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特開2023-137582二次電池の評価方法、二次電池の製造方法、及び二次電池の評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137582
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】二次電池の評価方法、二次電池の製造方法、及び二次電池の評価装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20230922BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/44 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043841
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田尾 仁志
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA09
5H030AS08
5H030BB21
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】二次電池の使用を許容する電圧の範囲全体にわたる自己放電特性の取得に要する期間を短縮する。
【解決手段】充電された二次電池に、既知の負荷量を有する外部負荷を接続する。外部負荷を接続した後の異なる2時点の各々における二次電池の出力電圧を測定する。二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性と、2時点の間の時間と、2時点の各々における出力電圧値と、外部負荷の負荷量とに基づいて二次電池の自己放電特性を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電された二次電池に、既知の負荷量を有する外部負荷を接続する接続ステップと、
前記外部負荷を接続した後の異なる2時点の各々における前記二次電池の出力電圧を測定する出力電圧測定ステップと、
前記二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性と、前記2時点の間の時間と、当該2時点の各々における出力電圧値と、前記外部負荷の負荷量とに基づいて前記二次電池の自己放電特性を算出する算出処理ステップと、
を含む二次電池の評価方法。
【請求項2】
前記接続ステップは、
出力電圧が予め定められる使用を許容する電圧の範囲である使用許容電圧範囲の上限値以上になるまで充電された二次電池に、前記二次電池の出力電圧を前記使用許容範囲の下限値まで、無負荷状態の前記二次電池を実測して自己放電特性を求めるのに要する期間よりも短い評価期間内に低下させる既知の負荷量を有する外部負荷を接続する、
請求項1に記載の二次電池の評価方法。
【請求項3】
前記算出処理ステップは、
前記二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性に基づいて、前記出力電圧測定ステップによる測定により得られた2つの出力電圧値の各々に対応する放電容量を特定し、特定した前記放電容量から前記2時点の間に消費された消費電荷量を算出する消費電荷量算出ステップと、
前記2時点の間に前記二次電池の自己放電と前記外部負荷とによって消費される電荷量の和が、前記消費電荷量算出ステップにより算出される前記消費電荷量に一致することを示す関係式と、複数の組み合わせであって前記2時点の間の時間と、当該2時点の各々における前記出力電圧測定ステップによる測定により得られた2つの出力電圧値と、当該2つの出力電圧値に対応して前記消費電荷量算出ステップにより算出された消費電荷量とを含む組み合わせと、前記外部負荷の負荷量とに基づいて前記二次電池の自己放電特性を算出する自己放電特性算出ステップと、
を含む請求項1または2に記載の二次電池の評価方法。
【請求項4】
前記二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性を測定する変化特性測定ステップ、
を含む請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の二次電池の評価方法。
【請求項5】
前記外部負荷の負荷量は、前記2時点の各々において前記外部負荷を流れる電流値の平均値と、前記2時点の間の時間とを乗算して得られる乗算値を、前記2時点の間に前記外部負荷が消費する電荷量であるとみなせる範囲内で予め定められる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池の評価方法。
【請求項6】
前記自己放電特性算出ステップは、
算出した前記二次電池の自己放電特性であって漏れコンダクタンス値と、前記二次電池の出力電圧値との関係を示す自己放電特性において、前記漏れコンダクタンス値が負の値である場合の前記出力電圧値に基づいて、前記二次電池の自己電圧回復特性を評価する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の二次電池の評価方法。
【請求項7】
二次電池を検査する検査工程を含む二次電池の製造方法であって、
前記検査工程は、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の各ステップ
を含む二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記検査工程により得られた前記二次電池の自己放電特性が、予め定められる所定の特性の範囲内の特性である複数の前記二次電池のセルを組み合わせて組セルを組み立てる組セル組立工程
を含む請求項7に記載の二次電池の製造方法。
【請求項9】
充電された二次電池に接続する外部負荷であって既知の負荷量を有する外部負荷と、
前記二次電池に前記外部負荷を接続した後の異なる2時点の各々における前記二次電池の出力電圧を測定する出力電圧測定部と、
前記二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性と、前記2時点の間の時間と、当該2時点の各々における出力電圧値と、前記外部負荷の負荷量とに基づいて前記二次電池の自己放電特性を算出する算出処理部と、
を備える二次電池の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、二次電池の評価方法、二次電池の製造方法、及び二次電池の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械の電源としてリチウムイオンキャパシタセル(以下、LiC(Lithium-ion Capacitor)セルという)が搭載される場合、LiCセルに関する等価回路モデルの構成は、図10に示す回路構成になる。すなわち、LiCセル100の内部に備えられるLiC101に対して、LiCセル100の内部に存在する絶縁抵抗などに相当する内部放電経路102と、建設機械の制御回路などに相当する外部回路113とが並列に接続される回路構成になる。
【0003】
建設機械が休車している間、LiCセル100に充電が行われない一方で、内部放電経路102に起因して生じる自己放電や、外部回路113に微小な電流が流れることに起因して生じる外部放電が発生する。そのため、LiCセル100の出力電圧は少しずつ低下していくことになる。休車の期間が長くなり、LiC101が過放電状態になると、LiC101の性能が劣化し、電池として利用することができなくなる。そのため、建設機械の電源としてLiCセル100を適用する場合、建設機械が休車してからLiC101が過放電状態になるまでの期間を把握すること、言い換えると、どれだけの期間、建設機械を休車させておくことができるのかを把握することが重要になる。
【0004】
外部回路113の回路構成は、既知であるため、外部放電の放電量については計算によって算出することができる。これに対して、自己放電の放電量については、絶縁抵抗の他、物理的な微小短絡、LiC101において生じる化学的な反応など複雑な要因がLiCセル100の内部に存在するため、計算によって算出することが困難である。そのため、LiCセル100に接続されている外部回路113を取り外して、無負荷状態でLiCセル100の出力電圧を実測することにより、自己放電の特性を把握することが行われている。なお、無負荷状態で自己放電特性を実測する手法は、例えば、特許文献1に開示されているように、リチウムイオン電池などの二次電池の検査工程においても一般的に行われている手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-95332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、LiCセル100の場合、内部放電経路102による自己放電の放電量は、出力電圧に依存して変化するという特性が知られている。また、LiC101の化学的な反応により、LiCセル100の出力電圧が低下していく途中で、出力電圧が上昇する電圧復帰特性が存在することも知られている。そのため、正確な自己放電特性を把握するためには、LiCセル100において予め定められている使用を許容する電圧の範囲全体にわたって実測を行う必要がある。しかし、LiCセル100は、一般的に自己放電が小さく、無負荷状態の場合、3か月経過しても、出力電圧の低下が5%未満に留まるような製品も存在する。そのため、無負荷状態で、LiCセル100の電圧を、十分に充電されている状態から、使用を許容する電圧の範囲の下限値まで低下させて自己放電特性を取得するには、非常に長い期間が必要になるという課題がある。
【0007】
特許文献1には、自己放電検査時の電圧上昇期間を短くし、短時間で信頼性の高い電池を製造することを目的としてなされた技術が開示されている。しかしながら、当該技術は、エージング工程後に開放電圧が上昇する現象があるため、この開放電圧の上昇が収まるまで自己放電検査を行うことができないという課題を開放電圧の上昇期間を短縮することにより解決しているだけである。言い換えると、当該技術は、自己放電特性を取得するために行う無負荷状態での実測を開始する前段で生じる電圧上昇の期間を短くしているだけであり、自己放電特性を取得するために行う測定の期間を短縮しているわけではない。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二次電池の使用を許容する電圧の範囲全体にわたる自己放電特性の取得に要する期間を短縮することを可能にする二次電池の評価方法、二次電池の製造方法、及び二次電池の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一態様は、充電された二次電池に、既知の負荷量を有する外部負荷を接続する接続ステップと、前記外部負荷を接続した後の異なる2時点の各々における前記二次電池の出力電圧を測定する出力電圧測定ステップと、前記二次電池の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性と、前記2時点の間の時間と、当該2時点の各々における出力電圧値と、前記外部負荷の負荷量とに基づいて前記二次電池の自己放電特性を算出する算出処理ステップと、を含む二次電池の評価方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の各態様によれば、二次電池の使用を許容する電圧の範囲全体にわたる自己放電特性の取得に要する期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る自己放電特性評価システムの構成を示す概略ブロック図である。
図2】実施形態に係るLiCセルに外部抵抗素子を接続した場合の等価回路モデルを示す図である。
図3】実施形態に係る無負荷状態のLiCセルの出力電圧の時間変化の一例と、外部抵抗素子が接続された場合のLiCセルの出力電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
図4】実施形態に係る自己放電特性評価システムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る出力電圧測定部が測定する出力電圧と放電容量との関係の一例を示す図である。
図6】実施形態に係る出力電圧測定部が出力電圧を測定する2時点と当該2時点の間に内部可変抵抗成分及び外部抵抗素子に流れる電流との関係の一例を示す図である。
図7】実施形態に係る評価装置により得られる自己放電特性の一例を示す図である。
図8】実施形態に係る評価装置により得られる自己放電特性から休車できる期間を算出する手法を説明する図である。
図9】実施形態に係るLiCセルを製造する際に行われる各工程の実施順を示す図である。
図10】一般的なLiCセルに対して外部回路を接続した場合の等価回路モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0013】
図1は、自己放電特性評価システム1の構成を示す概略ブロック図である。図2は、LiCセル20に外部抵抗素子12を接続した場合の等価回路モデルを示す図である。図3は、無負荷状態のLiCセル20の出力電圧の時間変化の一例と、外部抵抗素子12が接続された場合のLiCセル20の出力電圧の時間変化の一例を示すグラフである。図4は、自己放電特性評価システム1における処理の流れを示すフローチャートである。図5は、出力電圧測定部14が測定する出力電圧と放電容量との関係の一例を示す図である。図6は、出力電圧測定部14が出力電圧を測定する2時点と当該2時点の間に内部可変抵抗成分22及び外部抵抗素子12に流れる電流との関係の一例を示す図である。図7は、評価装置10により得られる自己放電特性の一例を示す図である。図8は、実施形態に係る評価装置10により得られる自己放電特性から休車できる期間を算出する手法を説明する図である。図9は、LiCセル20を製造する際に行われる各工程の実施順を示す図である。
【0014】
(自己放電特性評価システムの構成例)
図1に示すように、自己放電特性評価システム1は、LiCセル20と、評価装置10とを備える。なお、図示していないが、LiCセル20を充電する充電器と、充電器に電力を供給する電源とが、自己放電特性評価システム1に含まれていてもよい。
【0015】
LiCセル20は、例えば、油圧ショベル等の建設機械に搭載され、当該建設機械の旋回電気モータなどに電力を供給することが想定されている。LiCセル20は、充電と放電が可能になっている、いわゆる二次電池の一種であり、放電の際には、正極と負極とを有する出力端子から直流の電力を供給する。評価装置10は、LiCセル20の自己放電特性を算出し、算出した自己放電特性をLiCセル20の評価のために提示する装置である。評価装置10は、変化特性測定部11、外部抵抗素子12、記憶部13、出力電圧測定部14、算出処理部19、及び表示部17を備える。算出処理部19は、消費電荷量算出部15と、自己放電特性算出部16とを備える。
【0016】
変化特性測定部11は、内部に電力を消費する負荷回路を備えており、当該負荷回路は、充電器によって十分に充電された状態のLiCセル20の正極と負極の出力端子に接続する。ここで、十分に充電された状態とは、LiCセル20の出力電圧が、LiCセル20において予め定められている使用を許容する電圧の範囲(以下、使用許容電圧範囲という)の上限値以上になっている状態である。当該負荷回路に接続することにより、LiCセル20は放電を開始し、例えば、40分程度の時間で、出力電圧がLiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値まで低下する。変化特性測定部11は、内部の負荷回路がLiCセル20に接続することにより、LiCセル20の出力電圧を検出すると、LiCセル20の出力電圧が低下する間の出力電圧と、放電容量とを繰り返し測定し、測定結果に基づいて、出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性の関数f(V)を算出する。ここで、測定によって得られる出力電圧値の単位は、例えば、[V]であり、放電容量の単位は、例えば、[mAh]である。また、LiCセル20の使用許容電圧範囲とは、例えば、4.0V~2.0Vの範囲であり、この場合、当該範囲の上限値は、4.0Vになり、下限値は、2.0Vになる。
【0017】
外部抵抗素子12は、抵抗値Rを有する抵抗素子であり、変化特性測定部11による測定の後、充電器によって出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまで再充電されたLiCセル20の正極と負極の出力端子に接続する。図2に示すように、外部抵抗素子12がLiCセル20に接続した際の等価回路モデルは、LiCセル20の内部に備えられるLiC21に対して、LiCセル20に内在する絶縁抵抗、物理的な微小短絡経路、電圧復帰特性などに起因して生じる抵抗成分を示す内部可変抵抗成分22と、外部抵抗素子12とが、並列に接続される構成になる。内部可変抵抗成分22は、LiCセル20の出力電圧に応じて変化する抵抗成分であり、この抵抗成分が、LiCセル20における自己放電の放電量が出力電圧に依存して変化するという性質を表すことになる。そのため、内部可変抵抗成分22の抵抗値を、LiCセル20の出力電圧Vの関数であるR(V)として表す。なお、外部抵抗素子12の抵抗値R、及び内部可変抵抗成分22の抵抗値R(V)の単位は、いずれも[Ω]である。
【0018】
外部抵抗素子12の抵抗値Rの大きさは、予め定められる評価期間内に、出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまで充電されたLiCセル20の出力電圧を、使用許容電圧範囲の下限値まで低下させる程度の抵抗値である。ここで、予め定められる評価期間とは、例えば、1か月程度の期間である。
【0019】
図3に示す2つのグラフは、LiCセル20を無負荷状態で放電させた場合のLiCセル20の出力電圧の時間変化を示すグラフ30と、LiCセル20に外部抵抗素子12を接続した場合のLiCセル20の出力電圧の時間変化を示すグラフ31である。図3において、縦軸は、LiCセル20の出力電圧の大きさを示しており、横軸は、時間の経過を示している。図3のグラフ30から分かるように、無負荷状態では、LiCセル20の出力電圧は、評価期間の間に、大きく低下せず、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値に到達するまでには、非常に長い時間を要することになる。これに対して、グラフ31から分かるように、外部抵抗素子12をLiCセル20に接続した場合、LiCセル20の出力電圧は、評価期間内に、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値に到達することになる。
【0020】
図1に戻り、記憶部13は、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値と、外部抵抗素子12の抵抗値Rとを予め記憶し、変化特性測定部11が算出する関数f(V)を示すデータを記憶する。出力電圧測定部14は、LiCセル20の正極と負極の出力端子に接続する。出力電圧測定部14は、内部に一定時間を繰り返し計測するタイマと、時刻を計時する時計などの計時手段とを備える。出力電圧測定部14は、LiCセル20に接続すると、タイマを起動すると共に、LiCセル20の出力電圧を測定し、測定した際の時刻を計時手段から取得する。その後、出力電圧測定部14は、タイマが満了するごとに、LiCセル20の出力電圧を測定し、測定した際の時刻を計時手段から取得する。出力電圧測定部14は、測定により得られた出力電圧値に、当該出力電圧値が測定された際の時刻を関連付けて出力する。ここで、タイマが計測する一定時間とは、例えば、24時間であり、タイマは、24時間経過して満了すると、再び時間の計測を開始する。
【0021】
消費電荷量算出部15は、出力電圧測定部14が出力する時刻が関連付けられた出力電圧値を取り込むと、記憶部13が記憶する関数f(V)に、取り込んだ出力電圧値を代入して放電容量を算出する。消費電荷量算出部15は、新たに放電容量を算出すると、時系列順において直前に算出した放電容量と、新たな放電容量とに基づいて、2つの放電容量が算出された2時点の間にLiCセル20による放電によって消費された消費電荷量を算出する。
【0022】
自己放電特性算出部16は、消費電荷量算出部15が算出した消費電荷量と、当該消費電荷量に対応する2時点の間の時間と、当該2時点の各々において出力電圧測定部14が測定した出力電圧値と、外部抵抗素子12の抵抗値Rとに基づいて、LiCセル20の自己放電特性を示すLiCセル20の漏れコンダクタンス値、すなわち1/R(V)を算出する。ここで、漏れコンダクタンス値の単位は、例えば、[μS]である。より詳細には、自己放電特性算出部16は、消費電荷量算出部15が算出する消費電荷量が、当該消費電荷量に対応する2時点の間に、LiCセル20の内部可変抵抗成分22によって消費される電荷量と、外部抵抗素子12によって消費される電荷量との和に一致することを示す関係式を利用して、消費電荷量算出部15が算出する複数の消費電荷量の各々に対応する漏れコンダクタンス値を算出する。自己放電特性算出部16は、算出した複数の漏れコンダクタンス値を用いて、LiCセル20の出力電圧の変化に対応する漏れコンダクタンスの変化を示すLiCセル20の自己放電特性を算出する。表示部17は、例えば、ディスプレイであり、自己放電特性算出部16が算出した自己放電特性を表示する。
【0023】
(自己放電特性評価システムにおける処理)
次に、図4から図7を参照しつつ自己放電特性評価システム1による処理について説明する。評価装置10の利用者は、充電器により、出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまでLiCセル20を充電する(ステップS1)。評価装置10の利用者は、充電が完了したLiCセル20の出力端子を変化特性測定部11が内部に備える負荷回路に接続する。変化特性測定部11は、内部の負荷回路がLiCセル20に接続することにより、LiCセル20の出力電圧を検出すると、LiCセル20の出力電圧がLiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値まで低下するのに要する所定の時間、LiCセル20の出力電圧と、放電容量とを繰り返し測定する。ここで、所定の時間とは、上記したように、例えば、40分程度の時間である。変化特性測定部11は、測定した複数の出力電圧値と、当該複数の出力電圧値の各々に対応する放電容量とに基づいて、出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性の関数f(V)を算出する。変化特性測定部11は、算出した関数f(V)を示すデータを記憶部13に書き込んで記憶させる(ステップS2)。
【0024】
評価装置10の利用者は、変化特性測定部11からLiCセル20を取り外し、再び、出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまでLiCセル20を充電器によって再充電する(ステップS3)。評価装置10の利用者は、再充電が完了したLiCセル20の出力端子を外部抵抗素子12と、出力電圧測定部14とに接続する。評価装置10の利用者は、評価装置10を操作して、出力電圧測定部14に測定の処理を開始させる。出力電圧測定部14は、当該操作を受けると、内部に備えるタイマを起動すると共に、初回の測定タイミングとして、LiCセル20の出力電圧を測定し、測定した際の時刻を内部に備える計時手段から取得する。出力電圧測定部14は、測定により得られた出力電圧値に、取得した時刻を関連付けて消費電荷量算出部15に出力する(ステップS4)。
【0025】
消費電荷量算出部15は、出力電圧測定部14が出力する時刻が関連付けられた出力電圧値を取り込むと、記憶部13から関数f(V)を示すデータを読み出す。消費電荷量算出部15は、取り込んだ出力電圧値を関数f(V)に代入して放電容量を算出する。消費電荷量算出部15は、内部の記憶領域に予め設ける直前のデータを記憶する領域を参照する。消費電荷量算出部15は、直前のデータを記憶する領域にデータが書き込まれていない場合、取り込んだ出力電圧値及び時刻が初回のデータであるとし、取り込んだ出力電圧値及び時刻と、算出した放電容量とを関連付けて内部の記憶領域の直前のデータを記憶する領域に書き込んで記憶させる(ステップS5)。なお、消費電荷量算出部15は、評価装置10が起動された際に、内部の記憶領域に直前のデータを記憶する領域を設けて、当該領域をデータが書き込まれていない状態に初期化しているものとする。
【0026】
出力電圧測定部14のタイマが満了して、次の測定タイミングになると、出力電圧測定部14は、LiCセル20の出力電圧を測定し、測定した際の時刻を計時手段から取得する。出力電圧測定部14のタイマは、満了すると、再び時間の計測を開始する。出力電圧測定部14は、測定により得られた出力電圧値に、取得した時刻を関連付けて消費電荷量算出部15に出力する(ステップS6)。
【0027】
消費電荷量算出部15は、出力電圧測定部14が出力する時刻が関連付けられた出力電圧値を取り込むと、記憶部13から関数f(V)を示すデータを読み出す。消費電荷量算出部15は、取り込んだ出力電圧値を関数f(V)に代入して放電容量を算出する。消費電荷量算出部15は、内部の記憶領域の直前のデータを記憶する領域を参照する。ここでは、直前のデータを記憶する領域にデータが書き込まれているため、消費電荷量算出部15は、取り込んだ出力電圧値及び時刻が2回目以降のデータであるとする。消費電荷量算出部15は、直前のデータを記憶する領域から直前の出力電圧値と、時刻と、放電容量とを読み出す(ステップS7)。
【0028】
ここで、直前の出力電圧値を「V」とし、直前の時刻を「t」とし、直前の放電容量を「f(V)」とする。また、消費電荷量算出部15が直近で取り込んだ、今回の出力電圧値を「V」とし、今回の時刻を「t」とし、今回の放電容量を「f(V)」とする。図5(a)に示す実線のグラフは、出力電圧測定部14が測定するLiCセル20の出力電圧の時間変化を示したグラフである。図5(a)において、縦軸は、LiCセル20の出力電圧の大きさを示しており、横軸は、時間の経過を示している。図5(a)に示す破線の線分は、時刻tと出力電圧値V、及び時刻tと出力電圧値Vの関係の一例を示す線分である。図5(b)に示す実線のグラフは、変化特性測定部11が算出した関数f(V)の変化を示すグラフである。図5(b)において、縦軸は、LiCセル20の出力電圧の大きさを示しており、横軸は、放電容量の大きさを示している。図5(b)に示す破線の線分は、出力電圧値Vと、出力電圧値Vに対応する放電容量f(V)、及び出力電圧値Vと、出力電圧値Vに対応する放電容量f(V)の関係を示す線分である。図5(a),図5(b)の各々に示すグラフにおいて、縦軸、すなわちLiCセル20の出力電圧の変域には、LiCセル20の使用許容電圧範囲が含まれる。
【0029】
この場合、消費電荷量算出部15は、時刻tから時刻tの間に消費された消費電荷量を次式(1)によって算出する。
【0030】
【数1】
【0031】
なお、上記式(1)において3.6を乗じているのは、1[mAh]=3.6[C]の関係にしたがって、[mAh]の単位で表される値を[C]の単位の値に換算するためである。
【0032】
消費電荷量算出部15は、内部の記憶領域の直前のデータを記憶する領域に書き込まれている出力電圧値Vと、時刻tと、放電容量f(V)とを削除し、当該領域に今回の出力電圧値Vと、時刻tと、放電容量f(V)とを書き込んで記憶させる。消費電荷量算出部15は、時刻tと、出力電圧値Vと、時刻tと、出力電圧値Vと、算出した消費電荷量とを、自己放電特性算出部16に出力する(ステップS8)。
【0033】
自己放電特性算出部16は、消費電荷量算出部15が出力する時刻tと、出力電圧値Vと、時刻tと、出力電圧値Vと、式(1)によって算出された消費電荷量とを取り込む。自己放電特性算出部16は、記憶部13からLiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値と、外部抵抗素子12の抵抗値Rとを読み出す。
【0034】
ここで、上記した自己放電特性算出部16が利用する関係式、すなわち、消費電荷量算出部15が式(1)によって算出する消費電荷量が、当該消費電荷量に対応する2時点の間に、LiCセル20の内部可変抵抗成分22によって消費される消費電荷量と、外部抵抗素子12によって消費される消費電荷量との和に一致することを示す関係式について、図6を参照しつつ説明する。
【0035】
図6(a)に示す実線のグラフは、出力電圧測定部14が測定するLiCセル20の出力電圧の時間変化を示したグラフであり、図5(a)と同一のグラフである。図6(b)に示す実線のグラフは、LiCセル20の内部可変抵抗成分22に流れる電流の時間変化を示すグラフである。図6(c)に示す実線のグラフは、外部抵抗素子12に流れる電流の時間変化を示すグラフである。図6(b)と図6(c)において、縦軸は、電流の大きさを示しており、横軸は、時間の経過を示している。時刻tから時刻tの間に内部可変抵抗成分22によって消費される消費電荷量は、図6(b)において、符号40で示す領域の面積の大きさになる。符号40の領域の面積の大きさは、LiCセル20の出力電圧が、評価期間の間に、少しずつ低下していく変化をしている場合、内部可変抵抗成分22に流れる電流の変化も少しずつ低下していくことになるため、次式(2)によって近似することができる。
【0036】
【数2】
【0037】
式(2)は、時刻tにおける電流値であるV/R(V)と、時刻tにおける電流値であるV/R(V)とを平均した平均の電流値に、経過時間を示す(t-t)を乗じることで、符号40で示す領域の面積の大きさの近似値を算出していることになる。同様に、時刻tから時刻tの間に外部抵抗素子12によって消費される消費電荷量は、図6(c)において、符号41で示す領域の面積の大きさになる。符号41の領域の面積の大きさは、LiCセル20の出力電圧が、評価期間の間に、少しずつ低下していく変化をしている場合、外部抵抗素子12に流れる電流の変化も少しずつ低下していくことになるため、次式(3)によって近似することができる。
【0038】
【数3】
【0039】
したがって、上記した関係式として、次式(4)が成立することになる。
【0040】
【数4】
【0041】
式(4)から内部可変抵抗成分22の抵抗値R(V)を求める次式(5)を導くことができる。
【0042】
【数5】
【0043】
漏れコンダクタンス値は、抵抗値R(V)の逆数で表されるため、次式(6)によって求められることになる。
【0044】
【数6】
【0045】
したがって、自己放電特性算出部16は、取り込んだ時刻tと、出力電圧値Vと、時刻tと、出力電圧値Vと、式(1)によって算出された消費電荷量と、読み出した抵抗値Rとを、式(6)に代入して漏れコンダクタンス値を算出する。当該漏れコンダクタンス値は、出力電圧値が「V」から「V」に変化する間の値であるが、ここでは、自己放電特性算出部16は、算出した漏れコンダクタンス値を、出力電圧値Vに対応する漏れコンダクタンス値として、出力電圧値Vと、算出した漏れコンダクタンス値とを対応付けて内部の記憶領域に書き込んで記憶させる(ステップS9)。
【0046】
自己放電特性算出部16は、出力電圧値Vが、記憶部13から読み出したLiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値未満であるか否かを判定する(ステップS10)。自己放電特性算出部16は、出力電圧値Vが、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値未満でないと判定した場合(ステップS10、No)、自己放電特性算出部16は、消費電荷量算出部15による次のデータ出力を待機し、その間に、ステップS6以降の処理が再び行われる。
【0047】
一方、自己放電特性算出部16は、出力電圧値Vが、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値未満であると判定した場合(ステップS10、Yes)、内部の記憶領域に記憶させてある出力電圧値と、漏れコンダクタンス値とを対応付けたデータの全てを読み出す。自己放電特性算出部16は、読み出したデータの各々を、図7に示す座標系、すなわち、縦軸が内部可変抵抗成分22による漏れコンダクタンスの大きさを示し、横軸がLiCセル20の出力電圧の大きさを示す座標系にプロットする。自己放電特性算出部16は、プロットした点の間を線形補間して、LiCセル20の出力電圧の変化に対応する内部可変抵抗成分22による漏れコンダクタンスの変化によって表される自己放電特性を算出する。出力電圧測定部14が、ステップS4の処理において、LiCセル20の出力電圧を測定することにより得られた初回の出力電圧値が、LiCセル20の使用許容電圧範囲の上限値以上であれば、自己放電特性算出部16が算出する自己放電特性における出力電圧の変域、すなわち、図7に示すグラフの横軸の変域には、図7に示すようにLiCセル20の使用許容電圧範囲が含まれることになる。自己放電特性算出部16は、算出した自己放電特性を示すデータを表示部17に出力する。表示部17は、自己放電特性算出部16が出力する自己放電特性を示すデータを取り込み、図7に示すグラフを画面に表示して(ステップS11)、処理を終了する。
【0048】
(作用・効果)
上記の実施形態では、出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまでLiCセル20を充電する。充電したLiCセル20の出力電圧を使用許容範囲の下限値まで、無負荷状態のLiCセル20を実測して自己放電特性を求めるのに要する期間よりも短い評価期間内に低下させる抵抗値Rを有する負荷量を有する外部抵抗素子12を、充電したLiCセル20に接続する。その上で、出力電圧測定部14は、異なる2時点t,tの各々におけるLiCセル20の出力電圧を測定する。消費電荷量算出部15は、LiCセル20の出力電圧の変化に対する放電容量の変化を示す変化特性の関数f(V)に基づいて、出力電圧測定部14による測定により得られた2つの出力電圧値V,Vの各々に対応する放電容量f(V),f(V)を算出し、算出した放電容量f(V),f(V)から2時点t,tの間に消費された消費電荷量を算出する。自己放電特性算出部16は、式(6)と、複数の組み合わせであって、2時点t,tの間の時間と、2時点t,tの各々における出力電圧測定部14による測定により得られた出力電圧値V,Vと、出力電圧値V,Vの各々に対応して消費電荷量算出部15が算出する消費電荷量とを含む組み合わせと、抵抗値Rとに基づいてLiCセル20の自己放電特性を算出する。
【0049】
これにより、外部抵抗素子12を用いて、LiCセル20の放電量を増加させることができるので、無負荷状態のLiCセル20を実測して自己放電特性を求めるのに要する期間よりも短い期間で、充電されたLiCセル20の出力電圧を、LiCセル20の使用許容電圧範囲の上限値から下限値の間で変化させることができることになる。そのため、LiCセル20の使用許容電圧範囲全体にわたるLiCセル20の自己放電特性を、無負荷状態のLiCセル20を実測して自己放電特性を求めるのに要する期間よりも短い期間で算出することが可能になる。実験環境で試行した結果として、無負荷状態のLiCセル20を実測して自己放電特性を取得するのに200日以上を要したのに対して、本実施形態の自己放電特性評価システム1を用いることで同様の自己放電特性を32日で取得することができた。
【0050】
上記の実施形態では、評価装置10に対して、二次電池の一種であるLiCセル20に接続し、評価装置10がLiCセル20の自己放電特性を算出するようにしている。これに対して、評価装置10に対して、LiCセル20に替えて、リチウムイオン電池などの他の二次電池を接続するようにしてもよい。この場合も、LiCセル20の場合と同様に、評価装置10は、接続された二次電池に対する自己放電特性を算出することができる。したがって、上記の実施形態の構成により、二次電池の使用許容電圧範囲全体にわたる自己放電特性の取得に要する期間を短縮することが可能になる。
【0051】
外部抵抗素子12の抵抗値Rを小さくすればするほど、より短い期間で、出力電圧が使用許容電圧範囲の上限値以上になるまで充電されたLiCセル20の出力電圧を、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値まで低下させることができる。そのため、評価装置10がLiCセル20の自己放電特性を算出するのに要する期間も同様に短くすることができる。ただし、式(3)は、図6(c)の符号41で示す領域の面積の大きさの近似値を算出する式であり、時刻tにおける電流値であるV/Rと、時刻tにおける電流値であるV/Rとを平均した平均の電流値に、経過時間を示す(t-t)を乗じる演算を行う式である。すなわち、式(3)は、外部抵抗素子12に流れる電流の時間変化が緩やかであり、図6(c)において、時刻tにおける電流値と、時刻tにおける電流値との平均値を高さとし、横幅を(t-t)とする矩形形状の面積の大きさと、図6(c)の符号41で示す領域の面積の大きさとがほぼ同一であるとみなせる範囲であることを前提とした式である。したがって、外部抵抗素子12の抵抗値Rを小さくしすぎると、外部抵抗素子12に流れる電流の時間変化が緩やかでなくなり、この前提が成立せず、式(3)で算出する消費電荷量と、実際に外部抵抗素子12によって消費される消費電荷量とが乖離することになり、式(4)も成立しなくなる。そのため、外部抵抗素子12の抵抗値Rは、時刻t,tの各々において外部抵抗素子12を流れる電流値の平均値と、時刻t,tの間の時間とを乗算して得られる乗算値を、時刻t,tの間に外部抵抗素子12が消費する消費電荷量であるとみなせる範囲内で定められる必要がある。
【0052】
図7において、横軸に平行な破線の線分は、漏れコンダクタンス値が0[μS]であることを示している。図7に示す自己放電特性のグラフでは、LiCセル20の出力電圧が低下するにしたがって、漏れコンダクタンス値が、プラスからマイナスに変化するゼロクロス点が存在している。漏れコンダクタンス値が、マイナスになるという状態は、実際にLiCセル20に充電が行われているわけではないが、充電されているとみなされるような状態、すなわち、電圧復帰特性(ここで、電圧復帰特性は、自己電圧回復特性ともいう)が現れていることを示している。そのため、ゼロクロス点における出力電圧は、LiCセル20の復帰電圧を示していることになる。上記した自己放電特性を取得するために一般に行われる無負荷状態のLiCセル20の出力電圧を測定する手法の場合、LiCセル20の出力電圧の低下が非常に緩やかであるため、この復帰電圧を特定するのは非常に困難であり、また、非常に長い時間を要することになる。これに対して、評価装置10の場合、LiCセル20に電圧復帰特性が現れているときには、自己放電特性算出部16が算出する自己放電特性を利用することにより、短い期間で復帰電圧を容易に特定することができる。言い方を変えると、自己放電特性算出部16は、算出した自己放電特性から漏れコンダクタンスの値が「0」である場合の出力電圧値、すなわち復帰電圧の有無を容易に検出することができる。自己放電特性算出部16は、復帰電圧を検出することができた場合、LiCセル20において電圧復帰特性が現れていると判定することができる。また、このように、評価装置10の自己放電特性算出部16が、自己放電特性から容易に復帰電圧を検出して電圧復帰特性を評価することができることから、例えば、LiCセル20を製造する工程において、評価装置10を用いて復帰電圧を検出することにより、一般的なLiCセル20の復帰電圧に比べて、非常に小さい復帰電圧を有するLiCセル20を異常がある製品として判別するといったこともできる。
【0053】
また、図7に示すLiCセル20の出力電圧の変化に対応する内部可変抵抗成分22による漏れコンダクタンスの変化を示す自己放電特性を、LiCセル20の製造時に予め取得しておくことで、以下のような用途に利用することができる。例えば、自己放電特性を予め取得したLiCセル20を建設機械に搭載して、建設機械の制御回路にLiCセル20を接続する。ここで、建設機械の制御回路の抵抗値などの負荷量は既知であるものとする。建設機械を休車状態にした際に、LiCセル20の出力電圧を測定して取得する。例えば、建設機械とは別に用意されたコンピュータ等の計算装置に、取得した休車時の出力電圧値と、建設機械の制御回路の負荷量と、LiCセル20の自己放電特性と、関数f(V)と、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値とを与える。当該計算装置において、休車時の出力電圧値を「V」とし、LiCセル20の使用許容電圧範囲の下限値を「VN+1」とし、予め取得した自己放電特性における出力電圧値V~VN+1の範囲を図8に示すようにN等分する。この場合、当該計算装置によって、式(6)からN等分した各区間の時間長、すなわち、式(6)の(t-t)を算出することができる。各区間の(t-t)を合計した時間が、当該LiCセル20を搭載する建設機械を休車させておくことのできる期間を示すことになる。この期間を、一般化して数式により示すと、次式(7)として示すことができる。
【0054】
【数7】
【0055】
上記の式(7)において、Nは、2以上の整数であり、Nが大きい値であるほど、高い精度で休車させておくことのできる期間を算出することが可能になる。「i」は、N個の区間の中のi番目の区間を示すインデックスであり、Vは、i番目の区間の開始時点であるtにおける出力電圧値であり、Vi+1は、i番目の区間の終了時点であってi+1番目の区間の開始時点であるti+1における出力電圧値である。漏れコンダクタンス値1/R(V)は、出力電圧値が「V」における漏れコンダクタンス値であり、予め取得した自己放電特性から取得することができる値である。なお、式(7)における抵抗値Rは、建設機械の制御回路の負荷量である。このように、LiCセル20の自己放電特性を予め取得しておくことにより、休車時の出力電圧値を取得しさえすれば、当該LiCセル20を搭載する建設機械を休車させておくことのできる期間を算出することが可能になる。なお、式(7)において、抵抗値R(V)に替えて、出力電圧値Vと出力電圧値Vi+1の抵抗値の平均値である{R(V)+R(Vi+1)}/2を適用してもよいし、出力電圧値Vi+1の場合の抵抗値R(Vi+1)を適用するようにしてもよい。
【0056】
上記の実施形態において、評価装置10の出力電圧測定部14は、タイマが計測する一定時間ごとにLiCセル20の出力電圧を測定するようにしている。そのため、消費電荷量算出部15は、例えば、出力電圧測定部14が、一定の時間間隔である時刻t、時刻t、時刻t、時刻tにおいて出力電圧を測定した場合、初回に時刻tと時刻tの間の消費電荷量を算出し、2回目に時刻tと時刻tの間の消費電荷量を算出し、3回目に時刻tと時刻tの間の消費電荷量を算出することになる。これに対して、消費電荷量算出部15は、初回に時刻tと時刻tの間の消費電荷量を算出し、2回目に時刻tと時刻tの間の消費電荷量を算出するというように、出力電圧測定部14が出力電圧を測定した時刻であって、時系列上で隣接する任意の2時点の間に消費される消費電荷量を算出するようにしてもよい。また、出力電圧測定部14は、一定時間ごとにLiCセル20の出力電圧を測定するのではなく、任意に定める時間間隔でLiCセル20の出力電圧を測定するようにしてもよい。
【0057】
上記の実施形態において、評価装置10の自己放電特性算出部16は、出力電圧値Vと、算出した漏れコンダクタンス値とを対応付けて自己放電特性を算出するようにしている。図5(a)及び図6(a)のLiCセル20の出力電圧の時間変化は、説明の便宜上、時刻tの出力電圧値Vと、時刻tの出力電圧値Vとの差が大きくなるように示しているが、実際には、出力電圧値Vと、出力電圧値Vとの差は、それほど大きな差にはならない。そのため、自己放電特性算出部16は、出力電圧値Vと、算出した漏れコンダクタンス値とを対応付けて自己放電特性を算出するようにしてもよいし、出力電圧値Vと、出力電圧値Vの平均値と、算出した漏れコンダクタンス値とを対応付けて自己放電特性を算出するようにしてもよい。このようにしても、図7に示す自己放電特性のグラフと、ほぼ同一のグラフが得られることになる。
【0058】
上記の実施形態において、評価装置10は、LiCセル20に接続する外部負荷として、外部抵抗素子12を備えている。これに対して、評価装置10は、外部抵抗素子12に替えて、定電流負荷などの他の外部負荷を備えるようにしてもよい。ただし、他の外部負荷にした場合、式(3)を、他の外部負荷の種類に応じた式に変更する必要がある。
【0059】
上記の実施形態において、評価装置10は、変化特性測定部11を備えている。これに対して、評価装置10が、変化特性測定部11を備えず、評価装置10の外部に備えられる装置が、変化特性測定部11を備え、当該変化特性測定部11が算出する関数f(V)を予め記憶部13に記憶させるようにしてもよい。
【0060】
上記の実施形態において、評価装置10は、表示部17を備えている。これに対して、評価装置10が、表示部17を備えず、評価装置10の外部に備えられる表示装置に接続し、自己放電特性算出部16が算出した自己放電特性を示すデータを表示装置に出力して、表示装置に自己放電特性を表示させるようにしてもよい。
【0061】
上記した実施形態に係る評価装置10は、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)等のコンピュータと、コンピュータの周辺回路や周辺装置等のハードウェアを用いて構成することができる。そして、評価装置10は、ハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、変化特性測定部11、記憶部13、出力電圧測定部14、消費電荷量算出部15、自己放電特性算出部16、及び表示部17を備える。
【0062】
なお、評価装置10は、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて構成されていてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0063】
(LiCセルの製造方法)
次に、図9を参照しつつLiCセル20を製造する方法について説明する。セル組立工程において、LiC21に出力端子などの電極を接続してLiCセル20を組み立てる工程が行われる(ステップSa1)。エージング工程では、セル組立工程において組み立てられたLiCセル20に対して初期充電を行った後、高温環境で、長時間放置する工程が行われる(ステップSa2)。放置工程では、エージング工程後のLiCセル20を、適宜定める温度環境で、適宜定める時間、放置する工程が行われる(ステップSa3)。
【0064】
検査工程では、少なくとも上記した評価装置10を用いてLiCセル20の自己放電特性を算出して、LiCセル20の自己放電特性を評価する工程が行われる。例えば、上記したように、自己放電特性から特定できる復帰電圧に基づいて、LiCセル20の異常判定を行うなどの評価を行うようにしてもよい。また、検査工程では、それ以外に、LiCセル20の内部短絡の有無の検査など各種の検査の工程が行われる(ステップSa4)。
【0065】
組セル組立工程では、ステップSa1~Sa4の各工程を経た複数のLiCセル20を組み合わせて1つの組セルにする工程が行われる。組セル工程では、例えば、ステップSa4の検査工程において取得した複数のLiCセル20ごとの自己放電特性が、予め定められる所定の特性の範囲内の特性であるLiCセル20を複数選択し、選択した複数のLiCセル20を組み合わせて1つの組セルにすることが行われる。ここで、予め定められる所定の特性の範囲内とは、例えば、平均的な特性の範囲内である(ステップSa5)。一般に、複数のLiCセル20を組み合わせて1つの組セルにした場合、最も自己放電特性が劣るLiCセル20のために、組セル全体の性能が低下する。そのため、上記のように、自己放電特性が平均的な特性の範囲内の特性であるLiCセル20を組み合わせることで、組セル全体の性能を、組み合わせる前の複数のLiCセル20の性能程度に維持することが可能になる。
【0066】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0067】
例えば、上記したLiCセル20が搭載される建設機械は、例えば、油圧ショベルであるとしているが、これに限られない。例えば、ダンプトラック、ブルドーザ、ホイルローダなどの他の建設機械であってもよい。
【0068】
また、上記実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…自己放電特性評価システム 10…評価装置 11…変化特性測定部 12…外部抵抗素子 13…記憶部 14…出力電圧測定部 15…消費電荷量算出部 16…自己放電特性算出部 17…表示部 19…算出処理部 20…LiCセル 21…LiC 22…内部可変抵抗成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10