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特開2023-137424レール用オーステナイト系ステンレス鋼およびそれを用いたレール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137424
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】レール用オーステナイト系ステンレス鋼およびそれを用いたレール
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230922BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043632
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 茂太
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直純
(57)【要約】
【課題】非磁性の特性を維持しながら、高硬度を有し、かつレールの大径品や長尺品も製造できるレール用オーステナイト系ステンレス鋼およびそれを用いたレールを提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.18~0.35%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、(P:0.030%以下)S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:0.2~1.0%、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物からなるレール用オーステナイト系ステンレス鋼とする。また、当該オーステナイト系ステンレス鋼を用いたレールとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.18~0.35%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、P:0.030%以下、S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:0.2%~1.0%、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物からなることを特徴とするレール用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とするレール。
【請求項3】
表面硬さがロックウェルCスケールで40HRCを超えて、比透磁率が1.010以下であることを特徴とする請求項2に記載のレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のレール(スライドレール、床レール、ガイドレール、軌道レール等)用途のオーステナイト系ステンレスおよびそれを用いたレールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SUS304の鋼種に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼に比べて種々の形状に加工しやすく、一定の強度も確保されているので、様々な用途に展開されている。例えば、複雑な断面形状を有するスライドレールやガイドレールなどのレール部材には、オーステナイト系ステンレス鋼が多用でされている(特許文献1および2参照)。
【0003】
また、SUS440CやSUS420J2などの鋼種に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼は磁性を有するので、オーステナイト系ステンレス鋼は非磁性の特性が要求されるレール部材の製造にも適用されていた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2007/013322号公報
【特許文献2】特許第6580757号公報
【特許文献3】特許第3365651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、オーステナイト系ステンレス鋼を用いて引抜加工や伸線加工によってレール部材を所定の大きさにする場合、一部の組織がマルテンサイト変態することでマルテンサイトに変わり、非磁性の特性が失われる場合があった。
【0006】
また、一定の硬さを有するレール部材が所定の大きさを超える(直径100mmを超える様な大径材や長さが1mを超える様な長尺材など)場合には、素材であるオーステナイト系非磁性鋼を時効処理するための大型の熱処理炉が必要となり、製造条件に一定の制約があった。
【0007】
そこで、本発明は、レール部材の製作時に引抜加工や伸線加工など後加工を行った場合も非磁性の特性を維持しながら、高硬度であり、かつ大型の熱処理炉を使用せずともレールの大径品や長尺品も製造できるオーステナイト系ステンレス鋼およびそれを用いたレールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するために、本発明のレール用オーステナイト系ステンレス鋼を重量%で、C:0.18~0.35%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、P:0.030%以下、S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:0.2%~1.0%、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物から構成する。
【0009】
また、当該オーステナイト系ステンレス鋼を用いたレール(スライドレール、床レール、ガイドレール、軌道レール等)の発明は、表面硬さをロックウェルCスケールで40HRCを超えて、比透磁率を1.010以下とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレール用オーステナイト系ステンレス鋼材は、含有する炭素量と窒素量の適正化を図ることで、非磁性の特性を維持しながら、高硬度を有するレールを製造することができる。加えて、時効処理することでマルテンサイト系ステンレス鋼並みの硬度(ロックウエルCスケールでHRC55以上)を発現するレールに適用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のレール用オーステナイト系ステンレス鋼の一実施形態について説明する。まず、当該オーステナイト系ステンレス鋼に含有される各元素に関する含有量について説明する。
【0012】
まず、C(炭素)は0.18~0.35重量%とすると同時にN(窒素)は0.20~0.35重量%とする。C(炭素)は、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材の硬さを上げる元素であるが、過剰に含有させると加工性が悪化するので、0.18~0.35重量%とする。また、Nはオーステナイト組織を安定化させ、硬さもあげる元素であるが、過剰に含有させると加工性が悪化するので、0.20~0.35重量%とする。
【0013】
Mn(マンガン)は1.8~4.0重量%とし、Cr(クロム)は21.0~25.0重量%とする。マンガンおよびクロムは共にオーステナイト安定化元素であると共に、組織中への窒素の溶解度を大きくする働きがある。
【0014】
Si(ケイ素)は0.30重量%以下とする。Siは、製鋼時に脱酸材として使用される元素であり、フェライト生成元素のため、0.30重量%以下とした。
【0015】
P(リン)は0.030重量%以下、S(硫黄)は0.30重量%以下とする。Pは含有量が一定値を超えると靭性が劣化するので、上限値を0.030重量%とした。また、Sは被削性向上のために添加するが、過剰に添加すると、靭性を劣化させるため上限値を0.30重量%以下とした。
【0016】
Ni(ニッケル)は7.0~11.0重量%とする。Niはオーステナイト安定化元素として作用するが、過剰に添加すると経済性が悪化するため7.0~11.0重量%とした。
【0017】
Cu(銅)は0.2~1.0重量%とする。Cuは、時効処理においてFe(鉄)と化合物を形成、析出して、時効硬化処理時に硬度を上げる作用がある。ただし、過剰に添加すると熱間加工性を減ずるので0.2~1.0重量%とした。
【0018】
Nb(ニオブ)は0.20重量%以下とする。Nbは炭窒化物を形成して、結晶粒微細化に寄与することでマトリックスの強化に寄与する作用がある。また、B(ホウ素)は0.005重量%以下とした。Bは熱間加工性の向上に寄与するが、過剰に添加ウすると却って熱間加工性を悪化させるため、上限値を0.005%とした。