(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137661
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】被覆活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230922BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043952
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】村石 一生
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】長尾 賢治
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】本開示は、生産性が高い活物質の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、活物質の表面の少なくとも一部に、Nbを含有する被覆層を形成する被覆活物質の製造方法であって、上記活物質およびNbを含有するコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、上記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、上記前駆体を焼成する第3の工程と、を有し、上記第1の工程において、液滴化前の上記スラリーの温度を、5℃以上25℃未満とする、被覆活物質の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の表面の少なくとも一部に、Nbを含有する被覆層を形成する被覆活物質の製造方法であって、
前記活物質およびNbを含有するコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、
前記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、
前記前駆体を焼成する第3の工程と、を有し、
前記第1の工程において、液滴化前の前記スラリーの温度を、5℃以上25℃未満とする、被覆活物質の製造方法。
【請求項2】
前記活物質は、遷移金属を含む、請求項1に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項3】
前記活物質は、Liと、遷移金属と、Oとを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項1または請求項2に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項4】
前記活物質は、前記遷移金属として、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種を含む、請求項2または請求項3に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項5】
前記活物質は、前記遷移金属として、Niを少なくとも含む、請求項2から請求項4までのいずれかの請求項に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項6】
前記活物質のNiの含有量は、前記活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、50mol%以上である、請求項5に記載の被覆活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池に用いられる活物質の表面に、酸化物等の被覆層を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、転動流動コーティング装置を用いて、特定のコート液を活物質の表面に噴霧しつつ乾燥し、その後焼成することを経て、活物質複合体(被覆活物質)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された製造方法(転動流動コーティング装置を用いた製造方法)では、活物質の造粒を抑制するために、コート液の噴霧速度を低速とする必要がある。結果として、被覆活物質を製造するために必要な時間が長くなるという課題がある。これに対して、本発明者等は、後述するように、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させ、そのスラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させる方法(スプレードライ法)を検討した。スプレードライ法は、転動流動コーティング法に比べて、短時間で被覆活物質を製造できるという利点を有する。一方、スプレードライ法においては、ノズルに詰まりが発生し、生産性が低下するという新たな課題が生じる。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、生産性が高い被覆活物質の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、活物質の表面の少なくとも一部に、Nbを含有する被覆層を形成する被覆活物質の製造方法であって、上記活物質およびNbを含有するコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、上記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、上記前駆体を焼成する第3の工程と、を有し、上記第1の工程において、液滴化前の上記スラリーの温度を、5℃以上25℃未満とする、被覆活物質の製造方法を提供する。
【0007】
本開示によれば、液滴化前のスラリーの温度を所定の範囲とすることにより、生産性良く被覆活物質を製造することができる。
【0008】
上記開示においては、上記活物質は、遷移金属を含むことが好ましい。
【0009】
上記開示においては、上記活物質は、Liと、遷移金属と、Oとを含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0010】
上記開示においては、上記活物質は、上記遷移金属として、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0011】
上記開示においては、上記活物質は、上記遷移金属として、Niを少なくとも含むことが好ましい。
【0012】
上記開示においては、上記活物質のNiの含有量は、上記活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、50mol%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本開示においては、生産性が高い被覆活物質の製造方法を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示における被覆活物質の製造方法の工程フロー図である。
【
図2】スラリー製造時の攪拌時間(浸漬時間)と、スラリーのpHとの関係を示すグラフである。
【
図3】本開示におけるスラリー液滴の形態を例示的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記のように、従来の被覆活物質の製造方法では、被覆活物質を製造するために必要な時間が長くなる問題がある。これに対し、本出願人は、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、上記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、上記前駆体を焼成する第3の工程と、を含む、被覆活物質の製造方法であれば、製造時間を短縮できることを見出している(特願2021-130363)。
【0016】
一方、上記被覆活物質の製造方法において、スラリー中に析出物が生じ、スラリーを液滴化させるために用いるノズルに詰まりが発生する問題がある。その結果、生産性が低下する場合がある。
【0017】
以下、本開示における被覆活物質の製造方法について、詳細に説明する。
【0018】
図1は、本開示における被覆活物質の製造方法の工程フロー図である。本開示における被覆活物質の製造方法は、活物質およびNbを含有するコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程S1と、スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程S2と、前駆体を焼成する第3の工程S3とを含む。本開示の被覆活物質の製造方法により、活物質の表面の少なくとも一部に、Nbを含有する被覆層を有する被覆活物質が製造される。本開示においては、第1の工程において、液滴化前のスラリーの温度を、5℃以上25℃未満とする。
【0019】
本出願人は、活物質とNbを含有するコート液とを含むスラリーを調製する際に、活物質の内存元素(例えば、Ni、Liおよび不純物)が溶出し、コート液に含まれるニオブ源と反応して析出物が生じ、ノズル詰まりが発生することを知見した。
【0020】
また、本出願人は、活物質の内存元素が溶出することにより、スラリーのpHが上昇することを知見した。特に、Ni含有率が高いハイニッケル活物質の場合、スラリーのpHが急激に上昇する。スラリーのpHが上昇すると、コート液に含まれるニオブ源の状態(例えば、ニオブのペルオキソ錯体またはニオブのアルコキシドの状態)が不安定となる。その結果、ニオブ源の凝集析出物が生じやすくなり、ノズル詰まりが発生しやすくなると考えられる。また、活物質に不純物としてSが含まれている場合、活物質から溶出したSとニオブ源との反応析出物も生じる。
【0021】
これに対して、本開示においては、液滴化する前のスラリーの温度を所定の範囲とすることにより、活物質の内存元素(例えば、Ni、Liおよび不純物)の溶出速度を下げることができ、析出物の発生を抑制することができる。従って、ノズル詰まりを抑制することができ、生産性良く被覆活物質を製造することができる。
【0022】
1.第1の工程
本工程は、活物質およびNbを含有するコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る工程である。
【0023】
(1)スラリー
本開示においては、液滴化前のスラリーの温度(液温)は、通常、5℃以上であり、10℃以上であってもよく、15℃以上であってもよい。一方、液滴化前のスラリーの温度(液温)は、通常、25℃未満であり、20℃以下であってもよい。液滴化前のスラリーの温度が高すぎると、活物質の内存元素の溶出速度が速くなり、ニオブ源の凝集析出物が生じ、ノズル詰まりが発生する。一方、液滴化前のスラリーの温度が低すぎると、スラリーが凝固するため、液滴化が困難となる。
【0024】
液滴化前のスラリーの温度を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、スラリーの温度(液温)が上記範囲となるように、攪拌容器を冷却しながら、活物質とコート液とを混合、攪拌してスラリーを調製する方法が挙げられる。
【0025】
また、本開示においては、スラリー調製時から液滴化する直前までの間、スラリーの温度を上記範囲とすることが好ましい。また、この間、上記温度範囲であれば、スラリーの温度は一定に保持してもよいし、保持しなくてもよい。
【0026】
「スラリー」とは、活物質とコート液とを含む懸濁体または懸濁液であって、液滴化できる程度の流動性を有するものであればよい。本開示の方法において、スラリーは、例えば、スプレーノズルを用いて液滴化できる程度の流動性を有するものであってもよい。尚、スラリーは、上記した活物質およびコート液の他に、何らかの固体成分や液体成分を含んでいてもよい。
【0027】
液滴化が可能な固形分濃度等は、活物質の種類、コート液の種類、および液滴化の条件(液滴化に用いる装置の種類)等に応じて変化し得る。スラリーにおける固形分濃度は、特に限定されず、例えば、1重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上であってもよく、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下であってもよい。
【0028】
(2)活物質
活物質は、正極活物質であってもよいし、負極活物質であってもよい。上記活物質は、金属(金属元素)を含有することが好ましい。上記金属としては、例えば、Li、遷移金属、周期律表第12族から第16族までに属する金属(半金属を含む)が挙げられる。上記活物質は、Liを含有することが好ましい。また、上記活物質は、Oを含有していてもよい。すなわち、上記活物質は酸化物であってもよい。中でも、上記活物質は、Liと、遷移金属と、Oとを含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。上記遷移金属としては、例えば、Ni、Co、Mn、FeおよびVが挙げられる。また、上記活物質は、遷移金属として、Ni、Co、Mnの少なくとも一種を含むことが好ましい。また、上記活物質は、遷移金属として、Niを少なくとも含むことが好ましい。一方、周期律表第12族から第16族までに属する金属としては、例えば、Alが挙げられる。上記活物質は、Li、Ni、Co、MnおよびOを含むリチウム遷移金属複合酸化物、または、Li、Ni、Co、AlおよびOを含むリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0029】
活物質の結晶構造は、特に限定されないが、例えば、層状岩塩構造、スピネル構造、オリビン構造が挙げられる。
【0030】
活物質がNiを含む場合、活物質のNiの含有量は、活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、例えば30mоl%以上である。例えば、活物質が、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2である場合、活物質における上記Niの含有量は、33mol%となる。本開示においては、中でも、上記Niの含有量が高いハイニッケル活物質であることが好ましい。「ハイニッケル活物質」とは、上記Niの含有量が50mol%以上である活物質を意味する。ハイニッケル活物質における上記Niの含有量は、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、または100mol%である。
【0031】
ハイニッケル活物質としては、例えば、Li(NiαCoβMnγ)O2(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)、Li(NiαCoβAlγ)O2(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)等が挙げられる。これらの一般式において、αは、0.6以上、0.7以上、0.8以上、または0.9以上である。中でも、LiNi0.8Mn0.15Co0.05O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等が好ましい。
【0032】
以下、活物質がハイニッケル活物質である場合と、ハイニッケル活物質以外の活物質である場合とで、温度調整を行わずにスラリーを調製した際のスラリーのpHの推移について比較説明する。
【0033】
活物質がハイニッケル活物質である場合、コート液とハイニッケル活物質とを混合し、スラリーを調製する際に、活物質中の元素が溶出することにより、スラリーのpHが急激に上昇する。
図2(a)は、ハイニッケル活物質(LiNi
0.8Co
0.1Al
0.1O
2)をコート液に浸漬した時間と、スラリーのpHとの関係を示したグラフである。
図2(a)から、浸漬するのとほぼ同時にスラリーのpHが上昇しきっていることが判る。そのため、コート液中のニオブ源の状態がより不安定となり、ニオブ源の凝集析出物が生じやすくなる。従って、活物質がハイニッケル活物質である場合、本発明による効果を顕著に得ることができる。
【0034】
一方、
図2(b)は、ハイニッケル活物質以外の活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(NCM))とコート液とを、コート液:NCM=1:2(重量比)で混合し、攪拌した際の攪拌時間(浸漬時間)と、スラリーのpHとの関係を示したグラフである。
図2(b)から、ハイニッケル活物質以外の活物質においても、コート液と活物質とを混合してスラリーを調製する際に、攪拌に伴ってスラリーのpHは徐々に上昇することが判る。従って、ハイニッケル活物質以外の活物質を用いた場合にも、ノズルを長時間使用することより、詰まりが生じると推察される。
【0035】
また、本開示における活物質は、不純物が含まれていてもよい。不純物としては、例えばSが挙げられる。Sは、例えば、活物質を製造する際に用いる出発原料に含まれていたり、合成工程に使用する薬品に含まれていたりしており、活物質に不可避的に混入する不純物である。Sは、例えば、硫酸イオン(SO4
2-)の形態で活物質に混入していると推測される。
【0036】
上述した活物質のうち、充放電電位が相対的に貴である物質を正極活物質とし、充放電電位が相対的に卑である物質を負極活物質として用いることができる。上述した活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。活物質は、硫化物全固体電池に用いられるものであってもよい。
【0037】
活物質の形状は、スラリーの液滴化が可能である限り、特に限定されるものではない。例えば、活物質は粒子状であってもよい。活物質粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、または10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、または30μm以下であってもよい。尚、平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0038】
(3)コート液
コート液は、Nbを含み、後述の気流乾燥および焼成後、活物質の表面において所定の機能を発揮する被覆層を構成する。被覆層は、Nbを含み、通常、さらにLiを含む。例えば、LiとNbとを含む酸化物からなる層であり、活物質と他の物質との間の界面抵抗の上昇を抑制する機能を有するものであってもよい。また、他の元素を含んでよい。他の元素の具体例としては、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0039】
活物質の表面にLiとNbとを含む酸化物からなる層を設ける場合、コート液は、リチウム源とニオブ源とを含んでよい。
【0040】
コート液は、リチウム源として、リチウムイオンを含んでもよい。例えば、溶媒にLiOH、LiNO3、Li2SO4等のリチウム化合物を溶解させることで、リチウム源としてリチウムイオンを含むコート液を得てもよい。或いは、コート液は、リチウム源として、リチウムのアルコキシドを含んでよい。
【0041】
また、コート液は、ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含んでよい。コート液は、ニオブ源として、ニオブのアルコキシドを含んでよい。
【0042】
コート液に含まれるリチウム源とニオブ源とのモル比は、特に限定されないが、例えば、Li:Nb=1:1であってもよい。以下、(i)リチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含むコート液、並びに(ii)リチウムのアルコキシドおよびニオブのアルコキシドを含むコート液を例示する。
【0043】
(i)リチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含むコート液
コート液は、例えば、過酸化水素水、ニオブ酸、および、アンモニア水等を用いることにより透明溶液を作製した後、当該透明溶液にリチウム化合物を添加することによって得てもよい。尚、ニオブのペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)の構造式は、例えば、下記のとおりである。
【0044】
【0045】
(ii)リチウムのアルコキシドおよびニオブのアルコキシドを含むコート液
コート液は、例えば、エトキシリチウム粉末を溶媒に溶解させた後、ここに所定の量のペンタエトキシニオブを加えることにより得てもよい。この場合、溶媒としては、脱水エタノール、脱水プロパノール、脱水ブタノール等を例示することができる。
【0046】
(4)スラリーの液滴化
スラリーの「液滴化」とは、活物質およびコート液を含むスラリーを、活物質とコート液とを含む粒とすることを意味する。
【0047】
第1の工程において、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させる方法は、例えば、活物質およびコート液を含むスラリーを、スプレーノズルを用いて噴霧することによって液滴化させる方法が挙げられる。スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法としては、加圧ノズル法や二流体ノズル、四流体ノズル法等が挙げられるが、これらに限定されない。本開示においては、四流体ノズル法が好ましい。
【0048】
スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する場合、ノズル径は特に限定されるものではない。ノズル径は、例えば、0.1mm以上であってもよいし、1mm以上であってもよい。一方、10mm以下であってもよいし、1mm以下であってもよい。また、スラリーの噴霧速度(スプレーノズルに対するスラリーの供給速度)も特に限定されるものではない。噴霧速度は、例えば、0.1g/秒以上であってもよいし、1g/秒以上であってもよい。一方、5g/秒以下であってもよいし、0.5g/秒以下であってもよい。スラリーの粘度や固形分濃度、ノズル寸法等に応じて噴霧速度を調整してもよい。
【0049】
本開示の方法においては、例えば、スプレードライヤーを用いて、スラリーの液滴化(第1の工程)と気流乾燥(第2の工程)とを行ってもよい。スプレードライヤーの方式は特に限定されるものではなく、上記のスプレーノズルを用いる方式が挙げられる。
【0050】
(5)スラリー液滴
「スラリー液滴」は、活物質とコート液とを含むスラリーの粒である。スラリー液滴の大きさは特に限定されるものではない。スラリー液滴の径(球相当直径)は、例えば、0.5μm以上であってもよいし、5μm以上であってもよい。一方、5000μm以下であってもよいし、1000μm以下であってもよい。スラリー液滴の径は、例えば、スラリー液滴を撮像して得られる2次元画像を用いて測定することができるし、レーザー回折式の粒度分布計を用いて測定することもできる。或いは、スラリー液滴を形成する装置の運転条件等から液滴径を推定することもできる。
【0051】
本開示の方法においては、一滴のスラリー液滴が、例えば、一つの活物質粒子とそれに付着したコート液とを含んでもよいし、複数の活物質粒子(粒子群)とそれらに付着したコート液とを含んでもよい。以下、スラリー液滴の形態の一例を示す。
【0052】
図3(a)に示されるように、スラリー液滴11は、一つの活物質粒子11aとそれに付着したコート液11bとを含んでいてもよく、コート液11bは、活物質粒子11aの表面全体を被覆していてもよい。
【0053】
図3(b)に示されるように、スラリー液滴21は、一つの活物質粒子21aとそれに付着したコート液21bとを含んでいてもよく、コート液21bは、活物質粒子21aの表面の一部を被覆していてもよい。
【0054】
図3(c)に示されるように、スラリー液滴31は、複数の活物質粒子31aとそれらに付着したコート液31bとを含んでいてもよい。コート液31bは、複数の活物質粒子31aの全体を被覆していてもよいし、一部を被覆していてもよい。
【0055】
2.第2の工程
第2の工程においては、第1の工程で得られたスラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る。「前駆体」は、目的とする被覆活物質の前駆体を指し、後述する第3の工程における焼成処理の前の状態を指す。第2の工程においては、スラリー液滴を気流乾燥させて、活物質の表面にコート液由来の成分を含む層が形成された前駆体を得てもよい。
【0056】
なお、本開示の方法において「気流乾燥」とは、スラリー液滴を高温の気流中で浮遊させつつ乾燥することを意味する。「気流乾燥」は、乾燥だけではなく、動的な気流を用いることによる付随的な操作を含み得る。気流乾燥によってスラリー液滴または前駆体に熱風を当て続けることで、スラリー液滴または前駆体に対して力が印加され続けることとなる。これを利用して、例えば、第2の工程は、気流乾燥によって、スラリー液滴や前駆体を解す(解砕する)ことを含んでいてもよい。
【0057】
具体的には、スラリー液滴を気流乾燥させる際に、一つのスラリー液滴を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数のスラリー液滴を得てもよいし、凝集した一つの前駆体を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数の前駆体を得てもよい。言い換えれば、本開示の方法においては、スラリー液滴や前駆体の造粒体が生じた場合でも、気流乾燥によって造粒体を解砕することができる。そのため、固形分濃度の低いスラリーを用いることもでき、処理速度を増加させ易い。このように、第2の工程において、気流乾燥によってスラリー液滴や前駆体を解砕することによって、製造時間を短縮し易くなるとともに、性能の高い被覆活物質を製造し易くなる。
【0058】
第2の工程においては、上記の乾燥と解砕とが同時に行われてもよいし、別々に行われてもよい。第2の工程においては、スラリー液滴の乾燥が優位となる第1の気流乾燥と、前駆体の解砕が優位となる第2の気流乾燥とを行ってもよい。また、第2の工程を繰り返し行ってもよい。
【0059】
第2の工程において、加熱気体の温度は、スラリー液滴から溶媒を揮発させることが可能な温度であればよい。例えば100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上、または220℃以上であってもよい。
【0060】
第2の工程において、加熱気体の給気量(流量)は、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流量は、0.10m3/分以上、0.15m3/分以上、0.20m3/分以上、0.25m3/分以上、0.30m3/分以上、0.35m3/分以上、0.40m3/分以上、0.45m3/分以上、または0.50m3/分以上であってもよく、また5.00m3/分以下、4.00m3/分以下、3.00m3/分以下、2.00m3/分以下、または1.00m3/分以下であってもよい。
【0061】
第2の工程において、加熱気体の給気速度(流速)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流速は、系内の少なくとも一部において、1m/秒以上であってもよく、5m/秒以上であってもよい。一方、50m/秒以下であってもよく、10m/秒以下であってもよい。
【0062】
第2の工程において、加熱気体による処理時間(乾燥時間)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、処理時間は、5秒以下、または1秒以下であってもよい。
【0063】
第2の工程においては、活物質やコート液に対して実質的に不活性である加熱気体を用いてもよい。例えば、空気等の酸素含有ガスや、窒素やアルゴン等の不活性ガス、低露点のドライエアー等を用いることができる。その場合の露点は、-10℃以下であってもよいし、-50℃以下であってもよいし、-70℃以下であってもよい。
【0064】
気流乾燥を行う装置としては、例えば、スプレードライヤーを用いることができるが、これに限定されない。
【0065】
3.第3の工程
第3の工程においては、第2の工程で得られた前駆体を焼成する。これにより、活物質の表面の少なくとも一部に、Nbを含有する被覆層を有する被覆活物質が得られる。
【0066】
焼成の装置としては、例えばマッフル炉、またはホットプレート等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0067】
焼成の条件は、特に限定されず、被覆活物質の種類に合わせて適宜設定できる。
【0068】
例えば、正極活物質として、LiおよびNiを含有する酸化物の粒子を用い、コート液としてリチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含む溶液を用いて、上述の第1の工程および第2の工程を行って前駆体を得る。得られた前駆体を焼成することによって、正極活物質であるリチウムおよびニッケルを含有する酸化物の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を形成することができる。
【0069】
この場合、焼成温度は、例えば、100℃以上、150℃以上、180℃以上、200℃以上、または230℃以上であってもよい。一方、350℃以下、300℃以下、または250℃以下であってもよい。第3の工程における焼成温度は、第2の工程における気流乾燥の温度よりも高くてもよい。焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、または6時間以上であってもよい。一方、20時間以下、15時間以下、または10時間以下であってもよい。焼成の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、真空雰囲気、乾燥空気雰囲気、窒素ガス雰囲気、またはアルゴンガス雰囲気であってよい。
【0070】
4.被覆活物質
本開示の方法によって製造された被覆活物質は、活物質と、活物質の表面の少なくとも一部を被覆する、Nbを含有する被覆層とを有する。被覆層の厚さは、特に限定されず、例えば0.1nm以上、0.5nm以上、または1nm以上であってもよい。一方、500nm以下、300nm以下、100nm以下、50nm以下、または20nm以下であってもよい。また、被覆層は、活物質の表面の70%以上または90%以上を被覆していてもよい。なお、活物質表面における被覆層の被覆率は、粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像等を観測することにより算出することができるし、X線光電分光法(XPS)にて表面の元素比率を計算することにより算出することもできる。
【0071】
被覆活物質の粒子径(D90)は、特に限定されず、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、または9μm以上であってもよい。一方、50μm以下、30μm以下、20μm以下、または10μm以下であってもよい。尚、粒子径D90は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径である。
【0072】
被覆活物質においては、被覆層が複数の空孔を備えていてもよい。空孔は、例えば、空洞、気泡(ボイド)または隙間(ギャップ)等であってもよい。各々の空孔の形状は特に限定されない。例えば、各々の空孔の断面形状は、円形状であってもよいし、楕円形状であってもよい。各々の空孔の大きさは、特に限定されない。例えば、被覆活物質の断面を観察した場合において、空孔の円相当直径が10nm以上であってもよく、300nm以下であってもよい。被覆層における空孔の数も特に限定されない。被覆層における空孔の位置も特に限定されず、活物質と被覆層との界面に空孔が存在していてもよいし、被覆層内に空孔が存在していてもよい。被覆層は、その最表面(活物質とは反対側の表面)よりも内側(活物質側)に内包される空孔を複数有するものであってもよい。
【0073】
被覆活物質において、被覆層が複数の空孔を備えることで、以下の効果が期待できる。例えば、被覆活物質と他の電池材料との接触が有利になって、電子やイオンの移動が促進される可能性がある。また、被覆活物質にクッション性が発現し、これにより、電極や電池とした場合の性能が向上する可能性がある。例えば、充放電時に活物質が膨張した場合や、電極のプレス加工等において被覆活物質に対して圧力が印加された場合においても、上記のクッション性によって活物質に加わる応力が低減され、活物質の割れが抑制されるものと考えられる。
【0074】
5.電極の製造方法
本開示の方法によって製造された被覆活物質は、例えば、全固体電池の電極用活物質として用いることができる。本開示の電極を製造する方法は、上述した被覆活物質の製造方法により被覆活物質を得ること、上記被覆活物質と、固体電解質とを混合して、電極合剤を得ること(混合工程)、および上記電極合剤を成形して、電極を得ること(成形工程)を含んでいてもよい。
【0075】
(1)混合工程
混合工程においては、被覆活物質と固体電解質とを混合して電極合剤を得る。混合工程においては、被覆活物質と固体電解質とに加えて、さらに任意に、導電助剤およびバインダーを混合してもよい。電極合剤における被覆活物質の含有量は、特に限定されず、例えば40重量%以上99重量%以下であってよい。被覆活物質と固体電解質とは、乾式で混合してもよいし、有機溶媒(好ましくは無極性溶媒)を用いて湿式で混合してもよい。
【0076】
固体電解質は、全固体電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。例えば、ペロブスカイト型、ナシコン型またはガーネット型のLi含有酸化物である酸化物固体電解質や、構成元素としてLiおよびSを含む硫化物固体電解質を用いることができる。特に硫化物固体電解質を用いる場合に、本開示の技術による一層高い効果が期待できる。硫化物固体電解質の具体例としては、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、Li3PS4等が挙げられるが、これらに限定されない。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0077】
導電助剤の具体例としては、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料、または全固体リチウムイオン電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料等が挙げられるが、これらに限定されない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0078】
バインダーの具体例としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等が挙げられるが、これらに限定されない。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0079】
(2)成形工程
電極合剤は乾式にて成形されてもよいし、湿式にて成形されてもよい。また、電極合剤はそれ単独で成形されてもよいし、集電体とともに成形されてもよい。さらには、後述する固体電解質層の表面において電極合剤を一体成形してもよい。成形工程の一例としては、電極合剤を含むスラリーを集電体の表面に塗工し、その後、乾燥して任意にプレスする過程を経て、電極を作製する形態や、或いは、粉体状の電極合剤を金型等に投入して、乾式にてプレス成形することで、電極を作製する形態が挙げられる。
【0080】
6.全固体電池の製造方法
本開示の技術は全固体電池の製造方法としての側面も有する。本開示において、「全固体電池」とは、固体電解質層(少なくとも固体電解質を含有する層)を備える電池をいう。また、全固体電池は、電解液等の液体成分を多少有していてもよいが、液体成分を有しないことが好ましい。本開示の全固体電池の製造方法は、上記本開示の電極の製造方法により電極を得ること、上記電極と固体電解質層とを積層すること、を含んでいてもよい。
【0081】
固体電解質層は、例えば、固体電解質とバインダーとを含む層であってよい。固体電解質やバインダーの種類については上述した通りである。電極と固体電解質層との積層、電極への端子の接続、電池ケースへの収容、電池の拘束等の自明な工程を経て、全固体電池を製造することができる。
【0082】
本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層を有する発電要素を備える。発電要素は、通常、正極集電体および負極集電体を有する。正極集電体は、例えば、正極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。一方、負極集電体は、例えば、負極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0083】
本開示における全固体電池は、上記発電要素を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上記発電要素に対して、厚さ方向の拘束圧を付与する拘束治具を備えていてもよい。拘束治具として、公知の治具を用いることができる。拘束圧は、例えば、0.1MPa以上50MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であってもよい。拘束圧が小さいと、良好なイオン伝導パスおよび良好な電子伝導パスが形成されない可能性がある。一方、拘束圧が大きいと、拘束治具が大型化し、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0084】
本開示における全固体電池の種類は、特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0085】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0086】
[比較例]
(コート液の調製)
濃度30重量%の過酸化水素水870.4gを入れた容器へ、イオン交換水987.4gおよびニオブ酸(Nb2O5・3H2O(Nb2O5 含水率72%))44.2gを添加した。次に、上記容器へ、濃度28重量%のアンモニア水87.9gを添加した。そして、アンモニア水を添加した後に容器内の内容物を十分に攪拌することにより、透明溶液を得た。さらに、得られた透明溶液に、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)10.1gを加えることにより、コート液として、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムイオンを含有する錯体溶液を得た。
【0087】
(スラリーの調製)
活物質として、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2(活物質A)をミキサー容器に入れ、上記で調製したコート液中に、スラリーの固形分濃度が66重量%となるように加え、マグネティックスターラーで攪拌した。攪拌中、ミキサー容器の冷却は行わなかった。これにより、液温25℃のスラリーを得た。なお、上記活物質は、不純物としてSを含み、Sの含有量は0.68重量%であった。また、比表面積は、0.59m2/gであった。
【0088】
(被覆活物質の前駆体の作製)
送液ポンプを用いて、上記で調製したスラリーを0.5g/秒の速度でスプレードライヤー(GF社製、マイクロミストスプレードライヤー MDL-050MC)へ供給して、スラリーの液滴化(第1の工程)と、スラリー液滴の気流乾燥(第2の工程)とを行い、前駆体を得た。
スプレードライヤーの運転条件は、以下のとおりである。
給気温度:250℃
給気風量:1.1m3/分
【0089】
上記スプレードライヤーのノズルに、析出物による詰まりが生じ、スプレードライヤーの運転開始から12分経過時点で運転が途中で停止した。噴霧したスラリー量(g)を、運転停止となるまでの時間(12分)で割ることにより、生産速度(g/分)を算出し、生産能力の指標とした。結果を表1に示す。
【0090】
(前駆体の焼成)
マッフル炉を用いて前駆体を230℃で6時間焼成し、ニオブ酸リチウムを活物質表面で合成した。これにより、被覆活物質を得た。
【0091】
[実施例]
比較例と同様の方法で、コート液の調製を行った。上記活物質Aをミキサー容器に入れ、上記で調製したコート液中に、スラリーの固形分濃度が66重量%となるように加え、スラリー温度が18℃となるようにミキサー容器を冷却しながら、マグネティックスターラーで攪拌した。これにより、液温18℃のスラリーを得た。比較例と同様に、被覆活物質の前駆体の作製および前駆体の焼成を行った。これにより、被覆活物質を得た。
【0092】
被覆活物質の前駆体の作製において、ノズルの詰まりが抑制され、比較例よりも長時間の噴霧が可能となった。比較例と同様の方法で、噴霧したスラリー量(g)を、運転停止となるまでの時間で割ることにより、生産速度(g/分)を算出した。結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1の結果から、実施例は比較例よりも生産性が高いことが確認された。