(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137345
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】バルーンの形状付け方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20230922BHJP
【FI】
A61M25/10 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043511
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】濃沼 直貴
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA06
4C267BB28
4C267EE11
4C267FF10
4C267GG07
(57)【要約】
【課題】初期状態における小径化を図りつつ、拡縮操作を複数回繰り返しても拡縮操作前のプロファイルまで収縮可能なようにバルーンを形状付けすること。
【解決手段】バルーンカテーテル100に用いられるブロー成形後のバルーン140に形状付けを行うための方法であって、バルーン140に形状付けするためのキャビティSを有する金型210にバルーン140を配置する配置工程と、金型210によりバルーン140に形状付けを行う形状付け工程と、を含む。また、形状付け工程は、金型210の金型温度を所定の形状付け温度まで加熱し、所定の形状付け時間だけ形状付け温度を維持しつつバルーン140を加圧する加熱加圧処理と、金型210の温度を所定温度以下まで冷却する冷却処理と、加熱加圧処理から冷却処理の間に、バルーン140を加圧するときの圧力よりも低い圧力まで減圧する減圧処理と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーンカテーテルに用いられるブロー成形後のバルーンの形状付けを行うバルーンの形状付け方法であって、
前記バルーンに形状付けするためのキャビティを有する金型に前記バルーンを配置する配置工程と、
前記金型により前記バルーンに形状付けを行う形状付け工程と、を含み、
前記形状付け工程は、
前記金型の金型温度を所定の形状付け温度まで加熱し、所定の形状付け時間だけ前記形状付け温度を維持しつつ前記バルーンを加圧する加熱加圧処理と、
前記金型の温度を所定温度以下まで冷却する冷却処理と、
前記加熱加圧処理から前記冷却処理の間に、前記バルーンを加圧するときの圧力よりも低い圧力まで減圧する減圧処理と、
を含む、バルーンの形状付け方法。
【請求項2】
前記減圧処理は、前記加熱加圧処理において前記バルーンを加圧した後、所定時間経過後に行う、請求項1に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項3】
前記減圧処理は、前記加熱加圧処理の間に実施される、請求項2に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項4】
前記形状付け時間における前記減圧処理の減圧時間は、前記バルーンの加圧時間よりも短い、請求項2または3に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項5】
前記減圧処理は、大気圧以下に減圧する、請求項1~4の何れか1項に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項6】
前記形状付け工程は、前記金型温度が前記バルーンを構成する弾性樹脂材料のガラス転移温度以下まで冷却された後に前記金型を開放する開放処理をさらに含む、請求項1~5の何れか1項に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項7】
前記開放処理は、前記バルーンを1MPa以下に減圧した後に前記金型を開放する、請求項6に記載のバルーンの形状付け方法。
【請求項8】
前記バルーンは、ポリアミド系樹脂を主材料とし、
前記加熱加圧処理において、前記形状付け温度は、90℃以上140℃以下であり、前記バルーンの加圧力は、1MPa以上4MPa以下であり、前記形状付け時間は、30秒以上120秒以下である、請求項1~7の何れか1項に記載のバルーンの形状付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルに用いられるバルーンに形状付けを行うバルーンの形状付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、生体管腔内に形成された病変部(狭窄部など)を拡張させる手技に用いられるバルーンカテーテルが広く知られている。バルーンカテーテルは、長尺なシャフトと、シャフトの先端側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備え、収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して病変部まで到達させた後に拡張させて病変部を押し広げることができる。
【0003】
下記特許文献1には、一般的なバルーンカテーテルの製造方法が開示されている。バルーンは、予め管状パリソンを延伸ブロー成形で予備成形しておき、この予備成形したバルーンを膨張させる工程と、バルーンの膨張収縮部の周囲に配置された複数の押圧部材により膨張収縮部を径方向内側の所定位置まで移動させて押し潰すことで膨張収縮部の一部に羽根部を形成する工程と、を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルーンカテーテルを使用した手技では、生体管腔内で一度拡張した後に収縮させ、異なる位置の病変部まで移動させた後に再度拡張させるなど、バルーンを複数回に亘って拡縮操作することがある。
【0006】
しかし、バルーンは、折り畳んだ状態から拡張した状態へ、または拡張した状態から折り畳んだ状態へと変形が繰り返し行われると、収縮して折り畳んだ際に、バルーンが拡張前のプロファイルまで小径化され難くなることがある。そのため、バルーンカテーテルは、バルーン通過性(リクロス性)が低下することがある。
【0007】
また、バルーンは、初期状態からプロファイルを小径化することでリクロス性に加えて初期の通過性(クロス性)も向上し得るが、現状、バルーンカテーテルのクロス性およびリクロス性を向上させるようなバルーンの形状付け方法は確立されていない。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、具体的には、初期状態におけるバルーンの小径化が図れ、かつバルーンを複数回に亘って拡縮操作しても拡縮操作前のプロファイルまで収縮可能にバルーンを形状付けすることができるバルーンの形状付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係るバルーンの形状付け方法は、バルーンカテーテルに用いられるブロー成形後のバルーンの形状付けを行うバルーンの形状付け方法であって、前記バルーンに形状付けするためのキャビティを有する金型に前記バルーンを配置する配置工程と、前記金型により前記バルーンに形状付けを行う形状付け工程と、を含み、前記形状付け工程は、前記金型の金型温度を所定の形状付け温度まで加熱し、所定の形状付け時間だけ前記形状付け温度を維持しつつ前記バルーンを加圧する加熱加圧処理と、前記金型の温度を所定温度以下まで冷却する冷却処理と、前記加熱加圧処理から前記冷却処理の間に、前記バルーンを加圧するときの圧力よりも低い圧力まで減圧する減圧処理と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、初期状態におけるバルーンの小径化が図れ、かつバルーンを複数回に亘って拡縮操作しても拡縮操作前のプロファイルまで収縮可能にバルーンを形状付けすることができる。そのため、この形状付け方法により形状付けされたバルーンを搭載するバルーンカテーテルは、初期状態においてもクロス性が向上し、複数回に亘る拡縮操作を行ったとしてもバルーンが拡縮前の状態まで小径化するため、リクロス性にも優れたカテーテルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るバルーンカテーテルの概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係るバルーンカテーテルの先端部周辺の断面図である。
【
図3A】本実施形態に係るバルーンの形状付け方法を実施する形状付けシステムの機能ブロック図である。
【
図3B】本実施形態に係る形状付け方法で用いる形状付け装置の概略構成図である。
【
図4A】形状付け装置の金型開放時の部分拡大図である。
【
図4B】形状付け装置の金型閉塞時の部分拡大図である。
【
図5A】加熱加圧処理時のバルーンの羽根部の状態を示す部分拡大断面図である。
【
図5B】減圧処理時のバルーンの羽根部の状態を示す部分拡大断面図である。
【
図6】本実施形態に係る形状付け方法の工程順序を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係る形状付け方法の形状付け工程において実施される処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係るバルーンの形状付け方法の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0013】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0014】
また、以下の説明において、「第1」、「第2」のような序数詞を付して説明する場合は、特に言及しない限り、便宜上用いるものであって何らかの順序を規定するものではない。
【0015】
[バルーンカテーテルの構成]
まず、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法で形状付けされるバルーン140を備えたバルーンカテーテル100の構成について説明する。
【0016】
バルーンカテーテル100は、
図1または
図2に示すように、シャフト110の先端側に配置されたバルーン140を生体管腔に形成された狭窄部などの病変部において拡張させることにより、病変部を押し広げて治療する医療デバイスである。
【0017】
バルーンカテーテル100は、例えば、冠動脈の狭窄部を広げるために使用されるPTCA拡張用バルーンカテーテルとして構成することができる。但し、バルーンカテーテル100は、例えば、他の血管、胆管、気管、食道、その他消化管、尿道、耳鼻内腔、その他の臓器などの生体器官内に形成された狭窄部の治療および改善を目的として使用されるものとして構成することも可能である。
【0018】
以下の説明において、バルーン140を配置した側をバルーンカテーテル100の「先端側」とし、ハブ160を配置した側をバルーンカテーテル100の「基端側」とし、シャフト110が延伸する方向を「軸方向」とする。また、「先端部」とは、特に言及しない限り、先端(最先端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味し、「基端部」とは、基端(最基端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味する。
【0019】
バルーンカテーテル100は、シャフト110の先端部側寄りにガイドワイヤGが導出されるガイドワイヤポート111が設けられた、所謂「ラピッドエクスチェンジ型のカテーテルデバイス」として構成している。なお、バルーンカテーテル100は、ガイドワイヤルーメン121がシャフト110の先端から基端に亘って延在するように形成された、所謂「オーバーザワイヤ型のカテーテルデバイス」として構成することもできる。
【0020】
シャフト110は、ガイドワイヤGが挿通されるガイドワイヤルーメン121が形成された内管120と、内管120との間に加圧媒体が流通可能な加圧媒体ルーメン131を形成する外管130と、を有する。シャフト110は、内管120が外管130に内挿されることにより、内管120および外管130が同心状に配置された二重管構造を有する。
【0021】
内管120の先端部には溶着などの公知の方法によりバルーン140を液密・気密に接合している。バルーン140は、先端部が内管120に接合されており、基端部が外管130に接合されている。
【0022】
バルーン140は、内管120との間に加圧媒体が流入可能な空間部141を有する。バルーン140は、空間部141内に加圧媒体が流入されると拡張する。バルーンカテーテル100は、バルーン140が拡張した際、一部を生体管腔に形成された狭窄部に対して押し付けることにより、狭窄部を押し広げて拡張させる。
【0023】
内管120の先端には、例えば、バルーンカテーテル100の先端が生体器官(血管の内壁など)に接触した際に生体器官に損傷が生じるのを防止する先端チップを取り付けることができる。先端チップは、例えば、内管120よりも柔軟な樹脂材料で構成することができる。
【0024】
内管120には、造影マーカー部を設けることができる。造影マーカー部は、例えば、内管120においてバルーン140の先端側との境界を示す位置と、内管120においてバルーン140の基端側との境界を示す位置に配置することができる。
【0025】
内管120および外管130を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴムなどの各種ゴム類、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの各種エラストマー、ポリアミド、結晶性ポリエチレン、結晶性ポリプロピレンなどの結晶性プラスチックを用いることができる。これらの材料中に、例えば、ヘパリン、プロスタグランジン、ウロキナーゼ、アルギニン誘導体などの抗血栓性物質を配合し、抗血栓性を有する材料とすることも可能である。
【0026】
バルーン140を構成する材料としては、例えば、有機高分子材料を用いることができる。具体的には、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、或いはこれら二種以上の混合物など)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂などの高分子材料、或いはこれらの混合物、或いは上記2種以上の高分子材料などの弾性樹脂材料を用いることができ、中でもポリアミド系樹脂を主材料として好適に用いることができる。
【0027】
バルーン140は、上述の弾性樹脂材料で構成されるパリソン(管状部材)を公知の延伸ブロー成形(例えば2軸延伸ブロー成形)により予備成形し、後述する本実施形態に係る形状付け工程を施せば、複数回に亘る拡縮操作にも対応可能な通過性の高い製品となる。
【0028】
図1に示すように、シャフト110の基端部にはハブ160を設けることができる。ハブ160は、加圧媒体を供給するためのインデフレーターなどの供給装置(図示省略)と液密・気密に接続可能である。
【0029】
バルーン140の拡張に使用される加圧媒体(例えば、生理食塩水、造影剤など)は、ハブ160の内部空間(内腔)を介してシャフト110の加圧媒体ルーメン131内へ流入させることができる。加圧媒体は、加圧媒体ルーメン131を経由してバルーン140の空間部141へ供給される。
【0030】
また、バルーン140は、その外表面を被覆するコーティングを形成することができる。コーティングは、例えば、バルーン140の摺動性を向上させる親水性コート層や、所定の薬剤を含有した薬剤コート層で構成することができる。親水性コート層や薬剤コート層を形成する具体的な材料は特に限定されない。
【0031】
[形状付け方法]
次に、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法について
図3A~
図8を適宜参照しながら説明する。バルーンの形状付け方法は、
図3Aに示す形状付けシステム300により実施することができる。
【0032】
以下の説明では、バルーン140をシャフト110に接合せず、バルーン140単体で形状付けする方法について開示する。しかし、バルーンの形状付け方法は、バルーン140をシャフト110に接合した状態で形状付けすることもできる。
【0033】
〈システム構成〉
まず、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法が実施可能な形状付けシステム300の構成について説明する。
【0034】
形状付けシステム300に含まれる形状付け装置200は、金型210を所定方向に移動させてバルーン140の一部を挟み込んで所定の形状付けをするための装置である。形状付け装置200は、
図3Bに示すように、バルーン140に所定の形状付けを行う複数の金型210と、金型210を所定方向に移動させる移動部220と、移動部220を駆動させるための駆動部230と、を含んで構成される。形状付け装置200は、
図4A、
図4Bに示すように、移動部220により移動して後述のキャビティSが開放または閉塞可能な開閉式の金型210を備えた装置である。
【0035】
また、形状付けシステム300は、
図3Aに示すように、金型210の金型温度を加熱する加熱部240と、加圧または減圧動作を行ってバルーン140の内圧を所定圧力に調整する圧力調整部250と、金型210に冷却用媒体を付与する媒体供給部260と、システムを構成する各部の駆動を統括的に制御する制御部270と、を備える。形状付けシステム300は、作業者の操作に基づく駆動指示または所定の制御プログラムに従い、例えば
図8に示すタイミングチャートに沿って各部を駆動制御しながらバルーン140に所定の形状付けを行う。なお、形状付けシステム300は、
図3Aに示す構成に限定されず、必要に応じて他の構成要件を追加してもよいし、一部省いてもよい。
【0036】
次に、形状付け装置200の構成について詳述する。金型210は、互いに略同等の形状を有し、後述の配置工程で配置されるバルーン140の外周を囲うようにバルーン140の径方向に移動可能に設けられる。金型210は、
図4Bに示すように、金型210の外周面が移動部220の内周面と当接した状態で移動することにより回転しつつ接近し、隣接する金型210同士が一部接触する。これにより、バルーン140を所望の形状とする成形用空間であるキャビティSが形成される。バルーン140は、一部が金型210に挟み込まれた状態で後述の形状付け工程が実施されると、キャビティSの形状に沿った羽根部150が形成される。
【0037】
移動部220は、金型210の一部と嵌合可能な内周形状を有する環状をなしており、金型210の外周に配置される。移動部220は、バルーン140を形状付けする際、移動部220の内周面が金型210の外周面と当接した状態で所定方向に回転(例えば
図3Bにおける時計回り)し、金型210を回転させつつ径方向の内方に移動させる。移動部220の内周面の一部は、バルーン140が形状付けされるときの状態まで、金型210の外周面の一部と接触し続けるため、金型210をスムーズに移動させることができ、かつ均等な力でバルーン140に形状付けすることができる。
【0038】
駆動部230は、移動部220を所定方向に移動(回転)させる。駆動部230は、金型210のキャビティSを開放または閉塞する際に駆動する。駆動部230は、移動部220を駆動させることができる限りにおいて、任意の構成を採用することができる。
【0039】
なお、形状付け装置200は、バルーン140に所定の形状付けが可能な構成を有していればよく、上述した構成に限定されない。したがって、形状付け装置200は、金型210を開閉式としたが、例えば金型を複数の分割部分で構成し、形状付け後のバルーン140を取り出す際に、各分割部分を分割して取り出すような形態(一例として、特開2003-62080号に開示される金型)としてもよい。すなわち、金型210は、開閉式または分割式の何れでもよいし、これら以外の形式でもよい。
【0040】
図6に示すように、バルーンの形状付け方法は、バルーン140に形状付けするためのキャビティSを有する金型210にバルーン140を配置する「配置工程」と、金型210に配置されたバルーン140を加熱および加圧してバルーン140に所定の形状付けを行う「形状付け工程」と、を少なくとも含む。バルーンの形状付け方法は、
図8に示すタイミングで各工程を実施することができる。
【0041】
〈配置工程〉
配置工程は、形状付け装置200の金型210を開放した状態でバルーン140を配置する工程である。
【0042】
配置されるバルーン140は、事前に予備成形されており、略円筒形状をなす。配置工程では、バルーン140は、予め所定圧力で加圧した状態で金型210の内方に配置してもよいし、加圧しない状態でもよい。
図4Aには、バルーン140を加圧した状態で金型210の内方に配置した状態が示されている。
【0043】
〈形状付け工程〉
形状付け工程は、配置工程で金型210内に配置されたバルーン140に所定の形状付けを行う工程である。
【0044】
形状付け工程は、
図8に示すように、金型210の金型温度を所定の形状付け温度まで加熱し、所定の形状付け時間だけ金型温度を形状付け温度で維持しつつバルーン140を加圧する加熱加圧処理と、金型温度を所定温度以下まで冷却する冷却処理と、金型210が所定温度以下まで冷却された後に金型210を開放する開放処理と、を含む。
【0045】
加熱加圧処理は、金型210の金型温度をバルーン140の形状付けに適した温度である形状付け温度に加熱した後、所定の形状付け時間だけバルーン140に所定の圧力を加えて加圧する。
【0046】
加熱加圧処理において、「形状付け温度」、「バルーン140に加える圧力」、「形状付け時間」は、バルーン140の構成材料やサイズなどに応じて適宜設定可能である。例えば、バルーン140の構成材料となる弾性樹脂材料としてポリアミド系樹脂を主材料とした場合、形状付け温度は、温度を90℃以上140℃以下の範囲に設定することができる。また、バルーン140に加える圧力(加圧力)は、1MPa以上4MPa以下とすることができる。形状付け温度に達した状態からバルーン140を加圧する時間(形状付け時間)は、30秒以上120秒以下とすることができる。バルーン140は、加熱加圧処理を施されることで、外周面の一部に複数の羽根部150が形状付けされる。
【0047】
冷却処理は、金型温度を所定温度まで冷却する処理である。冷却処理は、バルーン140の羽根部150の形状を強固に記憶させることができる。冷却処理は、金型210を所定温度まで冷却できればよい。冷却処理は、例えば、金型210の加熱を停止して自然冷却して所定温度まで冷却されるまで待機する処理、金型210に空気、水などの冷却用媒体を金型210の内部または外部に付与(金型210のキャビティS内への流入または金型210の外周面への吹き付け)して金型210を冷却する処理、金型210の一部を開放して冷却する処理などが挙げられる。但し、冷却処理は、金型210の金型温度が所定温度まで冷却可能であれば、例示した処理内容に限定されない。
【0048】
冷却処理の次処理となる開放処理では、バルーン140を、離型温度よりも低いバルーン140を構成する弾性樹脂材料のガラス転移温度以下まで冷却した後、金型210を開放することができる。バルーン140は、ガラス転移温度以下まで冷却されると、開放処理時の利点に加えて、羽根部150の形状を強固に記憶することができる。そのため、冷却処理は、金型温度をガラス転移温度以下まで冷却する処理とするのが好ましい。冷却処理の目標冷却温度となるガラス転移温度は、バルーン140を構成する弾性樹脂材料のうちの何れかの材料のガラス転移温度であればよい。
【0049】
減圧処理は、陰圧を発生してバルーン140を加圧するときの圧力よりも低い圧力まで減圧し収縮させる処理である。減圧処理は、
図8に示すように、少なくとも金型210を閉じてキャビティSが閉塞された状態で加熱加圧処理を開始してから冷却処理が終了するまでの期間に相当する減圧処理期間X内に実施される。減圧処理は、主に羽根部150の内面151だけを強固に形状付けして、羽根部150の外面152と羽根部150の内面151に加えられる熱量の差による膜厚や硬さの差を生じさせることによって、膜厚が厚いまたは硬さが硬い羽根部150の内面151側に羽根部150が巻かれ易くすることができる。羽根部150は、内面151のRが外面152より小さくなるため、羽根部150は内側に巻かれ易くなり、バルーン140を小径化できる。すなわち、減圧処理は、バルーン140に対し、羽根部150をラッピングする際に小径となるように巻き癖を付けることができる。そのため、バルーン140は、初期状態から小径化でき、かつ複数回繰り返し拡縮操作しても初期状態のプロファイルを維持することができる。
【0050】
なお、バルーン140に形成される羽根部150の「内面」とは、
図5Aや
図5Bに示すように、羽根部150をラッピングした際のバルーン140の外周面と対向する側の面を指し、「外面」とは、羽根部150をラッピングした際のバルーン140の外周面と対向しない側の面を指す。
【0051】
上述したように、加熱加圧処理は、バルーン140を所定圧力で加圧し、拡張したバルーン140に羽根部150に形状付けを行う。この際、バルーン140は、
図5Aに示すように、加熱加圧処理時に加圧されることで、羽根部150の内面151および外面152が金型210の内壁面211(キャビティSの輪郭面)に押し付けられて羽根部150全体が形状付けされる。これに対し、減圧処理は、加熱加圧処理で加圧されたバルーン140を所定圧力まで減圧する。バルーン140は、
図5Bに示すように、減圧処理期間X内に減圧されることで、羽根部150の内面151のみが金型210の内壁面211に押し付けられて羽根部150の内面151側が形状付けされる。
【0052】
このように、減圧処理は、羽根部150の内面151に強固に形状を記憶させることができる。そのため、形状付け工程の減圧処理期間X内に、加熱加圧処理に加えて減圧処理を実施することで、バルーン140は、羽根部150全体が形状付けされると共に、羽根部150の内面151が更に形状付けされる。したがって、バルーン140は、ラッピングした際に、従来品よりも小径化されて初期状態でのクロス性が向上すると共に、複数回の拡縮操作を経ても収縮時に小径化されてリクロス性が向上し得る。
【0053】
減圧処理の実施タイミングは、加熱加圧処理においてバルーン140を加圧してから所定時間が経過したタイミング、すなわち形状付け時間が開始されてから所定時間経過後に実施するのが好ましい。また、減圧処理は、加熱加圧処理中に実施するのがより好ましい。バルーン140は、加熱加圧処理により加圧され、羽根部150の内面151および外面152が金型210の内壁面211に押し付けられて羽根部150全体が形状付けされる。そのため、減圧処理は、羽根部150を全体的に形状付けした後に実施することで、内面151側により強固な形状付けを行うことができる。
【0054】
また、減圧処理は、加熱加圧処理中の形状付け時間に実施する場合、バルーン140の加圧時間よりも短い減圧時間だけ減圧するのが好ましい。換言すれば、
図8に示すように、加熱加圧処理中に形状付けを行う形状付け期間Yにおいて、減圧処理を行う減圧期間Y1は、加圧処理を行う加圧期間Y2よりも短くするのが好ましい(加圧期間Y2>減圧期間Y1)。前述したように、形状付け工程においてバルーン140が最も形状付けされるのは、形状付け温度で金型210の押し付けられている形状付け期間Yである。そのため、形状付け時間において、バルーン140の加圧時間をしっかり確保しつつ、羽根部150の内面151に対してより強固な形状付けが行えるように、加熱時間>減圧時間の関係を満たすのがよい。
【0055】
減圧処理は、形状付け時間が経過した後に減圧してもよい。換言すれば、減圧処理時の金型温度は、加熱加圧時の金型温度(形状付け温度)よりも低くてもよい。例えば、
図8に示される形状付け時間経過後に加熱加圧処理から冷却処理に移行するタイミングで減圧すれば、羽根部150は、形状付け時間において全体的に形状付けされつつ、減圧処理により内面151に更なる形状付けを行うことができる。この際、金型温度は、形状付け温度よりも低くなるが、バルーン140を構成する弾性樹脂材料のガラス転移温度まで冷却される間、内面151が金型210の内壁面211に押し付けられた状態にできるため、強固に形状を記憶させることができる。
【0056】
減圧処理は、羽根部150の内面151を金型210の内壁面211に押し付けるため、加熱加圧処理時の圧力よりも低い圧力に減圧する。減圧処理時の圧力は、バルーン140の構成材料やサイズにもよるが、具体的には大気圧以下とし、好ましくは0.01MPa以上0.1MPa以下するのがよい。また、減圧処理は、少なくとも減圧処理期間X内に実施されればよく、例えば、矩形波的に複数回減圧してもよいし、段階的に減圧してもよい。
【0057】
開放処理は、金型210を開放(キャビティSを開放)してバルーン140を取り出すための処理である。開放処理は、金型210が離型温度よりも低いガラス転移温度まで冷却された後に実施することができる。これにより、バルーン140は、離型温度よりも低くなるので体積膨張が少なく安定した状態となり、金型210の内周面との張り付くことなく金型210から取り出すことができる。そのため、バルーン140は、表面が損傷したり皺が発生したりせず、耐圧性能を安定させることができる。
【0058】
なお、「離型温度」とは、金型210に対するバルーン140の張り付きが低減され、バルーン140を金型210から容易に離脱可能となる温度である。離型温度は、金型210やバルーン140の材質によって適宜決定されるが、例えば60℃以上70℃以下である。
【0059】
開放処理は、バルーン140を1MPa以下に減圧した後に開放するのがよい。これにより、バルーン140は、加熱加圧処理時よりも収縮するため、金型210の内壁への張り付きをより確実に無くすことができる。
【0060】
開放処理は、バルーン140の構成材料を、金型210との張り付きが抑制可能な材料とした場合、形状付け工程に含まれなくてもよい。
【0061】
上述したバルーンの形状付け方法は、「配置工程」や「形状付け工程」以外の他の工程が含まれてもよい。形状付け工程は、「加熱加圧処理」、「冷却処理」、「減圧処理」および「開放処理」以外の他の処理が含まれてもよい。また、
図6、
図7に示す各工程や各処理については、例示的な順序でステップの要素を提示しており、提示した特定の順序に限定されない。よって、
図6、
図7に示す各フローチャートについて、本発明の処理に矛盾が生じない限り、順序を入れ替えることも可能である。
【0062】
[動作]
次に、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法の動作手順について説明する。バルーンの形状付け方法は、
図8に示すタイミングチャートに沿って
図6や
図7に示す各工程や処理を実施することができる。
【0063】
作業者は、配置工程(S10)を行う。作業者は、予備成形したバルーン140を準備し、開放した状態の金型210に配置させる。次に、作業者は、
図4Bに示すように、駆動部230を駆動して移動部220を移動させ、金型210を閉じてキャビティSを閉塞して形状付け工程(S20)を開始する。
【0064】
作業者は、形状付け工程を実施するにあたり、まず加熱加圧処理(S21)を行う。加熱加圧処理は、金型210を閉じた後に、加熱部240を駆動して金型210の金型温度を形状付け温度(例えば、90℃以上140℃以下)まで加熱させた後、圧力調整部250を駆動して形状付け時間(例えば、30秒以上120秒以内)だけバルーン140を加圧(例えば、1MPa以上4MPa以下)する。
【0065】
作業者は、加熱加圧処理と冷却処理との間に減圧処理(S22)を行う。バルーン140は、減圧処理により金型210の内壁面211に羽根部150の内面151のみが押し付けられる。そのため、羽根部150は、加熱加圧処理において全体的に形状付けされつつ、減圧処理により内面151に更なる形状付けがなされる。
【0066】
作業者は、形状付け時間が経過したタイミングで冷却処理(S23)を行う。これにより、金型210の金型温度は、形状付け温度から所定温度まで冷却される。冷却処理では、媒体供給部260を駆動して冷却用媒体(例えば水や冷却空気)を金型210に供給して冷却することができる。
【0067】
そして、作業者は、金型210の金型温度がガラス転移温度以下になると、開放処理(S24)を行う。開放処理では、バルーン140を減圧(例えば、1MPa以下)した後、金型210を開放してバルーン140を取り出す。開放処理により、金型210は、金型温度がバルーン140を構成する弾性樹脂材料のガラス転移温度以下まで冷却されるため、内壁面211に張り付くことなく容易にバルーン140を離脱させることができる。これにより、バルーン140の形状付け工程は終了する。
【0068】
形状付け工程を経て形状付けされたバルーン140は、公知の方法によりシャフト110の先端部に拡縮可能に接合することができる。シャフト110の先端部にバルーン140を接合した後、所定の工程(羽根部折り畳み工程やハブ取付け工程など)を経て、バルーンカテーテル100は製造される。
【0069】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法は、バルーンカテーテル100に用いられるブロー成形後のバルーン140に形状付けを行うための方法であって、バルーン140に形状付けするためのキャビティSを有する金型210にバルーン140を配置する配置工程と、金型210によりバルーン140に形状付けを行う形状付け工程と、を含む。また、形状付け工程は、金型210の金型温度を所定の形状付け温度まで加熱し、所定の形状付け時間だけ形状付け温度を維持しつつバルーン140を加圧する加熱加圧処理と、金型210の温度を所定温度以下まで冷却する冷却処理と、加熱加圧処理から冷却処理の間に、バルーン140を加圧するときの圧力よりも低い圧力まで減圧する減圧処理と、を含む。
【0070】
これにより、バルーン140は、初期状態において従来品よりも小径化され、かつ複数回に亘って拡縮操作しても拡縮操作前のプロファイルまで収縮可能に形状付けされる。したがって、バルーン140を搭載するバルーンカテーテル100は、ラッピングした際に、従来品よりも小径化されて初期状態でのクロス性が向上すると共に、複数回の拡縮操作を経ても収縮時に小径化されてリクロス性が向上する。
【0071】
また、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法において、減圧処理は、加熱加圧処理においてバルーン140を加圧した後、所定時間経過後に行い、形状付け時間における減圧処理の減圧時間は、バルーン140の加圧時間よりも短くするのがよい。
【0072】
形状付け工程において、バルーン140が最も形状付けされる期間は、形状付け温度で金型210の押し付けられている期間であるため、減圧処理を上記タイミングで実施すれば、バルーン140の加圧時間がしっかり確保されて羽根部150全体に形状付けがされ、かつ羽根部150の内面151により強固な形状付けを行うことができる。
【0073】
また、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法において、減圧処理は、大気圧以下に減圧するのがよい。
【0074】
大気圧以下で減圧処理を行うことで、羽根部150の内面151は、金型210の内壁面211に押し付けられる。そのため、バルーン140は、羽根部150の内面151側の形状が強固に記憶され、ラッピングした際に、従来品よりも小径化することができる。
【0075】
また、本実施形態に係るバルーンの形状付け方法において、形状付け工程は、金型210がガラス転移温度まで冷却された後にバルーン140を1MPa以下に減圧してから金型210を開放する開放処理をさらに含めてもよい。
【0076】
バルーン140は、離型温度よりも低くなるので体積膨張が少なく安定した状態となり、金型210の内周面との張り付くことなく金型210から取り出すことができる。そのため、バルーン140は、表面が損傷したり皺が発生したりせず、耐圧性能を安定させることができる。
【符号の説明】
【0077】
100 バルーンカテーテル、
110 シャフト、
120 内管、
130 外管、
140 バルーン、
150 羽根部、
151 羽根部の内面、
152 羽根部の外面、
160 ハブ、
200 形状付け装置、
210 金型、
211 金型の内壁面(キャビティの輪郭面)
220 移動部、
230 駆動部、
240 加熱部、
250 圧力調整部、
260 媒体供給部、
270 制御部、
300 形状付けシステム、
G ガイドワイヤ、
S キャビティ。