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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137054
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】品質評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/30 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01N3/30 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043049
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】飛田 南斗
(72)【発明者】
【氏名】白鷺 卓
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 勝利
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA13
2G061AB04
2G061BA01
2G061CA06
2G061CB03
2G061DA01
2G061DA10
2G061EA09
2G061EA10
2G061EB03
2G061EC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経年劣化の可能性がある石材の強度を容易に測定し、必要に応じて石材を補強することができる品質評価方法を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る品質評価方法は、現場からサンプルとしての石材Bを取得する工程と、ハンマー1で石材Bの表面Hを打撃する工程と、ハンマー1の打撃速度、及び表面Hに対するハンマー1の加速度を測定する工程と、打撃速度及び加速度から表面Hにおける強度を算出する工程と、表面Hを研磨しながら強度を算出する工程を繰り返すことによって石材Bの深度と強度との関係を取得する工程と、現場の石材Bの表面をハンマー1で打撃して現場の石材Bの表面における強度を算出し、石材Bの深度と強度との関係から現場の石材Bの健全部の強度を推定する工程と、推定した強度が所定の閾値以下である場合に石材Bの少なくとも一部を置き換える工程と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経年により風化する石材の品質評価方法であって、
現場からサンプルとしての石材を取得する工程と、
ハンマーで前記石材の表面を打撃する工程と、
前記ハンマーで前記表面を打撃したときにおける前記ハンマーの打撃速度、及び前記表面に対する前記ハンマーの加速度を測定する工程と、
前記打撃速度及び前記加速度から前記表面における強度を算出する工程と、
前記表面を研磨しながら前記強度を算出する工程を繰り返すことによって前記石材の深度と強度との関係を取得する工程と、
前記現場の石材の表面をハンマーで打撃して前記現場の石材の表面における強度を算出し、前記石材の深度と強度との関係から前記現場の石材の健全部の強度を推定する工程と、
前記推定した強度が所定の閾値以下である場合に前記石材の少なくとも一部を置き換える工程と、
を備える品質評価方法。
【請求項2】
経年により風化する石材の品質評価方法であって、
現場からサンプルとしての石材を取得する工程と、
ハンマーで前記石材の表面を打撃する工程と、
前記ハンマーで前記表面を打撃したときにおける前記ハンマーの打撃速度、及び前記表面に対する前記ハンマーの加速度を測定する工程と、
前記打撃速度及び前記加速度から前記表面における強度を算出する工程と、
前記表面を研磨しながら前記強度を算出する工程を繰り返すことによって前記石材の深度と強度との関係を取得する工程と、
前記現場の石材の表面をハンマーで打撃して前記現場の石材の表面における強度を算出し、前記石材の深度と強度との関係から前記現場の石材の健全部の深さを推定する工程と、
前記健全部の深さより深い位置まで延在するように前記現場の石材にアンカー基礎を設置する工程と、
を備える品質評価方法。
【請求項3】
前記石材の深度と強度との関係から前記現場の石材の補修を要する時期を推定する工程を更に備える、
請求項1又は2に記載の品質評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、解体石材の管理方法が記載されている。この管理方法は、解体石材に固有の識別子を付けるステップと、解体石材の画像を撮るステップと、解体石材の属性情報を収集するステップと、解体石材毎に積み直し時における必要な技術情報を収集するステップと、解体石材を仮置きした後にGPSを利用して当該石材の仮置き位置を求めるステップとを有する。上記のGPSでは、RTK(リアルタイムキネマティック)測位方式が採用される。また、仮置き位置を求めるステップの前後には当該石材の強度を測定するステップが実行される。この強度の測定では、シュミットロックハンマー、打撃分析装置、又は超音波測定装置が採用される。
【0003】
特許文献2には、コンクリート構造物の検査方法及び検査システムが記載されている。この検査システムは、球体を有するハンマーと、球体の加速度を検出する加速度センサと、加速度センサから延び出すケーブルと、ケーブルに接続されたモニタとを備える。モニタは、コンクリート構造物の弾性係数を算出するための電子計算機である。この検査方法では、コンクリート構造物の被測定部位にハンマーの球体が打撃され、球体とコンクリート構造物との接触時間と球体の速度が測定される。
【0004】
そして、上記の接触時間及び球体の速度と、球体のポアソン比と、球体の弾性係数と、球体の質量と、球体の半径と、コンクリート構造物のポアソン比とから、コンクリート構造物の弾性係数が算出される。算出されたコンクリート構造物の弾性係数は、予め設定された健全度閾値と比較される。そして、この弾性係数が当該健全度閾値よりも小さいときに、コンクリート構造物に浮き及び剥離のいずれかが生じていると評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-65349号公報
【特許文献2】特許第6709713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、石材は経年劣化によって風化するので、定期的に石材の強度を測定し、必要に応じて石材を補強する必要がある。しかしながら、大量の石材が現場にある場合があり、このような場合に現場の全ての石材の強度を測定するのが難しいことがある。従って、現場における石材の強度を容易に測定し、必要な場合には現場の石材を補強することが求められる。
【0007】
本開示は、経年劣化の可能性がある石材の強度を容易に測定し、必要に応じて石材を補強することができる品質評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る品質評価方法は、経年により風化する石材の品質評価方法である。品質評価方法は、現場からサンプルとしての石材を取得する工程と、ハンマーで石材の表面を打撃する工程と、ハンマーで表面を打撃したときにおけるハンマーの打撃速度、及び表面に対するハンマーの加速度を測定する工程と、打撃速度及び加速度から表面における強度を算出する工程と、表面を研磨しながら強度を算出する工程を繰り返すことによって石材の深度と強度との関係を取得する工程と、現場の石材の表面をハンマーで打撃して現場の石材の表面における強度を算出し、石材の深度と強度との関係から現場の石材の健全部の強度を推定する工程と、推定した強度が所定の閾値以下である場合に石材の少なくとも一部を置き換える工程と、を備える。
【0009】
この品質評価方法では、現場からサンプルとして経年劣化の可能性がある石材を取得し、取得した石材の表面をハンマーで打撃することによってハンマーの打撃速度、及び当該表面に対するハンマーの加速度を測定する。測定した打撃速度及び加速度から石材の表面における強度が算出される。そして、石材の表面を研磨しながら上記の強度の算出を繰り返すことにより、石材の深度と強度との関係を取得する。従って、現場からサンプルとして取得した石材から当該石材の深度と強度との関係を取得でき、健全部の強度を推定できる。また、現場の石材の表面をハンマーで打撃して当該表面における強度を算出し、サンプルの石材から取得した石材の深度と強度との関係から現場の石材の健全部の強度を推定する。現場では、経年劣化を伴う石材の強度は、劣化していない健全部の強度に大きく依存する。この品質評価方法では、現場において、予め取得した石材の深度と強度との関係から表面を打撃して石材の健全部の強度を推定できるので、経年劣化の可能性がある石材の強度を容易に推定できる。更に、推定した強度が所定の閾値以下である場合に石材の一部が置き換えられる。従って、石材の強度が当該閾値以下である場合に必要に応じて石材を補強することができる。
【0010】
本開示の別の側面に係る品質評価方法は、経年により風化する石材の品質評価方法である。品質評価方法は、現場からサンプルとしての石材を取得する工程と、ハンマーで石材の表面を打撃する工程と、ハンマーで表面を打撃したときにおけるハンマーの打撃速度、及び表面に対するハンマーの加速度を測定する工程と、打撃速度及び加速度から表面における強度を算出する工程と、表面を研磨しながら強度を算出する工程を繰り返すことによって石材の深度と強度との関係を取得する工程と、現場の石材の表面をハンマーで打撃して現場の石材の表面における強度を算出し、石材の深度と強度との関係から現場の石材の健全部の深さを推定する工程と、健全部の深さより深い位置まで延在するように現場の石材にアンカー基礎を設置する工程と、を備える。
【0011】
この品質評価方法では、前述した品質評価方法と同様、現場からサンプルとして経年劣化の可能性がある石材を取得し、取得した石材の表面を研磨しながら強度の算出を繰り返すことにより、石材の深度と強度との関係を取得する。従って、現場からサンプルとして取得した石材から当該石材の深度と強度との関係を取得できる。また、現場の石材の表面をハンマーで打撃して当該表面における強度を算出し、サンプルの石材から取得した石材の深度と強度との関係から現場の石材の健全部の深さを推定する。更に、健全部の深さより深い位置まで延在するように現場の石材にアンカー基礎を設置する。従って、推定した健全部の深さを用いて適切な深さとなるようにアンカー基礎を設置できるので、必要に応じた石材の補強が可能となる。
【0012】
品質評価方法は、石材の深度と強度との関係から現場の石材の補修を要する時期を推定する工程を更に備えてもよい。この場合、サンプルの石材から予め取得した深度と強度との関係から現場の石材の補修時期を推定できるので、石材の経年劣化を予測して適切なタイミングで石材を補強することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、経年劣化の可能性がある石材の強度を容易に測定し、必要に応じて石材を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る品質評価方法が適用される石材の例を示す側面図である。
図2】ハンマーで石材の表面を打撃する工程を模式的に示す図である。
図3】実施形態に係る品質評価方法の工程の例を示すフローチャートである。
図4】石材の深度と強度(弾性係数)との関係の例を示すグラフである。
図5】(a)及び(b)は、石材の深度と強度(弾性係数)との関係の例を示すグラフである。
図6】石材の深度と強度(弾性係数)との関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る品質評価方法の実施形態について説明する。図面の説明について同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る品質評価方法が適用される例示的な現場Aを示す図である。図1に示されるように、石材Bの上には構造物Sが構築される。すなわち、石材Bは構造物Sの基礎として用いられる。一例として、複数の石材Bが鉛直方向D1及び水平方向D2のそれぞれに沿って並んでいる。例えば、複数の石材Bは、地上に設けられる第1石材B1及び第2石材B2と、少なくとも一部が地中に埋まっている第3石材B3とを含む。
【0017】
現場Aでは、複数の石材Bの健全性が評価される。石材Bは、構造物Sを構成する既存の石材であり、経年により風化し、断面欠損又は強度低下が生じている可能性がある石材である。石材Bは、評価の結果、補修が必要であると判定された場合には、石材Bの補強、及び石材Bの置き換えの少なくともいずれかが行われる。
【0018】
ところで、構造物の劣化を評価する方法として、目視検査及び打音検査を含む非破壊検査が知られている。しかしながら、これらの方法は、主に石材Bの表層を対象とした評価方法であり、現場Aで劣化した石材Bを正確に評価するのは困難である。石材Bの劣化(風化)は石材Bの表面から石材Bの内部に向かって進行するので、上記の方法で現場Aの石材Bを正確に評価することは容易ではない。現場Aに石材Bが多数存在している場合には、石材Bの評価を正確且つ効率よく行えることが求められている。
【0019】
図2に示されるように、本実施形態では、石材Bの評価において打球探査法が用いられる。打球探査法は、柄4の先端に球形状の打撃部3が取り付けられており、且つ打撃部3に加速度計2が取り付けられたハンマー1が用いられる。ハンマー1は、品質評価対象である石材Bを打撃するためのものである。
【0020】
加速度計2は、打撃部3と石材Bとの衝突方向における加速度を計測する。ハンマー1で石材Bが打撃されたとき、加速度計2は、打撃部3と石材Bとの衝突によって発生する衝撃波形を加速度波形(加速度データ)として検知する。打撃部3は、例えば、金属製であり、打撃部3の直径は50mmである。
【0021】
打球探査法では、ハンマー1の打撃部3で石材Bを打撃したときに加速度計2から得られる加速度の波形からHertzの理論式を用いて迅速且つ簡易に弾性係数が求められる。本理論を用いることにより、打撃の強弱(打撃の際のエネルギーの大きさ)に左右されずに弾性係数を算定できる。
【0022】
本実施形態に係る石材Bの品質評価方法では、予め石材Bのサンプリング試験を行い、サンプリング試験の結果を用いて現場Aにおける石材Bの評価を行う。石材Bのサンプリング試験では、現場Aと同一条件下(気象条件等が同一である環境下)の石材Bからサンプル石材としての石材Bを取得する。そして、サンプル石材としての石材Bから打球探査法を用いて石材Bの強度と深さ(表面からの距離)との関係を求め、当該関係を用いて現場Aの石材Bを評価する。以下では、本実施形態に係る石材Bの品質評価方法の具体例について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る石材Bの品質評価方法における工程の例を示すフローチャートである。図3に示されるように、まず、現場Aからサンプル石材としての石材Bを取得する(石材を取得する工程、ステップS1)。このとき、現場Aから試験室の室内に石材Bを移動させ、その後、石材Bの室内試験を行う。
【0024】
石材Bの室内試験では、石材Bを打撃するハンマー1を用意する(ハンマーを用意する工程)。例えば、図2に示されるように、柄4の先端に打撃部3が取り付けられたハンマー1を用意し、打撃部3の表面に加速度計2を取り付ける。例えば、加速度計2からはケーブル5が延び出しており、ケーブル5にはチャージアンプ6、ターミナルパネル7、AD変換器8、及びコンピュータ(演算装置)9が接続される。
【0025】
次に、ハンマー1で石材Bの表面を打撃する(石材の表面を打撃する工程、ステップS2)。例えば、石材Bの表面Hに対して直角に打撃部3を打撃する。打撃部3で石材Bの表面Hが打撃されると、加速度計2が加速度波形を検知する。加速度計2によって検知された加速度波形は、例えば、加速度信号として、ケーブル5、チャージアンプ6、ターミナルパネル7、及びAD変換器8を介してコンピュータ9に送信される。チャージアンプ6は加速度計2からの加速度信号を増幅し、ターミナルパネル7は増幅された信号に含まれるノイズ成分を除去する。AD変換器8は、ノイズ除去後の信号をAD変換する。コンピュータ9は、加速度計2から得られる加速度信号に基づく演算を行い、石材Bの評価結果を出力する。
【0026】
次に、ハンマー1の打撃速度、及び石材Bの表面Hに対するハンマー1の加速度を算出する(ハンマーの打撃速度、及び表面に対するハンマーの加速度を測定する工程)。例えば、コンピュータ9は、ハンマー1の打撃部3が石材Bに接触するまでに加速度計2によって検出された打撃部3の加速度を積分してハンマー1の打撃速度(打撃部3の速度)を算出する。そして、コンピュータ9は、加速度計2から得られる加速度信号を解析してハンマー1の打撃部3と石材Bとの加速度を測定する。
【0027】
続いて、打撃速度及び加速度から石材Bの表面Hにおける強度を算出する(強度を算出する工程、ステップS3)。本実施形態では、コンピュータ9によって、石材Bの弾性係数が石材Bの強度として算出される。コンピュータ9は、上記の打撃速度及び加速度と、打撃部3のポアソン比と、打撃部3の弾性係数と、打撃部3の質量と、打撃部3の半径と、石材Bのポアソン比とから、石材Bの弾性係数を算出する。
【0028】
本実施形態では、Hertzの弾性接触理論を用いて石材Bの表面Hの弾性係数を表面Hの強度として算出する。Hertzの弾性接触理論によれば、後述の式(1)を用いて石材Bの表面Hの弾性係数Ecが求められる。
【数1】

ここで、Vは打撃速度、Tは接触時間、vは石材Bのポアソン比、vは打撃部3のポアソン比、Eは打撃部3の弾性係数、mは打撃部3の質量、rは打撃部3の半径、aは無次元係数である。上記の接触時間は、加速度計2によって測定された加速度とその時間変化から算出される。
【0029】
上記のように石材Bの表面Hの強度(弾性係数)を算出した後には、コア端面研磨機によって表面Hを研磨する(石材の表面を研磨する工程、ステップS4)。コア端面研磨機は、例えば、グラインダーである。表面Hを研磨した後には、前述と同様、ハンマー1の打撃部3で表面Hを打撃して表面Hの強度を算出する。
【0030】
ところで、前述したように、石材Bの風化は石材Bの表面Hから石材Bの内部に向かって進行するので、石材Bの表面Hを研磨しながら表面Hの強度の算出を繰り返すと、強度は徐々に高くなっていく。表面Hを研磨しながら表面Hの強度の算出を繰り返し行って強度が一定になったときの石材Bの深度(表面Hからの深さ)が石材Bの健全部(未風化部)の深度となる。よって、表面Hを研磨しながら表面Hの強度の算出を繰り返し、算出した強度が一定となった後に(ステップS5においてYES)、石材Bの強度と深度との関係を取得する(関係を取得する工程、ステップS6)。
【0031】
石材Bの強度と深度との関係としては、例えば図4のグラフに示されるような結果が得られる。図4は、石材Bの表面Hからの深度と弾性係数(GN/m)との関係を第1石材B1、第2石材B2及び第3石材B3ごと(第3石材B3は、第3石材B3の上部、及び第3石材B3の下部ごと)に示すグラフである。
【0032】
図4に示されるように、第1石材B1、第2石材B2及び第3石材B3のいずれも表面Hから遠ざかるほど(深くなるほど)弾性係数が増加している。これにより、本実施形態に係る品質評価方法では、石材Bの風化の程度を定量的に評価できることがわかる。また、一部が地中に埋まっている第3石材B3の表面H付近における弾性係数は、地上の第1石材B1及び第2石材B2の表面H付近における弾性係数よりも小さい。すなわち、一部が地中に埋まっている第3石材B3は、第1石材B1及び第2石材B2と比較して、表面Hにおける風化の程度が大きい。なお、第3石材B3の上部における弾性係数の傾向は、第3石材B3の下部における弾性係数の傾向と同様である。
【0033】
以上のように、第1石材B1と第2石材B2で健全度の傾向が一致し、第3石材B3の上部と第3石材B3の下部とで健全度の傾向が一致する。また、第1石材B1、第2石材B2及び第3石材B3のいずれであっても、表面Hからの深度が一定以上になると、弾性係数の上昇が緩やかになり弾性係数が安定する。図4の例では、表面Hからの深さが30(mm)以上であるときに弾性係数が安定しているので、石材Bの健全部の深さが30(mm)程度であることがわかる。
【0034】
図5(a)は、図4のグラフから第1石材B1及び第2石材B2における深度と弾性係数との関係を抜き出して得られたグラフである。図5(b)は、図4のグラフから第3石材B3の上部及び第3石材B3の下部における深度と弾性係数との関係を抜き出して得られたグラフである。図5(a)及び図5(b)では深さ30mm以上での弾性係数を1として正規化している。
【0035】
図5(a)の破線で示されるように、深度をx、弾性係数をyとすると、第1石材B1及び第2石材B2から、
y=0.0116x+0.6508(0≦x≦30)
y=1(30≦x)
という深度と強度(弾性係数)との関係を得られた。また、図5(b)の破線で示されるように、第3石材B3の上部、及び第3石材B3の下部から、
y=0.029x+0.1288(0≦x≦30)
y=1(30≦x)
という深度と強度との関係を得られた。
【0036】
以上のように、サンプル石材から深度と強度との関係を得た後には、例えば、現場Aにおける石材Bの健全部の強度を推定する(現場の石材の健全部の強度を推定する工程、ステップS7)。具体的には、前述したように、ハンマー1で現場Aの石材Bの表面を打撃し、コンピュータ9がハンマー1の打撃速度及び加速度を測定すると共に現場Aの石材Bの表面Hにおける強度(弾性係数)を算出する。そして、前述した深度と強度との関係から現場Aの石材Bの健全部の強度を推定する。
【0037】
例えば、第1石材B1又は第2石材B2と同一環境下における現場Aの石材Bに対しては、図5(a)に示される深度と強度との関係から健全部の強度を推定する。このとき、第1石材B1又は第2石材B2と同一環境下において、石材Bの健全部の深度が一定(一例として30mm)であるものとして、石材Bの健全部の強度を推定する。例えば、図5(a)のグラフの切片は0.6508であるため、現場Aの石材Bの表面Hにおける弾性係数Eから、当該石材Bの健全部の弾性係数Eを以下の式(2)から推定できる。
=E/0.6508 ・・・(2)
【0038】
一方、第3石材B3と同一環境下における現場Aの石材に対しては、図5(b)に示される深度と強度との関係から健全部の強度を推定する。例えば、図5(b)のグラフの切片は0.1288であるため、現場Aの石材Bの表面Hにおける弾性係数Eから、当該石材Bの健全部の弾性係数Eを以下の式(3)から推定できる。
=E/0.1288 ・・・(3)
以上のように、本実施形態では、互いに異なる複数種類のサンプル石材を試験することにより、複数種類の石材における強度の傾向をつかむことが可能である。
【0039】
また、サンプル石材から深度と強度との関係を得た後には、現場Aにおける石材Bの健全部の深さを推定してもよい(現場の石材の健全部の深さを推定する工程、ステップS7)。具体的には、前述したように、現場Aの石材Bの表面Hにおける強度を算出した後に、前述した深度と強度との関係から現場Aの石材Bの健全部の深さを推定する。
【0040】
例えば、第1石材B1又は第2石材B2と同一環境下における現場Aの石材Bに対しては、図5(a)に示される深度と強度との関係から健全部の深さを推定する。例えば、図5(a)の式と現場Aの石材Bの表面Hにおける正規化した弾性係数Eを用いると、当該石材Bの健全部の深さXを以下の式(4)から推定できる。
1=0.0116X+E ・・・(4)
【0041】
また、第3石材B3と同一環境下における現場Aの石材Bに対しては、図5(b)に示される深度と強度との関係から健全部の深さを推定する。具体的には、図5(b)の式と現場Aの石材Bの表面Hにおける正規化した弾性係数Eを用いると、当該石材Bの健全部の深さXを以下の式(5)から推定できる。
1=0.029X+E ・・・(5)
【0042】
以上のように、現場Aの石材Bの健全部の強度又は深さを推定した後には、現場Aの石材Bの補修が必要か否かを判定する(ステップS8)。このとき、例えば、現場Aの石材Bの健全部の強度が所定の閾値以上であるか否かが判定される。そして、補修が必要でないと判定された場合(ステップS8においてNO)、一連の工程が完了する。一方、補修が必要であると判定された場合(ステップS8においてYES)、例えば、現場Aの石材Bに対してアンカー基礎を設置する(アンカー基礎を設置する工程、ステップS9)。アンカー基礎を設置する工程は、例えば、ステップS7において推定された現場Aの石材Bの健全部の深さを基に実行される。このとき、アンカー基礎の根入れの深さが健全部の深さ以上となるようにアンカー基礎を設置する。例えば、健全部の深さが30mmであった場合、設置するアンカー基礎の根入れの深さは30mm以上となる。
【0043】
また、補修が必要であると判定された場合(ステップS8においてYES)、現場Aの石材Bの少なくとも一部を置き換えてもよい(石材の少なくとも一部を置き換える工程、ステップS9)。石材の少なくとも一部を置き換える工程は、例えば、ステップS7において推定された現場Aの石材Bにおける健全部の強度を基に実行される。このとき、例えば、風化が生じている石材Bが新たな石材Bに置き換えられる。また、当該置き換える工程は、ステップS7において推定された現場Aの石材Bにおける健全部の深さを基に実行されてもよい。
【0044】
以上のようにステップS9を実行した後に一連の工程が完了する。なお、ステップS9におけるアンカー基礎の設置、又は石材Bの置き換えに代えて、これらとは別の方法で石材Bを補修してもよい。このように、ステップS8において補修が必要と判定された場合における石材Bの補修方法及び補修手段は適宜変更可能である。
【0045】
次に、本実施形態に係る品質評価方法から得られる作用効果について説明する。前述したように、この品質評価方法では、現場Aからサンプルとして経年劣化の可能性がある石材Bを取得し、取得した石材Bの表面Hをハンマー1で打撃することによってハンマー1の打撃速度、及び表面Hに対するハンマー1の加速度を測定する。測定した打撃速度及び加速度から石材Bの表面Hにおける強度が算出される。そして、石材Bの表面Hを研磨しながら上記の強度の算出を繰り返すことにより、石材Bの深度と強度との関係を取得する。従って、現場Aからサンプルとして取得した石材Bから当該石材Bの深度と強度との関係を取得できる。
【0046】
また、現場Aの石材Bの表面Hをハンマー1で打撃して当該表面Hにおける強度を算出し、サンプルの石材Bから取得した石材Bの深度と強度との関係から現場Aの石材Bの健全部の強度を推定する。よって、現場Aでは、予め取得した石材Bの深度と強度との関係から表面Hを打撃して石材Bの健全部の強度を推定できるので、経年劣化の可能性がある石材Bの強度を容易に推定できる。
【0047】
更に、推定した強度が所定の閾値以下である場合に石材Bの一部が置き換えられる。従って、石材Bの強度が当該閾値以下である場合に必要に応じて石材Bを補強することができる。また、推定した強度が所定の閾値以下である場合には、健全部の深さより深い位置まで延在するように現場Aの石材Bにアンカー基礎を設置してもよい。この場合、推定した健全部の深さを用いて適切な深さとなるようにアンカー基礎を設置できるので、必要に応じた石材Bの補強が可能となる。
【0048】
以上、本開示に係る石材の品質評価方法の実施形態について説明した。しかしながら、本開示に係る品質評価方法は、前述した実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載した要旨の範囲内において適宜変更可能である。すなわち、品質評価方法の工程の内容及び順序は、前述の実施形態に限られず適宜変更可能である。
【0049】
例えば、品質評価方法は、図4図5(a)又は図5(b)に示されるサンプル石材としての石材Bにおける深度と強度との関係から現場Aの石材Bの補修を要する時期を推定してもよい(補修を要する時期を推定する工程)。例えば、図6に示されるグラフの式はy=0.0116x+0.6508であるが、時間の経過と共に0.6508という切片の値が小さくなって、当該グラフの傾斜部分がL1,L2のように変化する。一例として、L1は一定年数後を示しており、L2は更に一定年数後を示している。補修を要する時期を推定する工程では、このように一定年数後における深度と強度との関係を求め、健全部の深さが一定値以上、又は石材Bの表面Hの強度が一定値以下になったときに石材を補修してもよい。具体例として、深度と強度との関係がL1となる一定年数後、又はL2となる更に一定年数後に補修を行うといったことが可能となる。
【0050】
この場合、現場Aの石材Bに対し、必要な時期に必要な補修を行うことが可能となる。すなわち、サンプルの石材Bから予め取得した深度と強度との関係から現場Aの石材Bの補修時期を推定できるので、石材Bの経年劣化を予測して適切なタイミングで石材Bを補強することができる。
【0051】
また、前述の実施形態では、加速度計2にケーブル5、チャージアンプ6、ターミナルパネル7、AD変換器8及びコンピュータ9が接続されている例について説明した。しかしながら、石材Bをハンマー1で打撃したときに得られる加速度波形の信号処理装置としては、上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0052】
また、前述の実施形態では、石材Bの上には構造物Sが構築されており、石材Bが構造物Sの基礎として用いられる例について説明した。しかしながら、本開示に係る品質評価方法において対象となる石材は、上に構造物が構築されるものに限られず適宜変更可能である。このように、本開示に係る品質評価方法は、経年によって風化する石材であれば種々の石材に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…ハンマー、2…加速度計、3…打撃部、4…柄、5…ケーブル、6…チャージアンプ、7…ターミナルパネル、8…AD変換器、9…コンピュータ、A…現場、B…石材、B1…第1石材、B2…第2石材、B3…第3石材、D1…鉛直方向、D2…水平方向、H…表面、S…構造物。

図1
図2
図3
図4
図5
図6