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  • 特開-地下水汚染濃度の予測方法 図1
  • 特開-地下水汚染濃度の予測方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136906
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】地下水汚染濃度の予測方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20230922BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230922BHJP
【FI】
B09C1/02
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042837
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】菊池 毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇弥
【テーマコード(参考)】
4D004
5L049
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB05
4D004CA22
4D004CB31
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】粘土層(不透水層)が浄化された後、残存する汚染物質が透水層の地下水へ溶出した場合に地下水中の汚染物質濃度がどの程度になるか予測する方法を提供する。
【解決手段】汚染物質の除去処理を行った粘土層中の一部に残存した汚染物質が、該粘土層の上側の帯水層に拡散する場合の該帯水層中の任意地点における汚染物質濃度を予測する方法であって、該地点の汚染物質残存箇所からの地下水流れ方向の距離及び粘土層上面からの高さと、地下水の実流速と、汚染物質の地下水下流方向への分散係数と、汚染物質の地表方向への分散係数と、遅延係数と、帯水層の有効間隙率とに基づいて予測を行う地下水汚染濃度の予測方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質の除去処理を行った粘土層中の一部に残存した汚染物質が、該粘土層の上側の帯水層に拡散する場合の該帯水層中の任意地点における汚染物質濃度を予測する方法であって、
該地点の汚染物質残存箇所からの地下水流れ方向の距離及び粘土層上面からの高さと、地下水の実流速と、汚染物質の地下水下流方向への分散係数と、汚染物質の地表方向への分散係数と、遅延係数と、帯水層の有効間隙率とに基づいて予測を行う地下水汚染濃度の予測方法。
【請求項2】
前記予測を下記式に従って行う請求項1の地下水汚染濃度の予測方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された地盤を浄化した後の地下水中の汚染物質濃度を予測する方法に関する。詳しくは、上層地盤が透水性の高い砂質土等からなる透水層であり、下層地盤が透水性の低い粘性土等からなる不透水層であり、この下層地盤(不透水層)に存在する有機塩素化合物等、揮発性を有する汚染物質を電気発熱法等により除去処理した後の、該透水層中の汚染物質濃度を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気発熱法による不透水層の揮発性汚染物質を除去する浄化技術として、特許文献1に、透水層内の地下水を汲み上げることによってこの透水層を地下水の不飽和状態とした後、地下水で飽和している不透水層へ挿入した電極間に電圧を印加することにより、不透水層における汚染領域を発熱させ、この汚染領域から気化して透水層の土粒子間隙の気体相へ導入された汚染物質のガスを、ガス吸引孔から真空ポンプで真空吸引することにより回収する方法が記載されている。透水層12内の地下水を汲み上げることによってこの透水層12を地下水の不飽和状態とした後、地下水で飽和している不透水層13へ挿入した電極5,5間に電圧を印加することにより、不透水層13における汚染領域14bを発熱させ、この汚染領域14bから気化して透水層12の土粒子間隙の気体相へ導入された汚染物質のガスGを、ガス吸引孔6から真空ポンプVPで真空吸引することにより回収する
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-26492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気発熱法により粘土層(不透水層)が浄化された後、残存する汚染物質が透水層の地下水へ溶出してくる可能性がある。この際、地下水濃度がどの程度になるかを把握する必要があるが、これを計算するツールがなかった。また、効率的に浄化を進めるために、粘性土をどの深さまで、どの濃度まで浄化すれば地下水濃度が基準適合となるかを踏まえて計画する必要があるが、簡易に予測するツールがなく、電気発熱法の運転制御が手探りの状態であった。
【0005】
本発明は、粘土層(不透水層)が浄化された後、残存する汚染物質が透水層の地下水へ溶出した場合に地下水中の汚染物質濃度がどの程度になるか予測する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下によって上記課題を解決する。
【0007】
[1] 汚染物質の除去処理を行った粘土層中の一部に残存した汚染物質が、該粘土層の上側の帯水層に拡散する場合の該帯水層中の任意地点における汚染物質濃度を予測する方法であって、
該地点の汚染物質残存箇所からの地下水流れ方向の距離及び粘土層上面からの高さと、地下水の実流速と、汚染物質の地下水下流方向への分散係数と、汚染物質の地表方向への分散係数と、遅延係数と、帯水層の有効間隙率とに基づいて予測を行う地下水汚染濃度の予測方法。
【0008】
[2] 前記予測を下記式に従って行う[1]の地下水汚染濃度の予測方法。
【数1】
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、電気発熱法により粘土層が浄化された後、粘土層に汚染物質が残っている場合、浄化された粘土層から汚染物質が溶出して帯水層が再汚染されるときの汚染物質濃度を評価することができる。この予測方法によると、電気発熱法を適用する際、粘性土層をどの深度まで加温すればよいか、またどの程度の濃度になるまで加温すればよいのかを把握することが可能となり、電気発熱法を計画的に実施することが可能となる。
【0010】
また、本発明によると、粘性土中の汚染物質濃度の浄化目標を設定することが可能となるため、浄化期間やコスト算出の精度(電極の設置深度や加温期間)がより高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】汚染地盤の模式的な縦断面図である。
図2】汚染物質濃度の予測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0013】
図1は汚染地盤の模式的な縦断面図であり、粘土層(不透水層)の上に透水層が存在し、該透水層に帯水層が存在する。
【0014】
粘土層の一部が有機塩素化合物等で汚染されていたので、電気発熱法により浄化処理が施された状態となっている。浄化処理域の一部に浄化されずに汚染物質が残っている。この残存汚染物質が帯水層中の地下水中に溶け込み、地下水流による搬送作用と濃度拡散作用とによって地下水流の下流側(図1の右方向)かつ上方(地表方向。図1の上方向)に拡散する。
【0015】
地下水流の実流速がvである。粘土層では実流速はゼロであると扱う。
【0016】
本発明では、残存汚染部分から下流側(地下水流方向の下流側)へ距離xで、かつ粘土層上面からの高さがzの任意の地点での汚染(汚染物質濃度)cを下記の式によって求める。
【0017】
【数2】
【0018】
:遅延係数,
:有効間隙率,
c:汚染物質濃度,
:流れ方向の分散係数,
:鉛直方向の分散係数,
:帯水層の実流速,
α:縦分散長,
α:横分散長,
:分子拡散係数
【0019】
なお、この実施の形態では、α=α/100とするが、αとαとの比率は100に限定されるものではなく、10~100の間から選択すればよい。
【0020】
上記の偏微分方程式は、移流分散解析における水溶性汚染の基礎方程式であり、右辺第1項はx軸方向(地下水下流方向)への分散項であり、第2項はz軸方向(地表方向)への分散項であり、第3項は移流項(地下水実流速による移流)である。なお、拡散途中での汚染物質の分解はないものとしている。また、汚染物質残存部分以外の粘土層中の汚染物質濃度はゼロとし、汚染残存部分以外からの汚染物質溶出はないものとしている。また、帯水層、粘土層の透水係数、有効間隙(全間隙率)及び体積含水率を均一かつ一定とする。
【0021】
上記偏微分方程式を市販のソフトウェアを使って解くか、FortranやC言語などを使って有限差分法などの数値解法により解く又は解析的に解く。
【0022】
上記偏微分方程式において、各係数の値を以下の通りとし、汚染物質をPCE(テトラクロロエチレン)などの揮発性有機化合物とし、汚染箇所の面積1m(5m×0.2m)をとし、汚染箇所での汚染物質の残存量(重量)を0.1mg/Lとし、汚染箇所から下流側へ5m、上方へ2m離隔した地点(観測地点)での汚染物質濃度の経時変化の計算結果を図2に示す。
【0023】
(遅延係数):1.0
(有効間隙率。ただし、粘土層内は全間隙率n):
帯水層の有効間隙率:0.3、粘土層の全間隙率:0.4
(帯水層の実流速):0.1m/day
α(縦分散長):3.0m
α(横分散長):3.0×10-2
(帯水層、粘土層の分子拡散係数):8.64×10-5/day
【0024】
図2の通り、観測地点での汚染物質濃度の経時変化が予測されるので、電気発熱法を適用する際、粘性土層をどの深度まで加温すればよいか、またどの程度の濃度になるまで加温すればよいのかを把握することが可能となり、電気発熱法を計画的に実施することが可能となる。
図1
図2