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特開2023-137358油中水型乳化油脂組成物、食品、及び油中水型乳化油脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137358
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】油中水型乳化油脂組成物、食品、及び油中水型乳化油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230922BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20230922BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/01
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043537
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雄士
(72)【発明者】
【氏名】小住 麻美子
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B025LB20
4B025LG11
4B025LG24
4B025LG25
4B025LG27
4B025LK01
4B025LP01
4B025LP10
4B025LP12
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DH02
4B026DK01
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK05
4B026DK10
4B026DX05
(57)【要約】
【課題】売り場を想定した温度帯で温調を開始してから賞味期限が切れる期間まで風味の出方が良好でありながら、耐熱保形性も既存品と同等レベルの低トランス脂肪酸含量の油中水型フィリング、及び該フィリングの作製に用いる油中水型乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】油中水型乳化油脂組成物であって、前記油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂含量が25~95重量%、水分含量が5~50重量%であり、前記油中水型乳化油脂組成物の油相中のHLBが2~6の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下であり、前記油中水型乳化油脂組成物の水相中のHLBが7以上の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%であり、前記油脂を構成する脂肪酸全体中、トランス脂肪酸含量が5重量%以下であり、前記油脂のSFC(固体脂含量)が30℃で0.3~15.0%であることを特徴とする、油中水型乳化油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型乳化油脂組成物であって、
前記油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂含量が25~95重量%、水分含量が5~50重量%であり、
前記油中水型乳化油脂組成物の油相中のHLBが2~6の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下であり、
前記油中水型乳化油脂組成物の水相中のHLBが7以上の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%であり、
前記油脂を構成する脂肪酸全体中、トランス脂肪酸含量が5重量%以下であり、前記油脂のSFC(固体脂含量)が30℃で0.3~15.0%であることを特徴とする、油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記HLBが7以上の乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、蒸留ジグリセリン脂肪酸エステル、重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びリゾレシチンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
前記HLBが7以上の乳化剤を構成する脂肪酸の炭素数が12~18である、請求項2に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の油中水型乳化油脂組成物を含む食品。
【請求項5】
油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂含量が25~95重量%、水分含量が5~50重量%であり、前記油脂を構成する脂肪酸全体中、トランス脂肪酸含量が5重量%以下の油中水型乳化油脂組成物の製造方法であって、
前記油脂に、HLBが2~6の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下となるように混合し、60~90℃まで昇温して油相を得る工程、及び
前記水に、前記HLBが7以上の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%となるように混合し、60~90℃まで昇温して水相を得る工程を有し、
60~80℃に保ち撹拌している油相へ前記水相を添加して撹拌した後、5~20℃まで冷却することを特徴とする、油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス脂肪酸含量の少ない油脂を使用した油中水型フィリングにおいて風味の出方が良好な油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィリングに用いられるクリームとしては、連続相が油相、分散相が糖液や呈味成分等が配合された水相で形成される油中水型乳化油脂組成物のクリームが存在する。このような油中水型乳化油脂組成物は、水中油型乳化油脂組成物である生クリームに対し、日保ちが良好であるという優れた点をもつ反面、連続相である油相の内部に呈味成分を含む水相部が分散されているため、味覚を感じる細胞に水相部が直接触れにくく、水中油型乳化油脂組成物に比して風味の出方が悪い。
【0003】
また、特に健康問題の高まりによりトランス脂肪酸の低減化が求められており、クリームおけるトランス脂肪酸の配合比率が小さくなると共に、パーム系油脂の配合比率が高くなった。しかしながら、パーム系油脂は結晶転移を伴う粗大結晶を生成しやすく、これにより油脂の経時変化が大きく、売り場を想定した温度帯では更に風味の出方が悪化する。
【0004】
そのためフィリング用油中水型乳化油脂組成物の改良がおこなわれてきた。例えば、特許文献1には、水相中にはジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1~10質量%含有し、油相中にはグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを油相基準で0.001~2質量%含有するバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物、及び該油中水型乳化油脂組成物を用いてなるバタークリームが開示され、該バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物から得られるバタークリームの口溶け及び離水耐性が良好であること、また、油相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを実質的に含有しないことが好ましいことが開示されている。しかし、該バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、パーム系油脂等トランス脂肪酸の含量が少ない油脂の配合比率が高い場合の風味の出方は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-198069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
我々は、トランス脂肪酸含量の少ない油脂を使用した油中水型フィリングでも風味の出方が良い油中水型乳化油脂組成物を検討してきた。そこで本発明の目的は、売り場を想定した温度帯で温調を開始してから賞味期限が切れる期間まで風味の出方が良好でありながら、耐熱保形性も既存品と同等レベルの低トランス脂肪酸含量の油中水型フィリング、及び該フィリングの作製に用いる油中水型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の油脂含量、水分含量、及び特定の乳化剤の含量がそれぞれ特定の範囲内であり、前記油脂を構成する脂肪酸におけるトランス脂肪酸含量が特定量以下であり、並びに前記油脂のSFCが特定範囲内である油中水型乳化油脂組成物を用いて作製したフィリングは、売り場を想定した温度帯で温調を開始してから賞味期限が切れる期間まで風味の出方が良好でありながら、耐熱保形性も既存品と同等レベルであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、油中水型乳化油脂組成物であって、前記油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂含量が25~95重量%、水分含量が5~50重量%であり、前記油中水型乳化油脂組成物の油相中のHLBが2~6の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下であり、前記油中水型乳化油脂組成物の水相中のHLBが7以上の乳化剤の含量が前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%であり、前記油脂を構成する脂肪酸全体中、トランス脂肪酸含量が5重量%以下であり、前記油脂のSFC(固体脂含量)が30℃で0.3~15.0%であることを特徴とする、油中水型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、前記HLBが7以上の乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、蒸留ジグリセリン脂肪酸エステル、重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びリゾレシチンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記油中水型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、前記HLBが7以上の乳化剤を構成する脂肪酸の炭素数が12~18である、前記油中水型乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、前記油中水型乳化油脂組成物を含む食品に関する。本発明の第三は、油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂含量が25~95重量%、水分含量が5~50重量%であり、前記油脂を構成する脂肪酸全体中、トランス脂肪酸含量が5重量%以下の油中水型乳化油脂組成物の製造方法であって、前記油脂に、HLBが2~6の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下となるように混合し、60~90℃まで昇温して油相を得る工程、及び前記水に、前記HLBが7以上の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%となるように混合し、60~90℃まで昇温して水相を得る工程を有し、60~80℃に保ち撹拌している油相へ前記水相を添加して撹拌した後、5~20℃まで冷却することを特徴とする、油中水型乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、売り場を想定した温度帯で温調を開始してから賞味期限が切れる期間まで風味の出方が良好でありながら、耐熱保形性も既存品と同等レベルの低トランス脂肪酸含量の油中水型フィリング、及び該フィリングの作製に用いる油中水型乳化油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳細に説明する。本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂、水分をそれぞれ特定量含み、油相中には特定の乳化剤を特定量含み、水相中には特定の乳化剤を特定量含み、前記油脂を構成する脂肪酸におけるトランス脂肪酸含量が特定量以下であり、並びに前記油脂のSFCが特定範囲内であることを特徴とする。そして前記油中水型乳化油脂組成物は、売り場を想定した温度帯で温調を開始してから賞味期限が切れる期間まで風味の出方が良好でありながら、耐熱保形性も既存品と同等レベルの低トランス脂肪酸含量の菓子又はパン用フィリングとして用いることができる。
【0011】
前記油脂は、食用であれば特に限定は無いが、油脂の経時変化が原因で呈味性が劣るとされるトランス脂肪酸含量の少ない油脂を用いた場合に、その改善効果を享受できる。トランス脂肪酸含量は、健康上の観点から前記油脂を構成する脂肪酸全体中5重量%以下であって、3重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが更に好ましい。ここでトランス脂肪酸を実質的に含有しないとは、前記油中水型乳化油脂組成物に、部分水素添加した油脂原料を意図的に配合しないことを意味し、意図せず不純物として含有される場合を含む。なお、油脂中のトランス脂肪酸含量は、AOCS Official Method Ce 1f-96に準じて測定できる。
【0012】
前記油脂含量は、油中水型乳化油脂組成物全体中25~95重量%が好ましく、40~60重量%がより好ましい。25重量%より少ないと油中水型乳化を維持することが困難となる場合があり、95重量%より多いと呈味成分を含有する水相が少なく呈味性が劣り、風味が劣る場合がある。
【0013】
前記油脂の30℃でのSFC(固体脂含量)は、0.3~15.0%が好ましく、0.5~12.0%がより好ましく、3.0~12.0%が更に好ましい。SFCが0.3%を下回ると耐熱保形性が十分でない場合があり、15.0%を超えると口溶け性が悪く呈味性が悪化し、風味の出方が劣る場合がある。SFCは、SFC値はAOCS official method CD16B-93(ダイレクト法)に準じて測定できる。
【0014】
フィリングとしての物性を調整する観点からは、前記油脂の構成脂肪酸としてパルミチン酸を含むことが好ましい。パルミチン酸含量が高い油脂としてパーム系油脂が挙げられる。パーム系油脂を用いることは、パーム系油脂由来のパルミチン酸含量を適正に調整することでフィリング用油脂として好適な品質(口溶け、耐熱保形性)を得ることができ、使用量が増えれば得られるフィリングのコストも下がるので好ましい。
【0015】
パーム系油脂は、特にコストの観点から、前記油脂中7.5~100重量%含有することが好ましい。前記油中水型乳化油脂組成物によれば、パーム系油脂の配合比率が高い場合でも、売り場を想定した温度帯での温調後も、風味の出方が悪くならない。
【0016】
前記パーム系油脂は、パルミチン酸含量が構成脂肪酸全体中20重量%以上の油脂である。前記パーム系油脂のパルミチン酸含量は、構成脂肪酸全体中20~60重量%が好ましく、20~50重量%がより好ましい。20重量%を下回ると、フィリングの耐熱保形性が十分でない場合があり、60重量%を超えると口溶け性が悪い場合がある。
【0017】
前記パーム系油脂としては、(1)パーム油、(2)パーム油の分別油、(3)パーム油及びパーム油の分別油のみのエステル交換油、(4)原料としてパームもしくはパーム油の分別油を一部使用したエステル交換油等が挙げられ、(1)パーム油及び(2)パーム油の分別油はエステル交換を実施していない油脂である。前記エステル交換の方法は特に限定されず、ナトリウムメチラートを触媒とする化学的エステル交換法であっても、リパーゼを触媒とする酵素的エステル交換法であっても良い。
【0018】
前記パーム系油脂以外の油脂は特に限定されないが、パーム核油、ヤシ油、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、亜麻仁油、エゴマ油、ひまわり油、サフラワー油、及びオリーブ油等の植物性油脂;これらの植物性油脂に含まれる中鎖脂肪酸(MCT);乳脂肪、牛脂、豚脂、及び魚油等の動物性油脂;並びにこれらの油脂の分別油、硬化油、及びエステル交換油等が挙げられる。
【0019】
前記油中水型乳化油脂組成物はその油相中にHLBが2~6の乳化剤(低HLB乳化剤)を含有する場合及び含有しない場合を含む。前記油中水型乳化油脂組成物におけるHLBが2~6の乳化剤の含量は少ないほどよく、前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、1重量%以下が更に好ましく、0.5重量%以下(0重量%を含む)が特に好ましい。5重量%を超えると油中水型の乳化力が強すぎて解乳化を阻害する場合がある。
【0020】
また、前記油中水型乳化油脂組成物の油相中に乳化剤を含有する場合、その油相における乳化剤のHLBが2~6の範囲を外れると、油中水型の乳化力が十分でなく、風味の出方(呈味性)が劣る場合がある。前記HLBが2~6の低HLB乳化剤としては特に限定されず、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン等が挙げられる。
【0021】
前記油中水型乳化油脂組成物はその水相中にHLBが7以上の乳化剤(高HLB乳化剤)を含有する。前記油中水型乳化油脂組成物におけるHLBが7以上の乳化剤の含量は、前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%が好ましく、0.05~1.0重量%がより好ましく、0.05~0.5重量%が更に好ましい。0.01重量%を下回ると解乳化の促進効果が十分でなく、風味の出方(呈味性)が劣る場合があり、10重量%を超えると解乳化の促進効果が過剰となって得られるフィリングの離水が生じる場合がある。
【0022】
また、前記油中水型乳化油脂組成物の水相中における乳化剤のHLBは高いほどよいが、HLBが7を下回ると解乳化の促進効果が十分でない場合があり、水相への溶解も困難となる場合があり、風味の出方(呈味性)が劣る場合がある。また、HLBが20を超える乳化剤は、実質的にない。
【0023】
前記HLBが7以上の高HLB乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、蒸留ジグリセリン脂肪酸エステル、重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びリゾレシチンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの中でもより高いHLBの乳化剤の種類が豊富である観点から、ショ糖脂肪酸エステル、及び重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの中では重合度が高いものが好ましく、デカグリセリン脂肪酸エステルがより好ましい。
【0024】
前記脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でも良いが、炭素数12以上の脂肪酸が好ましく、炭素数12~18(C12~C18)の脂肪酸がより好ましく、炭素数12~18の飽和脂肪酸が更に好ましい。炭素数が12を下回ると解乳化の促進効果が十分でない場合があり、炭素数が18を超えるとフィリングの口溶け性が悪化する場合がある。
【0025】
また、前記脂肪酸エステルはモノ脂肪酸エステルが好ましく、炭素数12~18のショ糖モノ脂肪酸エステルが最も好ましい。
【0026】
前記油中水型乳化油脂組成物における前記水分含量は、油中水型乳化油脂組成物全体中5~50重量%が好ましく、15~45重量%がより好ましく、20~40重量%が更に好ましい。水分含量が5重量%を下回ると、口内で風味成分が広がりにくくなり風味を十分に感じにくくなる場合があり、50重量%を超えると相対的に油脂が少なくなり油中水型乳化油脂組成物として構造が保ちにくくなる場合がある。
【0027】
前記油中水型乳化油脂組成物は、任意成分として澱粉を含有することができる。前記油中水型乳化油脂組成物の原料として澱粉を含有する際、該澱粉は膨潤していても、膨潤していなくても良いが、良好な耐熱保形性とボディー感を得る観点から、前記油中水型乳化油脂組成物は、膨潤した澱粉を含有することが好ましい。また、生産性の観点からは、予め澱粉以外の原料で作製した油中水型乳化油脂組成物に膨潤した澱粉を添加して混合することが好ましい。膨潤した澱粉としては、膨潤していない澱粉を加水してから加熱し、膨潤させて冷却した物であればよいが、フラワーペーストがより好ましい。膨潤していない澱粉を添加する場合は、前記油中水型乳化油脂組成物の水相に添加することが好ましく、水相に添加することで油中水型乳化油脂組成物の製造時の加熱により澱粉が膨潤するため良好な耐熱保形性とボディー感が得られる。ここで、ボディー感とは、食べたときに経時的に変化する風味を順にトップノート、ミドルノート及びラストノートとした場合に、ミドルノート及びラストノートにかけて風味が残ること(風味があと残りすること)をいう。また、フラワーペーストとは、膨潤していない澱粉をその他の成分と合わせて膨潤させたものであり、具体的には、例えば、澱粉、小麦粉、ナッツ類もしくはその加工品、ココア、チョコレート、コーヒー、果肉、果汁、いも類、豆類又は野菜類を主原料とし、これに砂糖、油脂、粉乳、卵などを加え加熱殺菌処理をしてペースト状にしたものが挙げられる。
【0028】
前記澱粉としては、コーン、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ、小麦、米、もち米等由来の澱粉等が挙げられ、また、これらの澱粉に必要に応じてエステル化、リン酸架橋、アルファ化、熱処理等の化学的、物理的処理を施したものでもよく、これらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0029】
前記澱粉の含量は、膨潤していない澱粉を用いた場合、前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.1~5重量%が好ましい。0.1重量%よりも少ないと耐熱保形性の改良効果、ボディー感の増加が顕著でない場合があり、5重量%よりも多いと、油中水型乳化油脂組成物の食感が重過ぎる場合がある。また、膨潤した澱粉を用いた場合は、前記油中水型乳化油脂組成物全体中5~30重量%が好ましい。5重量%よりも少ないと耐熱保形性の改良効果、ボディー感の増加が顕著でない場合があり、30重量%よりも多いと、油中水型乳化油脂組成物の食感が重過ぎる場合がある。
【0030】
本発明の油中水型乳化油脂組成物には、更にその他の任意成分として、例えば、増粘安定剤;食塩や塩化カリウム等の塩味剤;クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料;牛乳、練乳、脱脂粉乳、カゼイン、ホエーパウダー、バター、クリーム、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、発酵乳等の乳又は乳製品;ショ糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、麦芽糖、オリゴ糖、水飴、ソルビトール、還元水飴、モラセス等の糖類又は糖アルコール類;デキストリン類;ステビア、アスパルテーム等の甘味料;β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料;トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤;小麦蛋白、大豆蛋白等の植物蛋白;卵又は各種卵加工品;着香料;調味料;pH調整剤;食品保存料;日持ち向上剤;果実;果汁;コーヒー;ナッツペースト;香辛料;カカオマス;ココアパウダー;穀類;豆類;野菜類;肉類;並びに魚介類等の食品素材又は食品添加物等を含有することができる。
【0031】
本発明の油中水型乳化油脂組成物の製造方法の一実施態様を以下に例示する。まずは前記油脂に、前記HLBが2~6の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中5重量%以下(0重量%を含む)となるように混合し、60~90℃まで昇温して油相とする。それとは別に、水に前記HLBが7以上の乳化剤を前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.01~10重量%となるように、また、必要に応じて前記澱粉を混合し、60~90℃まで昇温して水相とする。前記油相を60~80℃に保って撹拌しながら、前記水相を添加して撹拌した後、5~20℃まで冷却する。これにより油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。なお、澱粉については、水相を作成する時には添加せず、予め澱粉以外の原料で作製した油中水型乳化油脂組成物へ膨潤していない澱粉を添加し加熱することにより膨潤させて冷却して良く、予め澱粉以外の原料で作製した油中水型乳化油脂組成物へフラワーペースト等予め膨潤した澱粉を混合して撹拌しても良い。
【実施例0032】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0033】
実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)グリセリン脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社製「エマルジーMS」(HLB=4.3)
2)グリセリン脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社製「ポエムM-300」(HLB=5.4)
3)グリセリン脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社製「ポエムB-200」(HLB=2.8)
4)ポリグリセリン縮合リシノレート:阪本薬品株式会社製「SYグリスター CRS-75」(HLB=1)
5)ショ糖脂肪酸エステル:第一工業製薬株式会社製「DKエステルSS」(HLB=19)
6)デカグリセリン脂肪酸エステル:阪本薬品株式会社製「SYグリスター ML-750」(HLB=14.7)
7)ショ糖脂肪酸エステル:第一工業製薬株式会社製「DKエステルF-70」(HLB=8)
8)バターフレーバー:Givaudan製「バターフレーバー」
9)ミルクフレーバー:Givaudan製「ミルクフレーバー」
10)異性化液糖:昭和産業株式会社製「ニューフラクトR-30」
11)ショ糖ステアリン酸エステル:第一工業製薬株式会社製「DKエステルF-110」(HLB=11)
12)ショ糖パルミチン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートーシュガーエステルP-1670」(HLB=16)
13)ショ糖ミリスチン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートーシュガーエステルM-1695」(HLB=16)
14)ショ糖オレイン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートーシュガーエステルO-1570」(HLB=15)
15)ショ糖ステアリン酸エステル:第一工業製薬株式会社製「DKエステルF-50」(HLB=6)
16)ショ糖ステアリン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートーシュガーエステルS-570」(HLB=5)
17)ショ糖ステアリン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートーシュガーエステルS-370」(HLB=3)
18)デカグリセリンステアリン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターMSW-7S」(HLB=19)
19)ヘキサグリセリンステアリン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターTS-5S」(HLB=7.4)
20)デカグリセリンミリスチン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターML-750」(HLB=14.7)
21)デカグリセリンオレイン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターMO-7S」(HLB=12.9)
22)テトラグリセリンオレイン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターMO-3S」(HLB=8.8)
23)蒸留ジグリセリンオレイン酸エステル:理研ビタミン株式会社製「ポエムDO-100V」(HLB=7.3)
24)デカグリセリンステアリン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターAS-7S」(HLB=3.8)
25)ヘキサグリセリンステアリン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターSP-5S」(HLB=4.5)
26)ジグリセリンステアリン酸エステル:理研ビタミン株式会社製「リケマールS-71-D」(HLB=5.7)
27)ペンタグリセリンオレイン酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターPO-3S」(HLB=2.9)
28)デカグリセリンカプリル酸エステル:坂本薬品工業株式会社製「SYグリスターMCA-750」(HLB=16.1)
29)ソルビタンラウリン酸エステル:理研ビタミン株式会社製「L-300」(HLB=8)
30)ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル:花王株式会社製「エマゾールL-120V」(HLB=16.7)
31)ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル:花王株式会社製「エマゾールO-120V」(HLB=15)
32)モノグリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル:理研ビタミン株式会社製「ポエムW-60」(HLB=9.5)
33)酵素分解レシチン:SOLAE, LLC製「ソレックK-EML」(HLB=15)
34)加工澱粉:松谷化学工業株式会社製「フードスターチHR-7」
35)フラワーペースト:株式会社カネカ製「デザートベース」
【0034】
<風味(呈味性)の評価>
実施例又は比較例で作製したバタークリームを20℃に3時間(D+0)及び48時間(D+2)温調し、熟練した10名のパネラーにそのまま食べてもらい、以下の基準により評価を実施し、それらの平均点を評価値とした。その際の評価の基準は、トランス脂肪酸を含有する部分水添油使用の市販バタークリーム(株式会社カネカ製「BLミルクライト」)を3点とした。
5点:甘味及び乳風味を非常に強く感じる。
4点:甘味及び乳風味を強く感じる。
3点:甘味及び乳風味を感じる。
2点:甘味及び乳風味を弱く感じる。
1点:甘味及び乳風味を感じない。
【0035】
<口溶け性の評価>
実施例又は比較例で作製したバタークリームを20℃に3時間温調し、熟練した10名のパネラーにそのまま食べてもらい、以下の基準により評価を実施し、それらの平均点を評価値とした。該評価の基準は、トランス脂肪酸を含有する部分水添油使用の市販バタークリーム(株式会社カネカ製「BLミルクライト」)を3点とした。
5点:極めて口溶けが良好である。
4点:非常に口溶けが良好である。
3点:口溶けが良好である。
2点:やや口溶けが悪い。
1点:口溶けが悪い。
【0036】
<耐熱保形性の評価>
実施例又は比較例で作製したバタークリームを10gずつポリカップにソフトクリーム状に口金で絞り保存した。そのクリームの入ったポリカップを25℃に2日間温調し、状態の確認を目視で観察し、以下の基準で評価した。
5点:極めて耐熱保形性がある。
4点:非常に耐熱保形性があり、ダレがない。
3点:耐熱保形性があり、殆どダレがない。
2点:耐熱保形性が劣り、ややダレが生じる。
1点:耐熱保形性がなく、ダレが生じる。
【0037】
<フィリング総合評価>
実施例又は比較例で作製したバタークリームを用いて評価した4項目(呈味性(D+0)、呈味性(D+2)、口溶け性、耐熱保形性)の評価結果について、バタークリームの品質としての重要度を加味し、各点数を以下のように再評価してポイントの合計により総合評価を行った。
【0038】
・呈味性(D+0)の各点数の再評価
5点:10ポイント、4点:8ポイント、3点:0ポイント、
2点:-5ポイント、1点:-10ポイント
・呈味性(D+2)の点数の再評価
5点:20ポイント、4点:16ポイント、3点:5ポイント、
2点:-20ポイント、1点:-40ポイント
・口溶け性及び耐熱保形性の点数の再評価
5点:20ポイント、4点:16ポイント、3点:0ポイント、
2点:-20ポイント、1点:-40ポイント
【0039】
・総合評価
◎:総合点が50ポイント以上である。
〇:総合点が23ポイント以上49ポイント以下である。
△:総合点が9ポイント以上22ポイント以下である。
×:総合点が8ポイント以下である。
【0040】
(製造例1)パーム系油脂Aの作製
常法に従い、パーム油100重量部を500Paの減圧下で90℃に加熱し、0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて30分攪拌してランダムエステル交換した。水洗した後、500Paの減圧下、90℃において2重量部の白土を加えて脱色した。240℃、200Paの条件で1時間脱臭をしてパーム系油脂Aを得た。
【0041】
(製造例2)パーム系油脂Bの作製
パーム油100重量部に代えて、パーム油の分別油であるパームスーパーオレイン100重量部を用いる以外は、製造例1と同様の操作を行い、パーム系油脂Bを得た。
【0042】
(製造例3)パーム系油脂Cの作製
パーム油100重量部に代えて、パーム油の分別油であるパームステアリン100重量部を用いる以外は、製造例1と同様の操作を行い、パーム系油脂Cを得た。
【0043】
(製造例4)調合油Aの作製
パーム系油脂Aを60重量部、菜種油を40重量部混合し、調合油Aを得た。調合油Aの30℃におけるSFCは11.5%であり、トランス脂肪酸含量は0.8重量%であった。
【0044】
(製造例5)調合油Bの作製
パーム系油脂Bを30重量部、パーム核油を30重量部、菜種油を40重量部混合し、調合油Bを得た。調合油Bの30℃におけるSFCは2.1%であり、トランス脂肪酸含量は0.4重量%であった。
【0045】
(製造例6)調合油Cの作製
パーム系油脂Aを75重量部、菜種油を25重量部混合し、調合油Cを得た。調合油Cの30℃におけるSFCは14.4%であり、トランス脂肪酸含量は0.5重量%であった。
【0046】
(製造例7)調合油Dの作製
パーム系油脂Aを10重量部、パーム系油脂Cを11重量部、パーム核油を30重量部、菜種油を49重量部混合し、調合油Dを得た。調合油Dの30℃におけるSFCは6.8%であり、トランス脂肪酸含量は0.68重量%であった。
【0047】
(製造例8)調合油Eの作製
パーム系油脂Aを80重量部、パーム系油脂Cを20重量部混合し、調合油Dを得た。調合油Dの30℃におけるSFCは24.0%であり、トランス脂肪酸含量は0.6重量%であった。
【0048】
(製造例9)調合油Fの作製
パーム核油を50重量部、菜種油を50重量部混合し、調合油Eを得た。調合油Eの30℃におけるSFCは0.2%であり、トランス脂肪酸含量は0.1重量%であった。
【0049】
(実施例1)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表1に示す配合に従って、バタークリームを製造した。即ち、製造例4の調合油A、バターフレーバーを70℃で加温し、攪拌し混合して油相を調製した。次に異性化液糖、水、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=19)、上白糖、塩、ミルクフレーバーを60℃で加温し、攪拌し混合して水相を調製した。調製した油相に水相を混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、急冷捏和装置を用いて急冷して捏和し、混和機を経てバタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例2~3)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表1に示す配合に従って、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=19)をデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB=14.7)(実施例2)、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=8)(実施例3)に変えた以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0052】
(実施例4~6)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表1に示す配合に従って、油相に更にグリセリン脂肪酸エステル(HLB=4.3)(実施例4)、グリセリン脂肪酸エステル(HLB=5.4)(実施例5)、グリセリン脂肪酸エステル(HLB=2.8)をそれぞれ0.3重量部添加し、水量を調整した以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0053】
(実施例7~9)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表1に示す配合に従って、調合油Aを調合油B(実施例7)、調合油C(実施例8)、調合油D(実施例9)に変えた以外は実施例4と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0054】
(実施例10~13)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表2に示す配合に従って、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=19)の量を5重量部(実施例10),3重量部(実施例11),1重量部(実施例12),0.01重量部(実施例13)に変えた以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例14~16)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表2に示す配合に従って、油相に更にグリセリン脂肪酸エステル(HLB=4.3)を5重量部(実施例14),3重量部(実施例15),1重量部(実施例16)を添加し、水量を調整した以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0057】
(比較例1)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表3に示す配合に従って、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=19)を添加せずに、水量を調整した以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0058】
【表3】
【0059】
(比較例2,3)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表3に示す配合に従って、水相にショ糖脂肪酸エステル(HLB=19)を添加せず、油相にグリセリン脂肪酸エステル(HLB=4.3)を0.3重量部添加し(比較例2)、油相にポリグリセリン縮合リシノレート(HLB=1)(比較例3)を0.3重量部添加した以外はそれぞれ実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0060】
(比較例4,5)フィリングとして用い得るバタークリームの作製
表3に示す配合に従って、油脂を調合油E(比較例4),調合油F(比較例5)に変えた以外は実施例1と同様にして、バタークリームを得た。得られたバタークリームについて、風味(呈味性)・口溶け性・耐熱保形性、及びフィリングの総合評価を行い、その結果を表4にまとめた。
【0061】
【表4】
【0062】
表4の結果から明らかなように、HLBが7以上の高HLBの乳化剤を水相に添加することにより得られたバタークリームは、20℃で48時間(D+2)経過後も優れた呈味性を有し、風味の出方が良好である(実施例1~16、比較例1~2)。但し、HLBが7以上の高HLBの乳化剤を水相に添加しても、油相に低HLB乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレート(HLB=1)を添加したバタークリームの場合は、油中水型の乳化力が強すぎるためにHLBが7以上の高HLB乳化剤の効果が発揮されず、20℃で48時間(D+2)経過後の呈味性は十分ではなく、風味の出方が劣る(比較例3)。また、30℃における油脂のSFCが24%と高い場合には、口溶け性が悪いために呈味性の改善が十分でなく、風味の出方が劣る(比較例4)。逆に30℃における油脂のSFCが0.2%と低い場合には、耐熱保形性が著しく劣るためフィリングとしての実用性がない(比較例5)。
【0063】
(実施例17~22)乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:SE)の評価
製造例4の調合油Aを70℃で加温し、急冷捏和装置を用いて急冷して捏和してショートニングAを得た。次に表5に示す配合に従って、油中水型乳化油脂組成物を作製し、各乳化剤(SE)を用いた場合の風味(呈味性)の評価を行った。即ち、ショートニングAをボウルに入れ、ホイッパー(ホバートジャパン社製)で低速30秒攪拌し、軟化させた。ステンレスビーカーに各乳化剤及びその他原料を入れ、70℃30分殺菌した後20℃まで冷却させ水相を作製し、軟化させたショートニングAの入ったボウルに入れた。そして比重が0.80±0.02になるまで攪拌混合することで油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表5に示した。
【0064】
【表5】
【0065】
(比較例6~8)乳化剤(SE)の評価
表5に示す配合に従って、各乳化剤(SE)の風味(呈味性)の評価を行った。即ち、実施例17と同様の操作で油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表5に示した。
【0066】
表5の結果から明らかなようにHLBが7以上の高HLBのショ糖脂肪酸エステルを水相に添加することで風味(呈味性)が著しく向上する(実施例17~22)。HLB値は高い方が好ましく、HLBが6以下の低HLBのショ糖脂肪酸エステルを水相に添加しても風味の出方(呈味性)の改善が十分でない(比較例6~8)。
【0067】
(実施例23~28)乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル:PG)の評価
表6に示す配合に従って、各乳化剤(PG)の風味(呈味性)の評価を行った。即ち、実施例17と同様の操作で油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表6に示した。
【0068】
【表6】
【0069】
(比較例9~12)乳化剤(PG)の評価
表6に示す配合に従って、各乳化剤(PG)の風味(呈味性)の評価を行った。即ち、実施例17と同様の操作で油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表6に示した。
【0070】
表6の結果から明らかなようにHLBが7以上の高HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを水相に添加することで風味(呈味性)が著しく向上する(実施例23~28)。HLB値は高い方が好ましく、HLBが6以下の低HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを水相に添加しても呈味性の改善が十分でない(比較例9~12)。
【0071】
(実施例29~33)乳化剤(SE及びPGの他)の評価
表7に示す配合に従って、各乳化剤(SE及びPGの他)の風味(呈味性)の評価を行った。即ち、実施例17と同様の操作で油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表7に示した。
【0072】
【表7】
【0073】
表7の結果から明らかなようにHLBが7以上の高HLBの各乳化剤を水相に添加することで、20℃で48時間(D+2)経過後も優れた風味(呈味性)を有する(実施例29~33)。
【0074】
(実施例34~35)澱粉添加配合
表8に示す配合に従って、水相部へ澱粉として加工澱粉(実施例34)又はフラワーペースト(実施例35)を配合したこと以外は、実施例17と同様の操作で油中水型乳化油脂組成物を作製し、前記評価基準に従って風味(呈味性)の評価を行った。その結果を同じく表8に示した。
【0075】
【表8】
【0076】
表8の結果から明らかなように澱粉を配合した場合においても、20℃で48時間(D+2)経過後も優れた風味(呈味性)を有する。更に澱粉を含まない実施例17と比較して、フィリングとしての良好な耐熱保形性とボディー感が付与されており、食べたときに極めて風味があと残りした。