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特開2023-137085オリーブアナアキゾウムシ忌避剤及び当該忌避剤の使用方法
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  • 特開-オリーブアナアキゾウムシ忌避剤及び当該忌避剤の使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137085
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】オリーブアナアキゾウムシ忌避剤及び当該忌避剤の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20230922BHJP
   A01N 35/00 20060101ALI20230922BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20230922BHJP
   A01N 31/06 20060101ALI20230922BHJP
   A01N 35/04 20060101ALI20230922BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20230922BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20230922BHJP
【FI】
A01N31/02
A01N35/00
A01N27/00
A01N31/06
A01N35/04
A01P17/00
A01M29/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043100
(22)【出願日】2022-03-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】500407536
【氏名又は名称】学校法人城西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002011
【氏名又は名称】弁理士法人井澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】光本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 研
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121CC21
2B121EA24
2B121EA26
2B121FA13
4H011AC06
4H011BB02
4H011BB03
4H011BB05
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】
オリーブアナアキゾウムシ忌避剤の開発。
【解決手段】
直鎖型モノテルペン類、単環型モノテルペン類、(1R)-(+)-α-ピネン、オルトバニリンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物を有効成分として含む、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖型モノテルペン類、単環型モノテルペン類、(1R)-(+)-α-ピネン、オルトバニリンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物を有効成分として含む、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項2】
前記直鎖型モノテルペン類が、ゲラニオール、β-シトロネロール、シトラール及びリナロールからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である、請求項1に記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項3】
前記直鎖型モノテルペン類がゲラニオールである、請求項2に記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項4】
前記単環型モノテルペン類が、(-)-リモネン、(+)-リモネン及び(-)-メントールからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である、請求項1に記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤を、オリーブ樹又はその周辺に撒布、噴霧、塗布、又は配置することを特徴とする、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤、前記忌避剤のスクリーニングに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オリーブ(英名:Olive、学名:Olea europaea L.)は、数千年前から地中海を中心に栽培され、食用及び薬用に使用されてきた。果実を搾油して得られるオリーブオイルをはじめ、果実や葉に含まれるポリフェノールなどの有用成分が、人々の食生活、健康及び商品の保存に役立つことなどから、現在では世界各地でオリーブの栽培が行われている。
【0003】
19世紀終盤にオリーブ樹が日本にはじめて輸入された後、1908年以降国策として小豆島を中心にオリーブ栽培が行われるようになった。日本でオリーブの植栽が始まると、地中海などには存在しない日本在来種の甲虫による食害が頻繁に発生することが明らかとなり、当該甲虫はオリーブアナアキゾウムシ(英名:Olive weevils、学名:Dyscerus perforatus Roelofs)と命名された。
【0004】
このオリーブアナアキゾウムシによる加害は生産量に甚大な被害をもたらすことから、オリーブ生産者にとってオリーブアナアキゾウムシ対策は最大の課題となっている(非特許文献1)。現状におけるオリーブアナアキゾウムシ対処法は、樹幹への薬剤散布と株元の清掃による耕種的防除である。
【0005】
オリーブ樹に適用可能な薬剤としては、広い殺虫スペクトルをもつフェニトロチオン(スミチオン(登録商標))が登録されている。しかしながら、フェニトロチオン(スミチオン(登録商標))は高用量で用いてもオリーブアナアキゾウムシの防除効果が十分とは言えない。しかも、フェニトロチオン(スミチオン(登録商標))の高用量での使用は、水生生物に有害作用をもたらして生態系を壊したり、人に対して神経毒性をもたらしたりするなど、環境負荷や健康リスクを有するものであり、社会的に好ましいとはいいがたいものである。また、株元の清掃は、生産者の手間がかかり、オリーブアナアキゾウムシを捕殺するための時間的負担も大きいものとなっている。
【0006】
オリーブアナアキゾウムシの忌避作用を有する化学物質に関しては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドが唯一報告されているが(非特許文献2)、当該報告は、大きな標準偏差が含まれ、統計学的な解析がなされていないデータに基づくものであった。その後現在に至るまで、オリーブアナアキゾウムシの忌避作用を有するその他の化学物質は同定されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「農林省農林漁業応用試験研究費補助金助成 オリーブアナアキゾウムシの防除に関する研究」 松沢寛,宮本裕三,岡本秀俊,川原幸夫,香川大学農学部学術報告 1957年第8巻第2号 172~88頁
【非特許文献2】“Repellent from Traditional Chinese Medicine,Periploca sepium Bunge” Jianxiao Shi,Tomoko Yamashita,Ayumi Todo,Teruhiko Nitoda,Minoru Izumi,Naomichi Baba,and Shuhei Nakajima,Zeitschrift fuer Naturforschung,2007;62(11-12),page 821-825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オリーブ樹の育成や生産性の向上に甚大な被害をもたらすオリーブアナアキゾウムシについて、育成者や農家による作業を省力化でき、環境への負荷や健康リスクをもたらさない、有効かつ安全な防除法の開発が求められている。
【0009】
しかしながら、オリーブアナアキゾウムシの忌避作用を有する化学物質に関しては、現在までに一つの報告がなされるのみであり、オリーブアナアキゾウムシの忌避作用を適切に測定できる装置も未だ開発されていない状況である。
【0010】
そこで、本発明は、有効かつ安全なオリーブアナアキゾウムシに対する新たな忌避剤を同定し、提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、有効かつ安全なオリーブアナアキゾウムシに対する新たな忌避剤を同定するために、オリーブアナアキゾウムシに対する忌避作用を定量的に測定可能な装置を開発した。当該装置は、区画化された複数の空間を有する容器からなり、オリーブアナアキゾウムシの区画間の移動により、試験物質のオリーブアナアキゾウムシ忌避作用を判定することが可能となる装置である。そして、当該装置を用いて、オリーブアナアキゾウムシに忌避作用を示す化学物質を特定した。すなわち本発明は以下のものである。
(発明1)
直鎖型モノテルペン類、単環型モノテルペン類、(1R)-(+)-α-ピネン、オルトバニリンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物を有効成分として含む、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
(発明2)
前記直鎖型モノテルペン類が、ゲラニオール、β-シトロネロール、シトラール及びリナロールからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である、発明1のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
(発明3)
前記直鎖型モノテルペン類がゲラニオールである、発明2のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
(発明4)
前記単環型モノテルペン類が、(-)-リモネン、(+)-リモネン及び(-)-メントールからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である、発明1のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
(発明5)
発明1~4のいずれかのオリーブアナアキゾウムシ忌避剤を、オリーブ樹又はその周辺に撒布、噴霧、塗布、又は配置することを特徴とする、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤の使用方法。
【0012】
また本発明の完成に用いた装置は以下のものである。
(発明6)
オリーブアナアキゾウムシ忌避剤をスクリーニングするための装置であって、
前記装置は、前記装置内部に留まるオリーブアナアキゾウムシを前記装置の外部から視認できる程度の透明性を有し、
前記装置は本体と開閉口とを有し、
前記本体は、複数のオリーブアナアキゾウムシ及び試験物質を格納するための中空容器であり、
前記本体は、同一平面上で連結するN個の区画(ただしNは3以上の整数):区画#1,区画#2,・・・,区画#Nからなり、前記区画#1,区画#2,・・・,区画#Nはこの順で連結しており、
前記N個の区画の隣り合う2区画の境界には空隙が存在し、少なくとも1個体のオリーブアナアキゾウムシが前記空隙を通過することにより前記隣り合う2区画間を移動することができ、
前記開閉口は前記本体の少なくとも1箇所に配置されており、
前記開閉口から試験物質及びオリーブアナアキゾウムシを前記装置に対して出し入れすることができ、
前記開閉口を閉じることにより前記装置を密封することができる、
装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らが新たに同定した、モノテルペン類、オルトバニリンまたはこれらを含む混合物であるオリーブアナアキゾウムシの忌避剤は、人に対し安全であり、かつ環境に負担をかけないものである。本発明の忌避剤を、オリーブ樹又はその周辺に撒布、噴霧、塗布又は配置することにより、育成者や農家の労力を軽減しつつ、オリーブアナアキゾウムシからオリーブ樹を守り、オリーブの栽培、育成並びに生産を安定化し、オリーブ生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の装置の一例を模式的に表した図。本発明の装置を平面上に設置した状態で、図1(a)は上から見た様子、図1(b)は横から見た様子、図1(c)は端部側から見た様子、図1(d)は開閉口側から見た様子。
図2】2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドのオリーブアナアキゾウムシに対する忌避作用を示すグラフ。
図3】モノテルペン類がオリーブアナアキゾウムシの行動に及ぼす効果を示すグラフ。図3(a)はゲラニオールの効果、図3(b)はβ-シトロネロールの効果、図3(c)はシトラールの効果、図3(d)はリナロールの効果、図3(e)は(-)-リモネンの効果、図3(f)は(+)-リモネンの効果、図3(g)は(-)-メントールの効果、図3(h)は(1R)-(+)-α-ピネンの効果、図3(i)は(1S)-(-)-α-ピネンの効果。
図4】バニリン類縁体がオリーブアナアキゾウムシの行動に及ぼす効果を示すグラフ。図4(a)はオルトバニリンの効果、図4(b)はバニリンの効果。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[装置]
発明の装置はオリーブアナアキゾウムシ忌避剤をスクリーニングするための装置である。本発明の装置には、前記装置の外部から本発明の装置の内部に留まるオリーブアナアキゾウムシの様子、例えば位置、個体数、体色等を視認できる程度の透明性が求められる。このような透明性を確保するためには、前記容器のほぼ全体が透明性材料で形成されていることが好ましい。前記透明性材料としては、後述の試験対象物質との化学反応性が低く本装置を用いた試験の精度に影響を与えない限り、また、後述の区画が存在するように成形でき本装置の使用者の操作に耐える強度を有する限り、制限されない。このような透明性材料としては例えば、ガラス、ポリエチレンフタレートやポリブチレンフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを主なモノマーとするアクリル樹脂などを用いることができる。取り扱い性では透明樹脂製の本体が好ましい。
【0016】
本発明の装置は本体と開閉口とを有する。前記本体は、複数のオリーブアナアキゾウムシ及び試験物質を格納するための中空容器である。
【0017】
同一平面上で連結するN個の区画:区画#1,区画#2,・・・、区画#Nからなり、前記区画#1,区画#2,・・・、区画#Nはこの順で連結している。前記区画の数:Nは3以上の整数であり、好ましくは3以上10以下の整数であり、さらに好ましくは4以上6以下の整数である。前記本体は全体としていかなる形状であってもよい。前記区画#1と前記区画#Nは、前記本体の両端部を形成する。前記本体では、一方の端部と他方の端部は等価である。前記本体の一方の端部に割り当てる区画番号は、#1であってもよく#Nであってもよい。
【0018】
例えば、前記本体は、前記N個の区画が同一平面上かつ同一直線上に連結した棒状成形体であってもよい。この場合は前記本体の外観は、立方体あるいは直方体、管などの形状をとり得る。又例えば、前記N個の区画が同一平面上かつ同一曲線上に連結した湾曲部を有する成形体であってもよい。この場合は、前記本体はU字、S字、円環(ドーナツ型)などの形状をとり得る。
【0019】
本発明の装置では、前記N個の区画の隣り合う2区画の境界には空隙が存在する。本発明の装置を使用する試験では、少なくとも1個体のオリーブアナアキゾウムシが前記空隙を通過することにより前記2区画間を移動することができる。このような空隙を形成する構造として、孔、スリット、連結管などを用いることができる。このような構造としては、前記隣り合う2区画間の隔壁に設けた孔が一般的である。ただし、前記隣り合う2区画を、実質的に隔壁を設けずに接続し、一方の区画のいずれの地点からでも他方の区画にオリーブアナアキゾウムシが移動できるような構造としてもよい。この場合は前記空隙を形成する構造は開放面である。また前記空隙を形成する構造は一律でなくてもよい。例えば、隣り合う2区画のうちで、ある組には有孔隔壁を設け、他の組には隔壁を設けずに開放面を形成してもよい。
【0020】
本発明の装置において、前記開閉口は前記本体の少なくとも1箇所に配置されている。前記開閉口から試験物質及びオリーブアナアキゾウムシを前記装置に対して出し入れすることができ、前記開閉口を閉じることにより前記装置を密封することができる。
【0021】
本発明の装置を用いた試験では、密閉した本体の内部でオリーブアナアキゾウムシを試験対象物質と遭遇させる。試験対象物質がオリーブアナアキゾウムシの好まない物質であれば、オリーブアナアキゾウムシは前記試験対象物質を忌避して前記本体内で前記試験対象物質からより遠くに移動する。試験対象物質がオリーブアナアキゾウムシの好まない物質であれば、オリーブアナアキゾウムシの体色が変化する(黒化)ことがある。
【0022】
本発明の装置では、前記本体の区画#1から区画Nまでオリーブアナアキゾウムシの導線が形成されている。本発明の装置を用いた試験では、まず、前記本体の区画#1で複数のオリーブアナアキゾウムシと試験対象物質を接近させる。投入するオリーブアナアキゾウムシの個体数は、本発明の本体の容量と後の個体数計測の容易性とを考慮して、適宜決定される。
【0023】
通常は、濾紙や不織布などの担体に所定濃度の試験対象物質を担持させたものを、区画#1の内壁に密着させる。試験対象物質としては、好ましくは、適度な揮発性を有する化合物が選ばれる。オリーブアナアキゾウムシは前記本体内部に揮散した試験対象物質を検知する。
【0024】
その後オリーブアナアキゾウムシには、試験対象物質を選好あるいは忌避する強度に応じて、区画#1に留まる、区画#2,…#Nに移動する、といった行動が現れる。やがて、オリーブアナアキゾウムシの行動は、試験対象物質からそれ以上遠ざかることができないために移動を停止した状態、試験対象物質との距離が満足できる・耐えられる状態となったため移動を停止した状態に至って安定する。本発明の装置を用いた試験では、区画#1でオリーブアナアキゾウムシと試験対象物質を接近させてから数時間、好ましくは1時間以上5時間以下、さらに好ましくは2時間以上4時間以下、本体を密閉した状態で維持する。
【0025】
所定時間が経過した後に、装置の外部から、本体の区画#,区画#2,…#Nのそれぞれでオリーブアナアキゾウムシを見つけ、各区画に留まるオリーブアナアキゾウムシの個体数を計測する。
【0026】
区画#1に留まるオリーブアナアキゾウムシは、試験対象物質に近い状態で留まっていたことになる。本体内のオリーブアナアキゾウムシ個体の中で容器内の区画#1に留まる個体の割合が高いことは、オリーブアナアキゾウムシが試験対象物質を忌避する強度が比較的低かったことを示す。
【0027】
区画#Nに移動したオリーブアナアキゾウムシは、本発明の装置内で試験対象物質から最も遠い位置に移動していることになる。本体内のオリーブアナアキゾウムシ個体の中で容器内の区画#Nに留まる個体の割合が高いことは、オリーブアナアキゾウムシが試験対象物質を忌避する強度が比較的高かったことを示す。本体内のオリーブアナアキゾウムシ個体の中で黒化した個体の割合が高いことは、オリーブアナアキゾウムシが試験対象物質を忌避する強度が比較的高かったことを示す。
【0028】
市販のペットボトルを利用して、本発明の装置を安価に製造することができる。図1にペットボトルを利用した本発明の装置の1例を示す。図1に示す各部の寸法や形状には誇張や省略がある。図1(a)は、本発明の装置(100)を使用環境で床や地面などに設置した際に上から見た様子を示す。図1(b)は、図1(a)に示す装置(100)を横から見た様子を示す。図1(c)は装置(100)を底(41,42)側から見た様子を示す。図1(d)は装置(100)を蓋(3,4)側から見た様子を示す。図1(b)では装置(100)内部の物体を省略している。
【0029】
図1に示す本発明の装置(100)は、本体(10)と開閉口(20)を有する。本体(10)は、ペットボトル(11)とペットボトル(12)を連結したものである。ペットボトル(11)とペットボトル(12)のいずれもが、1リットルタイプの市販飲料容器である。各々の実際の容量は約1323cmである。
【0030】
本体(10)には2箇所に開閉口(20)が設けられている。一方の開閉口(3)はペットボトル(11)の蓋の部分に設けられている。他方の開閉口(4)はペットボトル(12)の蓋の部分に設けられている。
【0031】
ペットボトル(11)の内部にあるオリーブアナアキゾウムシ(5)と試験物質を染み込ませた濾紙を入れたカートリッジ0.5mLプラスチックチューブ(1)とが透明な本体(10)を通して視認できる。ただし、図1には1個体のオリーブアナアキゾウムシだけを示し、他の個体は省略している。図1は、実験初期にオリーブアナアキゾウムシ(5)を試験物質に接近させた様子を示す。
【0032】
ペットボトル(11)にはくびれ(31)があって、底(41)から開閉口(3)に至る長手方向に、底(41)からくびれ(31)までの区画#1と、くびれ(31)から開閉口(3)までの区画#2とが形成されている。区画#1と区画#2との間に隔壁は無く、区画#1と区画#2とはくびれ(31)において底(41)よりも狭い開放面を介して連結している。
【0033】
ペットボトル(12)も同様に、底(42)からくびれ(32)までの区画#4と、くびれ(32)から開閉口(4)までの区画#3とが形成されている。区画#3と区画#4との間に隔壁は無く、区画#3と区画#4とはくびれ(32)において底(42)よりも狭い開放面を介して連結している。
【0034】
区画#2と区画#3とは、開口部(2)を介して連結している。開口部(2)はペットボトル(11)の壁面とペットボトル(12)の壁面を貫く孔からなる。
【0035】
本体(10)の内部には、4つの区画:#1,#2,#3,#4をこの順に通過するオリーブアナアキゾウムシ(5)の導線が形成されている。試験物質を忌避するオリーブアナアキゾウムシ(5)は、区画#1から隣の区画#2へ、あるいは更に区画#1から離れた区画#3へ、あるいは区画#1から最遠の区画#4に移動することができる。図1(a)には、オリーブアナアキゾウムシ(5)の移動路の1例を点線で表示している。実際にはこのような移動路は見えない。
【0036】
本発明の装置(100)の使用者は実験開始して所定時間後に4つの区画:#1,#2,#3,#4の各々に留まるオリーブアナアキゾウムシの個体数を計測する。
【0037】
本発明では、計測結果を、有意差判定に用いられる一般的な統計手法によって評価する。本発明では、好ましくは、上記計測結果を一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって評価する。一元配置分散分析は3群以上の平均の差を検定するための統計的方法であり、通常、単一の独立変数または因子を持ち、変動または因子の異なる水準が従属変数に測定可能な効果を持つかどうかを調べるために用いられる。その後、Tukeyによる群間比較により検定を行う。
【0038】
[オリーブアナアキゾウムシ忌避剤]
発明者らは、前記装置を用いて、先行技術文献(非特許文献2)に忌避活性を有することが記載されている2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドの忌避活性について検討した。その結果、先行技術文献(非特許文献2)の装置では確認できなかった、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドの忌避作用が統計学的に有意かつ濃度依存的であることを明らかにし(実施例1)、本発明者らが作製した忌避作用測定装置が、オリーブアナアキゾウムシに対する忌避作用を適切に評価できることを確認した。
【0039】
前記装置を用いて種々の化学物質についてオリーブアナアキゾウムシ忌避作用を測定し、モノテルペン類がオリーブアナアキゾウムシ忌避作用を示すことを見出した。中でも、直鎖型や単環型のモノテルペン類に強力なオリーブアナアキゾウムシ忌避作用が見られることが分かった。二環式のモノテルペン類では、(1R)-(+)-α-ピネンには、オリーブアナアキゾウムシ忌避作用が見られた。さらに、先行技術文献(非特許文献2)では忌避作用が確認されなかったオルトバニリンについて、統計学的に有意なオリーブアナアキゾウムシ忌避作用があることを明らかにした。
【0040】
前記装置を用いることによって、オリーブアナアキゾウムシ忌避効果を従来法にない高い精度で検証することにより、本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤が見出された。本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤の有効成分は、典型的には、ゲラニオール、β-シトロネロール、シトラール、リナロール、(-)-リモネン、(+)-リモネン、(-)-メントール、(1R)-(+)-α-ピネン又はオルトバニリンの少なくとも1つを有効成分とするものである。ゲラニオール、β-シトロネロール、シトラール、リナロールは、直鎖型、(-)-リモネン、(+)-リモネン、(-)-メントールは単環式、(1R)-(+)-α-ピネンは二環式のモノテルペンである。
【0041】
これらの化学物質はいずれも、植物によって生合成される天然物であり、食品、香粧品、医薬品、精油、アロマ製品等に含有され、人の生活に深く浸透しており、安全性が高いものである。
【0042】
本発明により、新たにオリーブアナアキゾウムシに対する忌避作用が確認された化合物は、溶剤に溶解させたり、固体担体と混合したり吸着させたりして、撒布剤、噴霧剤、塗布剤、液剤、粉剤、顆粒剤、ゲル剤、クリーム剤等の剤型に調製し、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤とすることができる。また、忌避作用が確認された化合物を担持させ、オリーブ樹及びその周辺に配置可能な形態としたものも、本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤に包含されるものである。
【0043】
前記溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、グリコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類等が使用できる。化学物質の溶解性、人及び環境への影響から、エタノールの使用がより好ましい。これら溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記固体担体としては、一般的には、例えば、タルク、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、シリカ等の鉱物質又は無機質粉末、木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉粉等の植物質粉末、パルプ、フェノール樹脂等のプラスチック、繊維又はゴムの粉末等が使用できる。これら固体担体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤は、必要に応じて、塗膜形成剤、界面活性剤、湿潤剤、安定化剤、噴射剤等の添加剤を配合することができる。塗膜形成剤としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シリコーン、アクリル樹脂、塩化ゴム、石油樹脂、メチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ラテックスエマルジョン等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、直鎖アルキルベンンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。湿潤剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ-オリザノール等が挙げられる。噴射剤としては、例えば、液化石油ガス、ジメチルエーテル、フルオロカーボン、圧縮ガス等が挙げられる。これら添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、人及び環境への影響を考慮して選択し、使用することが好ましい。
【0046】
忌避作用が確認された化合物を担持させ、オリーブ樹及びその周辺に配置可能な形態である本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤には、例えば、オリーブ樹の幹に巻き付けたり、枝に担持させたり、根元に敷いたりすることが可能なシートや紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
[オリーブアナアキゾウムシ忌避剤の使用方法]
発明のオリーブオリーブアナアキゾウムシ忌避剤は、その形態に応じた手法でオリーブの樹木に適用される。適用対象となるオリーブの品種は制限されない。例えば、本発明のオリーブオリーブアナアキゾウムシ忌避剤をオリーブの苗木や樹木に直接撒布、噴霧、塗布してもよく、本発明のオリーブオリーブアナアキゾウムシ忌避剤をオリーブの苗木や樹木付近に撒布、配置してもよい。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではない。
【0049】
[例1:オリーブアナアキゾウムシ忌避作用測定装置の作製と2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドのオリーブアナアキゾウムシ忌避作用の確認]
図1に示す装置(100)を作製した。中央のくびれにより2つに区画化された内容量約1Lの透明な蓋付ペットボトル容器(縦・横・高さ寸法:7cm×7cm×7cm)2本それぞれの、蓋に近い側の区画の側面にオリーブアナアキゾウムシが通過可能な開口部(縦・横寸法:1.5cm×1.5cm)を設け、開口部同士が向き合うように向き合わせて連結し、片方の端部(ペットボトルの底面)から順に区画#1、区画#2、区画#3、区画#4とした(図1(a))。区画#3の開閉口部分(図1(a)の4)には通気口として直径3mmの穴を5か所あけた。区画#1に各用量の試験物質を染み込ませた濾紙(縦・横寸法:1cm1cm)を挿入した0.5mLプラスチックチューブを、区画#4にオリーブアナアキゾウムシ(体長12-20mm)10匹を配置し、薄暗い20-25℃の室内に全ての区画が床と接するように設置した。2時間の馴化ののち、オリーブアナアキゾウムシ10匹全数を区画#1に再配置し、その後3時間にわたり様子を観察し、再配置3時間後の各区画におけるオリーブアナアキゾウムシの個体数を記録した。
【0050】
試験物質による忌避作用を評価するために、再配置3時間後にオリーブアナアキゾウムシがとどまる区画ごとのポイントを設定した。具体的には、オリーブアナアキゾウムシが区画#1にとどまった場合を0ポイント、区画#2まで移動した場合を2ポイント、区画#3又は区画#4まで移動した場合のポイントを3ポイントとした。下記式1に従い、オリーブアナアキゾウムシの再配置3時間後における区画ごとの個体数に各区画に割り当てたポイントを乗じて総和を求めることで、忌避指数(Repellent Activity Index;RAI)を算出し、算出されたRAIに基づき、試験物質の忌避作用を評価した。
【0051】
(式1)RAI:(#1にとどまった個体数)×0+(#2まで移動した個体数)×2+(#3まで移動した個体数)×3+(#4まで移動した個体数)×3
試験物質として富士フィルム‐和光純薬株式会社製2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドを用いた。2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドが10mg、1mg、又は0.1mgとなるようにそれぞれ染み込ませた濾紙をカートリッジに入れ、区画#1に配置した。対照には、溶解や希釈に用いたエタノールを用い、20μLを染み込ませた濾紙をそれぞれ0.5mLプラスチックチューブに入れ、装置の区画#1に配置した。装置1台につき化学物質1種類1用量とし、対照として、20μLのエタノールを染み込ませた濾紙を0.5mLプラスチックチューブに入れて同様に配置し(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒド 0mg)、試験を実施した。試験1回あたり10匹のオリーブアナアキゾウムシを用い、同様の試験を1用量あたり3回実施した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表1)。
【0052】
【表1】
【0053】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図2に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=7.888、p=9.0×10-3)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、**;p<0.01で図中に示した。
【0054】
この結果、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドが、濃度依存的に忌避作用を示すことが確認された。そして、本忌避作用測定装置が適切に機能し、試験物質のオリーブアナアキゾウムシ忌避作用が定量可能となることが明らかとなった。
【0055】
[例2:ゲラニオールのオリーブアナアキゾウムシ忌避剤効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンであるゲラニオールに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。ゲラニオールは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表2)。
【0056】
【表2】
【0057】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(a)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=17.12、p=7.7×10-4)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、**;p<0.01、***;p<0.001で図中に示した。
【0058】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対するゲラニオールの忌避作用が確認された。
【0059】
[例3:β-シトロネロールのオリーブアナアキゾウムシ忌避剤効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンであるβ-シトロネロールに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。β-シトロネロールは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表3)。
【0060】
【表3】
【0061】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(b)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=11.66、p=2.7×10-3)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、**;p<0.01で図中に示した。
【0062】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対するβ-シトロネロールの忌避作用が確認された。
【0063】
[例4:シトラールのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンであるシトラールに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。シトラールは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表4)。
【0064】
【表4】
【0065】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(c)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=17.19、p=7.6×10-4)ののち、Tukeyによる総当たり比較により検定を行った。統計学的有意差は、*;p<0.05、**;p<0.01で図中に示した。
【0066】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対するシトラールの忌避作用が確認された。
【0067】
[例5:リナロールのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンであるリナロールに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。リナロールは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表5)。
【0068】
【表5】
【0069】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(d)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=16.37、p=8.9×10-4)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、*;p<0.05、**;p<0.01で図中に示した。
【0070】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対するリナロールの忌避作用が確認された。
【0071】
[例6:(-)-リモネンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンである(-)-リモネンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。(-)-リモネンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表6)。
【0072】
【表6】
【0073】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=19.84、p=4.6×10-4)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、*;p<0.05、**;p<0.01、***;p<0.001で図中に示した。
【0074】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対する(-)-リモネンの忌避作用が確認された。
【0075】
[例7:(+)-リモネンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンである(+)-リモネンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。(+)-リモネンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表7)。
【0076】
【表7】
【0077】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(f)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=26.93、p=1.6x10-4)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、*;p<0.05、**;p<0.01、***;p<0.001で図中に示した。
【0078】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対する(+)-リモネンの忌避作用が確認された。
【0079】
[例8:(-)-メントールのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンである(-)-メントールに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。(-)-メントールは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表8)。
【0080】
【表8】
【0081】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(g)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=31.59、p=8.8×10-5)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、***;p<0.001で図中に示した。
【0082】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対する(-)-メントールの忌避作用が確認された。
【0083】
[例9:(1R)-(+)-α-ピネンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンである(1R)-(+)-α-ピネンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。(1R)-(+)-α-ピネンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表9)。
【0084】
【表9】
【0085】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(h)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=5.768、p=0.021)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、*;p<0.05で図中に示した。
【0086】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対する(1R)-(+)-α-ピネンの忌避作用が確認された。
[例10:オルトバニリンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをオルトバニリンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。オルトバニリンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表10)。
【0087】
【表10】
【0088】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図4(a)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=112.9、p=6.9x10-7)ののち、Tukeyによる群間比較により検定を行った。統計学的有意差は、***;p<0.001で図中に示した。
【0089】
この結果から、オリーブアナアキゾウムシに対するオルトバニリンの忌避作用が確認された。
【0090】
[例11:(1S)-(-)-α-ピネンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをモノテルペンである(1S)-(-)-α-ピネンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。(1S)-(-)-α-ピネンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表11)。
【0091】
【表11】
【0092】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図3(i)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=1.650、p=0.254)を行ったものの、統計学的な有意差は確認できなかった。
【0093】
[例12:バニリンのオリーブアナアキゾウムシ忌避効果の判定]
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒドをバニリンに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、オリーブアナアキゾウムシの忌避行動を観察した。バニリンは、東京化成工業株式会社より購入した。オリーブアナアキゾウムシを区画#1に再配置してから3時間後における各区画の個体数を記録し、オリーブアナアキゾウムシの分布を割合(%)で示した(表12)。
【0094】
【表12】
【0095】
オリーブアナアキゾウムシの各区画の個体数をもとに算出されたRAIは平均値±標準誤差で表し、図4(b)に示した。一元配置分散分析(one-way ANOVA、F=4.093、p=0.049)では有意水準(p=0.05)を下回ったものの、Tukeyによる群間比較により検定では、対照群と10mg群においてもp値は0.053を示し、試験物質用量群の間で有意差はみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤は、人に対し安全であり、かつ環境に負担をかけることない有効成分を含むものである。本発明の忌避剤を、オリーブ樹又はその周辺に撒布、噴霧、塗布又は配置することにより、育成者や農家の労力を軽減しつつ、オリーブアナアキゾウムシからオリーブ樹を守り、オリーブの栽培、育成並びにオリーブの生産を安定化し、オリーブ生産性を向上させることが可能となる。また、本発明の忌避剤は、安全かつ簡便にオリーブ樹に適用可能なことから、農園のみならず、家庭菜園や生垣等におけるオリーブ樹の育成にも寄与するものである。さらに、本発明者らの開発したオリーブアナアキゾウムシ忌避作用測定装置を用いることにより、新たな忌避活性を有する化学物質のスクリーニングが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1 試験物質を染み込ませた濾紙を入れた0.5mLプラスチックチューブ
2 開口部
3 開閉口
4 開閉口
5 オリーブアナアキゾウムシ
10 本体
11 ペットボトル
12 ペットボトル
20 開閉口
31 ペットボトルのくびれ
32 ペットボトルのくびれ
41 ペットボトルの底
42 ペットボトルの底
100 装置
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲラニオール、β-シトロネロール、シトラール、リナロール、(-)-リモネン、(+)-リモネン、(-)-メントール、(1R)-(+)-α-ピネン、オルトバニリンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物を有効成分として含む、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項2】
ゲラニオールを有効成分として含む、請求項1に記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオリーブアナアキゾウムシ忌避剤を、オリーブ樹又はその周辺に撒布、噴霧、塗布、又は配置することを特徴とする、オリーブアナアキゾウムシ忌避剤の使用方法。