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特開2023-137637樹脂改質剤および紫外線吸収剤、並びにこれらを含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137637
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】樹脂改質剤および紫外線吸収剤、並びにこれらを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230922BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230922BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230922BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20230922BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20230922BHJP
   C08H 7/00 20110101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D201/00
C09K3/00 104Z
C09D7/63
C09D7/48
C09D5/32
C08H7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043913
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】三村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】今井 朋美
(72)【発明者】
【氏名】焼田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】二村 晴美
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA252
4J038CG141
4J038KA12
4J038NA03
4J038NA19
4J038NA27
(57)【要約】
【課題】特別な分散手段を用いなくとも樹脂に対して溶解しうる、天然物由来の樹脂改質剤および紫外線吸収剤を提供する。
【解決手段】グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を、樹脂改質剤または紫外線吸収剤として用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、樹脂改質剤。
【請求項2】
前記アルキレンオキシドがエチレンオキシドを含む、請求項1に記載の樹脂改質剤。
【請求項3】
前記グリコールリグニンが、スギに由来する化学構造を有するものである、請求項1または2に記載の樹脂改質剤。
【請求項4】
前記グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物におけるフェノール性水酸基の含有量が、1g当たり1.0mmol未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項5】
前記グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物におけるリグニン含有質量に対するオキシアルキレン鎖の含有質量の比が、0.4~5.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項6】
グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、紫外線吸収剤。
【請求項7】
臨界波長が360nm以上である、請求項6に記載の紫外線吸収剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂改質剤または請求項6もしくは7に記載の紫外線吸収剤と、樹脂と、を含む、樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂が、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群から選択される1種以上である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項8または9に記載の樹脂組成物からなる、コーティング組成物。
【請求項11】
請求項8または9に記載の樹脂組成物からなる、成形体。
【請求項12】
請求項8もしくは9に記載の樹脂組成物または請求項10に記載のコーティング組成物からなる、塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂改質剤および紫外線吸収剤、並びにこれらを含む樹脂組成物に関する。また、本発明は、当該樹脂組成物からなるコーティング組成物や成形体、塗膜などに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽などから降り注ぐ紫外線は高分子材料が劣化する原因の一つであり、紫外線による劣化を防ぐために、紫外線吸収剤を用いて高分子材料を保護することは重要である。また、紫外線は人体にも有害であるため、サングラスやサンスクリーン剤等で人体を保護することも肝要である。これらのことから、紫外線吸収剤に対する需要は日に日に高まっている。
【0003】
従来、一般的な紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系化合物などから構成されるものが知られている。例えば、特許文献1~特許文献3には、塗装面の太陽光からの保護を目的として、塗料用組成物等の樹脂組成物にベンゾトリアゾール系化合物を添加する技術が開示されている。
【0004】
一方、ベンゾトリアゾール系化合物は、有害性が懸念される物質でもある。また、世界的な化学物質規制強化に従い、天然物など環境にやさしい素材から紫外線吸収剤を開発することが望まれている。このような天然物由来の紫外線吸収剤として、低変性リグニンを有効成分とする紫外線吸収剤などが報告されている(例えば、特許文献4を参照)。なお、特許文献4に記載されているように、リグニンはヒドロキシフェニルプロパンからなる基本単位が縮合して生成した高分子化合物であり、木材中に細胞壁成分として通常20~30%程度存在している。また、リグニンはπ共役が連なった構造を有しており、芳香族の主鎖構造と、有機ラジカルとなりうるフェノール性水酸基を有することから、紫外線吸収能を有する。
【0005】
ところで、特許文献5には、新規なリグニン誘導体としてグリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させた化合物であるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物が開示されている。そして、この付加物は水や水溶性有機溶媒、非水溶性有機溶媒(例えば芳香族系有機溶剤)への相溶性を有することから、無機および有機顔料、農薬、油田掘削用汚泥等の被分散体の分散性を向上させうる分散剤として好適に用いられることも開示されている。なお、特許文献5に開示の用途(分散剤)は樹脂の改質を目的とするものではない。また、上記付加物の紫外線吸収能についても特に触れられておらず、上記付加物が各種の樹脂に対して優れた溶解性を示すことについても何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-213941号公報
【特許文献2】特開2012-246344号公報
【特許文献3】特開2019-202235号公報
【特許文献4】特開2020-204005号公報
【特許文献5】特開2021-147409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述した特許文献4に記載の低変性リグニンは水や有機溶媒への溶解性が低い。このため、当該低変性リグニンを樹脂改質剤または紫外線吸収剤として樹脂に添加して樹脂組成物を得る際には、特許文献4に開示されているように、水等の溶媒に分散させた分散液の状態でこれを添加する必要がある。また、このように低変性リグニンを溶媒に分散させて分散液を得るためには、特殊な撹拌機や装置、分散剤等の分散手段を利用する必要があり、操作が煩雑となり樹脂組成物の製造に要する時間や費用も増大する。
【0008】
そこで本発明は、特別な分散手段を用いなくとも樹脂に対して溶解しうる、天然物由来の樹脂改質剤および紫外線吸収剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特許文献5に開示されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を樹脂改質剤として用いることによって、上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態によれば、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、樹脂改質剤が提供される。
【0011】
また、本発明の他の形態によれば、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、紫外線吸収剤もまた、提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特別な分散手段を用いなくとも樹脂に対して溶解しうる、天然物由来の樹脂改質剤および紫外線吸収剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】後述する実施例の欄において、乳化重合ポリマーへのグリコールリグニン、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物およびソーダリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性を評価した際の溶解性の様子を示す写真である。
図2】後述する実施例の欄において、溶液重合ポリマーへのグリコールリグニン、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物およびソーダリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性を評価した際の溶解性の様子を示す写真である。
図3】後述する実施例の欄において、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンの溶液重合ポリマー溶液およびグリコールリグニンエチレンオキシド付加物の溶液重合ポリマー溶液について、200~400nmの波長範囲で吸光度を測定して得られた吸収スペクトルをブランクの結果とともに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%の条件で測定する。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリレート」との語は、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含し、「(メタ)アクリルアミド」との語は、アクリルアミドおよびメタクリルアミドの双方を包含する。
【0016】
また、本明細書において、ある構成単位がある単量体に「由来する」とされる場合には、当該構成単位が、対応する単量体の有する重合性不飽和二重結合の一方の結合の切断により生じる2価の構成単位であることを意味する。
【0017】
[樹脂改質剤および紫外線吸収剤]
本発明の一形態は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、樹脂改質剤である。また、本発明の他の形態は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加されたグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる、紫外線吸収剤である。
【0018】
以下ではまず、本発明に係る樹脂改質剤および紫外線吸収剤の有効成分であるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物(以下、単に「本発明の付加物」とも称する)について説明する。
【0019】
(グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物)
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドが付加された化合物である。その詳細については、例えば特許文献5(特開2021-147409号公報)の開示が参照されうる。
【0020】
グリコールリグニンとは、リグノセルロースをグリコール溶媒により酸触媒存在下、加溶媒分解して得られる改質リグニンである(特開2017-197517号公報、Takata et al,BioResources 11(2),4446-4458(2016)、T.T.Nge et al,ACS Sustainable Chem.Eng.2018,6,7841-7848などを参照)。
【0021】
ここで、リグノセルロースとは、木本または草本系バイオマスの主体であり、セルロースやヘミセルロースといった多糖性ポリマーとフェノール性ポリマーであるリグニンとから構成されている。リグノセルロースが由来する植物の種類としては、スギ、モミ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹;稲藁、穀物、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等が挙げられる。化学構造の均一な材料を得るという観点からは針葉樹由来の木材が好ましい。また、リグノセルロースとしては、木本片または草本片、木本チップまたは草本チップ、木本粉末または草本粉末といった種々の形態のものを用いることができるが、粉末形態であることが好ましい。
【0022】
リグノセルロースからグリコールリグニンへの具体的な製造方法については、特開2017-197517号公報(図1を参照)、Takata et al,BioResources 11(2),4446-4458(2016)(図1を参照)、T.T.Nge et al,ACS Sustainable Chem.Eng.2018,6,7841-7848(Experimental Sectionを参照)に開示される方法などにより製造できる。
【0023】
例えば、リグノセルロースであるスギ木粉を、グリコール(例えばポリエチレングリコール200)を溶媒として、酸触媒(例えば所定触媒量の硫酸;触媒量としては好ましくは0.1~2.0質量%、より好ましくは0.2~1.0質量%)存在下に、加熱処理(例えば、120~180℃、より好ましくは130~140℃の温度で、0.5~4時間、より好ましくは1~3時間、さらに好ましくは1~1.5時間)を施す。
【0024】
その後、中和工程(例えば、所定濃度の水酸化ナトリウム溶液、好ましくはpH10.5以上に調製)を経て、パルプ残渣画分(主成分:セルロース、ヘミセルロース)を分離し、可溶性画分を得る。次いで、当該可溶性画分を酸性に戻して(例えば、所定濃度の硫酸を添加することにより)、生じる沈殿を常法により分離・洗浄・乾燥することでグリコールリグニンを得ることができる。
【0025】
加溶媒分解に用いられる蒸解溶媒としてのグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリンおよびポリグリセリンからなる群から選択される1種以上を用いることができ、ポリエチレングリコール中の少なくとも1のオキシエチレン基がオキシプロピレン基に置き換わっていてもよく、ポリプロピレングリコール中の少なくとも1のオキシプロピレン基がオキシエチレン基に置き換わっていてもよい。
【0026】
用いる蒸解溶媒が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の重合体の場合、得られるグリコールリグニンの熱溶融性に応じて、これら重合体の分子量を選択することができる。例えば、蒸解溶媒としてポリエチレングリコールを選択する場合、重量平均分子量100~2000、より好ましくは重量平均分子量200~600のポリエチレングリコールを用いることができる。
【0027】
蒸解溶媒としてのグリコールの使用量は、リグノセルロース1質量部に対して、好ましくは2~10質量部であり、より好ましくは3~6質量部である
原料であるグリコールリグニンの化学構造については、一例として、T.T.Nge et al,ACS Sustainable Chem.Eng.2018,6,7841-7848の図2(Scheme 2)を参照することができる。これによれば、酸触媒下での加溶媒分解中に、リグノセルロース中のリグニンのベンジル位水酸基部位が、グリコール溶媒由来のグリコール鎖(例えば、(ポリ)エチレングリコール鎖)により置換される。その他、縮合(再重合)反応や、転移反応による新しい部分構造の形成も生じることが指摘されている。
【0028】
すなわち、リグニンには、フェノール性水酸基、ベンジル位水酸基、およびその他の水酸基が含まれているところ(例えば、横山 外3名,工業化学雑誌,1969,第72巻,第1号,p.353-358の表5を参照)、グリコールリグニンは、リグニン基本骨格中のベンジル位水酸基がグリコール鎖により置換された基本構造を有していることになる。
【0029】
ここでいうグリコール鎖とは、グリコール溶媒に直接由来するグリコール鎖のみならず、さらに2分子以上のグリコール溶媒の重縮合により鎖長延長されたグリコール鎖を含んでいてもよい。また、(ポリ)アルキレングリコール鎖とは、モノアルキレングリコールまたはジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールからなるグリコールの一方の末端水酸基が、リグニン骨格との間でエーテル結合したグリコール鎖のことを指す。
【0030】
ここで、グリコールリグニンおよびグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物について推定されている化学構造を以下に示す。グリコールリグニンにおいて、下記化学式におけるRは水酸基(-OH基(フェノール性水酸基))であり、R’はベンジル位水酸基がグリコール鎖により置換されたものである。
【0031】
【化1】
【0032】
本発明に係る樹脂改質剤または紫外線吸収剤の有効成分であるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、上記で説明したグリコールリグニンの、主としてフェノール性水酸基(R)にアルキレンオキシドが付加された構造を有する改質リグニンである。すなわち、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、ベンジル位にグリコールリグニン原料由来のグリコール鎖が置換されている(R’)とともに、さらにフェノール性水酸基(R)にアルキレンオキシド由来のグリコール鎖(すなわち(ポリ)アルキレングリコール鎖)を有するものと考えられる。ベンジル位に置換しているグリコールリグニン原料由来のグリコール鎖は、アルキレンオキシドによりさらに鎖長延長されていてもよい。なお、グリコールリグニンやそのアルキレンオキシド付加物の構造を一義的に特定することは不可能であるか、極めて困難であり実際的ではない。したがって、上述した化学構造はあくまでも現時点において推測されているものに過ぎず、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすことはない。
【0033】
このグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、アルカリ存在下に、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを反応させることにより製造される。詳しくは後述するが、アルキレンオキシドとしては、例えば炭素数2~18、より好ましくは炭素数2~8のアルキレンオキシドを用いることができる。より具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド(例えば、1,2-エポキシプロパン)、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、オクチレンオキシド等の脂環式エポキシド;スチレンオキシド、1,1-ジフェニルエチレノキシド等の芳香族エポキシドなどが例示されうる。
【0034】
樹脂改質剤(例えば、紫外線吸収剤)の用途に用いるという観点からは、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(1,2-ブチレンオキシドまたは2,3-ブチレンオキシド)が好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
【0035】
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物におけるフェノール性水酸基の含有量は、アルキレンオキシドによる改質の程度を示す一指標となりうるが、溶媒や樹脂への相溶性を向上させる観点からは、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物1g当たり1.0mmol未満であることが好ましく、0.5mmol未満であることがより好ましく、0.3mmol未満であることがさらに好ましい。なお、フェノール性水酸基の含有量の測定はイオン化示差スペクトル法に基づいて行うことができる。
【0036】
また、単位リグニン含有率(1質量%)当たりのグリコール鎖含有率(質量%)の比は、リグニンに導入されたグリコール鎖の量を示す一つの指標となるが、0.4~5.0が好ましく、0.8~4.0がより好ましく、1.5~3.0がさらに好ましい。このような範囲内の値とすることで、各種の溶媒や樹脂に対する溶解性に優れるため、好ましい。
【0037】
ここで、リグニン含有率(質量%)は、[280nmのUV吸収に基づくリグニン量(UVリグニン法)]の方法によって得られた値(UVリグニン率)である。また、グリコール鎖含有率(質量%)は、100質量%から前記リグニン含有率(質量%)および溶剤含有率(質量%)との合計(質量%)を差し引いて得られた値である。なお、溶剤含有率(質量%)とは、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物中に任意に含まれていてもよい溶剤の含有率である。この溶剤含有率は、例えば、グリコールリグニンに対してアルキレンオキシドを付加する際に、反応試薬として用いたアルキレンオキシドに由来する(ポリ)アルキレングリコール溶剤の含有率(質量%)や、反応溶媒として用いた溶剤(例えば、ジメチルアセトアミドなど)などの含有率(質量%)を合算した値である。そして、(ポリ)アルキレングリコール溶剤含有量は、Weibull法によって測定することができる。ここで、「(ポリ)アルキレングリコール」とは、モノアルキレングリコールおよびジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールを包含する概念として用いている。なお、上記溶剤含有率の具体的な値について特に制限はないが、好ましくは1~65質量%であり、より好ましくは5~60質量%であり、さらに好ましくは10~55質量%であり、いっそう好ましくは15~50質量%であり、特に好ましくは20~45質量%であり、最も好ましくは25~40質量%である。
【0038】
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の分子量は、例えば樹脂改質剤用途に用いるのに好適な範囲の重量平均分子量(Mw)として、好ましくは1,000~200,000であり、より好ましくは3,000~100,000であり、さらに好ましくは5,000~100,000である。重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、較正曲線作成用標準物質としてポリエチレンオキシドを用いた較正曲線より求めた値である。
【0039】
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、例えば特許文献5の段落「0027」~「0031」の記載を参照することにより製造されうる。
【0040】
(グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の用途)
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、例えば樹脂改質剤として用いられる。本明細書において、「樹脂改質剤」とは、樹脂と接触することにより当該樹脂の有する何らかの性質を改良するのに用いられる剤を意味する。また、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、例えば紫外線吸収剤としても有用である。この紫外線吸収剤は樹脂改質剤であってもよいし、樹脂と接触することなく用いられるものであってもよい。ただし、本発明の好ましい実施形態の一つは、樹脂改質剤としての紫外線吸収剤である。
【0041】
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、特別な分散手段を用いなくとも各種の樹脂に対して優れた溶解性を示す。このため、低コストで簡便に、樹脂に対して各種の機能性(例えば、紫外線吸収性能)を付与することができる。ここで、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を開示する特許文献5には、当該付加物がイオン交換水およびトルエンに対して高い溶解性を示したことが開示されている。しかしながら、この事実は、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物が各種の樹脂に対しても優れた溶解性を示すことが当業者に予測可能であったことを何ら意味しない。このことは、例えば特開2020-194171号公報の段落「0010」において、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系、サリシレート系等の従来の有機系紫外線吸収剤(これらはいずれも有機溶剤に可溶である)の多くがマトリックス樹脂との相溶性に制約があり、高濃度での均一な溶解が困難であったとされていることからも裏付けられる。言い換えれば、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物が特別な分散手段を用いなくとも各種の樹脂に対して優れた溶解性を示すことについては、本発明者が実際に実験を行ってみて初めて見出された知見であり、先行技術から当業者が合理的に予測することはできなかったことであるといえる。
【0042】
本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物が紫外線吸収剤として用いられる場合、当該紫外線吸収剤の臨界波長は、好ましくは360nm以上であり、より好ましくは361nm以上であり、さらに好ましくは362nm以上であり、特に好ましくは363nm以上であり、最も好ましくは364nm以上である。ここで、「臨界波長」とは、分光光度計を用いて測定した紫外線吸収スペクトルにおいて、その波長から低波長側の吸収スペクトルの面積が吸収スペクトルの面積全体の90%となる波長である。この臨界波長が大きいほどUV-A領域の紫外線を吸収する割合が高いことを意味する。一般に、紫外線は樹脂劣化の要因の一つとして知られているが、なかでもUV-A領域の紫外線(波長320~400nm)は樹脂の劣化に大きく関与している。したがって、UV-A領域の紫外線に対する吸収が大きい(つまり、臨界波長が大きい)ことは、樹脂劣化の防止に極めて有効な紫外線吸収剤であることを意味する。
【0043】
本発明において、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、樹脂改質剤または紫外線吸収剤として用いられる際に、帯電防止性、耐水性、耐候性等を有する他の樹脂改質剤や添加剤と混合されて使用されてもよい。
【0044】
[樹脂組成物]
本発明のさらに他の形態によれば、上述した形態に係る樹脂改質剤または紫外線吸収剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物が提供される。樹脂としては、熱可塑性樹脂または/および熱硬化性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。以下、各樹脂について説明する。なお、本明細書において、「樹脂」との語には、モノマー、オリゴマー、プレポリマーおよびポリマーが包含される。
【0045】
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂(環状オレフィン樹脂を含む)、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂など)、ポリスルホン樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂およびこれらの誘導体樹脂、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0046】
(メタ)アクリル樹脂の具体例としては、単官能(メタ)アクリルモノマーおよびその単独重合体または共重合体、多官能(メタ)アクリルモノマーおよびその単独重合体または共重合体、単官能または多官能(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0047】
単官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の炭素数1~10の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0048】
多官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0049】
前記(メタ)アクリルモノマーの単独重合体または共重合体の具体例としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体(AAS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。
【0050】
スチレン樹脂の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリ-α-メチルスチレン、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリロニトリル共重合体、ゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)等が挙げられる。
【0051】
オレフィン樹脂としては、オレフィンモノマーの単独重合体の他、オレフィンモノマーの共重合体、オレフィンモノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体が含まれる。オレフィンモノマーの具体例としては、例えば、鎖状オレフィン[エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどの炭素数2~20のα-オレフィンなど]、環状オレフィン[例えば、シクロペンテンなどの炭素数4~10のシクロアルケン;シクロペンタジエンなどの炭素数4~10のシクロアルカジエン;ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの炭素数7~20のビシクロアルケンまたは炭素数7~20のビシクロアルカジエン;ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの炭素数10~25のトリシクロアルケンまたはトリシクロアルカジエンなど]などが挙げられる。これらのオレフィンモノマーは、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。上記オレフィンモノマーのうち、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの炭素数2~4のα-オレフィンなどの鎖状オレフィンが好ましい。
【0052】
前記オレフィンモノマーと共重合可能な他の共重合性モノマーの具体例としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマー;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)など];ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;およびブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0053】
前記オレフィン樹脂のさらに具体的な例としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなど)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン三元共重合体などの鎖状オレフィン(特に炭素数2~4のα-オレフィン)の(共)重合体などが挙げられる。また、オレフィンモノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどの炭素数2~4のα-オレフィン)と脂肪酸ビニルエステルモノマーとの共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピオン酸ビニル共重合体など);鎖状オレフィンと(メタ)アクリルモノマーとの共重合体[鎖状オレフィン(特に炭素数2~4のα-オレフィン)と(メタ)アクリル酸との共重合体(例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマーなど);鎖状オレフィン(特に炭素数2~4のα-オレフィン)とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(例えば、エチレン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体など);など];鎖状オレフィン(特に炭素数2~4のα-オレフィン)とジエンとの共重合体(例えば、エチレン-ブタジエン共重合体など);エポキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体)、カルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン-無水マレイン酸共重合体)、エポキシおよびカルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン-無水マレイン酸-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体)などの変性ポリオレフィン;オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレンゴムなど)などが挙げられる。
【0054】
ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、(イ)ジカルボン酸またはその誘導体およびジオールまたはその誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体、ならびに(ハ)ラクトンからなる群より選択される少なくとも1種を重縮合してなる重合体または共重合体が挙げられる。
【0055】
上記ジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。上記ジオールまたは誘導体としては、例えば、炭素数2~20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200~100000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、芳香族ジオキシ化合物、すなわち4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこれらの誘導体などが挙げられる。上記ラクトンとしてはカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5-オキセパン-2-オンなどが挙げられる。また、前記ポリエステル樹脂には、ポリエステルエラストマーも含まれる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の具体例としては、2価以上のフェノール化合物と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートのような炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られる熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0057】
前記2価以上のフェノール化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-(4-イソプロピルフェニル)メタン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-ナフチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2-メチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1-エチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4-メチル-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、1,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのジヒドロキシジアリールアルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロデカンなどのジヒドロキシジアリールシクロアルカン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジヒドロキシジアリールケトン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシアリールフルオレン類などが挙げられる。また、上記2価フェノール化合物以外に、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノンなどのジヒドロキシベンゼン類、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン類などが2価のフェノール化合物として使用できる。
【0058】
これら2価以上のフェノール化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。また、共重合成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの直鎖状脂肪族2価カルボン酸を用いてもよい。
【0059】
ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド;ポリ-1,4-ノルボルネンテレフタルアミド、ポリ-1,4-シクロヘキサンテレフタルアミドポリ-1,4-シクロヘキサン-1,4-シクロヘキサンアミドなどの脂環式ポリアミド;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド;これらのポリアミドのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドなどが挙げられる。なお、前記ポリアミド樹脂には、ポリアミドエラストマーも含まれる。
【0060】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,5-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレンエーテル)などの単独重合体、これらの単独重合体をベースとして構成された変性ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリフェニレンエーテル単独重合体またはその共重合体にスチレン重合体がグラフトしている変性グラフト共重合体などが挙げられる。
【0061】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の具体例としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0062】
上記熱可塑性樹脂は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。合成品の場合、高圧ラジカル重合法、中低圧重合法、溶液重合法、スラリー重合法、塊状重合法、乳化重合法、気相重合法等の公知の方法を用いて樹脂(樹脂ポリマー)を合成し、樹脂組成物に適用してもよい。
【0063】
なお、上記熱可塑性樹脂が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0064】
上記熱可塑性樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含む。
【0065】
(熱硬化性樹脂)
本発明で用いられる熱硬化性樹脂は、特に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0066】
上述した各種の樹脂のなかでも、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂が好ましく用いられる。
【0067】
本発明に係る樹脂組成物において、上述したグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる樹脂改質剤または紫外線吸収剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.1~400質量部であることが好ましく、0.1~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましく、0.1質量部以上5質量部未満であることが特に好ましい。このような含有量の範囲にあることで、樹脂に対して優れた改質効果(例えば、紫外線吸収性能の向上)を発現させることができる。
【0068】
本発明に係る樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、重合開始剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤、染料、有機顔料、無機顔料、可塑剤、加工助剤、光安定剤、発泡剤、ワックス、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル捕捉剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、界面活性剤等の他の添加成分を、適宜配合することができる。例えば、樹脂モノマーを含む樹脂組成物(コーティング組成物)を基材に塗布して硬化させる用途に適用される場合には、塗布された樹脂組成物(コーティング組成物)の硬化を促進させるため、樹脂組成物は重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤としては、熱重合開始剤および光重合開始剤などが挙げられる。
【0069】
熱重合開始剤の例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m-トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-s-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α’-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノオエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメトルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-m-トルイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等の有機過酸化物系開始剤;2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-クロロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-ヒドロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-1,3-ジアゼピン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(5-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、ジメチル-2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ系開始剤;等が挙げられる。なお、これらの熱重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
また、光重合開始剤の例としては、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;オキシムエステル類;カチオン系光重合開始剤;分子内水素引抜型光重合開始剤;等が挙げられる。なお、これらの光重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本発明に係る樹脂組成物の形態は、特に制限されず、例えば、固形状、エマルジョン、半透明溶液、透明溶液などいずれの形態でもよいが、環境負荷低減の観点から、エマルジョンであることが好ましい。樹脂組成物がエマルジョンまたは溶液の形態である場合、樹脂組成物に用いられる溶媒としては、水または有機溶媒が挙げられる。エマルジョンの形態の場合、溶媒は通常は水である。一方、樹脂組成物が溶液の形態の場合、溶媒は通常は有機溶媒である。有機溶媒としては、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシカルビトール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン溶媒;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;酢酸n-ブチル、酢酸エチルなどのエステル類;メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、樹脂の溶解性の観点からアルコール類、ケトン類、エステル類のような極性溶媒が好ましい。
【0072】
本発明に係る樹脂組成物は、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物からなる樹脂改質剤または紫外線吸収剤、樹脂、および必要に応じて上記の添加剤を、撹拌または溶融混練などにより混合することで製造することができる。溶融混練方法は、特に制限されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、熱ロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、または各種ニーダー等の装置を使用する方法を採用することができる。
【0073】
[コーティング組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、コーティング組成物として好適に使用できる。具体的には、本発明に係る樹脂組成物からなるコーティング組成物を基材の表面に塗布して乾燥または硬化させることで、塗膜を得ることができる。得られる塗膜はコーティング組成物に含まれる樹脂改質剤または紫外線吸収剤の存在により、種々の性能(例えば、紫外線吸収性能)が付与されたものとなっている。
【0074】
コーティング組成物は、本発明に係る樹脂組成物の構成成分として上述した各種の成分に加えて、溶媒をさらに含むことが好ましい。なお、コーティング組成物に用いる溶媒としては、水または有機溶媒が挙げられる。また、有機溶媒としては、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシカルビトール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン溶媒;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;酢酸n-ブチル、酢酸エチルなどのエステル類;メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、樹脂の溶解性の観点からアルコール類、ケトン類、エステル類のような極性溶媒が好ましい。
【0075】
コーティング組成物の塗布によって塗膜を形成する基材としては、特に制限されないが、例えば、フィルム、プラスチック、ガラス、繊維、シートまたはテープ等が挙げられる。また、塗膜を形成するためにコーティング組成物を塗布する方法としては、公知の塗布方法を適宜使用することができ、例えば、スピン塗布、ロール塗布、グラビア塗布、リバース塗布、スプレー塗布、エアーナイフ塗布、カーテン塗布、ロールブラッシュ、含浸、バーコーターによる塗布などの方法を用いることができる。
【0076】
乾燥条件は、基材の耐熱性やコーティング組成物に含まれる溶媒の沸点等に応じて適宜調節できる。乾燥温度は、特に制限されないが、例えば、50~180℃、80~150℃、または110~130℃である。乾燥時間も、特に制限されないが、例えば、0.5~120分、1~60分、または1~10分である。乾燥雰囲気も、特に制限されないが、例えば、大気、不活性ガス(例えば窒素)、真空である。
【0077】
また、硬化方法は、光硬化または熱硬化のいずれであってもよいが、短時間硬化および基材へのダメージ低減の観点から、光硬化であることが好ましい。光硬化の場合、紫外線を発生する光源を用いることが好ましく、水銀ランプ(例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ)、メタルハライドランプなどを用いることができる。紫外線の照射条件は、特に制限されないが、積算光量は100~1000mJ/cmが好ましく、200~500mJ/cmがより好ましい。熱硬化の場合、上述の乾燥と同じ条件で実施してもよい。すなわち、乾燥および熱硬化は同時に進行してもよい。また、塗膜を形成するにあたり、時間をずらして乾燥および硬化の両方を実施してもよい。例えば、予備乾燥によりコーティング組成物に含まれる溶媒を除去した後、光硬化を実施してもよい。
【0078】
形成される塗膜の膜厚は、ドライ膜厚として、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは5~20μmであり、さらにより好ましくは10~15μmである。かような範囲であれば、塗膜の形成前後で表面硬度が良好に維持されつつ、各種の性能を有する塗膜を基材の表面に形成することができる。
【0079】
このようにして形成された塗膜におけるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の含有量は、樹脂100質量%に対して、好ましくは0.1~800質量%であり、より好ましくは0.5~400質量%である。このような含有量の範囲であれば、基材の性質を損ねることなく、基材の表面に各種の性能を付与することができる。なお、当該含有量は、樹脂(例えば、樹脂モノマー)の合計質量に対するグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の質量の割合と実質的に同等である。
【0080】
また、本発明に係る樹脂改質剤または紫外線吸収剤の他の用途としては、例えば、樹脂組成物からなる成形体の製造原料に混合することができる。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、上述した樹脂組成物からなる成形体が提供される。成形体の形状(形態)としては、特に制限されないが、例えば、フィルム、プラスチック、ガラス、繊維、シートまたはテープ等が挙げられる。また、本発明に係る樹脂組成物の他の用途としては、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、繊維助剤、建材フィルム、ハードコート等の保護フィルム、家電製品の筐体、製紙用途(表面コート剤など)、土木用途(コンクリート混和剤など)等が挙げられる。本発明に係る樹脂組成物からなる成形体を作製し、当該成形体をこれらの用途に適用してもよい。なお、成形体は、射出成形、押出成形、トランスファー成形、インフレーション法、圧縮成形などの公知の方法により製造することができる。これらの方法は、得られる成形体の形状に応じて適宜選択することができる。
【実施例0081】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は25℃で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0082】
[合成例1:グリコールリグニンの合成]
以下の方法で、平均分子量400のポリエチレングリコールにより変性されたリグニン(以下、単に「グリコールリグニン」とも称する)を合成した。
【0083】
具体的には、まず、市販の平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.68質量部(PEG400 100質量部に対して0.3質量部)とを、反応容器に入れて撹拌した。次いで、絶乾スギ木粉46質量部を反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。
【0084】
その後、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。次いで、得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。
【0085】
そして、得られた溶液成分に硫酸を添加してpHを1.8に調整した。これにより、グリコールリグニンの懸濁液を得た。その後、グリコールリグニンを遠心分離により回収した。続いてグリコールリグニンを水に懸濁させて撹拌しながら洗浄を行った後、遠心分離により回収し、乾燥させた。なお、このようにして得られたグリコールリグニンには、反応に用いたポリエチレングリコール等に由来する残存溶媒は実質的に含まれていなかった。
【0086】
[合成例2:グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(1)の合成]
撹拌機および温度調節機を備えたオートクレーブに、上述した合成例1で得られたグリコールリグニン30質量部、およびジメチルアセトアミド30質量部、水酸化ナトリウム0.3質量部を仕込み、容器内の空気を除くため窒素置換(0.1MPa⇔0.5MPa)を5回行った。窒素置換後、オートクレーブを加熱して105℃にて120分間脱水し、グリコールリグニンを水酸化ナトリウム処理した。その後、130~140℃にてエチレンオキシド30質量部を6.5時間かけて断続的にオートクレーブ内に導入して反応させた。その後、反応温度130~140℃にて13時間反応させた。反応終了後、130~140℃にて減圧単蒸留(5kPa)を行った。減圧単蒸留後、温度を室温まで下げ、粗生成物であるグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(1)89質量部(収率:99.8%)を得た。
【0087】
[合成例3:グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(2)~(4)の調製]
原料であるグリコールリグニンの質量(GL)と添加するエチレンオキシドの質量(EO)との比であるGL/EO質量比を1/2、1/3および1/4にそれぞれ変更したこと以外は、上述した合成例2と同様の手法により、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(2)~(4)をそれぞれ合成した。
【0088】
[合成例4:ソーダリグニンエチレンオキシド付加物の調製]
上述した合成例2における「合成例1で得られたグリコールリグニン30質量部」を、「ソーダリグニン30質量部」に置き換えたこと以外は、上述した合成例2と同様の手法により、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物を合成した。なお、ソーダリグニンとは、スギのソーダアントラキノン蒸解により調製されたリグニンである。
【0089】
このようにして得られたグリコールリグニン、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物(1)~(4)およびソーダリグニンエチレンオキシド付加物について、以下の値を下記の表1に示す。
【0090】
(フェノール性水酸基モル量[mmol/g])
付加物1g(溶剤((ポリ)エチレングリコールおよびジメチルアセトアミド)を含む)当たりのフェノール性水酸基のモル量[mmol]である。測定はイオン化示差スペクトル法により行った。括弧内の数値は、溶剤を除去して付加物1g当たりに換算した場合のフェノール性水酸基モル量である。
【0091】
(UVリグニン率L[質量%])
付加物(溶剤含む)中のリグニン骨格(グリコール鎖を除く)の含有質量百分率である。測定はUVリグニン法(280nmのUV吸収に基づくリグニン量の測定法)により行った。
【0092】
(グリコール鎖含有率G[質量%])
UVリグニン率L[質量%]と溶剤含有率[質量%]との合計質量百分率を、100%から減算して得られた値である。
【0093】
(GL・EO付加物含有率L+G[質量%])
付加物(溶剤含む)中のグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(GL・EO付加物)の含有質量百分率である。具体的には、グリコール鎖含有率G[質量%]とUVリグニン率L[質量%]とを加算して得られた値である。
【0094】
(G/L)
グリコール鎖含有率G[質量%]をUVリグニン率L[質量%]で除算して得られた値である。
【0095】
(ジメチルアセトアミド溶剤含有率A[質量%])
付加物(溶剤含む)中の反応溶媒由来のジメチルアセトアミドの含有質量百分率である。具体的には、180℃、1時間加熱後の不揮発分より算出した。
【0096】
((ポリ)エチレングリコール溶剤含有率E[質量%])
付加物(溶剤含む)中のエチレンオキシド由来の(ポリ)エチレングリコール溶剤の含有質量百分率である。測定はWeibull法により行った。
【0097】
(溶剤含有率A+E[質量%])
ジメチルアセトアミド溶剤含有率A[質量%]と(ポリ)エチレングリコール溶剤含有率E[質量%]とを加算して得られた値である。
【0098】
【表1】
【0099】
[紫外線吸収剤としての臨界波長の測定]
上述した各合成例において合成したグリコールリグニンおよびグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(1)~(4)について、以下の手法により紫外線吸収剤としての臨界波長を測定した。また、樹脂組成物において従来汎用されている紫外線吸収剤である2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾールおよび2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水和物についても同様に臨界波長を測定した。なお、これらの紫外線吸収剤の化学構造は以下の通りである。
【0100】
【化2】
【0101】
(測定サンプルの調製)
(1)2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液の調製
ビーカーに2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(東京化成工業株式会社製)0.25質量部およびメタノール99.75質量部を加えて混合して、0.25質量%ベンゾフェノン溶液を得た。次いで、ビーカーに0.25質量%ベンゾフェノン溶液1質量部およびメタノール99質量部を加えて混合して、0.0025質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液を得た。
【0102】
(2)2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール溶液の調製
2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(東京化成工業株式会社製)を上記(1)と同様の手法により希釈して、0.0025質量%2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール溶液を得た。
【0103】
(3)2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水溶液の調製
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水和物(東京化成工業株式会社製)を、溶媒としてイオン交換水を用いたこと以外は上記(1)と同様の手法により希釈して、0.0023質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水溶液を得た。
【0104】
(4)グリコールリグニン溶液の調製
上述した合成例1において合成したグリコールリグニンを上記(1)と同様の手法により希釈して、0.0025質量%グリコールリグニン溶液を得た。
【0105】
(5)グリコールリグニンエチレンオキシド付加物水溶液の調製
上述した合成例2および合成例3において合成したグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(1)~(4)のそれぞれについて、ビーカーに付加物0.1質量部およびイオン交換水99.9質量部を加えて混合して、0.1質量%グリコールリグニンエチレンオキシド付加物水溶液を得た。次いで、ビーカーに0.1質量%グリコールリグニンエチレンオキシド付加物水溶液10質量部およびイオン交換水90質量部を加えて混合して、0.01質量%グリコールリグニンEO付加物水溶液を得た。なお、上記(1)~(4)とは溶液中の有効成分濃度が異なるのは、測定サンプルの吸光度が1~2absとなるように調整したためである。
【0106】
(臨界波長の測定)
上記で調製した各測定サンプルを、石英セルへ高さが70%程度になるように入れた。次いで、紫外可視分光光度計V-550(日本分光株式会社製)を用いて200~400nmの波長範囲で吸光度を測定し、吸収スペクトルを取得した。取得された吸収スペクトルを、得られた吸光度の面積が9:1(短波長側:長波長側)になるように2つに分割し、分割した境界に対応する波長を臨界波長とした。結果を下記の表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2に示す結果から、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、紫外線吸収剤として従来公知の各種化合物と比較して大きい臨界波長を示すことがわかる。このことから、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、例えば樹脂組成物に紫外線吸収剤として添加されて用いられた場合に、UV-A領域の紫外線を吸収することによって樹脂組成物に含まれる樹脂の劣化を効果的に防止することができると考えられる。
【0109】
[樹脂への溶解性の評価]
上述した合成例1において合成したグリコールリグニン、合成例3において合成したグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(4)および合成例4において合成したソーダリグニンエチレンオキシド付加物について、以下の手法により樹脂への溶解性を評価した。
【0110】
(ポリマー合成(乳化重合))
三角フラスコに、モノマーとしてメタクリル酸シクロへキシル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)30質量部、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)37質量部、アクリル酸2-エチルへキシル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)31質量部、およびアクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)2質量部を仕込み、混合して、モノマー混合液を調製した。一方、別の三角フラスコに、脱イオン水59.9質量部、乳化剤としてニューコール(登録商標)707-SF(日本乳化剤株式会社製 ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 純分30質量%)2.5質量部を仕込み、攪拌子にて混合した。この三角フラスコに、上記で調製したモノマー混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液2.0質量部を添加して、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、および滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水50質量部、上記で調製したプレエマルジョンの5質量%にあたる7.9質量部を仕込み、80℃に昇温した後、80℃で30分間保ち、初期重合を行った。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行った。その後、80℃で1時間熟成を行った後に室温まで冷却した。そして、25質量%アンモニア水溶液を用いてpHを8.0に調整して、固形分50.7質量%の樹脂エマルジョン(組成:メタクリル酸シクロへキシル/メタクリル酸メチル/アクリル酸2-エチルへキシル/アクリル酸=30/37/31/2(質量比))を得た。
【0111】
(ポリマー合成(溶液重合))
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、および滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、アクリル酸ブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)50質量部、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)50質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)(日本乳化剤株式会社製)233質量部を仕込み、混合した。その後、40℃に昇温し、AIBN(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬 アゾビスイソブチロニトリル)1質量部を加えた。その後、80℃まで昇温して、10時間加熱攪拌した。
【0112】
反応後に室温まで冷却し、MFG30質量部を加えて純分を30%に調整し、溶液樹脂(組成:アクリル酸ブチル/メタクリル酸メチル=50/50(質量比))を得た。
【0113】
(乳化重合ポリマーに対する溶解性試験)
(1)グリコールリグニンの溶解性
スクリューバイアル瓶に、上記で調製した乳化重合ポリマーを10質量部加えた。次いで、グリコールリグニン0.08質量部を添加し、バイアルに蓋をして上下に振盪することにより十分に混合して、グリコールリグニン乳化重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は黒く濁っており沈殿物も確認された。このことから、グリコールリグニンは乳化重合ポリマーに対して十分な溶解性を示さないものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図1に示す(図1の「GL」)。
【0114】
(2)グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性
上述した合成例3において合成したグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(4)について、上記(1)と同様の手法により乳化重合ポリマーと混合して、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物乳化重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は均一な乳白色を呈し沈殿物も確認されなかった。このことから、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物は乳化重合ポリマーに対して優れた溶解性を示すものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図1に示す(図1の「GL・EO付加物」)。
【0115】
(3)ソーダリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性
上述した合成例4において合成したソーダリグニンエチレンオキシド付加物について、上記(1)と同様の手法により乳化重合ポリマーと混合して、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物乳化重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は黒く濁るほどではなかったが、浮遊物や沈殿物の存在が確認された。このことから、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物は乳化重合ポリマーに対して十分な溶解性を示さないものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図1に示す(図1の「SL」)。
【0116】
(溶液重合ポリマーに対する溶解性試験)
(1)グリコールリグニンの溶解性
スクリューバイアル瓶に、上記で調製した溶液重合ポリマーを10質量部加えた。次いで、グリコールリグニン0.04質量部を添加し、バイアルに蓋をして上下に振盪することにより十分に混合して、グリコールリグニン溶液重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は茶色く濁っており浮遊物も確認された。このことから、グリコールリグニンは溶液重合ポリマーに対して十分な溶解性を示さないものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図2に示す(図2の「GL」)。
【0117】
(2)グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性
上述した合成例3において合成したグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(4)について、上記(1)と同様の手法により溶液重合ポリマーと混合して、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物溶液重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は均一透明な薄茶色を呈し浮遊物も確認されなかった。このことから、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物は溶液重合ポリマーに対して優れた溶解性を示すものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図2に示す(図2の「GL・EO付加物」)。
【0118】
(3)ソーダリグニンエチレンオキシド付加物の溶解性
上述した合成例4において合成したソーダリグニンエチレンオキシド付加物について、上記(1)と同様の手法により溶液重合ポリマーと混合して、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物溶液重合ポリマー溶液を得た。得られた溶液の様子を目視で確認したところ、溶液は茶色く濁るほどではなかったが、沈殿物の存在が確認された。このことから、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物は溶液重合ポリマーに対して十分な溶解性を示さないものと考えられた。なお、この溶解性の様子を示す写真を図2に示す(図2の「SL」)。
【0119】
以上のことから、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、特別な分散手段を用いなくとも樹脂に対して優れた溶解性を示す樹脂改質剤および紫外線吸収剤として有用であることがわかる。
【0120】
[樹脂組成物の状態での吸光度の測定]
(測定サンプルの調製)
(1)2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンの溶液重合ポリマー溶液の調製
スクリューバイアル瓶に、上記で調製した溶液重合ポリマーを9.9質量部加えた。次いで、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン0.1質量部を添加し十分に混合して、1質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液重合ポリマー溶液を得た。その後、別のスクリューバイアル瓶に、上記と同じ溶液重合ポリマーを9.9質量部加え、上記で調製した1質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液重合ポリマー溶液0.1質量部を添加し十分に混合して、0.01質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液重合ポリマー溶液を得た。
【0121】
(2)グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の溶液重合ポリマー溶液の調製
スクリューバイアル瓶に、上記で調製した溶液重合ポリマーを99.88質量部加えた。次いで、上述した合成例3において合成したグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(4)0.12質量部を添加し十分に混合して、0.12質量%グリコールリグニンエチレンオキシド付加物溶液重合ポリマー溶液を得た。
【0122】
(吸光度の測定)
上記(1)で調製した0.01質量%2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン溶液重合ポリマー溶液および上記(2)で調製した0.12質量%グリコールリグニンエチレンオキシド付加物溶液重合ポリマー溶液のそれぞれについて、石英セルへ高さが70%程度になるように入れた。次いで、紫外可視分光光度計V-550(日本分光株式会社製)を用いて200~400nmの波長範囲で吸光度を測定し、吸収スペクトルを取得した。なお、ブランクとして、上記で調製した溶液重合ポリマーをそのまま用いて同様の手法により吸光度を測定した。取得された吸収スペクトル(波長範囲250~400nm)を図3に示す。
【0123】
図3に示すように、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物は、樹脂組成物(溶液重合ポリマー溶液)の状態であっても、優れた紫外線吸収性能を示すことがわかる。また、従来のベンゾフェノン系紫外線吸収剤と比較してUV-A領域の波長に対する吸光度がより大きいことから、本発明に係るグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、紫外線吸収剤として用いた場合に、樹脂劣化の防止に極めて有用であることがわかる。
【0124】
なお、スチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂およびポリウレタン樹脂について市販の樹脂溶液(溶液重合ポリマー)を入手し、上述した溶解性試験および吸光度の測定を行った。その結果、いずれの樹脂溶液を用いた場合であっても、上記と同様の結果が得られることが確認された。
図1
図2
図3