IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧 ▶ APB株式会社の特許一覧

特開2023-13685リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013685
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20230119BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230119BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118045
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大前 直也
(72)【発明者】
【氏名】磯村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050AA13
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB09
5H050DA02
5H050DA13
5H050DA18
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を抑制することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを抑制できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を提供する。
【解決手段】正極活物質粒子表面の少なくとも一部が被覆層で被覆されたリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層が、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含み、上記セラミック粒子のBET比表面積が、70~300m/gであるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子表面の少なくとも一部が被覆層で被覆されたリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、
前記被覆層が、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含み、
前記セラミック粒子のBET比表面積が、70~300m/gであるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項2】
前記セラミック粒子がSiOである請求項1に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項3】
前記セラミック粒子の重量割合が、前記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として1.0~5.0重量%である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と、電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む正極活物質層を備えるリチウムイオン電池用正極であって、
前記正極活物質層は、前記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の非結着体からなるリチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
正極活物質粒子、高分子化合物、導電助剤、セラミック粒子及び有機溶剤を混合した後に脱溶剤する工程を有する請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されており、より高性能のリチウムイオン電池を開発するために種々の材料が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素数1~12の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物及びアニオン性単量体を含んでなる単量体組成物の重合体であり、酸価が30~700である重合体を含んでなる活物質被覆用樹脂組成物、及び、上記活物質被覆用樹脂組成物を含んでなる被覆層を活物質の表面の少なくとも一部に有する被覆活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-160294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池は、様々な用途に広範に使用されるようになっており、例えば、高温環境下で使用されることもある。
従来の被覆活物質を用いたリチウムイオン電池では、高温環境下で使用される場合に、電解液と被覆活物質粒子との間で副反応が起こり、リチウムイオン電池が劣化(具体的には、内部抵抗値が上昇)することがあるといった課題があり、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を抑制することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを抑制できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を提供することを目的とする。本発明はまた、上記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を含むリチウムイオン電池用正極、及び、上記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、正極活物質粒子表面に高分子化合物と導電助剤と特定のBET比表面積を有するセラミック粒子を含む被覆層を形成することにより、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を抑制することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が被覆層で被覆されたリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層が、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含み、上記セラミック粒子のBET比表面積が、70~300m/gであるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子;上記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と、電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む正極活物質層を備えるリチウムイオン電池用正極であって、上記正極活物質層は、上記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の非結着体からなるリチウムイオン電池用正極;正極活物質粒子、高分子化合物、導電助剤、セラミック粒子及び有機溶剤を混合した後に脱溶剤する工程を有するリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を抑制することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを抑制できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子]
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子(以下、単に「被覆正極活物質粒子」ともいう)は、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層が、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含む。
本発明の被覆正極活物質粒子は、被覆層が、高分子化合物と導電助剤と特定のBET比表面積を有するセラミック粒子を含む。被覆層に含まれる特定のBET比表面積を有するセラミック粒子により、正極活物質粒子と電解液との接触面積を減少させることができ、その結果、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を抑制することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを抑制できる。
【0011】
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0012】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0013】
被覆層は、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含む。
高分子化合物としては、例えば、アクリルモノマー(a)を必須構成単量体とする重合体を含む樹脂であることが好ましい。
具体的には、被覆層を構成する高分子化合物は、アクリルモノマー(a)として、アクリル酸(a0)を含む単量体組成物の重合体であることが好ましい。上記単量体組成物において、アクリル酸(a0)の含有量は、単量体全体の重量を基準として90重量%を超え、98重量%以下であることが好ましい。被覆層の柔軟性の観点から、アクリル酸(a0)の含有量は、単量体全体の重量を基準として93.0~97.5重量%であることがより好ましく、95.0~97.0重量%であることがさらに好ましい。
【0014】
被覆層を構成する高分子化合物は、アクリルモノマー(a)として、アクリル酸(a0)以外のカルボキシル基又は酸無水物基を有するモノマー(a1)を含有してもよい。
【0015】
アクリル酸(a0)以外のカルボキシル基又は酸無水物基を有するモノマー(a1)としては、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3~15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4~24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6~24の3価~4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。
【0016】
被覆層を構成する高分子化合物は、アクリルモノマー(a)として、下記一般式(1)で表されるモノマー(a2)を含有してもよい。
CH=C(R)COOR (1)
[式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数4~12の直鎖又は炭素数3~36の分岐アルキル基である。]
【0017】
上記一般式(1)で表されるモノマー(a2)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rはメチル基であることが好ましい。
は、炭素数4~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、炭素数13~36の分岐アルキル基であることが好ましい。
【0018】
(a21)Rが炭素数4~12の直鎖又は分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数4~12の直鎖アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
炭素数4~12の分岐アルキル基としては、1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1,2-ジメチルヘキシル基、1,3-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、5-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、1,2-ジメチルヘプチル基、1,3-ジメチルヘプチル基、1,4-ジメチルヘプチル基、1,5-ジメチルヘプチル基、1,6-ジメチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3-メチルノニル基、4-メチルノニル基、5-メチルノニル基、6-メチルノニル基、7-メチルノニル基、8-メチルノニル基、1,1-ジメチルオクチル基、1,2-ジメチルオクチル基、1,3-ジメチルオクチル基、1,4-ジメチルオクチル基、1,5-ジメチルオクチル基、1,6-ジメチルオクチル基、1,7-ジメチルオクチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、2-メチルデシル基、3-メチルデシル基、4-メチルデシル基、5-メチルデシル基、6-メチルデシル基、7-メチルデシル基、8-メチルデシル基、9-メチルデシル基、1,1-ジメチルノニル基、1,2-ジメチルノニル基、1,3-ジメチルノニル基、1,4-ジメチルノニル基、1,5-ジメチルノニル基、1,6-ジメチルノニル基、1,7-ジメチルノニル基、1,8-ジメチルノニル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基、1-メチルウンデシル基、2-メチルウンデシル基、3-メチルウンデシル基、4-メチルウンデシル基、5-メチルウンデシル基、6-メチルウンデシル基、7-メチルウンデシル基、8-メチルウンデシル基、9-メチルウンデシル基、10-メチルウンデシル基、1,1-ジメチルデシル基、1,2-ジメチルデシル基、1,3-ジメチルデシル基、1,4-ジメチルデシル基、1,5-ジメチルデシル基、1,6-ジメチルデシル基、1,7-ジメチルデシル基、1,8-ジメチルデシル基、1,9-ジメチルデシル基、1-エチルデシル基、2-エチルデシル基等が挙げられる。これらの中では、特に、2-エチルヘキシル基が好ましい。
【0019】
(a22)Rが炭素数13~36の分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数13~36の分岐アルキル基としては、1-アルキルアルキル基[1-メチルドデシル基、1-ブチルエイコシル基、1-ヘキシルオクタデシル基、1-オクチルヘキサデシル基、1-デシルテトラデシル基、1-ウンデシルトリデシル基等]、2-アルキルアルキル基[2-メチルドデシル基、2-ヘキシルオクタデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ウンデシルトリデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、2-トリデシルペンタデシル基、2-デシルオクタデシル基、2-テトラデシルオクタデシル基、2-ヘキサデシルオクタデシル基、2-テトラデシルエイコシル基、2-ヘキサデシルエイコシル基等]、3~34-アルキルアルキル基(3-アルキルアルキル基、4-アルキルアルキル基、5-アルキルアルキル基、32-アルキルアルキル基、33-アルキルアルキル基及び34-アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7~11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1~1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7~8量体)及びα-オレフィン(炭素数5~20)オリゴマー(4~8量体)等から得られるオキソアルコールから水酸基を除いた残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
【0020】
被覆層を構成する高分子化合物は、アクリルモノマー(a)として、炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)を含有してもよい。
エステル化合物(a3)を構成する炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノール等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0021】
被覆層を構成する高分子化合物は、アクリル酸(a0)と、モノマー(a1)、モノマー(a2)及びエステル化合物(a3)のうちの少なくとも1つとを含む単量体組成物の重合体であることが好ましく、アクリル酸(a0)と、モノマー(a1)、エステル化合物(a21)及びエステル化合物(a3)のうちの少なくとも1つとを含む単量体組成物の重合体であることがより好ましく、アクリル酸(a0)と、モノマー(a1)、モノマー(a2)及びエステル化合物(a3)のうちのいずれか1つとを含む単量体組成物の重合体であることがさらに好ましく、アクリル酸(a0)と、モノマー(a1)、エステル化合物(a21)及びエステル化合物(a3)のうちのいずれか1つとを含む単量体組成物の重合体であることが最も好ましい。
被覆層を構成する高分子化合物としては、例えば、モノマー(a1)としてマレイン酸を用いた、アクリル酸及びマレイン酸の共重合体、モノマー(a2)としてメタクリル酸2-エチルヘキシルを用いた、アクリル酸及びメタクリル酸2-エチルヘキシルの共重合体、エステル化合物(a3)としてメタクリル酸メチルを用いた、アクリル酸及びメタクリル酸メチルの共重合体等が挙げられる。
【0022】
モノマー(a1)、モノマー(a2)及びエステル化合物(a3)の合計含有量は、正極活物質粒子の体積変化抑制等の観点から、単量体全体の重量を基準として2.0~9.9重量%であることが好ましく、2.5~7.0重量%であることがより好ましい。
【0023】
被覆層を構成する高分子化合物は、アクリルモノマー(a)として、重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)を含有しないことが好ましい。
【0024】
重合性不飽和二重結合を有する構造としてはビニル基、アリル基、スチレニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
アニオン性基としては、スルホン酸基及びカルボキシル基等が挙げられる。
重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体はこれらの組み合わせにより得られる化合物であり、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び(メタ)アクリル酸が挙げられる。
なお、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
アニオン性単量体の塩(a4)を構成するカチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0025】
また、被覆層を構成する高分子化合物は、物性を損なわない範囲で、アクリルモノマー(a)として、アクリル酸(a0)、モノマー(a1)、モノマー(a2)及びエステル化合物(a3)と共重合可能であるラジカル重合性モノマー(a5)を含有してもよい。
ラジカル重合性モノマー(a5)としては、活性水素を含有しないモノマーが好ましく、下記(a51)~(a58)のモノマーを用いることができる。
【0026】
(a51)炭素数13~20の直鎖脂肪族モノオール、炭素数5~20の脂環式モノオール又は炭素数7~20の芳香脂肪族モノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるハイドロカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)直鎖脂肪族モノオール(トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等)、(ii)脂環式モノオール(シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等)、(iii)芳香脂肪族モノオール(ベンジルアルコール等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0027】
(a52)ポリ(n=2~30)オキシアルキレン(炭素数2~4)アルキル(炭素数1~18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキサイド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキサイド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート等]
【0028】
(a53)窒素含有ビニル化合物
(a53-1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3~30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N-ジアルキル(炭素数1~6)又はジアラルキル(炭素数7~15)(メタ)アクリルアミド(N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド等)、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4~20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN-メチル-N-ビニルアセトアミド、環状アミド[ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えば、N-ビニルピロリドン等)]
【0029】
(a53-2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1~4)アミノアルキル(炭素数1~4)(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート{3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]の4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等}
【0030】
(a53-3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7~14、例えば2-又は4-ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5~12、例えばN-ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニル-2-ピロリドン)
【0031】
(a53-4)ニトリル基含有ビニル化合物
炭素数3~15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(炭素数1~4)アクリレート
【0032】
(a53-5)その他の窒素含有ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(炭素数8~16、例えばニトロスチレン)等
【0033】
(a54)ビニル炭化水素
(a54-1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2~18又はそれ以上のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン等)、炭素数4~10又はそれ以上のジエン(ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等)等
【0034】
(a54-2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4~18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン及びリモネン)、インデン
【0035】
(a54-3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8~20又はそれ以上の芳香族不飽和化合物、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン
【0036】
(a55)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4~15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]
芳香族ビニルエステル[炭素数9~20、例えば芳香族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル-4-ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
【0037】
(a56)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル[炭素数3~15、例えばビニルアルキル(炭素数1~10)エーテル(ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテル等)、ビニルアルコキシ(炭素数1~6)アルキル(炭素数1~4)エーテル(ビニル-2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4-ジヒドロ-1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル-2-エチルメルカプトエチルエーテル等)、ポリ(2~4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2~6)(ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等)]、芳香族ビニルエーテル(炭素数8~20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
【0038】
(a57)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4~25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)、芳香族ビニルケトン(炭素数9~21、例えばビニルフェニルケトン)
【0039】
(a58)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4~34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)
【0040】
ラジカル重合性モノマー(a5)を含有する場合、その含有量は、単量体全体の重量を基準として0.1~3.0重量%であることが好ましい。
【0041】
被覆層を構成する高分子化合物の重量平均分子量の好ましい下限は3,000、より好ましい下限は5,000、さらに好ましい下限は7,000である。一方、上記高分子化合物の重量平均分子量の好ましい上限は100,000、より好ましい上限は70,000である。
【0042】
被覆層を構成する高分子化合物の重量平均分子量は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0043】
被覆層を構成する高分子化合物は、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合開始剤の使用量は、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1.5重量%であり、重合温度及び重合時間は重合開始剤の種類等に応じて調整されるが、重合温度は好ましくは-5~150℃、(より好ましくは30~120℃)、反応時間は好ましくは0.1~50時間(より好ましくは2~24時間)で行われる。
【0044】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)、アミド(例えばN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する))及びケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、その使用量はモノマーの合計重量に基づいて好ましくは5~900重量%、より好ましくは10~400重量%、さらに好ましくは30~300重量%であり、モノマー濃度としては、好ましくは10~95重量%、より好ましくは20~90重量%、さらに好ましくは30~80重量%である。
【0045】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液のモノマー濃度は好ましくは5~95重量%、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%であり、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。
【0046】
被覆層を構成する高分子化合物は、該高分子化合物をカルボキシル基と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’){好ましくはポリエポキシ化合物(a’1)[ポリグリシジルエーテル(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びグリセリントリグリシジルエーテル等)及びポリグリシジルアミン(N,N-ジグリシジルアニリン及び1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル))等]及び/又はポリオール化合物(a’2)(エチレングリコール等)}で架橋してなる架橋重合体であってもよい。
【0047】
架橋剤(A’)を用いて被覆層を構成する高分子化合物を架橋する方法としては、正極活物質粒子を、被覆層を構成する高分子化合物で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、正極活物質粒子と被覆層を構成する高分子化合物を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、被覆活物質粒子を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を該被覆活物質粒子に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、被覆層を構成する高分子化合物が架橋剤(A’)によって架橋される反応を正極活物質粒子の表面で起こす方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤の種類に応じて調整されるが、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は好ましくは70℃以上であり、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は好ましくは120℃以上である。
【0048】
導電助剤としては、導電性を有する材料から選択されることが好ましい。
導電助剤として好ましいものとしては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、金、銅、チタン及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、特に好ましくはカーボンである。
またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0049】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0050】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μm程度であることが好ましい。
本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0051】
被覆層を構成する高分子化合物と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗値等の観点から、重量比率で被覆層を構成する高分子化合物(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50であることが好ましく、1:0.2~1:3.0であることがより好ましい。
【0052】
セラミック粒子は、BET比表面積が、70~300m/gである。
セラミック粒子のBET比表面積が70m/g未満であると、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を十分に抑制することができず、リチウムイオン電池の内部抵抗値が上昇することを十分に抑制することができない。
一方で、BET比表面積が300m/gを超えるセラミック粒子を準備することは技術的に困難である。
セラミック粒子は、BET比表面積が、110m/g以上であることが好ましく、125m/g以上であることがより好ましく、140m/g以上であることが更に好ましく、150m/g以上であることが特に好ましい。
なお、セラミック粒子のBET比表面積は、「JIS Z 8830:2013 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に基づき、例えば、以下の装置及び測定条件で測定することができる。
測定装置:株式会社マウンテック Macsorb(登録商標) HMmodel-1201
吸着ガス:N
死容積測定ガス:混合ガス(N 30%+He 70%)
吸着温度:77K
測定前処理:100℃、5分間窒素雰囲気下で乾燥
【0053】
セラミック粒子としては、金属炭化物粒子、金属酸化物粒子、ガラスセラミック粒子等が挙げられる。
【0054】
金属炭化物粒子としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)等が挙げられる。
【0055】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化インジウム(In)、Li、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiOや、ABO(但し、Aは、Ca、Sr、Ba、La、Pr及びYからなる群より選択される少なくとも1種であり、Bは、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Mo、Ru、Rh、Pd及びReからなる群より選択される少なくとも1種)で表されるペロブスカイト型酸化物粒子等が挙げられる。
金属酸化物粒子としては、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制する観点から、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、及び、チタニア(TiO)が好ましく、二酸化ケイ素(SiO)がより好ましい。
【0056】
セラミック粒子としては、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制する観点から、ガラスセラミック粒子であってもよい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
ガラスセラミック粒子としては、菱面体晶系を有するリチウム含有リン酸化合物であることが好ましく、その化学式は、LiM”12(X=1~1.7)で表される。
ここでM”はZr、Ti、Fe、Mn、Co、Cr、Ca、Mg、Sr、Y、Sc、Sn、La、Ge、Nb、Alからなる群より選ばれた1種以上の元素である。また、Pの一部をSi又はBに、Oの一部をF、Cl等で置換してもよい。例えば、Li1.15Ti1.85Al0.15Si0.052.9512、Li1.2Ti1.8Al0.1Ge0.1Si0.052.9512等を用いることができる。
また、異なる組成の材料を混合又は複合してもよく、ガラス電解質等で表面をコートしてもよい。又は、熱処理によりNASICON型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスセラミック粒子を用いることが好ましい。
ガラス電解質としては、特開2019-96478号公報に記載のガラス電解質が挙げられる。
【0058】
ここで、ガラスセラミック粒子におけるLiOの配合割合は酸化物換算で8質量%以下であることが好ましい。
NASICON型構造でなくとも、Li、La、Mg、Ca、Fe、Co、Cr、Mn、Ti、Zr、Sn、Y、Sc、P、Si、O、In、Nb、Fからなり、LISICON型、ぺロブスカイト型、β-Fe(SO型、LiIn(PO型の結晶構造を、持ち、Liイオンを室温で1×10-5S/cm以上伝導する固体電解質を用いても良い。
【0059】
上述したセラミック粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
セラミック粒子の体積平均粒子径は、エネルギー密度の観点及び電気抵抗値の観点から、1~1000nmであることが好ましく、1~500nmであることがより好ましく、1~150nmであることがさらに好ましい。
本明細書において体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0061】
セラミック粒子の重量割合は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として1.0~5.0重量%であることが好ましい。
セラミック粒子を上記範囲で含有することにより、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制することができる。また、被覆正極活物質粒子の被覆層が柔軟性に優れるために、後述する被覆正極活物質粒子をプレスして正極活物質層を形成する際に、エネルギー密度の高い正極活物質層を形成することができる。
セラミック粒子の重量割合は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として2.0~4.0重量%であることがより好ましい。
【0062】
正極活物質粒子は、表面の少なくとも一部が被覆層で被覆されている。
正極活物質粒子は、サイクル特性の観点から、下記計算式で得られる被覆率が30~95%であることが好ましい。
被覆率(%)={1-[被覆正極活物質粒子のBET比表面積/(正極活物質粒子のBET比表面積×被覆正極活物質中に含まれる正極活物質粒子の重量割合+導電助剤のBET比表面積×被覆正極活物質粒子中に含まれる導電助剤の重量割合+セラミック粒子のBET比表面積×被覆正極活物質粒子中に含まれるセラミック粒子の重量割合)]}×100
【0063】
[リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法]
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の製造方法(以下、単に「被覆正極活物質粒子の製造方法」ともいう)は、正極活物質粒子、高分子化合物、導電助剤、セラミック粒子及び有機溶剤を混合した後に脱溶剤する工程を有する。
【0064】
有機溶剤としては高分子化合物を溶解可能な有機溶剤であれば特に限定されず、公知の有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
【0065】
被覆正極活物質粒子の製造方法では、まず、正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物、導電助剤及びセラミック粒子を有機溶剤中で混合する。
正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物、導電助剤及びセラミック粒子を混合する順番は特に限定されず、例えば、事前に混合した被覆層を構成する高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とからなる樹脂組成物を正極活物質粒子とさらに混合してもよいし、正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物、導電助剤及びセラミック粒子を同時に混合してもよいし、正極活物質粒子に被覆層を構成する高分子化合物を混合し、さらに導電助剤及びセラミック粒子を混合してもよい。
【0066】
本発明の被覆正極活物質粒子は、正極活物質粒子を、高分子化合物と導電助剤とセラミック粒子とを含む被覆層で被覆することで得ることができ、例えば、正極活物質粒子を万能混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態で、被覆層を構成する高分子化合物を含む樹脂溶液を1~90分かけて滴下混合し、導電助剤及びセラミック粒子を混合し、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持して脱溶剤することにより得ることができる。
【0067】
正極活物質粒子と、被覆層を構成する高分子化合物、導電助剤及びセラミック粒子とを含む樹脂組成物との配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で正極活物質粒子:樹脂組成物=1:0.001~0.1であることが好ましい。
【0068】
[リチウムイオン電池用正極]
本発明のリチウムイオン電池用正極(以下、単に「正極」ともいう)は、本発明の被覆正極活物質粒子と、電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む正極活物質層を備える。
【0069】
正極活物質層に含まれる被覆正極活物質粒子は、正極活物質粒子の分散性および電極成形性の観点から、正極活物質層の重量を基準として40~95重量%であることが好ましく、60~90重量%であることがより好ましい。
【0070】
電解質としては、公知の電解液に用いられている電解質が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO及びLiN(FSO等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSOである。
【0071】
溶媒としては、公知の電解液に用いられている非水溶媒が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン及びこれらの混合物を用いることができる。
【0072】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環(δ-バレロラクトン等)のラクトン化合物等が挙げられる。
【0073】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)及びブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0074】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0075】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0076】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
【0077】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
【0078】
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
電解液中の電解質の濃度は、1.2~5.0mol/Lであることが好ましく、1.5~4.5mol/Lであることがより好ましく、1.8~4.0mol/Lであることがさらに好ましく、2.0~3.5mol/Lであることが特に好ましい。
このような電解液は、適当な粘性を有するので、被覆正極活物質粒子間に液膜を形成することができ、被覆正極活物質粒子に潤滑効果(被覆活物質粒子の位置調整能力)を付与することができる。
【0080】
正極活物質層は、上述した被覆正極活物質粒子の被覆層中に必要に応じて含まれる導電助剤とは別に、導電助剤をさらに含んでもよい。被覆層中に必要に応じて含まれる導電助剤が被覆正極活物質粒子と一体であるのに対し、正極活物質層が含む導電助剤は被覆正極活物質粒子と別々に含まれている点で区別できる。
正極活物質層が含んでいてもよい導電助剤としては、[リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子]で説明したものを用いることができる。
【0081】
正極活物質層が導電助剤を含む場合、正極中に含まれる導電助剤と被覆層中に含まれる導電助剤の合計含有量は、正極活物質層から電解液を除いた重量を基準として4重量%未満であることが好ましく、3重量%未満であることがより好ましい。一方、正極中に含まれる導電助剤と被覆層中に含まれる導電助剤の合計含有量は、正極活物質層から電解液を除いた重量を基準として2.5重量%以上であることが好ましい。
【0082】
正極活物質層は、結着剤を含まないことが好ましい。
なお、本明細書において、結着剤とは、正極活物質粒子同士及び正極活物質粒子と集電体とを可逆的に固定することができない薬剤を意味し、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等の公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤等が挙げられる。
これらの結着剤は、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去することで固体化して、正極活物質粒子同士及び正極活物質粒子と集電体とを不可逆的に固定するものである。
【0083】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性を有する樹脂を意味し、結着剤とは異なる材料であり、区別される。
また、被覆正極活物質粒子を構成する被覆層が正極活物質粒子の表面に固定されているのに対して、粘着性樹脂は正極活物質粒子の表面同士を可逆的に固定するものである。正極活物質粒子の表面から粘着性樹脂は容易に分離できるが、被覆層は容易に分離できない。従って、上記被覆層と上記粘着性樹脂は異なる材料である。
【0084】
粘着性樹脂としては、酢酸ビニル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート及びブチルメタクリレートからなる群から選択された少なくとも1種の低Tgモノマーを必須構成単量体として含み上記低Tgモノマーの合計重量割合が構成単量体の合計重量に基づいて45重量%以上である重合体が挙げられる。
粘着性樹脂を用いる場合、正極活物質粒子の合計重量に対して0.01~10重量%の粘着性樹脂を用いることが好ましい。
【0085】
本発明のリチウムイオン電池用正極では、リチウムイオン電池用正極に含まれる高分子化合物の重量割合が、リチウムイオン電池用正極の重量を基準として1~10重量%であることが好ましい。
ここで、「高分子化合物」とは、被覆層を構成する高分子化合物、結着剤及び粘着性樹脂を意味し、本発明のリチウムイオン電池用正極では、被覆層を構成する高分子化合物と粘着性樹脂とを合計した重量割合が、上記「高分子化合物の重量割合」と等しく、結着剤を一切含まない(0重量%)。
【0086】
本発明のリチウムイオン電池用正極では、正極活物質層が、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の非結着体からなる。
ここで、非結着体とは、正極活物質層中において正極活物質粒子の位置が固定されておらず、正極活物質粒子同士及び正極活物質粒子と集電体とが不可逆的に固定されていないことを意味する。
正極活物質層が非結着体である場合、正極活物質粒子同士は不可逆的に固定されていないため、正極活物質粒子同士の界面で破壊を生じることなく分離することができ、正極活物質層に応力がかかった場合でも正極活物質粒子が移動することで正極活物質層の破壊を防止することができるため好ましい。
非結着体である正極活物質層は、正極活物質粒子、電解液等を含みかつ結着剤を含まない正極活物質層用スラリーを正極活物質層にする等の方法で得ることができる。
【0087】
正極活物質層の厚みは、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~470μmであることがより好ましい。
【0088】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、例えば、本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子及び必要に応じて導電助剤等を混合した粉体(正極前駆体)を集電体に塗布しプレス機でプレスして正極活物質層を形成した後に電解液を注液することによって作製することができる。
また、正極前駆体を離型フィルム上に塗布、プレスして正極活物質層を形成し、正極活物質層を集電体に転写した後、電解液を注液してもよい。
また、例えば、本発明の被覆正極活物質粒子、電解質及び溶媒を含有する電解液、必要に応じて導電助剤等を含む正極活物質層用スラリーを集電体に塗布した後、乾燥させることによって作製することができる。具体的には、正極活物質層用スラリーを、集電体上にバーコーター等の塗工装置で塗布後、不織布を正極活物質粒子上に静置して吸液すること等で、溶媒を除去し、必要によりプレス機でプレスする方法等でリチウムイオン電池用正極を作製してもよい。
【0089】
集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0090】
リチウムイオン電池用正極は、集電体をさらに備え、上記集電体の表面に上記正極活物質層が設けられていることが好ましい。例えば、本発明の正極は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体を備え、上記樹脂集電体の表面に上記正極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0091】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、樹脂に導電剤を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電剤としては、被覆層の任意成分である導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
樹脂集電体は、特開2012-150905号公報及び国際公開第2015/005116号等に記載された公知の方法で得ることができる。
【0092】
[リチウムイオン電池]
本発明の正極を、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでリチウムイオン電池を得ることができる。
また、集電体の一方の面に本発明の正極を形成し、もう一方の面に負極を形成してバイポーラ(双極)型電極を作製し、バイポーラ(双極)型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも得ることができる。
【0093】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【実施例0094】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0095】
<被覆用高分子化合物の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸91部、メタクリル酸メチル9部及びDMF50部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.3部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.8部をDMF30部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30%の共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液はテフロン(登録商標)製のバットに移して150℃、0.01MPaで3時間の減圧乾燥を行い、DMFを留去して共重合体を得た。この共重合体をハンマーで粗粉砕した後、乳鉢にて追加粉砕して、粉末状の被覆用高分子化合物を得た。
【0096】
<電解液の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを2.0mol/Lの割合で溶解させて電解液を作製した。
【0097】
<セラミック粒子>
セラミック粒子として以下の材料を準備した。
SiO(二酸化ケイ素粒子、BET比表面積72.5m/g、品目SiO、関東化学(株)製)
AEROSIL R972(二酸化ケイ素、BET比表面積110m/g、製品名「AEROSIL R972」、日本アエロジル(株)製)
REOLOSIL DM-10(二酸化ケイ素、BET比表面積115m/g、製品名「REOLOSIL DM-10」、トクヤマ(株)製)
REOLOSIL MT-10(二酸化ケイ素、BET比表面積126m/g、製品名「REOLOSIL MT-10」、トクヤマ(株)製)
NIPSIL NA(二酸化ケイ素、BET比表面積140m/g、製品名「NIPSIL NA」、東ソー(株)製)
NIPSIL NS-T(二酸化ケイ素、BET比表面積160m/g、製品名「NIPSIL NS-T」、東ソー(株)製)
AEROSIL R974(二酸化ケイ素、BET比表面積170m/g、製品名「AEROSIL R974」、日本アエロジル(株)製)
ULTRASIL VN3(二酸化ケイ素、BET比表面積170m/g、製品名「ULTRASIL VN3」、エボニック社製)
AEROSIL 200(二酸化ケイ素、BET比表面積200m/g、製品名「AEROSIL 200」、日本アエロジル(株)製)
AEROSIL 300(二酸化ケイ素、BET比表面積300m/g、製品名「AEROSIL 300」、日本アエロジル(株)製)
Al(酸化アルミニウム、BET比表面積71.2m/g、品目Al、関東化学(株)製)
TiO(チタニア、BET比表面積73.6m/g、品目TiO、関東化学(株)製)
AEROSIL 50(二酸化ケイ素、BET比表面積50m/g、製品名「AEROSIL 50」、日本アエロジル(株)製)
なお、セラミック粒子のBET比表面積は、「JIS Z 8830:2013 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に基づき、例えば、以下の装置及び測定条件で測定した。
測定装置:株式会社マウンテック Macsorb(登録商標) HMmodel-1201
吸着ガス:N
死容積測定ガス:混合ガス(N30%+He70%)
吸着温度:77K
測定前処理:100℃、5分間窒素雰囲気で乾燥
【0098】
<実施例1>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)90.12部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.56部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.14部及びセラミック粒子(SiO)2.10部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
【0099】
[樹脂集電体の作製]
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体用導電性フィルムを得た。次いで、得られた樹脂集電体用導電性フィルムを直径15mm又は16mmの円形となるように切断し、片面にニッケル蒸着を施した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続した樹脂集電体を得た。
なお、直径15mmの円形の樹脂集電体を正極用樹脂集電体として用い、直径16mmの円形の樹脂集電体を負極用樹脂集電体として用いた。
【0100】
[リチウムイオン電池用正極の作製]
作製した被覆正極活物質粒子98.50部と、炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]2.06部とケッチェンブラック[ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 EC300J]1.03部とを混合して正極前駆体を作製した。
作製した正極前駆体を、Φ15の金型上に正極活物質目付量が50mg/cmになるように充填し、プレス機(HANDTAB-100T15、市橋精機(株)製)で1ton/cmの圧力で打錠成形して正極活物質層(厚さが213μm)を形成し、上記樹脂集電体の片面に積層して実施例1に係るリチウムイオン電池用正極(直径15mmの円形)を作製した。
【0101】
[被覆負極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
負極活物質粒子(ハードカーボン粉末、体積平均粒子径25μm)80.04部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液37.92部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]9.48部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆負極活物質粒子を得た。
【0102】
[リチウムイオン電池用負極の作製]
作製した被覆負極活物質粒子99部と、炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]1部とを混合して負極前駆体を作製した。
作製した負極前駆体を、Φ16の金型上に負極活物質目付量が23.4mg/cmになるように充填し、プレス機(HANDTAB-100T15、市橋精機(株)製)で1ton/cmの圧力で打錠成形して負極活物質層(厚さが300μm)を形成し、上記樹脂集電体の片面に積層してリチウムイオン電池用負極(直径16mmの円形)を作製した。
【0103】
[リチウムイオン電池の作製]
作製したリチウムイオン電池用正極と、リチウムイオン電池用負極とを、セパレータ(セルガード製#3501)を介して組み合わせて、リチウムイオン電池を作製した。
【0104】
<実施例2~10>
セラミック粒子を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0105】
<実施例11>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)90.21部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.60部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.15部及びセラミック粒子(SiO)2.00部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0106】
<実施例12>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)87.33部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.20部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.05部及びセラミック粒子(SiO)5.08部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0107】
<実施例13>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)82.33部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液11.56部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]2.89部及びセラミック粒子(SiO)10.00部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0108】
<実施例14>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)87.33部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.20部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.05部及びセラミック粒子(Al)5.08部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0109】
<実施例15>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)87.33部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.20部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.05部及びセラミック粒子(TiO)5.08部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0110】
<比較例1>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物1部をDMF3部に溶解し、被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)92.22部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液12.56部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.14部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
上記被覆正極活物質粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0111】
<比較例2>
セラミック粒子を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして被覆正極活物質粒子を作製し、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。
【0112】
<内部抵抗値の測定>
各実施例及び比較例で得られたリチウムイオン電池を、25℃で一度充放電を行った。その後、フル充電を行い、60℃環境下で保存した。
インピーダンス測定装置(日置電機(株)製、ケミカルインピータンスアナライザ IM3590)を使用し、0日後(フル充電直後)、7日間保存後、14日間保存後及び21日間保存後の周波数1100Hzにおける内部抵抗値を測定し、0日後に対する21日間保存後の内部抵抗値の上昇率<[(21日保存後の内部抵抗値-0日後の内部抵抗値)/0日後の内部抵抗値)]×100(%)>を算出した。
その結果を、表1に示す。
【0113】
<リチウムイオン電池用正極の厚み>
各実施例及び比較例で得られたリチウムイオン電池について、リチウムイオン電池用正極活物質層の厚みをデジタル膜厚計[デジマチックインジケータ:ID-C112CXB(株式会社ミツトヨ製)、スタンド:7007-10(株式会社ミツトヨ製)]にて測定した。
リチウムイオン電池用正極のエネルギー密度の観点から、リチウムイオン電池用正極の厚みが230μm以下であることが好ましいと判断した。その結果を、表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1より、被覆層が所定のBET比表面積を有するセラミック粒子を含む実施例では、リチウムイオン電池の内部抵抗値の上昇を防止できることが確認された。
また、実施例11~13の比較により、セラミック粒子の重量割合をリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として1.0~5.0重量%の範囲とすることにより、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池用正極が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の被覆正極活物質粒子は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池用等の正極活物質として有用である。