(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136754
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ビームエミッタンス測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/29 20060101AFI20230922BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20230922BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01T1/29 A
H01J37/04 A
H01J37/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042623
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 一哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】佐古 貴行
【テーマコード(参考)】
2G188
5C101
【Fターム(参考)】
2G188BB13
2G188BB14
2G188CC20
2G188CC39
2G188DD11
2G188DD23
2G188EE25
2G188EE29
2G188EE39
5C101EE04
5C101EE69
5C101EE75
5C101GG15
5C101GG18
5C101GG21
5C101GG31
5C101GG44
5C101HH02
5C101HH04
5C101HH31
(57)【要約】
【課題】スリットの開口部を通過したビームに基づいてビームエミッタンスを正確に測定することができること。
【解決手段】荷電粒子のビームBを通過させる開口部11Aが形成されると共に、ビームBの進行方向αに対する垂直方向(スリット移動方向β)に移動可能なスリット11と、スリット11におけるビームBの進行方向下流側に配置され、スリット11の開口部11Aを通過したビームBの位置及び発散角を測定して、ビームBの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出するビーム分布測定機器14と、スリット11の外周部11Bに設置され、ビームBの衝突を検出してビーム検出信号を出力するビーム検出機器12と、を有して構成されたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子のビームを通過させる開口部が形成されると共に、前記ビームの進行方向に対する垂直方向に移動可能なスリットと、
前記スリットにおける前記ビームの進行方向下流側に配置され、前記スリットの前記開口部を通過した前記ビームの位置及び発散角を測定して、前記ビームの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出するビーム分布測定手段と、
前記スリットの外周部に設置され、前記ビームの衝突を検出してビーム検出信号を出力するビーム検出手段と、を有して構成されたことを特徴とするビームエミッタンス測定装置。
【請求項2】
前記ビーム分布測定手段及び前記ビーム検出手段に接続され、前記ビーム分布測定手段からビームの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータを取得した際に、前記ビーム検出手段からビーム検出信号をも同時に取得したときには、前記分布データ及び前記ビームエミッタンスデータを排除処理するデータ処理手段を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項1に記載のビームエミッタンス測定装置。
【請求項3】
前記ビーム検出手段は、スリットの外周部に沿って連続して設けられると共に、両端のそれぞれが独立して信号処理手段に電気的に接続され、
前記信号処理手段は、前記ビーム検出手段の一端からのビーム検出信号と他端からのビーム検出信号との取得時間の差から、前記ビーム検出手段上におけるビームの衝突位置を特定するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のビームエミッタンス測定装置。
【請求項4】
前記ビーム検出手段は、スリットの外周部に沿って設置された複数のビーム検出部を備えると共に、これらのビーム検出部が独立して信号処理手段に電気的に接続され、
前記信号処理手段は、1または複数の前記ビーム検出部からのビーム検出信号を取得することで、前記スリット上におけるビームの衝突位置を特定するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のビームエミッタンス測定装置。
【請求項5】
前記ビーム検出手段または前記スリットは、少なくともビームの入射面側が前記ビームの入射により蛍光を発する素材にて構成され、
前記ビーム検出手段または前記スリットにおける蛍光の分布を画像取得手段が画像として取得することで、前記スリット上における前記ビームの衝突位置を特定するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のビームエミッタンス測定装置。
【請求項6】
荷電粒子のビームを通過させる開口部が形成されたスリットを、前記ビームの進行方向に対する垂直方向に移動させるスリット移動工程と、
前記スリットにおける前記ビームの進行方向下流側に配置されたビーム分布測定手段により、前記スリットの前記開口部を通過した前記ビームの位置及び発散角を測定して前記ビームの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出するビーム分布測定工程と、
前記スリットの外周部に設置されたビーム検出手段により、前記ビームの衝突を検出してビーム検出信号を出力するビーム検出工程と、
前記ビーム分布測定手段及び前記ビーム検出手段に接続されたデータ処理手段により、前記ビーム分布測定手段からの前記ビームの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータと、前記ビーム検出手段からの前記ビーム検出信号とが同時に取得されたときに、前記分布データ及び前記ビームエミッタンスデータを排除処理するデータ処理工程と、有することを特徴とするビームエミッタンス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子のビームのビームエミッタンスを測定するビームエミッタンス測定装置、及びビームエミッタンス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、荷電粒子のビーム、例えばイオン源で生成されたイオンビーム、電子銃で生成された電子ビーム、または加速器で加速されたビームは、その特性評価のために、ビームの位相空間に占める分布の面積(ビームエミッタンス)の測定が行わる。ビームエミッタンス測定の方法としては、ビームの一部を選択するためのスリットと、このスリットを通過したビームの発散角を測定するビーム分布測定機器とを用いて行われるスリットスキャン法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010-508623号公報
【特許文献2】特開2019-100794号公報
【特許文献3】特開2020-76658号公報
【特許文献4】実開平4-101399号公報
【特許文献5】特開昭60-9871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のスリットスキャン法では、スリットは、開口部を設けた金属板に駆動機構が連結されたものが用いられ、開口部を利用してビームの一部を選択して通過させる。ビーム分布測定機器は、ビームの進行方向におけるスリットの下流側に設置され、スリットの開口部の各位置でビームの電流強度を検出することで、各位置でのビームの発散角を測定する。これにより、ビームの位置と発散角の相関データが得られることになり、ビームの位相空間(位置と発散角により規定される平面)に占める分布が導出され、この分布の面積がビームエミッタンスと称される。ビームエミッタンスはビームの品質を表し、イオン源や加速器の性能を示す重要な指標として扱われる。
【0005】
上述のスリットスキャン法では、ビームはスリットの開口部を選択的に通過する。一般にビームは真空容器内に輸送され、スリットは真空容器の内面に接触することのないように真空容器内で駆動可能な一定のサイズに限定されている。また、ビームエミッタンスの測定時以外では、スリットをビーム軸上から完全に退避してビームを下流に通す必要がある。そのため、ビームサイズが想定以上に大きい、またはビームの軸心がずれた場合には、ビームがスリットの当初想定した開口部のみならず、スリットの外周部に回り込んで下流側のビーム分布測定機器に直接到達してしまうことがある。ビームの位置と各位置での発散角の測定データからビームエミッタンスを導出する際には、ビームが全てスリットの開口部を通過することを前提としているが、スリットの外周部に回り込んだビームも同様に、位相空間上でのビームの広がりとして評価されてしまうと、ビームエミッタンスの測定精度が低下するという課題があった。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、スリットの開口部を通過したビームに基づいてビームエミッタンスを正確に測定することができるビームエミッタンス測定装置及びビームエミッタンス測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態におけるビームエミッタンス測定装置は、荷電粒子のビームを通過させる開口部が形成されると共に、前記ビームの進行方向に対する垂直方向に移動可能なスリットと、前記スリットにおける前記ビームの進行方向下流側に配置され、前記スリットの前記開口部を通過した前記ビームの位置及び発散角を測定して、前記ビームの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出するビーム分布測定手段と、前記スリットの外周部に設置され、前記ビームの衝突を検出してビーム検出信号を出力するビーム検出手段と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の実施形態におけるビームエミッタンス測定方法は、荷電粒子のビームを通過させる開口部が形成されたスリットを、前記ビームの進行方向に対する垂直方向に移動させるスリット移動工程と、前記スリットにおける前記ビームの進行方向下流側に配置されたビーム分布測定手段により、前記スリットの前記開口部を通過した前記ビームの位置及び発散角を測定して前記ビームの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出するビーム分布測定工程と、前記スリットの外周部に設置されたビーム検出手段により、前記ビームの衝突を検出してビーム検出信号を出力するビーム検出工程と、前記ビーム分布測定手段及び前記ビーム検出手段に接続されたデータ処理手段により、前記ビーム分布測定手段からの前記ビームの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータと、前記ビーム検出手段からの前記ビーム検出信号とが同時に取得されたときに、前記分布データ及び前記ビームエミッタンスデータを排除処理するデータ処理工程と、有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、スリットの開口部を通過したビームに基づいてビームエミッタンスを正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図。
【
図2】
図1のスリット及びビーム検出機器を示し、(A)が正面図、(B)が平面断面図。
【
図3】第2実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図。
【
図4】
図3のスリット及びビーム検出機器を示し、(A)が正面図、(B)が平面断面図。
【
図5】第3実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図。
【
図6】
図5のスリット及びビーム検出機器を示し、(A)が正面図、(B)が平面断面図。
【
図7】第4実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図。
【
図8】
図7のスリット及びビーム検出機器を示し、(A)が正面図、(B)が平面断面図。
【
図9】第5実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図。
【
図10】
図9のスリット及びビーム検出機器を示し(A)が正面図、(B)が平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(
図1、
図2)
図1は、第1実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図である。この
図1に示す第1実施形態のビームエミッタンス測定装置10は、荷電粒子のビームBのビームエミッタンスを測定するものであり、スリット11、ビーム検出手段としてのビーム検出機器12、スリット移動機構13、ビーム分布測定手段としてのビーム分布測定機器14、及び真空容器15を有して構成されている。
【0012】
ここで、ビームBは、電子や陽子、イオン等のように正または負の電荷をもつ荷電粒子のビームである。荷電粒子は、イオン源や電子銃にて生成されてビームBとなり、必要に応じて加速器にて加速された後にビーム輸送系を経由して真空容器15内に導入され、スリット11に入射される。
【0013】
真空容器15は、スリット11を収容し、
図1では更にビーム検出機器12、スリット移動機構13及びビーム分布測定機器14を収容する。この真空容器15は、ターボ分子ポンプ、イオンポンプ、ロータリポンプ、ドライポンプ、スクロールポンプなどの真空ポンプにより、内部環境が真空状態に保持される。
【0014】
スリット11は、
図1及び
図2に示すように、荷電粒子のビームBを通過させる開口部11A(例えば切欠き)が形成されると共に、スリット移動機構13によりビームBの進行方向αに対する直角方向(即ちスリット移動方向β)に移動可能に構成される。このスリット11は、SUS、鉄もしくはアルミニウム等の導電性の板材、または、プラスチック等の絶縁板における少なくともビームBの入射面に金属メッキ等の導電性素材を被覆して構成される。
【0015】
スリット11の開口部11Aは、スリット11に入射されるビームBの一部を選択的に通過させるものであり、
図2にも示すように、スリット11のスリット移動方向βに対し直交する方向に長辺が位置づけられる長方形状に形成される。また、この開口部11Aの縁面は、ビームBの進行方向αに沿う平行な面形状に形成されるほか、スリット11を通過するビームBの広がりに対応して、スリット11の入射面側よりも出射面側の開口が大きくなるようなテーパ面状に形成されてもよい。更に、開口部11Aは、スリット11にレーザ加工機、NC旋盤、フライス盤もしくはボール盤等を用いた機械加工、ドリル等を用いた手動加工、またはこれらの加工後の研磨加工により形成される。
【0016】
なお、スリット11の開口部11Aは、大きな開口部を設けたスリット11に対し、他の導電性の板材を、例えばこの他の板材に形成された長穴と、この長穴及びスリット11を貫通するボルトと、このボルトに螺合するナットとを利用することでスライドさせて、上述の大きな開口部の幅を調整し、所望寸法の開口部11Aを形成してもよい。
【0017】
また、スリット11は、スリット移動機構13に電気的に接続されて真空容器15と同電位とすることで、入射したビームBの電荷によるチャージアップを防止することが可能である。更に、スリット11は、スリット移動機構13との間に絶縁材を介在させてスリット移動機構13と電気的に切り離し、このスリット11に接続されたケーブルを、フィードスルー等を介して真空容器15の外側に取り出すことで、スリット11に入射したビームBの電荷量を計測する電流測定器として利用することも可能である。
【0018】
スリット移動機構13は、スリット11に連結されてこのスリット11を、ビームBの進行方向αに対し直角な方向(スリット移動方向β)に移動させるものであり、ビームBの一部がスリット11の開口部11Aを選択的に通過する位置を変更する。このスリット移動機構13は、モータ及び伝動部材を備えて構成され、これらのモータ及び伝動部材がスリット11と共に真空容器15内に配置され、モータの信号線がフィードスルー等を介して真空容器15外へ取り出され、モータの駆動により伝動部材を用いてスリット11を移動させて、スリット11の位置が調整される。
【0019】
また、スリット移動機構13は、真空容器15の外部に設置された直線導入器または回転導入器等の導入器にて構成されてもよく、真空容器15に設けられたベローズ等を用いて上記導入器により、真空容器15内のスリット11を移動させて位置調整してもよい。更に、スリット移動機構13は、真空容器15の外部に設置された直線状の棒にて構成されてもよく、真空容器15に設けられたウィルソンシール等で上記棒を軸シールすることで、この棒を真空容器15の外部から操作して、真空容器15内のスリット11を移動させ位置調整してもよい。なお、スリット11が真空容器15の外部に設置される場合には、スリット移動機構13を駆動式ステージ等で構成して、このステージ等によりスリット11を移動させてもよい。
【0020】
ビーム分布測定機器14は、ホルダ14Bにワイヤ14Aが設けられた構成となっており、スリット11におけるビームBの進行方向αの下流側(ビームBの出射面側)で、例えば真空容器15内に配置される。このビーム分布測定機器14は、スリット11の開口部11Aの各位置におけるビームBの電流強度を検出することで、スリット11の開口部11Aを通過したビームBの各位置、及びこの各位置でのビームBの発散角を測定する。これにより、ビーム分布測定機器14は、ビームBの位相空間(位置と発散角により規定される平面)での分布を求め、この分布面積に基づいてビームエミッタンスを導出する。
【0021】
つまり、ビーム分布測定機器14は、導電性素材からなるワイヤ14AによりビームBの位置検出を行なうワイヤモニタ方式の検出器を用いる。このワイヤ14Aを導電性のホルダ14Bに絶縁カラー、ワッシャ及びボルト等により隙間を設けて固定し、ワイヤ14Aを含むホルダ14B全体を導入器等で導入して設置する。ビーム分布測定機器14は、スリット11の開口部11Aの位置に応じたビームBの電流強度を検出することで、スリット11の開口部11Aを通過したビームBの位置及び各位置での発散角を測定し、ビームBの位相空間での分布を求め、ビームエミッタンスを導出する。なお、ビーム分布測定機器14は、複数本のワイヤ14Aを用いることでビームBの分布を同時に測定するマルチワイヤ方式を採用してもよい。
【0022】
また、ビーム分布測定機器14は、ワイヤ14A領域にガスを導入し電圧を印加することでビームBの電流強度の検出を行う比例計数管、ドリフトチェンバ、パラレルプレートアバランチチェンバ等の位置検出器により構成することもできる。その他、ビーム分布測定機器14は、プラスチックシンチレータ、液体シンチレータ、NaI(TI)シンチレータ等のようにビームBの入射により蛍光を発する素材に対し、必要に応じてライドガイド等を介して光電子増倍管等の光信号検出器により、発光強度を元にビームBの位置検出を行うように構成することも可能である。
【0023】
更に、ビーム分布測定機器14は、アルミナ蛍光板等のようにビームBの入射により蛍光を発する素材の板を設置し、CCDカメラ等で発光の分布を取得することでビームBの位置検出器として構成することも可能である。蛍光板が真空容器15内に設置される場合には、カメラも真空容器15内に設置され、信号線のみが真空容器外に取り出される方式の他、ガラス素材(合成石英、鉛ガラス、BK7(ボロシリケートクラウンガラス)、無アルカリガラス等)などで構成された真空窓を真空容器15に設置し、カメラのみが真空容器15外に設置されて真空窓を通し蛍光の分布を撮影する構成とすることも可能である。
【0024】
ビーム検出機器12は、
図2に示すように、導電性素材からなるワイヤまたは板形状のビーム検出部17が、スリット11における例えばビームBの入射面において、開口部11Aから一定距離を隔てたスリット11の外周部11Bに沿って連続して配置されて構成される。このビーム検出部17が、ビームBの衝突による電流を検出してビーム検出信号を出力する。ビーム検出部17は、絶縁カラー16、ワッシャ及びボルト等を用いてスリット11との間に隙間を設けて固定、または絶縁材を成分とする接着剤を用いてスリット11の表面に直接固定される。あるいは、ビーム検出部17は、スリット11との接触面またはスリット11におけるビーム検出部17との接触面を絶縁素材で構成し、もしくは絶縁素材をコーティングして、スリット11の表面に直接固定されてもよい。
【0025】
また、ビーム検出機器12は、スリット11よりも大きな形状の単一の板形状のビーム検出部17を、スリット11におけるビームBの出射面において、開口部11Aを回避して、スリット11の外周部11Bを含む領域に配置してもよい。
【0026】
上述のように、スリット11の入射面または出射面においてスリット11の外周部11Bに配置されたビーム検出機器12のビーム検出部17は、スリット11がスリット移動機構13によりスリット移動方向βに移動して、ビームBがスリット11の外周部11Bからビーム分布測定機器14に到達する場合に、このビームBを検出してビーム検出信号を出力する。
【0027】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば次の効果(1)を奏する。
(1)スリット11の外周部11Bに設置されビーム検出機器12がビーム検出信号を出力した状況下で、ビーム分布測定機器14がビームBの位置及び発散角を測定し、ビームBの位相空間での分布を求め、この分布に基づきビームエミッタンスを導出したときには、このビームBの分布データ及びビームエミッタンスデータを排除(廃棄)する。これにより、スリット11の開口部11Aを通過したビームBのみならず、スリット11の外周部11Bに回り込んだビームBをも取り込んでビーム分布測定機器14が求めたビームBの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータを排除(廃棄)することができる。
【0028】
この結果、ビーム検出機器12がビーム検出信号を出力せず、従って、ビーム分布測定機器14がスリット11の開口部11Aを通過したビームBのみを用いてビームBの位置及び発散角を測定し、ビームBの分布を求めてビームエミッタンスを導出することで、スリット11の開口部11Aを通過したビームBに基づいてビームエミッタンスを正確に測定することができる。
【0029】
[B]第2実施形態(
図3、
図4)
図3は、第2実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0030】
本第2実施形態のビームエミッタンス測定装置20が第1実施形態と異なる点は、ビーム検出機器12及びビーム分布測定機器14に接続されたデータ処理手段としてのデータ処理装置21が追加して設けられ、このデータ処理装置21は、ビーム分布測定機器14からビームBの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータを取得した際に、ビーム検出機器12からビーム検出信号をも同時に取得したときには、上述のビーム分布データ及びビームエミッタンスデータを排除(廃棄)処理するよう構成された点である。
【0031】
つまり、データ処理装置21は、リード線にBNC(Bayonet Neill Concelman)コネクタやMHV(高周波同軸)コネクタ等が接続された同軸ケーブルなどの信号線22を用いて、ビーム分布測定機器14及びビーム検出機器12に接続され、ビーム分布測定機器14からのビームBの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスと、ビーム検出機器12からのビーム検出信号とを取得する。このデータ処理装置21としては、オシロスコープまたはADコンバータ等により構成され、更に必要に応じてそれらを制御するためのプログラマブルロジックコントローラ、ベルサモジュールユーロカード(Versa Module Eurocard:VME)クレート、CAMAC(Computer Auto-mated Mesurement And Control)クレート、コンピュータなどが用いられる。
【0032】
また、データ処理装置21とビーム分布測定機器14、ビーム検出機器12とのそれぞれの間には、必要に応じて、上述のデータや信号を電圧に変換するための抵抗器、データや信号を増幅するためのアンプ、両者を同時に行なうI/Vアンプ(電流/電圧変換増幅器)アンプ、またはノイズ除去のためのローパスフィルタもしくはハイパスフィルタなどが介在されてもよい。
【0033】
更に、データ処理装置21は、単一の装置における複数の入力ポートにビーム分布測定機器14、ビーム検出機器12がそれぞれ接続されてもよい。または、データ処理装置21は複数の装置からなり、これら複数の装置のそれぞれの入力ポートにビーム分布測定機器14、ビーム検出機器12がそれぞれ接続され、これらの複数の装置をタイミング制御するタイムスタンプが設けられてもよい。また、データ処理装置21は、ビームBのタイミングを表すトリガー信号が別に存在する場合には、このトリガー信号を入力するよう構成されてもよい。
【0034】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(2)を奏する。
(2)データ処理装置21は、ビーム分布測定機器14からのビームBの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータと、ビーム検出機器12からのビーム検出信号とを同時に取得したときに、上述の分布データ及びビームエミッタンスデータを排除(廃棄)するよう構成されている。このため、ビーム分布測定機器14が、スリット11の開口部11Aを通過したビームBのみならず、スリット11の外周部11Bに回り込んだビームBをも取り込んで求めたビームの位相空間での分布データ及びビームエミッタンスデータを、データ処理装置21により確実に排除することができる。この結果、ビームエミッタンス測定装置20は、ビームエミッタンスの測定精度を、第1実施形態の場合よりも向上させることができる。
【0035】
[C]第3実施形態(
図5、
図6)
図5は、第3実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0036】
本第3実施形態のビームエミッタンス測定装置30が第1実施形態と異なる点は、ビーム検出機器12のビーム検出部32(
図6)がスリット11の外周部11Bに沿って連続して設けられて、ビームBの衝突によりビーム検出信号を出力すると共に、両端(一端M、他端N)のそれぞれが独立して信号処理手段としての信号処理装置31に電気的に接続された点である。
【0037】
つまり、ビーム検出機器12のビーム検出部32は、単一の導電性のワイヤもしくは板から構成され、または複数の導電性のワイヤもしくは板が相互に連続し電気的に接続されて構成される。更に、このビーム検出部32は、スリット11のビームBの入射面側もしくは出射面側であって、スリット11の開口部11Aから一定距離を隔てたスリット11の外周部11Bに配置される。また、ビーム検出部32は、その一端M及び他端Nにケーブル等の信号線33が接続され、これらの信号線33が独立して信号処理装置31に接続されている。
【0038】
信号処理装置31は、ビーム検出部32の一端Mからのビーム検出信号と他端Nからのビーム検出信号との取得時間の時間差から、ビーム検出部32上におけるビームBの衝突位置を特定するよう構成されている。
【0039】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0040】
(3)ビーム検出機器12のビーム検出部32がビームBの衝突を検出したときに、ビーム検出部32の一端M、他端Nから信号処理装置31に独立してビーム検出信号が出力され、信号処理装置31がこれらのビーム検出信号の取得時間の時間差に基づいて、ビーム検出部32上におけるビームBの衝突位置を特定するよう構成されている。
【0041】
従って、この特定したビームBの衝突位置を用いて、スリット11に対するビームBのサイズ、ビームBの軸心のずれを確認することができるので、これらのビームBのサイズ及びビームBの軸心位置を調整することができる。また、これらの調整範囲を超える場合には、スリット11の全体寸法、開口部11Aの寸法、スリット移動機構13によるスリット11の移動範囲等について、ビームBがスリット11の開口部11Aのみを通過してビーム分布測定機器14に到達するための仕様変更に必要な情報を得ることができる。
【0042】
[D]第4実施形態(
図7、
図8)
図7は、第4実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0043】
本第4実施形態のビームエミッタンス測定装置40が第1実施形態と異なる点は、ビーム検出機器12がスリット11の外周部11Bに沿って設置された複数のビーム検出部42(
図8)を備え、これらのそれぞれのビーム検出部42が、ビームBの衝突によりビーム検出信号を出力すると共に、信号処理手段としての信号処理装置41に独立して電気的に接続された点である。
【0044】
つまり、ビーム検出機器12の各ビーム検出部42は、導電性のワイヤまたは板等から構成され、スリット11のビームBの入射面側または出射面側において、スリット11の開口部11Aから一定距離を隔てたスリット11の外周部11Bにそれぞれ独立して設置される。これらのビーム検出部42は、それぞれが信号処理装置41に、ケーブル等の信号線43を用いて独立して接続される。
【0045】
この信号処理装置41は、1または複数のビーム検出部42からのビーム検出信号を、信号線43を介して取得することで、ビーム検出信号を出力したビーム検出部42の位置に対応するスリット11上におけるビームBの衝突位置を特定するよう構成される。
【0046】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0047】
(4)ビーム検出機器12における1または複数のビーム検出部42がビームBの衝突を検出し、信号処理装置41に独立してビーム検出信号を出力すると、信号処理装置41は、ビーム検出信号を出力したビーム検出部42の位置に対応するスリット11上におけるビームBの衝突位置を特定するよう構成されている。
【0048】
従って、この特定したビームBの衝突位置を用いて、スリット11に対するビームBのサイズ、ビームBの軸心のずれを確認することができるので、これらのビームBのサイズ及びビームBの軸心位置を調整することができる。また、これらの調整範囲を超える場合には、スリット11の全体寸法、開口部11Aの寸法、スリット移動機構13によるスリット11の移動範囲等について、ビームBがスリット11の開口部11Aのみを通過してビーム分布測定機器14に到達するための仕様変更に必要な情報を得ることができる。
【0049】
[E]第5実施形態(
図9、
図10)
図9は、第5実施形態に係るビームエミッタンス測定装置を示す概略構成図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0050】
本第5実施形態のビームエミッタンス測定装置50が第1実施形態と異なる点は、ビーム検出機器12のビーム検出部52(
図10)、またはスリット11おける少なくともビームBの入口面側が、ビームBの入射により蛍光を発する素材にて構成され、ビーム検出部52またはスリット11における蛍光の分布を、画像取得手段としての画像測定装置51(
図9)が画像として測定して取得するよう構成された点である。
【0051】
つまり、ビーム検出部52は、アルミナ蛍光板等のようにビームBの入射により蛍光を発する素材にて構成される。このビーム検出部52が、導電性素材からなるスリット11におけるビームBの入射面側の外周部11Bにボルト等を用いて固定される。または、スリット11におけるビームBの入射面の一部または全てに蛍光を発する素材をコーティングしてもよく、あるいはスリット11自体が蛍光を発する素材にて構成されてもよい。
【0052】
画像測定装置51は、ビーム検出部52またはスリット11に対向する位置に配置される。この画像測定装置51は、CCDカメラなどにて構成されて、ビーム検出部52またはスリット11における蛍光の分布を測定し取得することで、スリット11におけるビームBの衝突位置を特定する。
【0053】
ビーム検出部52がスリット11と共に真空容器15内に設置される場合には、画像測定装置51も真空容器15内に配置されるのが好ましく、画像測定装置51からの信号線のみが真空容器15外へ取り出される。または、真空容器15にガラス素材(例えば合成石英、鉛ガラス、BK7、無アルカリガラスなど)にて構成された真空窓が設置され、ビーム検出部52及びスリット11が真空容器15内に設置され、画像測定装置51は真空容器外に配置されて、上記真空窓を通して蛍光を測定するようにしてもよい。
【0054】
以上のように構成されたことから、本第5実施形態においても第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0055】
(5)ビーム検出部52、またはスリット11の少なくともビームBの入射面側が、ビームBの入射により蛍光を発する素材にて構成され、このビーム検出部52またはスリット11における蛍光の分布を画像測定装置51が画像として測定し取得することで、スリット11上におけるビームBの衝突位置を特定するよう構成されている。
【0056】
従って、この特定したビームBの衝突位置を用いて、スリット11に対するビームBのサイズ、ビームBの軸心のずれを確認することができるので、これらのビームBのサイズ及びビームBの軸心位置を調整することができる。また、これらの調整範囲を超える場合には、スリット11の全体寸法、開口部11Aの寸法、スリット移動機構13によるスリット11の移動範囲等について、ビームBがスリット11の開口部11Aのみを通過してビーム分布測定機器14に到達するための仕様変更に必要な情報を得ることができる。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10…ビームエミッタンス測定装置、11…スリット、11A…開口部、11B…外周部、12…ビーム検出機器(ビーム検出手段)、13…スリット移動機構、14…ビーム分布測定機器(ビーム分布測定手段)、17…ビーム検出部、20…ビームエミッタンス測定装置、21…データ処理装置(データ処理手段)、30…ビームエミッタンス測定装置、31…信号処理装置(信号処理手段)、32…ビーム検出部、40…ビームエミッタンス測定装置、41…信号処理装置(信号処理手段)、42…ビーム検出部、50…ビームエミッタンス測定装置、51…画像測定装置(画像取得手段)、52…ビーム検出部、B…ビーム、M…一端、N…他端、α…進行方向、β…スリット移動方向