(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137478
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230922BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/72 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/80 C
H01M4/72 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043712
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】柴 貴子
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017AS10
5H017BB08
5H017BB12
5H017CC25
5H017DD08
5H017HH00
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H017HH05
5H017HH06
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA04
5H050FA13
5H050FA15
5H050FA17
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA23
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】内部抵抗が低減されるとともにサイクル特性が良好な二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用正極は、厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔11が設けられる多孔質集電体10と、多孔質集電体10の表面上及び第1貫通孔11内に形成され、正極活物質40を含む正極合材層20と、を有し、正極活物質40は、リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、を有する球冠状活物質粒子30を含み、第1貫通孔11内に少なくとも球冠状活物質粒子30が充填されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔が設けられる多孔質集電体と、
前記多孔質集電体の表面上及び前記第1貫通孔内に形成され、正極活物質を含む正極合材層と、を有し、
前記正極活物質は、
リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、
一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、
前記一方向側の反対側に存在するとともに前記一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、
を有する球冠状活物質粒子を含み、
前記第1貫通孔内に少なくとも前記球冠状活物質粒子が充填されている二次電池用正極。
【請求項2】
前記球冠殻部の厚さが0.4μm以上1.5μm以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記多孔質集電体の厚さに対する前記凸曲面の平均直径の比が0.5以上1.5以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記球冠状活物質粒子には、前記球冠殻部を貫通するとともに0.3μm以上の孔径を有する第2の貫通孔が設けられ、
前記球冠殻部及び前記第2の貫通孔の合計体積に対する前記球冠殻部の体積の比が0.3以上0.7以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記第1貫通孔の短辺の長さが前記凸曲面の平均直径の2倍以上1mm以下であり、
前記第1貫通孔の長辺の長さが前記短辺の長さの2倍以上10mm以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項6】
前記第1貫通孔の開口率が面積比で10%以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項7】
前記凸曲面の曲率中心から前記凸曲面における前記切断面側の先端に向かう方向と、前記凸曲面の曲率中心を通る前記凸曲面の長軸と、のなす角度が±15°以内である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項8】
前記凸曲面の平均直径が4μm以上6μm以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項9】
前記中空活物質粒子の外面の曲率中心を通る短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.0以上1.5未満であり、
前記凸曲面は、前記外面の長軸に沿う前記切断面により切り取られた略球冠状に形成される請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項10】
前記中空活物質粒子の内面の曲率中心を通る短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.0以上1.8未満であり、
前記凹曲面は、前記内面の長軸に沿う前記切断面により切り取られた略球冠状に形成される請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項11】
リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子を形成するステップと、
前記中空活物質粒子を粉砕して、前記中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部を有する球冠状活物質粒子を含む正極活物質を形成するステップと、
厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔が設けられる多孔質集電体の表面上及び前記第1貫通孔内に前記正極活物質を含む正極合材層を形成するステップと、
を有し、
前記第1貫通孔内に少なくとも前記球冠状活物質粒子が充填されている二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
前記正極活物質を形成するステップでは、
前記正極活物質の吸油量とBET比表面積との少なくとも一方を測定した結果が、前記中空活物質粒子について測定した結果と比べて大きい場合に、前記正極合材層を形成するステップに進む請求項11に記載の二次電池用正極の製造方法。
【請求項13】
前記正極合材層を形成するステップは、
前記正極活物質及び溶媒を所定の割合で含む合材層形成用ペーストを作製するステップを有し、
前記合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果が、前記中空活物質粒子及び溶媒を前記所定の割合で含む基準ペーストの粘度を測定した結果と比べて小さい場合に、前記多孔質集電体の表面上及び前記第1貫通孔内に前記合材層形成用ペーストを塗工して前記正極合材層を形成する請求項11に記載の二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。リチウムイオン二次電池は、正極及び負極の間を、電解質中のリチウムイオン(電荷担体)が移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
リチウムイオン二次電池等の二次電池に用いられる電極は、導電性の集電体と、集電体に保持された活物質等の電極材料を含む合材層と、を備えている。このような二次電池では、高入出力化を実現するために、電荷担体の挿入脱離をスムーズに行なうことができる二次電池用正極(以下、単に「正極」と称する場合がある)が求められる。
【0004】
特許文献1には、粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、前記二次粒子は、シェルの形状を有しており、前記一次粒子は、下記化学式1のNi‐Co‐Mnの複合金属水酸化物を含む、二次電池用正極活物質の前駆体およびこれを用いて製造した正極活物質が開示されている。
[化学式1]
Ni1-(x+y+z)CoxMyMnz(OH)2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電池特性の改善を目的として、集電体に多数の貫通孔を設け、貫通孔内にも合材層を形成し、貫通孔を通した電解液及び電荷担体の流通を可能とする技術が知られている。このような技術によれば、合材層の剥離強度が向上するだけでなく、電極内における電解液の体積分率が高くなり、バルクからの電解液の浸透を促進することができる。
【0007】
一方で、貫通孔内に充填された活物質が貫通孔を塞いでしまうと、貫通孔を通した電解液の流れが悪化する可能性がある。例えば、特許文献1に記載の技術では、貫通孔を通した電解液の流通を想定していないため、特許文献1に記載される正極活物質を貫通孔内にも充填すると、貫通孔が塞がれて十分な電池特性が得られない可能性があるという問題があった。
【0008】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、内部抵抗が低減されるとともにサイクル特性が良好な二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態にかかる二次電池用正極は、厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔が設けられる多孔質集電体と、多孔質集電体の表面上及び第1貫通孔内に形成され、正極活物質を含む正極合材層と、を有し、正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、を有する球冠状活物質粒子を含み、第1貫通孔内に少なくとも球冠状活物質粒子が充填されている。
【0010】
一実施の形態にかかる二次電池用正極の製造方法は、リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子を形成するステップと、中空活物質粒子を粉砕して、中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部を有する球冠状活物質粒子を含む正極活物質を形成するステップと、厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔が設けられる多孔質集電体の表面上及び第1貫通孔内に正極活物質を含む正極合材層を形成するステップと、を有し、第1貫通孔内に少なくとも球冠状活物質粒子が充填されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、内部抵抗が低減されるとともにサイクル特性が良好な二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1に示す正極に含まれる多孔質集電体に設けられる第1貫通孔の近傍を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図1に示す正極に含まれる球冠状活物質粒子を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1にかかる正極の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図3に示す球冠状活物質粒子の材料となる中空活物質粒子を示す断面図である。
【
図9】実施例、比較例、及び参考例を説明する表である。
【
図10】評価用ハーフセルの抵抗減少率(%)を示すグラフである。
【
図11】略球形状の活物質粒子を含む正極活物質を用いた正極を示す図である。
【
図12】
図11に示す正極に含まれる多孔質集電体に設けられる第1貫通孔の近傍を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
ここで、本実施形態における活物質粒子の「短軸の長さ」及び「長軸の長さ」は、特に断りがない場合、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる複数の活物質粒子の外側に配置される面又は内側に配置される面を用いて計測されるものである。活物質粒子の外側の面又は内側の面において、活物質粒子の曲率中心を通る最も短い径の平均値を「短軸の長さ」として求めることができる。また、活物質粒子の外側の面又は内側の面において、活物質粒子の曲率中心を通る最も長い径の平均値を「長軸の長さ」として求めることができる。さらに、活物質粒子の「平均直径(平均粒径)」は、活物質粒子の外側の面における「長軸の長さ」と「短軸の長さ」との平均値である。
【0015】
また、本実施形態における活物質粒子の「厚さ」は、特に断りがない場合、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる活物質粒子の断面において、活物質粒子の内側に配置される面の複数の位置から外側に配置される面への最短距離が計測されるものである。活物質粒子の内側の面の複数の位置で計測された当該最短距離の平均値を「厚さ」として求めることができる。
【0016】
例えば、活物質粒子が球冠状活物質粒子30である場合、外側に配置される面が凸曲面33であり、内側に配置される面が凹曲面34である。活物質粒子が中空活物質粒子130である場合、外側に配置される面が外面133であり、内側に配置される面が内面134である。
【0017】
また、本実施形態における活物質粒子の「孔径」は、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる複数の第2貫通孔36について、最も狭い部分の直径の平均値として求めることができる。
【0018】
なお、FIB-SEMとは、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)にて試料を加工し、当該試料の露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて観察することを意味する。試料を加工する方法としては、例えば、適当な樹脂で固めた試料を、所望の断面で切断し、その断面を少しずつ削りながらSEM観察を行うとよい。
【0019】
FIB-SEMを用いた手法では、試料に対して、FIBによる断続的な加工とSEMによる観察とを繰り返し、得られたSEM像を3次元的に構築した3次元モデルを得ることによって、内部構造を含めた物質の構造を可視化することができる。
【0020】
以下、本実施形態にかかる二次電池用正極の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池用の正極1に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正極1(正極板)と負極(負極板)との間における電荷の移動により充放電が実現される二次電池である。リチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として用いられる。
【0021】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態にかかる正極1の構成について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる正極を示す図である。
図1の斜視図には、正極1の3次元モデルを示している。
図1の断面図には、正極1の断面SEM像を示している。
図2は、
図1に示す正極1に含まれる多孔質集電体に設けられる第1貫通孔の近傍を模式的に示す断面図である。なお、
図1及び
図2では、多孔質集電体10及び正極活物質40(球冠状活物質粒子30)以外の構成要素について図示を省略している。
【0022】
図1及び
図2に示すように、正極1は、一方の表面(片面12)から他方の表面(他面13)まで厚さ方向に貫通する第1貫通孔11が設けられる多孔質集電体10と、多孔質集電体10の表面上及び第1貫通孔11内に形成され、正極活物質40を含む正極合材層20と、を有する。この正極活物質40は、球冠状活物質粒子30を含んでいる。そして、正極1は、第1貫通孔11に少なくとも球冠状活物質粒子30が充填された構成を有している。
【0023】
正極1は、例えば、負極、非水電解液等のリチウムイオンを含む電解質、必要に応じてリチウムイオンが通過可能な絶縁性のセパレータと組み合わせることにより、二次電池を構成することができる。
【0024】
多孔質集電体10は、板状又は箔状に形成され、導電性の良好な金属により構成される。正極1に用いられる多孔質集電体10には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を用いることができる。この中でも、耐久性に優れ、軽量で低コストであることから、アルミニウムが好適に用いられる。多孔質集電体10の厚さT1は、例えば5μm以上15μm以下である。多孔質集電体10の厚さT1が5μmを下回ると、多孔質集電体10に対する合材層形成用ペーストの塗工時や、捲回型電池の製造工程における電極の捲回時等の製造時又は使用時に加わり得る応力等によって多孔質集電体10が破れる可能性が高くなる。多孔質集電体10の厚さT1が15μmを上回ると、二次電池に大電流を印加した際に金属抵抗の影響が大きくなるとともに、多孔質集電体10が占める体積が増大することにより、二次電池のエネルギー密度が低下傾向を示す。
【0025】
多孔質集電体10は、複数の第1貫通孔11が設けられた多孔質の集電体である。多孔質集電体10に設けられる第1貫通孔11は、例えばスリット状に形成される。このような多孔質集電体10として、例えば、エッチング等により第1貫通孔11が形成されたエッチング箔であってもよく、機械的な打ち抜きやその他の加工によって第1貫通孔11が形成されたエキスパンドメタルやパンチングメタル等であってもよい。
【0026】
多孔質集電体10における第1貫通孔11の開口率(%)は、面積比で10%以下であることが好ましく、1%以上5%以下であることがより好ましい。開口率が必要以上に高すぎると、正極1内の電気伝導体の存在比が低下するため、抵抗が増加するとともに充放電に伴うサイクル特性が低下傾向を示す。開口率が必要以上に低すぎると、第1貫通孔11を通した電解液及び電解液中のリチウムイオンの流通が不良になる虞がある。
【0027】
第1貫通孔11は、球冠状活物質粒子30が入り込むことができる大きさに形成されている。第1貫通孔11の形状、配置、及び数量等は、多孔質集電体10の強度低下を抑制しつつ、第1貫通孔11を通した電解液及び電解液中のリチウムイオンの流通が良好になるように適宜設定される。
【0028】
第1貫通孔11は、短辺の長さの下限が球冠状活物質粒子30における凸曲面33の平均直径Rの2倍以上、1mm以下であることが好ましい。球冠状活物質粒子30の詳細については後述する。また、第1貫通孔11は、長辺の長さの下限が短辺の長さの2倍以上、10mm以下であることが好ましい。ここで、第1貫通孔11の長辺は、多孔質集電体10の長手方向に沿って配置されている。多孔質集電体10の長手方向は、合材層形成用ペーストの塗工方向であって、捲回型電池の場合は電極の捲回方向である。第1貫通孔11の短辺は、当該長辺と直交する多孔質集電体10の幅方向に沿って配置されている。
【0029】
第1貫通孔11の長辺を塗工方向(或いは、捲回方向)に配置することで、合材層形成用ペーストの塗工時や、電極の捲回時等の製造時又は使用時に加わり得る応力等によって生じ得る多孔質集電体10の破れを抑制できる。一方、第1貫通孔11の長辺が必要以上に大きいと、多孔質集電体10の強度が不足するため、多孔質集電体10が破れやすくなる。
【0030】
第1貫通孔11内には、少なくとも球冠状活物質粒子30を含む正極合材層20が形成される。多孔質集電体10の表面上だけでなく、第1貫通孔11内にも正極合材層20が形成されることにより、正極合材層20の剥離強度が向上する。その結果、二次電池の保存性やサイクル特性が向上する。
【0031】
そして、第1貫通孔11は、正極1により構成される二次電池が有する電解液の浸透経路となる。特に、多孔質集電体10の片面12に正極合材層20が形成された正極1がセパレータを介して負極と対向するように構成された二次電池の場合、負極集電体の表面上に形成された負極合材層と対向しない正極1の多孔質集電体10側で電解液の流れが良好になる。これにより二次電池の放電時には、第1貫通孔11を通じて正極合材層20内へ未反応の電解液を供給することができる。そのため、内部抵抗が低減されるとともに、充放電サイクルに対して電池容量の低下が抑えられた良好なサイクル特性を有する二次電池を得ることができる。このように、本実施形態にかかる正極1は、正極合材層20が多孔質集電体10の片面12に形成された形態の正極1に好適である。
【0032】
なお、上記した多孔質集電体10の形状は、例えば、正極1の断面又は正極1から正極合材層20を除去した多孔質集電体10の表面をSEM観察すること等により把握することができる。
【0033】
正極合材層20は、正極活物質40を少なくとも含んでいる。正極合材層20は、その他に、導電材と、必要に応じて分散剤及びバインダ等の添加剤と、を含んでもよい。正極合材層20は、多孔質集電体10の少なくとも片面12に形成される。本実施形態では、多孔質集電体10の片面12に正極合材層20が形成されている場合を例に挙げて正極1について説明するが、目的に応じて多孔質集電体10の片面12及び他面13の両面に正極合材層20が形成される構成としてもよい。
【0034】
導電材は、正極合材層20内に導電パスを形成するための材料である。正極合材層20に適量の導電材を混合することにより、正極1内部の電子伝導性を高めて、電池の充放電効率および入出力特性を向上させることができる。導電材としては、例えば、各種カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック)、炭素繊維(例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバ(CNF))を初めとする炭素材料等を用いることができる。例えば、導電材としてABを用いる場合、平均粒径20~50μmのABを用いることが好ましい。導電材としてCNTを用いる場合、外形が5~30nm、アスペクト比が15~300のCNTを用いることが好ましい。
【0035】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。バインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0036】
正極活物質40については、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、
図1に示す正極に含まれる球冠状活物質粒子を示す断面図である。正極活物質40は、電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能である。正極活物質40に含まれる球冠状活物質粒子30は、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子130の一部が切断面31により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部32を有している。この球冠状活物質粒子30は、一方向に突出する略球冠状の凸曲面33と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面34と、を有する。また、球冠状活物質粒子30には、凸曲面33に向かって端面の中央付近が略球冠状に窪んだ凹部35が形成される。
【0037】
ここで、球冠とは、球又は楕円球の一部を任意の面(本実施形態では切断面31)で切り取った球欠の側面部分である。球冠状活物質粒子30の形状は、略椀状とも言える。このように、凸曲面33及び凹曲面34が湾曲した形状であると、嵩高い球冠状活物質粒子30が形成されるため、正極合材層20内における球冠状活物質粒子30同士の重なり、及び球冠状活物質粒子30と別の活物質粒子との重なりを抑制することができる。
【0038】
球冠状活物質粒子30は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li(リチウム)以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、Co及びMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0039】
球冠状活物質粒子30は、遷移金属元素(すなわち、Ni、Co及びMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)及び17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0040】
好ましい一態様において、球冠状活物質粒子30は、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO2…(1)
【0041】
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、Cr及びMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、B及びFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0042】
個々の球冠状活物質粒子30は、粒子形態をなしている。球冠状活物質粒子30を構成する球冠殻部32は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が連なって略球冠状に形成された二次粒子である。ここで、一次粒子は、外見上の幾何学的形態から判断して単位粒子(ultimateparticle)と考えられる粒子を指す。球冠状活物質粒子30において、一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。球冠状活物質粒子30の形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
【0043】
球冠状活物質粒子30の凸曲面33の平均直径Rは、例えば、およそ2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、球冠状活物質粒子30の平均直径Rは25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。生産性の観点から、好ましい一態様では、凸曲面33の平均直径Rは、4μm以上6μm以下である。
【0044】
そして、多孔質集電体10の厚さT1に対する凸曲面33の平均直径Rの比(T1/R)が0.5以上1.5以下であることが好ましい。厚さT1と平均直径Rとの比(T1/R)が上記範囲を外れて必要以上に小さいと、第1貫通孔11内において球冠状活物質粒子30の粒子間に形成される空隙が十分に確保できず、この空隙が電解液の浸透通路として機能しにくくなる場合がある。また、厚さT1に対して平均直径Rが小さくなるほど、第1貫通孔11内において電解液中のリチウムイオンの移動経路の曲路率(屈曲度)が大きくなるため、正極合材層20内を移動するリチウムイオンの拡散抵抗が増加する虞がある。
【0045】
球冠殻部32の厚さT2は、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下である。球冠殻部32の厚さT2が小さいほど、リチウムイオンの拡散抵抗が低減され、充電時には球冠殻部32の内部(厚さT2の中央部)からもリチウムイオンが放出されやすく、二次電池の放電時にはリチウムイオンが球冠殻部32の内部まで吸収されやすくなる。球冠殻部32の厚さT2の下限値は、0.1μm以上であることが好ましい。内部抵抗低減効果と耐久性とを両立させる観点から、好ましい一態様では、球冠殻部32の厚さT2は、0.4μm以上1.5μm以下である。
【0046】
球冠殻部32の厚さ方向において、一次粒子は単層であってもよく、多層であってもよい。好ましい一態様にかかる球冠状活物質粒子30は、球冠殻部32の全体に亘って、一次粒子が実質的に単層で連なった形態に構成されている。
【0047】
さらに、球冠状活物質粒子30には、外部から凹部35まで球冠殻部32を貫通する複数の第2貫通孔36が設けられていることが好ましい。第2貫通孔36は、球冠殻部32を構成する複数の一次粒子の間に隙間として形成される。第2貫通孔36の孔径Dは、0.3μm以上であることが好ましい。好ましい一態様では、球冠状活物質粒子30に複数設けられる第2貫通孔36の少なくとも一部の孔径Dが0.5μm以上である。球冠状活物質粒子30にこのような孔径Dの第2貫通孔36が設けられることにより、球冠状活物質粒子30の耐久性を確保しつつ、第2貫通孔36を通して外部と凹部35との間で電解液及び電解液中のリチウムイオンがスムーズに流通し得る。
【0048】
また、第2貫通孔36が設けられた球冠状活物質粒子30は、球冠殻部32及び第2貫通孔36の合計体積に対する球冠殻部32の体積の比である体積比が、0.3以上0.7以下であることが好ましく、0.4以上0.5以下であることがより好ましい。ここで、球冠殻部32及び第2貫通孔36の合計体積は、1粒子の球冠状活物質粒子30を構成する全ての一次粒子の体積と全ての第2貫通孔36の体積とを合計した体積である。一方、球冠殻部32の体積は、1粒子の球冠状活物質粒子30を構成する全ての一次粒子の体積である。当該体積比がこのような範囲で構成されることにより、製造時又は使用時に加わり得る応力等に対する耐久性を確保しつつ、多孔質な球冠状活物質粒子30となるため、第1貫通孔11内における電解液及び電解液中のリチウムイオンの流通が促進される。
【0049】
当該体積比が上記範囲を外れて必要以上に小さいと、球冠状活物質粒子30の耐久性が低下する場合がある。また、当該体積比が上記範囲を外れて必要以上に大きいと、電解液及び電解液中のリチウムイオンのスムーズな流通に必要な第1貫通孔11が形成されにくくなるため、第1貫通孔11を通した電解液の浸透が滞り、正極合材層20内にリチウムイオンが拡散しにくくなる虞がある。
【0050】
体積比等の特性値は、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析を用いて、それぞれ任意に選ばれる複数の活物質粒子のそれぞれについての計測値に基づいて算出することができる。例えば、正極1の3次元モデルのデータからWatershed等のアルゴリズムにより単一の粒子に分割された球冠状活物質粒子30の3次元モデルのデータを取得して各粒子の体積等を算出するとよい。球冠状活物質粒子30の3次元モデルのデータに基づき、各粒子について球冠殻部32及び第2貫通孔36の合計体積等を算出することができる。さらに、球冠状活物質粒子30の3次元モデルのデータから球冠状活物質粒子30内の連結空孔を抽出し、抽出されたデータに基づいて、第2貫通孔36の体積等を算出することができる。そして、抽出された連結空孔を除去した球冠状活物質粒子30の3次元モデルのデータに基づいて、球冠殻部32の体積等を算出することができる。
【0051】
次に、
図4を参照して、上記した正極1の製造方法について一例を説明する。
図4は、実施の形態1にかかる正極の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態にかかる正極1の製造方法は、ステップS1~S6の工程を有する。なお、ステップS3及びステップS5の各工程は、製造される正極1の品質が確保される場合には省略することができ、その他の手法によっても代替可能である。
【0052】
ステップS1は、中空活物質粒子130を形成する工程である。ステップS2は、中空活物質粒子130を粉砕して球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を形成する工程である。ステップS3は、ステップS2で得られた正極活物質40の物性が所定値と比べて適切な値であるか否かを確認する工程である。ステップS4は、正極合材層20を形成するための合材層形成用ペーストを作製する工程である。ステップS5は、ステップS4で作製した合材層形成用ペーストの粘度が所定値と比べて適切な値であるか否かを確認する工程である。ステップS6は、厚さ方向に貫通する第1貫通孔11が設けられた多孔質集電体10の表面上及び第1貫通孔11内に合材層形成用ペーストを塗工して正極合材層20を形成する工程である。
【0053】
上記の各工程について詳細に説明する。まず、ステップS1では、球冠状活物質粒子30の材料となる中空活物質粒子130を形成する。そこで、
図5は、
図3に示す球冠状活物質粒子の材料となる中空活物質粒子の一例を示す断面図である。
【0054】
図5に示すように、中空活物質粒子130は、球殻部132と、球殻部132の内部に形成される中空部135と、を有する中空構造の粒子形態をなし、略球殻状又は略楕円球殻状に形成される。すなわち、中空活物質粒子130の外形は、概ね球形状、又は楕円球形状(やや歪んだ球形状等)を呈している。また、中空活物質粒子130は、ともに球面状又は楕円球面状に形成される外面133と内面134とを有する。
【0055】
球殻部132は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が連なって略球殻状又は略楕円球殻状に形成された二次粒子である。球殻部132の内部には、中空部135が形成される。球殻部132の厚さ方向において、一次粒子は単層であってもよく、多層であってもよい。好ましい一態様にかかる中空活物質粒子130は、球殻部132の全体に亘って、一次粒子が実質的に単層で連なった形態に構成されている。中空活物質粒子130において、一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。中空活物質粒子130の形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
【0056】
中空活物質粒子130の外面133の平均直径Rは、凸曲面33の平均直径Rと略一致する。なお、外面133は、中空活物質粒子130の輪郭にあたる面である。また、球殻部132の厚さT2は、球冠殻部32の厚さT2と略一致する。
【0057】
中空活物質粒子130の内面134の径は、外面133の平均直径Rから球殻部132の厚さT2を減算することにより求めることができる。内面134の径は、凹曲面34の径と略一致する。なお、内面134は、中空部135の輪郭にあたる面である。
【0058】
さらに、中空活物質粒子130には、外部から中空部135まで球殻部132を貫通する第2貫通孔36が設けられていることが好ましい。この第2貫通孔36は、上記した通り、球冠状活物質粒子30における電解液の浸透経路となる。
【0059】
上記の中空活物質粒子130を形成する方法は、例えば、原料水酸化物生成工程と、混合工程と、焼成工程と、を含む。これらの各工程について詳述する。ただし、中空活物質粒子130を形成する方法はこれに限られるものではない。
【0060】
原料水酸化物生成工程は、遷移金属化合物の水溶液にアンモニウムイオン(NH4
+)を供給して、遷移金属水酸化物の粒子を水溶液から析出させる工程である。ここで、水溶液は、リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも1種を含む。
【0061】
原料水酸化物生成工程は、水溶液から遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、核生成段階よりも水溶液のpHを減少させた状態で遷移金属水酸化物の粒子を成長させる粒子成長段階とを含むことが好ましい。粒子成長段階では、pH及びアンモニウムイオン濃度を変更することにより、遷移金属水酸化物の析出速度を調整することで、中空活物質粒子130の構造(一次粒子同士の配置間隔、粒子空孔率等)を変化させることができる。
【0062】
混合工程では、原料水酸化物生成工程で生成した遷移金属水酸化物粒子を反応液から分離し、洗浄、濾過、乾燥させる。このようにして得られた遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製する。当該遷移金属水酸化物とリチウム化合物とは、所定の割合でできるだけ均一に混合すると良い。混合工程では、典型的には、目的物である中空活物質粒子130の組成に対応する量比で、リチウム化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合する。
【0063】
焼成工程は、混合物を焼成して中空活物質粒子130を得る工程である。焼成工程は、例えば酸化性雰囲気中(例えば大気雰囲気中)で行われる。焼成温度は、例えば700℃以上1100℃以下である。また、焼成工程は、異なる温度範囲で焼成する複数の工程を含んでいてもよい。焼成後には、必要に応じて、焼成物を解砕したものを分級して粒径を調整することが好ましい。
【0064】
この工程では、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子の焼結反応を進行させる。これにより、一次粒子同士が焼結されて連なった略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子130が形成されるとともに、中空活物質粒子130の内部には中空部135が形成される。このようにして形成された中空活物質粒子130は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物により構成されるものである。
【0065】
図4に戻り、ステップS2では、ステップS1で得られた中空活物質粒子130を粉砕機に投入し、中空活物質粒子130に対して剪断力を与えることにより、中空活物質粒子130の一部が切断面31により切り取られた球冠状活物質粒子30を形成する。中空活物質粒子130の粉砕に用いる粉砕機としては、ジェットミルを用いることが好ましい。粉砕の方式は、乾式であっても良く、湿式であっても良い。
【0066】
ここで、
図6~8を参照して、本実施形態において望ましい球冠状活物質粒子30の構造について詳細を説明する。
図6は、球冠状活物質粒子の一例を示す図である。
図7は、球冠状活物質粒子の他の例を示す図である。
図8は、球冠状活物質粒子の他の例を示す図である。
【0067】
なお、
図6~
図8に示す実線は、球冠状活物質粒子30の凸曲面33を模式的に表したものとする。また、
図6~
図8に示す破線は、球冠状活物質粒子30の材料となる中空活物質粒子130の外面133を模式的に表したものとする。
図6~
図8では、球冠状活物質粒子30の全部が中空活物質粒子130の一部と一致するように球冠状活物質粒子30と中空活物質粒子130とを重ねて配置した場合を示している。そして、凸曲面33及び外面133の長軸は水平方向に延在し、凸曲面33及び外面133の短軸は鉛直方向に延在するように配置されている。
【0068】
なお、中空活物質粒子130の曲率中心Oは、球冠状活物質粒子30の曲率中心Oと一致する。また、中空活物質粒子130の曲率中心Oは、外面133の曲率中心Oと内面134の曲率中心Oと同一であるものとし、球冠状活物質粒子30の曲率中心Oは、凸曲面33の曲率中心Oと凹曲面34の曲率中心Oと同一であるものとする。
【0069】
図6~
図8に示すように、中空活物質粒子130を分割する切断面31は、曲率中心Oを通る面であっても良く、曲率中心Oから隔てた位置にある面であっても良い。切断面31が形成される位置は、曲率中心Oから凸曲面33における切断面31側の先端に向かう方向と、凸曲面33における長軸と、のなす角が角度θとなる位置に形成される。そして、本実施形態では、角度θが±15°以内であることが好ましい。すなわち、球冠状活物質粒子30は、中心角が150°以上210°以下の略球冠状であることが好ましい。
【0070】
具体的には、θ=0°である場合、切断面31は曲率中心Oを通る面であり、球冠状活物質粒子30は半球状に形成される。θ=15°である場合、切断面31は曲率中心Oから上側に間隔を隔てた位置にある面であり、球冠状活物質粒子30は、曲率中心Oを含む相対的に大きな体積の方の立体である。θ=-15°である場合、切断面31は曲率中心Oから下側に間隔を隔てた位置にある面であり、球冠状活物質粒子30は、曲率中心Oを含まない相対的に小さな体積の方の立体である。
【0071】
角度θが±15°以内であると、活物質粒子における有効な反応場を確保しつつ、電解液の電気伝導度と活物質粒子の電気伝導度とを高いレベルで両立した、良好な性能を有する正極1を得ることができる。
【0072】
さらに、角度θが±15°以内において、切断面31の形状は、平面であっても良く、凹凸状等の非平面であっても良い。このように、切断面31の位置及び形状に応じて球冠状活物質粒子30の形状が決定される。
【0073】
また、本実施形態では、正極合材層20が含有する正極活物質40のうち、角度θが±15°以内で形成される球冠状活物質粒子30が占める割合は、好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは90質量%以上100質量%以下である。角度θが±15°以内で形成される球冠状活物質粒子30が占める割合は、100質量%に近いほど好ましい。
【0074】
このような割合で構成されることにより、第1貫通孔11に球冠状活物質粒子30が効率的に入り込むため、第1貫通孔11を通した電解液の浸透を促進することができる。その結果、正極1を含む二次電池の入出力特性を向上する効果が一層高められる。なお、正極活物質40は、上述した角度θが±15°以内で形成される球冠状活物質粒子30の他に別の活物質粒子を含んでも良い。別の活物質粒子とは、例えば中実構造の活物質粒子、中空構造の活物質粒子、角度θが±15°の範囲外で形成される活物質粒子等である。
【0075】
そして、中空活物質粒子130の外面133について、短軸の長さL2に対する長軸の長さL1の比(長軸の長さ/短軸の長さ、L1/L2)は、1.0以上1.5未満であることが好ましい。また、中空活物質粒子130の内面134について、短軸の長さに対する長軸の長さの比(長軸の長さ/短軸の長さ)は、1.0以上1.8未満であることが好ましい。このような比率で構成される中空活物質粒子130を用いて球冠状活物質粒子30を形成すると、球冠状活物質粒子30の表裏面(凸曲面33及び凹曲面34)が湾曲した形状となって粒子が嵩高くなる。
【0076】
ステップS2におけるジェットミルによる粉砕では、粉砕ガス圧力、中空活物質粒子130の供給速度、粉砕回数等の粉砕条件を適宜設定して粉砕の度合いを調整する。粉砕条件は、中空活物質粒子130の曲率中心Oを通る最も長い径である長軸に沿った切断面31で中空活物質粒子130を切り取ることができるように設定されることが好ましい。すなわち、粉砕条件を制御することによって、所望の球冠状活物質粒子30を形成することができる。
【0077】
粉砕条件は、特に限定されるものではなく、用いる粉砕機や中空活物質粒子130によって異なる。粉砕後には、粉砕物を分級して微粉末の除去を行ない、所望の平均粒径を有する球冠状活物質粒子30を得ることができる。粉砕物の分級は、分級機能を備えたジェットミルにより実施しても良く、ジェットミルとは別の分級機を用いて実施しても良い。
【0078】
このように、中空活物質粒子130を粉砕することにより、少なくとも球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を得ることができる。球冠状活物質粒子30の球冠殻部32は、中空活物質粒子130の球殻部132に対応し、球殻部132の一部が切断面31により切り取られたものである。球冠状活物質粒子30の凸曲面33は、中空活物質粒子130の外面133に対応し、外面133の一部が切断面31により切り取られたものである。球冠状活物質粒子30の凹曲面34は、中空活物質粒子130の内面134に対応し、内面134の一部が切断面31により切り取られたものである。
【0079】
凹曲面34は、凸曲面33の突出方向側の反対側に存在し、凹曲面34と凸曲面33とは、互いに対向している。また、凹部35は、中空活物質粒子130の中空部135に対応し、凹曲面34により画成される。切断面31は、凸曲面33の先端縁と凹曲面34の先端縁とを繋ぐ部分である。切断面31は、凹部35の開口を囲む略円環状を有する。
【0080】
図4に戻り、ステップS3では、ステップS2で得られた正極活物質40の物性を測定し、正極活物質40の物性の測定値が所定値より大きい値であるか否かを確認する。正極活物質40の物性としては、例えば、吸油量及びBET比表面積を用いることができる。また、ステップS3における所定値としては、球冠状活物質粒子30の材料となる中空活物質粒子130の吸油量及びBET比表面積を用いることができる。
【0081】
この工程では、正極活物質40について、吸油量とBET比表面積との少なくとも一方を測定する。そして、正極活物質40の物性について測定した結果(測定値)が、中空活物質粒子130の同じ物性について測定した結果(所定値)と比べて大きい場合(ステップS3;YES)に、次のステップS4に進む。一方、正極活物質40の物性について測定した結果(測定値)が、所定値以下である場合(ステップS3;NO)は、粉砕が不十分である等の理由により所望の球冠状活物質粒子30が得られていないと考えられるため、ステップS2に戻る。
【0082】
続いて、ステップS4では、正極活物質40を用いて正極合材層20を形成するための合材層形成用ペーストを作製する。ここで作製される合材層形成用ペーストは、少なくとも正極活物質40及び溶媒(水系溶媒、非水系溶媒又はこれらの混合溶媒)を所定の割合で混練することにより得られる。本実施形態の合材層形成用ペーストは、正極活物質40、導電材、バインダ、及び溶媒を所定の割合で混練することにより得られる。
【0083】
ステップS5では、ステップS4で得られた合材層形成用ペーストの粘度を測定することにより、合材層形成用ペーストの粘度の測定値が所定値より小さい値であるか否かを確認する。ステップS5における所定値としては、正極活物質40の代わりに中空活物質粒子130を合材層形成用ペーストに含有させることにより作製した基準ペーストの粘度を用いることができる。基準ペーストは、少なくとも中空活物質粒子130及び溶媒を、活物質粒子の種類を除いて合材層形成用ペーストと同じ材料及び同じ割合と認定される所定の割合で混練することにより得られる。なお、同じ割合とは、製造ばらつき程度の範囲ずれを許容するものである。本実施形態の基準ペーストは、中空活物質粒子130、導電材、バインダ、及び溶媒を所定の割合で混錬することにより得られる。
【0084】
この工程では、合材層形成用ペーストの粘度を測定する。そして、合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果(測定値)が、基準ペーストの粘度を測定した結果(所定値)と比べて小さい場合(ステップS5;YES)に、次のステップS6に進む。一方、合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果(測定値)が、所定値以上である場合(ステップS5;NO)は、粉砕が不十分である等の理由により所望の球冠状活物質粒子30が得られていないと考えられるため、ステップS2に戻る。
【0085】
ステップS6では、合材層形成用ペーストを多孔質集電体10の片面12側から塗工し、これを乾燥することにより溶媒を揮発させ、乾燥したものを必要に応じてプレスする。これにより、多孔質集電体10の表面上及び第1貫通孔11内に、正極合材層20を形成することができる。
【0086】
塗工方法としては、例えばダイコータ、スリットコータ、コンマコータ、グラビアコータ、ブレードコータ等が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば減圧乾燥を採用することにより、第1貫通孔11内への正極合材層20の充填性が向上する。プレス方法としては、例えば平板プレス、ロールプレス等の方法が挙げられる。
【0087】
多孔質集電体10への正極合材層20の単位面積当たりの塗布量は、特に限定されるものではないが、多孔質集電体10の片面当たり3mg/cm2以上が好ましく、5mg/cm2以上がより好ましく、特に6mg/cm2以上であるとよい。なお、塗布量は、ペーストの固形分換算の塗付量である。
【0088】
また、多孔質集電体10の片面当たりの塗布量は、45mg/cm2以下が好ましく、28mg/cm2以下がより好ましく、特に15mg/cm2以下が好ましい。正極合材層20の密度も、特に限定されないが、1.0g/cm3以上3.8g/cm3以下であることが好ましく、1.5g/cm3以上3.0g/cm3以下がより好ましく、特に1.8g/cm3以上2.4g/cm3以下とすることが好ましい。
以上の製造方法により、本実施形態にかかる正極1を製造することができる。
【0089】
次に、
図9を参照して、実施例1~5、比較例1~2、及び参考例1~2について説明する。なお、実施例は本開示を限定するものではない。
図9は、実施例、比較例、及び参考例を説明する表である。
【0090】
ここでは、正極集電体としてスリット状の第1貫通孔11が設けられた多孔質集電体10と、当該第1貫通孔11が設けられていない非多孔質集電体と、のそれぞれを用いて、各例につき2種類の正極を製造した。さらに、2種類の正極のそれぞれを用いてラミネート型のハーフセルを作製した。以下、多孔質集電体10を用いて作製されたハーフセルを評価用ハーフセルとし、非多孔質集電体を用いて作製されたハーフセルを基準用ハーフセルとして説明する。
【0091】
実施例1~5、比較例1~2、及び参考例1~2で用いられる各評価用ハーフセルは、正極活物質の種類が異なることを除いで同様の構成である。実施例1~5、比較例1~2、及び参考例1~2で用いられる各基準用ハーフセルは、正極活物質の種類が異なることを除いで同様の構成である。
【0092】
[ハーフセルの作製]
ハーフセルは、以下のように作製した。
まず、正極活物質と導電材としてのCNTとバインダとしてのPVdFとを、96:3:1の質量比で混合し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを添加して混練することによりペーストを作製した。作製したペーストを多孔質集電体10の片面に、一定の厚み・塗工量となるように塗工し、乾燥後、プレスすることにより各種のシート状の正極(空隙率50%)を製造した。
【0093】
そして、正極の正極合材層側とリチウム金属箔(リチウム金属対極)とを対向させるとともにセパレータを介在させた電極体をアルミラミネート製の外装材の内側に収納し、電解液を加えて密封することにより評価用ハーフセルを作製した。また、多孔質集電体10に代えて非多孔質集電体を用いたことを除いて評価用ハーフセルと同様にして、基準用ハーフセルを作製した。
【0094】
ここで、多孔質集電体10には、短辺:0.5mm、長辺:1mm、開口率:10%の第1貫通孔11が設けられた厚さT1:8μmのアルミニウム箔を用いた。非多孔質集電体には、第1貫通孔11が設けられていない厚さ:8μmのアルミニウム箔を用いた。
【0095】
セパレータには、ポリオレフィン多孔フィルムを用いた。また、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いた。
【0096】
また、実施例1~5、比較例1~2、及び参考例1~2において、各正極活物質は、全てLiNi(1-X-Y)CoXMnYO2、0≦X≦0.35、0≦Y≦0.35で表される平均組成を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)を用いた。
【0097】
続いて、実施例1~5、比較例1~2、及び参考例1~2で用いられる各正極活物質について説明する。
【0098】
(実施例1)
実施例1では、平均直径R:5μm(T1/R=0.6)、厚さT2:1μm、孔径D:0.5μm、体積比:0.4の球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を用いた。
【0099】
(実施例2)
実施例2では、平均直径R:5μm(T1/R=0.6)、厚さT2:1μm、孔径D:0.3μm、体積比:0.5の球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を用いた。
【0100】
(実施例3)
実施例3では、平均直径R:6μm(T1/R=0.8)、厚さT2:1μm、孔径D:0.3μm、体積比:0.5の球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を用いた。
【0101】
(実施例4)
実施例4では、平均直径R:10μm(T1/R=1.3)、厚さT2:1μm、孔径D:0.3μm、体積比:0.5の球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を用いた。
【0102】
(実施例5)
実施例5では、平均直径R:12μm(T1/R=1.5)、厚さT2:1μm、孔径D:0.3μm、体積比:0.5の球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40を用いた。
【0103】
(比較例1)
比較例1では、平均直径R:3μm(T1/R=0.4)である略球冠状の活物質粒子(二次粒子)を含む正極活物質を用いた。ここで用いられる略球冠状の二次粒子は、
図4に示すフローで説明した中空活物質粒子130を形成する際の製造条件や球冠状活物質粒子30を形成する際の製造条件を適宜調整することにより得られる。
【0104】
(比較例2)
比較例2では、平均直径R:14μm(T1/R=1.75)である略球冠状の活物質粒子(二次粒子)を含む正極活物質を用いた。ここで用いられる略球冠状の二次粒子は、
図4に示すフローで説明した中空活物質粒子130を形成する際の製造条件や球冠状活物質粒子30を形成する際の製造条件を適宜調整することにより得られる。
【0105】
(参考例1)
参考例1では、平均直径:5μmである中実構造を有する略球形状の活物質粒子(一次粒子)を含む正極活物質を用いた。
【0106】
(参考例2)
参考例2では、平均直径:1μmである中実構造を有する略球形状の活物質粒子(一次粒子)を含む正極活物質を用いた。
【0107】
[評価]
それぞれ9種類の評価用ハーフセル及び基準用ハーフセルについて、充放電を行った際の電池の電圧変化量として大電流放電時の電圧降下量を測定して比較することにより、電池特性を評価した。電圧降下量を測定するにあたっては、各ハーフセルを25℃の環境下において、SOC(State Of Charge)60%の充電状態から100Cの電流値で放電を行った時の放電開始から0.1分間後のそれぞれの電圧降下量を測定した。
【0108】
そして、基準用ハーフセルの電圧降下量を基準として評価用ハーフセルの抵抗減少率(%)を算出した。その結果を
図9の結果欄に示す。また、
図10は、評価用ハーフセルの抵抗減少率(%)を示すグラフである。
図10は、
図9の結果欄に対応するグラフである。
図9及び
図10には、基準用ハーフセルの電圧降下量を100%とした相対値で評価用ハーフセルの抵抗減少率(%)を示している。抵抗減少率(%)の数値が大きいほど電池の内部抵抗が低減されていることを表しており、第1貫通孔11によるリチウムイオンの拡散抵抗の低減効果が高いといえる。
【0109】
図9及び
図10に示す結果から、実施例1~5では、比較例1と比べて抵抗減少率が高く、第1貫通孔11によるリチウムイオンの拡散抵抗の低減効果が高いことが確認された。比較例1では、実施例1~5と比べて小径な活物質粒子を用いているため、正極活物質の反応抵抗は低くなるが、活物質粒子の粒子間における接点は増加する。そのため、活物質粒子の粒子間における接点の増加に伴って第1貫通孔11内における曲路率が増加し、リチウムイオンの拡散抵抗が高くなる。したがって、第1貫通孔11によるリチウムイオンの拡散抵抗の低減効果が十分に得られなかったと考えられる。
【0110】
また、比較例2で用いられる活物質粒子は、製造時のプレスにより粉砕された。そのため、所望の正極を製造することができなかった。したがって、高密度な正極を得ることが難しい。
【0111】
実施例1~5に関して考察すると、第2貫通孔36を通した電解液及び電解液中のリチウムイオンの流通を良好にする観点から、耐久性が確保される限りは、第2貫通孔36の孔径Dは大きいほど好ましい。また、球冠状活物質粒子30内のリチウムイオンの拡散抵抗を低減する観点から、耐久性が確保される限りは、厚さT2は薄いほど好ましい。
【0112】
続いて、参考例1~2を比較すると、参考例1で用いられる活物質粒子は、参考例2に比べて大径であるため、正極活物質の反応抵抗は高くなるが、活物質粒子の粒子間における接点の増加は抑えられる。これにより、活物質粒子の粒子間における接点の増加に伴う第1貫通孔11内における曲路率の増加が抑制されて、リチウムイオンの拡散抵抗が低くなる。したがって、第1貫通孔11によるリチウムイオンの拡散抵抗の低減効果が向上したものと考えられる。
【0113】
参考例2で用いられる活物質粒子は、参考例1に比べて小径であるため、正極活物質の反応抵抗は低くなるが、活物質粒子の粒子間における接点は増加する。これにより、活物質粒子の粒子間における接点の増加に伴って第1貫通孔11内における曲路率が増加し、リチウムイオンの拡散抵抗が高くなる。したがって、第1貫通孔11によるリチウムイオンの拡散抵抗の低減効果が十分に得られなかったと考えられる。
【0114】
しかしながら、多孔質集電体10を用いた場合、参考例1~2では、実施例1~5に比べて放電に伴う電圧降下量が高く、内部抵抗が増加することが確認された。
【0115】
そこで、
図11及び
図12を参照して、略球形状の活物質粒子を含む正極活物質を用いた正極100の問題点について説明する。
図11は、略球形状の活物質粒子を含む正極活物質を用いた正極を示す図である。
図11の斜視図には、正極100の3次元モデルを示している。
図11の断面図には、正極100の断面SEM像を示している。
図12は、
図11に示す正極に含まれる多孔質集電体10に設けられる第1貫通孔の近傍を模式的に示す断面図である。
【0116】
図11及び
図12に示す正極100は、多孔質集電体10と、多孔質集電体10の表面(片面12)上及び第1貫通孔11内に形成され、正極活物質140を含む正極合材層120と、を有する。この正極活物質140は、略球形状の中空活物質粒子130を含んでいる。正極100に多孔質集電体10を適用することにより、第1貫通孔11を通した電解液の浸透を促進し、リチウムイオンの拡散抵抗の低減が図られる。
【0117】
このような正極100では、二次電池の高入出力化及び高エネルギー密度化を実現するために、小径化された中実活物質粒子150が正極合材層120に含有される。多孔質集電体10を用いる場合、第1貫通孔11内には小径化された中実活物質粒子150が充填される。しかしながら、正極活物質140の充填率が一定であるとき、中実活物質粒子150の粒径が小さくなるほど、第1貫通孔11内におけるリチウムイオンの移動経路の曲路率が増加傾向を示す。その結果、リチウムイオンの拡散抵抗が増加するという問題がある。また、小径化された中実活物質粒子150が高密度に充填されると、中実活物物質粒子の粒子間における接点が必要以上に増加して、電気化学反応に寄与し得る反応場が減少する虞があるという問題も生じ得る。
【0118】
これに対し、本実施形態にかかる二次電池用正極は、厚さ方向に貫通する複数の第1貫通孔11が設けられる多孔質集電体10と、多孔質集電体10の表面上及び第1貫通孔11内に形成され、正極活物質40を含む正極合材層20と、を有する。正極活物質40は、リチウム遷移金属酸化物で構成される略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子130の一部が切断面31により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部32と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面33と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面34と、を有する球冠状活物質粒子30を含んでいる。そして、第1貫通孔11内に少なくとも球冠状活物質粒子30が充填されている。
【0119】
このような構成によれば、正極合材層20の剥離強度が向上するだけでなく、二次電池が有する電解液の浸透経路として第1貫通孔11が良好に機能し、正極合材層20内を移動するリチウムイオンの拡散抵抗を低減することができる。その結果、正極1を含む二次電池の保存性、サイクル特性等を向上し、高い入出力特性を実現することができる。
【0120】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、球冠殻部32の厚さT2が0.4μm以上1.5μm以下であることが好ましい。このような構成により、内部抵抗の低減と耐久性とを両立した二次電池を得ることができる。
【0121】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、多孔質集電体10の厚さT1に対する凸曲面33の平均直径Rの比が0.5以上1.5以下であることが好ましい。このような構成により、二次電池が有する電解液の浸透経路として第1貫通孔11が良好に機能し、正極合材層20内を移動するリチウムイオンの拡散抵抗をより一層低減することができる。その結果、正極1を含む二次電池の高い入出力特性を実現することができる。
【0122】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、球冠状活物質粒子30には、球冠殻部32を貫通するとともに0.3μm以上の孔径Dを有する第2の貫通孔が設けられ、球冠殻部32及び第2の貫通孔の合計体積に対する球冠殻部32の体積の比が0.3以上0.7以下であることが好ましい。このような構成により、耐久性を確保しつつ、第2貫通孔36を通した電解液及び電解液中のリチウムイオンの流通が良好となり、正極1を含む二次電池の入出力特性を向上することができる。
【0123】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、第1貫通孔11の短辺の長さが凸曲面33の平均直径Rの2倍以上1mm以下であり、第1貫通孔11の長辺の長さが短辺の長さの2倍以上、10mm以下でであることが好ましい。このような構成により、合材層形成用ペーストの塗工時や、電極の捲回時等の製造時又は使用時に加わり得る応力等によって生じ得る多孔質集電体10の破れを抑制できる。
【0124】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、第1貫通孔11の開口率が面積比で10%以下であることが好ましい。このような構成により、高いサイクル特性と高い入出力特性とを両立した二次電池を得ることができる。
【0125】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、凸曲面33の曲率中心から凸曲面33における切断面31側の先端に向かう方向と、凸曲面33の曲率中心を通る凸曲面33の長軸と、のなす角度が±15°以内であることが好ましい。このような構成により、球冠状活物質粒子30の嵩高さにより、電子伝導性が良好、且つ正極活物質40の反応場が確保された性能のバランスに優れた正極1を得ることができる。
【0126】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、凸曲面33の平均直径Rが4μm以上6μm以下であることが好ましい。このような構成により、高品質な球冠状活物質粒子30を確実に得ることができる。また、第1貫通孔11内に球冠状活物質粒子30をより確実に充填できる。
【0127】
さらに、中空活物質粒子130の外面133の曲率中心を通る短軸の長さL2に対する長軸の長さL1の比が1.0以上1.5未満であることが好ましい。また、中空活物質粒子130の内面134の曲率中心を通る短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.0以上1.8未満であることが好ましい。このように構成される中空活物質粒子130を用いて球冠状活物質粒子30を形成すると、球冠状活物質粒子30の凸曲面33及び凹曲面34がそれぞれ適度に湾曲した形状となって粒子が嵩高くなる。これにより、正極1内に電解液の浸透経路が確保されるとともに、活物質粒子の粒子間における接点の増加に起因する反応場の減少が抑制される。
【0128】
以上より、本実施形態によれば、内部抵抗が低減されるとともにサイクル特性が良好な二次電池が得られる二次電池用正極を提供することができる。
【0129】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極の製造方法によれば、上記の効果を奏する正極1を製造することができる。
【0130】
また、中空活物質粒子130を粉砕して得られた球冠状活物質粒子30を含む正極活物質40の物性について適宜測定を行うことにより、中空活物質粒子130が適切に粉砕されているか確認しながら、粉砕条件を調整することができる。さらに、正極活物質40を含む合材層形成用ペーストの粘度について適宜測定を行うことにより、中空活物質粒子130が適切に粉砕されているか確認しながら、粉砕条件を調整することができる。このような構成によれば、所望の正極活物質40を確実に得ることができ、正極活物質40を用いて製造された正極1の品質が向上する。
【0131】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、ジェットミルを用いて中空活物質粒子130の粉砕を行ったが、これに限らず、他の粉砕方式を用いても良い。他の粉砕方式としては、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル等を用いることができる。
【0132】
また、例えば正極活物質40の物性を確認するにあたっては、正極活物質40の物性との関係性が明らかな他の物質について同じ物性を測定した結果を所定値として用いてもよい。同様に、合材層形成用ペーストの粘度を確認するにあたっては、合材層形成用ペーストの粘度との関係性が明らかな他の物質について粘度を測定した結果を所定値として用いてもよい。
【符号の説明】
【0133】
1、100 正極
10 多孔質集電体
11 第1貫通孔
12 片面
13 他面
20、120 正極合材層
30 球冠状活物質粒子
31 切断面
32 球冠殻部
33 凸曲面
34 凹曲面
35 凹部
36 第2貫通孔
40、140 正極活物質
130 中空活物質粒子
132 球殻部
133 外面
134 内面
135 中空部
150 中実活物質粒子
D 孔径
L1 長軸の長さ
L2 短軸の長さ
O 曲率中心
R 平均直径
T1、T2 厚さ