(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137402
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】マルチング材、型枠、および、マルチング材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 13/00 20060101AFI20230922BHJP
A01G 13/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A01G13/00 302Z
A01G13/00 301A
A01G13/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043603
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】市毛 敬介
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024DB04
2B024DB10
2B024DC10
2B024DD10
(57)【要約】
【課題】 マルチング材において、環境負荷を小さくすることができる技術を提供する。
【解決手段】 マルチング材は、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畑の土壌表面を被覆するために用いられるマルチング材であって、
植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチング材は、さらに、
互いに絡み合った前記植物の根によって保持されている土を含む、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項3】
請求項2に記載のマルチング材であって、
前記土は、前記マルチング材が使用される畑の土を含む、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のマルチング材であって、
前記植物は、茎の一部が切り取られている、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマルチング材であって、
前記植物は、一年生植物である、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のマルチング材であって、
前記植物は、緑肥植物である、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のマルチング材であって、
前記植物は、前記マルチング材が使用される畑の作物の共栄作物を含む、
ことを特徴とするマルチング材。
【請求項8】
マルチング材を製造するために用いられる型枠であって、
対向する一対の平板部材を備え、
前記一対の平板部材の間の空間部が密閉されないように、前記一対の平板部材の外周部は、少なくとも一部が開放されている、
ことを特徴とする型枠。
【請求項9】
請求項8に記載の型枠は、さらに、
前記一対の平板部材のそれぞれの対向する端部同士を接続する接続部を備え、
前記一対の平板部材のそれぞれは、前記接続部に接続されている端部とは反対側の端部の幅が、前記接続部に接続されている端部の幅よりも小さくなるように形成されている、
ことを特徴とする型枠。
【請求項10】
マルチング材の製造方法であって、
土壌中に埋められている一対の平板部材の間で、植物の根を成長させる第1工程と、
前記第1工程において成長させた植物の根を前記一対の平板部材の間から取り出す第2工程と、を備える、
ことを特徴とするマルチング材の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のマルチング材の製造方法は、さらに、
前記第1工程の前に、前記一対の平板部材を前記マルチング材が使用される畑の土壌中
に設置する第3工程を備える、
ことを特徴とするマルチング材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチング材、型枠、および、マルチング材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、畑の土壌表面を覆うマルチング材が知られている。例えば、非特許文献1には、プラスチック材料から形成されるマルチング材が開示されている。特許文献1には、藁を編み込んで形成されるマルチング材が開示されている。特許文献2には、積層された藁を基材に固定することでマルチング材を製造する技術が開示されている。特許文献3には、微細化された間伐材などをシート状に形成することでマルチング材を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-61834号公報
【特許文献2】特開2001-45881号公報
【特許文献3】特開2006-271242号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井上 光弘、"種々のマルチ材による土壌面蒸発抑制と温度環境"、農業および園芸82巻6号(2007)、pp.683-686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1や特許文献1,2,3のような先行技術によっても、環境負荷をさらに小さくする技術については、なお、改善の余地があった。例えば、非特許文献1に記載の技術では、マルチング材は、自然環境中で自然に分解されないプラスチック材料から形成されているため、経年劣化したマルチング材は、回収して廃棄する必要がある。この場合、焼却すると有害ガスが発生するため、環境負荷が増大するおそれがある。特許文献1~3に記載の技術では、藁や間伐材などをシート状に成形するためには、藁を束ねる樹脂製の紐や間伐材を接着するための接着剤などを用いる必要がある。このため、特許文献1~3に記載のマルチング材を使用すると、自然環境中では、材料の全てが分解されないため、畑に残留物が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、マルチング材において、環境負荷を小さくすることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、畑の土壌表面を被覆するために用いられるマルチング材が提供される。このマルチング材は、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する。
【0009】
この構成によれば、マルチング材は、植物の根から形成されている。これにより、マルチング材が不要になったり、細かくちぎれたりしても、自然環境中で分解されるため、畑の環境負荷を小さくすることができる。
【0010】
(2)上記形態のマルチング材において、互いに絡み合った前記植物の根によって保持されている土を含んでもよい。この構成によれば、マルチング材は、絡み合った植物の根によって保持される土を含んでいる。これにより、互いに絡み合っている植物の根の間が土によって埋まるため、畑の土壌表面を被覆しやすくなる。また、マルチング材の重量が増すため、風雨によってマルチング材が飛ばされることを抑制できる。したがって、畑の土壌表面を被覆した状態を比較的長く維持することができる。
【0011】
(3)上記形態のマルチング材において、前記土は、前記マルチング材が使用される畑の土を含んでもよい。この構成によれば、マルチング材に含まれる土には、マルチング材が使用される畑の土が含まれている。これにより、栄養分を含む畑の土がマルチング材として用いられるため、土に含まれる栄養分を作物に供給することができる。また、マルチング材の使用後に植物の根が分解され、植物の根に保持されている土がそのまま畑に残っても同じ畑の土であるため、畑の環境に影響を及ぼすことはない。したがって、畑の環境負荷をさらに小さくすることができる。
【0012】
(4)上記形態のマルチング材において、前記植物は、茎の一部が切り取られていてもよい。この構成によれば、マルチング材は、植物の茎の一部が切り取られた、残りの根の部分によって形成されている。マルチング材は、絡み合っている植物の根によって板状の形状を有するように形成されているため、茎の部分がない方が畑の土壌表面を被覆しやすくなる。
【0013】
(5)上記形態のマルチング材において、前記植物は、一年生植物であってもよい。この構成によれば、マルチング材は、成長して花が咲くと枯れる一年生植物の根が絡み合って形成されている。これにより、マルチング材として使用している最中に、マルチング材に使用されている植物が成長することはない。したがって、マルチング材に用いた植物によって畑の環境が荒らされることを抑制することができる。
【0014】
(6)上記形態のマルチング材において、前記植物は、緑肥植物であってもよい。この構成によれば、マルチング材は、畑の作物に被害を与えるセンチュウを遠ざけさせる効果がある緑肥植物を用いている。これにより、センチュウによる作物への被害を小さくすることができる。
【0015】
(7)上記形態のマルチング材において、前記植物は、前記マルチング材が使用される畑の作物の共栄作物を含んでいてもよい。この構成によれば、マルチング材は、畑の作物の成長を促進する共栄作物から形成されている。これにより、作物の病気を予防したり、作物の成長を促進させたりすることができる。
【0016】
(8)本発明の別の形態によれば、マルチング材を製造するために用いられる型枠が提供される。この型枠は、対向する一対の平板部材を備え、前記一対の平板部材の間の空間部が密閉されないように、前記一対の平板部材の外周部は、少なくとも一部が開放されている。この構成によれば、マルチング材を製造するために用いられる型枠は、一対の平板部材の外周部の少なくとも一部が開放されており、一対の平板部材の間の空間部が密閉されないようになっている、これにより、型枠を土壌中に設置したとき、一対の平板部材の間で成長する植物の根に十分な空気や水を供給することができる。したがって、一対の平板部材の間で植物の根を成長させることができる。
【0017】
(9)上記形態の型枠は、さらに、前記一対の平板部材のそれぞれの対向する端部同士を接続する接続部を備え、前記一対の平板部材のそれぞれは、前記接続部に接続されている端部とは反対側の端部の幅が、前記接続部に接続されている端部の幅よりも小さくなる
ように形成されていてもよい。この構成によれば、一対の平板部材は、接続部に接続されている端部とは反対側の端部の幅が、接続部に接続されている端部の幅よりも小さくなるように形成されている。これにより、土壌中でマルチング材を製造するとき、幅が狭くなっている端部を土壌に打ち込むことで、型枠を土壌中に設置しやすくなる。したがって、マルチング材を簡単に製造することができる。
【0018】
(10)本発明のさらに別の形態によれば、マルチング材の製造方法が提供される。マルチング材の製造方法は、土壌中に埋められている一対の平板部材の間で、植物の根を成長させる第1工程と、前記第1工程において成長させた植物の根を前記一対の平板部材の間から取り出す第2工程と、を備える、この構成によれば、マルチング材の製造方法では、土壌中に設置されている一対の平板部材の間の空間部で植物の根を成長させたのち、一対の平板部材の間から植物の根を取り出す。これにより、植物を育てるように、植物の根が互いに絡み合う板状の形状を有するマルチング材を製造することができる。
【0019】
(11)上記形態のマルチング材の製造方法において、前記第1工程の前に、前記一対の平板部材を前記マルチング材が使用される畑の土壌中に設置する第3工程を備えてもよい。この構成によれば、型枠は、マルチング材が使用される畑の土壌中に設置されるため、マルチング材は、使用する現場で製造することができる。これにより、製造したマルチング材を運ぶ手間を省くことができる。
【0020】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する構造物、この構造物の製造方法、この構造物を含む部材、マルチング材の利用方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態のマルチング材の概略構成を示す模式図である。
【
図2】マルチング材に含まれる構造物の概略構成を示す模式図である。
【
図6】マルチング材の製造方法を説明する第1の図である。
【
図7】マルチング材の製造方法を説明する第2の図である。
【
図8】マルチング材の製造方法を説明する第3の図である。
【
図9】マルチング材の製造方法を説明する第4の図である。
【
図10】マルチング材の製造方法を説明する第5の図である。
【
図11】マルチング材の使用例を説明する図である。
【
図12】第2実施形態のマルチング材の使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のマルチング材の概略構成を示す模式図である。
図2は、第1実施形態のマルチング材に含まれる構造物の概略構成を示す模式図である。
図3は、マルチング材の断面図であって、
図1のA-A線断面図である。本実施形態のマルチング材1は、畑の土壌表面を覆うマルチングに用いられる。マルチングには、畑などの土壌の表面の乾燥を防止する効果、雨滴による衝撃を緩和することで土壌が流亡することを防止する効果、太陽光を遮ることで土壌の温度変化を緩和する効果、直射日射を遮ることで雑草が生えることを抑制する効果などがあり、畑の作物にとって有用である。本実施形態では、マルチング材1は、トマトやサツマイモなどの栽培において使用する。マルチング材1は、植物の根10aと、土20と、を備える。
【0023】
植物の根10aは、それぞれが絡み合うことで略板状の形状S5を有する構造物5を形成する(
図2参照)。構造物5は、マルチング材1を製造するために用いられる、後述の型枠の形状である略五角形の形状を有する。本実施形態では、構造物5を形成する根10aの植物は、センチュウを遠ざけさせることが知られているイネ科の緑肥植物、例えば、ライムギやエンバクなどであり、ここでは、ライムギとする。ライムギは、1度花が咲くと枯れる一年生植物であるため、マルチング材1として畑で使用しているときに成長することはない。構造物5では、植物の根10aは絡み合っているため、
図2に示すように、隙間が多く形成されている。
図1および
図2に示すマルチング材1には、ライムギの茎10bの一部が残っている。
【0024】
土20は、植物の根10aによって保持されている。具体的には、マルチング材1が含む多くの土20は、
図3に示すように、絡み合っている植物の根10aの隙間に入り込むことで保持されている。また、マルチング材1が含む土20のうち、植物の根10aに付着することで保持されているものもある。土20は、マルチング材1の重量の多くを占めている。
【0025】
次に、マルチング材1の製造方法について説明する。本実施形態のマルチング材1は、型枠を用いて、製造したマルチング材1を使用する畑において製造する。
【0026】
図4は、型枠の概略構成を示す第1の模式図であって、型枠の正面図と平面図とを示している。
図5は、型枠の概略構成を示す第2の模式図であって、型枠の側面図を示している。ここで、マルチング材1を製造するために用いられる型枠30の構成について説明する。型枠30は、一対の平板部材31と、2つの接続部32と、2つの持ち手部33と、を備える。型枠30は、木材などの自然素材が形成されている。これにより、型枠30は、マルチング材1を使用する現場(畑)の使用したのち、現場に放置しても自然環境中で分解されるため、廃棄処理が不要となる。なお、型枠30は、金属やプラスチックから形成されていてもよい。
【0027】
一対の平板部材31のそれぞれは、略平板状の部材であって、同じ形状を有しており、対向するように配置されている。平板部材31は、
図4(a)に示すように、正面から見た形状が略五角形となっている。平板部材31のうち、後述する接続部32が接続される側の基端部31aとは反対側の先端部31bは、先に向かうにしたがって細くなっている。具体的には、
図4(a)に示すように、先端部31bの横幅Wbは、基端部31aの横幅Waに比べて小さく、
図5に示すように、先端部31bの厚みDbは、基端部31aの厚みDaに比べ小さくなっている。これにより、一対の平板部材31のそれぞれの先端部31bは、土壌中に打ち込みやすくなっている。
【0028】
2つの接続部32は、一対の平板部材31の基端部31a同士を接続している。接続部32は、一対の平板部材31の間隔dが、マルチング材1の厚み(
図3に示す厚みd)と同じになるように、一対の平板部材31を接続している(
図4(b)参照)。本実施形態では、型枠30を用いてマルチング材1を製造するとき、マルチング材1を型枠30から取り出しやすくするため、接続部32は、一対の平板部材31との接続を容易に解除可能となっている。
【0029】
2つの持ち手部33は、2つの接続部32のそれぞれに取り付けられている。持ち手部33は、型枠30を用いてマルチング材1を製造するとき、マルチング材1の製造者が持つことで、型枠30を土壌中に打ち込んだり、土壌から引き抜いたりすることができる。
【0030】
本実施形態の型枠30では、
図5に示すように、一対の平板部材31の間の空間部30aが密閉されないように、一対の平板部材31において、接続部32が接続する部分以外
の外周部分は、開放されている。これにより、型枠30を土壌中に設置したとき、空間部30aで成長する植物の根5aに、十分な空気や水を供給することができる。
【0031】
次に、マルチング材1の製造方法について説明する。本実施形態では、マルチング材1は、製造したマルチング材1を使用する畑において製造する。これにより、製造したマルチング材1の輸送コストを低減することができる。
【0032】
図6は、マルチング材の製造方法を説明する第1の図である。本実施形態のマルチング材1の製造方法では、最初に、畑90の土壌91中に、型枠30を埋め込む(第3工程)。具体的には、型枠30の先端部31bを畑90の土壌表面92に接触させてから、2つの持ち手部33のそれぞれに力F1をかけて、一対の平板部材31のそれぞれを土壌91中に打ち込む。本実施形態では、例えば、
図6に示すように、複数の型枠30を横に並べて、複数のマルチング材1を同時に製造する。
【0033】
図7は、マルチング材の製造方法を説明する第2の図である。
図7は、土壌91中に埋め込まれた複数の型枠30を、畑90の上方から見た図である。土壌91中に型枠30を打ち込んだ後、一対の平板部材31の間の土壌表面92に、ライムギの種子S1を条まきで播種し、覆土する。
【0034】
一対の平板部材31の間の土壌表面92に種子S1を播種した後、通常の作物の場合と同様に、水や肥料を与えながらライムギを成長させる(第1工程)。このとき、ライムギの根10aは、土壌91中において、空間部30aで成長するため、ライムギの根10aは、一対の平板部材31によって成長方向が制限され、互いに絡み合った平板状の形状を有する構造物5を形成する。本実施形態では、ライムギの根10aによって構造物5が形成される過程において、空間部30aの土が構造物5の内部に取り込まれる。これにより、空間部30aに、ライムギの根10aと空間部30aの土とから形成されるマルチング材1が形成される。
【0035】
図8は、マルチング材の製造方法を説明する第3の図である。一対の平板部材31の間で成長させたライムギには、根10aの部分と、茎および葉の部分と、を有する。そこで、本実施形態では、
図8に示すように、マルチング材1が型枠30とともに土壌91中にあるときに、ライムギ10の茎10bの部分を刃物11によって切断する。なお、ライムギ10の茎10bの部分は、マルチング材1を土壌91中から取り出してから切断してもよい。
【0036】
図9は、マルチング材の製造方法を説明する第4の図である。ライムギ10の茎11bの部分を切断したのち、マルチング材1を土壌91中から取り出す。具体的には、2つの持ち手部33のそれぞれに力F2をかけて、型枠30とともにライムギ10の根10aと根10aに保持されている近傍の土20とを、土壌91中から引き出す。
【0037】
図10は、マルチング材の製造方法を説明する第5の図である。型枠30とともにライムギ10の根10aと土20とを土壌91中から引き出したのち、マルチング材1を型枠30から取り出す(第2工程)。具体的には、土壌91中から引き出した
図10(a)の状態から、接続部32と一対の平板部材31との接続を解除する(
図10(b)の白抜き矢印F3参照)。これにより、一対の平板部材31による拘束が解除され、型枠30からマルチング材1を取り出すことができる。これにより、マルチング材1が完成する。
【0038】
図11は、マルチング材の使用例を説明する図である。
図11には、野菜93を栽培する畑90においてマルチング材1を使用する例を示している。マルチング材1は、適宜切断されて、畑90の土壌表面92を被覆するように設置される。マルチング材1は、互い
に絡み合っているライムギ10の根10aによって形成されている板状の構造物5と、構造物5の内部に含まれる土20と、を備えている。土20によってある程度の重量を有するマルチング材1は、土壌表面92を被覆しやすいたため、風雨による飛散を防止することができる。本実施形態では、マルチング材1の製造方法において発生するライムギ10の茎10bの部分や葉の部分を、畑90の土壌表面92に敷かれたマルチング材1の上に敷くことで、栽培する野菜への影響分の供給に利用する。また、ライムギ10の茎10bの部分や葉の部分は、マルチング材1の下に敷いてもかまわない。
【0039】
マルチング材1は、野菜93からセンチュウを遠ざけさせる効果を有するライムギ10の根10aを含んでいる。これにより、野菜93からセンチュウを遠ざけさせることができるため、センチュウによる野菜93への被害を小さくすることができる。
【0040】
マルチング材1は、野菜93を栽培する畑90において製造されるため、ライムギ10の根10aによって、畑90の土20を保持している。これにより、土壌表面92を被覆するマルチング材1の土20に含まれる栄養分が野菜93に供給されやすくなる。したがって、野菜93の成長が促進される。
【0041】
マルチング材1は、有機物であるライムギ10の根10aによって形成される植物根構造物であることから、微生物に分解されやすい。これにより、マルチング材として使用した後においても、畑90に残留物を発生させないため、畑90への環境負荷を小さくすることができる。
【0042】
以上説明した、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1は、自然環境中で分解されやすい植物(ライムギ10)の根10aから形成されている。これにより、マルチング材1が不要になったり、細かくちぎれたりしても、自然環境中で分解され、畑90に残留しないため、畑90の環境負荷を小さくすることができる。
【0043】
また、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1は、絡み合ったライムギ10の根10aによって保持される土20を含んでいる。これにより、互いに絡み合っているライムギ10の根10aの間が土20によって埋まるため、構造物5の孔を塞ぐことができるため、畑90の土壌表面92を被覆しやすくなる。また、マルチング材1の重量が増すため、風雨によってマルチング材1が飛ばされることを抑制できる。したがって、畑90の土壌表面92を被覆した状態を比較的長く維持することができる。
【0044】
また、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1に含まれる土20は、マルチング材1が使用される畑90の土20である。これにより、栄養分を含む畑90の土20がマルチング材1として用いられるため、土20に含まれる栄養分を野菜93に供給することができる。また、マルチング材1の使用後にライムギ10の根10aが分解され、ライムギ10の根10aに保持されている土20がそのまま畑90に残っても同じ畑90の土であるため、畑90の環境に影響を及ぼすことはない。したがって、畑90の環境負荷をさらに小さくすることができる。
【0045】
また、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1は、ライムギ10の茎10bの一部が切り取られた、残りの根10aの部分によって形成されている。マルチング材1は、絡み合っているライムギ10の根10aによって板状の形状を有するように形成されているため、茎10bの部分がない方が畑90の土壌表面92を被覆しやすくなる。
【0046】
また、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1は、成長して花が咲くと枯れる一年生植物であるライムギ10の根10aが絡み合って形成されている。これにより、マルチング材1として使用している最中に、マルチング材1に使用されているライム
ギ10は成長することはない。したがって、マルチング材1に用いた植物によって畑90の環境が荒らされることを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態のマルチング材1によれば、マルチング材1は、畑90の野菜93に被害を与えるおそれがあるセンチュウを、野菜93から遠ざけさせる効果がある緑肥植物を用いている。これにより、センチュウによる野菜93への被害を小さくすることができる。
【0048】
また、本実施形態の型枠30によれば、マルチング材1を製造するために用いられる型枠30は、接続部32が接続する部分以外の外周部分は、開放されており、空間部30aが密閉されないようになっている。これにより、型枠30を土壌91中に設置したとき、空間部30aで成長するライムギ10の根10aに十分な空気や水を供給することができる。したがって、一対の平板部材31の間でライムギ10の根10aを十分成長させることができる。
【0049】
また、本実施形態の型枠30によれば、一対の平板部材31は、接続部32に接続されている基端部31aとは反対側の先端部31bの横幅Wbが、基端部31aの横幅Waよりも小さくなるように形成されている。これにより、土壌91中でマルチング材1を製造するとき、横幅が狭くなっている先端部31bから型枠30を土壌91に打ち込むことで、型枠30を土壌91中に設置しやすくなる。したがって、マルチング材1を簡単に製造することができる。
【0050】
また、本実施形態のマルチング材1の製造方法によれば、土壌91中に設置されている一対の平板部材31の間の空間部30aでライムギ10の根10aを成長させたのち、一対の平板部材31の間からライムギ10の根10aを取り出す。これにより、植物を育てるように、マルチング材1を製造することができる。
【0051】
また、本実施形態のマルチング材1の製造方法によれば、型枠30は、マルチング材1が使用される畑90の土壌91中に設置されるため、マルチング材1は、使用する現場で製造することができる。これにより、製造したマルチング材1を運ぶ手間を省くことができる。
【0052】
<第2実施形態>
図12は、第2実施形態のマルチング材の使用例を説明する図である。第2実施形態のマルチング材2は、第1実施形態のマルチング材1(
図1)と比較すると、構造物を形成する植物の種類が異なる。
【0053】
本実施形態のマルチング材2は、エンバクの根40aと、土20と、を備える。エンバクの根40aは、それぞれが絡み合うことで略板状の形状を有する構造物5を形成する。土20は、構造物5のエンバクの根40aによって保持されている。
【0054】
図12に示すマルチング材2の使用例は、白菜94を栽培する畑90において、エンバクの根40aからなるマルチング材2を使用している状態を示している。白菜94とエンバクとの関係は、いわゆる、共栄作物(コンパニオンプランツ)である。マルチング材2を形成するエンバクは、白菜において、病気を予防する効果、害虫を遠ざける効果、生育を促進する効果などを有する。このように、マルチング材を使用する畑で栽培されている作物の共栄作物を、マルチング材を形成する植物として使用とすることは、作物の栽培に適している。
【0055】
以上説明した、本実施形態のマルチング材2によれば、マルチング材2は、白菜94の
共栄作物であるエンバクの根40aから形成されている。これにより、マルチング材2は、白菜94の病気を予防したり、白菜94の成長を促進させたりすることができる。
【0056】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
[変形例1]
上述の実施形態では、マルチング材は、土を含んでいるとした。土を含んでおらず、植物の根から形成される構造物のみであってもよい。また、マルチング材が含む土は、マルチング材を使用する畑の土であるとしたが、土の種類はこれに限定されない。マルチング材を使用する畑以外の場所で製造し、使用する畑に持ち込んでもよい。
【0058】
[変形例2]
上述の実施形態では、マルチング材が有する構造物を形成する根の植物は、イネ科の緑肥植物であり、一年生植物であるライムギやエンバクであるとした。構造物を形成する根の植物は、これに限定されない。構造物を形成する根の植物を緑肥植物にすることで、センチュウによる作物への被害を小さくすることができる。また、構造物を形成する根の植物を一年生植物にすることで、マルチング材に用いた植物が畑の土壌表面で成長することを抑制することができる。
【0059】
[変形例3]
上述の実施形態では、マルチング材の構造物を形成する根の植物は、茎の一部が切り取られるとした。茎の部分がついた状態でもマルチング材として使用可能である。茎の部分は、作物に供給される栄養源としても利用可能である。
【0060】
[変形例4]
上述の実施形態では、マルチング材を製造するための型枠は、一対の平板部材を備えるとした。型枠の構成はこれに限定されない。例えば、畑の畝の形状に沿って曲面形状を有するマルチング材が製造可能なように構成されていてもよい。
【0061】
[変形例5]
マルチング材の製造法において、第1実施形態では、ライムギの種子を播種し、第2実施形態では、エンバクの種子を播種するとした。しかしながら、マルチング材の製造方法では、例えば、ライムギの種子とエンバクの種子との組み合わせのように、異なる品種の種子を混ぜて播種してもよい。例えば、マルチング材を製造する土壌中において、根が深さ方向に成長しやすい品種の種子と、根が水平方向に成長しやすい品種の種子を混ぜて播種することで、マルチング材の構造物を、略網目状に形成することができる。これにより、土を保持しやすくなるため、マルチング材によって土壌表面をさらに被覆しやすくなる。
【0062】
[変形例6]
第1実施形態では、マルチング材1の製造方法において発生するライムギ10の茎10bや葉の部分は、マルチング材1と同様に、畑90の土壌表面92を被覆するように敷くこととした。第2実施形態のように、切断した茎10bや葉の部分によって土壌表面92を被覆しなくてもよい(
図10参照)。
【0063】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると
ともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0064】
1,2…マルチング材
90…畑
92…土壌表面
10…植物
10a…根
10b…茎
20…土
30…型枠
30a…空間部
31…平板部材
31a…基端部
31b…先端部
32…接続部
Wa,Wb…横幅