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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137604
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ロードセル
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01L1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043871
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000147833
【氏名又は名称】株式会社イシダ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友厚
(57)【要約】
【課題】温度感度特性の向上が図れるロードセルを提供する。
【解決手段】ロードセル1は、起歪体10と、起歪体10に設けられる第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4を含んで構成されているブリッジ回路Cと、ブリッジ回路Cに電圧を印加する配線L1に設けられると共に、少なくとも銅を含有する第一感温抵抗器R6と、配線L2に設けられると共に、第一感温抵抗器R6とは素材又は素材の含有比率が異なる第二感温抵抗器R7と、を備え、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.12倍以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起歪体と、
前記起歪体に設けられる複数の歪みゲージを含んで構成されているブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路に電圧を印加する配線に設けられると共に、少なくとも銅を含有する第一感温抵抗と、
前記配線に設けられると共に、前記第一感温抵抗とは素材又は素材の含有比率が異なる第二感温抵抗と、を備え、
前記第一感温抵抗の抵抗値は、前記第二感温抵抗の抵抗値の1.12倍以上である、ロードセル。
【請求項2】
前記第一感温抵抗の抵抗値は、前記第二感温抵抗の抵抗値の1.32倍以上である、請求項1に記載のロードセル。
【請求項3】
前記第一感温抵抗の抵抗値は、前記第二感温抵抗の抵抗値の5.76倍以下である、請求項1又は2に記載のロードセル。
【請求項4】
前記第一感温抵抗の抵抗値は、前記第二感温抵抗の抵抗値の3.52倍以下である、請求項3に記載のロードセル。
【請求項5】
前記第二感温抵抗は、ニッケル、アルミニウム、金、コバルト、タンタル、鉄、白金、の少なくとも一つを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のロードセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロードセルとして、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のロードセルは、起歪体と、起歪体に設けられる複数の歪みゲージを含んで構成されているブリッジ回路と、ブリッジ回路に電圧を印加する配線に設けられると共に銅からなる第一感温抵抗と、上記配線に設けられると共にニッケルからなる第二感温抵抗と、を備えている。ロードセルでは、第一感温抵抗及び第二感温抵抗によって、出力電圧の温度依存性における一次成分及び二次成分を補正し、温度感度を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-165606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ロードセルでは、第一感温抵抗の抵抗値と第二感温抵抗の抵抗値との比が1:1(第一感温抵抗の抵抗値/第二感温抵抗の抵抗値=1.0)となるように設計されていた。このように、第一感温抵抗の抵抗値と第二感温抵抗の抵抗値とが同等の構成では、基準温度(例えば、20℃)に対して低温(例えば、-10℃)である場合と高温(例えば、50℃)である場合とにおいて、二次成分の存在によって温度感度(ppm/℃)に差が生じる。低温と高温との間で温度感度に差が生じると、低温側の温度感度と高温側の温度感度とを同時に補正することが困難になる。また、スパン調整を行った基準温度と、ロードセル使用時の温度(高温又は低温)との差が大きい場合に、使用時の温度において著しく温度感度が大きくなる。これらのことから、広い温度範囲で出力電圧の温度依存性を低減させることができない。温度感度の更なる向上を図るためには、広い温度範囲において出力電圧の温度依存性を低減させる必要がある。
【0005】
本発明の一側面は、温度感度特性の向上が図れるロードセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願出願人は、上記課題に対する鋭意研究を重ねる中で、第一感温抵抗の抵抗値と第二感温抵抗の抵抗値との比を適切な値に設定することにより、低温時と高温時との温度感度の差を小さくすることができ、温度感度特性が向上することを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものである。
【0007】
本発明の一側面に係るロードセルは、起歪体と、起歪体に設けられる複数の歪みゲージを含んで構成されているブリッジ回路と、ブリッジ回路に電圧を印加する配線に設けられていると共に、少なくとも銅を含有する第一感温抵抗と、配線に設けられていると共に、第一感温抵抗とは素材又は素材の含有比率が異なる第二感温抵抗と、を備え、第一感温抵抗の抵抗値は、第二感温抵抗の抵抗値の1.12倍以上である。
【0008】
本願出願人は、第二感温抵抗の抵抗値が高いと、第二感温抵抗による二次成分の補正が過剰に機能することを見出した。第二感温抵抗によって二次成分が過剰に補償されると、二次成分の正負が逆転した二次成分が依然として存在し、広い温度範囲において出力電圧の温度依存性を小さくすることができない。そこで、本発明の一側面に係るロードセルでは、第一感温抵抗の抵抗値を、第二感温抵抗の抵抗値の1.12倍以上とした。このように、ロードセルでは、第一感温抵抗の抵抗値を、第二感温抵抗の抵抗値よりも高く設定している。言い換えれば、第二感温抵抗の抵抗値を、第一感温抵抗の抵抗値よりも低く設定している。これにより、ロードセルでは、第二感温抵抗による二次成分の過剰な補正を抑制でき、出力電圧の一次成分及び二次成分を適切に補正した上で、低温から高温にかけた広い温度範囲において、出力電圧の温度依存性を低減させることができる。したがって、ロードセルでは、温度感度特性の向上を図ることができる。その結果、ロードセルでは、計量精度の向上が図れる。
【0009】
一実施形態においては、第一感温抵抗の抵抗値は、第二感温抵抗の抵抗値の1.32倍以上であってもよい。この構成では、低温時と高温時との温度感度の差をより一層小さくすることができる。したがって、温度感度特性の向上をより一層図ることができる。
【0010】
一実施形態においては、第一感温抵抗の抵抗値は、第二感温抵抗の抵抗値の5.76倍以下であってもよい。この構成では、第二感温抵抗によって二次成分を適切に補正することができる。
【0011】
一実施形態においては、第一感温抵抗の抵抗値は、第二感温抵抗の抵抗値の3.21倍以下であってもよい。この構成では、第二感温抵抗によって二次成分を適切に補正することができる。
【0012】
一実施形態においては、第二感温抵抗は、ニッケル、アルミニウム、金、コバルト、タンタル、鉄、白金の少なくとも一つを含有していてもよい。この構成では、第二感温抵抗によって二次成分を適切に補正することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、温度感度特性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ロードセルのブリッジ回路を示す図である。
図2図2は、ロードセルの起歪体を示す図である。
図3図3は、実施例1に係るロードセルのシミュレーションの結果を示す表である。
図4図4は、実施例1に係るロードセルのシミュレーションの結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例2に係るロードセルのシミュレーションの結果を示す表である。
図6図6は、実施例2に係るロードセルのシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[ロードセルの構成]
図1及び図2に示されるように、ロードセル1は、起歪体10と、ブリッジ回路Cと、第一感温抵抗器(第一感温抵抗)R6及び第二感温抵抗器(第二感温抵抗)R7と、を備える。
【0017】
図2に示されるように、起歪体10は、直方体形状を呈する金属ブロックである。起歪体10は、ロバーバル型(平行四辺形型)の形状を呈している。起歪体10は、アルミ合金、ステンレス等の金属によって形成された弾性体である。起歪体10は、一対の主面(図示省略)と、主面を連結する4つの側面10a,10b,10c,10dを有する。起歪体10では、例えば、側面10cは、組合せ計量装置等のケースに固定される固定端であり、側面10dは、荷重が付与される自由端である。
【0018】
起歪体10には、貫通部12が設けられている。貫通部12は、起歪体10の一対の主面を貫通して形成されている。貫通部12は、略H字状を呈している。具体的には、貫通部12は、一対の側面10a,10bの対向方向を長手方向とする2つの第一部分及び第二部分と、第一部分と第二部分との間に位置し、第一部分及び第二部分よりも上記対向方向の寸法が小さい第三部分と、により形成されている。
【0019】
起歪体10には、第一ノッチ部14a、第二ノッチ部14b、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dが設けられている。第一ノッチ部14a、第二ノッチ部14b、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dは、起歪体10において、薄肉の部分である。第一ノッチ部14a及び第二ノッチ部14bは、側面10aと貫通部12との間の部分である。第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dは、側面10bと貫通部12との間の部分である。
【0020】
図3に示されるように、ブリッジ回路Cは、2つの入力端子T1,T2と、2つの出力端子T3,T4と、を有している。ブリッジ回路Cの2つの出力端子T3,T4間の出力電圧(eout)は、制御部(図示省略)に出力される。具体的には、出力端子T3,T4間の出力電圧は、フィルタ処理等が行われて、物品の計量値を示す信号として出力される。
【0021】
ブリッジ回路Cは、第一歪みゲージR1と、第二歪みゲージR2と、第三歪みゲージR3と、第四歪みゲージR4と、を含んで構成されている。第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4は、例えば、抵抗箔等の抵抗体が電気絶縁物(例えば、ポリイミド樹脂)上に配置されて構成されている。抵抗体は、例えば、ニッケルクロム合金等の金属で形成されている。第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4では、歪み量に応じて抵抗変化が生じる。第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4は、ブリッジ抵抗Rを構成している。
【0022】
図2に示されるように、第一歪みゲージR1は、起歪体10の側面10aに配置されている。第一歪みゲージR1は、側面10aにおいて、第一ノッチ部14aに配置されている。第二歪みゲージR2は、起歪体10の側面10aに配置されている。第二歪みゲージR2は、側面10aにおいて、第二ノッチ部14bに配置されている。第一歪みゲージR1と第二歪みゲージR2とは、側面10aにおいて、所定の間隔をあけて配置されている。
【0023】
第三歪みゲージR3は、起歪体10の側面10bに配置されている。第三歪みゲージR3は、側面10bにおいて、第三ノッチ部14cに配置されている。第四歪みゲージR4は、起歪体10の側面10bに配置されている。第四歪みゲージR4は、側面10bにおいて、第四ノッチ部14dに配置されている。第三歪みゲージR3と第四歪みゲージR4とは、側面10bにおいて、所定の間隔をあけて配置されている。
【0024】
図1に示されるように、ブリッジ回路Cには、温度零補償素子R5が設けられている。温度零補償素子R5は、ブリッジ回路Cの零点の温度変化に伴うずれを補償する素子である。温度零補償素子R5は、ブリッジ回路Cの温度零を補償するように、抵抗値が設定されている。温度零補償素子R5は、例えば、出力端子T3と第三歪みゲージR3との間に接続されている。温度零補償素子R5は、例えば、起歪体10の側面10bに配置されている。温度零補償素子R5は、例えば、第三歪みゲージR3と第四歪みゲージR4との間に配置されている。
【0025】
ブリッジ回路Cの入力端子T1及び入力端子T2には、電源Vが接続される。入力端子T1と電源Vとを接続する配線L1には、第二感温抵抗器R7が接続されている。入力端子T2と電源Vとを接続する配線L2には、第一感温抵抗器R6が接続されている。配線L1,L2は、ブリッジ回路Cに電圧を印加する配線である。
【0026】
第一感温抵抗器R6は、ロードセル1の温度感度を補償する素子である。第一感温抵抗器R6は、銅を材料として含んで形成されている。第一感温抵抗器R6は、銅の他に、他の物質が含まれて形成されていてもよい。図2に示されるように、第一感温抵抗器R6は、起歪体10の側面10bに配置されている。第一感温抵抗器R6は、第三歪みゲージR3と第四歪みゲージR4との間に配置されている。
【0027】
第二感温抵抗器R7は、ロードセル1の温度感度を補償する素子である。第二感温抵抗器R7は、ニッケルを材料として含んで形成されている。第二感温抵抗器R7は、第一感温抵抗器R6とは素材又は素材の含有比率が異なる。第二感温抵抗器R7は、ニッケルの他に、他の物質が含まれて形成されていてもよい。
【0028】
第二感温抵抗器R7は、起歪体10の側面10aに配置されている。第二感温抵抗器R7は、第一歪みゲージR1と第二歪みゲージR2との間に配置されている。なお、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7は、第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4と可能な限り温度を等しくするという観点では、第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4の位置(すなわち、第一ノッチ部14a、第二ノッチ部14b、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dの位置)の近くに設置されるのが好ましく、起歪体10の変形に影響を与えないという観点では、第一ノッチ部14a、第二ノッチ部14b、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dの位置を避けるのが好ましいため、第一ノッチ部14a及び第二ノッチ部14bの間と、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dの間に配置されている。これにより、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の物理的な設置による計量精度の低下を生じさせずに、出力電圧の温度変化曲線を適切に補正することができる。
【0029】
本実施形態では、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.12倍以上である。好ましくは、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.32倍以上である。第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の5.76倍以下である。好ましくは、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の3.52倍以下である。すなわち、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.32倍以上3.52倍以下であることが好ましい。
【0030】
[シミュレーション]
続いて、ロードセル1のシミュレーション結果について説明する。図3は、実施例1に係るロードセル1のシミュレーション結果を示す表である。図4は、実施例1に係るロードセル1のシミュレーション結果を示すグラフである。図5は、実施例2に係るロードセル1のシミュレーション結果を示す表である。図6は、実施例2に係るロードセル1のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0031】
実施例1に係るロードセル1と実施例2に係るロードセル1とでは、定格荷重が異なっている。実施例1に係るロードセル1は、例えば、定格荷重が6kgに設定されている。実施例2に係るロードセル1は、例えば、定格荷重が25kgに設定されている。実施例1及び実施例2に係るロードセル1は、起歪体10及びブリッジ回路Cの構造は同じである。
【0032】
図3及び図5では、「Cu」は、第一感温抵抗器R6の抵抗値を示している。「Ni」は、第二感温抵抗器R7の抵抗値を示している。「Cu/Ni」は、第一感温抵抗器R6と第二感温抵抗器R7との抵抗値の比率を示している。「LL」は、基準温度(例えば、20℃)に対してロードセル1の周囲温度が低温(例えば、-10℃)に変化した場合の温度感度(ppm/℃)を示している。「HH」は、基準温度に対してロードセル1の周囲温度が高温(例えば、50℃)に変化した場合の温度感度(ppm/℃)を示している。「|LL-HH|」は、低温における温度感度と高温における温度感度との差の絶対値(ppm/℃)である。
【0033】
図4及び図6では、横軸は、第一感温抵抗器R6と第二感温抵抗器R7との比率(Cu/Ni)を示しており、縦軸は、温度感度(ppm/℃)を示している。図4及び図6では、「白丸」は、低温の温度感度(ppm/℃)を示しており、「黒丸」は、高温の温度感度(ppm/℃)を示している。
【0034】
シミュレーションは、公知の方法を用いることができる。シミュレーションは、例えば、以下の式を用いることができる。基準温度(例えば、20℃)におけるロードセル1の出力電圧をeout 、温度tでのロードセル1の出力電圧をeout とした場合、eout とeout との関係は、以下の式(1)で示される。
【数1】

上記式(1)において、Rは、ブリッジ回路Cの総抵抗値であり、R は、基準温度での第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の抵抗値である。ΔTは、温度t℃と基準温度との差である。αΔT+βΔTは、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient of Resistance)を表している。一次温度係数α及び二次温度係数βは、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の固有値である。
【0035】
銅を材料として含む第一感温抵抗器R6の抵抗値RM(Cu) 図3及び図4におけるCuの値)と、第一感温抵抗器R6の固有値α(Cu)及びβ(Cu)と、ニッケルを材料として含む第二感温抵抗器R7の抵抗値RM(Ni) 図3及び図4におけるNiの値)と、第二感温抵抗器R7の固有値α(Ni)及びβ(Ni)とを用いた場合、eout は、以下の式(2)から求めることができる。
【数2】
【0036】
基準温度でのロードセル1の出力電圧であるeout を実測することにより、eout を求めることができる。そして、得られたeout を用いることにより、温度感度S(「LL」又は「HH」)を、以下の式(3)から求めることができる。
【数3】
【0037】
ここで、第一感温抵抗器R6の抵抗値及び第二感温抵抗器R7の抵抗値を変化させた場合の温度感度についてシミュレーションを行った。ロードセル1に関してシミュレーションを行ったものが後述の実施例1及び実施例2である。図3及び図4において、LLは、基準温度を20℃、t=-10℃(ΔT=-30℃)として算出した温度感度Sである。HHは、基準温度を20℃、t=50℃(ΔT=30℃)として算出した温度感度Sである。|LL-HH|は、LLとHHとの差の絶対値であり、温度感度の二次成分を適切に補正するほど、0に近づけることができる。すなわち、|LL-HH|が小さいほど、低温から高温にかけて、基準温度から離れた広い温度範囲において、出力電圧の二次成分による温度依存性を低減させることができる。
【0038】
更に、鋭意検討の結果、次のことが分かった。第一感温抵抗器R6の抵抗値RM(Cu) と第二感温抵抗器R7の抵抗値RM(Ni) とは、各々独立して決めることができるため、ある抵抗値比Cu/Ni(RM(Cu) /RM(Ni) )を得るための抵抗値の組み合わせ(RM(Cu) 及びRM(Ni) )は一意ではない。しかしながら、同じ抵抗値比Cu/Niとなる範囲で抵抗値の組み合わせ(RM(Cu) 及びRM(Ni) )を変化させた場合、LLを改善すればHHが悪化し、HHを改善すればLLが悪化する関係となることが分かった。そして、抵抗値の組み合わせ(RM(Cu) 及びRM(Ni) )をどのように調整しても、ある抵抗値比Cu/Niにおける温度感度の差の絶対値|LL-HH|は大きく変わらないことが分かった。これらのことから、|LL-HH|が小さくなる抵抗値比Cu/Niの範囲をシミュレーションにより求めた。
【0039】
図3に示されるように、実施例1に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が1.32である場合に、|LL-HH|が10ppm/℃未満(9.39)となる。実施例1に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が1.32未満(1.24)である場合には、|LL-HH|が10ppm/℃以上(10.04)となる。実施例1に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が5.76である場合に、|LL-HH|が10ppm/℃未満となる。実施例1に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が5.76よりも大きくなる(6.58)場合に、|LL-HH|が10ppm/℃以上(11.45)となる。実施例1に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が2.74である場合に、|LL-HH|が最も小さく(0.08ppm/℃)なる。
【0040】
図5に示されるように、実施例2に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が1.12である場合に、|LL-HH|が10ppm/℃未満(9.39)となる。実施例2に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が1.12未満(1.06)である場合には、|LL-HH|が10ppm/℃以上(10.04)となる。実施例2に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が3.52である場合に、|LL-HH|が10ppm/℃未満となる。実施例2に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が3.52よりも大きくなる(4.22)場合に、|LL-HH|が10ppm/℃以上(10.28)となる。実施例2に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値と第二感温抵抗器R7の抵抗値との比率が2.25である場合に、|LL-HH|が最も小さく(0.08ppm/℃)なる。
【0041】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値を、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.12倍以上としている。このように、ロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値を、第二感温抵抗器R7の抵抗値よりも高く設定している。言い換えれば、第二感温抵抗器R7の抵抗値を、第一感温抵抗器R6の抵抗値よりも低く設定している。これにより、ロードセル1では、第二感温抵抗器R7による二次成分の過剰な補正を抑制(|LL-HH|の値を小さく)でき、出力電圧(eout)の一次成分及び二次成分を適切に補正した上で、低温から高温にかけた広い温度範囲において、出力電圧(eout)の温度依存性を低減させることができる。具体的には、実施例1に係るロードセル1において、温度感度を10ppm/℃未満とすることができる。したがって、ロードセル1では、温度感度特性の向上を図ることができる。その結果、ロードセル1では、計量精度の向上が図れる。
【0042】
本実施形態に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の1.32倍以上であることが好ましい。この構成では、実施例1に係るロードセル1及び実施例2に係るロードセル1において、温度感度を10ppm/℃未満とすることができる。実施例1に係るロードセル1では、低温時と高温時との温度感度の差をより一層小さくすることができる。特に、実施例1に係るロードセル1では、温度感度特性の向上をより一層図ることができる。
【0043】
本実施形態に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の5.76倍以下である。この構成では、したがって、第二感温抵抗器R7によって二次成分を適切に補正することができる。実施例1に係るロードセル1において、温度感度を10ppm/℃未満とすることができる。
【0044】
本実施形態に係るロードセル1では、第一感温抵抗器R6の抵抗値は、第二感温抵抗器R7の抵抗値の3.21倍以下であることが好ましい。この構成では、第二感温抵抗器R7によって二次成分を適切に補正することができる。実施例1に係るロードセル1及び実施例2に係るロードセル1において、温度感度を10ppm/℃未満とすることができる。
【0045】
本実施形態に係るロードセル1では、第二感温抵抗器R7は、ニッケルを含有している。この構成では、第二感温抵抗器R7によって二次成分を適切に補正することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0047】
上記実施形態では、第一感温抵抗器R6が銅を含んで形成されている形態を一例に説明した。銅は、二次温度係数が小さい素材(材質)の一例である。しかし、第一感温抵抗器R6は、モリブデンを更に含んで形成されていてもよい。また、第二感温抵抗器R7がニッケルを含んで構成されている形態を一例に説明した。ニッケルは、二次温度係数が大きい素材(材質)の一例である。しかし、第二感温抵抗器R7は、ニッケルとともに、又はニッケルの代わりにアルミニウム、金、コバルト、タンタル、鉄、白金等の少なくとも一つを含んで構成されていてもよい。第二感温抵抗器R7は、金、アルミニウム、コバルト、タンタル、鉄、又は白金を含んで形成されていることが好ましく、金、アルミニウム、又は、コバルトを含んで形成されていることが更に好ましい。なお、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7が含むこれらの素材(材質)は、単体の金属であってもよいし、合金、その他不純物が混じったものであってもよい。
【0048】
上記実施形態では、電源Vと入力端子T1との間に第一感温抵抗器R6が接続されており、電源Vと入力端子T2との間に第二感温抵抗器R7が接続されている形態を一例に説明した。しかし、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7は、他の位置に設けられていてもよい。例えば、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の両方が、電源Vと入力端子T1との間、又は、電源Vと入力端子T2との間に接続されていてもよい。
【0049】
上記実施形態では、第一感温抵抗器R6が、起歪体10の側面10aにおいて、第一歪みゲージR1と第二歪みゲージR2との間に配置されており、第二感温抵抗器R7が、起歪体10の側面10bにおいて、第三歪みゲージR3と第四歪みゲージR4との間に配置されている形態を一例に説明した。しかし、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7は、一対の側面10c,10dの対向方向において、側面10aの第一歪みゲージR1及び第二歪みゲージR2の外側に配置されていてもよい。また、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7は、一対の側面10c,10dの対向方向において、側面10bの第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4の外側に配置されていてもよい。第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の各々は、第一ノッチ部14a、第二ノッチ部14b、第三ノッチ部14c及び第四ノッチ部14dの(起歪体10の変形に係る)直上を避けた位置、かつ、第一歪みゲージR1、第二歪みゲージR2、第三歪みゲージR3及び第四歪みゲージR4に近接した位置であればよい。したがって、第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7の各々は、ロードセル1の主面に取り付けられてもよい。
【0050】
第一感温抵抗器R6及び第二感温抵抗器R7のそれぞれは、抵抗値を分割して配置されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ロードセル、10…起歪体、C…ブリッジ回路、L1,L2…配線、R6…第一感温抵抗器(第一感温抵抗)、R7…第二感温抵抗器(第二感温抵抗)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6