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特開2023-13675熱可塑性樹脂フィルム、粘着フィルム及び半導体製造工程用粘着フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013675
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、粘着フィルム及び半導体製造工程用粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
B32B27/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118027
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】川口 祐二
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK28A
4F100AK28B
4F100AL02A
4F100AL02B
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA06
4F100GB43
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JK08
4F100JL02
4F100JL13D
(57)【要約】
【解決課題】樹脂をフィルム状に成形する際の製膜性に優れ、且つ柔軟性や復元性、エキスパンド性にも優れたフィルムを提供する。
【解決手段】2層以上からなる熱可塑性樹脂フィルムにおいて、各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーを含有し、且つ表裏層に含まれるスチレン系エラストマーのスチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上からなる熱可塑性樹脂フィルムであって、
各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーを含有し、且つ表裏層に含まれるスチレン系エラストマーのスチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、当該熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーのみからなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
表裏層を構成する熱可塑性樹脂が、スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であるスチレン系エラストマーのみからなる請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン系化合物とのブロック共重合体、その水素添加物、及びこれらの混合物のいずれかである請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
表層/中間層/裏層からなる2種3層もしくは3種3層からなる請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を設けてなる粘着フィルム。
【請求項7】
半導体製造工程に用いられる請求項6に記載の半導体製造工程用粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程で使用される粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の粘着フィルム(テープ)、化粧シート等の基材に好適に用いられる熱可塑性樹脂フィルム及び当該熱可塑性樹脂フィルムに粘着層を設けた粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の粘着フィルム(テープ)、化粧シート等には、着色性、加工性、耐傷付き性、耐候性等が優れるポリ塩化ビニル樹脂製のフィルム(以下、「PVC系フィルム」ともいう。)が基材として多用されている。
【0003】
上記PVC系フィルムは、それ自体剛性を有しているが、粘着フィルムとして機能し得るように、柔軟性付与の目的で可塑剤が添加される。しかしながら、用いる可塑剤によっては、粘着剤との相溶性が悪く、粘着フィルムとした場合に安定性が悪く、可塑剤のブリードアウトが著しくなるという問題がある。また、可塑剤の使用自体に規制が強まる傾向もある。
そこで、PVC系フィルムに代わる材料として、ポリオレフィン系樹脂フィルムが広く用いられてきている。
【0004】
また、半導体を製造する工程においても、半導体ウェハやパッケージ等を切断する際に半導体ウェハ加工用の粘着フィルムが用いられており、上記のような問題からポリオレフィン系樹脂フィルムが用いられるケースが増加している。
このような半導体製造工程用のフィルムとして、PVC系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を用いたフィルムが開発されている(例えば、特許文献1)。また、特許文献2には、帯電防止性能の付与および柔軟性と耐熱性に優れた半導体製造工程用基材フィルムが開示されている。
【0005】
さらに、近年、半導体素子の小型化・薄型化が進み、半導体ウェハのチップ同士の間隔を拡張するためのエキスパンド工程における、フィルムの拡張性がより求められる傾向にある。チップが小さくなるに伴い、チップ同士の接触によるチップやデバイスの破損が起こりやすくなり、それに起因する歩留まりの低下といった経済性への影響も大きくなる。
【0006】
それらの課題の解決のため、特許文献3および特許文献4には、スチレン系エラストマーを多く含有するエキスパンド性に優れたダイシング用基材フィルムが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載されている発明では、拡張性が十分ではないポリオレフィン系樹脂やオレフィン系エラストマーが主成分であり、エキスパンド性が不足するものであった。
また、特許文献3に記載されている発明はスチレン系エラストマーが多く用いられているものの、同文献では、フィルムの加工性や取り扱い性を考慮した材料が選定されておらず、スチレン系エラストマーについての詳細な記載はない。
特許文献4に記載されている発明は、中間層がスチレン系エラストマーのものが記載されており、エキスパンド性にも優れるとの内容の記載がある。ただし、樹脂をフィルム状に成形する際の製膜性を考慮した際の、スチレン系エラストマーの選択には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-8111号公報
【特許文献2】特開2020-84143号公報
【特許文献3】特許4259050号公報
【特許文献4】特開2018-125521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みて、樹脂をフィルム状に成形する際の製膜性に優れ、且つ柔軟性や復元性、エキスパンド性にも優れたフィルムを提供することを目的とする。また、本発明のフィルムは、柔軟性や復元性、エキスパンド性に優れることから、チップ同士の間隔を十分に確保することの可能な半導体製造工程用粘着フィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、2層以上からなる熱可塑性樹脂フィルムの特定の層に特定のスチレン系エラストマーを含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
2層以上からなる熱可塑性樹脂フィルムであって、
各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーを含有し、且つ表裏層に含まれるスチレン系エラストマーのスチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下である、当該熱可塑性樹脂フィルム。
[2]
各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーのみからなる[1]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[3]
表裏層を構成する熱可塑性樹脂が、スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であるスチレン系エラストマーのみからなる[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[4]
前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン系化合物とのブロック共重合体、その水素添加物、及びこれらの混合物のいずれかである[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[5]
表層/中間層/裏層からなる2種3層もしくは3種3層からなる[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[6]
[1]~[5]のいずれかの熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を設けてなる粘着フィルム。
[7]
半導体製造工程に用いられる[6]に記載の半導体製造工程用粘着フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、樹脂をフィルム状に成形する際の製膜性に優れ、且つ柔軟性や復元性、エキスパンド性にも優れたフィルムを提供することが可能となる。また、本発明のフィルムは、柔軟性や復元性、エキスパンド性に優れることから、チップ同士の間隔を十分に確保することの可能な半導体製造工程用粘着フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0014】
本発明の1つの実施態様は、2層以上からなる熱可塑性樹脂フィルムであって、各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーを含有し、且つ表裏層に含まれるスチレン系エラストマーのスチレン成分含有率が14質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、当該熱可塑性樹脂フィルムである(以下、「本発明の熱可塑性樹脂フィルム」とも言う)。
【0015】
<スチレン系エラストマー>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムで用いられるスチレン系エラストマーはハードセグメントを構成するビニル芳香族化合物とソフトセグメントを構成する共役ジエン系化合物とのブロック共重合体、その水素添加物、及びこれらの混合物のいずれかであることが好ましい。フィルムに成形する際の熱による劣化やその劣化物のフィルムへの混入防止の観点から、水素添加物であることがさらに好ましい。
【0016】
前記スチレン系エラストマーの水素添加物としては、部分的に水素添加されたもの(部分水添)でもよく、完全に水素添加されたもの(完全水添)でもよい。
部分水添のものを用いるか完全水添のものを用いるか、もしくは両方ともを併用するかはフィルムの用途や成形性等の観点から適宜選択することができる。上述の成形時の劣化の観点から、完全水添のものを用いることが好ましい。
【0017】
前述のブロック共重合体としては、下記式(I)又は(II)で表されるブロック共重合体であることが好ましい。
X-(Y-X)n …(I)
(X-Y)n …(II)
一般式(I)および(II)におけるXはスチレンに代表されるビニル芳香族重合体ブロック(以下、スチレン成分)で、式(I)においては分子鎖両末端で重合度が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、Yとしてはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、ブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロック、水添されたイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、部分水添されたブタジエン重合体ブロック、部分水添されたイソプレン重合体ブロックおよび部分水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロックの中から選ばれる少なくとも1種である。また、nは1以上の整数である。
【0018】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体が好適である。また、スチレン-エチレン・ブチレン-結晶性オレフィン共重合体であるブロック共重合体を用いることもできる。
【0019】
本発明では、熱可塑性樹脂フィルムの表裏層は、スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であるスチレン系エラストマーを含有することが必要となる。
表裏層に、スチレン成分の含有率が14質量%以上であるスチレン系エラストマーを用いることにより、フィルムの表裏層が柔軟になりすぎることがなく、フィルムを搬送する際のロール等への貼りつきの抑制が可能となり、フィルムを得ることが容易となる。またスチレン成分の含有率が60質量%以下であればスチレン系エラストマーが有する柔軟性や復元性を損なうことがなく、得られるフィルムに適度な柔軟性や復元性、エキスパンド性を付与することが可能となる。スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であるスチレン系エラストマーを、以下「スチレン系エラストマー(A)」とも言う。
【0020】
スチレン系エラストマー(A)のスチレン成分の含有率の下限は、15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、上限は55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
表裏層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマー(A)の含有率としては、樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂100質量%中に50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。スチレン系エラストマー(A)を50質量%以上含有させることで、前述した通り表裏層が柔軟になりすぎることがなく、フィルムを搬送する際のロール等への貼りつきの抑制が可能となる。また、柔軟性やロール等への貼りつきの観点から、樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂をスチレン系エラストマー(A)100質量%とすることも可能である。
表裏層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマー(A)の含有率は、樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂100質量%中に60質量%以上100質量%以下がより好ましく、70質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
また、表層と裏層のそれぞれの層を構成する樹脂組成物もしくは樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂中のスチレン系エラストマー(A)の含有率は同じであってもよいし、異なっていてもよい。スチレン系エラストマー(A)の含有率が上述の範囲内であれば、得られるフィルムの性能やフィルムの製膜性に応じて、用いるスチレン系エラストマーの種類や添加量を表裏それぞれの層毎に適宜選択することができる。
【0021】
スチレン成分の含有率およびそれ以外の成分の含有率は、H-NMRや13C-NMRを用いることにより測定することができる。ここで、「スチレン成分の含有率」とは、スチレン系エラストマーの質量を基準としてスチレンに代表されるビニル芳香族重合体ブロックの含有割合(質量%)をいう。
【0022】
スチレン系エラストマーのメルトフローレイト(230℃もしくは190℃の温度条件下、荷重2.16kgで測定した値)は、0.1~10g/10分であることが好ましく、0.15~9g/10分であることがより好ましく、0.2~8g/10分であることが特に好ましい。スチレン系エラストマーのメルトフローレイトが0.1g/10分未満および、10g/10分を越えるものを用いると、スチレン系エラストマーを複数用いる場合のそれらの相溶性の低下や製膜性の悪化、得られるフィルムの外観の悪化により、フィルムに十分な性能が発現しない可能性がある。
【0023】
スチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、タフプレンA、タフプレン125、アサプレンT-438、アサプレンT-439、タフテックH1221、タフテックH1041、タフテックH1052、タフテックH1053、タフテックH1062、タフテックH1521、タフテックH1517、タフテックP1083、タフテックP5051(以上、旭化成社製)、セプトン4099、セプトンHG252、セプトン8004、セプトン8006、セプトン8007L、セプトンHG252、セプトンV9461、セプトンV9475、ハイブラー7311、ハイブラー7125F、ハイブラー5127、ハイブラー5125(以上、クラレ社製)、ダイナロン1320P、ダイナロン4600P、ダイナロン8300P、ダイナロン8903P、ダイナロン9901P(以上、JSR社製)等が挙げられる。
【0024】
上記スチレン系エラストマーの中でもスチレン成分の含有量が14質量%以上60質量%以下の範囲内であるスチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、タフテックH1041、タフテックH1052、タフテックH1053、タフテックH1062、タフテックH1521、タフテックH1517、タフテックP1083、タフテックP5051(以上、旭化成社製)、セプトン8007L、セプトンHG252、ハイブラー5125(以上、クラレ社製)、ダイナロン4600P、ダイナロン8903P、ダイナロン9901P(以上、JSR社製)等が挙げられる。
【0025】
上記スチレン系エラストマーは、1種類のエラストマーを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。フィルムを得る際の製膜性や、得られる熱可塑性樹脂フィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。熱可塑性樹脂フィルムの製膜性や、得られるフィルムの性能の観点から、2種類以上のスチレン系エラストマーを併用することがより好ましい。
2種以上を併用する場合、スチレン系エラストマーの少なくとも1種をスチレン成分の含有率が35質量%以上60質量%以下の範囲内のものとすることが好ましい。スチレン成分の含有率が35質量%以上60質量%以下の範囲内のものと併用することで、エキスパンド性を損なうことなく、フィルムに適度な剛性を付与することが可能となり、得られるフィルムの取扱い性を向上させることが可能となる。スチレン成分の含有率としてより好ましくは、37質量%以上60質量%以下の範囲内、さらに好ましくは39質量%以上60質量%以下の範囲内である。
【0026】
<その他樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの各層には、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、環状オレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂等を、フィルムの性能を損なわない範囲で添加することもできる。しかしながら、得られるフィルムの柔軟性や復元性、エキスパンド性が悪化する可能性があることから、上記の樹脂は添加しないもしくは性能を損なわない範囲で少量の添加とすることが好ましい。
【0027】
<その他成分>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、得られるフィルムに必要とされる性能を付与するために、スチレン系エラストマーや前述したその他の樹脂以外の成分として、耐熱性や耐候性、帯電防止性能等を付与するために各種添加剤を配合することができる。
具体例としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、染顔料、結晶核剤、紫外線吸収剤、充填剤、剛性を付与する無機フィラー、及び柔軟性を付与するために前述したもの以外のエラストマー等を、本発明の効果を阻害しない範囲において用いてもよい。
また、フィルムの各層のそれぞれに異なった性能を付与する必要がある場合は、各層毎に性能の異なる各種添加剤を付与することも可能である。
【0028】
帯電防止剤としては、公知のものを使用することができるが、得られる熱可塑性樹脂フィルムとの相溶性や、長期的な帯電防止性能の付与、経時での帯電防止剤のブリードアウトの抑制といった観点から、高分子型帯電防止剤を用いることが好ましい。
【0029】
高分子型帯電防止剤としては公知のものを使用することができ、例えば、疎水性ブロックと親水性ブロックとのブロック共重合体を用いることができる。高分子型帯電防止剤は、疎水性ブロックと親水性ブロックとが、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合及びウレア結合等によってブロック共重合体を形成している。
【0030】
疎水性ブロックには、例えば、ポリオレフィンブロックを挙げることができ、ポリオレフィンブロックには、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体からなるブロック等を挙げることができる。
【0031】
ポリオレフィンブロック等の疎水性ブロックは、その両末端にカルボニル基、水酸基、及び、アミノ基等の極性基を有している。疎水性ブロックが両末端に有している極性基を、親水性ブロックの両末端に存在するカルボニル基、水酸基、及び、アミノ基等に重合させるか、或いは、ジイソシアネートやジグリシジルエーテル等によって架橋させることにより、疎水性ブロックと親水性ブロックとのブロック共重合体を得ることができる。
【0032】
親水性ブロックには、例えば、ポリエーテルブロック、ポリエーテル含有親水性ポリマーブロック、カチオン性ポリマーブロック及びアニオン性ポリマーブロックを挙げることができる。
なお、高分子型帯電防止剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、更に帯電防止性を向上させるために、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、界面活性剤及びイオン性液体等が配合されていてもよい。
【0033】
高分子型帯電防止剤の一つであるポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体の市販品としては、例えば、ペレスタット300、ペレスタット230、ペレクトロンUC、ペレクトロンPVL、ぺレクトロンPVH(以上、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0034】
紫外線吸収剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0035】
光安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
【0036】
滑剤やアンチブロッキング剤としては、有機系粒子や無機系粒子、アマイド系化合物といった公知のものを使用することができる。また、前述したポリオレフィン系樹脂との相溶性に優れ、得られるフィルムの表面へのブリードアウトによる不具合や長期的な耐傷付き性や滑り性の付与を可能にすることから、シリコン-オレフィン共重合体を用いることが好ましい。
【0037】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、2層以上からなり、各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーを含有し、且つ表裏層に含まれるスチレン系エラストマーが、スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であることを特徴とするものである。
【0038】
得られる熱可塑性樹脂フィルムに柔軟性と復元性、エキスパンド性を付与するためにフィルムを構成するすべての層にスチレン系エラストマーの添加が必要となる。また、スチレン系エラストマーの項に記載した通り、表裏層に、スチレン系エラストマー(A)(即ち、スチレン成分の含有率が14質量%以上60質量%以下であるスチレン系エラストマー)を用いることにより、フィルムの表裏層が柔軟になりすぎることがなく、フィルムを搬送する際のロール等への貼りつきの抑制が可能となり、フィルムを得ることが容易となる。
なお、本明細書において表裏層とは、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの層構成のうち最外層に位置する層をいう。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、熱可塑性樹脂フィルムを構成する各層の全てにスチレン系エラストマーの添加は必要であるが、各層を構成する熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーのみからなることがより好ましい。スチレン系エラストマーのみからなるフィルムとすることで、フィルムの柔軟性と復元性、エキスパンド性を向上させることができる。
【0040】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、表裏層を構成する熱可塑性樹脂が、スチレン系エラストマー(A)のみからなることがさらに好ましい。これにより、フィルムの柔軟性の調整と搬送する際のロール等への貼りつきを抑制することができる。
表裏層以外の層については、使用されるスチレン系エラストマーの種類に特に制限はなく、前述したスチレン系エラストマーの中から適宜選択することができるが、得られるフィルムの柔軟性の調整のために、スチレン系エラストマー(A)を添加することがより好ましい。また、表裏層に位置する層と同じ構成の熱可塑性樹脂および樹脂組成物としてもよい。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、2層以上からなる複層フィルムであればよい。
ここで、複層フィルムの中間に位置する層は、複層フィルムが例えば3層からなる場合は、所謂中間層を意味するが、複層フィルムが4層以上からなる場合は、真中の層だけではなく、その前後の層も含まれる。例えば、複層フィルムが4層からなる場合は、「複層フィルムの中間に位置する層」には表層から数えて2番目及び3番目の層も含まれ、複層フィルムが5層からなる場合は、表層から数えて3番目の層に加えて、表層から2番目及び4番目の層も「複層フィルムの中間に位置する層」に含まれる。
本複層フィルムの具体的な構成としては、例えば、スチレン系エラストマー(A)を含有する層を表裏層とした2種2層もしくは表裏層が同組成である実質的に単層ではあるが1種2層の構成、スチレン系エラストマー(A)を含有する層を表裏層とし、さらに表裏層と同組成もしくは異なる組成からなる中間層を有する1種3層もしくは2種3層の構成、スチレン系エラストマー(A)を含有するが表裏で異なる樹脂組成である表裏層とそれらとさらに組成の異なる中間層とした3種3層の構成、さらに表裏で異なる樹脂組成であるが、中間層はそのいずれかの組成と同組成である実質的に1種2層である2種3層の構成、その他それ以上の複層構造を有する複層フィルムといったものが挙げられる。
製膜のし易さや設備の取り扱い性の観点から、2種2層、2種3層、3種3層、実質的に単層なる1種2層もしくは1種3層の構成であることが好ましい。
【0042】
また、本複層フィルムの、表裏層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマー(A)の含有率としては、スチレン系エラストマーの項にて前述した通り、樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂100質量%中に50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下がより好ましく、70質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
また、表裏層を含むすべての層に含まれるスチレン系エラストマーとして、2種以上を併用する場合にも、前述した通り、スチレン系エラストマーの少なくとも1種をスチレン成分の含有量が35質量%以上60質量%以下の範囲内のものとすることが好ましい。スチレン成分の含有量が35質量%以上60質量%以下の範囲内のものと併用することで、エキスパンド性を損なうことなく、フィルムに適度な剛性を付与することが可能となり、得られるフィルムの取扱い性を向上させることが可能となる。スチレン成分の含有量としてより好ましくは、37質量%以上60質量%以下の範囲内、さらに好ましくは39質量%以上60質量%以下の範囲内である。
【0043】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの総厚みは、30~250μmであることが好ましい。フィルムの総厚みが30μm以上であればフィルムを生産する際の製膜性や得られるフィルムの取り扱い性が良好となり、250μm以下であれば経済性の観点やフィルムを用いた粘着加工等の工程通過性を良好に保つことが可能となる。また、経済性の観点やエキスパンド性の観点から30~200μmの範囲内であることがより好ましく、30~150μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率が、50~1500MPaの範囲内であることが好ましい。フィルムの引張弾性率が50MPa以上であればフィルムに十分な剛性が付与されていることから、取り扱い性を良好に保つことが可能となり、1500MPa以下であれば該フィルムに粘着層を積層する工程におけるフィルムの加工性を良好に保つことが可能となり、さらにエキスパンド時に当該フィルムや装置にかかる負荷を適正なものとすることが可能となる。より好ましくは50~1000MPa、さらに好ましくは50~500MPaの範囲内である。
【0045】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムのエキスパンド性は、ヒューグルエレクトロニクス社製のウェハ拡張装置を用いて測定することができる。また、熱可塑性樹脂フィルムに積層される粘着層の影響の確認のために、粘着層を積層した後の粘着フィルムを用いることが好ましい。粘着フィルムについては後述する。
【0046】
エキスパンド試験のリングサイズ、突き上げ速度、突き上げ量、ステージ温度については、ウェハのサイズ、エキスパンド時のフィルムの破れや裂けの防止、チップの間隔を十分なものとすることができるような条件であれば、任意に設定することが可能である。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの成形方法としては、公知の方法を用いることができるが、溶融押出成形法を用いることが好ましい。溶融押出成形法の中でも、Tダイを有する押出機より溶融状態の樹脂を押出し、冷却固化させてフィルムを得るTダイ成形法がより好ましい。
【0048】
フィルムを得るためには、複数の押出機を利用した共押出Tダイ成形法とすることが好ましい。複数の押し出し機を利用した共押出Tダイ成形法を用いることで、複層のフィルムを得ることが可能となる。
さらに全ての押出機から同一の樹脂を押出すことで全層が同一の樹脂組成物からなる実質的に単層のフィルムを得ることも可能となる。
【0049】
共押出Tダイ成形法としては、マルチマニホールドダイを用いて、複数の樹脂層をフィルム状としたのち、Tダイ内で接触させて複層化させフィルムを得る方法と、フィードブロックと称する溶融状態の樹脂を合流させる装置を用い、複数の樹脂を合流させ密着した後、複層のフィルムを得る方法が挙げられる。
【0050】
フィルムには必要に応じて、片面又は両方の面にプラズマ処理やコロナ処理、オゾン処理および火炎処理等の方法による表面処理を行ってもよい。得られるフィルムの用途に応じて、片面又は両方の面に表面処理を行うかを選択することができる。
【0051】
<粘着フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、少なくとも片方の面に粘着層を積層することで、粘着フィルムとすることができる(以下「本発明の粘着フィルム」ともいう)。
【0052】
粘着層として用いられる粘着剤は特に限定されないが、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等の各種粘着剤が用いられる。また粘着層の上にさらに接着層や熱硬化性樹脂層等の機能層を設けてもよい。
【0053】
本発明の粘着フィルムにおいて、粘着層を積層する前のフィルムの片面もしくは両方の面に、前述した表面処理を行ってもよい。また、基材フィルムと粘着層の間には、必要に応じて、プライマー層を設けてもよい。
粘着層やプライマー層の厚さは、必要に応じて適宜決めることができる。
【0054】
本発明の粘着フィルムは、柔軟性と復元性、エキスパンド性に優れるフィルムを用いていることから、半導体製造工程用途に好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、評価した特性の測定方法等は、次の通りである。
【0056】
<スチレン系エラストマー>
スチレン系エラストマー(A-1):
JSR社製、「ダイナロン4600P」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレイト:5.5g/10分、スチレン成分の含有率:20質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-結晶性オレフィン共重合体)
スチレン系エラストマー(A-2):
旭化成社製、「タフテックH1041」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレイト:5.0g/10分、スチレン成分の含有率:30質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
スチレン系エラストマー(A-3)
旭化成社製、「タフテックP5051」(190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイト:3.0g/10分、スチレン成分の含有率:47質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
スチレン系エラストマー(B):
旭化成社製、「タフテックH1221」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレイト:4.5g/10分、スチレン成分の含有率:12質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
【0057】
<樹脂組成物の調製>
上記のスチレン系エラストマーを合計で100質量部となるよう配合し、ドライブレンドにより混合した。目視にて均一に混合できていることを確認し、表層、中間層、裏層の各層毎にフィルム成形用の樹脂組成物を作製した。
【0058】
<フィルムの製膜方法>
3台の東芝機械製単軸押出機(表層用:35φmm,L/D=25mm、中間層用:50φmm,L/D=32、裏層用:35φmm,L/D=25mm)のそれぞれのホッパーにドライブレンドした原料を投入し、各押出機の押出機温度を190~240℃に設定し、フィードブロック部にて、表層/中間層/裏層の3層構成に合流させ、650mm幅Tダイ(温度設定230℃、リップ開度0.5mm)から押出した。厚み構成は、表1に記載の厚みとなるよう各押出機回転数を設定した。
【0059】
押出された溶融樹脂は、マット状の金属製の冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度約30℃)にて冷却固化後、両面にコロナ処理を実施し巻き取りを行い、所定の厚みを有する2種3層もしくは3種3層となる複層のフィルムを得た。
また、本発明では、得られたフィルムの冷却ロール側の面を表層と表現している。
【0060】
[各層の厚み]
各押出機から押し出される樹脂の吐出量から計算し、各層の厚みを設定した。また、得られたフィルムの断面観察の結果から、設定通りの厚みになっていることを確認した。
【0061】
[フィルムの総厚み]
接触式厚み計を用いてフィルムの中央部、両端部の厚みの測定を行い、所定の厚みになっていることを確認した。
【0062】
[フィルムの製膜性]
前述した製膜方法でフィルムを生産した際の、フィルムの厚みの安定性と取扱性を以下の基準により評価した。
〇:取扱い性が良好であり、ロールへの貼りつきも無し
△:搬送ロールへの貼りつきは僅かに見られるものの製膜は可能
×:柔軟性が高く取扱いが困難であり、且つ搬送ロールに貼りつき有り
【0063】
[引張弾性率]
得られた複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、JISK7127を参照し、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率(MPa)を測定した。
引張弾性率の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0064】
[引張破断伸度]
得られた複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、23℃、50%RHの雰囲気下、小型卓上試験機(島津製作所製EZ-L)を用いて、引張速度300mm/分にて引張破断伸度(%)を測定した。
引張破断伸度の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0065】
[復元性]
得られた複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、その試験片の中央に40mmの標線を記した。その標線が記された試験片を、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度200mm/分にて標線間距離が60mmとなるよう試験片を伸長し、伸長した状態で1分間保持を行った。
保持後に試験片を取り外し、5分静置後の復元性を以下の計算式により算出した。
【0066】
[エキスパンド性]
前述した復元性の試験時に、伸長した際の試験片の状態を目視により観察し、以下の基準により評価を行った。
〇:均一に伸びておりエキスパンド性良好
×:均一に伸びておらず試験片にネッキングが見られる。
【0067】
[実施例1]
表層用の樹脂としてスチレン系エラストマー(A-1)およびスチレン系エラストマー(A-3)、中間層用の樹脂として、スチレン系エラストマー(A-1)、スチレン系エラストマー(A-2)およびスチレン系エラストマー(A-3)、裏層用の樹脂としてスチレン系エラストマー(A-1)およびスチレン系エラストマー(A-3)を表1に記載の含有量で用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる厚さ150μmのフィルムを得た。各層の厚みは、表層が15μm、中間層が120μm、裏層が15μmであり、各厚みの比率は、表層が10%、中間層が80%、裏層が10%であった。
該フィルムは、成形時に搬送用のロール等への貼りつきは見られず製膜性は良好であり、フィルムも柔軟過ぎることがなく取扱い性にも優れ、外観にも不具合も確認されなかった。
得られたフィルムの引張弾性率は100MPaであり、十分に取扱い性が可能な剛性を有していることが確認され、引張破断伸度は590%であり、フィル加工時の破断等の不具合の発生の可能性が低いものであると推察される。
フィルムの復元性は92%と良好な復元性を有し、試験時の試験片も均一に伸びていることが確認されたことから、エキスパンド性にも優れるものであると推察される。
次に、アクリル系粘着剤をセパレータ上にコンマコート法にて、乾燥後の粘着層の厚みが25μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて5分間乾燥させた後、粘着層を形成した。作成したセパレータの粘着層側の面を本フィルムの冷却ロール側の面に貼り合わせることで本発明のフィルムと粘着層とが積層された粘着フィルムを得ることが可能であった。
【0068】
[比較例1]
表層用の樹脂としてスチレン系エラストマー(B)、中間層用の樹脂として、スチレン系エラストマー(A-2)、スチレン系エラストマー(A-3)およびスチレン系エラストマー(B)、裏層用の樹脂としてスチレン系エラストマー(B)を表1に記載の含有量で用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる厚さ150μm、各層の厚みが、表層が15μm、中間層が120μm、裏層が15μのフィルムの作成を行った。
本フィルムの表裏層はスチレン成分の含有率が14質量%を下回るスチレン系エラストマー(B)であったことから、成形時に搬送用のロール等への貼りつきが顕著であり、フィルムを得ることが困難であり、さらにスチレン成分の含有量の低いスチレン系エラストマーの含有量が高く柔軟であったため、取扱いも困難なものであった。そのため、評価を行うフィルムを得ることができなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
[産業上の利用可能性]
本発明により、樹脂をフィルム状に成形する際の製膜性に優れ、且つ柔軟性や復元性、エキスパンド性にも優れたフィルムを提供することが可能となる。また、柔軟性や復元性、エキスパンド性に優れることから、チップ同士の間隔を十分に確保することの可能な半導体製造工程用粘着フィルムを提供することが可能となる。