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  • 特開-ポリイソプレンの質量分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137205
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ポリイソプレンの質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230922BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20230922BHJP
   G01N 30/95 20060101ALI20230922BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230922BHJP
   G01N 30/93 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N27/62 V
H01J49/04 180
G01N30/95 A
G01N30/88 C
G01N30/93
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043296
(22)【出願日】2022-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公益社団法人 日本分析化学会 高分子分析研究懇談会、第26回高分子分析討論会 講演要旨集、2021年10月21日、http://www.pacd.jp/storage/1b48cc9b30d492c9aaf6ee49b7a847f9.pdf 2.公益社団法人 日本分析化学会 高分子分析研究懇談会、第26回高分子分析討論会(オンライン開催)、2021年10月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】有村 昭二
(72)【発明者】
【氏名】北川 慎也
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬直
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA09
2G041GA03
2G041GA06
(57)【要約】
【課題】 薄層クロマトグラフィーとレーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法とを組み合わせて、試料に含まれるポリイソプレンの分子量を測定することができるポリイソプレンの質量分析方法を提供する。
【解決手段】 ポリイソプレンの質量分析方法は、試料に含まれるポリイソプレンを、薄層クロマトグラフィーにより分離する分離工程と、薄層クロマトグラフィープレート上に分離された該ポリイソプレンに、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を塗布して、測定用プレートを作製する測定用プレート作製工程と、該測定用プレートを、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いて測定し、マススペクトルを得る測定工程と、を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれるポリイソプレンを、薄層クロマトグラフィーにより分離する分離工程と、
薄層クロマトグラフィープレート上に分離された該ポリイソプレンに、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を塗布して、測定用プレートを作製する測定用プレート作製工程と、
該測定用プレートを、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いて測定し、マススペクトルを得る測定工程と、
を有することを特徴とするポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項2】
前記測定用プレートを作製する際に、有機マトリックス剤を使用しない請求項1に記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項3】
前記遷移金属化合物は、銀化合物を有する請求項1または請求項2に記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項4】
前記銀化合物は、トリフルオロ酢酸銀を有する請求項3に記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項5】
前記薄層クロマトグラフィープレートは、支持体と担体とを有し、
該担体は、オクタデシル基で修飾されたシリカゲルを有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項6】
前記イオン化剤溶液は、界面活性剤を含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【請求項7】
前記界面活性剤は、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)を有する請求項6に記載のポリイソプレンの質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いて、試料に含まれるポリイソプレンの分子量を測定するポリイソプレンの質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムはポリイソプレンを主成分とし、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ないなどの優れた性質を有することから、タイヤ、防振ゴム、ベルトなどの様々なゴム製品に用いられる。ゴム製品の需要の拡大から、天然ゴムの消費量は増加すると予測される。天然ゴムは、パラゴムノキから採取される自然資源であるため、自然保護、持続可能な利用などの観点から、天然ゴムと同等の特性を有する合成ゴム(合成ポリイソプレン)の必要性が高まっている。
【0003】
一般に、合成ゴムなどの高分子材料の物性を知るためには、分子量や分子量分布を測定することが重要になる。例えば、高分子材料の分子量を直接的に測定する方法として、質量分析法(MS)が挙げられる。質量分析法は、原子または分子をイオン化し、高真空中で電場や磁場を作用させて移動させることにより、イオンの質量の違いを利用して分離、検出する方法である。物質をイオン化する方法としては、電子イオン化法(EI)、化学イオン化法(CI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、レーザー脱離イオン化法(LDI)などが挙げられる。生成したイオンの分離方法としては、四重極型(Q)、磁場型(BE)、飛行時間型(TOF)などが挙げられる。高分子材料を測定する場合には、LDIとTOFとを組み合わせたLDI-TOFMSが広く活用されている。なかでも、高分子材料を有機マトリックス剤と混合してイオン化させる、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)は、イオン化しにくい成分の質量を測定する方法として有用である。
【0004】
例えば、特許文献1には、高分子化合物の分析方法として、高分子化合物を含む試料をジスラノールなどの有機マトリックス試薬中に分散させて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)を用いてマススペクトルデータを得る方法が記載されている。特許文献2には、タンパク質などの試料と、シナピン酸などの有機マトリックス分子と、をシリカゲルなどの多孔性微粒子の存在下で共結晶化してサンプルを調製し、当該サンプルを用いてマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-138273号公報
【特許文献2】特開2006-189391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、測定対象の試料がポリイソプレン単体であれば、MALDI-TOFMSを用いて測定することができる。一方、ポリイソプレンを合成する過程では、触媒などが添加され様々な反応が進行するため、得られる生成物には目的とするポリイソプレンの他に多くの夾雑物が含まれる。このような生成物をMALDI-TOFMSを用いて測定した場合、夾雑物が邪魔をして、ポリイソプレン自体を正確に測定することができない。そこで本発明者は、まず、生成物を薄層クロマトグラフィー(TLC)により展開し、ポリイソプレンと夾雑物とを分離することにした。それから、TLC板上に分離されたポリイソプレンを直接イオン化して、質量分析することを試みた。しかしながら、本発明者が検討したところ、TLC板上では、試料のみの場合も、MALDI-TOFMSで通常使用される有機マトリックス剤を用いても、ポリイソプレンをイオン化することはできないことがわかった。
【0007】
前述した特許文献1、2においては、夾雑物が含まれる試料に対してTLCを用いることは記載されていない。例えば、特許文献1に記載されている分析方法においては、高分子化合物を含む試料をMALDI-TOFMSを用いて測定する前に、溶媒を用いて所望の成分を抽出している。特許文献2に記載されている分析方法においては、試料に多孔性微粒子を添加することにより夾雑物による影響を抑制している。さらに、特許文献1、2においては、TLCにMALDI-TOFMSを組み合わせる形態や、TLC板上で測定対象物をイオン化することも検討されていない。
【0008】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、薄層クロマトグラフィーとレーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法とを組み合わせて、試料に含まれるポリイソプレンの分子量を測定することができるポリイソプレンの質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示のポリイソプレンの質量分析方法は、試料に含まれるポリイソプレンを、薄層クロマトグラフィーにより分離する分離工程と、薄層クロマトグラフィープレート上に分離された該ポリイソプレンに、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を塗布して、測定用プレートを作製する測定用プレート作製工程と、該測定用プレートを、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いて測定し、マススペクトルを得る測定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示のポリイソプレンの質量分析方法によると、まず薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、夾雑物を含む合成ポリイソプレンの試料から、測定対象のポリイソプレンを分離する。こうすることで、夾雑物の影響を排除することができ、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(LDI-TOFMS)を用いて、ポリイソプレンの分子量を正確に測定することができる。ここで、ポリイソプレンはレーザー光を吸収しにくい。よって、レーザー光を照射しただけでは、ポリイソプレンをイオン化することはできない。本発明者が鋭意検討を重ねた結果、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を使用することにより、ポリイソプレンをイオン化することができることを見いだした。ポリイソプレンのイオン化メカニズムは、次のように推測される。遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液にレーザー光を照射すると、イオン化剤溶液が加熱され、遷移金属のナノ粒子が生成する。生成した遷移金属のナノ粒子が脱離し、その際、ポリイソプレンに陽イオンが付加されることにより、ポリイソプレンも脱離してイオン化する。
【0011】
本開示のポリイソプレンの質量分析方法においては、ポリイソプレンをイオン化する手法として遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を用いるが、従来より用いられている有機マトリックス剤の併用を排除するものではない。しかしながら、本開示のポリイソプレンの質量分析方法によると、有機マトリックス剤を使用しなくても、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を用いればポリイソプレンの分子量を測定することができる。また、本開示のポリイソプレンの質量分析方法によると、薄層クロマトグラフィープレート上で、ポリイソプレンをイオン化することができる。このため、ポリイソプレンを分離した薄層クロマトグラフィープレートをそのまま使用することができ、測定が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例1のマススペクトルを示す図である。
図2】実験例2のマススペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示のポリイソプレンの質量分析方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。本開示のポリイソプレンの質量分析方法は、分離工程と、測定用プレート作製工程と、測定工程と、を有する。
【0014】
<分離工程>
本工程は、試料に含まれるポリイソプレンを、薄層クロマトグラフィーにより分離する工程である。
【0015】
[試料]
試料は、ポリイソプレンを含む液体であればよく、ポリイソプレンを溶媒に溶解した溶液、イソプレンの重合により得られた生成物を溶媒に溶解した溶液などが挙げられる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ブタノール、トルエンなどを用いればよい。溶液(試料)中のポリイソプレンの濃度は、2.5mg/mL以上が好適である。試料に含まれるポリイソプレンの分子量は、例えば数平均分子量が400以上2500以下であることが望ましい。分子量が大き過ぎると、LDI-TOFMSによる測定時に脱離しにくくなる。
【0016】
[薄層クロマトグラフィー]
薄層クロマトグラフィーは、薄層クロマトグラフィープレート上に試料を付着、乾燥させた後、溶媒で展開することにより、試料中の成分を分離する。薄層クロマトグラフィープレートは、ポリイソプレンに親和性があり、ポリイソプレンが適度に吸着される担体を有する。担体としては、シリカゲル、アルミナ、セルロースなどが挙げられる。また、シリカゲルのシラノール基に有機部位を化学結合した化学修飾型シリカゲルなどでもよい。有機部位としては、オクタデシル基、オクチル基、ジメチルシリル基などが挙げられる。後述するように、ポリイソプレンの分子量が大きくなると、担体との相互作用により、LDI-TOFMSによる測定時にポリイソプレンが担体から脱離しにくくなる場合がある。このような場合には、例えば担体の種類や、シリカゲルに化学結合する有機部位の種類などを変更することが望ましい。
【0017】
薄層クロマトグラフィープレートは、担体を支持する支持体を有してもよい。支持体としては、ガラスプレート、プラスチックシート、アルミニウムシートなどが挙げられる。支持体は、試料や展開溶媒の種類などに応じて適宜選択すればよい。試料は、キャピラリー、マイクロピペットなどを用いて、薄層クロマトグラフィープレート上に点状または面状に付着させればよい。あるいは、薄層クロマトグラフィープレートの一辺を試料に接触させて付着させてもよい。展開溶媒は、ポリイソプレンの溶解性、分離性などを考慮して適宜選択すればよい。水、アセトン、ジクロロメタン、メタノールなどの極性溶媒から選ばれる一種を単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
<測定用プレート作製工程>
本工程は、薄層クロマトグラフィープレート上に分離されたポリイソプレンに、遷移金属化合物を含むイオン化剤溶液を塗布して、測定用プレートを作製する工程である。
【0019】
イオン化剤溶液は、次の測定工程において、ポリイソプレンをイオン化するための試薬である。遷移金属化合物は、レーザー光を吸収し、そのエネルギーを熱エネルギーに変換すると共に、遷移金属のナノ粒子を生成し、ポリイソプレンに陽イオンを付加することができるものであればよい。例えば、銀化合物などが挙げられる。なかでも、トリフルオロ酢酸銀が望ましい。溶媒は、遷移金属化合物の種類により適宜選択すればよく、例えば、THF、メタノールなどを用いればよい。イオン化剤溶液は、遷移金属化合物の濃度が、5mg/mL以上20mg/mL以下になるように調製すればよい。イオン化剤溶液の塗布は、キャピラリー、マイクロピペットなどを用いて、薄層クロマトグラフィープレート上のポリイソプレンに滴下してもよく、薄層クロマトグラフィープレートごとイオン化剤溶液に浸漬してもよい。
【0020】
本工程においては、ポリイソプレンをイオン化するための試薬として、イオン化剤溶液に加えて、従来より用いられている有機マトリックス剤を使用することを排除しない。しかしながら、有機マトリックス剤を併用すると、有機マトリックス剤が薄層クロマトグラフィープレートの担体に吸着して、ポリイソプレンの脱離、イオン化が阻害される場合がある。したがって、測定用プレートを作製する際には、有機マトリックス剤を使用しない形態が望ましい。
【0021】
ポリイソプレンの分子量が大きいほど、薄層クロマトグラフィープレートの担体との相互作用は大きくなる。例えば、担体がオクタデシル基(C1837)を有するシリカゲルの場合、ポリイソプレンがオクタデシル基に吸着して、次工程におけるLDI-TOFMSによる測定時にポリイソプレンが担体から脱離しにくくなる場合がある。ポリイソプレンの脱離が充分ではないと、正確な測定が難しくなる。そこで、担体との相互作用を抑制し、分子量が大きいポリイソプレンについても精度良く測定するという観点においては、イオン化剤溶液に界面活性剤を配合することが望ましい。界面活性剤を配合すると、それがポリイソプレンと担体との相互作用を阻害して、ポリイソプレンの脱離を促進することができる。例えば、界面活性剤の配合効果は、ポリイソプレンの数平均分子量が1800以上の場合で顕著に現れる。
【0022】
界面活性剤としては、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)などが挙げられる。界面活性剤は、THF、メタノール、水などの溶媒に溶解し、所望の濃度に調製された溶液の状態で配合すればよい。界面活性剤の濃度は、10mg/mL以上が好適である。
【0023】
<測定工程>
本工程は、作製された測定用プレートを、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(LDI-TOFMS)を用いて測定し、マススペクトルを得る工程である。LDI-TOFMSによる測定は、通常使用される装置、条件にて行えばよい。LDI-TOFMSによると、測定用プレートを装置の試料プレートの上に配置して、所定のレーザー光を照射することにより、ポリイソプレンがイオン化されて質量電荷比が測定される。得られたマススペクトルの横軸はm/z(イオンの質量mと電荷数zとの比)であり、縦軸は相対ピーク強度(相対存在量)である。得られたマススペクトルより、ポリイソプレンを構成する分子量が異なる各成分、およびその相対存在量が測定される。
【実施例0024】
(1)実験例1
試料として、数平均分子量(Mn)が800のポリイソプレン(PI)を含む溶液を使用して、TLC-LDI-TOFMSによる測定を行った。
【0025】
<分離工程>
試料に含まれるポリイソプレンを、薄層クロマトグラフィーにより分離した。試料としては、ポリイソプレン(Mn=800)がTHFに溶解されているポリイソプレン溶液(PPS(ポリマースタンダードサービス)社製「PSS-pio800」、ポリイソプレン濃度2.5mg/mL)を用いた。薄層クロマトグラフィープレートとしては、支持体がアルミニウムシート、担体がオクタデシル基で修飾されたシリカゲルであるメルク(株)製の製品「シリカゲル 60 RP-18 F254S アルミニウムシート」を、縦70mm×横25mmの長方形状に切断して用いた。展開溶媒としては、ジクロロメタンとメタノールとを体積比で7:3で混合した混合溶媒を使用した。
【0026】
まず、試料を、薄層クロマトグラフィープレートの一方の短辺から10mmの位置にマイクロピペットにて5μL滴下して、点状に付着させた後、乾燥させた。次に、展開槽に展開溶媒を入れ、蓋をして5分静置した。続いて、展開槽の蓋を開け、薄層クロマトグラフィープレートを、試料を付着させた方の短辺が下になるように入れ、展開溶媒が所定の高さまで移動するまで静置した。展開が終了した後、薄層クロマトグラフィープレートを取り出して、乾燥した。
【0027】
<測定用プレート作製工程>
得られた薄層クロマトグラフィープレート上のポリイソプレンに、イオン化剤溶液を5μL滴下して、測定用プレートを作製した。イオン化剤溶液としては、トリフルオロ酢酸銀(AgTFA)をTHFに溶解したAgTFA溶液を用いた。AgTFA溶液のAgTFA濃度は、10mg/mLである。
【0028】
<測定工程>
作製された測定用プレートを、ITO(酸化インジウムスズ)ガラス基板に貼り付けて、LDI-TOFMSを用いて測定した。測定は、スパイラルTOFMS装置(日本電子(株)製「JMS-S3000」、Nd:YLFレーザー)を用いて、positiveモードで行った。
【0029】
<測定結果>
図1に、薄層クロマトグラフィー展開後の4.7cmの位置における測定で得られたマススペクトルを示す。図1中、横軸はm/z、縦軸は相対ピーク強度である。図1に示すように、m/zが560~920において、イオン化したポリイソプレン[PI+Ag]のピークとして、重合度nが6~11のポリイソプレンのピークが観測された。このように、AgTFAを含むイオン化剤溶液を用いることにより、薄層クロマトグラフィープレート上において、ポリイソプレンをイオン化して質量分析することができることが確認された。
【0030】
(2)実験例2
試料として、数平均分子量(Mn)が1820のポリイソプレンを含む溶液を使用して、薄層クロマトグラフィープレート上で、LDI-TOFMSによる測定を行った。
【0031】
実験例2においては、試料を薄層クロマトグラフィープレート上に滴下した後、展開せずにそのままイオン化剤溶液を滴下して、測定用プレートを作製した。試料としては、ポリイソプレン(Mn=1820)がTHFに溶解されたポリイソプレン溶液(PPS社製「PSS-pio2.1k」、ポリイソプレン濃度10mg/mL)を用いた。まず、試料を、実験例1と同じ薄層クロマトグラフィープレートの一方の短辺から10mmの位置にマイクロピペットにて5μL滴下して、点状に付着させた後、乾燥させた。次に、薄層クロマトグラフィープレート上のポリイソプレンに、イオン化剤溶液を5μL滴下して、測定用プレートを作製した。イオン化剤溶液は、実験例1と同じAgTFA溶液(AgTFA濃度10mg/mL)に、界面活性剤のCHAPSをTHFに溶解したCHAPS溶液(CHAPS濃度40mg/mL)を加えた混合溶液を用いた。
【0032】
作製された測定用プレートを、ITOガラス基板に貼り付けて、LDI-TOFMSを用いて測定した。測定は、実験例1と同じスパイラルTOFMS装置を用いて、positiveモードで行った。
【0033】
<測定結果>
図2に、得られたマススペクトルを示す。図2中、横軸はm/z、縦軸は相対ピーク強度である。図2に示すように、m/zが1000~2000において、イオン化したポリイソプレン[PI+Ag]のピークとして、重合度nが13~27のポリイソプレンのピークが観測された。このように、AgTFAとCHAPSとを含むイオン化剤溶液を用いることにより、薄層クロマトグラフィープレート上において、数平均分子量が1800以上の高分子量のポリイソプレンをイオン化して質量分析することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示のポリイソプレンの質量分析方法によると、試料に夾雑物が含まれる場合でもポリイソプレンの分子量を正確に測定することができる。例えば、人工的に合成されたポリイソプレンの分析、ポリスチレンの分解物の分析などに有用である。
図1
図2