(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137285
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】植生装置、植生保護構造および植生装置の設置方法
(51)【国際特許分類】
A01G 13/10 20060101AFI20230922BHJP
A01M 29/30 20110101ALI20230922BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A01G13/10 Z
A01M29/30
E02D17/20 102B
E02D17/20 102C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043418
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
2D044
【Fターム(参考)】
2B024AA10
2B024DB04
2B024DB07
2B024DD04
2B024EB06
2B024EC07
2B121AA01
2B121BB27
2B121BB32
2B121EA25
2B121FA12
2D044DA02
2D044DA07
(57)【要約】
【課題】設置作業における施工性および/または安全性を改善した、植生植物の野生動物による食害を防止しつつ植生領域を緑化するための植生装置を提供する。
【解決手段】植生装置100は、縦横に延在し、植生領域に敷設されて植生領域を緑化するための植生マット101と、縦横に延在し、植生マット101の表面を上方から覆うように植生マット101に取着され、植生マット101上に発芽または生育した植生植物を動物による食害から保護するための網体106と、横方向に延伸する長尺形状を有し、網体106の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材111と、を備える。水平材111には、各支持位置で植生マット101から網体106を離間させて支持する支持脚115が固定される被固定部が設けられている。植生装置100を植生領域に設置する際、植生領域に敷設された植生マット101と網体106との間に支持脚115を立設して被固定部に固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生植物の動物による食害を防止しつつ植生領域を緑化する植生装置であって、
縦横に延在し、前記植生領域に敷設されて前記植生領域を緑化するための植生マットと、
縦横に延在し、前記植生マットの表面を上方から覆うように前記植生マットに取着され、前記植生マット上に発芽または生育した植生植物を動物による食害から保護するための網体と、
横方向に延伸する長尺形状を有し、前記網体の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材と、を備え、
前記水平材には、前記各支持位置で前記植生マットから前記網体を離間させて支持する支持脚が固定される被固定部が設けられ、
前記植生装置を前記植生領域に設置する際、前記植生領域に敷設された前記植生マットと前記網体との間に前記支持脚を立設して前記被固定部に固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられることを特徴とする植生装置。
【請求項2】
前記各水平材は、前記各支持位置において前記植生マットと前記網体との間に挟まれて保持されていることを特徴とする請求項1に記載の植生装置。
【請求項3】
前記各水平材は、前記各支持位置において前記網体に連結具によって連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の植生装置。
【請求項4】
前記水平材は長尺の棒材であり、前記水平材を保持したままで前記植生マットおよび前記網体を縦方向に巻取りまたは折り畳み可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植生装置。
【請求項5】
前記支持脚は、間伐材の丸太であり、直立した前記支持脚の頂面に前記水平材の前記被固定部が固定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の植生装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の植生装置と、
前記植生装置の前記植生マットと前記網体との間に立設された支持脚と、を備え、
前記植生マットが前記植生領域に敷設され、前記網体が前記植生マットから浮いた状態で前記支持脚に支持されていることを特徴とする植生保護構造。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の植生装置を植生領域に設置する方法であって、
前記植生装置を前記植生領域に敷設し、前記植生装置の植生マットおよび網体の少なくとも一方をアンカーで前記植生領域に固定する工程と、
前記網体の支持位置に保持された水平材を持ち上げて前記植生マットと前記網体との間に空間を形成する工程と、
前記空間に支持脚を配置して立設する工程と、
前記水平材の前記被固定部を立設した前記支持脚に固定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面、斜面、その他の緑化すべき土壌などの植生領域に敷設され、野生動物による食害を防止しつつ植生領域を緑化するための植生装置、該植生装置による植生保護構造、および、該植生装置の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種法面や新規造成地等の施工面においては、その緑化や植栽を積極的に行って、法面等の景観や環境を保全すると共に土砂の流失を防止することが行われている。従来、土壌、種子、肥料、保水材などの生育基盤材(又は植生基材)を保持する植生マットが植生領域の土壌にアンカーなどを用いて固定されることにより、緑化が行われている。しかしながら、植生領域の設置場所が山奥深く入った道路の法面等であって、鹿などの野生植物が出没する地帯では、植生領域に植生された植物が野生動物に食い荒らされるといった食害被害が頻繁に起こっている。つまり、野生動物が植生領域に侵入して、生え揃ってきた植生植物の芽を食い荒らしたり、踏みつけることによって、植生植物が枯れたり、生長不良を起こしたりして、植生領域に十分な植生を行えなくなってしまうという問題があった。この問題に対し、従来、野生動物による食害を防止しつつ、植生領域の緑化を行うために、種々の手段が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1は、植生植物の、野生鹿等の動物による食害を防止するための食害防止植生材を開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。特許文献1の食害防止植生材(10)は、斜面(20)上に敷設されることになる植生帯(11)と、この植生帯(11)の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物(P)の野生動物による食害を防止する網体(12)とを備える。植生帯(11)の所定幅(La)部分の両縁に、網体(12)の所定幅(La)より大きい拡大幅(Lb)部分の両縁が取り付けられる。これら植生帯(11)及び網体(12)間に挿入した高さ保持部材(13)によって、両植生帯(11)及び網体(12)間に、縦断面が三角形は台形となる保護空間(R)を形成する。また、高さ保持部材(13)は、網体(12)の拡大幅(Lb)内のほぼ中央内面に当接する水平材(13a)と、この水平材(13a)を植生帯(11)上に保持する支持脚(13b)とにより構成されている。食害防止植生材(10)の施工方法では、まず、斜面(20)上に敷設されることになる植生帯(11)の所定幅(La)部分の両縁に、植生植物(P)の野生動物による食害を防止する網体(12)の、植生帯(11)側の所定幅(La)部分より大きい拡大幅(Lb)部分の両側を取り付ける。この食害防止植生帯(10)が植生帯(11)と網体(12)とを所定間隔で止めてあるから、高さ保持部材(13)を抜いた状態の食害防止植生材(10)を斜面(20)上に展開してからアンカー(16)等で固定する。次に、網体(12)の拡大幅(Lb)内のほぼ中央内面に当接する水平材(13a)と、この水平材(13a)を植生帯(11)上に保持する支持脚(13b)とにより構成した高さ保持部材(13)を、各保護空間(R)を形成すべく、植生帯(11)と網体(12)との間の自由空間内に差し込む。以上の工程により、食害防止植生材(10)を設置し、植生帯(11)の植生植物(P)の野生動物による食害を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の食害防止植生材(植生装置)では、法面などの植生領域に施工する際、植生領域に対して、植生帯および網体の組を敷設して固定した後、植生帯および網体の間の所定の挿入位置に高さ保持部材を差し込んで配置する。しかしながら、植生領域が法面や斜面である場合、作業者は、法面上の異なる高さにある複数箇所の挿入位置まで、複数の高さ保持部材(水平材と脚部材との組立体、または、両部材)を担いで法面を何回も登ることが求められる。また、作業者が、急勾配の法面上の足場が悪い場所で作業する際、長尺の高さ保持部材を運搬し、その高さ保持部材を網体の網目に引っ掛かることを避けながら、植生帯と網体との間に挿入することは困難かつ危険な作業であった。すなわち、従来の植生装置およびその設置方法は、作業者にとって施工性が悪く、かつ、危険な作業であることが課題として挙げられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、設置作業における施工性および/または安全性を改善した、野生動物による植生植物への食害を防止しつつ植生領域を緑化するための植生装置を提供することにある。さらに、本発明の目的は、施工性を改善した、植生装置が法面に設置された植生保護構造、および、植生装置の設置方法をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の植生装置は、植生植物の動物による食害を防止しつつ植生領域を緑化する植生装置であって、
縦横に延在し、前記植生領域に敷設されて前記植生領域を緑化するための植生マットと、
縦横に延在し、前記植生マットの表面を上方から覆うように前記植生マットに取着され、前記植生マット上に発芽または生育した植生植物を動物による食害から保護するための網体と、
横方向に延伸する長尺形状を有し、前記網体の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材と、を備え、
前記水平材には、前記各支持位置で前記植生マットから前記網体を離間させて支持する支持脚が固定される被固定部が設けられ、
前記植生装置を前記植生領域に設置する際、前記植生領域に敷設された前記植生マットと前記網体との間に前記支持脚を立設して前記被固定部に固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられることを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態の植生装置によれば、網体が植生マットに取着され、複数の長尺の水平材が網体の複数の支持位置にそれぞれ保持されていることにより、植生領域に植生装置を組み立てて設置する際、複数の長尺の水平材の各々を各支持位置まで別途運搬する作業を少なくとも省略することができる。特に、植生領域が法面などの傾斜面である場合、作業者が長尺の複数の水平材を担いで植生領域を登り、各水平材を各支持位置まで運搬する作業を省略することができる。つまり、作業者は、植生マットおよび網体を植生領域に敷設した後、支持脚のみを支持位置に運搬すればよい。続いて、植生マット上の支持脚を立設し、予め各支持位置に保持された水平材の被固定部に支持脚を固定することで、植生装置を容易に組み立てることができる。したがって、本発明の植生装置は、その施工性および安全性を大幅に改善することが可能である。
【0009】
本発明のさらなる形態の植生装置は、上記形態の植生装置において、前記各水平材は、前記各支持位置において前記植生マットと前記網体との間に挟まれて保持されていることを特徴とする。すなわち、各水平材を上方から持ち上げることにより、網体を植生マットから浮かせて支持脚を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。したがって、本形態の植生装置は、より一層施工性を改善することができる。さらに、水平材を植生マットと網体との間に収容することにより、植生装置をコンパクトな形態に維持することができる。
【0010】
本発明のさらなる形態の植生装置は、上記形態の植生装置において、前記各水平材は、前記各支持位置において前記網体に連結具によって連結されていることを特徴とする。すなわち、各水平材を上方から持ち上げることにより、網体を植生マットから浮かせて支持脚を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。したがって、本形態の植生装置は、より一層施工性を改善することができる。
【0011】
本発明のさらなる形態の植生装置は、上記形態の植生装置において、前記水平材は長尺の棒材であり、前記水平材を保持したままで前記植生マットおよび前記網体を縦方向に巻取りまたは折り畳み可能であることを特徴とする。すなわち、植生装置はコンパクトな形態に変形して、運搬や保管に便利である。
【0012】
本発明のさらなる形態の植生装置は、上記形態の植生装置において、前記支持脚は、間伐材の丸太であり、直立した前記支持脚の頂面に前記水平材の前記被固定部が固定されることを特徴とする。すなわち、水平材に固定される支持脚に間伐材の丸太を採用可能である。これにより、工事により伐採した木材から支持脚を調達することを可能とし、また、施工現場周辺の業者からの支持脚を調達することを可能とし、そして、切り倒されたまま放置されることが多い間伐材を有効利用することを可能とする。
【0013】
本発明の一形態の植生保護構造は、
上記形態のいずれかの植生装置と、
前記植生装置の前記植生マットと前記網体との間に立設された支持脚と、を備え、
前記植生マットが前記植生領域に敷設され、前記網体が前記植生マットから浮いた状態で前記支持脚に支持されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の植生保護構造によれば、上記形態のいずれかの植生装置の作用効果を植生保護構造として発揮することができる。したがって、本発明の植生保護構造は、植生領域の緑化工事において、その施工性および安全性を大幅に改善したものである。
【0015】
本発明の一形態の方法は、上記形態のいずれかの植生装置を植生領域に設置する方法であって、
前記植生装置を前記植生領域に敷設し、前記植生装置の植生マットおよび網体の少なくとも一方をアンカーで前記植生領域に固定する工程と、
前記網体の支持位置に保持された水平材を持ち上げて前記植生マットと前記網体との間に空間を形成する工程と、
前記空間に支持脚を配置して立設する工程と、
前記水平材の前記被固定部を立設した前記支持脚に固定する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の一形態の植生保護構造によれば、上記形態のいずれかの植生装置の作用効果を方法として発揮することができる。特に、各水平材を上方から持ち上げることにより、網体を植生マットから浮かせて支持脚を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。その結果、支持脚を支持位置に立設する作業が容易となる。したがって、本発明の方法は、植生装置を設置する作業において、その施工性および安全性を大幅に改善したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の植生装置は、植生植物の動物による食害を防止しつつ植生領域を緑化することを可能とし、かつ、設置作業における施工性および/または安全性を改善することを可能とする。なお、本発明の「植生領域」とは、植物が植生される領域であり、野生動物や鳥類などによる被害から植生植物を保護すべき領域である。すなわち、「植生領域」は、法面、畑、田園、植生マットなどを含む広い概念である。同様に、「植生植物」とは、法面緑化のための草花、野菜や穀物などの食用植物などを含む広い概念である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の植生装置の概略斜視図。
【
図4】本発明の一実施形態の植生装置に用いられる植生マットを示す概略図。
【
図5】本発明の一実施形態の植生装置を植生領域に設置した植生保護構造を示す模式図。
【
図6】
図5の植生保護構造の経時変化を示す模式図。
【
図7】本発明の一実施形態の植生装置を法面(植生領域)に設置する方法の一工程を示し、植生マットおよび網体を法面に敷設する工程を示す模式図。
【
図8】本発明の一実施形態の植生装置を法面(植生領域)に設置する方法の一工程を示し、水平材を操作して植生マットおよび網体の間に空間を形成する工程を示す模式図。
【
図9】本発明の一実施形態の植生装置を法面(植生領域)に設置する方法の一工程を示し、植生マットおよび網体の間の空間に支持脚を立設させ、水平材に固定する工程を示す模式図。
【
図10】本発明の別実施形態(第2実施形態)の植生装置の断面図。
【
図11】
図10の植生装置を植生領域に設置した植生保護構造を示す模式図。
【
図12】本発明の別実施形態(第3実施形態)の植生装置の断面図。
【
図13】
図12の植生装置を植生領域に設置した植生保護構造を示す模式図。
【
図14】本発明の別実施形態(第4実施形態)の植生装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態の植生装置100は、特に法面などの植生領域に設置され、鹿などの野生動物からの食害から植生植物を保護しつつ、植生領域の土壌表面を植生植物で緑化するものである。植生植物による緑化は、例えば、牧草類や在来植物等を種子から導入することによってもよく、または周辺に自生する植物の自然侵入を促すことによってもよい。また、植生装置100は、法面の土壌表面に敷設されることによって、法面の景観の改善や土砂の流出防止の効果をもまた発揮し得る。しかしながら、本発明の植生装置100は、法面以外のいかなる土壌表面において使用されてもよい。
【0021】
本明細書では、植生装置100が法面に敷設されたときに法面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、法面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、植生装置100が法面に敷設されたときに法面の法肩側(上方又は高所側)に配置される側を「上」位置とし、法面の法尻側(下方又は低所側)に配置される側を「下」位置として定義する。
【0022】
図1乃至
図3を参照して、植生装置100の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の植生装置100の概略斜視図である。
図2は、該植生装置100の部分拡大斜視図である。
図3は、該植生装置100のA-A断面図である。
【0023】
本実施形態の植生装置100は、
図1に示すように、全体形状として平面形状を有し、ロール形態にコンパクトに巻取り可能である。なお、植生装置100は、縦方向に折り重ねられるように折り畳まれてもよい。また、
図2および
図3に示すように、植生装置100は、緑化すべき植生領域を被覆可能な平面形状を有する植生マット101と、植生マット101の表面を上方から覆うように平面形状を有する網体106と、横方向に延伸する長尺形状を有する複数の水平材111とを備える。そして、植生装置100を植生領域に設置する際、植生領域に敷設された植生マット101と網体106との間に複数の支持脚115を立設し、網体106と植生マット101との間に、動物が侵入できない植生保護空間を形成することによって、植生装置100が食害防止可能な形態に組み立てられる(
図5参照)。ここで、支持脚115は、各支持位置で、その頂面に網体106を載せることで、植生マット101から網体106を離間させて支持するための部材である。本実施形態では、支持脚115は、好ましくは、水平材111よりも短尺の棒材であり、より好ましくは、間伐材の丸太である。しかしながら、本発明の支持脚は、本実施形態に限定されず、種々の形態をとってもよい。
【0024】
植生マット101は、植生植物の生育を促進すべく、縦横に延在する可撓性のシートである。
図4は、本実施形態の植生マット101を示す概略斜視図である。植生マット101は、植生植物で緑化される土壌と反対側に設置される表面、および、土壌側に設置される裏面を有している。本実施形態では、植生マット101は、縦横に延在する可撓性の網状シート102と、網状シート102の裏面に貼り付けられた種子付シート103とから構成されている。
【0025】
図4に示すように、網状シート102は、縦糸及び横糸を略直交に編み込んで形成したネット体からなる。網状シート102には、網状体が2重となる複数の箇所を有し、当該箇所に横方向に長筒状に延びる複数の長筒部104が設けられている。長筒部104は、網状の長筒体から構成され、緑化材を内包する植生袋105を保持可能に構成されている。なお、緑化材は、緑化に用いられる植生材料であって、種子、肥料、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材などを少なくとも1つ含むものである。各長筒部104は、植生マット101の横方向に亘って長手状に延在している。また、長筒部104は、目が粗い粗部104a、及び、目が細かい密部104bを組み合わせてなる。なお、粗部104a及び密部104bは、縦横両方又はいずれかの目の大きさが相対的に異なる領域として定められている。粗部104aは、植生マット101の平面視において、長筒部104の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されている。特には、植生マット101平面における縦方向の略上側半分を粗部104aが占め、残りの略下側半分を密部104bが占めている。つまり、植生装置100が法面に敷設されたときに、長筒部104の外周の一部を占める粗部104aが上側に位置し、長筒部104の外周の残りを占める密部104bが下側に位置することにより、長筒部104からの緑化材の流出を効果的に抑えることができる。
【0026】
また、種子付シート103は、表面に植物の種子が散布され、通根性および通水性を有する不織布または織布シートから構成されたものである。つまり、植生マット101は、植生領域に敷設した後、経時とともに、その表面に植生植物を種子から発芽させることが可能である。
【0027】
網体106は、縦横に延在し、植生マット101の表面を上方から覆うように植生マット101に取着され、植生マット101上に発芽または生育した植生植物を野生動物による食害から保護するように構成されている。つまり、網体106は、支持脚115に支持された状態で、鹿などの野生動物が乗った場合に原形を維持する程度、または、僅かに撓む程度の強度を有することが好ましい。本実施形態では、網体106は、剛性の線材を編み合わせてなる金網からなる。なお、金網の網目の大きさや形状は、対象となる野生動物に合わせて任意に定められる。しかしながら、本発明の網体は、金網に限定されることなく、任意の材料で形成され得る。例えば、網体は、合成樹脂材料で一体的に成形されてなる剛性のネット体であってもよい。このようなネット体は、ネトロン(登録商標)シートとして呼称され、ネット体が合成樹脂で一体成形された所謂「編まないネット」として形成されているため、繊維を編んで形成したネットよりも強度及び耐久性が高い。
【0028】
植生マット101および網体106は、複数の留め具108によって互いに連結されている。本実施形態では、留め具108は、Cリングであり、網状シート102の線材と網体106の線材とを括っている。なお、留め具108は、Cリング以外の結束バンドや番線など他の任意の部材から選択され得る。そして、留め具108は、横方向に沿って列をなすように配置されている。本実施形態では、この留め具108の列間の縦方向の間隔は、約0.5~1.5mであるが、任意に定められてもよい。
【0029】
複数の水平材111は、横方向に延伸する長尺形状を有し、網体106を支持するための複数の支持位置にそれぞれ保持されている。1または複数の支持位置は、留め具108の列間に任意に定められる位置である。本実施形態では、水平材111は、横方向に延伸する剛性の鉄線または棒鋼からなる。また、水平材111は、植生マット101および網体106の横方向の幅の略全体に亘る長さを有している。なお、本実施形態では、水平材111の長さは、好ましくは、約0.5~1.5mに定められる。そして、各水平材111は、植生マット101と網体106との間に挟まれて保持されている。さらに、各水平材111は、各支持位置において網体106の裏面に連結具113によって連結されている。本実施形態では、連結具113は、水平材111を網体106の線材に括り付ける結束バンドまたは番線であるが、任意に選択され得る。また、水平材111には、支持脚115の頂面が固定される被固定部が設けられている。被固定部は、水平材111の両端や中央などの長手方向の複数の位置に任意に定められる。
【0030】
次に、
図5および
図6を参照して、本実施形態の植生装置100によって植生領域である法面Gを保護する植生保護構造10について説明する。
図5に示すように、植生保護構造10では、植生装置100が法面G上に組み立てられた状態で設置されている。より具体的には、植生マット101が、法面Gの土壌表面に敷設され、その上に網体106が配置されている。植生マット101がアンカー119で法面Gに固定されることにより、法面Gの土壌表面を緑化可能に覆っている。本実施形態では、アンカー119は、留め具108の位置で植生マット101および網体106の両方を法面Gに固定している。また、アンカー119は、L字状のアンカーピンであり、フック部分が法肩側を向くように配置されている。
【0031】
そして、各支持位置で網体106が支持脚115によって植生マット101から浮いた状態で支持されている。つまり、植生マット101と網体106との間に植生保護空間が形成されている。本実施形態では、縦方向(傾斜方向)における留め具108の列間(または、アンカー119による固定位置の間)の略中央に支持位置(つまり、支持脚115の立設位置)が定められている。そして、植生保護空間は、縦方向(傾斜方向)において、支持位置を頂点とした略三角形または台形の縦断面空間を成している。しかしながら、植生保護空間は、縦方向に複数の支持位置を定めることにより、より扁平な台形状の縦断面空間を成してもよい。また、本実施形態では、支持脚115は、間伐材の丸太である。支持脚115の長さは、植生植物の保護を確実にすべく、約0.1~0.5mであることが好ましい。なお、本実施形態では、支持脚115が植生マット101上に載置されているだけであるが、法面Gの傾斜が急勾配であり、安定して立設できない場合、支持脚115はアンカー等で法面Gに打ち付けられて固定されてもよい。
【0032】
また、植生保護構造10において、植生マット101上で立設した支持脚115の頂面に、水平材111の被固定部が固定具117を介して固定されている。ここでは、1本の水平材111に対して2本以上の支持脚115が固定されている。すなわち、水平材111および複数の支持脚115が協働して網体106を浮かせて支持する支持台を(縦方向の)各支持位置に形成している。なお、本実施形態では、固定具117は、又釘であるが、任意の固定手段が選択され得る。
【0033】
そして、植生保護構造10は、網体106が適度な剛性を有することから、野生動物、特に鹿の植生保護空間への侵入が規制されている。これにより、植生保護構造10は、発芽した芽に対する食害を未然に防止し、法面Gの緑化を効果的に促進することが可能である。
【0034】
図6は、
図5の設置直後の状態から経時した植生保護構造10’を示している。
図6に示すように、植生保護構造10’では、植生マット101上に植生植物Pが繁茂し、法面Gが緑化されている。このとき、植生植物Pは、その先端が網体106から上方に伸び出るまで生育している。野生動物は、植生保護空間から上方に伸び出た植生植物Pの先端部分を食べることはできるが、植生植物Pの根元付近は保護されているので、植生植物Pが食害によって枯れることが効果的に防止されている。したがって、植生保護構造10,10’は、野生動物による食害を防止しつつ、法面Gの緑化を効果的に促進し、かつ、その緑化した状態を安定的に維持することを可能とする。
【0035】
続いて、
図7~
図9を参照して、植生保護構造10を構築するべく、植生装置100を植生領域(法面G)に設置する方法について説明する。
【0036】
まず、緑化すべき法面Gの面積に応じて、植生装置100と、必要な本数の支持脚115を準備する。支持脚115は、間伐材の丸太であることから、工事により伐採した木材や、施工現場周辺の業者から調達することが可能である。次に、作業者は、ロール状に巻いた植生装置100を法面Gの法肩側に運搬する。
図7に示すように、ロール状の植生装置100を法面Gの上側から下側に転がすように展開させる。そして、アンカー119で植生マット101および/または網体106を法面Gに固定することにより、植生マット101および網体106を法面Gに敷設することができる。このとき、各水平材111は、その長尺方向が法面Gの(傾斜方向に直交する)等高線に沿うように配置されるとともに、法面Gの異なる高さにある各支持位置に配置されることになる。すなわち、作業者は、長尺の水平材111を担いでふたたび法面Gを登って各支持位置まで運搬する必要がない。そして、作業者は、各支持位置につき複数の支持脚115を運搬する作業を行う。
【0037】
次いで、
図8に示すように、作業者は、各支持位置において、植生マット101と網体106との間に保持された水平材111を持ち上げて植生マット101と網体106との間に空間を形成する。このとき、連結具113によって水平材111が網体106に連結されているので、水平材111を持ち上げると、植生マット101表面から網体106を簡単に浮かせることができる。そして、この空間を維持しつつ、複数の支持脚115を空間に挿入し、植生マット101上の横方向の所定の位置にそれぞれ立設させる。続いて、
図9に示すように、1本の水平材111を複数の支持脚115の頂面上に載置し、固定具117を用いて水平材111の被固定部を支持脚115の頂面に固定する。より具体的には、又釘である固定具117を水平材111の上方から支持脚115の頂面に打ち込むことにより、網体106、水平材111および支持脚115を一体的に連結または固定することができる。以上の工程を全ての支持位置において実行することで、植生装置100を組み立てて植生保護構造10を法面G上に構築することが可能である。なお、上記説明した設置方法は、一例にすぎず、各工程が適宜変更されてもよい。
【0038】
以下、本発明の一実施形態の植生装置100の作用効果について説明する。
【0039】
本実施形態の植生装置100によれば、網体106が植生マット101に取着され、複数の長尺の水平材111が網体106に連結されて複数の支持位置にそれぞれ保持されていることにより、植生領域に植生装置100を組み立てて設置する際、複数の長尺の水平材111の各々を各支持位置まで別途運搬する作業を省略することができる。特に、植生領域が急勾配の法面Gである場合、作業者が長尺の複数の水平材111を担いで法面Gを登り、各水平材111を各支持位置まで運搬する作業を省略することができる。つまり、作業者は、植生マット101および網体106を法面Gに敷設した後、支持脚115のみを支持位置に運搬すればよい。そして、作業者が各水平材111を上方から持ち上げることにより、網体106を植生マット101から浮かせて支持脚115を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。続いて、当該空間を介して、支持脚115を各支持位置で立設させ、予め各支持位置に保持された水平材111の被固定部に複数の支持脚115を固定することで、植生装置100を容易に組み立てることができる。したがって、本実施形態の植生装置100は、その施工性および安全性を大幅に改善することが可能である。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態を取り得る。以下、本発明の別実施形態を説明する。なお、各図面において、符番が共通する構成要素に関しては、特別な説明がない限り、同一又は類似の特徴を有する。
【0041】
[第2実施形態]
図10は、植生装置200の概略断面図である。
図11は、植生装置200による植生保護構造20を示す概略断面図である。
図10に示すように、植生装置200は、縦横に延在し、植生領域に敷設されて植生領域を緑化するための植生マット201と、縦横に延在し、植生マット201の表面を上方から覆うように植生マット201に取着され、植生マット201上に発芽または生育した植生植物を野生動物による食害から保護するための網体206と、横方向に延伸する長尺形状を有し、網体206の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材211と、を備える。本実施形態では、水平材211は、木製の丸棒である。また、各水平材211は、各支持位置において植生マット201と網体206との間に挟まれて保持されているが、網体206には連結されていない。水平材211には、各支持位置で植生マット201から網体206を離間させて支持する支持脚215が固定される被固定部が設けられている。本実施形態では、水平材211を支持脚215に固定する固定具217は、サドルバンド(またはサドル金具)である。植生装置200を植生領域に設置する際、植生領域に敷設された植生マット201と網体206との間に支持脚215を立設して被固定部に固定具217で固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられる。
図11に示すように、植生保護構造20では、固定具(サドルバンド)217が網体206の線材および水平材211の両方を上方から押さえるように支持脚215の頂面に固定されている。
【0042】
本実施形態の植生装置200によれば、網体206が植生マット201に取着され、複数の長尺の水平材211が複数の支持位置にそれぞれ保持されていることにより、植生領域に植生装置200を組み立てて設置する際、複数の長尺の水平材211の各々を各支持位置まで別途運搬する作業を省略することができる。また、作業者が各水平材211を上方から持ち上げることにより、網体206を植生マット201から浮かせて支持脚215を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。したがって、本実施形態の植生装置200は、植生装置100と同様に、その施工性および安全性を大幅に改善することが可能である。
【0043】
[第3実施形態]
図12は、植生装置300の概略断面図である。
図13は、植生装置300による植生保護構造30を示す概略断面図である。
図12に示すように、植生装置300は、縦横に延在し、植生領域に敷設されて植生領域を緑化するための植生マット301と、縦横に延在し、植生マット301の表面を上方から覆うように植生マット301に取着され、植生マット301上に発芽または生育した植生植物を野生動物による食害から保護するための網体306と、横方向に延伸する長尺形状を有し、網体306の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材311と、を備える。本実施形態では、水平材311は、長尺の木板である。また、各水平材311は、各支持位置において網体306にその表面側から連結されている。より具体的には、水平材311は、結束バンドまたは番線である連結具313によって網体306に括り付けられている。水平材311には、各支持位置で植生マット301から網体306を離間させて支持する支持脚315が固定される被固定部が設けられている。本実施形態では、水平材311を支持脚315に固定する固定具317は、ビスである。植生装置300を植生領域に設置する際、植生領域に敷設された植生マット301と網体306との間に支持脚315を立設して被固定部に固定具317で固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられる。
図13に示す植生保護構造30では、板状の水平材311が網体306を上方から押さえるようにして、水平材311の上面に固定具(ビス)317が打ち込まれて、水平材311が支持脚315の頂面に固定されている。
【0044】
本実施形態の植生装置300によれば、網体306が植生マット301に取着され、複数の長尺の水平材311が複数の支持位置にそれぞれ保持されていることにより、植生領域に植生装置300を組み立てて設置する際、複数の長尺の水平材311の各々を各支持位置まで別途運搬する作業を省略することができる。また、作業者が各水平材311を上方から持ち上げることにより、水平材311に連結された網体306を植生マット301から浮かせて支持脚315を挿入するための空間を容易に形成および維持することができる。特に、本実施形態では、水平材311が網体306の表面に配置されているので、水平材311を把持し易い。したがって、本実施形態の植生装置300は、植生装置100と同様に、その施工性および安全性を大幅に改善することが可能である。
【0045】
[第4実施形態]
図14は、植生装置400の概略断面図である。
図14に示すように、植生装置400は、縦横に延在し、植生領域に敷設されて植生領域を緑化するための植生マット401と、縦横に延在し、植生マット401の表面を上方から覆うように植生マット401に取着され、植生マット401上に発芽または生育した植生植物を野生動物による食害から保護するための網体406と、横方向に延伸する長尺形状を有し、網体406の複数の支持位置にそれぞれ保持された複数の水平材411と、を備える。本実施形態では、水平材411は、木製の丸棒である。また、各水平材411は、各支持位置において植生マット401の長筒部404に収容されて保持されている。水平材411は、植生マット401および網体406のいずれにも連結されていない。水平材411には、各支持位置で植生マット401から網体406を離間させて支持する支持脚415が固定される被固定部が設けられている。植生装置400を植生領域に設置する際、各支持位置において、水平材411を長筒部404から引き抜いた後、植生マット401と網体406との間に挿入した上で、植生領域に敷設された植生マット401と網体406との間に支持脚415を立設して被固定部に固定具417で固定することによって食害防止可能な形態に組み立てられる。
【0046】
本実施形態の植生装置400によれば、網体406が植生マット401に取着され、複数の長尺の水平材411が複数の支持位置にそれぞれ保持されていることにより、植生領域に植生装置400を組み立てて設置する際、複数の長尺の水平材411の各々を各支持位置まで別途運搬する作業を省略することができる。また、水平材411を長筒部404に収容して保持することにより、水平材411を植生マット401上の網体406の支持位置から縦方向に移動しないように適切に保持することが可能である。したがって、本実施形態の植生装置400は、その施工性および安全性を改善することが可能である。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。
【0048】
(1)上記実施形態の植生装置では、植生マットは、網状シートと種子付シートの2層によって形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、植生マットは、網状シート、不織布または織布シートの一層のみで構成されてもよい。
【0049】
(2)本実施形態の植生装置および植生保護構造では、支持脚が間伐材の丸太から選択されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、支持脚は、板材や角材を組んだものや、合成樹脂製の脚であってもよい。
【0050】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0051】
10 植生保護構造
100 植生装置
101 植生マット
102 網状シート
103 種子付シート
104 長筒部
105 植生袋
106 網体
108 留め具
111 水平材
113 連結具
115 支持脚
117 固定具
119 アンカー
P 植生植物
G 法面(植生領域)