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特開2023-136780軟磁性金属粒子、軟磁性金属粉末、磁性素体およびコイル型電子部品
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  • 特開-軟磁性金属粒子、軟磁性金属粉末、磁性素体およびコイル型電子部品 図1
  • 特開-軟磁性金属粒子、軟磁性金属粉末、磁性素体およびコイル型電子部品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136780
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】軟磁性金属粒子、軟磁性金属粉末、磁性素体およびコイル型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20230922BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20230922BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230922BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230922BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230922BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
H01F1/147 133
H01F17/04 F
H01F1/147 141
B22F1/00 Y
C22C30/00
C22C38/00 303S
C22C19/03 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042660
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 優
(72)【発明者】
【氏名】梅田 秀信
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AA26
4K018AA30
4K018BA16
4K018BA20
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC13
4K018BC33
4K018BD04
4K018CA07
4K018CA33
4K018DA03
4K018DA31
4K018FA08
4K018JA22
4K018KA44
4K018KA63
5E041AA07
5E041BD01
5E041NN06
5E070AA01
5E070BB01
(57)【要約】
【課題】高い金属占積率と高い飽和磁化とを両立させた磁性素体を作製可能であり、かつ、インダクタンス、直流重畳特性および耐電圧が全て良好なコイル型電子部品を作製可能な軟磁性金属粒子を提供する。
【解決手段】FeNi系の軟磁性金属からなり、一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeNi系の軟磁性金属からなり、一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子。
【請求項2】
X線回折分析により得られる回折チャートにおいて、前記fcc相の回折ピークの強度を前記bcc相の回折ピークの強度で割った値が0.01以上0.80以下である請求項1に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項3】
Fe、NiおよびCoを主成分とする請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性金属粒子を有する軟磁性金属粉末。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性金属粒子を有する磁性素体。
【請求項6】
請求項5に記載の磁性素体と、コイル導体と、を有するコイル型電子部品。
【請求項7】
前記磁性素体の内部に前記コイル導体が配置される請求項6に記載のコイル型電子部品。
【請求項8】
前記磁性素体のコイル内径部およびカバー部に前記軟磁性金属粒子を有する請求項7に記載のコイル型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粒子、軟磁性金属粉末、磁性素体およびコイル型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層インダクタに関する発明が記載されており、Fe-Si-M軟磁性合金(MはFeより酸化しやすい金属元素)からなる金属粒子を含む磁性材料を用いて磁性材料層を作製している。特許文献2には、軟磁性合金粉末に関する発明が記載されており、Fe、Ni、CoおよびSiのそれぞれの含有量を特定の範囲内に制御したFe-Ni系結晶粒子を含有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-238840号公報
【特許文献2】特開2008-135674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い金属占積率と高い飽和磁化とを両立させた磁性素体を作製可能であり、かつ、インダクタンス、直流重畳特性および耐電圧が全て良好なコイル型電子部品を作製可能な軟磁性金属粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る軟磁性金属粒子は、FeNi系の軟磁性金属からなり、一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する。
【0006】
本発明に係る軟磁性金属粒子は、X線回折分析により得られる回折チャートにおいて、前記fcc相の回折ピークの強度を前記bcc相の回折ピークの強度で割った値が0.01以上0.80以下であってもよい。
【0007】
本発明に係る軟磁性金属粒子は、Fe、NiおよびCoを主成分としてもよい。
【0008】
本発明に係る軟磁性金属粉末は、上記の軟磁性金属粒子を有する。
【0009】
本発明に係る磁性素体は、上記の軟磁性金属粒子を有する。
【0010】
本発明に係るコイル型電子部品は、上記の磁性素体と、コイル導体と、を有する。
【0011】
本発明に係るコイル型電子部品は、前記磁性素体の内部に前記コイル導体が配置されてもよい。
【0012】
本発明に係るコイル型電子部品は、前記磁性素体のコイル内径部およびカバー部に上記の軟磁性金属粒子を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る積層インダクタの断面模式図である。
図2】アトマイズ装置の要部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0015】
(コイル型電子部品の構造)
コイル型電子部品として、図1に示す積層インダクタ1が例示される。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る積層インダクタ1は、素子2と端子電極3とを有する。素子2は、磁性素体4の内部にコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に埋設された構成を有している。素子2の両端には、端子電極3が形成されており、この端子電極3は、引出電極5a、5bを介してコイル導体5と接続されている。また、素子2はコイル導体5が埋設されている中央部2bおよび中央部2bの積層方向上下に存在しコイル導体5が埋設されていない表面部2aからなる。
【0017】
図1に示すように、磁性素体4のうち、積層方向については中央部2bに位置し、かつ、コイル導体5の径方向については、コイル導体5のうち軸心に最も近い部分からコイル導体5の軸心までの距離に対して3%以上、コイル導体5の軸心に近い側に位置している部分をコイル内径部4bとする。
【0018】
図1に示すように、磁性素体4のうち、積層方向について表面部2aに位置する部分をカバー部4cとする。
【0019】
磁性素体4のうち、コイル内径部4bにもカバー部4cにも含まれない部分をその他の部分4aとする。
【0020】
素子2の形状は任意であるが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。例えば、0.2~2.5mm×0.1~2.0mm×0.1~1.2mmとすることができる。
【0021】
端子電極3の材質は、電気伝導体であれば、任意の材質とすることができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが好ましい。Agは安価であり、かつ、電気抵抗が低いためである。また、端子電極3は上記の電気伝導体以外の物質、例えばガラスフリットを含有していてもよい。
【0022】
端子電極3は表面にめっきを施してもよい。たとえば、Cuめっき、NiめっきまたはSnめっきであってもよい。また、NiめっきおよびSnめっきをこの順番に施してもよい。
【0023】
コイル導体5および引出電極5a、5bの材質は、電気伝導体であれば、任意の材質とすることができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが好ましい。Agは安価であり、かつ、電気抵抗が低いためである。
【0024】
磁性素体4は、軟磁性金属粒子および樹脂からなっていてもよい。磁性素体4のうち軟磁性金属粒子以外の部分を隙間スペースとする。そして隙間スペースに樹脂が充填され、樹脂が充填されていない部分が空隙となる。また、樹脂を充填する前の段階では、隙間スペースは全て空隙である。
【0025】
樹脂が隙間スペースに充填されることで、積層インダクタ1の強度が高くなる。また、樹脂により軟磁性金属粒子同士の間の絶縁性がさらに高くなる。そのことにより積層インダクタ1のQがさらに向上する。さらに、積層インダクタ1の信頼性および耐熱性が向上する。
【0026】
樹脂の種類には特に制限はない。具体的には、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂であってもよい。特にフェノール樹脂であることが安価で取り扱いが容易のため好ましい。
【0027】
(軟磁性金属粒子)
磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子のうち少なくとも一部の軟磁性金属粒子はFeNi系の軟磁性金属からなる。
【0028】
FeNi系の軟磁性金属は、FeおよびNiを主に含む。具体的には、Feの含有量が20質量%以上であり、かつ、Niの含有量が20質量%以上である軟磁性金属である。
【0029】
軟磁性金属粒子がFe、NiおよびCoを主成分として含んでいてもよい。具体的には、Feの含有量が20質量%以上、Niの含有量が10質量%以上、かつ、Coの含有量が3質量%以上であってもよい。
【0030】
また、FeNi系の軟磁性金属が、Fe、NiおよびCoを主成分として含み、さらに、Si、CrおよびPから選択される1種以上を含んでいてもよい。Siの含有量が1質量%以上6質量%以下であってもよい。Crの含有量が0.2質量%以上5質量%以下であってもよい。Pの含有量が0.01質量%以上1質量%以下であってもよい。
【0031】
FeNi系の軟磁性金属は、Fe、Ni、Co、Si、CrおよびPの含有量の合計を100質量部とした場合において、その他の元素の含有量が3質量部以下であってもよい。
【0032】
そして、軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する。fcc相は面心立方構造を有する相であり、bcc相は体心立方構造を有する相である。以下の記載では、FeNi系の軟磁性金属からなり一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子のことを単に特定軟磁性金属粒子と呼ぶことがある。
【0033】
特定軟磁性金属粒子を用いて磁性素体4を作製する場合には、成形時に軟磁性金属粒子の再配列が効率的に行われ、磁性素体4における金属占積率が高くなる。軟磁性金属粒子の再配列が効率的に行われることで、軟磁性金属粒子の配置が最適化されるためである。さらに、特定軟磁性金属粒子は飽和磁化Msが高い。すなわち、特定軟磁性金属粒子を用いて磁性素体4を作製する場合には、飽和磁化Msと金属占積率とを同時に高くすることができる。その結果、積層インダクタ1の直流重畳特性が向上する。
【0034】
これは、fcc相は比較的硬度が低く、bcc相は比較的硬度が高いためである。
【0035】
軟磁性金属粒子がfcc相のみを含む場合には、軟磁性金属粒子の再配列が十分に進行する前に軟磁性金属粒子の塑性変形が生じやすい。軟磁性金属粒子が塑性変形すると、軟磁性金属粒子の再配列が進行しにくくなる。そのため、軟磁性金属粒子がfcc相のみを含む場合には、磁性素体4における金属占積率が低くなりやすくなる。
【0036】
ただし、軟磁性金属粒子の塑性変形が十分に生じない場合も、磁性素体4における金属占積率が十分に向上しない。軟磁性金属粒子がbcc相のみを含む場合には軟磁性金属粒子の塑性変形が生じにくくなりすぎる。そして、磁性素体4における金属占積率が低くなりやすくなる。
【0037】
磁性素体4における特定軟磁性金属粒子を有する部分の位置については特に制限はない。
【0038】
磁性素体4のコイル内径部4bおよびカバー部4cに特定軟磁性金属粒子を有していてもよく、実質的に磁性素体4のコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有していてもよい。実質的に磁性素体4のコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、特にインダクタンスおよび直流重畳特性をバランスよく向上させやすくなる。
【0039】
磁性素体4のその他の部分4a、コイル内径部4bおよびカバー部4cの全てに特定軟磁性金属粒子を有してもよい。磁性素体4のその他の部分4a、コイル内径部4bおよびカバー部4cの全てに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、特に耐電圧が向上しやすくなる。
【0040】
磁性素体4に特定軟磁性金属粒子を有する場合において、どの程度の割合で特定軟磁性金属粒子を有するかについては、特に制限はない。磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子に対して個数割合で10%以上、特定軟磁性金属粒子を有していてもよい。
【0041】
コイル内径部4bに特定軟磁性金属粒子を有する場合において、どの程度の割合で特定軟磁性金属粒子を有するかについては、特に制限はない。コイル内径部4bに含まれる軟磁性金属粒子に対して個数割合で10%以上、特定軟磁性金属粒子を有していてもよい。
【0042】
カバー部4cに特定軟磁性金属粒子を有する場合において、どの程度の割合で特定軟磁性金属粒子を有するかについては、特に制限はない。カバー部4cに含まれる軟磁性金属粒子に対して個数割合で10%以上、特定軟磁性金属粒子を有していてもよい。
【0043】
実質的にコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、その他の部分4aにおける特定軟磁性金属粒子の個数割合が10%未満である。逆に、その他の部分4aに特定軟磁性金属粒子を有する場合において、どの程度の割合で特定軟磁性金属粒子を有するかについては、特に制限はない。その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子に対して個数割合で10%以上、特定軟磁性金属粒子を有していてもよい。
【0044】
磁性素体4が特定軟磁性金属粒子以外の軟磁性金属粒子を含んでいてもよい。例えば、FeNi系の軟磁性金属からなるが一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有さない軟磁性金属粒子を含んでいてもよく、FeNi系の軟磁性金属ではない軟磁性金属からなる軟磁性金属粒子を含んでいてもよい。例えば、FeSi系の軟磁性金属からなる軟磁性金属粒子を含んでいてもよい。
【0045】
FeSi系の軟磁性金属は、FeおよびSiを主に含む。具体的には、Feの含有量が90質量%以上であり、かつ、Siの含有量が1質量%以上である軟磁性金属である。
【0046】
FeSi系の軟磁性金属は、FeおよびSiに加えて、さらにCrおよびPから選択される1種以上を含んでいてもよい。Crの含有量が0.5質量%以上8質量%以下であってもよい。Pの含有量が0.01質量%以上1質量%以下であってもよい。
【0047】
FeSi系の軟磁性金属は、Fe、Si、CrおよびPの含有量の合計を100質量部とした場合において、その他の元素の含有量が3質量部以下であってもよい。
【0048】
実質的にコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、その他の部分4aにはFeSi系の軟磁性金属からなる軟磁性金属粒子を有していてもよい。この場合には、全ての部分が特定軟磁性金属粒子を有する場合と比較して、インダクタンスと直流重畳特性とのバランスが向上しやすくなる。一方、全ての部分が特定軟磁性金属粒子を有する場合には、耐電圧が向上しやすくなる。
【0049】
磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径(D50)には特に制限はない。例えば0.5μm以上15μm以下としてもよい。
【0050】
コイル内径部4b、カバー部4c、その他の部分4aのそれぞれで異なる平均粒径としてもよい。特に、実質的にコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、コイル内径部4bに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径およびカバー部4cに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径を、その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径よりも大きくすることが好ましい。この場合には、コイル内径部4bに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径およびカバー部4cに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径を5μm以上20μm以下とし、その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径を0.5μm以上5μm以下としてもよい。
【0051】
さらに、その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径をコイル内径部4bに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径で割った値が0.025以上0.70以下であってもよい。その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径をカバー部4cに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径で割った値が0.025以上0.70以下であってもよい。
【0052】
コイル内径部4bに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径およびカバー部4cに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径を、その他の部分4aに含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径よりも大きくする場合には、全ての部分における軟磁性金属粒子の平均粒径が概ね同一である場合と比較して、インダクタンスと直流重畳特性とのバランスが向上しやすくなる。
【0053】
軟磁性金属粒子が、軟磁性金属粒子本体と、軟磁性金属粒子本体を被覆する酸化被膜と、からなっていてもよい。酸化被膜の厚みには特に制限はない。例えば、平均厚みが5nm以上60nm以下であってもよい。酸化被膜の形成方法には特に制限はない。例えば軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末を焼成することにより形成できる。
【0054】
(一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有することの確認)
以下、軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するか否かを判断する方法について説明する。
【0055】
軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するか否かを判断する方法には特に限定はない。例えば、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)と呼ばれる方法がある。
【0056】
EBSDとは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて回折パターン(EBSDパターン)を測定、解析することで、結晶性材料の結晶方位および結晶性材料の結晶系の測定を行う方法である。
【0057】
EBSDパターンは、交差する複数のバンドによって形成されている。1本のバンドは1つの結晶面からの回折によって生じる。バンドの幅および強度は格子定数などの結晶構造に依存している。バンドが交差する角度およびバンドが現れる位置は結晶方位によって決まっている。したがって、EBSDパターンを解析することにより、結晶相の同定および結晶方位の測定が可能である。
【0058】
EBSDを行う場合には、例えば、SEMの鏡筒内に試料を傾けてセットする。この時に試料に電子線を照射すると、EBSD検出器のスクリーン上にEBSDパターンが投影される。このEBSDパターンをEBSD検出器(CCD検出器)で撮像する。取得した画像を例えばHaugh変換等の所定の方法により画像解析し、既知の結晶構造データベースによるシミュレーションパターンと比較することにより、結晶相および結晶方位が決定される。
【0059】
さらに、決定された結晶相および結晶方位は、座標と共に記録される。したがって、結晶相マッピングや結晶方位マッピングなどの作成および解析が可能である。また、EDXによる元素マッピングを同時に行うことにより、元素組成情報と結晶構造情報とを統合した総合的な材料解析を行うことができる。
【0060】
積層インダクタ1に含まれる磁性素体4に対してEBSDを行う場合には、まず、磁性素体4の測定箇所に電子線を照射する。そして、軟磁性金属粒子の各結晶面で回折電子から生じる後方散乱回折を解析する。このことにより、軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するか否かを判別することができる。軟磁性金属粒子が多数あっても、各軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するのか、fcc相のみを有する軟磁性金属粒子とbcc相のみを有する軟磁性金属粒子とが混在しているのか、を判別することができる。
【0061】
軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するか否かを判断する方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる電子線回折法も挙げられる。原理的にはEBSDと同様であるが測定装置がEBSDとは異なる。この場合には、磁性素体4を薄片化して電子線を照射することで回折パターンを得る。そして、得られた回折パターンから、照射部分の結晶構造を調べることができる。EBSDと同様に軟磁性金属粒子が多数あっても、各軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有するのか、fcc相のみを有する軟磁性金属粒子とbcc相のみを有する軟磁性金属粒子とが混在しているのか、を判別することができる。
【0062】
(fcc相とbcc相との存在割合)
軟磁性金属粒子が一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する場合において、fcc相とbcc相との存在割合には特に制限はない。X線回折分析により得られる回折チャートにおいて、bcc相の回折ピークの強度をfcc相の回折ピークの強度で割った値(以下、単にbcc/fcc比と記載することがある)が0.01以上0.80以下であることが好ましい。なお、fcc相の回折ピークは、概ね、2θ=43.5°~44.0°に現れる。bcc相の回折ピークは、概ね、2θ=44.5°~45.2°に現れる。
【0063】
上記したように積層インダクタ1の全ての部分が特定軟磁性金属粒子を有する場合には、bcc/fcc比が0.30以上0.80以下であることが好ましい。
【0064】
上記したように積層インダクタ1のうち実質的にコイル内径部4bおよびカバー部4cのみに特定軟磁性金属粒子を有する場合には、bcc/fcc比が0.01以上0.40以下であることが好ましい。
【0065】
上記のbcc/fcc比は、bcc相の存在割合をfcc相の存在割合で割った値とは必ずしも一致しない。一般的には結晶相の種類により回折ピークの強度が変化するためである。
【0066】
X線回折分析を行う軟磁性金属粒子の個数には特に制限はない。同条件で多数の積層インダクタ1を作製している場合には、多数の磁性素体4を測定範囲内に並べてX線回折分析を行って回折チャートを得てもよい。粉末X線回折分析により軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末における回折チャートを得てもよい。
【0067】
X線回折分析の観察範囲をφ10μm程度とすることも可能である。すなわち、X線回折分析の観察範囲をφ10μm程度として1個の軟磁性金属粒子から回折チャートを得てもよい。
【0068】
(積層インダクタの製造方法)
積層インダクタの製造方法の一例について説明する。まず、磁性素体を構成する軟磁性金属粒子の原料となる軟磁性金属粉末を作製する方法について説明する。
【0069】
一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末は、図2に示す水アトマイズ装置21を用いた水アトマイズ法により作製することができる。
【0070】
一般的に、水アトマイズ法では、溶融金属(溶湯)25をタンディッシュ22の底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体として供給する。供給された溶湯25に対して、アトマイズノズル23を通じて供給される高圧水27を吹き付ける。このことにより溶湯25が液滴化されてアトマイズ粉29となる。そして、アトマイズ粉29が冷却水等の冷却手段により急冷されて微細な金属粉末が得られる。
【0071】
本発明者らは、FeNi系の軟磁性金属からなる溶湯25を用い、かつ、高圧水27の水量および水圧を制御することで溶湯25の冷却速度を制御することにより、一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子が得られることを見出した。
【0072】
具体的には、高圧水27の水量を200L/min以上とし、水圧を20MPa以上40MPa以下とする。特に上記の水量は通常の水アトマイズ法であれば過剰な水量であり、上記の水量で水アトマイズ法を行うと製造コストが高くなる。しかし、FeNi系の軟磁性金属からなる溶湯25を用いる場合には、高圧水27の水量を200L/min以上とすることにより一粒子内にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子が得られる。
【0073】
高圧水27の水量には特に上限はない。水量が多くなるほどbcc/fcc比が大きくなる傾向にある。例えば500L/min以下であってもよい。
【0074】
その他の点については、通常の水アトマイズ法と同様の方法により軟磁性金属粉末が得られる。
【0075】
続いて、このようにして得られた軟磁性金属粉末を用いて、積層インダクタを製造する。積層インダクタを製造する方法については制限されず、公知の方法を採用することができる。以下では、シート法を用いて積層インダクタを製造する方法について説明する。
【0076】
得られた軟磁性金属粉末を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いて、焼成後に磁性素体となるグリーンシートを形成する。この際に、軟磁性金属粉末の種類が異なる複数のペーストを適宜使い分けて目的とする磁性素体が得られるようにしてもよい。次いで、形成されたグリーンシートの上に、コイル導体ペーストを塗布してコイル導体パターンを形成する。コイル導体ペーストは、コイル導体となる金属(Ag等)を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化して作製する。続いて、コイル導体パターンが形成されたグリーンシートを複数積層した後に、各コイル導体パターンを接合することで、コイル導体が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーン積層体が得られる。
【0077】
得られた積層体に対し、熱処理(脱バインダ工程および焼成工程)を行うことにより、バインダを除去し、軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子が軟磁性金属焼成粒子となる。そして、軟磁性金属焼成粒子同士が互いに接続されて固定された(一体化した)焼成体としての積層体を得る。脱バインダ工程における保持温度(脱バインダ温度)は、バインダが分解してガスとして除去できる温度であれば特に制限されないが、300~450℃であることが好ましい。また、脱バインダ工程における保持時間(脱バインダ時間)も特に制限されないが、0.5~2.0時間であることが好ましい。
【0078】
焼成工程における保持温度(焼成温度)は、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子が互いに接続される温度であれば特に制限されないが、550~850℃であることが好ましい。また、焼成工程における保持時間(焼成時間)も特に制限されないが、本実施形態では、0.5~3.0時間であることが好ましい。
【0079】
なお、脱バインダおよび焼成における雰囲気を調整することが好ましい。具体的には、脱バインダおよび焼成を、大気中のような酸化雰囲気で行ってもよいが、大気雰囲気よりも酸化力の弱い雰囲気下、例えば窒素雰囲気下や窒素及び水素の混合雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることで、軟磁性金属粒子の比抵抗を高く維持しながら、磁性素体の密度を向上させ、さらに透磁率等を向上させることができる。また、軟磁性金属粒子の表面にSi酸化被膜を形成させやすくなり、Feの酸化物を形成させにくくなる。この結果、Feの酸化によるインダクタンスの低下を防止することができる。
【0080】
焼成後にアニール処理を行ってもよい。アニール処理を行う場合の条件は任意であるが、例えば500~800℃で0.5~2.0時間行ってもよい。また、アニール後の雰囲気も任意である。
【0081】
なお、上記の熱処理後の軟磁性金属粒子の組成は、上記の熱処理前の軟磁性金属粉末の組成と実質的に一致する。
【0082】
続いて、素子に端子電極を形成する。端子電極を形成する方法には特に制限はなく、通常は端子電極となる金属(Ag等)を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化して作製する。
【0083】
次に、素子に対して樹脂を含浸させてもよい。樹脂を含浸させると隙間スペースに樹脂が充填される。樹脂を含浸させる方法は任意である。例えば、真空含浸による方法が挙げられる。
【0084】
樹脂を含浸させる場合において、最終的に得られる積層インダクタの磁性素体における樹脂の含有量は0.5重量%以上3.0重量%以下であってもよい。
【0085】
本実施形態では、樹脂の充填後に端子電極に電解めっきを施すことができる。樹脂が隙間スペースに充填されているため、積層インダクタをめっき液に投入してもめっき液が磁性素体内部に侵入しにくい。そのためにめっき後においても積層インダクタ内部でショートが発生せず、インダクタンスが高く保たれる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0087】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実験例1)
(軟磁性金属粉末の作製)
まず、原料として、Fe単体、Ni単体、Co単体、Si単体およびCr単体をそれぞれ準備した。次に、それらを混合してルツボに収容した。続いて、不活性雰囲気下において、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して溶湯を得た。なお、Pの含有量の調整は、軟磁性金属粉末の原料を溶融、混合する際に、Fe単体の原料に含まれるPの量を調整することで行った。
【0089】
次いで、ルツボから図2に示す水アトマイズ装置21のタンディッシュ22に溶湯25を供給した。そして、タンディッシュ22から線状の連続的な流体を形成するように供給された溶湯25に対して、高圧水23を衝突させた。その際に、高圧水23の水量が表1に示す値となるようにした。高圧水23の水圧が40MPaとなるようにした。
【0090】
溶湯25が液滴化してアトマイズ粉末29となった。そして、アトマイズ粉末29を冷却水で急冷し、さらに、脱水、乾燥、分級することにより、表1に示す各試料の軟磁性金属粉末を作製した。なお、各試料の平均粒径を制御するために、製造条件、分級条件等を適宜制御した。
【0091】
得られた軟磁性金属粉末をICP分析法により組成分析した結果、各試料の組成が表1に示す組成となっていることを確認した。また、表1に記載されていない元素は実質的に含有していないことを確認した。
【0092】
(軟磁性金属粉末の飽和磁化Msの測定)
各軟磁性金属粉末の飽和磁化Msは、振動試料磁力計(東英工業株式会社製 VSM-3S-15)を用いて、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で測定した。結果を表1に示す。実験例1では、Msが1.50Tを上回る場合を良好とした。
【0093】
(積層インダクタの作製)
上記の軟磁性金属粉末を、溶媒、バインダ等の添加物と共にスラリー化し、ペーストを作製した。そして、このペーストを用いて焼成後に磁性素体となるグリーンシートを形成した。このグリーンシート上に所定パターンのAg導体(コイル導体)を形成し、積層することにより、厚さ0.8mmのグリーンの積層体を作製した。コイルの巻き数は7.5Tsとした。
【0094】
得られたグリーン積層体を1.6mm×0.8mm形状に切断して、グリーン積層インダクタを得た。得られたグリーン積層インダクタに対して、不活性雰囲気下、400℃で脱バインダ処理を行った。その後、還元性雰囲気下750℃-1hの条件で焼成して焼成体を得た。なお、不活性雰囲気とはN2ガス雰囲気のことである。還元性雰囲気とはN2とH2ガスとの混合ガス雰囲気(水素濃度1.0%)のことである。
【0095】
得られた焼成体の両側端面に、端子電極用ペーストを塗布、乾燥し、酸素分圧1%の雰囲気下、700℃で1時間、焼付処理を行い、端子電極を形成し、積層インダクタ(焼付品)を得た。
【0096】
次に、得られた焼付品に対して樹脂含浸を行った。具体的には、焼付品にフェノール樹脂の原料混合物を真空含浸し、その後加熱して樹脂を硬化させることで焼付品に樹脂を充填した。樹脂の硬化は150℃で2時間、加熱することで行った。なお、樹脂を硬化させる際にフェノール樹脂の原料混合物に含まれる溶剤等が蒸発した。
【0097】
そして、電解めっきを施し、端子電極上にNiめっき層およびSnめっき層を形成して図1に示す積層インダクタ1を得た。なお、コイル導体5の厚みは40μm、層間部4aの厚みは15μmであった。
【0098】
磁性素体4の組成についてICP分析法を用いて確認した。磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子の組成が軟磁性金属粉末の組成と実質的に一致することを確認した。
【0099】
(一粒子内にbcc相とfcc相とを混在して有することの確認)
得られた磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子について、EBSDにより一粒子内にbcc相とfcc相とを混在して有するか否かを確認した。全ての実施例において、FeNi系の軟磁性金属からなる軟磁性金属粒子は一粒子内にbcc相とfcc相とを混在して有することを確認した。
【0100】
(軟磁性金属粒子のbcc/fcc比の測定)
得られた磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子について、bcc/fcc比をX線回折分析により特定した。結果を表1に示す。なお、bcc相の回折ピークが検出されなかった場合には「fcc単相」と記載し、fcc相の回折ピークが検出されなかった場合には「bcc単相」と記載した。「fcc単相」は数値で表せば0.00である。
【0101】
(平均粒径の測定)
積層インダクタ1の磁性素体4の断面をSEMで画像解析することにより軟磁性金属粒子の円相当径を求めた。400個以上の軟磁性金属粒子が観察範囲に含まれるように観察範囲を設定し、観察範囲に含まれる軟磁性金属粒子の円相当径を測定した。各軟磁性金属粒子の円相当径を平均することで軟磁性金属粒子の平均粒径を算出した。実験例1では、全ての実施例および比較例で軟磁性金属粒子の平均粒径が3μm程度であることを確認した。
【0102】
(軟磁性金属粒子の占積率の測定)
上記の観察範囲における磁性素体4の全面積に対する軟磁性金属粒子の合計面積の割合を軟磁性金属粒子の占積率とした。結果を表1に示す。実験例1では、占積率が60%を上回る場合を良好とし、70%を上回る場合をさらに良好とした。
【0103】
(軟磁性金属粒子の飽和磁化の測定)
積層インダクタ1のうち磁性素体4である部分をレーザー加工による微細加工で切り出した。磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子について、振動試料磁力計(東英工業株式会社製 VSM-3S-15)を用いて、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で飽和磁化を測定した。その結果、全ての実施例および比較例において、磁性素体4に含まれる軟磁性金属粒子の飽和磁化が軟磁性金属粉末の飽和磁化と同一であることを確認した。実験例1では、飽和磁化Msが1.50Tを上回る場合を良好とした。
【0104】
(インダクタンス、Isatの測定)
積層インダクタ1のインダクタンスをLCRメータ(HEWLETT PACKARD社製:4285A)で測定しながら、直流電流を0から印加していった。インダクタンスの測定周波数は2MHz、測定電流は0.1Aとした。
【0105】
直流電流が0である時のインダクタンスをL(単位:μH)として、インダクタンスが0.70×Lに低下する時の直流電流をIsat(単位:A)とした。表1に示すIsatは、各実施例および比較例のそれぞれについて作製された30個の積層インダクタのIsatを平均した値である。実験例1では、Isatが1.60A以上である場合に直流重畳特性が良好であるとした。
【0106】
インダクタンスと直流重畳特性とのバランスを評価する指標としてL×Isat(単位:μV・s)を表1に示す。L×Isatは1.10μV・s以上である場合を良好とし、1.60μV・s以上である場合をさらに良好とした。
【0107】
(耐電圧の測定)
積層インダクタに対してインパルス試験機(株式会社電子制御国際製 DWX-300LI)を用いてインパルス電圧を印加した。そして、インパルス電圧の印加後に改めてインダクタンスを測定した。
【0108】
同条件で作製した複数の積層インダクタに対して、インパルス電圧の大きさを1V刻みで変化させて同様の試験を実施した。そして、インパルス電圧の印加によるインダクタンスの低下率を算出した。
【0109】
インダクタンスの低下率が10%以下である積層インダクタに印可されたインパルス電圧のうち、最も大きなインパルス電圧を耐電圧とした。耐電圧は10V以上を良好とし、20V以上を更に良好とした。
【0110】
【表1】
【0111】
表1より、実施例1~9の軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子は一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有していた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された積層インダクタは、磁性素体における軟磁性金属粒子の飽和磁化Msおよび占積率が高くなり、耐電圧および直流重畳特性が高くなった。
【0112】
比較例1では軟磁性金属粉末にbcc相が含まれなかった。比較例1では磁性素体における軟磁性金属粒子の占積率は高かったものの、飽和磁化Msが低くなった。そして、積層インダクタの耐電圧および直流重畳特性も劣る結果となった。
【0113】
比較例2では軟磁性金属粉末にfcc相が含まれなかった。比較例2では磁性素体における軟磁性金属粒子の飽和磁化Msは高かったものの、占積率が低くなった。そして、積層インダクタの耐電圧および直流重畳特性も劣る結果となった。
【0114】
比較例3では軟磁性金属粉末にbcc相が含まれなかった。比較例3では磁性素体における軟磁性金属粒子の占積率は高かったものの、飽和磁化Msが低くなった。そして、積層インダクタの耐電圧および直流重畳特性が劣る結果となった。
【0115】
(実験例2)
実験例2では、積層インダクタ1の磁性素体4について、コイル内径部4b、上下カバー部4c、その他の部分のそれぞれで異なる組成および/または平均粒径の軟磁性金属粒子を含むようにした。
【0116】
目的とする積層インダクタ1の磁性素体4に応じて複数種類の軟磁性金属粉末を作製し、軟磁性金属粉末の種類ごとにスラリー化し、複数種類のペーストを作製した。そして、複数種類のペーストを適宜使い分けて焼成後に目的とする磁性素体4となるグリーンシートを形成した。
【0117】
平均粒径については、コイル内径部4bおよび上下カバー部4cで軟磁性金属粒子の平均粒径が10μm程度となるようにした。その他の部分4aで軟磁性金属粒子の平均粒径が3μm程度となるようにした。
【0118】
コイル内径部4b、上下カバー部4c、その他の部分のそれぞれに含まれる軟磁性金属粒子の組成を表2に示す。
【0119】
その他の点については実験例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表2より、一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子を少なくともいずれかの部分に含む実施例11~20の積層インダクタは、良好な特性を有していた。
【0122】
一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有し、bcc/fccピーク比が0.01以上0.80以下である軟磁性金属粒子を積層インダクタ全体に含む実施例11~16は、比較的、耐電圧が良好となった。特に、bcc/fccピーク比が0.30以上0.80以下である軟磁性金属粒子を積層インダクタ全体に含む実施例12、15、16は良好な特性が得られた。
【0123】
実施例13は、実施例11からその他の部分4aにおけるbcc/fcc比を上昇させた点以外は同条件で実施した実施例である。実施例11からその他の部分4aにおけるbcc/fcc比を上昇させて0.30以上0.80以下とすることにより、インダクタンスおよび直流重畳特性を同等程度に維持しながら耐電圧を向上させることができた。
【0124】
一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有し、bcc/fccピーク比が0.01以上0.80以下である軟磁性金属粒子をコイル内径部4bおよび上下カバー部4cのみに実質的に含む実施例18~20は比較的、L×Isatが向上した。bcc/fccピーク比が0.01以上0.40以下である実施例19、20はL×Isatが特に向上した。
【0125】
これに対し、一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有する軟磁性金属粒子を含まない比較例11~13は、コイル内径部4bおよび上下カバー部4cにおける軟磁性金属粒子の平均粒径が変化した点以外は比較例1~3と同条件である。しかし、Isatは特に変化しなかった。また、各種特性が良好ではなかった。
【0126】
また、比較例14は一粒子中にfcc相とbcc相とを混在して有さない軟磁性金属粒子を用いる点以外は実施例18~20と同条件であるが、実施例18~20と比較して全ての特性が劣っていた。
【符号の説明】
【0127】
1… 積層インダクタ
2… 素子
2a…表面部
2b…中央部
3… 端子電極
4… 磁性素体
4a… その他の部分
4b… コイル内径部
4c… カバー部
5… コイル導体
5a,5b…引出電極
21… 水アトマイズ装置
22… タンディッシュ
23… アトマイズノズル
25… 溶融金属(溶湯)
27… 高圧水
29… アトマイズ粉末
図1
図2