合金、ニッケル-タングステン合金、及びニッケル-ルテニウム合金等が挙げられる。炭素材料としては、一又は複数の実施形態において、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びメソポーラスカーボン等が挙げられる。
【0038】
電極は、一又は複数の実施形態において、基材上に金属材料を成膜することによって形成された薄膜電極等が挙げられる。成膜方法としては、一又は複数の実施形態において、スクリーン印刷、物理蒸着(PVD、例えばスパッタリング)又は化学蒸着(CVD)等が挙げられる。
【0039】
導電部は、一又は複数の実施形態において、基材上に形成される。基材としては、一又は複数の実施形態において、絶縁性基材が使用できる。絶縁性基材の材質としては、一又は複数の実施形態において、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス、セラミック及び紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、一又は複数の実施形態において、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリエチレン(PE)等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0040】
本開示の測定方法は、酸化還元酵素を含む試料を、バイオセンサの試薬層に接触させること、接触後、所定の時間のインキュベートを行うことにより、第1のメディエータを介して試薬層中の第2のメディエータに、酸化還元酵素と基質との反応により生じた電子を蓄積させること、インキュベート後、バイオセンサの導電部の電極の間に電圧を印加すること、電圧の印加により発生した電気的信号を測定すること、及び測定した電気的信号に基づき酸化還元酵素の量を算出することを含む。
【0041】
本開示における「インキュベートを行うこと」とは、試料中の酸化還元酵素と試薬層中の基質との酸化還元反応を行うことをいい、酸化還元反応により生じた電子を、第1のメディエータを介して第2のメディエータに伝達すること、及び、伝達された(受け取った)電子を第2のメディエータに蓄積(蓄電)することを含みうる。本開示において「インキュベートを行うこと」と「蓄電すること」とを同義で使用する場合がある。
【0042】
本開示の測定方法における試料の接触後のインキュベート時間としては、一又は複数の実施形態において、1分以上であり、第2のメディエータにより多くの量の電子を蓄積させ、得られる電気的信号を増加させる点から、2分以上、3分以上、4分以上、5分以上、6分以上、7分以上又は10分以上である。インキュベート時間の上限は、特に制限されず、一又は複数の実施形態において、試薬層に含まれる基質すべてが酸化還元反応によりすべて電子伝達されるまでの時間等が挙げられる。インキュベート時間の上限の特に限定されない一又は複数の実施形態において、30分以下、20分以下又は15分以下である。
【0043】
本開示の測定方法におけるインキュベートの時間は、一又は複数の実施形態において、試薬層に含まれる基質が、測定対象である酸化還元酵素との反応によって枯渇しない時間範囲であることが好ましい。よって、本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、インキュベートの時間を、試薬層に含まれる基質が酸化還元酵素との反応によって枯渇しない範囲の時間に設定することを含んでいてもよい。
【0044】
本開示の測定方法の一又は複数の実施形態において、接触後のインキュベートは、非印加の状態で行うことが好ましい。本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、接触後の所定の時間のインキュベートが終了するまで電圧の印加を行わないことが好ましい。
【0045】
電極間への電圧の印加は、一又は複数の実施形態において、電極(電極対)間に一定の電圧を印加することにより行うことができる。特に限定されない一又は複数の実施形態において、電極への電圧の印加は、対極に対して正の電圧を作用極に印加することにより行うことができる。作用極に印加する電圧としては、一又は複数の実施形態において、対極に対して+50mV~+500mVであり、好ましくは+100mV~+200mVであり、より好ましくは+200mVである。
【0046】
電気的信号の測定は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素の量を測定に用いる手法に応じ決定できる。
クロノアンペロメトリーを用いて酸化還元酵素量の算出を行う場合、電気的信号の測定は、一又は複数の実施形態において、電圧印加一定時間後の応答電流値を測定することにより行う。電圧印加一定時間としては、一又は複数の実施形態において、電圧印加後20秒以下、15秒以下、10秒以下、9秒以下、8秒以下、7秒以下、6秒以下、5秒以下、4秒以下、3秒以下、又は2秒以下が挙げられる。
クロノクーロメトリーを用いて酸化還元酵素量の算出を行う場合、電気的信号の測定は、一又は複数の実施形態において、応答電流の積算値を得るため、応答電流値を経時的に測定することにより行う。サイクリックボルタンメトリーを用いて酸化還元酵素量の算出を行う場合、電気的信号の測定は、一又は複数の実施形態において、サイクリックボルタンメトリー波形を得るため、掃引中の電圧に応じた電流値を継続的に測定することにより行う。
【0047】
電気的信号に基づく酸化還元酵素の量の算出は、一又は複数の実施形態において、クロノアンペロメトリー、クロノクーロメトリー及びサイクリックボルタンメトリー等の方法を用いて行うことができる。クロノアンペロメトリーを用いる場合、一又は複数の実施形態において、応答電流値の積算値と測定対象物(酸化還元酵素)の量(濃度)との関係をあらかじめ検量線などで求めておき、測定された応答電流値の積算値を検量線に当てはめることにより測定対象物の量を算出することができる。
【0048】
本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、上記の試料と試薬層との接触直後に、短時間の印加(プレ印加)及びその印加により発生した電気的信号を測定することを含んでいてもよい。プレ印加及びそれにより生じた電気的信号を測定することにより、一又は複数の実施形態において、試料中の酸化還元酵素(測定対象物)の量に応じて、インキュベート(蓄電)時間を変化させることができることから、例えば、測定時間を短縮できる。また、インキュベート(蓄電)後に発生する電気的信号を所定の範囲に収めることができ、測定装置への負荷を減らすことができうる。
【0049】
よって、本開示の測定方法は、その他の態様として、酸化還元酵素を含む試料をバイオセンサの試薬層に接触させること、接触後、電極の間に電圧を印加すること(第1の印加)、第1の印加により発生した電気的信号を測定すること(第1の測定)、第1の測定により得られた電気的信号に基づき、インキュベート時間を算出すること、算出して得られた時間のインキュベートを行うこと、インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること(第2の印加)、前記第2の印加により発生した電気的信号を測定すること(第2の測定)、及び第2の測定により得られた電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む。
【0050】
本開示の測定方法における第1の印加(プレ印加)は、一又は複数の実施形態において、試料を試薬層に接触させた直後に行うことができる。第1の印加(プレ印加)は、一又は複数の実施形態において、接触後0.01秒~10秒又は0.01秒~5秒で行うことが好ましい。
【0051】
本開示の測定方法における第1の測定(プレ測定)における印加時間は、一又は複数の実施形態において、0.01秒~10秒又は0.01秒~5秒程度であることが好ましい。
【0052】
本開示の測定方法は、第1の測定により得られた電気的信号に基づいて、インキュベート時間を算出することを含む。インキュベート時間の算出(決定)は、一又は複数の実施形態において、予め定めた閾値(電気的信号の値)に基づき行うことができる。閾値は、一又は複数の実施形態において、1つであってもよいし、2以上であってもよい。閾値は、一又は複数の実施形態において、電極の材質及びメディエータの種類に応じて適宜決定することができる。
特に限定されない一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素の濃度に応じて閾値を3段階(高濃度、中濃度及び低濃度)に設定した場合、第1の測定により得られた電気的信号(応答電流値)が2000nAを超えた場合、酸化還元酵素の濃度が高濃度であることからインキュベート時間は1分又は1分以内と決定し、該電気的信号(応答電流値)が1000nA以上2000nA以下の場合、酸化還元酵素の濃度が中濃度であることからインキュベート時間は1分を超え5分未満(又は例えば3分)と決定し、電気的信号(応答電流値)が1000nA未満の場合、酸化還元酵素の濃度が低濃度であることからインキュベート時間は5分又は5分以上と決定することができる。
【0053】
[酸化還元酵素を含む試料]
本開示の測定方法における酸化還元酵素を含む試料は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素を含有する検体そのものであってもよく、検体中の成分が酸化還元酵素に変換されたものであってもよい。検体としては、一又は複数の実施形態において、生体試料等が挙げられる。生体試料としては、一又は複数の実施形態において、血液及び尿並びにこれら由来の試料、細胞抽出試料、及び細胞培養液等が挙げられる。酸化還元酵素を含む試料は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素の量を測定するための試料であって、酸化還元酵素を含む可能性のある試料、及び検体中の成分が変換させることによって酸化還元酵素を含む可能性のある(酸化還元酵素を含むことが疑われる)試料等を含む。
【0054】
本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、ホルモン及び低分子化合物等のような分析対象物を酸化還元酵素に変換して「酸化還元酵素を含む試料」を調製することで該分析対象物を高感度で測定することができうる。本開示の測定方法によれば、一又は複数の実施形態において、極微量濃度の分析対象物を、酸化還元酵素に変換することで高い感度で測定することができうる。
【0055】
分析対象物を酸化還元酵素に変換する方法としては、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素で修飾(標識)されたアプタマーのような分子認識素子を用いた方法が挙げられる。例えば該アプタマー(分子認識素子)が分析対象物と結合することにより酸化還元酵素が遊離、分離、又は活性化される物質を用いることで、分析対象物を酸化還元酵素に変換した測定が可能となりうる。例えば、分析対象物が結合すると磁気ビーズから遊離するように磁気ビーズに固定化された酸化還元酵素修飾分子認識素子を使用すれば、分析対象物に応じた酸化還元酵素を遊離させることができる。
【0056】
よって、本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、検体中の分析対象物を酸化還元酵素に変換して、酸化還元酵素を含む試料を調製することを含んでいてもよい。
【0057】
本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、検体中の分析対象物を酸化還元酵素に変換可能な物質を含む第2の試薬層を第1の試薬層の上流に配置されたバイオセンサにおいて、検体を第2の試薬層に導入して、酸化還元酵素を含む試料を調製すること、調製させた当該試料を、基質とメディエータとを含む試薬層(第1の試薬層)に接触させることを含んでいてもよい。
【0058】
分析対象物としては、一又は複数の実施形態において、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、抗原、ホルモン、免疫細胞、稀少細胞、糖、毒素、ウイルス粒子、及び金属等が挙げられる。よって、本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、抗原、ホルモン、免疫細胞、稀少細胞、糖、毒素、ウイルス粒子、及び金属等の定量に用いることができる。本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、測定に使用するバイオセンサの試薬層に含まれる酸化還元酵素の基質(例えば、グルコース、コレステロール、エタノール、ソルビトール、フルクトース、セロビオース、乳酸及び尿酸等)を対象とする測定(例えば、定量)には用いられない。
【0059】
よって、本開示は、その他の態様として、バイオセンサを用いて検体中の分析対象物を電気化学的に測定する方法に関する。本態様の方法で使用されるバイオセンサは、2以上の電極を含む導電部と、分析対象物を酸化還元酵素に変換可能な物質を含む第2の試薬層と、前記導電部に接して配置された第1の試薬層とを有し、第1の試薬層及び第2の試薬層は流路内に配置され、第2の試薬層は、第1の試薬層の上流に位置している。第1の試薬層は、前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを含む。本態様のバイオセンサにおける、電極、基質及びメディエータについては、上述の通りである。
【0060】
第2の試薬層及び第1の試薬層とは、一又は複数の実施形態において、接して配置されていてもよいし、離間して配置されていてもよい。
【0061】
本開示の測定方法は、一又は複数の実施形態において、検体として分析対象物を含有する検体を使用し、バイオセンサが、分子認識素子を含む第2の試薬層を備える以外は、上述の測定方法と同様に行うことができる。
【0062】
[バイオセンサの作製方法]
本開示のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、2以上の電極を含む導電部が形成された基材を準備し、そこに、酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを含む試薬層を載置することにより作製することができる。
試薬層は、2つ以上の電極のうち少なくとも作用極上の一部に載置する。試薬の載置方法は特に制限されないが、例えば、試薬の溶液を電極の一部にスポットし、乾燥させることで行うことができる。より具体的には、試薬層は、例えば、酸化還元酵素、2種類以上のメディエータと、必要に応じて緩衝剤及びバインダーが分散された分散液を調製し、これを電極上に分注して、乾燥させることによって形成できる。
【0063】
本開示のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、
図1A~Eに示す手順で作製することができる。但し、本開示において、バイオセンサの作製方法は以下の手順に限定されない。
【0064】
図1Aに示すように、基材10上に、作用極12、対極11、参照極及び検知極(1)13、並びに検知極(2)14を含む電極系をスパッタリングによって形成する。
図1A~Eに示すように、検知極(1)13と検知極(2)14とを備えることにより、検知極(1)13と対極11とで検体が検知極(1)13に到達したことを検知することができる。さらに、検知極(2)14と作用極12で検体が検知極(2)14に到達したことを検知することができる。これにより、検知極(1)13で検体が検知された時間と検知極(2)14で検体が検知された時間とからインキュベート時間を算出することもできる。
つぎに、試薬層を形成する。試薬層15は、少なくとも作用極12上の一部に載置すればよく、
図1Bに示すように、試薬層15は、検知極(1)13、対極11及び作用極12の一部に接触するように載置してもよい。試薬層15は、酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを少なくとも含み、必要に応じて緩衝剤及びバインダーが分散された試薬液(分散液)を調製し、これを、検知極(1)13、対極11及び作用極12の上に載置(分注)し、乾燥することにより形成することができる。また、追って形成される流路の末端に位置する部分に、止水部17を形成してもよい。止水部17は、一又は複数の実施形態において、止水用ポリマー等の止水剤を塗布して乾燥させることにより形成することができる。これにより、止水部17に接触した検体をゲル化させることにより、さらに流路の下流に移動することを止めることができる。
つぎに、
図1Cに示すように、試薬層15を載置した基材10上にスペーサー18を配置する。スペーサー18は、絶縁層を介して配置してもよい。スペーサー18は、一又は複数の実施形態において、樹脂製フィルム及びテープ等を用いて形成することができる。スペーサー18は、止水部17が形成された側の一端に形成された電極が露出するように配置する。
ついで、
図1Dに示すように、スペーサー18の上にカバー19を配置する。基板10及びカバー19によって囲まれた、スペーサー18の開口部の空間が流路となる。カバー19は、検体供給部となる貫通孔20と、通気口となる貫通孔21とを備え、検体供給部となる貫通孔20及び通気口となる貫通孔21は、それぞれ試薬層15及び止水部17の上部に位置するように形成する。カバー19の材質としては、一又は複数の実施形態において、PET等の各種プラスチック等が挙げられる。
図2に示すように、基板10及びカバー19によって囲まれた空間(流路)23が形成されており、その空間(流路)23を、検体供給部となる貫通孔20に供給された検体が試薬層15を経て通気口となる貫通孔21に移動することができる。
最後に、
図1Eに示すように、カバー19の検体供給部となる貫通孔20の周囲を覆うように、Oリング型撥水テープ22を配置する。これにより、検体が貫通孔20及び流路等の外に流出することを防ぐことができる。
【0065】
図3A~E及び
図4に、本開示のバイオセンサの作製方法のその他の例を示す。
図4は、
図3EのII-II線断面図である。
本開示のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、
図3A~E及び
図4に示すように、試薬層として第1の試薬層15と第2の試薬層16とを備えていてもよい。第1の試薬層15は、酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを少なくとも含み、第2の試薬層16は、酸化還元酵素で修飾された分子認識素子を含む。本態様のバイオセンサのように、第1の試薬層15と第2の試薬層16とを有することにより、一又は複数の実施形態において、第2の試薬層の材質に応じて、検体が第2の試薬層を通過する時間を調整することができ、検体と分子認識素子との反応時間を適宜変更することができる。
また検知極(1)13と対極11とで検体が検知極(1)13に到達したことを検知することができる。さらに、検知極(2)14と作用極12とで検体が検知極(2)14に到達したことを検知することができる。検知極(1)13で検体が検知された時間と検知極(2)14で検体が検知された時間からインキュベート時間を算出することもできる。
【0066】
図3Bに示すように、第2の試薬層16は、検知極(1)13及び対極11に接触するように配置されており、第1の試薬層15は対極11及び作用極12の一部に接触するように配置されている。第2の試薬層16は、酸化還元酵素で修飾された分子認識素子を含浸させた基材を、検知極(1)13及び対極11の上に配置することにより、形成することができる。基材としては、一又は複数の実施形態において、ガラスフィルター及びビーズ分離膜等が挙げられる。第1の試薬層15は、酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを少なくとも含み、必要に応じて緩衝剤及びバインダーが分散された試薬液(分散液)を調製し、これを、検知極(1)13、対極11及び作用極12の上に配置(分注)し、乾燥することにより形成することができる。
本態様のバイオセンサは、第1の試薬層15及び第2の試薬層16の2つの試薬層を形成する以外は、
図1A~Eに示すバイオセンサと同様に作製することができる。
【0067】
本開示は以下の限定されない一又は複数の実施形態に関しうる。
[A1] バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部に接して配置され、前記酸化還元酵素の基質及び2種類以上のメディエータを含む試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
該方法は、
酸化還元酵素を含む試料を前記試薬層に接触させること、
接触後、所定の時間のインキュベートを行うことにより、前記第2のメディエータに前記電子電子を蓄積させること、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること、
前記電圧の印加により発生した電気的信号を測定すること、及び
前記電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、方法。
[A2] 前記インキュベートの時間を、前記試薬層に含まれる基質が前記酸化還元酵素との反応によって枯渇しない範囲の時間に設定することを含む、[A1]記載の方法。
[A3] 前記試薬層における前記基質の配合量(試薬層の1cm3あたり)は、4.4nmol以上である、[A1]又は[A2]に記載の方法。
[A4] 前記インキュベートの時間は、1分以上である、[A1]から[A3]のいずれかに記載の方法。
[A5] 前記酸化還元酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼであり、前記基質は、グルコースである、[A1]から[A4]のいずれかに記載の方法。
[A6] 前記第1のメディエータと前記第2のメディエータとの組み合わせは、1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート(1-mPES)とルテニウム化合物との組み合わせ、又は1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-mPMS)とルテニウム化合物との組み合わせである、[A1]から[A5]のいずれかに記載の方法。
[B1] バイオセンサを用いて酸化還元酵素の量を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
該方法は、
前記酸化還元酵素を含む試料を前記バイオセンサの前記試薬層に接触させること、
接触後、前記電極の間に電圧を印加すること(第1の印加)、
前記第1の印加により発生した電気的信号を測定すること(第1の測定)、
前記第1の測定により得られた電気的信号に基づき、インキュベート時間を算出すること、
算出して得られた時間のインキュベートを行うこと、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること(第2の印加)、
前記第2の印加により発生した電気的信号を測定すること(第2の測定)、及び
第2の測定により得られた電気的信号に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、測定方法。
[C1] 酸化還元酵素を電気化学的に測定するためのバイオセンサであって、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、第1のメディエータと第2のメディエータとを含み、前記第1のメディエータは前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するためのメディエータであり、前記第2のメディエータは、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するためのメディエータであり、
[A1]から[A6]及び[B1]のいずれかに記載の測定方法に用いるための、バイオセンサ。
[C2] 酸化還元酵素を電気化学的に測定するためのバイオセンサであって、
2以上の電極を含む導電部と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された試薬層とを有し、
前記メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを含む、バイオセンサ。
[C3] 前記酸化還元酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼであり、前記基質は、グルコースである、[C1]又は[C2]に記載のセンサ。
[C4] 前記第1のメディエータと前記第2のメディエータとの組み合わせは、1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート(1-mPES)とルテニウム化合物との組み合わせ、又は1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-mPMS)とルテニウム化合物との組み合わせである、[C1]から[C3]のいずれかに記載のセンサ。
[D1] バイオセンサを用いて検体中の分析対象物を電気化学的に測定する方法であって、
前記バイオセンサは、
2以上の電極を含む導電部と、
酸化還元酵素で修飾された分子認識素子を含む第2の試薬層と、
前記酸化還元酵素の基質と、2種類以上のメディエータとを含み、前記導電部に接して配置された第1の試薬層とを有し、
前記メディエータは、前記基質と前記酸化還元酵素との反応により生じた電子を第2のメディエータに伝達するための第1のメディエータと、前記第1のメディエータから伝達された電子を前記電極に伝達するための第2のメディエータとを含み、
該方法は、
前記検体を前記バイオセンサに導入すること、
所定の時間のインキュベートを行うことにより、前記第2のメディエータに電子を蓄積させること、
インキュベート後、前記電極の間に電圧を印加すること、
前記印加により発生した電気的信号を測定すること、及び
前記測定値に基づき、前記酸化還元酵素の量を算出することを含む、測定方法。
[D2] 前記インキュベートの時間を、前記第1の試薬層に含まれる基質が前記酸化還元酵素との反応によって枯渇しない範囲の時間に設定することを含む、[D1]記載の方法。
[D3] 前記第1の試薬層における前記基質の配合量(試薬層の1cm3あたり)は、4.4nmolである、[D1]又は[D2]記載の方法。
[D4] 前記インキュベートの時間は、1分以上である、[D1]から[D3]のいずれかに記載の方法。
[D5] 前記酸化還元酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼであり、前記基質は、グルコースである、[D1]から[D4]のいずれかに記載の方法。
[D6] 前記第1のメディエータと前記第2のメディエータとの組み合わせは、1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート(1-mPES)とルテニウム化合物との組み合わせ、又は1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-mPMS)とルテニウム化合物との組み合わせである、[D1]から[D5]のいずれかに記載の方法。
【0068】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0069】
実験例では、下記の試薬及び電極を使用した。
[バッファー]
0.5M リン酸バッファー(pH7.3~7.4、0.5M NaCl、0.25%Tween20)
[メディエータ]
ルテニウム化合物(Ru(NH3)3Cl6、株式会社同仁化学研究所社製)
1-mPES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート、株式会社同仁化学研究所社製)
[GDH]
FAD-dependet Glucose Dehydrogenase(商品名:Glucose Dehydrogenase “Amano 8”、MW:18万、天野エンザイム株式会社製)
[基質]
グルコース
[電極]
DEP-CHIP(型名:DEP-ER-N、丸型金電極、固定化用印刷電極(3電極系)、外寸:12.5mm×4mm×0.3mm、作用極面積:3.67mm2、株式会社バイオデバイステクノロジー製)
【0070】
[実験例1]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
3.2のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
5.4のチューブに、50μlのGDH溶液を終濃度が0~12.5nMとなるように分注し、かつ測定器に接続した電極を反応液に浸漬
6.最後のGDH溶液を分注したタイミングでインキュベート時間の計測開始
7.計測開始から5分経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:15秒
サンプリング間隔:0.1秒
8.測定終了
【0071】
反応液(6のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
0~12.5nM GDH
【0072】
得られた結果を
図5A及びBに示す。
図5A及びBは、印加開始後2秒の応答値のグラフであり、
図5Bは、低濃度(0~0.8nM)の範囲を拡大したものである。
図5A及びBに示すとおり、0.024nM(24pM)~12.5nMの範囲のGDH濃度を5分間インキュベートして蓄電することにより検出することができた。つまり、5分間のインキュベート(蓄電)により、pMオーダーのGDHを測定できた。
印加後早い時間(例えば、印加から2秒後)で取得した応答値により、直線性の高いGDHの定量ができた。
【0073】
[実験例2]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
3.2のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
5.4のチューブに、50μlのGDH溶液を終濃度が0.56、5.56及び55.56nMになるように分注し、かつ測定器に接続した電極を反応液に浸漬
6.最後のGDH溶液を分注したタイミングで蓄電時間計測開始
7.所定時間(5分、10分、15分のいずれか)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:30秒
サンプリング間隔:0.1秒
8.測定終了
【0074】
反応液(6のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
0.56nM、5.56nM、55.56nM GDH
【0075】
得られた結果を
図6A~Cに示す。
図6A~Cは、インキュベート時間が5分の応答値を100としたときの相対値(感度比)を示す。応答値は印加開始後2秒の応答値を使用した。
図6A~Cに示すとおり、いずれのGDH濃度においても、インキュベート時間に依存した応答値の増大が見られた。
【0076】
[実験例3]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlのGlucoseを終濃度が2~200mMとなるように分注
3.2のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
5.4のチューブに、50μlの5nM GDH溶液を分注し、かつ測定器に接続した電極を反応液に浸漬
6.最後のGDH溶液を分注したタイミングで蓄電時間計測開始
7.所定時間(5分)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:10秒
サンプリング間隔:0.1秒
8.測定終了
【0077】
反応液(6のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
2~200mM Glucose
1mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
1nM GDH
【0078】
得られた結果を
図7に示す。応答値は印加開始後2秒の応答値を使用した。
図7に示すとおり、本実験例の条件では、Glucose濃度(基質濃度)が10mM以上において200nAを超える高い応答電流が得られた。Glucose濃度(基質濃度)が60mM以上(60~200mM)の場合、応答値が変化しなかった(応答値の減少がみられなかった)。つまり、反応液中の基質(Glucose)濃度が高濃度である場合(例えば、検体である生体試料中に酸化還元酵素反応の基質となる物質が高濃度で含まれている場合)であっても、酵素(GDH)がGlucoseによる基質阻害を受けることなく、酵素の濃度を測定できることを確認した。
【0079】
[実験例4]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。分注は、反応液中のメディエータの濃度が下記表に示す濃度となるように行った。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
3.2のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注(1-mPESを含まないものはバッファーを分注)
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注(Ru化合物を含まないものはバッファーを分注)
5.4のチューブに、50μlのGDH溶液を終濃度が0~10nMになるように分注し、かつ測定器に接続した電極を反応液に浸漬
6.最後のGDH溶液を分注したタイミングで蓄電時間計測開始
7.所定時間(5分)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:10秒
サンプリング間隔:0.01秒
8.測定終了
【0080】
反応液(6のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1-mPES及びRu(NH
3)
3Cl
6は以下表
0~10nM GDH
【表1】
【0081】
その結果を
図8に示す。応答値は印加開始後2.0~2.1秒の応答値の平均値を使用した。
図8に示すとおり、1種類のメディエータのみでは十分な応答値を得ることができなかった。特に、ルテニウム化合物のみを使用した場合では、いずれのGDH濃度でも応答値を得ることができなかった。これは、ルテニウム化合物がGDHから電子をほとんど受取ることができなかったもしくは、受け取った電子を蓄電することができなかったことに起因すると考えられる。
これに対し、2種類のメディエータ(ルテニウム化合物及び1-mPES)を使用することで、いずれのGDH濃度でも高い応答値を得ることができた。
【0082】
[実験例5]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
3.2のチューブに、50μlの5mM又は500mM 1-mPESを分注
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
5.4のチューブに、50μlの5nM GDH溶液を分注し、かつ測定器に接続した電極を反応液に浸漬
6.最後のGDH溶液を分注したタイミングで蓄電時間計測開始
7.所定時間(5分)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:10秒
サンプリング間隔:0.01秒
8.測定終了
【0083】
反応液(6のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1mM又は100mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
1nM GDH
【0084】
その結果を
図9に示す。応答値は印加開始後2.0~2.1秒の応答値の平均値を使用した。
図9に示すとおり、1-mPES(第1のメディエータ)の量を100mMへ増加させることで、感度(応答値)を2倍以上にすることができた。
【0085】
[実験例6]
分子認識素子としてGDHで修飾(標識)されたアデノシンDNAアプタマーを用いて、下記の手順で、反応液中のGDHを電気化学的に測定した。
アデノシンDNAアプタマーは、標的分子認識部としてアデノシンを認識し結合可能なアプタマーであって、GDHで標識され、かつ磁性ビーズに固定化されている。アデノシンDNAアプタマー固定化ビーズは、アデノシンがアプタマーに結合すると、GDH標識アプタマーがビーズより遊離する。
<手順>
1.PCRチューブに、100μlのアデノシンDNAアプタマー固定化ビーズを分注(終濃度:6pmol/100μl)
2.集磁し、液を廃棄
3.2のチューブに、アデノシンをバッファーに溶解させたアデノシン溶液を120μl分注(アデノシン終濃度:0、7.5、12.5、37.5、75、125、375又は750μM)
4.5分間反応させた後、集磁(2分間)し、上清を回収
5.PCRチューブに、50μlのバッファーを分注
6.5のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
7.6のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注
8.7のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
9.8のチューブに、50μlの4のサンプル(GDH標識アプタマーを含む)を分注し、かつ測定器に接続
10.最後の4のサンプルを分注したタイミングで蓄電時間計測開始
11.所定時間(5分)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定
印加電圧:200mV
計測時間:10秒
サンプリング間隔:0.01秒
12.測定終了
【0086】
反応液(10のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
アデノシン濃度に応じて磁性ビーズから遊離したGDH標識アプタマー
【0087】
バッファーに代えて血漿に溶解させたアデノシン溶液を使用した以外は、上記の手順で同様に測定を行った。
【0088】
その結果を
図10に示す。応答値は印加開始後2.0~2.1秒の応答値の平均値を使用した。
図10に示すとおり、血漿とバッファーとで感度に違いは認められるが、測定対象物(アデノシン)濃度に依存した応答電流の増大が確認された。
つまり、アプタマーと分析対象物(アデノシン)の反応により遊離したGDH修飾アプタマーを用いた対象物濃度の検出ができた。
【0089】
[実験例7]
以下の手順で、GDHを電気化学的に測定した。
[デバイスの作製]
PET基材上に、金属をスパッタリングしてトリミングすることにより、対極、作用極及び参照極を有する電極を作製した。得られた電極を用いて、キャピラリー構造を有するデバイスを作製した。
<手順>
1.PCRチューブに50μlのバッファーを分注
2.1のチューブに、50μlの1M Glucoseを分注
3.2のチューブに、50μlの5mM 1-mPESを分注
4.3のチューブに、50μlの500mM Ru化合物を分注
5.4のチューブに、50μlのGDHを終濃度が0.56nM、5.56nM、及び55.56nMになるように分注
6.分注後速やかに(分注から10秒後程度)、5のチューブからサンプルの一部を上記のデバイス1個に吸引
7.吸引後速やかに電極に電圧を印加し電気化学測定(第1の印加及び第1の測定)
印加電位:200mV
計測時間:5秒
サンプリング間隔:0.1秒
8.5の分注から所定のインキュベート時間(1、3又は5分)経過後、電極に電圧を印加し電気化学測定(第2の印加及び第2の測定)
印加電圧:200mV
計測時間:15秒
サンプリング間隔:0.1秒
9.測定終了
【0090】
反応液(7及び8のチューブ)の組成は、以下の通りである。
<反応液の組成>
0.1M リン酸バッファー(pH7.3~7.4)
0.1M NaCl
0.05% Tween20
200mM Glucose
1mM 1-mPES
100mM Ru(NH3)3Cl6
0.56、5.56及び55.56nM GDH
【0091】
その結果の一部を
図11A及びBに示す。
図11Aが第1の測定(プレ印加時)の応答電流値の測定結果であり、
図11Bが第2の測定時の応答電流値の測定結果である。
図11Aの応答値は印加開始後0.5秒の応答値を使用し、
図11Bの応答値は印加開始後2.0秒の応答値を使用した。
図11Aに示すとおり、第1の測定(プレ印加)では、GDH濃度が高いサンプルでは電流値が高く、GDH濃度が低いサンプルでは電流値が低かった。第1の測定の電流値に応じて、第2の測定におけるインキュベート(蓄電)の時間を変化させた。その結果を
図11Bに示す。第1の測定における電流値が高かったサンプル(計測開始後0.5秒の電流値が2000nA以上)は、1分間のインキュベート(蓄電)で十分に測定することができた。プレ印加の電流値が1000nA以上2000nA未満の場合は、3分間のインキュベート(蓄電)で測定することができた。第1の測定の電流値が1000nA未満の場合は、5分間のインキュベート(蓄電)することで応答値が検出できる程度であった。
つまり、第1の測定の電流値について予め閾値及び各閾値に対するインキュベート(蓄電)時間を設定し、第1の測定の測定値を閾値と比較してインキュベート(蓄電)時間を変化させことで、より迅速な測定が可能となり、かつデバイスへの負荷低減や、電極構造における対極面積をより小さく設定できうることが示唆された。
【0092】
[バイオセンサの作製]
バイオセンサは、
図3A~Eに示すように以下の手順で作製した。
図3Aに示すように、PET製基板10(長さ:50mm、幅6mm、厚み、250μm)を準備し、その一方の表面に、金属をスパッタリングし、それをトリミングすることにより、検知極(1)13、対極11、作用極12、並びに参照極及び検知極(2)14を形成した。
つぎに、
図3Bに示すように、電極を形成した基板10の上に、第1の試薬層15、第2の試薬層16及び止水部17を設けた。第2の試薬層16は、検知極(1)13及び対極11に接触するようにそれらの上に設けた。第1の試薬層15は、対極11及び作用極12の一部に接触するようにそれらの上に設けた。止水部17は、参照極及び検知極(2)14の上に設けた。第2の試薬層16は、酸化還元酵素で修飾された分子認識素子を含有させたガラスフィルターを配置することにより形成した。第2の試薬層16のフィルターは、直径3mmとした。第1の試薬層15は、酸化還元酵素の基質、第1及び第2のメディエータ並びに緩衝剤を含む試薬液を配置し乾燥させることで形成した。止水部17は、止水用ポリマーを配置することにより形成した。
つぎに、
図3Cに示すように、第2の試薬層16、第1の試薬層15及び止水部17が露出するような開口部を有するスペーサー18を、第2の試薬層16、第1の試薬層15及び止水部17を形成した基材10の上に配置した。また、スペーサー18は、一方の端部(同図の右手側)の電極が露出するように配置した。
つぎに、
図3Dに示すように、スペーサー18上に、検体供給部となる貫通孔20と、通気口となる貫通孔21とを備えるカバー19を配置した。基板10及びカバー19によって囲まれた、スペーサー18の開口部の空間が流路となる。流路の高さは100μm程度とした。検体供給部となる貫通孔20及び通気口となる貫通孔21は、それぞれ第2の試薬層16及び止水部17の上部に位置するように形成した。検体供給部となる貫通孔20は直径4mmとし、通気口となる貫通孔21は直径0.5mmとした。
最後に、
図3Eに示すように、カバー19の上に、Oリング型撥水テープ22(内径:2mmかつ外径:6mm)を配置した。撥水テープ22は、検体供給部となる貫通孔20の周囲を覆うように配置し、これにより、検体が第2の試薬層16(フィルター)の外に流出することを防ぐことができる。
図4は、
図3EにおけるII-II線断面図である。
図4に示すように、基板10及びカバー19によって囲まれた空間(流路)23が形成されており、その空間(流路)23を、検体供給部となる貫通孔20に供給された検体が第2の試薬層16及び第1の試薬層15を経て通気口となる貫通孔21に移動することができる。