(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137059
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】微生物、グルクロニダーゼ活性剤、プロバイオティクス組成物、食用組成物、及び更年期症状の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20230922BHJP
A61P 5/30 20060101ALI20230922BHJP
A61P 15/12 20060101ALI20230922BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230922BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P5/30
A61P15/12
A61P43/00 111
C12N1/20 E
C12N1/20 A
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043057
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】本田 真一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA60
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC57
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZC11
4C087ZC19
(57)【要約】
【課題】優れたグルクロニダーゼ活性を有し、安全性の高い微生物、グルクロニダーゼ活性剤、プロバイオティクス組成物、及び食用組成物、並びに体内のエストロゲンレベルを増大させることができ、安全性の高い更年期症状の予防又は治療用組成物の提供。
【解決手段】
Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有することを特徴とする微生物である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有することを特徴とする微生物。
【請求項2】
前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物が、受託番号:NITE BP-03419のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株、受託番号:NITE BP-03420のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株、及び受託番号:NITE BP-03421のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株のいずれかである、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
体内のエストロゲンレベルの増大のために用いられる、請求項1から2のいずれかに記載の微生物。
【請求項4】
エストロゲン代謝の改善のために用いられる、請求項1から2のいずれかに記載の微生物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするグルクロニダーゼ活性剤。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とする更年期症状の予防又は治療用組成物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするプロバイオティクス組成物。
【請求項8】
経口用組成物である、請求項6に記載の更年期症状の予防又は治療用組成物又は請求項7に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の微生物を含有することを特徴とする食用組成物。
【請求項10】
前記食用組成物が保健機能食品である、請求項9に記載の食用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、グルクロニダーゼ活性剤、プロバイオティクス組成物、食用組成物、及び更年期症状の予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
女性は加齢により卵巣の機能が低下し、これによりエストロゲンの分泌が大きく減少する。特に、閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた10年間を更年期といい、この時期は、ホルモンのバランスが崩れることで身体に様々な症状が引き起こされる。この更年期に生じる症状を更年期症状といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来たす状態を更年期障害という。また、卵巣除去術、子宮摘出術などの理由で早期閉経となる場合も、更年期症状を感じることがある。
【0003】
更年期症状は、程度の強弱に関わらず女性にとって精神的な苦痛となっている。こうした状況の中で、更年期症状を予防又は治療することにより、女性のQOL(Quality of Life)を向上させることが求められている。
【0004】
更年期症状は、主に、中枢神経系症状、皮膚、粘膜、又は毛髪の症状、性機能の症状、体重及び代謝の変化、泌尿生殖器系症状、筋骨格系症状などに分類されている(非特許文献1参照)。更年期症状が生じる最大の原因は、更年期における体内のエストロゲンレベルの急激な減少とされている(非特許文献2参照)。そのため、更年期症状の治療法としては、主に不足したエストロゲンを補うためのホルモン補充療法(HRT)が用いられている。しかしながら、ホルモン補充療法は、その副作用として、子宮出血、脳卒中、心臓発作、乳癌、子宮癌、胃腸障害、血栓症、肝障害などの発生リスクが高まるという問題がある。
【0005】
そのため、副作用がなく、更年期症状を予防又は治療することができる安全性の高い更年期症状の予防又は治療用組成物の開発が強く望まれている。
【0006】
エストロゲンは、卵巣、副腎、脂肪組織、その他の臓器などで産生され、肝臓で代謝を受け一部はグルクロン酸抱合体となる。このグルクロン酸抱合体は、胆汁酸と共に腸管内に分泌され、糞便とともに排泄される。腸管内に分泌されたグルクロン酸抱合体は、腸内細菌が有するβ-グルクロニダーゼ(GUS)活性によって脱抱合され、脱抱合されたエストロゲンは体内に再吸収される(非特許文献3参照)。
【0007】
健康な状態と十分なエストロゲンレベルは、腸の微生物の多様性を維持することが知られている。このような条件下では、有益な細菌が優勢であり、病原性を有する細菌の増殖を阻止し、腸内細菌叢の安定性が維持される。腸内細菌叢は、胃腸管にコロニーを形成する微生物の複雑なコミュニティである。一方、閉経後の女性では、エストロゲン欠乏により腸内細菌叢が変化し、腸内細菌の多様性が低下し、腸内細菌の量が減少する。これに対し、有益な微生物からなる栄養補助食品又は医療サプリメントであるプロバイオティクスは、腸内の微生物と協調して働き、宿主の健康を維持することが知られている(非特許文献4参照)。
【0008】
腸内細菌の一種である乳酸菌も、古くから発酵食品等の飲食品、医薬品、プロバイオティクスなどに利用されており、ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属に属する乳酸菌も種々の用途に使用されている安全性の高いものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Patrizia Monteleone et al., NatureReviewsEndocrinology, 2018, 14(4), p.199-215
【特許文献2】Nkechinyere Chidi-Ogbolu et al., Front Physiol, 2019, Vol.9, Article 1834
【特許文献3】Maryann Kwa et al., J Natl Cancer Inst, 2016, 8(8)
【特許文献4】Xin Xu et al., Bone Research, 2017, 5, 17046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れたグルクロニダーゼ活性を有し、安全性の高い微生物、グルクロニダーゼ活性剤、プロバイオティクス組成物、及び食用組成物、並びに体内のエストロゲンレベルを増大させることができ、安全性の高い更年期症状の予防又は治療用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有することを特徴とする微生物である。
<2> 前記<1>に記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするグルクロニダーゼ活性剤である。
<3> 前記<1>に記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とする更年期症状の予防又は治療用組成物である。
<4> 前記<1>に記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするプロバイオティクス組成物である。
<5> 前記<1>に記載の微生物を含有することを特徴とする食用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れたグルクロニダーゼ活性を有し、安全性の高い微生物、グルクロニダーゼ活性剤、プロバイオティクス組成物、及び食用組成物、並びに体内のエストロゲンレベルを増大させることができ、安全性の高い更年期症状の予防又は治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、試験例2において、基質としてpNGPを使用した場合のGUS活性の結果を示す図である。「●」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株の結果を示し、「▲」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株の結果を示し、「◆」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株の結果を示し、「■」は基準株である
Lacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425の結果を示す。
【
図2】
図2は、試験例2において、基質としてE1-3Gを使用した場合のGUS活性の結果を示す図である。「●」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株の結果を示し、「▲」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株の結果を示し、「◆」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株の結果を示し、「■」は基準株である
Lacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425の結果を示す。
【
図3】
図3は、試験例2において、基質としてE2-3Gを使用した場合のGUS活性の結果を示す図である。「●」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株の結果を示し、「▲」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株の結果を示し、「◆」は
Lacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株の結果を示し、「■」は基準株である
Lacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(微生物)
本発明の微生物は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有することを特徴とする微生物である。
前記微生物としては、Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、受託番号:NITE BP-03419のLacticaseibacillus rhamnosus(ラクチカゼイバチルス ラムノーサス) FLB-330株(以下、単に「FLB-330株」と称することがある)、受託番号:NITE BP-03420のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株(以下、単に「FLB-335株」と称することがある)、及び受託番号:NITE BP-03421のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株(以下、単に「FLB-495株」と称することがある)のいずれかであることが好ましい。前記微生物は、前記グルクロニダーゼ活性により、エストロゲンのグルクロン酸抱合体を脱抱合することができるものである。
【0015】
グルクロニダーゼには、α-グルクロニダーゼ(EC3.2.1.139)及びβ-グルクロニダーゼ(EC3.2.1.31)が存在する。
前記α-グルクロニダーゼは、α-D-グルクロノシド及び水を基質とし、アルコールとD-グルクロン酸を生成する加水分解酵素である。
前記β-グルクロニダーゼは、D-グルクロン酸のβ型配糖体に作用してそのグルクロニド結合を加水分解する酵素の総称である。前記β-グルクロニダーゼは、アグリコンに対する特異性が広く、アルコール、ステロイド、カルボン酸等のβ-D-グルクロニドにも作用する。
これらの中でも、前記微生物は、β-グルクロニダーゼ活性を有することが好ましい。
【0016】
前記微生物のグルクロニダーゼ活性を確認する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、公知のグルクロニダーゼの基質と、前記微生物とを反応させ、反応生成物の有無を確認する、あるいは反応生成物の濃度を測定する方法などが挙げられる。
【0017】
-FLB-330株の菌学的性状-
FLB-330株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0018】
1.形態観察及び生理学的・生化学的性状
FLB-330株の形態観察及び生理学的・生化学的性状は、下記表1に示す通りである。
【表1】
【0019】
2.炭素源に対する発酵能及びアルギニンジヒドラーゼ活性
FLB-330株の下記(1)~(49)の各種炭素源に対する発酵能及び下記(50)のアルギニンジヒドラーゼ活性は以下に示す通りである。下記(1)~(50)において、「+」は陽性を示し、「-」は陰性を示す。
(1) グリセロール:-
(2) エリスリトール:-
(3) D-アラビノース:-
(4) L-アラビノース:-
(5) リボース:+
(6) D-キシロース:-
(7) L-キシロース:-
(8) アドニトール:-
(9) β-メチル-D-キシロシド:-
(10) ガラクトース:+
(11) グルコース:+
(12) フラクトース:+
(13) マンノース:+
(14) ソルボース:+
(15) ラムノース:+
(16) ズルシトール:-
(17) イノシトール:-
(18) マンニトール:+
(19) ソルビトール:+
(20) α-メチル-D-マンノシド:-
(21) α-メチル-D-グルコシド:+
(22) N-アセチルグルコサミン:+
(23) アミグダリン:+
(24) アルブチン:+
(25) エスクリン:+
(26) サリシン:+
(27) セロビオース:+
(28) マルトース:+
(29) ラクトース:+
(30) メリビオース:-
(31) スクロース:-
(32) トレハロース:+
(33) イヌリン:-
(34) メレチトース:+
(35) ラフィノース:-
(36) でんぷん:-
(37) グリコーゲン:-
(38) キシリトール:-
(39) ゲンチオビオース:-
(40) D-ツラノース:+
(41) D-リキソース:-
(42) D-タガトース:+
(43) D-フコース:-
(44) L-フコース:-
(45) D-アラビトール:-
(46) L-アラビトール:-
(47) グルコネート:+
(48) 2-ケトグルコネート:-
(49) 5-ケトグルコネート:-
(50) アルギニンジヒドラーゼ活性:-
【0020】
3.16S rDNA部分塩基配列解析
分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16S rDNA(16S rRNA遺伝子)に関するFLB-330株の解析結果は以下に示す通りである。
FLB-330株のゲノムDNAから、PCR法により、16S rDNA部分の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った。この塩基配列の微生物同定システム「ENKI(登録商標)」(株式会社テクノスルガ・ラボ製)を用いたDB-BA(株式会社テクノスルガ・ラボ製)及び国際塩基配列データベースに対するBLAST相同性検索の結果、FLB-330株の16S rDNA部分塩基配列は、Lacticaseibacillus rhamnosusの基準株NBRC 3425(アクセッション番号:AB626049)に対し相同率100%の相同性を示した。
DB-BAに対する相同性検索で得られた塩基配列を基に解析した分子系統樹において、FLB-330株は、Lacticaseibacillus属が構成するクラスター内に含まれ、基準株であるLacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425と同一の分子系統学的位置を示した。
【0021】
以上の結果より、FLB-330株は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属するものと考えられる。そこで、FLB-330株をLacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株とした。
なお、FLB-330株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託申請し、2021年6月1日に受託番号:NITE BP-03419として国際寄託されている。
【0022】
-FLB-335株の菌学的性状-
FLB-335株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0023】
1.形態観察及び生理学的・生化学的性状
FLB-335株の形態観察及び生理学的・生化学的性状は、下記表2に示す通りである。
【表2】
【0024】
2.炭素源に対する発酵能及びアルギニンジヒドラーゼ活性
FLB-335株の下記(1)~(49)の各種炭素源に対する発酵能及び下記(50)のアルギニンジヒドラーゼ活性は以下に示す通りである。下記(1)~(50)において、「+」は陽性を示し、「-」は陰性を示す。
(1) グリセロール:-
(2) エリスリトール:-
(3) D-アラビノース:-
(4) L-アラビノース:-
(5) リボース:+
(6) D-キシロース:-
(7) L-キシロース:-
(8) アドニトール:-
(9) β-メチル-D-キシロシド:-
(10) ガラクトース:+
(11) グルコース:+
(12) フラクトース:+
(13) マンノース:+
(14) ソルボース:+
(15) ラムノース:+
(16) ズルシトール:-
(17) イノシトール:-
(18) マンニトール:+
(19) ソルビトール:+
(20) α-メチル-D-マンノシド:-
(21) α-メチル-D-グルコシド:+
(22) N-アセチルグルコサミン:+
(23) アミグダリン:+
(24) アルブチン:+
(25) エスクリン:+
(26) サリシン:+
(27) セロビオース:+
(28) マルトース:+
(29) ラクトース:+
(30) メリビオース:-
(31) スクロース:-
(32) トレハロース:+
(33) イヌリン:-
(34) メレチトース:+
(35) ラフィノース:-
(36) でんぷん:-
(37) グリコーゲン:-
(38) キシリトール:-
(39) ゲンチオビオース:-
(40) D-ツラノース:+
(41) D-リキソース:-
(42) D-タガトース:+
(43) D-フコース:-
(44) L-フコース:-
(45) D-アラビトール:-
(46) L-アラビトール:-
(47) グルコネート:+
(48) 2-ケトグルコネート:-
(49) 5-ケトグルコネート:-
(50) アルギニンジヒドラーゼ活性:-
【0025】
3.16S rDNA部分塩基配列解析
分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16S rDNA(16S rRNA遺伝子)に関するFLB-335株の解析結果は以下に示す通りである。
FLB-335株のゲノムDNAから、PCR法により、16S rDNA部分の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った。この塩基配列の微生物同定システム「ENKI(登録商標)」(株式会社テクノスルガ・ラボ製)を用いたDB-BA(株式会社テクノスルガ・ラボ製)及び国際塩基配列データベースに対するBLAST相同性検索の結果、FLB-335株の16S rDNA部分塩基配列は、Lacticaseibacillus rhamnosusの基準株NBRC 3425(アクセッション番号:AB626049)に対し相同率100%の相同性を示した。
DB-BAに対する相同性検索で得られた塩基配列を基に解析した分子系統樹において、FLB-335株は、Lacticaseibacillus属が構成するクラスター内に含まれ、基準株であるLacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425と同一の分子系統学的位置を示した。
【0026】
以上の結果より、FLB-335株は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属するものと考えられる。そこで、FLB-335株をLacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株とした。
なお、FLB-335株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託申請し、2021年6月1日に受託番号:NITE BP-03420として国際寄託されている。
【0027】
-FLB-459株の菌学的性状-
FLB-459株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0028】
1.形態観察及び生理学的・生化学的性状
FLB-459株の形態観察及び生理学的・生化学的性状は、下記表3に示す通りである。
【表3】
【0029】
2.炭素源に対する発酵能及びアルギニンジヒドラーゼ活性
FLB-459株の下記(1)~(49)の各種炭素源に対する発酵能及び下記(50)のアルギニンジヒドラーゼ活性は以下に示す通りである。下記(1)~(50)において、「+」は陽性を示し、「-」は陰性を示す。
(1) グリセロール:-
(2) エリスリトール:-
(3) D-アラビノース:-
(4) L-アラビノース:-
(5) リボース:+
(6) D-キシロース:-
(7) L-キシロース:-
(8) アドニトール:-
(9) β-メチル-D-キシロシド:-
(10) ガラクトース:+
(11) グルコース:+
(12) フラクトース:+
(13) マンノース:+
(14) ソルボース:+
(15) ラムノース:+
(16) ズルシトール:-
(17) イノシトール:-
(18) マンニトール:+
(19) ソルビトール:+
(20) α-メチル-D-マンノシド:-
(21) α-メチル-D-グルコシド:+
(22) N-アセチルグルコサミン:+
(23) アミグダリン:+
(24) アルブチン:+
(25) エスクリン:+
(26) サリシン:+
(27) セロビオース:+
(28) マルトース:+
(29) ラクトース:+
(30) メリビオース:-
(31) スクロース:+
(32) トレハロース:+
(33) イヌリン:-
(34) メレチトース:+
(35) ラフィノース:-
(36) でんぷん:-
(37) グリコーゲン:-
(38) キシリトール:-
(39) ゲンチオビオース:+
(40) D-ツラノース:+
(41) D-リキソース:-
(42) D-タガトース:+
(43) D-フコース:-
(44) L-フコース:-
(45) D-アラビトール:-
(46) L-アラビトール:-
(47) グルコネート:-
(48) 2-ケトグルコネート:-
(49) 5-ケトグルコネート:-
(50) アルギニンジヒドラーゼ活性:-
【0030】
3.16S rDNA部分塩基配列解析
分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16S rDNA(16S rRNA遺伝子)に関するFLB-459株の解析結果は以下に示す通りである。
FLB-459株のゲノムDNAから、PCR法により、16S rDNA部分の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った。この塩基配列の微生物同定システム「ENKI(登録商標)」(株式会社テクノスルガ・ラボ製)を用いたDB-BA(株式会社テクノスルガ・ラボ製)及び国際塩基配列データベースに対するBLAST相同性検索の結果、FLB-459株の16S rDNA部分塩基配列は、Lacticaseibacillus rhamnosusの基準株NBRC 3425(アクセッション番号:AB626049)に対し相同率100%の相同性を示した。
DB-BAに対する相同性検索で得られた塩基配列を基に解析した分子系統樹において、FLB-459株は、Lacticaseibacillus属が構成するクラスター内に含まれ、基準株であるLacticaseibacillus rhamnosus NBRC 3425と同一の分子系統学的位置を示した。
【0031】
以上の結果より、FLB-459株は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属するものと考えられる。そこで、FLB-459株をLacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株とした。
なお、FLB-459株は独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託申請し、2021年6月1日に受託番号:NITE BP-03421として国際寄託されている。
【0032】
なお、Lactobacillus属細菌は系統的に多様であり、生理学的又は生化学的特徴も菌種間で大きく異なることが以前より報告されていたことから、2020年にゲノムレベルで属分類が行われた。(Zheng J et al., Int J Syst Evol Microbiol, 2020, Apr;70(4), p.2782-2858参照)。
FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株が属するLacticaseibacillus rhamnosusは、2020年の属分類以前の分類におけるLactobacillus rhamnosus(ラクトバチルス ラムノーサス)に該当する。
【0033】
他の菌にも見られるように、FLB-330株、FLB-335株、又はFLB-459株は性状が変化することがあるが、本発明の微生物には、前記グルクロニダーゼ活性を有する限り、FLB-330株、FLB-335株、又はFLB-459株の性状が変化したものも含まれる。
前記FLB-330株、FLB-335株、又はFLB-459株の性状が変化したものとしては、例えば、FLB-330株、FLB-335株、又はFLB-459株に由来する突然変異株(例えば、自然変異株や、紫外線、エックス線、放射線、薬品等の変異処理により取得できる人工変異株)、遺伝子組換体(例えば、形質転換体)などが挙げられる。
【0034】
前記微生物を培養する方法としては、例えば、前記微生物を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、生育可能な温度で培養する方法などが挙げられる。
【0035】
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来乳酸菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
炭素源としては、例えば、D-リボース、D-ガラクトース、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-マンニトール、N-アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、D-セロビオース、D-マルトース、シュクロース、D-トレハロース、ゲンチオビオース、糖蜜、水飴、油脂類等の有機炭素化合物などを使用することができる。
窒素源として、例えば、肉エキス、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、胚芽、大豆粉、尿素、アミノ酸、ペプチド、コーン・スティープ・リカー、アンモニウム塩等の有機又は無機窒素化合物などを使用することができる。
また、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩等の無機塩類も使用することもできる。
更に、クエン酸等の有機酸、ビオチン、ビタミンB1等のビタミン類、シスチン、界面活性剤、オレイン酸メチル、ラード油等の生育促進物質を使用してもよい。
これらの栄養培地の材料は、FLB-330株、FLB-335株、又はFLB-459株が利用し得るものであればよく、公知の培養材料は全て用いることができる。
前記培地のpHとしても、前記微生物の発育が実質的に阻害されない範囲であれば、特に制限はないが、3.0~8.0が好ましい。
調製済みの栄養培地としては、例えば、MRS培地、GAM培地、ロゴザ培地などが挙げられる。
【0036】
前記微生物の培養条件としては、特に制限はなく、Lactobacillus属の微生物に対して行われる一般的な培養条件に準じて行うことができ、液体培養法であれば、静置培養することが好ましい。培養のスケールとしても、特に制限はなく、試験管、フラスコ、発酵槽等で培養することができる。
【0037】
前記微生物の培養温度としては、前記微生物の発育が実質的に阻害されない範囲であれば、特に制限はないが、15℃~45℃が好ましく、30℃~40℃がより好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
体内に存在する前記エストロゲンのグルクロン酸抱合体としては、下記構造式(1)で表されるエストロン3-(β-D-グルクロニド)(E1-3G)、下記構造式(2)で表されるエストラジオール3-(β-D-グルクロニド)(E2-3G)、下記構造式(3)で表されるエストラジオール17-(β-D-グルクロニド)(E2-17G)、下記構造式(4)で表されるエストリオール3-(β-D-グルクロニド)(E3-3G)、下記構造式(5)で表されるエストリオール16-(β-D-グルクロニド)(E3-16G)、下記構造式(6)で表されるエストリオール17-(β-D-グルクロニド)(E3-17G)などが知られている。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0039】
エストロゲンには、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、及びエストリオール(E3)の3種類が存在するが、閉経以前に産生される主要なエストロゲンは、エストラジオール(E2)である。
前記E1-3Gが脱抱合されるとエストロン(E1)となり、前記E2-3G又は前記E2-17Gが脱抱合されるとエストラジオール(E2)となり、前記E3-3G、前記E3-16G、又は前記E3-17Gが脱抱合されるとエストリオール(E3)となる(SamanthaM.Ervinetal.,JBiolChem,2019Dec6,294(49),p.18586–18599参照)。
【0040】
前記微生物は、前記E1-3G、前記E2-3G、前記E2-17G、前記E3-3G、前記E3-16G、及び前記E-17Gのいずれも脱抱合することができるが、グルクロン酸抱合体E2-3Gを脱抱合することが好ましい。
【0041】
-用途-
前記微生物は、グルクロニダーゼ活性を有し、安全性が高いものである。そのため、体内におけるエストロゲンレベルの増大のため、体内におけるエストロゲン代謝の改善のため、腸管内におけるグルクロニダーゼ活性の増強のため、あるいは更年期症状の予防又は治療のために好適に用いることができる。したがって、前記微生物を投与する体内のエストロゲンレベルの増大方法、前記微生物を投与するエストロゲン代謝の改善方法、前記微生物を投与するグルクロニダーゼ活性の増強方法、及び前記微生物を投与する更年期症状の予防又は治療方法についても、本発明の範囲内である。
また、前記微生物は、後述するグルクロニダーゼ活性剤、更年期症状の予防又は治療用組成物、プロバイオティクス組成物、食用組成物、及び微生物含有組成物にも好適に用いることができる。
【0042】
なお、本明細書において「エストロゲンレベルの増大」とは、前記微生物の投与前又は非投与群と比較して、前記微生物の投与後又は投与群において、体内のエストロゲン濃度が増加していることをいう。
【0043】
体内のエストロゲンレベルを測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、血中のエストロゲンの濃度を、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ質量分析法により測定する方法などが挙げられる。
【0044】
また、本明細書において「エストロゲン代謝の改善」とは、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物のグルクロニダーゼ活性により、体内のエストロゲンレベル又はエストロゲン代謝を健常な状態に近づける、あるいは健常な状態に戻すことをいう。
【0045】
(グルクロニダーゼ活性剤)
本発明のグルクロニダーゼ活性剤は、グルクロニダーゼ活性を有するLacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を有効成分として含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0046】
通常、腸管内に分泌されたエストロゲンのグルクロン酸抱合体は、腸内細菌が有するβ-グルクロニダーゼ活性により、エストロゲンのグルクロン酸抱合体がエストロゲンに脱抱合され、腸管から再吸収される。しかしながら、閉経や加齢に伴い体内のエストロゲンレベルは低下する。
これに対し、前記グルクロニダーゼ活性剤が含有する前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物は、グルクロニダーゼ活性を有するため、エストロゲンのグルクロン酸抱合体を脱抱合することができ、かつ安全性が高いものであるため、例えば、前記グルクロニダーゼ活性剤を摂取することで、腸管内に分泌されたエストロゲンのグルクロン酸抱合体の脱抱合を促進することができ、これにより体内のエストロゲンレベルを増大させることができる点で有利である。
【0047】
<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>
前記グルクロニダーゼ活性剤に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物としては、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、上記の(微生物)の項目に記載の通りである。
【0048】
前記グルクロニダーゼ活性剤に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の生菌体又は菌体の破砕物であることが好ましい。
【0049】
前記生菌体としては、湿潤菌体であってもよく、乾燥菌体であってもよく、具体例としては、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の培養物、前記培養物の濃縮物、前記培養物の乾燥物、前記培養物の希釈物などが挙げられる。
【0050】
前記培養物を乾燥させる方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、真空乾燥法、ドラム乾燥法などが挙げられる。
【0051】
前記菌体の破砕物は、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなった状態をいう。
前記菌体の破砕物を得る方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ビーズ破砕法、圧力破砕法、超音波破砕法、回転刃破砕法などが挙げられる。
【0052】
前記グルクロニダーゼ活性剤における前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の含有量としては、グルクロニダーゼ活性を奏することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記グルクロニダーゼ活性剤は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよいが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかを含有することが好ましく、グルクロニダーゼ活性の点で、少なくともFLB-459株を含有することがより好ましい。
なお、前記グルクロニダーゼ活性剤は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物そのものであってもよい。
【0053】
<その他の成分>
前記グルクロニダーゼ活性剤における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の医薬品、食品、化粧品などに用いられる成分を剤型などに応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、矯臭剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、油脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記グルクロニダーゼ活性剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
-用途-
前記グルクロニダーゼ活性剤は、優れたグルクロニダーゼ活性を有するため、例えば、体内におけるエストロゲンレベルの増大のため、体内におけるエストロゲン代謝の改善のため、腸管内におけるグルクロニダーゼ活性の増強のため、あるいは更年期症状の予防又は治療のために用いることができる。
また、前記グルクロニダーゼ活性剤は、後述する更年期症状の予防又は治療用組成物、プロバイオティクス組成物、食用組成物などとして好適に用いることができ、グルクロニダーゼ活性に関する研究の試薬としても用いることができる。
【0056】
前記グルクロニダーゼ活性剤の用法、剤型、個体への投与量、投与間隔、対象とする個体としては、特に制限はなく、投与対象の年齢、状態、体重、体内における活性成分の吸収度、不活性率、排泄速度、更年期症状以外の疾病の有無、併用される薬物の有無又は種類などに応じて適宜選択することができる。
【0057】
前記用法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口用、非経口用などの用法が挙げられる。
前記非経口としては、例えば、経皮、経腸、経粘膜、経静脈、経動脈、皮下、筋肉内などが挙げられる。
これらの中でも経口用が好ましい。
【0058】
前記グルクロニダーゼ活性剤の剤型としては、特に制限はなく、用法などに応じて公知の剤型の中から適宜選択することができる。前記剤型は、固形状であってもよいし、半固形状であってもよいし、液状であってもよく、例えば、錠剤、粉剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、顆粒剤、散剤、内服液剤、エリキシル剤、シロップ剤、ドリンク剤、トローチ、うがい薬等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、スプレー剤、吸入散布剤、坐剤等の非経口投与剤などが挙げられる。
前記剤型のグルクロニダーゼ活性剤は、公知の方法により製造することができる。
【0059】
前記グルクロニダーゼ活性剤の対象とする個体としては、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サル、ウマ、ヤギ、トリなど)に対して適用することもできる。
【0060】
(更年期症状の予防又は治療用組成物)
本発明の更年期症状の予防又は治療用組成物は、グルクロニダーゼ活性を有するLacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を有効成分として含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0061】
女性において、卵巣の機能が低下し、月経が停止(無月経)した状態を「閉経」といい、無月経の状態が12カ月間以上続いた場合に、閉経したと判断される。閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた10年間を「更年期」という。更年期に現れる様々な症状の中で、他の病気に起因するものではない症状を「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来たす状態を「更年期障害」という。なお、本明細書における「更年期症状の予防又は治療」には、「更年期障害の予防又は治療」も含まれる。
【0062】
前記更年期症状としては、例えば、血管運動症状(顔面紅潮(ホットフラッシュ)、発汗、冷え、しびれなど)、睡眠障害(不眠など)、うつ(気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定など)、不安、認知の変化、記憶力減退、集中力減退、頭痛、めまい、視力減退、動悸(頻脈)、胸が締め付けられる感じ等の中枢神経系症状;皮膚の厚さの低下、弾力性の低下、保湿力の低下、しわの増加、脱毛等の皮膚、粘膜、又は毛髪の症状;性欲の減少、性交疼痛症等の性機能の症状;体重増加、内臓脂肪の増加、胴囲の増加等の体重及び代謝の変化;膣の乾燥、外陰部のかゆみ又は灼熱感、排尿障害、頻尿、切迫(urgency)、再発性下部尿路感染症等の泌尿生殖器系症状;関節痛、サルコペニア、肩こり、腰痛、背部痛、筋肉痛等の筋骨格系症状などが挙げられる(Patrizia Monteleone et al., NatureReviewsEndocrinology, 2018, 14(4), p.199-215参照)。また、ホルモン変化による骨多孔症(骨粗鬆症)も前記更年期症状のひとつである。
【0063】
前記更年期症状の主な原因は、女性ホルモンであるエストロゲンレベルの低下である。これに対し、前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を含有するため、該更年期症状の予防又は治療用組成物を摂取することで、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物のグルクロニダーゼ活性により、腸管内に分泌されたエストロゲンのグルクロン酸抱合体の脱抱合し、エストロゲンの再吸収を促進することができ、これにより体内のエストロゲンレベルを増大させることができるため、前記更年期症状を予防又は治療することができる点で有利である。
【0064】
本明細書において、「更年期症状の予防」とは、前記更年期症状の予防又は治療用組成物が含有する前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物のグルクロニダーゼ活性により、体内のエストロゲンレベル又はエストロゲン代謝を健常な状態に維持することをいう。これにより、前記更年期症状の発症を遅延させる、あるいは発症しないようにすることができる。
【0065】
本明細書において、「更年期症状の治療」とは、前記更年期症状の予防又は治療用組成物が含有する前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物のグルクロニダーゼ活性により、体内のエストロゲンレベル又はエストロゲン代謝を健常な状態に近づける、あるいは健常な状態に戻すことをいう。これにより、前記更年期症状を軽減又は緩和することができる。
【0066】
本明細書において、「健常な状態」とは、エストロゲンレベル又はエストロゲン代謝が閉経前と同等の状態、あるいは更年期症状を感じない状態を意味する。
【0067】
<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>
前記更年期症状の予防又は治療用組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物としては、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、上記の(微生物)の項目に記載の通りである。
【0068】
前記更年期症状の予防又は治療用組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の生菌体又は菌体の破砕物であることが好ましい。
前記生菌体又は菌体の破砕物としては、上記の(グルクロニダーゼ活性剤)の<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>の項目に記載のものと同様のものなどが挙げられる。
【0069】
前記更年期症状の予防又は治療用組成物における前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の含有量としては、更年期症状を予防又は治療することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよいが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかを含有することが好ましく、グルクロニダーゼ活性の点で、少なくともFLB-459株を含有することが好ましい。
なお、前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物そのものであってもよい。
【0070】
<その他の成分>
前記更年期症状の予防又は治療用組成物における前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容される担体などが挙げられる。
【0071】
前記薬学的に許容される担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、添加剤、補助剤、溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。
【0073】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
【0074】
前記更年期症状の予防又は治療用組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0075】
前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、他の成分を有効成分とする医薬等に配合された状態で使用してもよい。
【0076】
前記更年期症状の予防又は治療用組成物の用法、剤型、個体への投与量、投与間隔、対象とする個体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記したグルクロニダーゼ活性剤の用法、剤型、個体への投与量、投与間隔、対象とする個体と同様とすることができる。これらの中でも、前記更年期症状の予防又は治療用組成物の用法は経口用が好ましく、前記更年期症状の予防又は治療用組成物の剤型は経口投与剤が好ましい。したがって前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、経口用組成物として好適に用いられる。
また、前記剤型の更年期症状の予防又は治療用組成物は、公知の方法により製造することができる。
【0077】
-用途-
前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、優れたグルクロニダーゼ活性を有する前記微生物を含有するため、例えば、体内におけるエストロゲンレベルの増大のため、体内におけるエストロゲン代謝の改善のため、あるいは腸管内におけるグルクロニダーゼ活性の増強のために好適に用いることができる。また、医薬品、医薬部外品等の医薬品組成物として好適に用いることができる。
また、前記更年期症状の予防又は治療用組成物は、更年期症状に関する研究の試薬としても用いることができる。
【0078】
(プロバイオティクス組成物)
本発明のプロバイオティクス組成物は、グルクロニダーゼ活性を有するLacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
本明細書において「プロバイオティクス」とは、腸内で有益な働きをする細菌を意味する。
【0079】
<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>
前記プロバイオティクス組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物としては、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、上記の(微生物)の項目に記載の通りである。
【0080】
前記プロバイオティクス組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の生菌体又は菌体の破砕物であることが好ましい。
前記生菌体又は菌体の破砕物としては、上記の(グルクロニダーゼ活性剤)の<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>の項目に記載のものと同様のものなどが挙げられる。
【0081】
前記プロバイオティクス組成物における前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記プロバイオティクス組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよいが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかを含有することが好ましく、グルクロニダーゼ活性の点で、少なくともFLB-459株を含有することが好ましい。
なお、前記プロバイオティクス組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物そのものであってもよい。
【0082】
<その他の成分>
前記プロバイオティクス組成物に含有されるその他の成分は、上記した(グルクロニダーゼ活性剤)の<その他の成分>の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
前記プロバイオティクス組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0083】
前記プロバイオティクス組成物の用法、剤型、個体への投与量、投与間隔、対象とする個体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記したグルクロニダーゼ活性剤の用法、剤型、個体への投与量、投与間隔、対象とする個体と同様とすることができる。これらの中でも、前記プロバイオティクス組成物の用法は経口用が好ましく、前記プロバイオティクス組成物の剤型は経口投与剤が好ましい。したがって前記プロバイオティクス組成物は、経口用組成物として好適に用いられる。
また、前記剤型のプロバイオティクス組成物は、公知の方法により製造することができる。
【0084】
-用途-
前記プロバイオティクス組成物は、優れたグルクロニダーゼ活性を有する前記微生物を含有するため、例えば、体内におけるエストロゲンレベルの増大のため、体内におけるエストロゲン代謝の改善のため、腸管内におけるグルクロニダーゼ活性の増強のため、あるいは更年期症状の予防又は治療のために好適に用いることができる。
【0085】
(食用組成物)
本発明の食用組成物は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物及び食用成分を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0086】
前記食用組成物とは、人の健康に危害を加える恐れが少なく、通常の社会生活において、経口により摂取されるものをいう。したがって、前記食用組成物は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、病者用食品等を構成する食品を幅広く含むものを意味する。また、飲料も含まれる。
【0087】
<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>
前記食用組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物としては、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、上記の(微生物)の項目に記載の通りである。
【0088】
前記食用組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の生菌体又は菌体の破砕物であることが好ましい。
前記生菌体又は菌体の破砕物としては、上記の(グルクロニダーゼ活性剤)の<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>の項目に記載のものと同様のものなどが挙げられる。
【0089】
前記食用組成物における前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記食用組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよいが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかを含有することが好ましく、グルクロニダーゼ活性の点で、少なくともFLB-459株を含有することが好ましい。
【0090】
<食用成分>
本明細書において「食用成分」とは、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、ビタミン、カロチン等の栄養素を含有する成分を意味する。
前記食用組成物における前記食用成分の含有量としては、特に制限はなく、目的とする食用組成物の種類に応じて適宜選択することができる。
【0091】
前記食用組成物の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳酸菌飲料、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物又はその加工食品;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産又は畜産加工食品;発酵乳、発酵豆乳、加工乳、発酵乳、ヨーグルト等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂又は油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康用、美容用、又は栄養補助用の食品などが挙げられる。
【0092】
前記食用組成物の製造方法としては、前記グルクロニダーゼ活性剤を含有させることができる限り、特に制限はなく、前記食用組成物の種類に応じて公知の方法を適宜選択することができる。
【0093】
-用途-
前記食用組成物は、優れたグルクロニダーゼ活性を有する前微生物を含有するため、例えば、体内におけるエストロゲンレベルの増大のため、体内におけるエストロゲン代謝の改善のため、腸管内におけるグルクロニダーゼ活性の増強のため、あるいは更年期症状の予防又は治療のために用いることができる。
【0094】
(微生物含有組成物)
<微生物含有組成物>
本発明の微生物含有組成物は、Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0095】
<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>
前記微生物含有組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物としては、グルクロニダーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、上記の(微生物)の項目に記載の通りである。
【0096】
前記微生物含有組成物に含有される前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の生菌体又は菌体の破砕物であることが好ましい。
前記生菌体又は菌体の破砕物としては、上記の(グルクロニダーゼ活性剤)の<Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物>の項目に記載のものと同様のものなどが挙げられる。
【0097】
前記微生物含有組成物における前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記微生物含有組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよいが、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株から選択される少なくともいずれかを含有することが好ましく、グルクロニダーゼ活性の点で、少なくともFLB-459株を含有することがより好ましい。
なお、前記微生物含有組成物は、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物そのものであってもよい。
【0098】
<その他の成分>
前記微生物含有組成物における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記の(グルクロニダーゼ活性剤)の<その他の成分>の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
また、前記微生物含有組成物は、その他の微生物を含んでいてもよい。
【0099】
前記微生物含有組成物の製造方法としては、前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物を含有させることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができる。
【0100】
-用途-
前記微生物含有組成物は、前記プロバイオティクス組成物、前記グルクロニダーゼ活性剤、前記食用組成物、前記更年期症状の予防又は治療用組成物などに好適に用いることができる。
【実施例0101】
以下に試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0102】
(試験例1)
エストロゲンのグルクロン酸抱合体を脱抱合し得る、β-グルクロニダーゼ(GUS)活性を有する乳酸菌を、以下の方法で選抜した。
【0103】
MRS液体培地(BD DifcoTM ラクトバシラスMRSブロス、ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、Lacticaseibacillus rhamnosusの基準株であるNBRC 3425株(NBRCより入手)を含む375株の乳酸菌を、それぞれ37℃にて24時間、前培養(静置培養)した。
次に、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロニドシクロヘキシルアンモニウム(X-Gluc)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)を終濃度が200μg/mLとなるように添加したMRS液体培地(BD DifcoTM ラクトバシラスMRSブロス、ベクトン・ディッキンソン社製)に、前記MRS液体培地で前培養した各乳酸菌を終濃度0.1%(v/v)となるように植菌し、37℃にて72時間静置培養した。
培養終了後、培養液の色を確認し、X-Glucが加水分解されることで生成した青色色素(5,5’-ジブロモ-4,4’-ジクロロ-インディゴ)の存在により、培養液が青色から青緑色の呈色を示した乳酸菌を、GUS活性を有する乳酸菌として選抜した。
【0104】
選抜された乳酸菌3株は、それぞれFLB-330株(受託番号:NITE BP-03419)、FLB-335株(受託番号:NITE BP-03420)、及びFLB-459株(受託番号:NITE BP-03421)とした。FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株の菌学的性状は、上述の(微生物)の項目に記載の通りであり、Lacticaseibacillus rhamnosusに属する乳酸菌であった。
また、Lacticaseibacillus rhamnosusの基準株であるNBRC 3425株にはGUS活性は無いことが分かった。
【0105】
(試験例2)
試験例1で選抜されたFLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株、並びにLacticaseibacillus rhamnosusの基準株のNBRC 3425株を用いて、GUS活性及び基質特異性について、以下の方法で確認した。
【0106】
<菌体破砕液の調製>
MRS液体培地(BD DifcoTMラクトバシラスMRSブロス、ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、FLB-330株、FLB-335株、FLB-459株、又はNBRC 3425株を、それぞれ37℃にて24時間、前培養(静置培養)した。
次に、MRS液体培地(BD DifcoTMラクトバシラスMRSブロス、ベクトン・ディッキンソン社製)に、前記MRS液体培地で前培養した各乳酸菌を終濃度0.1%(v/v)となるように植菌し、37℃にて48時間培養した。
培養終了後、培養液を遠心分離し、培養上清を除去し、培養した乳酸菌の菌体を得た。前記乳酸菌の菌体に、前記除去した培養上清と等量のGUSバッファー(2.5mMエチレンジアミン四酢酸を添加した100mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.0)を添加し、前記菌体を洗浄後、遠心分離して上清を除いた。これと同様の方法で2回目の洗浄を行い、乳酸菌の菌体を得た。
得られた乳酸菌の菌体に、該菌体量の24倍量(v/w)の前記GUSバッファーを添加して懸濁し、次に該菌体量の20倍量(w/w)のガラスビ-ズを加え、マルチビーズショッカー(登録商標)(安井器械株式会社製)で破砕した。次に、前記破砕物を遠心分離により上清(乳酸菌の菌体破砕液)を得た。
【0107】
<GUS活性の評価>
得られた各乳酸菌の菌体破砕液(前記GUSバッファーにてタンパク終濃度0.25mg/mLに調整)に、基質として、4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド(pNGP)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)、エストロン3-(β-D-グルクロニド)(E1-3G)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)、又はエストラジオ-ル3-(β-D-グルクロニド)(E2-3G)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)を終濃度1.0mMとなるように添加し、37℃で反応させ、反応開始時(0分)及び反応開始後15分、30分、45分、及び60分におけるGUS活性による生成物濃度を測定し、その活性を評価した。また、菌体破砕液の代わりに前記GUSバッファーと、基質のみ用いて同様の試験を行ったものを陰性対照とした。
【0108】
具体的には、前記基質として、4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド(pNGP)を用いた場合は、反応開始15分間毎にマイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定した。別途測定した各種濃度の4-ニトロフェノ-ル(pNP)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)の405nmの吸光度の値に基づき、GUS活性によって生成されたpNPの濃度を算出した。
【0109】
また、前記基質として、エストロン3-(β-D-グルクロニド)(E1-3G)又はエストラジオ-ル3-(β-D-グルクロニド)(E2-3G)を用いた場合は、反応開始15分間毎に反応液と等量の25質量%トリクロロ酢酸溶液(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)を添加し、反応を停止させた。反応停止後、遠心分離により上清を回収し、上清中のE1-3G又はE2-3Gの濃度を、以下の条件にて高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により定量した。E1-3G又はE2-3Gの濃度の減少から、GUS活性により生成されたエストロン(E1)又はエストラジオール(E2)の濃度を算出した。
結果を下記表4に示す。また、FLB-330株、FLB-335株、FLB-459株、及びNBRC 3425株の結果を示すグラフを
図1~3に示す。
[HPLC分析条件]
・ 装置:Prominence(株式会社島津製作所製)
・ カラム:YMC-Pack ODS-A(粒径5μm、細孔径12nm、内径4.6mm×長さ250mm)(株式会社ワイエムシィ製)
・ カラム温度:40℃
・ 移動相:0.1体積%ギ酸アセトニトリル溶液:0.1質量%ギ酸水溶液=45:55(v/v)
・ 注入量:10μL
・ 流速:0.7mL/分間
・ 検出器:フォトダイオードアレイ検出器SPD-M20A(株式会社島津製作所製)
【0110】
【0111】
表4及び
図1~3の結果より、陰性対照及び基準株であるNBRC 3425株は、3種全ての基質において生成物を認めず、グルクロニダーゼ活性を示さないのに対して、FLB-330株、FLB-335株、及びFLB-459株は、3種全ての基質に対する生成物濃度が高く、優れたグルクロニダーゼ活性を有することがわかった。
【0112】
(試験例3)
試験例1で選抜されたFLB-459株を用いて、血中エストロゲンに対する効果を以下の方法で試験した。
【0113】
9週齢の雌性無菌マウス(系統名:C57BL/6N Jcl)(日本クレア社)を2群に分け、溶媒対照群及びFLB-459投与群とした。
溶媒対照群のマウス(n=7)には、生理食塩水を週3回ずつ2週間経口投与した。
FLB-459投与群のマウス(n=7)には、FLB-459株を週3回ずつ2週間経口投与した。この際、FLB-459株は、生理食塩水に懸濁し、1×109CFU/匹/回となるように投与した。
2週間投与後(各群のマウスが11週齢時)に採血し、血清を分離した。血清中のエストロン(E1)の濃度を、特許第6041125号に記載の方法に基づき液体クロマトグラフィー―タンデム型質量分析(LC-MS/MS)法で測定した(LC-MS/MS分析は、株式会社あすか製薬メディカルに委託した)。
【0114】
具体的には、精製水1mLで希釈したマウス血清0.075mLに、内標準(E1-13C4)を加え、更にメチルtert-ブチルエーテル4mLを加え、5分間振とう後、水層を凍結分離し、得られた溶媒を留去した。残渣をメタノール0.5mLで溶解した後、精製水1mLを加え、予めメタノール3mL、精製水3mLでコンディショニングしたOasis(登録商標)MAXカートリッジ(ウォーターズ社製)に負荷した。1体積%酢酸1mL、30体積%アセトニトリル1mL、1M水酸化ナトリウム1mL、メタノール3mL、1体積%酢酸1mL、ピリジン/60体積%メタノール(1:100(体積比))1mLで洗浄後、ピリジン/90体積%メタノール(1:100(体積比))1mLでエストロン(E1)を溶出し、溶出液を遠心エバポレーターで留去した。
得られた残渣に、ペンタフルオロピリジン0.05mL、アセトニトリル0.1mL、及びトリエチルアミン0.02mLを加え、よく振り混ぜた後、室温で20分間放置した。反応後、反応試薬を減圧下で留去した。得られた残渣に2-ヒドラジノ-1-メチルピリジン1mgを1%トリフルオロ酢酸-アセトニトリル(1:1,400)で溶解したものを0.14mL加え、室温で1時間放置した。なお、2-ヒドラジノ-1-メチルピリジンの作製方法は特開2010-36810号公報に記載されている。
反応後、溶媒を減圧下で留去した。残渣をメタノール0.5mLで溶解後、精製水0.5mLを加え、予めメタノール3mL、精製水3mLでコンディショニングしたOasis(登録商標) WCXカートリッジに負荷した。0.1Mリン酸二水素カリウム1mL、精製水2mL、40%アセトニトリル1mLでカートリッジカラムを洗浄後、メタノール1mLでE2-3-テトラフルオロピリジルエーテルを溶出し、減圧下で溶媒を留去した。次いで、アセトニトリル2mL、精製水0.5mL、ギ酸/65%メタノール(1:50)1mLでカートリッジカラムを洗浄後、ギ酸/メタノール(1:50)1mLでE1-3-テトラフルオロピリジルエーテル-17-(1’-メチルピリジニウム-2’)-ヒドラゾン誘導体(E1-TfpyHMP)を溶出し、減圧下で溶媒を留去した。残留物は、70%アセトニトリル0.1mLで溶解し、E1-TfpyHMP溶液とした。
得られたE1-TfpyFU溶液0.02mLをLC-MS/MSに注入し、下記表5に示す測定条件で測定を行った。質量分析計でE1-TfpyHMPを測定したときのESIマススペクトルは、m/z525にインタクトプロトン付加イオンが検出された。また、m/z525をプレカーサーイオンとしてMS/MS測定を行った結果、m/z308が最も特異性の高いプロダクトイオンであったため、これらのイオンを用いて選択反応モニタリング(SRM)測定を行い、定量した。
【0115】
【0116】
また、前記採血と同時に、膣垢を採取した。膣垢をスライドグラスに塗布し、乾燥した後、ギムザ染色し、膣スメア像のプレパラートを作製した。膣スメア像から発情前期にあると判断した個体(溶媒対照群:3匹、FLB-459投与群:3匹)のエストロン濃度を前記方法で測定し、各群の平均値を算出した。2群間の差はStudentのt検定を使用して分析し、p値(確率値)がp<0.05である場合を統計的に有意であると見做した。結果を下記表6に示す。
【0117】
【0118】
表6の結果より、FLB-459株の投与によって、血中のエストロン濃度が有意に上昇した。
【0119】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物であって、グルクロニダーゼ活性を有することを特徴とする微生物である。
<2> 前記Lacticaseibacillus rhamnosusに属する微生物が、受託番号:NITE BP-03419のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-330株、受託番号:NITE BP-03420のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-335株、及び受託番号:NITE BP-03421のLacticaseibacillus rhamnosus FLB-459株のいずれかである、前記<1>に記載の微生物である。
<3> 体内のエストロゲンレベルの増大のために用いられる、前記<1>から<2>のいずれかに記載の微生物である。
<4> エストロゲン代謝の改善のために用いられる、前記<1>から<2>のいずれかに記載の微生物である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするグルクロニダーゼ活性剤である。
<6> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とする更年期症状の予防又は治療用組成物である。
<7> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を有効成分として含有することを特徴とするプロバイオティクス組成物である。
<8> 経口用組成物である、前記<6>に記載の更年期症状の予防又は治療用組成物又は前記<7>に記載のプロバイオティクス組成物である。
<9> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を含有することを特徴とする食用組成物である。
<10> 前記食用組成物が保健機能食品である、前記<9>に記載の食用組成物である。
<11> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を含有することを特徴とする微生物含有組成物である。
<12> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を含有することを特徴とする経口用組成物である。
<13> グルクロニダーゼ活性の増強のために用いられることを特徴とする前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物の使用である。
<14> エストロゲンレベルの増大のために用いられることを特徴とする前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物の使用である。
<15> エストロゲン代謝の改善のために用いられることを特徴とする前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物の使用である。
<16> 更年期症状の予防又は治療のために用いられることを特徴とする前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物の使用である。
<17> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を投与することを特徴とするグルクロニダーゼ活性の増強方法である。
<18> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を投与することを特徴とする体内のエストロゲンレベルの増大方法である。
<19> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を投与することを特徴とするエストロゲン代謝の改善方法である。
<20> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の微生物を投与することを特徴とする更年期症状の予防又は治療方法である。