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  • 特開-鋳造品薄肉部の特性推定方法 図1
  • 特開-鋳造品薄肉部の特性推定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137183
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】鋳造品薄肉部の特性推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043252
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】布施 直紀
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC43
(57)【要約】
【課題】鋳造品の薄肉部の欠損等を生じることなく当該薄肉部の局部のみを振動させてその特性を推定することが可能な鋳造品薄肉部の特性推定方法を提供する。
【解決手段】、タービンホイール1の翼体12にパルス状のエアを局部的に吹き付けて当該翼体12の局部a~eを起振し、局部a~eの振動を検出してこれをフーリエ変換することにより翼体12の局部a~eの固有振動数を検出し、検出された固有振動数から局部a~eの特性を推定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造品の薄肉部にパルス状のエアを局部的に吹き付けて当該薄肉部の局部を起振し、局部の振動を検出してこれをフーリエ変換することにより前記薄肉部の局部の固有振動数を検出し、検出された固有振動数から前記局部の特性を推定することを特徴とする鋳造品薄肉部の特性推定方法。
【請求項2】
前記特性は前記局部の肉厚である請求項1に記載の鋳造品薄肉部の特性推定方法。
【請求項3】
前記鋳造品はタービンホイールであり、前記薄肉部は前記タービンホイールの翼体である請求項1又は2に記載の鋳造品薄肉部の特性推定方法。
【請求項4】
前記薄肉部の局部として、前記翼体のエッジ端,エッジ中間,エッジ根元,翼面中心および翼下エッジの少なくとも一カ所を選択する請求項3に記載の鋳造品薄肉部の特性推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造品薄肉部の肉厚や組成、欠陥等の特性を推定する方法に関し、特に薄肉部の局所的な固有振動数を測定してその特性を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造品の特性を推定する方法として従来はインパクトハンマ等で鋳造品を打撃してその打音をマイクで測定し、あるいは衝撃波を振動計で測定して、その周波数特性より固有振動数を検出することが広く行われている。
【0003】
なお、特許文献1には、張設されたテープにパルス状エアを吹き付けて起振し、その振動を変位計で測定して固有振動数を検出する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-148139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来のインパクトハンマ等による打撃では鋳造品の、特に薄肉部の固有振動数を局部的に検出することは困難であるとともに、インパクトハンマ等の形状を工夫して薄肉部を打撃できるようにしても衝撃で薄肉分が欠損する等の問題を生じることがあった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、鋳造品の薄肉部の欠損等を生じることなく当該薄肉部の局部のみを振動させてその特性を推定することが可能な鋳造品薄肉部の特性推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、鋳造品(1)の薄肉部(12)にパルス状のエアを局部的に吹き付けて当該薄肉部(12)の局部(a~e)を起振し、前記局部(a~e)の振動を検出してこれをフーリエ変換することにより前記薄肉部(12)の局部(a~e)の固有振動数を検出し、検出された固有振動数から前記局部(a~e)の特性を推定する。
【0008】
本第1発明において、薄肉部の局部の固有振動数は当該局部の特性を良好に反映しており、固有振動数を検出することで当該局部を成形するための鋳造金型の設計や鋳造条件の最適化を図ることができる。ここで、連続したエアで起振すると、起振された局部以外から伝達される振動モードによる固有振動を検出することがあるが、パルス状、特にパルス幅の狭いエアで起振することにより、他の振動モードによる固有振動を排除することが可能である。
【0009】
本第2発明では、前記特性は前記局部(a~e)の肉厚である。
【0010】
本第3発明では、前記鋳造品はタービンホイール(1)であり、前記薄肉部は前記タービンホイール(1)の翼体(12)である。
【0011】
本第4発明では、前記薄肉部の局部として、前記翼体(12)のエッジ端(a),エッジ中間(b),エッジ根元(c),翼面中心(d)および翼下エッジ(e)の少なくとも一カ所を選択する。
【0012】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の鋳造品薄肉部の特性推定方法によれば、鋳造品の薄肉部の欠損等を生じることなく当該薄肉部の局部のみを振動させてその特性を推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明方法を実施するための機器構成を示す図である。
図2】本発明方法の対象となるタービンホイールの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0016】
図1にはターボチャージャーのタービンホイール1を示す。タービンホイール1は鋳造品で、回転軸11周りには複数枚(本実施形態では10枚)の翼体(ブレード)12が形成されており、これら翼体12が、本発明方法によって特性が推定される薄肉部に相当する。図1において、タービンホイール1は、インシュレータとしてのシリコンゴム板2上に載置されて、各翼体12は起立姿勢となっており、そのうち一つの翼体12の翼面に、側方から1~2mm径のエアブローノズル3の先端が1~15mm程度の距離で近接位置させてある。
【0017】
エアブローノズル3の基端はパルス電磁弁4に連結され、これを介して0.2MPaの圧縮エア源5に連通している。そして、パルス電磁弁によって、例えば1Hz、デューティ比10%でパルス状のエアが翼体12の翼面の、エアブローノズル3の先端が対向する局部に周期的に噴射されて、その圧によって当該局部が起振される。翼体12の局部の振動はレーザドップラー振動計6で測定され、50kHzのサンプリング周波数でA/D変換されて演算装置7へ入力される。そして演算装置7内で高速フーリエ変換されピークホールドされて、10回のピークホールド値が上記局部の固有振動数として検出され、その平均値が算出される。
【0018】
本実施形態では、翼体12の局部として、図2に示すようにa(エッジ端),b(エッジ中間),c(エッジ根元),d(翼面中心),e(翼下エッジ)の5カ所を選択し、それぞれにエアブローノズル3の先端を対向近接させて各局部a~eの固有振動数を検出した。これを表1に示す。表1は同一タービンホイール1の10枚の各翼体12について、上記局部a~eの固有振数の最大値、最小値、平均値およびバラツキ幅(最大値と最小値の差)を測定したものである。
【0019】
【表1】
【0020】
表1より明らかなように、同一のタービンホイール1の10枚の翼体12の各局部a~eのうちエッジ端a,エッジ中間b,エッジ根元c,翼面中心dにおける固有振動数のバラツキ幅は1kHz(固有振動数の絶対値の5%)程度であり、翼下エッジeにおける固有振動数のバラツキはさらに小さく0.7kHz(固有振動数の絶対値の3%)程度であった。
【0021】
表2は、同型の3個の10枚翼タービンホイールA-1~A-3について、それぞれ各翼体12の各局部a~eにおける固有振動数を検出して平均し、さらに各タービンホイールA-1~A-3毎の個別平均値を算出したものである。表2より明らかなように、同型のタービンホイールA-1~A-3であれば、各個別平均値の3σバラツキ値は1.0kHz(固有振動数の絶対値の5%)程度であった。
【0022】
【表2】
【0023】
表3には、さらに他の同型の3個の10枚翼タービンホイールB-1~B-3について、それぞれ各翼体12の各局部a~eにおける固有振動数を検出して平均し、さらに各タービンホイールB-1~B-3毎の個別平均値を算出したものを示す。表3より明らかなように、同型のタービンホイールB-1~B-3における、各個別平均値の3σバラツキ値は0.9kHz(固有振動数の絶対値の5%)程度であった。
【0024】
【表3】
【0025】
このように、本実施形態によれば、エアブローノズル3を近接させて鋳造品としてのタービンホイール1の薄肉部たる各翼体12の局部a~eの固有振動数を一定誤差内で正確に測定することができるから、組成が明確になっていれば上記局部a~eの肉厚が推定でき、一方、肉厚が明確になっていれば上記局部a~eの組成が推定できる、というように薄肉部の局部の特性が推定でき、これら特性を鋳造金型の設計にフィードバックすることができる。
【0026】
さらに、複数の翼体12の各局部a~eの固有振動数から、各翼体12毎の固有振動数の平均値、タービンホイール1全体の固有振動数の平均値、あるいはタービンホイール1の各ロット毎の固有振動数の平均値等を得て、これらを統計処理することによって、当該統計処理から推定された特性に基づき鋳造金型の設計や鋳造条件の最適化を行うことができる。
上記実施形態では鋳造品としてタービンホイールを、薄肉部としてその翼体を例示したが、これに限られるものではない。
【符号の説明】
【0027】
1…タービンホイール(鋳造品)、12…翼体(薄肉部)、3…エアブローノズル、4…パルス電磁弁、5…圧縮エア源、6…レーザドップラー振動計、7…演算装置、a…エッジ端(局部)、b…エッジ中間(局部)、c…エッジ根元(局部)、d…翼面中心(局部)、e…翼下エッジ(局部)。
図1
図2