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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137009
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】磁性材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/12 20060101AFI20230922BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230922BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20230922BHJP
   C07C 63/24 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01F1/12
C09K11/06 ZNM
C07F5/00 D
C07C63/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042975
(22)【出願日】2022-03-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載アドレス https://www.csj.jp/festa/2021/on_the_day.html 2.掲載日 令和3年9月24日 3.公開者 藤田勇太、小白琴菜、岸川圭希、桑折道済 〔刊行物等〕1.集会名 第11回CSJ化学フェスタ2021 2.開催日 令和3年10月19日 3.公開者 藤田勇太、小白琴菜、岸川圭希、桑折道済 〔刊行物等〕1.掲載アドレス https://www.mrs-j.org/meeting2021/abstract/jp/login.php 2.掲載日 令和3年12月1日 3.公開者 藤田勇太、小白琴菜、岸川圭希、桑折道済 〔刊行物等〕1.集会名 第31回日本MRS年次大会 2.開催日 令和3年12月14日 3.公開者 藤田勇太、小白琴菜、岸川圭希、桑折道済
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】桑折 道済
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勇太
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
5E041
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB90
4H006BB20
4H006BB31
4H006BJ50
4H006BS30
4H048AA01
4H048AA02
4H048AA03
4H048BB20
4H048BB31
4H048VA20
4H048VA70
4H048VB10
5E041AC05
5E041CA09
(57)【要約】
【課題】新規な機能性材料を提供する。
【解決手段】ランタノイド元素と、ランタノイド元素と配位する有機配位子と、を含んでなる、アモルファス金属有機構造体からなる磁性材料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタノイド元素と、前記ランタノイド元素と配位する有機配位子と、を含んでなる、アモルファス金属有機構造体からなる磁性材料。
【請求項2】
前記ランタノイド元素が、ホルミウム(Ho)、テルビウム(Tb)、およびユウロピウム(Eu)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項3】
前記有機配位子が、多価カルボン酸化合物およびアザ複素環式化合物の少なくともいずれかである、請求項1または2に記載の磁性材料。
【請求項4】
前記多価カルボン酸化合物が、イソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸、5-エチニルイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-シアノイソフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、および4,6-ジメチルイソフタル酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の磁性材料。
【請求項5】
前記アモルファス金属有機構造体が、300~1500nmの平均粒子径を有する粒子形態にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の磁性材料の製造方法であって、
溶媒の存在下、ランタノイド元素と有機配位子を撹拌した後、水熱反応させることを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(Metal Organic Frameworks:以下、「MOF」ともいう)は、一般に、有機配位子と金属元素が規則的に配列した周期性の高い結晶性化合物であり、分子レベルで精密な多孔性材料であるため、分子吸着や徐放などに利用されている。細孔に吸着される物質は、重元素イオン、メタンや窒素などのガス、色素分子やポリマーなど、そのサイズは多岐に渡り、気相と液相の両方で吸着可能である。
【0003】
MOFは、結晶性MOFとアモルファスMOFに大別することができる。結晶性MOFは、有機配位子と金属の規則的な周期構造によりフレームワークを形成し、長距離秩序を有している。一方、アモルファスMOFは、結晶性MOFの基本的な構成要素と結合性を有しているが、長距離秩序はなく、短距離秩序のみを保ち、MOFの特性を部分的に有している。アモルファスMOFの特徴的な性質として、X線回折ピークがブロード化し、ピークを細かく帰属できないこと等が挙げられる。
【0004】
アモルファスMOFは、結晶性MOFの崩壊、もしくは合成段階で急激に反応させることにより容易に形成できるため、加工性に優れた材料である。また、アモルファスMOFは、部分的な結晶構造の崩壊により分子吸着能やその放出スピードを調整できる可能性があり、さらには結晶性MOFよりも機械的強度に優れていることが多いという特徴を有している。また、アモルファスMOFが、約1μmの平均粒子径を有する粒子形態であると、無色の粒子として得られることが多い。したがって、アモルファスMOFは、結晶性MOFの機能性に加えて新たな特性を付与できる可能性があり、様々な分野への応用が期待できる。
【0005】
ところで、材料に磁性を付与する研究として、一般に、酸化鉄(Fe)磁性粒子を材料と複合化することが行われており、様々な分野で幅広く利用されている。酸化鉄(Fe)磁性粒子と金属有機構造体(MOF)との複合化も行われており、例えば、非特許文献1には、酸化鉄(Fe)磁性粒子の表面にMOFを構築した例が記載されている。
【0006】
本発明者らは、ランタノイド元素の1種である磁気特性に優れたホルミウムをドープした高分子材料の開発を行っている。例えば、特許文献1と非特許文献2には、ホルミウムをドープした無着色磁性粒子および着色磁性粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-160997号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F. M. Valadi et al., Journal of Molecular Liquids, 2020, 318, 114051
【非特許文献2】K. Kohaku et al., ACS Appl. Polym. Mater., 2020, 2, 1800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載の技術では、コアとなるFe粒子の表面にMOFを被覆させている。Fe磁性粒子が黒褐色の材料であるため、その複合体である材料も黒褐色に呈色しており、無着色な磁性MOF粒子の作製ならびに分子吸着挙動の可視化が困難であるという課題もある。
【0010】
特許文献1に記載の技術では、無着色な磁性粒子が得られているものの、粒子への分子の取り込み、吸着能は観測されていない。
したがって、色素などの分子吸着挙動の可視化が可能であり、分子吸着能の高い磁性粒子材料は、従来の技術に内在する課題を解決するものである。
【0011】
本発明は上記に鑑み、新規な機能性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、ランタノイド元素と、ランタノイド元素と配位する有機配位子と、を含んでなる、アモルファス金属有機構造体からなる磁性材料が、新規な機能性材料となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0013】
[1] ランタノイド元素と、前記ランタノイド元素と配位する有機配位子と、を含んでなる、アモルファス金属有機構造体からなる磁性材料。
[2] 前記ランタノイド元素が、ホルミウム(Ho)、テルビウム(Tb)、およびユウロピウム(Eu)からなる群から選択される少なくとも一種である、[1]に記載の磁性材料。
[3] 前記有機配位子が、多価カルボン酸化合物およびアザ複素環式化合物の少なくともいずれかである、[1]または[2]に記載の磁性材料。
[4] 前記多価カルボン酸化合物が、イソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸、5-エチニルイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-シアノイソフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、および4,6-ジメチルイソフタル酸からなる群から選択される少なくとも一種である、[3]に記載の磁性材料。
[5] 前記アモルファス金属有機構造体が、300~1500nmの平均粒子径を有する粒子形態にある、[1]~[4]のいずれかに記載の磁性材料。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の磁性材料の製造方法であって、溶媒の存在下、ランタノイド元素と有機配位子を撹拌した後、水熱反応させることを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアモルファス金属有機構造体からなる磁性材料によれば、新規な機能性材料を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、アモルファス金属有機構造体材料からなる磁性材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、製造例1で得られた生成物を走査型電子顕微鏡で観測した電子顕微鏡写真である。
図2図2は、製造例1-3で得られた生成物のX線回折測定によるチャートと、単結晶X線回折データから予測されるHo(イソフタル酸)(DMF)(HO)のX線回折測定のチャートである。
図3図3は、製造例2~4で合成したアモルファス金属有機構造体の蛍光スペクトルを示すチャートである。
図4図4は、試験例1-1の結果を示す写真である。
図5図5は、試験例1-2の結果を示す写真である。
図6図6は、試験例2の結果を示す写真である。
図7図7は、試験例3-1の結果を示す写真である。
図8図8は、試験例3-2の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
[磁性材料]
本発明の磁性材料は、ランタノイド元素と、ランタノイド元素と配位する有機配位子と、を含んでなるアモルファス金属有機構造体(以下、「アモルファスMOF」ともいう)からなる。アモルファスMOFは、ランタノイド元素と、ランタノイド元素と配位する有機配位子と、からなることが好ましい。MOFがアモルファスであることは、対象試料をX線回折法により測定することで判断できる。より具体的には、対象試料をX線回折法により測定し、ブロードなピークが得られた場合にアモルファスであると判断し得る。
【0018】
本明細書中、「機能」とは、限定するものではないが、磁気特性、分子吸着特性、蛍光発光特性等が挙げられる。本発明の磁性材料は、磁気特性を有するものであり、磁気特性に加えて他の機能を複合して有するものでもよい。
【0019】
本発明の磁性材料の一態様によれば、強い磁気特性を有する材料を提供できる。一態様の磁性材料は、分子吸着特性も有することが好ましい。好適な一態様の磁性材料は、例えば、繊維工業において、排出される繊維の染色廃液から色素分子を材料に吸着させた後、色素分子吸着材料を磁力により簡便に回収することで、廃液処理への利用が期待できる。また、好適な一態様の磁性材料は、選択的な分子吸着特性を有することがより好ましく、色素などの分子吸着挙動の可視化が可能なことがさらに好ましい。
なお、好適な一態様の磁性材料を廃液処理に利用する場合、材料に吸着させた色素分子を放出して、材料を再利用できることが好ましい。
【0020】
本発明の磁性材料の他の態様によれば、分子吸着特性を有する材料を提供できる。他の態様の磁性材料は、磁気特性が弱い点で、好適な一態様の磁性材料と異なる。しかしながら、他の態様の磁性材料も、繊維工業において、排出される繊維の染色廃液から色素分子を材料に吸着させた後、色素分子吸着材料を沈降等によりに回収することで、廃液処理への利用が期待できる。また、他の態様の磁性材料も、選択的な分子吸着特性を有することがより好ましく、色素などの分子吸着挙動の可視化が可能なことがさらに好ましい。
なお、他の態様の磁性材料を廃液処理に利用する場合も、材料に吸着させた色素分子を放出して、材料を再利用できることが好ましい。
【0021】
本発明の磁性材料のさらに他の態様によれば、蛍光発光特性を有する材料を提供できる。さらに他の態様の磁性材料は、分子吸着特性も有することが好ましい。好適なさらに他の態様の磁性材料は、例えば、分子バイオマーカー等への標識試薬としての利用が期待できる。また、好適なさらに他の態様の磁性材料は、標識した分子バイオマーカーを回収する観点から、強い磁気特性を有することがより好ましく、標識した分子バイオマーカーを解析する観点から、材料に吸着させた分子バイオマーカーを放出できることがさらに好ましい。
【0022】
アモルファスMOFの形状は、限定するものではないが、粒子状、花びら状等の形状であってもよく、粒子状であることが好ましい。また、磁力で簡便に回収する簡単から、粒子状のアモルファスMOFの平均粒子径は、300~1500nmが好ましく、350~1350nmがより好ましく、400~1200nmがさらに好ましい。
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影したアモルファスMOFのSEM画像から、100個の粒子を任意に選択し、ノギスを用いて各粒子の粒子径を測定し、それらの平均値として算出できる。
【0023】
(ランタノイド元素)
「ランタノイド元素」とは、原子番号57のランタン(La)から71のルテチウム(Lu)までの金属元素のことをいい、より具体的には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、Lu(ルテチウム)をいう。
【0024】
アモルファスMOFに含まれるランタノイド元素は、上記のランタノイド元素であればよく、Ho、Tb、およびEuからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。ランタノイド元素は、有機配位子とアモルファスMOFを形成する限り、1種単独で含まれていてもよく、2種以上を組合せて含まれていてもよい。アモルファスMOFが、複数のランタノイド元素を含む場合、各ランタノイド元素の比率は特に限定されず、当業者であれば磁性材料に付与する機能に応じて適宜設定できる。
【0025】
アモルファスMOFに含まれるランタノイド元素は、Ho、Tb、またはEuとHoの組合せであることが好ましい。ランタノイド元素がEuとHoの組合せである場合、EuとHoの組合せの比率(Eu:Ho)は、モル換算で、1:9~9:1が好ましく、1:5~5:1がより好ましい。
【0026】
(有機配位子)
有機配位子は、ランタノイド元素に配位してアモルファスMOFを形成するものであればよく、多価カルボン酸化合物およびアザ複素環式化合物の少なくともいずれかが好ましく、多価カルボン酸化合物がより好ましい。
【0027】
有機配位子は、ランタノイド元素に配位してアモルファスMOFを形成する限り、1種単独で含まれていてもよく、2種以上を組合せて含まれていてもよい。アモルファスMOFが、複数の有機配位子を含む場合、各有機配位子の比率は限定されず、当業者であれば磁性材料に付与する機能に応じて適宜設定することができる。
【0028】
多価カルボン酸化合物は、そのカルボキシレート基がランタノイド元素に配位することによって、有機リンカーとして機能する。多価カルボン酸化合物としては、2価、3価または4価のカルボン酸化合物が挙げられる。
【0029】
2価のカルボン酸化合物としては、イソフタル酸またはその誘導体、テレフタル酸またはその誘導体、シユウ酸、フマル酸、マロン酸、(trans,trans)-ムコン酸、(cis,cis)-ムコン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、2,2’-ジアミノ-4,4’-スチルベンジカルボン酸、2,2’-ジニトロ-4,4’-スチルベンジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、2価のカルボン酸化合物としては、イソフタル酸またはその誘導体が好ましく、イソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸、5-エチニルイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-シアノイソフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、または4,6-ジメチルイソフタル酸がより好ましい。
【0030】
3価のカルボン酸化合物としては、トリメシン酸またはその誘導体、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリスカルボキシフェニルエチニルベンゼン、4,4’,4”-s-トリアジン-2,4,6-トリイル-トリ安息香酸、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、[1,1’-ビフェニル]-3,4’,5-トリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイルトリイミノ)トリス安息香酸が挙げられる。
【0031】
4価のカルボン酸化合物としては、[1,1’:4’,1”]ターフェニル-3,3”,5,5”-テトラカルボン酸、3,3’,5,5’-テトラカルボンキシジフェニルメタン、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸が挙げられる。
【0032】
アザ複素環式化合物は、1または複数の窒素原子を環原子として有する複素環式化合物である。アザ複素環式化合物としては、ピリジンまたはその誘導体、アゾピリジンまたはその誘導体、ピラジンまたはその誘導体、ビピリジンまたはその誘導体、ピペリジンまたはその誘導体、トリアジンまたはその誘導体、イミダゾールまたはその誘導体が挙げられる。
【0033】
ランタノイド元素と有機配位子の配合比は、アモルファスMOFを形成できる限り限定されるものではない。一態様として、ランタノイド元素と有機配位子の配合比(ランタノイド元素:有機配位子)は、モル換算で、1:10~10:1が好ましく、1:5~5:1がより好ましく、1:3~3:1がさらに好ましい。
【0034】
分子吸着特性を有する磁性材料は、アモルファスMOFに含まれる有機配位子の種類を変更することで設計できる。例えば、材料に吸着させる分子がアミノ基等の官能基を有する化合物である場合、該官能基と水素結合等により作用する官能基(例えば、カルボキシル基等)を有する有機配位子を用いればよく、当業者であれば吸着させる分子の化学構造に応じて、有機配位子を適宜変更できる。
また、分子吸着特性を有する磁性材料を提供する場合、アモルファスMOFは、MOF内への吸着効率を高める観点から、ランタノイド元素と、有機配位子と、からなることが好ましい。
【0035】
材料に吸着させた分子(色素分子、分子バイオマーカー)を放出して、材料を再利用できる磁性材料を提供する場合、有機配位子は多価カルボン酸化合物であり、分子は多価カルボン酸化合物のカルボキシル基と水素結合するものであること好ましい。水素結合の結合力は弱いため、分子を吸着させたアモルファスMOFは、例えば、電子供与性の溶媒に投入すると、材料に吸着させた分子が放出される。したがって、材料を再利用できるとともに、吸着させた分子を回収して解析することもできる。
【0036】
色素などの分子吸着挙動の可視化を可能とする磁性材料を提供する場合、ランタノイド元素と、有機配位子と、からなることが好ましい。ランタノイド元素を用いた金属有機構造体は、約1μmの平均粒子径を有する粒子形態であると、通常、無色を呈する。また、その分散液を調製した場合であっても、光の散乱により白色を呈する。したがって、アモルファスMOF材料が色素分子を吸着すると、材料は色素分子に由来する着色を呈し、色素などの分子吸着挙動を可視化できる。
【0037】
蛍光発光特性を有する磁性材料は、ランタノイド元素が、一般に、紫外から赤外まで幅広い領域で発光性を示すので、ランタノイド元素を用いることで提供できる。ただし、ランタノイド元素の励起に関与するff遷移は禁制遷移であるため、その発光強度は弱いことが多い。したがって、蛍光発光特性を有する磁性材料を作製する場合、ランタノイド元素の発光強度を向上させるために、π系分子などのエネルギー吸収性を持つ配位子を利用し、該配位子からのエネルギー移動を介してランタノイド元素の励起状態を誘導する観点から、アンテナ効果を有する有機配位子を用いることが好ましい。
【0038】
[磁性材料の製造方法]
磁性材料の製造方法は、溶媒の存在下、ランタノイド元素と有機配位子を撹拌した後、水熱反応させることを含む。
ランタノイド元素と有機配位子の詳細は上記の通りである。
【0039】
溶媒は、限定するものではないが、水、有機溶媒、またはそれらの混合溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール、アミド、アミン、エステル、イオン性液体等が挙げられる。
撹拌に用いられる溶媒と水熱反応に用いられる溶媒は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、簡便性の観点から、同一であることが好ましい。したがって、溶媒は、水熱反応にそのまま使用する観点から、水または水と有機溶媒の混合溶媒が好ましく、水または水とアミドの混合溶媒がより好ましく、水または水とN,N-ジメチルホルムアミドの混合溶媒がさらに好ましい。
【0040】
撹拌条件は、限定するものではないが、室温で1~3時間程度が挙げられる。
【0041】
「水熱反応」とは、100℃、1気圧以上の高温・高圧下の水が関与する反応をいう。水熱反応を利用することにより、ランタノイド元素と有機配位子を急激に反応させることができる。したがって、アモルファス金属有機構造体を容易に形成することができる。なお、水熱反応が、1気圧以上の高圧下で水を関与させる反応であるため、オートクレーブのような耐圧性の容器を用いることが好ましい。
【0042】
水熱反応の条件は、限定するものではないが、好ましくは100~200℃、8~24時間、より好ましくは120~190℃、4~24時間、さらに好ましくは150~180℃、1~24時間である。
水熱反応の反応時間および反応温度を変更することにより、アモルファスMOFの形状を制御できる。
【実施例0043】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[平均粒子径(DSEM)]:走査型電子顕微鏡(製品名「JSM-6510A」、JEOL社製)を用いて撮影したアモルファスMOF材料のSEM画像から、100個の粒子を任意に選択し、ノギスを用いて各粒子の粒子径を測定し、それらの平均値として算出した。
【0045】
[CV(%)]:SEM画像から計測した100個の粒子の粒子径から標準偏差を計算して算出した。
【0046】
[蛍光スペクトル測定]:蛍光・燐光分光光度計(製品名「FP-8500」、JASCO社製)を用いて、励起光源として波長280nmのキセノンランプ光源を用い材料の発光波長(蛍光スペクトル)を測定した。
【0047】
(製造例1:ホルミウムを用いたアモルファスMOF材料の合成)
N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)と水の混合溶液(DMF:水=7:3(体積比))8mLに、HoCl・6HOとイソフタル酸を、それぞれ0.10mmolずつ加え、室温で2時間撹拌した。その後、ステンレスオートクレーブのテフロン製容器に投入し、180℃で1h(製造例1-1)、1.5h(製造例1-2)、2h(製造例1-3)、4h(製造例1-4)、8h(製造例1-5)加熱して生成物を得た。得られた生成物を走査型電子顕微鏡により解析した電子顕微鏡写真を図1に示す。また、製造例1-3で得られた生成物のX線回折測定によるチャートと、単結晶X線回折データから予測されるHo(イソフタル酸)(DMF)(HO)のX線回折測定のチャートを図2に示す。
【0048】
図1に示すように、反応時間が1~2h(製造例1-1~1-3)では、粒子状のアモルファスMOF材料が得られ、反応時間が4~8h(製造例1-4~1-5)では、花びら状のアモルファスMOF材料が得られた。また、反応時間が長くなるにつれて粒子が大きくなることがわかる。粒子状のアモルファスMOF材料(製造例1-1~1-3)について、平均粒子径およびCV値を算出したところ、製造例1-1では、DSEM:438nm、CV:20.0%、製造例1-2では、DSEM:603nm、CV:15.1%、製造例1-3では、DSEM:1148nm、CV:11.9%であった。
【0049】
また、図2に示すように、製造例1-3で得られた生成物をX線回折により測定すると、全体的にブロードなチャートが得られており、アモルファスMOF材料が合成されたことがわかる。
【0050】
(製造例2:テルビウムを用いたアモルファスMOF材料の合成)
HoCl・6HOをTbCl・6HOに変更したこと以外は、製造例1-3と同じ条件でアモルファスMOF材料を合成した。合成した材料について、蛍光スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。なお、図3において、上のチャートがTbを用いたアモルファスMOF材料に対応するものであり、緑色に発光することがわかる。したがって、合成した材料は、蛍光発光特性を有することがわかる。
【0051】
(製造例3:ユウロピウムを用いたアモルファスMOF材料の合成)
HoCl・6HOをEuCl・6HOに変更したこと以外は、製造例1-3と同じ条件でアモルファスMOF材料を合成した。合成した材料について、蛍光スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。なお、図3において、中のチャートがEuを用いたアモルファスMOF材料に対応するものであり、赤色に発光することがわかる。したがって、合成した材料は、蛍光発光特性を有することがわかる。また、Euを用いたアモルファスMOF粒子は、SQUID測定により磁気特性を測定したところ、弱いながらも磁気特性を有するものであった。したがって、合成した材料は磁性材料である。
【0052】
(製造例4:ユウロピウムとホルミウムの組合せを用いたアモルファスMOF材料の合成)
HoCl・6HOをEuCl・6HOとHoCl・6HO(3:1(モル比))に変更したこと以外は、製造例1-3と同じ条件でアモルファスMOF材料を合成した。合成した材料について、蛍光スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。なお、図3において、下のチャートがEuとHoの組合せを用いたアモルファスMOF材料に対応するものであり、紫色に発光することがわかる。したがって、合成した材料は、蛍光発光特性を有することがわかる。
【0053】
(試験例1-1:磁気特性の検討)
製造例1-3で合成したホルミウムを用いたアモルファスMOF材料について、0.5質量%水分散液を調製した。該水分散液をバイアルに入れ、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた。その結果を図4に示す。図4から、ネオジム磁石を近づけてから30分後には、アモルファスMOF材料が磁石に引き寄せられており、材料が磁気特性を有することがわかる。したがって、合成した材料は磁性材料である。
【0054】
(試験例1-2:磁気特性の検討)
製造例2で合成したテルビウムを用いたアモルファスMOF材料、および製造例4で合成したユウロピウムとホルミウムの組合せを用いたアモルファスMOF材料について、0.5質量%エタノール分散液を調製した。該エタノール分散液をバイアルに入れ、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた。その結果を図5に示す。図5において、上の写真は、テルビウムを用いたアモルファスMOF材料の結果を示し、下の写真はユウロピウムとホルミウムの組合せを用いたアモルファスMOF材料の結果を示す。図5から、ネオジム磁石を近づけてから1.5h後には、テルビウムを用いたアモルファスMOF材料が磁石に引き寄せられており、3h後には、ユウロピウムとホルミウムの組合せを用いたアモルファスMOF材料が磁石に引き寄せられており、いずれの材料も磁気特性を有することがわかる。したがって、合成した材料は、いずれも磁性材料である。
【0055】
また、図5において、磁石に引き寄せた後のバイアルには紫外光を照射しており、テルビウムを用いたアモルファスMOF材料は緑色に発光しており、ユウロピウムとホルミウムの組合せを用いたアモルファスMOF材料は紫色に発光している。
【0056】
(試験例2:色素分子吸着特性の検討)
1μM、5μM、10μM、50μMに調整したcongo red(以下、「CR」ともいう)水溶液を入れたバイアルに、製造例1-3で合成したホルミウムを用いたアモルファスMOF材料5mgを加えて、ミックスローターで撹拌した。その後、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた写真を図6に示す。図6に示すように、CRを吸着した材料が磁石に引き寄せられた結果、溶液は透明であり、材料が分子吸着特性を有することがわかる。また、材料がCRによる分子吸着挙動の可視化も可能であることがわかる。なお、図6において、磁石に引き寄せられた粒子は赤色に着色している。
【0057】
(試験例3-1:選択的な色素分子吸着特性の検討)
50μMに調整したCoomassie Brilliant Blue(以下、「CBB」ともいう)水溶液またはMethyl orange(以下、「MO」ともいう)水溶液を入れたバイアルに、製造例1-3で合成したホルミウムを用いたアモルファスMOF材料5mgを加えて、ミックスローターで撹拌した。その後、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた写真を図7に示す。図7に示すように、CBB溶液については、CBBを吸着した材料が磁石に引き寄せられた結果、溶液は透明であるが、MO溶液の色はオレンジ色である。したがって、これらの結果から、材料が選択的な分子吸着特性を有することがわかる。なお、図7のCBBについて、磁石に引き寄せられた粒子は青色に着色している。
【0058】
CRおよびCBBは、-NH基および-NH基を有する化合物であるが、MOはこれらの官能基を有しない化合物である。ホルミウムを用いたアモルファスMOF材料は、結晶構造の乱れにより、粒子内に多くの非配位性酸素原子(-COO)が存在する可能性がある。そのため、CRおよびCBBは、ホルミウムを用いたアモルファスMOF材料に水素結合を介して吸着され、MOはホルミウムを用いたアモルファスMOF材料に水素結合能を有する官能基がないことから、吸着されなかったと考えられる。このことから、有機配位子の官能基と吸着させる分子に存在する官能基を設計することで、分子吸着特性を発現できることが予想できる。
【0059】
(試験例3-2:選択的な色素分子吸着特性の応用)
CBBとMOがそれぞれ50μMになるように調整した水混合溶液を入れたバイアルに、製造例1-3で合成したホルミウムを用いたアモルファスMOF材料5mgを分散させ、ミックスローターで30分攪拌した。その後、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた後、磁石を用いて粒子を回収した。ミックスローターで撹拌した後の分散液、バイアルの側面から477mTのネオジム磁石を近づけた状態、磁石を用いて回収した粒子とバイアルに残存した溶液を示す写真を図8に示す。なお、図8において、分散液は紫色を呈しており、磁石に引き寄せられた粒子および回収した粒子は青色を呈しており、粒子が引き寄せられた後の溶液およびバイアルに残存した溶液はオレンジ色を呈している。このことから、粒子にはCBBが選択的に吸着されていることが目視で容易に判断できる。したがって、材料が選択的な分子吸着特性を有することがわかる。また、材料の分子吸着挙動の可視化も可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
アモルファスMOFは、近年注目されるようになった開発途上の材料である。したがって、アモルファスMOFの特性を利用した機能性材料を見出すことは、様々な産業に新規材料を提供できる点で有用である。
図1
図2
図3
図4
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図7
図8