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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136903
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】鉄骨梁
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/08 20060101AFI20230922BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
E04C3/08
E04B1/24 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042832
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】金崎 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】安永 隼平
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163DA02
2E163FA12
2E163FB02
2E163FB23
(57)【要約】
【課題】 鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保可能な鉄骨梁を提供する。
【解決手段】 上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であって、前記ウェブには、該ウェブの高さ方向に延びるスリットが形成されている鉄骨梁。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であって、
前記ウェブには、該ウェブの高さ方向に延びるスリットが形成されている鉄骨梁。
【請求項2】
前記スリットの前記鉄骨梁の材軸方向の幅は、前記ウェブの板厚以下である、請求項1に記載の鉄骨梁。
【請求項3】
前記スリットは、前記鉄骨梁の材軸方向に等間隔で複数列形成され、
各列の前記スリットの総延長は、前記ウェブの高さの0.5倍以上である、請求項1または2に記載の鉄骨梁。
【請求項4】
前記スリットの端部の開口の隅部にはアールが設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の鉄骨梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の構造物に用いられる鉄骨梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物は、地震時に倒壊しないように、柱よりも梁が先行して塑性化するように設計されるのが一般的である。このような構造物の梁は、地震時に入力するエネルギーを十分に吸収できる塑性変形性能を有する必要がある。
【0003】
図8に、鉄骨梁の曲げモーメント-変形角関係を模式的に示す。図8に点線で示すように、鉄骨梁では、局部座屈が発生すると耐力が急激に低下して、塑性変形性能を十分に確保できない。そこで、鉄骨梁の設計では、フランジおよびウェブの幅厚比を制限することにより局部座屈を防止して、塑性変形性能が十分に確保されるようにしている。
【0004】
フランジおよびウェブの幅厚比を制限して設計された鉄骨梁では、塑性変形性能が確保される一方で、図8に破線で示すように、鉄骨梁が全塑性耐力Mに到達した後も、材料降伏後の歪硬化により、耐力が上昇し続ける。このため、上述のように柱よりも梁が先行して塑性化するように建築物を設計するには、柱および柱梁接合部の耐力が、鉄骨梁の最大耐力Mmaxを上回るようにする必要がある。このため、鉄骨梁のフランジおよびウェブの幅厚比を制限するのに伴い、柱および柱梁接合部のサイズも大きくする必要が生じ、製作性および経済性が損なわれてしまう。
【0005】
また、鉄骨梁が全塑性耐力Mに到達した後、歪硬化による耐力上昇を抑制するために、降伏比の小さい鋼材を用いることも考えられる。しかし、このようにすると、鉄骨梁の材軸方向端部に形成される塑性化領域が狭まり、地震時に鉄骨梁が吸収する地震エネルギーの総量が低下してしまう。
【0006】
ここで、特許文献1には、図9に示すように、鉄骨梁9Aのウェブ93に、鉄骨梁9Aの端面から離れた位置から鉄骨梁9Aの材軸方向中央側に延出するスリット部94を有する鉄骨梁が開示されている。特許文献1の鉄骨梁9Aによれば、スリット部94によりウェブ93の耐力を低下させて、鉄骨梁9Aの端部のフランジ91と柱2またはダイアフラム21との溶接部の破断を抑制できるとともに、鉄骨梁9Aを柱2よりも先行して塑性化させやすい。また、鉄骨梁9Aのウェブ93がフランジ91よりも先行して塑性化しやすくなり、地震時のエネルギー吸収能力が高められる。
【0007】
また、特許文献2および特許文献3には、それぞれ図10図11に示すように、鉄骨梁9B、9Cの端部のフランジ91の両側に補強板92を接合し、さらに切欠部95、96を形成してなる柱梁接合構造が開示されている。特許文献2および特許文献3の鉄骨梁9B、9Cによれば、補強板92を接合した部位に切欠部95、96を形成することにより、鉄骨梁9B、9Cの耐力を低下させることなく、鉄骨梁9B、9Cの端部のフランジ91と柱2との溶接部の破断を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-78102号公報
【特許文献2】特開2001-207533号公報
【特許文献3】特開2004-353419号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】建築物の構造関係技術基準解説書編集委員会編、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」、全国官報販売協同組合、2007年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、発明者らは、鉄骨梁の塑性変形能力を確保しつつ、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制するために、鉄骨梁に生じる座屈を利用することに着目した。
【0011】
地震力等の水平力が構造物に作用すると、鉄骨梁では、図12および図13にそれぞれ座屈波形Bとして示すように、曲げ座屈またはせん断座屈が生じる。鉄骨梁9では、全塑性耐力に到達した後、座屈が生じるまでは耐力が上昇し続け、座屈が発生すると耐力上昇が停止する。つまり、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を、座屈の発生により抑制できる。
【0012】
ただし、幅厚比の制限を緩和する方法により座屈を発生させると、上述のとおり、低次モードの局部座屈が発生し、図8に点線で示すように、鉄骨梁の耐力が急激に低下して、鉄骨梁に十分な塑性変形性能を確保できない。そこで、発明者らは、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、全塑性耐力に到達した後の鉄骨梁の耐力上昇を抑制しつつ、塑性変形性能を確保する方法を着想し、鋭意検討を重ねた結果、本発明に係る鉄骨梁を開発するに至ったものである。
【0013】
これに対し、特許文献1の鉄骨梁9Aでは、鉄骨梁の座屈モードを高次化させることにより鉄骨梁の局部座屈を抑制することは考慮されていない。また、特許文献1の鉄骨梁9Aでは、スリット部94が鉄骨梁9Aの材軸方向に延出しているので、鉄骨梁9Aに取り付く小梁などの二次部材や、鉄骨梁9Aに設けられる設備配管用の貫通孔等の干渉を受け、スリット部94の長さを必要量確保できないことがある。
【0014】
また、特許文献2および特許文献3の鉄骨梁9B、9Cでも、鉄骨梁の座屈モードを高次化させることにより鉄骨梁の局部座屈を抑制することは考慮されておらず、図12および図13に示したような低次の座屈モードが生じる恐れがある。
【0015】
上記課題に鑑み、本発明は、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保可能な鉄骨梁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0017】
[1] 上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であって、前記ウェブには、該ウェブの高さ方向に延びるスリットが形成されている鉄骨梁。
【0018】
[2] 前記スリットの前記鉄骨梁の材軸方向の幅は、前記ウェブの板厚以下である、[1]に記載の鉄骨梁。
【0019】
[3] 前記スリットは、前記鉄骨梁の材軸方向に等間隔で複数列形成され、各列の前記スリットの総延長は、前記ウェブの高さの0.5倍以上である、[1]または[2]に記載の鉄骨梁。
【0020】
[4] 前記スリットの端部の開口の隅部にはアールが設けられている、[1]~[3]のいずれかに記載の鉄骨梁。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る鉄骨梁によれば、鉄骨梁のウェブに、ウェブの高さ方向に延びるスリットが形成されていることにより、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させつつ、座屈の生じる範囲を拡げることができる。この結果、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、鉄骨梁に十分な塑性変形性能を確保できる。
【0022】
また、本発明に係る鉄骨梁では、スリットがウェブの高さ方向に延びるように形成されているので、鉄骨梁に取り付く小梁などの二次部材や、鉄骨梁に設けられる設備配管用の貫通孔等の干渉を受けることなくスリットを配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1(a)および図1(b)はそれぞれ、本発明の鉄骨梁の一例を示す側面図および側面図であり、図1(c)は、図1(a)の鉄骨梁に生じる座屈波形を模式的に示す図である。
図2図2(a)および図2(b)はそれぞれ、構造物中における本発明の鉄骨梁の使用位置の例を示す平面図および側面図である。
図3図3(a)は、本発明の鉄骨梁の一例におけるスリットの端部を示す側面図であり、図3(b)は、図3(a)の部分拡大図である。
図4図4(a)は、本発明の鉄骨梁の一例を示す側面図であり、図4(b)は、図4(a)の鉄骨梁の全塑性モーメントおよび終局耐力時の曲げモーメントを模式的に示すグラフである。
図5図5は、本発明の鉄骨梁の他の一例を示す側面図である。
図6図6は、本発明の鉄骨梁の他のさらに他の一例を示す側面図である。
図7図7は、本発明の鉄骨梁の他のさらに他の一例を示す側面図である。
図8図8は、本発明および従来の鉄骨梁の曲げモーメント-変形角関係を模式的に示すグラフである。
図9図9は、特許文献1の鉄骨梁の側面図である。
図10図10は、特許文献2の鉄骨梁の平面図である。
図11図11は、特許文献3の鉄骨梁の平面図である。
図12図12は、従来の鉄骨梁に生じる曲げ座屈の例を示す側面図である。
図13図13は、従来の鉄骨梁に生じるせん断座屈の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の鉄骨梁の実施形態について、詳細に説明する。
【0025】
図1(a)および図1(b)に、本発明の第1実施形態に係る鉄骨梁の側面図および断面図をそれぞれ示す。
【0026】
図1(a)および図1(b)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aは、上フランジ11と、下フランジ12と、上フランジ11と下フランジ12とを連結するウェブ13とを有するH形鋼からなる鉄骨梁である。図1(a)に示すように、鉄骨梁1Aの材軸方向端部の上フランジ11および下フランジ12は、鋼管からなる鉄骨柱2に設けられたダイアフラム21に溶接されている。また、鉄骨梁1Aの材軸方向端部のウェブ13は、鉄骨柱2の側面に溶接されるか、鉄骨柱2の側面に設けられたシアプレート(図示せず)に高力ボルト接合されている。
【0027】
そして、図1(a)に示すように、鉄骨梁1Aの材軸方向端部の塑性化領域のウェブ13には、ウェブ13の高さ方向に延びるスリット14A、14Bが、鉄骨梁1Aの材軸方向に3列形成されている。そして、各列において、ウェブ13の上フランジ11に隣接する部位にはスリット14Aが、下フランジ12に隣接する部位にはスリット14Bが、それぞれ形成されている。
【0028】
図1(c)に、本実施形態の鉄骨梁1Aに逆対称曲げが作用したときに、鉄骨梁1Aに生じる座屈波形Bを模式的に示す。図1(c)に示すように、鉄骨梁1Aのウェブ13に、ウェブ13の高さ方向に延びるスリット14A、14Bが形成されていることによって、スリットが形成されていない場合(図12および図13参照)に比べて、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化できる。この結果、図1(c)に示すように、鉄骨梁1Aにおいて座屈が生じる範囲が拡がり、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を抑制しつつ、鉄骨梁1Aに十分な塑性変形性能を確保できる。
【0029】
図2(a)および図2(b)に、建築物中における本実施形態の鉄骨梁1Aの使用位置の例を、平面図および側面図でそれぞれ示す。図2(a)および図2(b)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aは、建築物中において、柱2に取り付く大梁として用いられる。本実施形態に係る鉄骨梁1Aのスリット14A、14Bは、ウェブ13の高さ方向に延びるように形成されているので、図2(a)および図2(b)に示すように、鉄骨梁1Aに取り付く小梁3などの二次部材や、鉄骨梁1Aに設けられる設備配管用の貫通孔等の干渉を受けることなく、これらスリット14A、14Bを配置できる。
【0030】
また、図1(a)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aでは、スリット14A、14Bの鉄骨梁1Aの材軸方向の幅14wが、ウェブ13の板厚13t以下となるように、スリット14A、14Bが形成されている。このようにすると、鉄骨梁1Aのウェブ13にスリット14A、14Bを形成することによる、鉄骨梁1Aの断面性能の低下が抑制できるので好ましい。
【0031】
また、図1(a)に示すように、3列のスリット14A、14Bは、鉄骨梁1Aの材軸方向に等間隔14iで配置されている。鉄骨梁1Aの材軸方向におけるスリット14A、14Bの間隔が不均等である場合は、間隔が狭い部位では座屈が生じにくく、間隔が広い部位では座屈が集中的に進展しやすいため、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化する効果を十分に引き出しにくいことがある。そこで、上記のように、鉄骨梁1Aの材軸方向にスリット14A、14Bを等間隔で配置すると、スリット14A、14Bが設けられる領域内で座屈を均等に進展させ、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化する効果を十分に引き出すことができるので好ましい。
【0032】
また、各列に配置されるスリット14A、14Bの総延長、すなわちスリット14Aの高さ14haとスリット14Bの高さ14hbとの合計が、ウェブ13の高さ13hの0.5倍以上となるように、スリット14A、14Bが形成されている。このようにすると、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードをより確実に高次化でき、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保できる効果がより確実に得られるので好ましい。
【0033】
さらに、図3(a)および図3(b)に示すように、スリット14Aの下端部の開口の隅部には、アール14rが設けられている。同様に、スリット14Bの上端部の開口の隅部にも、アール(図示せず)が設けられている。このようにすると、スリット14A、14Bの端部周辺のウェブ13における応力集中を緩和できるので好ましい。アール14rの半径は、5mm以上にすると、このような効果が確実に得られるので好ましい。また、スリット14Aの下端部およびスリット14Bの上端部を半円状に形成し、スリット14Aおよびスリット14Bの他の部分を直線状に形成すると、スリット14Aおよびスリット14Bの開口の加工が容易となるので好ましい。
【0034】
図4(a)および図4(b)に、本実施形態の鉄骨梁1Aの材軸方向各位置における全塑性モーメント、および鉄骨梁1Aの終局耐力時の曲げモーメント分布を模式的に示す。図4(b)に示すように、鉄骨梁1Aのうちスリット14A、14Bが設けられている位置では、鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなる。このため、スリット14A、14Bの位置が鉄骨梁1Aの材軸方向端部に近すぎたり、スリット14A、14Bの高さ14ha、14bが大きすぎたりすると、スリット14A、14Bが設けられている位置で鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなる影響を受けて、鉄骨梁1Aの終局耐力が低下してしまう恐れがある。そこで、スリット14A、14Bが設けられている位置で鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなっても、鉄骨梁1Aの終局耐力が低下しないように、スリット14A、14Bの鉄骨梁1Aの材軸方向端部からの距離や、スリット14A、14Bの高さ14ha、14hbを調整することが好ましい。
【0035】
また、鉄骨梁1Aの上フランジ11、下フランジ12およびウェブ13の幅厚比は、非特許文献1に開示される幅厚比ランクFA相当とすることが好ましい。このようにすると、鉄骨梁に局部座屈が発生して耐力が急激に低下することを防止でき、鉄骨梁1Aの塑性変形性能を確実に確保できる。
【0036】
図5図7に、本発明の第2実施形態~第4実施形態に係る鉄骨梁1B~1Dの側面図を、それぞれ示す。
【0037】
図5図7に示すように、第2実施形態~第4実施形態の鉄骨梁1B~1Dでは、第1実施形態の鉄骨梁1Aに対して、スリットの形状および配置が変更されている。
【0038】
具体的には、図5に示すように、第2実施形態の鉄骨梁1Bでは、ウェブ13の高さ方向に延びるスリット14Cが、鉄骨梁1Aの材軸方向に3列、等間隔で形成されている。各列のスリット14Cは、ウェブ13の高さ方向中央部、すなわち上フランジ11および下フランジ12から離れた位置に形成されている。そして、各列に配置されるスリット14Cの総延長、すなわちスリット14Cの高さ14hcが、ウェブ13の高さ13hの0.5倍以上となるように、スリット14Cが形成されている。このようにすると、スリット14Cの開口を、上フランジ11および下フランジ12に近接する位置に加工する必要が無く、スリット14Cの加工が容易となるので好ましい。
【0039】
また、図6に示すように、第3実施形態の鉄骨梁1Cでは、ウェブ13の高さ方向に延びるスリット14A、14B、14Dが、鉄骨梁1Aの材軸方向に3列、等間隔で形成されている。鉄骨梁1Aの材軸方向に3列に配置されるスリット14A、14B、14Dのうち外側の2列では、ウェブ13の上フランジ11に隣接する部位にスリット14Aが、下フランジ12に隣接する部位にスリット14Bが、それぞれ形成されている。また、鉄骨梁1Aの材軸方向に3列に配置されるスリット14A、14B、14Dのうち中央の列では、ウェブ13の高さ方向中央部、すなわち上フランジ11および下フランジ12から離れた位置に、スリット14Dが形成されている。すなわち、第3実施形態の鉄骨梁1Cでは、スリット14A、14B、14Dが千鳥状に配置されている。そして、各列に配置されるスリット14A、14B、14Dの総延長、すなわち、スリット14Aの高さ14haとスリット14Bの高さ14hbとの合計と、スリット14Dの高さ14hdとが、それぞれウェブ13の高さ13hの0.5倍以上となるように、スリット14A、14B、14Dが形成されている。このように、スリット14A、14B、14Dを千鳥状に配置すると、スリット14A、14B、14Dの周辺の領域、すなわち座屈が生じる領域を分散できる。この結果、各領域で発生する座屈波形が合わさって大きな一つの座屈モードになることが抑制され、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化する効果を十分に引き出すことができるので好ましい。
【0040】
また、図7に示すように、第4実施形態の鉄骨梁1Dでは、ウェブ13の高さ方向に延びるスリット1Eが、鉄骨梁1Aの材軸方向に3列、等間隔で形成されている。各列では、スリット14Eが、ウェブ13の高さ方向中央部、すなわち上フランジ11および下フランジ12から離れた位置に、断続的に4か所、直列に形成されている。そして、各列に配置されるスリット14Eの総延長、すなわち各列に配置されるスリット14Eの高さ14heの合計が、ウェブ13の高さ13hの0.5倍以上となるように、スリット14Eが形成されている。
【0041】
第2実施形態~第4実施形態の鉄骨梁1B~1Dでは、第1実施形態の鉄骨梁1Aと同様に、スリット14A~14Eの鉄骨梁1Aの材軸方向の幅14wが、ウェブ13の板厚13t以下となるように、スリット14A~14Eが形成されている。
【0042】
第2実施形態~第4実施形態のように、スリット14A~14Eをウェブ13の高さ方向中央部に配置しても、また鉄骨梁の材軸方向に隣接する列のスリットの形状や位置が同じでなくても、第1実施形態の鉄骨梁1Aと同様の効果が得られる。
【0043】
なお、上記各実施形態では、鉄骨梁がH形鋼から形成されている例について説明したが、ビルトH等の溶接組立材であってもよい。また、上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であれば、例えば溝形状の断面を有する鉄骨梁等、断面形状がH形状でなくても、本発明を同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1A~1D、9、9A~9C 鉄骨梁
2 鉄骨柱
3 小梁
11 上フランジ
12 下フランジ
13 ウェブ
13h ウェブの高さ
13t ウェブの板厚
14A~14E スリット
14w スリットの幅
14i スリットの間隔
14ha~14he スリットの高さ
14r アール
21 ダイアフラム
91 フランジ
92 補強板
93 ウェブ
94 スリット部
95、96 切欠部
B 座屈波形
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13