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特開2023-137218リッド及びその製造方法並びに水晶振動子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137218
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】リッド及びその製造方法並びに水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/02 20060101AFI20230922BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H03H9/02 A
H01L23/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043323
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC04
5J108EE03
5J108GG03
5J108GG09
5J108GG15
5J108GG16
5J108GG20
5J108GG21
(57)【要約】
【課題】Ni層表面上に封止用部材を溶着することで、材料コストを抑え、かつ、ベースと接合時に封止用部材の流れ出しが発生しないリッド及びその製造方法並びに水晶振動子を提供する。
【解決手段】電子部品用のリッド10は、金属部材で構成された基材11と、基材11の表面上に形成したNi層12と、Ni層12の表面上に溶着した封止用部材13と、を具えている。封止用部材13は還元雰囲気下でNi層12の表面上に溶着され、Ni層12の表面上の、封止用部材13が溶着されている箇所以外は酸化膜で覆われている。水晶振動子40は、水晶片20を搭載したベース30と、ベース30と接合し、水晶片20を封止するためのリッド10から構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品用のリッドであって、
金属部材で構成された基材と、
前記基材の表面上に形成されたNi層と、
前記基材の縁部に沿って、前記電子部品用のベースに当該基材を接続するため前記Ni層に溶着されている封止用部材と、
を具えることを特徴とするリッド。
【請求項2】
前記封止用部材はAuSnで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のリッド。
【請求項3】
前記基材はコバールで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリッド。
【請求項4】
前記リッド及び前記ベースは水晶振動子用であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリッド。
【請求項5】
金属部材で構成された基材、前記基材の表面上に形成されたNi層及び前記基材の縁部に沿って、前記Ni層に溶着されている封止用部材を具えるリッドと、
前記リッドに前記封止用部材を介し接続されているベースと、
前記リッド及び前記ベースで形成された容器内に実装されている水晶片と、
を具える水晶振動子。
【請求項6】
金属部材で構成された基材を具えるリッドの製造方法において、
前記基材の縁部に沿って封止用部材を溶着するに当たり、
前記基材の表面上にNi層を形成する工程と、
前記Ni層の表面上に、還元雰囲気下で前記封止用部材を溶着する工程と、
を含むことを特徴とするリッドの製造方法。
【請求項7】
前記還元雰囲気は水素又はギ酸による還元ガス雰囲気であることを特徴とする請求項6に記載のリッドの製造方法。
【請求項8】
前記還元ガス雰囲気は、体積比において前記還元剤の濃度が5vol%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のリッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料コストを抑え、かつ、ベースと接合時に封止用部材の流れ出しが発生しないリッド及びその製造方法並びに水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子や水晶発振器等の電子部品では、パッケージ内の空間に素子を実装すると共に、素子を保護するためパッケージに封止構造を設けている。これらパッケージは、素子を搭載するためのベースと、素子を封止するための蓋となるリッドから構成される。ベースとリッドを封止する方法の一つとして、封止用部材である、例えば、ろう材を用いる方法がある。ろう材は、ベースとリッドの接合予定領域の形状にプリフォームされており、典型的には、予めリッド側に溶着されている。
【0003】
図5の(A)図は、従来のリッド70の一例を示す斜視図である。また、図5の(B)は、(A)図中のD-D線に沿った断面図である。
従来のリッド70は、金属部材の、例えば、コバールで構成された、平面視において矩形状に形成された基材71と、周知のめっき技術により基材71の表面上を覆うように形成されたNi層72と、周知のめっき技術によりNi層72の表面上を覆うように形成されたAu層73と、基材71の、ベースと接合される面の縁部に沿って、ベースと基材71の接合予定領域上にリング状に形成された、ベースと基材71を接合するためAu層73の表面上に溶着されている封止用部材74と、を具えている。Au層73は封止用部材74の濡れ性を改善するための役割を担っているが、封止用部材74の濡れ性が良すぎると、ベースにリッド70を接合する際に、封止用部材74が、ベースとリッドの接合予定領域から流れ出す恐れがあった。封止用部材74がベースとリッドの接合予定領域から流れ出すと、気密不良や外観不良等が生じてしまう。
【0004】
この問題を解決するリッドの一例として、特許文献1に開示されたものがある。これによれば、金めっき(Au層)の厚さとろう材(封止用部材)の濡れ性との間には特徴的な関連性があり、金めっきが所定の厚さ以上になるとめっき厚さの増大に伴い、ろう材の濡れ性が低下することから、金めっきを0.1~3μmの厚さにすることで、ろう材がベースとリッドの接合予定領域から流れ出すことを防止できると記載されている(特許文献1の段落0010、0013)。
【0005】
また、特許文献2では、表面上にNiめっき層(Ni層)及びAuめっき層(Au層)を順に具える基材において、Auめっき層を半田(封止用部材)領域に沿ってレーザーで除去し、Niめっき層の表面を露出させるとともに、露出したNiめっき層の表面を酸化させ、Auめっき層よりも半田に対する濡れ性が低い酸化膜層を形成することで、半田が濡れ広がるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003―224223
【特許文献2】特開2015―73027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの従来技術の場合、Auを使用しているため、リッドの材料費を高めてしまうという問題がある。近年、Auの価格は高騰しており、原価低減のためにはAuの使用量を減らすことが重要である。
この発明は、このような点に鑑みなされたものであり、従ってこの出願の目的は、従来よりも材料コストを抑えられ、かつ、封止用部材の流れ出しの発生しない、新規の構造を有したリッド及びその製造方法並びに水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的の達成を図るため、この発明のリッドによれば、金属部材で構成された基材と、前記基材の表面上に形成されたNi層と、前記基材の縁部に沿って、前記電子部品用のベースに当該基材を接合するため前記Ni層に溶着されている封止用部材と、を具えることを特徴とする。
【0009】
また、この発明の水晶振動子によれば、金属部材で構成された基材、前記基材の表面上に形成されたNi層及び前記基材の縁部に沿って、前記Ni層に溶着されている封止用部材を具えるリッドと、前記リッドに前記封止用部材を介して接続されるベースと、前記リッド及び前記ベースで形成された容器内に実装されている水晶片と、を具えることを特徴とする。
【0010】
また、金属部材で構成された基材の縁部に沿って封止用部材を溶着するリッドの製造方法において、前記基材の表面上にNi層を形成する工程と、前記Ni層上に、還元雰囲気下で前記封止用部材を溶着する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明のリッドによれば、基材の表面上に形成されたNi層の表面上に、Au層を設ける必要がないため、材料コストを抑えることができる。また、Niは大気にさらされると酸化膜を形成するため、前記Ni層上の封止用部材が設けられていない箇所に酸化膜が形成される。前記酸化膜は前記Au層よりも前記封止用部材に対する濡れ性が低く、前記封止用部材とは溶着しないため、ベースに前記リッドを接合する際に、前記封止用部材が流れ出すことを防止することができる。
また、この発明の水晶振動子によれば、水晶片を封止するためのリッドに、基材の表面上に形成されたNi層の表面上に、Au層を設ける必要がないリッドを用いるため、材料コストを抑えることができる。
また、前記リッドの製造方法によれば、基材の表面上にNi層を形成し、前記Ni層に、還元雰囲気下で封止用部材を溶着する工程を用いるので、前記Ni層上の酸化膜は還元雰囲気下により除去され、前記封止用部材を前記Ni層上に溶着することが可能となる。従って、前記Ni層上にAu層を設ける必要がなく、前記Ni層上に直接前記封止用部材を溶着したリッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1の(A)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す斜視図である。図1の(B)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す断面図である。
図2図2の(A)図は、本発明の実施形態の水晶振動子の概要を示す斜視図である。図2の(B)図は、本発明の実施形態の水晶振動子の概要を示す断面図である。
図3】本発明のリッドの製造方法の実施形態を説明する説明図である。
図4図3に続く製法例の説明図である
図5図5の(A)図は、従来のリッドの概要を示す斜視図である。図5の(B)図は、従来のリッドの概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの出願のリッド及びその製造方法並びに水晶振動子の各発明の実施形態についてそれぞれ説明する。
なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
1.リッドの構成
図1の(A)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す斜視図である。また、図1の(B)図は、(A)図中のA-A線に沿った断面図である。
本発明のリッド10は、金属部材の、例えばコバールで構成され、例えば平面視において矩形状に形成された基材11と、基材11の表面上を覆うように、封止用部材13を基材11に溶着するため周知のめっき技術で形成されたNi層12と、基材11の、電子部品用のベースと接合される面の縁部に沿って、ベースと基材11の接合予定領域上に、ベースと基材11を接合するためNi層12の表面上に溶着されている、リング状に形成された封止用部材13と、を具えている。Ni層12の、封止用部材13が溶着された領域以外の領域は、酸化膜で覆われている。なお、Ni層12の厚みは、基材11の耐環境性等を可能にする設計に応じた任意の厚さとしてある。
【0015】
Ni層上に形成されている前記酸化膜は濡れ性が低く、封止用部材13とは接合しないため、水晶振動子用のベースにリッド10を接合する際に、封止用部材13が電子部品用のベースとリッド10の接合予定領域から流れ出すことを防止することができる。
【0016】
また、封止用部材13は、耐食性に優れていることに加え、デバイス組込み工程で使用される、はんだ(融点180℃~230℃)よりも融点が高く、組立工程時に再溶融されることなくパッケージの気密性を維持することができることから、AuSn(融点280℃~300℃)で構成されていることが好ましい。
【0017】
2.水晶振動子の構成
本発明のリッドは、種々の電子部品のパッケージの構成成分である蓋材として使用できる。以下、本発明のリッドを、水晶振動子のパッケージの蓋材に用いて構成した水晶振動子の例を説明する。図2はその説明のための図であり、(A)図は、水晶片を搭載するためのベースと、ベースに搭載される水晶片と、水晶片を封止するための本発明のリッドと、を用いた水晶振動子の斜視図である。また、(B)図は、(A)図中のB-B線に沿った水晶振動子の断面図である。
【0018】
本発明のリッド10、任意の形状の、この例では平面視で矩形状の水晶片20及び、ベースとして、例えば周知のセラミックベース30(以下、ベース30と略称することもある)を用意する。この場合のベース30は、平面視において矩形状であり、図2の(A)図及び(B)図に示すように、水晶片20を収納する凹部30aと、ベース30の縁部に沿って土手部30bと、凹部30aの底面に設けた水晶片固定用のバンプ30cと、ベース30の裏面に設けた実装端子30dと、を具えている。バンプ30cと実装端子30dとはビア配線(図示せず)により電気的に接続してある。
【0019】
バンプ30cの上に、水晶片20を、例えば導電性接着剤等(図示しない)で固定し、その後、水晶片20の発振周波数調整を周知の方法により所定値に調整する。次に、ベース30のベース30a内を適度な真空又は不活性ガス雰囲気等にした後、リッド10により凹部30aを周知の方法により封止する。
このようにしてリッド10及びベース30に水晶片20が収納された構造の、水晶振動子40が得られる。
【0020】
3.リッドの製造方法
図3は、本発明のリッドの製造方法の実施形態を説明する説明図である。初めに、金属部材、例えばコバールで構成された、例えば平面視において矩形状の基材51を用意し、基材51の表面上を覆うように、周知のめっき技術によりNiめっきを施し、基材51の表面上にNi層52を形成する。
【0021】
次に、表面上にNi層52を形成した基材51を、図4の(A)図に示すように処理室60に運ぶ。基材51を処理室60に運んだ後に、処理室60内に還元ガスを注入し、処理室60の雰囲気を還元雰囲気状態にする。その理由は次の通りである。通常、Ni層52は表面上に酸化膜を形成してしまい、酸化膜は濡れ性が低いため、封止用部材53は基材51に溶着できないが、基材51を還元雰囲気下におくことで、Ni層52の表面上の酸化膜を除去することができる。これにより、封止用部材53を基材51に溶着することができる。
処理室60の雰囲気が還元雰囲気状態になった後に、処理室60内にて、基材51の縁部に沿って、ベースと基材51の接合予定領域上に、リング形状に予めプリフォームした封止用部材53を、基材51の、ベースと基材51の接合面側に重ね合わせる。
【0022】
ここで、使用する還元ガスとして、例えば、水素又はギ酸が挙げられる。また、還元ガスの濃度は、爆発の危険性を考慮すると、体積比において5vol%以下であることが好ましい。還元ガスの濃度は、例えば、流量計で管理することができる。
【0023】
次に、処理室60内の還元ガス雰囲気の温度を、封止用部材53の融点に達するまで上昇させる。これにより、封止用部材53は溶融し、基材51の表面上に形成したNi層52に溶着される。この際、還元ガス雰囲気の温度は、融点まで上昇させて封止用部材53が溶融した後、急峻に降下させる必要がある。これは、温度を上昇させた状態を保ち続けてしまうと、封止用部材53が溶融され続け、プリフォームした形状が崩れてしまうからである。
【0024】
ここで、還元ガス雰囲気の温度は、封止用部材にAuSnを用いることを想定した場合、AuSnの融点である280℃~300℃であることが好ましい。
【0025】
Ni層52に封止用部材53を溶着させた基材51を、処理室60内から取り出し大気にさらすと、封止用部材53が溶着されていない箇所のNi層52の表面上が酸化され、酸化膜を形成する。酸化膜は濡れ性が低く、従って、ベースをリッドに接合する際に、封止用部材53がベースとリッドの接合予定領域から流れ出すことを防止することができる。
【符号の説明】
【0026】
10:本発明の実施形態のリッド 11:基材
12:Ni層 13:封止用部材
20:水晶片 30:ベース
30a:凹部 30b:土手部
30c:バンプ 30d:実装端子
40:本発明の実施形態の水晶振動子 50:本発明の実施形態のリッド
51:基材 52:Ni層
53:封止用部材 60:処理室
70:従来のリッド 71:基材
72:Ni層 73:Au層
74:封止用部材
図1
図2
図3
図4
図5