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特開2023-137528アルミニウム合金箔、構成体及び包装材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137528
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔、構成体及び包装材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230922BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230922BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20230922BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C22C21/00 M
B32B15/08 A
C22F1/04 A
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 676
C22F1/00 682
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043776
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聡太郎
(72)【発明者】
【氏名】村松 賢治
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB02A
4F100AB10A
4F100AB11A
4F100AB17A
4F100AB31A
4F100AK01B
4F100AK42B
4F100AK48B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100GB15
4F100JA20A
4F100JG01
4F100JK05
4F100JK08
4F100JK10
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】耐力及び伸びが高い特性を有するアルミニウム箔を用いることで成形容器とした際に成形深さに優れる特性を有する構成体、及び、包装材料の厚みが薄くても、成形容器としての十分な強度を備える包装材料に用いる成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】0.02質量%以上0.35質量%以下のSi(ケイ素)、1.2質量%以上2.4質量%以下のFe(鉄)、0.6質量%以上1.6質量%以下のCu(銅)、残部がAl(アルミニウム)とその他の微量元素を含むアルミニウム合金箔を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02質量%以上0.35質量%以下のSi(ケイ素)、1.2質量%以上2.4質量%以下のFe(鉄)、0.6質量%以上1.6質量%以下のCu(銅)、残部がAl(アルミニウム)とその他の微量元素を含むアルミニウム合金箔。
【請求項2】
アルミニウム合金箔の表面を観察面としてEBSD(電子線後方散乱回折)法で得られたデータを解析し、ステップサイズ:0.4μm、Nearest Neighbor:1st、Maximum Orientation:5度の条件で測定したKAM(Kernel Average Misorientation)値が0.30度以上、0.70度未満である請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
導電率が50%IACS以上、56%IACS未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項4】
厚みが15~80μmである請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金箔を用いて樹脂層と積層したアルミニウム合金箔構成体。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム合金箔構成体を成形した包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食品や医薬品錠剤、リチウムイオン電池包装用パウチ等の包装材として用いるアルミニウム合金箔構成体、及びこの構成体の素材であり、一定の組成を有するアルミニウム合金から形成されるアルミニウム合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔(以下、「アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔」を単に「アルミニウム箔」と記載することがある。)と樹脂層の構成体を成形した包装材料は、食品の包装材料、医薬品錠剤、特に防湿の要求が高い抗生物質等の医薬品錠剤の包装材料、パウチ内部への水分の侵入を防止する必要性が高いリチウムイオン電池の包装用パウチなどに使用され広く普及している。
【0003】
PTP包装(プレススルーパッケージ)として知られている医薬品錠剤の包装材料の場合、錠剤を完全に覆うことができるだけの寸法で容器を成形する必要があるが、容器の成形を深くすると包装材料のアルミニウム箔に亀裂が発生し、本来の内容物保護や水分の侵入を防止する役目を果たせなくなる場合がある。そこで成形する面積を大きくすることで深い成形にも対応が可能となる。また構成体に使用するアルミニウム箔の厚さを厚くすることで亀裂の発生を防ぐことも可能である。
【0004】
ところが、成形の面積を大きくすると、錠剤の寸法に対して包装材料の寸法が非常に大きくなり、使用する資材の無駄が多く、また保管や運搬においても不必要な容積が必要となってしまう。また錠剤に対して空隙が多い成形容器の場合は、外力により成形箇所が容易に変形してしまい、見た目の印象も悪くなる。また構成体に使用するアルミニウム箔の厚さを厚くすると、同様に構成体に使用する資材の量が多くなり、また重量も増してしまうとともに、錠剤を取り出す際に容器を変形させることが困難となる。
これらの問題を解決するためには、構成体に使用するアルミニウム箔の厚さを変更することなく、小さな面積で深く成形しても亀裂が発生しにくいアルミニウム箔が必要となる。
【0005】
これに対し、以下に述べるように、成形を行った際に亀裂が生じにくいアルミニウム箔が種々考案されている。例えば特許文献1には、アルミニウム合金の特定の組成と平均結晶粒径を有し、成形性に優れたアルミニウム合金箔が開示されている。
また、特許文献2には、アルミニウム合金の特定の組成及び結晶方位を有し、機械的特性の異方性を低減させることで、成形時のシワや割れを防止する成形用アルミニウム合金箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-101559号公報
【特許文献2】特開2021-95605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、医薬品錠剤包装材料やリチウムイオン電池包装用パウチで用いられるアルミニウム箔構成体成形容器では、運搬時、保管時、落下時などに、容器として一定の強度を有する必要がある。
しかし、特許文献1では、アルミニウム箔単体としての機械強度、結晶粒径、アルミニウム箔構成体としての角型絞り試験等の結果には触れられているが、成形容器としての強度に関しては記載がなく、十分とは言えない。
また、特許文献2では、アルミニウム箔単体としての結晶粒径、結晶方位、伸び、成形時のシワや耳率等の結果には触れられているが、アルミニウム合金箔の差による成形深さへの影響は考慮されていない。また、成形性の評価はアルミニウム箔単体で行われており、アルミニウム箔構成体としての成形深さは考慮されていない。
【0008】
そこで、本発明では、耐力及び伸びが高い特性を有するアルミニウム箔を用いることで成形容器とした際に成形深さに優れる特性を有する構成体、及び、包装材料の厚みが薄くても、成形容器としての十分な強度を備える包装材料に用いる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者は種々検討した結果、0.02質量%以上0.35質量%以下のSi(ケイ素)、1.2質量%以上2.4質量%以下のFe(鉄)、0.6質量%以上1.6質量%以下のCu(銅)、残部がAl(アルミニウム)とその他の微量元素を含むアルミニウム合金箔を用いることにより、耐力及び伸びが高く、成形容器とした際に成形深さに優れる特性を有し、かつ、包装材料の厚みが薄くても、成形容器としての十分な強度を備えることを見出した。
すなわち、本発明は以下の特徴を備える。
【0010】
[1]0.02質量%以上0.35質量%以下のSi(ケイ素)、1.2質量%以上2.4質量%以下のFe(鉄)、0.6質量%以上1.6質量%以下のCu(銅)、残部がAl(アルミニウム)とその他の微量元素を含むアルミニウム合金箔。
[2]アルミニウム合金箔の表面を観察面としてEBSD(電子線後方散乱回折)法で得られたデータを解析し、ステップサイズ:0.4μm、Nearest Neighbor:1st、Maximum Orientation:5度の条件で測定したKAM(Kernel Average Misorientation)値が0.30度以上、0.70度未満である[1]に記載のアルミニウム合金箔。
[3]導電率が50%IACS以上、56%IACS未満であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアルミニウム合金箔。
[4]厚みが15~80μmである[1]~[3]のいずれか一項に記載のアルミニウム合金箔。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のアルミニウム合金箔を用いて樹脂層と積層したアルミニウム合金箔構成体。
[6][5]に記載のアルミニウム合金箔構成体を成形した包装材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるアルミニウム合金箔は、耐力及び伸びが高く、成形容器とした際に成形深さに優れる特性を有し、かつ、包装材料の厚みが薄くても、成形容器としての十分な強度を備えることができる。
そして、包装材料が成形容器の場合のみならず、例えばレトルト食品やフリーズドライ食品の包装のように成形しない容器であって内容物の一部又は全部が固形の場合でも構成体の強度が向上するので、当該容器のアルミニウム箔の亀裂発生防止の効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明に係るアルミニウム合金箔は、所定量のSi(ケイ素)、Fe(鉄)、Cu(銅)を含み、残部はAl(アルミニウム)と不可避不純物等のその他の微量元素を含む箔である。
【0013】
[Si]
本発明のアルミニウム合金箔は、Siを0.02質量%以上0.35質量%以下含む。
このSiは、Feの晶析出を促進させる効果がある。Siが0.35質量%を超えるとAl-Fe-Siの粗大な金属間化合物が生成し伸びの低下や表面欠陥など特性に悪影響を及ぼす。また、0.02質量%未満であると、高純度のアルミニウム地金を使用する必要があり、経済性の面で好ましくない。0.03質量%以上0.25質量%以下の範囲であると経済性、圧延性の点でより好ましく、また同様の理由で0.04質量%以上0.2質量%以下であるとさらに好ましい。
【0014】
[Fe]
本発明のアルミニウム合金箔は、Feを1.2質量%以上2.4質量%以下含む。
このFeは、適量の添加によってアルミニウム合金の強度及び伸びを向上させることが知られている。Feが1.2質量%未満だとアルミニウム箔の強度や伸びが不足し、また2.4質量%を超えると伸びが低下し成形性が低下する。1.2質量%以上1.8質量%以下の範囲であると鋳造が容易となる点でより好ましい。
【0015】
[Cu]
本発明のアルミニウム合金箔はCuを0.6質量%以上1.6質量%以下含む。
このCuは、適量の添加によってアルミニウム合金にCuが固溶し強度を向上させることが知られている。一方で、多量に添加することで圧延において加工硬化が進み薄箔への圧延性が低下するため、これまでCuを多く添加したアルミニウム合金箔の組成は開示された例がほとんど無い。本発明では適量のCuを添加しさらに適切な残存歪を残すことで、圧延性を考慮した上で優れた包装材の成形性と強度が得られることを見出した。Cuが0.6質量%未満だと所望の機械強度が得られないために成形後の強度が得られず、また1.6質量%を超えると伸びが低下し成形性が低下する。0.6質量%以上1.2質量%以下の範囲であると圧延性の点でより好ましく、また0.6質量%超え1.0質量%以下の範囲であると同様の理由により、さらに好ましい。
【0016】
[その他の微量元素]
本発明のアルミニウム合金箔は、その他の微量元素として、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Zn(亜鉛)、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)、等の元素をそれぞれ0.05質量%以下含有する。
これら各元素の含有量は、アルミニウム合金箔中に、それぞれ0.03質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
アルミニウム合金箔の上記組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法によって測定するものとする。測定装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製iCAP6500DUO、もしくは(株)島津製作所製ICPS-8100などが挙げられる。
【0018】
[アルミニウム合金箔の特性]
[KAM値]
本発明におけるKAM値とは、アルミニウム合金箔表面を観察面として、EBSD(電子線後方散乱回折)法により、指定のステップサイズで照射された電子線スポットについて、隣接するスポット間の結晶方位差をすべて測定し、一定の方位差未満の測定値を抽出し、測定視野においてその平均値を求めたものに相当する。このKAM値は高いほど結晶粒内における加工歪による方位変化が大きいと推測される。
【0019】
本発明では、KAM値を適正な範囲に制御することで、優れた伸びが得られることを見出した。このKAM値は、ステップサイズ:0.4μm、Nearest Neighbor:1st、Maximum Orientation:5度の条件で測定したとき、0.30度以上、0.70度未満がよい。KAM値が0.30度未満の状態は、熱処理による再結晶が進み結晶粒が粗大化している状態であるので、十分な強度、伸びが得られない傾向がある。一方でKAM値が0.70度以上の状態は、圧延において蓄積した加工歪が回復していない状態であるので、十分な伸び得られない傾向がある。
KAM値のより好ましい範囲は0.35度以上、0.68度以下である。上記範囲内であると、より強度、伸びに優れたアルミニウム合金箔を製造できる。
【0020】
[導電率]
アルミニウムに異種元素を添加することで、アルミニウム合金の導電率が変化することが知られており、一般に異種元素の添加量を増やすことで導電率は低下する。導電率が高いアルミニウム合金については異種元素の添加量が不足しており、所望の機械特性や包装材料としての強度が得られないと推定できる。本発明では導電率を適正な範囲に制御することで、優れた包装材の強度が得られることを見出した。
この導電率は50%IACS以上、56%IACS未満が良い。導電率が50%IACS未満であると、異種元素の添加量が過多であり粗大な金属間化合物を生成し圧延性が劣ると考えられる。また導電率が56%IACS以上であると異種元素の添加量が不足しており、包装体としての強度が得られない。
導電率のより好ましい範囲は51%IACS以上、56%IACS未満である。
【0021】
[アルミニウム合金箔厚さ]
本発明にかかるアルミニウム合金箔は厚さ15μm~80μmであることが望ましい。15μm未満だとアルミニウム成形時に亀裂が容易に発生してしまい、また80μmを超えると成形したアルミニウム合金箔構成体の成形容器から医薬品錠剤を容易に取り出すことができない。
【0022】
(アルミニウム合金箔構成体)
本発明にかかるアルミニウム合金箔は、その片面又は両面に樹脂層を貼り合わせる等により積層して、アルミニウム合金箔構成体を得ることができ、このアルミニウム合金箔構成体を成形することにより、成形体を製造することができる。
【0023】
前記樹脂層は、特に制限されるものではなく、公知のものを使用できる。例えば、フィルム、シート等を挙げることができる。この樹脂層の製造方法としては、インフレーション成形、押出成形、キャスト成形等の公知の成形方法を挙げることができ、また、これらの方法で得られた樹脂層や本発明にかかるアルミニウム合金箔の表面に樹脂層を構成する樹脂をコーティングする等の方法により層を形成してもよい。
各樹脂層は、単一の樹脂又は複数の樹脂混合物からなる単一層で構成されてもよく、単一の樹脂又は複数の樹脂混合物からなる層を複数積層した積層体であってもよい。
【0024】
前記アルミニウム合金箔構成体の樹脂層を構成する樹脂としては、次の樹脂を用いることができる。まず、このアルミニウム合金箔構成体を後述する方法で成形した際、得られる成形体の外表面側に配される面を構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやナイロン等を挙げることができる。一方、このアルミニウム合金箔構成体を後述する方法で成形した際、得られる成形体の内表面側に配される面を構成する樹脂としては、成形体の鍔部等の平面部と他の成形体の鍔部等の平面部との接合・シール等や、成形体の鍔部等の平面部と樹脂フィルムや他の未成形のアルミニウム合金箔構成体等のシートとの接合・シール等を目的として、ポリプロピレンや塩化ビニル等を用いることができる。
【0025】
前記アルミニウム合金箔と樹脂フィルムを積層する方法としては、特に制限されるものではなく、接着剤により貼り合わせる方法、ドライラミネート法、ヒートラミネート法、ロールコーティング、グラビア印刷による塗布などの公知の方法を採用することができる。接着剤を用いる場合、その接着剤としては、公知の2液混合のポリエステル系接着剤等を使用できる、
【0026】
[成形体]
本発明にかかるアルミニウム合金箔構成体は、公知の成形方法により成形して成形体を製造することができる。例えば、公知の金型によるプレス成型などが使用できる。
得られた成形体は、包装材料として使用することができる。
この包装材料の例としては、医薬用錠剤の包装材料、リチウムイオン電池の包装用パウチ等が挙げられる。
【0027】
[製造方法]
次に、本発明にかかるアルミニウム合金箔の製造方法について説明する。
本発明にかかるアルミニウム合金箔の製造方法は、前記組成範囲になるようにアルミニウム母合金を調製し、加熱してアルミニウム合金溶湯を作製する工程、前記アルミニウム合金溶湯を鋳造して鋳塊を作製する工程、前記鋳塊を圧延して箔にする工程、及び最終焼鈍(FA)をする工程を含む構成とした製造方法である。
【0028】
より具体的には、まず、上記組成範囲になるようにアルミニウム地金、各種添加金属元素、またはそれらを含んだアルミニウム母合金を調製し、680~1000℃で加熱しアルミニウム合金溶湯とする。次に、その溶湯を鋳造し、鋳塊を作製する。この鋳造方法は公知の方法で可能で、スラブを鋳造するDC鋳造(Direct Chill Casting)、直接アルミニウム板のコイルを鋳造するCC鋳造(Continuous Casting)などが挙げられる。
得られた鋳塊は圧延により所定厚みのアルミニウム箔に冷間圧延を行い、最後に最終焼鈍(FA)することでアルミニウム箔となる。
【0029】
[冷間圧延]
得られた鋳塊又は鋳造板は、冷間圧延により所定厚みの冷間圧延箔にする。また、この冷間圧延の前に均質化処理及び熱間圧延を必要に応じて行ってもよく、冷間圧延工程の途中で中間焼鈍(IA)を必要に応じて行ってもよい。
【0030】
[均質化熱処理、熱間圧延]
本発明にかかるアルミニウム合金箔の製造方法において、均質化熱処理工程及び熱間圧延は、あっても無くてもよいが、鋳造組織に偏析が考えられる場合、アルミニウム合金箔の特性に影響が出ない範囲、具体的には450℃以上600℃以下で行っても良い。なお、均質化熱処理や熱間圧延の温度が600℃より高いと金属間化合物が粗大化し、アルミニウム合金箔の強度、伸び、結晶粒組織に悪影響を及ぼす。均質化熱処理工程の熱処理時間は生産効率上20時間以下が望ましい。
【0031】
[中間焼鈍(IA)]
本発明にかかるアルミニウム合金箔の製造方法において、中間焼鈍(IA)工程はあっても無くてもよいが、圧延性の改善の目的で、アルミニウム合金箔の特性に影響が出ない範囲、すなわち、500℃以下で行っても良い。なお、中間焼鈍温度が500℃より高いと金属間化合物が粗大化し、アルミニウム合金箔の強度、伸び、結晶粒組織に悪影響を及ぼす。熱処理時間は生産効率上20時間以下が望ましい。
【0032】
[最終焼鈍(FA)]
本発明にかかるアルミニウム合金箔の製造方法においては、圧延で付着した圧延油の除去及び調質のために最終焼鈍(FA)工程を必要に応じて行う。最終焼鈍工程は、例えば、空気雰囲気または不活性ガス雰囲気中で、180~350℃程度で行われる。
【実施例0033】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明の内容を一層明確にする。まず、この実施例で用いた試験方法を下記に示す。
【0034】
(試験方法)
[機械的特性]
引張方向が圧延方向と平行になるように15mm幅×200mm長さの短冊状試験片を切り出し、引張試験機は(株)東洋精機製作所製のストログラフVES5Dを用い、引張速度10mm/minで、チャック間距離100mmを標点距離として試験を実施し、耐力(0.2%耐力)、伸びの数値を得た。試験は3回実施し、その平均値を算出した。
【0035】
[エリクセン試験]
得られたアルミニウム合金箔を、片面にポリエステル系接着剤を塗布し、厚さ25μmのナイロンフィルムと貼りあわせた。次に、アルミニウム合金箔の反対面にポリエステル系接着剤を塗布し、厚さ60μmのCPP(無延伸ポリプロピレン)フィルムと貼り合わせ、アルミニウム箔構成体を得た。アルミニウム箔構成体を60℃にて96時間保持し接着剤を硬化させ、エリクセン試験用の構成体を得た。
エリクセン試験用の構成体を、CPP面がポンチに触れる方向で、エリクセン試験を実施した。試験機は(株)安田精機製作所製516-Mを用い、ポンチ先端は直径20mmの半球状、試験速度は15mm/minとして試験を実施し、アルミニウム箔に亀裂が発生したときの成型深さの数値を得た。試験は6回実施し、その平均値を算出した。
【0036】
[圧縮試験]
上記エリクセン試験において、成型深さ8mmでエリクセン試験を中断し、ドーム状に成型したアルミニウム合金箔構成体を得た。このドーム状の構成体のアルミニウム合金箔に亀裂が発生していないことを確認した上で、並行に配置した平板2枚で挟み圧縮強度を測定した。圧縮試験は(株)東洋精機製作所製のストログラフVES5Dを用い、圧縮速度20mm/minで、ドーム状の高さ8mmが4mmになるまでの強度を測定し、その最大値を圧縮強度とした。試験は3回実施し、その平均値を算出した。
【0037】
[KAM値]
アルミニウム合金箔の表面を電解研磨して酸化被膜を除去するとともに平滑にして、EBSD(電子線後方散乱回折)測定を実施した。EBSD測定には電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM7200F)、EBSD検出器(EDAX製Velocity)を用い、倍率500倍で0.2mm四方の範囲をステップサイズ0.4μmピッチで測定し、解析ソフトウェアOIM Analysis 8(EDAX製)によりNearest Neighbor = 1st、Maximum Misorientation=5度、で算出した。
【0038】
[導電率]
アルミニウム合金箔を圧延方向と長さ方向が平行になるように15mm幅×200mm長さの短冊状試験片を切り出し、室温にて前記試験片の幅方向中央部、長さ方向115mmの間隔にプローブを当て、4端子法にて電気抵抗値を測定し、換算した導電率を算出した。
【0039】
(実施例1~12、比較例1~8)
表1に示す各化学成分からなるアルミニウム合金を溶解し、スラブを得た。スラブの表面を面削後に560℃で均質化熱処理を実施し、圧延を行った。圧延の途中工程で板厚さ0.65mmにおいて450℃で中間焼鈍を実施し、その後、厚さ45μmまで冷間圧延を実施し、200℃で最終焼鈍を実施してアルミニウム合金箔を得た。
得られたアルミニウム合金箔を用いて、前記の各測定を行った。その結果を表2に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
(結果)
実施例1~12及び比較例7、8は、耐力が135N/mm以上、伸びが10.0%以上と、良好な結果が得られた。一方、比較例1~3は、耐力が135N/mmに満たず、また、比較例4~6は伸びが10.0%に満たなかった。
次に、実施例1~12及び比較例1~4は、エリクセン試験の数値が10.0mm以上と良好な結果が得られた。一方、比較例5~8はエリクセン試験の数値が10.0mmに満たなかった。
また、実施例1~12及び比較例5は、圧縮強度が20.0N以上と良好な結果が得られた。一方、比較例1~4及び6~8は圧縮強度が20.0Nに満たなかった。
さらに、実施例1~12、比較例1~3及び6~8は、KAM値が0.30度以上0.70度未満と良好な結果が得られた。一方、比較例4、5はKAM値が0.70度以上であった。
さらにまた、実施例1~12、比較例2及び5~8は、導電率が50%IACS以上、56%IACS未満と良好な結果が得られた。一方、比較例1、3、4は導電率が56%IACS以上であった。