(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137440
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】放射線治療用患者固定具識別装置
(51)【国際特許分類】
A61B 90/98 20160101AFI20230922BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61B90/98
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043656
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】505324283
【氏名又は名称】エイペックスメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】川上 秀之
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AL03
4C082AL10
(57)【要約】
【課題】人体付近や治療台周辺での感度低下が小さく、かつ電池寿命を長く維持しつつ放射線治療用患者固定具を識別できる放射線治療用患者固定具識別装置を提供する。
【解決手段】放射線治療用患者固定具100と患者102との関連情報を含む患者情報を格納する患者情報格納手段と、放射線治療用患者固定具100に取り付けられたセミアクティブタグ12と、セミアクティブタグ12と通信するRFIDアンテナ14と、RFIDアンテナ14により取得したセミアクティブタグ12の識別情報と上記関連情報とに基づき、放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせの当否を判断する判断手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療用患者固定具と患者との関連情報を含む患者情報を格納する患者情報格納手段と、
前記放射線治療用患者固定具に取り付けられたセミアクティブタグと、
前記セミアクティブタグと通信するRFIDアンテナと、
前記RFIDアンテナにより取得したセミアクティブタグの識別情報と前記関連情報とに基づき、前記放射線治療用患者固定具と患者との組み合わせの当否を判断する判断手段と、
を備える放射線治療用患者固定具識別装置。
【請求項2】
放射線照射時に使用している放射線治療用患者固定具のログを取得するログ取得手段をさらに備える、請求項1に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【請求項3】
放射線治療を受ける患者の前記患者情報を表示する患者情報表示手段をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【請求項4】
前記患者情報の登録、患者の認証処理の指示を実行する無線遠隔指示装置を備える、請求項3に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【請求項5】
前記患者情報には、患者の生体認証情報を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療用患者固定具識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を照射して患者を治療する場合、患者の体に対して放射線を適切な箇所に正確に照射するために、種々の固定具(放射線治療用患者固定具)が使用されている。この放射線治療用患者固定具は、放射線照射の際に患者の位置、姿勢等を予め設定した状態に再現し、放射線の照射箇所のずれを回避して治療効果を上げるためのものであり、放射線治療時に、患者個々に必要な放射線治療用患者固定具を正しく選んで治療台に設置する必要がある。
【0003】
下記特許文献1には、患者を識別可能かつ放射線治療のために患者の位置を決定する患者識別システムであり、このシステムでは、a)患者を識別するための手段(例えば、RFID等の無線ラベル)と、b)3つのマーカーの形で空間に患者の位置を決定することができる手段を含み、ここではこれらの手段はデジタル式に把握可能であり、システムが少なくともカード形式で1つの担体に配置されており、かつ担体は直接的/または間接的に患者に固定可能である患者識別システム、が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1は、放射線治療用患者固定具を識別する具体的な方法を開示していない。また、無線ラベルとしてRFID(RFタグ)を使用する場合に、電波を受信したときに受動的に情報を返すパッシブタグでは人体付近や治療台周辺で感度が低下する問題があり、自ら電波を送信するアクティブタグでは、上記感度の低下は小さいが、電池寿命が短いという問題があるが、特許文献1は、これらに対する解決方法を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、人体付近や治療台周辺での感度低下が小さく、かつ電池寿命を長く維持しつつ放射線治療用患者固定具を識別できる放射線治療用患者固定具識別装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の実施態様を含む。
【0008】
[1]放射線治療用患者固定具と患者との関連情報を含む患者情報を格納する患者情報格納手段と、前記放射線治療用患者固定具に取り付けられたセミアクティブタグと、前記セミアクティブタグと通信するRFIDアンテナと、前記RFIDアンテナにより取得したセミアクティブタグの識別情報と前記関連情報とに基づき、前記放射線治療用患者固定具と患者との組み合わせの当否を判断する判断手段と、を備える放射線治療用患者固定具識別装置。
【0009】
[2]放射線照射時に使用している放射線治療用患者固定具のログを取得するログ取得手段をさらに備える、[1]に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【0010】
[3]放射線治療を受ける患者の前記患者情報を表示する患者情報表示手段をさらに備える、[1]または[2]に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【0011】
[4]前記患者情報の登録、患者の認証処理の指示を実行する無線遠隔指示装置を備える、[3]に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【0012】
[5]前記患者情報には、患者の生体認証情報を含む、[1]から[4]のいずれか一に記載の放射線治療用患者固定具識別装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人体付近や治療台周辺での感度低下が小さく、かつ電池寿命を長く維持しつつ放射線治療用患者固定具を識別できる放射線治療用患者固定具識別装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る放射線治療用患者固定具識別装置の構成例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る制御手段の例の機能ブロック図である。
【
図3】実施形態にかかる放射線治療用患者固定具識別装置の動作例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0016】
図1には、実施形態に係る放射線治療用患者固定具識別装置の構成例が示される。
図1において、放射線治療用患者固定具識別装置は、制御手段10、セミアクティブタグ12及びRFIDアンテナ14を含んで構成されている。
【0017】
また、
図2には、上記制御手段10の例の機能ブロック図が示される。
図2において、制御手段10は、適宜なコンピュータ及びこれを動作させるプログラムにより構成され、患者情報格納部10a、判断部10b、ログ取得部10c、記憶部10d及び表示部10eの各機能を含んでいる。なお、制御手段10は、放射線治療装置103を制御する構成としてもよいし、放射線治療装置103を制御するコンピュータから制御情報を取得する構成としてもよい。
【0018】
図1において、セミアクティブタグ12は、各放射線治療用患者固定具100に取り付けられ、RFIDアンテナ14から送信された情報要求信号(トリガー信号)に応じて、自らを識別する識別情報その他の情報を、自ら有する電源(電池)の電力を使用して送信する。セミアクティブタグ12の場合、パッシブタグと異なり、放射線治療用患者固定具100、放射線治療装置103、治療台104及び患者102(人体)等が周辺に存在しても、上記情報要求信号の受診感度が低下することがなく、情報要求信号(トリガー信号)に応じて正確に識別情報等を返信することができる。従って、放射線治療を受ける患者102が放射線治療用患者固定具100を装着して治療台104に横臥等の姿勢をとっている状態でも、正確に識別情報等を返信でき、後述する判断部10bが、放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせの当否を正確に判断することができるとともに、ログ取得部10cが、適切に照射ログを取得することができる。
【0019】
RFIDアンテナ14は、放射線治療の開始前及び/または放射線治療中にセミアクティブタグ12に対して上記情報要求信号を送信し、これに応じて、セミアクティブタグ12から返信された識別情報その他の情報を受信する。受信した情報は、制御手段10に渡される。なお、上記放射線治療の「開始前」には、放射線治療の開始時(放射線治療装置103の照射ONのタイミング)も含まれる。放射線治療の開始前及び/または放射線治療中であることは、放射線治療装置103またはその制御コンピュータから放射線治療装置103の動作状態として制御手段10が取得し、RFIDアンテナ14から渡される情報のタイミング(放射線治療装置103の動作の進行におけるタイミングであって、放射線治療がどの段階であるかを示すタイミング)を判別する。
【0020】
次に、制御手段10における患者情報格納部10aは、放射線治療用患者固定具100と患者102との関連情報を含む患者情報を記憶部10dに格納するとともに、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル等の適宜な入力手段から入力された使用者の指示入力に基づき、新たに患者情報を登録し、または患者情報を修正し、及び表示部10eに表示する。上記入力手段としては、制御手段10に対して無線通信により指示入力を送信できる無線遠隔指示装置16を使用してもよい。ここで、関連情報は、患者102に使用すべき放射線治療用患者固定具100を特定するために放射線治療用患者固定具100と患者102とを紐付ける情報であり、患者102毎に設定されている。具体的には、放射線治療用患者固定具100に取り付けられたセミアクティブタグ12の識別情報と放射線治療用患者固定具100との組み合わせの情報、及びセミアクティブタグ12の識別情報と患者102との組み合わせの情報等が含まれる。また、患者情報には、上記関連情報の他に、患者ID、患者名、性別、生年月日等の患者102を識別する情報等が含まれる。さらに、患者情報には、患者102の指紋、虹彩、音声等の生体認証情報を含めることもできる。
【0021】
なお、
図1の例では、放射線治療用患者固定具100の例として患者102の頭部を固定する枕が示されているが、これには限定されない。放射線治療用患者固定具100としては、例えば患者102の体幹部を固定するプレート、肺癌や肝臓癌などに用いられる患者102の体幹(Body)の体型形状に合わせてマットを固め形成した吸引マット、頭頸部腫瘍に使用される頭頸部固定用マスク等が挙げられる。
【0022】
また、判断部10bは、記憶部10dから読み出した患者情報に含まれる患者ID、患者名、性別、生年月日、生体認証情報等の患者102を識別する情報に基づいて、治療台104に上がっている患者102の認証(本人であるとの認証)を行う。この認証により決定された患者102について、放射線治療の開始前及び/または放射線治療中に上記RFIDアンテナ14により取得したセミアクティブタグ12の識別情報と上記記憶部10dから読み出した関連情報とに基づき、上記放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせの当否を判断する。放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせが間違いである場合には、その旨を警告する情報(警告情報)を出力する。この警告情報は、制御手段10を構成する表示部10eがコンピュータの画面に表示する。その際、適宜な警告音または警告音声を出力してもよい。
【0023】
上記判断部10bによる判断処理は、患者情報格納部10aの場合と同様に、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、無線遠隔指示装置16等の適宜な入力手段から入力された使用者の指示入力に基づいて実行される構成とすることができる。
【0024】
ログ取得部10cは、患者102に対する放射線治療中(放射線治療装置103の動作中)において、一定時間毎あるいは予め定めた時点で使用している放射線治療用患者固定具100に取り付けられたセミアクティブタグ12の識別情報等をRFIDアンテナ14を介して取得し、後述する照射ログとして記憶部10dに記憶させる。照射ログは、後述する表示部10eに表示できる。
【0025】
記憶部10dは、ハードディスク装置、ソリッドステートドライブ(SSD)等の不揮発性メモリで構成され、上記各種情報等、及び上記コンピュータを動作させるプログラム等の、放射線治療用患者固定具識別装置が行う各処理に必要な情報を記憶する。なお、記憶部10dとしては、デジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)、コンパクトディスク(CD)、光磁気ディスク(MO)、フレキシブルディスク(FD)、磁気テープ、電気的消去および書き換え可能な読出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュ・メモリ等を使用してもよい。
【0026】
表示部10eは、上述した患者情報格納部10aが出力する患者情報、判断部10bが出力する警告情報、ログ取得部10cが出力する照射ログ等を、制御手段10を構成するコンピュータの画面に表示する。
【0027】
図1に示されるような放射線治療装置103により放射線治療を行う場合、放射線治療装置103から患者102の腫瘍患部に投与される総線量(例えば肺癌では70Gy)を少ない線量毎に(例えば1日2Gy)1.5~2ヶ月間の分割照射で投与される。これにより、正常細胞には照射後に一定の時間を置くことで細胞回復作用を起こすことができ、一方癌細胞には回復作用が少ないので正常細胞を生かしながら癌を叩くことができる。この際に、使用される上記放射線治療用患者固定具100を適切に選択することにより、毎回の照射時における患者102の体位を一定(約5mm)の精度と再現性で維持することができる。これにより、高い照射精度が確保でき、治療効果を上げることができる。本実施形態に係る放射線治療用患者固定具識別装置では、放射線治療時に使用された放射線治療用患者固定具100の情報を上述した照射ログとして取得しておくことにより、放射線治療用患者固定具100を適切に選択するための情報を提供することができるという顕著な効果を奏することができる。
【0028】
上記照射ログの内容としては、例えば患者ID、患者名、性別、生年月日等の患者102を識別する情報、治療日、放射線治療用患者固定具100に取り付けられたセミアクティブタグ12の識別情報等が含まれる。
【0029】
なお、患者102の容体、体調によっては、予め決められた放射線治療用患者固定具100以外の放射線治療用患者固定具100を使用する場合もあるが、この場合にも、新たに使用した放射線治療用患者固定具100を照射ログとして取得し、残しておくことが好適である。
【0030】
図3には、実施形態にかかる放射線治療用患者固定具識別装置の動作例のフロー図が示される。
図3において、治療台104に患者102が上がり、当該患者に対して予め決められた放射線治療用患者固定具100を装着した後、無線遠隔指示装置16等から入力された使用者の第1の指示入力に基づき、判断部10bが患者102の認証を行う(S1)。
【0031】
次に、判断部10bは、無線遠隔指示装置16等から入力された使用者の第2の指示入力に基づき、S1における認証により決定された患者102について、放射線治療の開始前及び/または放射線治療中に上記RFIDアンテナ14により取得したセミアクティブタグ12の識別情報と、記憶部10dから読み出した関連情報と、に基づき、放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせの当否を判断する(S2)。
【0032】
S2において、放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせが適切ではない場合(S3でN)には、警告情報を出力し(S4)、S2からの動作を繰り返す。この場合、治療担当者は、放射線治療用患者固定具100を適切な物に交換し、あるいは放射線治療の続行を放射線治療用患者固定具識別装置に指示することができる。
【0033】
一方、S2において、放射線治療用患者固定具100と患者102との組み合わせが適切である場合(S3でY)には、ログ取得部10cが、患者102に対する放射線治療中(放射線治療装置103の動作中)において、一定時間毎あるいは予め定めた時点で使用している放射線治療用患者固定具100に取り付けられたセミアクティブタグ12の識別情報等をRFIDアンテナ14を介して取得し、照射ログとして記憶部10dに記憶させる(S5)。
【0034】
以上により、患者102に対する放射線の照射が進行する。
【0035】
上述した、
図3の各ステップを実行するためのプログラムは、記録媒体に格納することも可能であり、また、そのプログラムを通信手段によって提供してもよい。その場合、例えば、上記説明したプログラムについて、「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」の発明または「データ信号」の発明として捉えてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 制御手段、10a 患者情報格納部、10b 判断部、10c ログ取得部、10d 記憶部、10e 表示部、12 セミアクティブタグ、14 RFIDアンテナ、16 無線遠隔指示装置、100 放射線治療用患者固定具、102 患者、103 放射線治療装置、104 治療台。