(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137318
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】距離計測器を備えた吹付けノズル装置
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043466
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508182589
【氏名又は名称】エフティーエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】早津 隆広
(72)【発明者】
【氏名】石川 巧
(72)【発明者】
【氏名】若竹 亮
(72)【発明者】
【氏名】井出 康夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅之
(72)【発明者】
【氏名】山本 悟
(72)【発明者】
【氏名】坂下 誠
(72)【発明者】
【氏名】浅井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】四塚 勝久
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155AA02
2D155BA06
2D155DB04
2D155DB06
2D155LA12
2D155LA13
(57)【要約】
【課題】トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、前記距離計測器にリバウンドした吹付けコンクリートが堆積して計測不能になるのを防止する。
【解決手段】吹付けノズル装置5は、吹付けノズル27の基端部に距離計測器6を設置するためのベース板7を備え、前記ベース板7の上面に、周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器6を設置するとともに、前記ベース板7の中央部に前記吹付けノズル27を貫通状態で設置するための筒状部材8を備える。前記筒状部材8の上部側位置に、内輪が固定されたベアリング9を設け、前記ベアリング9の外輪に対して間接的又は直接的に連結されることにより回転可能に支持され、前記複数の距離計測器6を覆うとともに、前記距離計測器6からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板10を備え、前記被覆板10を中心軸回りに回転させる回転手段を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、
吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備えるとともに、このベース板の上面に周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置し、
前記ベース板から離隔して前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を中心軸周りに回転可能に設置し、前記被覆板を回転させる回転手段を備えたことを特徴とする距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項2】
トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、
吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備え、
前記ベース板の上面に、周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置するとともに、前記ベース板の中央部に前記吹付けノズルを貫通状態で設置するための筒状部材を備え、
前記筒状部材の上部側位置に、内輪が固定されたベアリングを設け、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されることにより中心軸回りに回転可能に支持され、かつ前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を備え、
前記被覆板を回転させる回転手段を備えたことを特徴とする距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項3】
前記回転手段は、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されるリング形状の羽根車と、この羽根車に対して気体を噴射して回転させる1又は複数のエアノズルとからなる請求項2記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項4】
前記被覆板は、樹脂、発泡樹脂又は発泡樹脂複合材によって形成されている請求項1~3いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項5】
前記ベース板と前記被覆板との間の空間を周方向に囲む周壁が設けられている請求項1~4いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項6】
前記被覆板の外面に付着したコンクリートを除去するための洗浄水噴射ノズルが設けられている請求項1~5いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項7】
前記被覆板の外面に付着したコンクリートを掻き取るためのスクレーパーが設けられている請求項1~6いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【請求項8】
前記距離計測器として、レーダー距離計を用いている請求項1~7いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルにおける吹付けに当たって、吹付け面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネルの施工では、地山中に挿入したロックボルトと掘削壁面に沿って施工した吹付けコンクリートとを主たる支保部材とするNATM工法が主流となっている。掘削方法には、爆薬によって掘削を行う発破工法、TBMと呼ばれる全断面掘削機を用いるTBM工法、カッターブームを持つ自由断面掘削機を用いた機械掘削方法などに大別される。
【0003】
従来より、前述の吹付けコンクリート工事は主に、
図8に示されるように、移動可能なクローラ式、タイヤ式又はレール式等の移動台車60に吹付けノズルを保持するブーム61を取付け、このブーム操作によって吹付けノズル62を操作するようにした吹付け機を用いて行っていた。
【0004】
前記吹付け工事は、切羽近傍に吹付け機を設置した状態で、ノズル制御を行うノズルマン、吹付け機の操作を行う吹付け機操作員、吹付けコンクリートを吹付け機に供給する生コン運転手などの作業員によって行われているが、狭隘な空間での苦渋作業になるとともに、例えば換気設備を設けたとしても比較的濃度の濃い粉塵に曝される悪環境下での作業を強いられていた。
【0005】
そこで、近年はトンネルの吹付け作業の自動化、すなわち吹付け作業を遠隔操作によって無人化ないし自動化する試みが成されている。
【0006】
例えば下記特許文献1では、吹付け作業現場に;吹付け作業部位の内壁面形状を測定するための光波測距儀と、遠隔操作される吹付けロボットと、前記光波測距儀による計測作業および前記吹付けロボットによる吹付け作業を監視するためのカメラとを設備し、遠隔操作部位に;前記光波測距儀によって計測された計測信号をデータ処理するとともに、モニタ表示するためのコンピューターと、前記吹付けロボットを遠隔操作するための吹付けロボット用遠隔制御操作器と、前記カメラによって撮影された映像を表示するためのモニタ装置とを設備し、前記吹付け作業現場に設備された装置群と、遠隔操作部位に設備された装置群との間の各種信号を、無線通信による電波によって空間伝送可能に、または信号ケーブルによって有線伝送可能に接続した地下掘削における吹付け作業の遠隔操作システムが開示されている。
【0007】
本発明者等においても、下記特許文献2において、NATM工法によるトンネル掘削壁面を対象として、掘削壁面に対して任意の離間距離をおいてトンネル壁面に沿って移動制御可能な多関節ブームの先端に吹付けノズルを保持した吹付け機によって吹付けを行うにあたって、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を配置し、吹付けノズルをトンネル壁面に沿って移動させ吹付けを行う過程で、吹付けノズルの移動速度を計測するとともに、前記距離計測器によって当該吹付け前と吹付け後の距離を計測することによって当該吹付けによる吹付け厚を計測し、かつこれら吹付けノズルの移動速度と吹付け厚との比例関係式を得ておき、
トンネル掘削壁面に凹凸部が存在している条件の下、吹付け材の圧送量を一定としながら吹付けノズルを移動させ吹付けを行う初期の段階で、前記比例関係式に基づき、相対的に凹部では移動速度を遅くし、凸部では移動速度を速くする移動制御を行うことにより吹付け面を平滑化するように修正するトンネルの吹付け制御方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-120394号公報
【特許文献2】特開2019-167678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1、2記載の技術は、吹付けノズル部分に壁面までの距離を計測する距離計測器を配置することが前提となっているものである。そこで本発明者等は、距離計測器の取付け台を試作して、実際に吹付けを行ってみた。しかしながら、特に上向きに吹付ける際に、吹付けコンクリートのリバウンドが距離計測器に付着し、これが徐々に堆積するため、この堆積した吹付けコンクリートによって計測が継続出来なくなるという事態が発生することが判明した。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、前記距離計測器にリバウンドした吹付けコンクリートが堆積して計測不能になるのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、
吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備えるとともに、このベース板の上面に周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置し、
前記ベース板から離隔して前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を中心軸周りに回転可能に設置し、前記被覆板を回転させる回転手段を備えたことを特徴とする距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備えるとともに、このベース板の上面に周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置する。そして、前記ベース板から離隔して前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を中心軸周りに回転可能に設置するとともに、前記被覆板を回転させる回転手段を備えた構造としている。
【0013】
従って、リバウンドした吹付けコンクリートが前記被覆板の上に落下したとしても、前記被覆板が常時回転することにより遠心力によって外周側に移動し被覆板から落下するため、被覆板の上面に吹付けコンクリートが堆積するのを防止することができ、継続的に距離計測器の機能を維持することが可能になる。
【0014】
請求項2に係る発明として、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、
吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備え、
前記ベース板の上面に、周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置するとともに、前記ベース板の中央部に前記吹付けノズルを貫通状態で設置するための筒状部材を備え、
前記筒状部材の上部側位置に、内輪が固定されたベアリングを設け、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されることにより中心軸回りに回転可能に支持され、かつ前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を備え、
前記被覆板を回転させる回転手段を備えたことを特徴とする距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0015】
上記請求項2記載の発明では、より具体的態様に係る吹付けノズル装置の例である。具体的には、吹付けノズルの基端部に距離計測器を設置するためのベース板を備えるようにし、そのベース板の上面に、周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器を設置するとともに、前記ベース板の中央部に前記吹付けノズルを貫通状態で設置するための筒状部材を備えるようにする。そして、前記筒状部材の上部側位置に、該筒状部材の外面に内輪が固定されたベアリングを設け、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されることにより回転可能に支持され、前記複数の距離計測器を覆うとともに、前記距離計測器からの電磁波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板を備え、かつ前記被覆板を中心軸回りに回転させる回転手段を備えた構造としている。
【0016】
従って、リバウンドした吹付けコンクリートが前記被覆板の上に落下したとしても、前記被覆板が常時回転することにより遠心力によって外周側に移動し被覆板から落下するため、被覆板の上面に吹付けコンクリートが堆積するのを防止することができ、継続的に距離計測器の機能を維持することが可能になる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記回転手段は、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されるリング形状の羽根車と、この羽根車に対して気体を噴射して回転させる1又は複数のエアノズルとからなる請求項2記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、前記回転手段の好適な態様を示したものである。吹付け機にはコンプレッサーが装備されているため、圧縮装置を用いた回転機構とすることが望ましい。具体的には、前記ベアリングの外輪に対して間接的又は直接的に連結されるとともに、前記筒状部材に遊嵌するリング形状の羽根車と、この羽根車に対して気体を噴射して回転させる1又は複数のエアノズルとからなる構造とするのが望ましい。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記被覆板は、樹脂、発泡樹脂又は発泡樹脂複合材によって形成されている請求項1~3いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明は、前記被覆板の好適な態様を示したものである。具体的には、樹脂や発泡樹脂、或いは発泡樹脂と別素材との組合せによって構成される発泡樹脂複合材などを好適に使用することができる。なお、金属系材料は電磁波の透過を阻害するため好ましくはない。
【0021】
請求項5に係る本発明として、前記ベース板と前記被覆板との間の空間を周方向に囲む周壁が設けられている請求項1~4いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0022】
上記請求項5記載の発明では、前記ベース板と前記被覆板との間の空間を周方向に囲む周壁を設けるようにしたものである。リバウンドした吹付けコンクリートが距離計測器に直接的に付着した場合は、除去することができないため、前記ベース板と前記被覆板との間は周壁によって囲むようにすることが望ましい。
【0023】
請求項6に係る本発明として、前記被覆板の外面に付着したコンクリートを除去するための洗浄水噴射ノズルが設けられている請求項1~5いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0024】
上記請求項6記載の発明は、前記被覆板の外面に付着したコンクリートを除去するための洗浄水噴射ノズルを設けるようにしたものである。洗浄水を噴射することにより、付着した吹付けコンクリートも洗い流すようにして除去できるため前記被覆板の上面にコンクリートが付着するのを更に防止することができる。
【0025】
請求項7に係る本発明として、前記被覆板の外面に付着したコンクリートを掻き取るためのスクレーパーが設けられている請求項1~6いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置提供される。
【0026】
上記請求項7記載の発明は、前記被覆板の外面に付着したコンクリートを掻き取るためのスクレーパーを設けるようにしたものである。前記被覆板に付着したコンクリートを掻き取るスクレーパーを設けることにより付着力の強い場合でも確実に除去できるようになり、距離計測器が計測不能になるのを更に防止することが可能になる。
【0027】
請求項8に係る本発明として、前記距離計測器として、レーダー距離計を用いている請求項1~7いずれかに記載の距離計測器を備えた吹付けノズル装置が提供される。
【0028】
上記請求項8記載の発明では、前記距離計測器としてレーダー距離計を用いるようにしたものである。距離測定器としては、例えば光波測距儀、レーザー距離計、超音波距離計、レーダー距離計など任意の距離計を用いることができるが、光波測距儀やレーザー距離計では粉塵やリバウンドがノイズになり易く測定できないことがあるため、環境要因等のノイズに強い、波長の短いマイクロ波やミリ波を使用しているレーダー距離計を用いるのが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
以上詳説のとおり本発明によれば、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器を備えた吹付けノズル装置において、前記距離計測器にリバウンドした吹付けコンクリートが堆積して計測不能になるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】吹付け装置2を示す、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【
図4】吹付けノズル装置5を示す、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【
図6】洗浄水噴射ノズル18を設けた場合の吹付けノズル装置5Aを示す断面図である。矢視図である。
【
図7】スクレーパー19を設けた場合の吹付けノズル装置5Bを示す、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【
図8】吹付け機60による吹付け要領を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0032】
〔吹付け機1について〕
山岳トンネルの掘削は、切羽近傍にドリルジャンボ、吹付け機1、ホイールローダ等のトンネル施工用重機が配置され、例えば上半及び下半の一括併行作業により掘削を行うミニベンチ工法により、上半及び下半のそれぞれにおいてロックボルト穿孔及び装薬孔・装薬を併行して行った後、上半及び下半を発破により一気に切り崩し、その後ズリ出し→当り取り→一次吹付け→鋼製支保工の建込み→二次吹付け→ロックボルト打設などの手順にて掘削が1サイクル毎に行われる。また、切羽後方ではセントルが配置され、コンクリート覆工体の構築、インバート施工が行われる。
【0033】
前記吹付け機1は、
図1及び
図2に示されるように、動力源により駆動されるクローラ31によって自走可能とされた台車本体30に対して、吹付け装置2と、エレクター装置3と、バスケット装置4とを搭載したトンネル作業用重機(以下、エレクター装置付き吹付け機ともいう。)である。この吹付け機1は、一次吹付け作業と、鋼製支保工の建込み作業と、二次吹付け作業に際して使用されるものである。
【0034】
前記吹付け装置2は、詳細には
図3に示されるように、台車本体30の前部中央に位置して設けられている。台車本体30側のベース20に対して、第1アーム21が水平軸20a周りに揺動可能に軸支され、油圧シリンダ21Aの伸縮によって伏仰方向に揺動するようになっている。また、第1アーム21の基端部20Aは全体が鉛直軸20b回りに揺動可能に支持されており、側部に配置された旋回用油圧シリンダ21B、21Cによって水平方向に揺動可能となっている。
【0035】
前記第1アーム21の内部には第2アーム22が収容され、第1伸縮用油圧シリンダ24により伸縮自在になっており、更に前記第2アーム22の内部に第3アーム23が収容され、第2伸縮用油圧シリンダ25によって伸縮自在になっている。また、前記第1アーム21、第2アーム22及び第3アーム23の周囲には、アームの伸縮に連動して伸縮可能なカバー材28が設けられており、リバウンドした吹付けコンクリートがアームに付着して伸縮不能になる事態を防止するようにしている。
【0036】
前記第3アーム23の先端には吹付けノズル装置5が支持されている。前記吹付けノズル装置5は、内蔵する水平回転用モータ及び上下動用モータによって水平方向及び鉛直方向に所定の角度範囲でスイング動作可能となっており、保持する吹付けノズル27から吹付け材をトンネル壁面に対して吹付けできるようになっている。この吹付けノズル装置5については更に後述する。
【0037】
前記バスケット装置4は、作業員が搭乗するための設備であり、
図2に示されるように、台車本体30の前部に中心を挟んで左右一対で2台(4A,4B)設けられている。台車本体30側のベース40を基端として、テレスコープ機構によって伸縮可能とされた伸縮ブーム41が設けられ、この伸縮ブーム41の先端に、リフトデッキ42が保持された構造となっている。前記伸縮ブーム41は、
図1に示されるように、油圧シリンダ41A、41Bによって基端側を支点として上下方向に伏仰可能とされるとともに、油圧シリンダ(図示せず)によって左右方向にも揺動可能となっている。前記リフトデッキ42は、連結部43を介して連結されており、油圧シリンダ44によって上下方向に揺動可能に支持されている。
【0038】
前記エレクター装置3は、鋼製支保工を所定位置に建て込むための設備であり、
図1及び
図2に示されるように、台車本体30の前部に中心を挟んで左右一対で2台設けられている。前記鋼製支保工は、天端で接続され1条のアーチ材とされるものが大半であり、切羽に向かって右側の分割鋼製支保工を右側に配置されたエレクター装置3Aが持ち上げて所定位置にセットし、左側の分割鋼製支保工を左側に配置されたエレクター装置3Bが持ち上げて所定位置にセットする。天端での接続作業は、前記バケット装置4に作業員が乗り込み、接続部に近接してボルト接続の作業を行うようにする。
【0039】
前記吹付け機1による吹付け作業は、
図1及び
図2に示されるように、吹付け機1をトンネル切羽近傍の吹付け部位に位置決めしたならば、測量によって吹付け機1の位置座標及び姿勢状態を計測によって明らかにする。トンネル形状の座標データや計測吹付け形状線データなどの座標データは制御器に対してすべて入力されており、吹付けノズル27の位置座標の計測や吹付けノズル27の移動制御の座標などを管理するためには、吹付け機1の座標状態をまず把握する必要があるためである。
【0040】
具体的には、トンネル坑内に計測のためのトータルステーションが設置されるとともに、トンネル坑内に予め少なくとも2点の基準点(図示せず)が設置される。前記トータルステーションにより前記2つの基準点を視準して得た測距・測角データに基づいて、後方交会法によりトータルステーションの設置座標が求められる。なお、このトータルステーションの位置座標は位置ズレが生じていないかの照査のために適宜の時間間隔毎に行われる。
【0041】
また、前記吹付け機1の後部に少なくとも2点の視準ターゲットを設置しておく。これら2つの視準ターゲットは水平方向に離間するとともに、上下方向に高さを異ならせて設置することにより、これら視準ターゲットを前記トータルステーションで視準することにより、吹付け機1の設置座標とともに、吹付け機1の姿勢状態(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を求めることが可能となる。なお、前記吹付け機1の位置及び姿勢は、吹付け機1の後部に、1つの視準ターゲットを設置するとともに、3軸角度センサを機体に取付け、前記視準ターゲットにより座標を取得し、かつ前記3軸角度センサにより姿勢状態を把握するようにしてもよい。
【0042】
前記吹付けノズル27の移動制御に当たっては、例えば吹付け機1の前方側に複数台のモーションカメラを設置するとともに、吹付けノズル27に視準ターゲット(LEDマーカー)を設置し、前記モーションカメラによって視準ターゲットの座標を連続的に計測することにより吹付けノズル27の位置を把握し、予定の移動線に沿って所定の速度で移動させるようにすることができる。
【0043】
なお、本発明における「吹付け」には、一般的なコンクリート吹付けの他、モルタル吹付け等各種の材料を含むものである。また、吹付けノズル27から吹付け面までの離隔距離は、リバウンド率が最も少なくなる最適位置に設定するのが望ましい。
【0044】
〔吹付けノズル装置5の第1形態例〕
前記吹付け機2の吹付けノズル装置5は、トンネル壁面までの距離を計測する距離計測器6、6…を備えたものである。
【0045】
前記吹付けノズル装置5は、
図4に示されるように、吹付けノズル27の基端部に距離計測器6、6…を設置するためのベース板7を備え、前記ベース板7の上面に、周方向に適宜の間隔で複数の距離計測器6、6…を設置するとともに、前記ベース板7の中央部に前記吹付けノズル27を貫通状態で設置するための筒状部材8を備え、
前記筒状部材8の上部側位置に、内輪9Aが固定されたベアリング9を設け、前記ベアリング9の外輪9Bに対して間接的又は直接的に連結されることにより回転可能に支持され、前記複数の距離計測器6、6…を覆うとともに、前記距離計測器6、6…からの電波を透過する材料によって形成された円板状の被覆板10を備え、前記被覆板10を中心軸に回転させる回転手段11を備えた構造となっているものである。
【0046】
以下、更に同図面に基づいて具体的に詳述する。
【0047】
前記吹付けノズル装置5は、吹付けノズル27の基端部に距離計測器6、6…を設置するためのベース板7を備える。前記ベース板7は、距離計測器6、6…を設置するための基台となる部材であり、好ましくは鋼材によって形成されている。図示されるように、平面視で円形を成し、周縁には垂下片7aが形成されることにより補強が図られている。
【0048】
前記距離計測器6は、本形態例では、前記ベース板7の上面(ノズル先端側)に、吹付けノズル27の周囲に周方向に等間隔で6個の距離計測器6、6…を配置している。従って、吹付けノズル27が任意の方向に移動制御されたとしても、距離計測器6は移動方向前側に少なくとも2つの距離計測器6、6が存在するとともに、移動方向後側に少なくとも2つの距離計測器が存在することになり、移動方向前側に位置する距離計測器6、6によって吹付け前の距離が計測され、移動方向後側に位置する距離計測器6、6によって吹付け後の距離が計測され、これらの差分から吹付け厚が計算される。すなわち、吹付けノズル27を掘削壁面に対して任意の離間距離をおいて、トンネル壁面に沿って移動させながら吹付けを行う過程で、当該吹付けによる吹付け厚をリアルタイムで把握することが可能となっている。前記距離計測器6は、防塵・防汚のためにレーダー本体が電球状のセードによって覆われ、土台内部に制御器が内蔵されたものを用いるのが望ましい。各距離計測器6は前記ベース板7に対してネジ止めによって固定される。
【0049】
前記距離計測器6としては、光波測距儀、レーザー距離計、超音波距離計、レーダー距離計などの任意の距離計を用いることができるが、光波測距儀やレーザー距離計では粉塵やリバウンドがノイズになり測定できないことがあるため、環境要因等のノイズに強い、波長の短いマイクロ波やミリ波を使用しているレーダー距離計を用いるようにするのが望ましい。また、波長が短いマイクロ波やミリ波を使用していることで計測精度も向上できるようになる。
【0050】
前記距離計測器6の設置数に関して、吹付けは基本的にトンネル周方向に時計回り方向と半時計回り方向とに交互に移動されるため、前記距離計測器6は、最低限、前記吹付けノズル27の移動方向前側となる位置と移動方向後側となる位置とにそれぞれ配置されている必要がある。従って、前記距離計測器6の最小配置個数は2個であるが、トンネル周方向に対して吹付けノズルを跨いだ前後位置と、トンネル方向に対して吹付けノズルを跨いだ前後位置となる位置を含む少なくとも4箇所以上に配置されていることが望ましい。
【0051】
前記ベース板7には、距離計測器6、6…を設置した以外の適宜の箇所に、後述するエアノズル15からのエアを排気するためにエア抜き孔7b、7b…が複数形成されている。
【0052】
前記ベース板7の中央には、前記吹付けノズル27を貫通状態で設置するための筒状部材8を備えている。そして、前記筒状部材8の上部側位置で、内輪が固定されたベアリングを設けるようにしている。図示例では、前記筒状部材8の上部にフランジ8aを設け、このフランジ8aを台座としてベリング9が設置されている。ベアリング9の内輪9Aは筒状部材8側に固定され、前記ベアリング9の外輪に対して直接的又は間接的に、図示例ではベアリング9の外輪に固設された外輪側部材9Bを介して間接的にリング状の羽根車12が同軸的に固定されている。この羽根車12は、詳細には
図5に示されるように、環状上板12Aと環状下板12Bとの間に、周方向に所定の間隔で半径方向に沿ってベーン板12C、12C…が配置されるととともに、内周面が内周壁12Dによって塞がれた構造を成した部材である。前記内周壁12Dは、前記筒状部材8によるノズル通孔が連続するように形成されている。この羽根車12は、後述する回転手段11を構成する部材である。
【0053】
前記羽根車12の上面には前記被覆板10が固定されている。この被覆板10は、前記複数の距離計測器6、6…を覆うとともに、前記距離計測器6、6…からの電波を透過する材料によって形成された円板状の部材である。
【0054】
前記被覆板10は、前記筒状部材8によるノズル通孔が連続するように中空部10aを有する。前記羽根車12の上面に載置され、更にその上面に環状の押え板13を設置し、周方向に適宜の間隔で被覆板10、羽根車12を挿通し、ベアリング9の外輪側部材に連結した固定ボルト14、14…によって、これら被覆板10、羽根車12がベアリング9の外輪側部材9Bに固定され、中心軸周りに回転自在に支持され、回転手段11によって少なくとも吹付け作業中は、常時一定方向に回転するように作動制御される。
【0055】
前記回転手段11は、前記ベアリング9の外輪側部材9Bに対して連結された前記羽根車12と、この羽根車12に対して気体を噴射して回転させる1又は複数のエアノズル15とから構成されている。前記エアノズル15は、
図4(A)に示されるように、羽根車12の周囲に120°間隔で計3個配置されており、前記羽根車12のベーン板12Cに気体を噴射することにより、この羽根車12と共に被覆板10を中心軸周りに回転させるようになっている。なお、前記回転手段11としては、他に例えば電動モータを駆動源とする回転機構などとすることも可能である。また、本形態例では、吹付けノズル27の先端側から被覆板10、羽根車12、ベアリング9の順で配設したが、前記羽根車12をベアリング9の下側に配置し、吹付けノズル27の先端側から被覆板10、ベアリング10、羽根車12の順で配置することも可能である。
【0056】
前記被覆板10は、前記距離計測器6からの電波を透過させるために、例えば樹脂、発泡樹脂又は発泡樹脂複合材を用いて形成することができる。これらの中でも、電磁波の透過が阻害され難い発泡樹脂又は発泡樹脂複合材が好適に採用される。前記発泡樹脂複合材は、例えば発泡樹脂を別素材、例えば硬化塗装膜やフッ素被膜層などの滑剤系被膜層によって挟み込んだ構造のものであり、表面に吹付けコンクリートが付着し難い構造としたものである。なお、金属系材料は電磁波の透過が阻害されるため好ましくはない。
【0057】
前記ベース板7と前記被覆板10との間の空間には、周方向に囲む周壁16が前記ベース板7の周縁から連続して設けられている。すなわち、リバウンドした吹付けコンクリートが距離計測器6に直接的に付着した場合は、除去することができないため、これを防止するために前記ベース板7と前記被覆板10との間は周壁16によって囲むようにすることが望ましい。前記周壁16としては、鋼板を用いるのが望ましい。
【0058】
前述した吹付けノズル装置5を吹付けノズル27の基端部に取り付けるには、例えば前記ベース板7の下面に左右一対で取付用ブラケット17、17を取付け、ノズル保持部から延在する固定部材48に対してボルト・ナット49によって締着して固定するようにする。
【0059】
〔第2形態例〕
次に、
図6に基づいて、第2形態例に係る吹付けノズル装置5Aについて詳述する。
【0060】
本形態例は、前記被覆板10の外面に付着したコンクリートを除去するために洗浄水噴射ノズル18、18を設けたものである。
【0061】
図6に示されるように、前記被覆板10の上方であって、被覆板10の片側に2つの洗浄水噴射ノズル18、18が配置されている。洗浄水の送給管は前記周壁16などを支持体として固定することができる。設置位置は、被覆板10が回転するため中心から半径方向に沿って、好ましくは2~3個程度の個数で噴射ノズル18を設置することが望ましい。
【0062】
前記被覆板10の上面に洗浄水が供給されることによって、付着したコンクリートが移動し易くなるとともに、コンクリートが綺麗に洗い流されるようになるため、コンクリート除去効果が一段と向上できるようになる。
【0063】
〔第3形態例〕
次に、
図7に基づいて、第3形態例に係る吹付けノズル装置5Bについて詳述する。
【0064】
本形態例は、前記被覆板の外面に付着したコンクリートを掻き取るためのスクレーパー19を設けるようにしたものである。また、同時に前述した洗浄水噴射ノズル18、18を併設している。
【0065】
前記スクレーパー19は、コンクリートを掻き取る際にある程度の荷重が作用することになるため、この負荷荷重に耐え得るように補強を図る必要がある。図示例では、前記ベース板7の周縁に周方向に沿って適宜の間隔で第1支柱51、51…を立設するとともに、前記被覆板10から僅かに離間してその下面側位置にリング状部材52を同心円状に配設し、前記支柱51、51…の上端を連結する。そして、前記リング状部材52の周縁の複数箇所から外方に突出するように水平突出片53、53…を設けるようにする。図示例では、前記水平突出片53は120°間隔で計3個設けられている。
【0066】
前記水平突出片53を支持台として、3本の第2支柱54、54…を立設するとともに、これらの第2支柱54、54…の上部端から中心側に向かう方向に水平支持材55を設け、中心位置に配置した環状部材56に前記3本の水平支持材55、55…の他端を連結する。そして、前記水平支持材55の内の一つに対して、スクレーパー51を設けるようにしている。前記スクレーパー51としては、本形態例ではブラシ状のものを用いたが、板状のものを用いることもできる。
【0067】
本形態例では洗浄水噴射ノズル18、18を併設することによりコンクリートを希釈することができ、スクレーパー19による掻き取り効果が向上するようになるが、前記洗浄水噴射ノズル18を無くしてスクレーパー19を単独で設けるようにしてもよい。
【0068】
〔他の形態例〕
(1)本形態例では、掘削壁面に対して任意の離間距離をおいてトンネル壁面に沿って移動制御可能な多関節ブームの先端に吹付けノズル27を保持した吹付け機1について説明したが、例えば掘削断面の内側にほぼ一定の離間距離をおいて周方向に沿って配置された周方向レール上に搭載され、該周方向レールに沿って移動自在とされた吹付けノズル装置に対しても同様に適用することが可能である。
【0069】
(2)本形態例では、回転支持機構としてベアリングを用いるようにしたが、例えばローラ機構などによって前記被覆板10の回転自在に支持することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…吹付け機、2…吹付け装置、3…エレクター装置、4…バスケット装置、5…吹付けノズル装置、6…距離計測器、7…ベース板、8…筒状部材、9…ベアリング、9A…内輪、9B…外輪側部材、10…被覆板、11…回転手段、12…羽根車、13…押え板、14…ボルト、15…エアノズル、16…周壁、17…取付用ブラケット、18…洗浄水噴射ノズル、19…スクレーパー、27…吹付けノズル