(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137066
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ΔΣ変調器およびΔΣ型A/Dコンバータ
(51)【国際特許分類】
H03M 3/04 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H03M3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043069
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謹司
(72)【発明者】
【氏名】室田 敏夫
【テーマコード(参考)】
5J064
【Fターム(参考)】
5J064AA01
5J064BA03
5J064BC06
5J064BC07
5J064BC11
5J064BC13
5J064BC14
5J064BC16
5J064BC22
(57)【要約】
【課題】精度を高めたΔΣ変調器を提供する。
【解決手段】マルチビット型のΔΣ変調器100は、アナログ入力信号V
INをデジタル出力信号S
OUTに変換する。D/Aコンバータ40は、マルチビットの量子化器30の出力信号S
OUTをアナログのフィードバック信号V
FBに変換する。減算回路12は、アナログ入力信号V
INとフィードバック信号V
FBの誤差を生成する。ループフィルタ20は、誤差を積分し、量子化器30に出力する。ループフィルタ20は、量子化器30の前段に設けられ、1より大きいゲインを有するアンプ回路22を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号をデジタル出力信号に変換するマルチビット型のΔΣ変調器であって、
マルチビットの量子化器と、
前記量子化器の出力信号をアナログのフィードバック信号に変換するD/Aコンバータと、
前記アナログ入力信号と前記フィードバック信号の誤差を生成する減算回路と、
前記誤差を積分し、前記量子化器に出力するループフィルタと、
を備え、
前記ループフィルタは、前記量子化器の前段に設けられ、1より大きいゲインを有するアンプ回路を含む、ΔΣ変調器。
【請求項2】
前記アンプ回路のゲインは、1.5より大きく3より小さい、請求項1に記載のΔΣ変調器。
【請求項3】
前記ループフィルタは、前記アンプ回路の前段に設けられたスイッチドキャパシタ回路をさらに含み、
前記アンプ回路は、
差動入力を形成する第1入力ノードおよび第2入力ノードと、
差動出力を形成する第1出力ノードおよび第2出力ノードと、
第1出力が前記第1出力ノードと接続され、第2出力が前記第2出力ノードと接続された完全差動アンプと、
前記第1入力ノードと前記完全差動アンプの第1入力の間に接続された第1スイッチと、
前記第2入力ノードと前記完全差動アンプの第2入力の間に接続された第2スイッチと、
前記完全差動アンプの前記第1入力と前記第1出力ノードの間に接続された第1キャパシタと、
前記完全差動アンプの前記第2入力と前記第2出力ノードの間に接続された第2キャパシタと、
前記完全差動アンプの前記第1入力と前記第1出力ノードの間に、前記第1キャパシタと並列に接続された第3スイッチと、
前記完全差動アンプの前記第2入力と前記第2出力ノードの間に、前記第2キャパシタと並列に接続された第4スイッチと、
を含む、請求項1または2に記載のΔΣ変調器。
【請求項4】
前記量子化器は、
複数の比較ユニットと、
前記複数の比較ユニットそれぞれに、差動の基準電圧を供給する基準電圧源と、
を備え、
前記複数の比較ユニットはそれぞれ、
前記アンプ回路の差動出力を受ける第1差動入力と、
前記差動の基準電圧を受ける第2差動入力と、
第1入力および第2入力を有するコンパレータと、
一端が前記コンパレータの前記第1入力と接続された第1キャパシタと、
一端が前記コンパレータの前記第2入力と接続された第2キャパシタと、
前記第1キャパシタの他端と前記第1差動入力の一方の間に接続された第1スイッチと、
前記第1キャパシタの前記他端と前記第2差動入力の一方の間に接続された第2スイッチと、
前記第2キャパシタの他端と前記第1差動入力の他方の間に接続された第3スイッチと、
前記第2キャパシタの前記他端と前記第2差動入力の他方の間に接続された第4スイッチと、
前記コンパレータの前記第1入力とコモン電圧ノードの間に接続された第5スイッチと、
前記コンパレータの前記第2入力と前記コモン電圧ノードの間に接続された第6スイッチと、
を含む、請求項1から3のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項5】
前記ΔΣ変調器の次数はnであり、
前記ループフィルタは、n個の積分アンプを含み、
前記積分アンプは、
第3入力ノードと、
第4入力ノードと、
第3出力ノードと、
第4出力ノードと、
前記第3入力ノードと前記第3出力ノードの間に接続された第3キャパシタと、
前記第4入力ノードと前記第4出力ノードの間に接続された第4キャパシタと、
第1入力が前記第3入力ノードと接続され、第2入力が前記第4入力ノードと接続され、第1出力が前記第3出力ノードと接続され、第2出力が前記第4出力ノードと接続された完全差動型のオペアンプと、
を含む、請求項1から4のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項6】
前記ΔΣ変調器の次数は3である、請求項1から5のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項7】
前記ΔΣ変調器の次数は2である、請求項1から5のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項8】
前記ΔΣ変調器の次数は4である、請求項1から5のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項9】
ひとつの半導体基板に集積化される、請求項1から8のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のΔΣ変調器と、
前記ΔΣ変調器の出力信号を帯域制限し、ダウンサンプリングするフィルタと、
を備える、ΔΣ型A/Dコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ΔΣ変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
高分解能が要求される微小信号の測定や、オーディオの用途において、ΔΣ型A/Dコンバータが使用される。
図1は、ΔΣ型A/Dコンバータの基本構成を示すブロック図である。ΔΣ型A/Dコンバータ2は、アナログ入力信号V
INをデジタル出力信号D
OUTに変換する。ΔΣ型A/Dコンバータ2は、前段のアナログ部4と、後段のデジタル部6を備える。
【0003】
前段のアナログ部4は、ΔΣ変調器であり、アナログ入力信号VINをオーバーサンプリングし、オーバーサンプリングした信号を、1ビットもしくは数ビットの粗いレベルでデジタル信号Sに変換する。
【0004】
ΔΣ変調器の出力には量子化ノイズが含まれることになる。この量子化ノイズは、ΔΣ変調器内部のループフィルタ(積分回路)によって高周波領域に追いやられる(ノイズシェーピング)。
【0005】
後段のデジタル部6は、デジタルフィルタであり、帯域制限フィルタとデシメーションフィルタの機能を有する。具体的には、デジタルフィルタは、ΔΣ変調器の出力に含まれる高周波ノイズを低域通過の帯域制限フィルタによって減衰させ、デシメーションフィルタによってデータレートを低下させる(ダウンサンプリング)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ΔΣ変調器には、1ビットの量子化器を利用したシングルビット型と、多ビットの量子化器を利用したマルチビット型が存在する。
【0008】
近年、オーディオ用やセンサ用のA/Dコンバータには、より高い精度が求められるようになっており、マルチビット型が採用される場合が多い。
【0009】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、精度を高めたΔΣ変調器の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様は、アナログ入力信号をデジタル出力信号に変換するマルチビット型のΔΣ変調器に関する。ΔΣ変調器は、マルチビットの量子化器と、量子化器の出力信号をアナログのフィードバック信号に変換するD/Aコンバータと、アナログ入力信号とフィードバック信号の誤差を生成する減算回路と、誤差を積分し、量子化器に出力するループフィルタと、を備える。ループフィルタは、量子化器の前段に設けられ、1より大きいゲインを有するアンプ回路を含む。
【0011】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るΔΣ変調器によれば、精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ΔΣ型A/Dコンバータの基本構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、シングルビット型とマルチビット型のΔΣ変調器の動作を説明する図である。
【
図4】
図4は、積分器の構成例を示す回路図である。
【
図5】
図5は、
図4の完全差動オペアンプの入出力特性を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るΔΣ変調器のブロック図である。
【
図7】
図7は、ΔΣ変調器の一部分の構成例を示す回路図である。
【
図8】
図8は、比較技術に係るマルチビット型のΔΣ変調器の一部を示す回路図である。
【
図9】
図9は、実施例1に係るΔΣ変調器の回路図である。
【
図10】
図10は、実施例2に係るΔΣ変調器の回路図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係るΔΣ変調器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
(実施形態)
一実施形態に係るΔΣ変調器は、アナログ入力信号をデジタル出力信号に変換するマルチビット型のΔΣ変調器である。ΔΣ変調器は、マルチビットの量子化器と、量子化器の出力信号をアナログのフィードバック信号に変換するD/Aコンバータと、アナログ入力信号とフィードバック信号の誤差を生成する減算回路と、誤差を積分し、量子化器に出力するループフィルタと、を備える。ループフィルタは、量子化器の前段に設けられ、1より大きいゲインを有するアンプ回路を含む。
【0016】
この構成によれば、量子化器がマルチビットであるため、フィードバック信号とアナログ入力信号の誤差を小さくでき、ループフィルタ内の積分器の出力振幅が小さくなる。オペアンプは、振幅が小さい小信号領域で高い線形性を有するため、振幅が小さくなることで、高精度化が可能となる。また、そして積分器のキャパシタの容量を小さくしても、ループを安定化でき、また容量が小さいため、オペアンプの駆動能力を小さく設計できる。
【0017】
一方で、ループフィルタ内の信号の振幅が小さくなると、言い換えると、量子化器の入力電圧の振幅が小さくなると、量子化器がもつ誤差(たとえばオフセット誤差)の影響が、相対的に大きくなる。そこで、量子化器の前段に、アンプ回路を挿入することにより、ループフィルタ内の信号振幅を小さく保ちつつ、量子化器の入力信号の振幅を大きくできる。これにより量子化器の誤差の影響を相対的に小さくして、精度を高めることができる。
【0018】
一実施形態において、アンプ回路のゲインは、1.5より大きく3より小さくてもよい。
【0019】
一実施形態において、ループフィルタは、アンプ回路の前段に設けられたスイッチドキャパシタ回路をさらに含んでもよい。アンプ回路は、差動入力を形成する第1入力ノードおよび第2入力ノードと、差動出力を形成する第1出力ノードおよび第2出力ノードと、第1出力が第1出力ノードと接続され、第2出力が第2出力ノードと接続された完全差動アンプと、第1入力ノードと完全差動アンプの第1入力の間に接続された第1スイッチと、第2入力ノードと完全差動アンプの第2入力の間に接続された第2スイッチと、完全差動アンプの第1入力と第1出力ノードの間に接続された第1キャパシタと、完全差動アンプの第2入力と第2出力ノードの間に接続された第2キャパシタと、完全差動アンプの第1入力と第1出力ノードの間に、第1キャパシタと並列に接続された第3スイッチと、完全差動アンプの第2入力と第2出力ノードの間に、第2キャパシタと並列に接続された第4スイッチと、を含んでもよい。この構成では、スイッチドキャパシタ回路のキャパシタと、アンプ回路の第1キャパシタの比率に応じて、アンプ回路のゲインが決まる。
【0020】
一実施形態において、量子化器は、複数の比較ユニットと、複数の比較ユニットそれぞれに、差動の基準電圧を供給する基準電圧源と、を備えてもよい。複数の比較ユニットはそれぞれ、アンプ回路の差動出力を受ける第1差動入力と、差動の基準電圧を受ける第2差動入力と、第1入力および第2入力を有するコンパレータと、一端がコンパレータの第1入力と接続された第1キャパシタと、一端がコンパレータの第2入力と接続された第2キャパシタと、第1キャパシタの他端と第1差動入力の一方の間に接続された第1スイッチと、第1キャパシタの他端と第2差動入力の一方の間に接続された第2スイッチと、第2キャパシタの他端と第1差動入力の他方の間に接続された第3スイッチと、第2キャパシタの他端と第2差動入力の他方の間に接続された第4スイッチと、コンパレータの第1入力とコモン電圧ノードの間に接続された第5スイッチと、コンパレータの第2入力とコモン電圧ノードの間に接続された第6スイッチと、を含んでもよい。
【0021】
一実施形態において、ΔΣ変調器の次数はnであり、ループフィルタは、n個の積分アンプを含んでもよい。積分アンプは、第3入力ノードと、第4入力ノードと、第3出力ノードと、第4出力ノードと、第3入力ノードと第3出力ノードの間に接続された第3キャパシタと、第4入力ノードと第4出力ノードの間に接続された第4キャパシタと、第1入力が第3入力ノードと接続され、第2入力が第4入力ノードと接続され、第1出力が第3出力ノードと接続され、第2出力が第4出力ノードと接続された完全差動型のオペアンプと、を含んでもよい。
【0022】
一実施形態において、ΔΣ変調器の次数は3であってもよい。一実施形態においてΔΣ変調器の次数は2であってもよい。一実施形態において、ΔΣ変調器の次数は4であってもよい。
【0023】
一実施形態においてΔΣ変調器は、ひとつの半導体基板に集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0024】
一実施形態において、ΔΣ型A/Dコンバータは、上述のいずれかのΔΣ変調器と、ΔΣ変調器の出力信号を帯域制限し、ダウンサンプリングするフィルタと、を備えてもよい。
【0025】
(実施形態)
はじめに、マルチビット型のΔΣ変調器の利点と、その欠点を説明する。
【0026】
図2は、ΔΣ変調器10の回路図である。ΔΣ変調器10は、主として、減算回路12、ループフィルタ14、量子化器16、D/Aコンバータ18を備える。
【0027】
減算回路12は、アナログ入力信号VINと、D/Aコンバータ18の出力であるフィードバック信号VFBの誤差を生成する。ループフィルタ14は、誤差を積算し、ノイズシェーピングを行う。
【0028】
量子化器16は、ループフィルタ14の出力信号を量子化する。量子化された信号は、D/Aコンバータに入力される。
【0029】
ΔΣ変調器10は、量子化器16のビット数が1であるシングルビット型と、量子化器16のビット数が2より大きいマルチビット型に分けられる。
図3は、シングルビット型とマルチビット型のΔΣ変調器10の動作を説明する図である。
【0030】
シングルビット型では、フィードバック信号VFBがハイ、ローの二値であるため、アナログ入力信号VINとの誤差が大きい。そのためループフィルタ14の内部信号、出力信号の振幅も大きい。
【0031】
これに対して、マルチビット型では、フィードバック信号VFBが多階調であるため、アナログ入力信号VINとの誤差が小さくなる。そのためループフィルタ14が取り扱う信号の振幅が小さくなる。そのため、ループフィルタ14の内部のオペアンプの能力を小さくでき、またフィードバックループの安定性が、シングルビット型に比べて高いという利点がある。
【0032】
ループフィルタ14は、ひとつ、または複数の積分器を含む。
図4は、積分器INTの構成例を示す回路図である。積分器INTは、サンプリング回路110と、積分アンプ120を含む。サンプリング回路110は、スイッチドキャパシタ回路であり、キャパシタC5,C6、スイッチSW9~SW16を備える。スイッチSW9、キャパシタC5、スイッチSW10は、第1入力ノードIN1と第1出力ノードOUT1の間に直列に接続される。スイッチSW11、キャパシタC6、スイッチSW12は、第2入力ノードIN2と第2出力ノードOUT2の間に直列に接続される。
【0033】
積分アンプ120は、第3キャパシタC3、第4キャパシタC4、完全差動オペアンプOA2を備える。第3キャパシタC3は、入力ノードIN3と出力ノードOUT3の間に接続され、第4キャパシタC4は、入力ノードIN4と出力ノードOUT4の間に接続される。完全差動オペアンプOA2の第1入力(-)は、入力ノードIN3と接続され、第2入力(+)は、入力ノードIN4と接続され、第1出力(+)は、出力ノードOUT3と接続され、第2出力(-)は、出力ノードIN4と接続される。
【0034】
図5は、
図4の完全差動オペアンプOA2の入出力特性を示す図である。一般的に、オペアンプはコモン電圧Vrを中心としたある範囲で線形性が保証されており、コモン電圧Vrに近いほど線形性が高く、コモン電圧Vrから離れるほど線形性が低下する。マルチビット型のΔΣ変調器では、シングルビット型のΔΣ変調器に比べて、ループフィルタ14の内部のオペアンプが取り扱う信号振幅が小さくなるため、オペアンプを、線形性が高い領域で動作させることができる。したがって、マルチビット型のΔΣ変調器は、シングルビット型に比べて、高精度化が可能である。
【0035】
本発明者は、マルチビット型のΔΣ変調器について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。なお、この課題を当業者の一般的な認識と捉えてはならない。
【0036】
図2を参照する。マルチビット型のΔΣ変調器では、ループフィルタ14が取り扱う信号の振幅が小さくなり、ループフィルタ14の出力信号Vxの振幅、言い換えると、量子化器16の入力信号Vxの振幅が小さくなる。量子化器16のビット数が同じ場合、入力電圧範囲が広い方が、1LSBの電圧が大きくなり、入力電圧範囲が狭くなると、1LSBの電圧が小さくなる。量子化器16は、コンパレータを含んでおり、コンパレータは、オフセット電圧を有する。コンパレータのオフセット電圧が、1LSBの電圧を超えると、正しい電圧比較ができなくなる。つまり従来のマルチビット型のΔΣ変調器では、高精度化に限界があると言える。
【0037】
以下、実施形態に係るΔΣ変調器100について説明する。
【0038】
図6は、実施形態に係るΔΣ変調器100のブロック図である。ΔΣ変調器100は、差動入力信号V
INをΔΣ変調してデジタル出力信号S
OUTに変換する。差動入力信号V
INは、相補的な正極信号Vipおよび負極信号Vinを含む。ΔΣ変調器100は、ひとつの半導体基板に集積化される。
【0039】
ΔΣ変調器100は、減算回路12、ループフィルタ20、量子化器30、D/Aコンバータ40およびサンプリング回路110を備える。ΔΣ変調器100は時間離散型であり、サンプリング回路110は、スイッチドキャパシタ回路で構成され、差動入力信号VINをサンプリングする。
【0040】
D/Aコンバータ40は、ΔΣ変調器100の出力信号、すなわち量子化器30の出力信号SOUTをアナログのフィードバック信号VFBに変換する。減算回路12は、サンプリング回路110がサンプリングした入力信号VINと、フィードバック信号VFBの誤差を生成する。
【0041】
ループフィルタ20は、減算回路12が生成する誤差信号をフィルタリングし、ノイズシェーピングする。ループフィルタ20の次数は特に限定されない。またループフィルタ20の構成も限定されず、フィードフォワード型であってもよいし、フィードバック型であってもよい。フィードフォワード型の場合、サンプリング回路110がサンプリングした入力信号VINは、ループフィルタ20に対してフィードフォワードされる。
【0042】
量子化器30は、ループフィルタ20が生成するノイズシェーピング後の信号を量子化する。量子化器30はマルチビットであり、ビット数nは2以上である。
【0043】
ループフィルタ20は、その最終段、言い換えると量子化器30の前段に設けられたアンプ回路22を備える。アンプ回路22は、1より大きいゲインgを有しており、その入力信号Vxを増幅し、ループフィルタ20の出力信号、言い換えると量子化器30の入力信号Vyの振幅を大きくする。
【0044】
以上がΔΣ変調器100の構成である。続いて
図6のΔΣ変調器100の利点を説明する。
【0045】
図6のΔΣ変調器100によれば、マルチビット型であるため、ループフィルタ20が取り扱う信号振幅が小さい。これにより、ループフィルタ20の内部のオペアンプを、線形性が高い領域で動作させることができる。
【0046】
また、ループフィルタ20の最終段にアンプ回路22を挿入し、アンプ回路22によって、量子化器30の入力信号Vyの振幅を増大させている。これにより量子化器30の入力電圧範囲が広くなり、1LSBに相当する電圧幅を、量子化器30の内部のコンパレータのオフセット電圧よりも大きくすることができる。これにより、正しい電圧比較が可能となり、ΔΣ変調器100の精度を改善することができる。言い換えると、アンプ回路22のゲインgは、量子化器30の1LSBの電圧が、オフセット電圧より大きくなるように定めればよい。具体的にはゲインgは、1.5~3の範囲で定めてもよい。
【0047】
図7は、ΔΣ変調器100の一部分の構成例を示す回路図である。
図7には、ループフィルタ20の一部と量子化器30が示されている。
【0048】
量子化器30は、複数の比較ユニット32_1~32_mと、基準電圧源34を備える。基準電圧源34は、差動しきい値電圧VTH1~VTHmを生成する。比較ユニット32_i(i=1,2…m)は、ループフィルタ20の出力信号を、しきい値電圧VTHiと比較する。
【0049】
比較ユニット32は、フリップフロップFF1、スイッチSW21~SW26、キャパシタC21,C22を含む。
【0050】
ループフィルタ20は、アンプ回路22および加算回路24を備える。加算回路24は、複数の内部信号S1~Skを重み付け加算する。加算回路24は、複数のスイッチドキャパシタ回路26_1~26_k、スイッチSW41,SW42を含む。
【0051】
加算回路24における重み付け係数は、スイッチドキャパシタ回路26_1~26_kのキャパシタの比で決まる。またアンプ回路22のゲインは、アンプ回路22のキャパシタC1,C2の容量Caと、スイッチドキャパシタ回路26の容量Cbの比Ca/Cbで決まる。
【0052】
以上がΔΣ変調器100の構成例である。
図7のΔΣ変調器100の利点は、比較技術との対比によって明確となる。
【0053】
図8は、比較技術に係るマルチビット型のΔΣ変調器10Rの一部を示す回路図である。
図8の量子化器16の構成は、
図7の量子化器30と同様である。
図8のループフィルタ14は、
図7の量子化器30から、アンプ回路22を省略した構造である。
【0054】
図8のΔΣ変調器10Rでは、スイッチドキャパシタ回路26のキャパシタC31,C32によって、比較ユニット32のキャパシタC21,C22を駆動する必要があるため、キャパシタC31,C32の容量を大きくする必要がある。キャパシタC31,C32の容量を大きくすると、チップ面積が大きくなる。
【0055】
これに対して、
図7のΔΣ変調器100では、アンプ回路22のオペアンプOA1によって、比較ユニット32のキャパシタC21,C22を駆動することができるため、キャパシタC31,C32の容量を小さくすることができ、チップ面積を削減できる。
【0056】
続いてΔΣ変調器100の具体例を説明する。
【0057】
図9は、実施例1に係るΔΣ変調器100Aの回路図である。ΔΣ変調器100Aは三次のΔΣ変調器である。減算回路12およびループフィルタ20を含むブロックは、次数と等しい複数(3個)の積分器INT1,INT2,INT3、複数の加減算器ADD1,ADD2,ADD3,ADD4、および複数のフィードフォワードパスおよびフィードバックパスを備える。差動入力信号V
INを受けるパスb
1,b
2,b
3,b
4それぞれには、サンプリング回路110が組み込まれる。その他の中間信号が伝送するパスc
1,c
2,c
3,a
1,a
2,g
1には、サンプリング回路130が組み込まれる。a
1,a
2,b
1,b
2,b
3,b
4,c
1,c
2,c
3はフィードフォワードパスおよびフィードバックパスのゲインを示す。
【0058】
加算回路ADD4の後段には、アンプ回路22が設けられる。
図9の加算回路ADD4は、
図7の加算回路24に対応する。またゲインb
4のサンプリング回路110およびゲインa
1,a
2,a
3のサンプリング回路130は、
図7のスイッチドキャパシタ回路26_1~26_k(k=4)に対応する。
【0059】
図10は、実施例2に係るΔΣ変調器100Bの回路図である。ΔΣ変調器100Bは二次のΔΣ変調器であり、減算回路12およびループフィルタ20を含むブロックは、2個の積分回路INT1,INT2、複数の加算回路ADD1~ADD3を含む。差動入力信号V
INを受けるパスb
1,b
2,b
3それぞれには、サンプリング回路110が組み込まれる。その他の中間信号が伝送するパスc
1,c
2,a
1,a
2,g
1には、サンプリング回路130が組み込まれる。
【0060】
加算回路ADD3の後段には、アンプ回路22が設けられる。
図10の加算回路ADD3は、
図7の加算回路24に対応する。またゲインb
3のサンプリング回路110およびゲインa
1、a
2のサンプリング回路130は、
図7のスイッチドキャパシタ回路26_1~26_k(k=3)に対応する。
【0061】
図11は、実施形態に係るΔΣ変調器100Cの回路図である。ΔΣ変調器100Cは4次のΔΣ変調器であり、減算回路12およびループフィルタ20を含むブロックは、4個の積分回路INT1~INT4、5個の加算回路ADD1~ADD5を含む。差動入力信号V
INを受けるパスb
1~b
5それぞれには、サンプリング回路110が組み込まれる。その他の中間信号が伝送するパスc
1~c
4,a
1~a
4,g
1,g
2には、サンプリング回路130が組み込まれる。
【0062】
図11の加算回路ADD5は、
図7の加算回路24に対応する。またゲインb
5のサンプリング回路110およびゲインa
1,a
2,a
3,a
4のサンプリング回路130は、
図7のスイッチドキャパシタ回路26_1~26_k(k=5)に対応する。
【0063】
(用途)
実施形態に係るΔΣ変調器100は、
図1のΔΣ型A/Dコンバータのアナログ部に採用することができる。ただしΔΣ変調器100の用途は、A/Dコンバータに限定されず、その他のさまざまな用途に利用できる。
【0064】
実施の形態にもとづき、本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
100 ΔΣ変調器
12 減算回路
20 ループフィルタ
22 アンプ回路
24 加算回路
30 量子化器
32 比較ユニット
34 基準電圧源
40 D/Aコンバータ
110 サンプリング回路
120 積分アンプ
OA1 オペアンプ
130 サンプリング回路