(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137100
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】建物内浸水低減方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
E05F 15/72 20150101AFI20230922BHJP
E06B 5/00 20060101ALI20230922BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20230922BHJP
A62B 3/00 20060101ALI20230922BHJP
E05F 7/00 20060101ALN20230922BHJP
G08B 31/00 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
E05F15/72
E06B5/00 Z
E04H9/14 Z
A62B3/00 C
E05F7/00 F
G08B31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043125
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄一
【テーマコード(参考)】
2E052
2E139
2E184
2E239
5C087
【Fターム(参考)】
2E052AA02
2E052AA03
2E052BA08
2E052DA01
2E052DA02
2E052DB01
2E052DB02
2E052EB01
2E052GA05
2E052GB01
2E052GD07
2E052KA27
2E139AA07
2E139AC19
2E184AA01
2E184HH11
2E239AC04
5C087DD02
5C087EE18
5C087FF01
5C087FF04
5C087GG07
5C087GG14
5C087GG65
5C087GG68
5C087GG82
(57)【要約】
【課題】建物の内部を、水を貯えるタンクと見立てて、各部屋の扉の自動開閉動作を利用して貯水タンク容量を変え、フロアの平均水深をできるだけ低くすることができる方法とシステムを提供すること。
【解決手段】建物内浸水を水位センサで感知したときに、閉じている空室のドアを自動で開け、積極的に浸水させて当該空室を水の貯水場所として利用することで、避難通路となる箇所の浸水を低減させる。このとき、前記建物の部屋内保管物品の資産価値に応じて優先順位を付け、室内資産価値の低い部屋から解放する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内部への水の流入を水位センサで感知したときに、浸水が予測される階にある閉じている部屋のドアを自動で開け、当該部屋を流入した水の貯水場所として利用することで、避難通路となる箇所の浸水深を低減させることを特徴とする建物内浸水低減方法。
【請求項2】
浸水が予測される階の部屋にある保管物品の資産価値に応じて優先順位を付け、資産価値の低い部屋を先に開放することを特徴とする、請求項1に記載の建物内浸水低減方法。
【請求項3】
浸水が予測される階の部屋のドアを開閉する開閉機器と、避難通路の浸水深を計測する水位センサと、当該水位センサにより検知された浸水深が許容限界に達した時に前記開閉機器を動作させる制御手段と、を備えた建物内浸水低減システム。
【請求項4】
前記制御手段は、浸水が予測される階の部屋にある保管物品の資産価値に基づいて付けられた優先順位に応じて開閉機器を動作することを特徴とする請求項3に記載のドア自動開閉による建物内浸水低減システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物内浸水低減方法及びシステムに係り、特にドア自動開閉装置を具備した建物内への浸水を低減するのに好適な方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
豪雨の増加によって、建物内の浸水リスクは増加している。従来、建物内への浸水によるリスク低減の技術として、特許文献1、特許文献2に示されるように、屋内に設置したセンサによって浸水を検知し、漏電リスクや裏山の土砂崩れや地滑りなどの危険性について警報を発するものが知られている。また、地下街や地下室への浸水に関しては、特許文献3に開示されているように、出入口扉に脱出用扉部を設け、かつ異常水位を検知する警報装置を設けたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-92897号公報
【特許文献2】実用新案登録第3047509号公報
【特許文献3】特開2003-214052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、建物内への浸水時において、従来技術は浸水された場合の対策や浸水防止技術の改善という問題に対処するものであって、建物内部の空間を利用することはない。そこで、建物の内部を、水を貯えるタンクと見立てて、各部屋の扉の自動開閉動作を利用して貯水タンク容量を変え、フロアの平均水深をできるだけ低くして避難経路を確保することができる方法とシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る建物内浸水低減方法は、建物内部への水の流入を水位センサで感知したときに、浸水が予測される階にある閉じている部屋のドアを自動で開け、当該部屋を流入した水の貯水場所として利用することで、避難通路となる箇所の浸水深を低減させるように構成した。また、この場合において、浸水が予測される階の部屋にある保管物品の資産価値に応じて優先順位を付け、資産価値の低い部屋を先に開放するようにすればよい。
【0006】
また、本発明に係るドア自動開閉による建物内浸水低減システムは、浸水が予測される階の部屋のドアを開閉する開閉機器と、避難通路の浸水深を計測する水位センサと、当該水位センサにより検知された浸水深が許容限界に達した時に前記開閉機器を動作させる制御手段と、を備えた構成としている。また、この場合も、前記制御手段は、浸水が予測される階の部屋にある保管物品の資産価値に基づいて付けられた優先順位に応じて開閉機器を動作するものとしている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、豪雨災害などの被害があったときに、建物に対して浸水を防止できない場合に、浸水を建物に入れて建物を貯水タンクと見立て、積極的に浸水させて当該空室を水の貯水場所として利用することで、避難通路となる箇所の浸水による影響を低減させることができる。また、入れる部屋ごとに収納された資産価値に応じた優先順位を付け、優先順位に応じて資産価値の低い部屋から解放するようにしているので、資産を守ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】建物内浸水低減システムの実施例に係るブロック構成図である。
【
図3】実施例の原理を説明する建物地下平面図の部屋区分図である。
【
図4】実施例の原理を説明する建物内地下平面図の重み付けした部屋区分図である。
【
図5】同実施例のドア開閉操作フローチャート図である。
【
図6】同実施例を適用した浸水開始時の状態図を示す建物地下平面図である。
【
図7】浸水深さD
1時におけるその先の浸水深さ浸水深予測図である。
【
図8】浸水深さD
1時における部屋開放状況図である。
【
図9】浸水深さD
2時におけるその先の浸水深さ浸水深予測図である。
【
図10】浸水深さD
2時における部屋開放状況図である。
【
図11】地下階が複数ある場合の各階平面図である。
【
図12】浸水深さが避難危険水深に達するまでの浸水解析図である。
【
図13】
図12の水位センサ位置における浸水深さの推移図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る建物内浸水低減システムとこれを使用した建物内浸水低減方法の実施例について説明する。なお、この実施例は一例であり、本発明の要旨を変更することなく構成を変更することを含む。
【0010】
建物内における浸水時において、地下フロアの各部屋は扉が開いている場合には、水を貯える「タンク」として働き、閉じている場合に比べて、フロアの平均水深は低くなる。ただし、浸水の程度によっては全ての閉じたドアを開けて貯留場所を確保する必要がない場合もあり、例えば
図3のようなフロアにおいて高価な機器が置かれている部屋のドアを開けると浸水によって大きな物的損害が生じる。
【0011】
そこで、
図4に示すように、従業員の居る執務室10の他、安価な備品などを収納しておく倉庫(物置)12などを一番低い資産価値V
0の部屋とし、高価な実験器具を置いた実験室14を二番目の資産価値V
1の部屋とする。そして、非常に高価な分析機器などが置かれた分析室16のような部屋を資産価値V
2としてランク付けしておく。本実施例では、
図4のように部屋ごとに資産価値(Value)レベルを設定することで、浸水が起きた場合にすぐにドアを開けるのは最も資産価値が低い(資産価値V
0)部屋のみとして、その他の部屋(資産価値V
1、V
2、・・・V
N)は資産価値V
0の部屋の開放のみでは不十分な場合とするのである。
【0012】
本実施例におけるドア開放操作は、
図4で設定した資産価値レベルV
Nに加えて、
図5に示す以下の変数を設定することで行われる。
(1)避難危険水深:避難不可能となる水深D(例えば0.3m)、
(2)避難完了時間:浸水が始まってからフロアからの人の避難が完了する時間、
(3)ドア開放操作基準水深(D
0、D
1、D
2、……、D
N):資産価値レベルVごとのドア開放操作を行うか否かを決める水深D
V
0-V
N-1のN段階としたときは、N段階の(D
0-D
N-1)基準水深を設定する。水深がD
Mのときに資産価値レベルV
Mの部屋のドアを開放するかどうかを決める。
【0013】
このようなことを踏まえて、
図1、2に、実施例に係るドア自動開閉による建物内浸水低減システム20の構成と実際に建物内に敷設した状態の構成を示している。
【0014】
このシステム20は、建物内部への水の流入を感知し、避難通路の浸水深を計測する水位センサ24と、浸水が予測される階の部屋のドアを開閉する自動開閉装置26と、ドアが開閉されているか否かを検知するドア開閉検知センサ28と、前記水位センサ24により検知された浸水深が許容限界に達した時に前記自動開閉装置26を動作させてドアを開放させる制御手段(サーバ)30とを備えている。この制御手段30には内蔵装置として記憶装置32とデータ処理装置34とが具備されている。
【0015】
この建物内浸水低減システム20において、ドア開閉検知センサ28は常時ドアの開閉状態をモニタリングしており、状態に変化があった場合(ドアが閉じた場合あるいは開いた場合)に、その情報をサーバ30等に送り、記憶装置32に記憶する。すなわち記憶装置32はリアルタイムでの建物内のドアの開閉状態を保持している。
【0016】
この建物内浸水低減システム20のフローチャートを
図5に示す。予め、建物管理者等は記憶装置32に浸水時に自動で解放するように設定したドアがどれかという情報を入力しておく。同時に、それらのドアが属する部屋の資産価値レベルV
Nを入力しておくとともに、避難危険水深、避難完了時間、ドア開放操作基準水深D
Nも入力しておく(ステップ100)。
【0017】
水位センサ24により建物が浸水したか否かが検出される。水位センサ24により浸水深(O(t))を計測し(ステップ102)、これをD0<O(t)を満たすまで繰り返し(ステップ104)、D0<O(t)が満たされれば水位センサ24が浸水として感知する。その情報がサーバ30に送られ、最新の計測浸水深O(t)に応じてデータ処理装置30によって以下の操作が行われる。水位センサ24では常に一定間隔で浸水深測定が行われており、計測水深と計測時間は記憶装置32に記憶されていく。
【0018】
最初にD0<O(t)が確認されたときに、資産価値レベルV0の部屋の扉の開放を行い、かつ、同時に他の部屋の開閉の有無を記憶装置32により確認し、ドアが開いている部屋があればその自動開閉装置26を起動してドアを閉じておく(ステップ106)。そして浸水レベルMを一つ加算して(M=1)とし(ステップ108)、避難通路に置かれた水位センサ24による浸水深測定を継続する(ステップ110)。
【0019】
いま、M番目のドアを開放基準水深DM、また計測水深O(t)、直前の避難通路の計測浸水深O(t-Δt)とした場合(ΔT:水深計測時間間隔)、資産価値レベルVMの部屋を開けるかどうかを次式で判定する。
【0020】
DM-1<O(t-Δt)<DMかつDM <= O(t)
これは直前の計測水深O(t-Δt)が前の水深域(DM-1~DM)にあり、最新計測水深O(t)が上位水深DM以上となる場合である。
【0021】
そこで、上記式を判定基準として(ステップ112)、これを満たさなければNOとして、更に、(M=1かつO(t)<D0)または(M>=2かつDM-2 < O(t) < DM-1 )が判定され(ステップ114)、これが満たされるときは直前の計測水深O(t-Δt)がDM-1< O(t-Δt) < DMであるが水深が低下して、計測水深O(t)が一つ下の水深域を計測していることを示している。したがって、これを満足するときはM=M-1として浸水レベルを一つ下げる(ステップ116)。そしてM=0の判定をなし(ステップ118)、ステップ102に戻るのである。
【0022】
ステップ112の条件式を満たすとき、浸水深変化予測を行う。抽出した計測水深列から、浸水深変化推移を予測して、避難危険水深を超える時間を推定する(ステップ122)。避難危険水深を超える時間が、避難完了時刻より前の場合には(ステップ124)、資産価値レベルVMの部屋のドアを自動開閉装置26によって開放するように操作を行うのである(ステップ126)。以下、浸水レベルMを更新しながらこれを繰り返すようにしている(ステップ128)。
【0023】
以下では、具体的に
図4のケースを例に、ドア開放操作の方法を述べる。避難危険水深を0.4m、避難所要時間を300s、ドア開放操作基準水深をD
0=0m、D
1=0.1m、D
2=0.3mとする。
【0024】
(1)D
0(0m) < 浸水深さ(流入開始時)
本例では階段より水が流入し始めるときであり、水位センサ24によってフロアの浸水が始まったことが建物内浸水低減システム20に検知される。この際、
図6のように資産価値レベルV
0と設定されている部屋のドアは開放され、その他の部屋のドアは閉止とされる。本例では、この時点で浸水が始まったことがフロアにアナウンスされ、人々の避難が開始されるとする。
【0025】
(2)浸水深さD
1(ここでは0.1m)
浸水深さがD
1に達すると、
図7のようにそれまでの水深変化から今後の水深変化の予測を行う。この場合の予測アルゴリズムとしては、
図7では単なる線形補間に基づいているが、放物線等での近似式を作成することも考えられる。
図7に示す通り、浸水深D
1の時点での浸水深予測によると、このままでは避難完了時間の前に浸水深は避難危険水深に達することになる。そのため
図8のように資産価値レベルV
1の空室の開放を行うことで、新たな貯留場所を確保する。
【0026】
(3)浸水深さD
2(ここでは0.3m)
浸水深さがD
2に達すると、
図9のように再びそれまでの水深変化から今後の水深変化の予測を行う。
図9に示す通り、浸水深D
2の時点での浸水深予測によると、この場合はこのまま浸水深が推移すれば、浸水深が避難危険水深を超えるのは避難完了時間の後になる。そのため
図10のように資産価値レベルV
2の空室の開放は不要であり、資産価値レベルV
2の部屋の資産は浸水被害を免れることになる。
【0027】
このように、本特許の手法を用いることで、避難時間を十分稼ぐことが出来るだけの貯留箇所を空室のドア開放によって確保できるほか、余計なドア開放を避けることで、資産価値が高い物品がある部屋を浸水被害から守ることができる。
【0028】
なお、地下階が複数ある建物においては各フロアごとに、
・ 避難危険水深
・ 避難完了時間
・ ドア開放操作基準水深
を設定するが、
図11のようにフロア内の避難路をさらに下の地下階と共有する場合も考えられる。この場合は、この避難路を通って避難を行う全ての人のうちで最長の避難時間を避難完了時間として設定する。
【0029】
次に実際に浸水解析を行いどの程度の時間で浸水深が避難危険水深に到達するのかを調べた。
図12に解析領域を示す。執務室からの避難距離は約90mであり、歩行速度は浸水を加味してまた安全率も考慮して0.4m/s、また避難開始まで10秒要すると仮定すると、避難所要時間は235秒となる。なお浸水流入はガラリから起こるものとした。ガラリの延長を10m、ガラリの地面までの高さを0.3m、ガラリがある箇所の地上の浸水深を0.5mとして、長方形せきの越流式から建物内部への流量を算出した。浸水解析は2次元浅水方程式を有限差分法で解くことで実施した。
【0030】
図12の水位センサ設置個所における浸水深推移を
図13に示す。本計算において、水深D
1の時点でV
1(実験室)のドアを開放している。その結果、V
1(実験室)のドアを閉鎖し続けた場合と比べると約40秒ほど避難危険水深の到達を遅らせることが出来ており、避難完了させることが可能となっている。
また、参考として
図14に水深分布の推移を示す。
【0031】
本発明の手法を用いることで、避難時間を十分稼ぐことが出来るだけの貯留箇所を空室のドア開放によって確保できるほか、余計なドア開放を避けることで、資産価値が高い物品がある部屋を浸水被害から守ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
浸水が段階的にレベル分けされた地下フロアの部屋ごとに入れることで避難までの時間を稼ぐことができ、人命と同時に有効な資産価値を持つ物を守ることができる。
【符号の説明】
【0033】
10……執務室、12……倉庫(物置)、14……実験室、16……分析室、20……建物内浸水低減システム、24……水位センサ、26……自動開閉装置、28……ドア開閉検知センサ、30……制御手段(サーバ)、32……記憶装置、34……データ処理装置。