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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136929
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】トレーニングシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/053 20210101AFI20230922BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20230922BHJP
   A61B 5/397 20210101ALI20230922BHJP
   A61B 5/304 20210101ALI20230922BHJP
   A61B 5/313 20210101ALI20230922BHJP
【FI】
A61B5/053
A63B69/00 C
A61B5/397
A61B5/304
A61B5/313
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042874
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】坂上 友介
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA04
4C127AA06
4C127EE01
4C127EE03
(57)【要約】
【課題】運動者の生体インピーダンスを測定して解析することにより、トレーニングに適した運動負荷を設定できるトレーニングシステムを提供する。
【解決手段】本発明のトレーニングシステムは、運動者のトレーニングを補助するトレーニングシステムであり、トレーニングにおける運動者の運動前後の生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するデータ取得ステップと、取得した前記生体インピーダンスデータのデータベースへの蓄積および解析を行う解析ステップと、を有することを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動者のトレーニングを補助するトレーニングシステムであって、
トレーニングにおける運動者の運動前後の生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するデータ取得ステップと、
取得した前記生体インピーダンスデータのデータベースへの蓄積および解析を行う解析ステップと、
を有することを特徴とする、トレーニングシステム。
【請求項2】
前記解析ステップでは、前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータに基づき、前記運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測することを特徴とする、請求項1に記載のトレーニングシステム。
【請求項3】
前記解析ステップでは、前記運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測した結果が所定の閾値を超える場合、アラートを発することを特徴とする、請求項2に記載のトレーニングシステム。
【請求項4】
前記解析ステップでは、前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータに基づき、将来のトレーニング計画を提示することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のトレーニングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーニングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
体を鍛えたり、運動競技の技術を向上させるためのトレーニングは古来より様々なシステムが考案されてきた。現在行われているトレーニングシステムでは、短時間で最大の効果を上げるために、運動の種類、質、量、強度、頻度等のパラメータに関して、それぞれのパラメータの内容とその組み合わせを考慮しながら様々な工夫が行われてきている。
【0003】
このようなパラメータのうち、強度(運動負荷の強度)は運動中の心拍数や血中(あるいは汗中)の乳酸濃度によって計測・評価が行われる。量は運動中のトレーニング(運動)履歴を記録することによって計測・評価が行われる。このトレーニング履歴は、例えばGPSセンサ等を用いたり、運動の種類と回数を記録することによって計測・評価できる。頻度についても量と同様に計測・評価が行われる。
【0004】
運動を行う人(運動者)が被るトータルの運動負荷は、上記の運動の強度、量、頻度の3つのパラメータによって決定づけられる。運動負荷が大きすぎると疲労が過度に蓄積したり怪我につながったりするので好ましくなく、小さすぎると筋肉量の増加や循環機能の向上、運動競技の技術の向上等が達成されないのでやはり好ましくない。従って、運動者自身や運動者を支援・補助する人(トレーナー等)が運動負荷を測定・評価し、閾値(例えばオーバートレーニングとなる負荷やトレーニングの効果が現れない負荷の値)を設けて運動負荷を閾値との比較で評価して、適切な運動負荷となるように調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-49789号公報
【特許文献2】特開2020-157037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のやり方では運動負荷の測定・評価が適切な測定方法に基づかないで行われたり、測定・評価が経験と勘に基づいて行われて不適切であったり評価者によってばらつきが出たりする、という問題があった。さらには、トレーニングを継続していくと筋肉量の増加や心肺機能の向上など体力レベルが向上したり、運動技術が向上したりすることによって、運動者にとっての適切あるいは必要な運動負荷が以前に比べて増加していくため、評価の対象である運動負荷の閾値を変更する必要があるが、閾値の変更をリアルタイムで適切に行うことができないという問題もあった。逆に、疲労が蓄積したり、トレーニング頻度の低下などによって、それまでのトレーニングでは運動負荷が運動者の体にとって必要以上になってしまう場合があり、運動負荷の閾値を変更しないとオーバートレーニングとなって怪我をするおそれがある。しかしながら、この場合も閾値の変更をリアルタイムで適切に行うことができないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運動者の生体インピーダンスを測定して解析することにより、トレーニングに適した運動負荷を設定できるトレーニングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトレーニングシステムは、運動者のトレーニングを補助するトレーニングシステムであり、トレーニングにおける運動者の運動前後の生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するデータ取得ステップと、取得した前記生体インピーダンスデータのデータベースへの蓄積および解析を行う解析ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0009】
前記解析ステップでは、前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータに基づき、前記運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測することを特徴としていてもよい。
【0010】
前記解析ステップでは、前記運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測した結果が所定の閾値を超える場合、アラートを発することを特徴としていてもよい。
【0011】
前記解析ステップでは、前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータに基づき、将来のトレーニング計画を提示することを特徴としていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、運動者の運動前後の生体インピーダンスを測定してそのデータを蓄積し解析するので、運動者の体力レベルの向上具合や疲労具合を判断することができて、次回のトレーニングの強度や量などを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態におけるトレーニングシステムである筋疲労評価方法を模式的に示した装置の図である。
図2図1に示した状態の等価回路を示す。
図3】(a)~(c)は、筋疲労と生体インピーダンスとの関係を調べた結果を示したグラフである。
図4】(a)および(b)は、筋肉の水分量の変化と、生体インピーダンスの変化との関係を模式的に示したグラフである。
図5】急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを調べた結果を示したグラフである。
図6】2つの電極の別の配置の仕方を示した図である。
図7】実施形態におけるトレーニングシステムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1は、運動者のトレーニングを補助・管理するためのトレーニングシステムの一環として、筋疲労の評価を行い、筋疲労の状態によってトレーニングの強度や量などを管理する方法である。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における筋疲労評価方法を模式的に示した図である。
【0017】
図1に示すように、運動者の生体表面30に、2つの電極10、20を所定の間隔を開けて配置する。ここでは、運動者の上腕二頭筋の表面に2つの電極10、20を貼り付けた例を示す。そして、電極10、20間に生じる電圧を、増幅器(電圧測定手段)40で増幅して測定する。また、2つの電極10、20との間に、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2とが並列に配置されている。そして、スイッチ(接続手段)SWによって、電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態とに切り替えられる。第1の外部抵抗Rg1、第2の外部抵抗Rg2のいずれかが並列接続されることにより、非侵襲的に生体インピーダンスを測定することができる。
【0018】
図2は、図1に示した状態の等価回路図を示す。
【0019】
ここで、Vbは、2つの電極10、20間の生体表面30下にある筋肉部位(上腕二頭筋)における筋電位である。この筋電位Vbは、運動者が上腕二頭筋を運動させて負荷をかけたときに発生する。
【0020】
また、Rb1及びRb2は、それぞれ、筋電位Vbを発生する信号源(筋肉)と、電極10、20と間の生体インピーダンスを示す。なお、生体インピーダンスについては、後述する筋疲労との関係を説明するところで詳述する。また、Rinは、増幅器40の入力抵抗を示す。2つの電極10、20間に生じた電圧は、増幅器40で増幅されて、出力電圧Voutとして計測される。
【0021】
図2に示した等価回路図において、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V1は、以下の式(1)で与えられる。
【0022】
V1=Rg1・Vb/(Rb1+Rb2+Rg1) ・・・(1)
また、2つの電極10、20間に、第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2は、以下の式(2)で与えられる。
【0023】
V2=Rg2・Vb/(Rb1+Rb2+Rg2) ・・・(2)
従って、式(1)、(2)より、生体表面30下にある筋肉部位(上腕二頭筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZb(=Rb1+Rb2)は、以下の式(3)より求めることができる。
【0024】
Zb=Rb1+Rb2
=Rg1・Rg2(V1/V2-1)/(Rg1-Rg2・V1/V2) ・・・(3)
すなわち、式(3)より、生体表面30下にある筋肉部位(上腕二頭筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbは、第1の電圧V1と第2の電圧V2の電圧比(V1/V2)に基づいて算出することができる。
【0025】
ところで、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、血中の乳酸濃度が増加することがよく知られているが、筋肉内の水分も増加することが分かっている。そのため、疲労した筋肉部位における生体インピーダンスを測定すると、平常時よりも生体インピーダンスが減少していることが予測できる。
【0026】
図3(a)~(c)は、筋疲労と生体インピーダンスとの関係を調べた結果を示したグラフである。試験は健常成人男性9人を被験者として、図1と同様の装置を用い、電極は上腕二頭筋に配置して行った。具体的には、被験者の最大筋力の60%となる重さのダンベルを用いて、腕の肘曲げ運動を12回行い、これを5セット繰り返し行うことで上腕二頭筋を疲労させた。
【0027】
図3(a)は、図1、2に示した装置を用いて、上記運動を行った被験者の生体インピーダンスを測定した結果を示したグラフである。なお、生体インピーダンスの測定は、図1、2に示した装置において、上腕二頭筋の筋繊維に沿って、2つの電極を3.5cmの間隔を開けて貼り付けて行った。
【0028】
ここで、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2がおよそ0.3となるようにした。また、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした。そして、4.0kgのダンベルを用いて、肘関節角度を90°に保持している際の、第1の電圧V1及び第2の電圧V2を測定した。
【0029】
なお、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした場合、上記の式(2)は、V2≒Vbとなるため、生体インピーダンスZbは、以下の式(4)より求めることができる。
【0030】
Zb=Rg1(V2-V1)/V1 ・・・(4)
図3(a)において、横軸は時間(分)を示し、縦軸は生体インピーダンス(kΩ)を示す。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した生体インピーダンスを示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した生体インピーダンスを示す。なお、図中の生体インピーダンスは、9人の平均値を示す。
【0031】
横軸のP0における生体インピーダンスは、上記運動を行った直後の値を示し、P15~P60における生体インピーダンスは、運動を終えた後、15分ごとに測定した値を示す。
【0032】
図3(a)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、生体インピーダンスが大きく減少していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P15~P60)、生体インピーダンスが徐々に戻っていくのが分かる。
【0033】
図3(b)は、P0、P30、P60において、被験者の採血を行って、血中乳酸濃度を測定した結果を示したグラフである。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した血中乳酸濃度を示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した血中乳酸濃度を示す。なお、図中の血中乳酸濃度は、9人の平均値を示す。
【0034】
図3(b)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、血中乳酸濃度が大きく増加していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P30、P60)、血中乳酸濃度が徐々に戻っていくのが分かる。
【0035】
図3(c)は、P0、P30、P60において、被験者の上腕部における筋肉の厚みを測定した結果を示したグラフである。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した筋肉の厚みを示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した筋肉の厚みを示す。なお、図中の筋肉の厚みは、9人の平均値を示す。
【0036】
図3(c)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、筋肉の厚みが大きく増加していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P30、P60)、筋肉の厚みが徐々に戻っていくのが分かる。
【0037】
以上の結果から、腕の肘曲げ運動のように、筋肉に一定ではない負荷をかけたときの生体インピーダンスの変化は、血中乳酸濃度の変化や、筋肉の厚みの変化と、強い相関関係があることが分かる。すなわち、特定の筋肉の疲労は、筋肉内の水分量の変化として捉えることができ、これにより、生体インピーダンスの変化が、筋疲労を反映する指標になり得ることが分かる。
【0038】
以上、説明したように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が変化し、筋肉内の水分量の変化を、生体インピーダンスの変化として捉えることによって、特定の筋肉の疲労をリアルタイムに評価することができる。
【0039】
図4は、筋肉内の水分量の変化(図4(a))と、生体インピーダンスの変化(図4(b))との関係を模式的に示したグラフである。図4(a)、(b)に示すように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が増加し(時刻t0~t1)、これに伴い、生体インピーダンスが減少する(時刻t0~t1)。そして、筋肉に負荷をかけるのを止めると、筋肉内の水分量が元の状態に戻り(時刻t1~t2)、これに伴い、生体インピーダンスも元の状態に戻る(時刻t1~t2)。すなわち、生体インピーダンスの時間変化を測定することにより、筋疲労が、時刻t0~t1の間で蓄積し、時刻t1~t2の間で回復することが分かる。これにより、筋肉に負荷をかけたときに生じる筋疲労を、リアルタイムで評価することができる。
【0040】
なお、図3(a)のグラフAに示したように、運動していない場合にも、生体インピーダンスは、筋疲労以外の要因で、時間変化する場合がある。そのため、生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、筋疲労以外の要因による時間変化と区別する必要がある。
【0041】
通常、図3(a)に示すように、運動していない場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)L1は、運動した場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)L2よりも小さい。典型的には、運動前の生体インピーダンスに対して、運動直後の生体インピーダンスが20%以上変化した場合は、筋疲労によるものと考えられる。
【0042】
一方、生体インピーダンスの時間変化が、20%以下の場合は、筋疲労によるものではないと考えられる。従って、運動後に算出した生体インピーダンスの時間変化量が、所定の値以上になったときを、筋疲労と判断することによって、筋疲労を正しく評価することができる。
【0043】
また、図3(a)に示すように、生体インピーダンスの算出には、一定のバラツキΔが生じる。そのため、算出した生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、生体インピーダンスのバラツキによる時間変化と区別する必要がある。そのため、運動前に、生体インピーダンスを複数回算出して、算出した生体インピーダンスのバラツキを求め、運動後に算出した生体インピーダンスが、バラツキ以上になったときの時間変化に基づいて、筋疲労を評価することによって、 筋疲労を正しく評価することができる。
【0044】
ところで、筋肉に負荷をかけた場合、最初に一過性の筋疲労(急性期筋疲労)が発生し、その後、一過性の筋疲労が回復した後、再び、筋疲労(慢性期筋疲労)が発生することが知られている。
【0045】
本実施形態における筋疲労評価方法では、このような急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを、リアルタイムに評価することができる。
【0046】
図5は、図1、2に示した装置を用いて、運動を行った被験者の生体インピーダンスを測定した結果を示したグラフである。なお、生体インピーダンスの測定は、図3(a)で示した方法と同じ方法を用いた。
【0047】
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は生体インピーダンス(kΩ)を示す。図中のグラフAは、運動を行わなかった場合に測定した生体インピーダンスを示し、グラフBは、運動を行った場合に測定した生体インピーダンスを示す。
【0048】
横軸のpreにおける生体インピーダンスは、運動を行う前の値を示し、横軸のP0における生体インピーダンスは、運動を終えた直後の値を示す。また、横軸のP30、P60、P2hr、P3hr、P24hr、P36hr、P48hr、P72hrは、それぞれ、運動を終えてから、30分後、60分後、2時間後、3時間後、24時間後、36時間後、48時間後、72時間後を示す。
【0049】
図5に示すように、運動を終えた直後(P0)では、生体インピーダンスが大きく減少し、極小値S1になってことが分かる。その後、生体インピーダンスは、時間が経つにつれて(P30~P60)、徐々に戻り、約2時間後(P2hr)には、運動前の値になっていることが分かる。
【0050】
さらに、時間が経過し、約3時間後(P3hr)には、再び生体インピーダンスが大きく減少し、約24時間後(P24hr)には、2回の極小値S2になっていることが分かる。2回目の極小値S2は、約12時間(T)程度続き、36時間後(P36hr)から、再び、生体インピーダンスが徐々に戻り、約72時間後(P72hr)には、運動前の値になっていることが分かる。
【0051】
図5に示した生体インピーダンスの時間変化において、最初の極小値S1になったときの筋疲労を、急性期筋疲労と判断することができる。また、最初の極小値S1から、次の極小値S2になったときの筋疲労を、慢性期筋疲労と判断することができる。
【0052】
また、図5に示した生体インピーダンスの時間変化において、極小値S1の持続時間は、急速に減少した後、急速に増加するまでの時間であるのに対し、極小値S2の持続時間は、急速に減少した後、一定時間経過後、急速に増加するまでの時間である。すなわち、極小値S2の持続時間は、極小値S1の持続時間に比べて長くなっている。従って、極小値S1の持続時間が短いときの筋疲労を、急性期筋疲労と判断し、極小値S2の持続時間が長いときの筋疲労を、慢性期筋疲労と判断することができる。
【0053】
このように、本実施形態における筋疲労評価方法では、筋肉に負荷をかけた後に生じる急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを、リアルタイムに、かつ、非侵襲的に評価することができる。特に、従来、慢性期筋疲労を評価するには、高度な専門知識が必要であったが、本実施形態では、簡単な方法で、慢性期筋疲労を評価することができる。なお、非侵襲的とは、特許文献1に開示されている方法のように生体に対して電流を流す等の生体に物理的・化学的な働きかけ・作用を及ぼすということは行わず、受動的に生体インピーダンスを計測することを意味する。非侵襲的に生体インピーダンスを測定するので、運動者にストレスを与えることがない。
【0054】
上記のように急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを評価するために、本実施形態では図7に示すように、運動者の運動前後の生体インピーダンスを測定し生体インピーダンスデータを取得するステップ(データ取得ステップ)と、生体インピーダンスデータをデータベースに蓄積および解析するステップ(蓄積・解析ステップ)とを有する評価方法およびトレーニングシステムを用いている。
【0055】
具体的には、図1,2に示す生体インピーダンス測定装置によって運動者の運動(トレーニング)前と運動(トレーニング)後に取得される生体インピーダンスデータをコンピュータに格納してコンピュータ内のデータベースに蓄積する。生体インピーダンスデータはサーバ端末に格納されてからコンピュータに格納されてもよい。データベースに蓄積された生体インピーダンスデータはコンピュータにより解析され、例えば上述のように、運動の前と後の急性期筋疲労や慢性期筋疲労の情報を取得する。
【0056】
さらに、データベースに蓄積された生体インピーダンスデータに基づき、運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測するステップ(予測ステップ)を備えていることが好ましい。データベースに蓄積された生体インピーダンスデータに基づくということについては、蓄積された生体インピーダンスデータをそのまま使用したり、当該データをコンピュータが解析して別のパラメータを算出することを例示できる。運動者の将来の生体インピーダンスの状態とは、例えば、運動者の将来の生体インピーダンスの予測値、生体インピーダンスデータに基づいて算出される運動者の体の状態を表す別のパラメータ(例:疲労度合い)等により表されるものである。
【0057】
予測ステップでは、例えば、毎日トレーニングを行う場合、そのトレーニングを行う前と行った後に運動者の生体インピーダンスを測定して、毎日の生体インピーダンスのデータをデータベースに蓄積および解析していくことを行うことが考えられる。そうすると、毎日の運動の前と後の急性期筋疲労や慢性期筋疲労の情報が蓄積されていき、蓄積された情報を毎日のトレーニングメニュー(種類や回数、時間等)とともに解析することによって、体に悪影響を与える筋疲労が現れる時期およびトレーニングメニューを知ることができ、予測ができる。従って、筋疲労が増大して怪我をしてしまうおそれがあることを予測できて、その場合にはトレーニングを休んだり、トレーニングメニューを変更する(強度や量など低減させたり、種類を変更する)ことにより、怪我を未然に防ぐことができる。逆に、トレーニングによって筋肉量が増大したり、運動技術が向上したりしてそれまでのトレーニングでは効果が上がらないことも筋疲労等の生体インピーダンスデータに基づいて予測できる。この場合には、トレーニングの強度や量など増やしたり、種類を変更するというトレーニングメニューの変更を行ってトレーニング効果を適切に上げることができる。つまり、データベースに蓄積された生体インピーダンスデータに基づいて、将来のトレーニング計画を提示することができるようになる。
【0058】
上述のような運動者の将来の生体インピーダンスの状態を予測した結果(例えば筋疲労状態の結果)を、上限閾値、下限閾値を設定してその閾値によって管理することも行うことができる。例えば、筋疲労が増大してある閾値(上限閾値)よりも大きくなったら、怪我をするおそれがあるとしてアラートを発するように設定することができる。このアラート(上限アラート)が発せられたら、トレーニングを休んだり、メニューの変更(減少させる)を行うようにすれば、怪我をするおそれを回避できる。また、トレーニングをしても効果が上がらないような生体インピーダンスの状態の予測(下限閾値)が得られた場合は、トレーニング負荷の不足というアラートを発するように設定することができる。即ち、下限閾値を下回った場合(下限側の所定の閾値を超える)にはこのアラート(下限アラート)が発せられることになり、その際にはトレーニングメニューの変更(増加させる)行うようにすれば、トレーニングの効果を常に大きくすることができる。なお、筋肉量を減少させずに維持をすることもトレーニングの適切な効果となる場合がある。
【0059】
運動者のトレーニングを補助するトレーニングシステムは、上述のような筋疲労をパラメータに用いる以外にも、生体インピーダンスデータから脂肪率や水分量などを算出して、それらをパラメータとしてトレーニング補助(コントロール)することもでき、次のような方法に応用することができる。
【0060】
運動者の脂肪率をパラメータとして使用する場合、トレーニングによって急激に脂肪率を減少させると体に悪影響が生じるので、日々のトレーニングにおいて運動前後の脂肪率のデータを取得してチェックすることにより、適切なトレーニングの種類と強度、食事指導を行うことができて、体に悪影響を及ぼさずに脂肪率を減少させることが可能になる。また、運動者の体の水分量をパラメータとして使用する場合、運動前に水分量が少ないということが判明していれば運動開始前や運動中に水分を補給するようにトレーナーが適切に指示をすることができ、これにより脱水症状に陥ることを防止できる。この場合、水分量の下限値(閾値)を設定しておいてそれを下回ればアラートを発するようにしておけばよい。
【0061】
本実施形態におけるトレーニングシステムは、運動者の生体表面に、少なくとも2つの電極10、20を、所定の間隔を開けて配置し、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V1、及び第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2を測定し、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbを算出し、算出した生体インピーダンスZbの時間変化に基づいて、筋肉部位の局所的筋疲労を評価することにより運動者のトレーニングを管理・補助するものである。
【0062】
これにより、特定の筋肉に一定でない負荷をかけたときに生じる筋疲労を、リアルタイムで評価することができるとともに、生体インピーダンスデータをデータベースに蓄積して解析することにより、将来の筋疲労の状態を予測することができる。また、疲労を評価したい特定の筋肉部位に2つの電極を配置するだけで、当該部位の筋疲労を評価できるため、精度良く、かつ非侵襲的に筋疲労を評価することができる。さらに、本実施形態の装置では、簡単な方法で、慢性期筋疲労を評価することができるので、慢性期筋疲労が多く残っている状態で運動者にトレーニングを過度に行わせることによって、怪我等が生じるリスクや体調不良、トレーニング効果の低下、過度なトレーニングの実施に伴うオーバートレーニングの発症を防止することができる。
【0063】
なお、既に述べているが運動者の生体インピーダンスデータに基づくパラメータは筋肉部位の局所的筋疲労に限定されない。例えば、筋肉と脂肪量の割合や生体内の水分量など生体インピーダンスデータから導き出すことができる様々な身体状態の指標を用いて運動者のトレーニングの管理・補助を行うことができる。また、本実施形態の装置を用いて測定した生体インピーダンスデータと、体温や心拍数、血圧、心電、血中の各種物質の量・濃度、呼気に含まれる各物質の量や濃度、汗に含まれる各物質の量や濃度など他の生体データを組み合わせて運動者の身体状態の指標を導き出してもよい。
【0064】
本発明は、上記のような効果を奏することから、例えば、運動者の日常的なトレーニングにおいて、特定の筋肉ごとに筋疲労を評価できるため、効果的なトレーニングを行うことができ、トレーナーなどは適切なトレーニング補助を行うことができる。また、筋疲労をリアルタイムに評価できるため、オーバートレーニングによるコンディションの悪化や、怪我の発生を予防することができる。また、筋疲労の将来予測も行えるため、オーバートレーニングによるコンディションの悪化や、怪我の発生の予防はもちろん、将来のトレーニング計画を提示したり、健康を増進させる運動や食事の提言・補助を行うことができる。
【0065】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0066】
例えば、上記実施形態では、生体表面に2つの電極10、20を配置したが、生体表面にグランド電極を配置し、2つの電極10、20間に生じた電圧を、差動アンプ40によって測定してもよい。この場合も、2つの電極10、20間における生体インピーダンスは、上記の式(1)により求めることができる。また、第1の電圧V1、及び第2の電圧V2は、その差分をとって差動アンプ40で増幅されて測定されるため、外部からのノイズを除去することができる。これにより、生体インピーダンスZbをより精度よく測定することができる。
【0067】
また、上記実施形態では、筋繊維からなる筋肉部位の筋疲労を評価するとき、2つの電極を、筋繊維に沿って、互いに近傍に配置したが、図6に示すように筋繊維を取り囲むように、互いに近傍に配置してもよい。
【0068】
生体インピーダンスの測定は、特定の筋肉に対して行ってもよいし、複数の筋肉にまたがって行ってもよく、筋肉以外の組織(例えば内臓、骨、血管、皮膚および脂肪など)を対象に行ってもよい。また、特許文献1に開示されている方法により生体インピーダンスの測定を行っても構わない。
【0069】
生体インピーダンスデータを解析することにより算出されるパラメータとして、いわゆるフィットネス-疲労理論(Fitness-Fatigue Model)におけるフィットネス(広い意味での体力レベル)を表す指標を使用してもよい。
【0070】
トレーニングの目的は筋肉量の増大や運動技術の向上だけではなく、健康状態の維持や、体調の向上なども挙げることができる。従って、それぞれの目的に適したパラメータを生体インピーダンスデータに基づいて算出して、そのパラメータを用いてトレーニングを補助すればよい。また、上述の体温や心拍数、血圧、心電、血中の各種物質の量、呼気に含まれる各物質の量や構成割合、汗に含まれる各物質の量や構成割合など他の生体データと組み合わせてパラメータを算出してもよい。さらに、生体インピーダンスデータの取得や蓄積・解析などはリモートで行うことも可能で、例えば脂肪含有量や水分量を生体インピーダンス測定(リモート測定)で解析して評価し、トレーニング計画をトレーナーがリモートで作成して提示したり、食事の内容や量をリモートでコントロールすることもできる。
【符号の説明】
【0071】
10 電極
20 電極
30 生体表面
40 増幅器(差動アンプ)
Rg1 第1の外部抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7