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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137315
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20230922BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08J7/00 A CER
C08J7/00 CEZ
C23C16/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043460
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】520472664
【氏名又は名称】明電ナノプロセス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】花倉 満
【テーマコード(参考)】
4F073
4K030
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA08
4F073BA23
4F073BA30
4F073BA32
4F073BB01
4F073BB02
4F073DA07
4F073DA08
4K030AA11
4K030AA16
4K030AA18
4K030CA04
4K030CA07
4K030CA12
4K030CA17
4K030DA02
4K030EA03
4K030GA14
4K030HA01
(57)【要約】
【課題】種々の改質対象物において所望の改質効果を得られ易くする改質技術を提供する。
【解決手段】チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給する不飽和炭化水素ガス供給部と、不飽和炭化水素ガス供給部とは別体に設けられて当該チャンバ内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、当該チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出するガス排出部と、を備えた装置を用いる。この装置を用いて、改質対象物10の被改質面Sに対して不飽和炭化水素分子mによる吸着層Mを形成する吸着層形成工程と、当該吸着層Mとオゾンガスとのラジカル反応を起こさせるラジカル反応工程と、を順に行うことにより、当該被改質面Sに対し、OH基を有した親水基層Hを形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質対象物を出し入れ自在に収容可能なチャンバと、
前記チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給する不飽和炭化水素ガス供給部と、
前記不飽和炭化水素ガス供給部とは別体に設けられ、前記チャンバ内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、
前記チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出するガス排出部と、
を備えた装置により、改質対象物の表面を改質する表面改質方法であって、
前記チャンバ内に収容した改質対象物の表面に対し、前記不飽和炭化水素ガス供給部から供給した不飽和炭化水素ガスを曝露して吸着させることにより、不飽和炭化水素分子による吸着層を形成する吸着層形成工程と、
前記吸着層形成工程で供された不飽和炭化水素ガスの余剰ガスと、当該不飽和炭化水素ガスを改質対象物の表面に曝露して生じたガスと、を当該改質対象物の表面から除去する吸着層形成ガスパージ工程と、
前記吸着層に、前記オゾンガス供給部から供給したオゾンガスを曝露することにより、当該吸着層とオゾンガスとのラジカル反応を起こさせるラジカル反応工程と、
を有し、
前記吸着層形成工程と前記ラジカル反応工程とを順に行うことにより、改質対象物の表面に対し、OH基を有した親水基層を形成することを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記装置は、
前記チャンバ内に、改質対象物を支持する支持部を備え、
前記支持部は、改質対象物の一端側を巻回して支持する一端側ロールと、当該改質対象物の他端側を巻回して支持する他端側ロールと、により当該改質対象物をロールツーロール方式で移動自在に支持することを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記装置は、
前記チャンバ内に、複数個の改質対象物を支持する支持部を備え、
前記支持部は、複数個の改質対象物を搬送可能に支持する搬送ベルトを有して成ることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記装置は、
前記チャンバ内に、2つの改質対象物をそれぞれ支持する支持部を備え、
前記支持部は、2つの改質対象物を、それぞれの一端側面が互いに対向した姿勢で、当該対向する方向に対して接離自在に移動できるように支持することを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項5】
前記装置は、
前記チャンバ内に、複数個の改質対象物を支持する支持部を備え、
前記支持部は、複数個の改質対象物を出し入れ自在に収容してチャンバ内に配置可能な筐体状の収容壁を備え、
前記収容壁の少なくとも一部には、チャンバ内のガスの通過が可能であって複数個の改質対象物の通過を遮る通気部が、設けられていることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項6】
前記装置は、
前記チャンバが、
前記不飽和炭化水素ガス供給部が設けられ、前記吸着層形成工程を行うことが可能な吸着層形成チャンバと、
前記オゾンガス供給部が設けられ、前記ラジカル反応工程を行うことが可能なラジカル反応チャンバと、
を備えて成り、
前記ガス排出部は、前記吸着層形成チャンバおよび前記ラジカル反応チャンバに、それぞれ備えられており、
前記吸着層形成チャンバ内に、改質対象物を支持する吸着層形成用支持部を備え、
前記吸着層形成用支持部は、改質対象物の一端側を巻回して支持する一端側ロールと、当該改質対象物の他端側を巻回して支持する他端側ロールと、により当該改質対象物をロールツーロール方式で移動自在に支持し、
前記ラジカル反応チャンバ内に、前記吸着層形成チャンバにより吸着層が形成された2つの改質対象物をそれぞれ支持するラジカル反応用支持部を備え、
前記ラジカル反応用支持部は、
2つの改質対象物のうち一方の一端側を支持する一方側ロールと、
2つの改質対象物のうち他方の一端側を支持する他方側ロールと、
2つの改質対象物それぞれの他端側を層状に重ね合わせて接合する加圧ローラと、
を備えていることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項7】
前記チャンバは、
前記吸着層形成チャンバおよび前記ラジカル反応チャンバを収容する収容チャンバと、
前記収容チャンバ内において、改質対象物を支持しながら前記吸着層形成チャンバと前記ラジカル反応チャンバとの間で搬送可能なロボット装置と、
を備えて成ることを特徴とする請求項6記載の表面改質方法。
【請求項8】
前記不飽和炭化水素ガス供給部は、
開閉自在な蓋部を有し、不飽和炭化水素ガスを液化した状態で収容可能な容器と、
前記容器内を加熱可能な加熱部と、
を備えて成ることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の表面改質方法。
【請求項9】
前記ラジカル反応工程で供されたオゾンガスの余剰ガスと、ラジカル反応により生じたガスと、を改質対象物の表面から除去するラジカル反応ガスパージ工程を、更に有し、
前記吸着層形成工程と前記ラジカル反応工程とを順に行うサイクルを、複数回繰り返すことを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の表面改質方法。
【請求項10】
前記不飽和炭化水素ガスは、プロピレン、アセチレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、O-キシレン、スチレン、α-ブチレン、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのうち何れかから成ることを特徴とする請求項1~9の何れかに記載の表面改質方法。
【請求項11】
前記装置は、前記チャンバ内にプリカーサガスを供給するプリカーサガス供給部を、更に備えることにより、改質対象物の表面に対してプリカーサガスによる膜を形成することが可能なALD装置,CVD装置,真空蒸着装置,スパッタリング装置の何れかを構成していることを特徴とする請求項1~10の何れかに記載の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質方法に係るものであって、例えば改質対象物の表面(被改質面)において改質効果を得られ易くする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の分野で適用されている工業用材料(例えば、平板状,立体形状,フィルム状,粉体状の材料等)は、目的に応じて所望の表面処理を施すことがある。
【0003】
例えば特許文献1,2では、不飽和炭化水素ガスとオゾンガスとの反応により発生するOHラジカル等の活性種(酸化種)を利用して、表面処理対象物の表面に付着しているレジストを除去する技術が開示されている。このレジスト除去技術は、オゾンの特性を利用したものであって、例えば熱エネルギー(加熱)やUV照射を施さなくても、当該オゾンが不飽和炭化水素の炭素の2重結合と反応し易いことを利用したものである。
【0004】
このような反応(以下、単にラジカル反応と適宜称する)を利用したレジスト技術は、フォトレジスト等の有機物を除去する効果が高く、例えば熱ダメージ無し,プラズマダメージ無しでフォトレジストのアッシングや表面の有機物除去などに実用化されている。
【0005】
ラジカル反応では、まず初期において炭素の2重結合がオゾン分子によって開裂し、これに伴って発生する不安定なメチレン過酸化物が中間体として、さらに分裂反応を起こし、炭酸ガスや水と共にOHラジカルやギ酸等を発生する。このラジカル反応の一例としては、図7のようにオゾンガスの濃度とOHラジカルの発生効率との特性図で表すことができる。
【0006】
この図7によると、オゾンガスが低濃度(例えば50体積%以下)の場合には、OHラジカルの発生効率も低くなってしまうため、当該OHラジカル等は中間反応において消費され易い。すなわち、OHラジカルの発生が増幅される多段反応パスが少なくなってしまい、所望の表面処理をすることが困難になることが読み取れる。一方、オゾンガスが高濃度の場合には、OHラジカルが高濃度で発生し、さらに多段反応の過程でも多量のOHラジカルが発生し易くなることが読み取れる。
【0007】
また、従来のオゾンガス発生装置(例えば一般的な放電方式のオゾナイザ)では、供給可能なオゾンガスが低濃度(例えば最大オゾン濃度が23体積%程度)であったが、近年、オゾンガスを高濃度で安全に発生させることが可能な装置(例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータ)が出現したことにより、ラジカル反応を応用した表面処理技術が種々検討され始めている。
【0008】
例えば特許文献3,4では、OHラジカルを利用して表面処理対象物(改質対象物)の表面を酸化し、さらにOH基を主とする親水基の層(以下、単に親水基層と適宜称する)を形成して、当該表面を改質する技術が開示されている。この改質技術では、改質対象物に物理的ダメージ等を与えることなく、当該改質対象物の表面を改質できることとされている。
【0009】
具体的に、特許文献3,4では、チャンバ内に不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスを供給することにより、改質対象物の表面付近にてラジカル反応を起こし、当該ラジカル反応で発生したOHラジカル等によって当該改質対象物の表面を改質する方法が開示されている。また、不飽和炭化水素ガス供給部およびオゾンガス供給部を一体化したシャワーヘッド(特許文献3では符号9、特許文献4では符号10または15)を介して、チャンバ内に不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスを供給する構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4905253号公報
【特許文献2】特許5217951号公報
【特許文献3】特許6052470号公報
【特許文献4】特許6057030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ラジカル反応で得られるOHラジカルは、極めて高い活性を有するものであるため、早く失活し易い傾向がある。例えば、特許文献3,4に示すラジカル反応の場合、改質対象物の表面から離れた領域で起こる気相反応であるため、当該改質対象物の表面に対して十分なOHラジカルを供給することが困難となり、所望の改質効果を得ることが困難となるおそれがあった。
【0012】
例えば、シャワーヘッドを改質対象物の表面に近接させることにより、当該改質対象物の表面に近接した位置で気相反応を起こさせることも考えられている。しかしながら、改質可能な改質対象物の種類や表面形状等が、シャワーヘッドによって制限(例えば、改質対象物の表面(被改質面)の形状が平坦面に制限されたり、当該表面の大きさがシャワーヘッドのガス噴出範囲内に制限)されたり、均一な親水基層を形成することが困難となるおそれがあった。なお、例えば大型のシャワーヘッドを適用することも考えられるが、この場合、装置の大型化や高コスト化等を招くおそれがある。
【0013】
本発明は、前述のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、種々の改質対象物において所望の改質効果を得られ易くする改質技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明による表面改質方法の一態様は、改質対象物を出し入れ自在に収容可能なチャンバと、前記チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給する不飽和炭化水素ガス供給部と、前記不飽和炭化水素ガス供給部とは別体に設けられ、前記チャンバ内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、前記チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出するガス排出部と、を備えた装置により、改質対象物の表面を改質する表面改質方法であって、前記チャンバ内に収容した改質対象物の表面に対し、前記不飽和炭化水素ガス供給部から供給した不飽和炭化水素ガスを曝露して吸着させることにより、不飽和炭化水素分子による吸着層を形成する吸着層形成工程と、前記吸着層形成工程で供された不飽和炭化水素ガスの余剰ガスと、当該不飽和炭化水素ガスを改質対象物の表面に曝露して生じたガスと、を当該改質対象物の表面から除去する吸着層形成ガスパージ工程と、前記吸着層に、前記オゾンガス供給部から供給したオゾンガスを曝露することにより、当該吸着層とオゾンガスとのラジカル反応を起こさせるラジカル反応工程と、を有したものであり、前記吸着層形成工程と前記ラジカル反応工程とを順に行うことにより、改質対象物の表面に対し、OH基を有した親水基層を形成することを特徴とするものである。
【0015】
また、前記装置は、前記チャンバ内に、改質対象物を支持する支持部を備え、前記支持部は、改質対象物の一端側を巻回して支持する一端側ロールと、当該改質対象物の他端側を巻回して支持する他端側ロールと、により当該改質対象物をロールツーロール方式で移動自在に支持することを特徴としても良い。
【0016】
また、前記装置は、前記チャンバ内に、複数個の改質対象物を支持する支持部を備え、前記支持部は、複数個の改質対象物を搬送可能に支持する搬送ベルトを有して成ることを特徴としても良い。
【0017】
また、前記装置は、前記チャンバ内に、2つの改質対象物をそれぞれ支持する支持部を備え、前記支持部は、2つの改質対象物を、それぞれの一端側面が互いに対向した姿勢で、当該対向する方向に対して接離自在に移動できるように支持することを特徴としても良い。
【0018】
また、前記装置は、前記チャンバ内に、複数個の改質対象物を支持する支持部を備え、前記支持部は、複数個の改質対象物を出し入れ自在に収容してチャンバ内に配置可能な筐体状の収容壁を備え、前記収容壁の少なくとも一部には、チャンバ内のガスの通過が可能であって複数個の改質対象物の通過を遮る通気部が、設けられていることを特徴としても良い。
【0019】
また、前記装置は、前記チャンバが、前記不飽和炭化水素ガス供給部が設けられ、前記吸着層形成工程を行うことが可能な吸着層形成チャンバと、前記オゾンガス供給部が設けられ、前記ラジカル反応工程を行うことが可能なラジカル反応チャンバと、を備えて成り、前記ガス排出部は、前記吸着層形成チャンバおよび前記ラジカル反応チャンバに、それぞれ備えられており、前記吸着層形成チャンバ内に、改質対象物を支持する吸着層形成用支持部を備え、前記吸着層形成用支持部は、改質対象物の一端側を巻回して支持する一端側ロールと、当該改質対象物の他端側を巻回して支持する他端側ロールと、により当該改質対象物をロールツーロール方式で移動自在に支持し、前記ラジカル反応チャンバ内に、前記吸着層形成チャンバにより吸着層が形成された2つの改質対象物をそれぞれ支持するラジカル反応用支持部を備え、前記ラジカル反応用支持部は、2つの改質対象物のうち一方の一端側を支持する一方側ロールと、2つの改質対象物のうち他方の一端側を支持する他方側ロールと、2つの改質対象物それぞれの他端側を層状に重ね合わせて接合する加圧ローラと、を備えていることを特徴としても良い。
【0020】
また、前記チャンバは、前記吸着層形成チャンバおよび前記ラジカル反応チャンバを収容する収容チャンバと、前記収容チャンバ内において、改質対象物を支持しながら前記吸着層形成チャンバと前記ラジカル反応チャンバとの間で搬送可能なロボット装置と、を備えて成ることを特徴としても良い。
【0021】
前記不飽和炭化水素ガス供給部は、開閉自在な蓋部を有し、不飽和炭化水素ガスを液化した状態で収容可能な容器と、前記容器内を加熱可能な加熱部と、を備えて成ることを特徴としても良い。
【0022】
また、前記ラジカル反応工程で供されたオゾンガスの余剰ガスと、ラジカル反応により生じたガスと、を改質対象物の表面から除去するラジカル反応ガスパージ工程を、更に有し、前記吸着層形成工程と前記ラジカル反応工程とを順に行うサイクルを、複数回繰り返すことを特徴としても良い。
【0023】
また、前記不飽和炭化水素ガスは、プロピレン、アセチレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、O-キシレン、スチレン、α-ブチレン、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのうち何れかから成ることを特徴としても良い。
【0024】
また、前記装置は、前記チャンバ内にプリカーサガスを供給するプリカーサガス供給部を、更に備えることにより、改質対象物の表面に対してプリカーサガスによる膜を形成することが可能なALD装置,CVD装置,真空蒸着装置,スパッタリング装置の何れかを構成していることを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0025】
以上示したように本発明によれば、種々の改質対象物において所望の改質効果を得られ易くなるように貢献可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態による吸着層形成工程およびラジカル反応工程を説明するための概略構成図。
図2】実施例1の表面改質方法に適用可能な装置Aを説明するための概略構成図((A)~(D)は、それぞれチャンバ2内に改質対象物11~14を収容した状態であって、当該チャンバ2内を透視している図)。
図3】実施例2の表面改質方法に適用可能な装置Bを説明するための概略構成図(チャンバ2内を透視している図)。
図4】実施例3の表面改質方法に適用可能な装置Cを説明するための概略構成図(チャンバ2内を透視している図)。
図5】実施例4の表面改質方法に適用可能な装置Dを説明するための概略構成図(チャンバ2内を透視している図)。
図6】実施例5の表面改質方法に適用可能な装置Eを説明するための概略構成図((A)はチャンバ2a内を透視している図、(B)はチャンバ2b内を透視している図)。
図7】オゾンガスの濃度とOHラジカルの発生効率との特性図(Siウェハ上のフォトレジストのアッシング効果を指標に、オゾン濃度約100体積%とした場合のアッシングレートを1として規格化した図)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態の表面改質方法は、単に気相反応により発生したOHラジカルを利用したりシャワーヘッド(不飽和炭化水素ガス供給部およびオゾンガス供給部を一体化したシャワーヘッド)を利用した方法(以下、単に従来法と適宜称する)とは全く異なるものである。
【0028】
すなわち、本実施形態の表面改質方法においては、チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給する不飽和炭化水素ガス供給部と、不飽和炭化水素ガス供給部とは別体に設けられて当該チャンバ内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、当該チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出するガス排出部と、を備えた装置を用いるものである。そして、改質対象物の表面(以下、被改質面と適宜称する)に対して不飽和炭化水素分子による吸着層を形成する吸着層形成工程と、当該吸着層とオゾンガスとのラジカル反応を起こさせるラジカル反応工程と、を順に行うことにより、当該被改質面に対し、OH基を有した親水基層を形成するものである。
【0029】
このような本実施形態によれば、まず吸着層形成工程により、例えば図1(A)に示すように、チャンバ(図示省略)内の改質対象物10の被改質面Sに対して不飽和炭化水素分子mによる吸着層(図1(A)では数分子層状に描写されている吸着層)Mを形成できる。そして、ラジカル反応工程により、吸着層Mとオゾンガスとのラジカル反応でOHラジカルを発生させることにより、例えば図1(B)に示すように、被改質面Sに対し、OH基を有した親水基層Hを形成することができる。
【0030】
すなわち、本実施形態のラジカル反応は、被改質面で起こる反応(すなわち表面反応)であるため、当該ラジカル反応によって発生したOHラジカルが失活する前に、当該被改質面にOH基を有した親水基層を形成し易くなる。また、本実施形態のラジカル反応は、分子層レベルの表面反応であるため、従来法の気相反応によるものと比較して反応持続性が低く(例えば、表面反応が1回起こって終了)、高速なフォトレジストアッシングや有機物除去はできないものの、表面改質の観点によれば、十分な反応と言える。
【0031】
したがって、本実施形態の表面改質方法によれば、たとえ改質対象物が種々の態様(例えば、従来法では適用が難しかった超大型基板(例えばメートル角基板)、立体形状基板、粉体材料、ロールツーロール方式で支持するような長尺・幅広のフィルム等)であっても、被改質面に対して十分なOHラジカルを供給して改質し易くなり、当該被改質面において所望の改質効果(例えば親水性,密着性,接合性等)が得られ易くなる。
【0032】
また、被改質面で起こるラジカル反応(すなわち表面反応)を利用した方法であるため、従来法の気相反応によるものと比較して、不飽和炭化水素ガスやオゾンガスの消費量を抑制することも可能となる。
【0033】
本実施形態の表面改質方法は、前述のように被改質面において、ラジカル反応(表面反応)を起こして親水基層を形成することにより、当該被改質面を改質できる構成であれば良い。すなわち、種々の分野(例えば、表面処理技術分野,チャンバ分野,オゾンガス分野,不飽和炭化水素ガス分野,ラジカル反応分野や、ALD,CVD,真空蒸着,スパッタリング等による成膜分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下の実施例1~5が挙げられる。なお、以下の実施例1~5では、例えば重複する内容について同一符号を適用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。
【0034】
≪実施例1≫
図2は、実施例1による表面改質方法に適用可能な装置Aの構成例を説明するものである。この図2に示す装置Aは、改質対象物11(図2(B)~(D)では改質対象物12~14;以下、適宜纏めて単に改質対象物1と称する)を出し入れ自在に収容可能なチャンバ(真空容器等)2と、そのチャンバ2内に不飽和炭化水素ガスを供給することが可能な不飽和炭化水素ガス供給部3と、その不飽和炭化水素ガス供給部3とは別体に設けられてチャンバ2内にオゾンガスを供給することが可能なオゾンガス供給部4と、チャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2外に排出することが可能なガス排出部5と、を主な要素として備えている。
【0035】
このような装置Aを用い、図1(A)(B)に示したように吸着層形成工程,ラジカル反応工程を順に行い、必要に応じて後述の吸着層形成ガスパージ工程やラジカル反応ガスパージ工程を適宜行うことにより、被改質面Sに対し、OH基を有した親水基層Hを形成することができる。吸着層形成工程,ラジカル反応工程を順に行うサイクル(以下、形成・反応サイクルと適宜称する)は、複数回繰り返しても良く、これにより、所望の厚さ(例えば多層構造)の親水基層Hを形成することが可能となる。
【0036】
<吸着層形成工程の一例>
吸着層形成工程では、改質対象物1を収容している状態のチャンバ2内に、不飽和炭化水素ガス供給部3を介して不飽和炭化水素ガスを供給する。これにより、被改質面Sに対し、不飽和炭化水素ガスを曝露(化学吸着)でき、不飽和炭化水素分子mによる吸着層Mを形成できる。
【0037】
この吸着層形成工程では、当該吸着層形成工程で供された不飽和炭化水素ガスの余剰ガスや、不飽和炭化水素ガスを被改質面Sに曝露して生じたガス(以下、適宜纏めて単に吸着層形成余剰ガスと称する)が、チャンバ2内に残存したり改質対象物1の被改質面Sに付着する場合がある。このように吸着層形成余剰ガスが発生し得る場合には、吸着層形成工程を行っている間、または/および当該吸着層形成工程の後に、次のような吸着層形成ガスパージ工程を行うことが挙げられる。
【0038】
<吸着層形成ガスパージ工程の一例>
吸着層形成ガスパージ工程では、ガス排出部5による真空パージにより、チャンバ2内を減圧状態に維持しながら、当該チャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2外に排出する。これにより、吸着層形成工程で発生した吸着層形成余剰ガスを、被改質面Sから除去することができる。
【0039】
この不飽和炭化水素ガスパージ工程は、前記のような真空パージに限定されず、例えばチャンバ2に後述図6の不活性ガス供給部7が備えられている場合には、その不活性ガス供給部7からチャンバ2内に不活性ガスを供給する不活性ガスパージを代用(または真空パージと併用)しても良い。
【0040】
<ラジカル反応工程の一例>
ラジカル反応工程では、改質対象物1(吸着層形成工程により吸着層Mが形成された改質対象物1)を収容している状態のチャンバ2内に、オゾンガス供給部4を介してオゾンガスを供給する。これにより、吸着層Mに対し、オゾンガスを曝露し、当該吸着層Mとオゾンガスとのラジカル反応を起こして親水基層Hを形成できる。
【0041】
このラジカル反応工程では、当該ラジカル反応工程で供されたオゾンガスの余剰ガスや、ラジカル反応により生じたガス(以下、適宜纏めて単にラジカル反応余剰ガスと適宜称する)が、チャンバ2内に残存したり改質対象物1の被改質面S(親水基層Hの表面)に付着する場合がある。このようにラジカル反応余剰ガスが発生し得る場合には、ラジカル反応工程を行っている間、または/および当該ラジカル反応工程の後に、次のようなラジカル反応ガスパージ工程を行うことが挙げられる。
【0042】
<ラジカル反応ガスパージ工程の一例>
ラジカル反応ガスパージ工程では、吸着層形成ガスパージ工程と同様に、ガス排出部5による真空パージにより、チャンバ2内を減圧状態に維持しながら、当該チャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2外に排出する。これにより、ラジカル反応工程で発生したラジカル反応余剰ガスを、被改質面Sから除去することができる。
【0043】
このラジカル反応ガスパージ工程においても、吸着層形成ガスパージ工程と同様に、真空パージに限定されず、ガスパージを代用(または真空パージと併用)しても良い。
【0044】
装置Aの各構成要素は、例えば特許文献1~4に示すような構成を適宜適用することが可能であり、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0045】
<チャンバ2の一例>
チャンバ2は、当該チャンバ2内に改質対象物1を収容できるものであって、当該改質対象物1において形成・反応サイクルを適宜行うことができるものであれば良く、種々の態様が適用可能である。
【0046】
例えば後述の図6に示す装置Eのように、吸着層形成工程用のチャンバ(図6では吸着層形成チャンバ2a)と、ラジカル反応工程用のチャンバ(図6ではラジカル反応チャンバ2b)と、を備えたものとしても良く、これにより、不飽和炭化水素ガス,オゾンガスの気相反応を抑制し易くなる。
【0047】
<不飽和炭化水素ガス供給部3の一例>
不飽和炭化水素ガス供給部3においては、チャンバ2内に不飽和炭化水素ガスを供給できるものであれば良く、種々の態様が適用可能である。図2の不飽和炭化水素ガス供給部3の場合、チャンバ2を内外方向に貫通する供給配管31を有し、その供給配管31の上流側に図外の不飽和炭化水素ガス発生装置が接続される構成となっている。この供給配管31には、例えば供給配管31の中央部において不飽和炭化水素ガスの供給及びその停止を行うバルブ(図示省略)を設けたり、当該供給配管31の下流側に後述図3図4に示すように複数個のガス噴出孔32aを有しているシャワーヘッド32を設けても良い。また、供給配管31を複数個備えたものとしても良い。
【0048】
また、ラジカル反応工程を妨げない等の態様であれば、後述図6に示すようにチャンバ2内に配置された構成の不飽和炭化水素ガス供給部3Aとしても良い。この不飽和炭化水素ガス供給部3Aは、不飽和炭化水素ガスを液化した状態で収容可能な容器33と、当該液化した状態のもの(以下、単に不飽和炭化水素液と適宜称する)を収容した容器33を開閉自在に封止する蓋部(例えばチャンバ2外から操作して開閉自在な蓋部;図示省略)と、当該容器33内(不飽和炭化水素液)を加熱可能な加熱部(図示省略)と、を備えたものとなっている。
【0049】
このような構成の不飽和炭化水素ガス供給部3Aを用いた場合、例えば吸着層形成工程において、容器33の蓋部を開状態にし、加熱部によって不飽和炭化水素液を加熱することにより、チャンバ2内に不飽和炭化水素ガス(不飽和炭化水素液の蒸気)を供給できることとなる。吸着層形成工程以外(例えばラジカル反応工程)においては、容器33の蓋部を閉状態にし、ラジカル反応工程を妨げないようにする。
【0050】
<不飽和炭化水素ガスの一例>
不飽和炭化水素ガスは、吸着層形成工程により被改質面Sに対して不飽和炭化水素分子mによる吸着層Mを形成できるものであって、後段のラジカル反応工程により当該吸着層Mとオゾンガスとのラジカル反応を起こして親水基層Hを形成し得るものであれば良く、種々の態様が適用可能である。
【0051】
具体例としては、下記表1,表2に示すものが挙げられる。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
例えば、表1に示すようなエチレンは、不飽和炭化水素のうちで最も単純な構造であり、従来法でも多く適用されているものであるが、沸点が比較的低いため、吸着層形成工程での被改質面Sに対する化学吸着効果も低くなってしまう。例えば、後段のラジカル反応工程において1分子層程度の親水基層Hを形成することを目的(例えば後述の実施例4,5のように2つの改質対象物を接合することを目的(前処理等で界面を精密に制御する目的等))としている場合には、エチレンであっても当該目的を十分達成できる可能性はあるが、多層構造や比較的厚い親水基層Hの形成を目的としている場合には、沸点が比較的高い不飽和炭化水素ガス(例えば、沸点が常温程度よりも高いもの)を適用することが好ましい。
【0055】
また、後述図6に示すような不飽和炭化水素ガス供給部3Aを適用する場合には、例えば融点が低く大気圧下において液体である揮発性の不飽和炭化水素液が好ましく、具体例として表2に示すブタジエン等が挙げられる。このような揮発性の不飽和炭化水素液によれば、単に不飽和炭化水素ガス供給部3Aの容器33内に収容している状態でも、チャンバ2内を当該不飽和炭化水素ガスで満たすことが可能となる。
【0056】
このように、沸点等の観点で不飽和炭化水素ガスを選択して適用し、形成・反応サイクルを適宜繰り返すことにより、改質のレベルを精密に制御することが可能となる。
【0057】
<オゾンガス供給部4の一例>
オゾンガス供給部4においては、チャンバ2内にオゾンガスを供給できるものであれば良く、不飽和炭化水素ガス供給部3と同様に、種々の態様が適用可能である。図2のオゾンガス供給部4の場合、チャンバ2を内外方向に貫通する供給配管41を有し、その供給配管41の上流側に図外のオゾン発生装置(例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータ)が接続される構成となっている。この供給配管41には、例えば供給配管41の中央部においてオゾンガスの供給及びその停止を行うバルブ(図示省略)を設けたり、当該供給配管41の下流側に後述図3図4に示すように複数個のガス噴出孔42aを有しているシャワーヘッド42を設けても良い。また、供給配管41を複数個備えたものとしても良い。
【0058】
図中のオゾンガス供給部4は、不飽和炭化水素ガス供給部3とは別体に設けられており、チャンバ2において互いに離反して位置(図2ではチャンバ2の周壁一部(符号21で示す部分)を挟んで位置)で位置している。すなわち、従来法のシャワーヘッド(不飽和炭化水素ガス供給部およびオゾンガス供給部を一体化したシャワーヘッド)とは異なる構成となっている。
【0059】
オゾンガスは、ラジカル反応工程により吸着層Mとのラジカル反応を起こさせて親水基層Hを形成できるものであれば良く、種々のオゾン濃度のものが適用可能である。このオゾン濃度は、適宜設定することが可能であり、その一例としては、好ましくはオゾン濃度が50体積%超、より好ましくは90体積%以上に設定することが挙げられる。
【0060】
<不活性ガス供給部7を適用する場合の一例>
不活性ガス供給部7においては、チャンバ2内に不活性ガスを供給できるものであれば良く、不飽和炭化水素ガス供給部3と同様に、種々の態様が適用可能である。不活性ガスは、例えば吸着層形成ガスパージ工程やラジカル反応ガスパージ工程において適用可能なものであれば良い。その一例としては、N2,Ar,He等の不活性ガスが挙げられる。
【0061】
<ガス排出部5の一例>
ガス排出部5においては、チャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2外に排出(例えば吸着層形成ガスパージ工程やラジカル反応ガスパージ工程を適宜行えるように排気)し、当該チャンバ2内を減圧状態(例えばチャンバ2内が真空環境下となるような状態)に維持することが可能な態様であれば良く、特に限定されるものではない。
【0062】
図2のガス排出部5の場合、単に排気配管51を有した構成となっているが、その他に後述の図6に示すような排気バルブ52,真空ポンプ53を備えたり、オゾンキラー(オゾンを分解する除害筒等の除害設備;図示省略)等を備えたものとしても良い。また,真空ポンプ53は、オゾンに耐性のある構成(例えば、ドライポンプ)を適用することが好ましい。
【0063】
また、排気するガス中にオゾンガスが含まれている場合には、オゾンの自己分解による爆発を防止する必要がある。このため、ガス排出部5で排気するガスにおいては、例えば当該ガス中に含まれるオゾンガスの濃度が20体積%以下に希釈されるまで、減圧状態で扱う。
【0064】
<改質対象物1の一例>
改質対象物1においては、チャンバ2内に収容して形成・反応サイクルを適宜行うことができ、所望の親水基層Hを形成して改質可能なものであれば良く、特に限定されるものではない。
【0065】
その一例として、固形状,基板状,粉体状(例えば図2(D)の改質対象物14のように多数の粒子状),フィルム状,シート状,布状,繊維状等の種々のものが挙げられる。
【0066】
具体例として、図2(A)~(D)のような改質対象物11~14が挙げられる。改質対象物11は、メートル角の基板や曲面形状を有した基板(例えば自動車の曲面加工後の窓基板等)を示すものであり、当該改質対象物11の被改質面Sは適宜改質(例えば両面同時に改質)することが可能となる。改質対象物12は、Siウェハ等を示すものであり、図2(B)に示すように複数個(図2(B)では12個)を同時に改質することも可能である。改質対象物13は、複数個のフィン状突起や凹凸状の段差等が形成された複雑な立体形状(例えば複数個のSiウェハを出し入れ自在な収納カートリッジ)を示すものであり、当該改質対象物13の被改質面Sにおいても適宜改質することが可能となる。改質対象物14は、多数の粒子状の粉体材料を示すものであり、当該改質対象物14の被改質面Sにおいても適宜改質することが可能となる。
【0067】
また、形成・反応サイクルは比較的低温で行うことが可能であるため、例えば改質対象物1が基板またはフィルム等の場合、Si基板等の比較的耐熱性が高い基板等に限定されることはなく、耐熱性が比較的低い合成樹脂で形成された基板等であっても良い。
【0068】
改質対象物1が樹脂を用いてなる場合、当該樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂、オレフィン樹脂、ポリプロピレン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いたものが挙げられる。
【0069】
その他、PE(ポリエチレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、POM(ポリオキシメチレン、または、アセタール樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、PA(ポリアミド)、PFA(4フッ化エチレン、パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PI(ポリイミド)、PVD(ポリ二塩化ビニル)等を用いたものも挙げられる。
【0070】
また、改質対象物1は、形成・反応サイクルによる改質処理の効果をあげるために、当該改質対象物1が変形,変質しない範囲で加温しても良い。例えば、改質対象物1が樹脂を用いてなるものの場合には、ガラス転位温度以下の範囲で加温することが挙げられる。
【0071】
また、チャンバ2内における改質対象物1と不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4との両者間距離や配置構成等は、当該不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4によるガスの曝露を考慮して、容易に適宜設定することが可能である。例えば、後述図3図4に示すようなシャワーヘッド32,42を備えている場合、改質対象物1との距離、ガス噴出孔32a,42aのレイアウト、バランス等は厳密でなくても良く、単に改質対象物1がガスに曝露されれば良い。
【0072】
<改質対象物1の支持構成の一例>
改質対象物1は、チャンバ2内において適宜支持できれば良く、特に限定されるものではない。例えば図2(D)のような改質対象物14の場合、チャンバ2内に配置可能な筐体状の収容壁60を有した支持部6Aにより支持することが挙げられる。
【0073】
図2(D)に示す支持部6Aの収容壁60の場合、複数個の改質対象物14を出し入れ自在に収容可能な構成であって、チャンバ2に対し、回転軸61を介して軸回転自在に支持された構成となっている。また、収容壁60の少なくとも一部には、孔径が改質対象物14の最大外径(粒子径等)よりも小さい通気孔を複数有した通気部(例えば、小さい通気孔を複数有したメッシュ構造;図示省略)が、設けられているものとする。この通気部においては、例えば通気孔を複数有したメッシュ構造であって、収容壁60の軸心方向両端側の位置に設けた態様が挙げられる。
【0074】
このような支持部6Aによれば、収容壁60内の改質対象物14を撹拌しながら、チャンバ2内のガス(不飽和炭化水素ガス,オゾンガス等)を当該収容壁60内に導入することができるため、当該改質対象物14の被改質面Sにおいて所望の改質が十分可能となる。
【0075】
以上のような実施例1によれば、改質対象物1の被改質面Sに対して十分なOHラジカルを供給して改質でき、当該被改質面Sにおいて所望の改質効果(例えば親水性,密着性,接合性等)を得ることが可能であることが判る。
【0076】
≪実施例2≫
実施例2の表面改質方法は、実施例1を応用したものであって、図3に示すように移動自在に支持された改質対象物15を改質できるものである。
【0077】
図3に示す装置Bは、装置Aと同様の構成であって、チャンバ2内に、例えば長尺・幅広のフィルム状の改質対象物15を移動自在に支持する支持部6Bを備えたものとなっている。
【0078】
支持部6Bは、いわゆるロールツーロール方式によるものであって、改質対象物15の長手方向の一端側を巻回して支持する一端側ロールR1と、当該改質対象物15の長手方向の他端側を巻回して支持する他端側ロールR2と、を有し、各ロールR1,R2が適宜回動する構成となっている。
【0079】
このような支持部6Bにより、例えば一端側ロールR1に巻き付けた改質対象物15を、他端側ロールR2で巻き取るように移動さることが可能となる。すなわち、支持部6Bによれば、改質対象物15を長手方向に適宜移動させることが可能となる。
【0080】
装置Bの不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4は、それぞれシャワーヘッド32,42を備えており、それらシャワーヘッド32,42のガス噴出孔32a,42aが、各ロールR1,R2の両者間における改質対象物15と対向(図3では、改質対象物15の図示上方側の平坦面に対向)するように配置されている。
【0081】
また、各ロールR1,R2の両者間には、当該両者間を交差する方向に延在している仕切壁22が介在しており、これにより、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4が互いに隔離されるように位置(改質対象物15の長手方向に離反するように位置)している。この仕切壁22には、当該仕切壁22を改質対象物15が通過自在となるように介、通過孔22aが設けられている。
【0082】
この装置Bにより改質対象物15を改質する場合、例えば、ガス排出部5によりチャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2内を減圧状態に維持(吸着層形成ガスパージ工程やラジカル反応ガスパージ工程を行うように維持)しながら、支持部6Bにより支持された改質対象物15を一端側ロールR1側から他端側ロールR2側に移動(例えば図3の矢印方向に示すように移動)させると共に、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から不飽和炭化水素ガス,オゾンガスをそれぞれ適宜供給する。
【0083】
これにより、改質対象物15の被改質面Sにおいては、まずシャワーヘッド32付近を通過する際に不飽和炭化水素ガスが付着して吸着層Mが形成(吸着層形成工程により形成)、その後、シャワーヘッド42付近を通過する際に当該吸着層Mがオゾンガスと反応して親水基層Hが形成(ラジカル反応工程により形成)されることとなる。
【0084】
すなわち、改質対象物15においては、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4付近を通過する毎に、被改質面Sに対して形成・反応サイクルが行われて親水基層Hが形成されることとなる。改質対象物15においては、各ロールR1,R2の間を往復動させても良く、これにより形成・反応サイクルが繰り返されて親水基層Hが所望の厚さに形成されることとなる。
【0085】
なお、装置Bで形成・反応サイクルを行っている間、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から供給した不飽和炭化水素ガス,オゾンガスがチャンバ2内で気相反応を起こすことも考えられるが、当該気相反応による反応物の蒸気圧が十分高く、ガス排出部5によって容易に排出される。このため、たとえチャンバ2内に仕切壁22を配置していなくても、気相反応による反応物の親水基層Hに対する影響は、十分抑制することが可能である。
【0086】
以上のような実施例2によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、たとえ長尺・幅広のフィルム状の改質対象物15であっても、その改質対象物15を移動自在に適宜支持することにより、当該改質対象物15の被改質面Sにおいて所望の改質効果を得ることが可能であることが判る。
【0087】
≪実施例3≫
実施例3の表面改質方法は、実施例2と同様のものであって、図4に示すように移動自在に支持された複数個の改質対象物16を改質できるものである。
【0088】
図4に示す装置Cは、装置A,Bと同様の構成であって、チャンバ2内に、複数個の改質対象物16を搬送可能に支持する搬送ベルト62を有した支持部(いわゆるベルトコンベア)6Cが、配置されている。
【0089】
装置Cの不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4は、それぞれシャワーヘッド32,42のガス噴出孔32a,42aが、搬送ベルト62における改質対象物16の支持面(図4では、図示上方側の平坦面)と対向するように配置されている。
【0090】
また、搬送ベルト62の搬送方向(図4では、図示左右方向)の一方側端部と他方側端部との両者間に、当該両者間を交差する方向に延在している仕切壁23が介在しており、これにより、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4が互いに隔離されるように位置(搬送ベルト62の搬送方向の一方側端部側と他方側端部側とに離反するように位置)している。この仕切壁23には、搬送ベルト62および当該搬送ベルト62に支持されている改質対象物16が通過自在となるように介、通過孔23aが設けられている。
【0091】
この装置Cにより改質対象物16を改質する場合、例えば、ガス排出部5によりチャンバ2内のガスを吸気して当該チャンバ2内を減圧状態に維持(吸着層形成ガスパージ工程やラジカル反応ガスパージ工程を行うように維持)しながら、支持部6Cの搬送ベルト62に支持された改質対象物16を当該搬送ベルト62で移動(例えば図4の矢印方向に示すように移動)させると共に、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から不飽和炭化水素ガス,オゾンガスをそれぞれ適宜供給する。
【0092】
これにより、改質対象物16の被改質面Sにおいては、まずシャワーヘッド32付近を通過する際に不飽和炭化水素ガスが付着して吸着層Mが形成(吸着層形成工程により形成)、その後、シャワーヘッド42付近を通過する際に当該吸着層Mがオゾンガスと反応して親水基層Hが形成(ラジカル反応工程により形成)されることとなる。
【0093】
すなわち、改質対象物16においては、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4付近を通過する毎に、被改質面Sに対して形成・反応サイクルが行われて親水基層Hが形成されることとなる。改質対象物16においては、搬送ベルト62の搬送方向の一方側端部と他方側端部との両者間を往復動させても良く、これにより形成・反応サイクルが繰り返されて親水基層Hが所望の厚さに形成されることとなる。
【0094】
なお、装置Cにおいても、装置Bと同様に、チャンバ2内において不飽和炭化水素ガス,オゾンガスの気相反応を起こすことも考えられるが、当該気相反応による反応物はガス排出部5によって容易に排出される。このため、たとえチャンバ2内に仕切壁23を配置していなくても、気相反応による反応物の親水基層Hに対する影響は、十分抑制することが可能である。
【0095】
以上のような実施例3によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、たとえチャンバ2内に複数個の改質対象物16を配置しても、当該各改質対象物16を移動自在に適宜支持することにより、当該各改質対象物16の被改質面Sにおいて所望の改質効果を得ることが可能であることが判る。
【0096】
≪実施例4≫
実施例4の表面改質方法は、図5に示すように移動自在に支持された2つの改質対象物17a,17bを改質でき、更に当該改質後の2つの改質対象物17a,17bを加圧や加温して接合できるようにしたものである。
【0097】
図5に示す装置Dは、装置Aと同様の構成であって、チャンバ2内に、2つの平板状の改質対象物17a,17bをそれぞれ支持する支持部6Dを備えているものである。
【0098】
この支持部6Dは、2つの改質対象物17a,17bそれぞれを支持し互いに対向して配置されている一対の支持台63a,63bと、当該支持台63a,63bが前記対向する方向(以下、単に対向方向と適宜称する)に対して接離自在に移動できるように当該支持台63a,63bそれぞれの外周縁側を支持する一対の支持アーム64a,64bと、当該支持アーム64a,64bを前記対向方向に沿って回転自在に支持する回転軸65と、を備えたものとなっている。
【0099】
このように構成された支持部6Dは、例えばチャンバ2外の操作部(図示省略)により、回転軸65を軸にして支持アーム64a,64bを回転操作でき、支持台63a,63bを対向方向に接離するように移動できるものとなっている。また、支持台63a,63bには、当該支持台63a,63bに支持された改質対象物17a,17bをそれぞれ加温することが可能な加温部(図示省略)が備えられているものとする。
【0100】
この装置Dにより改質対象物17a,17bを改質および接合する場合、まず、図5に示すように、2つの改質対象物17a,17bを、それぞれの一端側面である被改質面Sが互いに対向した姿勢で離反して位置するように、支持台63a,63bに支持する。そして、当該支持状態において、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から不飽和炭化水素ガス,オゾンガスをそれぞれ順に適宜供給する。これにより、改質対象物17a,17bそれぞれの被改質面Sにおいては、形成・反応サイクルが行われて親水基層Hが形成されることとなる。
【0101】
この後、支持部6Dを操作して、支持台63a,63bを対向方向に接近させることにより、改質対象物17a,17bそれぞれの一端側面である被改質面S(親水基層H)を互いに圧接する。そして、当該圧接した状態の改質対象物17a,17bを加温することにより、当該改質対象物17a,17bをそれぞれの被改質面Sの親水基層Hを介して接合できることとなる。
【0102】
以上のような実施例4によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、2つの改質対象物17a,17bを接合することを目的としている場合に、同一のチャンバ内において、当該改質対象物17a,17bの接合面(被改質面S)を改質してから適宜接合できる。すなわち、いわゆるin-situで、改質対象物17a,17bの所望の改質と接合を行うことが可能であることが判る。
【0103】
例えば、従来の接合方法では、改質対象物17a,17bの接合面をプラズマ処理装置により改質(大気圧水蒸気プラズマ等のプラズマ処理)してから接合することが考えられていたが、当該プラズマ処理装置のプラズマ対向電極等の制約により、当該改質および接合を同一のチャンバ内で行うことが困難とされていた。また、当該プラズマ処理装置の改質により、接合面に水分子が多く残存し、この水分子の影響によって接合が阻害されるおそれがあった。
【0104】
一方、実施例4によれば、前述したように改質対象物17a,17bの改質と接合をin-situで行うことが可能であり、水分子による影響も十分抑制できることとなる。
【0105】
≪実施例5≫
実施例5の表面改質方法は、図6に示すように移動自在に支持された2つの長尺・幅広のフィルム状の改質対象物15a,15bを改質でき、更に当該改質後の改質対象物15a,15bを加圧や加温して接合できるようにしたものである。
【0106】
図6に示す装置Eは、装置A~Dと同様の構成であって、チャンバ2を備える替わりに、不飽和炭化水素ガス供給部3Aが設けられていて吸着層形成工程を行うことが可能な吸着層形成チャンバ2aと、オゾンガス供給部4が設けられていてラジカル反応工程を行うことが可能なラジカル反応チャンバ2bと、を備えたものとなっている。これら吸着層形成チャンバ2aおよびラジカル反応チャンバ2bには、それぞれガス排出部5が備えられているものとする。
【0107】
吸着層形成チャンバ2aは、ラジカル反応チャンバ2bによってラジカル反応工程を行う対象である改質対象物15a,15bにおいて、順次、吸着層形成工程を行って吸着層Mを形成するためのものである。この吸着層形成チャンバ2a内には、装置Bと同様の支持部6B(すなわち、吸着層形成工程用の支持部6B)が備えられており、例えば長尺・幅広のフィルム状の改質対象物15a,15bを移動自在に支持できるようになっている。
【0108】
また、図6に示す吸着層形成チャンバ2aの場合、不活性ガス供給部7が設けられており、当該吸着層形成チャンバ2a内に不活性ガスを供給できるように構成されている。また、支持部6Bの各ロールR1,R2の両者間には、当該各ロールR1,R2によって支持された改質対象物15a,15bの移動を補助するための複数個の補助ローラrが、配置されている。
【0109】
ラジカル反応チャンバ2bは、吸着層形成チャンバ2aによって吸着層Mが形成された改質対象物15a,15bをそれぞれ支持することが可能な支持部6E(すなわち、ラジカル反応工程用の支持部6E)を、備えたものとなっている。
【0110】
支持部6Eは、改質対象物15a,15bのうち一方(図6では改質対象物15a)の一端側を支持する一方側ロールR3と、当該改質対象物15a,15bのうち他方(図6では改質対象物15b)の一端側を支持する他方側ロールR4と、当該改質対象物15a,15bそれぞれの他端側を層状に重ね合わせて接合する加圧ローラR5と、を備えたものとなっている。
【0111】
この加圧ローラR5は、改質対象物15a,15bそれぞれの他端側を挟持して加圧(例えば図6(B)の黒抜き矢印方向に示すように加圧)する一対のローラ部R5a,R5bを有して成り、当該挟持した改質対象物15をそれぞれ加温することが可能な加温部(図示省略)が備えられているものとする。
【0112】
また、図6に示す吸着層形成チャンバ2aの場合、シャワーヘッド42を有したオゾンガス供給部4を2個備えており、当該2個のオゾンガス供給部4のうち、一方のシャワーヘッド42のガス噴出孔42aが、一方側ロールR3と加圧ローラR5との間における改質対象物15aと対向するように配置され、他方のシャワーヘッド42のガス噴出孔42aが、他方側ロールR4と加圧ローラR5との間における改質対象物15bと対向するように配置されている。また、支持部6Eの各ロールR3,R4と加圧ローラR5との両者間には、当該両者によって支持された改質対象物15a,15bの移動を補助するための複数個の補助ローラrが、配置されている。
【0113】
この装置Eにより改質対象物15a,15bを改質および接合する場合、まず、当該改質対象物15a,15bそれぞれを別個に、下記項目(a)~(f)を順に行うことにより、当該改質対象物15a,15bそれぞれの被改質面Sに吸着層Mを形成しておく。その後、前記のように吸着層Mが形成された改質対象物15a,15bにおいて、下記項目(g)(h)を行うことにより、当該改質対象物15a,15bの被改質面Sに親水基層Hを形成してから、当該改質対象物15a,15bを接合(親水基層Hを介して接合)することが挙げられる。
・項目(a);吸着層形成チャンバ2a内に改質対象物15a(または改質対象物15b)を収容し、支持部6Bで支持して、当該吸着層形成チャンバ2aを密閉する。
・項目(b);不活性ガス供給部7から吸着層形成チャンバ2a内に不活性ガス(窒素ガス等)を供給し、当該吸着層形成チャンバ2a内を不活性ガスで置換する(置換する時間を短縮するために、当該置換前に真空排気を行ってもよい)。
・項目(c);不飽和炭化水素ガス供給部3Aの容器33の蓋部を開状態にし、当該容器33内の不飽和炭化水素液を加熱部によって加熱(不飽和炭化水素液の沸点よりも低い温度で加熱)する。
・項目(d);項目(c)の状態で1時間以上放置し、容器33内の不飽和炭化水素液の蒸気圧を上昇させる。
・項目(e);不飽和炭化水素液の蒸気圧が十分大きくなった時点で、支持部6Bに支持されている改質対象物15a(または改質対象物15b)を、一端側ロールR1側から他端側ロールR2側に移動(例えば図6(A)の白抜き矢印方向に示すように移動)させる(吸着層形成工程)。
・項目(f);項目(e)の後、不飽和炭化水素ガス供給部3Aの容器33の蓋部を閉状態にし、吸着層形成チャンバ2a内のガスをガス排出部5により吸気して排出する(吸着層形成ガスパージ工程)。
・項目(g);項目(a)~(f)を行った改質対象物15a,15bを、ラジカル反応チャンバ2b内に収容し、図6(B)に示すように支持部6Eによって支持し、当該ラジカル反応チャンバ2bを密閉する。
・項目(h);支持部6Eに支持されている改質対象物15a,15bを、それぞれ各ロールR3,R4側から加圧ローラR5側に移動(例えば図6(B)の白抜き矢印方向に示すように移動)させながら、ラジカル反応チャンバ2b内にオゾンガス供給部4からオゾンガスを供給する。
【0114】
以上のように、改質対象物15a,15bそれぞれを別個に、項目(a)~(f)を順に行ってから、当該改質対象物15a,15bにおいて項目(g)(h)を行うことにより、改質対象物15a,15bは、それぞれの被改質面Sにおいて形成・反応サイクルが行われて親水基層Hが形成された後、それぞれの被改質面Sの親水基層Hを介して接合されることとなる。
【0115】
以上のような実施例5によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、吸着層形成チャンバ2aとラジカル反応チャンバ2bとが別個に設けられた装置Eを用いることにより、不飽和炭化水素ガス,オゾンガスの気相反応を抑制し易くなることが判る。また、2つの長尺・幅広のフィルム状の改質対象物15a,15bを接合することを目的としている場合に、当該改質対象物15a,15bの接合面(被改質面S)を改質してから適宜接合できる。
【0116】
なお、装置Eにおいては、例えば吸着層形成チャンバ2aおよびラジカル反応チャンバ2bを収容可能な収容チャンバ(図示省略)を備えたものとしても良い。また、前記収容チャンバ内に、改質対象物15a,15bを支持して搬送可能なロボット装置(図示省略)を備えることにより、例えば改質対象物15a,15bを当該ロボット装置で適宜支持しながら吸着層形成チャンバ2aとラジカル反応チャンバ2bとの間で搬送可能な構成としても良い。
【0117】
このように収容チャンバやロボット装置を備えた装置Eによれば、改質対象物15a,15bにおいて、外気に曝すことなく吸着層形成チャンバ2aとラジカル反応チャンバ2bとの間で適宜搬送しながら、当該改質対象物15a,15bの接合面(被改質面S)の改質および接合が可能であることが判る。
【0118】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0119】
例えば、装置A~Dのチャンバ2や装置Eのチャンバ2bは、表面改質以外の各種装置の構成要素を設けても良い。具体的には、チャンバ2(またはチャンバ2b)内にプリカーサガスを供給するプリカーサガス供給部を、更に備えることが挙げられる。これにより、装置A~Eによって改質された改質対象物の表面に対して、プリカーサガスによる膜を形成することが可能となる。
【0120】
すなわち、装置A~Eの何れかに前記のようなプリカーサガス供給部を備えることにより、ALD(Atomic Layer Deposition)装置,CVD(Chemical Vapor Deposition)装置,真空蒸着装置,スパッタリング装置等の何れかの成膜装置を構成できることが判る。
【0121】
このように装置A~Eの何れかによって構成された成膜装置によれば、成膜対象物の表面(被成膜面)に対してプリカーサガスによる膜を成膜する直前に、形成・反応サイクルを適宜行うことにより当該プリカーサガスの吸着サイトを形成しておくことができる。
【0122】
また、成膜対象物の表面(被成膜面)に対するプリカーサガスの吸着サイトの形成(改質)と、当該プリカーサガスによる膜の成膜と、を同一のチャンバ内で行うことができる。すなわち、いわゆるin-situで、成膜対象物に対して所望の改質と成膜を行うことが可能であることが判る。
【0123】
プリカーサガスにおいては、種々の態様を適用することが可能である。例えば、酸化膜を形成する元素(例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、鉛(Pb)等;以下これらの元素を金属または金属元素という)を構成元素として含む態様が挙げられる。
【0124】
具体例として、Si-O結合若しくはSi-C結合を有する有機シリコンまたは金属元素-酸素結合若しくは金属元素-炭素結合を有する有機金属を含有するプリカーサガスや、有機金属錯体またはケイ素や金属の水素化物等のプリカーサガスが挙げられる。
【0125】
より具体的には、プリカーサガスとして、シラン(ケイ化水素の総称)、TEOS(TetraEthyl OrthoSillicate)、TMS(TriMthoxySilane)、TES(TriEthoxySilane)、TMA(TriMethyl Alminium)、TEMAZ(Tetrakis(ethylmethylamino)zirconium)、3DAMAS(トリ・ジメチルアミノ・シラン;SiH[N(CH323)、TDMAT(テトラキス・ジメチルアミノ・チタニウム;Ti[N(CH324)、TDMAH(テトラキス・ジメチルアミノ・ハフニウム;Hf[N(CH324)等を用いたものが挙げられる。また、金属元素1種類だけでなく複数種類の金属元素を含む異種複核錯体(例えば、特開2016-210742等に記載の錯体)を用いたものも挙げられる。
【0126】
また、プリカーサガスは、例えばキャリアガス(N2,Ar,He等)を用いてチャンバ内に供給するようにしても良い。
【0127】
なお、実施例1~5に示した装置A~Eによる表面改質方法は、それぞれ別々に適用しても良く、互いに適宜組み合わせて適用しても良い。
【符号の説明】
【0128】
A~E…表面改質装置
10,11,12,13,14,15,15a,15b,16,17a,17b…改質対象物
2…チャンバ
2a…吸着層形成チャンバ
2b…ラジカル反応チャンバ
3,3a…不飽和炭化水素ガス供給部
4…オゾンガス供給部
5…ガス排出部
6A,6B,6C,6D,6E…支持部
S…被改質面
M…吸着層
H…親水基層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7