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特開2023-137437半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具
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  • 特開-半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具 図1
  • 特開-半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具 図2
  • 特開-半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具 図3
  • 特開-半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137437
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20230922BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
B23K9/095 515Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043651
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 諒
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半自動ガスシールドアーク溶接のトーチ動作が適正範囲を逸脱した際、リアルタイムで溶接士に通知する半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムにおいて、溶接現場に持ち運びしやすく、光学情報検出装置へのスパッタ付着を防止できる半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具を提供すること。
【解決手段】中空の棒状剛体4bとそれより径の細い棒状剛体4aを組み合わせた構造とすることで長さを調節することができ、さらに光学情報検出装置2を固定する治具1の内部に流体を通し、光学情報検出装置の幅以上である排出口5からその流体を吹き出すことによって、光学情報検出装置2の方へ飛んできたスパッタを吹き飛ばすことでスパッタ付着を防止できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半自動ガスシールドアーク溶接のトーチ動作が適正範囲を逸脱した際、リアルタイムで溶接士に通知する半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムにおいて、光学情報検出装置を設置する治具内部に流体が通ることができる流路と、前記流路内を流れる流体を吐出させる排出口を有することを特徴とする半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具。
【請求項2】
前記半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具は、棒状剛体部分の長さを調節することができるよう、中空の棒状剛体とそれより径の細い棒状剛体を組み合わせた構造からなり、両棒状剛体に等間隔で流体を吐出させる排出口を設けることを特徴とする請求項1に記載の半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具。
【請求項3】
前記半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具は、流路を流れる流体を吐出させる排出口の幅が、光学情報検出装置の幅以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムにおいて、実際の溶接加工現場に持ち運びしやすく、また設置作業が簡単であり、さらに溶接時に発生するスパッタ(溶接中に飛び散る金属粒等)が溶接トーチの位置および角度情報を取得する光学情報検出装置への付着を防止することを特徴とする半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料等を接合する場合には、ろう付や摩擦圧接などの冶金的接合法やボルト等による機械的接合法など様々あるが、その中でも冶金的接合法の一つで、設備投資が安価で作業能率が高く、製品の重量を抑えながら優れた強度が得られる半自動ガスシールドアーク溶接は、実際の製造現場で広く用いられている。
【0003】
一方で、企業における溶接士の訓練のほとんどは、熟練溶接士が自身の経験を基に未熟練溶接士を指導するOJTによって行われているのが現状であり、溶接士が不足する企業においては大きな負担となっている。このような実情の中で、溶接士の訓練装置及び訓練方法について、これまでにいくつかの提案がなされている。
【0004】
その中でも特開2020-098288「半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムおよびその方法」(特許文献1)では、半自動ガスシールドアーク溶接の適切なトーチ動作を身に付けるための効率的な訓練を支援するため、半自動ガスシールドアーク溶接作業時のトーチ動作を光学情報検出装置で読み取り、適正範囲から逸脱したとき、振動によってリアルタイムで溶接士に通知し、修正を促す訓練システムおよびその方法について提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1のシステムは、実施例から見て光学情報検出装置を8台も必要とされるにもかかわらず、持ち運びしやすい構造にはなっておらず、工場等に持ち運ぶ際には、該検出装置をそれぞれ適正な位置に配置しなくてはならないという手間がかかる。
【0006】
また溶接時に発生するスパッタが光学情報検出装置に付着して故障するのを防ぐため、特許文献1では「光学情報検出装置は溶接母材との水平距離3m、高さは溶接母材より1m高い位置」に設置して訓練システムを使用しているが、溶接作業場のスペースが限られている場合には使用できない。また光学情報検出装置が設置できたとしても、光学情報検出装置と溶接母材との距離が離れていると正確な溶接トーチの位置および角度を検出できない場合があるため、できる限りこれらの距離を近づけて半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムを使用するのが望ましい。
【0007】
そこで溶接時に発生するスパッタが溶接母材の周辺にある機器や部材等に付着しないようにする必要があるが、それに利用できる方法としていくつかの提案がされている。
【0008】
特開2003-290979「スパッタ付着防止剤およびスパッタ付着防止方法」(特許文献2)では、無機酸化物粒子および結合剤を溶媒に混合してなるスパッタ付着防止剤を部材表面に塗布することで、部材表面に無機酸化物粒子による凹凸が形成され、この凹凸によりスパッタとスパッタ防止剤を塗布した部材表面との間に空気層が形成されるため、スパッタが持つ熱が溶接部材に伝わりにくくなり、スパッタは周囲空気によって速やかに冷却、固化され溶接部材に付着するのを防止する方法について提案されている。また類似した市販品として、スプレー式のスパッタ付着防止剤もある。
【0009】
特開2008-168318「レーザ溶接装置」(特許文献3)ではスパッタの付着を防止するため、吸引ノズルと溶接部を挟んで対向する位置に吹付けノズルを設置し、この吹付けノズルから放出される気体を溶接スパッタに吹付け、溶接スパッタを吸引ノズルで吸引することで、スパッタの周囲への飛散を防ぎ、溶接部材へのスパッタの付着を防止する方法が提案されている。
【0010】
しかし特許文献2および市販のスパッタ付着防止剤は溶接板等の部材への塗布を対象にしているため、溶接トーチの位置および角度を検出するためのカメラのレンズへ塗布すると計測ができなくなるので適用できない。
【0011】
また特許文献3は、吹付けノズルと吸引ノズルを用いて溶接部材へのスパッタ付着を防いでいるが、半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムでは多数の光学情報検出装置を使用しているため、光学情報検出装置の数だけ吹付けノズルと吸引ノズルを準備・設置する必要があり、その調整も含めて限られた溶接作業場のスペースでの使用は難しいという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2020-098288「半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムおよびその方法」
【特許文献2】特開2003-290979「スパッタ付着防止剤およびスパッタ付着防止方法」
【特許文献3】特開2008-168318「レーザ溶接装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は前記半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムで使用する光学情報検出装置固定治具において、現場に持ち運びしにくいということと、該検出装置にスパッタが付着するという課題を解決したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては、多数ある光学情報検出装置をひとつの治具にまとめて固定し、これらを実際の溶接加工現場に持ち込むことで設置にかかる手間を省くことができる。さらにエアーを吹き付けることで、半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムで使用する光学情報検出装置へのスパッタの付着を防ぐことができるため、光学情報検出装置と溶接母材との距離を近づけることができ、より高い精度で光学情報を取得でき、正確に溶接トーチの動作を溶接士に通知することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明を使用することで、半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムの光学情報検出装置固定治具を現場に持ち運びしやすくでき、かつ該検出装置にスパッタが付着するという課題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具の一例を示す図である。
図2】本発明の光学情報検出装置と流体を吐出させる排出口の関係を説明する図である。
図3】本発明の棒状剛体部分の長さを調節することができるよう、中空の棒状剛体とそれより径の細い棒状剛体を組み合わせた構造を説明する図である。
図4】中空の棒状剛体とそれより径の細い棒状剛体を組み合わせた際の4aと4bの排出口5の関係を説明する図3をPの方向から見た平面図(a)と、(a)のA-A切断線で切断した断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具は、特開2020-098288「半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムおよびその方法」における訓練システムの課題である持ち運びしにくさとスパッタの付着を解決したものである。
【0018】
これまで溶接加工現場に半自動ガスシールドアーク溶接訓練システムを持ち運ぶ際に、多数ある光学情報検出装置とこれを固定するカメラ用の三脚をひとつひとつ個別に運搬し、その場でこれらの設置を行っていたが、多数ある光学情報検出装置をひとつの治具に固定することで設置にかかる時間を短縮することができる。図1に多数の光学情報検出装置とそれらを取りつけた固定治具の外観を示す。予め固定治具4に光学情報検出装置2を固定しておき、現場に持ち運んだ際に4の長さの微調整を行う。さらに3のホースを接続して流体を流せるものである。該固定治具4の内部に流体を通し、排出口5からその流体を吹き出すことによって、光学情報検出装置2の方へ飛んできたスパッタを吹き飛ばすことができ、光学情報検出装置2へのスパッタの付着を防ぐことができる。なお、図1はコの字型であるが、現場のスペースに応じて、ロの字型、○型、これらを組み合わせた立体型のいずれでもよい。
【0019】
図2に該固定治具4に取りつけた1つの光学情報検出装置2と、排出口5との配置を示す。排出口5の幅yが、光学情報検出装置2の幅xより小さい場合には、溶接時に発生するスパッタ全てを確実に吹き飛ばすことができず、光学情報検出装置にスパッタが付着する可能性があるためy≧xとした。
【0020】
該固定治具は、長さを調節させることができるようにするため、図3に示すように中空の棒状剛体とそれより径の細い棒状剛体を組み合わせた構造とした。中空の角材4bの中に同じ形状で4bより小さい4aを組み合わせることでスライドできるので伸縮自在となる。図4に該固定治具1の4aと4bが重なった際の断面図を示す。なお、図3では角材の例を示したが、丸型の棒状でも良い。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお排出口5から送給される流体によって光学情報検出装置2にスパッタが付着しないようにするため、治具内部6に圧縮空気と一緒に水を10:1(圧縮空気:水)の体積比で流し込み、各排出口5から300mm離した位置に塩化コバルト紙などの水が付着すると色が変化する紙を設置し、設置した紙に付着した水の幅が光学情報検出装置の幅x以上になるように流体の圧力を事前に調整する必要がある。
〈実施例〉
図1に示す半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具1を使用し、光学情報検出装置2に溶接中に発生するスパッタの付着防止実験を行った。該固定治具の内部6にエアホース3より供給された圧縮空気を送給し、スパッタを飛ばすため排出口5より空気を吐出させた際に、光学情報検出装置へのスパッタ付着を調べた。光学情報検出装置固定治具1は1辺2m×2m×2mのコの字型であり、直角につなぐ部分は脱着が容易な構造とした。4aの剛体は一辺角30mm、肉厚2.5mm、長さ1.5mのアルミ製角パイプ、4bの剛体は一辺角25mm、肉厚2.5mm、長さ1.5mのアルミ製角パイプを使用し、空気を供給するホース3から圧力0.6MPa、予備実験にて流量を4.2×10-3/sに設定し、圧縮空気を供給した。また幅70mmの光学情報検出装置2をコの字型の該固定治具1に取り付けた。表1に実験結果を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例1、3、6、8、10は本発明であり、いずれも溶接時に発生するスパッタを治具内部を通る空気によって吹き飛ばすことができたため、光学情報検出装置へのスパッタの付着防止を実現した。
【0024】
実施例2、4、7、9、11は、治具内部に空気を流さず、治具排出口から空気を吐出させていないため、スパッタを吹き飛ばすことができず、光学情報検出装置にスパッタが付着した。
【0025】
実施例5、12、13、14は、空気を吐出させる排出口の幅が、光学情報検出装置の幅より小さいため、光学情報検出装置へ飛散するスパッタ全てを吹き飛ばすことができず、光学情報検出装置にスパッタが付着した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具は、光学情報検出装置へのスパッタの付着を防止することができ、さらに実際の溶接作業現場への持ち運びおよび設置が簡単に出来るため、溶接関連企業での溶接士の訓練を効率よく実施することができる発明である。産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0027】
1…半自動ガスシールドアーク溶接訓練システム用光学情報検出装置固定治具
2…光学情報検出装置
3…流体を供給するホース
4…光学情報検出装置を固定する棒状剛体
4a…光学情報検出装置を固定する細い棒状剛体
4b…光学情報検出装置を固定する太い棒状剛体
5…流体を吐出させる排出口
6…流体が通る管内
図1
図2
図3
図4