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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013677
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】抗真菌剤及び治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20230119BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118030
(22)【出願日】2021-07-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000232623
【氏名又は名称】日本農薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521037190
【氏名又は名称】村山 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】加納 塁
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 勝裕
(72)【発明者】
【氏名】村山 信雄
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086GA04
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB35
4C086ZC61
(57)【要約】
【課題】アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌に対する、抗真菌剤、及び、そのマラセチア菌を原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】Malassezia pachydermatisに対する抗真菌剤を採用する。前記抗真菌剤は、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Malassezia pachydermatisに対する抗真菌剤であって、
ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、
前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、抗真菌剤。
【請求項2】
Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物であって、
ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量、及び薬学的に許容される担体を含み、
前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、治療用医薬組成物。
【請求項3】
Malassezia pachydermatisを原因菌とするヒト以外の動物の真菌症の治療方法であって、
ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を、治療を必要とするヒト以外の動物に、経皮的に投与することを含み、
前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、治療方法。
【請求項4】
ヒト以外の前記動物は、イヌ又はネコである、請求項3に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌剤及び治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マラセチア感染症は、真菌の一種であるマラセチアが皮膚に感染することによって引き起こされる感染症である。マラセチア感染症の症状としては、皮膚炎及び外耳炎等が挙げられる。皮膚炎では、皮膚の痒みを伴う慢性の脂漏性皮膚炎、脱毛、フケ、臭気の発生等が認められ、外耳炎では、痒み、痛み、耳漏、臭気の発生等が認められる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
マラセチア感染症の予防方法及び治療方法として、主に、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプーを用いて皮膚を洗う方法、及び内服薬を投与する方法が採用されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
例えば、ルリコナゾールは、アゾール系抗真菌薬の一種であり、マラセチア皮膚炎の治療剤としての用途が報告されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、ルリコナゾールが、マラセチア・レストリクタに対して抗菌性を有すること、及び、マラセチア・レストリクタに起因する皮膚炎を治療できることが記載されている。
【0005】
ところで、アゾール系抗真菌薬を用いた予防や治療を継続すると、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を有する耐性菌が出現する場合があることが報告されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/028495号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bond R, Morris DO, Guillot J, Bensignor EJ, Robson D, Mason KV, Kano R, Hill PB. Biology, diagnosis and treatment of Malassezia dermatitis in dogs and cats Clinical Consensus Guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Vet Dermatol. 2020; 31:27-e4. doi: 10.1111/vde.12809.
【非特許文献2】Kano R, Yokoi S, Kariya N, Oshimo K, Kamata H. Multi-Azole-Resistant strain of Malassezia pachydermatis isolated from a canine Malassezia dermatitis. Med. Mycol. 2019; 57, 346-350.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アゾール系真菌薬の使用の継続により耐性菌が出現した場合、当該アゾール系真菌剤では治療が困難となる。そのため、上述のアゾール系抗真菌薬に対する耐性を有する耐性菌に対しても有効な、抗真菌剤が求められている。
しかしながら、アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌、特にイヌ、ネコ等の動物のマラセチア皮膚炎の原因菌として知られているMalassezia pachydermatisに対する抗真菌剤は、報告されていない。
そこで、本発明は、アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌、特にイヌ、ネコ等の動物のマラセチア皮膚炎の原因菌として知られているMalassezia pachydermatisに対する、抗真菌剤、及び、そのマラセチア菌を原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]Malassezia pachydermatisに対する抗真菌剤であって、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、抗真菌剤。
[2]Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物であって、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量、及び薬学的に許容される担体を含み、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、治療用医薬組成物。
[3]Malassezia pachydermatisを原因菌とするヒト以外の動物の真菌症の治療方法であって、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を、治療を必要とするヒト以外の動物に、経皮的に投与することを含み、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、治療方法。
[4]ヒト以外の前記動物は、イヌ又はネコである、[3]に記載の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌に対する、抗真菌剤、及び、そのマラセチア菌を原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[抗真菌剤]
一実施形態において、本発明は、Malassezia pachydermatisに対する抗真菌剤を提供する。本明細書において、Malassezia pachydermatisを、M.pachydermatisと記載する場合がある。
前記抗真菌剤は、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
前記M.pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する。
【0012】
<ルリコナゾール>
本実施形態にかかる抗真菌剤は、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
【0013】
ルリコナゾールは、(2E)-2-[(4R)-4-(2,4-ジクロロフェニル)-1,3-ジチオラン-2-イリデン]-2-(1H-イミダゾール-1-イル)アセトニトリルの一般名である。
ルリコナゾールのCAS番号は、187164-19-8である。
ルリコナゾールは、下記式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化1】
【0015】
本実施形態にかかる抗真菌剤が含み得るルリコナゾールの塩としては、抗真菌剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。
これらの中でも、ルリコナゾールの塩は、薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0016】
本実施形態にかかる抗真菌剤が含み得るルリコナゾール又はその塩の溶媒和物としては、抗真菌剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
ルリコナゾール又はその塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であることが好ましい。
【0017】
<その他の成分>
本実施形態にかかる抗真菌剤は、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、抗真菌剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、後述する、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、角質軟化剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分、油性基剤、乳化剤、乳化安定剤、粉末成分、高分子成分、粘着性改良剤、被膜形成剤、保型剤、潤沢剤等が挙げられる。
【0018】
<含有量>
本実施形態にかかる抗真菌剤に含まれるルリコナゾールの含有量は、抗真菌剤が対象のM.pachydermatisに対して効果を発揮する限り特に制限されず、抗真菌剤の総質量(100質量%)に対して、例えば、0.01~50質量%であってもよく、0.1~30質量%が好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0019】
<M.pachydermatis>
M.pachydermatisは、マラセチア属に属する真菌の一種である。M.pachydermatisは、イヌ、ネコ等の動物のマラセチア皮膚炎の原因菌として知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0020】
本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となる菌の種が、M.pachydermatisであるか否かは、例えば、次のような方法により判定することができる。
【0021】
まず、本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となる菌の、rRNA遺伝子のinternal transcribed spacer(ITS)領域の配列を決定する。
得られた対象となる菌のITS領域の配列と、M.pachydermatis CBS1879株のITS領域の配列とが、99.5%以上の相同性を示す場合、対象となる菌は、M.pachydermatisであると判定される。
【0022】
本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となるM.pachydermatisは、例えば、動物個体に感染した、M.pachydermatisであってもよい。
本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となるM.pachydermatisが感染する動物としては、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、フェレット、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等のペット;ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、トリ等の家畜;及びヒト等が挙げられる。
これらの中でも、ペット又は家畜が好ましく、ペットがより好ましく、イヌ又はネコが更に好ましい。
本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となるM.pachydermatisは、マラセチア感染症に罹患した動物の病変部位に存在するものであることが好ましい。病変部位としては、マラセチア皮膚炎を発症している皮膚、マラセチア外耳炎を発症している外耳等が挙げられる。
【0023】
本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となるM.pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有するものである。本実施形態にかかる抗真菌剤の対象となるM.pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される2種以上に対して耐性を有することが好ましく、3種全てに耐性を有することがより好ましい。
この耐性について、詳細に説明する。
【0024】
<イトラコナゾール>
イトラコナゾールは、トリアゾール系抗真菌薬の1種である。
イトラコナゾールは、4-[4-[4-[4-[[2-[2,4-ジクロロフェニル]-2-[1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル]-1,3-ジオキソラン-4-イル]メトキシ]フェニル]-1-ピペラジニル]フェニル]-2,4-ジヒドロ-2-(1-メチルプロピル)-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オンの一般名である。
イトラコナゾールのCAS番号は、84625-61-6である。
イトラコナゾールは、下記式(2)で表される化合物である。
【0025】
【化2】
【0026】
M.pachydermatisがイトラコナゾールに対して耐性を有するか否かは、最小発育阻止濃度試験で確認することができる。
M.pachydermatisがイトラコナゾールに対する耐性を有する場合、最小発育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration, MIC)は、1μg/mL以上であることが好ましく、4μg/mL以上、8μg/mL以上、12μg/mL以上、16μg/mL以上であってもよい。
【0027】
<ミコナゾール>
ミコナゾールは、イミダゾール系抗真菌薬の1種である。
ミコナゾールは、1-[2,4-ジクロロ-β-[(2,4-ジクロロベンジル)オキシ]フェネチル]-1H-イミダゾールの一般名である。
ミコナゾールのCAS番号は、22916-47-8である。
ミコナゾールは、下記式(3)で表される化合物である。
【0028】
【化3】
【0029】
M.pachydermatisがミコナゾールに対して耐性を有するか否かは、最小発育阻止濃度試験で確認することができる。
M.pachydermatisがミコナゾールに耐性を有する場合、MICは、8μg/mL以上であることが好ましく、16μg/mL以上であることがより好ましく、24μg/mL以上であることが更に好ましく、32μg/mL以上であることが特に好ましい。
【0030】
<クロトリマゾール>
クロトリマゾールは、イミダゾール系抗真菌薬の1種である。
クロトリマゾールは、1-[ジフェニル(2-クロロフェニル)メチル]-1H-イミダゾールの一般名である。
クロトリマゾールのCAS番号は、23593-75-1である。
クロトリマゾールは、下記式(4)で表される化合物である。
【0031】
【化4】
【0032】
M.pachydermatisがクロトリマゾールに対して耐性を有するか否かは、最小発育阻止濃度試験で確認することができる。
M.pachydermatisがクロトリマゾールに対する耐性を有する場合、MICは、8μg/mL以上であることが好ましく、16μg/mL以上であることがより好ましく、24μg/mL以上であることが更に好ましく、32μg/mL以上であることが特に好ましい。
【0033】
<用途>
本実施形態にかかる抗真菌剤の用途は、上述のM.pachydermatisに対する抗菌を目的としている限り特に限定されず、例えば、治療用医薬組成物、予防用医薬組成物等の医薬組成物;化粧料組成物;身体洗浄用組成物、皮膚洗浄用組成物等の洗浄用組成物;医療用洗浄用組成物、食器用殺菌洗浄用組成物等の器具洗浄用組成物;食品組成物、口腔用組成物、表面抗菌用組成物等に配合して使用してもよい。
これらの中でも、医薬組成物に配合して用いることが好ましく、治療用医薬組成物に配合して用いることがより好ましい。
【0034】
<使用方法及び使用量>
本実施形態にかかる抗真菌剤の使用方法及び使用量は、抗真菌剤が対象のM.pachydermatisに対して効果を発揮する限り特に制限されず、当業者であれば、適宜設定可能である。
【0035】
ルリコナゾールは、Cytochrome p450に作用して、エルゴステロール合成経路を阻害する。エルゴステロールは真菌細胞膜の重要な構成要素であり、アゾール系抗真菌薬によりエルゴステロール合成が阻害されると、マラセチアの増殖は抑制される。
本実施形態にかかる抗真菌剤は、アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌に対して、増殖抑制効果を発揮することが可能である。
本実施形態にかかる抗真菌剤は、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、M.pachydermatisに対して、増殖抑制効果を発揮することが可能である。
【0036】
上述したように、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプーを用いて皮膚を洗う等の予防や治療を継続すると、イヌ、ネコ等に感染したM.pachydermatisは、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得する場合がある(例えば、非特許文献2を参照)。
従来、耐性を獲得したM.pachydermatisに対する有効な方策は存在しなかった。
本実施形態にかかる抗真菌剤は、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有するM.pachydermatisに対して、高い抗菌作用を発揮することが可能である。
例えば、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上のアゾール系抗真菌剤を含有するシャンプー等を用いても、M.pachydermatisを原因とするマラセチア真菌症の症状改善が見られない場合、M.pachydermatisは当該アゾール系抗真菌剤に耐性を獲得したと考えられる。このような場合に、本実施形態にかかる抗真菌剤を含有するシャンプー等を用いることにより、症状改善が期待できる。
【0037】
[治療用医薬組成物]
一実施形態において、本発明は、Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物を提供する。
前記治療用医薬組成物は、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量、及び薬学的に許容される担体を含む。
前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する。この耐性としては、[抗真菌剤]において例示したものであってもよい。
【0038】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が含み得るルリコナゾールの塩としては、[抗真菌剤]において例示したものが挙げられる。
これらの中でも、ルリコナゾールの塩は、薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0039】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が含み得るルリコナゾール又はその塩の溶媒和物としては、[抗真菌剤]において例示したものが挙げられる。
ルリコナゾール又はその塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であることが好ましい。
【0040】
<薬学的に許容される担体>
薬学的に許容される担体は、剤型に応じて、任意のものを用いることができる。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、薬学的に許容される担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0041】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経皮的に投与されるものである場合、薬学的に許容される担体としては、例えば、油性基剤、乳化剤、乳化安定剤、溶解補助剤、粉末成分、高分子成分、粘着性改良剤、被膜形成剤、保型剤、潤沢剤等が挙げられる。
【0042】
油性基剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、セタノール、ベンジルアルコール等の高級アルコール類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソステアリル、ラノリン等の脂肪酸エステル類、牛脂、オリーブ油等の中鎖脂肪酸トリグリセリド類、スクワレン、スクワラン等の脂肪酸、ホホバ油、ゲイロウ、白色ワセリン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、l-メントール、d-カンファー、シネオール、ゲラニオール、リモネン、プレゴン、チモール、アフィジコリン、ホルスコリン、フィタン酸、フィトール等のテルペン類、乳酸メンチル等のテルペノイドのカルボン酸エステル類、クロタミトン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、2-メトキシエタノール、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類等が挙げられる。
【0043】
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリソルベート類(ポリソルベート類は、脂肪酸の種類が異なる脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、例えば、ポリソルベート60(別名:モノステアリン酸、ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート40、Tween40、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。)、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
【0044】
乳化安定剤としては、例えば、増粘、被膜形成、接着性改良、その他の効果を有するものとして、例えばセトステアリルアルコール等の高級アルコール類、アクリル酸ポリマー、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム等の多糖類等が挙げられる。
【0045】
粉末成分としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、カオリン、アエロジル、酸性白土、マイカ、トウモロコシデンプン、メタケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0046】
高分子成分、粘着性改良剤、被膜形成剤としては、例えば、セトステアリルアルコール等の高級アルコール類、アクリル酸ポリマー、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム等の多糖類、ポリペプチド、コロジオン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、セルロース類等が挙げられる。
【0047】
保型剤としては、例えば、デキストリン、ショ糖エステル等が挙げられる。
【0048】
潤沢剤としては、例えば、シリカ、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0049】
<その他の成分>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、角質軟化剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分等が挙げられる。
【0050】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、乳酸、酒石酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の有機酸類、ピロリン酸ナトリウム等の有機酸塩類、水酸化ナトリウム等の無機塩基類、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0051】
抗酸化剤としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、α-トコフェロール、エリソルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としてはEDTA-2Na等が挙げられる。
【0052】
防腐剤又は保存剤としてはメチルパラベン等のパラベン類、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。
【0053】
保湿剤としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グリコシルトレハロース、キシリトール、ソルビトール等の糖類、コラーゲン、アルギニン、加水分解シルク、セリシン等の蛋白質やアミノ酸類、乳酸ナトリウム、後述の植物抽出成分等が挙げられる。
【0054】
皮膚保護剤としては、例えばリボフラビンリン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、シアノコバラミン等のビタミン誘導体類、グリコシルルチン等のポリフェノール類、ヒドロキシプロリン、ジパルミトイルヒドロキシプロリン等のヒドロキシプロリン又はその誘導体、セラミド、アミノカプロン酸、ステアロキシメチルポリシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸等のシロキサン誘導体、セレブロシド等の糖脂質類等が挙げられる。
【0055】
清涼化剤としてはハッカ(l-メントール)、カンフル、エタノール、ユーカリ油等が挙げられる。
【0056】
着色剤としては、例えば、赤色202号、酸化鉄等が挙げられる。
【0057】
キレート剤としては、例えば、EDTA-2Na(エデト酸塩)、エチドロン酸4Na、三リン酸5Na、ペンテト酸5Na等が挙げられる。
【0058】
角質軟化剤としては、例えば、尿素、フタル酸ジエチル等の有機酸エステル類、乳酸等の有機酸類、鯨蝋、コレステロール等の油脂類等が挙げられる。
【0059】
血行促進剤としては、例えば、ニコチン酸ベンジル、ヘパリン類似物質、トウガラシ等が挙げられる。
収斂剤としては、例えば、塩化アルミニウム、アルジオキサ等が挙げられる。
組織修復促進剤としては、例えば、アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート、塩化リゾチーム等が挙げられる。
制汗剤としては、例えば、ハロゲン化アルミニウム、ヒドロキシハロゲン化アルミニウム、オキシハロゲン化ジルコニウム、ヒドロキシハロゲン化ジルコニウム、及びそれらの混合物のようなアルミニウム塩及びジルコニウム塩等のアルミニウム、ジルコニウム及び亜鉛の無機塩及び有機塩若しくは錯体及びそれらの混合物等、クエン酸、乳酸、こうじ酸、メントール等が挙げられる。
【0060】
植物抽出成分としては、例えば、アロエエキス、オウゴンエキス、ソウハクヒエキス、モモ葉エキス、クチナシ葉エキス、エゾウゴキエキス、オウバクエキス、オトギリソウエキス、米糠エキス、緑茶エキス、甘草エキス、紅藻エキス、チョウジエキス、トウキエキス、トウガラシエキス、ローズマリー油等が挙げられる。
動物抽出成分としては、例えば、冬虫夏草エキス、ローヤルゼリーエキス等が挙げられる。
【0061】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経皮的に投与されるものである場合、治療用医薬組成物は、さらに、抗炎症剤、鎮痒剤を含んでもよい。
抗炎症剤、鎮痒剤としては、例えば、クロタミトン、グリチルリチン酸塩、オレアノール酸等のサポゲニン類、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、プロメタジン等の抗ヒスタミン剤、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、アミノ安息香酸エチル及びこれらの塩等の局所麻酔剤、アラントイン、オキシポリエントキシドデカン等が挙げられる。
【0062】
<製剤>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経皮的に投与されるものである場合、その治療用医薬組成物は、クリーム剤、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤、シャンプー、石鹸、又は爪塗布用エナメル剤等の外用薬として製剤化されたものであってもよい。
【0063】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、治療用医薬組成物の製剤は経口剤のために通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等の添加剤を用いて、常法により製造することができる。
使用可能な添加剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、クエン酸、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等が挙げられる。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、その治療用医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ剤等の経口投与に適した剤形に調製されたものであってもよい。
【0064】
<有効量>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物に含まれる、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量は、治療用医薬組成物が真菌症に罹患している対象に対して効果を発揮する限り特に制限されず、当業者が、適宜設定することができる。
【0065】
<治療の対象>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物の対象となる、Malassezia pachydermatisは、[抗真菌剤]において上述した耐性を有する。
【0066】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が投与される対象となる動物は、Malassezia pachydermatisが感染し得る動物である限り特に限定されず、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、フェレット、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等のペット;ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、トリ等の家畜;及びヒト等が挙げられる。
これらの中でも、ペット又は家畜が好ましく、ペットがより好ましく、イヌ又はネコが更に好ましい。
【0067】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、上述の耐性を有するMalassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症を治療するために用いられる。
真菌症としては、M.pachydermatisを原因菌とする真菌症である限り特に限定されないが、例えば、脂漏性皮膚炎等の皮膚炎が挙げられる。
【0068】
上述の真菌症の患部としては、上述の耐性を有するM.pachydermatisを原因菌とする真菌症の症状を呈している限り特に限定されず、足、体部、下腿、手、顔、頭部等の皮膚、外耳等が挙げられる。
【0069】
<投与方法>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、治療対象となる動物に対して、経口又は非経口で投与されてもよく、非経口で投与されることが好ましく、経皮的に投与されることがより好ましく、治療対象の動物の皮膚患部に塗布されることが更に好ましい。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経皮的に投与されるものである場合、治療用医薬組成物が患部に接触している状態で、包帯、フィルム等で患部を巻いてもよい。
【0070】
<投与量>
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経皮的に投与されるものである場合、投与量は、治療対象が治療しうる限り特に限定されず、例えば、患部に均一に塗布し得る量であってもよい。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、投与量は適宜決定されるが、例えば、治療対象の動物1個体当たり、約0.1~2000mgであってもよく、これを1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0071】
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、M.pachydermatisに対して、増殖抑制効果を発揮することが可能である。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する、M.pachydermatisを原因菌とする真菌症に対して、治療効果を発揮することが可能である。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプー等を用いたことにより、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得したM.pachydermatisを原因菌とする真菌症に対して、治療効果を発揮することが可能である。
ルリコナゾールは、皮膚刺激性が低い化合物である。そのため、本実施形態にかかる治療用医薬組成物は、マラセチアの感染により炎症を起こした皮膚に対して、好適に用いることができる。
【0072】
上述したように、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプーを用いて皮膚を洗う等の予防や治療を継続すると、イヌ、ネコ等に感染したM.pachydermatisは、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得する場合がある(例えば、非特許文献2を参照)。
耐性を獲得したM.pachydermatisに感染したイヌ、ネコ等の症状は、イトラコナゾール、ミコナゾール又はクロトリマゾールを用いても、改善しない場合がある。
本実施形態にかかる治療用医薬組成物を使用することにより、このような症状に対して、高い治療効果を発揮することが可能である。
【0073】
[治療方法]
一実施形態において、本発明は、Malassezia pachydermatisを原因菌とするヒト以外の動物の真菌症の治療方法であって、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を、治療を必要とするヒト以外の動物に、経皮的に投与することを含む、治療方法を提供する。
前記M.pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有する。この耐性としては、[抗真菌剤]において例示したものであってもよい。
【0074】
本実施形態にかかる治療方法において、M.pachydermatisを原因菌とする真菌症としては、[治療用医薬組成物]において上述したものが挙げられる。
【0075】
本実施形態にかかる治療方法において、治療を必要とするヒト以外の動物としては、[治療用医薬組成物]において例示したものが挙げられる。
ヒト以外の前記動物としては、ペット又は家畜が好ましく、ペットがより好ましく、イヌ又はネコが更に好ましい。
【0076】
本実施形態にかかる治療方法において、有効量及び投与方法としては、[治療用医薬組成物]を経皮的に投与する場合において上述したものが挙げられる。
【0077】
本実施形態にかかる治療方法によれば、上述の耐性を有するM.pachydermatisを原因菌とする真菌症に対して、治療効果を発揮することが可能である。
本実施形態にかかる治療方法によれば、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプー等を用いたことにより、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得したM.pachydermatisを原因菌とする真菌症に対して、治療効果を発揮することが可能である。
上述の抗真菌剤に含まれるルリコナゾールは、皮膚刺激性が低い化合物である。そのため、本実施形態にかかる治療方法によれば、マラセチアの感染による皮膚炎に対して、低い副作用リスクで、高い治療効果を発揮することが可能である。
【0078】
上述したように、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプーを用いて皮膚を洗う等の予防や治療を継続すると、イヌ、ネコ等に感染したM.pachydermatisは、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得する場合がある(例えば、非特許文献2を参照)。
耐性を獲得したM.pachydermatisに感染したイヌ、ネコ等の症状は、イトラコナゾール、ミコナゾール又はクロトリマゾールを用いても、改善しない場合がある。
本実施形態にかかる治療方法によれば、このような症状に対して、高い治療効果を発揮することが可能である。
【0079】
[その他の実施形態]
その他の実施形態としては、例えば、Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療方法であって、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を、治療を必要とする患者又は動物に投与することを含み、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有するものが挙げられる。
【0080】
また、その他の実施形態としては、例えば、Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療のための、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用であって、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有するものが挙げられる。
【0081】
また、その他の実施形態としては、例えば、Malassezia pachydermatisを原因菌とする真菌症の治療剤を製造するための、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用であって、前記Malassezia pachydermatisは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有するものが挙げられる。
【0082】
上記の各実施形態において、ルリコナゾール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、上述したものであってもよい。
上記の各実施形態において、イトラコナゾール、ミコナゾール又はクロトリマゾールに対する耐性は、上述したものであってもよい。
【実施例0083】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
マラセチア感染症を発症したイヌの皮膚表面の拭い物から、9株のMalassezia pachydermatis(#1~#9)を得た。
【0085】
9株のマラセチア株を、Sabouraud’s Dextrose agar培地に播種し、32℃で7日間、培養した。得られた菌体を、濁度が1.0となるように、0.9% NaClの滅菌溶液に懸濁した。
【0086】
感受性の解析は、1% Tween 80を含有するSabouraud’s Dextrose培地を用いて、32℃で72時間培養したこと以外は、Clinical and Laboratory Standards Institute M27-A2のプロトコールに従って行った。
【0087】
感受性解析の結果得られた各マラセチア株の最小発育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration,MIC)を表1に示す。表1中、数値の単位は、μg/mLである。
【0088】
【表1】
【0089】
例えば、イトラコナゾールについてはMICが1μg/mL以上である場合、ミコナゾールについてはMICが32μg/mL以上である場合、クロトリマゾールについてはMICが32μg/mL以上である場合に、耐性であると判定することができる(Peano A, Johnson E, Chiavassa E et al. J Fungi (Basel). 2020; 25:6(2):93.)。
【0090】
表1に示すように、基準株(CBS1879)は、いずれの抗真菌薬に対してもMICが1μg/mL以下であった。したがって、基準株は、これら4薬剤のすべてに感受性であると判定された。
【0091】
表1に示すように、#1~4、6~9は、いずれも、イトラコナゾールのMICが1μg/mL以上であり、イトラコナゾールに耐性であると判定された。
#1~9は、いずれも、ミコナゾールのMICが32μg/mL以上であり、ミコナゾールに耐性であると判定された。
#1~2、#5、#7~9は、クロトリマゾールのMICが32μg/mL以上であり、クロトリマゾールに耐性であると判定された。
すなわち、#1~9は、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールからなる群より選択される1種以上に対して耐性を有していると判定された。
【0092】
これに対し、#1~9は、ルリコナゾールのMICが、8μg/mL以下であった。
【0093】
また、上記4種の薬剤に対する50%発育阻止濃度(MIC50:μg/ml)および90%発育阻止濃度(MIC90:μg/ml)を比較した。
表1に示すように、ルリコナゾールのMIC50及びMIC90は、それぞれ、上記の4種の薬剤のMIC50及びMIC90の中でも最も低い値であった。
したがって、ルリコナゾールは、イトラコナゾール、ミコナゾール及びクロトリマゾールから選択されるアゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア株に対して、十分な抗菌効果を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌に対する、抗真菌剤、及び、そのマラセチア菌を原因菌とする真菌症の治療用医薬組成物を提供する。本発明の抗真菌剤及び治療用医薬組成物は、ペット等に感染した、アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチア菌に対して好適に用いることができる。