IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図1
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図2
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図3
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図4
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図5
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図6
  • 特開-軸受の摩擦トルク測定装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136931
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】軸受の摩擦トルク測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20230922BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01M13/04
G01L5/00 G
G01L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042876
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】小澤 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】立石 佳男
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 駒次
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
2F051
2G024
【Fターム(参考)】
2F051AB09
2G024AC01
2G024AC05
2G024BA11
2G024CA12
2G024DA02
2G024DA09
2G024EA01
2G024FA02
(57)【要約】
【課題】軸受の実際の使用条件に即した大きさのラジアル荷重及びアキシアル荷重の少なくとも一方を加えた状態で、軸受単体の摩擦トルクを高精度で直接測定する。
【解決手段】収納ケース2及びサポート軸受4に接触しないように供試軸受1の外輪1bに固定され、回転軸3の軸方向と交差する方向へ延びるアーム7と、供試軸受1の外輪1bが回転することによって、アーム7に押される位置に配置されたロードセル9と、供試軸受1の外輪1bに径方向のみ荷重を加えることができて、加える荷重の大きさを調整できるラジアル荷重負荷機構11と、を備え、回転電機5で回転軸3を回転させることによって生じるアーム7のトルクをロードセル9で測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試軸受を内部に収容する収納ケースと、
前記供試軸受の内輪に固定されて前記内輪と一体となって回転する回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持するサポート軸受と、
前記回転軸を回転させることができる軸駆動部と、
前記収納ケース及び前記サポート軸受と接触しないように前記供試軸受の外輪に固定され、前記回転軸の軸方向と交差する方向へ延びるアームと、
前記供試軸受の前記外輪が回転することによって、前記アームに押される位置に配置されたロードセルと、
前記供試軸受の前記外輪に径方向のみ加える荷重を加えることができて、加える荷重の大きさを調整できるラジアル荷重負荷機構と、を備え、
前記軸駆動部で前記回転軸を回転させることによって生じる前記アームのトルクを前記ロードセルで測定することを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記アームは、前記回転軸の軸方向と交差する方向の両側へ延びており、
前記ラジアル荷重負荷機構は、前記アームの両側において前記供試軸受の径方向に向けて均等に荷重を加えることによって、前記供試軸受の前記外輪に径方向のみ荷重を加える構成であることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記アームは、両側において前記収納ケースに形成された穴を通り抜けるように配置されており、
前記ラジアル荷重負荷機構は、前記アームの前記収納ケースより外に突き出た両側にラジアル荷重負荷錘を吊り下げる構成であることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項4】
供試軸受を内部に収容する収納ケースと、
前記供試軸受の内輪に固定されて前記内輪と一体となって回転する回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持するサポート軸受と、
前記回転軸を回転させることができる軸駆動部と、
前記収納ケース及び前記サポート軸受と接触しないように前記供試軸受の外輪に固定され、前記回転軸の軸方向と交差する方向へ延びるアームと、
前記供試軸受の前記外輪が回転することによって、前記アームに押される位置に配置されたロードセルと、
前記供試軸受の前記外輪に前記回転軸の軸方向のみ荷重を加えることができて、加える荷重の大きさを調整できるアキシアル荷重負荷機構と、を備え
前記軸駆動部で前記回転軸を回転させることによって生じる前記アームのトルクを前記ロードセルで測定することを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記アームは、前記回転軸の軸方向と交差する方向の両側へ延びており、
前記アキシアル荷重負荷機構は、前記アームの両側において前記供試軸受の軸方向に向けて均等に荷重を加えることによって、前記供試軸受の前記外輪に前記回転軸の軸方向のみ荷重を加える構成であることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記アームは、両側において前記収納ケースに形成された穴を通り抜けるように配置されており、
前記アキシアル荷重負荷機構は、前記アームの前記収納ケースより外に突き出た両側にアキシアル荷重負荷錘が接続される構成であることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記サポート軸受は、前記供試軸受の軸方向の幅の5倍以上の距離を前記供試軸受から空けた位置に配置されていることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記供試軸受に任意の流量の潤滑油を供給する潤滑油供給手段を備えることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の軸受の摩擦トルク測定装置であって、
前記供試軸受へ前記潤滑油を供給するためのフレキシブルチューブを備え、
前記供試軸受から前記収納ケースの中へ前記潤滑油を排出する排油口が前記収納ケースとは接触しない位置に設けられていることを特徴とする軸受の摩擦トルク測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の摩擦トルクを測定する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、供試軸受の内輪が回転軸に固定され外輪が軸受箱に固定されており、静圧空気軸受で軸受箱を軸方向に押して供試軸受にアキシアル荷重を加えた状態で回転軸を回転させて、ストレインゲージで供試軸受の摩擦トルクを測定する測定装置が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、2個の供試軸受の内輪を1本の回転軸に固定して、回転軸を軸方向に押して2個の供試軸受にアキシアル荷重を加えた状態で回転軸を回転させて、2個の供試軸受の外輪に固定した浮動ハウジングに取り付けたバーを測定装置の架台に固定したロードセルと接触させることによって、2つの供試軸受の合計の摩擦トルクを測定する測定機構が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、供試軸受の内輪を回転軸に固定して回転軸の両端を2つの支持軸受で回転可能に支持した装置で、供試軸受にラジアル荷重のみを加えた状態で回転軸を回転させて、供試軸受と支持軸受の合計の摩擦トルクをトルクメーターで測定した後、支持軸受のみの摩擦トルクを差し引いて供試軸受の摩擦トルクを算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57-082729号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】協同油脂株式会社,KYODO YUSHI TECHNICAL BULLETIN No.4「グリース潤滑下における転がり軸受の摩擦トルク」,2014年4月1日<URL:https://www.kyodoyushi.co.jp/knowledge/technical_bulletin/>
【非特許文献2】International Journal of Mechanical Engineering and Application,Volume4,Issue3,June 2016,Pages:130-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
玉軸受等の軸受の重要な特性を把握するために摩擦トルクを測定する必要がある。軸受の摩擦トルクの測定は、軸受の実際の使用条件に即したラジアル荷重及びアキシアル荷重を軸受に作用させた状態で実施することが望ましい。
【0008】
特許文献1で開示された測定装置は、供試軸受にアキシアル荷重を加えるために静圧空気軸受を用いる必要がある。しかし、静圧空気軸受は荷重負荷容量が小さく、加えられるアキシアル荷重の上限が静圧空気軸受の制約を受ける。そのため、特許文献1で開示された測定装置では、軸受の実際の使用条件に即した高負荷条件での摩擦トルクの測定が困難である。
【0009】
また、非特許文献1で開示された測定機構は、2個の供試軸受を用いて、2個の供試軸受の合計の摩擦トルクを測定する機構となっており、1個の供試軸受単体の摩擦トルクを測定することができない。更に、非特許文献1には、2個の供試軸受へ均等にアキシアル荷重を加える構造が明示されていないため、2個の供試軸受に加わるアキシアル荷重が同一であるとは限らない。
【0010】
また、非特許文献2で開示された測定方法では、供試軸受と支持軸受の合計の摩擦トルクを測定した後、支持軸受のみの摩擦トルクを差し引いて供試軸受の摩擦トルクを算出しているため、供試軸受単体の摩擦トルクを直接測定することができない。
【0011】
そこで、本発明は、軸受の実際の使用条件に即した大きさのラジアル荷重及びアキシアル荷重の少なくとも一方を加えた状態で、軸受単体の摩擦トルクを高精度で直接測定できる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置は、供試軸受を内部に収容する収納ケースと、前記供試軸受の内輪に固定されて前記内輪と一体となって回転する回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持するサポート軸受と、前記回転軸を回転させることができる軸駆動部と、前記収納ケース及び前記サポート軸受と接触しないように前記供試軸受の外輪に固定され、前記回転軸の軸方向と交差する方向へ延びるアームと、前記供試軸受の前記外輪が回転することによって、前記アームに押される位置に配置されたロードセルと、前記供試軸受の前記外輪に径方向のみ荷重を加えることができて、加える荷重の大きさを調整できるラジアル荷重負荷機構と、を備え、前記軸駆動部で前記回転軸を回転させることによって生じる前記アームのトルクを前記ロードセルで測定することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記アームは、前記回転軸の軸方向と交差する方向の両側へ延びており、前記ラジアル荷重負荷機構は、前記アームの両側において前記供試軸受の径方向に向けて均等に荷重を加えることによって、前記供試軸受の前記外輪に径方向のみ荷重を加える構成であってもよい。
【0014】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記アームは、両側において前記収納ケースに形成された穴を通り抜けるように配置されており、前記ラジアル荷重負荷機構は、前記アームの前記収納ケースより外に突き出た両側にラジアル荷重負荷錘を吊り下げる構成であってもよい。
【0015】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、供試軸受を内部に収容する収納ケースと、前記供試軸受の内輪に固定されて前記内輪と一体となって回転する回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持するサポート軸受と、前記回転軸を回転させることができる軸駆動部と、前記収納ケース及び前記サポート軸受と接触しないように前記供試軸受の外輪に固定され、前記回転軸の軸方向と交差する方向へ延びるアームと、前記供試軸受の前記外輪が回転することによって、前記アームに押される位置に配置されたロードセルと、前記供試軸受の前記外輪に前記回転軸の軸方向のみ荷重を加えることができて、加える荷重の大きさを調整できるアキシアル荷重負荷機構と、を備え前記軸駆動部で前記回転軸を回転させることによって生じる前記アームのトルクを前記ロードセルで測定してもよい。
【0016】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記アームは、前記回転軸の軸方向と交差する方向の両側へ延びており、前記アキシアル荷重負荷機構は、前記アームの両側において前記供試軸受の軸方向に向けて均等に荷重を加えることによって、前記供試軸受の前記外輪に前記回転軸の軸方向のみ荷重を加える構成であってもよい。
【0017】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記アームは、両側において前記収納ケースに形成された穴を通り抜けるように配置されており、前記アキシアル荷重負荷機構は、前記アームの前記収納ケースより外に突き出た両側にアキシアル荷重負荷錘が接続される構成であってもよい。
【0018】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記サポート軸受は、前記供試軸受の軸方向の幅の5倍以上の距離を前記供試軸受から空けた位置に配置されていてもよい。
【0019】
この態様によれば、サポート軸受が供試軸受から離れているため、サポート軸受で生じる摩擦トルクの発熱が供試軸受に伝わる影響を低減することができる。
【0020】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記供試軸受に任意の流量の潤滑油を供給する潤滑油供給手段を備えていてもよい。
【0021】
本発明に係る軸受の摩擦トルク測定装置の一態様において、前記供試軸受へ前記潤滑油を供給するためのフレキシブルチューブを備え、前記供試軸受から前記収納ケースの中へ前記潤滑油を排出する排油口が前記収納ケースとは接触しない位置に設けられていてもよい。
【0022】
この態様によれば、供試軸受の外輪及びアームの回動を妨げることなく、供試軸受へ潤滑油を供給して循環させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、軸受の実際の使用条件に即した大きさのラジアル荷重及びアキシアル荷重の少なくとも一方を加えた状態で、軸受単体の摩擦トルクを高精度で直接測定できる測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置の斜視図である。
図2図1におけるA-A線断面を示す図である。
図3図1におけるB-B線断面を示す図である。
図4】本実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置の上面図である。
図5】本実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置の試験機で、ロードセルの計測誤差について評価試験をした結果を示すグラフである。
図6】本実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置の試験機で、摩擦トルクの測定値の再現性について評価試験をした結果を示すグラフである。
図7】本実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置の試験機で、供給油量による摩擦トルクへの影響について測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の軸受の摩擦トルク測定装置10について説明する。図1は、摩擦トルク測定装置10の斜視図である。図2は、図1におけるA-A線断面を示す図である。図3は、図1におけるB-B線断面を示す図である。図4は、摩擦トルク測定装置10の上面図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、摩擦トルク測定装置10は、摩擦トルクを測定する対象となる供試軸受1を内部に収納する収納ケース2と、供試軸受1の内輪1aに固定されて内輪1aと一体となって回転する回転軸3を備える。回転軸3は水平方向へ延びるように配置され、収納ケース2に設けられた2つのサポート軸受4によって回転可能に支持されている。なお、2つのサポート軸受4は、いずれも供試軸受1の軸方向の幅の5倍以上の距離を供試軸受1から空けた位置に配置することが好適である。
【0027】
摩擦トルク測定装置10は、収納ケース2及びサポート軸受4と接触しないように供試軸受1の外輪1bに固定された軸受ハウジング6を備える。軸受ハウジング6は、収納ケース2の内部において、外輪1bと一体となって回転軸3と同軸上で回動自在に設けられている。また、図1及び図3に示すように、摩擦トルク測定装置10は、軸受ハウジング6に固定されて回転軸3と交差する方向へ延びるアーム7を備える。アーム7は、軸受ハウジング6に固定された中央部から両側へ水平方向に延びて、両側で収納ケース2に形成された穴2aを通り抜けるように配置されている。
【0028】
図3に示すように、摩擦トルク測定装置10は、供試軸受1の外輪1bと共に回転揺動運動するアーム7によって押される位置に配置されたロードセル9を備える。例えば、ロードセル9は、収納ケース2に固定されており、アーム7の下に配置される。
【0029】
さらに、図4に示すように、摩擦トルク測定装置10は、回転軸3を回転させる軸駆動部として回転電機5を備える。回転電機5は、ベルト駆動により回転軸3を回転させる。回転電機5は、回転軸3の回転速度を調整することができる。
【0030】
軸受ハウジング6は、供試軸受1の外輪1b、アーム7及び潤滑油供給部8のみと接触しており、その他の部品とは接触していない。また、アーム7は、収納ケース2に形成された穴2aを通り抜けるように配置されている。すなわち、軸受ハウジング6及びアーム7は、サポート軸受4で支持されている回転軸3に対して供試軸受1のみを介して支持されている。したがって、供試軸受1の外輪1b、軸受ハウジング6及びアーム7は、回転軸3の回転に伴う内輪1aと外輪1bとの間の摩擦トルクによって、アーム7が穴2aの上端及び下端に接触しない範囲内において一体となって回転軸3と同軸上で回転揺動運動をすることができる。
【0031】
供試軸受1の摩擦トルクを測定する際には、回転電機5で回転軸3を一方向へ回転させる。図3に矢印で示すように、回転軸3を時計回りの方向へ回転電機5で回転させた場合、供試軸受1の摩擦トルクによって、供試軸受1の外輪1b、軸受ハウジング6及びアーム7を時計回りの方向へ回転させるトルクが生じる。上記のように、軸受ハウジング6及びアーム7は、内輪1a及び外輪1bのみを介して、回転軸3に対して同軸上で回転揺動運動が可能な状態とされており、外輪1bと共に回転揺動運動するアーム7によってロードセル9に加えられるトルクを測定することで供試軸受1の内輪1aの回転に伴い外輪1bに生じる摩擦トルクを高精度で測定することができる。このとき、ロードセル9には供試軸受1の内輪1aと外輪1bとの間の摩擦トルクのみの影響が伝わり、サポート軸受4において発生する摩擦トルクの影響はロードセル9には伝わらない構成とされている。
【0032】
また、サポート軸受4が軸受ハウジング6から独立して収納ケース2に取り付けられているため、供試軸受1単体の摩擦トルクを直接測定することができる。更に、2つのサポート軸受4が供試軸受1の軸方向の幅の5倍以上の距離を供試軸受1から空けた位置に配置されている実施形態であれば、サポート軸受4で生じる摩擦トルクの発熱が供試軸受1に伝わる影響を低減することができるため、更に高精度で供試軸受1の摩擦トルクを測定することができる。
【0033】
摩擦トルク測定装置10は、さらに供試軸受1の外輪1bに対してラジアル荷重を加えるためのラジアル荷重負荷機構と、供試軸受1の外輪1bに対してアキシアル荷重を加えるためのアキシアル荷重負荷機構を備える。ラジアル荷重及びアキシアル荷重は、いずれも供試軸受1の外輪1bの支持部に対して直接又はワイヤ等の部材を介して間接的に加えられる構成とすることができる。なお、本実施形態ではラジアル荷重負荷機構およびアキシアル荷重負荷機構を両方とも備えるが、いずれか片方のみ備える実施形態も許容される。
【0034】
ラジアル荷重は、外輪1bに対して供試軸受1の径方向に向けて印加される。本実施形態では、ラジアル荷重負荷機構として、アーム7の両端にラジアル荷重負荷錘11を吊り下げることによって、外輪1bにラジアル荷重を印加できる構成を備える。ラジアル荷重負荷機構は、図3に示すように、アーム7の収納ケース2より外に突き出た両側において、回転軸3から等距離となる位置に同一の質量のラジアル荷重負荷錘11を吊り下げることによって、供試軸受1の外輪1b、軸受ハウジング6及びアーム7の自重に加えて、供試軸受1の径方向、すなわち下方向に向かって外輪1bにラジアル荷重を加えることができる。吊り下げるラジアル荷重負荷錘11の重量は任意に選択できるため、供試軸受1の実際の使用条件に即した大きさのラジアル荷重を加えることができる。これによって、ラジアル荷重負荷錘11を用いて外輪1bに対して効果的にラジアル荷重を加えることができる。このとき、アーム7の左右バランスの不釣り合いを0に調整するため荷重負荷力点を供試軸受1の径方向に対してロードセル9の外側かつ外輪1bの外径に対して2倍以上の離れた位置とすることが好適である。
【0035】
ただし、ラジアル荷重を印加する手段は、これに限定されるものではない。例えば、アーム7の両側にワイヤを接続し、滑車等を介してワイヤを引っ張ってアーム7に上方へ向かう荷重を加える構成としてもよいし、アーム7の両側に対してアクチュエータ等で直接荷重を加える構成としてもよい。
【0036】
また、アーム7のロードセル9側の端部には、プリロード用錘12を取り付けることができる。アーム7の両端に同一の質量のラジアル荷重負荷錘11を吊り下げた場合、アーム7がバランスを取れた状態となって、ロードセル9に接触せずにロードセル9から浮き上がってしまう可能性があるが、プリロード用錘12をアーム7に取り付けることにより、アーム7がロードセル9に接触した状態を維持することができる。
【0037】
アキシアル荷重は、外輪1bに対して供試軸受1の軸方向に向けて印加される。本実施形態では、アキシアル荷重負荷機構として、アーム7の両側にワイヤ14を介してアキシアル荷重負荷錘13を接続することによって、外輪1bにアキシアル荷重を印加できる構成を備える。図4は、摩擦トルク測定装置10の上面図である。図1~3では記載が省略されているが、図4に示すように、アーム7の両側には、アキシアル荷重負荷錘13を吊り下げるためのワイヤ14がそれぞれ接続されている。例えば、ワイヤ14は、アーム7の収納ケース2から外に突き出た両側にワイヤ14がそれぞれ1本ずつ接続される。これらの2本のワイヤ14は、いずれもアーム7から回転軸3の軸方向と平行な方向に滑車15まで延びて、滑車15で鉛直方向へ向きを変えて下方へ延びている。そして、ワイヤ14の下端にアキシアル荷重負荷錘13を吊り下げることができる。ワイヤ14の下端にアキシアル荷重負荷錘13を吊り下げることにより、アーム7が回転軸3の軸方向へ引っ張られるため、供試軸受1の外輪1bにアキシアル荷重を加えることができる。特に、回転軸3と同じ高さで回転軸3から等距離となるようにアーム7に接続された2本のワイヤ14に、同一の質量のアキシアル荷重負荷錘13を吊り下げることによって、アーム7を傾けることなく供試軸受1の外輪1bへ精密にアキシアル荷重を加えることができる。吊り下げるアキシアル荷重負荷錘13の重量は任意に選択できるため、供試軸受1の実際の使用条件に即した大きさのアキシアル荷重を加えることができる。
【0038】
ただし、アキシアル荷重を印加する手段は、これに限定されるものではない。例えば、アーム7の両側に対してアクチュエータ等で直接荷重を加える構成としてもよい。
【0039】
アーム7にラジアル荷重負荷錘11を吊り下げた状態で測定を行うことによって、供試軸受1に対してラジアル荷重を加えた状態において供試軸受1の摩擦トルクを測定することができる。また、ワイヤ14を介してアーム7にアキシアル荷重負荷錘13を接続した状態で測定を行うことによって、供試軸受1に対してアキシアル荷重を加えた状態において供試軸受1の摩擦トルクを測定することができる。このとき、供試軸受1に対して多くとも10%以上の回転トルクを加えることなく、ラジアル荷重又はアキシアル荷重を加えることが好適である。
【0040】
また、摩擦トルク測定装置10は、供試軸受1に任意の流量の潤滑油を供給する潤滑油供給手段を備え、図2に示すように、軸受ハウジング6には潤滑油供給部8及び排油口16が設けられる。そして、潤滑油供給部8から供試軸受1へ任意の流量の潤滑油を供給して排油口16から排出させて循環させることができる。潤滑油供給部8に接続する給油経路には軟質なフレキシブルチューブを用いることが好適である。また、収納ケース2の中へ潤滑油を排出する排油口16は、収納ケース2とは接触しない位置に設けることが好適である。このように給油経路に軟質なフレキシブルチューブを用いて、収納ケース2とは接触しない位置に排油口16を設けることによって、供試軸受1の外輪1b、軸受ハウジング6及びアーム7の回動を妨げることなく、供試軸受1へ潤滑油を供給して循環させることができる。
【0041】
本実施形態の摩擦トルク測定装置10の試験機で、評価試験を行った結果を以下に述べる。まず、本試験機で、ロードセル9の計測誤差の評価試験を行った。この計測誤差の評価試験と後述する他の評価試験には、いずれも株式会社東京測器研究所製の圧縮超小型ロードセル(型式:CLS-5NA-DS)を用いた。ロードセル9の計測誤差の評価試験では、アーム7の左右のバランスをとった上でロードセル9側の端部に12gのプリロード用錘12を取り付けた状態で、ロードセル9側の端部のラジアル荷重負荷錘11を吊り下げる位置に錘を吊り下げて、錘の重量を変更しながらロードセル9に加わる力を測定した。ロードセル9の計測誤差の評価試験の結果を図5に示す。錘の重量に対するロードセル9の計測誤差は2.4%未満となっている。
【0042】
次に、本試験機で、供試軸受1の摩擦トルクの測定値の再現性について、評価試験を行った。この評価試験では、供試軸受1として玉軸受を用いて、供試軸受1に供給する供試油として市販のATF(トヨタ純正オートフルードWS品番:08886-02305)を用いて、供給油量:100ml/min、供給油温:60℃、ラジアル荷重:300Nとして、軸回転速度:2000~20000r/minの範囲で供試軸受1の摩擦トルクを測定した。測定結果を図6に示す。初回に測定した摩擦トルク(n1)と、その6日後に同一の条件で測定した摩擦トルク(n2)を比較すると、軸回転速度20000r/minにおける差は2.7%であり、摺動部品における摩擦トルクの評価においては、再現性良く測定できると判断できる。
【0043】
次に、本試験機で、供給油量による摩擦トルクへの影響について評価試験を行った。この評価試験では、供試軸受1として玉軸受を用いて、供試軸受1の摩擦トルクの測定値の再現性の評価試験と同じ供試油を用いた。そして、供給油温:60℃、ラジアル荷重:300Nとして、供給油量を40ml/min、70ml/min及び100ml/minの3条件で、それぞれ軸回転速度:2000~20000r/minの範囲で供試軸受1の摩擦トルクを測定した。測定結果を図7に示す。各供給油量条件での摩擦トルクは、軸回転速度が2000r/minから10000r/minまでは、ほぼ同等となっており、前述したように、本試験機が摩擦トルクを再現性良く高精度に測定できていることを示している。一方、回転速度が12000r/min以上においては、供給油量の減少に伴い摩擦トルクが低減する傾向が認められる。例えば、回転速度が20000r/minの条件にて、供給油量が100ml/minの条件に対して、70ml/minの条件では4.3%、40ml/minの条件では12.8%、摩擦トルクが低減していることが分かる。この傾向の要因としては、例えば、回転球による潤滑油の回転速度が速くなり、かつ潤滑油に加わる遠心力も高くなる高回転速度条件では、供給油量の減少により転動面等において油量不足が発生し、それに伴って摩擦トルクの因子である転がり粘性抵抗や攪拌抵抗が減少していることが考えられる。
【符号の説明】
【0044】
1 供試軸受、1a 内輪、1b 外輪、2 収納ケース、2a 穴、3 回転軸、4 サポート軸受、5 回転電機、6 軸受ハウジング、7 アーム、8 潤滑油供給部、9 ロードセル、10 摩擦トルク測定装置、11 ラジアル荷重負荷錘、12 プリロード用錘、13 アキシアル荷重負荷錘、14 ワイヤ、15 滑車、16 排油口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7