(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136922
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 49/753 20060101AFI20230922BHJP
C07C 45/46 20060101ALI20230922BHJP
C07C 49/755 20060101ALI20230922BHJP
C07C 65/24 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C07C49/753 C CSP
C07C45/46
C07C49/755
C07C65/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042860
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】上口 新祐
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB91
4H006AC29
4H006BJ50
4H006BM73
4H006BP30
4H006BR70
4H006BS30
(57)【要約】
【課題】ジベンゾ[g,p]クリセンの2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体。
【請求項2】
さらに、2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有する請求項1に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体。
【請求項3】
前記酸素原子含有官能基が、水酸基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、または、アルキニルオキシ基である請求項1または2に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体。
【請求項4】
下記式
【化1】
である請求項1~3のいずれか1項に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体。
【請求項5】
(a)3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、二酸化炭素を反応させて、ハロゲノ基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、および、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βのカルボキシ基を酸ハライドに変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、および、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化する工程
を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法。
【請求項6】
【化2】
、または、
【化3】
で表されるフルオレン誘導体。
【請求項7】
【化4】
、または、
【化5】
で表されるジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および4,11ージヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および3,8ージヒドロジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセン、およびジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセンは6個の六員環と2個または4個の五員環を有しており、バックミンスターフラーレンC60の部分構造に相当するバッキーボウル分子である。
【0003】
【0004】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および4,11ージヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および3,8ージヒドロジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセン、およびジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセンは典型的な非平面性のπ共役系構造を有する多環芳香族炭化水素(PAHs)として知られ、いずれも炭素数28個の有機分子である。C60の断片構造(フラグメント)、すなわちバッキーボウルであることから、C60と似たような電子受容性の高い有機エレクトロニクス材料としての性質を持つのではないかと目されている。また、様々な炭素材料としての可能性も有すると期待されている。しかしながら、これまでにこれらの実質的な合成に関する報告は皆無である。従来の技術においてバッキーボウルと言えば、1966年に報告されたコランニュレンと2003年に報告されたスマネン(たとえば特許文献1)が最たる影響力のある化合物である。2003年のスマネンの報告以来、バッキーボウルの材料展開という視点においては顕著な報告は大してなされておらず、バッキーボウル自体の可能性は滞っていると言っても過言ではない。
【0005】
非特許文献1には、一方のベイ領域が5員環構造となったインデノクリセン誘導体が開示されている。しかしながら、両方のベイ領域が5員環構造のクリセン誘導体は開示されていない。また、開示された方法では、両方のベイ領域に5員環構造を導入することは不可能である。
【0006】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン、および3,8-ジヒドロジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセン、およびジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセンは、ジベンゾ[g,p]クリセンのベイ領域(1位、8位、9位、16位の炭素原子周辺)やフィヨルド領域(4位、5位、12位、13位の炭素原子周辺)それぞれに二つの五員環を形成することで得られる。
【0007】
【0008】
しかしながら、ジベンゾ[g,p]クリセンは、フィヨルド領域と呼ばれる4位、5位、12位、13位の炭素原子に結合した水素原子が大きな立体反発を生むため、ベイ領域をメチレン架橋することは非常に困難である。実際、これまでに、2箇所のベイ領域に五員環を形成して架橋した報告は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ito,H.;Itami,K.,Angew.Chem.,Int.Ed.2017,56,12224-12228.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ジベンゾ[g,p]クリセンの2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の合成方法について検討を進めたところ、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体と、二酸化炭素を反応させて、ハロゲノ基をカルボキシ基に変換して環化すれば、2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[g,p]クリセン骨格の誘導体を合成できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン誘導体に関する。
【0014】
さらに、2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有することが好ましい。
【0015】
前記酸素原子含有官能基が、水酸基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、または、アルキニルオキシ基であることが好ましい。
【0016】
【0017】
また、本発明は、
(a)3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、二酸化炭素を反応させて、ハロゲノ基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、および、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βのカルボキシ基を酸ハライドに変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、および、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化する工程
を含む前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法に関する。
【0018】
さらに、本発明は、下記式
【化4】
、または、
【化5】
で表されるフルオレン誘導体に関する。
【化6】
、または、
【化7】
で表されるジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格を有する新たなバッキーボウルである。また、3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有基を有しており、官能基を付与しやすいという効果も奏する。また、2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有する場合には、有機溶媒に対する溶解性が高いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成することを特徴とする。
【0021】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格は、ジベンゾ[g,p]クリセンの1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成した化合物である。ここで、ジベンゾ[g,p]クリセンは、下記化学式
【化8】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。
【0022】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能置換基 を有しており、官能基を付与しやすいという効果を奏する。
【0023】
酸素原子含有官能基としては、水酸基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。なかでも、合成の簡便さやコストパフォーマンスの高さの点で、アルコキシ基および水酸基が好ましい。
【0024】
アルコキシ基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、iso-プロピルエーテル基、ノルマルブチルエーテル基、t-ブチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、ペンチルエーテル基、ヘキシルエーテル基、へプチルエーテル基、オクチルエーテル基、ノニルエーテル基、デシルエーテル基、ウンデシルエーテル基、ドデシルエーテル基等が挙げられる。なかでも、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、iso-プロピルエーテル基、ノルマルブチルエーテル基、t-ブチルエーテル基、が好ましい。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。アルコキシ基は、2つのアルコキシ基が連結して、環を形成していても良い。また、アルコキシ基は、水酸基を有していても良い。
【0025】
ポリオキシアルキレン基としては、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルキルエーテル基が挙げられる。アルキルエーテル基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、イソプロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基、n-ヘプチルエーテル基、n-オクチルエーテル基、n-ノニルエーテル基、n-デシルエーテル基、n-ウンデシルエーテル基、n-ドデシルエーテル基等が挙げられ、メトキシ基、エトキシ基、プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基が好ましい。アルケニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0026】
2つのアルコキシ基が連結して環を形成する置換基としては、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、プロピレンジオキシなどが挙げられる。水酸基を有するアルコキシ基としては、ヒドロキシメチルエーテル基、ヒドロキシエチルエーテル基、ヒドロキシプロピルエーテル基、ヒドロキシブチルエーテル基、ヒドロキシペンチルエーテル基、ヒドロキシヘキシルエーテル基、ヒドロキシヘプチルエーテル基、ヒドロキシオクチルエーテル基、ヒドロキシノニルエーテル基、ヒドロキシデシルエーテル基などが挙げられる。
【0027】
ポリオキシアルキレン基は、アルキレンジオールの単独重合体または共重合体の末端の水素を取った置換基である。このような置換基を導入することで、水または水溶性有機溶媒に溶解しやすくなる。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。重合度は、ポリエチレングリコールの場合には4~450が好ましく、ポリエチレンオキシドの場合には450~10000が好ましい。
【0028】
3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有していれば、他の置換位置に置換基を有していても良い。他の置換基としては、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などが挙げられる。なかでもアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が好ましい。
【0029】
特に、有機溶媒に対する溶解性が向上する点で、2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有することが好ましい。有機溶媒としては、-78℃から150℃の温度範囲における溶解度の点で、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4ージオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を利用することが好ましい。
【0030】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は3~12が好ましく、3~8がより好ましい。例えば、iso-プロピル、n-プロピル、iso-ブチル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ペンチル、iso-ヘキシル、n-ヘキシル、iso-ヘプチル、n-ヘプチル、iso-オクチル、n-オクチル、iso-ノニル、n-ノニル、iso-デシル、n-デシル、iso-ウンデシル、n-ウンデシル、iso-ドデシル、n-ドデシル等が挙げられる。なかでも、分岐構造を有するものが好ましく、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチルがより好ましい。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0031】
アリール基の炭素数は6~14が好ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0032】
前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の中でも、下記式
【化9】
で表される化合物が好ましい。たとえば(化1)の化合物の該酸素原子含有官能基によって、フィヨルド領域においても五員環構造を形成し、ジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセン骨格を有する誘導体、および3,8ージヒドロジインダセノ[3,2,1,8,7-defghi:3′,2′,1′,8′,7′-mnopqr]クリセン骨格を有する誘導体に変換することも可能である。
【化10】
前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、たとえば以下に説明する本発明のジインデノ[g,p]クリセン誘導体の製造方法により、作製することができる。
【0033】
本発明の前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン誘導体の製造方法は、
(a)3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、二酸化炭素を反応させて、ハロゲノ基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、および、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βのカルボキシ基を酸ハライドに変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、および、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化する工程
を含むことを特徴とする。
【0034】
工程(a)
工程(a)で使用する3位、6位、11位、14位に、酸素原子含有官能基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αにおいて、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。なかでも、脱ハロゲン化水素反応が容易であることから臭素またはヨウ素が好ましい。他の置換位置に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などの置換基を有していても良い。具体的なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αとしては、たとえば2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有する以下の式で表される化合物などが挙げられる。
【化11】
【0035】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、たとえば以下の製造方法によって作製することができる。
(x)酸素原子含有官能基と、ハロゲノ基を有する9-フルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(y)得られたスピロケトン誘導体を還元してスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(z)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
【0036】
フルオレノン誘導体における酸素原子含有官能基、および、ハロゲノ基は、前述した置換基と同じ置換基である。また、これらの置換基の置換位置は、目的とするジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に対応する置換位置に置換されている必要がある。
【0037】
工程(x)におけるフルオレノン誘導体の二量化方法は特に限定されず、亜リン酸トリアルキルなどの酸素親和性の高いルイス塩基試薬の存在下で行う方法が挙げられる。亜リン酸トリアルキルなどの活性化試薬は2当量以上が好ましい。反応温度は特に限定されず、90~200℃が好ましい。
【0038】
工程(y)におけるスピロケトン誘導体の還元法は特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素ガスを用いる接触還元法などが挙げられる。
【0039】
工程(z)におけるスピロアルコール誘導体の脱水法は特に限定されず、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、濃塩酸、塩酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0040】
工程(a)において、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αをn-BuLi、メチルリチウム、フェニルリチウム、ノルマルヘキシルリチウムなどの有機リチウム化合物の存在下でリチウムハロゲン交換反応を行い、リチオ化する。その後、二酸化炭素と反応させて、カルボキシ基を導入し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する。
【0041】
工程(b)
工程(a)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βは、N,N-ジメチルホルムアミド存在下においてチオニルクロライドと反応させて、カルボキシ基を酸ハライド基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する。
【0042】
工程(c)
工程(b)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γは、三塩化アルミニウムや三フッ化ホウ素や三塩化鉄やゼロ価鉄などのルイス酸の存在下でのフリーデルクラフツ反応を行って環化し、2つのベイ領域に5員環を形成した目的のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成することができる。
【0043】
また、本発明のフルオレノン誘導体は、
【化12】
、または、
【化13】
で表されることを特徴とする。
【0044】
(化3)~(化4)で表される化合物は、(化1)で表される化合物を合成に利用する出発物質となる新規化合物である。(化3)で表される化合物は、2、7位にメトキシ基を有するフルオレノン誘導体の3、6位に、フリーデルクラフツ反応を行ってイソプロピル基を導入することにより合成することができる。(化4)で表される化合物は、(化3)で表される化合物を、臭素、N-ブロモスクシンイミドなどの臭素化剤により臭素化することにより合成することができる。
【0045】
また、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、
【化14】
、または、
【化15】
で表されることを特徴とする。
【0046】
(化5)で表される化合物は、本発明の前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法において、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αとして使用することができる新規物質である。(化4)で合わされる化合物を、工程(x)のように二量化することによって、合成することができる。
【0047】
(化6)で表される化合物は、本発明の前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法において、工程(b)におけるジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γの出発物質として使用することができる新規物質である。工程(a)のように、3位、6位、11位、14位に、メトキシ基を有し、2位、7位、10位、15位に、分岐構造または直鎖構造のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、二酸化炭素を反応させることにより合成することができる。
【0048】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用される。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料として応用可能である。
【実施例0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0050】
実施例において、禁水反応はアルゴンまたは窒素雰囲気下で行なっており、特に断りのない限り実験は禁水条件で実施した。購入した無水溶媒・試薬は、改めて精製して純度を向上させることなく使用した。薄層クロマトグラフィーとしてMerck silica 60F254を使用し、カラムクロマトグラフィーとしてシリカゲル60N(関東化学(株)製)を用いた。高分解能質量測定(HRMS)として飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFまたはLCMS-IT-TOF)または直接質量分析法(DART-MS)のいずれかを用いた。
【0051】
1H-NMR、13C-NMRスペクトルについては、5mmのQNPプローブを用い、それぞれ400MHz、100MHzで測定した。化学シフト値はδ(ppm)で示しており、それぞれの溶媒中での基準値は1H-NMR:CHCl3(7.26),CH2Cl2(5.32)、DMSO(2.50);13C-NMR:CDCl3(77.0)、DMSO(39.5)としている。分裂のパターンは、s:単一線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線、br:幅広線で示す。
【0052】
【0053】
実施例1
3,6-ジイソプロピル-2,7-ジメトキシフルオレノン(化合物2)の合成
アルゴン雰囲気下、2,7-ジメトキシ-9-フルオレノン(10g,42mmol)の2-クロロプロパン懸濁液に、室温下、三塩化アルミニウム(27g,200mmol)を加えた。反応溶液を40℃で24時間撹拌後、0℃下、3M塩酸を滴下し反応を停止した。有機層を分離し飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、18gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、8.3gの化合物2(59%)を得た。
【0054】
化合物2の分析データ
1HNMR(400MHz,CDCl3)7.24(s,2H),7.11(s,2H),3.86(s,6H),3.35(sept,J=6.8Hz,2H),1.25(d,J=6.8 Hz,12H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)194.9,157.4,144.5,138.7,134.0,118.0,107.3,56.4,27.9,23.1ppm.
MS(DART-TOF)m/z:325[MH]+;
IR(neat)2956,1702,1599,1447,1408,1232,1045,877,774,591cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C21H25O3:325.1804[MH]+,found;325.1795.
【0055】
実施例2
3,6-ジイソプロピル-2,7-ジメトキシ-4-ブロモフルオレノン(化合物3)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2(8.0g,24.6mmol)の無水塩化メチレン溶液に、0℃下で臭素(24.6mL,147mmol,4.2M塩化メチレン溶液)を滴下した。反応溶液を15分撹拌後、室温に昇温し4時間反応させ、0℃下飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて反応を停止。有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、10.5gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、7.1g(72%)の化合物3を得た。
【0056】
化合物3の分析データ
M.p.253-255℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.22(s,1H),7.14 (s,1H),7.12(s,1H),3.87(s,3H),3.86(s,3H),3.78(sept,J=7.0Hz,1H),3.35(sept,J=7.0Hz,1H),1.33(d,J=7.0Hz,6H),1.25(d,J=7.0Hz,6H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)193.4,159.6,157.4,144.2,142.1,138.8,137.4,135.6,122.0,120.6,107.5,107.1,56.4,56.3,33.8,28.1,23.0,20.3ppm.
MS(DART-TOF)m/z:403[MH]+.
IR(neat)2960,1714,1599,1412,1244,1045,778cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C21H24BrO3:403.0903[MH]+,found;403.0891.
【0057】
実施例3
ジブロモ-2,7,10,15-テトライソプロピル-3,6,11,14-テトラメトキシジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物4)の合成
大気圧下、一径フラスコに化合物3(15.3g,37.9mmol)と亜リン酸トリイソプロピル(21.7mL,114mmol)を加えた。反応溶液を140℃のオイルバスに浸し33 時間撹拌後、60℃に降温し、水を滴下した。その後再び反応溶液を80℃に昇温し1時間撹拌後、有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、シリカゲルを用いた濾過カラム精製操作を行い、スピロケトン体を11.4g(76%,異性体比51:49)で得た。このスピロケトン体を、大気圧下、一径フラスコに、トルエン(58mL)、メタノール(12mL)とともに加え、45℃に昇温した。攪拌後、水素化ホウ素ナトリウム(219mg,5.8mmol)を添加し30分撹拌した。その後、アセトンを加えて30 分攪拌し、過剰量の還元剤を不活性化後、室温に自然降温した。有機層を飽和食塩水で洗浄、得られた有機層をフラスコに移して、135℃に昇温し、水を共沸除媒。その後、メタンスルホン酸(0.05mL,0.72 mmol)を加え30分撹拌した。反応溶液を室温に自然降温後、有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、10.1gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作の結果、9.8g(88%,異性体比51:49)の化合物4を得た。
【0058】
化合物4の分析データ
M.p283℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.98(s,2H),8.97(s,2H),8.13(s,2H),8.01(s,2H),8.00(s,2H),7.90(s,2H),4.11(sept,J=7.0Hz,4H),3.96(s,12H),3.94(s,24H), 3.92(s,12H),3.49(sept,J=7.0 Hz,4H),1.41(d,J =7.0Hz,12H+12H)ppm.
13CNMR(100 MHz,CDCl3)157.7,157.5,156.1,155.9,137.6,137.3,134.7,134.4,130.7(two peaks are overlapped),129.51,129.45,129.3,129.1,127.8(two peaks are overlapped),127.5(two peaks are overlapped),125.8,125.6,124.57,124.55,124.0,123.5,108.8,108.6,107.1,107.0,56.04,56.00,55.84,55.80,35.4(two peaks are overlapped),27.3(two peaks are overlapped),23.3(two peaks are overlapped),20.5(two peaks are overlapped)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:775[MH]+;
IR(neat)2959,2920,2865,1587,1452,1401,1247,1053,831cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C42H47Br2O4:775.1821[MH]+,found;775.1817.
【0059】
実施例4
ジカルボキシ-2,7,10,15-テトライソプロピル-3,6,11,14-テトラメトキシジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物5)の合成
アルゴン雰囲気下、二径フラスコに化合物4(1.2g,1.5mmol)と無水ジエチルエーテルを加えた。ノルマルブチルリチウム(3.6mL,5.6mmol,1.57Mのヘキサン溶液)を-78℃下で滴下し、15分撹拌後、二酸化炭素を吹き込んだ。室温へ昇温した後さらに1時間撹拌し、3M塩酸を加えて反応停止操作を行なった。得られたサンプルをトルエンで希釈し、水層に対してトルエンで抽出操作を行い、集めた有機層を飽和食塩水洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、671mg(61%,異性体比61:39)の化合物5を得た。
【0060】
化合物5の分析データ
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.45(s,2H),8.28(s,2H),8.17(s,2H),8.10(s,2H),8.0(s,2H),3.97(s,12H),3.93(s,12H),3.46(sept,J=7.0Hz,4H+4H),1.50(d,J =7.0Hz,24H),1.33(d,J=7.0Hz,24H)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:703[M-H]-.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C44H42O8:703.3271[MH]+,found; 703.3252.
【0061】
実施例5
ジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体(化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物5(600mg,0.86mmol)の塩化チオニル(8mL,112mmol)懸濁液に、室温下でDMFを数滴加えた。反応溶液を30分間攪拌後除媒し、真空乾燥後、酸塩化物を得た。この純度のまま、次の反応に供した。アルゴン雰囲気下、酸塩化物(671mg)の塩化メチレン溶液に、0℃下三塩化アルミニウム(402mg,3.0 mmol)を加え、30分撹拌後、水を用いて反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、462mg(81%)の化合物1を得た。
【0062】
化合物1のデータ
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.26(s,4H),4.48(sept,J=6.9Hz,4H),4.08(s,12H)1.49(d,J=6.9Hz,24H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)195.3,160.0,140.9,132.8,130.6,125.9,124.4,110.7,56.1,25.6,20.6ppm.
MS(DART-TOF)m/z:669[MH]+.
IR(neat)2955,2920,2865,1698,1575,1452,1254,1190,978,658cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd. for C44H45O6:669.3216[MH]+,found;669.3210.
Anal.Calcd.for C44H44O6:C,79.02;H,6.63.Found:C,79.24;H,6.63.
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子として有用なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法として適用可能である。また、本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7′,1′,2′-pqr]クリセン骨格の誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用可能である。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料として応用可能である。また、カイロオプティカル(Chiroptical)特性を有する材料開発に対して、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は適用可能である。