(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137550
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20230922BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20230922BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20230922BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16F1/38 U
F16F7/08
F16F15/08 K
F16F1/387 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043804
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】平野 正明
(72)【発明者】
【氏名】久米 廷志
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048CB01
3J048EA15
3J059AA09
3J059BA42
3J059BC06
3J059DA33
3J059GA02
3J066AA07
3J066AA26
3J066BA01
3J066BD05
3J066CB06
(57)【要約】
【課題】入力が小さい場合の高動ばね特性と、入力が大きい場合の低動ばね特性とを、要求特性に応じて精度よく実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20で連結されており、アウタ筒部材18が取付筒部50に対して軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられる筒形防振装置10であって、アウタ筒部材18が周方向に分断されて径方向で変形又は変位可能とされており、本体ゴム弾性体20の軸方向両側には一対の締込部材14,14が配されており、本体ゴム弾性体20がアウタ筒部材18の内周面に固着されていると共に、軸方向の両側部分において締込部材14が押し付けられる調節弾性体38が本体ゴム弾性体20と一体形成されており、締込部材14の調節弾性体38への押付力に応じて、アウタ筒部材18と取付筒部50との間の軸方向の摺動抵抗が設定可能とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、
該アウタ筒部材が取付筒部に対して軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられる筒形防振装置であって、
前記アウタ筒部材が周方向の少なくとも一部において分断されて径方向で変形又は変位可能とされており、
前記本体ゴム弾性体の軸方向両側には一対の締込部材が配されており、
該本体ゴム弾性体が該アウタ筒部材の内周面に固着されていると共に、軸方向の両側部分において該一対の締込部材が押し付けられる調節弾性体が該本体ゴム弾性体と一体形成されており、
該一対の締込部材の該調節弾性体への押付力に応じて、該アウタ筒部材の外周面と前記取付筒部の内周面との間の軸方向の摺動抵抗が設定可能とされている筒形防振装置。
【請求項2】
前記締込部材が前記アウタ筒部材と軸方向で対向しており、
該アウタ筒部材における各該締込部材との軸方向対向面に前記調節弾性体が配されて、
該アウタ筒部材の内周において前記本体ゴム弾性体と該調節弾性体が連結ゴムによって一体的につながって一体成形されている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記アウタ筒部材が内周へ向けて開口する溝形断面とされて、該アウタ筒部材が軸方向に延びる周壁部と該周壁部の軸方向両端部から内周へ向けて突出する一対の受部とを備えており、
該一対の受部の軸方向外面にそれぞれ前記調節弾性体が固着されており、
該周壁部と該一対の受部とで囲まれた該アウタ筒部材の内側が前記本体ゴム弾性体によって充填されている請求項2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記締込部材が環板状とされており、
該締込部材の内周部分には前記インナ軸部材に対して軸方向で位置決めされる位置決め部を有している請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記インナ軸部材は、前記一対の締込部材の軸方向の対向面間に配されて、該一対の締込部材の軸方向対向面間の距離を規定する規定部材を備えており、
該一対の締込部材における該規定部材に対する当接部分が前記位置決め部とされている請求項4に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
前記締込部材の前記位置決め部が前記インナ軸部材に対して軸方向外側から当接するインナ当接部によって構成されており、
該締込部材の外周部分には前記調節弾性体に軸方向外側から当接する弾性体当接部が設けられており、
該締込部材における該インナ当接部の該インナ軸部材への当接面と該弾性体当接部の該調節弾性体への当接面との軸方向での位置が相互に異ならされている請求項4又は5に記載の筒形防振装置。
【請求項7】
防振連結対象部材に固定的に装着されて前記取付筒部を構成する筒状体を有しており、該筒状体に対して前記アウタ筒部材が軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられていると共に、
該筒状体に対する該アウタ筒部材の軸方向への摺動による移動量を制限する抜止部が設けられている請求項1~6の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンション機構等に用いられる筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のサスペンション機構等に用いられる筒形防振装置が知られている。筒形防振装置は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有している。筒形防振装置は、例えば、実開昭63-051943号公報(特許文献1)に記載されたブッシュなどがある。そして、インナ軸部材とアウタ筒部材が防振連結対象部材の各一方に取り付けられることにより、それら防振連結対象部材を防振連結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒形防振装置は、例えばサスペンション機構に用いられる場合に、入力初期において軸方向のばね定数を大きくすることで走行安定性の向上が図られるが、軸方向のばね定数が大きいと、振動状態が悪化して乗り心地が悪くなってしまう。従って、サスペンション機構に用いられる筒形防振装置における軸方向のばね定数は、入力初期に速やかに大きくなって良好な走行安定性を実現しつつ、入力が乗り心地に影響する領域まで大きくなった大入力状態では、小さく抑えられることが望ましい。
【0005】
そこで、特許文献1では、アウタ筒部材が取付筒部(シリンダ)に挿入状態で取り付けられており、所定以上の軸方向荷重の入力に際してアウタ筒部材が取付筒部に対して軸方向に摺動するようになっている。これにより、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動しない小入力状態では、軸方向のばね定数が速やかに大きくなると共に、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動する大入力状態では、軸方向のばね定数の増大が抑えられて、低動ばね特性による良好な乗り心地を提供することが期待できる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、アウタ筒部材が取付筒部に対して滑り出す荷重閾値の設定が難しく、走行性能と乗り心地性能とを精度よく両立させることが難しかった。また、筒形防振装置のばね特性を製造後に調節することは困難であり、1つの筒形防振装置によって異なる要求ばね特性に対応することは難しかった。
【0007】
本発明の解決課題は、入力が小さい場合の高動ばね特性と、入力が大きい場合の低動ばね特性とを、要求特性に応じてそれぞれ精度よく実現し、目的とするばね特性を得ることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、該アウタ筒部材が取付筒部に対して軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられる筒形防振装置であって、前記アウタ筒部材が周方向の少なくとも一部において分断されて径方向で変形又は変位可能とされており、前記本体ゴム弾性体の軸方向両側には一対の締込部材が配されており、前記本体ゴム弾性体が該アウタ筒部材の内周面に固着されていると共に、軸方向の両側部分において前記一対の締込部材が押し付けられる調節弾性体が該本体ゴム弾性体と一体形成されており、該一対の締込部材の該調節弾性体への押付力に応じて、該アウタ筒部材の外周面と前記取付筒部の内周面との間の軸方向の摺動抵抗が設定可能とされているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、締込部材の当接による調節弾性体の圧縮変形量が大きいほど筒形防振装置の軸方向でのばねが硬くなることから、締込部材による調節弾性体の圧縮変形量を適宜に設定することによって、筒形防振装置のばね特性をチューニングすることができる。
【0011】
また、アウタ筒部材が取付筒部に対して軸方向の摺動を許容されていることにより、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動しない軸方向の小入力に対する高動ばね特性と、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動する軸方向の大入力に対する低動ばね特性とを、それぞれ発揮される。
【0012】
アウタ筒部材と取付筒部の間に作用する摺動抵抗が、一対の締込部材の軸方向での対向面間距離を調節して、締込部材の当接による調節弾性体の圧縮変形量を調節することによって設定可能とされている。それ故、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動しない場合に発揮される高動ばね特性と、アウタ筒部材が取付筒部に対して摺動する場合に発揮される低動ばね特性とを切り替える閾値を、簡単に且つ高精度に設定することができる。
【0013】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記締込部材が前記アウタ筒部材と軸方向で対向しており、該アウタ筒部材における各該締込部材との軸方向対向面に前記調節弾性体が配されて、該アウタ筒部材の内周において前記本体ゴム弾性体と該調節弾性体が連結ゴムによって一体的につながって一体成形されているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、調節弾性体がアウタ筒部材における締込部材との軸方向対向面に設けられていることから、調節弾性体がアウタ筒部材と締込部材との対向面間で挟み込まれることによって効率的に圧縮変形される。
【0015】
また、調節弾性体がアウタ筒部材の内周において連結ゴムを介して本体ゴム弾性体と一体的につながっていることにより、調節弾性体が軸方向の圧縮変形に伴う径方向の膨出変形を生じる際に、調節弾性体の変形が連結ゴムを介して本体ゴム弾性体に伝達される。それ故、締込部材の押し当てによって調節弾性体が圧縮変形する際に、本体ゴム弾性体がアウタ筒部材を外周側へ押し出すように変形して、アウタ筒部材が取付筒部に押し付けられることから、アウタ筒部材の取付筒部に対する摺動抵抗を調節弾性体の圧縮変形量によって設定することができる。
【0016】
第三の態様は、第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材が内周へ向けて開口する溝形断面とされて、該アウタ筒部材が軸方向に延びる周壁部と該周壁部の軸方向両端部から内周へ向けて突出する一対の受部とを備えており、該一対の受部の軸方向外面にそれぞれ前記調節弾性体が固着されており、該周壁部と該一対の受部とで囲まれた該アウタ筒部材の内側が前記本体ゴム弾性体によって充填されているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、溝形断面とされたアウタ筒部材の内側に本体ゴム弾性体が充填状態で配されていることから、アウタ筒部材の内周側において本体ゴム弾性体のゴムボリュームを大きく確保して、調節弾性体から本体ゴム弾性体へ伝達されてアウタ筒部材に及ぼされる外周側へ向けた力を、効率的に得ることができる。
【0018】
アウタ筒部材が溝形断面とされていることにより、側壁を構成する一対の受部によってアウタ筒部材における締込部材との軸方向対向面を大きく確保して、調節弾性体のアウタ筒部材に対する固着強度の向上を図り得ると共に、調節弾性体の形状や大きさを大きな自由度で設定することができる。
【0019】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記締込部材が環板状とされており、該締込部材の内周部分には前記インナ軸部材に対して軸方向で位置決めされる位置決め部を有しているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、締込部材の押し当てによる調節弾性体の圧縮変形量が、位置決め部による締込部材のインナ軸部材に対する軸方向での位置決めによって精度よく設定される。
【0021】
第五の態様は、第四の態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ軸部材は、前記一対の締込部材の軸方向の対向面間に配されて、該一対の締込部材の軸方向対向面間の距離を規定する規定部材を備えており、該一対の締込部材における該規定部材に対する当接部分が前記位置決め部とされているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、規定部材の軸方向の長さによって一対の締込部材の軸方向対向面間の距離を規定することにより、締込部材による調節弾性体の圧縮変形量を精度良く設定することができる。
【0023】
第六の態様は、第四又は第五の態様に記載された筒形防振装置において、前記締込部材の前記位置決め部が前記インナ軸部材に対して軸方向外側から当接するインナ当接部によって構成されており、該締込部材の外周部分には前記調節弾性体に軸方向外側から当接する弾性体当接部が設けられており、該締込部材における該インナ当接部の該インナ軸部材への当接面と該弾性体当接部の該調節弾性体への当接面との軸方向での位置が相互に異ならされているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、締込部材におけるインナ当接部のインナ軸部材への当接面と弾性体当接部の調節弾性体への当接面とを、軸方向において相互に異なる位置に設けることによって、締込部材の当接による調節弾性体の圧縮変形量を調節設定することもできる。
【0025】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、防振連結対象部材に固定的に装着されて前記取付筒部を構成する筒状体を有しており、該筒状体に対して前記アウタ筒部材が軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられていると共に、該筒状体に対する該アウタ筒部材の軸方向への摺動による移動量を制限する抜止部が設けられているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材の筒状体に対する摺動を許容しながら、アウタ筒部材の筒状体からの抜けを抜止部によって防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、入力が小さい場合の高動ばね特性と、入力が大きい場合の低動ばね特性とを、要求特性に応じてそれぞれ精度よく実現し、目的とするばね特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一実施形態としてのブッシュを示す断面図
【
図2】
図1に示すブッシュを構成する一体加硫成形品の斜視図
【
図4】
図1に示す一体加硫成形品の断面図であって、
図5のIV-IV断面に相当する図
【
図6】
図1に示すブッシュの荷重-たわみ特性を示すグラフ
【
図7】本発明の第二実施形態としてのブッシュを示す断面図
【
図8】本発明の別の一実施形態としてのブッシュを構成する一体加硫成形品の斜視図
【
図10】本発明の別の一実施形態としてのブッシュの一部を示す断面図
【
図11】本発明の別の一実施形態としてのブッシュの一部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の第一実施形態として、自動車用のブッシュ10が車両への装着状態で示されている。ブッシュ10は、ブッシュ本体12に一対の締込部材14,14が取り付けられた構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の紙面直交方向(後述する
図3の左右方向)を、前後方向とは軸方向である
図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0031】
ブッシュ本体12は、インナ軸部材16とアウタ筒部材18が、本体ゴム弾性体20によって弾性連結された構造を有している。本実施形態において、ブッシュ本体12は、軸方向に対して直交する平面に関する面対称形状とされている。また、ブッシュ本体12は、中心軸に関する180°の回転対称形状とされている。
【0032】
本実施形態のインナ軸部材16は、全体として略円筒形状とされており、本体ゴム弾性体20の内周面に固着された固着部材22と、固着部材22の内周側に配される規定部材としての内筒部材24とによって構成されている。固着部材22は、
図2~
図5に示すように、略円筒形状とされており、内周面の軸方向両端部分が軸方向外側へ向けて大径となっている。内筒部材24は、
図1に示すように、固着部材22よりも小径の略円筒形状とされており、固着部材22よりも径方向で厚肉とされていると共に、固着部材22よりも軸方向寸法が大きくされている。固着部材22と内筒部材24は、何れも金属製とされており、内筒部材24が固着部材22に圧入状態で挿通されている。
【0033】
アウタ筒部材18は、全体として略円筒形状とされており、
図2~
図5に示すように、径方向に対向して配された一対のアウタ構成金具26,26によって構成されている。アウタ構成金具26は、内周へ向けて開口するU字状の溝形断面を有しており、半周に満たない長さで周方向に延びている。より具体的には、アウタ構成金具26は、筒状の周壁部としての底壁28と、底壁28の軸方向両端において内周へ向けて突出する受部としての一対の側壁30,30とを、備えている。一対のアウタ構成金具26,26は、インナ軸部材16を径方向に挟んで配されており、アウタ筒部材18がインナ軸部材16に対して外挿状態で配されている。一対のアウタ構成金具26,26は、周方向端部が周方向で相互に離れており、アウタ筒部材18が周方向の2箇所において分断されている。アウタ筒部材18は、軸方向に対して直交する平面に関する面対称形状とされている。また、アウタ筒部材18は、中心軸に関する180°の回転対称形状とされている。
【0034】
本体ゴム弾性体20は、全体として環状とされており、
図5に示すように、内周部分32が外周部分34よりも軸方向で薄肉とされている。本体ゴム弾性体20の内周部分32は、軸方向の幅寸法が、アウタ筒部材18における一対の側壁30,30の対向面間の距離よりも小さくされている。
【0035】
本体ゴム弾性体20は、幅広とされた外周部分34が溝状断面を有するアウタ筒部材18の内面に固着されており、底壁28と側壁30,30で囲まれたアウタ筒部材18の溝内側が本体ゴム弾性体20の外周部分34によって充填されている。本体ゴム弾性体20は、アウタ筒部材18の内周面に固着されている。本体ゴム弾性体20の内周部分32は、アウタ筒部材18よりも内周へ突出しており、内周面がインナ軸部材16を構成する固着部材22に固着されている。本実施形態の本体ゴム弾性体20は、固着部材22及びアウタ筒部材18を備える一体加硫成形品35として形成されている。
【0036】
本体ゴム弾性体20は、
図3,
図4に示すように、アウタ構成金具26,26の周方向間において外周へ向けて開放された切欠き36,36を備えている。切欠き36の内面は、内周面である底部がV字状断面で軸方向に延びていると共に、周方向の両側面が、周方向で相互に離隔してそれぞれ左右方向に延びており、互いに略平行に広がっている。本体ゴム弾性体20は、
図4に示すように、切欠き36の形成部分において、内周部分32の内周端部だけが周方向に連続している。
【0037】
アウタ筒部材18を構成するアウタ構成金具26の側壁30には、
図5に示すように、調節弾性体38が固着されている。調節弾性体38は、ゴム弾性体で形成されており、側壁30の軸方向外面に固着されて、側壁30の軸方向外面を略全体に亘って覆っている。調節弾性体38は、側壁30の内周面を覆う連結ゴム40によって本体ゴム弾性体20と連続しており、連結ゴム40を介して本体ゴム弾性体20と一体形成されている。本体ゴム弾性体20と一体形成された調節弾性体38は、本体ゴム弾性体20の軸方向の両側部分に設けられている。調節弾性体38は、一対の側壁30,30にそれぞれ固着されている。
【0038】
本実施形態では、アウタ筒部材18が溝形断面を有しており、略軸直角方向に広がる側壁30の軸方向外面に調節弾性体38が固着されていることから、調節弾性体38のアウタ筒部材18に対する固着面積を大きく確保することができて、固着強度の向上が図られている。更に、調節弾性体38の大きさや形状を大きな自由度で設定することも可能とされている。
【0039】
図1に示すように、ブッシュ本体12の軸方向両側には、一対の締込部材14,14が配されている。締込部材14は、円環板状の部材であって、本実施形態では全体が略一定の厚さ寸法とされている。締込部材14は、内周端部が内筒部材24に対して軸方向に重ね合わされる位置決め部としての位置決め部42とされていると共に、外周端部が調節弾性体38に対して軸方向で押し当てられる弾性体当接部44とされている。本実施形態では、締込部材14の位置決め部42と弾性体当接部44とが略同一平面上で軸直角方向に広がっている。締込部材14は、内径寸法が内筒部材24の内径寸法と略同じとされていると共に、外径寸法がアウタ筒部材18の側壁30の内径寸法よりも大きく且つアウタ筒部材18の底壁28の外径寸法よりも小さくされている。本実施形態の締込部材14の外径寸法は、アウタ筒部材18の底壁28の内径寸法と略同じとされている。
【0040】
一対の締込部材14,14は、内周端部の位置決め部42がインナ軸部材16の内筒部材24に対して軸方向両側から重ね合わされている。内筒部材24に重ね合わされた締込部材14,14は、インナ軸部材16に挿通されたボルト部材46と、ボルト部材46に螺着されたナット48とによって位置決め部42,42が軸方向の内側へ締め込まれており、位置決め部42,42が規定部材である内筒部材24に軸方向両側から押し当てられている。これにより、締込部材14,14は、インナ軸部材16に固定されて、インナ軸部材16から外周へ向けて突出するように設けられている。そして、締込部材14,14が位置決め部42,42の内筒部材24への当接によってインナ軸部材16に対して軸方向で位置決めされており、締込部材14,14の軸方向対向面間の距離が内筒部材24の軸方向長さ寸法によって規定されている。締込部材14,14の弾性体当接部44,44は、本体ゴム弾性体20の軸方向両側に配されて、アウタ筒部材18の側壁30,30と軸方向で対向して配されている。アウタ筒部材18の側壁30,30における弾性体当接部44,44との軸方向対向面には、本体ゴム弾性体20と一体形成された調節弾性体38が配されている。
【0041】
ボルト部材46は、一方の防振連結対象部材の一部を構成する、或いは、一方の防振連結対象部材に取り付けられている。そして、ブッシュ本体12及び一対の締込部材14,14がボルト部材46の一方の端部に取り付けられることにより、ブッシュ10が一方の防振連結対象部材に取り付けられている。なお、一方の防振連結対象部材としては、車両ボデーやサブフレーム(サスペンションメンバ)等が例示される。
【0042】
ブッシュ本体12のアウタ筒部材18には、取付筒部を構成する筒状体としてのアウタスリーブ50が取り付けられている。アウタスリーブ50は、略円筒形状とされており、アウタ筒部材18の底壁28,28に対して外挿状態で取り付けられている。アウタスリーブ50の軸方向長さ寸法は、アウタ筒部材18よりも大きくされており、本実施形態ではブッシュ本体12の軸方向両外側に配された一対の締込部材14,14の軸方向外面間の距離よりも大きくされている。
【0043】
アウタスリーブ50の軸方向の両端部分は、抜止部としての縮径部52,52とされている。縮径部52は、軸方向外側へ向けて内周へ傾斜するテーパー形状とされている。縮径部52の最小内径寸法は、アウタ筒部材18の外径寸法及び締込部材14の外径寸法よりも小さくされている。そして、アウタ筒部材18が締込部材14を介して縮径部52に当接することによって、ブッシュ10のアウタスリーブ50からの抜けが防止される。
【0044】
アウタスリーブ50は、例えば、サスペンション機構における他方の防振連結対象筒部であるリンクアームのアームアイ54に対して、圧入等の手段で固定的に装着される。これにより、アウタ筒部材18は、アウタスリーブ50を介して、他方の防振連結対象部材(リンクアーム)に取り付けられており、アウタスリーブ50とアームアイ54とによって本実施形態の取付筒部が構成されている。
【0045】
アウタ筒部材18は、アウタスリーブ50に対して軸方向へ摺動可能な内挿状態で取り付けられている。即ち、アウタ筒部材18の外周面は、アウタスリーブ50の内周面に対して、押し当てられた状態で重ね合わされており、アウタ筒部材18とアウタスリーブ50の間に摩擦抵抗力が作用する。そして、アウタ筒部材18側に作用する軸方向の力が、アウタ筒部材18の外周面とアウタスリーブ50の内周面との間に作用する摩擦抵抗力を超えると、アウタ筒部材18がアウタスリーブ50に対して軸方向に変位する。
【0046】
アウタ筒部材18がアウタスリーブ50に対して摺動すると、
図6に示すように、インナ軸部材16とアウタスリーブ50との軸方向での相対変位量が大きくなっても、ブッシュ10のばね特性が硬くなるのを防ぐことができる。即ち、ブッシュ10のばね特性を示す
図6における(a)~(c)のように、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が発生する前には、インナ軸部材16とアウタスリーブ50の軸方向での相対変位量が大きくなるに従ってブッシュ10のばねが硬くなっている。一方、アウタ筒部材18がアウタスリーブ50に対して摺動し始めると、インナ軸部材16とアウタスリーブ50の軸方向での相対変位量の増大に対する荷重の増大が低減乃至は回避されて、ブッシュ10のばねの増大が防止される。なお、
図6に二点鎖線で示した(d)は、アウタ筒部材18とアウタスリーブ50が固定されて摺動が発生しない場合のばね特性である。
【0047】
このように、本実施形態のブッシュ10によれば、入力荷重が小さい領域では、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が生じず、高動ばね特性が発揮される一方、入力荷重が大きい領域では、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が生じて、低動ばね特性が発揮される。従って、例えば、ブッシュ10をサスペンション機構に適用すれば、荷重が小さい入力初期において、高動ばね特性による優れた操縦安定性が実現されると共に、荷重が大きくなると、低動ばね特性による振動絶縁作用等によって、良好な乗り心地が実現される。
【0048】
ここにおいて、一対の締込部材14,14による各調節弾性体38の圧縮変形量の設定によって、ブッシュ10の軸方向でのばね特性を調節することが可能とされている。
【0049】
すなわち、ボルト部材46とナット48とによって一対の締込部材14,14が内筒部材24に押し当てられるまで接近する際に、
図1に示すように、一対の締込部材14,14がブッシュ本体12の各調節弾性体38に押し当てられて、調節弾性体38がアウタ筒部材18の側壁30と締込部材14との間で軸方向に圧縮される。
【0050】
調節弾性体38は、締込部材14の当接による軸方向の圧縮変形量が大きくなるに従って、軸方向でのばねが硬くなる。従って、締込部材14の当接による調節弾性体38の圧縮変形量を適宜に調節することによって、調節弾性体38の軸方向のばね特性をチューニングして、ブッシュ10の軸方向のばね特性をチューニングすることができる。
【0051】
また、調節弾性体38が軸方向に圧縮されると、調節弾性体38が内周側へ膨らむように変形し、当該変形が連結ゴム40を介して一体形成された本体ゴム弾性体20に伝達されて、本体ゴム弾性体20が外周側へ膨らむような変形を生じる。本体ゴム弾性体20はアウタ筒部材18の内周に配されていることから、本体ゴム弾性体20の変形に伴ってアウタ筒部材18が外周側へ押圧される。
【0052】
本実施形態では、本体ゴム弾性体20の内周側への膨出変形が円筒状の固着部材22によって制限されていることから、外周へ向けた本体ゴム弾性体20の膨出変形がより効率的に生じ得る。また、溝形断面とされたアウタ筒部材18の内周に本体ゴム弾性体20が充填状態で配されていることから、ブッシュ10の大径化を抑えながら、アウタ筒部材18の内周において本体ゴム弾性体20のゴムボリュームが大きく確保されており、本体ゴム弾性体20がアウタ筒部材18を外周へ向けて押圧する作用を効率的に得ることができる。
【0053】
アウタ筒部材18は、相互に分割された一対のアウタ構成金具26,26で構成されていることから、アウタ筒部材18の内周面に固着された本体ゴム弾性体20が外周側へ膨出変形しようとすると、それらアウタ構成金具26,26には上下両外側へ向けた力が作用して相互に離隔するように変位しようとする。その結果、アウタ筒部材18の外周面を構成するアウタ構成金具26,26の底壁28,28の外面が、アウタスリーブ50の内周面に対してより強く押し当てられる。従って、一対の締込部材14,14の押付力による調節弾性体38の圧縮変形量を調節することによって、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する径方向の当接圧を調節することができる。このようにしてアウタ筒部材18とアウタスリーブ50の径方向の当接圧を調節すれば、アウタ筒部材18の外周面とアウタスリーブ50の内周面との軸方向の摺動抵抗を調節することができる。
【0054】
アウタ筒部材18とアウタスリーブ50との重ね合わせ面間の摩擦抵抗力を調節することによって、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が開始される荷重の閾値を調節することができる。従って、一対の締込部材14,14による各調節弾性体38の軸方向での圧縮変形量を調節することにより、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が開始される荷重閾値を設定することができる。
【0055】
例えば、
図6に示す(a)~(c)は、ブッシュ10において調節弾性体38の圧縮変形量を相互に異ならせた場合のばね特性の変化を測定したグラフである。より詳細には、(a)は調節弾性体38の圧縮変形量が最も小さい場合であり、(c)は調節弾性体38の圧縮変形量が最も大きい場合であり、(b)は調節弾性体38の圧縮変形量が(a)より大きく且つ(c)より小さい場合である。
図6によれば、調節弾性体38の圧縮変形量が大きくなるにしたがって、摺動が開始される荷重閾値(縦軸のA,B,C)が大きくなっている。これは、調節弾性体38の圧縮変形量が大きくなるに従ってアウタ筒部材18とアウタスリーブ50との間に作用する摩擦抵抗力が大きくなって、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動がより大きな荷重入力まで発生しないことを示していると考えることができる。従って、調節弾性体38の圧縮変形量を調節することによって、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が開始される荷重閾値を要求性能に応じて精度よく且つ簡単に設定することができる。
【0056】
調節弾性体38の圧縮変形量は、一対の締込部材14,14の軸方向対向面間に配された内筒部材24の長さ寸法によって精度よく且つ簡単に設定することができる。即ち、内筒部材24の長さ寸法を大きくすると、調節弾性体38の圧縮変形量が小さくなり、内筒部材24の長さ寸法を小さくすると、調節弾性体38の圧縮変形量が大きくなる。従って、例えば、相互に長さの異なる複数種類の内筒部材24を準備して、それら複数種類の内筒部材24から要求特性に応じた長さの内筒部材24を選択して採用することにより、内筒部材24以外の部分を共通構造としながら、ばね特性が相互に異なる複数種類のブッシュ10を得ることも可能となる。
【0057】
図7には、本発明に係る筒形防振装置の第二実施形態として、自動車用のブッシュ60が示されている。ブッシュ60は、ブッシュ本体62と一対の締込部材64,64とを備えている。以下の説明において、第一実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0058】
ブッシュ本体62は、インナ軸部材66とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20によって弾性連結された構造を有している。インナ軸部材66は、厚肉小径の略円筒形状とされており、外周面に本体ゴム弾性体20の内周部分32が固着されている。インナ軸部材66は、ボルト部材46に外挿状態で取り付けられる。本実施形態のブッシュ本体62は、インナ軸部材66とアウタ筒部材18を備える本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品とされている。
【0059】
インナ軸部材66の軸方向両側には、一対の締込部材64,64が配されている。締込部材64は、円環板状の部材であって、内周端部には軸方向内側へ向けて突出する位置決め部としてのインナ当接部68を備えている。本実施形態の締込部材64は、内周端部が軸方向に曲げられることによってL字状断面で周方向に延びており、位置決め部であるインナ当接部68が弾性体当接部44と一体形成されている。締込部材64は、例えば、金属素板のプレス加工によって得られるプレス金具とされている。
【0060】
一対の締込部材64,64は、インナ当接部68,68がインナ軸部材66の軸方向両端面に当接状態で突き合わされて、ボルト部材46とナット48によって締め込まれることにより、インナ軸部材66の軸方向両端面に押し当てられている。これにより、一対の締込部材64,64における弾性体当接部44,44の軸方向での対向面間距離が設定されており、本実施形態では、インナ軸部材66によって規定部材が構成されていると共に、インナ当接部68,68によって位置決め部が構成されている。締込部材64の弾性体当接部44は、調節弾性体38に押し当てられており、調節弾性体38がアウタ筒部材18の側壁30と締込部材64の外周端部との軸方向間で挟み込まれて圧縮されている。
【0061】
一対の締込部材64,64による調節弾性体38の軸方向での圧縮変形量は、規定部材としてのインナ軸部材66の軸方向長さ寸法だけでなく、締込部材64のインナ当接部68の軸方向長さ寸法によっても調節することができる。従って、本実施形態では、インナ当接部68の軸方向長さ寸法を調節することによって、インナ軸部材66の軸方向長さ寸法を変更することなく、調節弾性体38の軸方向での圧縮変形量を調節することもできる。
【0062】
本実施形態では、締込部材64におけるインナ当接部68の軸方向長さ寸法を調節設定することにより、インナ軸部材66への当接面であるインナ当接部68の突出先端面と、弾性体当接部44の調節弾性体38への当接面との軸方向での位置が相互に異ならされている。これにより、インナ軸部材66を含むブッシュ本体62を共通構造としながら、調節弾性体38の圧縮変形量を調節し、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動が開始される荷重閾値を調節することができる。例えば、インナ当接部68の軸方向長さ寸法が相互に異なる複数種類の締込部材64を準備して、要求ばね特性に応じた締込部材64を適宜に選択することにより、アウタ筒部材18のアウタスリーブ50に対する摺動を制御することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、アウタ筒部材の断面形状は、前記実施形態に示した溝形が調節弾性体38の締込みによる外周方向への力を効率的に作用させるために望ましいが、矩形断面のような溝形以外の形状を採用することもできる。
【0064】
前記実施形態のブッシュ本体12は、アウタ筒部材18がそれぞれ半周弱の長さで周方向に延びる相互に独立したアウタ構成金具26,26によって構成されており、本体ゴム弾性体20の径方向両側に切欠き36,36が形成された構造とされていたが、例えば、
図8,
図9に示す一体加硫成形品70のような構造を採用することもできる。即ち、一体加硫成形品70は、アウタ筒部材72が周方向の一部において分断されたC字環状の1つの部材とされており、本体ゴム弾性体74にはアウタ筒部材72の分断部分と対応する位置に1つの切欠き36が設けられている。このような構造の一体加硫成形品70は、調節弾性体38の軸方向での圧縮によって、アウタ筒部材72が分断部分において開くように変形する。従って、前記第一実施形態のブッシュ本体12に代えて本態様の一体加硫成形品70を採用すれば、調節弾性体38の軸方向での圧縮変形量を調節することによって、アウタ筒部材72のアウタスリーブ50に対する摺動が開始される荷重閾値を調節することができて、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。このように、アウタ筒部材は、周方向の少なくとも一部で分断されて、拡径状の変形が許容されるようになっていればよく、分断部分の数は1つであってもよいし、2つ以上の複数であってもよい。
【0065】
調節弾性体は、前記実施形態のようなアウタ筒部材の軸方向外面上に設けられる構造に限定されない。具体的には、例えば、
図10に示すブッシュ80は、アウタ筒部材82が前記実施形態のような側壁30,30を持たず、全体として周方向の分断部分を有する略円筒形状とされており、本体ゴム弾性体84の外周面に固着されている。本体ゴム弾性体84は、軸方向両側に調節弾性体38が設けられており、調節弾性体38がアウタ筒部材82よりも軸方向外側まで突出している。本実施形態の本体ゴム弾性体84と調節弾性体38は、前記実施形態のように側壁30によって隔てられておらず、本体ゴム弾性体84の外周部分34と調節弾性体38とが軸方向で連続して一体形成されている。そして、調節弾性体38と本体ゴム弾性体84が一対の締込部材14,14によって軸方向に圧縮されることにより、アウタ筒部材82が拡径状に外周側へ変形して、アウタ筒部材82のアウタスリーブ50への当接圧が調節される。
【0066】
本体ゴム弾性体は、必ずしもインナ軸部材に固着されていなくてもよく、例えば、本体ゴム弾性体の内周面がインナ軸部材に対して非固着で重ね合わされていてもよい。この場合に、インナ軸部材として前記実施形態に示した固着部材22や内筒部材24を設けることは必須ではなく、例えばインナ軸部材をボルト部材46によって構成することもできる。また、本体ゴム弾性体は、締込部材14が調節弾性体38に押し付けられていない状態でインナ軸部材から離れていてもよい。この場合には、締込部材14が調節弾性体38に押し付けられることで、本体ゴム弾性体が径方向で膨らむように変形して、本体ゴム弾性体の内周面がインナ軸部材に当接することにより、本体ゴム弾性体からアウタ筒部材18に及ぼされる外周側へ向けた力が確保される。
【0067】
例えば、内筒部材24に重ね合わされる締込部材14の位置決め部42の軸方向寸法と、調節弾性体38に押し当てられる締込部材14の弾性体当接部44の軸方向寸法とを、相互に異ならせることによって、内筒部材24の長さを変えることなく調節弾性体38の締込部材14による圧縮量を調節することもできる。位置決め部42と弾性体当接部44の軸方向寸法を相互に異ならせるためには、例えば、前記第二実施形態のような軸方向に突出するインナ当接部68を位置決め部として設ければよい。また、内筒部材24に重ね合わされる締込部材14の位置決め部42を薄肉又は厚肉とする、及び/又は、調節弾性体38に押し当てられる締込部材14の弾性体当接部44を厚肉又は薄肉とすることによっても、位置決め部42と弾性体当接部44の軸方向寸法の差を実現できる。例えば、一定の厚さ寸法とされた円環板状の部材に対して、別体の厚肉化部材を部分的に設けることによって、位置決め部42と弾性体当接部44の少なくとも一方において締込部材を部分的に厚くすることもできる。なお、
図11には、位置決め部42が薄肉とされた締込部材92を備えるブッシュ90を例示した。
【0068】
締込部材14は、インナ軸部材16に一体的に設けられていてもよい。具体的には、例えば、一方の締込部材14をボルト部材46の頭部に一体的に設けると共に、他方の締込部材14をナット48に一体的に設けることもできる。これによれば、ボルト部材46に対するナット48の締込み量を調節することによって、調節弾性体38の圧縮変形量を調節することができる。
【0069】
前記第二実施形態において、一方の締込部材14のインナ当接部68を他方の締込部材14のインナ当接部68よりも軸方向で大きく突出させて、一方の締込部材14のインナ当接部68が本体ゴム弾性体20の内周面を重ね合わされてインナ軸部材を構成するようにしてもよい。この場合に、一方の締込部材14のインナ当接部68と他方の締込部材14のインナ当接部68とを軸方向で突き合わせることによって、締込部材14,14の弾性体当接部44,44の軸方向での距離を設定して、調節弾性体38の圧縮変形量を設定することもできる。
【0070】
一対の締込部材は、前記実施形態のような互いに略同一(対称)のものに限定されず、互いに異なっていてもよい。このような相互に異なる一対の締込部材としては、例えば、上記のようなインナ当接部の軸方向寸法が相互に異なる場合、厚さ寸法や外径寸法が相互に異なる場合、軸方向視の形状が相互に異なる場合等がある。更に、一方の締込部材がインナ軸部材に一体形成され、他方の締込部材がインナ軸部材とは別体とされる場合なども考えられる。
【0071】
前記実施形態では、筒状体としてのアウタスリーブ50と、防振連結対象筒部としてのアームアイ54とによって、取付筒部が構成されている例を示したが、取付筒部は、例えば防振連結対象筒部だけによって構成することもできる。要するに、本発明に係る筒形防振装置のアウタ筒部材を、防振連結対象筒部に直接挿入して、防振連結対象筒部に対して筒状体を介することなく摺動可能に取り付けることもできる。
【0072】
なお、取付筒部等の具体的構成は筒形防振装置の適用対象部位などに応じて適宜に設計可能であって、本発明に係る筒形防振装置は一対の締込部材によって軸方向の連結特性の調節機構が実現可能であれば良く、例えば前記実施形態のように防振連結対象部材によって取付筒部が構成される場合などでは取付筒部を含まない態様として本発明の筒形防振装置を認識することも可能である。更に、一対の締込部材によって軸方向の連結特性の調節や設定、チューニングなどが要求される限り、サスペンションブッシュへの適用を例示した前記実施形態に限定されることなく、本発明は各種の筒形防振装置に対して適用可能である。例えば、軸方向の連結特性を要求される筒形防振装置として例示の如きサスペンションブッシュの他、特開2016-061364号公報に記載の如き構造物用の制振装置や、特開2016-084066号公報に記載の如き車体補強装置等を具体的に挙げることができるし、ボデーマウントやデフマウント、エンジンマウントなど、軸方向だけでなく軸直角方向への荷重や振動の入力が想定される場合にも本発明の筒形防振装置を適用することが可能である。
【0073】
前記実施形態では、抜止部がアウタスリーブ50の縮径部52によって構成されていたが、抜止部の構造は限定されるものではない。具体的には、例えば、ボルト部材46におけるアウタスリーブ50よりも軸方向外側に延び出した部分に対して、外周へ突出してアウタスリーブ50よりも大径とされたストッパ部を設けて、当該ストッパ部とアウタスリーブ50の軸方向での当接によって、ブッシュ10のアウタスリーブ50に対する軸方向一方側(
図1の右方に相当する側)への抜けを防止することもできる。この場合には、軸方向一方側の縮径部52はなくてもよく、軸方向一方側の抜止部がストッパ部によって構成される。
【符号の説明】
【0074】
10 ブッシュ(第一実施形態、筒形防振装置)
12 ブッシュ本体
14 締込部材
16 インナ軸部材
18 アウタ筒部材
20 本体ゴム弾性体
22 固着部材
24 内筒部材
26 アウタ構成金具
28 底壁(周状部)
30 側壁(受部)
32 内周部分
34 外周部分
35 一体加硫成形品
36 切欠き
38 調節弾性体
40 連結ゴム
42 位置決め部
44 弾性体当接部
46 ボルト部材
48 ナット
50 アウタスリーブ(取付筒部)
52 縮径部(抜止部)
54 アームアイ
60 ブッシュ(第二実施形態、筒形防振装置)
62 ブッシュ本体
64 締込部材
66 インナ軸部材
68 インナ当接部(位置決め部)
70 一体加硫成形品(別態様)
72 アウタ筒部材
74 本体ゴム弾性体
80 ブッシュ(別態様)
82 アウタ筒部材
84 本体ゴム弾性体
90 ブッシュ(別態様)
92 締込部材