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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136932
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】動物の身体状態管理方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042878
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】坂上 友介
(57)【要約】
【課題】動物の筋肉の疲労など評価可能なデータを非侵襲的に取得して身体状態を管理することのできる動物の身体状態管理方法を提供する。
【解決手段】本発明の動物の身体状態管理方法は、人以外の動物の生体に生体インピーダンスの測定装置を装着するステップと、前記動物の前記生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するステップと、前記生体インピーダンスデータに基づき、前記動物の身体状態の情報を取得するステップと、を有することを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人以外の動物の生体に生体インピーダンスの測定装置を装着するステップと、
前記動物の前記生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するステップと、
前記生体インピーダンスデータに基づき、前記動物の身体状態の情報を取得するステップと、
を有することを特徴とする、動物の身体状態管理方法。
【請求項2】
取得した前記生体インピーダンスデータをデータベースに蓄積するステップと、
前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータをコンピュータが解析し、将来の前記動物の生体インピーダンスを予測するステップと、
前記生体インピーダンスデータと前記将来の前記動物の生体インピーダンスとから将来の前記動物の身体状態の情報を予測するステップと
をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の動物の身体状態管理方法。
【請求項3】
前記動物の身体状態の情報は、前記動物の筋疲労状態であることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の動物の身体状態管理方法。
【請求項4】
前記動物の身体状態の情報は、前記動物の身体の発達状態であることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の動物の身体状態管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の身体状態管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
牛や馬等の家畜動物や、犬や猫等の愛玩動物(ペット)の健康状態の管理は従来から様々な方法で行われてきた。例えば毛並みの状態や体に触れてみた感触、動物の動きなどを人間が五感を通じて経験により健康状態を把握して、餌の種類や量を調整したり、運動量を管理したりすることが長年にわたって行われてきた。それ以外にもデータに基づいて健康管理を行う方法として、体重や身体の各部の長さを計測したり、血液検査を行ったり、皮下脂肪厚みを超音波により計測することが行われている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
また、動物にセンサーを取り付けて心拍数や体表温度を計測することにより体調や運動強度のモニタリングを行うことも行われている。さらには動物に加速度センサ、気圧センサ、接近センサを取り付けることにより、動物の様々な行動(採食・飲水・歩行・横臥・起立等)を測定・記録して異常が生じたときにアラートを発信することも行われている(例えば、非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5661801号公報
【特許文献2】特開2020-197894号公報
【特許文献3】特開2004-49789号公報
【特許文献4】特開2020-157037号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】東洋紡株式会社の2020年10月12日ニュースリリース、インターネット<URL:https://www.toyobo.co.jp/news/2020/release_813.html>
【非特許文献2】デザミス株式会社のウシの行動モニタリングシステム、インターネット<URL:https://www.desamis.co.jp/product/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、人間が五感を通じて経験により動物の健康状態を判断することは、特許文献1に開示されている方法を含めて、判断する人ごとにばらつきが出るとともに、判断ができるようになるために長年にわたって経験を積む必要がある。また、特許文献2に開示されている方法はリアルタイムに測定ができず、また皮下脂肪厚みは数時間程度の短時間では変化するものではなく、これによる健康管理は限定的なものである。非特許文献1,2に開示された方法では、各センサーのデータからは肥育の状況や運動による体への影響を計測することができないので、肥育状況や運動による疲労状況を把握することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、動物の筋肉の疲労などの評価可能なデータを非侵襲的に取得して身体状態を管理することのできる動物の身体状態管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動物の身体状態管理方法は、人以外の動物の生体に生体インピーダンスの測定装置を装着するステップと、前記動物の前記生体インピーダンスを測定し、生体インピーダンスデータを取得するステップと、前記生体インピーダンスデータに基づき、前記動物の身体状態の情報を取得するステップと、を有することを特徴とする。本発明は、生きている動物の身体状態を管理する方法であり、身体状態とは、身体の健康を現す種々の指標により表現される状態であって、例えば体全体の疲労状態や体の各部位や各筋肉の疲労状態、筋肉や脂肪の含有割合、骨量、発情状態、ストレス状態、水分含有量や乳酸含有量等の特定物質の含有量の状態などや、これらの状態から導き出される発育の状況やトレーニングによる筋肥育の状態などをあげることができる。なお、身体の健康を現す種々の指標は生体インピーダンスや、生体インピーダンスデータから算出される水分や脂肪等の含有率などの指標を例としてあげることができる。
【0009】
また、取得した前記生体インピーダンスデータをデータベースに蓄積するステップと、前記データベースに蓄積された前記生体インピーダンスデータをコンピュータが解析し、将来の前記動物の生体インピーダンスを予測するステップと、前記生体インピーダンスデータと前記将来の前記動物の生体インピーダンスとから将来の前記動物の身体状態の情報を予測するステップとをさらに有していてもよい。
【0010】
前記動物の身体状態の情報は、前記動物の筋疲労状態であってもよい。
【0011】
前記動物の身体状態の情報は、前記動物の身体の発達状態であってもよい。身体の発達状態とは、筋肉量の変化の状態、筋肉と脂肪の割合の変化の状態、水分含有量や乳酸含有量等の特定物質の含有量の変化の状態などをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生きている動物の身体状態を表すデータを生体インピーダンス測定により非侵襲的に簡単に取得して身体状態を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態における動物の身体状態管理方法である筋疲労評価方法を模式的に示した装置の図である。
図2図1に示した状態の等価回路を示す。
図3】(a)~(c)は、筋疲労と生体インピーダンスとの関係を調べた結果を示したグラフである。
図4】(a)および(b)は、筋肉の水分量の変化と、生体インピーダンスの変化との関係を模式的に示したグラフである。
図5】急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを調べた結果を示したグラフである。
図6】実施形態における動物の身体状態管理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1は、動物の身体状態管理方法の1種である動物(牛)の筋疲労の評価を行い、管理する方法である。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における筋疲労評価方法を模式的に示した図である。
【0017】
図1に示すように、牛の生体表面30に、2つの電極10、20を所定の間隔を開けて配置する。ここでは、牛の後肢の表面に2つの電極10、20を貼り付けた例を示す。そして、電極10、20間に生じる電圧を、増幅器(電圧測定手段)40で増幅して測定する。また、2つの電極10、20との間に、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2とが並列に配置されている。そして、スイッチ(接続手段)SWによって、電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態とに切り替えられる。第1の外部抵抗Rg1、第2の外部抵抗Rg2のいずれかが並列接続されることにより、非侵襲的に生体インピーダンスを測定することができる。
【0018】
図2は、図1に示した状態の等価回路図を示す。
【0019】
ここで、Vbは、2つの電極10、20間の生体表面30下にある筋肉部位(大腿二頭筋)における筋電位である。この筋電位Vbは、後肢の大腿二頭筋を運動させて負荷をかけたときに発生する。
【0020】
また、Rb1及びRb2は、それぞれ、筋電位Vbを発生する信号源(筋肉)と、電極10、20と間の生体インピーダンスを示す。なお、生体インピーダンスについては、後述する筋疲労との関係を説明するところで詳述する。また、Rinは、増幅器40の入力抵抗を示す。2つの電極10、20間に生じた電圧は、増幅器40で増幅されて、出力電圧Voutとして計測される。
【0021】
図2に示した等価回路図において、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V1は、式(1)で与えられる。
【0022】
V1=Rg1・Vb/(Rb1+Rb2+Rg1) ・・・(1)
また、2つの電極10、20間に、第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2は、式(2)で与えられる。
【0023】
V2=Rg2・Vb/(Rb1+Rb2+Rg2) ・・・(2)
従って、式(1)、(2)より、生体表面30下にある筋肉部位(大腿二頭筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZb(=Rb1+Rb2)は、以下の式(3)より求めることができる。
【0024】
Zb=Rb1+Rb2
=Rg1・Rg2(V1/V2-1)/(Rg1-Rg2・V1/V2) ・・・(3)
すなわち、式(3)より、生体表面30下にある筋肉部位(大腿二頭筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbは、第1の電圧V1と第2の電圧V2の電圧比(V1/V2)に基づいて算出することができる。
【0025】
ところで、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、血中の乳酸濃度が増加することがよく知られているが、筋肉内の水分も増加することが分かっている。そのため、疲労した筋肉部位における生体インピーダンスを測定すると、平常時よりも生体インピーダンスが減少していることが予測できる。
【0026】
図3(a)~(c)は、筋疲労と生体インピーダンスとの関係を調べた結果を示したグラフである。筋疲労を適切に生じさせる為に、試験は人を対象に行った。すなわち、試験は健常成人男性9人を被験者として、図1と同様の装置を用い、電極は上腕二頭筋に配置して行った。具体的には、被験者の最大筋力の60%となる重さのダンベルを用いて、腕の肘曲げ運動を12回行い、これを5セット繰り返し行うことで上腕二頭筋を疲労させた。
【0027】
図3(a)は、図1、2に示した装置を用いて、上記運動を行った被験者の生体インピーダンスを測定した結果を示したグラフである。なお、生体インピーダンスの測定は、図1、2に示した装置において、上腕二頭筋の筋繊維に沿って、2つの電極を3.5cmの間隔を開けて貼り付けて行った。
【0028】
ここで、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2がおよそ0.3となるようにした。また、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした。そして、4.0kgのダンベルを用いて、肘関節角度を90°に保持している際の、第1の電圧V1及び第2の電圧V2を測定した。
【0029】
なお、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした場合、上記の式(2)は、V2≒Vbとなるため、生体インピーダンスZbは、以下の式(4)より求めることができる。
【0030】
Zb=Rg1(V2-V1)/V1 ・・・(4)
図3(a)において、横軸は時間(分)を示し、縦軸は生体インピーダンス(kΩ)を示す。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した生体インピーダンスを示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した生体インピーダンスを示す。なお、図中の生体インピーダンスは、9人の平均値を示す。
【0031】
横軸のP0における生体インピーダンスは、上記運動を行った直後の値を示し、P15~P60における生体インピーダンスは、運動を終えた後、15分ごとに測定した値を示す。
【0032】
図3(a)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、生体インピーダンスが大きく減少していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P15~P60)、生体インピーダンスが徐々に戻っていくのが分かる。
【0033】
図3(b)は、P0、P30、P60において、被験者の採血を行って、血中乳酸濃度を測定した結果を示したグラフである。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した血中乳酸濃度を示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した血中乳酸濃度を示す。なお、図中の血中乳酸濃度は、9人の平均値を示す。
【0034】
図3(b)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、血中乳酸濃度が大きく増加していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P30、P60)、血中乳酸濃度が徐々に戻っていくのが分かる。
【0035】
図3(c)は、P0、P30、P60において、被験者の上腕部における筋肉の厚みを測定した結果を示したグラフである。図中のグラフAは、上記運動を行わなかった場合に測定した筋肉の厚みを示し、グラフBは、上記運動を行った場合に測定した筋肉の厚みを示す。なお、図中の筋肉の厚みは、9人の平均値を示す。
【0036】
図3(c)に示すように、上記運動を行った直後(P0)では、筋肉の厚みが大きく増加していることが分かる。また、運動を終えてから、時間が経つにつれて(P30、P60)、筋肉の厚みが徐々に戻っていくのが分かる。
【0037】
以上の結果から、腕の肘曲げ運動のように、筋肉に一定でない負荷をかけたときの生体インピーダンスの変化は、血中乳酸濃度の変化や、筋肉の厚みの変化と、強い相関関係があることが分かる。すなわち、特定の筋肉の疲労は、筋肉内の水分量の変化として捉えることができ、これにより、生体インピーダンスの変化が、筋疲労を反映する指標になり得ることが分かる。
【0038】
以上、説明したように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が変化し、筋肉内の水分量の変化を、生体インピーダンスの変化として捉えることによって、特定の筋肉の疲労をリアルタイムに評価することができる。
【0039】
図4は、筋肉内の水分量の変化(図4(a))と、生体インピーダンスの変化(図4(b))との関係を模式的に示したグラフである。図4(a)、(b)に示すように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が増加し(時刻t0~t1)、これに伴い、生体インピーダンスが減少する(時刻t0~t1)。そして、筋肉に負荷をかけるのを止めると、筋肉内の水分量が元の状態に戻り(時刻t1~t2)、これに伴い、生体インピーダンスも元の状態に戻る(時刻t1~t2)。すなわち、生体インピーダンスの時間変化を測定することにより、筋疲労が、時刻t0~t1の間で蓄積し、時刻t1~t2の間で回復することが分かる。これにより、筋肉に負荷をかけたときに生じる筋疲労を、リアルタイムで評価することができる。
【0040】
なお、図3(a)のグラフAに示したように、運動していない場合にも、生体インピーダンスは、筋疲労以外の要因で、時間変化する場合がある。そのため、生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、筋疲労以外の要因による時間変化と区別する必要がある。
【0041】
通常、図3(a)に示すように、運動していない場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)L1は、運動した場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)L2よりも小さい。典型的には、運動前の生体インピーダンスに対して、運動直後の生体インピーダンスが20%以上変化した場合は、筋疲労によるものと考えられる。
【0042】
一方、生体インピーダンスの時間変化が、20%以下の場合は、筋疲労によるものではないと考えられる。従って、運動後に算出した生体インピーダンスの時間変化量が、所定の値以上になったときを、筋疲労と判断することによって、筋疲労を正しく評価することができる。
【0043】
また、図3(a)に示すように、生体インピーダンスの算出には、一定のバラツキΔが生じる。そのため、算出した生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、生体インピーダンスのバラツキによる時間変化と区別する必要がある。そのため、運動前に、生体インピーダンスを複数回算出して、算出した生体インピーダンスのバラツキを求め、運動後に算出した生体インピーダンスが、バラツキ以上になったときの時間変化に基づいて、筋疲労を評価することによって、 筋疲労を正しく評価することができる。
【0044】
ところで、筋肉に負荷をかけた場合、最初に一過性の筋疲労(急性期筋疲労)が発生し、その後、筋疲労が回復した後、再び、筋疲労(慢性期筋疲労)が発生することが知られている。
【0045】
本実施形態における筋疲労評価方法では、このような急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを、リアルタイムに評価することができる。
【0046】
図5は、図1、2に示した装置を用いて、運動を行った被験者(人)の生体インピーダンスを測定した結果を示したグラフである。なお、生体インピーダンスの測定は、図3(a)で示した方法と同じ方法を用いた。
【0047】
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は生体インピーダンス(kΩ)を示す。図中のグラフAは、運動を行わなかった場合に測定した生体インピーダンスを示し、グラフBは、運動を行った場合に測定した生体インピーダンスを示す。
【0048】
横軸のpreにおける生体インピーダンスは、運動を行う前の値を示し、横軸のP0における生体インピーダンスは、運動を終えた直後の値を示す。また、横軸のP30、P60、P2hr、P3hr、P24hr、P36hr、P48hr、P72hrは、それぞれ、運動を終えてから、30分後、60分後、2時間後、3時間後、24時間後、36時間後、48時間後、72時間後を示す。
【0049】
図5に示すように、運動を終えた直後(P0)では、生体インピーダンスが大きく減少し、極小値S1になってことが分かる。その後、生体インピーダンスは、時間が経つにつれて(P30~P60)、徐々に戻り、約2時間後(P2hr)には、運動前の値になっていることが分かる。
【0050】
さらに、時間が経過し、約3時間後(P3hr)には、再び生体インピーダンスが大きく減少し、約24時間後(P24hr)には、2回の極小値S2になっていることが分かる。2回目の極小値S2は、約12時間(T)程度続き、36時間後(P36hr)から、再び、生体インピーダンスが徐々に戻り、約72時間後(P72hr)には、運動前の値になっていることが分かる。
【0051】
図5に示した生体インピーダンスの時間変化において、最初の極小値S1になったときの筋疲労を、急性期筋疲労と判断することができる。また、最初の極小値S1から、次の極小値S2になったときの筋疲労を、慢性期筋疲労と判断することができる。
【0052】
また、図5に示した生体インピーダンスの時間変化において、極小値S1の持続時間は、急速に減少した後、急速に増加するまでの時間であるのに対し、極小値S2の持続時間は、急速に減少した後、一定時間経過後、急速に増加するまでの時間である。すなわち、極小値S2の持続時間は、極小値S1の持続時間に比べて長くなっている。従って、極小値S1の持続時間が短いときの筋疲労を、急性期筋疲労と判断し、極小値S2の持続時間が長いときの筋疲労を、慢性期筋疲労と判断することができる。
【0053】
このように、本実施形態における筋疲労評価方法では、筋肉に負荷をかけた後に生じる急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを、リアルタイムに、かつ、非侵襲的に評価することができる。特に、従来、慢性期筋疲労を評価するには、高度な専門知識が必要であったが、本実施形態では、簡単な方法で、慢性期筋疲労を評価することができる。なお、非侵襲的とは、特許文献3に開示されている方法のように生体に対して電流を流す等の生体に物理的・化学的な働きかけ・作用を及ぼすということは行わず、受動的に生体インピーダンスを計測することを意味する。非侵襲的に生体インピーダンスを測定するので、動物にストレスを与えることがない。
【0054】
上記のように急性期筋疲労と慢性期筋疲労とを評価するために、本実施形態では図6に示すように、生体インピーダンス測定装置を動物の生体(生きている動物の体)表面に装着するステップ(装着ステップ)と、生体インピーダンスを測定し生体インピーダンスデータを取得するステップ(データ取得ステップ)と、生体インピーダンスデータに基づいて動物の身体状態の情報を取得するステップ(情報取得ステップ)とを有する評価方法を用いている。
【0055】
具体的には、図1,2に示す生体インピーダンス測定装置から取得される生体インピーダンスデータをコンピュータに格納してコンピュータ内のデータベースに蓄積する。生体インピーダンスデータはサーバ端末に格納されてからコンピュータに格納されてもよい。データベースに蓄積された生体インピーダンスデータはコンピュータにより解析され、例えば上述のように、動物の身体状態の一種である急性期筋疲労や慢性期筋疲労の情報を取得する。
【0056】
さらに、データベースに蓄積された生体インピーダンスデータをコンピュータが解析し、将来の動物の生体インピーダンスを予測するステップと、生体インピーダンスデータと将来の動物の生体インピーダンスとから将来の動物の身体状態の情報を予測するステップとを備えていることが好ましい。例えば、毎日30分毎に動物の生体インピーダンスを測定してそのデータをデータベースに蓄積していると、昼間の生体インピーダンスの変化状況とその夜の生体インピーダンスの変化状況とのデータセットが蓄積されることによって、ある日の昼間の生体インピーダンスのデータを蓄積してコンピュータがこれまでのデータと比較することにより、その日の夜の生体インピーダンスの変化状況を以前のデータから予測することができるようになる。その予測した生体インピーダンスの変化状況を用いて筋疲労の状態の予測を行うことができる。
【0057】
動物について筋疲労状態を管理することは、次のような方法に応用することができる。
【0058】
肉牛を飼育する場合、肥育を急ぐと体重増により四肢の筋肉が筋疲労を起こし、体重をしっかりと支えることができない状況が生じることがある。このような場合、牛舎内の段差や障害物につまずいて牛が転倒してしまうことがある。転倒が夜間であると飼育者が転倒に気づかないまま牛が放置されるおそれがあり、転倒した牛は肺が圧迫されて死んでしまうことがある。そうなると出荷することができなくなってしまう。このような転倒による事故死は肉牛全体の1~2%程度に発生しており、飼育農家にとって大きな損失となっている。そこで、出荷が近づいた肉牛の四肢に本実施形態の生体インピーダンス測定装置を装着することにより、生体インピーダンスを測定して生体インピーダンスデータを測定コンピュータに格納してコンピュータ内のデータベースに蓄積し、コンピュータが解析して筋疲労状態の情報を取得するとともに、転倒するおそれがある筋疲労状態であるか否かを予測することにより、転倒を未然に防ぐことができるし、転倒のおそれがある場合は、その牛の監視を行うようにすることにより死に至ることを防ぐことができる。なお、特定の筋肉に筋疲労が蓄積すると転倒を生じるというデータを蓄積できれば、その特定の筋肉に生体インピーダンス測定装置を装着してもよい。
【0059】
本実施形態における動物の身体状態管理方法は、動物の生体表面に、少なくとも2つの電極10、20を、所定の間隔を開けて配置し、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V1、及び第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2を測定し、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbを算出し、算出した生体インピーダンスZbの時間変化に基づいて、筋肉部位の局所的筋疲労を評価することにより動物の身体状態を管理するものである。
【0060】
これにより、特定の筋肉に一定でない負荷をかけたときに生じる筋疲労を、リアルタイムで評価することができるとともに、生体インピーダンスデータをデータベースに蓄積して解析することにより、将来の筋疲労を予測することができる。また、疲労を評価したい特定の筋肉部位に2つの電極を配置するだけで、当該部位の筋疲労を評価できるため、精度良く、かつ非侵襲的に筋疲労を評価することができる。さらに、本実施形態の装置では、簡単な方法で、慢性期筋疲労を評価することができるので、慢性期筋疲労が残っている状態で競走馬にトレーニングを行ったり、牛や豚に日常の運動をさせたりすることによって、怪我等が生じるリスクや肉質の低下、体調不良、トレーニング効果の低下、過度なトレーニングの実施に伴うオーバートレーニングの発症を防止することができる。
【0061】
なお、動物の身体状態は筋肉部位の局所的筋疲労に限定されない。例えば、筋肉と脂肪量の割合や生体内の水分量など生体インピーダンスデータから導き出すことができる様々な身体状態の指標を用いて動物の身体状態の管理を行うことができる。また、本実施形態の装置を用いて測定した生体インピーダンスデータと、体温や心拍数など他の生体データを組み合わせて動物の身体状態の指標を導き出してもよい。
【0062】
また、本発明は、筋疲労評価システムとして使用することもできる。すなわち、本発明に係る筋疲労評価システムは、動物の生体表面に所定の間隔を開けて配置される少なくとも2つの電極と、2つの電極間に、第1の外部抵抗及び第2の外部抵抗を、それぞれ切り替え可能に並列接続する接続手段と、接続手段により、2つの電極間に、第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧V1、及び第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧V2を測定する電圧測定手段と、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極間の生体インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段とを備えている。そして、算出した生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋肉部位の局所的筋疲労を評価する。
【0063】
本発明は、上記のような効果を奏することから、例えば、動物の日常的なトレーニングや運動において、特定の筋肉ごとに筋疲労を評価できるため、効果的なトレーニングや運動を行うことができる。また、筋疲労をリアルタイムに評価できるため、オーバートレーニングによるコンディションの悪化や、怪我の発生、肉質の低下を予防することができる。また、筋疲労の将来予測も行えるため、オーバートレーニングによるコンディションの悪化や、怪我の発生、肉質の低下を予防することはもちろん、トレーニングのメニューの作成に反映させたり、肉質を向上させる運動や餌やりを行うことができる。
【0064】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0065】
例えば、上記実施形態では、生体表面に2つの電極10、20を配置したが、生体表面にグランド電極を配置し、2つの電極10、20間に生じた電圧を、差動アンプ40によって測定してもよい。この場合も、2つの電極10、20間における生体インピーダンスは、上記の式(1)により求めることができる。また、第1の電圧V1、及び第2の電圧V2は、その差分をとって差動アンプ40で増幅されて測定されるため、外部からのノイズを除去することができる。これにより、生体インピーダンスZbをより精度よく測定することができる。
【0066】
また、上記実施形態では、筋繊維からなる筋肉部位の筋疲労を評価するとき、2つの電極を、筋繊維に沿って、互いに近傍に配置したが、筋繊維を取り囲むように、互いに近傍に配置してもよい。
【0067】
生体インピーダンスの測定は、特定の筋肉に対して行ってもよいし、複数の筋肉にまたがって行ってもよく、筋肉以外の組織(例えば内臓、骨、血管、皮膚および脂肪など)を対象に行ってもよい。また、特許文献3に開示されている方法により生体インピーダンスの測定を行っても構わない。
【0068】
動物は羊や豚などの家畜や、犬や猫などの愛玩動物(ペット)などでもよく、特に限定はされない。例えば競争馬であれば、本願の生体インピーダンス測定装置および身体状態管理方法を用いて、上述のようにオーバートレーニングを防止したり、効率よくトレーニングを行えるように筋疲労状態を評価および予測することができる。肉牛や豚であれば脂肪量や、サシの入り具合による肉のランク(肉質)を身体状態として生体インピーダンスにより評価することが考えられる。あるいはペットであれば、体の中の水分量を身体状態として生体インピーダンスにより評価することによって、脱水状態をモニタリングして体調管理を行うことができる。さらに、これらの身体状態の管理はリモートで行うことも可能で、例えば肉牛や豚の脂肪量や肉質を生体インピーダンス測定(リモート測定)で解析して評価し、餌の量や餌の質をリモートでコントロールすることもできる。
【符号の説明】
【0069】
10 電極
20 電極
30 生体表面
40 増幅器(差動アンプ)
Rg1 第1の外部抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6