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  • 特開-生体状態評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136987
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】生体状態評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0537 20210101AFI20230922BHJP
【FI】
A61B5/0537 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042947
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂上 友介
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127EE01
4C127EE03
(57)【要約】
【課題】生体状態を評価する際の測定時間を短縮する。
【解決手段】2つの電極10、20を生体表面30に配置し、2つの電極10、20を介して測定装置1と生体とで形成される電気回路Cを、第1の状態から第2の状態に変化させ、第1の状態から第2の状態に変化させたときに電気回路Cに生じる過渡応答RTの情報を取得し、取得した過渡応答RTの情報に基づいて生体の情報を評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する測定装置を用いた生体状態評価方法であって、
前記電極を生体の表面に配置し、
前記電極を介して前記測定装置と前記生体とで形成される電気回路を、第1の状態から第2の状態に変化させ、
前記第1の状態から前記第2の状態に変化させたときに前記電気回路に生じる過渡応答の情報を取得し、
取得した前記過渡応答の情報に基づいて、前記生体の情報を評価することを特徴とする、生体状態評価方法。
【請求項2】
前記過渡応答の情報とは、該過渡応答の整定時間であることを特徴とする、請求項1に記載の生体状態評価方法。
【請求項3】
前記生体の情報とは、生体の筋疲労度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体状態評価方法。
【請求項4】
前記第1の状態から前記第2の状態に変化させることとは、第1の外部抵抗が並列接続された状態から第2の外部抵抗が並列接続された状態へと前記電気回路を切り替えることであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の生体状態評価方法。
【請求項5】
前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗のうちのいずれか一方の抵抗値が、無限大に設定されていることを特徴とする、請求項4に記載の生体状態評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体状態を評価する方法として、生体表面に電極を配置して、その電極を介して形成される電気回路を用いた方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、生体状態評価方法の一例として、生体表面に少なくとも3つの電極を配置するとともに、それら各電極とグランド電位との間に、第1の外部抵抗を並列接続したときに各電極に生じる第1の電圧と、それら各電極とグランド電位との間に、第2の外部抵抗を並列接続したときに各電極に生じる第2の電圧とをそれぞれ測定することが開示されている。
【0004】
前記特許文献1によると、第1の電圧及び第2の電圧から3つの比を算出することで、生体内の信号源の位置を検出することができる。
【0005】
一方、特許文献2には、生体状態評価方法の別例として、生体表面に少なくとも2つの電極を配置して、その2つの電極間に第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧と、第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧とをそれぞれ測定することが開示されている。
【0006】
前記特許文献2によると、第1の電圧及び第2の電圧の測定結果から得られる電圧比に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極間の生体インピーダンスを算出することができる。そして、算出された生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋肉部位における局所的な筋疲労を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6492103号
【特許文献2】特開2020-157037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1及び2に記載された方法は、いずれも、第1の外部抵抗を接続した状態と、第2の外部抵抗を接続した状態とのそれぞれで測定された電位を用いるように構成されている。
【0009】
ところが、第2の外部抵抗が接続された状態での測定に際しては、第1の外部抵抗から第2の外部抵抗へと切り替えた場合に生じる過渡応答が収束した後に、電位を測定する必要があった。そのため、従来知られた方法では、外部抵抗の切り替え直後に電位を測定することができず、測定時間の短縮という点で性能向上の余地があった。
【0010】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、生体状態を評価する際の測定時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、電極を有する測定装置を用いた生体状態評価方法に係る。この生体状態評価方法は、前記電極を生体の表面に配置し、前記電極を介して前記測定装置と前記生体とで形成される電気回路を、第1の状態から第2の状態に変化させ、前記第1の状態から前記第2の状態に変化させたときに前記電気回路に生じる過渡応答の情報を取得し、取得した前記過渡応答の情報に基づいて、前記生体の状態を評価することを特徴としている。
【0012】
前記構成によれば、過渡応答の収束後に電位を測定するのではなく、その過渡応答の情報それ自体を活用することで生体の情報を評価する。過渡応答の収束を待つ必要がない分、測定時間を短縮することができる。
【0013】
また、前記過渡応答の情報とは、該過渡応答の整定時間であってもよい。
【0014】
前記構成によれば、過渡応答の整定時間を取得することで、その整定時間に対応した時定数を算出することができる。そうして算出した時定数は、いわゆる抵抗値(レジスタンス)ばかりでなく、静電容量(キャパシタンス)の情報も含んでいる。したがって、抵抗値のみを用いた評価方法と比較して、より高精度に生体の状態を評価したり、より多方面からの評価を行ったりすることができるようになる。
【0015】
また、前記生体の情報とは、生体の筋疲労度であってもよい。
【0016】
また、前記第1の状態から前記第2の状態に変化させることとは、第1の外部抵抗が並列接続された状態から第2の外部抵抗が並列接続された状態へと前記電気回路を切り替えることであってもよい。
【0017】
前記構成によれば、電気回路の切り替えを利用して生体インピーダンス等の電気的なパラメータを算出し、その算出結果に基づいて生体の状態を評価することができるようになる。
【0018】
また、前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗のうちのいずれか一方の抵抗値が、無限大に設定されていてもよい。
【0019】
前記構成によれば、第1の状態と第2の状態との間の切り替えを、電気回路が接続された状態と電気回路が遮断された状態との間の切り替えとみなすことができる。これにより、生体インピーダンス等、各種パラメータの計算式がよりシンプルなものとなり、生体の状態をより容易に評価することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本開示によれば、生体状態を評価する際の測定時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態における生体状態評価方法を模式的に示した図である。
図2図2は、図1に示した状態の等価回路図を示す。
図3図3は、第1の状態と第2の状態との切り替えに伴う過渡応答を例示するタイムチャートである。
図4図4(a)及び(b)は、筋肉内の水分量と、生体インピーダンスの変化との関係を模式的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明は例示である。また、以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素に同一の参照符号を付す。
【0023】
<過渡応答を用いた筋疲労評価方法>
図1は、本開示の一実施形態における、生体状態評価方法としての筋疲労評価方法を模式的に示した図である。
【0024】
図1に示す筋疲労評価方法は、図1に示す測定装置1を用いて実施することができる。この測定装置1は、2つの電極10、20と、電圧測定手段としての増幅器40と、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2と、接続手段としてのスイッチSWとを有する。
【0025】
図1に示すように、生体の表面(生体表面)30に、2つの電極10、20を所定の間隔を空けて配置する。ここでは、上腕部の表面に2つの電極10、20を貼り付けた例を示す。そして、電極10、20間に生じる電圧を、増幅器40で増幅して測定する。また、2つの電極10、20の間に、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2とが並列に配置されている。そして、スイッチSWによって、電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態(第1の状態)と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態(第2の状態)とに切り替える。
【0026】
図2は、図1に示した状態の等価回路図を示す。
【0027】
ここで、Vbは、2つの電極10、20間の生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における筋電位である。この筋電位Vbは、上腕部30を運動したとき、すなわち、上腕筋に負荷をかけたときに発生する。筋電位Vbを発生する信号源Sは、生体内における2つの電極10、20の間に介在している。
【0028】
なお、本明細書において、筋肉(部位)とは、上腕二頭筋、広背筋など、生理学上個別に区分された筋組織を指す。
【0029】
また、Zbは、生体内における2つの電極10、20の間の生体インピーダンスを示す。この生体インピーダンスZbは、2つの電極10、20の間のレジスタンスRbとキャパシタンスCbとが並列接続されたRC回路におけるインピーダンスとみなすことができる。また、Rinは、増幅器40の入力抵抗を示す。
【0030】
図2に示すように、2つの電極10、20を介して、測定装置1と生体とで電気回路Cが形成される。具体的に、この電気回路Cは、生体インピーダンスZbと、信号源Sと、2つの電極10、20と、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2と、スイッチSWと、入力抵抗Rinとによって形成されている。電気回路Cにおいて2つの電極10、20間に生じた電圧(特に、生体外で生じる電位差)は、増幅器40で増幅されて、出力電圧Voutとして計測される。
【0031】
本実施形態において、電気回路Cを第1の状態から第2の状態に変化させることとは、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態から第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態へと電気回路Cを切り替えることに相当する。この切り替えは、前述のようにスイッチSWによって行われるようになっている。
【0032】
なお、スイッチSWによる切り替えは、所定周期で繰り返すように構成してもよい。そのように構成した場合、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えは、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと、第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとからなる工程を、前記所定周期で繰り返し行うことになる。
【0033】
また、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2のうちのいずれか一方は、その抵抗値が無限大に設定されていてもよい。例えば、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を有限の値とし、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした場合、スイッチSWによる切り替えは、第1の外部抵抗Rg1によって電気回路Cが接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2によって電気回路Cが遮断された状態との間の切り替えとみなすことができる。
【0034】
図3は、第1の状態と第2の状態との切り替えに伴う過渡応答を例示するタイムチャートである。
【0035】
従来知られた方法では、第1の外部抵抗Rg1を接続した状態(第1の状態)と、第2の外部抵抗Rg2を接続した状態(第2の状態)とのそれぞれで出力電圧Voutを測定するとともに、各測定値の電圧比に基づいて、生体インピーダンスZb、ひいては筋疲労度等の生体の状態を評価するように構成されていた。
【0036】
ここで、第2の状態での測定に際しては、第1の状態から第2の状態へと切り替える必要がある。しかし、そうした切り替えを行った直後、図3に示すような過渡応答RTが生じることになる。
【0037】
したがって、従来知られた方法では、過渡応答RTが収束した後に出力電圧Voutを測定する必要があった。そのため、外部抵抗の切り替え直後に出力電圧Voutを測定することができず、測定時間の短縮という点で性能向上の余地があった。
【0038】
こうした問題に対し、本実施形態に係る方法では、収束後の電圧ではなく、過渡応答を直に測定することで、生体インピーダンスZb、ひいては生体の状態を評価するように構成されている。
【0039】
具体的に、電気回路Cにおいて、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態(第2の状態)から第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態(第1の状態)へと変化させたときに2つの電極10、20間に生じる第1の電圧Vは、下式(1)で与えられる。
【0040】
【数1】
【0041】
上式(1)において、tは、第2の状態から第1の状態へ変化させてからの経過時間(スイッチSWによる切り替えからの経過時間)であり、τは、第1の状態における時定数である。以下、τを「第1の時定数」という。第1の時定数τは、下式(2)で与えられる。
【0042】
【数2】
【0043】
第1の時定数τは、第2の状態から第1の状態へ変化させたときに生じる過渡応答の整定時間に比例する。この整定時間は、過渡応答がピーク値に達してから、定常値の±a%(aは実数)以内に収束するまでの所要時間を示す。この整定時間に基づいて、第1の時定数τを算出することができる。
【0044】
また、電気回路Cにおいて第1の状態から第2の状態へと変化させたきに2つの電極10、20間に生じる第2の電圧Vは、下式(3)で与えられる。
【0045】
【数3】
【0046】
上式(3)において、tは、第1の状態から第2の状態へ変化させてからの経過時間(スイッチSWによる切り替えからの経過時間)であり、τは、第2の状態における時定数である。以下、τを「第2の時定数」という。第2の時定数τは、下式(4)で与えられる。
【0047】
【数4】
【0048】
第2の時定数τは、第1の状態から第2の状態へ変化させたときに生じる過渡応答の整定時間、つまり過渡応答がピーク値に達してから、定常値の±b%(bは実数)以内に収束するまでの所要時間に比例する。したがって、この整定時間に基づいて、第2の時定数τを算出することができる。
【0049】
式(2)と式(4)を組み合わせることで、生体インピーダンスZbを構成するレジスタンスRbとキャパシタンスCbは、以下の式(5)及び(6)より求めることができる。
【0050】
【数5】
【0051】
【数6】
【0052】
式(5)及び式(6)に示すように、生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における2つの電極10、20間のレジスタンスRb及びキャパシタンスCbは、それぞれ、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の値と、第1の時定数τ及び第2の時定数τの値に基づいて算出することができる。
【0053】
そして、生体インピーダンスZbを推定したい角周波数をωとすると、生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbは、以下の式(7)より求めることができる。
【0054】
【数7】
【0055】
式(7)において、jは虚数単位を表している。ここで、例えば第2の外部抵抗Rg2の値を無限大に設定した場合、上式(7)は、下式(8)のように簡略化することができる。
【0056】
【数8】
【0057】
すなわち、本実施形態に係る生体インピーダンス測定方法では、まず、第1の状態及び第2の状態の間で電気回路Cを変化させたときに生じる過渡応答の情報を取得する。特に本実施形態では、過渡応答の情報として、第1の時定数τに対応した過渡応答の整定時間と、第2の時定数τに対応した過渡応答の整定時間を取得する。
【0058】
その後、取得した各整定時間に基づいて、第1の時定数τと第2の時定数τを算出するとともに、算出した第1の時定数τ及び第2の時定数τと、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の値を上式(7)に代入することで、生体表面30下の筋肉部位における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbを算出するようになっている。このように、本実施形態では、取得した過渡応答の情報に基づいて生体インピーダンスZbを算出することができる。
【0059】
ところで、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、血中の乳酸濃度が増加することがよく知られているが、筋肉内の水分も増加することが分かっている。そのため、疲労した筋肉部位における生体インピーダンスを測定すると、平常時よりも生体インピーダンスが減少していることが予測できる。
【0060】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、得られた知見によると、腕の肘曲げ運動のように、筋肉に一定でない負荷をかけたときの生体インピーダンスの変化は、血中乳酸濃度の変化や、筋肉の厚みの変化と、強い相関関係があることが分かった。すなわち、特定の筋肉の疲労は、筋肉内の水分量の変化として捉えることができ、これにより、生体インピーダンスの変化が、生体の筋疲労度を反映する指標になり得ることが分かった。
【0061】
したがって、筋肉に負荷をかけて筋疲労度が生じると、筋肉内の水分量が変化し、筋肉内の水分量の変化を、生体インピーダンスの変化として捉えることによって、特定の筋肉の疲労度を評価することができる。
【0062】
そして、筋肉の疲労度を評価するための生体インピーダンスは、前述のように、第1の状態及び第2の状態の間の切り替えに際して取得した過渡応答の情報に基づいて算出することができる。すなわち、本実施形態では、取得した過渡応答の情報に基づいて、生体の状態としての筋疲労度を評価することができる。
【0063】
図4は、筋肉内の水分量の変化(図4(a))と、生体インピーダンスの変化(図4(b))との関係を模式的に示したグラフである。図4(a)、(b)に示すように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が増加し(時刻t~t)、これに伴い、生体インピーダンスが減少する(時刻t~t)。そして、筋肉に負荷をかけるのを止めると、筋肉内の水分量が元の状態に戻り(時刻t~t)、これに伴い、生体インピーダンスも元の状態に戻る(時刻t~t)。すなわち、生体インピーダンスの時間変化を測定することにより、筋疲労が、時刻t~tの間で蓄積し、時刻t~tの間で回復することが分かる。これにより、筋肉に負荷をかけたときに生じる筋疲労度を評価することができる。
【0064】
ここで、時間変化のモニタ対象とする生体インピーダンスとしては、式(7)で表される生体インピーダンスZbの絶対値を用いてもよいし、インピーダンスZbの実部(レジスタンス)又は虚部(リアクタンス)の値を用いてもよいし、インピーダンスZbの実部及び虚部の値を同時にモニタしてもよい。
【0065】
なお、図示は省略するが、運動していない場合にも、生体インピーダンスは、筋疲労以外の要因で、時間変化する場合がある。そのため、生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、筋疲労以外の要因による時間変化と区別する必要がある。
【0066】
通常、運動していない場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)は、運動した場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)よりも小さい。典型的には、運動前の生体インピーダンスに対して、運動直後の生体インピーダンスが所定の割合以上変化した場合は、筋疲労によるものと考えられる。
【0067】
一方、生体インピーダンスの時間変化が、前記所定の割合以下の場合は、筋疲労によるものではないと考えられる。従って、運動後に算出した生体インピーダンスの時間変化量が、所定の値以上になったときを、筋疲労と判断することによって、筋疲労を正しく評価することができる。
【0068】
このように、本実施形態に係る生体状態評価方法では、過渡応答RTの収束後に電位を測定するのではなく、その過渡応答RTの情報それ自体を活用することで生体の情報を評価する。過渡応答RTの収束を待つ必要がない分、測定時間を短縮することができる。
【0069】
また、過渡応答の情報として整定時間を取得することで、その整定時間に対応した時定数を算出することができる。そうして算出した時定数は、いわゆる抵抗値(レジスタンス)ばかりでなく、静電容量(キャパシタンス)の情報も含んでいる。したがって、抵抗値のみを用いた評価方法と比較して、より高精度に生体の情報を評価したり、より多方面からの評価を行ったりすることができるようになる。
【0070】
また、式(7)及び式(8)に示すように、電気回路Cの切り替えを利用して生体インピーダンスZbを算出する際に、実部及び虚部の双方とも、従来用いられてきた電圧比を必要としない。これにより、測定時間の短縮を図る上で有利になる。
【0071】
また、一方の外部抵抗の抵抗値を無限大に設定することで、第1の状態と第2の状態との間の切り替えを、電気回路Cが接続された状態と電気回路Cが遮断された状態との間の切り替えとみなすことができる。これにより、生体インピーダンスZbの算出に要する数式を、式(8)に示すように、よりシンプルなものにすることができる。そのことで、生体の状態をより容易に評価することが可能になる。
【0072】
<他の実施形態>
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0073】
例えば、前記実施形態では、生体の情報として、当該生体の筋疲労度を評価するように構成されていたが、本開示における評価対象は、生体の筋疲労度には限定されない。生体の情報として、生体内の信号源の位置を評価したり、生体の体脂肪を評価したりしてもよい。
【0074】
例えば、特許文献1により開示されている生体内信号源位置検出方法は、生体内の信号源と電極との間の内部抵抗の抵抗値を用いたものであるが、その抵抗値として、過渡応答の情報によって得られる値(例えば、上式(5)を参照)を用いてもよい。
【0075】
また前記実施形態では、図3に示すような出力電圧Voutの時間変化に基づいて過渡応答RTの情報を取得するように構成されていたが、本開示は、そうした構成には限定されない。例えば、生体内から出力される電流の時間変化に基づいて過渡応答RTの情報を取得してもよい。
【0076】
また、生体の体脂肪等を評価対象とした場合、生体表面に電極を配置して、その電極から生体に高周波電流を流すことによって、生体インピーダンスを測定してもよい。
【0077】
また、前記実施形態では、生体表面30に2つの電極10、20を配置したが、生体表面30にグランド電極を配置し、2つの電極10、20間に生じた電圧を、差動アンプ40によって測定してもよい。この場合も、2つの電極10、20間における生体インピーダンスは、前記の式(7)により求めることができる。また、第1の電圧V、及び第2の電圧Vは、その差分をとって差動アンプ40で増幅されて測定されるため、外部からのノイズを除去することができる。これにより、生体インピーダンスZbをより精度よく測定することができる。
【0078】
また、前記実施形態では、筋繊維からなる筋肉部位(上腕筋)の筋疲労を評価するとき、2つの電極を筋繊維に沿って互いに近傍に配置したが、本開示は、そうした配置には限定されない。2つの電極を、筋繊維を取り囲むように、互いに近傍に配置してもよい。
【0079】
また、本開示は、電極を有する測定装置を用いた生体状態評価システムとして使用することもできる。すなわち、本開示に係る生体状態評価システムは、生体表面に所定の間隔を空けて配置される電極と、その電極を介して測定装置と生体とで形成される電気回路を第1の状態及び第2の状態の間で変化させる切り替え手段と、その切り替え手段により、第1の状態及び第2の状態の間で変化させたときに電気回路に生じる過渡応答の情報を取得する情報取得手段と、取得した過渡応答の情報に基づいて、生体の状態を評価する生体状態評価手段とを備えている。
【符号の説明】
【0080】
1 測定装置
10 電極
20 電極
30 生体表面
C 電気回路
Rg1 第1の外部抵抗
Rg2 第2の外部抵抗
図1
図2
図3
図4