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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137124
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ワイヤロープ検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/82 20060101AFI20230922BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20230922BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N27/82
B66B5/02 C
B66B5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043161
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】森 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康展
【テーマコード(参考)】
2G053
3F304
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB01
2G053BA03
2G053BA14
2G053BB03
2G053BB11
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB24
2G053DA02
2G053DA09
2G053DA10
2G053DB20
3F304BA09
3F304ED13
(57)【要約】
【課題】各々がコイルループを形成する分割可能な一対の検知コイルによってワイヤロープの磁束の変化量を検出する場合に、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することが可能なワイヤロープ検査システムを提供する。
【解決手段】このワイヤロープ検査システム100は、第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得する制御部50を備える。また、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々における一対の検知コイル31aおよび31b(32aおよび32b)は、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによってワイヤロープWを囲むように巻回する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、
前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイルと、前記第1差動コイルとは別個に設けられ、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイルとを含み、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルからの検出信号を出力する検出部と、
前記検出部の前記第1差動コイルからの前記検出信号と前記第2差動コイルからの前記検出信号との差分を取得する制御部と、を備え、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々は、前記ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に沿って分割可能な一対の検知コイルを有し、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々における前記一対の検知コイルは、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによって前記ワイヤロープを囲むように巻回する、ワイヤロープ検査システム。
【請求項2】
前記第1差動コイルにおける前記一対の検知コイルの巻き数は、前記第2差動コイルにおける前記一対の検知コイルの巻き数に略等しい、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項3】
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々における前記一対の検知コイルは、一対の鞍型コイルを含む、請求項1または2に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項4】
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、一体的に前記ワイヤロープに対して相対移動しながら、前記検出信号を出力するように構成されており、
前記制御部は、前記ワイヤロープに対して相対移動している前記第1差動コイルからの前記検出信号と、前記第1差動コイルと一体的に相対移動している前記第2差動コイルからの前記検出信号との差分を、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの前記ワイヤロープに対する相対移動に応じてリアルタイムに算出するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項5】
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープの延びる方向に沿って並べて配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項6】
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープからの各々の離間距離が略等しくなるように配置されているとともに、前記ワイヤロープからの各々の離間距離と略等しい大きさの距離互いに離間して配置されている、請求項5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項7】
前記第2差動コイルは、らせん状に撚り合わされた前記ワイヤロープの撚りの周期に対する前記第1差動コイルと前記第2差動コイルとの離間距離の割合に応じて、前記第1差動コイルが分割される方向から前記ワイヤロープの撚りの回転方向に所定の角度分回転させた方向に沿って分割されるように構成されている、請求項5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項8】
前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルよりも外側において前記第1差動コイルを覆うように巻回される、請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項9】
前記第2差動コイルは、前記第1差動コイルの前記ワイヤロープからの離間距離の略2倍の距離前記ワイヤロープから離間した状態で、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルを覆うように巻回される、請求項8に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項10】
前記励磁部は、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルよりも外側において、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの両方を覆うように巻回される励磁コイルを含み、
前記励磁コイルは、交流電流が流されることにより前記ワイヤロープの延びる方向に沿って振動する磁界を印加し、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの少なくとも一方は、前記ワイヤロープの延びる方向において、前記励磁コイルの中心位置の近傍に配置されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤロープの磁束の変化を検知するワイヤロープ検査装置が知られている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載されているワイヤロープ検査装置は、ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルを備える。この検知コイルは、検知装置本体部に設けられている。そして、検知コイルを含む検知装置本体部は、ワイヤロープに対して短手方向から取付可能なように分割可能に構成されている。また、上記特許文献1では、検知コイルが分割された検知装置本体部の各々に配置されるように一対の鞍型コイルによって構成される例が開示されている。ここで、ワイヤロープは、撚りの均一度や鋼材の量の均一度などの違いに依存する固有の磁気特性を有している。このワイヤロープの固有の磁気特性は、検知コイルによる測定において、損傷個所を測定した場合の出力に対して雑音データ(ノイズ)として出力される。
【0004】
そこで、上記特許文献2に記載のワイヤロープ検査装置は、予めワイヤロープに損傷が生じる前に、第1測定において検知コイルにより第1検知信号を取得する。そして、このワイヤロープ検査装置は、ワイヤロープに生じた損傷を検出するために、第1測定の後の第2測定において検知コイルにより第2検知信号を取得する。そして、上記特許文献2に記載のワイヤロープ検査装置は、第1検知信号と第2検知信号との略同じ位置における差分を取得することにより、ワイヤロープの雑音データをキャンセルした状態で第1測定後に生じたワイヤロープの損傷を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6805986号
【特許文献2】国際公開第2019/150539号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ワイヤロープの固有の磁気特性は、時間の経過に伴って変化する場合がある。その場合には、上記特許文献2に記載のワイヤロープ検査装置のように、予めワイヤロープに損傷が生じる前に測定された第1検知信号と、損傷の検出のために後から測定された第2検知信号との差分を取得したとしても、ワイヤロープの固有の磁気特性による雑音データを正確にキャンセル(低減)できなくなることが考えられる。また、上記特許文献1に記載の一対の鞍型コイルによって構成された検知コイルのように、一対の検知コイル(差動コイル)を分割可能に構成するとともに、分割された一対の検知コイルの各々においてコイルループを形成するように構成した場合には、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープ固有の磁気特性が雑音データとして検出される。このようなワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープ固有の磁気特性が時間の経過に伴って変化した場合には、上記特許文献2に記載のような差分を取得する方法ではワイヤロープの固有の磁気特性による雑音データを正確にキャンセルすることができない。そのため、各々がコイルループを形成する分割可能な一対の検知コイルによってワイヤロープの磁束の変化量を検出する場合に、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、各々がコイルループを形成する分割可能な一対の検知コイルによってワイヤロープの磁束の変化量を検出する場合に、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することが可能なワイヤロープ検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるワイヤロープ検査システムは、ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイルと、第1差動コイルとは別個に設けられ、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイルとを含み、第1差動コイルおよび第2差動コイルからの検出信号を出力する検出部と、検出部の第1差動コイルからの検出信号と第2差動コイルからの検出信号との差分を取得する制御部と、を備え、第1差動コイルおよび第2差動コイルの各々は、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に沿って分割可能な一対の検知コイルを有し、第1差動コイルおよび第2差動コイルの各々における一対の検知コイルは、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによってワイヤロープを囲むように巻回する。なお、ここで言う「ワイヤロープの延びる方向に直交する方向」とは、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向からずれたワイヤロープの延びる方向に公差する方向をも含む広い概念として記載している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一の局面におけるワイヤロープ検査システムは、上記のように、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイルと、第1差動コイルとは別個に設けられ、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイルとを含み、第1差動コイルおよび第2差動コイルからの検出信号を出力する検出部を備える。そして、本発明の一の局面におけるワイヤロープ検査システムは、検出部の第1差動コイルからの検出信号と第2差動コイルからの検出信号との差分を取得する制御部を備える。また、第1差動コイルおよび第2差動コイルの各々における一対の検知コイルは、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによってワイヤロープを囲むように巻回する。ここで、ワイヤロープの磁束を測定する位置を変更した場合に、素線断線、キンク、錆、異物の付着など、ワイヤロープの断面積または組成の変化が発生した部分である異常部分を示す磁束は、比較的急峻に変化する。一方で、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープの固有の磁気特性による磁束は、測定する位置を変更した場合に比較的緩やかに変化する。そのため、ワイヤロープの固有の磁気特性による磁束の変化量は、異常部分に起因する磁束の変化量に比べて、ワイヤロープに対する測定位置の変更に伴う変動が小さい。これを考慮して、本発明では、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイルと、第1差動コイルとは別個に設けられ、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイルとを含む。これにより、互いに別個に設けられた第1差動コイルおよび第2差動コイルの異なる2つの測定位置の各々において、各々がコイルループを形成する一対の検知コイルによって磁束の変化量を検出した場合に、第1差動コイルからの検出信号と、第2差動コイルからの検出信号との差分を取得することによって、各々の検出信号に含まれる異常部分を示す成分のキャンセルを抑制しながら、ノイズ成分であるワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープに固有の磁気特性を示す成分をキャンセル(低減)することができる。その結果、各々がコイルループを形成する分割可能な一対の検知コイルによってワイヤロープの磁束の変化量を検出する場合に、ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示した模式図である。
図2】第1実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
図3】第1実施形態のワイヤロープ検査装置による整磁部、励磁部、および、検出部の配置を示した図である。
図4】検出部の第1差動コイルおよび第2差動コイルの構成を説明するための模式図である。
図5】第1差動コイルと第2差動コイルとの離間距離を説明するためのXZ平面における断面図である。
図6】検出信号の差分に基づく磁束波形の生成を説明するための図である。
図7】第1実施形態のワイヤロープ検査システムによる制御処理を説明するためのフローチャート図である。
図8】第2実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
図9】第2実施形態の第1差動コイルおよび第2差動コイルの配置を説明するための図である。
図10】第2実施形態の第1差動コイルおよび第2差動コイルのYZ平面における断面図であって、(A)は、第1差動コイルを示した断面図であり、(B)は、第2差動コイルを示した断面図である。
図11】第3実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
図12】第3実施形態による第1差動コイルおよび第2差動コイルの配置を説明するための図である。
図13】第3実施形態の第1差動コイルおよび第2差動コイルのYZ平面における断面図を示した図である。
図14】本発明の第1変形例による第1差動コイルおよび第2差動コイルのYZ平面における断面図であって、(A)は、第1差動コイルを示した断面図であり、(B)は、第2差動コイルを示した断面図である。
図15】本発明の第2変形例による第1差動コイルおよび第2差動コイルを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
[第1実施形態]
まず、図1図6を参照して、本発明の第1実施形態によるワイヤロープ検査システム100の構成について説明する。なお、以下の説明において、「直交」とは、90度および90度近傍の角度をなして交差することを意味する。また、「平行」とは、平行および略平行を含む。
【0013】
(ワイヤロープ検査システムの構成)
図1に示すように、ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ検査装置101と、処理装置102とを備える。ワイヤロープ検査装置101は、検査対象であるワイヤロープWの磁束の変化を検出する。そして、ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって測定された測定結果(検出信号)を処理装置102に送信するように構成されている。処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。異常部分は、素線断線、キンク、錆、異物の付着など、ワイヤロープWの断面積または組成の変化が発生した部分である。また、処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果および異常部分の判定結果の表示などを行う。
【0014】
ワイヤロープ検査システム100は、エレベータ103に設けられたワイヤロープWの検査を行う。具体的には、ワイヤロープ検査システム100は、検査対象であるエレベータ103のワイヤロープWの異常部分を検査するためのシステムである。また、ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープWの内部の磁束を測定する全磁束法により、目視により確認しにくいワイヤロープWの異常を確認可能なシステムである。ワイヤロープWに異常部分が含まれる場合には、異常部分における磁束が正常部分とは異なる。全磁束法は、ワイヤロープWの表面の異常部分などからの漏洩磁束のみを測定する方法と異なり、ワイヤロープWの内部の異常部分をも測定可能な方法である。
【0015】
(エレベータの構成)
図1に示すように、エレベータ103は、かご室103a、シーブ103b、シーブ103c、制御装置103d、および、ワイヤロープWを備える。エレベータ103は、巻上機に設けられたシーブ103b(滑車)が回転してワイヤロープWを巻き上げることによって、人および積み荷などを積載するかご室103aを鉛直方向に移動させるように構成されている。また、エレベータ103は、たとえば、2つのシーブ103bおよびシーブ103cを備えるダブルラップ方式(フルラップ方式)のロープ式エレベータである。ダブルラップ方式とは、巻上機のシーブ103bから、そらせ車であるシーブ103cへと導かれたワイヤロープWを再度巻き上げ機のシーブ103bに戻すことによって、シーブ103bに2回ワイヤロープWを掛ける構造である。制御装置103dは、エレベータ103の各部の動作を制御する制御盤を含む。また、制御装置103dは、無線通信モジュールなどを含み、処理装置102と通信可能に構成されている。
【0016】
ワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成されており、長尺材からなる磁性体である。ワイヤロープWは、劣化による切断が生じることを未然に防ぐために、ワイヤロープ検査装置101により状態(異常部分の有無)を検査される。ワイヤロープWの磁束の計測の結果、劣化の程度が決められた基準を超えたと判断されるワイヤロープWは、検査作業者により交換される。
【0017】
ワイヤロープWは、ワイヤロープ検査装置101の位置において、X方向(図3参照)に延びるように配置されている。ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWの表面に沿って、ワイヤロープWに対して相対的にワイヤロープWの延びる方向(X方向)に移動しながら、ワイヤロープWの磁束を計測する。エレベータ103に使用されるワイヤロープWのように、ワイヤロープW自体が移動する場合には、ワイヤロープWをX2方向に移動させながら、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの磁束の計測が行われる。これにより、ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWのX方向の各位置における磁束を計測することによって、ワイヤロープWのX方向の各位置における傷みを検査する。
【0018】
(ワイヤロープ検査装置の構成)
図2および図3に示すように、ワイヤロープ検査装置101は、整磁部10、励磁部20、検出部30、および、制御基板40を備える。ワイヤロープ検査装置101は、エレベータ103のシーブ103bおよびシーブ103cの間において、ワイヤロープWの検査を行うように配置されている。
【0019】
整磁部10は、ワイヤロープWに対して、予め磁界を印加することによって、ワイヤロープWの磁化の方向を整える。整磁部10は、検出部30よりもワイヤロープWの移動方向の上流側(X1方向側)に配置されている。たとえば、整磁部10は、永久磁石である。また、整磁部10は、1対の整磁部10aおよび整磁部10bを含む。1対の整磁部10aおよび10bは、ワイヤロープWを挟み込むようにワイヤロープWの短手方向(ワイヤロープWの延びる方向と直交する方向、Z方向)の両側に配置される。具体的には、整磁部10aは、ワイヤロープWのZ1方向側に配置される。そして、整磁部10bは、ワイヤロープWのZ2方向側に配置される。そして、整磁部10は、整磁部10aのZ2方向に向けられたN極(斜線あり)と整磁部10bのZ1方向に向けられたN極(斜線あり)とがワイヤロープWを挟んで対向するように設けられている。整磁部10aおよび10bは、ワイヤロープWの磁化の方向を略均一に整えるために、比較的強い磁界を印加することが可能に構成されている。
【0020】
励磁部20は、ワイヤロープWの磁化の状態を励振する(振動させる)ように、ワイヤロープWに対して磁界(磁束)を印加するように構成されている。具体的には、励磁部20は、励磁コイル21を含む。励磁コイル21は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って、ワイヤロープWを巻回するように設けられる。具体的には、第1実施形態では、励磁コイル21は、ワイヤロープWに対して、後述する検出部30の第1差動コイル31および第2差動コイル32よりも外側において、第1差動コイル31および第2差動コイル32の両方を覆うように、ワイヤロープWの周りに巻回されるように設けられている。
【0021】
励磁コイル21は、交流電流が流されることにより、ワイヤロープWが延びる方向(X方向)に沿った磁束(磁界)をコイル内部(コイルの輪の内側)に発生させる。具体的には、後述する制御基板40の処理部41による制御によって励磁部20の励磁コイル21に対して、所定の周波数を有する交流電流(励振電流)が流されることにより、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に振動する磁界が印加される。すなわち、ワイヤロープWにおいて、整磁部10によって予め整えられた磁界(磁束)が、励磁部20によってX1方向への磁界とX2方向への磁界が周期的に現れるように振動される。
【0022】
〈検出部の構成〉
第1実施形態では、検出部30は、第1差動コイル31と、第2差動コイル32とを含む。第1差動コイル31および第2差動コイル32は、それぞれ、フレキシブル基板に設けられた導体パターンによって構成されている。なお、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、共通の基板において別個に設けられていてもよいし、互いに異なる2つの基板においてそれぞれ設けられていてもよい。
【0023】
第1差動コイル31および第2差動コイル32は、一体的にワイヤロープWに対して相対移動しながら、整磁部10により予め磁界が印加された後(整磁された後)に、励磁部20によって振動するように磁界が印加された(磁界が励振された)ワイヤロープWの磁束の変化量を検出する。第1実施形態のワイヤロープ検査システム100では、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々は、X2方向に向かって移動するワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって、ワイヤロープWに対して相対移動しながらワイヤロープWの磁束の変化を検出する。
【0024】
図4に示すように、第1差動コイル31は、ワイヤロープWの延びる方向に沿って、ワイヤロープWを囲むように巻回されている。
【0025】
具体的には、第1差動コイル31は、一対の検知コイル31aと検知コイル31bとを含む。そして、一対の検知コイル31aおよび31bは、ワイヤロープWの延びる方向に直交する方向(Z方向)に沿って分割可能に構成されている。そして、第1差動コイル31の検知コイル31aおよび検知コイル31bは、各々がコイルループを形成する独立した一対の鞍型コイル(サドル型コイル)である。詳細には、第1差動コイル31の検知コイル31aは、ワイヤロープWのZ1方向側に配置されており、検知コイル31bは、Z2方向側に配置されている。検知コイル31aと検知コイル31bとの各々は、ワイヤロープWの半周(180度分)ずつを覆うように配置されている。そして、第1差動コイル31は、検知コイル31aおよび検知コイル31bを互いに組み合わせることによって、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って2つの鞍型コイルによってワイヤロープWの全周を巻回するように設けられている。なお、本明細書では、「巻回する」とは、1周以上に亘って巻き回す(巻き付ける)ことのみならず、1周分以下(たとえば、半周)の回数(角度)分だけ巻き回すことも含む概念として記載している。
【0026】
また、第1差動コイル31から出力される検出信号は、検知コイル31aの出力と検知コイル31bの出力とを加算した値を示す信号である。具体的には、一対の鞍型コイルである検知コイル31aと検知コイル31bとを組み合わせることにより、第1差動コイル31は、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。すなわち、検知コイル31aおよび検知コイル31bを組み合わせることにより形成されるX1方向側のコイルループと、X2方向側のコイルループとによって、ワイヤロープWを囲むように巻回する互いに差動接続されている2つのコイルループが形成される。したがって、第1差動コイル31から出力される検出信号は、検知コイル31aおよび検知コイル31bにより形成されるX1方向側のコイルループにより検出される磁束と、X2方向側のコイルループにより検出される磁束との差分に相当する信号となる。そのため、第1差動コイル31は、第1差動コイル31のX方向における横幅の大きさ分の所定の区間におけるワイヤロープWの磁束の変化量を検出する。このように、第1差動コイル31は、一対の鞍型コイルである検知コイル31aおよび31bの出力を加算することによって、ワイヤロープWの短手方向(ワイヤロープWに延びる方向に直交する方向:YZ平面に沿う方向)における揺れによる影響(ワイヤロープWの振動に起因するノイズ成分)を低減するように構成されている。
【0027】
そして、第2差動コイル32は、ワイヤロープWの延びる方向に沿って、第1差動コイル31とは別個に設けられ、ワイヤロープWを囲むように巻回されている。また、第2差動コイル32は、第1差動コイル31と同様の構成である。すなわち、第2差動コイル32は、各々がコイルループを形成する一対の検知コイル32aおよび検知コイル32bを有する。そして、第1差動コイル31と同様に、第2差動コイル32の一対の検知コイル32aおよび32bは、ワイヤロープWの延びる方向に直交する方向(Z方向)に沿って分割可能に構成されている。また、第1実施形態では、第1差動コイル31における一対の検知コイル31aおよび31bの巻き数は、第2差動コイル32における一対の検知コイル32aおよび32bの巻き数に略等しい。なお、図4では、第1差動コイル31および第2差動コイル32では、鞍型コイルのコイルループにおける巻き数が1つの場合の例を図示しているが、巻き数は、複数であってもよい。
【0028】
また、第2差動コイル32は、第1差動コイル31と同様に、ワイヤロープWのZ1方向側に配置される鞍型コイルである検知コイル32aとZ2方向側に配置される鞍型コイルである検知コイル32bとを併せることによって、一対の鞍型コイルによってワイヤロープWの全周を巻回するように設けられている。また、第2差動コイル32は、第1差動コイル31と同様に、検知コイル32aと検知コイル32bとを組み合わせることにより、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。すなわち、第2差動コイル32は、第2差動コイル32のX方向における横幅の大きさ分の所定の区間におけるワイヤロープWの磁束の変化量を検出する。
【0029】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って並べて配置されている。具体的には、第1差動コイル31は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において、励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されている。そして、第2差動コイル32は、第1差動コイル31の下流側(X2方向側)側に並べて配置されている。なお、ここでいう中心位置の「近傍」とは、中心位置自体をも含む広い概念として記載している。
【0030】
また、図5に示すように、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWからの各々の離間距離(d101およびd102)が略等しくなるように配置されている。すなわち、第1差動コイル31の内表面とワイヤロープWの外表面との離間距離d101は、第2差動コイル32の内表面とワイヤロープWの外表面との離間距離d102と略等しい大きさである。
【0031】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWからの各々の離間距離d101およびd102と略等しい大きさの距離互いに離間して配置されている。すなわち、第1差動コイル31のX方向における中心位置と、第2差動コイル32のX方向における中心位置との離間距離d103が、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々のワイヤロープWからの離間距離d101およびd102と略等しい大きさとなるように構成されている。
【0032】
たとえば、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWの外表面から約3[mm]離間した位置に配置されている。そして、第1差動コイル31と第2差動コイル32との中心間の離間距離d103は、同様に約3[mm]である。
【0033】
上記のように、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々は、別個にワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って巻回するように設けられていることにより、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って、各々のワイヤロープWを巻回するコイルループの内側を貫く向きの磁束の変化を検出(測定)する。そして、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々は、各々の位置(測定位置)において、励磁部20(励磁コイル21)によって周期的に時間変化させられる磁束(磁界)の変化の変化量を検出することによって検出信号を出力するように構成されている。具体的には、検出部30は、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号を後述する制御基板40の信号取得部42(図4参照)に対して出力する。
【0034】
図2に示すように、制御基板40は、処理部41、信号取得部42、および、通信部43を含む。制御基板40は、処理部41による制御処理によって、ワイヤロープ検査装置101の各部の制御を行う。処理部41は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、メモリ、および、AD変換器などを含む。制御基板40は、処理部41からの制御信号に基づいて、励磁部20(励磁コイル21)の動作を制御する。また、信号取得部42は、検出部30(第1差動コイル31および第2差動コイル32)からの検出信号を取得(受信)する。信号取得部42は、増幅器を含む。そして、信号取得部42は、取得した検出信号を増幅して処理部41に出力(送信)する。そして、通信部43は、処理装置102と通信可能に構成されている。通信部43は、無線LAN、および、Bluetooth(登録商標)などによる無線通信が可能な無線通信モジュールを含む。処理部41は、取得された検出信号を、通信部43を介して処理装置102に出力(送信)する。詳細には、処理部41は、第1差動コイル31の一対の検知コイル31aおよび31bの出力の和を第1差動コイル31の検出信号として出力するとともに、第2差動コイル32の一対の検知コイル32aおよび32bの出力の和を第2差動コイル32の検出信号として出力する。なお、通信部43を介したワイヤロープ検査装置101と処理装置102との接続は、有線接続であってもよい。
【0035】
(処理装置の構成)
図2に示すように、処理装置102は、制御部50、記憶部60、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101とは別個に設けられている。そして、処理装置102は、たとえば、ワイヤロープWの検査を行う検査作業者が用いるタブレットPC(Personal Computer)などのタブレット端末である。
【0036】
制御部50は、処理装置102の各部を制御する。制御部50は、CPUなどのプロセッサ、メモリなどを含んでいる。制御部50は、通信部80を介して受信されたワイヤロープWの測定結果(検出信号)に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。なお、制御部50による異常部分の判定処理の詳細は後述する。
【0037】
記憶部60は、たとえば、フラッシュメモリを含む記憶装置である。記憶部60は、取得されたワイヤロープWの測定結果、および、制御部50によるワイヤロープWの異常部分の判定結果などの情報を記憶(保存)する。また、記憶部60は、ワイヤロープWの異常部分を判定するためのプログラムおよび処理用パラメータなどを記憶している。
【0038】
タッチパネル70は、ワイヤロープWの測定結果、制御部50によるワイヤロープWの測定結果の解析結果(異常部分の判定結果)などの情報を表示する。また、タッチパネル70は、検査作業者による入力操作を受け付ける。
【0039】
通信部80は、ワイヤロープ検査装置101、および、エレベータ103の制御装置103dと通信可能に構成されている。通信部80は、通信用のインターフェースである。具体的には、通信部80は、無線LAN、および、Bluetooth(登録商標)などによる無線通信が可能な無線通信モジュールを含む。処理装置102は、通信部80を介して、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果(検出信号)を受信する。また、処理装置102は、検査作業者による入力操作に基づいて、ワイヤロープWの検査を開始する場合に、ワイヤロープ検査装置101およびエレベータ103(エレベータ103の制御装置103d)に対して、通信部80を介して検査を開始することを示す信号を送信する。
【0040】
なお、処理装置102は、取得された検出信号(測定結果)と共に、ワイヤロープWの位置を示す信号を取得するように構成されている。そして、処理装置102は、検出信号と、検出信号に対応するワイヤロープWの位置を示す位置情報とを関連付けて記憶するように構成されている。ワイヤロープWの位置情報は、たとえば、エレベータ103の制御装置103dから取得する。また、ワイヤロープWの位置情報は、エンコーダなどの位置センサによって取得してもよいし、エレベータ103の動作速度と、検査を行う検査時間の経過とに基づいて算出するようにしてもよい。
【0041】
(処理装置による異常部分の判定処理)
次に、図6を参照して、処理装置102による異常部分の判定の処理について説明する。
【0042】
図6に示すように、第1実施形態では、処理装置102の制御部50は、第1差動コイル31からの検出信号と、第2差動コイル32からの検出信号とを取得する。具体的には、制御部50は、移動しているワイヤロープWを測定することによって検出された第1差動コイル31からの検出信号と、第2差動コイル32からの検出信号とを、ワイヤロープWの移動(位置変更)に応じて順次取得する。そして、制御部50は、取得された第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得する。具体的には、制御部50は、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を、ワイヤロープWの移動に応じてリアルタイムに算出するように構成されている。なお、制御部50は、略同じタイミングにおいて検出された第1差動コイル31からの検出信号と、第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得するように構成されている。
【0043】
なお、制御部50は、電気的なノイズを低減するために、取得された第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号に対して、所定の区間(たとえば、20[ms])ごとに移動平均処理を行う。検出信号のサンプリング周波数は、たとえば、1kHzである。すなわち、制御部50は、1[ms]ごとに取得された検出信号に対して、前後10[ms]分を含めた区間の平均値を1[ms]ごとにサンプリングするように構成されている。そして、制御部50は、移動平均処理が実行された第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を算出する処理を実行するように構成されている。制御部50は、ワイヤロープWの移動に応じて、所定のサンプリング周期によって差分を算出するとともに、算出された差分に基づいて異常部分の判定を行うための磁束波形をリアルタイムに生成するように構成されている。磁束波形は、所定のサンプリング周期ごとに、算出された第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分の値をプロットしたものである。
【0044】
また、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々のワイヤロープWからの離間距離d101およびd102と、第1差動コイル31および第2差動コイル32の離間距離d103とが略等しいため、X方向において、ワイヤロープWの異常部分の位置が第1差動コイル31の中心位置と同じ場合に、異常部分から第2差動コイル32までの距離は、異常部分から第1差動コイル31までの距離の√2倍の距離となる。そして、異常部分を示す磁束の変化は、振幅が弱く、距離の2乗に反比例して減衰する。したがって、第1差動コイル31からの検出信号における異常部分を示す成分の大きさに比べて、第2差動コイル32からの検出信号における異常部分を示す成分の大きさは、およそ半分となる。そのため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を取得した場合にも、異常部分を示す成分が除去されずに検出される。
【0045】
一方で、ワイヤロープWの固有の磁気特性は、整磁部10による整磁磁界、および、励磁コイル21(励磁部20)による励振磁界が、ワイヤロープWから漏れていく磁束を反映している。そして、ワイヤロープWの固有の磁気特性の変化の周期は、少なくとも励磁コイル21のX方向(ワイヤロープWの延びる方向)における長さよりも大きいと考えられる。また、励磁コイル21のX方向における長さは、ワイヤロープWの周期T(1ピッチ、図9参照)よりも大きい。すなわち、第1差動コイル31と第2差動コイル32との離間距離d103に比べて、ワイヤロープWに固有の磁気特性の変化の周期は、十分に大きいため、第1差動コイル31からの検出信号におけるワイヤロープWに固有の磁気特性の成分と、第2差動コイル32からの検出信号におけるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分との差異は、小さくなる。そのため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を算出した場合には、ワイヤロープWの固有の磁気特性の成分が低減(キャンセル)される。
【0046】
そして、制御部50は、生成された磁束波形に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を検出する。たとえば、制御部50は、磁束波形の値が、予め設定された所定の判定しきい値よりも大きい部分を、ワイヤロープWの異常部分と判定する。判定しきい値は、検査作業者による入力操作に基づいて、複数の候補のうちから選択されることによって設定されてもよい。制御部50は、ワイヤロープWのうちの異常部分と判定された位置を示す位置情報を取得する。
【0047】
そして、制御部50は、生成された異常部分の判定結果(解析結果)をタッチパネル70に表示する。たとえば、制御部50は、異常部分と判定されたワイヤロープWの位置を示す表示を数値としてタッチパネル70に表示させる。制御部50は、たとえば、ワイヤロープWのうちの検査を開始した位置を0とした距離によって、ワイヤロープWのうちの異常部分の位置を示す位置情報をタッチパネル70に表示させる。また、制御部50は、ワイヤロープWの位置に加えて異常部分と判定された場合の磁束波形の値を併せて表示するようにしてもよい。また、制御部50は、第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分に基づく磁束波形を視認可能なようにタッチパネル70に表示させるようにしてもよい。
【0048】
(第1実施形態によるワイヤロープ検査システムの制御処理方法)
次に、図8を参照して、第1実施形態のワイヤロープ検査システム100による制御処理について説明する。この制御処理は、ワイヤロープ検査システム100のワイヤロープ検査装置101および処理装置102によって実行される。すなわち、ステップ602およびステップ603は、ワイヤロープ検査装置101の処理部41による制御処理を示す。そして、ステップ601、および、ステップ604~ステップ606は、処理装置102の制御部50による制御処理を示す。
【0049】
まず、ステップ601において、ワイヤロープWの検査開始の入力操作が受け付けられる。具体的には、タッチパネル70に対する入力操作に基づいて、ワイヤロープWの検査が開始される。そして、エレベータ103の制御装置103dおよびワイヤロープ検査装置101の処理部41に対して、検査の開始を示す信号が送信される。
【0050】
次に、ステップ602において、ワイヤロープWに対して磁界が印加される。そして、ステップ603において、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、磁界が印加されたワイヤロープWの磁束の変化量を検出することによって検出信号が取得される。具体的には、検出部30の第1差動コイル31および第2差動コイル32に対してワイヤロープWを移動させながら、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号が取得される。
【0051】
次に、ステップ604において、取得された第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分が算出される。そして、算出された差分に基づいて、磁束波形が生成される。そして、ステップ605において、算出された差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の判定が行われる。次に、ステップ606において、異常部分と判定されたワイヤロープWの位置を示す情報を確認可能なように、異常部分の判定結果がタッチパネル70に表示される。
【0052】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態のワイヤロープ検査システム100では、以下のような効果を得ることができる。
【0053】
第1実施形態のワイヤロープ検査システム100は、上記のように、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイル31と、第1差動コイル31とは別個に設けられ、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイル32とを含み、第1差動コイル31および第2差動コイル32からの検出信号を出力する検出部30を備える。そして、第1実施形態におけるワイヤロープ検査システム100は、検出部30の第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得する制御部50を備える。また、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々における一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとは、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによってワイヤロープを囲むように巻回する。ここで、ワイヤロープWの磁束を測定する位置を変更した場合に、素線断線、キンク、錆、異物の付着など、ワイヤロープWの断面積または組成の変化が発生した部分である異常部分を示す磁束は、比較的急峻に変化する。一方で、ワイヤロープWの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープWの固有の磁気特性による磁束は、測定する位置を変更した場合に比較的緩やかに変化する。そのため、ワイヤロープWの固有の磁気特性による磁束の変化量は、異常部分に起因する磁束の変化量に比べて、ワイヤロープWに対する測定位置の変更に伴う変動が小さい。これを考慮して、第1実施形態では、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイル31と、第1差動コイル31とは別個に設けられ、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイル32とを含む。これにより、互いに別個に設けられた第1差動コイル31および第2差動コイル32の異なる2つの測定位置の各々において、各々がコイルループを形成する一対の検知コイルによって磁束の変化量を検出した場合に、第1差動コイル31からの検出信号と、第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得することによって、各々の検出信号に含まれる異常部分を示す成分のキャンセルを抑制しながら、ノイズ成分であるワイヤロープWの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープWに固有の磁気特性を示す成分をキャンセル(低減)することができる。その結果、各々がコイルループを形成する分割可能な一対の検知コイル31aおよび31b(検知コイル32aおよび32b)によってワイヤロープWの磁束の変化量を検出する場合に、ワイヤロープWの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することができる。
【0054】
また、第1差動コイル31および第2差動コイル32のそれぞれが分割可能な一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとを有するため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々を、ワイヤロープWの端部から差し込むように取り付けることなく、ワイヤロープWの途中の部分に対して容易に取り付けることができる。そのため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々を、すでに設置されているワイヤロープWに対して容易に取り付けることができる。
【0055】
また、第1実施形態では、以下のように構成したことによって、下記のような更なる効果が得られる。
【0056】
すなわち、第1実施形態では、第1差動コイル31における一対の検知コイル31aおよび31bの巻き数は、第2差動コイル32における一対の検知コイル32aおよび32bの巻き数に略等しい。このように構成すれば、第1差動コイル31からの検出信号に含まれるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分と、第2差動コイル32からの検出信号に含まれるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分との差異を小さくすることができる。その結果、第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分を取得した場合に、ワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を精度よく低減することができる。
【0057】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々における一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとは、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に直交する方向(Z方向)に沿って分割可能である一対の鞍型コイルを含む。このように構成すれば、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々が一対の鞍型コイル(検知コイル31aおよび検知コイル31b、検知コイル32aおよび検知コイル32b)を含むため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々において、一対の鞍型コイルを組み合わせることによって、ワイヤロープWに巻回された差動コイルを形成することができる。ここで、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々を、ワイヤロープWの延びる方向に沿って巻線がらせん状に巻回されているソレノイドコイルにより構成する場合には、分割可能に構成するためにコイルを形成する巻線の全体を分割する必要がある。その場合には、分割された巻線を接続するために複数の端子が必要となるため装置構成が複雑化すると考えられる。これに対して、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々が一対の鞍型コイルを含むため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々をソレノイドコイルにより構成する場合に比べて、分割可能に構成するために装置構成が複雑化することを抑制することができる。また、一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとの各々を鞍型コイルとすることによって、ワイヤロープWの形状に沿うようにコイルを配置することができる。そのため、一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとの各々を平板コイルとする場合に比べて、一対の鞍型コイルによってワイヤロープWの延びる方向に直交する方向に磁界の向きを有するワイヤロープWの固有の磁気特性を精度よく検出することができる。その結果、一対の検知コイル31aおよび31bと検知コイル32aおよび32bとの各々を鞍型コイルとすることによって、ワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を精度よく低減することができる。
【0058】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、一体的にワイヤロープWに対して相対移動しながら、検出信号を出力するように構成されており、制御部50は、ワイヤロープWに対して相対移動している第1差動コイル31からの検出信号と、第1差動コイル31と一体的に相対移動している第2差動コイル32からの検出信号との差分を、第1差動コイル31および第2差動コイル32のワイヤロープWに対する相対移動に応じてリアルタイムに算出するように構成されている。このように構成すれば、第1差動コイル31および第2差動コイル32が一体的にワイヤロープWに対して相対移動しながら検出信号を出力するため、第1差動コイル31および第2差動コイル32がワイヤロープWに対して別個に相対移動しながら検出信号を出力する場合と異なり、第1差動コイル31と第2差動コイル32との位置関係のずれに起因して、算出される差分にばらつきが生じることを抑制することができる。そのため、ワイヤロープWの異常部分の検出を精度よく行うことができる。また、第1差動コイル31からの検出信号と第2差動コイル32からの検出信号との差分がリアルタイムに算出されるため、検査を行う検査作業者は、ワイヤロープWの測定を行いながら、固有の磁気特性に起因するノイズ成分が低減された状態のワイヤロープWにおける磁束の変化量を確認することができる。そのため、検査作業者は、ワイヤロープWの検査を行いながら異常部分か否かの判断ができるため、ワイヤロープWにおいて異常部分と判断された部分を、容易に確認することができる。
【0059】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWの延びる方向に沿って並べて配置されている。このように構成すれば、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々のワイヤロープWからの離間距離(d101およびd102)の差異を小さくすることができる。そのため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号におけるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分の差異を小さくすることができるので、ワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を精度よく低減することができる。
【0060】
また、第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWからの各々の離間距離(d101およびd102)が略等しくなるように配置されているとともに、ワイヤロープWからの各々の離間距離(d101およびd102)と略等しい大きさの距離互いに離間して配置されている。このように構成すれば、第1差動コイル31および第2差動コイル32がワイヤロープWからの各々の離間距離(d101およびd102)が略等しくなるように配置されているため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号におけるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分の差異をより小さくすることができる。また、第1差動コイル31および第2差動コイル32が、ワイヤロープWからの各々の離間距離(d101およびd102)と略等しい大きさの距離互いに離間して配置されているため、X方向において、ワイヤロープWの異常部分の位置が第1差動コイル31の中心位置と同じ場合に、異常部分から第2差動コイル32までの距離は、異常部分から第1差動コイル31までの距離の√2倍の距離となる。そのため、検出信号における異常部分を示す信号の成分は距離の2乗に比例して減衰するため、第1差動コイル31において検出された異常部分を示す信号の成分に比べて、第2差動コイル32において検出される異常部分を示す信号の成分を略半分の大きさとなる。その結果、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を取得した場合に、異常部分を示す信号の成分が小さくなりすぎることを抑制しながらワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を精度よく低減することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、励磁部20は、ワイヤロープWに対して、第1差動コイル31および第2差動コイル32よりも外側において、第1差動コイル31および第2差動コイル32の両方を覆うように巻回される励磁コイル21を含み、励磁コイル21は、交流電流が流されることによりワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って振動する磁界を印加し、第1差動コイル31および第2差動コイル32の一方は、ワイヤロープWの延びる方向において、励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されている。ここで、ワイヤロープWに巻回されている励磁コイル21によって印加される磁界は湾曲した楕円形の磁力線を有するため、ワイヤロープWの延びる方向における励磁コイル21の中心位置の近傍において、励磁コイル21によって印加される磁界の向きは、最もワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿う方向となる。そのため、第1差動コイル31および第2差動コイル32の一方を、ワイヤロープWの延びる方向において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置することによって、励磁コイル21によって印加される磁界の向きを、ワイヤロープWを囲むように巻回されている第1差動コイル31および第2差動コイル32のコイルループを垂直に貫く方向とすることができる。その結果、取得される検出信号の検出感度(検出精度)を向上させることができる。
【0062】
[第2実施形態]
図8図10を参照して、第2実施形態によるワイヤロープ検査システム200の構成について説明する。この第2実施形態は、検出部30の第1差動コイル31と第2差動コイル32とをワイヤロープWからの離間距離d101およびd102と略等しい距離互いに離間して配置した第1実施形態と異なり、第1差動コイル231と、第2差動コイル232とを、互いに、ワイヤロープWの撚り(ストランド)の周期T(1ピッチ)の4分の1の距離離間した状態で配置している。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0063】
(第2実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成)
図8に示すように、第2実施形態によるワイヤロープ検査システム200は、ワイヤロープ検査装置201と処理装置202とを備える。ワイヤロープ検査装置201は、整磁部10、励磁部20、検出部230、制御基板40を備える。整磁部10、励磁部20、制御基板40の構成は第1実施形態と同様である。
【0064】
検出部230は、第1差動コイル231、および、第2差動コイル232を含む。第1実施形態と同様に、第1差動コイル231は、分割可能に構成されている検知コイル231aおよび検知コイル231bを含む。そして、第2差動コイル232は、同様に、分割可能に構成されている検知コイル232aおよび検知コイル232bを含む。
【0065】
第1差動コイル231は、第1実施形態と同様に、X方向において、励磁コイル21の中心に配置されている。また、検知コイル231aおよび検知コイル231bは、鞍型コイルを含む。そして、鞍型コイルである検知コイル231aおよび検知コイル231bが組み合わされることにより、第1差動コイル231は、ワイヤロープWに巻回され、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。同様に、第2差動コイル232の検知コイル232aおよび検知コイル232bの各々は、鞍型コイルを含む。そして、第2差動コイル232は、検知コイル232aおよび検知コイル232bが組み合わされることにより、ワイヤロープWに巻回され、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。
【0066】
また、図9に示すように、第2差動コイル232は、第1差動コイル231に対して、X2方向側に所定の離間距離d201離間した位置に配置されている。なお、第1実施形態と同様に、第1差動コイル231のワイヤロープWからの離間距離と、第2差動コイル232のワイヤロープWからの離間距離とは、略等しい大きさである。ここで、ワイヤロープWは、複数の素線を撚り合わせたストランドを、さらに撚り合わせた構造を有している。たとえば、ワイヤロープWは、6本のストランドを撚り合わせた6ストランドロープである。そして、ワイヤロープWは、周期Tごとに(1ピッチごとに)1つのストランドがワイヤロープWの円周方向に1回転するように構成されている。また、ワイヤロープWは、X方向に沿って時計回りにストランドが撚られている。そして、第1差動コイル231と第2差動コイル232との離間距離d201は、ワイヤロープWの撚りの周期Tに対して4分の1の割合となる距離である。
【0067】
そして、図10に示すように、第1差動コイル231は、第1実施形態の第1差動コイル31と同様に、検知コイル231aと検知コイル231bとが、Z方向に沿って分割可能に構成されている。また、第2実施形態では、第2差動コイル232は、らせん状に撚り合わされたワイヤロープWの撚りの周期Tに対する第1差動コイル231と第2差動コイル232との離間距離d201の割合に応じて、第1差動コイル231が分割される方向(Z方向)からワイヤロープWの撚りの回転方向(時計回り)に所定の角度分回転させた方向に沿って分割されるように構成されている。
【0068】
具体的には、第2差動コイル232と第1差動コイル231との離間距離d201は、周期Tの4分の1である。したがって、第2差動コイル232は、第1差動コイル231が分割される方向(Z方向)からワイヤロープWの撚りの回転方向に90度分(一回転の4分の1)回転させた方向(Y方向)に沿って分割される。すなわち、第2実施形態では、第2差動コイル232は、検知コイル232aと検知コイル232bとがY方向に沿って分割可能に構成されている。なお、第1差動コイル231と第2差動コイル232とを一体的に構成する場合には、第2差動コイル232に対して回転機構を設けることにより、第2差動コイル232を、ワイヤロープWを軸に90度回転させた後に、第1差動コイル231および第2差動コイル232を一体的にZ方向に沿って分割させるように構成してもよい。これにより、検出部230は、一体的にワイヤロープWから着脱可能に構成される。
【0069】
処理装置202は、制御部250、記憶部60、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置202は、第1実施形態による処理装置102と同様に、ワイヤロープ検査装置201によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。
【0070】
処理装置202の制御部250は、第1実施形態の制御部50と同様に、第1差動コイル231からの検出信号と、第2差動コイル232からの検出信号とを取得する。そして、制御部250は、取得された第1差動コイル231からの検出信号と第2差動コイル232からの検出信号との差分を取得する。
【0071】
ここで、第2実施形態では、制御部250は第1差動コイル231からの検出信号と、第2差動コイル232からの検出信号とのいずれか一方の時間軸を変更させた状態で第1差動コイル231および第2差動コイル232の各々の検出信号の差分を算出する。具体的には、制御部250は、ワイヤロープWに対する検出部230の相対速度と、第1差動コイル231および第2差動コイル232の離間距離d201とに基づいて、第1差動コイル231からの検出信号のタイミングに比べて、第2差動コイル232からの検出信号のタイミングをずらした状態で差分を取得する。詳細には、制御部250は、離間距離d201が周期Tの4分の1なので、ワイヤロープWの移動速度において、ワイヤロープWの周期T(1ピッチ)分の距離を移動するのに必要な時間の4分の1の時間、第2差動コイル232からの検出信号のタイミングを後ろにずらした状態で、第1差動コイル231からの検出信号との差分を算出するように構成されている。
【0072】
なお、制御部250は、第1実施形態と同様に、取得された検出信号に対して、移動平均処理を実行した状態で、差分を算出する処理を実行する。また、制御部250は、検出信号の差分を取得した後に、第1実施形態と同様の処理によって、異常部分の判定の処理を行うとともに、生成された異常部分の判定結果(解析結果)をタッチパネル70に表示する。また、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0073】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0074】
第2実施形態では、第2差動コイル232は、らせん状に撚り合わされたワイヤロープWの撚りの周期Tに対する第1差動コイル231と第2差動コイル232との離間距離d201の割合に応じて、第1差動コイル231が分割される方向からワイヤロープWの撚りの回転方向に所定の角度分回転させた方向に沿って分割されるように構成されている。このように構成すれば、ワイヤロープWの特有の磁気特性はワイヤロープWのらせん状に撚られたストランドの撚りの回転に応じて変化するため、第1差動コイル231と第2差動コイル232との離間距離を大きくした場合にも、第1差動コイル231からの検出信号に含まれるワイヤロープWの特有の磁気特性の成分と、第2差動コイル232からの検出信号に含まれるワイヤロープWの特有の磁気特性の成分との差異を小さくすることができる。そのため、第1差動コイル231および第2差動コイル232の各々からの検出信号の差分を取得することによって、ワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分をより低減することができる。その結果、ワイヤロープWの異常部分を精度よく判定することができる。
【0075】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0076】
[第3実施形態]
図11図13を参照して、第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300の構成について説明する。この第3実施形態は、第1差動コイル31(231)と第2差動コイル32(232)とがワイヤロープWの延びる方向に沿って並んで配置されていた第1および第2実施形態と異なり、第1差動コイル331を覆うように第2差動コイル332を配置する。なお、図中において、上記第1および第2実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0077】
(第3実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成)
図11に示すように、第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300は、ワイヤロープ検査装置301と処理装置102とを備える。ワイヤロープ検査装置301は、整磁部10、励磁部20、検出部330、および、制御基板40を備える。整磁部10、励磁部20、制御基板40の構成は第1実施形態と同様である。検出部330は、第1差動コイル331および第2差動コイル332を含む。
【0078】
図12に示すように、第1差動コイル331は、第1および第2実施形態と同様に、X方向において、励磁コイル21の中心に配置されており、一対の検知コイル331aと検知コイル331bとを含む。一対の検知コイル331aおよび331bは、Z方向に沿って分割可能に構成されている。また、検知コイル331aおよび検知コイル331bは、鞍型コイルを含む。そして、鞍型コイルである検知コイル331aおよび検知コイル331bが組み合わされることにより、第1差動コイル331は、ワイヤロープWに巻回され、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。
【0079】
また、第2差動コイル332は、第1差動コイル331と同様に、鞍型コイルである一対の検知コイル332aと検知コイル332bとを含む。一対の検知コイル332aおよび332bは、分割可能に構成されている。そして、第1差動コイル331と同様に、鞍型コイルである検知コイル332aおよび検知コイル332bが組み合わされることにより、第2差動コイル332は、ワイヤロープWに巻回され、励磁部20により磁界が印加されたワイヤロープWにおける磁束の変化量を検出する差動コイルとなる。
【0080】
そして、第3実施形態では、第2差動コイル332は、ワイヤロープWに対して、第1差動コイル331よりも外側において第1差動コイル331を覆うように巻回される。具体的には、第2差動コイル332は、第1差動コイル331と同様に、X方向において、励磁コイル21の中心に配置されている。すなわち、第1差動コイル331と第2差動コイル332とのワイヤロープWのX方向における位置は等しい。また、第2差動コイル332の巻き数は、第1差動コイル331の巻き数と等しい。そして、第2差動コイル332は、第1差動コイル331と共通のZ方向に沿って分割可能に構成されている。
【0081】
また、図13に示すように、第2差動コイル332は、ワイヤロープWからの離間距離d302が、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301よりも大きい。具体的には、第2差動コイル332は、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301の略2倍の距離(離間距離d302)ワイヤロープWから離間した状態で、ワイヤロープWに対して、第1差動コイル331を覆うように巻回される。詳細には、第2差動コイル332の内表面とワイヤロープWの外表面との離間距離d302は、第1差動コイル331の内表面とワイヤロープWの外表面との離間距離d301の略2倍の大きさである。たとえば、第1差動コイル331とワイヤロープWとの離間距離d301が4[mm]である場合には、第2差動コイル332とワイヤロープWとの離間距離d302は、8[mm]となる。
【0082】
そして、第1差動コイル331および第2差動コイル332は、第1実施形態の第1差動コイル31および第2差動コイル32と同様に、検出信号を出力するように構成されている。
【0083】
処理装置102は、制御部50、記憶部60、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置102の構成は、第1実施形態と同様である。すなわち、処理装置102は、第1実施形態と同様に、検出部330の第1差動コイル331および第2差動コイル332からの検出信号の差分を算出する。そして、処理装置102は、算出された差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の判定の処理を行うとともに、生成された異常部分の判定結果(解析結果)をタッチパネル70に表示する。
【0084】
なお、ワイヤロープWからの距離の差が略2倍であるため、第1差動コイル331からの検出信号における異常部分を示す成分の検出信号に比べて、第2差動コイル332からの検出信号における異常部分を示す成分の検出信号は、略4分の1の大きさとなる。そのため、第1差動コイル331および第2差動コイル332の各々からの検出信号の差分を取得した場合にも、異常部分を示す成分が除去されずに検出される。
【0085】
一方で、ワイヤロープWの固有の磁気特性の変化の周期は、第1実施形態と同様に、少なくとも励磁コイル21のX方向(ワイヤロープWの延びる方向)における長さよりも大きいと考えられる。したがって、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301と、第2差動コイル332のワイヤロープWからの離間距離d302との差に比べて、ワイヤロープWに固有の磁気特性の変化の周期が十分に大きいため、第1差動コイル331からの検出信号におけるワイヤロープWに固有の磁気特性の成分と、第2差動コイル332からの検出信号におけるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分との差異は、小さくなる。そのため、第1差動コイル331および第2差動コイル332の各々からの検出信号の差分を取得した場合には、ワイヤロープWの固有の磁気特性の成分が低減される。
【0086】
また、第3実施形態のその他の構成は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0087】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0088】
第3実施形態では、第2差動コイル332は、ワイヤロープWに対して、第1差動コイル331よりも外側において第1差動コイル331を覆うように巻回される。このように構成すれば、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)における第1差動コイル331のワイヤロープWに対する位置と、第2差動コイル332のワイヤロープWに対する位置を等しくすることができる。そのため、第1差動コイル331および第2差動コイル332の各々からの検出信号に含まれるワイヤロープWの固有の磁気特性の成分の差異をより小さくすることができる。その結果、検出信号の差分を取得することによってワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分をより低減することができるので、ワイヤロープWの異常部分をより精度よく判定することができる。
【0089】
また、第3実施形態では、第2差動コイル332は、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301の略2倍の距離(離間距離d302)ワイヤロープWから離間した状態で、ワイヤロープWに対して、第1差動コイル331を覆うように巻回される。このように構成すれば、検出信号における異常部分を示す成分は、距離の2乗に比例して減衰するため、第2差動コイル332からの検出信号に含まれる異常部分を示す成分を、第1差動コイル331からの検出信号に含まれる異常部分を示す成分のおよそ4分の1の大きさとすることができる。そのため、第1差動コイル331および第2差動コイル332の各々からの検出信号の差分において、異常部分を示す成分が小さくなりすぎることを抑制しながらワイヤロープWの固有の磁気特性に起因するノイズ成分を低減することができる。
【0090】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0091】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0092】
(第1変形例)
たとえば、上記第2実施形態では、第1差動コイル231は、各々がワイヤロープWの外周の約半周分(180度分)を覆う検知コイル231aおよび検知コイル231bを含み、第2差動コイル232は、各々がワイヤロープWの外周の約半周分(180度分)を覆う検知コイル232aおよび検知コイル232bを含む例を示したが本発明は、これに限られない。本発明では、図14に示す第1変形例による第1差動コイル431および第2差動コイル432のように、第1差動コイル431の検知コイル431aおよび検知コイル431bと、第2差動コイル432の検知コイル432aおよび検知コイル432bとの各々を、ワイヤロープWの外周の約半周分(180度分)よりも小さい角度分を覆うように構成してもよい。なお、検知コイル431aおよび431bと検知コイル432aおよび432bは、一対の鞍型コイルである。
【0093】
具体的には、図14に示すように、第1差動コイル431の分割される方向(Z方向)に対して、第2差動コイル432が、ワイヤロープWの撚りの回転方向に90度分回転させた方向(Y方向)に沿って分割されるように構成されている場合には、検知コイル431aおよび検知コイル431bと、検知コイル432aおよび検知コイル432bとの各々を、ワイヤロープWの外周の90度分ずつを覆うように構成してもよい。この場合には、第1差動コイル431と第2差動コイル432とが互いに90度ずれた状態で配置されているので、第1差動コイル431および第2差動コイル432の検出信号を組み合わせることによって、ワイヤロープWの全周分の測定を行うことができる。なお、検知コイル431aおよび検知コイル431bと、検知コイル432aおよび検知コイル432bとの各々は、ワイヤロープWの外周の90度よりも大きい所定の角度分ずつを覆うように構成してもよい。
【0094】
(第2変形例)
また、上記第1~第3実施形態では、第1差動コイル31(231、331)における一対の検知コイル31a(231a、331a)および検知コイル31b(231bおよび331b)と、第2差動コイル32(232、332)における一対の検知コイル32a(232a、332a)および検知コイル32b(232bおよび332b)が、一対の鞍型コイルである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図15に示す第2変形例による第1差動コイル531および第2差動コイル532のように、第1差動コイル531における一対の検知コイル531aおよび531bと、第2差動コイル532における一対の検知コイル532aおよび532bとを、各々がコイルループを形成する一対の平板コイルによって構成してもよい。その場合にも、各々がコイルループを形成する検知コイル531aおよび531b同士、および、検知コイル532aおよび532b同士が互いに組み合わされることによってワイヤロープWを取り囲むようなコイルループが形成されことにより、ワイヤロープWの内部の磁束を測定する全磁束法によってワイヤロープWの内部の異常部分が検知される。
【0095】
たとえば、第1差動コイル531の一対の検知コイル531aおよび531bは、分割可能に構成されているとともに、図示しないコネクタ部によって互いに差動接続となるように接続されている。そして、一対の検知コイル531aおよび531bが組み合わされる(接続される)ことによってワイヤロープWを囲むように巻回するコイルループが形成される。具体的には、一対の検知コイル531aおよび531bの各々におけるワイヤロープWの延びる方向に直交する方向(Y方向)に沿う部分によって、ワイヤロープWを囲むように巻回するコイルループが形成される。この時、一対の検知コイル531aおよび531bにおいて、ワイヤロープWの延びる方向と直交する方向の磁気特性がノイズ成分として検出されるため、第1差動コイル531と同様の構成の第2差動コイル532を別個に設けるとともに、第1差動コイル531からの検出信号と第2差動コイル532からの検出信号との差分を取得することによって、ノイズ成分を効果的に精度よく低減することができる。
【0096】
(その他の変形例)
また、上記第2実施形態では、第2差動コイル232を、第1差動コイル231の分割される方向(Z方向)に対して、ワイヤロープWの撚りの回転方向に90度分回転させた方向(Y方向)に沿って分割されるように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1差動コイル231と第2差動コイル232との離間距離d201がワイヤロープWの撚りの周期Tに対して2分の1の大きさである場合には、第2差動コイル232を、第1差動コイル231の分割される方向(Z方向)に対して180度回転させた方向に沿って分割されるようにしてもよい。
【0097】
また、上記第2実施形態では、第1差動コイル231からの検出信号のタイミングに比べて、第2差動コイル232からの検出信号のタイミングをずらした状態で差分を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2差動コイル232を、第1差動コイル231が分割される方向から回転させた方向に沿って分割するように配置する場合にも、略同じタイミングにおいて検出された第1差動コイル231からの検出信号と、第2差動コイル232からの検出信号との差分を取得するようにしてもよい。
【0098】
また、上記第1~第3実施形態では、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置101(201、301)と異常部分を判定する処理を実行する処理装置102(202)とが別個に構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープWの磁束の変化の検出と、異常部分を判定する処理とを1つの(共通の)ワイヤロープ検査装置によって実行するように構成してもよい。具体的には、ワイヤロープ検査装置を、第1実施形態のワイヤロープ検査装置101と同様に整磁部10、励磁部20、および、検出部30を備えるとともに、第1実施形態による処理装置102の制御部50と同様に、第1差動コイル31および第2差動コイル32の各々からの検出信号の差分を取得する処理を実行する制御部をさらに備えるように構成してもよい。
【0099】
また、上記第1~第3実施形態では、処理装置102(202)が、検査作業者が用いるタブレットPCである例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、異常部分の判定処理を実行する制御部50(250)を備える処理装置102(202)は、サーバ装置などの遠隔地に設置された装置であってもよい。すなわち、ワイヤロープ検査装置101(201、301)による測定結果を遠隔地に設置された処理装置(制御部)によって取得するとともに、エレベータ103(ワイヤロープW)から離間した位置において、第1差動コイル31(231、331)および第2差動コイル32(232、332)の各々からの検出信号の差分を取得して異常部分の判定を実行するように構成してもよい。
【0100】
また、上記第1~第3実施形態では、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)とが、互いに等しい巻き数を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1差動コイル31(231、331)の巻き数と第2差動コイル32(232、332)の巻き数とを、互いに異なるようにしてもよい。その場合には、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号と第2差動コイル32(232、332)からの検出信号とに対して、各々の巻き数に応じた補正処理を実行するようにしてもよい。
【0101】
また、上記第1~第3実施形態では、処理装置102(202、302)の制御部50、250は、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号と第2差動コイル32(232、332)からの検出信号との差分を、ワイヤロープWの移動に応じてリアルタイムに算出する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、取得された第1差動コイル31(231、331)からの検出信号と、第2差動コイル32(232、332)からの検出信号との各々を、記憶部60に記憶させるとともに、ワイヤロープWの全体の測定が終了した後に、差分を算出するように構成してもよい。
【0102】
また、上記第1および第2実施形態では、第1差動コイル31、231および第2差動コイル32、232は、ワイヤロープWからの各々の離間距離d101およびd102が略等しくなるように並べて配置されている例を示し、たが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1差動コイル31、231のワイヤロープWからの離間距離と、第2差動コイル32、232のワイヤロープWからの離間距離とを、互いに異ならせるようにしてもよい。
【0103】
また、上記第1実施形態では、第1差動コイル31および第2差動コイル32は、ワイヤロープWからの各々の離間距離d101およびd102と略等しい大きさの距離(離間距離d103)互いに離間して配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1差動コイル31と第2差動コイル32との離間距離d101およびd102は、ワイヤロープWからの離間距離d103よりも小さくてもよい。また、第1差動コイル31と第2差動コイル32との離間距離d103は、ワイヤロープWからの離間距離d101およびd102よりも大きくてもよい。たとえば、第1差動コイル31と第2差動コイル32との離間距離d103は、ワイヤロープWからの離間距離d101およびd102の1倍~3倍の大きさであってもよい。
【0104】
また、上記第3実施形態では、第2差動コイル332が、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301の略2倍の距離(離間距離d302)ワイヤロープWから離間するように配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2差動コイル332を、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301の略2倍よりも小さい距離ワイヤロープWから離間するように配置してもよい。また、第2差動コイル332を、第1差動コイル331のワイヤロープWからの離間距離d301の略2倍よりも大きい距離ワイヤロープWから離間するように配置してもよい。
【0105】
なお、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との離間距離が大きすぎる場合には、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号に含まれるワイヤロープWの特有の磁気特性を示す成分と、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号に含まれるワイヤロープWの特有の磁気特性を示す成分との差異が大きくなる。したがって、検出信号の差分におけるワイヤロープWの特有の磁気特性を示す成分を低減することができなくなるため、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との離間距離は大きすぎないほうがよい。また、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との離間距離が小さすぎる場合には、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号に含まれる異常部分を示す成分と、第1差動コイル31(231、331)からの検出信号に含まれる異常部分を示す成分との差異が小さくなる。したがって、検出信号の差分における異常部分を示す成分が小さくなるため、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との離間距離は、小さすぎないほうがよい。第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との離間距離は、第1差動コイル31(231、331)とワイヤロープWとの離間距離の1倍~10倍程度が好ましい。
【0106】
また、上記第1~第3実施形態では、励磁コイル21がワイヤロープWに対して第1差動コイル31(231、331)および第2差動コイル32(232、332)の外側を巻回するように設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、励磁部20と検出部30(230、330)とを、ワイヤロープWの延びる方向に沿って並べて配置してもよい。その場合、励磁部20の励磁コイル21を、第1差動コイル31(231、331)と第2差動コイル32(232、332)との間に配置するようにしてもよい。
【0107】
また、上記第1および第2実施形態では、第1差動コイル31(231)が、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されている例を示し、第3実施形態では、第1差動コイル331および第2差動コイル332の両方が、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1差動コイル31(231)ではなく、第2差動コイル32(232)を、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置するようにしてもよい。また、第1差動コイル31(231、331)および第2差動コイル32(232、332)の両方ともが、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されないようにしてもよい。また、第1差動コイル31(231)および第2差動コイル32(232)の中間点が、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)において励磁コイル21の中心位置の近傍に配置されるようにしてもよい。
【0108】
また、上記第1~第3実施形態では、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形を、サンプリングごとに前後10個ずつ(20[ms])の範囲で移動平均処理を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。移動平均処理の範囲は、20[ms]以外の範囲であってもよい。また、磁束波形を生成する際に移動平均処理を実行しなくともよい。また、ローパスフィルタ処理など、移動平均処理以外のノイズ除去処理を実行して、磁束波形を生成してもよい。
【0109】
また、上記第1~第3実施形態では、エレベータ103のワイヤロープWを検査する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、クレーンおよびロープウェイなどのエレベータ以外のワイヤロープを検査するように構成してもよい。
【0110】
また、上記第1~第3実施形態では、エレベータ103のワイヤロープWを移動させることによって、検出部30、230、330(第1差動コイル31、231、331および第2差動コイル32、232、332)を、ワイヤロープWに対して相対移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、固定されているワイヤロープWに対して、検出部30、230、330(第1差動コイル31、231、331および第2差動コイル32、232、332)を移動させることによって、ワイヤロープWに対して相対移動させるように構成してもよい。その場合には、第1差動コイル31、231、331および第2差動コイル32、232、332は、ワイヤロープWに対して、一体的に移動しながら検出信号を制御部50(250)に対して出力するように構成されるようにしてもよい。そして、制御部50(250)は、第1差動コイル31、231、331および第2差動コイル32、232、332のワイヤロープWに対する異常に応じて、検出信号の差分をリアルタイムに算出する。
【0111】
また、上記第1~第3実施形態では、処理装置102(202)が、第1差動コイル31(231、331)および第2差動コイル32(232、332)の各々の検出信号の差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の判定を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、処理装置102(202)を、異常部分の判定を行わず、算出された検出信号の差分を表示させる処理を行うように構成してもよい。
【0112】
また、上記第1~第3実施形態では、ワイヤロープWを挟んで互いに対向するように設けられた整磁部10aおよび整磁部10bが、それぞれN極をワイヤロープW側に向けるように配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、2つの整磁部10aおよび10bが、N極とS極とをそれぞれワイヤロープWに向けるように配置されていてもよい。また、2つの整磁部10aおよび10bは、互いに対向する方向ではなく、ワイヤロープWの延びる方向に沿ってN極とS極とを配置するようにしてもよい。その場合、2つの整磁部10aおよび10bは同じ向きでもよいし異なる向きでもよい。また、2つの整磁部10aおよび10bは、ワイヤロープWの延びる方向に沿って平行な向きから、斜めにずれた向きに磁界を印加するように配置されていてもよい。また、1つの整磁部10を、ワイヤロープWの延びる方向と交差する方向の片側に配置してよい。また、整磁部10を設けずに、磁界を整えずに検出部30(230、330)により磁束を検出するようにしてもよい。
【0113】
また、上記第1~第3実施形態では、整磁部10を永久磁石によって構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、整磁部を、電磁石によって構成してもよい。
【0114】
また、上記第1~第3実施形態では、ワイヤロープ検査システム100(200、300)を、1本のワイヤロープWの磁束の変化量を検出するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ワイヤロープ検査システム100(200、300)を、複数のワイヤロープWの磁束の変化量を検出するように構成してもよい。その場合には、第1差動コイル31(231、331)および第2差動コイル32(232、332)を、複数のワイヤロープWの各々に設けるように構成するようにしてもよい。なお、整磁部10および励磁部20は、複数のワイヤロープWに対して共通して1つ設けるようにしてもよいし、複数のワイヤロープWに対応するように複数設けるようにしてもよい。
【0115】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0116】
(項目1)
ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、
前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第1差動コイルと、前記第1差動コイルとは別個に設けられ、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープにおける磁束の変化量を検出する第2差動コイルとを含み、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルからの検出信号を出力する検出部と、
前記検出部の前記第1差動コイルからの前記検出信号と前記第2差動コイルからの前記検出信号との差分を取得する制御部と、を備え、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々は、前記ワイヤロープの延びる方向に直交する方向に沿って分割可能な一対の検知コイルを有し、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々における一対の検知コイルは、各々がコイルループを形成するとともに、互いに組み合わされることによって前記ワイヤロープを囲むように巻回する、ワイヤロープ検査システム。
【0117】
(項目2)
前記第1差動コイルにおける前記一対の検知コイルの巻き数は、前記第2差動コイルにおける前記一対の検知コイルの巻き数に略等しい、項目1に記載のワイヤロープ検査システム。
【0118】
(項目3)
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの各々における前記一対の検知コイルは、一対の鞍型コイルを含む、項目1または2に記載のワイヤロープ検査システム。
【0119】
(項目4)
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、一体的に前記ワイヤロープに対して相対移動しながら、前記検出信号を出力するように構成されており、
前記制御部は、前記ワイヤロープに対して相対移動している前記第1差動コイルからの前記検出信号と、前記第1差動コイルと一体的に相対移動している前記第2差動コイルからの前記検出信号との差分を、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの前記ワイヤロープに対する相対移動に応じてリアルタイムに算出するように構成されている、項目1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0120】
(項目5)
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープの延びる方向に沿って並べて配置されている、項目1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0121】
(項目6)
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープからの各々の離間距離およびが略等しくなるように配置されているとともに、前記ワイヤロープからの各々の離間距離およびと略等しい大きさの距離互いに離間して配置されている、項目5に記載のワイヤロープ検査システム。
【0122】
(項目7)
前記第2差動コイルは、らせん状に撚り合わされた前記ワイヤロープの撚りの周期に対する前記第1差動コイルと前記第2差動コイルとの離間距離の割合に応じて、前記第1差動コイルが分割される方向から前記ワイヤロープの撚りの回転方向に所定の角度分回転させた方向に沿って分割されるように構成されている、項目5に記載のワイヤロープ検査システム。
【0123】
(項目8)
前記第2差動コイルは、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルよりも外側において前記第1差動コイルを覆うように巻回される、項目1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0124】
(項目9)
前記第2差動コイルは、前記第1差動コイルの前記ワイヤロープからの離間距離の略2倍の距離前記ワイヤロープから離間した状態で、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルを覆うように巻回される、項目8に記載のワイヤロープ検査システム。
【0125】
(項目10)
前記励磁部は、前記ワイヤロープに対して、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルよりも外側において、前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの両方を覆うように巻回される励磁コイルを含み、
前記励磁コイルは、交流電流が流されることにより前記ワイヤロープの延びる方向に沿って振動する磁界を印加し、
前記第1差動コイルおよび前記第2差動コイルの少なくとも一方は、前記ワイヤロープの延びる方向において、前記励磁コイルの中心位置の近傍に配置されている、項目1~9のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【符号の説明】
【0126】
20 励磁部
21 励磁コイル
30、230、330 検出部
31、231、331、431、531 第1差動コイル
31a、31b、32a、32b、231a、231b、232a、232b、331a、331b、332a、332b、431a、431b、432a、432b、531a、531b、532a、532b 検知コイル
32、232、332、432、532 第2差動コイル
50、250 制御部
100、200、300 ワイヤロープ検査システム
図1
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