(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137160
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】熱延鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 47/02 20060101AFI20230922BHJP
B21B 39/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B21C47/02 E
B21B39/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043219
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】占部 元彦
【テーマコード(参考)】
4E026
【Fターム(参考)】
4E026BA15
(57)【要約】
【課題】熱間仕上圧延工程において、メンテナンスコストを低く抑えつつ熱延鋼帯の通板を安定化する鋼板の方法を提供する。
【解決手段】熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における上記熱延鋼帯の先端から後端側への所定の範囲においてかかる熱延鋼帯の目標板厚が所定量を超えて厚い場合、少なくともかかる先端がコイル巻取り機に入る直前から直後の間は仕上速度を減速する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を熱間仕上圧延して3.0mm以下の目標板厚の熱延鋼帯とするに際し、かかる熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における上記熱延鋼帯の先端から後端側へ2mの範囲が、かかる熱延鋼帯の上記目標板厚より300μmを超えて厚い場合、少なくともかかる先端がコイル巻取り機に入る直前から直後まで-5~-10%の範囲で仕上速度を減速する熱延鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記目標板厚が1.2mmから3.0mmの範囲である請求項1に記載の熱延鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間仕上圧延後の鋼板である熱延鋼帯をコイラーまで安定的に搬送する鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、薄物の熱延鋼帯の圧延速度は、生産性と巻取り時の鋼板温度確保のため、厚物材に対し速く設定される。
ここで、かかる熱延鋼帯の先端は、圧延時に張力が掛からないこともあって、操業が安定しない非定常部である。また、かかる非定常部では安定した形状が得られにくいばかりでなく、通板速度が速いためランナウトテーブル上の通板が不安定になり易い。
【0003】
さらに、熱延鋼帯の先端が所定以上の厚みになるとランナウトテーブル上の走行が不安定になり、熱延鋼帯の先端がランナウトテーブルと接触した際に折れ曲がりが発生するリスクがある。このような場合、コイラーピンチロールで材料が詰まってしまい、コイルの巻取りができず、結果として以後の冷コイルトラブルとなる。冷コイルトラブルが発生すると、以降の当該サイクルの圧延を停止せざるを得ず、操業生産性が著しく損なわれる。
なお、上記冷コイルトラブルとは、例えば、先端折れ曲がりによりコイラーピンチロール手前で板が進行不能となり、半成品コイルを処理する必要があるトラブルである。
【0004】
そこで、従来の熱延鋼帯のランナウトテーブル上での走行を安定させるための方策として、特許文献1乃至4に記載の技術が知られている。
特許文献1には、ランナウトテーブル上での先端浮上をロールピッチおよびガイド設定値調整により抑え、通板を安定化させる方法が示されている。
【0005】
特許文献2には、搬送テーブルローラー間に、熱延鋼帯下面に噴きつけられる冷却水を遮らない幅で、熱延鋼帯のたわみ込み防止用のエプロンを備えたホットランテーブルが示されている。
【0006】
特許文献3には、ホットランテーブルよりも上流側に設けられた鋼帯先端検出センサーにより鋼帯先端を検出し、この検出信号に基づいて、鋼帯の跳ね上がった先端に進行方向に向かって水平に水を噴射して、鋼帯先端の跳上がりおよびそれに起因する鋼帯の折れ曲がりを防止し熱延鋼帯の走行安定を図る方法が示されている。
【0007】
特許文献4には、搬送テーブルロール間に防護部材を設置し、鋼板先端通板時には上昇、定常部通過時には下降させ、先端部の通板を安定させる方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-225409号公報
【特許文献2】特開2000-5807号公報
【特許文献3】特開2001-340911号公報
【特許文献4】特開2004-351483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法だと、エア噴流装置といったハードの改造が必要で、その装置コストが高い点やメンテナンスが困難であるという問題点がある。
【0010】
特許文献2に記載の方法だと、エプロンの配置が常に熱延鋼帯と近接しているため、熱延鋼帯の熱によるエプロンの耐久性に問題があり、エプロンの損耗が激しく頻繁に交換するため効率が悪いという問題点がある。
【0011】
特許文献3に記載の方法においては、環境の悪い仕上ミル出側、ランナウトテーブル入側に先端検出センサーを設置する必要がありメンテナンスの問題がある。
【0012】
特許文献4に記載の方法に関しては、長さ80m以上、ロール本数300本以上のハードの改造が必要で、その設置コストが高い点やガイド損耗部のレベル管理を含むメンテナンスが困難であるという問題点がある。
【0013】
さらに、熱延鋼帯の先端が所定以上の厚みになる(厚み異常)という問題に関しては、何ら対策が取られていなかった。
【0014】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであって、
図1に示すような熱間仕上圧延工程において、ランナウトテーブル上でのハード改造やセンサー設置なしに、厚み異常が発生しやすい条件においては通板速度を適切に減速し、通板を安定させることで、メンテナンスコストが低く熱延鋼帯の通板が安定化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
熱延鋼帯を、安定的にコイル巻取り機(コイラー)で巻き取るにはランナウトテーブルの走行安定性が重要である。
かかる走行安定性を得るための因子として、発明者は、通板が安定する限界速度(安定した通板が維持される上限速度)に着目した。
【0016】
この着目点の下、発明者が種々の検討を行った結果、仕上圧延機の出側からコイラーまでの間を走行する際に生じる熱延鋼帯の先端の通板が不安定となる現象は、以下の(1)式に示される、鋼帯を搬送するためのテーブルロールとかかる鋼帯の先端との衝突によって生じる圧縮荷重による座屈現象で説明され得ることを知見した。
【0017】
【数1】
なお、Vcは座屈現象が生じない(通板が安定する)限界速度(以下、理論安定限界速度ともいう)、Lはテーブルロールピッチ、E、I、ρ、Aはそれぞれ鋼板の、ヤング率、断面二次モーメント、密度、断面積である。
【0018】
図2に、上記(1)式を、板厚を横軸として整理した被圧延材の板厚と通板安定率(理論安定限界速度/通板速度)との関係を示す。
図2に示されるように、板厚が3.0mmを下回る範囲では、通板安定率が1.0を下回るため、仕上圧延機の出側から巻取設備までの間を走行する際に生じる圧縮荷重による座屈現象が発生していると考えられる。すなわち、板厚が3.0mmを下回ると、鋼帯の先端の通板が不安定になることが分かる。ここで、理論安定限界速度とは、通板速度が安定速度の限界に達した場合である。従って、通板安定率が1.0以上であれば、通板が安定して行われる。
【0019】
発明者は、かかる考察から、冷コイルトラブルが生じる際には、上記座屈現象が発生しているので、鋼帯の先端は変形が生じている。その結果、鋼帯の先端が巻取直前で跳ね上がることとなって、抑えられるべきピンチロールのラッピングから外れてしまうと考えた。
【0020】
併せて、発明者は、鋼帯の巻取直前に、かかる鋼帯を一定程度減速させることで、鋼帯先端の跳ね上がりを抑えるとともに、仮に巻取直前で跳ね上がった鋼帯先端が、ランナウトテーブル(以下、ROTともいう)とほぼ同じレベルまで戻って来ていれば、前述の冷コイルトラブル(以下、単に冷コイルともいう)にかかる問題は解消が可能であると考えた。
【0021】
発明者は、これらの考察に基きさらに検討した。
図3に、薄物(板厚3mm以下)と薄物以外(3mmより大きい)の材料の冷コイルの発生率を示す。薄物ではそれ以外のものと比較して2.5倍冷コイルの発生頻度が多いことが分かった。
【0022】
また、
図4に、板厚別の冷コイル発生原因を示す。
図4より、薄物の冷コイルの発生はROTでの走行不安定が原因となるものが多く、薄物以外では、板の曲がりがその原因であることが分かる。
【0023】
図5に、製造ラインの1か月間の、薄物における先端2mの厚み偏差の一例を示す。
図5より、かかる熱延鋼板の先端は、上述したように非定常部のため、目標の厚みに対し厚めにするのが一般的な操業形態であるが、かかる先端の厚み(厚み偏差)が目標厚から300μmを超えて厚いと熱延鋼帯の走行が不安定になって冷コイルが発生していることが分かる。
なお、本発明にかかる上記厚み偏差は、先端から後端側に2mまでの厚み(先端2mの厚み)の平均値で求めることができる。
【0024】
本発明は上記知見を基にさらに検討を重ねて完成したものである。すなわち、本発明の構成要旨は以下の通りである。
1.鋼板を熱間仕上圧延して3.0mm以下の目標板厚の熱延鋼帯とするに際し、かかる熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における上記熱延鋼帯の先端から後端側へ2mの範囲が、かかる熱延鋼帯の上記目標板厚より300μmを超えて厚い場合、少なくともかかる先端がコイル巻取り機に入る直前から直後まで-5~-10%の範囲で仕上速度を減速する熱延鋼帯の製造方法。
【0025】
2.前記目標板厚が1.2mmから3.0mmの範囲である前記1に記載の熱延鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、新たな設備改造や設備管理を必要とせず、鋼帯の通板速度のみの調整で済むので、通板速度の速度制御さえ適切に実施することができれば、汎用の圧延設備に適用するだけで、熱延鋼帯の巻取り時の冷コイルトラブルを効果的に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】被圧延材の板厚と通板安定性との関係を示す図である。
【
図3】薄物(板厚3mm以下)と薄物以外(3mmより大きい)の材料の冷コイル発生率を示す図である。
【
図5】1か月間の、薄物における先端2mの厚み偏差を示す図である。
【
図7】仕上圧延の各位置における鋼板の表面温度を示す図である。
【
図8】薄物における仕上速度別の冷コイル発生率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、鋼板を熱間仕上圧延して3.0mm以下の目標板厚の熱延鋼帯とするに際し、かかる熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における上記熱延鋼帯の先端から後端側へ2mの範囲が、かかる熱延鋼帯の上記目標板厚より300μmを超えて厚い場合、少なくともかかる先端がコイル巻取り機に入る直前から直後まで-5~-10%の範囲で仕上速度(本発明において、通板速度、圧延速度ともいう)を減速する熱延鋼帯の製造方法である。
【0029】
[3.0mm以下の目標板厚の熱延鋼帯]
本発明の製造方法は、3.0mm以下の板厚の熱延鋼帯に用いて効果が得られるものである。よって、本発明の製造方法は3.0mm以下の板厚の熱延鋼帯に用いる。
なお、下限は特に限定されないが、製品の多数を占める1.2mm以上程度が好ましい。
【0030】
[熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における熱延鋼帯の先端から後端側へ2mの範囲]
本発明において、板厚の管理が必要な範囲は、熱間仕上圧延の最終スタンドの出側における熱延鋼帯の先端から後端側へ2mの範囲である。かかる範囲の管理が冷コイルトラブルの防止に効果的だからである。
また、本発明において、かかる範囲を単に先端部または先端2mともいう。
【0031】
[熱延鋼帯の目標板厚の300μmを超えて厚い]
通板不安定な薄物で先端過厚となると、さらに通板が不安定となるため、熱延鋼帯の先端部の板厚が、かかる先端部の平均で目標板厚より300μmを超えて厚い場合は、圧延速度を下げて通板を安定化させる必要がある。通常、仕上圧延機には圧延機出側直近に板厚計が設置されているので、かかる板厚計が上記所定の条件となった場合は、コイルの最先端がROTを通過し、ピンチロールへ達するまでに所定速度まで一旦減速し、少なくとも上記先端がコイル巻取り機に入るまでかかる減速を維持することで本発明を成すことができる。なお、予めかかる減速率を設定し、自動で通板速度を減速することが可能である。
【0032】
なお、通常の熱間圧延において、
図6(1)に示すように非定常の操業形態となるコイル先端部は、後端に対して低速で通板を行うが、本発明では、コイル先端が巻き取られる直前で、
図6(2)に示すようにさらに減速することで、冷コイルトラブルを防ぐことができる。また、かかる減速は、少なくとも、コイル先端がコイル巻取り機で巻き取られる直前から巻き取られた直後の間で実施すれば良く、コイル先端がコイル巻取り機で巻き取られた直後、すなわちコイル巻取り機に冷コイルトラブルなく入った以降は元の所定の通板速度に増速しても冷コイルトラブルの発生にはつながらない。
【0033】
ここで、本発明における熱延鋼帯の目標板厚より300μmを超えて厚いとは、前記先端部の平均の厚みが目標板厚より300μmを超えて厚い場合を意味する。
【0034】
[少なくともかかる先端がコイル巻取り機に入る直前から直後まで-5~-10%の範囲で仕上速度を減速する]
本発明では、熱延鋼帯の先端がコイル巻取り機に入るまでに一旦-5~-10%の範囲になるように仕上速度を減速することが重要である。
上記の減速は、熱延鋼帯の先端が少なくともコイル巻取り機に入るまでに行われるものであって、コイル先端の巻取りが安定して開始された直後には元の通板速度に戻すことが好ましい。
かかる減速は、熱延鋼帯の先端がコイル巻取り機に入るまでに行われないと、冷コイルの発生率が低減できない。一方、かかる減速を、コイル先端の巻取り開始以降に続けると生産性が低下するおそれがある。
また、かかる減速が-5%に満たないと冷コイルの発生率が低減できない。一方、-10%を超えると、圧延機出側の鋼板温度がその下限を外れてしまう。よって、本発明では、安定操業と歩留まりのバランスを考慮し、上記仕上速度の減速率を-5~-10%の範囲とする。
【0035】
ここで、鋼板の温度確保が可能ならば、安定操業を考慮すると、鋼板の仕上速度を常時、5%減速して設定した方がよいとも考えられる。しかしながら、対象量を考慮すると、生産能率が1時間当たり2トン程度低下してしまい、生産性に大きな影響が出てしまう。これに対し、本発明に従い、300μmを超える板厚超過の場合であって、熱延鋼帯の先端部の近傍のみを5%減速にすると、生産影響は1時間当たり0.1トン程度の低下に留まるため、生産性への影響をほとんど損なわないまま安定操業が可能となる。
【0036】
なお、本発明に従う製造方法において、本明細書に記載のない項目は、いずれも常法を用いることができる。
【実施例0037】
本実施例のコイル先端部(先端から後端側へ2m長さまでの範囲)の平均厚みが目標板厚より300μmを超えて厚くなった場合における減速は、薄物においてFDTと称する圧延機出側の鋼板温度の下限を満足させる範囲とする。例えば板厚1.2mm材の場合は、
図7に示すように、上記減速を-10%にすれば、圧延機出側の鋼板温度はその下限を満足している。
板厚や温度のバラつきを考慮しても温度制御の困難性や、鋼板の温度が不安定になるリスクを最小限に抑えつつ、巻取りを不可にすることが回避できるので、当該1コイルがまるまる損失になり且つ同サイクルの後続材も滞留することを避けることができる。よって、本発明に従うことで歩留まりや安定操業のための負荷は大幅に軽減することができることが分かる。
【0038】
図8に、薄物における仕上速度別の冷コイル発生率を示す。前記先端部の板厚計の値の平均値が、目標板厚よりも300μmを超えて厚くなった場合、設定速度よりも5%減速させた通板速度では、冷コイルの発生率が1/3程度に低下していることが確認できた。
【0039】
ここで、常時-5%の減速条件に設定すると、生産能率が1時間当たり2.0トン程度低下した。さらに、常時-10%の減速条件に設定すると、1時間当たり3.3トン程度低下した。一方、本発明に従い、目標板厚よりも300μm超過厚の場合であって、その減速を先端2m測定完了後からコイル巻取り機に入る直後までに限定すると、-5%の減速条件では生産影響が1時間当たり0.1トン程度の低下に留まる。また、-10%の減速条件では生産影響が1時間当たり0.2トン程度の低下に留まる。
よって、いずれの場合も生産性への影響をあまり損なわずに安定操業が可能となることが分かる。
【0040】
発明例に示した通り、本発明に従うことで、生産能率を現行の0.02~0.04%程度の低下に留めた操業で、圧延機出側の鋼板温度の下限を外れることなく、冷コイル発生率を0.0056%から0.0019%と1/3程度に低減できていることが分かる。