(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013676
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】軟質材に負荷される引張力の評価方法、軟質材に負荷される引張力の評価システム、制御装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20230119BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01N11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118028
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 優弥
(72)【発明者】
【氏名】東 勇吾
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 里佐
(72)【発明者】
【氏名】神庭 勝
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB05
2G061BA11
2G061CA10
2G061CB01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】弾性変形か塑性変形かの評価がばらつくのを抑制できる、軟質材に負荷される引張力の評価方法、軟質材に負荷される引張力の評価システム、制御装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】軟質材に負荷される引張力の評価方法は、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を取得するステップと、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較するステップと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、
前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を取得するステップと、
前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するステップと、
を備える、
軟質材に負荷される引張力の評価方法。
【請求項2】
前記引張力を第1の引張力とし、前記第1の引張力よりも大きい第2の引張力で、前記軟質材と同種の軟質材に対して、前記第2の引張力の負荷と前記第2の引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、
前記第2の引張力の負荷と除荷との各々について、前記第2の引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を取得するステップと、
前記第2の引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するステップと、
を更に備え、
前記第1の引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とが同じ挙動を示し、かつ前記第2の引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、前記1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とが異なる挙動を示した場合、
前記第1の引張力以上前記第2の引張力未満の引張力を、前記軟質材の比例限度であると評価する、
請求項1記載の軟質材に負荷される引張力の評価方法。
【請求項3】
前記軟質材がフィルム材である、
請求項1又は請求項2記載の軟質材に負荷される引張力の評価方法。
【請求項4】
軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機と、
前記引張試験機の試験に応じて生成された電気信号から、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記引張試験機により、前記軟質材に対して、前記引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行った試験結果から、前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図を生成し、
前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するように構成されている、
軟質材に負荷される引張力の評価システム。
【請求項5】
引張試験機による試験結果が入力される制御装置であって、
軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う前記引張試験機の試験結果から、前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成し、
前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するように構成されている、
制御装置。
【請求項6】
コンピュータを、
軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機の試験結果から、前記引張力の負荷と除荷とについて、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成するように機能させ、
前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較する、
制御部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質材に負荷される引張力の評価方法、軟質材に負荷される引張力の評価システム、制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、フィルムに引張力が作用するような作業(例えばフィルムを巻く作業等)を機械で行う際、フィルムに加える引張力を決定したり、他メーカーの軟質材の導入を検討する際、物性値を比較したりするには、フィルムに加わる引張力によってどのような変形(弾性変形/塑性変形)を起こすのかが重要である。そこで、このような軟質材の物性値を把握するには、引張試験機を用いて、軟質材からなる試験片に対して、一方向に引張力を負荷し続け、弾性変形、塑性変形及び破断を起こしたときの応力とひずみとの関係を示す、応力ひずみ線図を得ることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来では、応力ひずみ線図から、弾性域を把握するには、応力ひずみ線図における、略直線状に立ち上がる弾性域と、弾性域から緩やかに上昇してゆく塑性域との境界を読み取って、弾性域を評価する必要がある。具体的には、
図9に示すように、線図のうちの弾性域に対応する部分とほぼ同じ勾配となるように、直線L1を応力ひずみ線
図SS1に沿って引き、当該直線L1と応力ひずみ線
図SS1との交点X1を比例限度と評価していた。
【0005】
しかしながら、この従来の方法では、評価をする者が、主観的に直線L1を引いているため、評価をする者によって、比例限度の評価がばらつくおそれがある。この結果、例えば、比例限度近傍の引張力によって生じる変形が、弾性変形か塑性変形かの適切な評価をすることは難しかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、弾性変形か塑性変形かの評価がばらつくのを抑制できる、軟質材に負荷される引張力の評価方法、軟質材に負荷される引張力の評価システム、制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の軟質材に負荷される引張力の評価方法は、軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を取得するステップと、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するステップと、を備える。
【0008】
本発明に係る一態様の軟質材に負荷される引張力の評価システムは、軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機と、前記引張試験機の試験に応じて生成された電気信号から、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成する制御部と、を備える。前記制御部は、前記引張試験機により、前記軟質材に対して、前記引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行った試験結果から、前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図を生成し、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するように構成されている。
【0009】
本発明に係る一態様の制御装置は、引張試験機による試験結果が入力される制御装置である。前記制御装置は、軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う前記引張試験機の試験結果から、前記引張力の負荷と除荷との各々について、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成し、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較するように構成されている。
【0010】
本発明に係る一態様のプログラムは、コンピュータを、軟質材に対して、引張力の負荷と前記引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機の試験結果から、前記引張力の負荷と除荷とについて、前記引張力と前記軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線図を生成するように機能させ、前記引張力と前記伸びとの相関関係を示す線図において、1サイクル目の前記負荷の線図と、それ以外の線図とを比較する、制御部として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る上記態様の軟質材に負荷される引張力の評価方法、軟質材に負荷される引張力の評価システム、制御装置及びプログラムは、弾性変形か塑性変形かの評価がばらつくのを抑制できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る実施形態1の軟質材に負荷される引張力の評価方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、同上の実施形態における弾性域/塑性域判定ステップのフローチャートである。
【
図3】
図3は、同上の実施形態において、引張力と、軟質材の伸びとの相関関係を示す線図であり、軟質材に生じた変形が弾性変形である場合を示している。
【
図4】
図4は、同上の実施形態において、引張力と、軟質材の伸びとの相関関係を示す線図であり、軟質材に生じた変形が塑性変形である場合を示している。
【
図5】
図5は、同上の実施形態において、引張力と、軟質材の伸びとの相関関係を示す線図において、軟質材に生じた変形が塑性変形である場合の他例を示している。
【
図6】
図6は、同上の実施形態において、比例限度評価ステップを説明する説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る評価システムの全体の概略図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る評価システムのブロック図である。
【
図9】
図9は、応力ひずみ線図から弾性域を評価する従来の方法を説明するための応力ひずみ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
(1)全体
以下、本実施形態に係る軟質材に負荷される引張力の評価方法(以下、単に「評価方法」という)について説明する。本実施形態に係る評価方法は、軟質材としてのフィルム材に対して引張力の負荷と除荷とを行った際の、引張力と軟質材の伸びとの相関関係を示す線
図1を用いて、引張力が引き起こす変形の態様(弾性変形/塑性変形)を判定する。本実施形態に係る評価方法によれば、軟質材に負荷される引張力が、弾性変形を起こすのか、又は塑性変形を起こすのかを、客観的に評価することができる。また、この評価方法を用いることで、当該軟質材の弾性域の比例限度を確認することができる。本実施形態では、軟質材の一例として、フィルム材を挙げて説明するが、軟質材としては特に制限はなく、例えば、シート材、線材、棒材等であってもよい。
【0014】
本明細書でいう「フィルム材」は、厚さ寸法が200μm以下の扁平な軟質材を意味する。なお、厚さ寸法が200μmを超える扁平な軟質材については「シート材」と定義する。本実施形態に係るフィルム材は、厚さ寸法が5μm以上10μ以下に形成されたフィルム材であって、フィルムコンデンサの誘電体として用いられる。
【0015】
フィルム材の材質としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET;Polyethylene terephthalate)、ポリプロピレン(PP;polypropylene)、ポリフェニレンサルファイド(PPS;Poly Phenylene Sulfide)、ポリエチレンナフタレート(PEN;polyethylene naphthalate)等が挙げられる。
【0016】
以下、本実施形態に係る評価方法の概要を説明する。
【0017】
まず、軟質材に対して、一の引張力を負荷した後、当該引張力を除荷する。この引張力の負荷と除荷とを1サイクルとすると、本実施形態に係る評価方法では、これを複数サイクル繰り返す。そして、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と、軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1(グラフ)を作成する。
【0018】
次に、引張力の負荷の線
図1と、引張力の除荷の線
図1とを、同じ縦軸及び横軸でなす領域に作成し、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12(1サイクル目の除荷以降の線
図1)とを比較する。1サイクル目の負荷の線
図11とそれ以外の線
図12とが同じ挙動を示す場合、一の引張力によって生じる変形は、弾性変形であると判定される。1サイクル目の負荷の線
図11とそれ以外の線
図12とが異なる挙動を示す場合、一の引張力によって生じる変形は、塑性変形であると判定される。
【0019】
また、本実施形態に係る評価方法では、比例限度の確認も行うことができる。その方法の概要は次の通りである。
【0020】
上述した評価方法では、一の引張力に対して、負荷/除荷を複数サイクル行うものであったが、ここでは、互いに異なる複数の引張力の各々に対して、負荷/除荷を複数サイクル実行し、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1を作成する。
【0021】
次に、作成された複数の線
図1の各々について、1サイクル目の負荷の線
図1と、それ以外の線
図1とを比較し、各引張力による変形が、弾性変形であるか、塑性変形であるかを判定する。
【0022】
ここで、弾性変形であると判定された引張力のうちの最も大きい引張力(これを「第1の引張力」とする)に対し、次に大きい引張力(これを「第2の引張力」とする)による変形は、塑性変形であると判定されている。したがって、この軟質材の比例限度は、第1の引張力以上でかつ第2の引張力未満の引張力に相当する力であると評価できる。
【0023】
以下、本実施形態に係る評価方法について、より詳細に説明する。ここでは、一例として、比例限度の評価を行う方法も含めて説明するが、本発明では、引張力による変形が塑性変形であるか、弾性変形であるかを評価する方法にのみ用いられてもよい。本実施形態に係る評価方法は、
図1に示すように、弾性域/塑性域判定ステップST1と、比例限度評価ステップST2と、を備える。
【0024】
(2)弾性域/塑性域判定ステップ
弾性域/塑性域判定ステップST1は、軟質材に対して加わった引張力による変形が、弾性変形なのか塑性変形なのかを判定するステップである。ここで
図2には、弾性域/塑性域判定ステップST1のプロセスをフローチャートで示している。
図2に示すように、弾性域/塑性域判定ステップST1は、負荷/除荷ステップST11と、線図生成ステップST12と、比較ステップST13と、判定ステップST14と、を含む。
【0025】
(2.1)負荷/除荷ステップ
負荷/除荷ステップST11は、軟質材に対して、引張力の負荷と、この引張力の除荷とを、複数サイクル行うステップである。ここでいう「引張力」は、軟質材に対して面方向に作用する力を意味する。引張力としては、本実施形態では、軟質材に加える力(「試験力」という場合がある)で表現するが、応力(垂直応力)で表現してもよい。
【0026】
本明細書でいう「引張力の負荷」とは、軟質材に加えようとする引張力を最大値として、ゼロから徐々に増大するように、連続的に力を加えることを意味する。例えば、3Nの引張力を負荷する場合、軟質材に加わる力は、0Nから3Nに達するまで漸次増大する。また、「引張力の除荷」とは、軟質材に加わっている引張力がゼロになるまで、徐々に減少するように、連続的に力を加えることを意味する。
【0027】
負荷/除荷ステップST11では、軟質材に対して、引張力を負荷した後、負荷された引張力を除荷することを一サイクルとして、これを複数サイクル実行する。負荷/除荷ステップST11で実行するサイクル数は、2回以上であればよいが、好ましくは3回以上である。また、負荷/除荷ステップST11で実行するサイクル数の上限値は、特に制限はないが、例えば、5回以下である。サイクル数を2回以上実行すると、判定ステップST14での精度が高くなる。
【0028】
また、負荷/除荷ステップST11で行う引張力の負荷と除荷とは、例えば、引張試験機を用いて行うことが好ましい。引張試験機では、試験速度の設定値を、0.3mm/min以上0.7mm/minとすることが好ましく、より好ましくは、0.5mm/minである。試験速度の設定値を、一般的な引張試験機で行う試験速度(およそ100mm/min)よりも遅く設定することにより、ひずみ速度が変形に及ぼす影響をできる限り抑えることができる。
【0029】
(2.2)線図生成ステップ
線図生成ステップST12は、負荷/除荷ステップST11による試験結果から、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と、軟質材の初期長さからの伸び(以下、単に「伸び」という場合がある)との相関関係を示す線
図1を生成するステップである。引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1としては、例えば、荷重-変形線図、応力-ひずみ線図等が挙げられる。本実施形態では、横軸を初期長さからの伸び[mm]とし、縦軸を試験力[N]とした荷重-変形線図を生成する。
【0030】
線図生成ステップST12では、引張試験機の試験結果に応じて生成された電気信号から、制御装置の制御部を用いて処理され、引張力の負荷についての線
図1と、引張力の除荷についての線
図1とが横軸と縦軸とでなす一の領域に描画されることで、荷重-変形線図が生成される。したがって、例えば、
図3に示すような点Aと点Bとを往復するような線
図1が生成される。
【0031】
制御部によって生成された線
図1は、出力装置によって出力されてもよいし、データとしてメモリに記録されてもよい。制御部は、プロセッサを主構成要素とするコンピュータである。プロセッサは、ストレージに記憶されるプログラムに従って、各種機能を実行する。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit;中央処理装置)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ(microprocessor)等が挙げられる。また、出力装置としては、特に制限はなく、例えば、ディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクター、ホログラム、プリンタ等が挙げられる。
【0032】
(2.3)比較ステップ
比較ステップST13は、生成したグラフにおいて、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12(すなわち、1サイクル目の除荷以降の線
図1)とを比較するステップである。本実施形態では、線図生成ステップST12において、引張力の負荷についての線
図1と、引張力の除荷についての線
図1とを、横軸と縦軸とでなす一の領域に描画することをもって、比較ステップST13での「比較」とする。
【0033】
比較ステップST13での比較の方法としては、特に制限はないが、1サイクル目の負荷についての線
図1と、それ以外の線
図1との差分を表示してもよいし、1サイクル目の負荷についての線
図1とそれ以外の線
図1との各々を示す関係式を演算により求め、関係式で比較してもよい。
【0034】
(2.4)判定ステップ
判定ステップST14は、比較ステップST13において、1サイクル目の負荷についての線
図11と、それ以外の線
図12とを比較した結果に応じて、弾性変形又は塑性変形を判定するステップである。判定ステップST14の判定主体は、プログラムによって制御部43が判定してもよいが、ここでは、ユーザ自身が判定を行う。
【0035】
判定ステップST14では、1サイクル目の負荷についての線
図11と、それ以外の線
図12とを比較した結果、
図3に示すように、いずれの線
図1も同じ挙動を示している場合、当該引張力による弾性体の変形は、弾性変形であると判定される。一方、1サイクル目の負荷についての線
図11と、それ以外の線
図12とを比較した結果、
図4に示すように、異なる挙動を示している場合、当該引張力による弾性体の変形は、塑性変形であると判定される。
【0036】
線
図11,12同士を比較した結果、異なる挙動を示すパターンとしては、様々あり得るが、
図4に示すように、1サイクル目の負荷の線
図11に対し、それ以外の線
図12が、より小さい引張力に対して比較的伸びやすい性質を示す。ただし、1サイクル目の負荷の線
図11と、そ例外の線
図12とが比較的近い場合(
図4)のほか、
図5に示すように、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とが比較的離れている場合もあり得る。
【0037】
(3)比例限度評価ステップ
比例限度評価ステップST2は、
図1に示すように、弾性域/塑性域判定ステップST1の後に実行される。比例限度評価ステップST2は、判定ステップST14で判定した変形の態様と、それに対応する引張力との関係に基づいて、軟質材の比例限度を評価するステップである。
【0038】
ここで、本実施形態に係る評価方法では、異なる複数の引張力の各々に対して、負荷/除荷を複数サイクル実行し、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1を作成する。複数の引張力の数値には、特に制限はないが、軟質材の比例限度の精度の観点から、大きさ順に並べた際の隣り合う引張力の数値の差は、できる限り小さくすることが好ましい。大きさ順に並べた際の隣り合う引張力の数値の差としては、応力で示す場合、例えば、1N/mm
2以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5N/mm
2以下であり、更に好ましくは、0.3N/mm
2以下である。なお、隣り合う引張力の数値の差の下限値は特に制限はないが、例えば、0.1N/mm
2以上が例示される。隣り合う引張力の差が小さ過ぎると、弾性域/塑性域判定ステップST1の試行回数が過剰に増えて好ましくない。
【0039】
異なる複数の引張力の各々に対応する線
図1を作成した後、各線
図1について、比較ステップST13及び判定ステップST14を実行する。これによって、異なる複数の引張力の各々について、弾性変形が生じるか、塑性変形が生じるかが判定される。
【0040】
ここで、
図6に示すように、弾性変形であると判定された引張力のうちの最も大きい引張力(第1の引張力;ここでは10.3[N])に対し、次に大きい引張力(第2の引張力;ここでは12.1[N])による変形は塑性変形である。したがって、この軟質材の比例限度は、第1の引張力以上でかつ第2の引張力未満の引張力に相当する応力であると評価可能である。すなわち、
図6の例では、比例限度をE[N]とすると、10.3≦E<12.1である。
【0041】
言い換えると、比例限度評価ステップST2では、第1の引張力についての線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図1と、それ以外の線
図1とが同じ挙動を示し、かつ第2の引張力についての線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図1と、それ以外の線
図1とが異なる挙動を示した場合、第1の引張力以上第2の引張力未満の引張力を、軟質材の比例限度であると評価する。
【0042】
なお、ここでは、引張力を変化させることで、異なる複数の引張力について、線
図1を作成したが、引張試験機のストローク(すなわち、軟質材の伸び)を変化させることで、第1の引張力と第2の引張力について線
図1を作成してもよい。
【0043】
(4)効果
以上説明したように、本実施形態に係る評価方法では、引張力の負荷と除荷とを、複数サイクル行い、引張力と軟質材の伸びとの相関関係を示す線
図1を作成した上で、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較して、変形の態様を判定するため、弾性変形か塑性変形かを客観的に判断することができる。
【0044】
また、第1の引張力についての線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とが同じ挙動を示し、かつ第2の引張力についての線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とが異なる挙動を示した場合、第1の引張力以上第2の引張力未満の引張力を、軟質材の比例限度であると評価するため、比例限度を客観的に評価することができる。このため、従来の比例限度の評価方法では、評価する人の判断によってばらつきが生じ得るが、本実施形態に係る評価方法では、比例限度の評価にばらつきが生じにくい。
【0045】
<実施形態2>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、本発明の他の実施形態を説明する。実施形態2では、軟質材に負荷される引張力の評価方法が、軟質材に負荷される引張力の評価システム(以下、単に「評価システム2」という)によって実現されている。本実施形態に係る評価システム2は、
図7に示すように、引張試験機3と、制御装置4と、を備える。
【0046】
(1)引張試験機
引張試験機3は、軟質材に対して、引張力の負荷と、引張力の除荷とを複数サイクル行う試験機である。引張試験機3には、軟質材として、軟質材を所定サイズに切り取った試験片Z1がセットされて試験される。引張試験機3によれば、負荷/除荷ステップST11を実行することができる。引張試験機3は、負荷/除荷ステップST11を実行することで、試験結果に応じた電気信号を出力する。引張試験機3による電気信号は、制御装置4に出力される。
【0047】
(2)制御装置
制御装置4は、引張試験機3による試験結果が入力された結果、情報の処理及び線
図1の表示を実行する。制御装置4は、
図8に示すように、入出力部42と、通信部41と、制御部43と、を備える。制御装置4としては、例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等により実現される。
【0048】
入出力部42は、制御装置4を操作して情報を入力する入力装置421と、出力装置422と、を備える。入力装置421としては、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパッド等が挙げられる。出力装置422は、実施形態と同様、例えば、ディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクター、ホログラム、プリンタ等が挙げられる。
【0049】
通信部41は、通信インターフェースである。通信部41は、引張試験機3から出力された試験についての電気信号を受信する。通信部41は、有線又は無線によって、引張試験機3に接続されている。
【0050】
制御部43は、制御装置4の各種処理を実行する。制御部43は、例えば、1以上のプロセッサ(マイクロプロセッサ)と1以上のメモリとを含むコンピュータシステムにより実現され得る。つまり、1以上のプロセッサが1以上のメモリに記憶された1以上の(コンピュータ)プログラム(アプリケーション)を実行することで、制御部43として機能する。プログラムは、ここでは制御部43のメモリに予め記録されているが、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0051】
制御部43は、線図生成部431と、判定部432と、出力部433と、比例限度評価部434と、を備える。
【0052】
線図生成部431は、線図生成ステップST12及び比較ステップST13を実行する。線図生成ステップST12及び比較ステップST13については、実施形態1と同じであるため、説明を省略する。線図生成部431は、引張試験機3から入力された電気信号から、引張力と軟質材の伸びとの相関関係を示す線
図1を生成する。
【0053】
判定部432は、判定ステップST14を実行する。判定ステップST14については、実施形態1と同じであるため、重複する説明を省略する。判定部432は、1サイクル目の負荷についての線
図11と、それ以外の線
図12とを比較する際、例えば、伸びの値に対する引張力の値について、対比する線
図1同士で差分を算出し、その差分が、所定の閾値以上である点が存在すれば、これをもって、両線分が異なる挙動を示しているとして、塑性域での変形であると判定する。一方、判定部432は、例えば、伸びの値に対する力の値について、対比する線
図1同士で差分を算出し、その差分が、どの点をとっても、所定の閾値未満であれば、これをもって、両線分が同じ挙動を示しているとして、弾性域での変形であると判定する。
【0054】
ここでいう「所定の閾値」とは、例えば、加えようとする引張力の値の0.5%以上5%以下の値であり、好ましくは、1%以上3%以下の値に設定される。この閾値については、軟質材の用途に応じて、ユーザが適宜設定することができる。
【0055】
出力部433は、線図生成部431によって生成された線
図1と、判定部432によって判定された結果とを、入出力部42に出力する。出力部433による出力は、ユーザの操作に応じて実行されてもよい。
【0056】
比例限度評価部434は、比例限度評価ステップST2を実行する。比例限度評価ステップST2については、実施形態1と同じであるため、重複する説明を省略する。比例限度評価部434は、判定部432の判定結果が入力されると、弾性変形を生じる引張力のうちの最も大きい引張力として、第1の引張力を抽出する。また、判定部432は、第1の引張力よりも次に大きい引張力である第2の引張力を抽出する。そして、判定部432は、第1の引張力以上第2の引張力未満の引張力を、軟質材の比例限度であると評価する。なわち、比例限度をE[N]、第1の引張力をP1[N]、第2の引張力をP2[N]とすると、P1≦E<P2で表される。比例限度評価部434の評価結果は、出力部433によって出力装置422に出力される。
【0057】
このように、実施形態2に係る評価システム2によれば、自動で、軟質材の引張力を評価することができる上に、自動で、軟質材の比例限度を評価することができる。
【0058】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0059】
上記実施形態では、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較し、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12の全てとが異なる挙動を示した場合を説明したが、本発明では、1サイクル目の負荷の線
図11に対し、1サイクル目の負荷の線
図11以外の線
図12の挙動のうちのいずれか一つが異なっていれば、「異なる挙動を示した」としてもよい。
【0060】
上記実施形態に係る軟質材は、フィルムコンデンサの誘電体を構成するフィルム材であったが、用途は特に制限はなく、例えば、梱包用のフィルム、生鮮容器の包装用フィルム、粘着テープ、加飾フィルム、防錆フィルム、偏光フィルム、反射防止フィルム等に用いられてもよい。また、フィルム材としては、透明フィルムのほか、フィルム状の基材に対して金属を蒸着したものや、印刷されたものであってもよい。
【0061】
実施形態2に係る評価システムでは、引張試験機3と制御装置4とは有線又は無線により通信可能に接続されたが、本発明では、引張試験機3と制御装置4とは通信可能に接続されていなくてもよい。引張試験機3の試験結果に関するデータを、ストレージ等の記録媒体に保存し、当該記録媒体を用いて、制御装置4にデータを移動してもよい。
【0062】
上記実施形態において、比例限度評価ステップでは、異なる複数の引張力の各々について、引張力と、軟質材の伸びとの相関関係を示す線
図1を生成した上で、比例限度を評価したが、例えば、軟質材の応力ひずみ線図から比例限度を予測し、予測した比例限度の前後の値について、比例限度評価ステップを実行して、正確な比例限度を評価してもよい。
【0063】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係る軟質材に負荷される引張力の評価方法は、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を取得するステップと、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較するステップと、を備える。
【0064】
この態様によれば、1サイクル目の負荷の線
図11とそれ以外の線
図12とを比較し、いずれの線
図11,12も同じ挙動を示している場合、引張力による弾性体の変形は、弾性変形であると判定できる。一方、1サイクル目の負荷についての線
図11と、それ以外の線
図12とを比較した結果、異なる挙動を示している場合、引張力による弾性体の変形は、塑性変形であると判定できる。この結果、本実施形態に係る評価方法によれば、弾性変形か塑性変形かの評価がばらつくのを抑制できる。
【0065】
第2の態様に係る軟質材に負荷される引張力の評価方法では、第1の態様において、引張力を第1の引張力とし、第1の引張力よりも大きい第2の引張力で、軟質材と同種の軟質材に対して、第2の引張力の負荷と第2の引張力の除荷とを複数サイクル行うステップと、第2の引張力の負荷と除荷との各々について、第2の引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を取得するステップと、第2の引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図1と、それ以外の線
図1とを比較するステップと、を更に備える。第1の引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図1と、それ以外の線
図1とが同じ挙動を示し、かつ第2の引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とが異なる挙動を示した場合、第1の引張力以上第2の引張力未満の引張力を、軟質材の比例限度であると評価する。
【0066】
この態様によれば、軟質材の比例限度の評価のばらつきを抑制することができ、弾性変形か塑性変形かの評価がばらつくのを抑制できる。
【0067】
第3の態様に係る軟質材に負荷される引張力の評価方法では、第1又は第2の態様において、軟質材がフィルム材である。
【0068】
この態様によれば、フィルム材に加える引張力が、弾性変形を起こすか、塑性変形を起こすかを判定でき、フィルム材の物性値を把握することができる。
【0069】
第4の態様に係る軟質材に負荷される引張力の評価システム2は、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機3と、引張試験機3の試験に応じて生成された電気信号から、引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を生成する制御部43と、を備える。制御部43は、引張試験機3により、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行った試験結果から、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1を生成し、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較するように構成されている。
【0070】
この態様によれば、評価システム2によって、ばらつきを抑えた弾性変形か塑性変形かの評価を行うことができる。
【0071】
第5の態様に係る引張試験機3の制御装置4は、引張試験機3による試験結果が入力される制御装置4である。制御装置4は、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機3の試験結果から、引張力の負荷と除荷との各々について、引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を生成し、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較するように構成されている。
【0072】
この態様によれば、制御装置4によって、ばらつきを抑えた弾性変形か塑性変形かの評価を行うことができる。
【0073】
第6の態様に係るプログラムは、コンピュータを、軟質材に対して、引張力の負荷と引張力の除荷とを複数サイクル行う引張試験機3の試験結果から、引張力の負荷と除荷とについて、引張力と軟質材の初期長さからの伸びとの相関関係を示す線
図1を生成するように機能させ、引張力と伸びとの相関関係を示す線
図1において、1サイクル目の負荷の線
図11と、それ以外の線
図12とを比較する、制御部43として機能させる。
【0074】
この態様によれば、コンピュータによって、ばらつきを抑えた弾性変形か塑性変形かの評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0075】
1 線図
11 1サイクル目の負荷の線図
12 1サイクル目の負荷の線図以外の線図
2 評価システム
3 引張試験機
4 制御装置
43 制御部