(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137082
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】測定装置および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230922BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230922BHJP
G01N 33/49 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N33/49 K
G01N33/49 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043093
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】水上 利洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
(72)【発明者】
【氏名】濱田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鳥家 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中西 利志
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝明
(72)【発明者】
【氏名】久世 雅人
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA01
2G045BB24
2G045CA01
2G045FA11
2G045FB12
(57)【要約】
【課題】測定のスループットが向上する測定装置を提供する。
【解決手段】検体に含まれる細胞を分析するための測定装置であって、少なくとも一つの試薬容器から供給される試薬に含まれる第一および第二の蛍光色素によって前記細胞が染色された測定試料を調製するためのチャンバと、前記試薬容器と前記チャンバとの間に設けられた送液管を介して、前記試薬容器から前記チャンバに前記試薬を送液するための送液部と、フローセルに流れる前記測定試料への光の照射に応じて、前記第一および第二の蛍光色素で染色された前記細胞から放出された第一波長の蛍光と第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の信号を取得する検出部と、前記第一および第二の信号に基づいて、前記細胞を分析する分析部と、を含む測定装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる細胞を分析するための測定装置であって、
少なくとも一つの試薬容器から供給される試薬に含まれる第一および第二の蛍光色素によって前記細胞が染色された測定試料を調製するためのチャンバと、
前記試薬容器と前記チャンバとの間に設けられた送液管を介して、前記試薬容器から前記チャンバに前記試薬を送液するための送液部と、
フローセルに流れる前記測定試料への光の照射に応じて、前記第一および第二の蛍光色素で染色された前記細胞から放出された第一波長の蛍光と第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の信号を取得する検出部と、
前記第一および第二の信号に基づいて、前記細胞を分析する分析部と、
を含む測定装置。
【請求項2】
前記送液部は、前記試薬容器内に配置される第一端と前記チャンバに接続される第二端を備える前記送液管を介して、前記試薬を前記試薬容器から前記チャンバに送液する請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記送液管の前記第一端は、前記試薬容器内の所定位置に固定されている請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記送液管の前記第一端は、複数の検体に各々対応する複数の前記測定試料が調製される間、前記所定位置に固定されている請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記試薬容器に対して前記送液管の前記第一端を挿入し、前記第一端を前記試薬容器内の所定位置に配置するための機構を含む、
ことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記送液部は、前記送液管を介して前記試薬容器内の試薬を前記チャンバへ一定量送液するための定量部をさらに有する請求項1乃至5の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記試薬容器は、20mL以上100mL以下の前記試薬を収容する請求項1乃至6の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項8】
前記試薬容器に収容された前記試薬の保存期間は、前記測定装置が設置される環境の温度において、60日以上90日以内である請求項1乃至7の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記試薬容器に収容された前記試薬の保存期間は、15℃から30℃の温度において、60日以上90日以内である請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記試薬容器は、前記試薬を収容する袋状の試薬収容部を有する、請求項1乃至9の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項11】
前記試薬容器は、200mL以上500mL以下の前記試薬を収容する請求項10に記載の測定装置。
【請求項12】
前記試薬容器に収容された前記試薬の保存期間は、前記測定装置が設置される環境の温度において、75日以上1年以内である請求項10又は11に記載の測定装置。
【請求項13】
前記試薬容器に収容された前記試薬の保存期間は、15℃から30℃の温度において、75日以上1年以内である請求項12に記載の測定装置。
【請求項14】
前記第一の蛍光色素を構成する第一化合物および前記第二の蛍光色素を構成する第二化合物によって前記細胞が染色される請求項1乃至13の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項15】
前記試薬は抗体を含まない請求項1乃至14の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項16】
前記測定試料は、前記第一および第二の蛍光色素が細胞の膜を透過可能となる損傷を前記膜に与える溶血剤と混合された前記検体中の前記細胞を前記第一および第二の蛍光色素で染色することで調整される請求項1乃至15の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項17】
前記分析部は、前記第一の信号を用いた前記細胞の分類と、前記第二の信号を用いた前記細胞の分類とに基づき、前記細胞を分析する請求項1乃至16の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項18】
前記分析部は、前記第一および第二の信号と、前記測定試料への光の照射に応じて生じた散乱光に対応する第三の信号とを人工知能アルゴリズムによって分析する請求項1乃至17の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項19】
前記分析部は、前記人工知能アルゴリズムによる行列演算を、並列処理プロセッサによる並列処理で実行する請求項18に記載の測定装置。
【請求項20】
前記人工知能アルゴリズムは、深層学習アルゴリズムである請求項18又は19に記載の測定装置。
【請求項21】
検体に含まれる細胞を分析する分析方法であって、
試薬を収容する試薬容器と、前記検体と前記試薬を混合して測定試料を調製するためのチャンバとの間に設けられた送液管を介して、前記試薬容器から前記チャンバに前記試薬を送液し、
少なくとも一つの前記試薬容器から供給される前記試薬に含まれる第一および第二の蛍光色素によって前記細胞が染色された前記測定試料を調製し、
フローセルに流れる前記測定試料に光を照射し、
前記光の照射に応じて、前記第一および第二の蛍光色素で染色された前記細胞から放出された第一波長の蛍光と第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の蛍光信号を取得し、
前記第一および第二の蛍光信号に基づいて、前記細胞を分析する、
分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、蛍光の波長帯域が異なる複数の蛍光色素から発せられた信号を分析するフローサイトメータを開示している。非特許文献1に開示のフローサイトメータによる測定では、波長帯域の異なる複数の蛍光色素によって試料を染色する試薬(非特許文献2参照)が用いられる。各々の蛍光色素は抗体に付加されており、各抗体が検体中の測定対象物に結合することで検体を染色する。フローサイトメータは、分注プローブおよびこの分注プローブを移動させる機構を用いて試薬容器から抗体試薬を吸引し、測定対象物を有する検体が収容された反応容器内に抗体試薬を吐出する。フローサイトメータは、反応容器内で抗体試薬と混合されて染色された測定対象物を測定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】AQUIOS Tetra System Guide https://www.beckmancoulter.com/wsrportal/techdocs?docname=B26364AB.pdf
【非特許文献2】AQUIOS Tetra-1 Panel and AQUIOS Tetra-2+ Panelhttps://www.beckman.jp/techdocs/B25337AG/wsr-161331
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されたフローサイトメータは、測定試料の調製のため、試薬を試薬容器からノズルで吸引し、試薬を吸引したノズルを反応容器の配置場所に移動させ、反応容器に試薬を吐出させる。この場合、試薬の吸引・吐出のためのプロセスを要するため、測定試料の調製に時間を要する(非特許文献1には、測定スループットは時間あたり25検体と記載されている)。
【0005】
本発明は、高い処理能力で複数の蛍光色素を用いた測定を実現可能な測定装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の測定装置は、検体に含まれる細胞を分析するための測定装置であって、少なくとも一つの試薬容器から供給される試薬に含まれる第一および第二の蛍光色素によって前記細胞が染色された測定試料を調製するためのチャンバと、前記試薬容器と前記チャンバとの間に設けられた送液管を介して、前記試薬容器から前記チャンバに前記試薬を送液するための送液部と、フローセルに流れる前記測定試料への光の照射に応じて、前記第一および第二の蛍光色素で染色された前記細胞から放出された第一波長の蛍光と第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の信号を取得する検出部と、前記第一および第二の信号に基づいて、前記細胞を分析する分析部と、を含む測定装置である。
本発明の分析方法は、検体に含まれる細胞を分析する分析方法であって、試薬を収容する試薬容器と、前記検体と前記試薬を混合して測定試料を調製するためのチャンバとの間に設けられた送液管を介して、前記試薬容器から前記チャンバに前記試薬を送液し、少なくとも一つの前記試薬容器から供給される前記試薬に含まれる第一および第二の蛍光色素によって前記細胞が染色された前記測定試料を調製し、フローセルに流れる前記測定試料に光を照射し、前記光の照射に応じて、前記第一および第二の蛍光色素で染色された前記細胞から放出された第一波長の蛍光と第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の蛍光信号を取得し、前記第一および第二の蛍光信号に基づいて、前記細胞を分析する、分析方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い処理能力で複数の蛍光色素を用いた測定を実現可能な分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る分析システムを示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の測定ユニットの構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の分析システムによる測定試料調製処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2実施形態の分析システムの測定ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2実施形態における検体吸引部、試料調製部および検出部を含む流体回路を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における第1試料調製部の他の一例を示す模式図である。
【
図7】本発明の第2実施形態におけるFCM検出部の光学系の一例を示す構成説明図である。
【
図8】本発明の第2実施形態におけるFCM検出部の光学系の他の例を示す構成説明図である。
【
図9】異なる2つの蛍光色素から発せされた蛍光が互いに漏れ込んでいる例を示す図である。
【
図10】本発明の第2実施形態における分析ユニットの構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】本発明の第2実施形態における分析システムの他の構成例を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第2実施形態における測定ユニットの他の一例の構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の第2実施形態における測定ユニットのカバーを開放した状態を示す図である。
【
図14】本発明の第2実施形態における測定ユニットの試薬容器ホルダを示した斜視図である。
【
図15】
図14に示した試薬容器ホルダを示した正面図である。
【
図16】
図14に示した試薬容器ホルダの試薬容器保持部を説明するための模式図である。
【
図17】
図14に示した試薬容器保持部に試薬容器が載置された状態を示した模式図である。
【
図18】
図14に示した試薬容器保持部に試薬容器が載置された状態を示した模式図である。
【
図19】
図14に示した試薬容器ホルダの内部構成を模式的に示した縦断面図である。
【
図20】
図19に示した試薬容器ホルダの縦断面図において試薬容器のセット状態を説明するための図である。
【
図21】
図20に示した試薬容器ホルダの縦断面図においてカバーを下降させた状態を説明するための図である。
【
図22】本発明の第2実施形態による大型の試薬容器を示した斜視図である。
【
図23】本発明の第2実施形態による大型の試薬容器を示した上面図である。
【
図24】本発明の第2実施形態による大型の試薬容器を示した縦断面図である。
【
図25】本発明の第2実施形態による小型の試薬容器を示した斜視図である。
【
図26】本発明の第2実施形態による小型の試薬容器を示した上面図である。
【
図27】本発明の第2実施形態による小型の試薬容器を示した縦断面図である。
【
図28】(A)は、本発明の他の実施形態による試薬容器200が測定ユニット400に設置された状態を示した図である。(B)は、本発明の他の実施形態による試薬容器200に上方から吸引管252が挿入された状態を示した図である。
【
図29】本発明の他の実施形態による試薬容器200が試薬収容部10とフレーム20とを備えることを示した図である。
【
図30】試薬収容部10が中空の袋状に形成され、フレーム20が開口部21、取付部材22及び移動規制部23を備えることを示す図である。
【
図32】試薬吸引部250がそれぞれ1つの試薬容器200を保持可能な複数の試薬容器ホルダを含むことを示す図である。
【
図33】収容部260が、試薬容器200の試薬収容部10が挿入される第1挿入部261と、試薬容器200の移動規制部23が挿入される第2挿入部262とを含むことを示す図である。
【
図34】試薬容器200がセットされた収容部260を示す図である。
【
図35】試薬容器ホルダ250aの縦断面図である。
【
図36】本発明の第4実施形態による分析方法を説明する概念図である。
【
図37】第4実施形態の分析方法において用いられる波形データを説明するための模式図である。
【
図38】第4実施形態の分析方法におけるA/D変換部によるデジタル信号への変換を模式的に示す図である。
【
図39】第4実施形態の分析方法におけるサンプリングによって得られる波形データを模式的に示す図である。
【
図40】第4実施形態の分析方法における検体中の成分の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを訓練するために使用される訓練データの生成方法の一例を示す模式図である。
【
図41】第4実施形態の分析方法におけるラベル値の例を示す図である。
【
図42】第4実施形態の分析方法における検体中の成分の波形データを分析する方法の例を示す模式図である。
【
図43】
図12に示した試料調製部とは構成が異なる他の試料調製部の構成例を示すブロック図である。
【
図44】本分析方法の第1の動作例を示すフローチャートである。
【
図45】本分析方法の第2の動作例を示すフローチャートである。
【
図46】本分析方法の第3の動作例を示すフローチャートである。
【
図47】第5実施形態の構成例を示すブロック図である。
【
図48】並列処理プロセッサの構成例を示す模式図である。
【
図49】プロセッサ上で動作する解析ソフトウェアの制御に基づいて、並列処理プロセッサで実行される演算処理の概要を示す第1の図である。
【
図52】第1蛍光色素および第2蛍光色素を用いて白血球を亜集団に分類する工程を示すフローチャートである。
【
図53】第6実施形態の工程を示すフローチャートである。
【
図54】第7実施形態の工程を示すフローチャートである。
【
図55】第8実施形態の工程を示すフローチャートである。
【
図56(a)】参考例1における好塩基球分離前検体を測定したときの側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図56(b)】参考例1において好塩基球分離後検体を測定したときの側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図56(c)】参考例1において好塩基球分離前検体を測定したときの側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図56(d)】参考例1において好塩基球分離後検体を測定したときの側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図57(a)】参考例2において採血後4時間の検体を測定したときの側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図57(b)】参考例2において採血後48時間の検体を測定したときの側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図57(c)】参考例2において採血後72時間の検体を測定したときの側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図58(a)】参考例2において
図57(a)のスキャッタグラムでゲーティングした細胞をプロットした側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図58(b)】参考例2において
図57(b)のスキャッタグラムでゲーティングした細胞をプロットした側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図58(c)】参考例2において
図57(c)のスキャッタグラムでゲーティングした細胞をプロットした側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図59(a)】実施例1の側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図59(b)】実施例1の側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図60(a)】実施例2の青紫蛍光ヒストグラムである。
【
図60(b)】実施例2の側方散乱-青紫蛍光スキャッタグラムである。
【
図60(c)】実施例2の側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【
図61】採血後の時間経過による好塩基球数の変化を示すグラフである。
【
図62】実施例2および比較例1における側方散乱-赤蛍光スキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、本発明を限定するものと解されるべきではない。
【0010】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る分析システムを示す斜視図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る分析システム4000は、測定装置(以下、測定ユニットという)400と、分析装置(以下、分析ユニットという)300Xとを個別に備える。本実施形態において、分析ユニット300Xは、例えば、測定対象となる検体を分析するためのソフトウェアが組み込まれたPC(パーソナルコンピュータ)である。
【0011】
測定ユニット400は、検体を測定するためのユニットであり、フローサイトメータを含んでいる。測定ユニット400では、検体と試薬を混合し、測定試料を調製する。測定試料の調製には、複数波長に各々対応する複数の蛍光色素を含む試薬が用いられる。測定試料中の複数の細胞の各々は、複数の蛍光色素で染色される。この分析システムによる検体に含まれる細胞の分析では、複数の蛍光色素によって染色可能な細胞を分析する。つまり、本実施形態での測定試料の調製は、一つの細胞に対して複数の蛍光色素を染色することを意図しており、測定対象となる細胞としては、例えば、リンパ球、単球、好酸球、好中球、好塩基球などである。
【0012】
調製された測定試料がフローサイトメータで測定される。光が照射された測定試料中の細胞から複数の蛍光色素の各々に対応する光学的信号や前方散乱光、側方散乱光に係る複数の信号が取得される。取得された光学的信号の各々がA/D変換されて、デジタルデータが取得される。分析ユニット300Xは、測定ユニット400で取得されたデジタルデータを分析する。分析ユニット300Xでは、少なくとも側方散乱光および複数波長の蛍光に各々対応する複数のデジタルデータを用いて、検体中の細胞の分類および計数の少なくとも一つを実行する。分析ユニット300Xは、測定ユニット400の動作制御も実行する。
【0013】
図2は本発明の第1実施形態の測定ユニットの構成を示す模式図である。
図1と
図2に示すように、測定ユニット400は、チャンバ420および送液機構430を有する試料調製部440と、検体吸引機構450と、細胞から発せられた信号を取得する検出部としてのフローサイトメータ検出部(FCM検出部)460とを備える。
【0014】
検体吸引部450は、検体容器T内の検体を吸引する機構であり、検体吸引ノズル451を有する。検体吸引ノズル451は、蓋によって封止された検体容器を貫通可能である。検体吸引機構450は、検体吸引ノズル451を検体容器に挿入するために、検体吸引ノズル451を移動可能であり、検体吸引ノズル451をチャンバ420の上方位置へ移動させるようXY方向に移動可能である。検体吸引機構450は、検体吸引ノズル451によって検体を吸引し吐出するための定量部452(例えば、シリンジポンプ)を有する。
【0015】
送液機構430は、送液管431と、送液管431を介して試薬12を試薬容器200からチャンバ420に注入するための送液部432とを備える。送液機構430は、後述の試薬容器ホルダ60(
図13~
図15参照)に装着された試薬容器200とチャンバ420との間に設けられる送液管431を介して、装着された試薬容器200からチャンバ420に試薬を送液する機構である。試薬容器ホルダ60には、第一の蛍光色素および第二の蛍光色素の何れも含む試薬12が収容された試薬容器200が装着される。送液機構430は、試薬容器200からチャンバ420に試薬を送液する。第一の蛍光色素を構成する第一化合物および第二の蛍光色素を構成する第二化合物によって細胞が染色される。
【0016】
試薬容器200内には、送液管431の一端を構成する吸引管64が挿入される。送液管431の他端は、チャンバ420に接続されている。吸引管64は、試薬容器ホルダ60に装着された試薬容器200が有する封止フィルム(シール部材ともいう)を貫通しうるように、先端が鋭利に形成されてもよい。
【0017】
送液機構430の送液部432は、試薬容器200から送液管431に試薬12を引き込むための陰圧と、引き込んだ試薬をチャンバ420に供給するための陽圧を生成する定量部としてのポンプ433を備える。ポンプ433は、例えば、シリンジポンプやダイアフラムポンプでありえる。送液機構430は、複数のバルブV1、V2を備えてもよい。例えばシリンジポンプ又はダイアフラムポンプで構成される定量部433が試薬容器から試薬を吸引する際、バルブV1が開かれ、バルブV2は閉じられる。定量具433が陰圧を生成することで、バルブV1、バルブV2、定量部433の間の流路に試薬が充填される。充填された試薬をチャンバ420に供給するときは、バルブV1が閉じられ、バルブV2が開かれ、定量部433が陽圧を生成する。これにより、試薬容器200中の試薬がチャンバ420に供給される。
【0018】
チャンバ420は、試薬と検体が混合され、測定試料が作成される容器である。チャンバ420は、第一および第二の蛍光色素の何れをも含む1つの試薬12を検体と混合し、第一および第二の蛍光色素によって細胞が染色された測定試料を調製する。測定ユニット400において、チャンバ420は一つまたは複数備えられる。チャンバ420は廃液チャンバ36とバルブ37を介して接続されている。FCM検出部460による測定が完了した後、チャンバ420に残った測定試料は廃液チャンバ36に廃棄される。また、チャンバ420は、次の測定試料が調製される前に、図示しない洗浄機構によって洗浄され、洗浄後の液は廃液チャンバに廃棄される。
【0019】
測定ユニット400において、試薬容器ホルダ60は一つまたは複数備えられる。試薬容器ホルダ60には、光によって励起されて第一波長の蛍光を放出する第一の蛍光色素および光によって励起されて第二波長の蛍光を放出する第二の蛍光色素の何れをも含む試薬を収容する試薬容器200が装着される。
図2に示した例では、第一蛍光色素と第二蛍光色素とを含有する試薬が一つの試薬容器200に収容されている。
【0020】
試薬容器200は、試薬が収容される容器である。試薬容器200は、送液機構430の送液管431の第一端に接続されたピアサ(吸引管)64が挿入される開口を有している。試薬容器200は、試薬容器ホルダ60に装着される前の状態では、例えば、開口は封止フィルムで覆われている。試薬容器ホルダ60に装着された試薬容器200の開口に、ピアサ64が挿入される。挿入されたピアサ64は、試薬容器200内の所定位置に固定される。試薬容器200に挿入されたピアサ64は、例えば、試薬容器200が試薬容器ホルダ60に装着されている間は、上述の所定位置に固定されている。また、少なくとも、複数の異なる検体の測定が実行される間(即ち、異なる複数の測定試料が調製される間)は、上述の所定位置に固定される。
【0021】
FCM検出部460は、第一および第二の蛍光色素で染色された細胞から発せされた第一および第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の信号を取得する。FCM検出部460では、フローセル内を流れる測定試料に光を照射する。FCM検出部460は、例えば、各波長に各々対応する複数の光源を備えてもよく、あるいは、単一波長の光を照射し、単一波長の光から励起された複数の蛍光色素からの蛍光を検出するように構成されてもよい。光が測定試料に照射されることにより、第一蛍光色素および第二蛍光色素に各々対応する光学的信号が検出される。各光学的信号はA/D変換され、デジタルデータが取得される。取得されたデジタルデータは、分析ユニット300X(
図1参照)で分析される。
【0022】
第1実施形態において、試薬容器200とチャンバ420との間には送液管431が設けられており、送液部432が試薬容器410内の試薬を送液管431を介してチャンバ420に送る。よって、第1実施形態において、試薬を試薬容器からノズルで吸引し、試薬を吸引したノズルをチャンバの配置場所に移動させ、チャンバに試薬を吐出するプロセス(例えば、非特許文献1参照)は不要である。
【0023】
分析ユニット300X(
図1参照)は、第一および第二の蛍光色素で染色された細胞から発せされた第一および第二波長の蛍光に各々対応する第一および第二の信号のそれぞれに基づいて、細胞の分類および計数の少なくとも一つを行う。
【0024】
図3は第1実施形態の分析システムによる測定試料調製処理の手順を示すフローチャートである。
図1、
図2及び
図3を参照しながら分析システム4000による測定試料調製処理について説明する。分析システム4000による測定試料調製処理では、まず、測定ユニット400において、検体をチャンバ420に分注する(ステップS1)。次に、試薬容器410とチャンバ420とをつなぐ送液管431を介して、試薬をチャンバ420に注入する(ステップS2)。次に、チャンバ420内において、検体と、第一及び第二の蛍光色素を含む試薬とを混合し、測定試料を調製する(ステップS3)。次に、チャンバ420内で調製した測定試料をFCM検出部460に送液し光を照射して、側方散乱光および第一及び第二の蛍光色素に各々対応する光学的信号を取得する(ステップS4)。次に、取得した光学的信号から生成されたデータを分析ユニット300Xによって分析する(ステップS5)。そして、分析ユニット300Xが分析結果を提供する(ステップS6)。
【0025】
第1の実施形態によれば、第1及び第2の蛍光色素と検体とを反応させるための第1及び第2蛍光色素のチャンバ420への供給を、送液管431を通じて行うことができる。送液管431は、第1及び第2蛍光色素を含む試薬12のみをチャンバ420に供給する専用の流路である。送液管431の内部は常に試薬12によって満たされた状態を維持することができるため、定量部(ポンプ)433による定量が迅速に行える点で、処理スピードが高められる。さらに、送液管431は、試薬12を供給するための専用の流路であるため、異なる試薬どうしのコンタミネーションを防止する必要がなく、洗浄が不要である。洗浄が不要であることも処理スピード向上に貢献する。
【0026】
第1実施形態による利点は、例えば非特許文献1との比較において、さらに明らかとなる。例えば、非特許文献1に記載のフローサイトメータでは、反応容器として、96穴プレートが用いられる。96穴プレートは消耗品であり、使用後はフローサイトメータから取り出されて廃棄される。従って、非特許文献1に記載のフローサイトメータは、試薬容器と反応容器とを送液管で接続し、試薬の吸引・吐出のためのプロセスを除くことはできない構成である。
【0027】
また、非特許文献1に記載のフローサイトメータによる測定には、血液検体中の細胞における4つのマーカー(CD45、CD3、CD4、CD8)に対応する4種類の蛍光色素を含有する試薬(非特許文献2:AQUIOS Tetra-1 Panel)が用いられる。これらの蛍光色素の各々は、上記の各マーカーに対応する抗体に付されている。つまり、非特許文献2の試薬は、抗体-抗原反応によって、血液検体中の細胞を染色する。このような試薬の場合、反応に時間を要するため、1検体の測定に時間がかかる。具体的には、非特許文献1には、測定試料の調製を含めて、1検体の測定に約20分要すると記載されている。非特許文献1の技術は、1検体あたりの測定時間(特に、抗体-抗原反応に要する時間)が長くなるため、消耗品の96穴プレートの複数のウェルで、複数の検体の測定試料の調製を並行して実行して検体当たりの延べ処理時間を短縮している。言い換えると、単位時間当たりの処理能力(スループット)を向上させている。これに対して、第1実施形態では、試薬12として、化合物自体が細胞の細胞質、核酸、DNAを染色する第1及び第2の蛍光色素を含む試薬が用いられる。このような蛍光色素は、抗体試薬に比べて染色のための反応が早く、例えば1検体の測定試料の調製に要する時間は1分未満である。したがって、第1実施形態によれば、複数の蛍光標識を用いた測定を高い処理能力で実現することが可能な分析装置を提供することができる。
(第2実施形態)
【0028】
第2実施形態の分析システム4000は、血液検体中の細胞の計数および分析の少なくとも一つを実行する多項目自動血球分析装置である。
図4は、第2実施形態の分析システム4000(
図1参照)の測定ユニット400の構成を示すブロック図である。測定ユニット400は、試料調製部440、装置機構部455、検体吸引機構450、FCM検出部460、RBC/PLT検出部461、HGB検出部462および測定ユニット制御部480を備える。RBC/PLT検出部461は、血液と希釈液によって調製された測定試料をアパーチャに導入し、細胞がアパーチャを通過する際に生じる電気抵抗の変化を検出することにより赤血球(RBC)および血小板(PLT)を計数する電気抵抗式検出部である。HGB検出部462は、SLSヘモグロビン法にり血液中のヘモグロビン濃度を計測する。HGB検出部462は、血液とSLS溶血剤とより調製される測定試料に、SLSヘモグロビンの吸収波長である波長555nmの光を照射し吸光度を測定することにより、血液中のヘモグロビン濃度を測定する。以下、FCM検出部460、RBC/PLT検出部461およびHGB検出部462を、「検出部460~462」と総称することがある。
【0029】
検体吸引機構450は、検体容器から検体を吸引し、吸引した検体を試料調製部440のチャンバに吐出する。試料調製部440は、検体と試薬を混合するためのチャンバと、試薬容器が設置される試薬容器ホルダ60とを含む。試料調製部440は、試薬容器ホルダ60に設置された試薬容器から、後述する送液管を介してチャンバに試薬を送液する。チャンバ内で検体と試薬が混合されることで、測定試料が調製される。
【0030】
装置機構部455は、測定ユニット400の各部を動かすモータやアクチュエータを含む。装置機構部455は、例えば、後述の採血管T(
図5参照)を上下方向に移動させる機構を含む。
【0031】
測定ユニット制御部480は、FCM検出部460から出力されるアナログ信号を処理するアナログ処理部481と、アナログ処理部481から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部481aと、RBC/PLT検出部461から出力されるアナログ信号を処理するアナログ処理部482と、アナログ処理部482から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部482aと、HGB検出部462から出力されるアナログ信号を処理するアナログ処理部483と、アナログ処理部483から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部483aと、各A/D変換部481a、482a、483aと電気的に接続されたIF部(インターフェース部)484とを備える。さらに、測定ユニット制御部480は、試料調製部440、装置機構部455、検体吸引機構450、FCM検出部460、RBC/PLT検出部461およびHGB検出部462と電気的に接続されたインターフェース(IF)部488と、各IF部484、488と電気的に接続されたバス485と、バス485と分析ユニット302Xとを電気的に接続するIF部489とを備える。
【0032】
図5は、検体吸引機構450、試料調製部440および検出部460~462を含む流体回路を示す。
図4に示す試料調製部440は、FCM検出部460による光学測定のための第1測定試料を調製するための第1試料調製部440Aと、RBC/PLT検出部による電気的抵抗式測定のための第2測定試料及びHGB検出部462によるヘモグロビン測定のための第3測定試料を調製するための第2試料調製部440Bを備える(
図5参照)。
【0033】
第1試料調製部440Aは、第1チャンバ420を有する。第1チャンバ420は、試薬容器R1、R2に接続されている。試薬容器R1は、赤血球を収縮させる溶血剤を収容する。試薬容器200は、蛍光色素を含有する白血球染色試薬を収容する。試薬容器R2は、希釈液を収容する。試薬容器R2については後述する。
【0034】
試薬容器200に収容される白血球染色試薬は、第1蛍光色素と第2蛍光色素を含有する。第1蛍光色素と第2蛍光色素については後述する。
【0035】
第2試料調製部400Bは、第2チャンバ55を有する。第2チャンバ55は、試薬容器R2と、試薬容器R3に接続されている。試薬容器R2は、第1試料調製部440Aと共通して設けられている。試薬容器R3は、赤血球を溶血させるとともにSLSヘモグロビン法による測定のための試料を調製するためのSLS溶血剤を収容する。
【0036】
白血球染色試薬を収容する試薬容器200は、試薬容器ホルダ60に保持される。試薬容器ホルダ60には、試薬容器200内の核酸染色用試薬を吸引するための吸引管64と、吸引管64を昇降させる吸引管昇降機構65と、が設けられている。吸引管64の先端は、試薬容器200のシール材を貫通(穿刺)可能である。吸引管昇降機構65には、カバー63が接続されている。吸引管昇降機構65が下降し、吸引管64が試薬容器200のシール材を貫通(穿刺)している状態で、カバー63も下降し、カバー63が試薬容器200を覆う。吸引管昇降機構65が上昇すると、カバー63も上昇し、試薬容器200が外部から取り外し可能になる。
【0037】
吸引管64と第1チャンバ420の間には、送液機構430が設けられている。送液機構430は、送液管431と、定量ブロック432とを備える。送液管431は、その一端が吸引管64によって構成され、他端が第1チャンバ420に接続されている。定量ブロック432は、定量部30と、電磁バルブV1、V2とを備える。定量部30としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブV1、V2は、流路を開閉する。試薬容器200内の白血球染色試薬をチャンバ420に送液する場合、電磁バルブV1が開き、電磁バルブV2が閉じた状態で、定量部30が送液管431に陰圧を与える。これにより、吸引管64の先端から送液管431に白血球染色試薬が吸引され、電磁バルブV1、V2、及び定量部30の間の流路に一定量の白血球染色試薬が充填される。次に、電磁バルブV1が閉じ、電磁バルブV2が開いた状態で、定量部30が送液管431に陽圧を与える。これにより、電磁バルブV1、V2、及び定量部30の間の流路に充填された一定量の白血球染色試薬が押し出され、送液管431を通じてチャンバ420に白血球染色試薬が供給される。
【0038】
溶血剤を収容する試薬容器R1と第1チャンバ420の間の流路には、定量部22と、電磁バルブV3、V4と、が設けられている。定量部22としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブV3、V4は、流路を開閉する。定量部22及び電磁バルブV3、V4は、先述の電磁バルブV1、V2及び定量部30と同様にして、試薬容器R1内の溶血剤を、第1チャンバ420に、定量的に送り込む。
【0039】
希釈液を収容する試薬容器R2と第1チャンバ420の間の流路には、定量部33と、電磁バルブV5、V6と、が設けられている。定量部33としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブV5、V6は、流路を開閉する。定量部33及び電磁バルブV5、V6は、試薬容器R2内の希釈液を、第1チャンバ420に、定量的に送り込む。
【0040】
第1チャンバ420には、不要になった溶液を収容する廃液チャンバ36が接続される。第1チャンバ420と廃液チャンバ36の間には、流路を開閉する電磁バルブV7が設けられる。
【0041】
第1チャンバ420は、第1チャンバ420内の液体を攪拌するために、第1チャンバ420内にエアを供給するポンプ56Aに接続されている。
【0042】
希釈液を収容する試薬容器R2と第2チャンバ55の間の流路には、定量部38と、電磁バルブV8、V9と、が設けられている。定量部38としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブV8、V9は、流路を開閉する。定量部38及び電磁バルブV8、V9は、試薬容器R2内の希釈液を、第2チャンバ55に、定量的に送り込む。第2チャンバ55には、不要になった溶液を収容する廃液チャンバ41が接続される。第2チャンバ55と廃液チャンバ41の間には、流路を、第2チャンバ55から廃液チャンバ41に通ずる流路と、第2チャンバ55からRBC/PLT検出部461及びHGB検出部462に通ずる流路との間で切り替える電磁バルブV10が設けられる。電磁バルブV13については後述する。
【0043】
SLS溶血剤を収容する試薬容器R3と第2チャンバ55の間の流路には、定量部39と、電磁バルブV11、V12と、が設けられている。定量部39としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブV11、V12は、流路を開閉する。定量部39及び電磁バルブV11、V12は、試薬容器R3内のSLS溶血剤を、第2チャンバ55に、定量的に送り込む。
【0044】
第2チャンバ55は、第2チャンバ55内の液体を攪拌するために、第2チャンバ55内にエアを供給するポンプ56Bに接続されている。
【0045】
検体吸引機構450は、吸引管20及び定量部21を有する。吸引管20は先端が鋭利に形成されている。検体吸引機構450が採血管100を下降することで、吸引管20が採血管100を塞ぐ蓋100aを穿刺し、内部に挿入される。吸引管20が採血管100の内部に挿入された状態で定量部21が陰圧を生成することにより、採血管100に収容された血液試料が吸引管20内に吸引される。検体吸引機構450は、吸引管20を上方に移動させて採血管100から吸引管20を抜き出し、吸引管20を第1チャンバ420の上方へ水平移動させる。検体吸引機構450は、第1チャンバ420に対して吸引管20を下降させ、定量部21が陽圧を生成することにより、吸引された血液試料を第1チャンバ420に吐出する。検体吸引機構450は、吸引管20を上方に移動させて第2チャンバ55の上方へ水平移動させ、第1チャンバ420のときと同様にして、血液試料を第2チャンバ55に吐出する。
【0046】
第1チャンバ420は、FCM検出部460(
図4参照)に接続されている。第1チャンバ420に吐出された血液試料は、上述の試薬容器200に収容された白血球染色試薬および試薬容器R1に収容された溶血剤と混合され、測定試料が調製される。より詳しくは、赤血球が溶血剤によって溶血され、かつ白血球が第1蛍光色素および第2蛍光色素によって染色された測定試料が調製される。このような測定試料は、例えば次のようにして調製される。まず、第1チャンバ420に溶血剤が供給され、次に第1チャンバ420に血液試料が吐出される。第1チャンバ420にエアが供給され、混合物が撹拌される。これにより、溶血剤によって赤血球が溶血される。次に、第1チャンバ420に白血球染色試薬が供給される。第1チャンバ420にエアが供給され、混合物が撹拌される。第1チャンバ420内で反応が進められ、蛍光色素による染色が行われる。反応時間は、例えば1分未満であり、より好ましくは50秒未満であり、より好ましくは45秒未満である。これにより、血液に含まれる白血球が第1蛍光色素および第2蛍光色素によって染色された測定試料が得られる。FCM検出部460は図示しないポンプに接続されており、ポンプの駆動により第1チャンバ420内の測定試料がFCM検出部460に供給される。FCM検出部460は、第1蛍光色素に対応する蛍光および第2蛍光色素に対応する蛍光を含む複数の光信号を白血球から取得する。
【0047】
第2チャンバ55は、RBC/PLT検出部461と、HGB検出部462に接続されている。電磁バルブV13は、第2チャンバ55からの測定試料のRBC/PLT検出部46への送液と、HGB検出部462への送液とを切り替える。RBC/PLT検出部461と、HGB検出部462は、図示しないポンプに接続されており、ポンプの駆動により第2チャンバ55内の測定試料が、RBC/PLT検出部461と、HGB検出部462のそれぞれに供給される。第2チャンバ55は、RBC/PLT検出のための測定試料と、HGB検出のための測定試料の両方の調製に用いられる。このような試料の調製手順の一例を説明する。まず、試薬容器R2から第2チャンバ55へ希釈液が供給される。次に、第2チャンバ55に血液試料が吐出される。これにより、血液が希釈された測定試料が得られる。これがRBC/PLT検出のための測定試料となる。第2チャンバ55の測定試料の一部がRBC/PLT検出部461へ送液され、電気抵抗式検出が行われる。次に、第2チャンバ55に残っている測定試料に、試薬容器R3からSLS溶血剤が供給される。これにより、赤血球が溶血するとともに、ヘモグロビンがSLSヘモグロビンに転化された測定試料が得られる。この測定試料が、HGB検出部462へ送液される。なお、
図5の例では、RBC/PLT検出のための測定試料と、HGB検出のための測定試料を共通の第2チャンバ55で調製しているが、それぞれ別々のチャンバで調製してもよい。
【0048】
このような構成を有する分析システム4000(
図1参照)は、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球血色素量(MCH)、及び平均赤血球血色素濃度(MCHC)の少なくとも8つのパラメータからなるCBC(Complete Blood Count)項目を測定可能に構成されてもよい。さらに、分析システム4000は、CBC項目に加えて、白血球を複数の亜集団に分類するDIFF項目を測定可能に構成されてもよい。
【0049】
<試料調製部に関する変形例>
図6は、第1試料調製部440Aの他の一例を示す模式図である。なお、
図6において、
図5中の要素と同様の要素は図示を省略している。上記の
図5に示す例では、第1蛍光色素と第2蛍光色素を含む試薬を1つの試薬容器200内に収容し、1つの試薬容器200内の試薬を1つの送液機構430によってチャンバ420内に送液するように構成された第1試料調製部440Aを例示した。
図6に示す変形例の第1試料調製部440Aでは、第1蛍光色素を含む試薬と第2蛍光色素を含む試薬とをそれぞれ個別の試薬容器200A、200Bに収容し、各試薬容器200A、200B 内の試薬をそれぞれ個別の第1および第2の送液機構430a、430bによってチャンバ420内に送液するように構成されている。
【0050】
図6の第1試料調製部440Aにおいては、試薬容器ホルダに装着された第1および第2の蛍光色素の何れか一方を含む2つの試薬を検体と混合し、第1および第2の蛍光色素によって細胞が染色された測定試料を調製する1以上のチャンバ420が備えられる。第1の蛍光色素を含む試薬が収容された第1の試薬容器200Aは、試薬容器ホルダ442の第1のホルダ部に装着され、第2の蛍光色素を含む試薬が収容された第2の試薬容器200Bは、試薬容器ホルダ442の第2のホルダ部に装着される。
【0051】
第1の送液機構430aは、第1試薬容器200Aの試薬をチャンバ54に送液するために設けられている。第1送液機構430aの構成は
図3を参照して説明したとおりである。第2の送液機構430bは、第2試薬容器200Bの試薬をチャンバ54に送液するために設けられている。第2送液機構430bの構成は、第1送液機構と同様である。2つの送液機構430a、430bの送液管431は、流路の途中で合流し、チャンバ420に接続されている。なお、
図6の例では、2つの送液管が合流している例を示しているが、2つの送液管が個別にチャンバ420に接続されてもよい。
【0052】
図6の構成では、第1の蛍光色素を含む試薬と、第2の蛍光色素を含む試薬が、それぞれ異なる試薬容器200A、200Bに収容され、異なる2つの送液機構によってチャンバ420に供給されて、検体と混合される。この構成によっても、検体に含まれる血球成分を2つの蛍光色素によって染色する系を構築することができる。
【0053】
図7はFCM検出部460の光学系の一例を示す構成説明図である。
図7に示すように、FCM検出部460は、互いに波長が異なる第1光源4111a、第2光源4111bと、フローセル4113と、ダイクロイックミラー4118a、4118b、4118cと、側方散乱光受光素子4121a、4121bと、前方散乱光受光素子4116と、側方蛍光受光素子4122a、4122bとを備える。
図7の例では、光源が、第1の蛍光色素を励起させるための第1光源4111aおよび第2の蛍光色素を励起させるための第2光源4111bから構成されている。
【0054】
FCM検出部460は、第1光源4111aによる側方散乱光および側方蛍光に各々対応する複数の信号で構成される前記第1の信号と、第2光源4111bによる前方散乱光、側方散乱光および側方蛍光に各々対応する複数の信号で構成される前記第2の信号と、を取得する。上述のとおり、FCM検出部460は、第1試料調製部440Aの第1チャンバ420に接続されている(
図5参照)。第1チャンバ420において調製した測定試料が、FCM検出部460のフローセル(シースフローセル)4113に流される。
図7の例では、紙面に対して垂直方向に測定試料が流される。フローセル4113に測定試料が流れている状態で、第1光源4111aおよび第2光源4111bがフローセル4113に光を照射する。より詳しくは、第1光源4111aから発せられた光がダイクロイックミラー4118aによって反射されてフローセル4113に照射される。第2光源4111bから発せられた光がダイクロイックミラー4118aを透過して、フローセル4113に照射される。
【0055】
FCM検出部460の第1光源4111aおよび第2光源4111bは特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源が選択される。第1光源4111aは、例えば、第1波長の光を照射可能であり、第2光源4111bは、第1波長よりも長い波長である第2波長の光を照射可能である。例えば、第1波長は315~490nmであり、好ましくは400~450nmであり、より好ましくは400~410nmである。第2波長は610~750nmであり、好ましくは620~700nmであり、より好ましくは633~643nmである。そのような第1および第2光源4111a、4111bとしては、例えば、半導体レーザ光源、アルゴンレーザ光源、ヘリウム-ネオンレーザ等の気体レーザ光源、水銀アークランプなどが使用可能である。特に、半導体レーザ光源は、気体レーザ光源に比べて安価であるため好適である。上述のように、第1光源4111aおよび第2光源4111bについて、照射する光の波長帯域が離れたものを選択することで、各光源に各々対応する蛍光色素からの蛍光の波長帯域の重なりが小さい色素を選択しやすくなる。蛍光色素から発せられる蛍光の波長帯域の重なりが大きい場合、後述する漏れ込みに対応する必要があるが、蛍光の波長帯域の重なりが小さい(もしくは重なりがない)蛍光色素が選択できることで、漏れ込みへの対応が不要となる。
【0056】
前方散乱光受光素子4116は、第2光源4111bから照射された光に基づいて細胞から発せられる前方散乱光を受光するように配置されている。前方散乱光受光素子4116は、例えば、第2光源4111bから照射された光に対応する前方散乱光のみを受光するように構成されている。前方散乱光受光素子4116は、例えばフォトダイオードである。この例では、受光素子4116は第2光源4111bから照射された第2波長の前方散乱光を受光するが、代替的に、第1光源4111aから照射された第1波長の前方散乱光を受光してもよい。
【0057】
側方散乱光受光素子4121aは、第1光源4111aからの光に対応する側方散乱光を受光するように配置されている。第1光源4111aから照射された光に対応する側方散乱光(第1側方散乱光)は、ダイクロイックミラー4118bによって反射され、側方散乱光受光素子4121aによって受光される。側方散乱光受光素子4121aは、例えばフォトダイオードである。
【0058】
側方散乱光受光素子4121bは、第2光源4111bからの光に対応する側方散乱光を受光するように配置されている。第2光源4111bから照射された光に対応する側方散乱光(第2側方散乱光)は、ダイクロイックミラー4118cによって反射され、側方散乱光受光素子4121bによって受光される。側方散乱光受光素子4121bは、例えばフォトダイオードである。
【0059】
側方蛍光受光素子4122aは、第1光源4111aからの光に対応する蛍光、すなわち第1光源4111aからの第1波長の光によって第1蛍光色素が励起されて生じた光を受光するように配置されている。第1光源4111aから照射された光に対応する側方蛍光(第1側方蛍光)は、ダイクロイックミラー4118bを透過して側方蛍光受光素子4122aによって受光される。側方蛍光受光素子4122aは、例えばアバランシェフォトダイオードである。
【0060】
側方蛍光受光素子4122bは、第2光源4111bからの光に対応する蛍光、すなわち第2光源4111bからの第2波長の光によって第2蛍光色素が励起されて生じた光を受光するように配置されている。第2光源4111bから照射された光に対応する側方蛍光(第2側方蛍光)は、ダイクロイックミラー4118cを透過して側方蛍光受光素子4122bによって受光される。側方蛍光受光素子4122bは、例えばアバランシェフォトダイオードである。なお、前方散乱光受光素子4116、側方散乱光受光素子4121a、4121b、側方蛍光受光素子4122a、4122bとして光電子増倍管を用いてもよい。
【0061】
前方散乱光受光素子4116、側方散乱光受光素子4121a、4121b、側方蛍光受光素子4122a、4122bは、それぞれ、受光強度に応じたパルスを含む波形状の電気信号(受光信号ともいう)を出力する。典型的には、受光信号の個々のパルスが一つの細胞(例えば白血球)に対応する。出力された受光信号は、それぞれ、アナログ処理部481に入力される。アナログ処理部481は、FCM検出部460から入力されるアナログ信号に対してノイズ除去、平滑化等の処理を行い、処理後のアナログ信号をA/D変換部481aに対して出力する。その他のアナログ処理部482、483(
図4参照)はアナログ処理部481と同様に構成されている。
【0062】
A/D変換部481aは、アナログ処理部481から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。A/D変換部481aは、検体の測定開始から測定終了までのアナログ信号をデジタル信号に変換する。ある測定チャネルでの測定によって複数種類のアナログ信号(例えば、前方散乱光強度、第1側方散乱光強度、第1蛍光強度、第2側方散乱光強度、及び第2蛍光強度にそれぞれ対応するアナログ信号)が生成される場合、A/D変換部481aは、それぞれのアナログ信号の測定開始から測定終了までをデジタル信号に変換する。A/D変換部481aには、例えば、5種類のアナログ信号(すなわち前方散乱光信号、第1側方散乱光信号、第1蛍光信号、第2側方散乱光信号及び第2蛍光信号)が入力される。A/D変換部481aは、入力されたアナログ信号のそれぞれをデジタル信号に変換する。
【0063】
A/D変換部481aは、例えば、所定のサンプリングレート(例えば、10ナノ秒間隔で1024ポイントのサンプリング、80ナノ秒間隔で128ポイントのサンプリング、又は160ナノ秒間隔で64ポイントのサンプリング等)で、アナログ信号をサンプリングする。A/D変換部481aは、例えば、フローセル4113を流れる個々の細胞に対応する5種類のアナログ信号に対してサンプリング処理を実行することで、各有形成分について前方散乱光信号の波形データ、第1側方散乱光信号の波形データ、第1蛍光信号の波形データ、第2側方散乱光信号の波形データ、および第2蛍光信号の波形データを生成する。A/D変換部481aは、生成した波形データのそれぞれにインデックスを付与する。生成された波形データは、例えば、一つの検体に含まれるN個の細胞に各々対応する信号を有するデジタル信号になる。これによりN個の細胞から得られる5種類のアナログ信号(前方散乱光信号、第1、第2側方散乱光信号および第1、第2蛍光信号)に対応する5つのデジタル信号が生成される(
図39参照)。
【0064】
A/D変換部481aは、アナログ信号から波形データを生成することに加えて、アナログ信号のパルスから個々の細胞の形態的特徴を表す特徴パラメータ、例えば、ピーク値、パルス幅、パルス面積を計算する。
【0065】
図8は、FCM検出部の光学系の他の例を示す構成説明図である。
図8に示すように、FCM検出部460xの光源は、第1の蛍光色素および第2の蛍光色素を励起させる一つの光源4111から構成されてもよい。この場合、FCM検出部460xは、光源4111による前方散乱光、側方散乱光および側方蛍光に各々対応する複数の信号で構成される前記第1の信号と、光源4111による側方蛍光に対応する第2の信号と、を取得する。
【0066】
この場合、一つの光源4111から、例えば、所定波長の光がフローセル4113に対して照射される。フローセル4113を流れる測定試料に含まれる細胞は、上述の例と同様に、励起される蛍光色素から放出される蛍光の波長が異なる複数種類の蛍光色素で染色されている。この例の場合、複数種類の蛍光色素は、所定波長(例えば488nm)の光が照射されることによって励起される波長が異なる複数種類の蛍光色素が用いられる。励起される波長が異なる複数種類の蛍光色素は、例えば、各蛍光色素に一つの光源からの光が照射されたことにより励起されて放出する蛍光の色が異なることを意味する。
【0067】
図8に示すFCM検出部460xの光学系では、測定試料に含まれる細胞を複数の蛍光色素で染色し、一つの光源4111から光を細胞に照射して複数の蛍光色素から発せられたときの各蛍光を検出することができる。この場合、一つの光源4111から照射される光は単一波長を有するため、一つの光源4111から光を細胞に照射したとき、その光の単一波長に対応する一つの側方散乱光が発せられる。したがって、
図8に示すFCM検出部460xの光学系では、ダイクロイックミラーについては一つのダイクロイックミラー4118が設けられ、その他の構成については
図7で示した光学系と概ね同様である。
【0068】
蛍光色素の各々の蛍光は、それぞれ固有のスペクトルを有する。そのため、光学系(例えば、
図7中のダイクロイックミラー4118、側方蛍光受光素子4122a、4122b)によって単一波長域に分離した場合、一つの細胞中の標的の分子に結合した一つの蛍光色素以外の他の蛍光色素から発せられた蛍光が側方蛍光受光素子4122a、4122bのそれぞれに漏れ込むことがある。例えば、
図9に示す例のように、単一波長の光を複数の蛍光色素に照射することで、各蛍光色素が励起される場合、各蛍光色素が励起されて放出する各蛍光の波長帯域の重なりが大きくなることがある。蛍光の波長帯域の重なりの例を示す
図9のように、蛍光の波長帯域に重なりがある複数の蛍光色素が選択される場合、例えば、蛍光の漏れ込みに対する対応が実施される。
【0069】
図9は異なる2つの蛍光色素から発せされた蛍光が互いに漏れ込んでいる例を示す図である。
図9に示す例では、蛍光色素F1と、蛍光色素F2の2つの色素から発せされた各蛍光が互いに漏れ込んでいる例を示す。
図9に例示されたグラフの縦軸は蛍光高度を示し、横軸は波長を示す。蛍光色素F1から発せられた光は、
図9の波長帯域(a)の光が一方の側方蛍光受光素子により検出される。また、蛍光色素F2から発せられた光は、
図9の波長帯域(b)の光が他方の側方蛍光受光素子により検出される。蛍光色素F1に対応する一方の側方蛍光受光素子によって検出される波長帯域(a)は、蛍光色素F2によって発せられる蛍光の波長帯域を含む。また、蛍光色素F2に対応する他方の側方蛍光受光素子によって検出される波長帯域(b)は、蛍光色素F1によって発せられる蛍光の波長帯域を含む。そこで、波長帯域(a)の蛍光(蛍光色素F1に対応)のうち、蛍光色素F2に対応する部分を除く補正をすることにより、蛍光色素F1による蛍光の測定値をより正確に得ることができる。また、波長帯域(b)の蛍光(蛍光色素F2に対応)のうち、蛍光色素F1に対応する部分を除く補正をすることにより、蛍光色素F2による蛍光の測定値をより正確に得ることができる。
【0070】
図9に示された蛍光の漏れ込みを補正するため、蛍光色素F1の陽性コントロールおよび蛍光色素F2の陽性コントロールが用いられる。蛍光色素F1の陽性コントロールには、例えば、蛍光色素F1が付加された粒子を含有するコントロール試薬を用いる。蛍光色素F2の陽性コントロールには、例えば、蛍光色素F2が付加された粒子を含有するコントロール試薬を用いる。
【0071】
図8に例示された光学系を備えた分析システムによる蛍光色素F1の陽性コントロールの測定は、検体の測定の前に次のように行われる。光源4111からの光(単一波長の光)が、フローセル4113を流れる陽性コントロール中の粒子に照射される。粒子に光が照射されることによって生じた蛍光が、各側方蛍光受光素子4122a、4122bによって検出される。例えば、側方蛍光受光素子4122aは、蛍光色素F1から発せられる蛍光の検出に対応し、側方蛍光受光素子4122bは、蛍光色素F2から発生される蛍光の検出に対応する。この場合、蛍光色素F1の陽性コントロール中の粒子から発せされた蛍光のうち、側方蛍光受光素子4122bで検出された蛍光が漏れ込みとなる。例えば、蛍光色素F1の陽性コントロール中の粒子から発生された蛍光のうち、側方蛍光受光素子4122aで検出された蛍光強度が“100”であり、側方蛍光受光素子4122bで検出された蛍光強度が“5”であった場合、蛍光色素F1からの蛍光の5%が4122bに漏れ込んでいる。例えば、蛍光色素F2の陽性コントロール中の粒子から発せられた蛍光のうち、側方蛍光受光素子4122aで検出された蛍光強度が“10”であり、側方蛍光受光素子4122bで検出された蛍光強度が“100”であった場合、蛍光色素F2からの蛍光の10%が側方蛍光受光素子4122aに漏れ込んでいる。この結果をまとめると、下記の表1のようになる。この表1を、以降、「コンペンセーションマトリックス」と呼ぶことがある。
【0072】
【0073】
次に、各蛍光色素F1、F2で染色された細胞を含む測定試料から得られた測定値を、前記のコンペンセーションマトリックスを用いて補正する例を説明する。測定値の補正の例は、以下のようになる。
・側方蛍光受光素子4122aによる蛍光色素F1の補正された蛍光強度=側方蛍光受光素子4122aで測定された蛍光強度 - (蛍光色素F2の陽性コントロールを側方蛍光受光素子4122bで測定したときの蛍光強度の5%)
・側方蛍光受光素子4122bによる蛍光色素F2の補正された蛍光強度=側方蛍光受光素子4122bで測定された蛍光強度 - (蛍光色素F1の陽性コントロールを側方蛍光受光素子4122aで測定したときの蛍光強度の10%)
【0074】
前記の例では、蛍光色素F1の陽性コントロールの蛍光を側方蛍光受光素子4122aで検出した場合の蛍光強度は“100”であり、蛍光色素F2の陽性コントロールの蛍光を側方蛍光受光素子4122bで検出した場合の蛍光強度は“100”である。よって、補正後の蛍光強度は、それぞれ、以下になる。
・側方蛍光受光素子4122aによる蛍光色素F1の補正された蛍光強度=側方蛍光受光素子4122aで測定された蛍光強度100 - 10
・側方蛍光受光素子4122bによる蛍光色素F2の補正された蛍光強度=側方蛍光受光素子4122bで測定された蛍光強度100 - 5
【0075】
図7及び
図8に例示した光学系では、第1蛍光色素及び第2蛍光色素が励起されて生じる蛍光として、照射光の進行方向に対して側方(
図7及び
図8の例では進行方向に対して約90°)に生じる蛍光(側方蛍光)を検出する例を示したが、この例には限られない。例えば、照射光の進行方向に対して前方に生じる蛍光を検出してもよいし、照射光の進行方向に対して直角ではない一定の角度、例えば20~90°に生じる蛍光を検出してもよい。
【0076】
図10は、分析ユニット300Xの構成の一例を示すブロック図である。
図10に示すように、分析ユニット300Xは、インターフェース部3006を介して測定ユニット400と電気的に接続される。インターフェース部3006は、例えば、USBインターフェースである。分析ユニット300Xは、プロセッサ3001、メインメモリ3017、バス3003、記憶部3004、前記インターフェース部3006、表示部3015および操作部3016を備える。分析ユニット300Xは、例えば、パーソナルコンピュータ(
図1の分析ユニット300Xを参照)によって構成されており、記憶部3004に格納されたプログラムを実行することで、分析システム4000の測定ユニット400を制御する。分析ユニット300Xは、例えば、分析用のプログラムを実行し、測定ユニット400で取得されたデータを分析する。分析ユニット300Xは、分析結果を表示部3015に表示する。分析ユニット300Xは、例えば
図7を参照して説明した例では、測定ユニット400がFCM検出部460によって個々の細胞から取得した前方散乱光強度、第1側方散乱光強度、第1蛍光強度、第2側方散乱光強度、及び第2蛍光強度のうちの少なくとも1つ、好ましくは複数、に対応する波形データを学習済みのAIアルゴリズムに入力することで細胞の分類を行ってもよい。あるいは、分析ユニット300Xは、前方散乱光強度、第1側方散乱光強度、第1蛍光強度、第2側方散乱光強度、及び第2蛍光強度に基づく個々の細胞の特徴パラメータ(ピーク値、パルス幅、パルス面積)に基づいて、細胞の分類を行ってもよい。例えば、複数の特徴パラメータを用いて粒子を複数の種類に分類する方法としては、複数のパラメータを軸とする多次元の座標空間に粒子をプロットし、少なくともいくつかの粒子を複数の種類に対応する複数の集団に分類し、各集団の重心位置と粒子との距離に基づいて各集団に対する各粒子の帰属度を求め、帰属度に基づいて粒子を再分類することで複数の粒子を複数の種類に分類する方法が採用できる。このような分類方法は、たとえば米国特許第5,555,198号に記載されている。米国特許第5,555,198号は、本明細書に参照としてここに組み込まれる。あるいは、一つの測定試料に含まれる一部の細胞に対してはAIアルゴリズムに基づく分類を行い、他の細胞に対しては特徴パラメータに基づく分類を行ってもよい。
【0077】
プロセッサ3001はCPU(Central Processing Unit)であり、記憶部3004からメインメモリ3017に展開されたプログラムを実行する。記憶部3004は、例えば、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)である。記憶部3004には、例えば、測定ユニット400を制御するためのプログラム、測定ユニット400が取得したデータを分析するためのプログラムなどが記憶されている。表示部3015は、コンピュータスクリーンを備える。表示部3015はインターフェース部3006とバス3003を介してプロセッサ3001に電気的に接続されている。表示部3015には、例えば、測定ユニット400で取得されたデータの分析結果が表示される。
【0078】
操作部3016は、キーボード、マウスまたはタッチパネルを含むポインティングデバイスを備える。医師や検査技師等のユーザは、操作部3016を操作することで、分析システム4000に測定オーダーを入力し、測定オーダーにしたがって測定指示を入力することができる。操作部3016は、ユーザから検査結果を表示する指示を受け付けることもできる。ユーザは、操作部3016を操作し、検査結果に関する様々な情報、例えば、グラフ、チャート、検体に付与されたフラグ情報を閲覧することができる。上述の測定ユニット400は、インターフェース部3006を介して分析ユニット300Xに電気的に接続されている。
【0079】
図11は、分析システム4000の他の構成例を示す斜視図である。
図1~
図10に示す構成例では測定ユニット400と分析ユニット300Xとが別体として設けられた分析システム4000を例示したが、
図11に示すように分析システム4001は測定ユニット400内に分析部300Xが設けられたものであってもよい。この構成によれば、分析システム4001全体がコンパクトなものとなる。
【0080】
図12は、測定ユニットの他の一例の構成を示すブロック図である。
図2、
図5及び
図6の例では、FCM検出部460によって測定可能な測定系(測定チャネルともいう)が一つである例を示した。
図12の構成例では、5つの測定チャネルが設けられている例を示している。
【0081】
第1試料調製部440Aは、5つのチャンバ54a~54eを備える。チャンバ54a~54eは、それぞれ、DIFF、RET、WPC、PLT-F、WNRの測定チャネルにおいて用いられる。各チャンバ54a~54eには、各測定チャネルに対応する試薬である溶血剤を収容した溶血剤容器と染色液を収容した染色液容器がそれぞれ流路を介して送液可能とされている。一つのチャンバおよびチャンバに送液可能に設けられた溶血剤容器および染色液容器によって、一つの測定チャネルが構成されている。例えば、DIFF測定チャネルは、DIFF測定用試薬であるDIFF溶血剤を収容した溶血剤容器およびDIFF染色液を収容した染色液容器と、これらと流路を介して繋がったDIFFチャンバ54aとによって構成されている。他の測定チャネルも同様に構成されている。なお、ここでは一つの測定チャネルが、1種類の溶血剤と1種類の染色液の両方をチャンバに供給するように構成された場合を例示しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、1種類の溶血剤と1種類の染色液の両方を、異なる複数のチャンバに供給するように複数の測定チャネルを構成してもよい。言い換えると、複数の測定チャネルによって一つの試薬(1種類の溶血剤と1種類の染色液)が共用されるようにしてもよく、例えば、五つの測定チャネルのうち、二つはDIFFの測定チャネルであってもよい。さらに、測定チャネルは一つでもよく、あるいは、例えば、DIFFの測定チャネルのみが二つ設けられた構成でもよい。
【0082】
検体吸引機構450(
図2、
図4、
図5参照)は、血液検体を収容した検体容器Tから血液検体を吸引し、装置機構部455(
図4参照)による水平・上下移動によって、チャンバ54a~54eのうち、オーダーに対応する測定チャネルのチャンバに上方位置まで移動し、吸引した血液検体をチャンバ内に吐出する。試料調製部440は、血液検体が吐出されたチャンバに、対応する溶血剤と染色液を供給し、チャンバ内で血液検体と溶血剤と染色液を混合することで測定試料を調製する。調製された測定試料は、流路を介してチャンバからFCM検出部460に供給され、フローサイトメトリー法による細胞の測定が行われる。
【0083】
上述の測定チャネル(DIFF、RET、WPC、PLT-F、WNR)は、測定オーダーに含まれる測定項目に対応している。例えば、DIFFは白血球の分類に関する測定項目に対応する。RETは網状赤血球(レチクロサイト)に関する測定項目に対応する。WPCは、異常白血球の測定に関する測定項目に対応する。PLT-Fは血小板の光学測定に関する測定項目に対応する。WNRは白血球と有核赤血球に関する測定項目に対応する。上述の測定チャネル(DIFF、RET、WPC、PLT-F、WNR)は、FCM検出部460によって測定される。
【0084】
図13は、測定ユニット40のカバー442を開放した状態を示す図である。
図14は測定ユニット400の試薬容器ホルダ60を示した斜視図であり、
図15は
図14に示した試薬容器ホルダ60を示した正面図である。分析システム4000の測定ユニット400(
図1参照)の前面側には、開閉可能な前面カバー442が設けられている(
図13参照)。試薬容器ホルダ60は、測定ユニット400の前面上部に配置されており、
図13に示すように、カバー442を開放することにより、試薬容器ホルダ60が露出し、ユーザによるアクセスが可能となる。つまり、ユーザが試薬容器ホルダ60への試薬容器200の設置と、試薬容器ホルダ60からの試薬容器200の取り出しが可能となる。
【0085】
図14と
図15に示すように、試薬容器ホルダ60は、五つのホルダ部60a、60b、60c、60dおよび60eを含み、合計5つ(5種類)の試薬容器200(または300)を保持するように構成されている。試薬容器ホルダ60に保持される試薬容器200(または300)は、FCM検出部460によって複数の測定項目を測定するための、それぞれ異なる種類の試薬(染色液)を収容している。試薬容器の色は、例えば黒である。試薬容器は、試薬の種類に応じて大型(約100mL)の試薬容器200(
図22参照)と、小型(約20mL)の試薬容器300(
図25参照)とが用いられる。試薬容器の容量は前記に限定されず、例えば、20mlより少ない容量、100mlより少ない容量、100mlよりも多い容量でもよい。例えば、約10ml、約40ml、約80ml、約300mlであってもよい。各ホルダ部60a~60eは、例えば、試薬容器200または300のいずれでも保持可能なように構成されている。したがって、五つのホルダ部60a~60eはそれぞれ同様の構成を有し、たとえば三つのホルダ部60a~60cには大型の試薬容器200がセットされるとともに、二つのホルダ部60dおよび60eには小型の試薬容器300がセットされうる。ホルダ部60a~60eは、それぞれ、シャーシ61と、試薬容器保持部62と、試薬容器保持部62を開閉するためのカバー63と、上述した吸引管64と、吸引管昇降機構65とを含んでいる。
【0086】
試薬容器保持部62は、シャーシ61の下部(
図14、
図15参照)に設けられている。試薬容器保持部62は、
図15に示すように、高さがHであり、
図16に示すように、幅W11を有する第1受入部621と、第1受入部621と連続し、第1受入部621から所定角度θ2で拡がる中間受入部622と、中間受入部622と連続する第2受入部623とを含んでいる。第1受入部621は、
図16と
図17に示すように、試薬容器200(300)の後述する第1収容部210(310)を受け入れ可能であるとともに、ユーザの指の進入を禁止する幅(幅W11)を有する。なお、指とは、例えば、平均的な太さを有する成人の指を意味し、例えば、幅W11は10mmである。また、第2受入部623は、幅W11よりも大きい幅W12を有する。
図16と
図17に示すように、第1受入部621は試薬容器保持部62の最も奥側(矢印Y2方向側)に配置されている。試薬容器200(300)は、第1収容部210(310)の後述する進入部212(312)側から試薬容器保持部62の奥側に向かって挿入される。したがって、試薬容器保持部62は、試薬容器200(300)の進入部212(312)が最も奥側(矢印Y2方向側)になるように挿入された状態で、試薬容器200(300)を保持するように構成されている。
【0087】
また、
図16~
図18に示すように、試薬容器保持部62は、試薬容器200(300)の第1収容部210(310)の両側面214(314)をガイドして第1受入部621に案内する一対の案内部材627を含んでいる。案内部材627は、第1受入部621に試薬容器200(300)の第1収容部210(310)を案内する第1案内部627aと、中間受入部622に対応する中間案内部627bと、第2受入部623に試薬容器200(300)の後述する第2収容部220(320)を案内する第2案内部627cとを有する。なお、案内部材627は、シャーシ61の一部(両内側面)によって形成されている。前記の第1受入部621、中間受入部622および第2受入部623は、それぞれ対応する一対の第1案内部627aの間の空間、一対の中間案内部627bの間の空間および一対の第2案内部627cの間の空間により形成されている。したがって、第1受入部621の幅W11は一対の第1案内部627aの間の幅と等しく、第2受入部623の幅W12は一対の第2案内部627cの間の幅と等しい。
【0088】
一対の案内部材627は、試薬容器200(300)の第1収容部210(310)の両側面214(314)の高さH1(
図24と
図27参照)と略等しい高さH(
図14参照)を有し、試薬容器200(300)の第1収容部210(310)の両側面214(314)の下端から上端までにわたってそれぞれガイド可能に構成されている。さらに、一対の案内部材627は、第1収容部210(310)の外形形状を反映した形状を有し、試薬容器200(300)の第1収容部210(310)の両側面214(314)全体をガイド可能なように構成されている。また、中間案内部627bと第2案内部627cとは、大型の試薬容器200の外形形状を反映した形状を有し、第2収容部220の先端側(第1収容部210側)半分の両側面をガイド可能なように構成されている。この大型の試薬容器200の第2収容部220は、第1収容部210の幅W21より大きな幅W22を有し、第1案内部627aは、第2収容部220の幅W22より小さい幅W11で設けられている。
【0089】
また、
図18に示すように、試薬容器保持部62は、試薬容器200(300)を支持する支持部624と、支持部624を回動可能に支持する回動機構625とを含んでいる。支持部624は、試薬容器200(300)の前面(第1収容部210(310)の先端面、
図16と
図17参照)と当接する前側部624aと、試薬容器200(300)の下面と当接する下側部624bとを一体的に有する板状部材である。すなわち、支持部624は、試薬容器200(300)の形状と対応する形状を有するように形成されている。回動機構625は、シャーシ61の内側面に設けられた環状の軸受625aに、支持部624に設けられた突起部624cが挿入されることにより、突起部624c(軸受625a)の位置を回動中心として、支持部624を回動させることが可能なように構成されている。
【0090】
なお、シャーシ61の内部には、支持部624の前側部624aと当接することによって、回動する支持部624を係止する係止部626が設けられている。係止部626には磁石が設けられており、支持部624の前側部624aと当接した状態で係止部626が前側部624a(支持部624)を保持するように構成されている。これにより、支持部624は、下側部624bが水平(試薬容器200(300)の下面が水平)となる載置位置P1(
図19参照)と、前側部624aが垂直となるセット位置Q1(
図20参照)とに移動するように構成されている。
図20に示すように、このセット位置Q1に配置された状態で、試薬容器200(300)の後述する進入部212(312)(
図16と
図17参照)が、水平となる(吸引管64に対して直交する)ように構成されている。
【0091】
カバー63は、
図19に示すように、ホルダ部60a~60e(シャーシ61)の各々から手前側(矢印Y1方向側)に突出するように配置され、吸引管昇降機構65に取り付けられている。この吸引管昇降機構65により、カバー63は、試薬容器保持部62を開放する上昇位置P2(
図19参照)と、試薬容器保持部62を覆う(閉鎖する)下降位置Q2(
図21参照)とに移動可能に構成されている。したがって、カバー63は、上昇位置P2において試薬容器200(300)の出し入れを許容するとともに、下降位置Q2において試薬容器200(300)の出し入れを禁止するように構成されている。
【0092】
また、
図15に示すように、カバー63の所定位置には、開口からなる窓部631が設けられている。
図21に示すように、カバー63が試薬容器保持部62を覆う(閉鎖する)下降位置Q2に位置した状態で、使用者がこの窓部631を介して、試薬容器200(300)に貼付されたラベル250(350、
図25参照)を視認することが可能なように構成されている。ラベル250(350)の窓部631を介して視認可能な位置には、試薬容器200(300)の種類(試薬の種類)を識別する標識が印刷されている。また、カバー63には、試薬容器保持部62にセットされる試薬容器200(300)の種類(試薬の種類)を識別する標識が印刷されたラベル632が貼付される。すなわち、五つのホルダ部60a~60eには、それぞれ定められた種類の試薬を収容する試薬容器200(300)がセットされるので、これに対応して、各ホルダ部60a~60eのカバー63には、セットされるべき試薬の種類を識別するラベル632が貼付される。これにより、試薬容器保持部62に試薬容器200(300)をセットした状態(カバー63を下降位置Q2に降ろした状態)で、カバー63に付されたラベル632と、窓部631を介して視認されるラベル250(350)とから、正しい試薬が各ホルダ部60a~60eにセットされているかを確認することが可能なように構成されている。
【0093】
図16と
図20に示すように、吸引管64は、試薬容器保持部62の第1受入部621の奥(矢印Y2方向側)の上方位置に配置され、吸引管64を保持する吸引管昇降機構65により鉛直方向(Z方向)に移動されるように構成されている。これにより、吸引管64は、試薬容器保持部62の奥側に挿入された試薬容器200(300)の進入部212(312)を介して第1収容部210(310)に進入し、試薬容器200(300)内部の試薬を吸引可能に構成されている。また、吸引管64は、先端が試薬容器200(300)の進入部212(312)に形成された開口部212a(312a)(
図17と
図18参照)を封止するためのシール部材213(313)を貫通(穿刺)可能なように形成されている。また、
図2、
図5及び
図6を参照して説明したように、吸引管64は送液管431の一端を構成しており、吸引管64の上端は、送液部430およびチャンバ420に至る流路(
図19~
図21では図示を省略)と接続されている。
【0094】
図19と
図20に示すように、吸引管昇降機構65は、吸引管26とカバー63とを保持するように構成されている。また、吸引管昇降機構65は、シャーシ61に設けられた溝部611および612に鉛直方向(Z方向)移動可能に係合している。これにより、吸引管昇降機構65は、カバー63の開閉(昇降移動)に連動して吸引管26を鉛直方向(Z方向)に一体的に移動させるように構成されている。そして、
図19に示すように、カバー63が上昇位置P2に配置された状態では、吸引管26は試薬容器保持部62の上方(試薬容器200(300)および第1受入部621の外部)の上昇位置P3に配置される。また、
図21に示すように、カバー63が下降位置Q2に配置された状態では、吸引管26は試薬容器200(300)の進入部212(312)直下の内底部に近接する下降位置Q3に配置されるように構成されている。
【0095】
試薬容器内に挿入された吸引管26の先端は、送液管の第1端となる。吸引管26の第1端は、試薬容器が装置に配置されている間、上述の下降位置Q3に固定される。つまり、試薬容器内の試薬を用いて複数の検体の測定が実施される間、吸引管26の第1端は、下降位置Q3に固定される。
【0096】
図22と
図25に示すように、大型(容量約100mL)の試薬容器200と、小型(容量約20mL)の試薬容器300とが、収容される試薬の種類に対応して用いられるように構成されている。試薬容器200および300は、それぞれ、上部に吸引管26が進入可能な進入部212(312)が設けられた第1収容部210(310)と、第1収容部210(310)に連続する第2収容部220(320)とを一体的に含んでいる。第1収容部210(310)は、
図17と
図18に示すように、試薬容器200(300)が試薬容器保持部62にセットされた状態で第1受入部621の内部に配置されるように構成されている。第2収容部220(320)は、
図17と
図18に示すように、試薬容器200(300)が試薬容器保持部62にセットされた状態で第1受入部621の外部に配置されるように構成されている。また、
図23と
図26に示すように、それぞれの第1収容部210(310)内部には、第1試薬収容空間211(311)が設けられ、それぞれの第2収容部220(320)内部には、第1試薬収容空間211(311)に連続する第2試薬収容空間221(321)が設けられている。
【0097】
第1収容部210(310)は、長さL11を有する部分であり、これらの形状は、試薬容器200および300で略共通する。試薬容器200および300は、第1収容部210および310の形状が略共通するため、同一形状を有するホルダ部60a~60eの試薬容器保持部62(第1受入部621)に対してそれぞれセット可能となっている。
【0098】
具体的には、
図17と
図18に示すように、それぞれの第1収容部210(310)は、第1受入部621の幅W11よりも僅かに小さい一定の幅W21を有する。また、第1収容部210(310)には、それぞれ、前側(試薬容器保持部62に第1収容部210(310)が挿入される方向、
図17と
図18の矢印Y2方向)の端部に進入部212(312)が設けられている。したがって、試薬容器200(300)は、第1収容部210(310)の進入部212(312)側から試薬容器保持部62の奥側に向かって挿入されるように構成されている。この進入部212(312)は、
図23と
図26に示すように、外部上面200b(300b)から上方に突出するように設けられている。突出した進入部212(312)には、
図22と
図25に示すように、第1収容部210(310)内部に連通する開口部212a(312a)が形成されている。また、進入部212(312)には、アルミ箔などからなるシール部材213(313)が開口部212a(312a)を塞ぐように設けられ、試薬容器200(300)が封止されるように構成されている。また、進入部212(312)の外径は第1収容部210(310)の幅W21と等しく、進入部212(312)は、第1収容部210(310)の前側表面から連続的に(面一で)突出するように形成されている。
【0099】
また、
図23と
図26に示すように、試薬容器200(300)は、それぞれ内部底面200a(300a)が外部上面200b(300b)と非平行であり、かつ、内部底面200a(300a)と外部上面200b(300b)との距離が、進入部212(312)に近づくにつれて大きくなるように構成されている。第2実施形態では、内部底面200a(300a)が外部上面200b(300b)に対して角度θ1(約10度)傾いた傾斜面となるように構成されている。なお、試薬容器200(300)の進入部212(312)の直下の底面部には外部上面200b(300b)と略平行な底部200c(300c)が存在し、傾斜面200d(300d)は底部200c(300c)の端部から開始している。これにより、試薬容器200(300)は、
図20に示すセット位置Q1にセットされた状態で、進入部212(312)が最も上方に位置するとともに、進入部212(312)の直下の底部200c(300c)が最も下方に位置するように構成されている。
【0100】
また、試薬容器200(300)の外部上面200b(300b)には、それぞれ、上方(外部上面200b(300b)に対して垂直方向)に突出する突出部230(330)が設けられている。突出部230(330)は、それぞれ、試薬容器200(300)の長手方向に延びる長さL1の板状形状を有するとともに、進入部212(312)と略等しい突出量(突出高さ)となるように形成されている。突出部230(330)は、それぞれの第2収容部220(320)の後側(
図17と
図18の矢印Y1方向側)端部近傍の位置に設けられ、使用者による試薬容器200(300)のセット作業または取り外し作業を容易に行うことが可能なように、取手部としての機能を有する。
【0101】
一方、第2収容部220(320)の形状は、試薬容器200と試薬容器300とで異なる。
図23に示すように、大型の試薬容器200の第2収容部220は、第1収容部210に連続し、第1収容部210から離れるにつれて幅が大きくなる第1部222と、幅W21よりも大きい一定の幅W22を有する第2部223とを一体的に含んでいる。したがって、
図23に示すように、試薬容器200において、第2収容部220の内部の第2試薬収容空間221は、第1部222と第2部223との両方にわたって連続して設けられた試薬収容空間である。
【0102】
図23に示すように、第1部222は、第1収容部210の幅を角度θ2(約60度)で拡げるようにして第2部223と連続しており、第1収容部210と第2部223とを接続している。また、第2部223が幅W21よりも大きい幅W22を有することにより、第2試薬収容空間221の容量を約100mL分確保することが可能なように構成されている。
【0103】
なお、
図16と
図17に示すように、試薬容器保持部62の中間受入部622と、中間受入部622と連続し幅W12を有する第2受入部623とは、それぞれ、この第1部222および幅W22を有する第2部223に対応する形状を有する。
【0104】
図26に示すように、小型の試薬容器300の第2収容部320は、一定で、かつ、第1収容部310の幅W21と同一の幅W21を有する。つまり、小型の試薬容器300では、第1収容部310および第2収容部320が連続して直線状に延びるように形成されている。なお、この第2収容部320の長さL22は、大型の試薬容器200の第2収容部220の長さL21よりも小さい。小型の試薬容器300は、大型の試薬容器200の第2収容部220よりも小さい幅W21および長さL22を有する第2収容部320を含むことにより、全体で約20mLの試薬容量を有するように構成されている。
【0105】
なお、上述のように、第1収容部310の長さL11は、第1受入部621にセットされるために、試薬容器200および300で共通となっている。したがって、
図18に示すように、第1収容部310および第2収容部320が同一の幅W21で連続する小型の試薬容器300については、この第1受入部621に収容される領域が第1収容部310であり、第1受入部621外に配置される領域が第2収容部320である。
【0106】
また、小型の試薬容器300は、大型の試薬容器200と異なり、外部底面の傾斜面300dに、試薬容器300の長手方向に沿って直線状に延びる凹部340が設けられている。この凹部340によって、傾斜面300dを水平面上に設置した場合に、凹部340の外周部分が水平面と接する接点となるため、小さい幅W21を有する試薬容器300でも安定して直立させることが可能である。
【0107】
また、
図22と
図25に示すように、各試薬容器200(300)には、それぞれ、収容する試薬の名称、試薬のロット番号、使用期限および識別用バーコードなどが印刷されたラベル250(350)が貼付されている。このラベル250(350)は、各試薬容器200(300)の後側表面と、少なくとも一方の横側面とにわたって貼付される。またラベル250(350)の一部(各試薬容器200(300)の後側表面に相当する部分)または全部には、収容する試薬の種類を示す色彩が付され、ラベル250(350)に表示された色によって試薬の種類を識別することが可能なように構成されている。このラベル250(350)と、試薬容器ホルダ60のカバー63に貼付されるラベル632(
図15参照)とのそれぞれの色が一致するか否かによって、試薬容器200(300)が正しいホルダ部60a~60eにセットされたか否かを確認することが可能である。
【0108】
試薬容器200(300)内の試薬は、分析システム4002が設置される環境の温度で保存可能である。分析システム4002が設置される環境温度は、例えば、20℃~35℃の範囲の温度である。例えば、環境温度において、試薬容器200(300)内の試薬は、試薬容器200が装置に設置されて進入部212のシール部材213が開封されてから、装置内で数か月間(例えば、60日間、90日間、120日間)、性能が保証可能な状態で保存可能である。試薬容器200(300)に収容された試薬は、例えば、FCM検出部460の光源から照射される複数波長の光に各々対応する複数の蛍光色素を含む。これらの蛍光色素は、色素を構成する化合物自体が細胞の細胞質、核酸、DNAを染色する。血液中の細胞を染色する方法として、例えば細胞の表面抗原(例えばCD4やCD25)に特異的に結合する標識抗体を含む抗体試薬を用いた免疫染色が知られているが、そのような抗体試薬は、一定時間(例えば8時間)使用された後は冷蔵庫で冷却保管する必要がある。つまり、ユーザは、一定時間ごとに装置から抗体試薬を取り出して冷蔵庫に戻し、使用時には再び抗体試薬を装置にセットする必要がある。この点、本実施形態の試薬は、色素を構成する化合物(蛍光色素)自体が細胞を染色し、抗体を含まないため、冷蔵保管する必要がなく、装置の使用環境温度で保管が可能である。したがって、本実施形態では、性能が保証される期間であれば、試薬容器を一旦装置に設置したら、試薬を使い切るまで交換は不要であり、試薬の交換頻度が低く、使用者による作業コストが削減される。
【0109】
(第3実施形態)
本実施形態では、試薬容器200は、測定ユニット400への設置後、複数の蛍光色素を含有する試薬の品質劣化を抑制し、測定ユニット400に取り付けたままの状態でより長期にわたって使用し続けることが可能なように構成されている。品質劣化を抑制するための主要な手段の1つは、試薬と空気との接触を抑止することである。空気との接触を抑止するために、試薬容器200に送液管が挿入された状態において、試薬容器200の開口が密閉される。試薬容器200の開口が密閉されることで空気と試薬との接触が抑止された状態でも送液管によって試薬を送液可能にするため、試薬容器200は、柔軟な袋状の試薬収容部を備える。
【0110】
試薬の保存期間は、例えば、試薬容器200が測定ユニット400に設置されてから75日以上1年以内である。保存期間とは、測定ユニット400による試薬を用いた測定精度を保証可能な期間の長さである。本実施形態では、例えば、試薬収容部10の内部が密閉された状態で、75日以上1年以内の期間に亘って、測定精度が維持される。試薬収容部10の密閉により試薬の劣化を抑制できるので、より長期に亘って安定して試薬品質を維持できる。その結果、複数の蛍光色素を含有する試薬(試薬容器200)の交換頻度を低減できるため、交換作業に関わるユーザの負担を低減できる。複数の蛍光色素は、各々異なる試薬容器200に収容されてもよいし、一つの試薬容器200に収容されてもよい。
【0111】
図28および
図29を参照して、他の実施形態による試薬容器200について説明する。試薬容器200は、
図28(A)に示すように測定ユニット400に設置される。
図28(B)に示すように、試薬容器200には、測定ユニット400に対する所定操作に連動して上方から吸引管252が挿入される。吸引管252は、上述の送液管の第一端を構成する。
図28(B)に示すように、試薬容器200は、測定ユニット400に設けられた吸引管252が挿入された状態で繰り返し吸引される試薬12を収容する。試薬容器200は、試薬収容部10と、フレーム20とを備える。以下、上下方向をZ方向とする。
図29に示すように、水平方向のうち、試薬容器200の長手方向を第1方向Aとし、試薬容器200の短手方向を第2方向Bとする。
【0112】
試薬収容部10は、試薬12(
図29参照)を収容する。
図29に示すように、試薬収容部10は、袋状の液体収容部材である。試薬収容部10の容量は、例えば、200mL以上500mL以下、20mL以上100mL以下である。
【0113】
試薬収容部10は、フィルム状の材料により袋状に形成されている。試薬収容部10は、柔軟性を有し変形可能である。
図30に示すように、試薬収容部10は、複数枚のシート状部材を重ね合わせて、重ね合わされたフィルム材の互いの外周縁を接合することにより中空の袋状に形成されている。折り重ねた1枚のフィルム材の外周部の内表面同士を接合することにより袋状に形成されてもよい。
【0114】
試薬収容部10は、ガスバリア性および遮光性を有する積層構造フィルム材11からなる。ガスバリア性とは、気体を透過させにくい性質である。本明細書では、ガスバリア性は、空気、特に酸素を透過させにくいことを指す。遮光性とは、光を透過させにくい性質である。これにより、試薬容器200に収容された試薬12が外部の空気により劣化すること、および、試薬容器200に収容された試薬12が日光などの外来光により劣化することを抑制できる。その結果、長期に亘って、試薬の劣化を効果的に抑制することができる。
【0115】
積層構造フィルム材11は、少なくとも1層の基材層と、少なくとも1層のガスバリア層と、を含みうる。積層構造フィルム材11は、ガスバリア層の外表面を保護する保護層をさらに含みうる。積層構造フィルム材11は、遮光性材料からなる遮光層を有していても良い。ガスバリア性および遮光性の両方の性質を有する材料をガスバリア層に用いる場合、ガスバリア層と遮光層とは、同一の層でありうる。積層構造フィルム材の層数は、2以上であるが、3~9または10以上であってもよく、特に限定されない。
【0116】
試薬収容部10に用いられる積層構造フィルム材11は、たとえば、下記の構成が挙げられる。(袋外側)/ナイロン(15μm)/アルミ箔(9μm)/ポリエチレン(9μm)/(袋内側)。この構成では、試薬収容部10は、ナイロンが保護層として機能し、アルミ箔がガスバリア層および遮光層として機能し、ポリエチレンが基材層である。試薬収容部10は、ポリエチレンからなる基材層同士が熱溶着により接合される。この構成の積層構造フィルム材11は、金属箔からなるガスバリア層を樹脂基材層に積層した構造の金属箔ラミネートフィルムである。
【0117】
積層構造フィルム材11には、たとえば、樹脂系多層バリアフィルム、コーティング系フィルム、蒸着フィルム、有機無機複合フィルムなどを用いることもできる。樹脂系多層バリアフィルムは、樹脂材料のガスバリア層を積層した構造のフィルムである。ガスバリア性に優れた樹脂材料には、たとえばPVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVA(ポリビニルアルコール)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)などがある。コーティング系フィルムは、基材層にガスバリア性材料をコーティング(製膜)した構造のフィルムである。製膜されるガスバリア性材料は、PVDC、PVA、EVOHなどがある。蒸着フィルムは、基材層にガスバリア性材料を蒸着した構造のフィルムである。蒸着されるガスバリア性材料には、アルミニウムなどの金属、または、アルミナやシリカなどの無機酸化物がある。有機無機複合フィルムには、有機材料(樹脂材料)のガスバリア層と無機材料のガスバリア層とを別々に積層した構造の積層フィルムや、有機バインダー中に無機材料を分散させたガスバリア層を備えたフィルムなどがある。
【0118】
フレーム20は、試薬収容部10に取り付けられた開口21aを含む。フレーム20は、測定ユニット400に対する所定操作に連動して上方から吸引管252が挿入されたときに試薬収容部10の内部が密閉されるように構成されている。
【0119】
図28に示すように、試薬容器200は、ユーザにより、測定ユニット400の容器保持部251に所定の設置姿勢で設置され、保持される。試薬容器200が容器保持部251のセット位置Psに設置された状態で、試薬容器200の上方に配置された吸引管252が、上方から開口21a内に挿入される。セット位置Psは、開口21aが吸引管252の直下に配置される位置である。フレーム20は、吸引管252が挿入された状態で、開口21aが塞がれることによって、試薬収容部10の内部が密閉されるように構成されている。
【0120】
これにより、試薬容器200の設置前にユーザが試薬容器200の開口21a内に吸引管252を挿入する作業を行う必要がないので、試薬容器200内への吸引管252の挿入を簡便に行える。また、吸引管252が挿入されたときに試薬収容部10の内部が密閉されるので、密閉により試薬収容部10内の試薬が外気と接触することを抑制できる。そのため、測定ユニット400への設置後の試薬の劣化を抑制できる。また、たとえばフレーム20の部分を把持したり測定ユニット400に設置したりすることで、柔軟な袋状の試薬収容部10を有していても、試薬容器200の測定ユニット400への取り付け作業を簡便に実施できる。
【0121】
変形しない硬質の試薬容器の場合、密閉状態で試薬の吸引を行うと、試薬の減少に伴って試薬容器の内部圧力が低下し、吸引圧力と平衡になって試薬を吸引できなくなるため、容器内部は大気開放しておく必要があり、試薬容器内の試薬が空気との接触により劣化する可能性がある。
【0122】
これに対して、本実施形態では、変形可能な袋状の試薬収容部10を備えるので、試薬収容部10自体が収縮変形することで内部圧力の低下を回避でき、その結果、密閉状態でも試薬12の吸引を行うことができる。そこで、試薬容器100は、開口21aへの空気の流入抑制により、試薬収容部10の内部が密閉されるように構成されている。開口21aへの空気の流入抑制により、試薬収容部10の内部の試薬12が空気と接触することによる試薬12の劣化を抑制できる。試薬の劣化を抑制できるので、試薬容器200を測定ユニット400に設置した状態で、より長期に亘って試薬容器200内の試薬を使用し続けることができる。そのため、試薬収容部10の容量を大きくし、1つの試薬容器200からより多くの回数の試薬吸引を可能とすることによって、測定ユニット400の運用に伴う試薬容器200の交換頻度を低減できる。使用者にとっては、一定期間における試薬容器200の交換作業の実行回数を低減できるという利点がある。
【0123】
また、ユーザが手作業で吸引管252を挿入するのではなく、測定ユニット400の動作によって吸引管252を開口21a内に挿入する構成では、開口21aの位置決めと、開口21aの位置ずれ防止とが、吸引管252により試薬収容部10を傷つけることなく試薬収容部10を確実に密閉するために重要となる。本実施形態の試薬容器200は、測定ユニット400に設置する際に、開口21aの位置決めと、開口21aの位置ずれ防止とを確実に行うためのフレーム構造を備えている。
【0124】
図29に示すように、フレーム20は、開口21aを有する開口部21と、測定ユニット400の一部と当接して開口21aの移動を規制するように構成された移動規制部23と、を含む。
【0125】
移動規制部23が測定ユニット400の一部と当接することによって、開口21aが移動することを抑制できる。これにより、吸引管252を挿入する際の吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できる。また、吸引管252が開口21aから試薬収容部10の内部に挿入された状態で、吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できるので、試薬収容部10の内部の密閉状態を効果的に維持できる。
【0126】
開口部21は、開口21aが形成された筒状部分である。開口21aは、下端が試薬収容部10の内部につながり、上端が試薬収容部10の外部につながる。開口部21は、試薬収容部10の上部に設けられている。
【0127】
開口部21は、吸引管252に設けられた封止体252a(
図28参照)と当接して開口21aを密閉する封止面21bを有する。これにより、封止体252aと封止面21bとの当接によって、容易かつ効果的に試薬収容部10を密閉できる。
【0128】
封止面21bは、開口部21の上端面、開口部21の内周面、開口部21の外周面、のいずれかでありうる。
図29の例では、封止面21bは、開口21aを取り囲む開口部21の環状の上端面(すなわち、開口21aの縁部)であり、吸引管252に設けられた封止体252a(
図28(B)参照)と上下に当接する。
【0129】
なお、開口部21には、たとえば、着脱可能なキャップが装着されうる。試薬容器200は、キャップによって開口21aが封止された状態で使用者に提供され、キャップを取り外して測定ユニット400に設置されうる。
【0130】
また、たとえば、開口部21の上面に、穿刺可能なシールフィルムが開口21aを覆うように溶着されうる。試薬容器200は、シールフィルムによって開口21aが封止された状態で使用者に提供され、測定ユニット400に設置された後、吸引管252によってシールフィルムが穿刺されることにより開封されうる。
【0131】
図30に示すように、開口部21は、試薬収容部10に取り付けられた取付部材22に形成されている。開口部21は、取付部材22の上面から上方に突出するように取付部材22に一体形成されている。
【0132】
取付部材22の外周部が、試薬収容部10の内周部に溶着されている。取付部材22は、試薬収容部10の上端部において、試薬収容部10を構成する2枚の積層構造フィルム材11の外周縁に挟まれるように設けられ、2枚の積層構造フィルム材11の内面とそれぞれ溶着されている。取付部材22の外周部と試薬収容部10との間は、溶着により密閉されている。これにより、柔軟な袋状の試薬収容部10に、移動規制部23と結合するための剛性を有する取付部材22を容易に設けることができ、かつ、取付部材22と試薬収容部10との間の封止を容易に実現できる。
【0133】
取付部材22は、開口部21から水平方向に間隔を開けて配置された被支持部22aを有する。取付部材22は、細長の六角形状を有し、取付部材22の長手方向の一方端部に開口部21が配置され、他方端部に被支持部22aが配置されている。被支持部22aは、取付部材22の上面から上方に突出するように取付部材22に一体形成された突起である。被支持部22aは、A方向から見て、T字形状を有し、根元部が上部よりも細い。
【0134】
ここで、開口部21は、水平方向における試薬収容部10の端部付近に配置されている。試薬12(
図28参照)を収容することによって試薬収容部10が膨らんだ状態であっても、取付部材22の開口部21は、試薬収容部10の内面と比較的近い位置にある。そのため、吸引管252が開口部21の中心軸線に対して傾いて挿入されると、吸引管252の先端が試薬収容部10の内面と接触する可能性が生じる。
【0135】
そこで、開口部21は、開口21aの下端から試薬収容部10の内部へ向けて下方に突出する吸引管案内部21cを有する。吸引管案内部21cは、取付部材22に一体形成されており、筒状の開口部21の下端部を、部分的に下方に延長した形状を有する。吸引管案内部21cは、開口21a内に挿入される吸引管252と試薬収容部10の内面とを区画するように壁状に形成されている。これにより、吸引管252が開口21aの中心軸線に対して傾斜して試薬収容部10の内部に挿入された場合でも、吸引管252の先端と試薬収容部10の内面との接触を抑制するように吸引管252の先端を案内できる。
【0136】
図29に戻り、移動規制部23は、測定ユニット400の吸引管252に対する開口21aの位置決めを行う機能を有する。また、移動規制部23は、開口21aの位置ずれ防止を行う機能を有する。
【0137】
移動規制部23は、開口部21から水平方向に突出するように開口部21に固定されている。これにより、移動規制部23と開口21aとの相対位置を固定できる。さらに、移動規制部23の開口部21から水平方向に突出する部分によって、測定ユニット400の一部と当接して移動を規制する構成を、簡単に実現できるとともに、当接により開口21aの位置ずれを防止するために必要な接触面積を容易に得ることができる。
【0138】
図30に示すように、移動規制部23は、概略で平板状形状を有する。移動規制部23は、水平面内の第1方向Aに沿って延びる形状を有している。移動規制部23は、第1方向Aに延びる一対の長辺と、第2方向Bに延びる一対の短辺とを含む長方形状を有する。後述するように、試薬容器200は、開口部21が配置されている移動規制部23の一端23a側を先頭にして測定ユニット400の容器保持部251の内部へ第1方向Aに沿って挿入されることにより、容器保持部251に設置される。移動規制部23は、移動規制部23の第1方向Aの一端23aと中央部との間で開口部21に固定されている。つまり、開口部21は、移動規制部23の一端23aと他端23bとのうち、一端23a側に近い位置に配置されている。これにより、移動規制部23の他端23b側を把持して、第1方向Aへ試薬容器200を移動させることで、一端23a側の開口部21に形成された開口21aを、吸引管252の直下位置へ配置できる。この場合、開口部21が移動規制部23の他端23bから離れるので、試薬容器200の取り付け時にユーザの手指が吸引管252と接触することを抑制できる。
【0139】
移動規制部23は、測定ユニット400の一部と水平方向に当接することにより、開口21aの水平方向の移動を規制するように構成されている。これにより、移動規制部23によって、開口21aと吸引管252との水平方向の位置関係がずれることを抑制できる。移動規制部23は、移動規制部23に形成された穴の内面、移動規制部23に形成された切り欠きの内面、および移動規制部23の側面、のいずれかからなる水平当接面24を含む。これにより、簡単な構成で、開口21aの水平方向の移動を規制するための水平当接面24を移動規制部23に設けることができる。
【0140】
水平当接面24は、移動規制部23の第1方向Aの一端23aに形成された側面(つまり、先端面)からなる第1面24aを含む。これにより、試薬容器200を測定ユニット400に取り付ける際に、移動規制部23の一端23aが容器保持部251の内面に突き当たるまで試薬容器200を第1方向Aに進めるだけで、第1方向Aにおける開口21aの位置合わせと移動規制との両方を簡単に実現できる。
【0141】
水平当接面24は、移動規制部23の第1方向Aに沿って延びる側面からなる第2面24b、24cを含む。第2面24b、24cは、平面視で移動規制部23の長辺を構成する一対の側面であり、移動規制部23の第2方向Bの一方側と他方側とに設けられている。これにより、移動規制部23の側面によって、第2方向Bにおける開口21aの位置合わせと移動規制との両方を簡単に実現できる。
【0142】
図31に示すように、移動規制部23は、側面に形成された切り欠き23cを有している。水平当接面24は、切り欠き23cの内面からなる第3面24dを含む。第3面24dは、切り欠き23c内に進入する測定ユニット400の一部と当接する。これにより、切り欠き23c内の第3面24dと測定ユニット400の一部とが当接することで、移動規制部23と測定ユニット400とを係合させることができる。係合により、開口21aの位置がずれることを効果的に抑制できる。また、試薬容器200を測定ユニット400に取り付ける際に、移動規制部23が測定ユニット400の一部に係合して動かなくなるので、試薬容器200が適正位置に設置されたことをユーザが視認しなくても感触で知覚できる。
【0143】
移動規制部23は、移動規制部23を上面に形成された穴23dを有している。水平当接面24は、穴23dの内面からなる第4面24eを含む。第4面24eは、穴23dの内部に進入する測定ユニット400の一部(例えば、後述する進入部材281、
図35参照)と当接する。これにより、移動規制部23に形成された穴23dに測定ユニット400の一部が進入することで、移動規制部23と測定ユニット400とを係合させることができる。係合により、開口21aの位置がずれることを効果的に抑制できる。
図31では、穴23dは、2つ設けられている。2つの穴23dは、第2方向Bに沿って並んでいる。穴23dは1つだけでもよい。
【0144】
移動規制部23は、開口21aを測定ユニット400の吸引管252の下方に配置する際の移動を案内する案内部23eを有する。案内部23eは、水平面内の第1方向Aに沿って延びる。案内部23eは、測定ユニット400の一部と接触した状態で摺動することで、移動規制部23の移動方向を第1方向Aに合わせる。これにより、試薬容器200を測定ユニット400の容器保持部251に設置する際に、容易かつ正確に、吸引管252を挿入可能な適正な位置へ開口21aを配置できる。
【0145】
移動規制部23は、測定ユニット400の一部と上下方向(Z方向)に当接することにより、開口21aの上下方向の移動を規制するように構成されている。これにより、変形しやすい袋状の試薬収容部10を備えた試薬容器200であっても、吸引管252を試薬収容部10の内部に挿入する際、および、吸引管252を試薬収容部10の内部から引き抜く際に、開口21aが上下方向に移動することを抑制できる。
【0146】
図31に示したように、移動規制部23は、移動規制部23の第1方向Aの他端23bに、移動規制部23を把持するための把持部25を有する。これにより、移動規制部23の他端23b側を容易に把持できる。また、袋状の試薬収容部10は変形しやすく把持しにくいため、移動規制部23に把持部25を設けることによって、試薬容器200の持ち運びが容易になる。
【0147】
図30に示すように、移動規制部23は、開口部21に固定された固定部26と、開口部21から離れた位置で試薬収容部10の上部を支持する支持部27とを含む。これにより、試薬容器200を持ち運ぶ際、移動規制部23を手で把持した場合に、固定部26と支持部27との複数箇所で、試薬収容部10を移動規制部23から吊り下げるように支持できる。試薬収容部10の重量が移動規制部23の複数箇所に分散して作用するため、試薬収容部10の容量を大きくしても安定して支えることができる。また、ユーザにとっては、変形しやすい袋状の部分を把持しなくてよいので、試薬容器200の取り扱いが容易になる。
【0148】
図29に示すように、移動規制部23は、試薬の情報を記録した情報記録媒体28を含む。情報記録媒体28は、RFID(radio frequency identifier)タグである。これにより、試薬容器200を測定ユニット400に取り付けた時に、測定ユニット400が情報記録媒体28から試薬の情報を読み取ることができる。変形しやすい袋状の試薬収容部10に情報記録媒体28を設ける場合には、情報記録媒体28を付与しにくかったり、情報記録媒体28が読み取りにくくなったりする可能性があるが、移動規制部23に情報記録媒体28を設けることで、情報記録媒体28を容易に設けることができ、良好に読み取りを行える。
【0149】
図32に示すように、試薬吸引部250は、それぞれ1つの試薬容器200(又は小型の試薬容器300)を保持可能な複数の試薬容器ホルダを含む。試薬吸引部250は、たとえば、合計5つの試薬容器ホルダを含むが、
図32では、便宜的に3つの試薬容器ホルダ250a、250bおよび250cのみを示している。複数の試薬容器ホルダ250a~250cは、横方向に並んで設けられている。
【0150】
試薬容器ホルダ250a~250cは、それぞれ、下部シャーシ255aおよび上部シャーシ255bと、容器保持部251と、吸引管252と、操作部253と、移動機構254(
図35参照)と、を備える。以下では、試薬容器ホルダ250a~250cを代表して、試薬容器ホルダ250aの構造について説明する。容器保持部251は、下部シャーシ255aに設けられている。容器保持部251は、試薬容器ホルダ250aの最下部に位置する。容器保持部251は、試薬を収容する袋状の試薬収容部10と開口21aを含むフレーム20とを含む試薬容器200を保持するように構成されている。
【0151】
容器保持部251は、試薬容器200を内側に収容可能で、水平方向に入口が形成された箱状形状または筒状形状の収容部260を有する。収容部260は、Y1方向端部に開口した入口を有し、入口からY2方向に向けて延びるように設けられている。
【0152】
図33に示すように、収容部260は、試薬容器200の試薬収容部10が挿入される第1挿入部261と、第1挿入部261の上方に配置され試薬容器200の移動規制部23が挿入される第2挿入部262と、を含む。
【0153】
第1挿入部261は、試薬収容部10の両側面と幅方向(X方向)に対向する一対の側面部261aと、試薬収容部10の下面と上下方向(Z方向)に対向する底面部261bとによって区画された空間である。第1挿入部261の上部と、第2挿入部262との間は、接続通路263によって繋がっている。
【0154】
接続通路263は、試薬容器200のうちの、移動規制部23と試薬収容部10との接続部分(取付部材22が配置されている部分)をY方向に通過させるための空間である。
【0155】
第2挿入部262は、収容部260の入口から吸引管252の直下のセット位置Psへ向けて延びるとともに、移動規制部23と当接することにより試薬容器200をセット位置Ps(
図34参照)へ案内するように構成されている。これにより、移動規制部23を用いて、収容部260の入口からセット位置Psまで試薬容器200を案内することができる。その結果、変形しやすい試薬収容部10を備えた試薬容器200であっても、ユーザが試薬容器200を収容部260の入口から挿入するだけの簡単な動作で、セット位置Psまで精度よく案内できる。第2挿入部262は、例えば、凸状の断面形状を有する。すなわち、第2挿入部262は、平板状の移動規制部23が挿入される幅広の下部と、移動規制部23の上側に突出する開口部21が挿入される幅狭の上部とによって、凸状の断面形状を有する。
【0156】
試薬吸引部250は、当接部270を備える。当接部270は、容器保持部251に配置された試薬容器200のフレーム20に設けられた移動規制部23と当接して開口21aの移動を規制する。これにより、当接部270が移動規制部23と当接することによって、吸引管252を挿入する際の吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できる。また、吸引管252が開口21aから試薬収容部10の内部に挿入された状態で、吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できるので、試薬収容部10の内部の密閉状態を効果的に維持できる。
【0157】
当接部270は、容器保持部251に配置された試薬容器200のフレーム20に設けられた移動規制部23と当接して開口21aの移動を規制する。当接部270が移動規制部23と当接することによって、吸引管252を挿入する際の吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できる。また、吸引管252が開口21aから試薬収容部10の内部に挿入された状態で、吸引管252と開口21aとの位置ずれを抑制できるので、試薬収容部10の内部の密閉状態を効果的に維持できる。
【0158】
当接部270は、試薬容器200の開口21aに固定された移動規制部23と当接することにより、開口21aの移動を規制するように構成されている。これにより、移動規制部23と開口21aとの相対位置を固定されるので、当接部270を移動規制部23と当接させることにより、確実かつ正確に開口21aの位置決めおよび移動規制を行える。
【0159】
当接部270の少なくとも一部は、収容部260に設けられている。これにより、入口から収容部260の内部へ試薬容器200を挿入することで、当接部270と移動規制部23とを当接させ、収容部260内における開口21aの移動を規制できる。
【0160】
当接部270は、第2挿入部262に配置されている。これにより、試薬容器200のうちの移動規制部23に対応させた第2挿入部262に当接部270を設けることで、変形しやすい試薬収容部10を備えた試薬容器200であっても、予め設定した相対位置関係で当接部270と移動規制部23とを当接させることができる。その結果、開口21aの位置決めおよび移動規制を正確に行うことができる。
【0161】
当接部270は、移動規制部23に形成された穴、移動規制部23に形成された切り欠き、および移動規制部23の側面のいずれかと当接するように構成されている。これにより、簡単な構成で、当接部270を移動規制部23に当接させて開口21aの水平方向の移動を効果的に規制できる。
【0162】
吸引管252が下方移動するとき、進入部材281も吸引管252とともに下方移動して、移動規制部23の穴23dの内部に進入する。進入部材281が穴23dに進入することで、移動規制部23の移動が抑止される。
【0163】
当接部270は、移動規制部23と上下方向に当接することにより、開口21aの上下方向の移動を規制するように構成されている。これにより、変形しやすい袋状の試薬収容部10を備えた試薬容器200であっても、吸引管252を試薬収容部10の内部に挿入する際、および、吸引管252を試薬収容部10の内部から引き抜く際に、開口21aが上下方向に移動することを抑制できる。
【0164】
図35に示すように、吸引管252は、容器保持部251の収容部260の最奥部(Y2方向側端部)の上方位置に、先端を下向きにして配置されている。吸引管252は、移動機構254に保持され、移動機構254により上下方向(Z方向)に移動されるように構成されている。これにより、吸引管252は、容器保持部251の奥側に挿入された試薬容器200(200)の開口21aを介して試薬収容部10(110)の内部に進入し、試薬容器200(200)内部の試薬を吸引可能に構成されている。
【0165】
吸引管252は、吸引管252が開口21aに挿入されたときに開口21aと接触することにより開口21aを密閉する封止体252aを有する。これにより、封止体252aによって、容易かつ効果的に試薬収容部10を密閉できる。
【0166】
封止体252aは、吸引管252の外周を取り囲むように設けられ、開口21aの縁部(すなわち、開口部21の封止面21b)と接触することにより弾性変形して開口21aを密閉するように構成されている。これにより、吸引管252を開口21aに挿入する際の下方移動を利用して、封止体252aによって試薬収容部10を確実に密閉することができる。
【0167】
封止体252aは、弾性変形可能なゴム材料で構成されている。また、封止体252aと、吸引管252を保持する吸引管保持部254aとの間に、封止体252aを開口21aに向けて付勢するための付勢部材252bが設けられている。付勢部材252bは、圧縮ばねからなる。
【0168】
移動機構254は、吸引管252を上昇位置P1と下降位置P2との間で上下方向(Z方向)に移動可能に保持している。移動機構254は、吸引管保持部254aと、リニアレール254bおよび固定スライダ254cから構成された直動機構と、を含む。吸引管保持部254aには、吸引管252が取り付けられており、吸引管保持部254aはY方向に延びる連結部254dを介してリニアレール254bの上端部に連結されている。リニアレール254bは、試薬容器ホルダ250aの前面(Y1方向側の側面)に配置され、Z方向に延びる。固定スライダ254cは、下部シャーシ255aに固定され、リニアレール254bをZ方向に沿って移動可能に保持している。これにより、リニアレール254bが固定スライダ254cに対してZ方向に移動する。リニアレール254bのZ方向移動に伴って、吸引管252がリニアレール254bと一体的にZ方向に移動する。
【0169】
このように、移動機構254は、吸引管252を上下方向に移動可能に支持し、操作部253に対する所定操作に連動して吸引管252を移動させることにより、容器保持部251に保持された試薬容器200内への吸引管252の進入および試薬容器200外への吸引管252の退避を行うように構成されている。これにより、吸引管252を上下に移動させるだけで、試薬容器200内への吸引管252の進入および試薬容器200外への吸引管252の退避を行うことができる。吸引管252の移動方向の自由度が少ないほど、正確で、かつ高い再現性で吸引管252を動作させることができるので、単純な上下移動によって、吸引管252が挿入されたときに試薬収容部10を密閉する動作を、より精度よく実行できる。
【0170】
また、
図35に示すように、移動機構254は、吸引管252と操作部253とが連動して移動するように操作部253を保持している。操作部253は、試薬容器ホルダ250aの前面(Y1方向側の側面)に設けられ、操作部253の背面側(Y2方向側)がリニアレール254bに取り付けられている。これにより、リニアレール254b、吸引管252および操作部253が一体的にZ方向に移動する。
【0171】
操作部253は、
図32に示すように、試薬容器ホルダ250a~250c(下部シャーシ255a)の各々の前面(矢印Y1方向側)に配置されている。操作部253は、試薬容器ホルダ250aの容器保持部251の前面を開閉可能に覆うカバーとして構成されている。
【0172】
操作部253は、ユーザが手で把持して動かせるように構成されている。操作部253には、操作部253の前面から前方(Y1方向)に突出する操作把持部253aが形成されている。ユーザは、この操作把持部253aを把持してZ方向に動かすことにより、操作部253をZ方向に移動させることができる。
【0173】
(第4実施形態)
第1および第2実施形態で説明した分析システム4000、4001において、分析ユニット(分析部)300Xは、フローセルに流れる細胞から発せられる蛍光に対応する第1の信号の波形および第2の信号の波形を入力とし、分類されることになる各種細胞から発せられる蛍光に対応する信号の波形により学習済みのAIアルゴリズムを第1乃至第三の分析の少なくとも一部に用いて細胞の分類を行ってもよい。上述したように、第1の信号とは、第1光源による側方散乱光および側方蛍光に各々対応する複数の信号で構成される信号であり、第2の信号とは、第2光源による前方散乱光、側方散乱光および側方蛍光に各々対応する複数の信号で構成される信号である。また、第1の分析とは、第1の信号に基づく分析であり、第2の分析とは、第2の信号に基づく分析であり、第三の分析とは、第1の信号と第2の信号とに基づく分析である。
【0174】
本実施形態では、上述の複数波長の光を測定試料に照射可能なFCM検出部460を備える分析システム4000(
図7参照)において、測定ユニット400によって取得されたデータがAIアルゴリズムにより分析される。複数波長の光が測定試料に照射されるので、測定ユニット400は、各波長に対応する複数種類の光学的信号を検出する。検出された複数種類の光学的信号の各々がA/D変換されることで取得されたデータが、AIアルゴリズムで分析される。AIアルゴリズムによる分析は、分析ユニット300Xで実行される(
図10参照)。AIアルゴリズムは、例えば、分析ユニット300Xの記憶部3004に記憶されている。分析ユニット302Xのプロセッサ3001が、AIアルゴリズムに基づく分析を実行する。
【0175】
図36に示された例のように、測定ユニット402によって取得されたデータ(以降、「波形データ」と呼ぶ場合がある)がAIアルゴリズム50(または60)に入力される。AIアルゴリズムは、入力されたデータを処理することで、入力されたデータに対応する細胞の種類を分類する。単一波長の光を測定試料に照射する場合、測定試料中のある細胞に対いて得られるデータは、単一波長の光に対応したデータしか得られない。複数波長の光を測定試料に照射する場合、測定試料中のある細胞に対して得られるデータは、複数波長の光に各々対応した複数種類のデータが得られる。よって、複数波長の光を測定試料に照射する場合の方が、単一波長の光を測定試料に照射する場合に比べて、AIアルゴリズムに入力されるデータの量が増える。AIアルゴリズムに入力されるデータの量が増えることによって、AIアルゴリズムによる細胞の分類精度が高まる。
【0176】
図37~
図40に示す例を用いて訓練データ75(
図40参照)の生成方法及び波形データの分析方法を説明する。以下では、
図7の構成を有するFCM検出部460を用いた場合を例にとって説明する。
【0177】
<波形データ>
図37は、本分析方法(第4実施形態)において用いられる波形データを説明するための模式図である。
図37に示すように、細胞(成分)Cを含む検体をフローセルFCに流し、フローセルFCを流れる細胞Cに第1波長の光L1及び第2波長の光L2を照射すると、光の進行方向に対して前方に前方散乱光(FSC)が生じる。光の進行方向に対して側方に、第1波長の光に対応する第1側方散乱光(SSC-1)と、第1波長の光によって励起された第1側方蛍光(SFL-1)が生じる。また、光の進行方向に対して側方に、第2波長の光に対応する第2側方散乱光(SSC-2)と、第2波長の光によって励起された第2側方蛍光(SFL―2)が生じる。
【0178】
前方散乱光(FSC)は、前方散乱光受光素子4116によって受光され、受光量に応じた信号が出力される。第1側方散乱光(SSC―1)は、側方散乱光受光素子4121aによって受光され、受光量に応じた信号が出力される。第1側方蛍光(SFL-1)は、側方蛍光受光素子4122aによって受光され、受光量に応じた信号が出力される。第2側方散乱光(SSC―2)は、側方散乱光受光素子4121bによって受光され、受光量に応じた信号が出力される。第2側方蛍光(SFL-2)は、側方蛍光受光素子4122bによって受光され、受光量に応じた信号が出力される。これにより、各受光素子から、時間経過に伴う信号の変化を表すアナログ信号が出力される。前方散乱光(FSC―1)に対応するアナログ信号を「前方散乱光信号」、第1側方散乱光(SSC―1)に対応するアナログ信号を「第1側方散乱光信号」、第1側方蛍光(SFL―1)に対応するアナログ信号を「第1蛍光信号」、第2側方散乱光(SSC―2)に対応するアナログ信号を「第2側方散乱光信号」、第2側方蛍光(SFL―2)に対応するアナログ信号を「第2蛍光信号」という。各アナログ信号の1つのパルスが一つの成分(例えば1つの細胞)に対応する。
【0179】
アナログ信号は、アナログ処理部480を介してA/D変換部481a(
図37参照)に入力され、デジタル信号に変換される。
図38はA/D変換部によるデジタル信号への変換を模式的に示す図である。ここでは説明を簡略化するためアナログ信号をA/D変換部481aに直接入力するような図としている。
図38に示すように、A/D変換部481aは、各受光素子から入力されるアナログ信号のうち、前方散乱光信号のレベルが所定の閾値として設定されたレベルに至った時点を始点として、前方散乱光信号、第1側方散乱光信号、第1側方蛍光信号、第2側方散乱光信号及び第2側方蛍光信号のサンプリングを行う。A/D変換部481aは、所定のサンプリングレート(例えば、10ナノ秒間隔で1024ポイントのサンプリング、80ナノ秒間隔で128ポイントのサンプリング、又は160ナノ秒間隔で64ポイントのサンプリング等)で、それぞれのアナログ信号をサンプリングする。
【0180】
図39は、サンプリングによって得られる波形データを模式的に示す図である。サンプリングによって、一つの成分に対応する波形データとして、複数の時点におけるアナログ信号レベルをデジタルに示す値を要素とする行列データ(一次元の「配列データ」と呼ばれてもよい)が得られる。このようにしてA/D変換部481aは、一つの成分に対応する前方散乱光のデジタル信号、第1側方散乱光のデジタル信号、第1側方蛍光のデジタル信号、第2側方散乱光のデジタル信号、及び第2側方蛍光のデジタル信号を生成する。A/D変換は、デジタル信号化された細胞数が所定数に達するまで、または検体をフローセル4113に流し始めてから所定時間が経過するまで繰り返される。これにより、
図39に示すように、一つの検体に含まれるN個の成分(細胞C)の波形データで構成されるデジタル信号が得られる。各成分に対するサンプリングデータの集合(
図39の例ではt=0nsからt=10240nsまで10ナノ秒毎に1024個のデジタル値の集合)を波形データと呼んでもよく、一つの検体から得られた波形データの集合をデジタル信号と呼んでもよい。複数波長の光がフローセル4113に照射されることによって波形データが取得されているので、各波長に対応した複数の波形データが取得される。例えば、
図37に示す例では、第1波長(例えば、405nm)の光に対応した第1側方散乱光および第1側方蛍光に各々対応する波形データ、および、第2波長(例えば、638nm)の光に対応した前方散乱光、第2側方散乱光および第2側方蛍光に各々対応する波形データが取得される。第1波長の光に対応する側方蛍光は第1蛍光色素に基づいて取得され、第2波長の光に対応する側方蛍光は第2蛍光色素に基づいて取得される。
【0181】
A/D変換部481aによって生成された各々の波形データには、各々の成分を識別するためのインデックスが付与されてもよい。インデックスは、例えば、生成された波形データの順に1~Nの整数が付与され、同じ成分から得られた前方散乱光の波形データ、第1/第2側方散乱光の波形データ、第1/第2側方蛍光の波形データには、それぞれ、同一のインデックスが付与される。各波形データは一つの成分に対応するので、インデックスは測定された成分に対応する。同じ成分に対応する波形データに同一のインデックスが付与されることで、後述する深層学習アルゴリズムは、個々の成分に対応する前方散乱光の波形データと、第1/第2側方散乱光の波形データと、第1/第2蛍光の波形データを1セットとして解析し、成分の種別を分類できる。
【0182】
<訓練データの生成>
図40は、検体中の成分の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを訓練するために使用される訓練データの生成方法の一例を示す模式図である。
図40に示すように、訓練データ75は、検体をフローサイトメータ(測定ユニット400、
図7参照)によって測定し、検体中の成分について得られた前方散乱光(FSC)のアナログ信号70a、第1側方散乱光(SSC―1)のアナログ信号70b、第1側方蛍光(SFL―1)のアナログ信号70c、第2側方散乱光(SSC―2)のアナログ信号70d、第1側方蛍光(SFL―2)のアナログ信号70eに基づいて生成される波形データである。波形データの取得方法は、上述のとおりである。
【0183】
訓練データ75は、例えば、フローサイトメータによって検体を測定し、その検体に含まれる成分を計算処理で分析した結果、特定の種別である可能性が高いと判断された成分の波形データを用いることができる。以下、血液検体を分析する血球計数装置としての分析システム4000(
図4参照)を用いる例で説明する。血液検体をフローサイトメータ(測定ユニット400)で測定し、検体に含まれる個々の成分の前方散乱光、第1/第2側方散乱光、第1/第2側方蛍光の波形データを蓄積しておく。第1/第2側方散乱光強度(側方散乱光信号のパルスの高さ)と第1/第2側方蛍光強度(側方蛍光信号のパルス高さ)に基づいて、検体中の細胞を好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、幼若顆粒球、異常細胞の集団に分類する。分類された細胞種別に対応するラベル値をその細胞の波形データに付与することで、訓練データ75が得られる。例えば、好中球の集団に含まれる細胞の側方散乱光強度および側方蛍光強度の最頻値、平均値または中央値を求め、それらの値に基づいて代表的な細胞を特定し、それらの細胞の波形データに好中球に対応するラベル値「1」を付与することで訓練データ75を得ることができる。訓練データの生成方法はこれに限らず、例えばセルソータによって特定の細胞だけを回収しておき、その細胞をフローサイトメータによって測定し、得られた波形データに細胞のラベル値を付与することによって訓練データを得てもよい。
【0184】
各アナログ信号70a~70eは、フローサイトメータによって好中球が測定されたときの前方散乱光信号、第1/第2側方散乱光信号、第1/第2側方蛍光信号をそれぞれ示す。これらのアナログ信号が、上述したようにA/D変換されると、前方散乱光信号の波形データ72a、第1側方散乱光信号の波形データ72b、第1側方蛍光信号の波形データ72c、第2側方散乱光信号の波形データ72d、第2側方蛍光信号の波形データ72eが得られる。波形データ72a~72eそれぞれの内部で隣り合うセルは、サンプリングレートに対応する間隔、例えば10ナノ秒間隔での信号レベルを格納している。各波形データ72a~72eは、データの元となった細胞の種別を表すラベル値77と組み合わされて、各細胞に対応する5つの波形データ、言い換えれば5つの信号強度(前方散乱光の信号強度、第1/第2側方散乱光の信号強度、及び第1/第2側方蛍光の信号強度)のデータがセットとなるように訓練データ75として深層学習アルゴリズム(ニューラルネットワーク50)に入力される。
図40の例では訓練データ75の元となった細胞が好中球であるため、各波形データ72a~72eに好中球であることを示すラベル値77として「1」が付与され、訓練データ75が生成される。
図41にラベル値77の例を示す。訓練データ75は、細胞種別毎に生成されるため、ラベル値は、細胞種別に応じて異なるラベル値77が付与される。
【0185】
<深層学習の概要>
図40を例として、ニューラルネットワークの訓練の概要を説明する。ニューラルネットワーク50は、例えば、畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワークである。ニューラルネットワーク50における入力層50aのノード数は、入力される訓練データ75の波形データに含まれる配列の要素数に対応している。配列の要素数は、1つの成分に対応する前方散乱光、第1/第2側方散乱光、第1/第2側方蛍光の波形データ72a~72eの要素数の総和に等しい。
図40の例では、波形データ72a~72eのそれぞれが1024個の要素を含んでいる。よって、入力層50aのノード数は、1024×5=5120個となる。各波形データ72a~72eは、ニューラルネットワーク50の入力層50aに入力される。訓練データ75の各波形データのラベル値77は、ニューラルネットワークの出力層50bに入力され、ニューラルネットワーク50を訓練する。
図40の符号50cは、中間層を示す。
【0186】
<波形データの分析方法>
図42に、検体中の成分の波形データを分析する方法の例を示す。
図42に例示される波形データの分析方法では、分析対象の成分からフローサイトメータ(測定ユニット400、
図7参照)によって取得した前方散乱光のアナログ信号80a、第1側方散乱光のアナログ信号80b、第1側方蛍光のアナログ信号80c、第2側方散乱光のアナログ信号80d、第2側方蛍光のアナログ信号80eから、上述の方法によって得られる波形データからなる分析データ85が生成される。複数波長の光がフローセル4113(
図37参照)に照射されることによって波形データが取得されているので、各波長に対応した複数の波形データが取得される。例えば、第1波長(例えば、405nm)の光に対応した第1側方散乱光および第1側方蛍光に各々対応する波形データ、および、第2波長(例えば、638nm)の光に対応した前方散乱光、第2側方散乱光および第2側方蛍光に各々対応する波形データが取得される。第1波長の光に対応する側方蛍光は第1蛍光色素に基づいて取得され、第2波長の光に対応する側方蛍光は第2蛍光色素に基づいて取得される。
【0187】
分析データ85と訓練データ75は、少なくとも取得条件を同じにすることが好ましい。取得条件とは、検体中の成分をフローサイトメータによって測定するための条件、例えば測定試料の調製条件、測定試料をフローセルに流すときの流速、フローセルに照射される光の強度、散乱光及び蛍光を受光する受光素子の増幅率(ゲイン)などを含む。取得条件は、さらに、アナログ信号をA/D変換するときのサンプリングレートも含む。
【0188】
分析対象の成分がフローセル4113を流れると、前方散乱光のアナログ信号80a、第1側方散乱光のアナログ信号80b、第1側方蛍光のアナログ信号80c、第2側方散乱光のアナログ信号80d、第2側方蛍光のアナログ信号80eが得られる。これらのアナログ信号80a~80eが上述したようにA/D変換されると、成分毎に、信号強度を取得した時点が同期され、前方散乱光信号の波形データ82a、第1側方散乱光信号の波形データ82b、第1側方蛍光信号の波形データ82c、第2側方散乱光信号の波形データ82d、第2側方蛍光信号の波形データ82eとなる。各波形データ82a~82eは、各成分の信号強度(前方散乱光の信号強度、第1/第2側方散乱光の信号強度、及び第1/第2側方蛍光の信号強度)のデータがセットとなるように組み合わされて、分析データ85として深層学習アルゴリズム51に入力される。
図42の例では、波形データ82a、82b、82c、82d、82eの5つの波形データで構成されたデータセットが入力される。
【0189】
分析データ85を訓練済みの深層学習アルゴリズム51を構成するニューラルネットワーク51の入力層51aに入力すると、出力層51bから、分析データ85に対応する成分の種別に関する分類情報として分析結果83が出力される。
図42の符号51cは、中間層を示す。成分の種別に関する分類情報とは、例えば、各成分が複数の細胞種別の各々に属する確率である。さらに、この確率の中で、値が最も高い分類に、分析データ85を取得した分析対象の成分が属すると判断し、その種別を表す識別子であるラベル値82等が分析結果83に含まれてもよい。分析結果83は、ラベル値そのものの他、ラベル値を種別を示す情報(例えば文字列)に置き換えたデータであってもよい。
図42では、分析データ85に基づいて、深層学習アルゴリズム51が分析データ85を取得した分析対象の成分が属する確率が最も高かったラベル値「1」を出力し、さらに、このラベル値に対応する「好中球」という文字データが分析結果83として出力される例を示している。ラベル値の出力は、深層学習アルゴリズム51が行ってもよいが、他のコンピュータプログラムが、深層学習アルゴリズム51が算出した確率に基づいて、最も好ましいラベル値を出力してもよい。
【0190】
図43は、
図12に示した試料調製部440とは構成が異なる他の試料調製部441の構成例を示す。なお、
図43において、
図12中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
【0191】
図43の例では、深層学習アルゴリズム(AIアルゴリズム)を用いた分析を実行することにより、試料調製部440の測定チャネルの構成が変更可能であることが示される。
図43の例では、白血球の計数、有核赤血球の計数、および、好塩基球の計数を行うための測定チャネル(WNR)が、白血球の分類を行うための測定チャネル(WDF)に置き換えられる。つまり、
図43の例では、WNRチャネルがWDFチャネルに置き換えられることで、測定ユニット400(
図7参照)は複数のWDFチャネルを備える構成となっている。この例の場合、WNRチャネルの測定項目である白血球の計数、有核赤血球の計数、および、好塩基球の計数は、WDFチャネルによる測定で得られた波形データをAIアルゴリズム51で分析することで得られる。例えば、WDFチャネルによる測定で得られた波形データから、白血球、有核赤血球、好塩基球を分類できるように、AIアルゴリズム51を学習させることで、WDFチャネルの波形データから白血球、有核赤血球、好塩基球の分類が可能となる。例えば、WDFチャネルの測定で得られた波形データのうち、白血球、有核赤血球、好塩基球に該当するデータを訓練データとしてAIアルゴリズム51に学習させることで、WDFチャネルで測定された波形データから白血球、有核赤血球、好塩基球を分類可能なAIアルゴリズム51が生成される。
図43の構成例では、例えば、複数のWDFチャネルにおいて、異なる検体に対する測定が並行して実行される。例えば、複数のWDFチャネルの各々のチャンバにおいて、異なる検体の試料調製が並行して実行される。
【0192】
図43に示すように、所定の測定チャネルの分析を、他の測定チャネルによるデータのAI分析により代替することで、当該所定の測定チャネルを他の測定チャネルに置き換えることが可能となる。これにより、分析システム4002(
図7参照)に設けられた測定チャネルの総数を増やすことなく、増設したい測定チャネルの数を増やすことができる。
図43の例では、WNRチャネルをWDFチャネルで置き換えることで、分析システム4002に設けられた測定チャネルの総数を増やすことなく、WDFチャネルの数を増やすことが可能となる。WDFチャネルの数が増えることで、複数のWDFチャネルのそれぞれで異なる検体を並列に測定することが可能となる。並列測定によって、WDFチャネルによる測定のスループットが向上する。
図43の例により、検体処理のスループットも向上できるという顕著な効果が得られる。
【0193】
AIアルゴリズムを活用することである測定チャネルを他の測定チャネルに置き換えるという例について、置き換えられる対象の測定チャネルの測定項目(
図12の例では、WNRチャネルにおける有核赤血球・好塩基球)を他の測定チャネル(
図12の例では、WDFチャネル)で測定されたデータに基づいて分析することが求められる。他の測定チャネルで測定されたデータをAIアルゴリズムで分析することで、置き換えられる対象の測定チャネルの測定項目を分類できるようになる。本実施形態では、複数波長の光に各々対応する複数種類の光学的信号がAIアルゴリズムにより分析される。複数波長の光に各々対応するデータを用いて情報量を増やすことにより、AIによる分析精度が向上する。分析精度の向上により、他の測定チャネル(例えば、WDFチャネル)のデータであっても置き換え対象の測定チャネルの測定項目(
図12の例では、WNRチャネルにおける有核赤血球・好塩基球)の分類が可能となる。
【0194】
図43の例における分析方法(第1の例)では、例えば、WDFチャネルによる測定で得られた波形データのAI分析によって、NRBC(有核赤血球)の分類・計数およびBASO(好塩基球)の分類・計数に加え、BASO以外の白血球の分類(好酸球、好中球、リンパ球、単球)・計数も実行する。この例の場合、AIアルゴリズム51は、波形データにより、NRBC、BASOおよびBASO以外の白血球(好酸球、好中球、リンパ球、単球)の分類が可能なように学習されている。このようなAIアルゴリズム51を用いることで、WNRチャネルをWDFチャネルに置き換えることが可能となる。これらの分析は、分析ユニット302X(
図7参照)によって次のように実行される。
【0195】
図44は、本分析方法の動作例(第1の動作例)を示すフローチャートである。
図44に示すように、第1の動作例では、分析ユニット302X(
図7参照)は、WDFチャネルで検出された光学的信号に対応するデータを取得する(ステップS0)。次に、分析ユニット302Xは、本データをAIアルゴリズム51で分析する(ステップS1)。分析ユニット302Xは、WDFチャネルによる測定で得られたデータをAIアルゴリズム51で分析することで、単球、リンパ球、好中球、好酸球の分類に加え、WDFチャネルで分析されていた好塩基球と有核赤血球も分類する。次に、分析ユニット302Xは、WDFチャネルのデータの分析結果を提供する(ステップS2)。
【0196】
図45に示す分析方法の他の例(第2の動作例)では、例えば、WDFチャネルによる測定で得られた波形データのAI分析によって、NRBCの分類・計数およびBASOの分類・計数を行う。AIアルゴリズム51で、NRBCにもBASOにも分類されなかった細胞に対応する波形データは、スキャッタグラムによって分析され、好酸球、好中球、リンパ球および単球の分類・計数が実行される。この例の場合、AIアルゴリズム51は、例えば、波形データからNRBC、BASOおよびそれ以外、という分類を行うように学習されている。この例のAIアルゴリズム51によって、NRBCおよびBASO以外に分類された細胞に対応する波形データが、スキャッタグラムによって分析される。例えば、NRBCおよびBASO以外と分類された細胞に対応する波形データのピーク値が抽出され、側方蛍光信号に対応するピーク値と側方散乱光に対応するピーク値から生成される2次元グラフに基づいて、細胞種別が分類される。例えば、スキャッタグラムに基づき、細胞が好酸球、好中球、リンパ球、単球およびそれ以外のいずれであるかが分類される。スキャッタグラムに基づく分析で好酸球、好中球、リンパ球および単球以外に分類された細胞は、例えば、デブリ(”Debris”)に分類される。これらの分析は、分析ユニット302X(
図7参照)によって次のように実行される。
【0197】
図45は、本分析方法の動作例(第2の動作例)を示す別のフローチャートである。
図45に示すように、分析ユニット302Xは、WDFチャネルで検出された光学的信号に対応するデータを取得する(ステップS10)。次に、分析ユニット302Xは、本データをAIアルゴリズム51で分析する(ステップS11)。次に、分析ユニット302Xは、NRBCおよびBASO以外の細胞に対応するデータを特定する(ステップS12)。次に、分析ユニット302Xは、特定されたデータをスキャッタグラムで分析する(ステップS13)。次に、分析ユニット302Xは、WDFチャネルのデータの分析結果を提供する(ステップS14)。
【0198】
図46に示す分析方法のさらなる他の例(第3の例)では、例えば、WDFチャネルによる測定で得られた波形データのスキャッタグラム分析によって、リンパ球の分類・計数、単球の分類・計数、好酸球の分類・計数、および、好中球/好塩基球の分類・計数が実行される。好中球/好塩基球の分類・計数においては、例えば、好中球および好塩基球のいずれかに分類される細胞が計数される。リンパ球、単球、好酸球、好中球/好塩基球のいずれにも分類されなかった細胞、および、好中球および好塩基球のいずれかに分類された細胞に対応する波形データは、AIアルゴリズム51(
図42参照)で分析される。例えば、波形データは、AIアルゴリズム51により、NRBC、好塩基球(BASO)およびそれ以外に分類される。例えば、スキャッタグラム分析で好中球および好塩基球のいずれかであると分類された細胞の計数結果から、AIアルゴリズム60によりBASOと分類された細胞の計数が減算され、好中球の計数と好塩基球の計数のそれぞれが算出される。AI分析でNRBCおよびBASOのいずれにも分類されなかった細胞は、例えば、デブリ(”Debris”)に分類される。これらの分析は、分析ユニット302X(
図7参照)によって次のように実行される。
【0199】
図46は、本分析方法の動作例(第3の動作例)を示すフローチャートである。
図46に示すように、分析ユニット302Xは、WDFチャネルで検出された光学的信号に対応するデータを取得する(ステップS20)。次に、分析ユニット302Xは、本データをスキャッタグラムで分析する(ステップS21)。次に、分析ユニット302Xは、(1)リンパ球、単球、好酸球、好中球/好塩基球のいずれにも分類されなかった細胞、(2)好中球/好塩基球に分類された細胞、に対応するデータを特定する(ステップS22)。次に、分析ユニット302Xは、特定されたデータをAIアルゴリズム60で分析する(ステップS23)。次に、分析ユニット302Xは、WDFチャネルのデータの分析結果を提供する(ステップS24)。
【0200】
(第5実施形態)
第5実施形態は、ホストプロセッサと、並列処理プロセッサとを含む検体分析システム(第1~第4実施形態の分析システムを含む)において、前記ホストプロセッサによる制御に基づいて、検体中の成分の各々に関するデータを取得し、前記並列処理プロセッサで前記データに関する並列処理を実行し、前記並列処理の結果に基づき、前記成分の各々の種別に関する情報を生成する、ことを含む検体分析方法を開示する。
【0201】
本実施形態によれば、1検体あたり数百メガバイトから数ギガバイトに及ぶ膨大な容量のデータを分析する場合であっても、ホストプロセッサとは別に設けられた並列処理プロセッサによって、測定されたデータに関する処理を並列で実行できる。そのため、例えば膨大な容量のデータを深層学習アルゴリズムによって処理する場合であっても、検体分析システム内でデータの処理が完結する。例えば、深層学習アルゴリズムを格納した分析用サーバに、インターネットまたはイントラネットを介してデータを送信する必要がない。したがって、本実施形態によれば、検体分析システムから分析用サーバに大容量のデータを送信し、分析用サーバから返ってくる分析結果を取得する必要がなく、検体中の成分の分類精度を向上しながらも検体分析システムの処理能力を維持することができる。
【0202】
図47は、本実施形態の構成例を示す。なお、
図47において、
図10中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
図47の分析ユニット303Xは、AIアルゴリズムによる演算処理をマスタプロセッサに代わって処理可能な並列処理プロセッサを備える。AIアルゴリズム(例えば、深層学習アルゴリズム)で実行される行列演算の処理に適した並列処理プロセッサを用いることで、AI分析に要するTAT(Turn Around Time)が改善される。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同様の構成・機能についての説明は省略される。
【0203】
図47に示す分析ユニット302Xは、
図11に示したように測定ユニット401内に分析部301Xが設けられたような構成であってもよい。
【0204】
プロセッサ3001は、並列処理プロセッサ3002を用いて、深層学習アルゴリズム60による波形データの分析処理を実行する。すなわち、プロセッサ3001は、深層学習アルゴリズム60にしたがって波形データの分析処理を実行するようにプログラムされている。深層学習アルゴリズム60に基づいて検体中の成分に対応するデータを分析するための解析ソフトウェア3100は、記憶部3004に格納されていてもよい。この場合、プロセッサ3001は、記憶部3004に格納されている解析ソフトウェア3100を実行することにより、深層学習アルゴリズム60に基づくデータの分析処理を実行する。本実施形態では、例えば、AI分析はプロセッサ3001と並列処理プロセッサ3002によって実行され、計算処理分析は並列処理プロセッサ3002を用いずにプロセッサ3001によって実行される。プロセッサ3001は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ3001は、例えばインテル社製のCore i9、Core i7、Core i5、AMD社製のRyzen 9、Ryzen 7、Ryzen 5、Ryzen 3などを用いてもよい。
【0205】
プロセッサ3001は、並列処理プロセッサ3002を制御する。並列処理プロセッサ3002は、プロセッサ3001による制御に応じて、例えば行列演算に関する並列処理を実行する。つまり、プロセッサ3001は、並列処理プロセッサ3002のマスタプロセッサであり、並列処理プロセッサ3002は、プロセッサ3001のスレーブプロセッサである。プロセッサ3001は、ホストプロセッサまたはメインプロセッサとも呼ばれる。
【0206】
並列処理プロセッサ3002は、波形データの分析に関する処理の少なくとも一部である複数の演算処理を並列に実行する。並列処理プロセッサ3002は、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。並列処理プロセッサ3002がFPGAである場合、並列処理プロセッサ3002は、例えば、訓練済みの深層学習アルゴリズム60に関する演算処理が予めプログラムされていてもよい。並列処理プロセッサ3002がASICである場合、並列処理プロセッサ3002は、例えば、訓練済みの深層学習アルゴリズム60に関する演算処理を実行するための回路が予め組み込まれていてもよいし、そのような組み込み回路に加えてプログラマブルなモジュールが内蔵されていてもよい。並列処理プロセッサ3002は、例えば、NVIDIA社製のGeForce,Quadro,TITAN,Jetsonなどを用いてもよい。Jetsonシリーズであれば、例えば、Jetson Nano、Jetson Tx2、Jetson Xavier、Jetson AGX Xavierが用いられる。
【0207】
プロセッサ3001は、例えば、測定ユニット402(
図7参照)の制御に関する計算処理を実行する。プロセッサ3001は、例えば、装置機構部455、試料調製部440、検体吸引機構450との間で送受信される制御信号に関する計算処理を実行する。プロセッサ3001は、例えば、コンピュータ310Xとの間での情報の送受信に関する計算処理を実行する。コンピュータ310Xは、例えば、プロセッサ3001の処理に基づいて分析ユニット303Xから送信された分析結果を表示する機能を有する。コンピュータ310Xは、例えば、分析ユニット303Xに、測定オーダーを送信する。測定オーダーは、例えば、コンピュータ310Xの入力デバイスを介してユーザによって入力される。測定オーダーは、例えば、ホストコンピュータからコンピュータ310Xに送信される。プロセッサ3001は、例えば、記憶部3004からのプログラムデータの読み出し、メインメモリ3017へのプログラムの展開、メインメモリ3017との間のデータの送受信に関する処理を実行する。プロセッサ3001により実行される上述の各処理は、例えば、所定の順番に実行することが求められる。例えば、装置機構部455、試料調製部440、検体吸引機構450の制御に要する処理がA、B及びCとすると、B、A、Cの順で実行することが求められることがある。プロセッサ3001はこのような順序に依存する連続的な処理を実行することが多いため、演算ユニット(「プロセッサコア」、「コア」等と呼ばれることがある)の数を増したとしても、必ずしも処理速度が高まるものではない。
【0208】
一方、並列処理プロセッサ3002は、例えば、多量の要素を含む行列データの演算のように、定型的で多量な計算処理を実行する。本実施形態では、並列処理プロセッサ3002は、深層学習アルゴリズム60に従って波形データを分析する処理の少なくとも一部を並列化した並列処理を実行する。深層学習アルゴリズム60には、例えば、多量の行列演算が含まれる。深層学習アルゴリズム60には、例えば、少なくとも100の行列演算が含まれることがあり、また、少なくとも1000の行列演算が含まれることもある。並列処理プロセッサ3002は、複数の演算ユニットを有し、これらの演算ユニットの各々が同時に行列演算を実行可能である。つまり、並列処理プロセッサ3002は、並列処理として、複数の演算ユニットの各々による行列演算を並列に実行することができる。例えば、深層学習アルゴリズム60に含まれる行列演算は、互いに順序依存が無い複数の演算処理に分割することができる。このように分割された演算処理は、複数の演算ユニットの各々で並列に実行可能となる。これらの演算ユニットは、「プロセッサコア」、「コア」等と呼ばれることがある。
【0209】
このような並列処理を実行することにより、測定ユニット402全体としての演算処理を高速化することが可能となる。深層学習アルゴリズム60に含まれる行列演算のような処理は、例えば、「単一命令複数データ処理」(SIMD:Single Instruction Multiple Data)と呼ばれることがある。並列処理プロセッサ3002は、例えばこのようなSIMD演算に適している。このような並列処理プロセッサ3002は、ベクトルプロセッサと呼ばれることがある。
【0210】
上述のように、プロセッサ3001は、多様かつ複雑な処理を実行することに適している。一方、並列処理プロセッサ3002は、定型化された多量の処理を並列に実行することに適している。定型化された多量の処理を並列に実行することにより、計算処理に要するTAT(Turn Around Time)が短縮される。なお、並列処理プロセッサ3002が実行する並列処理の対象は、行列演算に限られない。例えば、並列処理プロセッサ3002が深層学習アルゴリズム50に従って学習処理を実行するときは、学習処理に関する微分演算等が並列処理の対象となり得る。
【0211】
プロセッサ3001の演算ユニットの数は、例えば、デュアルコア(コア数:2)、クアッドコア(コア数:4)、オクタコア(コア数:8)である。一方、並列処理プロセッサ3002は、演算ユニットを、例えば、少なくとも10個有し(コア数:10)、10の行列演算を並列に実行し得る。並列処理プロセッサ3002は、例えば、演算ユニットを数十個有するものもある。また、並列処理プロセッサ3002は、演算ユニットを、例えば、少なくとも100個有し(コア数:100)、100の行列演算を並列に実行し得るものもある。また、並列処理プロセッサ3002は、演算ユニットを、例えば、少なくとも1000個有し(コア数:1000)、1000の行列演算を並列に実行し得るものもある。並列処理プロセッサ3002は、例えば、演算ユニットを数千個有するものもある。
【0212】
図48は、並列処理プロセッサ3002の構成例を示す。並列処理プロセッサ3002は、複数の演算ユニット3200、及びRAM3201を含む。演算ユニット3200の各々は、行列データの演算処理を並列に実行する。RAM3201は、演算ユニット3200が実行する演算処理に関するデータを記憶する。RAM3201は、少なくとも1ギガバイトの容量を有するメモリである。RAM3201は、2ギガバイト、4ギガバイト、6ギガバイト、8ギガバイト、又は10ギガバイト以上の容量を有するメモリであってもよい。演算ユニット3200は、RAM3201からデータを取得し、演算処理を実行する。演算ユニット3200は、「プロセッサコア」、「コア」等と呼ばれることがある。
【0213】
図49、
図50および
図51は、プロセッサ3001上で動作する解析ソフトウェア3100の制御に基づいて、並列処理プロセッサ3002で実行される演算処理の概要を示す。
図49は、演算処理を実行する並列処理プロセッサ3002の構成例を示す。並列処理プロセッサ3002は、複数の演算ユニット3200、RAM3201を有する。解析ソフトウェア3100を実行するプロセッサ3001は、並列処理プロセッサ3002に命令し、波形データを深層学習アルゴリズム60で分析する場合に要する少なくとも一部の演算処理を並列処理プロセッサ3002に実行させる。プロセッサ3001は、並列処理プロセッサ3002に対して、深層学習アルゴリズム60に基づく波形データの分析に関する演算処理の実行を命令する。FCM検出部460(
図4参照)で検出された信号に対応する波形データの全部又は少なくとも一部は、メインメモリ3017に記憶される。メインメモリ3017に記憶されたデータは、並列処理プロセッサ3002のRAM3201に転送される。メインメモリ3017に記憶されたデータは、例えば、DMA(Direct Memory Access)方式によりRAM3201に転送される。並列処理プロセッサ3002の複数の演算ユニット3200の各々は、RAM3201に記憶されたデータに対する演算処理を並列に実行する。複数の演算ユニット3200の各々は、必要なデータをRAM3201から取得して演算処理を実行する。演算結果に対応するデータは、並列処理プロセッサ3002のRAM3201に記憶される。演算結果に対応するデータは、RAM3201からメインメモリ3017に、例えばDMA方式で、転送される。
【0214】
図50は、並列処理プロセッサ3002が実行する行列演算の概要を示す。波形データを深層学習アルゴリズム60に従って分析するにあたり、行列の積の計算(行列演算)が実行される。並列処理プロセッサ3002は、例えば、行列演算に関する複数の演算処理を並列に実行する。
図50の(a)は、行列の積の計算式を示す。(a)に示す計算式では、n行n列の行列aとn行n列の行列bとの積により、行列cを求める。
図50に例示されるように、計算式は、多階層のループ構文で記述される。
図50の(b)は、並列処理プロセッサ3002で並列に実行される演算処理の例を示す。
図50(a)に例示された計算式は、例えば、1階層目のループ用変数iと、2階層目のループ用変数jとの組合せ数であるn×n個の演算処理に分割することができる。このように分割された演算処理の各々は、互いに依存しない演算処理であるため、並列に実行し得る。
【0215】
図51は、
図50の(b)に例示された複数の演算処理が、並列処理プロセッサ3002で並列に実行されることを示す概念図である。
図51に示すように、複数の演算処理の各々は、並列処理プロセッサ3002が備える複数の演算ユニット3200のいずれかに割り当てられる。演算ユニット3200の各々は、割り当てられた演算処理を、互いに並列に実行する。つまり、演算ユニット3200の各々は、分割された演算処理を同時に実行する。
【0216】
図51に例示された並列処理プロセッサ3002による演算によって、例えば、波形データに対応する細胞が複数の細胞種別の各々に属する確率に関する情報が求められる。演算の結果に基づいて、解析ソフトウェア3100を実行するプロセッサ3001は、波形データに対応する細胞の細胞種に関する解析を行う。演算結果は、並列処理プロセッサ3002のRAM3201に記憶され、RAM3201からメインメモリ3017に転送される。プロセッサ3001は、メインメモリ3017に記憶された演算結果に基づいて解析した結果を取得し、記憶部3004に格納する。
【0217】
検体中の成分が複数の分類種別の各々に属する確率の演算は、並列処理プロセッサ3002とは別のプロセッサが行ってもよい。例えば、並列処理プロセッサ3002による演算結果がRAM3201からメインメモリ3017に転送され、プロセッサ3001が、メインメモリ3017から読み出した演算結果に基づいて、各々の波形データに対応する成分が複数の分類種別の各々に属する確率に関する情報を演算してもよい。また、並列処理プロセッサ3002による演算結果がRAM3201から分析ユニット303X(
図47参照)に転送され、分析ユニット303Xに搭載されたプロセッサが、各々の波形データに対応する成分が複数の分類種別の各々に属する確率に関する情報を演算してもよい。
【0218】
<白血球の分類方法>
1.第1蛍光色素及び第2蛍光色素
次に、第1蛍光色素及び第2蛍光色素の例について説明する。この例では、検体中の白血球を染色するために、第1蛍光色素及び第2蛍光色素の2種類の蛍光色素を用いる例を説明する。以下では、特に、採血から時間が経過した血液検体であっても、好塩基球を正確に計数することに適した第1蛍光色素および第2蛍光色素の組み合わせについて説明する。
【0219】
第2蛍光色素は、第1蛍光色素とは異なる波長域に極大吸収を有する蛍光色素である。すなわち、第2蛍光色素は、第1蛍光色素からの蛍光とは区別して検出可能な波長の蛍光を放出する蛍光色素である。第1蛍光色素及び第2蛍光色素はそれぞれ、白血球などの血液細胞の核酸に結合する性質を有する公知の蛍光色素から適宜選択できる。
【0220】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素は、フローサイトメータが備える光源から照射される光によって励起される。光は、1つの光源から照射されてもよいし、2つの光源から照射されてもよい。1つの光源から光が照射される場合、当該光源から照射される光は、第1蛍光色素及び第2蛍光色素の両方を励起可能な光であってもよい。そのような光としては、複数の波長を含む光が好ましく、例えば白色光が挙げられる。あるいは、第1蛍光色素及び第2蛍光色素が、1つの波長の光で励起可能な程度に近い波長域に極大吸収を有する場合、光源から照射される光は当該1つの波長の光であってもよい。例えば、第1蛍光色素又は第2蛍光色素の一方が極大吸収を400~520nmの波長域に有し、他方が極大吸収を300~420nmの波長域に有する場合、400~420nmに中心波長を有する光、例えば455nmの光により、両方の蛍光色素を励起できる。あるいは、例えば、第1蛍光色素および第2蛍光色素の極大吸収が630~660nmの波長域内にあり、第1蛍光色素又は第2蛍光色素の一方が660~670nmの波長域にピークを有する蛍光を発し、他方が670nmより長波長域にピークを有する蛍光を発する場合、630~655nmに中心波長を有する光、例えば633nmの光により、両方の蛍光色素を励起でき、かつ、それぞれの蛍光色素から生じる光を区別して検出できる。
【0221】
2つの光源から光が照射される場合、照射される光は、第1蛍光色素を励起可能な第1波長の光、及び第2蛍光色素を励起可能な第2波長の光の2種の光であってもよい。第2波長は、第1波長とは異なる。波長は、蛍光色素の種類に応じて適宜決定できる。例えば、第1波長は315~490nmであり、好ましくは400~450nmであり、より好ましくは400~410nmである。第2波長は610~750nmであり、好ましくは620~700nmであり、より好ましくは633~643nmである。
【0222】
2つの励起光を用いる場合、第1蛍光色素は、極大吸収を400~490nmの波長域に有し、当該波長域の光を吸収することにより励起されて蛍光を発する色素であって、血液細胞の核酸(特にDNA)に結合する性質を有する色素が好ましい。例えば、アクリジン骨格を有する蛍光色素、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール・ジヒドロクロリド(DAPI)、ヘキストシリーズのHoechst3342、Hoechst33258、Hoechst334580などが挙げられる。
【0223】
アクリジン骨格を有する蛍光色素としては、プロフラビン、9-アミノアクリジン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエローG、アクリフラビン、ベーシックイエロー9、乳酸エタクリジン、ユークリシンGG(Euchrysine GGNX)、プロフラビンヘミ硫酸塩、3,6-ビス(ジメチルアミノ)アクリジン(Rhoduline Orangen)、3,6-ジアミノ-2,7,10-トリメチル-塩化アクリジニウムが挙げられる。それらの中でも、アクリジンイエローGが好ましい。あるいは、第2蛍光色素は、市販されている蛍光色素を使用してもよい。
【0224】
2つの励起光を用いる場合、第2蛍光色素としては、極大吸収を610~750nmの波長域に有し、当該波長域の光を吸収することにより励起されて蛍光を発する色素であって、血液細胞の核酸(特にRNA)に結合する性質を有する色素が好ましい。例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム-アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー-1、エチジウムホモダイマー-2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3-[[4-[[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]メチレン]-1,4-ジヒドロキノリン]-1-イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO-1)、4-[(3-メチルベンゾチアゾール-2(3H)-イリデン)メチル]-1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO-PRO-1)、N,N,N’,N’-テトラメチル-N,N’-ビス[3-[4-[3-[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]-2-プロペニリデン]-1,4-ジヒドロキノリン-1-イル]プロピル]-1,3-プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO-3)又は2-[3-[[1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]-1,4-ジヒドロキノリン]-4-イリデン]-1-プロペニル]-3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム・ジヨージド(TOPRO-3)、下記の式(V)で表される蛍光色素、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0225】
【0226】
式(V)中、R1及びR4は、水素原子、メチル基、エチル基又は炭素数6~18のアルキル基であって、いずれか一方が炭素数6~18のアルキル基であるとき、他方が水素原子、メチル基又はエチル基である。R2及びR3は、互いに同一又は異なって、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基である。Zは、硫黄原子、酸素原子又はメチル基を有する炭素原子である。nは、0、1、2又は3である。X-は、アニオンである。
【0227】
式(V)において、炭素数6~18のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれであってもよい。炭素数6~18のアルキル基の中でも、炭素数が6、8又は10のアルキル基が好ましい。
【0228】
式(V)において、R1及びR4のベンジル基の置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基又は炭素数2~20のアルキニル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0229】
式(V)において、R2及びR3のアルケニル基として、例えば炭素数2~20のアルケニル基が挙げられる。また、R2及びR3のアルコキシ基としては、炭素数1~20のアルコキシ基が挙げられる。それらの中でも、特にメトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0230】
式(V)において、アニオンX-として、F-、Cl-、Br-及びI-のようなハロゲンイオン、CF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-などが挙げられる。
【0231】
上記の式(V)で表される蛍光色素としては、下記の式で表される蛍光色素が好ましい。
【0232】
【0233】
上記の第2蛍光色素を単独で含む市販の染色試薬を用いてもよい。例えば、フルオロセルWDF(シスメックス株式会社)、ストマトライザー4DS(シスメックス株式会社)が挙げられる。
【0234】
1つの励起光を用いる場合、好ましい第1蛍光色素と第2蛍光色素の組み合わせは異なってもよい。例えば、例えば633nmの光を励起光として用いる場合、第1蛍光色素および第2蛍光色素の極大吸収が630~660nmの波長域内にあり、第2蛍光色素が660~670nmの波長域にピークを有する蛍光を発し、第1蛍光色素が670nmより長波長域にピークを有する蛍光を発するような組み合わせが考えられる。そのような組み合わせとして、例えば、第1蛍光色素としてDRAQ5、DRAQ7またはDRAQ9(BioStatus社)、第2蛍光色素として上述の式Vで表される蛍光色素を用いることができる。
【0235】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素は溶液にして用いられることが好ましい。溶媒は、上記の各蛍光色素を溶解できれば特に限定されない。例えば、水、有機溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、水に混合可能な溶媒が好ましく、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、DMSOなどが挙げられる。
【0236】
図2及び
図5を参照して説明したように、第1蛍光色素及び/又は第2蛍光色素は、一つの試薬容器200に収容されてもよいし、代替的に、
図6を参照して説明したように、異なる試薬容器200A、200Bに別々に収容されてもよい。
【0237】
2.溶血試薬
【0238】
上述の第1蛍光色素および第2蛍光色素は、溶血試薬、特に好ましくは界面活性剤を含む溶血試薬と組み合わせて用いられる。当該界面活性剤により、検体中の赤血球を溶血させ、かつ、白血球の細胞膜に第1蛍光色素及び第2蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えることができる。界面活性剤としては、例えばノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びそれらの組み合わせが挙げられる。溶血試薬は、好ましくはノニオン性界面活性剤を含む。
【0239】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、下記の式(I)で表されるものが挙げられる。
R1-R2-(CH2CH2O)n-H (I)
(式中、R1は、炭素数8以上25以下のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;R2は、酸素原子、-(COO)-又は下記の式(II):
【0240】
【化3】
であり;nは、23以上25以下又は30である。)
【0241】
式(I)中、好ましくはnが23又は25であり、より好ましくはnが23である。nが23以上25以下の場合、溶血試薬における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、1700ppm以上であり、好ましくは1750ppm以上である。また、nが23以上25以下の場合、測定試料における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppm以下である。
【0242】
nが30である場合、溶血試薬における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、1900ppm以上であり、好ましくは2000ppm以上であり、より好ましくは2100ppm以上である。また、nが30である場合、測定試料における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppmである。
【0243】
式(I)で表されるノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。それらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル及びそれらの群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル及びそれらの組み合わせであり、さらに好ましくはポリオキシエチレン(23)セチルエーテルである。溶血試薬に含まれるノニオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、溶血試薬は、式(I)で表されるノニオン界面活性剤以外のノニオン界面活性剤をさらに含んでいてもよい。
【0244】
溶血試薬は、カチオン性界面活性剤をさらに含んでいてもよい。カチオン性界面活性剤としては、例えば第四級アンモニウム塩型界面活性剤、ピリジウム塩型界面活性剤及びそれらの組み合わせが挙げられる。第四級アンモニウム塩型界面活性剤としては、例えば、下記の式(III)で表される、全炭素数が9~30の界面活性剤が好ましい。溶血試薬に含まれるカチオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0245】
【0246】
式(III)中、R1は、炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基であり;R2及びR3は、互いに同一又は異なって、炭素数1~4のアルキル基又はアルケニル基であり;R4は、炭素数1~4のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基であり、X-は、ハロゲンイオンである。
【0247】
式(III)中、R1は、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基であることがましく、特に直鎖のアルキル基であることが好ましい。より具体的なR1としては、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。R2及びR3は、互いに同一又は異なって、メチル基、エチル基及びプロピル基であることが好ましい。R4は、メチル基、エチル基及びプロピル基であることが好ましい。
【0248】
ピリジウム塩型界面活性剤としては、例えば、式(IV)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0249】
【0250】
式(IV)中、R1は、炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基であり;X-は、ハロゲンイオンである。
【0251】
式(IV)中、R1は、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基であることがましく、特に直鎖のアルキル基であることが好ましい。より具体的なR1としては、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。
【0252】
溶血試薬におけるカチオン界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類により適宜選択できる。カチオン界面活性剤の濃度は10ppm以上である。カチオン界面活性剤の濃度は、好ましくは400ppm以上、より好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは600ppm以上である。また、カチオン界面活性剤濃度は10000ppm以下である。カチオン界面活性剤の濃度は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下である。
【0253】
溶血試薬は、pHを一定にするための緩衝物質が含まれていてもよい。例えば、無機酸塩類、有機酸塩類、グッドの緩衝剤、それらの組合せなどが挙げられる。無機酸塩類としては、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、それらの組合せなどが挙げられる。有機酸塩類としては、クエン酸塩、リンゴ酸塩、それらの組合せなどが挙げられる。グッドの緩衝剤としては、例えば、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPS、それらの組合せなどが挙げられる。
【0254】
溶血試薬は、芳香族有機酸をさらに含んでいてもよい。本明細書中では、芳香族有機酸とは、分子中に少なくとも1つの芳香環を有する酸及びその塩を意味する。芳香族有機酸としては、例えば、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、それらの塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。芳香族スルホン酸としては、例えば、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、それらの塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。溶血試薬に含まれる芳香族有機酸は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、芳香族有機酸が緩衝作用を示す場合がある。緩衝作用を示す芳香族有機酸を用いる場合、緩衝剤の添加は任意であり、上述の緩衝剤と組み合わせてもよい。
【0255】
溶血試薬が芳香族有機酸を含む場合、芳香族有機酸の濃度は特に限定されないが、単球とリンパ球の分類能の観点から、20mM以上が好ましく、より好ましくは25mM以上である。また、溶血試薬に含まれる芳香族有機酸の濃度は50mM以下が好ましく、より好ましくは45mM以下である。
【0256】
溶血試薬は、液体試薬であることが好ましい。溶媒は、上記の界面活性剤などの各成分を溶解できれば特に限定されない。溶媒としては、例えば水、有機溶媒及びそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、水に混合可能な溶媒が好ましく、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0257】
溶血試薬のpHは特に限定されないが、pHは5.5以上が好ましい。より好ましくは、5.7以上であり、さらに好ましくは5.9以上である。また、pHは7.2以下が好ましい。より好ましくは6.9以下であり、さらに好ましくは6.6以下である。pHの調整には、公知の塩基(水酸化ナトリウムなど)や酸(塩酸など)を用いることができる。
【0258】
溶血試薬において、浸透圧は特に限定されないが、赤血球の溶血効率の観点から150mOsm/kg以下が好ましく、130mOsm/kg以下がより好ましく、110mOsm/kg以下が最も好ましい。浸透圧の調整には適切な浸透圧調整剤を添加してもよい。浸透圧調整剤として、例えば、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウム、それらの組み合わせなどが挙げられる。
【0259】
溶血試薬として、市販の血球測定用の溶血試薬を用いてもよい。例えば、ライザセルWDF(シスメックス株式会社)、ライザセルWDFII(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0260】
溶血試薬は、例えば試薬容器R1(
図5参照)に収容され、上述した方法によってチャンバ420に送液されて血液検体と混合される。
【0261】
3.白血球分類方法
次に、本発明の第6実施形態として、上述した第1蛍光色素および第2蛍光色素を用いて白血球を亜集団に分類する方法について説明する。この方法は、例えば
図52のフローチャートに示される工程により実施される。以下、各工程について説明する。
図52は、白血球を亜集団に分類するための方法のフローチャートの一例であり、
図53は、
図52の方法を実現する好ましい一実施形態のフローチャートである。
【0262】
[ステップS0:測定試料を調製する工程]
この工程では、白血球を含む検体と、界面活性剤を含む溶血試薬と、第1蛍光色素と、第2蛍光色素とを混合することにより測定試料を調製する。溶血試薬、第1蛍光色素および第2蛍光色素としては、上述したものが好適に用いられる。
【0263】
検体は、白血球を含む又は血液細胞を含む可能性がある試料であればよく、全血に限られない。血液細胞は、白血球、赤血球及び血小板などの、全血中に含まれることが知られた細胞をいう。白血球を含む又は血液細胞を含む可能性がある試料としては、哺乳動物、好ましくはヒトから採取された体液試料である。検体としては、例えば全血、腹水、関節液、胸水、脳脊髄液、骨髄液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液、尿、及びアフェレーシスなどで採取した試料などが挙げられる。
【0264】
上記の第1蛍光色素及び第2蛍光色素は、測定試料中の濃度(終濃度)がそれぞれ所定の範囲内の濃度となるように、検体及び溶血試薬と混合される。測定試料中の第1蛍光色素の好ましい終濃度の上限は1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。測定試料中の第1蛍光色素の好ましい終濃度の下限は0.001ppm以上、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上である。測定試料中の第2蛍光色素の好ましい終濃度の上限は1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。測定試料中の第2蛍光色素の好ましい終濃度の下限は0.001ppm以上、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上である。
【0265】
溶血試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して、1000:1以上:1以上が好ましい。より好ましくは、1000:10以上:10以上であり、さらに好ましくは、1000:15以上:15以上である。また、溶血試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して、1000:50以下:50以下であることが好ましい。より好ましくは、1000:30以下:30以下であり、さらに好ましくは、1000:25以下:25以下である。蛍光色素と検体との混合比は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0266】
[ステップS1:光学的情報を検出する工程]
この工程では、調製された測定試料中の粒子に光を照射し、第1蛍光色素からの蛍光に基づく第1蛍光情報と、第2蛍光色素からの蛍光に基づく第2蛍光情報と、散乱光情報とを含む光学的情報を検出する。光学的情報は、FCM検出部460(
図2参照)により検出されることが好ましい。「測定試料中の粒子」とは、FCM検出部460により個々に測定され得る、測定試料に含まれる粒状物体をいう。具体的には、まず、測定試料をFCM検出部460のフローセル4113に導入し、当該測定試料中の一つ一つの粒子がフローセルを通過するときに当該粒子に光を照射する。そして、当該粒子から発せられる散乱光及び蛍光を測定して、光学的情報を検出する。測定試料中の粒子には、白血球などの細胞だけでなく、溶血した赤血球の残骸(赤血球ゴースト)、血小板の凝集物、脂質粒子などの非細胞の粒子も含まれ得る。
【0267】
検出される光学的情報は、散乱光情報及び蛍光情報である。この方法では2種類の蛍光色素を用いているので、それぞれの蛍光色素から放出される蛍光に対応した蛍光情報が検出される。すなわち、第1蛍光色素からの蛍光に基づく第1蛍光情報と、第2蛍光色素からの蛍光に基づく第2蛍光情報が検出される。1つの光源から光を照射する場合、散乱光情報として、当該光の照射により検出される散乱光情報が検出される。2つの光源からそれぞれ第1波長の光及び第2波長の光を照射する場合、散乱光情報として、第1波長の光の照射により検出される第1散乱光情報、及び、第2波長の光の照射により検出される第2散乱光情報が検出される。
【0268】
散乱光としては、前方散乱光(例えば、受光角度が0度から約20度の散乱光)及び側方散乱光(例えば、受光角度が約20度から約90度の散乱光)が挙げられる。散乱光情報及び蛍光情報は、散乱光及び蛍光のピーク値(パルスのピークの高さ)、パルス面積、パルス幅、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化、それらに相関する値などが挙げられる。前方散乱光情報は、細胞の大きさを反映する情報であれば特に限定されない。側方散乱光情報は、細胞構造の複雑性、顆粒特性、核構造、分葉度などの内部情報を反映する情報であれば特に限定されない。散乱光情報としては、前方散乱光ピーク値及び側方散乱光ピーク値が好ましく、側方散乱光ピーク高さがより好ましい。蛍光情報としては、蛍光ピーク高さが好ましい。
【0269】
第1散乱光情報としては、第1波長の光の照射により検出される側方散乱光ピーク値(以下、「第1側方散乱光強度」ともいう)が好ましい。第2散乱光情報としては、第2波長の光の照射により検出される側方散乱光ピーク値(以下、「第2側方散乱光強度」ともいう)が好ましい。第1蛍光情報としては、第1蛍光色素の蛍光ピーク値(以下、「第1蛍光強度」ともいう)が好ましい。第2蛍光情報としては、第2蛍光色素の蛍光ピーク値(以下、「第2蛍光強度」ともいう)が好ましい。
【0270】
光学的情報の検出には、例えば、第1蛍光色素からの蛍光に基づく第1蛍光情報と、第2蛍光色素からの蛍光に基づく第2蛍光情報と、散乱光情報とを検出可能なFCMを使用できる。このようなFCM検出部としては、例えば、
図7、
図8に示される光学系及び検出系を備えたFCMが用いられる。
【0271】
[ステップS2:好塩基球を含む細胞集団を選別する工程]
この工程では、第1蛍光情報を含む光学的情報に基づいて、測定試料中の粒子から、好塩基球を含む細胞集団を選別する。この工程により、好塩基球の分画に影響を与える集団をあらかじめ取り除くことができると考えられる。上述のように、採取から時間が経過した検体では、好塩基球の分画に影響を与える集団が生じ得る。本発明者は、そのような集団と正常な好塩基球とでは、第1蛍光情報において区別可能な差があることを見出した。例えば、後述の参考例1の
図56(c)に示されるように、正常な白血球の各亜集団は通常、第1蛍光強度(青紫色)及び第2側方散乱光強度(赤色)を二軸とするスキャッタグラムにおいて、ほぼ同程度の蛍光強度を有する。ここで、スキャッタグラム上のドットは、FCMで測定された個々の粒子を表す。なお、側方散乱光は第1側方散乱光(青紫色)であってもよい。一方、参考例2の
図57(a)~
図57(c)に示されるように、採取から時間が経過した検体では、正常な白血球の亜集団よりも第1蛍光強度が低値の集団が現れている。この集団は、第2蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム上で、正常な好塩基球が出現する領域にも認められるので、好塩基球の分画を妨げる。したがって、第1蛍光情報を含む光学的情報に基づいて、好塩基球を含む細胞集団を選別することで、測定した粒子から、好塩基球の分画に影響を与える集団を除くことが可能となる。第6実施形態では、好塩基球を含む細胞集団は、好塩基球を含む白血球の集団であることが好ましい。
【0272】
正常な白血球を溶血試薬及び第1蛍光色素により染色した場合、上記のとおり、当該白血球の各亜集団はほぼ同程度の第1蛍光強度を有する。したがって、第1蛍光情報により、好塩基球を含む細胞集団を選別することができる。具体的には、第1蛍光情報を含む光学的情報が第1蛍光強度であるとき、測定試料中の粒子から、第1蛍光強度が所定の閾値より大きい粒子の集団を選別する。この場合、好塩基球を含む細胞集団として、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球を含む細胞集団が選別されると考えられる。
【0273】
あるいは、
図53のフローチャートのステップS2-1及びS2-2に示すように、第1蛍光情報及び散乱光情報に基づくスキャッタグラム(第1スキャッタグラムともいう)を作成し、当該スキャッタグラムに基づいて、好塩基球を含む細胞集団を選別してもよい。散乱光情報は、第1散乱光情報であってもよい。例えば、第1蛍光情報を含む光学的情報が、第1蛍光強度及び側方散乱光強度であるとき、第1蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいて、第1蛍光強度が所定の閾値より大きい所定の領域に出現した粒子の集団を選別することができる。側方散乱光強度は、第1側方散乱光強度および第2側方散乱光強度のいずれを用いてもよい。例えば
図56(c)のように、縦軸に第1蛍光強度をとり、横軸に第2側方散乱光強度をとったスキャッタグラムでは、白血球の各亜集団がほぼ横一列に分布する。すなわち、当該スキャッタグラムにおいて各亜集団が出現する領域も既知である。第1蛍光強度が所定の閾値より大きい所定の領域は、好塩基球を含む白血球の亜集団が出現する領域として予め設定できる。そのような領域は、例えば、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5種の亜集団が出現する領域、リンパ球、単球、好中球及び好塩基球の4種の亜集団が出現する領域、リンパ球、単球及び好塩基球の3種の亜集団が出現する領域であり得る。そのような領域に出現した粒子の集団をゲーティングによって選別することにより、好塩基球を含む白血球の細胞集団が選別されると考えられる。
【0274】
第1蛍光強度に対応する所定の閾値は特に限定されず、適宜決定できる。例えば、好塩基球を含むことが既知の血液や採取から時間の経過した血液を予め、上記の溶血試薬及び第1蛍光色素を用いてFCMで測定し、白血球についての第1蛍光強度を取得し、得られた値を所定の閾値として用いてもよい。また、そのような測定に基づいて作成した第1スキャッタグラムから、白血球の各亜集団が出現する領域に関するデータを蓄積することにより、当該閾値及び好塩基球を含む細胞集団が出現する領域を予め設定してもよい。
【0275】
[ステップS3:細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類する工程]
この工程では、第2蛍光情報及び散乱光情報に基づいて、好塩基球を含む細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類する。散乱光情報は、第2散乱光情報であってもよい。上記の細胞集団を選別する工程により、好塩基球の分画に影響を与える集団が取り除かれているので、選別された細胞集団に含まれる白血球を、好塩基球を含む各亜集団に精度よく分類することができると考えられる。この工程では、例えば、
図53のフローチャートのS3-1、S3-2に示すように、第2蛍光情報及び散乱光情報に基づくスキャッタグラム(第2スキャッタグラムともいう)を作成し、当該スキャッタグラムに基づいて、好塩基球を含む細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類してもよい。散乱光情報は、第2散乱光情報であってもよい。具体的には、第2蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムを作成する。側方散乱光強度は、第2側方散乱光強度であってもよい。選別した細胞集団が、好塩基球を含む白血球の集団、すなわちリンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球を含む細胞集団であるとき、当該スキャッタグラムにおいては、例えば
図56(a)のように、各亜集団が異なる領域に出現して5分類され得る。亜集団ごとに、細胞の大きさ、核酸の量、内部構造などが互いに異なるので、各亜集団について検出される第2蛍光強度及び側方散乱光強度が異なる結果、このように分類される。よって、選別した細胞集団を、リンパ球の集団、単球の集団、好中球の集団、好酸球の集団及び好塩基球の集団に分類できる。
【0276】
あるいは、選別した細胞集団が、リンパ球、単球、好中球及び好塩基球を含む細胞集団であるとき、第2蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいては、各亜集団が異なる領域に出現して4分類され得る。すなわち、選別した細胞集団を、リンパ球の集団、単球の集団、好中球の集団及び好塩基球の集団に分類できる。
【0277】
あるいは、選別した細胞集団が、リンパ球、単球及び好塩基球を含む細胞集団であるとき、第2蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいては、例えば実施例1の
図59(b)のように、各亜集団が異なる領域に出現して3分類され得る。すなわち、選別した細胞集団を、リンパ球の集団、単球の集団及び好塩基球の集団に分類できる。
【0278】
[ステップS4:好塩基球の集団に分類された細胞を計数する工程]
この工程では、上記のようにして分類された白血球の亜集団のうち、好塩基球の集団に分類された細胞を計数する。上記の好塩基球を含む細胞集団を選別する工程において、好塩基球の分画に影響を与える集団は除かれているので、好塩基球の集団に分類された細胞には、好塩基球以外の細胞(例えば、劣化した好中球やリンパ球など)は実質的に含まれないと考えられる。よって、当該計数工程により、測定試料中の好塩基球をより正確に計数できる。計数は、上記の第2スキャッタグラムを適当な解析ソフトで解析することにより、好塩基球の集団に分類された細胞の数を取得することが好ましい。
【0279】
[第7実施形態]
第7実施形態の白血球を亜集団に分類する方法は、例えば
図54のフローチャートに示される工程により実施される。測定試料の調製(ステップS10)及び光学的情報の検出(ステップS11)については、第6実施形態と同様に行うことができる。第7実施形態では、光学的情報を検出する工程(ステップS11)と、好塩基球を含む細胞集団を選別する工程(ステップS14、S15)との間に、第1蛍光情報に基づいて、測定試料中の粒子から、有核細胞を含む細胞集団を選別する工程を行う(ステップS12、S13)。第1蛍光情報は、好ましくは第1蛍光強度である。具体的には、測定試料中の粒子について、縦軸に粒子数をとり、横軸に第1蛍光強度をとったヒストグラムを作成する(ステップS12)。第1蛍光色素は、上記のとおり細胞の核酸に結合する性質を有するので、粒子が有核細胞である場合、核酸を有さない粒子に比べて第1蛍光強度が高くなる。これを利用して、上記ヒストグラムにおいて、第1蛍光強度が所定の閾値以上又は所定の範囲内にある粒子を、有核細胞として選別する(ステップS13)。このような選別により、測定試料中の粒子から、赤血球ゴーストなどの核を有さない粒子を除くことができる。ここでの所定の閾値及び所定の範囲の下限は、赤血球ゴーストのような第1蛍光強度がごく低値の粒子を除く程度の値でよい。第7実施形態では、有核細胞を含む細胞集団から、好塩基球を含む細胞集団を選別すればよい。好塩基球を含む細胞集団を選別する工程以降は、第6実施形態と同様に行うことができる。
【0280】
[第8実施形態]
第8実施形態の白血球を亜集団に分類する方法は、例えば
図55のフローチャートに示される工程により実施される。測定試料の調製(ステップS20)及び光学的情報の検出(ステップS21)については、第6実施形態と同様に行うことができる。有核細胞を含む細胞集団の選別(ステップS22、S23)については、第7実施形態と同様に行うことができる。有核細胞を含む細胞集団の選別を行うか否かは任意に決定できる。第8実施形態では、光学的情報を検出する工程(ステップS21)と、好塩基球を含む細胞集団を選別する工程(ステップS27、S28)との間に、第2蛍光情報及び散乱光情報に基づいて、測定試料中の粒子又は有核細胞を含む細胞集団を、リンパ球の集団、単球の集団、好酸球の集団、及び、好中球と好塩基球の両方を含む集団の4つの亜集団に分類する工程を行う(ステップS24、S25)。この分類自体は、第6実施形態における、細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類する工程と同様にして行うことができる。具体的には、第2蛍光情報及び散乱光情報に基づいて第2スキャッタグラムを作成し(ステップS24)、当該スキャッタグラムに基づいて、測定試料中の粒子又は有核細胞を含む細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類する(ステップS25)。検体の採取から時間が経過している場合、当該検体中の白血球は分画が不良であり、特に好塩基球と好中球との分画が困難になる。測定した検体がそのような分画不良の検体であった場合、当該分類工程では、測定試料中の粒子又は有核細胞を含む細胞集団は、リンパ球の集団、単球の集団、好酸球の集団、及び、好中球と好塩基球の両方を含む集団の4つの亜集団に分類される。例えば、好中球と好塩基球の両方を含む集団に分類された粒子を計数する。もし、測定した検体が分画良好な検体であった場合は、当該分類工程では、測定試料中の粒子又は有核細胞を含む細胞集団は、リンパ球の集団、単球の集団、好酸球の集団、好中球の集団、及び好塩基球の集団の5つの亜集団に分類されてもよい(ステップS26)。
【0281】
第8実施形態では、測定試料中の粒子又は有核細胞を含む細胞集団を4つの亜集団に分類した後、第6実施形態と同様に、好塩基球を含む細胞集団を選別する工程(ステップS27、S28)、細胞集団に含まれる白血球を亜集団に分類する工程(ステップS29)、及び、好塩基球の集団に分類された細胞を計数する工程(ステップS30)を行う。そして、4つの亜集団に分類する工程により得られた結果と、好塩基球の集団に分類された細胞を計数する工程により得られた結果とに基づいて、測定試料中の粒子を、リンパ球の集団、単球の集団、好酸球の集団、好中球の集団、及び好塩基球の集団の5つの亜集団に分類する工程(ステップS31)をさらに行う。例えば、4つの亜集団に分類する工程(ステップS25)により得られた好中球と好塩基球の両方を含む集団の粒子数から、好塩基球の集団に分類された細胞を計数する工程(ステップS30)により得られた粒子数を差し引くことにより、好中球の集団に分類された粒子数を得ることができる。その結果、第8実施形態では、測定試料中の粒子を、リンパ球の集団、単球の集団、好酸球の集団、好中球の集団、及び好塩基球の集団の5つの亜集団に分類できる。なお、4つの亜集団に分類する工程の段階で、測定試料中の粒子を白血球の5つの亜集団に分類できた場合は、その分類結果と、第8実施形態で最終的に得られた分類結果とを比較することもできる。
【0282】
以下に、本発明による白血球分類方法を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0283】
以下の例で用いた、白血球を含む検体、溶血試薬、染色色素、分析装置及び測定方法について説明する。
【0284】
[白血球を含む検体]
(全血検体)
健常ボランティアよりEDTA-2K採血管にて採取した全血5mLを用いた。採血後室温(25±2℃)にて保管し、4時間後、24時間後、42時間後及び72時間後に採血管より分取した検体を検体試料とした。
【0285】
(好塩基球分離前検体及び分離後検体)
好塩基球高値検検体(>2%以上)1mLを用意し、そのうちの0.5mLを好塩基球分離前検体とした。残りをHetaSep (SCT ST-07906)を用いて赤血球を除去し、白血球を回収した。その後、Basophil Isolation Kit II, human(Miltenyi Biotec 130-092-662)を用いて好塩基球細胞を回収し、これを好塩基球分離後検体とした。
【0286】
[溶血試薬]
ライザセルWDFII(シスメックス株式会社)を用いた。
【0287】
[染色試薬]
(第1蛍光色素)
アクリジンイエローG(関東化学株式会社)を用いた。
【0288】
(第2蛍光色素)
第2蛍光色素として、米国特許6004816に記載の色素化合物Aを用いた。米国特許6004816は本明細書に参照として組み込まれる。色素化合物Aは、上記の式(V)において、R1がメチル基であり、R2及びR3が水素原子であり、R4がn-オクチルであり、nが1であり、Zが硫黄原子であり、X-がCF3SO3
-である化合物であり、構造式は以下のとおりであった。
【0289】
【0290】
米国特許6004816に記載されるように、色素化合物Aは次の工程によって得ることができた。3-メチル-2-メチルベンゾチアゾリウムメタンサルフェート1当量と、N,N-ジフェニルホルムアミジン3当量を酢酸中で、90℃の油浴上で1.5時間加熱撹拌した。反応液をヘキサンにあけ、赤色油状物をさらにヘキサンで懸濁洗浄し、酢酸を除いた。粗生成物を酢酸エチルーヘキサンで再結晶した(収率48%)。これに1-オクチルレピジニウムトリフレート1当量とピリジンを加え、90℃の油浴上で3時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール-クロロホルムで精製して、濃暗青色粉末の色素化合物Aを得た(収率62%)。この濃暗青色粉末の色素化合物Aの物性試験(TLC、1H-NMR、MASS等)の結果は米国特許6004816に記載されている。色素化合物Aの極大吸収スペクトルは629nmであった。
【0291】
上記の色素化合物A(27.5mg)とアクリジンイエローG(25mg)とを特級エチレングリコール(1L)に溶解して、染色試薬を調製した。
【0292】
[分析装置]
多項目自動血球分析装置XN-1000(シスメックス株式会社)の改造機を作成した。XN-1000は、赤色(633nm)の光を発する半導体レーザ光源と、赤色の前方散乱光の検出器と、赤色の側方散乱光の検出器と、赤色の光によって励起された蛍光(660nm以上の光)を受光する検出器を備えていた。XN―1000について、青紫色(405nm)の光を発する半導体レーザ光源、青紫色の散乱光の検出器、及び青色の光によって励起された蛍光(450~600nm)を検出する蛍光検出器の増設をする改造を行った。また、当該分析装置について、赤色及び青紫色の散乱光情報ならびに第1蛍光色素及び第2蛍光色素から生じる蛍光情報について検出される測定データを解析し、所望のスキャッタグラムを表示させるようにした。このようにして作製した分析装置にて測定を行った。
【0293】
[測定方法]
XN-1000(シスメックス株式会社)用の染色試薬であるフルオロセルWDF(シスメックス株式会社)の替わりに、上述したように調製した第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬を用いた点を除いて、XN-1000に付属のマニュアルに従って測定試料の調製及び試料の測定を行った。データ解析は、FCS再解析ソフト(Flowjo)により実施した。調製された測定試料は、溶血試薬として1000μLのライザセルWDFIIと、17μLの全血と、20μLの染色試薬を含んでいた。このときの染色試薬の希釈倍率は51.85であり、測定試料中の第1蛍光色素及び第2蛍光色素の終濃度は、それぞれ0.53ppm、0.48ppmであった。
【0294】
参考例1:好塩基球の出現位置
上記した好塩基球分離前検体と好塩基球分離後検体について、測定を行った。得られた光学情報について、横軸を第2波長(赤色波長)の側方散乱光強度、縦軸を第1波長(青紫蛍光)とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)と、横軸を第2波長(赤色波長)の側方散乱光強度、縦軸を第2波長(赤蛍光)とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)とを作成した。
【0295】
得られたスキャッタグラムを
図56(a)~56(d)に示す。好塩基球分離前検体についての第2スキャッタグラム(
図56(a))では、白血球の5種類の集団は二軸方向に離れて分布しており、分画が良好であることが分かる。一方、好塩基球分離前検体についての第1スキャッタグラム(
図56(c))では白血球の5つの集団は横軸(側方散乱)方向には離れて分布しているが、縦軸(青紫蛍光)方向にはいずれもほぼ同等の蛍光強度の領域に出現していることが分かった。また、好塩基球分離後検体を測定した結果においても、好塩基球は、第2スキャッタグラム(
図56(b))ではリンパ球より蛍光強度が低値の領域に出現し、第1スキャッタグラム(
図56(d))ではリンパ球や単球と同等の蛍光強度位置に出現しており、全血検体での分画状況を確認することができた。
【0296】
参考例2:経時変化するクラスタの出現位置
採血後4時間、採血後48時間、及び採血後72時間が経過した全血検体について測定を行い、光学情報を検出した。その後、第1スキャッタグラムにおいて時間経過とともに増加してくる縦軸(青紫蛍光)の低値領域に含まれる集団を選別(ゲーティング)し、その集団を第2スキャッタグラム上にプロットした。
【0297】
第1スキャッタグラムの結果を
図57(a)~57(d)に、第2スキャッタグラムの結果を
図58(a)~58(c)に示す。
図58(a)~58(c)から、採血後の時間の経過とともに、好塩基球の出現領域に含まれる細胞数が増大していることが分かる。そして、この増大の原因が、第1スキャッタグラムにおいてゲーティングした(
図57(a)~57(c)において四角で囲った領域に出現した)細胞であることが分かった。すなわち、第2スキャッタグラムにおいて採血後の時間経過とともに、好中球が散乱光低値側にシフトし、好塩基球の出現領域に重なる好中球由来と考えられる集団は、第1スキャッタグラムにおいては、青紫蛍光が低値側に出現してくる集団であることが明らかになった。
【0298】
実施例1:好塩基球の計数1(1段階のゲーティング(青紫蛍光による有核細胞のゲーティングなし))
採血後4時間、採血後24時間、採血後48時間、及び採血後72時間の全血検体について測定を行い、光学情報を検出した。その後、まず、第1スキャッタグラムを作成し青紫蛍光が所定値より大きい予め設定した領域(
図59(a)参照)に含まれる集団を選別した。この領域に出現する集団には、リンパ球、単球、及び好塩基球が含まれるが、採血後の時間経過とともに好塩基球の出現領域にシフトしてくる好中球由来の細胞は含まれない。この時の採血後24時間の検体についての第1スキャッタグラムを
図59(a)に示す。
【0299】
その後、選別した集団に対して第2スキャッタグラムを作成した。この第2スキャッタグラムにおいて予め設定した好塩基球の出現領域に含まれる集団を計数した。この時の採血後24時間の検体についての第2スキャッタグラムを
図59(b)に示す。
【0300】
実施例2:好塩基球の計数2(2段階のゲーティング(青紫蛍光による有核細胞のゲーティングあり)第2実施形態に対応)及び比較例1
実施例1で取得した光学的情報を用いて以下の解析を行った。まず、得られた青紫蛍光が所定の閾値を超える細胞(有核細胞)を選別した。この時の採血24時間後の検体についてのヒストグラムを
図60(a)に示す。これ以降については、実施例1と同様の解析を行い、好塩基球を計数した。第1スキャッタグラムと第2スキャッタグラムを
図60(b)及び
図60(c)に示す。
【0301】
一方、取得した光学情報のうち、赤色の側方散乱光強度と赤蛍光強度とで作成される第2スキャッタグラムに基づいて好塩基球を計数した(比較例1)。
【0302】
採血後の各経過時間の検体について、実施例2により得られた好塩基球の計数値と比較例1により得られた好塩基球の計数値を
図61に示す。
図61から分かるように、本発明の方法を採用することにより採血後の時間が経過した検体であっても好塩基球の計数値の上昇が比較例に比べて抑制されていた。
【0303】
また、採血後4時間経過した検体及び採血後48時間経過した検体について、実施例2及び比較例1の方法で得られた第2スキャッタグラムを
図62に示す。スキャッタグラムでも明らかなように本発明の方法において好塩基球の増大が抑制されていることが分かる。
【0304】
実施例3:白血球の5分類
実施例1で取得した光学的情報に基づいて、白血球を5つの亜集団に分類した。光学情報のうち、赤色の側方散乱光強度と赤蛍光とを利用して第2スキャッタグラムを作成し、予め設定した、リンパ球の出現領域、単球の出現領域、好酸球の出現領域、及び好中球と好塩基球を合わせた出現領域のそれぞれに含まれる細胞を計数した。すなわち、この段階では白血球を4種類の集団に分類し計数した。
【0305】
以降は、実施例1と同様に、横軸を青紫色の側方散乱光、縦軸を青紫蛍光とする第1スキャッタグラムにおけるリンパ球、単球、及び好塩基球を含む集団の選別と、選択された集団に対して、横軸を赤色の側方散乱光強度、縦軸を赤蛍光とする第2スキャッタグラムでの好塩基球の計数を行った。ここで得られた好塩基球の計数を、先に求めていた4種類のうちの好中球と好塩基球を合わせた集団の計数から差し引くことにより好中球の集団を計数し、先の結果と併せて白血球の5種類の亜集団を計数した。
【0306】
このようにして得た採血後経過時間ごとの白血球5分類の計数を表2に示す。一方、取得した光学情報のうち、赤色の側方散乱光強度と赤蛍光とで作成される第2スキャッタグラムを作成し、予め設定した、リンパ球、単球、好酸球、好中球、及び好塩基球のそれぞれの出現領域に含まれる細胞を計数した(比較例2)。すなわち、最初に作成した第2スキャッタグラムによって白血球を5つの亜集団に分類した。得られた結果を表2に併せて示す。
【0307】
【0308】
表2から明らかなように、本発明によれば、採血後の時間経過による好塩基球数の上昇が抑制されていることが分かる。また、1回の測定により同時に白血球の5分類も精度よく行えることが分かった。
54:チャンバ、 60,442:試薬容器ホルダ、 60a,60b,60c,60d,60e:ホルダ部、 62:試薬容器保持部、 64:ピアサ(吸引管)、 100:採血管、 200,200A,200B,300:試薬容器、 300X,301X,302X,303X:分析装置(分析ユニット、分析部)、 310X:コンピュータ、 400,400X,401,402:測定装置(測定ユニット)、 410,410a,410b:試薬容器、 420:チャンバ、 430,430a,430b:送液機構、 431,431a,431b:送液管、 431x,431ax,431bx:第1端、 431y,431ay,431by:第2端、 432,432a,432b:送液部、 433:ポンプ(定量部)、 440,440A,440B,440X,441:試料調製部、 450:検体吸引機構、 451:検体吸引ノズル、 452:吸引吐出機構(ポンプ)、 460, 460x:FCM検出部(検出部)、 4111:光源、 4111a:第1光源、 4111b:第2光源、 4113:フローセル、 4116:前方散乱光受光素子、 4118,4118a,4118b,4118c:ダイクロイックミラー、 4121a,4121b:側方散乱光受光素子、 4122a,4122b:側方蛍光受光素子、 C:細胞(成分)、 D1:第1受光部、 D2:第2受光部、 D3:第3受光部、 F1,F2:蛍光色素、 FC:フローセル、 FSC:前方散乱光、 SFL:側方蛍光、 SSC:側方散乱光