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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137449
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】軸組補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230922BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230922BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230922BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04B1/58 508L
E04B1/58 504L
E04B1/26 F
E04B2/56 643A
E04B2/56 651L
E04B2/56 652J
E04B2/56 652N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043669
(22)【出願日】2022-03-18
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(71)【出願人】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】梶川 久光
(72)【発明者】
【氏名】小川 春彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 由佳
【テーマコード(参考)】
2E002
2E125
2E176
【Fターム(参考)】
2E002EB12
2E002FA03
2E002LA01
2E002LA02
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG41
2E125BB09
2E125BE08
2E125CA05
2E125CA89
2E176AA09
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】軸組構造における靭性を向上させ、伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物が十分な耐震性を維持でき、さらに、隣り合う軸組の位置に誤差が生じていても確実かつ容易に耐震改修を行えるようにする。
【解決手段】隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部を連結する連結部4が、本体金物40と、棒状の第一連結材41と、棒状の第二連結材42と、を有しており、本体金物40は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部を備え、柱材2に対する第一連結材41の接合部には、柱材2が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用され、補強フレーム材3に対する第二連結材42の接合部には、補強フレーム材3が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて隣り合う既設の柱材を少なくとも含んで構成された既設の軸組構造を補強する構造であって、
前記隣り合う既設の柱材間に配置される補強フレーム材と、
前記隣り合う既設の柱材と前記補強フレーム材の両端部とを連結する連結部と、を備えており、
前記連結部は、
前記隣り合う既設の柱材と前記補強フレーム材の両端部との間に設けられた本体金物と、
前記柱材と前記本体金物とを連結する棒状の第一連結材と、
前記補強フレーム材と前記本体金物とを連結する棒状の第二連結材と、を有しており、
前記本体金物は、前記隣り合う既設の柱材と前記補強フレーム材との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部を備え、
前記柱材に対する前記第一連結材の接合部には、前記柱材が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用され、
前記補強フレーム材に対する前記第二連結材の接合部には、前記補強フレーム材が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されていることを特徴とする軸組補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の軸組補強構造において、
前記本体金物は、
前記隣り合う既設の柱材と前記補強フレーム材の両端部との間のうち前記柱材側に設けられる第一金物と、
前記隣り合う既設の柱材と前記補強フレーム材の両端部との間のうち前記補強フレーム材側に設けられる第二金物と、
前記第一金物と前記第二金物とを連結するボルト材と、を備え、
前記第一金物は、当該第一金物のうち前記第二金物と連結される部位の厚み方向に貫通形成され、前記ボルト材が通される第一貫通孔を有し、
前記第二金物は、当該第二金物のうち前記第一金物と連結される部位の厚み方向に貫通形成され、前記ボルト材が通される第二貫通孔を有し、
前記第一貫通孔と前記第二貫通孔のうち少なくとも一方は、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔とされ、当該長孔が、前記誤差吸収部であることを特徴とする軸組補強構造。
【請求項3】
請求項1に記載の軸組補強構造において、
前記誤差吸収部は、前記隣り合う既設の柱材と前記本体金物との間、又は/及び前記補強フレーム材の両端部と前記本体金物との間に設けられて隙間を調整する調整材であることを特徴とする軸組補強構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸組補強構造において、
前記第一連結材の降伏点は、前記第二連結材の降伏点よりも低く設定されていることを特徴とする軸組補強構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸組補強構造において、
前記第二連結材は、前記補強フレーム材の両端部における上端部側及び下端部側と前記本体金物とを連結しており、
前記第一連結材は、前記第二連結材の延長線に沿って設けられていることを特徴とする軸組補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸組補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建物においては、地震時や台風時の水平荷重に抵抗するため、必要壁量を満たすように耐力壁が設けられる。
このような耐力壁としては、隣り合う柱材間の開口部に筋交いを架け渡したり、隣り合う柱材間の開口部全面を覆うように構造用合板を張り付けたりすることで構成されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-293367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、寺社建築に代表される伝統的な木造建物における軸組構造の耐震改修を行う場合は、大がかりな解体作業と復元作業が不可欠であった。そのため、これまでに行われてきた改修の事例は高コストになりがちで、一般寺院では改修を行うことが難しいという問題があった。
そこで、近年では、特許文献1に記載のような耐力壁の構造を、上記のような伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物の軸組構造に使用することが求められている。しかしながら、従来知られている通常の耐力壁の構造を適用しても、上記のような伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物の規模や屋根の重さを考慮すると、耐力や剛性が不十分である。さらに、従来公知の接着パネルに係る技術を採用しても、粘り強さを発揮するための性質である靭性が十分でない場合があり、耐震性を維持しにくい。
【0005】
また、耐震改修の必要な木造建物における軸組構造の場合、例えば経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う軸組同士の間隔が広がってしまったり、反対に狭まってしまったり等、隣り合う軸組の位置に誤差が生じていることがある。そのような場合には、軸組構造の耐震改修を行うことが難しい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、軸組構造における靭性を向上させ、伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物が十分な耐震性を維持でき、さらに、隣り合う軸組の位置に誤差が生じていても確実かつ容易に耐震改修を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、例えば図1図7に示すように、互いに間隔を空けて隣り合う既設の柱材2を少なくとも含んで構成された既設の軸組構造1を補強する構造であって、
前記隣り合う既設の柱材2間に配置される補強フレーム材3と、
前記隣り合う既設の柱材2と前記補強フレーム材3の両端部とを連結する連結部4と、を備えており、
前記連結部4は、
前記隣り合う既設の柱材2と前記補強フレーム材3の両端部との間に設けられた本体金物40と、
前記柱材2と前記本体金物40とを連結する棒状の第一連結材41と、
前記補強フレーム材3と前記本体金物40とを連結する棒状の第二連結材42と、を有しており、
前記本体金物40は、前記隣り合う既設の柱材2と前記補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部を備え、
前記柱材2に対する前記第一連結材41の接合部には、前記柱材2が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用され、
前記補強フレーム材3に対する前記第二連結材42の接合部には、前記補強フレーム材3が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されていることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、柱材2に対する第一連結材41の接合部には、柱材2が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されているので、既設の軸組構造1のうち、柱材2に対する第一連結材41の接合部付近は靭性が高い状態となる。これにより、既設の軸組構造1における靭性を向上させることができるので、伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物において十分な耐震性を維持できる。
さらに、連結部4のうち、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部との間に設けられた本体金物40は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部を有するので、例えば経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う柱材2同士の間隔が広がってしまったり、反対に狭まってしまったり等、隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、誤差吸収部によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、例えば図1図6に示すように、請求項1に記載の軸組補強構造において、
前記本体金物40は、
前記隣り合う既設の柱材2と前記補強フレーム材3の両端部との間のうち前記柱材2側に設けられる第一金物410と、
前記隣り合う既設の柱材2と前記補強フレーム材3の両端部との間のうち前記補強フレーム材3側に設けられる第二金物420と、
前記第一金物410と前記第二金物420とを連結するボルト材430と、を備え、
前記第一金物430は、当該第一金物410のうち前記第二金物420と連結される部位の厚み方向に貫通形成され、前記ボルト材430が通される第一貫通孔412aを有し、
前記第二金物420は、当該第二金物420のうち前記第一金物410と連結される部位の厚み方向に貫通形成され、前記ボルト材430が通される第二貫通孔422aを有し、
前記第一貫通孔412aと前記第二貫通孔422aのうち少なくとも一方は、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔とされ、当該長孔が、前記誤差吸収部であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、第一金物410のうち第二金物420と連結される部位の厚み方向に貫通形成された第一貫通孔412aと、第二金物420のうち第一金物410と連結される部位の厚み方向に貫通形成された第二貫通孔422aのうち、少なくとも一方は、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔であるため、ボルト材430が第一貫通孔412aと第二貫通孔422aに通されて、第一金物410と第二金物420とが連結される際に、第一金物410と第二金物420の水平方向の位置を、長孔の長さの範囲で調整することができ、誤差吸収部として確実に機能する。これにより、例えば隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、誤差吸収部によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、例えば図7に示すように、請求項1に記載の軸組補強構造において、
前記誤差吸収部は、前記隣り合う既設の柱材2と前記本体金物40との間、又は/及び前記補強フレーム材3の両端部と前記本体金物40との間に設けられて隙間を調整する調整材440であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、誤差吸収部は、隣り合う既設の柱材2と本体金物40との間、又は/及び補強フレーム材3の両端部と本体金物40との間に設けられて隙間を調整する調整材440であるため、例えば経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う柱材2同士の間隔が広がってしまい、隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、調整材440によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、例えば図1図7に示すように、請求項1から3のいずれか一項に記載の軸組補強構造において、
前記第一連結材41の降伏点は、前記第二連結材42の降伏点よりも低く設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、第一連結材41の降伏点は、第二連結材42の降伏点よりも低く設定されているので、第一連結材41は、第二連結材42よりも塑性しやすくなっている。したがって、例えば地震等によって、軸組構造1に対して大きな外力が加わったときに、第一連結材41は、第二連結材42よりも先に塑性する。ところが、第一連結材41は、隣り合う第一フレーム材2に対してモーメント抵抗接合されているため靭性を発揮し、変形した後も粘り強く持ちこたえるので、第二連結材42を始めとする他の部材の変形や破損が生じにくくなる。しかも、地震等によって、軸組構造1に対して大きな外力が加わっても、破損箇所を、第一連結材41だけにとどめることができれば、軸組構造1の修理が、第一連結材41の交換だけで済むので、万が一破損が生じても容易かつ安価に修理できる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、例えば図1図7に示すように、請求項1から4のいずれか一項に記載の軸組補強構造において、
前記第二連結材42は、前記補強フレーム材3の両端部における上端部側及び下端部側と前記本体金物40とを連結しており、
前記第一連結材41は、前記第二連結材42の延長線に沿って設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、第一連結材41は、第二連結材42の延長線に沿って設けられているので、第一連結材41も第二連結材42と同様に、隣り合う既設の柱材2を、本体金物40に対して確実にモーメント抵抗接合することができ、軸組構造1の変形性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軸組構造における靭性を向上させ、伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物が十分な耐震性を維持でき、さらに、隣り合う軸組の位置に誤差が生じていても確実かつ容易に耐震改修を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】軸組補強構造を示す図である。
図2】軸組補強構造における要部を示す拡大平断面図である。
図3図2におけるA-A線断面図である。
図4】第一金物の構成を説明する斜視図である。
図5】第二金物の構成を説明する斜視図である。
図6】パネル材が設けられる状態を示す斜視図である。
図7】軸組補強構造における要部の変形例を示す拡大平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。なお、以下の実施形態及び図示例における方向は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。
【0020】
図1において符号1は、補強された既設の軸組構造を示す。この軸組構造1は、主として、寺社建築に代表される伝統的な木造建物を構成するものであるとされるが、これに限られるものではない。例えば、中層・高層の木造建物や、延べ面積の広い木造建物のような、比較的規模の大きな木造建物を構成する軸組構造であってもよいし、戸建て住宅のような比較的規模の小さな木造建物を構成する軸組構造であってもよい。
さらに、この軸組構造1は、主として、木造建物の改修(リフォーム)を想定しているが、これに限られるものではなく、新築の建物に適用してもよい。
軸組構造1が、寺社建築に代表される伝統的な木造建物を構成するものである場合、このような木造建物は、往々にして屋根が重く、大きな地震が起きると、屋根が本堂を押しつぶしてしまう層崩壊による倒壊が生じる可能性が高くなる。そのため、既設の軸組構造1には、耐震のための改修が必要とされている。
【0021】
本実施形態における軸組構造1は、基礎や梁、土台、床等の下部構造材上に立設され、上には、梁や床、上階の壁(耐力壁を含む)等の上部構造材が載せられる。つまり、軸組構造1は、下部構造材と上部構造材との間に挟まれた状態に設けられる。
そして、このような軸組構造1は、互いに間隔を空けて隣り合う既設の柱材2と、補強フレーム材3と、連結部4と、上下のフレーム材5と、添木材6と、パネル材7と、を備える。
【0022】
まず、既設の柱材2について説明する。
既設の柱材2が、寺社建築に代表される伝統的な木造建物を構成するものである場合、軸組構造1は、隣り合う既設の柱材2の下端部同士を連結する足固と呼ばれる下側横架材と、隣り合う既設の柱材2の上端部同士を連結する頭貫と呼ばれる上側横架材と、隣り合う既設の柱材2と軸組構造1の上方に位置する加力桁と呼ばれる梁(上部構造材)との間に設けられる斗供と呼ばれる支持材と、を備えていてもよい。その場合には、既設の柱材2は束石上に立設される場合がある。
【0023】
既設の柱材2は、水平方向(横方向・左右方向)よりも上下方向に長尺で、平断面視において正方形状に形成された構造用集成材が用いられている。
なお、本実施形態においては、柱材2として構造用集成材が用いられているが、通常の角材(製材)でもよいし、例えばLVL(Laminated Veneer Lumber)による柱材でもよい。すなわち、第一フレーム材2は、木製の柱状部材である。また、断面形状も正方形状ではなく、矩形状でもよいし、円状(正円、長円)であってもよい。
【0024】
既設の柱材2には、これら既設の柱材2間に複数の補強フレーム材3を設けるための第一連結材及び第二連結材が通される複数の連結用差込孔2aと、上下のフレーム材5を設けるためのボルト材が通される複数の連結用差込孔2bと、が形成されている。
連結用差込孔2a,2bは、既設の柱材2のうち、複数の補強フレーム材3及び上下のフレーム材5が設けられる位置に対し、既設の柱材2を左右方向(水平方向)に貫通して形成されている。
【0025】
さらに、既設の柱材2は、棒鋼やボルト、長ボルト等の棒材によって下部構造材及び上部構造材に接合される場合がある。すなわち、既設の柱材2の上下端面には、棒材の一端が差し込まれる差込穴2cが形成され、下部構造材と上部構造材にも、棒材の他端が差し込まれる差込穴が形成されることになる。
棒材としては、異形棒鋼や全ネジボルト等のように、表面に凹凸のある長尺な棒材が好適に用いられる。
また、棒材による柱材2と下部構造材及び上部構造材との接合には、グルードインロッド(GIR:Glued in Rod)と呼ばれる方法が採用される。この方法は、棒材と柱材2側の差込穴2cとの空隙、棒材と下部構造材及び上部構造材側の差込穴との空隙に接着剤を充填し、その接着剤の硬化により、応力を接着剤の付着力と棒材を介して伝達し、接合耐力を発生させる方法である。すなわち、棒材と各差込穴2cとの間には空隙があり、接着剤が充填されていない状態では、棒材は柱材2側にも下部構造材及び上部構造材側にも接合されない。
なお、本実施形態においては、棒材による既設の柱材2と下部構造材及び上部構造材との接合には、上記のグルードインロッドの方法を採用したが、例えば接合用の金物を用いるなど、その他の方法を採用してもよい。
【0026】
既設の柱材2には、連結部4における第一連結材41(後述する)が差し込まれる複数の連結用差込孔2aが左右方向に貫通して形成されている。
より詳細に説明すると、複数の連結用差込孔2aは、隣り合う既設の柱材2における互いに対向する側面(以下、内側面2d)から、当該内側面2dとは反対側の、隣り合う既設の柱材2における互いに平行で、かつ対向しない側面(以下、外側面2e)にかけて貫通形成されている。また、これら複数の連結用差込孔2aは、連結部4における本体金物40(後述する)の上端部側及び下端部側の位置に対応して形成されるとともに、軸組構造1の厚み方向に複数(本実施形態においては2つ)並んで形成されている。
【0027】
また、既設の柱材2の外側面2eには、連結部4における第一連結材41とセットで設けられる矩形の座金41c(後述する)が嵌め込まれて設けられる凹部2fが複数形成されている。
【0028】
続いて、補強フレーム材3について説明する。
補強フレーム材3は、上下方向よりも水平方向(横方向・左右方向)に長尺で、隣り合う既設の柱材2間に配置される構造用集成材である。なお、縦断面視において縦長の矩形状に形成されている。
なお、本実施形態においては、補強フレーム材3として構造用集成材が用いられているが、通常の角材(製材)でもよいし、例えばLVL(Laminated Veneer Lumber)やCLT(Cross Laminated Timber)による柱材でもよい。すなわち、補強フレーム材3は、木製の横架材である。また、断面形状も、縦長矩形状でなくてもよい。
また、補強フレーム材3は、軸組構造1に対して複数備えられており、これら複数の補強フレーム材3は、隣り合う柱材2の長さ方向に間隔を空けて配置されている。すなわち、本実施形態における軸組構造1は、隣り合う柱材2と、複数の補強フレーム材3と、によって略井桁状(又は梯子状)に形成される。
なお、複数の補強フレーム材3の本数は、本実施形態においては3本とされているが、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0029】
補強フレーム材3の両端部には、連結部4における第二連結材42(後述する)が差し込まれる複数の連結用差込穴3aが左右方向に形成されている。
より詳細に説明すると、複数の連結用差込穴3aは、補強フレーム材3の長さ方向両端面から中央側に向かって貫通しない状態で形成されている。またこれら複数の連結用差込穴3aは、補強フレーム材3の長さ方向両端面における上端部側及び下端部側に、複数個ずつ形成されている。上端部側及び下端部側の複数個ずつの連結用差込穴3aは、軸組構造1の厚み方向に複数(本実施形態においては2つ)並んで形成されている。
【0030】
続いて、連結部4について説明する。
連結部4は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部とを連結する金属製の連結手段であり、図2図5に示すように、分割型の本体金物40と、棒状の第一連結材41と、棒状の第二連結材42と、を有する。
【0031】
本体金物40は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部との間に設けられたものであり、上記のように分割型であり、第一金物410と、第二金物420と、これら第一金物410と第二金物420とを連結するボルト材430と、を備える。つまり、本体金物40は、第一金物410側と第二金物420側に分割されたものであり、ボルト材430によって結合されて用いられる。
また、このような本体金物40は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部(後述する)を更に備える。
【0032】
第一金物410は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部との間のうち柱材2側に設けられる金物である。
第二金物420は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部との間のうち補強フレーム材3側に設けられる金物である。
ボルト材430は、高力ボルトであり、頭部が六角とされ、本体軸部の先端にねじ込まれるナット431と共に用いられる。
【0033】
第一連結材41は、柱材2と本体金物40における第一金物410とを連結するボルトであり、先端部の外側面に雄ネジが形成された本体軸と、本体軸よりも直径の大きい頭部41aと、を有する。また、第一連結材41は、ナット41b及び座金41cとセットで用いられる。座金41cは、柱材2に形成された凹部2fに嵌め込まれて設けられる。
【0034】
第二連結材42は、補強フレーム材3と本体金物40における第二金物420とを連結する頭部を備えないスタッドボルトであり、外側面の全体もしくは一端部に雄ネジが形成されている。そして、その大部分が、補強フレーム材3に形成された連結用差込穴3aに埋め込まれる。また、第二連結材42は、ナット42aとセットで用いられる。
【0035】
ここで、第一金物410と第二金物420の構成についてより詳細に説明する。
【0036】
第一金物410は、図4に示すように、固定板部411と、接合板部412と、端部用板部413と、リブ板部414と、が溶接されて一体に形成された金物である。また、第一金物410は、固定板部411と接合板部412によって平面視T字型に形成されている。
【0037】
固定板部411は、柱材2の内側面2dに固定される部分であり、複数のボルト孔411aと、複数のビス孔411bと、を有する。
複数のボルト孔411aは、第一連結材41が通される貫通孔であり、補強フレーム材3における連結用差込穴3a及び第一連結材41の位置に対応して配置されている。
複数のビス孔411bは、固定板部411を柱材2の内側面2dに仮止めするためのビスが通される貫通孔である。ビスは、第一連結材41によって第一金物410が柱材2に本固定された後に残置してよい。
【0038】
接合板部412は、第二金物420に接してボルト材430によって第二金物420に接合される部分であり、固定板部411の内側面(第二金物420側の面)に対して垂直に設けられている。
この接合板部412には、ボルト材430の本体軸が通される第一貫通孔412aが複数形成されている。これら複数の第一貫通孔412aは、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔とされ、当該長孔が、上記の誤差吸収部として機能する。
【0039】
端部用板部413は、接合板部412の上下端面に接合されるとともに、固定板部411の上下端部に接合されて、固定板部411に対する接合板部412の取付強度を向上させる部分である。この端部用板部413は、二等辺三角形状又は正三角形状に形成されている。
【0040】
リブ板部414は、接合板部412の側面(軸組構造1の正面側及び背面側の面)に接合されるとともに、固定板部411の内側面(第二金物420側の面)に接合されて、固定板部411に対する接合板部412の取付強度を向上させる部分である。このリブ板部414は、直角三角形状に形成されており、直角部は、固定板部411と接合板部412との入隅部分に配置されている。
【0041】
端部用板部413及びリブ板部414の端部(軸組構造1の正面側及び背面側の端部)は、固定板部411の端部(軸組構造1の正面側及び背面側の端部)に達しないような寸法設定とされている。これは、固定板部411の端部に形成された複数のビス孔411bにビスを打ち込みやすくしたり、第一連結材41の先端部にナット41bを設ける際に用いられるレンチ等の工具の回転範囲(回転角)を確保したりするためである。すなわち、第一金物410は、現場にて既設の柱材2における内側面2dに固定される。
【0042】
また、接合板部412に形成された複数の第一貫通孔412aは、固定板部411に形成された複数のボルト孔411aと略等しい高さ位置に設けられる。また、これら複数の第一貫通孔412aは、上側の端部用板部413と上側のリブ板部414との間の領域、及び下側の端部用板部413と下側のリブ板部414との間の領域に配置されている。
【0043】
第二金物420は、図5に示すように、固定板部421と、接合板部422と、リブ板部424と、が溶接されて一体に形成された金物である。また、第二金物420は、固定板部421と接合板部422によって平面視L字型に形成されている。
さらに、第二金物420は、図3等に示すように、第一金物410における正面側と背面側の双方に設けられる。換言すれば、2つの第二金物420間に、第一金物410が挟み込まれるようにして設けられることになる。2つの第二金物420間には、第一金物410における接合板部412の厚み分の隙間が形成されることとなる。
【0044】
固定板部421は、柱材2の内側面2dに固定される部分であり、複数のボルト孔421aを有する。
複数のボルト孔421aは、第二連結材42が通される貫通孔であり、柱材2における連結用差込孔2a及び第二連結材42の位置に対応して配置されている。
【0045】
接合板部422は、第一金物410の接合板部412における正面側又は背面側に接してボルト材430によって第一金物410に接合される部分であり、固定板部421の外側面(第一金物410側の面)に対して垂直に設けられている。
また、接合板部422は、正面視においてコ字型(凹字型)に形成されている。すなわち、接合板部422は、固定板部421の外側面から第一金物410に向かって長く突出する一対の突出部422bと、これら一対の突出部422bの間に一体形成されて当該一対の突出部422bを補強する補強部422cと、を有する。
さらに、接合板部422における一対の突出部422bには、ボルト材430の本体軸が通される第二貫通孔422aが複数形成されている。複数の第二貫通孔422aは、本実施形態においては円孔とされているが、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔(誤差吸収部)とされてもよい。複数の第二貫通孔422aを長孔とする場合、複数の第一貫通孔412aは円孔であってもよいし、長孔であってもよい。第一貫通孔412aと第二貫通孔422aの双方が長孔である場合は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収できる寸法を長くすることができる。
【0046】
リブ板部424は、接合板部422における一対の突出部422bの側面(軸組構造1の正面側又は背面側の面)の上下縁部に接合されるとともに、固定板部421の外側面(第一金物410側の面)に接合されて、固定板部421に対する接合板部422の取付強度を向上させる部分である。このリブ板部424は、直角三角形状に形成されており、直角部は、固定板部421と接合板部422との入隅部分に配置されている。
【0047】
また、接合板部422に形成された複数の第二貫通孔422aは、固定板部421に形成された複数のボルト孔421aと略等しい高さ位置に設けられる。また、これら複数の第二貫通孔422aは、上側の2つのリブ板部424との間の領域、及び下側の2つのリブ板部424との間の領域に配置されている。すなわち、複数の第二貫通孔422aは、接合板部422における一対の突出部422bに形成されている。
【0048】
以上のように構成された第一金物410は、複数の第一連結材41によって、隣り合う既設の柱材2の内側面2dに固定される。
より詳細に説明すると、複数の第一連結材41によって第一金物410を柱材2の内側面2dに固定すると、第一連結材41の頭部41aとナット41bとの間には、座金41c、柱材2、第一金物410の固定板部411が挟み込まれた状態となる。
なお、本実施形態においては、頭部41aが座金41c側に位置し、ナット41bが第一金物410側に位置している。第一連結材41の本体軸における先端部は、第一金物410における固定板部411の内側面2dに配置され、ナット41bも、第一連結材41の本体軸における先端部にねじ込んで設けられて、固定板部411の内側面2dに配置される。
【0049】
第一連結材41のうち、柱材2における連結用差込孔2aに差し込まれる部分は、連結用差込孔2aを単に貫通した状態となっており、柱材2に対しては、本体軸に対するナット41bの締め付けに応じて接合されている。すなわち、第一連結材41は、いわゆる引きボルトとして機能する。これにより、柱材2に対する第一連結材41の接合部には、柱材2が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されていることとなる。そのため、軸組構造1のうち、柱材2に対する第一連結材41の接合部付近は、靭性が高い状態となる。
ここで、靭性とは、軸組構造1に対して外力による変形が生じた後も軸組としての機能が著しく低下しない粘り強さを発揮するための性質を指す。このような靭性は、隣り合う既設の柱材2が連結部4によって補強フレーム材3と連結され、第一連結材41が隣り合う柱材2に対してモーメント抵抗接合されることにより確保される。
【0050】
また、以上のように構成された第二金物420は、複数の第二連結材42によって、補強フレーム材3の長さ方向両端面(第一金物410側)に固定される。
より詳細に説明すると、第二連結材42は、補強フレーム材3に形成された連結用差込穴3aに埋め込まれる。また、第二連結材42の一端部(第一金物410側に突出する端部)は、第二金物420における固定板部421の外側面(第一金物410側の面)に配置され、ナット42aも、第二連結材42の一端部にねじ込んで設けられて、固定板部421の外側面に配置される。
【0051】
第二連結材42のうち、補強フレーム材3における連結用差込穴3aに埋め込まれる部分は、上記のグルードインロッドの方法によって、補強フレーム材3に接合されている。すなわち、第二連結材42と補強フレーム材3側の連結用差込穴3aとの空隙に接着剤を充填し、その接着剤の硬化により、応力を接着剤の付着力と第二連結材42を介して伝達し、接合耐力を発生させる方法である。これにより、補強フレーム材3に対する第二連結材42の接合部には、補強フレーム材3が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されていることとなる。そのため、軸組構造1のうち、補強フレーム材3に対する第二連結材42の接合部付近は、靭性が高い状態となる。
このような靭性は、隣り合う既設の柱材2が連結部4によって補強フレーム材3と連結され、第二連結材42が補強フレーム材3に対してモーメント抵抗接合されることにより確保される。
【0052】
また、第二金物420における接合板部422の突出部422bは、第一金物410における接合板部412の正面側及び背面側うち、端部用板部413とリブ板部414とに挟まれた領域に配置される。このように配置されることで、第二金物420における接合板部422の突出部422bに形成された複数の第二貫通孔422aの位置と、第一金物410における接合板部412に形成された複数の第一貫通孔412aの位置とが合致することになる。そのため、ボルト材430を、複数の第一貫通孔412aと複数の第二貫通孔422aにいっぺんに通すことができる。
複数の第一貫通孔412aは、上記のように水平方向に長尺な長孔であるため、これら複数の第一貫通孔412aの長さ方向に沿って、第一金物410と第二金物420との間隔を調整することができる。
【0053】
ボルト材430の先端部にナット431をねじ込んで強固に締め付けると、第一金物410における接合板部412と、第二金物420における接合板部422との間には、強固な摩擦力が生じる。そのため、ボルト材430を強く締め付ければ、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との連結強度を向上させることができる。
【0054】
続いて、上下のフレーム材5について説明する。
上下のフレーム材5は、隣り合う既設の柱材2における上端部と下端部のそれぞれに設けられ、隣り合う既設の柱材2における上端部同士及び下端部同士を連結している。
上下のフレーム材5は、上下方向よりも水平方向(横方向・左右方向)に長尺な構造用集成材であり、縦断面視において矩形状に形成されている。
なお、上下のフレーム材5は、隣り合う既設の柱材2における上端部と下端部だけでなく、隣り合う既設の柱材2における上下方向の中間部分などに設けられてもよい。
【0055】
上下のフレーム材5の両端部には、当該上下のフレーム材5の両端部と隣り合う既設の柱材2とを接合するための複数の棒材5aが差し込まれる複数の連結用差込穴が形成されている。また、隣り合う既設の柱材2における上端部及び下端部には、複数の棒材5aが差し込まれる複数の連結用差込孔2bが形成されている。これら複数の連結用差込孔2bは、柱材2を左右方向に貫通する貫通孔である。上下のフレーム材5に形成された複数の連結用差込穴の位置と、隣り合う既設の柱材2に形成された複数の連結用差込孔2bの位置は整合している。そのため、複数の棒材5aを、左の柱材2における左側面と右の柱材2における右側面から、上下のフレーム材5に向かって差し込むことができる。また、隣り合う既設の柱材2と上下のフレーム材5は、グルードインロッドの手法を用い、複数の棒材5aによってモーメント抵抗接合されている。
なお、隣り合う既設の柱材2が、寺社建築に代表される伝統的な木造建物を構成するものである場合には、上下のフレーム材5は用いられなくてもよい。
【0056】
続いて、添木材6について説明する。
添木材6は、隣り合う既設の柱材2の内側面2dに沿って設けられ、連結部4における本体金物40(第一金物410)の上下方向側端面に接する木材である。この添木材6が本体金物40の上下の端面に接することで、本体金物40における上下方向への縦滑り動作や回転動作を防止できるようになっている。
なお、添木材6の正面側の面と、既設の柱材2における表面(正面側の面)は面一の状態となっており、さらに、添木材6の背面側の面と、既設の柱材2における表面(背面側の面)も面一の状態となっている。
【0057】
続いて、パネル材7について説明する。
パネル材7は、合板やパーティクルボード、OSB(Oriented Strand Board)等からなる矩形板材である。このようなパネル材7は、幅寸法(左右方向の寸法)が、隣り合う既設の柱材2間の間隔寸法よりも長く設定され、隣り合う既設の柱材2のうち同一鉛直面上に配置された正面側及び背面側の面間に亘って設けられて接着されている。このようなパネル材7が、軸組構造1の表面に貼られて設けられることで、軸組構造1を耐力壁として機能させることができる。
なお、パネル材7は、一枚の大判なものでもよいし、複数に分割されたパネル材7を上下方向に並べて隣り合う既設の柱材2間に設けるようにしてもよい。
また、パネル材7は、上下のフレーム材5における正面側及び背面側の面に接し、接着によって接合されてもよい。
パネル材7は、既設の柱材2や上下のフレーム材5、添木材6に対して接着により接合されるが、これに限られるものではなく、内部のメンテナンスのしやすさを考慮し、釘などの固定具によって固定されて接合されてもよい。
また、複数に分割されたパネル材7を上下方向に並べて設ける場合は、接着で接合されたパネル材7と、固定具によって接合されたパネル材7とが混在してもよい。さらに、例えば開口部が形成される箇所などのように、場合によっては、パネル材7が部分的に設けられなくてもよい。
【0058】
なお、寺社建築に代表される伝統的な木造建物は、真壁工法が採用されている場合も見受けられる。そのような場合には、添木材6の幅寸法を短くして幅狭な状態にし、パネル材7を、添木材6の正面側及び背面側の面間に亘って設けるようにしてもよい。このようにパネル材7を設けると、パネル材7の表面が、隣り合う既設の柱材2の表面よりも奥まった状態に配置されるので、あたかも真壁工法による壁面のように見せることができる。
【0059】
さらに、補強フレーム材3と、この補強フレーム材3の両端部に設けられる本体金物40の第二金物420は、複数の第二連結材42によって、軸組構造1の耐震改修前に工場等で予め連結されているものとする。これにより、補強フレーム材3及び双方の第二金物420は一つの部材として取り扱うことができる。
また、第一金物410との接合部分は、固定板部412から垂直に突出した接合板部422である。そのため、このように補強フレーム材3と双方の第二金物420を予め連結して一つの部材としても、第一連結材41によって、第一金物410と柱材2とを確実に連結できるようになっている。つまり、補強フレーム材3と双方の第二金物420を予め連結して一つの部材とすることは、第一連結材41の施工の妨げにはならず、現場での施工性を向上させることができる。
【0060】
以上のように構成された軸組構造1は、例えば、寺社建築に代表される伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物のうち、中層・高層の木造建物や、延べ面積の広い木造建物のような、比較的規模の大きな木造建物に組み込まれる。例えば地震や台風等によって軸組構造1が強い外力(水平力)を受けた場合、隣り合う既設の柱材2は、同一の方向に傾くように動こうとする。このような既設の柱材2の動きに対し、補強フレーム材3が隣り合う既設の柱材2間に設けられていると、隣り合う既設の柱材2が同一の方向に傾こうとする動きを抑制できる。
また、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部は連結部4によって連結され、連結部4を構成する複数の第一連結材41及び複数の第二連結材42が、既設の柱材2の長さ方向(上下方向)に並んで設けられているので、これら複数の第一連結材41及び複数の第二連結材42によっても、隣り合う既設の柱材2が同一の方向に傾こうとする動きを抑制できる。
【0061】
また、軸組構造1において、第一連結材41の剛性は、第二連結材42の剛性よりも低く設定されている。すなわち、第一連結材41は、第二連結材42に比して変形しやすくなっている。したがって、例えば地震等によって、補強された軸組構造1に対して大きな外力が加わったときに、第一連結材41は、第二連結材42よりも先に変形する。ところが、第一連結材41は、隣り合う既設の柱材2に対してモーメント抵抗接合されているため靭性を発揮し、変形した後も粘り強く持ちこたえるので、第二連結材42を始めとする他の部材の変形や破損を防ぐことができる。
地震等によって、軸組構造1に対して大きな外力が加わっても、破損箇所を、第一連結材41だけにとどめることができれば、軸組構造1の修理が、第一連結材41の交換だけで済むことになる。
なお、以上のような剛性の差異を生じさせるために、第一連結材41と第二連結材42では、異なる材質、異なるサイズのボルトが用いられている。第一連結材41には、例えばスチール製ボルトが用いられ、第二連結材42には、例えばチタン製ボルトが用いられている。
【0062】
さらに、軸組構造1において、第一連結材41の剛性は、第一金物410と第二金物420とを連結するボルト材430の剛性よりも低く設定されている。すなわち、第一連結材41は、ボルト材430に比して変形しやすくなっている。したがって、例えば地震等によって、補強された軸組構造1に対して大きな外力が加わったときに、第一連結材41は、ボルト材430よりも先に変形する。
なお、第二連結材42の剛性と、ボルト材430の剛性は、どちらが低くてもよいし、互いに等しく設定されてもよい。
【0063】
本実施形態においては、第一連結材41のナット41bが第一金物410の内側面に配置されているので、例えば軸組構造1が大きな外力を受けて第一連結材41の変形があった場合には、第一連結材41の交換作業を、柱材2の外側面2eから抜き取って行うことができる。第一金物410は、添木材6によって下方から支持され、かつ上側の添木材6との間に挟み込まれた状態となっているので、第一連結材41の交換作業時に、複数の第一連結材41を全て取り外しても、第一金物410が脱落することがない。
なお、軸組構造1の表面にパネル材7が貼られている場合は、パネル材7を取り外してから、第一連結材41の交換作業が行われる。
【0064】
本実施形態によれば、柱材2に対する第一連結材41の接合部には、柱材2が外力を受けた場合に、当該外力に抵抗するモーメント抵抗接合が適用されているので、既設の軸組構造1のうち、柱材2に対する第一連結材41の接合部付近は靭性が高い状態となる。これにより、既設の軸組構造1における靭性を向上させることができるので、伝統的な木造建物を始めとする種々の木造建物において十分な耐震性を維持できる。
さらに、連結部4のうち、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3の両端部との間に設けられた本体金物40は、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部を有するので、例えば経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う柱材2同士の間隔が広がってしまったり、反対に狭まってしまったり等、隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、誤差吸収部によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【0065】
また、第一金物410のうち第二金物420と連結される部位の厚み方向に貫通形成された第一貫通孔412aと、第二金物420のうち第一金物410と連結される部位の厚み方向に貫通形成された第二貫通孔422aのうち、少なくとも一方は、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔であるため、ボルト材430が第一貫通孔412aと第二貫通孔422aに通されて、第一金物410と第二金物420とが連結される際に、第一金物410と第二金物420の水平方向の位置を、長孔の長さの範囲で調整することができ、誤差吸収部として確実に機能する。これにより、例えば隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、誤差吸収部によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【0066】
また、第一連結材41の降伏点は、第二連結材42の降伏点よりも低く設定されているので、第一連結材41は、第二連結材42よりも塑性しやすくなっている。したがって、例えば地震等によって、軸組構造1に対して大きな外力が加わったときに、第一連結材41は、第二連結材42よりも先に塑性する。ところが、第一連結材41は、隣り合う第一フレーム材2に対してモーメント抵抗接合されているため靭性を発揮し、変形した後も粘り強く持ちこたえるので、第二連結材42を始めとする他の部材の変形や破損が生じにくくなる。しかも、地震等によって、軸組構造1に対して大きな外力が加わっても、破損箇所を、第一連結材41だけにとどめることができれば、軸組構造1の修理が、第一連結材41の交換だけで済むので、万が一破損が生じても容易かつ安価に修理できる。
【0067】
また、第一連結材41は、第二連結材42の延長線に沿って設けられているので、第一連結材41も第二連結材42と同様に、隣り合う既設の柱材2を、本体金物40に対して確実にモーメント抵抗接合することができ、軸組構造1の変形性能を向上させることができる。
【0068】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。また、以下の変形例において、上述の実施形態と共通する要素については、共通の符号を付し、説明を省略又は簡略する。
【0069】
上記の実施形態においては、第一貫通孔412aと第二貫通孔422aのうち少なくとも一方を、鉛直方向よりも水平方向に長尺な長孔とし、当該長孔を、隣り合う既設の柱材2と補強フレーム材3との間における水平方向の位置の誤差を吸収する誤差吸収部であるとした。
これに対し、本変形例における誤差吸収部は、図7に示すように、隣り合う既設の柱材2と本体金物40(第一金物410の固定板部411)との間に設けられて隙間を調整する調整材440とされている。すなわち、隣り合う既設の柱材2は、経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う柱材2同士の間隔が広がってしまった状態となる場合があるが、調整材440は、隣り合う柱材2同士の間隔が広がったことによって生じる部材間の隙間(隣り合う既設の柱材2と本体金物40との隙間、補強フレーム材3と本体金物40との隙間を指す)を埋めることができる。
【0070】
調整材440は、既設の柱材2と本体金物40における第一金物410の固定板部411との間に設けられた板材であり、本変形例においては金属製の矩形板材が採用されている。調整材440は、柱材2の内側面2dに固定されるものであり、複数のボルト孔と、複数のビス孔と、を有する。
複数のボルト孔は、第一連結材41が通される貫通孔であり、第一金物410の固定板部411に形成された複数のボルト孔411aの位置に対応して配置されており、第一連結材41が通される。
複数のビス孔は、調整材440を柱材2の内側面2dに仮止めするためのビスと、第一金物410における固定板部411を柱材2の内側面2dに仮止めするためのビスが通される貫通孔である。ビスは、第一連結材41によって調整材440が柱材2に本固定された後に残置してよい。
【0071】
本変形例における調整材440は、その幅寸法が、柱材2の内側面2dの幅寸法と略等しく設定され、上下方向の寸法が、第一金物410における固定板部411の上下方向の寸法と略等しく設定されている。
ただし、これに限られるものではなく、調整材440の幅寸法は、第一金物410における固定板部411の幅寸法と略等しく設定されてもよい。
【0072】
また、本変形例における調整材440は、隣り合う既設の柱材2と本体金物40との間に設けられるものとしたが、補強フレーム材3の両端部と本体金物40(2つの第二金物420の固定板部421)との間に設けられてもよい。この場合、調整材440は、その幅寸法が、補強フレーム材3における長さ方向側端面の幅寸法と略等しく設定され、上下方向の寸法が、補強フレーム材3における長さ方向側端面の上下方向の寸法と略等しく設定される。さらに、複数のビス孔は、2つの第二金物420の固定板部421に形成された複数のボルト孔421aの位置に対応して配置されて、第二連結材42が通される。
【0073】
なお、調整材440は、隣り合う既設の柱材2と本体金物40との間と、補強フレーム材3の両端部と本体金物40との間のうち、いずれか一方だけでなく、両方に設けられてもよい。
【0074】
以上のような本変形例によれば、誤差吸収部は、隣り合う既設の柱材2と本体金物40との間、又は/及び補強フレーム材3の両端部と本体金物40との間に設けられて隙間を調整する調整材440であるため、例えば経年変化や過去に大きな外力を受けたことにより、隣り合う柱材2同士の間隔が広がってしまい、隣り合う既設の柱材2の位置に誤差が生じていたとしても、調整材440によって、その誤差を吸収することができ、既設の軸組構造1の耐震改修を確実かつ容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0075】
1 軸組構造
2 柱材
2a 連結用差込孔
2d 内側面
2f 凹部
3 補強フレーム材
3a 連結用差込穴
4 連結部
40 本体金物
410 第一金物
411 固定板部
412 接合板部
412a 第一貫通孔(誤差吸収部)
420 第二金物
421 固定板部
422 接合板部
422a 第二貫通孔
430 ボルト材
440 調整材(誤差吸収部)
41 第一連結材
42 第二連結材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7